(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
タッチパネルは、表示画面上の透明な面を操作者が指またはペンでタッチすることにより、接触した位置を検出してデータ入力できる入力装置の構成要素となるものであって、キー入力より直接的、かつ直感的な入力を可能とする。このため、近年、携帯電話機や、携帯情報端末、カーナビゲーションシステムを始め、様々な電子機器の操作部に多用されるようになってきた。
【0003】
前記タッチパネルは、入力装置として、液晶パネル等の平面型表示装置の表示画面上に貼り合わせて使用することができる。タッチパネルの検出方式には、抵抗式、静電容量式、超音波式、光学式等多種あり、その構造は多様となる。
静電容量式タッチパネルは、表面型と投影型とに大別できる。表面型は2点以上の接触点を同時に検知することは困難である。投影型は2点以上の接触点を同時に検知することが可能である。投影型は、静電容量式タッチパネル用の電極板として、透明基板に第一の透明電極パターン層と第一の絶縁層と第二の透明電極パターン層と端子電極となる金属電極パターン層と第二の絶縁層との各層が一般にこの順に形成される積層構造を有する。
【0004】
また、投影型の静電容量式タッチパネルを平面型表示装置の表示画面上に重ねて使用する形態は、タッチパネル独立型とは別に、全体を薄型化することができるカバーガラス一体型もある。
すなわち、タッチパネル独立型では、平面型表示装置の表示面側にエアギャップを介して、独立型のタッチパネルを貼り合わせ、さらにその前面に額縁等の加飾パターンを有して表面を保護するためのカバーガラス(前面板)に代表される透明カバーシートを設ける(特許文献1)。
一方、カバーガラス一体型では、平面型表示装置の表示面側に、同様のエアギャップを介してカバーガラス一体型タッチパネルを貼り合わせる。なお、タッチパネルを構成する電極や端子、配線等のパターンの向きは、パターンを直接支持する基板の位置が、タッチパネル独立型とカバーガラス一体型とでは逆の関係になるので、視認側からの向きが反対になる。
【0005】
投影型の静電容量式タッチパネルの電極構造は、カバーガラス一体型で代表される透明カバーシート一体型の例で示すと、たとえば、
図9に示すように、透明カバーシート111の同一平面上に2次元配置したセンサ電極である複数の透明導電膜パターン112(112Xa、112Yb)と、透明導電膜パターン間を電気的に接続するジャンパ部115と、ジャンパ部における層間の電気的短絡を防ぐ絶縁部113と、センサ電極から配線を導いて端子部に至る配線部(不図示)とから構成される。センサ電極にはITO(インジウム錫酸化物)等の透明導電膜を用いる。一方、ジャンパ部115の構成部材D1、D2には、透明導電膜(たとえばITO)より導電性の良好な金属材料が用いられる(特許文献2)。
【0006】
このようなタッチパネルにおいては、同一平面上に規則的に配置するセンサ電極を立体的につなぐための絶縁部とジャンパ部との構造が不可欠であるが、これらは、表示領域である操作平面領域内に位置しているので、この部分の反射率を低減し、表示装置の視認性を向上したいという要求があった。特許文献2の
図6には、従来膜と本発明膜における反射率の波長依存性を示すグラフが開示されている。ここで、従来膜とは、透明カバーシート2の表面から順に、モリブデン膜/アルミニウム膜/モリブデン膜の3層構成からなる積層膜である。これに対して、本発明膜とは、透明カバーシート2の表面から順に、モリブデン酸化膜/アルミニウム膜/モリブデン膜の3層構成からなる積層膜である。特許文献2の
図6より、従来膜に比べて、本発明膜の方が、観測した波長の全域に亘って、反射率が小さいことが確認された。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献2の
図6に示すとおり、ジャンパ部を、モリブデン酸化膜/アルミニウム膜/モリブデン膜の3層とした場合には、厳密な意味で、可視光域の全域で反射率が小さくなっていない。人の目が最も明るさを感じると言われる波長550nm付近において反射率が10%程度までの改善にとどまる上、特に、400nm付近での反射率の増大は、反射特性、特に、表示装置であるタッチパネルの色味に影響してしまうため、これを改善して、可視光領域でほぼ均一な反射率を実現したいという要求が強くあった。
さらに、可視光領域の全域で反射率を10%以下にしたいという強い要求が存在している。
【0009】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、ジャンパ部における反射率の低減と可視光領域における均一性を図ることが可能なタッチパネルを提供することを目的とする。
具体的には、以下の3点を達成しようとするものである。
1.波長550nmにおける反射率を5%以下に小さくすること。
2.可視光域の全域で反射率を10%以下に小さくすること。
3.波長依存性を低減し、可視光域の全域で反射率を均一にすること。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のタッチパネルは、表示パネル上に配置され、操作面に触って操作される静電容量方式のタッチパネルであって、
透明基板と、
前記透明基板の前記操作面の裏面側に、X方向に形成された複数のX電極と、前記X方向と直行するY方向に形成された複数のY電極と、
を有し、
前記複数のX電極と、前記複数のY電極が、
前記裏面側の同一面に形成された複数の透明電極と、
前記X電極と前記Y電極が絶縁部を介して互いに交差する交差部において、隣り合う前記X電極の透明電極もしくは隣り合う前記Y電極の透明電極のいずれかを立体的に接続するジャンパ部と、を有し、
前記ジャンパ部は、前記透明電極に接続する第一層、該第一層に積層された第二層、及び、該第二層に積層された第三層が順に積層されてなる構造体であり、
前記第一層が透明導電膜からなり、前記第二層が金属酸化膜からなり、前記第三層が金属膜からなり、
前記第一層の屈折率が、前記第二層の屈折率より低いことにより上記課題を解決した。
【0011】
本発明の前記構造体は、波長550nmの入射光に対して反射率が5[%]以下であることが好ましい。
本発明の前記第二層をなす金属酸化膜は、モリブデン(Mo)を含む酸化膜であり、かつ、前記構造体は、可視光域の入射光に対して平均反射率が10[%]以下であることが好ましい。
本発明の前記第二層をなす金属酸化膜の比抵抗[μΩ・cm]は、1.8×10
8 以下であることが好ましい。
本発明の前記第一層をなす透明導電膜の膜厚[nm]は、10以上50以下の範囲であることが好ましい。
本発明の透明導電性基板は、前記透明基板の一面において、前記第一層、前記第二層、前記第三層が順に積層されてなる構造体が、エッチング処理により所望のパターンをなしていることが好ましい。
本発明の前記第一層と前記透明電極は、同じ材料であることが好ましい。
本発明の前記第二層は、ニオブを1〜15atm%含有するモリブデン合金の酸化物であることが好ましい。
本発明の前記第三層は、アルミニウムもしくはアルミニウム合金からなることが好ましい。
【0012】
本発明のタッチパネルは、表示パネル上に配置され、操作面に触って操作される静電容量方式のタッチパネルであって、透明基板と、前記透明基板の前記操作面の裏面側に、X方向に形成された複数のX電極と、前記X方向と直行するY方向に形成された複数のY電極と、を有し、
前記複数のX電極と前記複数のY電極が、前記裏面側の同一面に形成された複数の透明電極と、前記X電極と前記Y電極が絶縁部を介して互いに交差する交差部において、隣り合う前記X電極の透明電極もしくは隣り合う前記Y電極の透明電極のいずれかを立体的に接続するジャンパ部と、を有し、
前記ジャンパ部は、前記透明電極に接続する第一層、該第一層に積層された第二層、及び、該第二層に積層された第三層が順に積層されてなる構造体であり、前記第一層が透明導電膜からなり、前記第二層が金属酸化膜からなり、前記第三層が金属膜からなり、前記第一層の屈折率が、前記第二層の屈折率より低いことにより、可視光の波長全域に対して、視認側から見て、交差部における反射率を低減するとともに、均一におさえることが可能となる。
【0013】
本発明の前記第二層をなす金属酸化膜は、モリブデン(Mo)を含む酸化膜であり、かつ、前記構造体は、波長550nmの入射光に対して反射率が5[%]以下であることや、前記構造体は、可視光域の入射光に対して平均反射率が10[%]以下であることができ、これらのいずれかにより、交差部における反射率を所望の状態にすることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、交差部を上述のように構成したことにより、特に人の目で最も明るく視認される550nmの波長において低反射構造を実現し、さらに可視光領域でほぼ均一な反射率を実現し視認性を向上するとともに、可視光領域の全域で反射率を10%以下にして色味の正確性を担保することができるという効果を奏することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係るタッチパネルの一実施形態を、図面に基づいて説明する。
図1は、本実施形態におけるタッチパネルを示す模式平面図であり、
図2は、タッチパネルを備える表示装置を示す断面図、
図3は、
図1のB−B線に沿った断面構造を示す断面図である。
【0017】
本実施形態におけるタッチパネル10は、
図1,
図2に示すように、液晶や有機ELなどの表示パネル2上に配置され、操作面10Aに触って操作される静電容量方式のタッチパネルであって、透明基板11と、透明基板11の操作面10Aの裏面11b側に、X方向に形成された複数のX電極12Xと、X方向と直行するY方向に形成された複数のY電極12Yと、を有する。
【0018】
本実施形態における静電容量方式のタッチパネルは、
図1〜
図3に示すように、透明基板11の視認側と反対側となる裏面11bにおいて、たとえばY方向に延在し、Y方向と交差するX方向に所定の配列ピッチで並設される複数のX電極と、この複数のX電極と交差して第X方向に延在し、Y方向に所定の配列ピッチで並設される複数のY電極とを有する。
【0019】
本実施形態のタッチパネルにおいて、透明基板11としては、たとえば、ガラスからなる基体の他に、PET(ポリエチレンテレフタレート:polyethylene terephthalate)、PP(プリプロピレン:polypropylene)、PC(ポリカーボネート:polycarbonate)、COP(シクロオレフィンポリマー:Cyclo-olefin polymer)、PE(polyethylene:ポリエチレン)、PMMA(Polymethyl methacrylate:ポリメタクリル酸メチル)、等の樹脂系基体、が好適に用いられる。
【0020】
複数のX電極12X及び複数のY電極12Yは、高い透過性を有する材料であれば、特に制限はなく、公知の透明導電材料を用いることが可能であり、たとえば、ITO(スズドープ酸化インジウム:Indium Tin Oxide)、AZO(AlをドープしたZnO)、BZO(BをドープしたZnO)、In
2O
3−ZnO、In
2O
3−TiO
2 、等が挙げられる。この中でも、In
2O
3を含むものが好ましい。In
2O
3を含むことにより、良好な導電性を保ちつつ、酸に可溶で、アルカリに耐性を有する、透明導電膜が得られる。このような特性を備えた透明導電膜は、フォトリソグラフィー工程に好適である。
【0021】
複数のX電極12Xと複数のY電極12Yが、裏面11b側の同一面に形成された複数の透明電極12と、X電極12XとY電極12Yが絶縁部13を介して互いに交差する交差部14において、
図1および
図3に示すように、隣り合うY電極12Yをなす透明電極12を立体的に接続するジャンパ部15と、を有する。ここでは、隣り合うY電極12Yで説明したが、隣り合うX電極12Xを接続する場合もある。
【0022】
複数のY電極12Y及びX電極12Xが配置された領域が有効タッチ領域16であり、この有効タッチ領域16の周囲には、
図1に示すように、複数のY電極の各々と、複数のX電極の各々とからの配線を縦横方向の周辺部に導いて端子部(図示せず)に至る複数の配線17が配置されている。
【0023】
複数のX電極の各々は、細線部12Xaと、この細線部12Xaの幅よりも広い幅のパッド部12Xbとが、Y方向に交互に複数配置された電極パターンで形成されている。複数のY電極の各々は、細線部12Yaと、この細線部12Yaの幅よりも広い幅のパッド部12Ybとが、X方向に交互に複数配置された電極パターンで形成されている。
【0024】
平面視した際に、Y電極12Yのパッド部12Ybは、隣り合う2つのX電極12Xの細線部12Xaの間に配置され、X電極12Xのパッド部12Xbは、隣り合う2つのY電極12Yの細線部12Yaの間に配置されている。
【0025】
また、絶縁部13は、たとえば、SiO、SiN、SiONもしくは樹脂からなる膜で構成される。
【0026】
交差部14において、Y電極12Yの細線部12Yaであるジャンパ部15と配線部(配線)17とは、
図1〜
図3に示すように、同一構成の積層構造とされ、透明電極12や絶縁部13との界面における視認側から見た際の反射率を小さくして反射特性を最適化するとともに、ジャンパ部15および配線部17における導電性を大きくする。
【0027】
ジャンパ部15は、
図3に示すように、透明基板11の上に形成されたY電極12および絶縁膜13側から順に、透明導電膜(第一層)L1、モリブデン−ニオブ酸化膜(第二層)L2、アルミニウム−ネオジム膜(第三層)L3、を積層した構造とされる。
【0028】
第一層L1は、ジャンパ部15の最下層を構成し、たとえばITOからなる透明導電膜であり、ジャンパ部15の両端部において、Y電極12(12Yb)と電気的に接続されている。積層方向における光学的な透明性を保つために、透明電極12と第一層L1とが同じ透明導電膜からなる構成が好ましい。これにより、透明電極12と第一層L1の光学的な特性の差を、極めて小さなものとすることができる。
【0029】
上記構成における第二層L2は、透明導電膜からなる第一層L1と金属膜からなる第三層L3との間に配置されて用いられることから、透明導電膜と金属膜との間の導通を確保できるだけの導電性と、パターン見え対策の低反射条件とを併せ持つことが求められる。具体的には、モリブデン(Mo)を含む酸化膜が第二層L2として好ましい。これは、酸化モリブデンの良好な導電性が、金属膜と透明導電膜の接続に有効に働くためである。また、Moにニオブ(Nb)を含有させた(Mo−Nb)などの合金であっても、Nbの添加により耐候性の改善が図れるとともに、低反射が得られる条件としては、合金でない場合と同等の効果を得ることができる。たとえば、(Mo−Nb)合金とする場合にはニオブを1〜15atm%含有するものが好適である。
【0030】
なお、後述するスパッタリング装置にて第二層L2を形成する際に、(Ar+O
2 )混合ガスに加えて、第二層L2のエッチングレートの調整のために、N
2 をわずかに添加してもよい。この場合、形成される第二層L2の中には、わずかに窒素が含まれることになるが、この添加によって第二層L2が酸化膜としての機能を損なうことはない。
【0031】
第一層L1および第二層L2においては、第一層L1の屈折率が、第二層L2より低くなることが望ましい。
【0032】
第一層L1および第二層L2においては、複素屈折率を、m=n−ik(nは屈折率、kは消衰係数)と定義したとき、可視光域(波長域が380〜780[nm])において、
第一層L1を構成する透明導電膜では、
1.7 ≦n1≦ 2.5
0.005 ≦k1≦ 0.05
第二層L2を構成する金属酸化膜では、
2.5 ≦n2≦ 3.8
0.3 ≦k2≦ 3.0
である。
【0033】
第三層L3には、優れた導電性と高いエッチング性が求められる。このような条件を満たす金属膜の部材としては、たとえば、Al、Al合金、Mo、Mo合金、Ti、Ti合金、Cu、Cu合金、等が挙げられる。中でも、Alにネオジム(Nd)を含有させた(Al−Nd)合金からなる金属膜が、安定した導電性、耐候性を得られるという点から好ましく、さらに、Ndの添加によりAlに特有の問題であるヒロックへの対策にもなるため好ましい。
【0034】
ジャンパ部15の膜構成をこのようにすることで、光の干渉効果により視認側から見た際の反射率を小さくすることを達成できる。
【0035】
図4は、本実施形態に係るジャンパ部15の膜特性を評価するためのサンプルの膜構成の例を示すものであり、後述する本発明の実施例と比較例の膜構成を示すものである。
図4において実施例を示す左側の構成では、透明基板(Glass)の上に、アルミニウム−ネオジム膜(AlNd)からなる金属膜、モリブデン−ニオブ酸化膜(MoNbO
x )からなる金属酸化膜、ITOからなる透明導電膜が、この順に積層されている。また、
図4は、反射率評価を示す概念図である。
【0036】
なお、ジャンパ部15を構成する上述した3層、すなわち透明導電膜、金属酸化膜、及び、金属膜により構成される構造体のみの反射率を評価するために、
図4に示す透明基板に対する構造体の積層順は、
図3に示すものとは異なっている。これは、反射率を評価する際に透明基板の影響を除外するために、透明基板側に金属膜を、最表層に透明導電膜を形成したものであり、
図4に示す構造体の反射率の測定は、透明導電膜側から行われる。
【0037】
ジャンパ部15を構成する各層における膜厚等の特性としては、一例として表1に示すように設定することができる。なお、ここでは、積層されたジャンパ部15の電気特性として、シート抵抗Rs[Ω/□]を示す。
【0039】
なお、第一層L1、第二層L2の膜厚として、第一層L1:10〜50nm、第二層L2:20〜60nmとすることができる。
第一層L1、第二層L2の膜厚を上記の範囲で変化させることにより、積層された膜の光学的な特性を調整することができるので、ジャンパ部の反射率を低減させることが可能となる。
【0040】
なお、本実施形態のジャンパ部15においては、「ITO膜(透明導電膜)からなる第一層L1、モリブデン−ニオブ酸化膜(金属酸化膜)からなる第二層L2、アルミニウム−ネオジム膜(金属膜)からなる第三層L3」という組み合わせを選択したが、表1の組成や膜厚に限定されるものではない。
本実施形態では、第三層L3としてアルミニウム−ネオジム膜の単層膜を例に説明したが、第三層L3が所望の機能膜を含む積層構造とされていてもよい。すなわち、第二層L2(酸化モリブデン膜)と第三層L3(アルミニウム−ネオジム膜)の間に、機能層を追加しても構わない。このような機能層としては、たとえば、第二層L2と第三層L3との間に、バリア性あるいは密着性を目的としたMo膜、Ti膜などが挙げられる。また、第一層L1と第二層L2との間に、これらの機能層を介在させてもよい。これらの機能層を介在させることにより、積層構造であるジャンパ部の電気的特性や、光学的特性を、安定して維持することが可能となる。
【0041】
さらに、本実施形態では、透明導電膜(第一層)L1とモリブデン−ニオブ酸化膜(第二層)L2の比抵抗が、アルミニウム−ネオジム膜(第三層)L3側へ連続して低下するように構成されていることもでき、この場合、二つの異なる比抵抗の値を持たなくても、比抵抗が厚さに応じて連続的に変化する構成とすることもできる。
【0042】
上述した3層、すなわち、透明導電膜からなる第一層L1、金属酸化膜からなる第二層L2、及び、金属膜からなる第三層L3、により構成される構造体は、可視光域(波長域が380〜780[nm])の入射光に対して平均反射率が10[%]以下とすることにより、構造体が低反射構造として有効に機能するようになるため、ジャンパ部15の表面の色味を調整することが可能となる。あるいは、可視光域を代表して波長550[nm]の入射光に対して反射率が5[%]以下と規定しても、低反射構造としての機能が担保される。
【0043】
可視光域において最も人の目で明るく視認される波長550[nm]の入射光における反射率を5[%]とすることにより、可視光域の上限域(380nm付近)や下限域(780nm付近)において反射率が急増するような場合であっても、低反射構造として有効に機能することが可能である。
【0044】
なお、本発明における平均反射率は、基本的に、可視光域(波長域が380〜780[nm])の範囲内において、1nmピッチで得られた反射率の値を合計し、その合計したデータの点数で除した数値により定義される。ただし、簡便には、可視光域(波長域が380〜780[nm])の範囲内において、50nmピッチで得られた反射率を合計し、その合計したデータの点数で除した数値により定義されてもよく、平均値の算出に使用されるデータ点数は特に限定されない。
【0045】
図5は、本発明に係るタッチパネルにおいて、構造体の反射率を示すグラフである。
図5において、横軸は入射光の波長を、縦軸は反射率を表わしている。実線が本発明の3層の積層構造(透明導電膜からなる第一層L1、金属酸化膜からなる第二層L2、及び、金属膜からなる第三層L3、により構成される構造体)を有する実施例の結果であり、点線が比較例の結果である。比較例は、実施例の3層構造に対し、基体の上に金属膜(第三層L3)が形成されたのみの構成である。
なお、前述の通り、反射率の測定は、実施例、比較例いずれの場合も、
図4に示される透明基板11(
図4中ではGlass)とは反対側の面、すなわち、透明導電膜(第一層L1)の側から行った。
【0046】
比較例の構成では、可視光域(波長域が380〜780[nm])の全域に亘ってほぼ90%を越える反射率が観測されることから、ジャンパ部15のパターンが識別できる状態にあることが分かる。これに対して、本発明の構成では、可視光域(波長域が380〜780[nm])の範囲内における平均反射率が10%以下(1nmピッチにて計算した結果が6.8%、50nmピッチにて計算した結果が8.8%)であり、低反射条件を十分に満たすことが確認された。なお、実施例では、550[nm]の入射光における反射率は1.9[%]であった。
【0047】
図6は、本発明に係るタッチパネルにおいて、金属酸化膜からなる第二層L2の比抵抗を示すグラフである。
図6において、横軸は成膜時の酸素ガスの流量[sccm]を、縦軸は第二層L2の比抵抗[1×10
n μΩ・cm]を表わしている。縦軸に示した数字はn乗の「n」である。
図6において、○印は黒化した場合を、△印は透明な場合を、メッシュの○印は金属光沢の場合を、それぞれ示している。
【0048】
図6の結果から、以下の点が明らかとなった。
(1)第二層L2に含まれる酸素量を調整することにより、第二層L2の色味を制御することが可能である。
(2)特に、第二層L2の比抵抗を1.8×10
8 [μΩ・cm]以下とした場合には、低反射構造を得ることができ、かつ、その範囲内で第二層L2の色味を制御できる。
(3)具体的には、比抵抗が下がるにつれて、着色の度合いを増加させることが可能となる。換言すると、比抵抗が下がるにつれて、第二層L2の色味が濃くなる現象が確認された。
【0049】
なお、本発明に係る3層の構造体は、実際には、第二層L2の膜厚は薄く、上述した3層からなる構造体としての抵抗値は、金属膜からなる第三層L3の導電性が主になる。第二層L2としては、第三層L3による電気的な接続に影響を及ぼさない導電性があれば問題なく、1.8×10
8 [μΩ・cm]以下の比抵抗値で機能として十分である。
【0050】
また、
図6の横軸は、第二層L2の成膜時における酸素の添加量を表している。
図6より、酸素の添加量が増えるにともない、第二層L2の比抵抗が増大し、さらに第二層L2の色合いの変化が見られることが分かった。酸化モリブデンは、酸化数の違いから、色合いが変化することが知られている。特にMoO
2 やMo
2O
5は、透明ではなく、灰褐色や黒色の色合いを有する膜となる傾向がある。つまり、本発明の比抵抗の範囲にある中間膜は、モリブデンを含む酸化膜の内でも、特にMoO
2 やMo
2O
5の組成比、あるいはその近傍の組成比になっているものと考えられる。
ゆえに、本発明の前記構造体は、前記第二層をなす金属酸化膜の比抵抗、及び/又は、前記第一層をなす透明導電膜の膜厚、を制御することにより、該構造体の色合いが調整可能である。
【0051】
なお、3層構造とした場合、第二層L2の下には透明導電膜(第一層L1)が配されており、この透明導電膜(第一層L1)の膜厚を変化させることによっても、第二層L2の色味の変化を促すことできる。したがって、本発明に係る構造体は、第二層L2の比抵抗、及び/又は、透明導電膜(第一層L1)の膜厚、を制御することにより、前記構造体の色味を調整可能とされるものである。
このような透明導電膜(第一層L1)の膜厚としては、第二層L2の膜厚、材質等にもよるが、導電性を確保しつつ、上層(第二層L2)の膜との間の光学的な調整が可能となる範囲として、10〜50nmが好ましい。
【0052】
本実施形態のタッチパネルの製造方法の一例を説明する。
本実施形態のタッチパネルの製造方法は、透明基板11に、センサ導電膜パターンである透明電極12を形成する工程と、絶縁部13を形成する工程と、ジャンパ部15と配線部17とを一括して形成する工程と、を有する。
【0053】
また、本実施形態のタッチパネルの製造方法は、ジャンパ部15と配線部17とを一括して形成する工程、絶縁部13を形成する工程、透明電極12を形成する工程を、この順におこなうこともできる。
【0054】
さらに、タッチパネルの製造方法の他の例としては、配線部17をパターン形成する工程と、透明電極12を形成する工程と、絶縁部13を形成する工程と、ジャンパ部15を形成する工程とを有することもできる。
なお、これらの方法では、最終工程として透明樹脂等による全面均一な保護膜13Aを塗布形成することができる。
【0055】
本実施形態のタッチパネルの製造方法をさらに具体的に説明すると、(a)センサ電極である透明電極12パターンを、たとえばITOの成膜後に、前工程のパターン位置との合わせを前提として、フォトリソグラフィー法によるフォトレジストのパターニングを行い、その後のエッチングと残留レジストの除去を経て形成する。次に、(b)絶縁部13を形成するための感光性樹脂材料を塗布し、フォトリソグラフィー法により、交差部14と位置合わせしてパターン形成する。次に、(c)ジャンパ部15と配線部17とを構成するための前述の同一構成の積層成膜を行い、フォトレジストの塗布、露光、現像、を含むフォトリソグラフィー法とその後のエッチングと残留レジストの除去を経て一括形成することができる。
【0056】
<ジャンパ部15の製造方法および製造装置>
以下では、タッチパネルを構成する積層した構造(構造体)からなるジャンパ部15を形成するための製造装置としては、たとえば
図7に示すようなインターバック式のスパッタリング装置が用いられる。ここで、構造体は、透明導電膜(ITO)からなる第一層L1、金属酸化膜(MoNbOx)からなる第二層L2、金属膜(AlNd)からなる第三層L3から構成されるものとする。
前述したタッチパネルの製造方法において、透明基板11に、センサ導電膜パターンである透明電極12と絶縁部13が予め形成されたものを、被処理体118として用いる。
【0057】
図7の製造装置においては、被処理体118a(118)は、不図示の搬送手段により、仕込取出室(L/UL)111、加熱室(H)112、第一成膜室(S1)113、第一バッファ室(B1)114、第二成膜室(S2)115、第二バッファ室(B2)116、第三成膜室(S3)117の内部を移動可能とされている。
【0058】
各室の間には、仕切りバルブDV1〜DV7が配置されており、また各成膜室の間にはバッファ室が配置されており、後述する第一乃至第三成膜空間において独立した成膜条件の雰囲気が維持されるように構成されている。ただし、後述する第一乃至第三成膜空間が、他の成膜空間の影響が及ぶことが無い場合(たとえば、所望の差圧機構等を成膜空間内に配置)には、仕切りバルブやバッファ室を排除して、単一の成膜空間としても構わない。
【0059】
まず、被処理体118aは減圧雰囲気とされた仕込/取出室111から加熱室112へ搬送され、所望の熱処理が施される。この熱処理により、被処理体118bは、脱ガスされるとともに、所望の温度に加熱された状態になる。また、使用する基板の材質によっては、脱ガスのための熱処理は不要とすることができる。
【0060】
次に、熱処理後の被処理体118bは、加熱室112から第一成膜室113へ搬送され、第一層L1の母材からなるターゲット113TGの前(すなわち、第一成膜空間sp1)を通過させることにより、被処理体118c上に透明導電膜(ITO)からなる第一層L1を形成する。その際、第一成膜空間sp3には、プロセスガスの供給源113Gから(Ar+O
2 )混合ガスが供給され、排気手段113Pにより所望の圧力が維持される。必要に応じて、不図示の温度調整手段を設置して、成膜中の被処理体118cの温度を制御してもよい。113BPはターゲット113TGを載置するバッキングプレートを、113Dはバッキングプレート113BPに高電圧を供給する電源を、それぞれ表している。
【0061】
その後、透明導電膜が形成された被処理体118cは、第一成膜室113から第一バッファ室114へ搬送される。第一バッファ室114は第一成膜室113(第一成膜空間sp1)と後述する第二成膜室115(第二成膜空間sp2)との間に配されており、排気手段114Pにより、第一バッファ室114の内部空間は所望の真空度が保持されている。第一バッファ室114内の位置αに、透明導電膜が形成された被処理体118cを所望の時間だけ滞在させることにより、前段の第一成膜空間sp1と後段の第二成膜空間sp2とが互いに影響し合うことが防止される。
【0062】
次に、第一層L1が形成された被処理体118cは、第一バッファ室114から第二成膜室115へ搬送され、第二層L2の母材からなるターゲット115TGの前(すなわち、第二成膜空間sp2)を通過させることにより、被処理体118cの第一層L1上に金属酸化膜(MoNbOx)からなる第二層L2を形成する。その際、第二成膜空間sp2には、プロセスガスの供給源115Gから(Ar+O
2 )混合ガスが供給され、排気手段115Pにより所望の圧力が維持される。必要に応じて、不図示の温度調整手段を設置して、成膜中の基板118cの温度を制御してもよい。115BPはターゲット115TGを載置するバッキングプレートを、115Dはバッキングプレート115BPに高電圧を供給する電源を、それぞれ表している。
【0063】
なお、ここでは、プロセスガスとして、(Ar+O
2 )混合ガスを用いる場合を説明したが、これにN
2 ガスを僅かに添加してもよい。これにより、第二層L2のエッチングレートの調整が可能となる。ただし、この添加は、第二層L2が酸化膜としての機能を損なうことのない範囲で行われるものとする。
【0064】
その後、第一層L1上に第二層L2が積層された被処理体118dは、第二成膜室115から第二バッファ室116へ搬送される。第二バッファ室116は第二成膜室115(第二成膜空間sp2)と後述する第三成膜室117(第三成膜空間sp3)との間に配されており、排気手段116Pにより、第二バッファ室116の内部空間は所望の真空度が保持されている。第二バッファ室116内の位置βに、中間膜が形成された被処理体118dを所望の時間だけ滞在させることにより、前段の第二成膜空間sp2と後段の第三成膜空間sp3とが互いに影響し合うことが防止される。
【0065】
次に、第一層L1上に第二層L2が積層された被処理体118dは、は、第二バッファ室116から第三成膜室117へ搬送され、第三層L3の母材からなるターゲット117TGの前(すなわち、第三成膜空間sp3)を通過させることにより、被処理体118dの第二層L2上に金属膜(AlNd)からなる第三層L3を形成する。その際、第三成膜空間sp3には、プロセスガスの供給源117GからArガスが供給され、排気手段117Pにより所望の圧力が維持される。必要に応じて、不図示の温度調整手段を設置して、成膜中の被処理体118dの温度を制御してもよい。117BPはターゲット117TGを載置するバッキングプレートを、117Dはバッキングプレート117BPに高電圧を供給する電源を、それぞれ表している。
【0066】
そして、第一層L1〜第三層L3まで順に積層形成された被処理体118は、
図7に矢印RTで示すように、反転(あるいは逆送)させることにより、第三成膜室117から仕込取出室111へ搬送され、製造装置から外部(大気雰囲気)へ取り出される。
つまり、
図7に示す製造装置は、第一層L1を形成する第一成膜空間sp1、第二層L2と第四層L4を形成する第二成膜空間sp2、及び、第三層L3を形成する第三成膜空間sp3を少なくとも備えており、被処理体118が移動する方向において、第二成膜空間sp2が、第一成膜空間sp1と第三成膜空間sp3との間に配置されている。
なお、第三層L3に機能膜を追加する場合は、
図7に示す製造装置に、機能膜を形成するための成膜室(成膜空間)を追加してもよい。
【0067】
次いで、上述したエッチング工程を経ることにより、3層(第一層L1〜第三層L3)からなる構造体に対して所望のパターニングが施された、本発明に係るタッチパネルが得られる。
上述した3層(第一層L1〜第三層L3)の代表的な作製条件を表2に示す。また、3層(第一層L1〜第三層L3)からなる構造体を形成する場合の代表的なエッチング工程の処理条件を表4に示す。
【0070】
表2および表3の条件により、
図1に示すような、3層(L1〜L3)からなる構造体のジャンパ部15を備えたタッチパネルを安定して作製することができる。
表2に示すような、3層(L1〜L3)の代表的な作製条件は、
図7の製造装置に限定されるものではなく、たとえば、
図8に示すようなマルチチャンバ型の製造装置でも達成することができる。
【0071】
図8は、本発明に係る透明導電性基板の製造装置の他の一例を示す模式図である。
図8の製造装置では、第一層L1、第二層L2、第三層L3の各成膜工程が、別々の成膜室(チャンバ)の独立した成膜空間室内において行われる。
【0072】
このようなマルチチャンバの製造装置を用いて、第一層L1、第二層L2、第三層L3の各成膜工程を行う場合における、被処理体の搬送経路(
図8における矢印が搬送方向を表わす)について説明する。まず、被処理体は、外部からロード室(L)201に搬入される。そして、ロード室において減圧下で一定時間待機した後に、加熱室(H)202内に搬送され、所望の温度にて熱処理(脱ガス処理)が行われる。
【0073】
次に、加熱処理された基板は、加熱室(H)202から第一成膜室(S1)203内に搬送され、第一成膜空間sp1において第一層L1の成膜が行われる。その後、第一層L1が形成された被処理体は、第一成膜室(S1)203から第二成膜室(S2)204内に搬送され、第二成膜空間sp2において第二層L2の成膜が行われる。さらに、第一層L1上に第二層L2が形成された被処理体は、第二成膜室(S2)204から第三成膜室(S3)205内に搬送され、第三成膜空間sp3において第三層L3の成膜が行われる。
【0074】
そして、3層(第一層L1〜第三層L3)が積層形成された被処理体は、最終プロセスを行った成膜室である第三成膜室(S3)205からアンロード室(UL)206に搬送され、一定時間待機した後に、アンロード室(UL)206から外部へ搬出される。
【0075】
各室間の間で基板を搬送する手段としては、トランスファ室(T)207に設置されたロボット(不図示)が用いられる。なお、各室においてプロセス処理中および搬送中は、トランスファ室(T)207を含めて各室201〜206は全て減圧下にある。
【0076】
つまり、
図8に示す製造装置も、
図7に示す製造装置と同様に、第一層L1を形成する第一成膜空間sp1、第二層L2を形成する第二成膜空間sp2、及び、第三層L3を形成する第三成膜空間sp3を少なくとも備えており、被処理体118が移動する方向において、第二成膜空間sp2が、第一成膜空間sp1と第三成膜空間sp3との間に配置されている。
なお、第三層L3に機能膜を追加する場合は、
図8に示す製造装置に、機能膜を形成するための成膜室(成膜空間)を追加してもよい。
【0077】
本発明は、透明な基材上に形成された積層膜を簡単な方法で低反射率化するとともに、可視光域における反射率の均一性を向上して、視認側からの配線パターンに対する視認性を小さくすることができる。ここで、積層膜の低反射率化とは、「空気/ガラス/透明導電膜(第一層)L1/モリブデン−ニオブ酸化膜(第二層)L2/アルミニウム−ネオジム膜(第三層)L3」のそれぞれの界面における反射を、干渉効果によって打ち消し合うことにより低反射化を図ることを意味する。
【0078】
同様な方策によって、他の電子部品等の表示性能に関係する特性品質を高めることが容易に考えられる。たとえば、透明導電膜をさらに低抵抗化するための金属層を含む補助配線パターンの視認性を向上することができる。また、一般に表示装置に関係する配線を始めとして、電子部品における各種配線パターンに金属層を適用できる範囲を拡大することができ、製品設計の自由度を大幅に高めることが可能になる。