【実施例】
【0066】
本発明を以下の実施例を用いて説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0067】
(1)酸化処理カーボン及び電極の製造
実施例1
60%硝酸300mLにケッチェンブラック(商品名EC300J、ケッチェンブラックインターナショナル社製、BET比表面積800m
2/g)10gを添加し、得られた液に超音波を10分間照射した後、ろ過してケッチェンブラックを回収した。回収したケッチェンブラックを3回水洗し、乾燥することにより、酸処理ケッチェンブラックを得た。この酸処理ケッチェンブラック0.5gと、Fe(CH
3COO)
21.98gと、Li(CH
3COO)0.77gと、C
6H
8O
7・H
2O1.10gと、CH
3COOH1.32gと、H
3PO
41.31gと、蒸留水120mLとを混合し、得られた混合液をスターラーで1時間攪拌した後、空気中100℃で蒸発乾固させて混合物を採集した。次いで、得られた混合物を振動ボールミル装置に導入し、20hzで10分間の粉砕を行なった。粉砕後の粉体を、窒素中700℃で3分間加熱し、ケッチェンブラックにLiFePO
4が担持された複合体を得た。
【0068】
濃度30%の塩酸水溶液100mLに、得られた複合体1gを添加し、得られた液に超音波を15分間照射させながら複合体中のLiFePO
4を溶解させ、残った固体をろ過し、水洗し、乾燥させた。乾燥後の固体の一部を、TG分析により空気中900℃まで加熱し、重量損失を測定した。重量損失が100%、すなわちLiFePO
4が残留していないことが確認できるまで、上述の塩酸水溶液によるLiFePO
4の溶解、ろ過、水洗及び乾燥の工程を繰り返し、LiFePO
4フリーの酸化処理カーボンを得た。
【0069】
次いで、得られた酸化処理カーボンの0.1gをpH11のアンモニア水溶液20mLに添加し、1分間の超音波照射を行なった。得られた液を5時間放置して固相部分を沈殿させた。固相部分の沈殿後、上澄み液を除去した残余部分を乾燥させ、乾燥後の固体の重量を測定した。乾燥後の固体の重量を最初の酸化処理カーボンの重量0.1gから差し引いた重量の最初の酸化処理カーボンの重量0.1gに対する重量比を、酸化処理カーボンにおける「親水性部分」の含有量とした。
【0070】
Fe(CH
3COO)
2と、Li(CH
3COO)と、C
6H
8O
7・H
2Oと、CH
3COOHと、H
3PO
4とを蒸留水に導入し、得られた混合液をスターラーで1時間攪拌した後、空気中100℃で蒸発乾固させた後、窒素中700℃で3分間加熱することにより、一次粒子径100nm(平均粒径100nm)のLiFePO
4の微小粒子を得た。次いで、市販のLiFePO
4の粗大粒子(一次粒子径0.5〜1μm、二次粒子径2〜3μm、平均粒径2.5μm)と、得られた微小粒子と、上記酸化処理カーボンとを90:9:1の質量比で混合して電極材料を得、さらに全体の5質量%のポリフッ化ビニリデンと適量のN−メチルピロリドンを加えて十分に混錬してスラリーを形成し、このスラリーをアルミニウム箔上に塗布して乾燥した後、圧延処理を施して、電極を得た。この電極におけるアルミニウム箔上の活物質層の体積と重量の実測値から電極密度を算出した。
【0071】
実施例2
実施例1における手順のうち、酸処理ケッチェンブラック0.5gと、Fe(CH
3COO)
21.98gと、Li(CH
3COO)0.77gと、C
6H
8O
7・H
2O1.10gと、CH
3COOH1.32gと、H
3PO
41.31gと、蒸留水120mLとを混合する部分を、酸処理ケッチェンブラック1.8gと、Fe(CH
3COO)
20.5gと、Li(CH
3COO)0.19gと、C
6H
8O
7・H
2O0.28gと、CH
3COOH0.33gと、H
3PO
40.33gと、蒸留水250mLとを混合する手順に変更した点を除いて、実施例1の手順を繰り返した。
【0072】
実施例3
40%硝酸300mLに実施例1で用いたケッチェンブラック10gを添加し、得られた液に超音波を10分間照射した後、ろ過してケッチェンブラックを回収した。回収したケッチェンブラックを3回水洗し、乾燥することにより、酸処理ケッチェンブラックを得た。この酸処理ケッチェンブラック1.8gを、実施例2で用いた酸処理ケッチェンブラック1.8gに代えて用いた点を除いて、実施例2の手順を繰り返した。
【0073】
比較例1
60%硝酸300mLに実施例1で用いたケッチェンブラック10gを添加し、得られた液に超音波を1時間照射した後、ろ過してケッチェンブラックを回収した。回収したケッチェンブラックを3回水洗し、乾燥することにより、酸処理ケッチェンブラックを得た。この酸処理ケッチェンブラックを、窒素中700℃で3分間加熱した。得られた酸化処理カーボンについて、実施例1における手順と同じ手順で親水性部分の含有量を測定した。また、得られた酸化処理カーボンを用いて、実施例1における手順と同じ手順でLiFePO
4含有電極を作成し、電極密度を算出した。
【0074】
比較例2
30%硝酸300mLに実施例1で用いたケッチェンブラック10gを添加し、得られた液に超音波を10分間照射した後、ろ過してケッチェンブラックを回収した。回収したケッチェンブラックを3回水洗し、乾燥することにより、酸処理ケッチェンブラックを得た。次いで、振動ボールミルによる粉砕を行なわずに、窒素中700℃で3分間加熱した。得られた酸化処理カーボンについて、実施例1における手順と同じ手順で親水性部分の含有量を測定した。また、得られた酸化処理カーボンを用いて、実施例1における手順と同じ手順でLiFePO
4含有電極を作成し、電極密度を算出した。
【0075】
比較例3
親水性部分の電極密度に対する寄与を確認するために、実施例1において得られた酸化処理カーボンの40mgを純水40mLに添加し、30分間超音波照射を行ってカーボンを純水に分散させ、分散液を30分間放置して上澄み液を除去し、残留部分を乾燥させることにより固体を得た。この固体について、実施例1における手順と同じ手順で親水性部分の含有量を測定した。また、得られた固体を用いて、実施例1における手順と同じ手順でLiFePO
4含有電極を作成し、電極密度を算出した。
【0076】
比較例4
実施例1で用いたケッチェンブラック原料について、実施例1における手順と同じ手順で親水性部分の含有量を測定した。また、このケッチェンブラック原料を用いて、実施例1における手順と同じ手順でLiFePO
4含有電極を作成し、電極密度を算出した。
【0077】
図1は、実施例1〜3及び比較例1〜4のカーボンについての親水性部分含有量と、実施例1〜3及び比較例1〜4の電極についての電極密度との関係を示した図である。
図1から明らかなように、親水性部分の含有量が酸化処理カーボン全体の8質量%を超えると、電極密度が増大しはじめ、9質量%を超えると、電極密度が急激に増大しはじめ、親水性部分の含有量が酸化処理カーボン全体の10質量%を超えると、2.6g/cc以上もの高い電極密度が得られることがわかった。また、実施例1の結果と比較例3の結果との比較から明らかなように、電極密度の向上には酸化処理カーボンの親水性部分の寄与が大きいことがわかった。そして、SEM写真による観察の結果、酸化処理カーボンの親水性部分の含有量が増加し、電極密度が急激に増大しはじめると、酸化処理カーボンの糊状化が急激に進行することが確認された。
【0078】
(2)リチウムイオン二次電池としての評価
(i)活物質:LiNi
0.5Mn
0.3Co
0.2O
2
実施例4
Li
2CO
3と、Ni(CH
3COO)
2と、Mn(CH
3COO)
2と、Co(CH
3COO)
2とを蒸留水に導入し、得られた混合液をスターラーで1時間攪拌した後、空気中100℃で蒸発乾固させた後、ボールミルで混合し、空気中800℃で10分間加熱することにより、平均粒径0.5μmのLiNi
0.5Mn
0.3Co
0.2O
2微小粒子を得た。この微小粒子と実施例1において得られた酸化処理カーボンとを90:10の質量比で混合し、予備混合物を得た。次いで、86質量部の市販のLiNi
0.5Mn
0.3Co
0.2O
2の粗大粒子(平均粒径5μm)と、9質量部の上記予備混合物と、2質量部のアセチレンブラック(一次粒子径40nm)とを混合し、さらに3質量部のポリフッ化ビニリデンと適量のN−メチルピロリドンを加えて十分に混錬してスラリーを形成し、このスラリーをアルミニウム箔上に塗布して乾燥した後、圧延処理を施して、リチウムイオン二次電池用の正極を得た。この正極におけるアルミニウム箔上の活物質層の体積と重量の実測値から電極密度を算出した。電極密度の値は、4.00g/ccであった。さらに、得られた正極を用いて、1MのLiPF
6のエチレンカーボネート/ジエチルカーボネート1:1溶液を電解液とし、対極をリチウムとしたリチウムイオン二次電池を作成した。得られた電池について、広範囲の電流密度の条件下で充放電特性を評価した。
【0079】
実施例5
94質量部の市販のLiNi
0.5Mn
0.3Co
0.2O
2粒子(平均粒径5μm)と、2質量部の実施例1において得られた酸化処理カーボンと、2質量部のアセチレンブラック(一次粒子径40nm)とを混合し、さらに2質量部のポリフッ化ビニリデンと適量のN−メチルピロリドンを加えて十分に混錬してスラリーを形成し、このスラリーをアルミニウム箔上に塗布して乾燥した後、圧延処理を施して、リチウムイオン二次電池用の正極を得た。この正極におけるアルミニウム箔上の活物質層の体積と重量の実測値から電極密度を算出した。電極密度の値は、3.81g/ccであった。さらに、得られた正極を用いて、1MのLiPF
6のエチレンカーボネート/ジエチルカーボネート1:1溶液を電解液とし、対極をリチウムとしたリチウムイオン二次電池を作成した。得られた電池について、広範囲の電流密度の条件下で充放電特性を評価した。
【0080】
比較例5
94質量部の市販のLiNi
0.5Mn
0.3Co
0.2O
2粒子(平均粒径5μm)と、4質量部のアセチレンブラック(一次粒子径40nm)とを混合し、さらに2質量部のポリフッ化ビニリデンと適量のN−メチルピロリドンを加えて十分に混錬してスラリーを形成し、このスラリーをアルミニウム箔上に塗布して乾燥した後、圧延処理を施して、リチウムイオン二次電池用の正極を得た。この正極におけるアルミニウム箔上の活物質層の体積と重量の実測値から電極密度を算出した。電極密度の値は、3.40g/ccであった。さらに、得られた正極を用いて、1MのLiPF
6のエチレンカーボネート/ジエチルカーボネート1:1溶液を電解液とし、対極をリチウムとしたリチウムイオン二次電池を作成した。得られた電池について、広範囲の電流密度の条件下で充放電特性を評価した。
【0081】
図2に実施例5のリチウムイオン二次電池の正極の断面についてのSEM写真を、
図3に比較例5のリチウムイオン二次電池の正極の断面についてのSEM写真を示す。各図において、(A)は1500倍の写真であり、(B)は25000倍の写真である。
図2(A)及び
図3(A)において活物質層の厚みがtで示されているが、活物質層における活物質粒子とカーボンとの含有量が同一であるにもかかわらず、実施例5のリチウムイオン二次電池における活物質層は比較例5のリチウムイオン二次電池における活物質層より薄くなっていることが分かる。また、
図2(A)と
図3(A)との比較より、実施例5のリチウムイオン二次電池における活物質層では、活物質粒子どうしが接近し、画像における活物質層全体の面積に対するカーボンによって占められる面積の割合が少ないことが分かる。さらに、
図2(B)と
図3(B)から把握されるように、両者におけるカーボンの形態は著しく異なっている。比較例5のリチウムイオン二次電池における活物質層(
図3(B))では、カーボン(アセチレンブラック)一次粒子の粒界が明瞭であり、カーボン粒子間の空隙に加えて、活物質粒子とカーボン粒子との界面近傍、特に活物質粒子の表面に形成された孔の近傍に大きな空隙が存在するのに対し、実施例5のリチウムイオン二次電池における活物質層(
図2(B))では、カーボン一次粒子の粒界が認められず、カーボンが糊状であり、この糊状のカーボンが活物質粒子の50nm以下の幅を有する孔(一次粒子間の間隙)の深部にまで侵入しており、空隙がほとんど存在しないことが分かる。また、活物質粒子の表面の90%以上が糊状のカーボンと接触していることが分かる。このカーボンの形態の相違により、実施例5及び比較例5のリチウムイオン二次電池の正極における電極密度の相違がもたらされていることが分かった。
【0082】
上述したように、実施例5における活物質層は比較例5における活物質層より薄くなっていることから、前者の活物質層における材料充填率が大きいことが分かるが、以下の式を用いて材料充填率を確認した。なお、理論電極密度とは、活物質層における空隙が0%であると仮定したときの電極密度である。
材料充填率(%)=電極密度×100/理論電極密度 (I)
理論電極密度(g/cc)
=100/{a/X+b/Y+(100−a−b)/Z} (II)
a:活物質層全体に対する活物質の質量%
b:活物質層全体に対するカーボンの質量%
100−a−b:活物質層全体に対するポリフッ化ビニリデンの質量%
X:活物質の真密度 Y:カーボンブラックの真密度
Z:ポリフッ化ビニリデンの真密度
【0083】
その結果、実施例5における活物質層の材料充填率は86.8%、比較例5における活物質層の材料充填率は79.1%であり、酸化処理カーボンから誘導された糊状の導電性カーボンを含む電極において、7.7%もの充填率の向上が認められた。
【0084】
図4に、実施例5における活物質層と比較例5における活物質層について、水銀圧入法により細孔分布を測定した結果を示す。比較例5における活物質層には、直径20nm未満の細孔がほとんど存在せず、細孔のほとんどが直径約30nm、直径約40nm、直径約150nmにピークを示す細孔であることが分かる。直径約150nmにピークを示す細孔は、主に活物質粒子に起因する細孔であり、直径約30nm、直径約40nmにピークを示す細孔は、主にアセチレンブラックの粒子間に認められる細孔であると考えられる。これに対し、実施例5における活物質層では、比較例5における活物質層の細孔のうちの直径約100nm以上の細孔が減少しており、これに代わって直径5〜40nmの範囲の細孔が増加していることが分かる。直径約100nm以上の細孔が減少しているのは、活物質粒子の細孔が糊状の導電性カーボンにより覆われているためであると考えられる。また、直径5〜40nmの細孔は、主に酸化処理カーボンから誘導されて緻密化した糊状の導電性カーボンにおける細孔であると考えられるが、蓄電デバイス中の電解液が糊状の導電性カーボンを通過して活物質粒子に至るのには十分な大きさである。したがって、電極における糊状の導電性カーボンは、蓄電デバイス中の電解液の含浸を抑制しないと判断された。
【0085】
図5は、実施例4、実施例5、及び比較例5のリチウムイオン二次電池についての、レートと正極活物質層の体積当たりの放電容量との関係を示した図である。実施例5のリチウムイオン二次電池は、比較例5のリチウムイオン二次電池より増大した容量を示し、実施例4のリチウムイオン二次電池は、実施例5のリチウムイオン二次電池よりさらに増大した容量を示した。すなわち、正極の電極密度が増大するにつれて、体積当たりの放電容量も増大した。また、これらの二次電池は略同一のレート特性を示した。このことからも、実施例4、実施例5の二次電池における活物質層に含まれる酸化処理カーボンから誘導されて緻密化した糊状の導電性カーボンが、導電剤として機能するのに十分な導電性を有するとともに、二次電池中の電解液の含浸を抑制しないことが分かる。実施例4の二次電池の正極と実施例5の二次電池の正極とは、活物質層における活物質粒子とカーボンとの含有量が略同一であるにもかかわらず、前者が後者より高い電極密度を示すが、これは、実施例4の二次電池の正極における活物質層では、微小粒子が実施例1において得られた酸化処理カーボンを押圧しながら糊状化した酸化処理カーボンと共に隣り合う粗大粒子の間に形成される間隙部に押し出させて充填されるためであると考えられた。
【0086】
実施例5と比較例5のリチウムイオン二次電池について、60℃、0.5Cの充放電レートの条件下、4.6〜3.0Vの範囲で充放電を繰り返した。
図6に、得られたサイクル特性の結果を示す。実施例5の二次電池が比較例5の二次電池より優れたサイクル特性を有することが分かる。これは、
図2と
図3の比較から把握されるように、前者における活物質層中の活物質粒子の表面の略全体が、活物質粒子の表面の孔の深部に至るまで、緻密な糊状のカーボンによって被覆されており、この緻密な糊状のカーボンが活物質の劣化を抑制しているためであると考えられた。
【0087】
(ii)活物質:LiCoO
2
実施例6
Li
2CO
3と、Co(CH
3COO)
2と、C
6H
80
7・H
2Oとを蒸留水に導入し、得られた混合液をスターラーで1時間攪拌した後、空気中100℃で蒸発乾固させた後、空気中800℃で10分間加熱することにより、平均粒径0.5μmのLiCoO
2微小粒子を得た。この微小粒子と実施例1において得られた酸化処理カーボンとを90:10の質量比で混合し、予備混合物を得た。次いで、86質量部の市販のLiCoO
2の粗大粒子(平均粒径10μm)と、9質量部の上記予備混合物と、2質量部のアセチレンブラック(一次粒子径40nm)とを混合し、さらに3質量部のポリフッ化ビニリデンと適量のN−メチルピロリドンを加えて十分に混錬してスラリーを形成し、このスラリーをアルミニウム箔上に塗布して乾燥した後、圧延処理を施して、リチウムイオン二次電池用の正極を得た。この正極におけるアルミニウム箔上の活物質層の体積と重量の実測値から電極密度を算出した。電極密度の値は、4.25g/ccであった。さらに、得られた正極を用いて、1MのLiPF
6のエチレンカーボネート/ジエチルカーボネート1:1溶液を電解液とし、対極をリチウムとしたリチウムイオン二次電池を作成した。得られた電池について、広範囲の電流密度の条件下で充放電特性を評価した。
【0088】
実施例7
94質量部の市販のLiCoO
2粒子(平均粒径10μm)と、2質量部の実施例1において得られた酸化処理カーボンと、2質量部のアセチレンブラック(一次粒子径40nm)とを混合し、さらに2質量部のポリフッ化ビニリデンと適量のN−メチルピロリドンを加えて十分に混錬してスラリーを形成し、このスラリーをアルミニウム箔上に塗布して乾燥した後、圧延処理を施して、リチウムイオン二次電池用の正極を得た。この正極におけるアルミニウム箔上の活物質層の体積と重量の実測値から電極密度を算出した。電極密度の値は、4.05g/ccであった。さらに、得られた正極を用いて、1MのLiPF
6のエチレンカーボネート/ジエチルカーボネート1:1溶液を電解液とし、対極をリチウムとしたリチウムイオン二次電池を作成した。得られた電池について、広範囲の電流密度の条件下で充放電特性を評価した。
【0089】
比較例6
94質量部の市販のLiCoO
2粒子(平均粒径10μm)と、4質量部のアセチレンブラック(一次粒子径40nm)とを混合し、さらに2質量部のポリフッ化ビニリデンと適量のN−メチルピロリドンを加えて十分に混錬してスラリーを形成し、このスラリーをアルミニウム箔上に塗布して乾燥した後、圧延処理を施して、リチウムイオン二次電池用の正極を得た。この正極におけるアルミニウム箔上の活物質層の体積と重量の実測値から電極密度を算出した。電極密度の値は、3.60g/ccであった。さらに、得られた正極を用いて、1MのLiPF
6のエチレンカーボネート/ジエチルカーボネート1:1溶液を電解液とし、対極をリチウムとしたリチウムイオン二次電池を作成した。得られた電池について、広範囲の電流密度の条件下で充放電特性を評価した。
【0090】
実施例7における活物質層と、比較例6における活物質層について、上述した式(I)(II)を用いて材料充填率を確認した。その結果、実施例7における活物質層の材料充填率は85.6%、比較例6における活物質層の材料充填率は79.1%であり、酸化処理カーボンから誘導された糊状の導電性カーボンを含む電極において、6.5%もの充填率の向上が認められた。
【0091】
図7は、実施例6、実施例7、及び比較例6のリチウムイオン二次電池についての、レートと正極活物質層の体積当たりの放電容量との関係を示した図である。
図5に示した結果と同様に、電極密度が増大するにつれて放電容量も増大し、略同一のレート特性が得られていることが分かる。実施例7と比較例6のリチウムイオン二次電池について、60℃、0.5Cの充放電レートの条件下、4.3〜3.0Vの範囲で充放電を繰り返した。
図8に、得られたサイクル特性の結果を示す。
図6に示した結果と同様に、実施例7の二次電池が比較例6の二次電池より優れたサイクル特性を有することが分かる。
【0092】
(iii)活物質:Li
1.2Mn
0.56Ni
0.17Co
0.07O
2
実施例8
Li(CH
3COO)の1.66gと、Mn(CH
3COO)
2・4H
2Oの2.75gと、Ni(CH
3COO)
2・4H
2Oの0.85gと、Co(CH
3COO)
2・4H
2Oの0.35gと、蒸留水の200mLとを混合し、エバポレーターを用いて溶媒を除去し、混合物を採集した。次いで、採集した混合物を振動ボールミル装置に導入し、15hzで10分間の粉砕を行ない、均一な混合物を得た。粉砕後の混合物を、空気中900℃で1時間加熱し、平均粒径が1μm以下のリチウム過剰固溶体Li
1.2Mn
0.56Ni
0.17Co
0.07O
2の結晶を得た。この結晶粒子の91質量部と、4質量部の実施例1において得られた酸化処理カーボンとを混合し、さらに5質量部のポリフッ化ビニリデンと適量のN−メチルピロリドンを加えて十分に混錬してスラリーを形成し、このスラリーをアルミニウム箔上に塗布して乾燥した後、圧延処理を施して、リチウムイオン二次電池用の正極を得た。この正極におけるアルミニウム箔上の活物質層の体積と重量の実測値から電極密度を算出した。電極密度の値は、3.15g/ccであった。さらに、得られた正極を用いて、1MのLiPF
6のエチレンカーボネート/ジエチルカーボネート1:1溶液を電解液とし、対極をリチウムとしたリチウムイオン二次電池を作成した。得られた電池について、広範囲の電流密度の条件下で充放電特性を評価した。
【0093】
比較例7
91質量部の実施例8において得られたLi
1.2Mn
0.56Ni
0.17Co
0.07O
2粒子と、4質量部のアセチレンブラック(一次粒子径40nm)とを混合し、さらに5質量部のポリフッ化ビニリデンと適量のN−メチルピロリドンを加えて十分に混錬してスラリーを形成し、このスラリーをアルミニウム箔上に塗布して乾燥した後、圧延処理を施して、リチウムイオン二次電池用の正極を得た。この正極におけるアルミニウム箔上の活物質層の体積と重量の実測値から電極密度を算出した。電極密度の値は、2.95g/ccであった。さらに、得られた正極を用いて、1MのLiPF
6のエチレンカーボネート/ジエチルカーボネート1:1溶液を電解液とし、対極をリチウムとしたリチウムイオン二次電池を作成した。得られた電池について、広範囲の電流密度の条件下で充放電特性を評価した。
【0094】
図9は、実施例8及び比較例7のリチウムイオン二次電池についての、レートと正極活物質層の体積当たりの放電容量との関係を示した図である。
図5に示した結果と同様に、電極密度が増大するにつれて放電容量も増大し、略同一のレート特性が得られていることが分かる。実施例8と比較例7のリチウムイオン二次電池について、25℃、0.5Cの充放電レートの条件下、4.8〜2.5Vの範囲で充放電を繰り返した。
図10に、得られたサイクル特性の結果を示す。
図6に示した結果と同様に、実施例8の二次電池が比較例7の二次電池より優れたサイクル特性を有することが分かる。
【0095】
(iii)酸化処理カーボンの変更
実施例9
60%硝酸300mLに空隙を有するファーネスブラック(平均粒径20nm、BET比表面積1400m
2/g)10gを添加し、得られた液に超音波を10分間照射した後、ろ過してファーネスブラックを回収した。回収したファーネスブラックを3回水洗し、乾燥することにより、酸処理ファーネスブラックを得た。この酸処理ファーネスブラック0.5gと、Fe(CH
3COO)
21.98gと、Li(CH
3COO)0.77gと、C
6H
8O
7・H
2O1.10gと、CH
3COOH1.32gと、H
3PO
41.31gと、蒸留水120mLとを混合し、得られた混合液をスターラーで1時間攪拌した後、空気中100℃で蒸発乾固させて混合物を採集した。次いで、得られた混合物を振動ボールミル装置に導入し、20hzで10分間の粉砕を行なった。粉砕後の粉体を、窒素中700℃で3分間加熱し、ファーネスブラックにLiFePO
4が担持された複合体を得た。
【0096】
濃度30%の塩酸水溶液100mLに、得られた複合体1gを添加し、得られた液に超音波を15分間照射させながら複合体中のLiFePO
4を溶解させ、残った固体をろ過し、水洗し、乾燥させた。乾燥後の固体の一部を、TG分析により空気中900℃まで加熱し、重量損失を測定した。重量損失が100%、すなわちLiFePO
4が残留していないことが確認できるまで、上述の塩酸水溶液によるLiFePO
4の溶解、ろ過、水洗及び乾燥の工程を繰り返し、LiFePO
4フリーの酸化処理カーボンを得た。
【0097】
次いで、得られた酸化処理カーボンの0.1gをpH11のアンモニア水溶液20mLに添加し、1分間の超音波照射を行なった。得られた液を5時間放置して固相部分を沈殿させた。固相部分の沈殿後、上澄み液を除去した残余部分を乾燥させ、乾燥後の固体の重量を測定した。乾燥後の固体の重量を最初の酸化処理カーボンの重量0.1gから差し引いた重量の最初の酸化処理カーボンの重量0.1gに対する重量比を、酸化処理カーボンにおける「親水性部分」の含有量とした。この酸化処理カーボンは、13%の親水性部分を含有していた。なお、原料として用いた空隙を有するファーネスブラックにおける親水性部分はわずかに2%である。
【0098】
94質量部の市販のLiNi
0.5Mn
0.3Co
0.2O
2粒子(平均粒径5μm)と、2質量部の得られた酸化処理カーボンと、2質量部のアセチレンブラック(一次粒子径40nm)とを混合した。
図11に、得られた混合物についての50000倍のSEM写真を示す。粒子の表面が部分的に糊状物に覆われて輪郭が明瞭に把握されなくなっているが、この糊状物は、ファーネスブラック原料を酸化処理して得られた酸化処理カーボンが、混合の圧力により、粒子の表面を覆いながら広がったものである。また、平均粒径20nmの微細なファーネスブラックが、良好に分散していることがわかる。一般に微細な粒子は凝集しやすいといわれているが、酸化処理カーボンにより微細な粒子の凝集が効果的に抑制されている。
【0099】
次に、得られた混合物に2質量部のポリフッ化ビニリデンと適量のN−メチルピロリドンを加えて十分に混錬してスラリーを形成し、このスラリーをアルミニウム箔上に塗布して乾燥した後、圧延処理を施して、リチウムイオン二次電池用の正極を得た。この正極におけるアルミニウム箔上の活物質層の体積と重量の実測値から電極密度を算出した。電極密度の値は、3.80g/ccであった。さらに、得られた正極を用いて、1MのLiPF
6のエチレンカーボネート/ジエチルカーボネート1:1溶液を電解液とし、対極をリチウムとしたリチウムイオン二次電池を作成した。得られた電池について、広範囲の電流密度の条件下で充放電特性を評価した。また、得られた電池について、60℃、0.5Cの充放電レートの条件下、4.6〜3.0Vの範囲で充放電を繰り返した。
【0100】
実施例9と比較例5とは、正極のためのカーボンの種類において異なるが、その他の条件は同一であり、実施例9では、空隙を有するファーネスブラック原料から得られた酸化処理カーボンとアセチレンブラックとが用いられたが、比較例5では、アセチレンブラックのみが用いられた。比較例5における正極の電極密度は3.40g/ccであり、酸化処理カーボンの使用により、電極密度が大幅に向上した。また、実施例9と実施例5とは、正極のための酸化処理カーボンの種類において異なるが、その他の条件は同一であり、実施例5では、ケッチェンブラック原料から得られた酸化処理カーボンが用いられたが、実施例9では、ファーネスブラック原料から得られた酸化処理カーボンが用いられた。実施例5における正極の電極密度は3.81g/ccであり、酸化処理カーボンにおける原料の相違に関わらず、ほぼ同一の電極密度が得られた。
【0101】
図12に、実施例9及び比較例5のリチウムイオン二次電池についての、レートと正極活物質層の体積当たりの放電容量との関係を示し、
図13に、実施例9及び比較例5のリチウムイオン二次電池についてのサイクル特性の結果を示す。
図12より、電極密度が増大するにつれて放電容量も増大し、略同一のレート特性が得られていることが分かる。また、
図5における実施例5の二次電池のレート特性と
図12における実施例9の二次電池のレート特性とを比較すると、正極のために用いた酸化処理カーボンにおける原料の相違に関わらず、ほぼ同一のレート特性が得られることが分かる。
図13より、実施例9の二次電池が比較例5の二次電池より優れたサイクル特性を有することが分かる。また、
図6における実施例5の二次電池のサイクル特性と
図13における実施例9の二次電池のサイクル特性とを比較すると、正極のために用いた酸化処理カーボンにおける原料の相違に関わらず、ほぼ同一のレート特性が得られることが分かる。
【0102】
(3)活物質の溶解性
上述したように、本発明の電極を備えたリチウムイオン二次電池において優れたサイクル特性が得られるのは、活物質粒子の表面の略全体が糊状のカーボンによって被覆されており、この糊状のカーボンが活物質の劣化を抑制しているためであると考えられるが、このことを確認するために、活物質の溶解性を調査した。
【0103】
実施例1において得られた酸化処理カーボン及びアセチレンブラックのそれぞれを、平均粒径0.22μmのLiFePO
4粒子、平均粒径0.26μmのLiCoO
2粒子、及び平均粒径0.32μmのLiNi
0.5Mn
0.3Co
0.2O
2粒子と5:95の質量比で混合し、さらに全体の5質量%のポリフッ化ビニリデンと適量のN−メチルピロリドンを加えて十分に混練してスラリーを形成し、アルミニウム箔上に塗布し、乾燥し、圧延処理を行って、電極を得た。この電極と、1MのLiPF
6のエチレンカーボネート/ジエチルカーボネート1:1溶液に水1000ppmを加えた電解質とを用いて、コイン型電池を作成した。この試験では、電解液と接触する活物質の面積を増加させる目的で、比表面積が大きい微小粒子が使用された。また、水1000ppmは、水が多いほど活物質が溶解しやすいため、加速試験を目的として添加された。この電池を60℃で1週間放置した後に分解し、電解質を採取して、ICP発光分析装置により電解質に溶解している金属量を分析した。表1に得られた結果を示す。
【0104】
【表1】
【0105】
表1から明らかなように、実施例1において得られた酸化処理カーボンから誘導された糊状の導電性カーボンは、アセチレンブラックに比較して、活物質の電解質中への溶解を顕著に抑制する。これは、実施例1において得られた酸化処理カーボンが、活物質が0.22〜0.32μmの平均粒径を有する微小粒子であっても、この微小粒子の凝集を効果的に抑制し、活物質粒子の表面の略全体を被覆しているためであると考えられる。
【0106】
(4)酸化処理カーボンと活物質との混合状態
活物質とカーボンとの混合状態を確認するために、以下の実験を行った。
【0107】
(i)微小粒子とカーボンとの混合
実施例1において得られた酸化処理カーボン及びアセチレンブラックのそれぞれを、平均粒径0.32μmのLiNi
0.5Mn
0.3Co
0.2O
2微小粒子と20:80の質量比で乳鉢に導入して乾式混合を行なった。
図14には、倍率50000倍のSEM写真を示す。カーボンとしてアセチレンブラックを使用した場合には、実施例1において得られた酸化処理カーボンを使用した場合に比較して、同じ混合条件であるにもかかわらず、微小粒子が凝集していることがわかる。したがって、実施例1において得られた酸化処理カーボンが微小粒子の凝集を効果的に抑制することがわかる。
【0108】
(ii)粗大粒子とカーボンとの混合
実施例1において得られた酸化処理カーボン及びアセチレンブラックのそれぞれを、平均粒径5μmのLiNi
0.5Mn
0.3Co
0.2O
2粗大粒子と4:96の質量比で乳鉢に導入して乾式混合を行なった。
図15には、倍率100000倍のSEM写真を示す。カーボンとしてアセチレンブラックを使用した場合には、粗大粒子とアセチレンブラックとが分離して存在しているが、実施例1において得られた酸化処理カーボンを使用した場合には、粗大粒子が糊状物により覆われ、粗大粒子の輪郭が明瞭に把握されないことがわかる。この糊状物は、実施例1において得られた酸化処理カーボンが混合の圧力により粗大粒子の表面を覆いながら広がったものである。電極作成時の圧延処理により、実施例1において得られた酸化処理カーボンがさらに糊状に広がって活物質粒子の表面を覆いながら緻密化し、活物質粒子が互いに接近し、これに伴って糊状化した酸化処理カーボンが活物質粒子の表面を覆いながら隣り合う活物質粒子の間に形成される間隙部に押し出されて緻密に充填されるため、電極における単位体積あたりの活物質量が増加し、電極密度が増加したと考えられる。
【0109】
(5)導電性カーボン混合物の利用
(i)活物質:LiNi
0.5Mn
0.3Co
0.2O
2
実施例10
実施例1において得られた酸化処理カーボンと、アセチレンブラック(一次粒子径40nm)とを1:1の質量比でボールミルに導入し、乾式混合して、導電性カーボン混合物を得た。
図16には得られた導電性カーボン混合物のSEM写真を、
図17にはTEM写真を、それぞれ示す。
図16は50000倍の写真であり、
図17(A)は100000倍の写真であり、
図17(B)は500000倍の写真である。
図16のSEM写真において、カーボン粒子の輪郭が明瞭に把握されないことから、表面に糊状のカーボンが存在することが分かる。また、
図17のTEM写真から、導電性カーボン混合物が、粒状物と、粒状物表面の層状物とから構成されていることがわかる。
図17(B)の破線は、粒状物の表面を示している。粒状物はアセチレンブラック粒子であり、層状物は酸化処理カーボンが崩れてアセチレンブラック粒子の表面に付着して形成された層である。
図17(B)より、層状物が、非粒子状の不定形なカーボンがつながった糊状の部分と、繊維状或いは針状の部分とからなっていることが分かる。
【0110】
次いで、得られた導電性カーボン混合物の4質量部と、2質量部のポリフッ化ビニリデンと、適量のN−メチルピロリドンとを湿式混合し、さらに94質量部の市販のLiNi
0.5Mn
0.3Co
0.2O
2粒子(平均粒径5μm)を加えて湿式混合してスラリーを形成した。このスラリーをアルミニウム箔上に塗布して乾燥した後、圧延処理を施して、リチウムイオン二次電池用の正極を得た。この正極におけるアルミニウム箔上の活物質層の体積と重量の実測値から電極密度を算出した。電極密度の値は、3.81g/ccであった。さらに、得られた正極を用いて、1MのLiPF
6のエチレンカーボネート/ジエチルカーボネート1:1溶液を電解液とし、対極をリチウムとしたリチウムイオン二次電池を作成した。得られた電池について、25℃、0.5Cの放電レートの条件下、4.5〜3.0Vの範囲で放電曲線を測定し、電圧降下から直流内部抵抗(DCIR)を算出した。
【0111】
実施例11
実施例10において得られた導電性カーボン混合物の4質量部と、94質量部の市販のLiNi
0.5Mn
0.3Co
0.2O
2粒子(平均粒径5μm)とを乾式混合し、次いで、2質量部のポリフッ化ビニリデンと、適量のN−メチルピロリドンとを湿式混合してスラリーを形成した。このスラリーをアルミニウム箔上に塗布して乾燥した後、圧延処理を施して、リチウムイオン二次電池用の正極を得た。この正極におけるアルミニウム箔上の活物質層の体積と重量の実測値から電極密度を算出した。電極密度の値は、3.80g/ccであった。さらに、得られた正極を用いて、実施例10と同様の手順で、リチウムイオン二次電池を作成し、得られた電池についてDCIRを算出した。
【0112】
実施例10及び実施例11における正極の活物質層は、実施例5における正極の活物質層と同一の組成を有するが、電極材料の調製工程における各構成要素の混合の順番が異なっている。
図18に、実施例10の正極の断面についての25000倍のSEM写真を示す。
図18のSEM写真は、
図2(B)に示した実施例5における正極の断面のSEM写真と類似している。すなわち、カーボン一次粒子の粒界が認められず、カーボンが糊状であり、この糊状のカーボンが活物質粒子の50nm以下の幅を有する孔(一次粒子間の間隙)の深部にまで侵入しており、空隙がほとんど存在していない。また、活物質粒子の表面の90%以上が糊状のカーボンと接触している。微細なカーボン粒子は、バインダ及び溶媒と馴染みが悪いため、バインダ及び溶媒を含むスラリー形態の電極材料を調製する場合には、実施例5における工程のように、電極活物質粒子とカーボンとを乾式混合した後にバインダ及び溶媒を加えて湿式混合するのが一般的であるが、実施例10、実施例11及び実施例5の正極における電極密度がほぼ同一であり、またSEM写真による観察結果が類似していることから、導電性カーボン混合物が、バインダ及び溶媒と馴染みが良く、バインダ及び溶媒の存在下で活物質粒子と湿式混合しても、同様に高い電極密度を示す電極を与えることがわかった。
【0113】
実施例5のリチウムイオン二次電池、及び、カーボンとしてアセチレンブラックのみを用いて製造された比較例5のリチウムイオン二次電池について、実施例10における手順と同じ手順でDCIRを測定し、実施例10及び実施例11のリチウムイオン二次電池におけるDCIRと比較した。
図19にその結果を示す。実施例5の二次電池におけるDCIRは、比較例5の二次電池におけるDCIRより顕著に低く、本発明の電極の使用により著しいDCIRの低減が達成されることが分かる。また、実施例10及び実施例11の二次電池におけるDCIRは、実施例5の二次電池におけるDCIRよりさらに低く、導電性カーボン混合物が、この混合物と電極活物質粒子との混合方法にかかわらず、導電性に優れた正極を与えることがわかる。
【0114】
(ii)活物質:LiCoO
2
実施例12
実施例10において得られた導電性カーボン混合物の4質量部と、2質量部のポリフッ化ビニリデンと、適量のN−メチルピロリドンとを湿式混合し、さらに94質量部の市販のLiCoO
2粒子(平均粒径10μm)を加えて湿式混合してスラリーを形成した。このスラリーをアルミニウム箔上に塗布して乾燥した後、圧延処理を施して、リチウムイオン二次電池用の正極を得た。この正極におけるアルミニウム箔上の活物質層の体積と重量の実測値から電極密度を算出した。電極密度の値は、4.05g/ccであった。
【0115】
実施例13
実施例10において得られた導電性カーボン混合物の4質量部と、94質量部の市販のLiCoO
2粒子(平均粒径10μm)とを乾式混合し、次いで、2質量部のポリフッ化ビニリデンと、適量のN−メチルピロリドンとを湿式混合してスラリーを形成した。このスラリーをアルミニウム箔上に塗布して乾燥した後、圧延処理を施して、リチウムイオン二次電池用の正極を得た。この正極におけるアルミニウム箔上の活物質層の体積と重量の実測値から電極密度を算出した。電極密度の値は、4.05g/ccであった。
【0116】
実施例12及び実施例13における正極の活物質層は、実施例7における正極の活物質層と同一の組成を有するが、電極材料の調製工程における各構成要素の混合の順番が異なっている。実施例12、実施例13及び実施例7の正極における電極密度が同一であることから、導電性カーボン混合物が、バインダ及び溶媒と馴染みが良く、バインダ及び溶媒の存在下で活物質粒子と湿式混合しても、同様に高い電極密度を示す電極を与えることがわかった。
【0117】
(iii)酸化処理カーボンと混合されるカーボンの変更
実施例14
実施例1において得られた酸化処理カーボンと、気相成長炭素繊維(平均繊維径150nm、平均繊維長3.9μm)とを1:1の質量比でボールミルに導入し、乾式混合して、導電性カーボン混合物を得た。次いで、得られた導電性カーボン混合物の4質量部と、2質量部のポリフッ化ビニリデンと、適量のN−メチルピロリドンとを湿式混合し、さらに94質量部の市販のLiNi
0.5Mn
0.3Co
0.2O
2粒子(平均粒径5μm)を加えて湿式混合してスラリーを形成した。このスラリーをアルミニウム箔上に塗布して乾燥した後、圧延処理を施して、リチウムイオン二次電池用の正極を得た。この正極におけるアルミニウム箔上の活物質層の体積と重量の実測値から電極密度を算出した。電極密度の値は、3.66g/ccであった。
【0118】
比較例8
実施例14において用いた気相成長炭素繊維の4質量部と、2質量部のポリフッ化ビニリデンと、適量のN−メチルピロリドンとを湿式混合し、さらに94質量部の市販のLiNi
0.5Mn
0.3Co
0.2O
2粒子(平均粒径5μm)を加えて湿式混合してスラリーを形成した。このスラリーをアルミニウム箔上に塗布して乾燥した後、圧延処理を施して、リチウムイオン二次電池用の正極を得た。この正極におけるアルミニウム箔上の活物質層の体積と重量の実測値から電極密度を算出した。電極密度の値は、3.36g/ccであった。
【0119】
実施例14と比較例8との比較から、実施例1において得られた酸化処理カーボンを含む導電性カーボン混合物の使用により、電極密度が大幅に向上することが分かる。
【0120】
実施例15
気相成長炭素繊維の代わりにグラフェン(平面方向の長さ2μm、断面方向の長さ数nm)を用いた点を除いて、実施例14の手順を繰り返した。電極密度の値は、3.69g/ccであった。
【0121】
比較例9
気相成長炭素繊維の代わりに実施例15において用いたグラフェンを使用した点を除いて、比較例8の手順を繰り返した。電極密度の値は、3.45g/ccであった。
【0122】
実施例15と比較例9との比較から、実施例1において得られた酸化処理カーボンを含む導電性カーボン混合物の使用により、電極密度が大幅に向上することが分かる。
【0123】
実施例16
気相成長炭素繊維の代わりにファーネスブラック(平均粒径35nm)を用いた点を除いて、実施例14の手順を繰り返した。電極密度の値は、3.76g/ccであった。
【0124】
比較例10
気相成長炭素繊維の代わりに実施例16において用いたファーネスブラックを使用した点を除いて、比較例8の手順を繰り返した。電極密度の値は、3.42g/ccであった。
【0125】
実施例16と比較例10との比較から、実施例1において得られた酸化処理カーボンを含む導電性カーボン混合物の使用により、電極密度が大幅に向上することが分かる。
【0126】
実施例17
気相成長炭素繊維の代わりにグラファイト(平均粒子径6μm)を用いた点を除いて、実施例14の手順を繰り返した。電極密度の値は、3.81g/ccであった
【0127】
比較例11
気相成長炭素繊維の代わりに実施例17において用いたグラファイトを使用した点を除いて、比較例8の手順を繰り返した。電極密度の値は、3.48g/ccであった。
【0128】
実施例17と比較例11との比較から、実施例1において得られた酸化処理カーボンを含む導電性カーボン混合物の使用により、電極密度が大幅に向上することが分かる。