特許第6498786号(P6498786)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6498786
(24)【登録日】2019年3月22日
(45)【発行日】2019年4月10日
(54)【発明の名称】荷電粒子線装置
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/244 20060101AFI20190401BHJP
   H01J 37/28 20060101ALI20190401BHJP
【FI】
   H01J37/244
   H01J37/28 C
【請求項の数】10
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-557543(P2017-557543)
(86)(22)【出願日】2015年12月22日
(86)【国際出願番号】JP2015085745
(87)【国際公開番号】WO2017109843
(87)【国際公開日】20170629
【審査請求日】2018年5月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】神宮 孝広
【審査官】 右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012-169269(JP,A)
【文献】 特表2013-541799(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0056634(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/244
H01J 37/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
収束した荷電粒子線を試料へ供給し、前記荷電粒子線によって前記試料を走査する照射系と、
前記試料からのエネルギーを結像する結像光学系と、
前記結像光学系によって形成された像をアバランシェホトダイオードアレイによって検出する検出系と、
前記アバランシェホトダイオードアレイを構成する画素のうちガイガーモードで動作させる画素を、前記エネルギーの照射範囲の移動に応じて変更する制御部と
を有する荷電粒子線装置。
【請求項2】
請求項1に記載の荷電粒子線装置において、
前記アバランシェホトダイオードアレイは、行列状に配列された複数の画素を含み、
さらに、
行列状に形成され、前記複数の画素のうちの所定の画素を選択的にガイガーモードで動作させる複数本の制御ライン
を有する荷電粒子線装置。
【請求項3】
請求項2に記載の荷電粒子線装置において、
前記エネルギーは透過電子である、荷電粒子線装置。
【請求項4】
請求項3に記載の荷電粒子線装置において、
検出した前記像を加算する処理部
を更に有する荷電粒子線装置。
【請求項5】
請求項4に記載の荷電粒子線装置において、
前記制御部は、ガイガーモードで動作させる前に前記画素をリセット動作させる荷電粒子線装置。
【請求項6】
請求項4に記載の荷電粒子線装置において、
前記制御部は、前記ガイガーモードで動作させる前に前記画素を行単位又は列単位でリセット動作させる荷電粒子線装置。
【請求項7】
請求項1に記載の荷電粒子線装置において、
前記エネルギーは透過電子である、荷電粒子線装置。
【請求項8】
請求項1に記載の荷電粒子線装置において、
検出した前記像を加算する処理部
を更に有する荷電粒子線装置。
【請求項9】
請求項1に記載の荷電粒子線装置において、
前記制御部は、ガイガーモードで動作させる前に前記画素をリセット動作させる荷電粒子線装置。
【請求項10】
請求項1に記載の荷電粒子線装置において、
前記アバランシェホトダイオードアレイは、行列状に配列された複数の画素を含み、
前記制御部は、ガイガーモードで動作させる前に前記画素を行単位又は列単位でリセット動作させる荷電粒子線装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子線装置に関する。
【背景技術】
【0002】
試料からのエネルギーを検出する装置の一例として荷電粒子線装置が挙げられる。荷電粒子線装置は、試料に荷電粒子線(例えば電子線)を供給し、その結果発生するエネルギーを検出する。検出対象とするエネルギーは、例えば透過電子、2次電子および反射電子の少なくとも1つである。この種の技術は、例えば特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−226616号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の装置は、蛍光材(例えばシンチレータ)を用いて試料からのエネルギーを光に変換し、その光を撮像媒体(例えばカメラ)で検出する。しかし、シンチレータは蛍光体であるため、発光した後も一定時間光り続ける。つまり応答性に改善の余地がある。また、蛍光体は試料からのエネルギーによる劣化のため光への変換効率が低下し劣化の状態を随時計測し補正する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明は、例えば特許請求の範囲に記載の構成を採用する。本明細書は上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、「収束した荷電粒子線を試料へ供給し、前記荷電粒子線によって前記試料を走査する照射系と、前記試料からのエネルギーを結像する結像光学系と、前記結像光学系によって形成された像をアバランシェホトダイオードアレイによって検出する検出系と、前記アバランシェホトダイオードアレイを構成する画素のうちガイガーモードで動作させる画素を、前記エネルギーの照射範囲の移動に応じて変更する制御部とを有する荷電粒子線装置」である。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、従来よりも応答性に優れかつ蛍光体劣化による画像変化の補正を必要としない荷電粒子線装置を提供できる。前述した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施の形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施例1に係るエネルギー検出装置の全体構成を示す図。
図2】アバランシェホトダイオードアレイの構成を示す図。
図3】実施例1におけるSTEM画像の生成動作を説明するフローチャート。
図4】STEM画像を用いた注目領域の再取得動作を説明する図。
図5】実施例2におけるSTEM画像の生成動作を説明するフローチャート。
図6】実施例3におけるSTEM画像の生成動作を説明するフローチャート。
図7】実施例4における読出し画素サイズの変更例を説明する図。
図8】実施例4における読出し画素サイズの変更例を説明する図。
図9】実施例4における読出し画素サイズの変更例を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面に基づいて、本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明の実施の態様は、後述する実施例に限定されるものではなく、その技術思想の範囲において、種々の変形が可能である。
【0009】
(1)実施例1
(1−1)走査透過型電子顕微鏡の構成
図1に、エネルギー検出装置の一例である走査透過型電子顕微鏡(以下、「STEM」という。)の全体構成を示す。走査透過型電子顕微鏡100は、電子銃2、照射レンズ4、走査コイル5、対物レンズ6、試料ステージ7、拡大レンズ系8、及び、撮像装置9を有し、これらは顕微鏡本体1内に設けられている。撮像装置9は、少なくとも後述するアバランシェホトダイオードアレイを含む。ここで、照射レンズ4、走査コイル5、対物レンズ6が照射系を構成し、拡大レンズ系8が結像光学系を構成する。また、撮像装置9が検出系を構成する。
【0010】
走査透過型電子顕微鏡100は、更に、電子銃2を制御する電子銃制御装置10、照射レンズ4を制御する照射レンズ制御装置11、走査コイル5を制御する走査コイル制御装置12、対物レンズ6を制御する対物レンズ制御装置13、拡大レンズ系8を制御する拡大レンズ制御装置14、試料ステージ7を制御する試料ステージ制御装置15、コンピュータ16、及び、モニタ19を有する。コンピュータ16は、制御装置17及び画像処理制御装置18を有する。制御装置17は、電子銃制御装置10、照射レンズ制御装置11、走査コイル制御装置12、対物レンズ制御装置13、拡大レンズ制御装置14、及び、試料ステージ制御装置15を制御する。また、制御装置17は、撮像装置9(アバランシェホトダイオードアレイ)の動作も制御する。
【0011】
電子銃2より放出された電子線3は、照射レンズ4で収束され、x方向およびy方向の偏向コイルで構成された走査コイル5により偏向される。2方向に偏向された電子線3は、対物レンズ6により、試料ステージ7に保持されている試料101上にフォーカスされ、試料面上を走査する。試料101を透過した電子線3の像は拡大レンズ系8により拡大された後、撮像装置9の撮像面に結像される。撮像装置9は、当該像を撮像する。本明細書では、撮像装置9による撮像を「検出」ともいう。撮像装置9で撮像された走査透過像(STEM像)はコンピュータ16に送られる。画像処理制御装置18は、撮像装置9から出力される走査透過像をモニタ19上に表示する。
【0012】
電子銃制御装置10、照射レンズ制御装置11、走査コイル制御装置12、対物レンズ制御装置13、拡大レンズ制御装置14、試料ステージ制御装置15及びコンピュータ16は、それぞれモジュールと構成することもできる。これらの制御装置は、信号を送受信する入出力インターフェース、制御アルゴリズムを保存するメモリ、アルゴリズムを実行するプロセッサを含んでいる。
【0013】
(1−2)アバランシェホトダイオードアレイの構成
図2に、アバランシェホトダイオードアレイ201(以下、「APDA201」という。)の構成を示す。APDA201は、複数のアバランシェホトダイオード202(以下、「APD202」という。)をマトリクス状に配置したアレイ素子である。図2に示すAPDA201は、APD202をm列×n行に配置した構成を有している。個々のAPD202がAPDA201の画素に相当する。本実施例では、i列×j行の位置の画素を画素(i,j)で表す。従って、画素(1、1)は、1列×1行の位置の画素の意味である。
【0014】
APD202は、ホトダイオード(以下、「PD」という。)の一種であり、逆電圧の印加によって光電流が増倍される高速かつ高感度のPDである。APD202は、エネルギー(例えば光を構成するフォトンの数)を計数してエネルギー量を測定するデバイスである。APD202に印加する逆電圧を降伏電圧以上にすると、内部電界が上昇し増倍率が極めて高くなる。像倍率は、例えば10〜10倍になる。
【0015】
このように倍増率を高めた状態でAPD202を動作させることを「ガイガーモード」という。ガイガーモードのAPD202においては、エネルギー(例えばフォトンや荷電粒子)の入射によってPN接合に生じた電子と正孔の対が高い電界によって加速される。この際、電子はP層内で加速され、運動エネルギーを高めながらN層に向かい、N層のバンドキャップエネルギーよりも十分に高い運動エネルギーでN層に突入する。この突入によってN層の電子が跳ね出し、さらに跳ね出した電子が連鎖的により多くの電子を生成する。これが増倍作用の原理である。
【0016】
ガイガーモードのAPD202に所定単位のエネルギー(例えば1つのフォトン(光子)や荷電粒子)が入射すると、前述した増倍作用によって非常に大きなパルス信号が生じるため、フォトンを計数することができる。光はフォトンの集まりであるため、微弱な光ではフォトンは離散的になる。しかし、APD202は、光が微弱であっても前述した増倍作用によって感度良く光を測定することができる。
【0017】
APD202は、時間当たりに検出されたフォトンや荷電粒子の数に応じた大きさの電流をパルス信号として出力する。従って、APDA201をアレイ上に配列した撮像装置9は、PDアレイで撮像装置9を構成する場合よりも高い感度で微弱な光を検出することができる。なお、APD202には、入射光量に比例した(線形の)強度を有するパルス信号を出力するアバランシェモードも用意されている。本実施例では、専らガイガーモードを使用する。
【0018】
APDA201は、シリコンフォトマルチプライヤ(Silicon Photomultiplier:Si‐PM)とも呼ばれるデバイスの一種であり、個別に動作するガイガーモードのAPD202の集合体である。APDA201の画素を構成する各APD202は、前述したようにエネルギーを検出すると、非常に大きな強度のパルス信号を出力する。加えて、本実施例におけるAPDA201は、全画素のパルス信号の総和を出力ライン203から出力する。このため、APDA201は、微弱なエネルギー(例えば光や電子)であっても感度良く検出することができる。
【0019】
ところで、本実施例のAPDA201では、一部のAPD202だけをガイガーモードで動作できるように、APD202の駆動制御ライン204及び205がm列×n行のマトリクス状に形成されている。駆動制御ライン204及び205は、その交点位置のAPD202に接続され、画素単位で動作を制御する。列用の駆動制御ライン204と行用の駆動制御ライン205はそれぞれ不図示の駆動回路に接続されており、駆動パルスでアクティブに制御された1本又は複数本の駆動制御ライン204と同じく駆動パルスでアクティブに制御された1本又は複数本の駆動制御ライン205の交点に位置する1つ又は複数のAPD202にだけを逆電圧を印加し、それらだけをガイガーモードで動作させることができる。この場合も、ガイガーモードで動作するAPD202からのパルス信号の総和が出力ライン203から出力される。
【0020】
もっとも、本実施例のAPDA201は、任意の個数のAPD202をガイガーモードに設定できるため、1つのAPD202のみをガイガーモードで動作させれば1つのAPD202の出力のみを出力ライン203から取り出すことができる。本実施例の場合、試料101を透過した電子(透過電子)が収束される任意の画素位置のAPD202のみをガイガーモードで動作させ、その他のAPD202を休止状態とする。例えば試料101上における電子線3の照射位置の移動による透過電子の撮像面への入射位置の変化に応じ、ガイガーモードで動作する画素位置と休止状態に制御する画素位置を変更する。撮像装置9から出力された信号を再構成(行列化)すれば、STEM像を得ることができる。
【0021】
なお、APD202からパルス信号を長期間読み出さない場合、熱雑音の影響による誤検出のリスクがある。そこで、駆動制御ライン204及び205によってAPD202を定期的にリセットする。リセットは、APD202が休止状態にある期間に実行する。
リセットは制御ラインの選択により全ての画素または任意の画素に実施可能でその時間は1画素の読み出し時間に等しく撮像シーケンス全体の時間短縮にも寄与する。
【0022】
(1−3)STEM画像の生成動作
図3を使用して、本実施例におけるSTEM画像の生成動作を説明する。この生成動作はコンピュータ16(制御装置17、画像処理制御装置18)によって制御される。STEM画像の生成を開始すると、電子銃2から出力される電子線3の走査も開始される(ステップS301)。本実施例の場合、電子線3の走査によって発生する光(エネルギー)は、図2に示すAPDA201の1行目の左端の画素から右端の画素に順番に入射し、以下同様に、2行目の左端の画素から右端の画素、…、n行目の左端の画素から右端の画素に入射する。
【0023】
コンピュータ16は、このタイミングで全て画素をアクティブ状態に制御する(ステップS302)。すなわち、全画素をリセットする。もっとも、このリセット動作は、電子線3の走査と同時又は走査の開始直前に実行してもよい。次に、コンピュータ16は、画素(1、1)のみに逆電圧を印加し、当該画素のみをガイガーモードで動作させる(ステップS303)。つまり、他のm*n−1個の画素は休止状態である。この場合、出力ライン203からは画素(1、1)に入射した光に対応するパルス信号が出力される。
【0024】
次に、コンピュータ16は、最終画素(すなわち、画素(m,n))に対応するパルス信号が出力ライン203から出力されたか否かを判定する(ステップS304)。否定結果が得られている間、コンピュータ16はステップS305に移行する。ステップS305において、コンピュータ16は、電子線3の照射位置を移動させると共に同じ行の隣の画素にのみ逆電圧を印加し、そのパルス信号を得る。逆電圧を印加する画素が最終列(すなわちm列目)であった場合、コンピュータ16は、逆電圧の印加先を次行の先頭画素に変更する。コンピュータ16は、以上の動作を全ての画素について順番に実行する。
【0025】
やがて、ステップS304で肯定結果が得られると、コンピュータ16は、ステップS306に移行し、m列×n行で与えられる1枚目の画像(画像1)を生成する。次に、コンピュータ16は、画像がS枚取得されたか否かを判定し(ステップS307)、否定結果が得られている間、ステップS302に戻って、前述した一連の動作を繰り返す。このループ処理をS回繰り返すことで、S枚の画像(画像1〜画像S)が取得される。ステップS307で肯定結果が得られると、コンピュータ16は、S枚の画像の同じ画素位置のパルス信号どうしを加算する(ステップS308)。生成された画像を、コンピュータ16は、加算画像としてモニタ19の画面上に表示する(ステップS309)。なお、加算画像は、コンピュータ16内の不図示の記憶領域(例えばメモリ、ハードディスク装置など)に記憶される。
【0026】
(1−4)STEM画像を用いた注目領域の再取得
図4を使用して、STEM画像を用いた注目領域の再取得動作を説明する。図4Aは、図3の手順で取得された倍率M1のSTEM画像401である。作業者は、モニタ19の画面上でSTEM画像401を確認しながら、再取得したい部分領域(図中では破線で示す)を指定する。この際、作業者は、再取得時に使用する倍率も指定する。ここでの倍率をM2(>M1)とする。コンピュータ16は、ユーザインタフェースを通じてこれらの指定を受け付けると、該当する領域部分のみを電子線で走査するように電子銃制御装置10を制御すると共に、指定された倍率が得られるように対物レンズ制御装置13、拡大レンズ制御装置14などを制御する。また、コンピュータ16は、指定された範囲に対応するAPD202だけに逆電圧を印加するように撮像装置9や画像処理制御装置18を制御する。
【0027】
前述したように、撮像装置9を構成するAPDA201には、駆動制御ライン204及び205がm列×n行のマトリクス状に形成されている。従って、コンピュータ16は、指定された範囲に相当する駆動制御ライン204及び205だけを駆動制御する。なお、コンピュータ16が実行する制御動作の内容は、ステップS303〜S305の画素範囲が異なるだけで図3に示す処理動作と同じである。この結果、図4Bに示すように、倍率M2の拡大STEM画像402が取得される。拡大STEM画像402は、APDA201の一部の画素だけを駆動することで取得できるため、STEM画像401と拡大STEM画像402の解像度(SN比)が同じであれば(ループ回数が同じであれば)、STEM画像401に比して拡大STEM画像402が出力されるまでの撮像時間が短く済む。
【0028】
また、拡大STEM画像402とSTEM画像401の撮像時間が同じであれば、その分、重ね合わせ回数を多くできる(ループ回数を増やすことができる)ため、拡大STEM画像402の解像度(SN比)を一層向上することができる。因みに、いわゆるカメラ(CCDセンサやCMOSセンサ)を撮像装置9に用いる場合には、必要は画像が一部分でも1枚の画像を構成する全画素の読み出しが必要となるため、解像度(SN比)と撮像時間は相反する関係であり、本実施例のような撮像時間の短縮やSN比の向上を実現することはできない。
【0029】
(1−5)実施例の効果
以上説明したように、本実施例における走査透過型電子顕微鏡100を用いれば、従来よりも応答性を向上させることができる。また、取得されたSTEM画像401の一部分だけを異なる撮像条件(例えば異なる倍率)で撮像したい場合にも、モニタ19の画面上で指定した範囲に相当するAPD202だけを駆動することにより短時間で、又は、より高いSN比の拡大STEM画像402を取得することができる。
【0030】
(2)実施例2
実施例1では、STEM画像の生成動作として、予め全画素の熱雑音をリセットする手法について説明したが、ここでは他の手法を説明する。STEM画像の生成手法以外は実施例1と同じである。
【0031】
図5に、本実施例におけるSTEM画像の生成動作を示す。この生成動作もコンピュータ16(制御装置17、画像処理制御装置18)の制御を通じて実行される。STEM画像の生成を開始すると、電子銃2から出力される電子線3の走査も開始される(ステップS501)。本実施例の場合、コンピュータ16は、画素(1、1)をリセットし、熱雑音を吐き出させる(ステップS502)。このリセット動作は、荷電粒子線の走査と同時又は走査の開始直前に実行してもよい。
【0032】
次に、コンピュータ16は、画素(1、1)のみに逆電圧を印加すると共に、図中右隣の画素(2、1)をリセットする(ステップS503)。このとき、画素(1、1)のみがガイガーモードで動作し、他のm*n−1個の画素は休止状態である。従って、出力ライン203からは画素(1、1)に入射した光に対応するパルス信号が出力される。
【0033】
続いて、コンピュータ16は、最終画素(すなわち、画素(m,n))に対応するパルス信号が出力ライン203から出力されたか否かを判定する(ステップS504)。否定結果が得られている間、コンピュータ16はステップS505に移行する。ステップS505において、コンピュータ16は、荷電粒子線の位置を移動させると共に同じ行の右隣の画素(例えば画素(2,1))にのみ逆電圧を印加し、そのパルス信号を得る。また、逆電圧の印加と並行して、更に右隣の画素(例えば画素(3,1))をリセットする。逆電圧を印加する画素やリセットする画素が最終列(すなわちm列目)であった場合、コンピュータ16は、逆電圧を印加する画素やリセットする画素の位置を次行の先頭画素に変更する。コンピュータ16は、以上の動作を全ての画素について順番に実行する。
【0034】
やがて、ステップS504で肯定結果が得られると、コンピュータ16は、ステップS506に移行し、m列×n行で与えられる1枚目の画像(画像1)を生成する。次に、コンピュータ16は、画像がS枚取得されたか否かを判定し(ステップS507)、否定結果が得られている間、ステップS502に戻って、前述した一連の動作を繰り返す。このループ処理をS回繰り返すことで、S枚の画像が取得される。ステップS507で肯定結果が得られると、コンピュータ16は、S枚の画像の同じ画素位置のパルス信号どうしを加算する(ステップS508)。生成された画像を、コンピュータ16は、加算画像としてモニタ19の画面上に表示する(ステップS509)。なお、加算画像は、コンピュータ16内の不図示の記憶領域(例えばメモリ、ハードディスク装置など)に記憶される。
【0035】
この手法を用いれば、各画素をガイガーモードで動作させる直前にリセットできるため、APDA201上のいずれの画素についても熱雑音の影響を最も少ない状態に揃えることができる。
【0036】
(3)実施例3
ここでも、STEM画像の他の生成動作を説明する。STEM画像の生成手法以外は実施例1と同じである。
【0037】
図6に、本実施例におけるSTEM画像の生成動作を示す。この生成動作もコンピュータ16の制御を通じて実行される。まず、STEM画像の生成を開始すると、電子銃2から出力される電子線3の走査も開始される(ステップS601)。本実施例の場合、コンピュータ16は、第1行に位置する全画素、すなわち(1、1)〜(m、1)の計m個の画素をリセットし、熱雑音を吐き出させる(ステップS602)。このリセット動作は、電子線3の走査と同時又は走査の開始直前に実行してもよい。
【0038】
次に、コンピュータ16は、画素(1、1)のみに逆電圧を印加する(ステップS603)。このとき、画素(1、1)のみがガイガーモードで動作し、他のm*n−1個の画素は休止状態である。従って、出力ライン203からは画素(1、1)に入射した光に対応するパルス信号が出力される。
【0039】
続いて、コンピュータ16は、最終画素(すなわち、画素(m,n))に対応するパルス信号が出力ライン203から出力されたか否かを判定する(ステップS604)。否定結果が得られている間、コンピュータ16はステップS605に移行する。ステップS605において、コンピュータ16は、電子線3の位置を移動させると共に同じ行の右隣の画素(例えば画素(2,1))にのみ逆電圧を印加し、そのパルス信号を得る。逆電圧を印加する画素が最終列(すなわちm列目)であった場合、コンピュータ16は、電子線3の走査位置が最終列から先頭列に移動する期間を利用して次行の全画素をリセットする。このリセット後、次行の先頭画素から順番に逆電圧を印加する。コンピュータ16は、以上の動作を全ての画素について順番に実行する。
【0040】
やがて、ステップS604で肯定結果が得られると、コンピュータ16は、ステップS606に移行し、m列×n行で与えられる1枚目の画像(画像1)を生成する。次に、コンピュータ16は、画像がS枚取得されたか否かを判定し(ステップS607)、否定結果が得られている間、ステップS602に戻って、前述した一連の動作を繰り返す。このループ処理をS回繰り返すことで、S枚の画像が取得される。ステップS607で肯定結果が得られると、コンピュータ16は、S枚の画像の同じ画素位置のパルス信号どうしを加算する(ステップS608)。生成された画像を、コンピュータ16は、加算画像としてモニタ19の画面上に表示する(ステップS609)。なお、加算画像は、コンピュータ16内の不図示の記憶領域(例えばメモリ、ハードディスク装置など)に記憶される。
【0041】
この手法では、走査線インタリーブ期間(荷電粒子線の照射位置がある行の最終列から次行の先頭列に移動する期間)を利用して、ガイガーモードで動作させる直前の画素群をリセットできる。このようにしても、APDA201を構成する画素間での熱雑音の影響の違いを小さくできる。また、リセット動作のための処理周波数を低減できる。なお、本実施例では行単位でリセットしているが、電子線3の走査方向が列方向である場合には、列単位でリセットしてもよい。
【0042】
(4)実施例4
前述の実施例では、1画素のみ(1つのAPD202のみ)をガイガーモードで動作させる場合について説明した。しかし、APDA201は1つ又は複数の画素位置のAPD202を同時にガイガーモードで動作させることができる。そこで、本実施例では、複数の画素を一度の読出し範囲に指定する方法について説明する。
【0043】
図7は、3列×2行の画素範囲を読出し単位とする方法を説明する図である。ここでは、試料101から発生する光(エネルギー)の入射する範囲も同じように移動するものとする。例えば読出し画素の範囲は、左上隅の画素座標で表すと、画素(1,1)、画素(4,1)、画素(7,1)…と移動する。出力ライン203からは、これら6画素分のパルス信号の加算値が出力される。このような読出し手法を採用することにより、撮像の高速化を実現できる。なお、読出し画素の範囲は自由に定めることができる。例えば図8に示すように、読出し画素を列単位(n個の画素単位)で指定することもできる。
【0044】
上述の説明では、読出し画素の範囲の移動と試料101から発生する光(エネルギー)の入射する範囲の移動とが連動するものとして説明したが、試料101から発生する光(エネルギー)の入射する範囲はAPDA201の全範囲、又は、読出し範囲よりも広い範囲であってもよい。また、前述の説明のように、読出し範囲をAPDA201の全範囲で移動させるのではなく、一部分だけに固定してもよい。つまりSTEM画像が必要とされる領域のみに読出し画素の範囲を限定してもよい。この手法によれば、撮像の高速化を実現できる。
【0045】
また、前述の実施例においては、APDA201に出力ライン203が1つのだけ設けられている場合について説明したが、図9に示すように、APDA201に出力ライン203が複数設けられていても良い。例えば出力ライン203は列数と同じm個でもよいし、理論的には全画素数(m×n個)と同じでもよい。このように出力ライン203が複数設けられていれば、読出し画素の範囲からの読出しを並列に実行することができる。図9の例であれば、4つの出力ライン203から並列に、対応する読出し画素範囲の出力を読み出すことができる。この手法によれば、撮像の高速化を実現できる。勿論、出力ラインは行単位であってもよい。
【0046】
(5)他の実施例
本発明は、上述した実施例に限定されるものでなく、様々な変形例を含んでいる。例えば、上述した実施例は、本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備える必要はない。また、ある実施例の一部を他の実施例の構成に置き換えることができる。また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることもできる。また、各実施例に別の構成要素を追加し、各実施例の構成要素の一部を削除し、又は、各実施例の構成要素を他の構成要素に置換することもできる。
【0047】
また、前述の実施例においては、発明を走査透過型電子顕微鏡に適用する場合について説明したが、他の荷電粒子線装置(例えば透過型電子顕微鏡(TEM: Transmission Electron Microscope)、走査型電子顕微鏡(SEM: Scanning Electron Microscope)にも適用できる。
【0048】
また、上述した各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現しても良い。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することにより(すなわちソフトウェア的に)実現しても良い。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリ、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記憶装置、又は、ICカード、SDカード、DVD等の記憶媒体に格納することができる。また、制御線や情報線は、説明上必要と考えられるものを示すものであり、製品上必要な全ての制御線や情報線を表すものでない。実際にはほとんど全ての構成が相互に接続されていると考えて良い。
【符号の説明】
【0049】
1…顕微鏡本体、
2…電子銃、
3…電子線、
4…照射レンズ、
5…走査コイル、
6…対物レンズ、
7…試料ステージ、
8…拡大レンズ系、
9…撮像装置、
10…電子銃制御装置、
11…照射レンズ制御装置、
12…走査コイル制御装置、
13…対物レンズ制御装置、
14…拡大レンズ制御装置、
15…試料ステージ制御装置、
16…コンピュータ、
17…制御装置、
18…画像処理制御装置、
19…モニタ、
100…走査透過型電子顕微鏡、
101…試料、
201…アバランシェホトダイオードアレイ、
202…アバランシェホトダイオード、
203…出力ライン、
204…駆動制御ライン、
205…駆動制御ライン、
401…STEM画像、
402…部分STEM画像。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9