(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
チョコレート等の食品原料によりセンター材を被覆する技術としてパンコーティング製法が知られている。パンコーティング製法とは、アーモンドやピーナッツ、焼き菓子等のセンター材を回転釜(レボルビングパン)の中で転動させながら液状の食品原料を添加し、センター材の周囲を食品原料で被覆する方法である。
【0003】
パンコーティング製法においては回転釜の中で複数のセンター材を転がしながら液状の食品原料を添加し、表面形状を整えながら固化させることによりセンター材を被覆する。当該製法を用いた被覆食品の製造においては、用いるセンター材の比重や形状、コーティング液として用いる食品原料の性質、製造条件(噴霧条件、環境温度、釜の回転数、センター材の品温など)等によって、食品原料を介して複数のセンター材が結合する現象(以下、アベック化という)を生ずる場合がある。このアベック化は商品の外観を損なう等、商品価値を低下させる場合がある。
【0004】
このようなアベック化は、マシュマロやポン菓子、スナック菓子のような軽量のセンター材を用いる場合に起こりやすいことが知られている。
また、平面を有するセンター材を用いる場合にもアベック化の発生率が高くなる傾向がある。
【0005】
そのため、軽量のセンター材をパンコーティング製法によりチョコレート等の食品原料で被覆する際には、まずセンター材に油を掛け、その後チョコフレーク等を振り掛けた後に、液状のチョコレート等を振り掛ける方法が一般的に行われている(非特許文献1)。
また、特許文献1には、軽量のセンター材を焼成菓子やパフスナックの粉砕品でプレコーティングしてから、チョコレートによりコーティングする技術が開示されている。
【0006】
また、アベック化は、水や酒類などを含むチョコレートをコーティング液として用いる場合にも起こりやすい。
【0007】
特許文献2には、水分含有チョコレートはパンコーティングにより均一に被覆することはできないとの記載がある(段落0007)。この問題を解決するため、特許文献2は、チョコレートと水を別々にセンター材に散布することで、水分含有チョコレートでセンター材を被覆する方法を提案している。
【0008】
また、特許文献3には、酒を含有する液状のチョコレートを散布してアーモンドをコーティングした結果、アベック化が発生し、コーティングが不可能であったことが記載されている(段落0061)。この問題を解決するため、特許文献3は、液状のチョコレートを散布し、次に液体窒素を用いて超低温凍結粉砕した酒類含有乳化組成物を散布することで、センター材を酒類含有チョコレートでコーティングする方法を提案している。
【0009】
なお、パンコーティング製法において簡易スプレーを用いて回転釜内に液状のコーティング液を散布する方法が知られていたが(例えば特許文献4)、センター材やコーティング液などの条件によっては、アベック化の発生率が低いとは言えなかった。
また、噴霧するコーティング液の粒子径の観点からアベック化率を低減することは検討されたことがない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述の通り、パンコーティング製法において、アベック化を抑制する技術が種々提案されているが、いずれも製造工程数を増加させるものである、という問題があった。
【0013】
そこで、本発明は、被覆食品の製造においてアベック化の発生率を低減する技術を提供することを課題とする。
特に、本発明は、軽量のセンター材を用いる場合や、ガナッシュなどの水や酒類を含むチョコレート等でセンター材を被覆する場合にアベック化の発生率を低減する技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決する本発明は以下の通りである。
すなわち本発明は、常温で固体の油脂含有原料からなるコーティング液を、転動しているセンター材に噴霧することにより、センター材表面を油脂含有原料で被覆することを含む被覆食品の製造方法であって、前記センター材への到達時の前記コーティング液の液滴の平均粒子径が2000μm以下であることを特徴とする被覆食品の製造方法である。
本発明の被覆食品の製造方法によれば、製造される被覆食品においてアベック化の発生率を低減することができる。
【0015】
本発明の好ましい形態では、前記コーティング液の液滴の平均粒子径は1200μm以下である。
このような粒子径の範囲とすることにより、アベック化の発生率をより低減することができる。
本形態は、特に、マシュマロやポン菓子などの比較的軽量のセンター材を用いる場合や多面体状等の平面を有する形状のセンター材を用いる場合に有用である。
また、本形態は、上記のようなセンター材を用いる場合に従来必要とされていたプレコーティングを不要にし、製造工程を簡素化することを可能にするものである。
【0016】
本発明の好ましい形態では、前記コーティング液の液滴の平均粒子径は700μm以下である。
このような粒径の範囲とすることにより、アベック化の発生率を顕著に低減することができる。
本形態は、特に、コーティング液として、ガナッシュのような水分含有量が5質量%以上の油脂含有原料を使用する場合に有用である。
また、本形態は、上記のようなコーティング液を用いる場合に従来必要とされていたコーティング液の多段階の添加を不要にし、製造工程を簡素化することを可能にするものである。
【0017】
本発明の好ましい形態では、コーティング液の噴霧範囲を、センター材の堆積面の範囲内とする。
コーティング液の噴霧範囲を、センター材の堆積面の範囲内とする形態にすることによって、アベック化を防ぎながらセンター材を効率的に被覆することができる。
【0018】
また、本発明は、常温で固体の油脂含有原料からなるコーティング液を、転動しているセンター材に噴霧することにより、センター材表面を油脂含有原料で被覆するための被覆食品の製造装置であって、前記センター材を転動するための釜と、平均粒子径が2000μm以下の液滴の噴霧が可能なスプレーノズルと、を備える被覆食品の製造装置にもある。
本発明の被覆食品の製造装置によれば、従来のパンコーティング装置に比してアベック化の発生率を低減することができる。
【0019】
また、本発明は、常温で固体の油脂含有原料からなるコーティング液を、転動しているセンター材に噴霧することにより、前記センター材を前記油脂含有原料で被覆する方法であって、前記センター材への到達時の前記コーティング液の液滴の平均粒子径が2000μm以下であることを特徴とする、センター材を油脂含有原料で被覆する方法にもある。
本発明の方法によれば、アベック化の発生を防ぎながらセンター材を油脂含有原料により被覆することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、被覆食品の製造においてアベック化の発生率を低減することができる。特に、軽量のセンター材を用いる場合や、ガナッシュなどの水や酒類を含むチョコレート等でセンター材を被覆する場合にアベック化の発生率を低減することができる。これにより、アベック化に起因した表面の不均一性などを防ぎ、外観を向上させることが可能となる。
また、本発明は、従来アベック化を防ぐために行われてきたプレコーティングやコーティング液の多段階の添加等を不要とするものであり、被覆食品の製造工程を簡素化することにも寄与する。
【発明を実施するための形態】
【0022】
<1>被覆食品の製造方法
本発明は、常温で固体の油脂含有原料からなるコーティング液を、転動しているセンター材に噴霧することにより、センター材表面を油脂含有原料で被覆することを含む被覆食品の製造方法であって、前記センター材への到達時の前記コーティング液の液滴の平均粒子径が2000μm以下であることを特徴とする被覆食品の製造方法である。以下、本発明の被覆食品の製造方法の各構成について詳細に説明する。
【0023】
(コーティング液)
本発明におけるコーティング液は、常温で固体の油脂含有原料をその融点以上に熱することによって得ることができる。常温で固体の油脂含有原料としては、「チョコレート利用食品の表示に関する公正競争規約」で定義されているところのチョコレート類を例示することができ、具体的には同規約で定義されているチョコレート、準チョコレート、チョコレート菓子、準チョコレート菓子などを好ましく例示することができる。
【0024】
本発明におけるコーティング液としてチョコレートを用いる場合には、チョコレートを、好ましくは15〜60℃、より好ましくは20〜55℃、さらに好ましくは25〜50℃に調整したものをコーティング液とすることが好ましい。
【0025】
本発明は、コーティング液として水分含有量が5質量%以上、又は10質量%以上の油脂含有原料、特にガナッシュを用いる場合に有用である。
油脂含有原料における水分含有量の上限は、20質量%を目安とすることができる。
従来これらの油脂含有原料をコーティング液として使用する場合には、アベック化の発生率が著しく高かったためである。
【0026】
本発明におけるコーティング液として、ガナッシュを用いる場合には、ガナッシュを、好ましくは15〜60℃、より好ましくは20〜55℃、さらに好ましくは25〜50℃に調整したものをコーティング液とすることが好ましい。
【0027】
(センター材)
本発明におけるセンター材としては、一般的に食品の原料として使用され、本発明における油脂含有原料と組み合わせることの可能なあらゆる食品素材及び加工食品を用いることができ、スナック類、ナッツ類、ドライフルーツ類、焼成菓子類、キャンディー類、錠菓類、豆類及びゼリー類等を例示することができる。
【0028】
本発明においてセンター材の大きさは特に限定されないが、最大径が好ましくは0.1〜10cm、より好ましくは0.5〜3cm程度のものを好適に例示できる。
【0029】
本発明の製造方法は、マシュマロやポン菓子のような軽量のセンター材を被覆する場合に特に有用である。
従来これらの軽量のセンター材を使用する場合には、アベック化の発生率が著しく高かった。しかし、本発明の被覆食品の製造方法によれば、このようなセンター材を用いてもアベック化の発生率を従来技術に比べて低減することができる。
【0030】
本発明の製造方法は、平面を有するセンター材を被覆する場合に特に有用である。
従来のパンコーティング製法により、平面を有するセンター材を用いて被覆食品を製造しようとすると、アベック化の発生率が著しく高くなってしまう。
しかし、本発明の被覆食品の製造方法によれば、平面を有するセンター材を用いてもアベック化の発生率を従来技術に比べて低減することができる。
平面を有するセンター材の形状としては、多面体、多角柱、円柱、錐体等が挙げられる。
【0031】
(センター材の転動)
本発明においてセンター材を転動させる方法は特に制限されず、回転釜、底部が回転する釜及び内部に回転羽を備える釜を用いる方法など、従来のパンコーティングで用いられている方法を例示することができる。本発明において好ましくは、回転釜を用いてセンター材を転動させる。
【0032】
(コーティング液の噴霧)
本発明の被覆食品の製造方法においては、転動しているセンター材にコーティング液を噴霧する。コーティング液を噴霧する態様としては特に限定されないが、好ましくはスプレーノズルより噴霧する。
【0033】
本発明においては、センター材への到達時のコーティング液の液滴の平均粒子径は、2000μm以下、好ましくは1500μm、より好ましくは1200μm、さらに好ましくは700μm以下とする。
コーティング液の液滴がセンター材に到達する時の粒子径を上の数値範囲とすることによって、アベック化の発生率を抑えることができる。
【0034】
また、マシュマロやポン菓子、スナック菓子のような軽量のセンター材を被覆する場合には、センター材への到達時のコーティング液の液滴の平均粒子径を、1200μm以下とすることが好ましい。
コーティング液の液滴がセンター材に到達する時の平均粒子径を上の数値範囲とすることによって、軽量のセンター材を用いた場合におけるアベック化の発生率を顕著に低減することができる。
【0035】
また、ガナッシュを用いてセンター材を被覆する場合には、センター材への到達時のコーティング液の液滴の平均粒子径を、700μm以下とすることが好ましい。
コーティング液の液滴がセンター材に到達する時の粒子径を上の数値範囲とすることによって、ガナッシュをコーティング液として用いた場合におけるアベック化の発生率を顕著に低減することができる。
【0036】
また本発明における、センター材への到達時のコーティング液の液滴の平均粒子径の下限値は、経済性の観点から200μm程度を目安にすることが好ましい。
【0037】
センター材への到達時のコーティング液の液滴の平均粒子径を上記数値範囲とするためには、例えばスプレーノズルから上記数値範囲に含まれる粒子径のコーティング液を噴射しても良い。
また、スプレーノズルから上記数値範囲よりも大きい粒子径のコーティング液を噴射して、センター材に到達するまでの間に乾燥等の工程を踏むことによって液滴の粒子径を小さくし、センター材到達時に該液滴が上記数値範囲内の平均粒子径になるようにしても良い。
【0038】
なお、本発明において「センター材への到達時のコーティング液の液滴の平均粒子径」とは、センター材に到達(付着)した時点でのコーティング液の液滴の粒子径の平均値のことをいう。なお、該液滴が球形でない場合には、最大径を粒子径とする。
【0039】
「センター材への到達時のコーティング液の液滴の平均粒子径」はコーティング液が到着(付着)した直後のセンター材の表面の液滴の粒子径を顕微鏡等で計測し、1つの液滴の粒子径の平均値を算出することにより測定することもできるが、スプレーノズルを用いてコーティング液を噴霧する場合には、以下の手順により測定した値を「センター材への到達時のコーティング液の液滴の平均粒子径」とみなすことができる。
コーティング液をスプレーノズルから噴霧している状態で、該スプレーノズルの直下に紙をかざす。紙をかざす位置は、スプレーノズルの直下10cmの位置とする。そして、紙に付着した液滴を顕微鏡によって観察することによって粒子径を求める。なお、円形状でない液滴については、最大の径を粒子径とする。顕微鏡による粒子径の計測を統計学的に信頼できる数の液滴について行い、その平均値を平均粒子径とする。なお、粒子径を計測する液滴は2以上の液滴が重なったものではないことを必要とする。
【0040】
本発明においては、スプレーの技術分野で通常行われている方法によって、コーティング液の液滴の平均粒子径を調整することができる。すなわち、スプレーノズルを用いてコーティング液を噴霧する場合にあっては、スプレーノズルの種類、コーティング液の特性(液温、粘度)、スプレー圧力などを調整することによって任意の平均粒子径を有するコーティング液の液滴を噴霧することができる。
【0041】
本発明におけるコーティング液の噴霧範囲とセンター材の堆積面との関係について
図1を参照しながら説明する。
図1は、回動する回転釜1でセンター材4を転動させながら、スプレーノズル2よりコーティング液3を噴霧する様子を表す図である。センター材の堆積面5とは、転動しているセンター材4が集合してなるセンター材群の表面のうち、スプレーノズル2と対面する面のことを言う。また、コーティング液3の噴霧範囲とは、噴霧されたコーティング液3が直接付着する範囲のことを言う。
【0042】
本発明の好ましい実施の形態では、
図1に示すように、コーティング液3の噴霧範囲を、センター材4の堆積面5の範囲内とする。
かかる実施の形態の本発明によれば、センター材を効率的に油脂含有原料によって被覆することができる。
【0043】
本発明の実施の形態では、1kgのセンター材に対して1分間に好ましくは0.0001〜1kg、より好ましくは0.001〜0.5kg、さらに好ましくは0.05〜0.25kgの量のコーティング液をセンター材に噴霧する。
【0044】
また本発明の実施の形態では、センター材の質量を1とした時のコーティング液の質量は、好ましくは0.1〜3、より好ましくは0.3〜2.5、さらに好ましくは0.5〜2である。
【0045】
本発明の製造方法は、センター材への到達時のコーティング液の液滴の平均粒子径を上述の範囲とすること以外は、従来のパンコーティング製法と同様の構成で実施することができる。
本発明の製造方法は、以下に記載する製造装置によって実施することができる。
【0046】
<2>被覆食品の製造装置
本発明は、常温で固体の油脂含有原料からなるコーティング液を、転動しているセンター材に噴霧することにより、センター材表面を油脂含有原料で被覆するための被覆食品の製造装置であって、前記センター材を転動するための釜と、平均粒子径が2000μm以下の液滴の噴霧が可能なスプレーノズルと、を備える被覆食品の製造装置にもある。
以下、本発明の各構成について詳述する。
【0047】
(釜)
本発明の被覆食品の製造装置は、センター材を転動するための釜を備える。
本発明においてセンター材を転動させるための釜は特に制限されず、通常のパンコーティングで使用する回転釜、底部が回転する釜及び内部に回転羽を備える釜などを例示することができる。本発明において好ましくは、回転釜を用いる。
【0048】
回転釜を用いる場合には、該回転釜の回転軸は、内部でセンター材を転動することができるのならば特に制限されず、水平面に対して垂直でも良いし、斜めになっていても良いし、水平でも良い。
本発明の被覆食品の製造装置において、回転釜の回転軸は水平面に対して斜めとすることが好ましい。
【0049】
(スプレーノズル)
本発明の被覆食品の製造装置は、平均粒子径が2000μm以下、好ましくは1500μm、より好ましくは1200μm、さらに好ましくは700μm以下の液滴の噴霧が可能なスプレーノズルを備える。
【0050】
本発明においては、噴霧する液滴の平均粒子径を上述の数値範囲に制御することが可能であれば、一般的に使用されているスプレーを用いることができる。
【0051】
本発明の好ましい実施の形態では、スプレー圧力は好ましくは0.075〜10MPa、より好ましくは0.5〜5MPa、さらに好ましくは1〜4MPaとする。
本発明の実施の形態では、スプレー圧力を調整する圧力調整機構を備えていても良い。かかる実施の形態によれば、スプレーノズルより噴霧されるコーティング液の液滴の平均粒子径を、スプレー圧力を調整することによって容易に調整することができる。
【0052】
本発明の実施の形態では、スプレーノズルは、ノズル口がセンター材の堆積面から好ましくは5〜100cm、より好ましくは10〜80cm、さらに好ましくは15〜60cmの位置となる位置に備える。
【0053】
本発明の実施の形態では、スプレーノズルのスプレーパターンは特に限定されないが、好ましくは分散性の高いスプレーパターンとすることが好ましい。
本発明においてスプレーノズルとしては、以下のような基本的形態をとるものを例示できる。すなわち、中心にコーティング液の経路を備え、その周囲にエアーが通過する複数の経路を備え、これらの経路が粒子化されたコーティング液が噴霧されるノズル先端を有する密閉された空間(キャップ)に導かれる形態のスプレーノズルを例示することができる。
このような基本的形態を有するスプレーノズルには、コーティング液の経路とエアーの複数経路が、お互いに平行の関係にある「ラウンド型」、一方、コーティング液の経路の周囲において、エアーの複数経路が螺旋状である「360°円環型」などがある。
本発明では、双方が適用できるが、「360°円環型」が好適である。
また、大量生産する場合には、例えば、スプレーノズルを等間隔に複数配置することで対応できる。
【0054】
本発明の実施の形態においては、噴霧されたコーティング液のほぼ全量が直接センター材に付着するのであれば、スプレー角度は問わない。
【0055】
なお、本発明の被覆食品の製造装置におけるコーティング液、センター材、センター材の転動、コーティング液の噴霧に関する実施の形態は、上の<1>被覆食品の製造方法の項目の記載を適用することができる。
【0056】
<3>センター材を食品原料により被覆する方法
本発明は、常温で固体の油脂含有原料からなるコーティング液を、転動しているセンター材に噴霧することにより、前記センター材を前記油脂含有原料で被覆する方法であって、前記センター材への到達時の前記コーティング液の液滴の平均粒子径が2000μm以下であることを特徴とする、センター材を油脂含有原料で被覆する方法にもある。
本発明におけるコーティング液、センター材、センター材の転動、コーティング液の噴霧に関する実施の形態は、上の<1>被覆食品の製造方法の項目で述べた通りである。
【0057】
本発明の方法は、油脂含有原料によってセンター材が被覆されてなる被覆食品の製造方法に応用することもできるし、該被覆食品をさらに加工してなる食品の製造方法にも応用することができる。
【0058】
<4>被覆食品
本発明の被覆食品の製造方法によれば、例えばマシュマロ等の軽量のセンター材をガナッシュで被覆してなる被覆食品を提供することができる。かかる被覆食品は、上述したように従来技術では工業的生産が困難であったが、本発明によれば工業的に製造することができる。また、かかる被覆食品におけるセンター材と油脂含有原料の組み合わせは新規なものであり、新しい嗜好を提供することができる。
【実施例】
【0059】
次に実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0060】
なお、本実施例における平均粒子径とは、以下の手順により測定したものである。
(1)スプレーノズル2からコーティング液3を毎分10gの流量で噴霧している状態において、スプレーノズルの直下10cmの位置に、紙61を0.5秒かざし、スプレーノズルの直下の位置を中心に、同心円状にコーティング液を紙61に付着させる(
図2(a))。
(2)付着したコーティング液3によって形成された円の中心から外周に向けて、コーティング液3が付着した紙61を、短冊状に切り取り、短冊状紙片62を得る(
図2(b))。
(3)短冊状紙片62を長さ方向に1cmずつ切り取り、それぞれの紙片63に付着したコーティング液3の重量を計測する(
図2(c))。
(4)付着したコーティング液3によって形成された円の中心部を起点として、紙片63に付着したコーティング液3の累積度を求める。
(5)累積度が90%になる紙片63を、40倍の顕微鏡で観察し、付着しているコーティング液3の液滴の粒子径を求める。なお、円形状でない状態の液滴については、最大径を粒子径とする。
なお、「累積度が90%になる紙片」を選んで観察する理由は、付着しているコーティング液3の液滴が重なることがないため、粒子径の測定が容易であるからである。
(6)少なくとも、100点以上の粒子径を求め、これらの平均値を平均粒子径とする。
【0061】
本実施例において使用するスプレーノズルは1本であり、スプレーノズルから噴出された複数のコーティング液の液滴が、センター材に到達するまでに互いに会合することはほとんど無い。そのため、上記手順によって計測した平均粒子径は、実質的にセンター材への到達時のコーティング液の液滴の平均粒子径とみなすことができる。
【0062】
(試験例1)
本試験例においては、以下のセンター材、コーティング液、スプレーノズルを用いて被覆菓子を製造し、製造時におけるアベック化の発生率を測定した。
[センター材]
グミ(底面が平面であるかまくら形状、底面直径16mm、高さ14mm、重さ3g)
マシュマロ(円柱形、直径12mm、高さ10mm、重さ0.4g)
[コーティング液]
40℃に調整した液状チョコレート
[スプレーノズル]
スプレーイング システムス ジャパン株式会社
ノズル:PF100150DF−SS(ラウンド型)
キャップ:PA180−SS
【0063】
なお、本試験例で使用したセンター材はキャラメルやナッツ等のセンター材と比較して密度が低く軽量であり、また平面を有する形状のセンター材である。つまり、本試験例で用いるセンター材は、従来のパンコーティング製法によって油脂含有原料を被覆しようとするとアベック化の発生率が高くなるものである。
【0064】
被覆食品の製造は以下の手順によって行った。
センター材であるグミ又はマシュマロ200gを回転釜に投入し、回転釜を回動させながら、200gのコーティング液をスプレーノズルからセンター材に向けて、毎分10gの流量にて噴霧した。なお、センター材の堆積面から18cmの位置よりスプレーノズルからコーティング液を噴霧し、コーティング液の噴霧範囲をセンター材の堆積面の範囲内とした。
噴霧時のスプレー圧力を0.05MPa、0.075MPa、0.1MPaとした場合におけるアベック化の発生率を調べた。なお、アベック化の発生率とは、製造した被覆食品の全重量に対するアベック化を起こした被覆食品の重量比率である。
また、噴霧時のスプレー圧力を0.05MPa、0.075MPa、0.1MPaとした時のコーティング液の液滴の平均粒子径を別途測定した。
結果を表1に示す。
【0065】
【表1】
【0066】
表1に示すように、噴霧するコーティング液の液滴の平均粒子径が2599μmの時は、グミをセンター材とした場合に40%以上がアベック化を起こし、またセンター材をマシュマロとした場合には、アベック化の発生率が極めて高くなり被覆食品の製造ができなかった。
一方、噴霧するコーティング液の液滴の平均粒子径を1992μmとした場合には、センター材がグミ及びマシュマロの何れの場合であっても、平均粒子径が2599μmである時に比して、アベック化の発生率が顕著に減少することがわかった。
【0067】
ところで、従来のパンコーティング製法においてコーティング液を散布するために用いられていた簡易型のスプレー、具体的には特許文献4において使用しているモルタルスプレー(明治エンジニアリング(株))は、本発明者らが確認したところ平均粒子径が2500〜3000μmのコーティング液の液滴を噴霧するものであった。つまり、本試験例において平均粒子径2599μmのコーティング液の液滴を噴霧する条件は、従来技術におけるコーティング液の噴霧条件とみなすことができる。
【0068】
したがって表1の結果より、センター材への到達時のコーティング液の液滴の平均粒子径を2000μm以下とすることによって、従来技術と比較してアベック化の発生率を低減することができることがわかった。
【0069】
また従来のパンコーティング製法では、平面を有するセンター材を被覆しようとすると、アベック化の発生率が高くなってしまうという問題があった。本試験例で使用したセンター材も平面を有する形状であり、表1に示すように平均粒子径が2599μmのコーティング液の液滴を噴霧する場合にはアベック化の発生率が顕著に高くなった。
しかし、噴霧するコーティング液の液滴の平均粒子径を1992μmとした場合には、センター材がグミ及びマシュマロの何れの場合であっても、平均粒子径が2599μmである時に比して、アベック化の発生率が顕著に減少している。
この結果より、センター材への到達時のコーティング液の液滴の平均粒子径を2000μm以下とすることによって、従来技術と比較して平面を有するセンター材を被覆する際のアベック化の発生率を低減することができることがわかった。
【0070】
また、表1に示すように、マシュマロをセンター材として、平均粒子径が1111μmのコーティング液の液滴を噴霧すると、アベック化の発生率は1%未満となった。
この結果より、センター材への到達時のコーティング液の液滴の平均粒子径を1200μm以下とすることによって、アベック化の発生率を顕著に低減することができることがわかった。特に、このような形態は、マシュマロのような軽量の食品材料をセンター材とする場合や平面を有するセンター材を用いる場合など、アベック化が起こりやすい厳しい条件において有用であることがわかった。
【0071】
(試験例2)
グミ及びマシュマロをガナッシュ(水分含有量9.1%)によって被覆した菓子を製造し、製造時におけるアベック化の発生率を調査した。
本試験例は、40℃に融解した油性チョコレートに、シロップ(糖、アルコール、水)を加えて調整したガナッシュをコーティング液として使用して、0.05MPa、0.1MPa、0.15MPaのスプレー圧でセンター材に噴霧して行い、その他の条件は試験例1と同様に行った。
また、噴霧時のスプレー圧力を0.05MPa、0.1MPa、0.15MPaとした時のコーティング液の液滴の平均粒子径を別途計測した。
結果を表2に示す。
【0072】
【表2】
【0073】
表2に示すように、噴霧するコーティング液の液滴の平均粒子径を1214μm、605μmとした何れの場合であっても、噴霧するコーティング液の液滴の平均粒子径を2500μmとした場合と比較してアベック化の発生率が低減することがわかった。
上述したように、噴霧するコーティング液の液滴の平均粒子径を2500μmとした場合は、従来技術におけるコーティング液の噴霧条件とみなすことができる。
したがって、コーティング液をガナッシュとする場合であっても、センター材への到達時のコーティング液の液滴の平均粒子径を1200μm以下とすることによって、従来技術と比較してアベック化の発生率を低減することができることがわかった。
【0074】
また、表2に示すように、噴霧するコーティング液の液滴の平均粒子径が605μmである場合には、センター材がマシュマロ及びグミの何れであっても、アベック化の発生率は1%未満となった。
この結果より、センター材への到達時のコーティング液の液滴の平均粒子径を700μm以下とすることによって、アベック化の発生率を顕著に低減することができることがわかった。特に、このような形態は、ガナッシュのような油脂含有原料をコーティング液とする、アベック化が起こりやすい厳しい条件において有用であることがわかった。
【0075】
試験例1及び2の結果より、本発明は、アベック化が起こりやすい密度が低く軽量の、また平面を有するセンター材を被覆する場合であっても、被覆食品の製造におけるアベック化の発生率を低減することができるという優れた効果を発揮することがわかった。特に、試験例2の結果より、アベック化の起こりやすいセンター材をアベック化の起こりやすいコーティング液によって被覆するという極めて厳しい条件であっても、本発明は被覆食品の製造におけるアベック化の発生率を低減することができるという極めて優れた効果を発揮することがわかった。