【実施例1】
【0049】
上記第1実施形態に関する実施例1〜4について述べる。
【0050】
(実施例1)
実施例1においては、上記第1実施形態で説明した工程を経て製造した、厚さt0.05mm×幅w1.0mmの幅狭の成膜用基板を有する複数の超電導線材を製造し、得られた超電導線材を用いて丸型の複合超電導導体を得た。
【0051】
<幅狭の成膜用基板の準備(ステップS1−1)>
直径φ0.31mmのハステロイC276の金属線(丸線)を、加工率約34%で厚さt0.05mm×幅w1.0mm×長さL1050mに成形した。
【0052】
<連結基材の準備(ステップS1−2)>
t0.15mm×w26.5mm×L105mのハステロイC276の合金条の全長にわたって深さd0.03mm×幅w1.0mmの溝を幅方向のピッチ2.5mmで10本平行に形成し、連結基材とした。
【0053】
<幅狭の成膜用基板と連結基材の一体化工程(ステップS2)>
幅狭の成膜用基板を連結基材に形成した10本の溝に埋め込み、幅狭の成膜用基板と連結基材を一体化した。
【0054】
<研磨工程(ステップS3)>
一体化した幅狭の成膜用基板と連結基材の表面を研磨して、表面粗さを算術平均粗さRaを1.1nmに仕上げた。
【0055】
<中間層成膜工程(ステップS4)>
研磨したハステロイ276の幅狭の成膜用基板表面上に、Gd
2Zr
2O
7(GZO)層(膜厚:110nm)をイオンビームスパッタ法により、室温にて成膜した。さらに、MgO層(膜厚:約5nm)をIBAD法により200〜300℃にて成膜し、次いでLaMnO
3層(膜厚:30nm)をRFスパッタ法により600〜700℃にて成膜し、更にCeO
2層(膜厚:400nm)をRFスパッタ法により500〜600℃にて成膜した。
【0056】
<超電導層形成工程(ステップS5)>
上記中間層上に、MOCVD法により800℃の条件下で、YG
dBa
2Cu
3O
7-d超電導層を1μmの厚さに成膜した。
【0057】
<保護層成膜工程(ステップS6)>
超電導層上に保護層としてのAg層を厚さ15μm積層した。
【0058】
<酸素アニール工程(ステップS7)>
w1.0mm×L105m×10条のハステロイ276の幅狭の成膜用基板に中間層、超電導層、保護層が成膜されて連結基材に埋設された状態で、酸素流気中550℃で酸素アニールを行い多芯超電導線材を得た。
【0059】
<分離工程(ステップS8)>
連結基材に埋設された10条の超電導導体を有する多芯超電導線材を分離装置により個々に分離し、複数の超電導線材とした。
【0060】
≪超電導線材の臨界電流特性≫
製造された幅w1mm×長さL100m×10条の超電導線材について、液体窒素に浸漬した状態で、四端子法を用いて1μV/cmの基準で臨界電流I
cを測定した。測定は1mピッチとし、電圧端子間隔は1.2mとした。
臨界電流I
cの全測定位置で、45A以上を確認した。比較として、同様仕様で製作された幅10mm基板から製作された超電導線材の臨界電流I
cは455Aであった。このことより、1mm幅線材と10mm幅線材の幅比率に合致した臨界電流が得られていることが確認された。
【0061】
<心材準備工程(ステップS9)>
中空断面状のSUS管からなる芯の外周に銅からなる安定化層を有する丸形状の心材の最外周となる銅からなる安定化層に、幅1mmの超電導線材の側面同士が非接触となるフィンを成形し、断面外周が凸凹状となる心材を準備した。この時の凹の底辺と断面円形の中心までの距離(R)は2.39mmとし、心材外周に36°のピッチで幅0.47mmのフィンが10箇所形成されている。
【0062】
<再一体化工程(ステップS10)>
これら10箇所のフィン間に形成された幅約1mmピッチの溝部に幅1mmの超電導線材を埋設し、外径約φ4.8mmの10本多芯構造の
図3に模式的に示した断面の丸型の複合超電導導体を得た。
【0063】
≪複合超電導導体の臨界電流特性≫
幅1mmの超電導線材を10本有する外径約φ4.8mmの丸型の複合超電導導体の臨界電流I
cは455Aであった。1mm幅と10mm幅の線材の幅比率に合致した臨界電流が得られており、また、超電導線材の臨界電流特性は再一体化によって劣化していないことが確認された。
【0064】
(実施例2)
実施例2においては、上記第1実施形態で説明した工程を経て、厚さt0.1mm×幅w2.0mmの幅狭の成膜用基板を有する複数の超電導線材を製造した。ここでは、ステップS1−1、S1−2及びS2についてのみ述べる。他のステップ(S3〜S8)は実施例1と同様の工程のため、省略する。
【0065】
<幅狭の成膜用基板の準備(ステップS1−1)>
直径φ0.62mmのハステロイC276の金属線(丸線)を、加工率約34%で厚さt0.1mm×幅w2.0mm×長さL740mに成形した。
【0066】
<連結基材の準備(ステップS1−2)>
厚さt0.2mm×幅w26.5mm×長さL105mのハステロイC276の合金条の全長にわたって深さd0.08mm×幅w2.0mmの溝を幅方向のピッチ3.5mmで7本平行に形成し、連結基材とした。
【0067】
<幅狭の成膜用基板と連結基材の一体化工程(ステップS2)>
幅狭の成膜用基板を連結基材に形成した7本の溝に埋め込み、幅狭の成膜用基板と連結基材を一体化した。
【0068】
以下、実施例1と同様に、中間層、超電導層、保護層を成膜し、酸素アニールを行い、連結基材に埋め込まれた7条の超電導導体を有する多芯超電導線材を分離装置により個々に分離し、複数の超電導線材とした。
【0069】
≪超電導線材の臨界電流特性≫
製造された幅w2mm×長さL100m×7条の超電導線材について、液体窒素に浸漬した状態で、四端子法を用いて1μV/cmの電界基準で臨界電流I
cを測定した。測定は1mピッチとし、電圧端子間隔は1.2mとした。
臨界電流I
cの全測定位置で、90A以上を確認した。比較として、同様仕様で製作された幅10mm基板から製作された超電導線材の臨界電流I
cは455Aであった。このことより、2mm幅線材と10mm幅線材の幅比率に合致した臨界電流が得られていることが確認された。
【0070】
(実施例3)
実施例3においては、上記第1実施形態で説明した工程を経て、厚さt0.15mm×幅w3.0mmの幅狭の成膜用基板を有する複数の超電導線材を製造した。ここでは、ステップS1−1、S1−2及びS2についてのみ述べる。他のステップ(S3〜S8)は実施例1と同様の工程のため、省略する。
【0071】
<幅狭の成膜用基板の準備(ステップS1−1)>
直径φ0.95mmのハステロイC276の金属線(丸線)を、加工率約37%で厚さt0.15mm×幅w3.0mm×長さL550mに成形した。
【0072】
<連結基材の準備(ステップS1−2)>
厚さt0.25mm×幅w26.5mm×長さL105mのハステロイC276の合金条の全長にわたって深さd0.13mm×幅w3.0mmの溝を幅方向のピッチ4.5mmで5本平行に形成し、連結基材とした。
【0073】
<幅狭の成膜用基板と連結基材の一体化工程(ステップS2)>
幅狭の成膜用基板を連結基材に形成した5本の溝に埋め込み、幅狭の成膜用基板と連結基材を一体化した。
【0074】
以下、実施例1と同様に、中間層、超電導層、保護層を成膜し、酸素アニールを行い、連結基材に埋め込まれた5条の超電導導体を有する多芯超電導線材を分離装置により個々に分離し、複数の超電導線材とした。
【0075】
≪超電導線材の臨界電流特性≫
製造された幅w3mm×長さL100m×5条の超電導線材について、液体窒素に浸漬した状態で、四端子法を用いて1μV/cmの基準で臨界電流I
cを測定した。測定は1mピッチとし、電圧端子間隔は1.2mとした。
臨界電流I
cの全測定位置で、136A以上を確認した。比較として、同様仕様で製作された幅10mm基板から製作された超電導線材の臨界電流I
cは455Aであった。このことより、3mm幅線材と10mm幅線材の幅比率に合致した臨界電流が得られていることが確認された。
【0076】
(実施例4)
実施例4においては、上記第1実施形態で説明した工程を経て、厚さt0.2mm×幅w4.0mmの幅狭の成膜用基板を有する複数の超電導線材を製造した。ここでは、ステップS1−1、S1−2及びS2についてのみ述べる。他のステップ(S3〜S8)は実施例1と同様の工程のため、省略する。
【0077】
<幅狭の成膜用基板の準備(ステップS1−1)>
直径φ1.3mmのハステロイC276の金属線(丸線)を、加工率約40%で厚さt0.2mm×幅w4.0mm×長さL440mに成形した。
なお、金属線に対する加工率は約34%〜約40%としたが、この範囲に限定されるものではなく、金属線に用いる材質によっては、更に強加工となる加工率(例えば、60%〜80%程度の加工率)の選定も可能である。強加工の場合は、丸線の状態で伸線加工を施した後に矩形化の加工を行うような複合工程を用いて加工率を高めることが可能である。
【0078】
<連結基材の準備(ステップS1−2)>
厚さt0.25mm×幅w26.5mm×長さL105mのハステロイC276の条の全長にわたって深さd0.18mm×幅w4.0mmの溝を幅方向のピッチ5.5mmで4本平行に形成し、連結基材とした。
【0079】
<幅狭の成膜用基板と連結基材の一体化工程(ステップS2)>
幅狭の成膜用基板を連結基材に形成した4本の溝に埋め込み、幅狭の成膜用基板と連結基材を一体化した。
【0080】
以下、実施例1と同様に、中間層、超電導層、保護層を成膜し、酸素アニールを行い、連結基材に埋め込まれた4条の超電導導体を有する多芯超電導線材を分離装置により個々に分離し、複数の超電導線材とした。
【0081】
≪超電導線材の臨界電流特性≫
製造された幅w4mm×長さL100m×4条の超電導線材について、液体窒素に浸漬した状態で、四端子法を用いて1μV/cmの電界基準で臨界電流I
cを測定した。測定は1mピッチとし、電圧端子間隔は1.2mとした。
臨界電流I
cの全測定位置で、182A以上を確認した。比較として、同様仕様で製作された幅10mm基板から製作された超電導線材の臨界電流I
cは455Aであった。このことより、4mm幅線材と10mm幅線材の幅比率に合致した臨界電流が得られていることが確認された。
【0082】
(比較例1)
比較例1では、幅10mmのハステロイ基材に上記実施形態1で述べた方法で中間層、超電導層、保護層を成膜し、酸素アニールを施した後、幅2mmに機械スリット法によってスリット加工して5本の超電導線材を得た。
【0083】
≪超電導線材の臨界電流特性≫
製造された幅w2mm×長さL100m×5条の超電導線材について、液体窒素に浸漬した状態で、四端子法を用いて1μV/cmの電界基準で臨界電流I
cを測定した。測定は1mピッチとし、電圧端子間隔は1.2mとした。
臨界電流I
cは全測定位置で、78〜85Aであった。製作された幅10mm基板から製作されたスリット前の超電導導体の臨界電流I
cは455Aであった。これは、2mm幅相当のI
c約90Aに相当するので、比較例1の幅2mmの超電導線材の臨界電流I
cはスリット加工により約6〜14%程度劣化していることが確認された。
【0084】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態においては、上記第1実施形態で分離した複数本の超電導線材をCu又はCu合金製の連結基材に再度埋設、或いは拡散金属層を介して一体化する。或いは、成膜工程前の連結基材として、ハステロイ276の代りにCu又はCu合金製の連結基材を用い、一体化したまま保護層まで成膜して酸素アニールを施し、分離工程を経ずにそのまま用いてもよい。超電導線材を埋設する深さは成膜面側が連結基材の凹面と同一面になるフラットな埋設が好ましいが、凸状、凹状に或いは凸凹状交互に配置することもできる。
【0085】
次いで、Cu又はCu合金製の連結基材に埋設した複数本の超電導線材の成膜面側を主に、Cuの電気メッキ層で覆い、
図4に示したような、断面が、成膜層12が超電導層14を中心にして、Cuの安定化層41で挟み込まれた形態の多芯超電導線40を得る。非成膜面側の安定化層は、Cu又はCu合金でもよく、Cu又はCu合金板材を貼り付けるクラッド構造が含まれても良い。
【0086】
得られた多芯超電導線40を第1実施形態で用いたのと同様の丸形状の芯の外周に巻きつけて丸形の複合超電導導体を製造する。多芯超電導線の幅方向の曲げ性は、Cu又はCu合金製の連結基材が溝形成により非連続性となっているため、曲げ性に優れ、更に、超電導線材の間の部位に未貫通の溝を成形することにより、曲げ性に優れた多芯超電導線を提供することができる。或いは、多芯超電導線40を300℃程度に非酸化雰囲気で焼鈍することで、安定化Cuが軟化し、電気特性的にも、曲げ性的にも更に好ましくなる。
【0087】
(実施例5)
実施例1で得られた幅1mmの超電導線10本をCu製の連結基材に埋設し、超電導線材の成膜面側を主に、Cuの電気メッキ層で覆い、断面において超電導成膜面を中心にして成膜層がCuの安定化層で挟み込まれた形態の10芯の多芯超電導線を得た。この10芯の多芯超電導線を第1実施形態で用いたのと同様の丸形状の芯の外周に巻きつけて丸形状の複合超電導導体を得た。
【0088】
≪複合超電導導体の臨界電流特性≫
幅1mmの超電導線材を10本有する丸型の複合超電導導体の臨界電流I
cは455Aであった。1mm幅と10mm幅の線材の幅比率に合致した臨界電流が得られており、また、超電導線材の臨界電流特性は再一体化、巻きつけによって劣化していないことが確認された。
【0089】
(第3実施形態)
幅狭の成膜用基板上に中間層、超電導層、保護層を有する超電導線材と、第2実施形態で用いた複数の超電導線材が安定化材に埋設されている多芯超電導線と、を交互に上記の心材の外周に巻きつけることによっても、複合超電導導体が得られる。巻きつける方向は同方向、異方向のいずれでも良い。
【0090】
第1〜第3実施形態、実施例1〜5で説明したように、本発明においては、所望のサイズに細線化された幅狭の成膜用基板を用いるため、従来用いていたレーザ切断法、スリット加工法等を適用せずに超電導線材を得ることができる。この結果、切断面の局部的な突起による形状問題や、切断時の熱履歴や不均一な歪によって超電導特性(臨界電流特性)が劣化する問題が改善される。また、切断によって生じる幅寸法変動が減少し、更に、成膜層単位の剥離や水分の侵入による超電導層の変質を起因とする、超電導特性の劣化が抑制され、応用機器の信頼性(安定性、均一性)が向上する。
【0091】
以上、実施形態を用いて本発明を説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲には限定されないことは言うまでもない。
例えば、基板上に直接超電導層を形成できる場合には、上記実施形態における中間層は不要である。また、連結基材と一体化する前に、成膜用基板を研磨しておいてもよい。この場合、研磨方法を適正に選択することで一体化前の研磨品質を制御できる。このように、上記実施形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。またその様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。