(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6500174
(24)【登録日】2019年3月29日
(45)【発行日】2019年4月17日
(54)【発明の名称】パラジウムコア白金シェルナノ粒子、その製造装置及び製造方法ならびに電池
(51)【国際特許分類】
B01J 37/34 20060101AFI20190408BHJP
B01J 35/08 20060101ALI20190408BHJP
B01J 23/44 20060101ALI20190408BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20190408BHJP
H01M 4/88 20060101ALN20190408BHJP
H01M 4/92 20060101ALN20190408BHJP
【FI】
B01J37/34
B01J35/08 B
B01J23/44 M
!H01M8/10
!H01M4/88 K
!H01M4/92
【請求項の数】6
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2014-108302(P2014-108302)
(22)【出願日】2014年5月26日
(65)【公開番号】特開2015-223535(P2015-223535A)
(43)【公開日】2015年12月14日
【審査請求日】2017年5月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】591020423
【氏名又は名称】株式会社新光化学工業所
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(72)【発明者】
【氏名】宮川正人
(72)【発明者】
【氏名】甲田秀和
(72)【発明者】
【氏名】西岡将輝
(72)【発明者】
【氏名】日吉範人
(72)【発明者】
【氏名】渡辺健一
(72)【発明者】
【氏名】国上秀樹
(72)【発明者】
【氏名】国上 溥
【審査官】
若土 雅之
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2011/125195(WO,A1)
【文献】
特表2006−517260(JP,A)
【文献】
国際公開第2013/039117(WO,A1)
【文献】
特表2014−512252(JP,A)
【文献】
特表2010−501345(JP,A)
【文献】
特開2011−218278(JP,A)
【文献】
特開2013−164404(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00−38/74
H01M 4/92
C23C 18/44
B22F 9/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パラジウム塩とPVP(ポリビニルピロリドン)とEG(エチレングリコール)を混合して反応液(反応液Aという)を作製する工程と、
前記反応液Aに連続フロー系においてマイクロ波を照射する工程と、
塩化白金酸をEGに溶かしたものを前記マイクロ波を照射した反応液Aに混合して反応液(反応液Bという)を作製する工程と、
水酸化ナトリウム水溶液を前記反応液Bに混合しpH11〜13になるように調整してシェル層を形成させる反応液(反応液Cという)を作製する工程
を有することを特徴とするパラジウムコア白金シェルナノ粒子の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のパラジウムコア白金シェルナノ粒子の製造方法において、
反応液Cにおけるパラジウムと白金のモル比が3:1であることを特徴とするパラジウムコア白金シェルナノ粒子の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載のパラジウムコア白金シェルナノ粒子の製造方法において、
半数以上のパラジウムコアナノ粒子として、少なくとも表面近傍が単結晶であるコア粒子を用いることを特徴とするパラジウムコア白金シェルナノ粒子の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のパラジウムコア白金シェルナノ粒子の製造方法において、
パラジウムコアナノ粒子合成産物の表面が汚染されない条件で、前記パラジウムコアナノ粒子を大気に晒さない条件下で白金材料塩および水酸化物イオンを混合することを特徴とするパラジウムコア白金シェルナノ粒子の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のパラジウムコア白金シェルナノ粒子の製造方法において、製造されたパラジウムコア白金シェルナノ粒子に担体を混合して前記担体に前記パラジウムコア白金シェルナノ粒子を担持させる工程を設けることを特徴とするパラジウムコア白金シェルナノ粒子担持担体の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のパラジウムコア白金シェルナノ粒子の製造方法の少なくとも1つの工程に担体を共存させることで生成するパラジウムコア白金シェルナノ粒子担持担体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はパラジウムナノ粒子をコアとし、その周囲に白金原子をシェルとして配置したコアシェル型ナノ粒子及びその製造装置ならびに製造方法に関し、より具体的には、マイクロ波照射工程を経て、少なくとも半数以上が単結晶となるパラジウムナノ粒子を作製し、その表面に少なくとも1層の白金原子を下地のパラジウム原子の配列と整合している状態で形成して成るパラジウム−白金コアシェル型ナノ粒子、及びマイクロ波照射機構をそなえたフロー式連続反応系を用いるパラジウム−白金コアシェル型ナノ粒子の製造装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属ナノ粒子は、一般に、粒子径が100nm以下の金属の微粒子を意味し、バルク金属とは異なる物理的・化学的性質を有しているため、触媒をはじめ、その産業応用が期待されている。化学プロセス、排ガス浄化、燃料電池などの分野において金属ナノ粒子はこれまで広く利用されており、一種類の金属を含浸法によって化学的に安定な担体に担持させて使用するのが定番であった。
【0003】
しかし、近年、複数種類の金属元素からなる金属ナノ粒子が一種類の金属のみのナノ粒子と比べて異なる特性を示すことが明らかになってきている。例えば、2種類の金属を合金化させた合金ナノ粒子や、ある金属ナノ粒子を別の金属で被覆したコアシェル型ナノ粒子などが盛んに研究され、種々の提案がなされている。
【0004】
コアシェル型ナノ粒子は外部と接触するシェル層をうすく均一に形成することができればシェル金属のみのナノ粒子とは異なる触媒活性が付与されると考えられている。これは、コア粒子が下地になることによりシェル層の電子的な性質や結晶構造の幾何学的配置が修飾を受け、より効果的に目的とする反応の活性化エネルギーを低下させるためと推測されている。
【0005】
また、触媒活性を持つ金属が非常に高価な場合は、コアシェル構造にすることで反応物と接触するシェル層に高価な金属を効果的に配置できるので経済的である。加えて、化学的に安定な貴金属をシェルとして均一に被覆することで、酸化、溶解しやすい卑金属を外部と遮蔽しつつ間接的に反応に関与させることができ、新たな触媒特性を発揮させることも可能になる。
【0006】
触媒用途のコアシェル型金属ナノ粒子のなかでも注目されているのがパラジウムコア白金シェル粒子である。白金ナノ粒子は様々な化学反応の触媒として知られているが、そのコストが問題となるため広範に使用されてはおらず、コストを含めて十分な生産性が得られるプロセスにおいてのみ採用されている。少ない量の白金を効果的に使い、なるべく優れた触媒能を得ようという試みは多数行われている。近年では家庭用、自動車用の燃料電池の触媒のコストを下げるためにパラジウムコア白金シェル金属ナノ粒子が有効なのではないかと言われている。
【0007】
しかし、コアシェル型金属ナノ粒子の合成において、シェル層を均一にうすく被覆することが非常に難しく、さらに、粒子径が5nm以下になると電子顕微鏡による詳細な観察および電子線やX線を用いた分析も難しさを増してくる。そのため、コアシェル型金属ナノ粒子についての報告は多数あるが、その合成条件は実験室における限定的なものが多く、コアシェル構造を証明するデータも不確実さが残る場合が多い。均一でうすいシェル層をもつコアシェル型金属ナノ粒子を低コストで安定な品質を保ちつつ量産するプロセスについたはほとんど知られていない。
【0008】
非特許文献1において、主に燃料電池用触媒用途に関してパラジウムコア白金シェル粒子が有望であることを示す主張がされている。
【0009】
特許文献1と2には、電極上において電位を調整することでパラジウム粒子表面に銅の単原子層を形成させ、続いて白金塩を添加することにより銅と白金を置換するアンダーポテンシャル析出法が記載されている。この方法は原理上、単原子層のシェルを形成させることができる点で優れているが、材料に均一に電子が伝達されないことや、 反応物質が均一に供給されないなどの理由から、 白金によるシェル被覆が十分にされない場合がある。また、実験室で少量のコアシェル粒子を形成させて特性を分析するという目的にはかなった方法であるが、量産の際の生産性や自動化を考えた場合にはまだ難点が残る方法である。
【0010】
一方、電極を用いない無電解めっきによりシェルを形成させる方法も提案されている。特許文献3では白金塩の種類を検討することでパラジウム粒子上に白金シェル層を形成させ、被覆率を測定しているが、満足なものではなく、シェル層が均一な厚さかどうかも確定的でない。
【0011】
コアシェル型金属粒子を触媒として利用する場合、触媒活性のある微粒子を担体に選び、目的にかなった密度で分布させることが重要であるため、粒子径はなるべく小さい方が望ましく、また、特性をそろえるために粒子径がそろっている方が望ましい。現在触媒の調製法として用いられている含浸法では、担持された粒子が凝集しやすいこと、2種類以上の金属を均一に合金微粒子やコアシェル型微粒子にするのは困難なことなどが問題である。
【0012】
反応液の加熱手段として、反応液にマイクロ波を照射することが行われている。特許文献4では、半導体発振器とマイクロ波共鳴キャビティを用い、連続フロー系の反応管を電場の定在波の最も大きな位置に配置することで、急速加熱や均一性を損なうことなく化学反応のための加熱を行う試みがなされている。寸法と共鳴周波数を適合させたキャビティ内において単独の電磁場のモードを発生させるこの方式はシングルモード加熱方式とよばれている。シングルモード加熱方式と連続フロー系を組み合わせたこの方式は、マイクロ波加熱により反応が十分に促進され、短時間で完了する場合には極めて有用である。
【0013】
液相還元法を用いてコア粒子を合成することで、シェル形成などのその後の修飾がやりやすくなるが、バッチ法を用いて生産性を上げようとすると、加熱、撹拌の不均一により核形成が不均一になりやすく、粒子径がそろわないなどの弊害がでてくる。現在知られている粒子径のそろったと称されている金属ナノ粒子のほとんどは実験室スケールで合成されたものであり、金属ナノ粒子を製造するにあたり、品質を犠牲にせず生産性を上げることの難しさがわかる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2011−218278号公報
【特許文献2】特開2012−16684号公報
【特許文献3】特開2012−120949号公報
【特許文献4】特開2011−137226号公報
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】NEDO成果報告書:「固体高分子形燃料電池実用化推進技術開発/基盤技術開発 / 低白金化技術」(平成22年度〜平成24年度)のうち平成22年度分中間報告
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、触媒効果をはじめ、体積に比較した表面積の極めて大きなナノ粒子の効果を維持した状態で、かつ安価に、貴金属ナノ粒子を提供せんとするものである。
【0017】
本発明の解決すべき課題の一つは、シェル層を構成する白金原子層を、できるだけ数層以下、より好ましくは1層に形成したパラジウムコア白金シェルのコアシェル型ナノ粒子を量産レベルで提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
課題を解決するためになされた本発明の第1の実施態様としての第1の発明(以下、発明1という)は、粒子サイズが50nm以上の粒子を除き、同一の製造方法で製造された粒子の個数平均粒子径が15nm以下のパラジウムナノ粒子をコア粒子として、前記各コア粒子の周辺にシェルとしての白金原子を配置したパラジウムコア白金シェルナノ粒子を主成分とするコロイドの製造方法において、パラジウム塩とPVP(ポリビニルピロリドン)とEG(エチレングリコール)を混合して反応液(反応液Aという)を作製する工程と、前記反応液Aにマイクロ波を照射する工程と、塩化白金酸をEGに溶かしたものを前記マイクロ波を照射した反応液Aに混合して反応液(反応液Bという)を作製する工程と、水酸化ナトリウムを水に溶かしたものを前記反応液Bに混ぜ反応液(反応液Cという)を作製する工程を有することを特徴とするパラジウムコア白金シェルナノ粒子の製造方法である。コアナノ粒子としてのパラジウム粒子の粒子径は、所定の粒子径で、粒子径のバラツキも小さい方が好ましい。一般に、同一の製造方法で製造されたパラジウムナノ粒子が想定されるが、製造後に混入もあり得る。現在の技術水準からは、これらを識別することは可能である。粒子サイズが15nm以下のナノ粒子と50nm以上のナノ粒子とは基本的に異なり、製造工程が安定していればバラツキの範囲で小数混入もあり得るが、その確率はあまり大きくないと推測される。
【0019】
発明1を展開してなされた本発明の第2の実施態様としての第2の発明(以下、発明2という)は、発明1に記載のパラジウムコア白金シェルナノ粒子の製造方法において、前記パラジウム塩が、塩化パラジウム(2)(PdCl2)、テトラクロロパラジウム(2)酸ナトリウム(Na2[PdCl4])、テトラクロロパラジウム(2)酸カリウム(K2[PdCl4])、テトラクロロパラジウム(2)酸アンモニウム((NH4)[PdCl4])、酢酸パラジウム(2)(Pd(CH3COOH)2)、シュウ酸パラジウム(2)(PdC2O4)、硝酸パラジウム(2)(Pd(NO3)2)、硫酸パラジウム(2)(Pd(SO4))、パラジウムアセチルアセトナート、テトラアンミンパラジウム(2)塩、ジニトロジアンミンパラジウム(2)の中から選ばれる塩を含むことを特徴とするパラジウムコア白金シェルナノ粒子の製造方法である。
【0020】
発明2を展開してなされた本発明の第3の実施態様としての第3の発明(以下、発明3という)は、発明2に記載のパラジウムコア白金シェルナノ粒子の製造方法において、前記パラジウム塩がNa2PdCl4であることを特徴とするパラジウムコア白金シェルナノ粒子の製造方法である。
【0021】
発明1〜3を展開してなされた本発明の第4の実施態様としての第4の発明(以下、発明4という)は、発明1〜3に記載のパラジウムコア白金シェルナノ粒子の製造方法において、前記反応液Aにマイクロ波を照射する工程が、マイクロ波照射をマイクロ波キャビティー内に配置された反応管内に前記反応液Aを流通させて行う工程であることを特徴とするパラジウムコア白金シェルナノ粒子の製造方法である。
【0022】
発明1〜4を展開してなされた本発明の第5の実施態様としての第5の発明(以下、発明5という)は、発明1〜4に記載のパラジウムコア白金シェルナノ粒子の製造方法において、前記反応液CのpHを10〜13にして反応液Cの還元反応を行わせることを特徴とするパラジウムコア白金シェルナノ粒子の製造方法である。
【0023】
発明5を展開してなされた本発明の第6の実施態様としての第6の発明(以下、発明6という)は、発明3に記載のパラジウムコア白金シェルナノ粒子の製造方法において、前記反応液CのpHを11〜13にして反応液Cの還元反応を行わせることを特徴とするパラジウムコア白金シェルナノ粒子の製造方法である。
【0024】
発明6を展開してなされた本発明の第7の実施態様としての第7の発明(以下、発明7という)は、発明4に記載のパラジウムコア白金シェルナノ粒子の製造方法において、前記反応液CのpHを12にして反応液Cの還元反応を行わせることを特徴とするパラジウムコア白金シェルナノ粒子の製造方法である。
【0025】
発明1〜7を展開してなされた本発明の第8の実施態様としての第8の発明(以下、発明8という)は、発明1〜5のいずれか1項に記載のパラジウムコア白金シェルナノ粒子の製造方法において、パラジウムコアナノ粒子合成を連続フロー系において行うことを特徴とするパラジウムコア白金シェルナノ粒子の製造方法である。
【0026】
発明1〜8を展開してなされた本発明の第9の実施態様としての第9の発明(以下、発明9という)は、発明1〜8のいずれか1項に記載のマイクロ波照射工程において、マイクロ波共鳴キャビティーを用い連続フロー系の反応管を電場の定在波の最も大きな位置に配置し、キャビティーの共鳴周波数に一致したマイクロ波を照射することができるシングルモード加熱方式、急速加熱やマイクロ波均一性を損なうことなく前記反応液Aの反応制御を行う工程であることを特徴とするパラジウムコア白金シェルナノ粒子の製造方法である。
【0027】
発明1〜9を展開してなされた本発明の第10の実施態様としての第10の発明(以下、発明10という)は、発明1〜9のいずれか1項に記載のパラジウムコア白金シェルナノ粒子の製造方法において、半数以上のコアナノ粒子として少なくとも表面近傍が単結晶であるパラジウムコア粒子を用いることを特徴とするパラジウムコア白金シェルナノ粒子の製造方法である。
【0028】
発明1〜10を展開してなされた本発明の第11の実施態様としての第11の発明(以下、発明11という)は、発明1〜10のいずれか1項に記載のパラジウムコア白金シェルナノ粒子の製造方法において、パラジウムコアナノ粒子合成産物の表面が汚染されない条件において白金原料塩および水酸化物イオンを混合することを特徴とするパラジウムコア白金シェルナノ粒子製造方法である。
【0029】
発明1〜11を展開してなされた本発明の第12の実施態様としての第12の発明(以下、発明12という)は、発明1〜11のいずれか1項に記載のパラジウムコア白金シェルナノ粒子の製造方法において、パラジウム粒子表面のパラジウム原子と接触するような状況においてのみ白金イオンの白金原子への還元反応の最終段階と析出反応がおこる反応経路を構成するように工程が構成されていることを特徴とするパラジウムコア白金シェルナノ粒子の製造方法である。
【0030】
発明12を展開してなされた本発明の第13の実施態様としての第13の発明(以下、発明13という)は、発明12に記載のパラジウムコア白金シェルナノ粒子の製造方法において、パラジウムコア粒子が単結晶でありその表面状態に不均一さが少ないため、発明8に記載の主な反応経路以外の白金イオンの還元反応と析出反応、およびそれに引き続く白金原子層の積層成長がほとんど抑制されることを特徴とするパラジウムコア白金シェルナノ粒子の製造方法である。
【0031】
発明1〜13を展開してなされた本発明の第14の実施態様としての第14の発明(以下、発明14という)は、発明1〜13のいずれか1項に記載のパラジウムコア白金シェルナノ粒子の製造方法において、パラジウムコアナノ粒子を析出させる工程が炭素材料、セラミックスなどの触媒担体上にパラジウムコアナノ粒子を析出させる工程であることを特徴とするパラジウムナノ粒子製造方法である。
【0032】
発明14を展開してなされた本発明の第15の実施態様としての第15の発明(以下、発明15という)は、発明14に記載のパラジウムコア白金シェルナノ粒子の製造方法において、担体上に析出したパラジウムナノ粒子に発明1〜13に記載の方法を適用したことを特徴とする担体担持パラジウムコア白金シェルナノ粒子製造方法である。
【0033】
課題を解決するためになされた本発明の第16の実施態様としての第16の発明(以下、発明16という)は、請求項1〜3に記載のパラジウムコア白金シェルナノ粒子の製造方法に用いることができるマイクロ波照射装置を有するパラジウムコア白金シェルナノ粒子の製造装置である。
【0034】
課題を解決するためになされた本発明の第17の実施態様としての第17の発明(以下、発明17という)は、粒子サイズが50nm以上の粒子を除き、同一の製造方法で製造された粒子の個数平均粒子径が15nm以下のパラジウムナノ粒子をコア粒子として、前記各コア粒子の周辺にシェルとしての白金原子を配置したパラジウムコア白金シェルナノ粒子を主成分とするコロイドにおいて、半数以上の前記コア粒子が単結晶であることを特徴とするパラジウムコア白金シェルナノ粒子コロイドである。
【0035】
発明17を展開してなされた本発明の第18の実施態様としての第18の発明(以下、発明18という)は、発明15に記載のパラジウムコア白金シェルナノ粒子コロイドにおいて、前記コア粒子の90%以上が単結晶であることを特徴とするパラジウムコア白金シェルナノ粒子コロイドである。
【0036】
発明17または18を展開してなされた本発明の第19の実施態様としての第19の発明(以下、発明19という)は、発明17または18に記載のパラジウムコア白金シェルナノ粒子コロイドにおいて、過半数の前記シェル層が5層以下であることを特徴とするパラジウムコア白金シェルナノ粒子コロイドである。
【0037】
発明19を展開してなされた本発明の第20の実施態様としての第20の発明(以下、発明20という)は、発明19に記載のパラジウムコア白金シェルナノ粒子コロイドにおいて、90%以上の前記シェル層が5層以下であることを特徴とするパラジウムコア白金シェルナノ粒子コロイドである。
【0038】
発明19または20を展開してなされた本発明の第21の実施態様としての第21の発明(以下、発明21という)は、発明19または20に記載のパラジウムコア白金シェルナノ粒子コロイドにおいて、発明19または20に記載のパラジウムコア白金シェルナノ粒子コロイドにおいて、1つのコア粒子の表面積の半分以上が単層の白金原子のシェル層で覆われていることを特徴とするパラジウムコア白金シェルナノ粒子コロイドである。
【0039】
発明17〜21を展開してなされた本発明の第22の実施態様としての第22の発明(以下、発明22という)は、発明17〜21のいずれか1項に記載のパラジウムコア白金シェルナノ粒子コロイドにおいて、過半数のパラジウムコア白金シェルナノ粒子の前記シェル層が50%以上のコア層を覆っていることを特徴とするパラジウムコア白金シェルナノ粒子コロイドである。
【0040】
発明22を展開してなされた本発明の第23の実施態様としての第23の発明(以下、発明23という)は、発明22に記載のパラジウムコア白金シェルナノ粒子コロイドにおいて、過半数のパラジウムコア白金シェルナノ粒子の前記シェル層が90%以上のコア層を覆っていることを特徴とするパラジウムコア白金シェルナノ粒子コロイドである。
【0041】
発明17〜23を展開してなされた本発明の第24の実施態様としての第24の発明(以下、発明24という)は、発明17〜23のいずれか1項に記載のパラジウムコア白金シェルナノ粒子コロイドにおいて、前記シェルを構成する白金原子層が、過半数において下地表面のパラジウム原子の配列と整合している状態にあることを特徴とするパラジウムコア白金シェルナノ粒子コロイドである。
【0042】
発明24を展開してなされた本発明の第25の実施態様としての第25の発明(以下、発明25という)は、発明24に記載のパラジウムコア白金シェルナノ粒子コロイドにおいて、前記シェルを構成する白金原子層による被覆状態を分析しやすいことを特徴とするパラジウムコア白金シェルナノ粒子コロイドである。
【0043】
発明17〜25を展開してなされた本発明の第26の実施態様としての第26の発明(以下、発明26という)は、発明17〜25のいずれか1項に記載のパラジウムコア白金シェルナノ粒子コロイドにおいて、前記パラジウムコア白金シェルナノ粒子の形成を還元現象を用いて行ったことを特徴とするパラジウムコア白金シェルナノ粒子コロイドである。
【0044】
発明26を展開してなされた本発明の第27の実施態様としての第27の発明(以下、発明27という)は、発明26に記載のパラジウムコア白金シェルナノ粒子コロイドにおいて、パラジウムコアナノ粒子合成産物に白金原料塩および水酸化物イオンを混合したことを特徴とするパラジウムコア白金シェルナノ粒子コロイドである。
【0045】
発明27を展開してなされた本発明の第28の実施態様としての第28の発明(以下、発明28という)は、発明27に記載のパラジウムコア白金シェルナノ粒子コロイドにおいて、パラジウムコアナノ粒子合成産物の表面が汚染されない条件において白金原料塩および水酸化物イオンを混合したことを特徴とするパラジウムコア白金シェルナノ粒子コロイドである。
【0046】
発明17〜28を展開してなされた本発明の第29の実施態様としての第29の発明(以下、発明29という)は、発明17〜28のいずれか1項に記載のパラジウムコア白金シェルナノ粒子コロイドにおいて、反応液のpHが11〜13の状態をつくり前記還元現象を行わせたことを特徴とするパラジウムコア白金シェルナノ粒子コロイドである。
【0047】
課題を解決するためになされた本発明の第30の実施態様としての第30の発明(以下、発明30という)は、発明1〜15のいずれか1項に記載のパラジウムコア白金シェルナノ粒子コロイドの製造方法によって製造されたことをことを特徴とするパラジウムコア白金シェルナノ粒子コロイドである。
【0048】
発明17〜30を展開してなされた本発明の第31の実施態様としての第31の発明(発明31という)は、発明17〜30のいずれか1項に記載のパラジウムコア白金シェルナノ粒子コロイドを担体に担持させたことを特徴とするパラジウムコア白金シェルナノ粒子である。
【発明の効果】
【0049】
本発明により、均一なシェル層を有するパラジウムコア白金シェルナノ粒子を常に一定の品質を保ちつつ連続的に合成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【
図1】本発明のパラジウムコア白金シェルナノ粒子の製造装置の構成を概略的に示す図である。
【
図2】本発明の実施例で得られたパラジウムコアナノ粒子の典型的なTEM像である。
【
図3】本発明の実施例で得られたパラジウムコアナノ粒子の典型的なHAADF−STEM像である。
【
図4】本発明の実施例で得られたパラジウムコア白金シェルナノ粒子の典型的なTEM/EDS像である。
【
図5】本発明の実施例で得られたパラジウムコア白金シェルナノ粒子の典型的なHAADF−STEM像である。
【
図6】本発明の実施例で得られたパラジウムコア白金シェルナノ粒子の典型的なHAADF−STEM像のラインプロファイルである。
【
図7】本発明の実施例で得られた複数のパラジウムコア白金シェルナノ粒子の典型的なHAADF−STEM像である。
【
図8】合成パラジウムコア粒子の合成条件と粒子径の関係を示す図である。
【符号の説明】
【0051】
1:パラジウムコア粒子の原料塩、分散剤、担体を溶媒に溶解、分散させた原料液
2:マイクロ波の電場を閉じ込めて管内の液体に照射して加熱するためのキャビティ
3:白金シェル層形成の原料塩を溶解させた原料液
4:水酸化物イオンが溶解している原料液
5:白金シェル層の形成反応が起こる反応管または反応槽
6:合成されたパラジウムコア白金シェルナノ粒子に行われる適切な分離、分析処理
7:パラジウムコア粒子
8:原子が識別できる倍率と分解能で観察したパラジウムコアナノ粒子
8a:パラジウム原子
9a:結晶の[111]方向から電子線を入射させて得られた、パラジウムと白金の元素マッピング図における典型的なパラジウムコア白金シェルナノ粒子。
9b:結晶の[100]方向から電子線を入射させて得られた、パラジウムと白金の元素マッピング図における典型的なパラジウムコア白金シェルナノ粒子。
9c:結晶の[110]方向から電子線を入射させて得られた、パラジウムと白金の元素マッピング図における典型的なパラジウムコア白金シェルナノ粒子。
10a:結晶の[111]方向から電子線を入射させて得られた、パラジウムの元素マッピング図における典型的なパラジウムコア白金シェルナノ粒子。
10b:結晶の[100]方向から電子線を入射させて得られた、パラジウムの元素マッピング図における典型的なパラジウムコア白金シェルナノ粒子。
10c:結晶の[110]方向から電子線を入射させて得られた、パラジウムの元素マッピング図における典型的なパラジウムコア白金シェルナノ粒子。
11a:結晶の[111]方向から電子線を入射させて得られた、白金の元素マッピング図における典型的なパラジウムコア白金シェルナノ粒子。
11b:結晶の[100]方向から電子線を入射させて得られた、白金の元素マッピング図における典型的なパラジウムコア白金シェルナノ粒子。
11c:結晶の[110]方向から電子線を入射させて得られた、白金の元素マッピング図における典型的なパラジウムコア白金シェルナノ粒子。
12:原子が識別できる倍率と分解能で観察したパラジウムコア白金シェルナノ粒子。
12a:シェル層を形成する白金原子。
13:HAADF−STEM法により得られたZコントラストのピーク。
14:原子が識別できる倍率と分解能で観察した複数のパラジウムコア白金シェルナノ粒子。
20,21:ミキサー
【発明を実施するための形態】
【0052】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態例について説明する。なお、説明に用いる各図は本発明の例を理解できる程度に各構成成分の寸法、形状、配置関係などを概略的に示してある。そして本発明の説明の都合上、部分的に拡大率を変えて図示する場合もあり、本発明の例の説明に用いる図は、必ずしも実施例などの実物や記述と相似形でない場合もある。また、各図において、同様な構成成分については同一の番号を付けて示し、説明の重複を避けることもある。
【0053】
パラジウムコア白金シェルナノ粒子を製造するうえでとりわけ大きな課題なのが、コストの低減と品質の向上である。できるだけ薄く、できるだけ均一な白金シェル層を有する複合ナノ粒子を一定の品質を保ちつつ自動化できる製造プロセスの構築が特に好ましい。
【0054】
バルク金属の場合、一種類のバルク金属を下地として、その上に他種類の金属の薄膜を付ける場合、下地の状態を一定にするために下地の表面を研磨したり、さらにエッチングしたりするなど、種々の加工、工夫が行われるのが一般的である。発明者は、パラジウムナノ粒子コアに数層以下の白金原子をシェルとして配置したパラジウムコア白金シェルナノ粒子を調査したが、ナノ粒子の場合、各ナノ粒子の表面積が極めて大きく、しかも粒子径が極めて小さいこともあり、測定手段も未発達であり、ナノ粒子の表面状態の測定は難しいと考えられている。従って、ナノ粒子自体の結晶構造の制御は難しいと考えられているためか、パラジウムや白金のナノ粒子自体の結晶構造を問題にした発明は見あたらない。
【0055】
パラジウムコア白金シェルナノ粒子を製造するうえでとりわけ大きな課題なのが、コストの低減と品質の向上である。できるだけ薄く、できるだけ均一な白金シェル層を有する複合ナノ粒子を一定の品質を保ちつつ自動化できる製造プロセスの構築が特に好ましい。
【0056】
本発明者は、多くの実験を行い、種々のパラジウムコア白金シェルナノ粒子の作製を試み、それらの品質をテストした。その結果、パラジウムナノ粒子の単結晶化を試み、その周囲に白金をシェル層として配置することに想到した。しかし、パラジウムコア白金シェルナノ粒子の寸法をたとえば直径10nm程度にした場合、その結晶性を如何に判定するか、また、その周囲に配置した白金原子をシェル層として配置する場合に、コアとしてのパラジウムナノ粒子の表面状態をどのようにすればよいか、その周囲に配置した白金原子の状態を如何に測定するかなど、難しい問題を解決する必要があった。
【0057】
パラジウムと白金は共に面心立方格子であり、原子半径、格子定数も近い値であるため、バルク金属レベルの場合は、パラジウム結晶面上に白金薄膜を堆積させ結晶成長させることに困難はないと想像することが多いと思われる。しかし、それはパラジウム表面が清浄な場合であり、薄くて均一なシェルを形成させるには下地のコア粒子の表面の状態が非常に重要と推測される。
【0058】
加えて、本発明者らはパラジウムナノ粒子に均一な白金シェルを形成させるための反応条件を見出し、水酸化物イオンの添加が非常に重要であることを突き止めた。シンプルではあるものの制御しやすい反応系であることが重要である。
【0059】
パラジウムコア粒子上に白金シェル層が均一に形成されていることの確認は収差補正透過電子顕微鏡による観察、EDS(エネルギー分散型X線分析)、HAADF−STEM(High−Angle Annular Dark Field Scanning TEM(TEM:透過電子顕微鏡))法により行った。その結果、パラジウム粒子上の少なくとも表面一層は白金がシェルを形成しており、元素の空間分布と定量より白金原子のシェル層の厚みはほぼ一層であることが明らかになった。
【0060】
多くの実験の結果、パラジウム粒子を合成後はなるべく大気に長時間さらさないようにし、すばやく白金シェル層を形成させることが重要であるという結論に到達した。
【0061】
理想的には、均一な白金シェル層の形成において、白金微粒子が単独で成長したり、パラジウム粒子上で不均一に成長したり、ピンホールの如くコア粒子の表面の一部がシェル層で被覆されていない部分がないことが好ましい。これらの副反応をすべて抑制しつつシェル層のみを形成させることは非常に難しく、前述のように成功報告においてもその証拠不足や生産性の低さが目立ち、この分野の発展を妨げている。めっきなどの表面における反応にまつわる分野では微量の添加剤を加えて副反応を抑制し、望みの反応のみを進行させたりすることが行われる。しかし、高濃度な金属ナノ粒子の総表面積は極めて大きく、これを制御しつつ反応させる普遍的に有効な方法はみつかっていない。
【0062】
置換めっきは金属の酸化還元電位の差を利用して酸化され易い金属からの電子を酸化され難い(還元され易い)金属に移動させて、酸化され難い金属で表面を被覆することができる方法である。この方法の優れているところは表面でのみ反応が進行することと、酸化され易い金属の表面が覆われるなどして電子の供給がなくなると反応が終結することである。そのため、シェル層となるべき金属が溶液中で核形成したり、均一なシェル層形成後に過剰な成長が起きたりするようなことがない。
【0063】
パラジウムナノ粒子と白金塩を用いる置換めっきは酸性領域では進行が遅く、加熱をしてみても被覆率があまり良くない。これはパラジウムからの電子の供給が律速になっているためと考えられる。一方、アルカリ性領域ではパラジウムからの電子の供給はあるもののパラジウムナノ粒子表面で不溶性のPd(OH)2が生じるため、この除去がなされないかぎり均一なシェルが形成されない。
【0064】
置換めっき以外の方法で金属による被覆を行う手段として還元剤を加える無電解めっきがある。還元剤を加える無電解めっきのポイントは、めっきしたい表面でのみ核形成と成長を行わせ、溶液中での核形成と成長を抑制することである。金属ナノ粒子におけるコアシェル構造の形成にも還元剤を用いる無電解めっきの方法の適用が試みられてきたが、ナノ粒子の大きな表面積、薄い濃度による低生産性、溶液中での微粒子成長、シェル層の不均一な成長などの問題のため実験室レベルの成果止まりであり、実用化は殆どなされていない。
【0065】
薄くて均一なシェル構造を有するコアシェル金属ナノ粒子の形成にはめっきと類似の過程が関与するはずであるが、既存のめっき手法がそのまま適用できるわけではない。しかし、ナノ粒子の広い表面に、粒子内においても粒子間においても均一にシェル層を成長させるためには、シェル原料物質の供給と反応性が均一である必要がある。
【0066】
シェル原料物質の供給が均一であるためには、反応速度が速すぎないことと撹拌が必要である。反応性については、パラジウムコア粒子の表面に一層分の白金シェル層が形成される反応のみが進行し、シェル層形成完了後は反応が進行しないことである。不要な副反応経路を抑制するためには、白金塩が粒子表面のパラジウムと接触したときのみ0価の金属として析出することが必須である。つまり、粒子と接触していないのに周囲の化学種から電子を引き抜いて金属核になったり、すでに存在する白金シェル層の上に二層目を形成するような反応がおきてはいけない。また、置換めっきにより溶媒中へ遊離したパラジウム(2)イオンが何らかのかたちで再び還元されてもいけない。
【0067】
このような反応制御をすべてのパラジウムコア粒子と白金シェル原料塩について実現するために、添加剤を何種類も加えたり温度を繊細に制御したりする方法は反応条件が不均一になりがちであり、工業生産的にも望ましくない。上記の課題は複雑で困難であるものの、均一性の保ちやすさや制御のしやすさを考慮に入れると、シンプルな反応条件制御で課題を解決するのがのぞましい。
【0068】
これまで、前記のように、コアになるナノ粒子の結晶状態はあまり問題にされてこなかった。これは分析装置の性能にも起因するものと思われる。そこで、本発明者らは、手法の一つにHAADF−STEMを用いることにした。以下、実施の形態例等を用いながら、さらに詳しく説明する。
【0069】
図1は本発明の実施の形態例の一つとしてのパラジウムコア白金シェルナノ粒子の製造装置の構成を概略的に示すブロック図である。符号1はNa2PdCl4とPVP(ポリビニルピロリドン)とEG(エチレングリコール)を混合し、反応液Aを作製する過程を示し、符号2は前記反応液Aをマイクロ波キャビティー内を通る反応管に流通させ、反応液Aにマイクロ波を照射する装置を示し、符号3は塩化白金酸をEGに溶かしたものを前記マイクロ波を照射した反応液Aに混合して反応液Bを作製する工程を示す符号、符号4は水酸化ナトリウムを水に溶かしたものを前記反応液Bに混ぜ反応液Cを作製する工程を示し、符号5は前記反応液Cで還元反応を起こさせ、パラジウムコア白金シェルナノ粒子コロイドを作製する工程を示す符号、符号6は前行程で作製したパラジウムコア白金シェルナノ粒子コロイドを遠心分離後にエタノール置換を行う工程を示す符号である。
【0070】
図1の工程における一例として、マイクロ波照射による反応液Aの温度上昇は200°C、これを冷却し、これに室温で作製した塩化白金酸をEGに溶かした液を混合し、さらに、これに水酸化ナトリウムを水に溶かしたものを混合してpHを11〜13にし、約6時間室温に放置して還元反応を進行させ、パラジウムコア白金シェルナノ粒子コロイドを作製した。
【0071】
本発明の製造プロセスの一例は、大まかに、
(1) マイクロ波を吸収し易い有機溶媒にパラジウム塩を溶解させた溶液を反応管を通して流通させ、マイクロ波を印加して、パラジウム塩を還元できる温度まで高めて還元反応を行う工程、
(2) 連続的に合成されたパラジウムナノ粒子分散液が通る反応管に白金原料塩および水酸化物塩の溶液を流路中で混合することで白金シェル層を形成させる工程
の2工程からなる。
【0072】
前記工程(1)において、公知の様々なパラジウムの塩または錯体を使用することができる。例えば、塩化パラジウム(2)(PdCl2)、テトラクロロパラジウム(2)酸ナトリウム(Na2[PdCl4])、テトラクロロパラジウム(2)酸カリウム(K2[PdCl4])、テトラクロロパラジウム(2)酸アンモニウム((NH4)[PdCl4])、酢酸パラジウム(2)(Pd(CH3COOH)2)、シュウ酸パラジウム(2)(PdC2O4)、硝酸パラジウム(2)(Pd(NO3)2)、硫酸パラジウム(2)(Pd(SO4))、パラジウムアセチルアセトナート、テトラアンミンパラジウム(2)塩、ジニトロジアンミンパラジウム(2)、などを使用することができる。これらのパラジウム塩又は錯体は単独で、又は組み合わせて使用することができる。なお、本発明において記載する塩化パラジウム(2)(PdCl2)、テトラクロロパラジウム(2)酸ナトリウム(Na2[PdCl4])、テトラクロロパラジウム(2)酸カリウム(K2[PdCl4])等の「(2)」は、当該物質中におけるPdの酸化数が2価であることを意味し、日本国特許において、オンライン出願ではローマ数字表記が使用できない文字になっているため、論文における用い方とは変えて、アラビア数字を用いて表示した物で、場合により、その化学式で表した物を意味している。
【0073】
前記工程(1)において、マイクロ波を吸収しやすく、かつ加熱により還元能を発揮する公知の様々な溶媒を使用することができる。例えば、これらに限定されないが、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、N-メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなどが使用される。これらの溶媒は単独で、又は組み合わせて使用することができる。また、必要に応じて加圧下で反応させることもできる。
【0074】
前記工程(1)において、ナノ粒子を分散安定化し、粒子同士の凝集、反応管への析出を防ぐための界面活性剤、分散剤を使用することができる。また、カーボンブラックなどの機能性炭素微粒子や、セラミックス微粒子を担体として共存させ、粒子の形成と担体への担持を同時に行うこともできる。
【0075】
前記工程(2)において使用する白金または錯体としては、これに限定されないが、塩化白金(2)(H2PtCl4)、塩化白金(4)(H2PtCl6)、テトラクロロ白金(2)(二価のテトラクロロ白金)酸およびその塩、ヘキサクロロ白金(4)酸およびその塩、テトラアンミン白金(2)塩、ヘキサアンミン白金(4)塩、ジクロロジアンミン白金(2)、テトラクロロジアンミン白金(4)、ジニトロジアンミン白金(2)などを単独で、または組み合わせて使用することができる。
【0076】
前記工程(2)において使用する水酸化物塩としては水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどを使用することができる。
【0077】
前記工程(1)、(2)は窒素などの不活性ガスを適切に置換、流通させることで、不活性雰囲気下で行うこともできる。
【0078】
前記工程(2)において加える白金原料塩と水酸化物塩は混合してひとつの溶液としてもよいし、別々にパラジウム粒子分散液の流れる流路に加えてもよい。
【0079】
前記工程(1)においてはマイクロ波加熱によりパラジウム粒子分散液の温度が上昇しているが、工程(2)に進行する前に流路中で工程(2)における最適温度に調整することがのぞましい。
【0080】
工程(2)における白金シェル形成反応にかける時間は流路の長さ、太さ、外部からのゆるやかな加温などで調整することができる。連続式流路からバッチ式の容器に流してシェル形成反応が十分に終結するまで時間をとることもできる。
【0081】
図2はシングルモードマイクロ波加熱連続フロー法により合成されたパラジウムナノ粒子である。粒子径は6〜7nmであり、粒子径のばらつきは小さい。
【0082】
図3はシングルモードマイクロ波加熱連続フロー法により合成されたパラジウムナノ粒子のHAADF−STEM像である。結晶軸方位にずれがなく原子が配列していることから単結晶だと判断される。
【0083】
図4の画像は実施例の方法により合成されたパラジウムコア白金シェルナノ粒子のEDS画像である。この画像を見ると、EDSの分解能のかぎりでは白金の分布にかたよりは無く、3種類の結晶方位から観察しても表面が白金シェル層で均一に被覆されていることがわかる。
【0084】
実施例のEDSによる元素分布データからはパラジウムと白金の比率が87:13であり、この比率は粒子径6.5nmの球形パラジウム粒子上に白金原子が一層分被覆された場合の比率とほぼ整合する。分布の均一さと構成元素の比率より原子一層分のシェル層が形成されていると推測される。また、比較例1、比較例2のEDSによる元素分液データはパラジウムと白金の比率は99:1であり、白金シェルの形成反応が進行していないことがわかった。
【0085】
図5は実施例における典型的なパラジウムコア白金粒子のHAADF−STEM像である。
図6のラインプロファイルの両端のピークの高さから表面に原子一層分の白金が存在することがわかる。これらの結果より、白金原子はパラジウムコアナノ粒子の表面に結晶格子が整合する状態でシェル層を形成していることがわかる。
【0086】
図7は実施例の方法で作製したHAADF−STEM像である。100個の粒子を観察して98個が単結晶であり、2個が双晶であった。少なくとも単結晶のパラジウムコア粒子には白金シェルが整合して均一に被覆していることがわかり、シェル形成反応におけるのぞましくない副反応、例えばシェルの不均一成長、白金粒子の成長、コア粒子の溶出などの過程はほぼ抑制されていることがわかる。
【0087】
電極表面でしか反応させることができないアンダーポテンシャルでポジション法や、均一なシェルができづらい還元剤を加える無電解めっき法、反応の促進に加熱が必要な置換めっき法に比べて、上記のコアシェル粒子作製法は水酸化物イオンを添加するという単純な制御によりシェル層の精密性という目的を達成できているといえる。
【0088】
以下、本発明を実施例及び比較例により詳細に説明するが、本発明はこれにより狭く限定されるものではない。
【実施例】
【0089】
工程1:マイクロ波加熱によりパラジウムナノ粒子を合成する工程。
テトラクロロパラジウム(2)酸ナトリウムが100mM、ポリビニルピロリドン(分子量10000)が15重量パーセントになるようにエチレングリコールに溶解させ、反応原料液とした。反応原料液は内径1mmの石英反応管を流速50ml/hで流した。反応管は内径90mm高さ10cmの円筒状の空間を有したマイクロ波キャビティの円筒中心軸に沿って配置した。TM
010モードの定在波が形成される周波数のマイクロ波をキャビティに照射することで、反応原料液の温度を最高200°Cの範囲で調整した。なお、反応原料液の温度は放射温度計により反応管中央の位置にて計測を行った。この時の最大マイクロ波出力は100Wであった。また、TM
010モードの定在波が形成される周波数は反応原料液の温度により変化するが、その周波数に常に一致するよう、照射するマイクロ波の周波数を調整した。このときの周波数範囲は、2.4〜2.5GHzであった。
【0090】
工程2:白金化合物と水酸化物塩を流路に加え、白金シェル層を形成させる工程工程1により合成されたパラジウム粒子分散液は適切な継手によりフッ素樹脂チューブにつなぎかえられ、適切なミキサーにより100mM塩化白金酸(4)エチレングリコール溶液、および5M水酸化ナトリウム水溶液と混合した。混合比は、パラジウムと白金のモル比が3:1になるように、水酸化物イオン濃度がpH12になるよう水酸化ナトリウムを約10mM混合した。
混合液は完全反応させるため6時間室温で放置した。形成されたコアシェル粒子は遠心分離により精製し、電子顕微鏡(日本電子製JEM−ARM200F)による観察と分析(EDS、HAADF−STEM)を行った。
(比較例1)
【0091】
上記工程2において水酸化ナトリウムを加えずに6時間室温で放置したものを実施例と同様に分析した。
(比較例2)
【0092】
上記工程2において水酸化ナトリウムを(pH約7)になるように加え、6時間室温で放置したものを実施例と同様に分析した。
【0093】
次に、コアとなるパラジウムコアナノ粒子の合成に関し、その粒子径を望ましい寸法に制御できないかを検討した。製品品質の観点からは、パラジウムコアナノ粒子の粒径分布もできるだけ狭いのが望ましい。
【0094】
種々実験の結果、パラジウムの濃度、分散剤の濃度、分子量などにより合成したパラジウムコアナノ粒子の粒子径を制御できることが判明した。
【0095】
たとえば、マイクロ波加熱によるパラジウムナノ粒子の合成に関して、テトラクロロパラジウム(2)酸ナトリウム(Na2[PdCl4])の濃度とPVP(ポリビニルピロリドン)の濃度を変えることで合成したパラジウムコアナノ粒子の粒子径を制御できる例を説明する。
【0096】
テトラクロロパラジウム(2)酸ナトリウム200mMのエチレングリコール溶液とエチレングリコールを適切なミキサーで混合し、さらにその溶液とPVP(分子量10,000)30重量パーセントのエチレングリコール溶液とを適切なミキサーで混合した溶液を反応原料液とし、マイクロ波加熱を行った。
【0097】
長さ10cm直径90mmの内寸を持つ円筒型のマイクロ波照射空間にTM
010モードの定在波が形成される周波数のマイクロ波を照射し、円筒中心軸上に配置した内径1mmの石英反応管中に流速50ml/hで送液した反応溶液をマイクロ波加熱を行った場合、テトラクロロパラジウム(2)酸ナトリウムの濃度が10mM、PVPの濃度が10重量パーセントの場合、合成されたパラジウムコアナノ粒子の粒子径は3.1±0.4nmとなった。
【0098】
テトラクロロパラジウム(2)酸ナトリウムの濃度を100mM、PVPの濃度を15重量パーセントにすると、合成されたパラジウムコアナノ粒子の粒子径は6.5±0.6nmになり、テトラクロロパラジウム(2)酸ナトリウムの濃度を100mM、PVPの濃度を10重量パーセントにすると、合成されたパラジウムコアナノ粒子の粒子径は11.3±1.4nmになった。
【0099】
図8に、合成条件と合成パラジウムコア粒子の粒子径の関係を示す。図中、符号20と21はT型ミキサーを示し、粒子のデータを示し、写真(a)〜(c)は,それぞれ、テトラクロロパラジウム(2)酸ナトリウムの濃度とPVPの重量%が図中に示してある条件に対応するパラジウム粒子のTEM写真を示す。写真(a)〜(c)中の線分「50nm」はスケールを示す。写真(a)〜(c)の上方に図示の部分は、Na2[PdCl4]in EGすなわち、エチレングリコール(EG)に溶解させたテトラクロロパラジウム(2)酸ナトリウムとEGをT型ミキサー20で混合し、さらに、それとEGに溶解させたPVP(PVP in EG)をT型ミキサー21で混合して、それをマイクロ波照射装置に流してマイクロ波を照射して加熱し(MW heating)、反応原料液を作製する工程を図示している。
種々の実験の結果、本発明に用いるパラジュウムコアナノ粒子は、粒子サイズが50nm以上の粒子を除き、同一の製造方法で製造された粒子の個数平均粒子径が15nm以下の場合、白金の触媒作用や安定性とパラジウム、白金のコストの観点等から好ましく、さらに好ましくは、10nm以下の場合で、特に好ましくは3nm以下の場合であることが判明した。
【0100】
本発明のパラジウムコア白金シェルナノ粒子コロイドは、パラジウムコア粒子を覆う白金層部分の平均厚みは1nm以下で、さらに好ましい厚さは0,5nm以下、特に好ましい厚さは0.3nm以下である。そして、パラジウムコア粒子の表面の半分以上が白金で覆われていることが好ましく、90%以上が白金で覆われていることが特に好ましい。
【0101】
触媒用粒子として、パラジウムコア白金シェルナノ粒子の平均粒子径を7.3±1.2nm、6.5nm±1.2〜3.0nm、5nm以下のものを作製したところ、いずれも良好な触媒効果を示すことが確認された。
【0102】
このようなパラジウムコア白金シェルナノ粒子は、充分な白金粒子の効果を発揮するとともに、経済効果が特に大きいといえる物である。
【0103】
以上、図を参照しながら、実施例、比較例を加えて説明したが、本発明はこれに狭く限定されるものではなく、本発明の技術思想に基づき多くのバリエーションを可能とするものであることは明白である。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明のパラジウムコア白金シェルナノ粒子は高価な白金を有効利用でき、化学反応や燃料電池の触媒に利用できる可能性がある。また、シングルモードマイクロ波加熱連続フロー系という製造方法をもちいることで安定な品質のパラジウムコア白金シェルナノ粒子を安価に供給することができる。これらの理由より、本発明は広い技術分野において大きな効果を発揮するものである。