特許第6500277号(P6500277)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6500277セメントクリンカ組成物およびポルトランドセメント組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6500277
(24)【登録日】2019年3月29日
(45)【発行日】2019年4月17日
(54)【発明の名称】セメントクリンカ組成物およびポルトランドセメント組成物
(51)【国際特許分類】
   C04B 7/02 20060101AFI20190408BHJP
   C04B 28/02 20060101ALI20190408BHJP
【FI】
   C04B7/02
   C04B28/02
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-57357(P2016-57357)
(22)【出願日】2016年3月22日
(65)【公開番号】特開2017-171518(P2017-171518A)
(43)【公開日】2017年9月28日
【審査請求日】2017年3月21日
【審判番号】不服2017-19322(P2017-19322/J1)
【審判請求日】2017年12月26日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 保
(72)【発明者】
【氏名】山田 曜
(72)【発明者】
【氏名】宮脇 賢司
【合議体】
【審判長】 大橋 賢一
【審判官】 山崎 直也
【審判官】 宮澤 尚之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−197197(JP,A)
【文献】 特開平9−30856(JP,A)
【文献】 MAKI, I., GOTO K., FACTORS INFLUENCING THE PHASE CONSTITUTION OF ALITE IN PORTLAND CEMENT CLINKER, CEMENT and CONCRETE RESEARCH, Printed in the USA, 1982,Vol.12, Issue 3, PP.301−308
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00-32/02 40/00-40/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボーグ式で算出された3CaO・SiOの割合が50〜75質量%であり、
ボーグ式で算出された2CaO・SiOの割合が5〜25質量%であり、
ボーグ式で算出された3CaO・Alおよび4CaO・Al・Feの合計の割合が10〜25質量%であり、
MgO、SOおよびFを含み、
MgOの含有量が0.5〜3.0質量%であり、
SOの含有量が0.3〜1.5質量%であり、
Fの含有量が100〜800質量ppmであり、
前記MgOの含有量、前記SOの含有量および前記Fの含有量が下記の式(1)の関係を満たし、
S−M3相比率が0.72〜1.0であるセメントクリンカ組成物。
215≦(MgOの含有量(質量%))×(Fの含有量(質量ppm))÷(SOの含有量(質量%))≦1800 (1)
【請求項2】
SbおよびSb化合物の少なくとも1種を含み、
前記セメントクリンカ組成物1kgに対する前記SbおよびSb化合物の少なくとも1種の含有量が、Sb元素に換算して4〜80mgである請求項1に記載のセメントクリンカ組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載のセメントクリンカ組成物と、石膏とを含むポルトランドセメント組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はセメントクリンカ組成物およびそのセメントクリンカ組成物を含むポルトランドセメント組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートやモルタルの強度発現性を向上させる方法として、たとえば、粉末度(ブレーン比表面積)を小さくする方法、および3CaO・SiOの含有量を高くする方法などの方法が従来技術として知られている(たとえば、非特許文献1参照)。これにより、コンクリートやモルタルの強度発現性を向上させることができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】社団法人セメント協会,「セメントの常識」,「4.セメントの種類と用途」,p.11〜17(2004年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、粉末度(ブレーン比表面積)を小さくする方法、および3CaO・SiOの含有量を高くする方法などのセメント組成物の粉末度や鉱物組成を変える手段によって、コンクリートやモルタルの強度発現性を向上させると、凝結時間が短縮し、流動性が低下するという問題が生じる。また、粉末度(ブレーン比表面積)を小さくしようとすると、セメントの粉砕に要するエネルギーが増加し、3CaO・SiOの含有量を高くしようとすると、石灰石原単位を増やすことになる。いずれも、二酸化炭素の排出の増加およびクリンカ焼成用のエネルギーの増加につながり、環境の面でも好ましくない。
【0005】
そこで、本発明は、粉末度(ブレーン比表面積)を小さくしたり、3CaO・SiOの含有量を高くしたりしなくても、コンクリートやモルタルの強度発現性を向上させることができるセメントクリンカ組成物およびそのセメントクリンカ組成物を含むポルトランドセメント組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、鋭意研究を行った結果、セメントクリンカ組成物中のMgOの含有量、SOの含有量およびFの含有量が所定の関係を満たすようにして製造したセメントクリンカ組成物が、コンクリートやモルタルの強度発現性を向上させることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]ボーグ式で算出された3CaO・SiOの割合が50〜75質量%であり、ボーグ式で算出された2CaO・SiOの割合が5〜25質量%であり、ボーグ式で算出された3CaO・Alおよび4CaO・Al・Feの合計の割合が10〜25質量%であり、MgO、SOおよびFを含み、MgOの含有量が0.5〜3.0質量%であり、SOの含有量が0.3〜1.5質量%であり、Fの含有量が100〜800質量ppmであり、MgOの含有量、SOの含有量およびFの含有量が下記の式(1)の関係を満たし、CS−M3相比率が0.3〜1.0であるセメントクリンカ組成物。
1000≦(MgOの含有量(質量%))×(Fの含有量(質量ppm))÷(SOの含有量(質量%))≦1800 (1)
[2]SbおよびSb化合物の少なくとも1種を含み、セメントクリンカ組成物1kgに対するSbおよびSb化合物の少なくとも1種の含有量が、Sb元素に換算して4〜80mgである上記[1]に記載のセメントクリンカ組成物。
[3]上記[1]または[2]に記載のセメントクリンカ組成物と、石膏とを含むポルトランドセメント組成物。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、コンクリートやモルタルの強度発現性を向上させることができるセメントクリンカ組成物およびそのセメントクリンカ組成物を含むポルトランドセメント組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[セメントクリンカ組成物]
本発明のセメントクリンカ組成物は、ボーグ式で算出された3CaO・SiOの割合が50〜75質量%であり、ボーグ式で算出された2CaO・SiOの割合が5〜25質量%であり、ボーグ式で算出された3CaO・Alおよび4CaO・Al・Feの合計の割合が10〜25質量%であり、MgO、SOおよびFを含み、MgOの含有量が0.5〜3.0質量%であり、SOの含有量が0.3〜1.5質量%であり、Fの含有量が100〜800質量ppmであり、MgOの含有量、SOの含有量およびFの含有量が下記の式(1)の関係を満たす。
1000≦(MgOの含有量(質量%))×(Fの含有量(質量ppm))÷(SOの含有量(質量%))≦1800 (1)
また、本発明のセメントクリンカ組成物は、好ましくはポルトランドセメント用セメントクリンカ組成物として使用される。
【0009】
本発明のセメントクリンカ組成物は、セメント組成物を構成する主要組成物であり、石灰石(CaO成分)、粘土(Al成分、SiO成分)、ケイ石(SiO成分)および酸化鉄原料(Fe成分)などを適量ずつ配合し、1450℃前後の高温で焼成して製造される。セメントクリンカは、3CaO・SiO(略号:CS)、2CaO・SiO(略号:CS)、3CaO・Al(略号:CA)、および4CaO・Al・Fe(略号:CAF)を含む。セメントクリンカは、エーライト(CS)およびビーライト(CS)の主要鉱物と、その主要鉱物の結晶間に存在するアルミネート相(CA)およびフェライト相(CAF)の間隙相などとから構成される。この中でも、ビーライトは、α型、α’型、β型、γ型(それぞれα−CS、α’−CS、β−CS、γ−CS)の多形が存在し、α型とα’型は高温安定型、β型とγ型は低温安定型となっている。セメントクリンカを得る際、原料を混合した混合物を1450℃〜1600℃の範囲で焼成すると、焼成後の冷却過程において、セメントクリンカ中のビーライトは、α型からα'型やβ型を経てγ型に転移し、安定なγ型となる。
【0010】
なお、セメントクリンカ組成物における3CaO・SiO(略号:CS)、2CaO・SiO(略号:CS)、3CaO・Al(略号:CA)および4CaO・Al・Fe(略号:CAF)の割合は、JIS R 5202:1999「ポルトランドセメントの化学分析方法」により測定したセメントクリンカにおけるCaO、SiO、AlおよびFeの割合から、セメント化学の分野でボーグ式と呼ばれる計算式により求められる(たとえば、大門正機編訳「セメントの科学」、内田老鶴圃(1989)、p.11を参照)。
【0011】
(3CaO・SiOの割合)
本発明のセメントクリンカ組成物におけるボーグ式で算出された3CaO・SiOの割合は、50〜75質量%であり、好ましくは55〜70質量%であり、より好ましくは60〜70質量%であり、さらに好ましくは65〜70質量%である。ボーグ式で算出された3CaO・SiOの割合が50質量%よりも小さいと、セメントクリンカ組成物によって発現されるコンクリートやモルタルの強度が低下する場合がある。ボーグ式で算出された3CaO・SiOの割合が75質量%よりも大きいと、セメントクリンカ組成物の水和熱が高くなりすぎる場合がある。
【0012】
(2CaO・SiOの割合)
本発明のセメントクリンカ組成物におけるボーグ式で算出された2CaO・SiOの割合は、5〜25質量%であり、好ましくは8〜20質量%であり、より好ましくは9〜17質量%であり、さらに好ましくは10〜13質量%である。ボーグ式で算出された2CaO・SiOの割合が5質量%未満であると、結果的に、3CaO・SiOの割合が高くなり、セメントクリンカ組成物の水和熱が高くなりすぎる場合がある。また、ボーグ式で算出された2CaO・SiOの割合が25質量%よりも大きくなると、セメントクリンカ組成物によって発現されるコンクリートやモルタルの初期強度が低くなりすぎる場合がある。
【0013】
(3CaO・Alおよび4CaO・Al・Feの合計の割合)
本発明のセメントクリンカ組成物におけるボーグ式で算出された3CaO・Alおよび4CaO・Al・Feの合計の割合は、10〜25質量%であり、好ましくは15〜20質量%であり、より好ましくは16.5〜18.5質量%であり、さらに好ましくは17.5〜18.0質量%である。ボーグ式で算出された3CaO・Alおよび4CaO・Al・Feの合計の割合が10質量%未満であると、セメントクリンカ組成物の焼成時に生成する液相の量が少なくなるため、液相介在による固相−液相反応が速やかに進まなくなり、セメントクリンカ組成物の焼成が不十分になる場合がある。また、ボーグ式で算出された3CaO・Alおよび4CaO・Al・Feの合計の割合が25質量%よりも大きいと、操業不良を引き起こしやすくなると同時に、強度に寄与するカルシウムシリケート鉱物の生成が少なくなるため、本発明のセメントクリンカ組成物を用いたセメント組成物の強度が低下する場合がある。また、セメントクリンカ組成物の水和熱が高くなりすぎる場合がある。
【0014】
(3CaO・Alの割合)
本発明のセメントクリンカ組成物におけるボーグ式で算出された3CaO・Alの割合は、好ましくは5.5〜12.5質量%であり、より好ましくは7〜12質量%であり、さらに好ましくは8〜10質量%である。ボーグ式で算出された3CaO・Alの割合が5.5〜12.5質量%であると、セメントクリンカ組成物の焼成中に生成する液相の粘性低下を抑制し、セメントクリンカ組成物の造粒を適切に進行させ、セメントクリンカ組成物の粒径が小さくなることによってクリンカークーラー中の層圧が一定しなくなることを抑制するとともに、水和熱を低くすることができる。なお、クリンカークーラー中の層圧が一定しなくなると、セメントクリンカ組成物の急冷に支障をきたす場合がある。
【0015】
(4CaO・Al・Feの割合)
本発明のセメントクリンカ組成物におけるボーグ式で算出された4CaO・Al・Feの割合は、好ましくは4.5〜12.5質量%であり、より好ましくは7〜11質量%であり、さらに好ましくは7.5〜9.5質量%である。ボーグ式で算出された4CaO・Al・Feの割合が4.5〜12.5質量%であると、セメントクリンカ組成物が発現する強度をより高くすることができるとともに、水和熱をより低くすることができる。
【0016】
(MgOの含有量)
本発明のセメントクリンカ組成物はMgOを含む。本発明のセメントクリンカ組成物におけるMgOの含有量は、0.5〜3.0質量%であり、好ましくは0.9〜2.4質量%であり、より好ましくは1.5〜2.4質量%であり、さらに好ましくは2.0〜2.4質量%である。MgOの含有量が0.5質量%未満であると、セメントクリンカ組成物の焼成時に生成する液相の量が少なくなり、液相介在による固相−液相反応が速やかに進まなくなり、セメントクリンカ組成物の焼成が不十分になる。MgOの含有量が3.0質量%よりも大きいと、コンクリートやモルタルの硬化の際に、水和膨張が起こる場合がある。なお、MgOの含有量は、JISR 5202:1999「セメントの化学分析方法」に準拠して測定される。また、MgOは、たとえば、MgOを多く含むスラグをセメントクリンカ組成物の原料として用いることにより、セメントクリンカ組成物へ導入される。
【0017】
(SOの含有量)
本発明のセメントクリンカ組成物はSOを含む。本発明のセメントクリンカ組成物におけるSOの含有量は、0.3〜1.5質量%であり、好ましくは0.5〜1.2質量%であり、より好ましくは0.5〜1.0質量%であり、さらに好ましくは0.5〜0.8質量%である。SOの含有量が0.3質量%未満であると、コンクリートやモルタルの初期強度が低下する場合がある。SOの含有量が1.5質量%よりも大きいと、硬化後のコンクリートやモルタルに膨張亀裂が発生する場合がある。なお、SOの含有量は、JIS R 5202:1999「セメントの化学分析方法」に準拠して測定される。また、SOは、たとえば、Sを多く含むオイルコークスなどをセメントクリンカ組成物の原燃料として用いることにより、セメントクリンカ組成物に導入される。
【0018】
(Fの含有量)
本発明のセメントクリンカ組成物はFを含む。本発明のセメントクリンカ組成物におけるFの含有量は、100〜800質量ppmであり、好ましくは200〜600質量ppmであり、より好ましくは300〜600質量ppmであり、さらに好ましくは400〜600質量ppmである。Fの含有量が100質量ppm未満であると、セメントクリンカ組成物の焼成時に生成する液相の量が少なくなるため、液相介在による固相−液相反応が速やかに進まなくなり、セメントクリンカ組成物の焼成が不十分になる場合がある。Fの含有量が800質量ppmよりも大きいと、コンクリートやモルタルの凝結が遅延する場合がある。なお、Fの含有量は、JCASI I−53:2013「セメント中の微量成分の定量方法」に準拠して測定される。また、Fは、たとえば、Fを多く含む都市ごみ焼却灰などをセメントクリンカ組成物の原料として用いることにより、セメントクリンカ組成物に導入される。
【0019】
(MgOの含有量、SOの含有量およびFの含有量の関係)
本発明のセメントクリンカ組成物において、MgOの含有量、SOの含有量およびFの含有量は、下記の式(1)の関係を満たす。(MgOの含有量(質量%))×(Fの含有量(質量ppm))÷(SOの含有量(質量%))の値(以下、式値と呼ぶ場合がある)が1000未満であると、コンクリートやモルタルの長期強度が低くなる。式値が1800よりも大きいと、コンクリートやモルタルの初期強度が低くなる場合がある。
1000≦(MgOの含有量(質量%))×(Fの含有量(質量ppm))÷(SOの含有量(質量%))≦1800 (1)
【0020】
(SbおよびSb化合物の少なくとも1種の含有量)
本発明のセメントクリンカ組成物は、好ましくはSbおよびSb化合物の少なくとも1種を含む。本発明のセメントクリンカ組成物1kgに対するSbおよびSb化合物の少なくとも1種の含有量は、Sb元素に換算して、好ましくは4〜80mgであり、より好ましくは5〜50mgであり、さらに好ましくは10〜50mgであり、さらに好ましくは20〜50mgである。セメントクリンカ組成物1kgに対するSbおよびSb化合物の少なくとも1種の含有量が、Sb元素に換算して、4〜80mgであると、自己収縮や乾燥収縮によるコンクリートやモルタルの収縮を抑制できるとともに、コンクリートやモルタルの明度が高くなって白色味を帯びることを抑制できる。なお、SbおよびSb化合物の少なくとも1種の含有量は、JCASI I−53:2013「セメント中の微量成分の定量方法」に準拠して測定される。また、SbおよびSb化合物の少なくとも1種は、たとえば、SbおよびSb化合物の少なくとも1種を含む一般廃棄物または産業廃棄物などをセメントクリンカ組成物の原料として用いることにより、セメントクリンカ組成物に導入される。
【0021】
(CS−M3相比率)
M3相は、3CaO・SiOの7種の結晶多形の1つをなす相であり、単斜晶系の結晶構造を示す。一般に3CaO・SiOについては、三斜晶であるT1、T2およびT3、単斜晶であるM1、M2およびM3、菱面体晶であるRの7種の結晶多形が知られており、クリンカ原料の焼成中には、まずR相が生成し、冷却後には、M1相およびM3相が存在し、ごくまれにM1相およびM3相とを比較して極微量のT2相が生成される場合もある。CS−M3相比率の測定方法については、後述の実施例で説明する。
【0022】
本発明のセメントクリンカ組成物におけるCS−M3相比率は、好ましくは0.3〜1.0であり、より好ましくは0.5〜1.0である。CS−M3相比率が0.3〜1.0であると、初期及び長期の強度低下を抑制し、また水和熱を低い水準に保つことができる。
【0023】
[セメントクリンカ組成物の製造方法]
本発明のセメントクリンカ組成物は、たとえば、以下のようにして製造することができる。セメントクリンカ原料としては、Ca、Si、Al、Fe、Mg、S、F、Sbなどを含むものであれば、元素単体物、酸化物、炭酸化物などの形態を問わず用いることができ、また、それらの混合物を用いることができる。天然原料の例として、石灰石、粘土、珪石、酸化鉄原料が挙げられ、工業的な原料の例として、上記元素を含む廃棄物原料、高炉スラグ、フライアッシュなどが挙げられる。かかるセメントクリンカ原料の混合割合に関しては、上記式(1)の関係を満たすセメントクリンカ組成物が製造できれば、とくに限定されるものではなく、目的とする鉱物組成に対応した成分組成となるように原料配合を定めることができる。
【0024】
そして、目的とするセメントクリンカ組成物が得られるような組成で混合されたセメントクリンカ原料を、下記の焼成条件で焼成し、冷却する。焼成は、通常、電気炉やロータリーキルンなどを用いて行われる。焼成方法としては、たとえば、セメントクリンカ原料を、所定の第1焼成温度および第1焼成時間で加熱して焼成を行う第1焼成工程と、該第1焼成工程後、第1焼成温度から所定の第2焼成温度まで所定の昇温時間をかけて昇温させる昇温工程と、該昇温工程後、第2焼成温度および所定の第2焼成時間で加熱して焼成を行う第2焼成工程と、を含む方法が挙げられる。たとえば、電気炉を用いた場合、セメントクリンカ原料を、1000℃の焼成温度(第1焼成温度)で30分間(第1焼成時間)加熱して焼成を行った後(第1焼成工程)、1450℃(第2焼成温度)まで30分間(昇温時間)かけて昇温させ(昇温工程)、さらに1450℃で15分間(第2焼成時間)加熱して焼成を行った後(第2焼成工程)、焼成物を急冷することにより、セメントクリンカ組成物を製造することができる。
【0025】
[ポルトランドセメント組成物]
本発明のポルトランドセメント組成物は、本発明のセメントクリンカ組成物と石膏とを含む。本発明のポルトランドセメント組成物における石膏の割合は、SO換算量で好ましくは0.5〜2.5質量%であり、より好ましくは1.0〜1.8質量%である。
【0026】
本発明のポルトランドセメント組成物は、混合少量成分をさらに含んでもよい。混合少量成分には、たとえば、流動性、水和速度または強度発現の調節用として添加される、フライアッシュ、高炉スラグあるいはシリカフュームなどが挙げられる。また、他の少量成分には、コンクリートの流動性および強度をより向上させるために添加される、AE減水剤、高性能減水剤または高性能AE減水剤、とくにポリカル系高性能AE減水剤などが挙げられる。
【0027】
[コンクリートおよびモルタル]
本発明のポルトランドセメント組成物を、水と混合することにより、セメントミルクを作製することができ、水および砂と混合することにより、モルタルを作製することができ、砂および砂利と混合することにより、コンクリートを製造することができる。また、上記セメント組成物からモルタルやコンクリートを作製する際、高炉スラグやフライアッシュなどを添加することもできる。
【実施例】
【0028】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。なお、実施例は、本発明を限定するものではない。
【0029】
[評価方法]
実施例および比較例のセメントクリンカ組成物を次の評価方法で評価した。
(3CaO・SiO、2CaO・SiO、3CaO・Alおよび4CaO・Al・Feの割合)
実施例および比較例のセメントクリンカ組成物中の3CaO・SiO、2CaO・SiO、3CaO・Alおよび4CaO・Al・Feの割合は、セメントクリンカの原料の配合量からセメントクリンカ組成物におけるCaO、SiO、AlおよびFeの割合を算出し、その算出結果を用いてボーグ式で算出した。
【0030】
(3CaO・Alおよび4CaO・Al・Feの合計の割合)
上記で算出した3CaO・Alの割合と、4CaO・Al・Feの割合とを足し算して、3CaO・Alおよび4CaO・Al・Feの合計の割合を算出した。
【0031】
(MgOの含有量)
実施例および比較例のセメントクリンカ組成物中のMgOの含有量は、クリンカ原料を配合するときの塩基性炭酸マグネシウムの配合量から算出した。
【0032】
(SOの含有量)
実施例および比較例のセメントクリンカ組成物中のSOの含有量は、クリンカ原料を配合するときの硫酸カルシウム2水和物の配合量から算出した。
【0033】
(Fの含有量)
実施例および比較例のセメントクリンカ組成物中のFの含有量は、クリンカ原料を配合するときのフッ化カルシウムの配合量から算出した。
【0034】
(SbおよびSb化合物の少なくとも1種の含有量)
実施例および比較例のセメントクリンカ組成物中のSbおよびSb化合物の少なくとも1種の含有量の含有量は、クリンカ原料を配合するときの三酸化二アンチモンの配合量から算出した。
【0035】
(MgOの含有量、SOの含有量およびFの含有量の関係式)
上記で算出したMgOの含有量、SOの含有量およびFの含有量を下記式(2)に代入して式値Xを算出した。
X=(MgOの含有量(質量%))×(Fの含有量(質量ppm))÷(SOの含有量(質量%)) (2)
【0036】
(CS−M3相比率)
(1)CS量及びM3相量の定量
・X線回折プロファイルの取得及びセメントクリンカの同定
粉末X線回析装置(パナリティカル社製、X’Part Powder)を用い、測定条件を、測定範囲:2θ=10〜70°、ステップサイズ:0.17°、スキャンスピード:0.1012°/s、電圧:45kV、電流:40mAとして、X線回折測定を行い、X線回折プロファイルを得た。
【0037】
得られたX線回析プロファイルについて、上記粉末X線回析装置に備えられた結晶構造解析用ソフトウエア(パナリティカル社製、X’Part High Score Plus version 2.1b)を用い、セメントクリンカ鉱物の定量を行った。解析対象のセメントクリンカ鉱物は、CS−M1(M1相)、CS−M3(M3相)、CS−α’H(α’H相)、CS−β(β相)、CA−cubic(立方晶)、CA−ortho(斜方晶)、CAFとした。
【0038】
・リートベルト法による解析
次に、上記ソフトウエアに搭載されたリートベルト法による解析機能を用い、上記のセメントクリンカ鉱物相の質量%を定量した。リートベルト解析に用いた基本結晶構造データの初期値は、文献「セメント化学専門委員会報告 C−12 測定法の違いによるクリンカ鉱物量の差異の検討 第二部 第4章 粉末X線回折/Rietveld解析による定量に関する検討」の表−4.2を参考とした。次に、セメントクリンカ全体の結晶構造パラメータの精密化に必要なパラメータとして格子定数、スケールファクター等を選択し、精密化操作を実行した。これにより、理論プロファイルが実測したX線回折プロファイルとフィッティングするように上記精密化に必要なパラメータが可変されることによって精密化操作が繰り返された後、最終的に精密化されたスケールファクターから、セメントクリンカの質量%が得られた。また、セメントクリンカの質量%の合計を100質量%とし、CS−M1相量及びCS−M3相量の和により、CS量を算出した。
(2)CS−M3相比率の算出
上記によって得られたM1相量及びM3相量から、CS−M1相量及びCS−M3相量との和を算出し、この和におけるCS−M3相量の占める割合をCS−M3相比率として算出した。
【0039】
(28日材齢モルタル強度)
JIS R5201「セメントの物理試験方法:10.4供試体の作り方」に準拠して、実施例および比較例のセメントクリンカ組成物を用いて作製したセメント組成物から作製したモルタルをそれぞれ、40×40×160mmの金属型枠3個に打設し、24時間後に脱型してモルタル供試体を3個ずつ作製した。20℃水中で材齢28日まで養生し、JISR 5201「セメントの物理試験方法:10.5測定」に準拠して、圧縮強さを測定した。
【0040】
(182日材齢長さ変化)
長さ変化試験を行うことにより、コンクリートやモルタルの収縮を評価した。長さ変化試験は、まず、JISA 1129「モルタル及びコンクリートの長さ変化試験方法−第3部:ダイヤルゲージ法」およびJISR 5201「セメントの物理試験方法:10.4供試体の作り方」に準拠して、セメント組成物をそれぞれ、40×40×160mmの金属型枠3個に打設し、24時間後に脱型してモルタル供試体を3個ずつ作製した。次に、JISA 1129「モルタル及びコンクリートの長さ変化試験方法−第3部:ダイヤルゲージ法」に準拠して、作製されたモルタル供試体を20℃で7日間水中養生した後、20℃、65%RHの雰囲気下に182日間保存し、かかる雰囲気下での保存開始時と182日保存後(182日材齢)のモルタル供試体の長さを測定した。そして、各モルタル供試体について保存開始時の長さ(基長)に対する182日保存後の長さの差を算出し、得られた3つの長さ変化を平均することによって、モルタル供試体の長さ変化を得た。
【0041】
[セメントクリンカ組成物およびセメント組成物の作製]
以下のようにして、実施例および比較例のセメントクリンカ組成物、そのセメントクリンカ組成物を含むセメント組成物、およびそのセメント組成物を用いたモルタルを作製した。
【0042】
<実施例1〜18、比較例1〜8>
(セメントクリンカ組成物の作製)
クリンカ原料として、炭酸カルシウム(キシダ化学(株)製、試薬1級、CaCO)、二酸化珪素(キシダ化学(株)製、試薬1級、SiO)、酸化アルミニウム(関東化学(株)製、試薬1級、Al)、酸化鉄(III)(関東化学(株)製、試薬特級、Fe)、塩基性炭酸マグネシウム(キシダ化学(株)製、試薬特級、4MgCO・Mg(OH)・5HO)、炭酸ナトリウム(関東化学(株)製、試薬特級、Na2CO)、炭酸カリウム(関東化学(株)製、試薬特級、K2CO)、硫酸カルシウム2水和物(キシダ化学(株)製、試薬1級、CaSO4・2H2O)、フッ化カルシウム(和光純薬工業(株)製、型番:No.031−08551)および三酸化二アンチモン(和光純薬工業(株)製、型番:No.016−11652)を用いた。実施例1〜18および比較例1〜8におけるセメントクリンカを作製するためのクリンカ原料の配合量を表1に示す。
【0043】
【表1】
【0044】
上述のように配合したクリンカ原料を、電気炉に投入して1000℃で30分間の焼成を行った後、1000℃から1450℃まで30分間かけて昇温させ、さらに1450℃で15分間の焼成を行った後、焼成物をそのまま大気中に取り出すことにより焼成物を急冷して、各実施例、比較例に用いたセメントクリンカを作製した。
【0045】
(セメント組成物の作製)
上記作製したセメントクリンカ組成物に内割りでSO3換算量1.5質量%の半水石膏(関東化学株式会社製半水石膏、型番:07108−01(焼石膏、鹿1級)を配合した。そして、配合物を、ブレーン比表面積値が約3300〜約3800cm/gの範囲となるようにボールミルで粉砕して、各実施例および比較例のセメントクリンカ組成物を用いたセメント組成物を作製した。
【0046】
(モルタルの作製)
JIS R 5201「セメントの物理試験方法」に準拠してモルタルを調製した。
【0047】
[評価結果]
実施例および比較例のセメントクリンカ組成物の組成を下記の表2に示し、評価結果を下記の表3に示す。
【0048】
【表2】
【0049】
【表3】
【0050】
(1)実施例1〜18のセメントクリンカ組成物の28日材齢モルタル強度と、比較例1〜8のセメントクリンカ組成物の28日材齢モルタル強度とを比較することによって、(MgOの含有量(質量%))×(Fの含有量(質量ppm))÷(SOの含有量(質量%))の式値Xが1000〜1800となるようにすることにより、そのセメントクリンカ組成物を含むセメント組成物を用いて作製したコンクリートやモルタルが発現する強度を高くできることがわかった。
(2)実施例1〜16のセメントクリンカ組成物の182日材齢長さ変化と、実施例17および18のセメントクリンカ組成物の182日材齢長さ変化とを比較することによって、セメントクリンカ組成物1kgに対するSbおよびSb化合物の少なくとも1種の含有量を、Sb元素に換算して、4〜80mgとすることにより、さらに、そのセメントクリンカ組成物を含むセメント組成物を用いて作製したコンクリートやモルタルの収縮を抑制できることがわかった。