特許第6500463号(P6500463)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東ソー株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6500463
(24)【登録日】2019年3月29日
(45)【発行日】2019年4月17日
(54)【発明の名称】ポリエチレン製キャップ
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/06 20060101AFI20190408BHJP
   C08L 23/08 20060101ALI20190408BHJP
   B65D 41/00 20060101ALI20190408BHJP
【FI】
   C08L23/06
   C08L23/08
   B65D41/00
【請求項の数】5
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2015-19194(P2015-19194)
(22)【出願日】2015年2月3日
(65)【公開番号】特開2016-141747(P2016-141747A)
(43)【公開日】2016年8月8日
【審査請求日】2018年1月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】鶴田 明治
(72)【発明者】
【氏名】菊地 元三
(72)【発明者】
【氏名】西川 弘昌
【審査官】 今井 督
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−092254(JP,A)
【文献】 特開2013−100418(JP,A)
【文献】 特開2014−019806(JP,A)
【文献】 特開2004−350732(JP,A)
【文献】 特表2008−525275(JP,A)
【文献】 特開2008−019404(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 23/00− 23/36
B65D 41/00− 41/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記特性(a)〜(c)を満足する高密度ポリエチレン(A)95〜60重量%と下記特性(d)〜(g)を満足する、エチレンの単独重合体またはエチレンと炭素数3〜20のα−オレフィンとの共重合体(B)5〜40重量%((A)と(B)の合計は100重量%)を含む樹脂組成物からなり、かつ、該樹脂組成物が下記特性(h)〜(m)を満足することを特徴とするポリエチレン製キャップ。
(a)メルトフローレート(MFR)が0.1〜10.0g/10分である。
(b)密度が955〜975kg/mである。
(c)ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーによる分子量測定から得られた重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)が5.0〜20.0の範囲である。
(d)MFRが0.1〜15.0g/10分である。
(e)密度が920〜960kg/mである。
(f)ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーによる分子量測定において2つのピークを示し、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)が2.0〜7.0の範囲である。
(g)分子量分別した際のMnが10万以上のフラクション中に長鎖分岐を主鎖1000炭素数あたり0.15個以上有する。
(h)MFRが0.1〜15.0g/10分である。
(i)密度が950〜965kg/mである。
(j)曲げ弾性率が1,000〜1,700MPaである。
(k)引張破壊応力が10MPa以上である。
(l)耐環境応力き裂性(ESCR)が15時間以上である。
(m)酸素透過度が3.5×10−13mol/(m×s×Pa)以下である。
【請求項2】
エチレンの単独重合体またはエチレンと炭素数3〜20のα−オレフィンとの共重合体(B)のMw/Mnが3.0〜6.0の範囲であり、Mnが15,000以上であることを特徴とする請求項1に記載のポリエチレン製キャップ。
【請求項3】
エチレンの単独重合体またはエチレンと炭素数3〜20のα−オレフィンとの共重合体(B)の分子量分別した際のMnが10万以上である成分の割合が、エチレンの単独重合体またはエチレンと炭素数3〜20のα−オレフィンとの共重合体(B)全体の40%未満であることを特徴とする請求項1または2に記載のポリエチレン製キャップ。
【請求項4】
高密度ポリエチレン(A)が、下記特性(n)〜(o)を満足するエチレン系重合体(i)55〜45重量%と下記特性(p)〜(q)を満足するエチレン系重合体(ii)45〜55重量%((i)と(ii)の合計は100重量%)を含み、かつ、極限粘度が[η]ii>[η]、密度がd>diiなる関係を満たすエチレン系重合体組成物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のポリエチレン製キャップ。
(n)極限粘度([η])が0.3〜2.0dl/g
(o)密度(d)が960kg/m以上
(p)極限粘度([η]ii)が1.0〜6.0dl/g
(q)密度(dii)が920〜960kg/m
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の樹脂組成物を射出成形または圧縮成形によりキャップ状に成形されてなることを特徴とする樹脂キャップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形性、成形品外観、強度、剛性、耐環境応力き裂性(以下、ESCRと言う。)、食品安全性、リサイクル性に優れ、かつガスバリア性に優れたポリエチレン製キャップに関する。さらに詳しくは、酸素や炭酸ガスなどの気体の透過防止性に優れるため、炭酸飲料のような密封性が要求される容器や内容物の酸化が問題となる容器等に使用する上で特に好適なポリエチレン製キャップに関するものである。
【背景技術】
【0002】
炭酸飲料などの清涼飲料用PETボトルには、従来その容器蓋として、アルミニウムなど金属製のものが用いられてきたが、近年ではリサイクルなどの環境保全の観点や経済性などから樹脂化が進んでいる。清涼飲料などの容器用キャップには、容器の密封性、開栓性、食品安全性、耐久性などキャップとしての特性に加えて、成形性、剛性、耐熱性などの物性が要求されるため、樹脂の中でもポリエチレンやポリプロピレンのようなポリオレフィン樹脂が多く用いられている。しかしながら、ポリエチレンやポリプロピレンはガスバリア性が比較的低い材料であるため、内容物の酸化劣化や気密性の低下の観点から、長期保管ができない問題があった。
【0003】
近年、ポリオレフィン系樹脂キャップの分野において、ポリオレフィン系樹脂にガスバリア性樹脂を積層することでガスバリア性能を向上させる方法(特許文献1参照)、また、ポリオレフィン系樹脂にガスバリア性樹脂を分散させてガスバリア性能を向上させる方法(特許文献2参照)、さらに、ポリオレフィン系樹脂に層状珪酸塩などの層状無機化合物を分散させることでガスバリア性能を向上させる方法(特許文献3〜5参照)が提案されている。
【0004】
しかしながら、これらの方法はキャップのガスバリア性能は向上させるものの、成形性、成形品外観、成形品強度、リサイクル性などのキャップに要求される他の特性について、必ずしも満足できるものではない。また、ポリオレフィン系樹脂のみで成形したキャップと比較した場合、生産工程が複雑となり、生産性、コストの面からも不利となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−62820号公報
【特許文献2】特開2000−248131号公報
【特許文献3】特開平10−298358号公報
【特許文献4】特開2009−62520号公報
【特許文献5】特開2009−209267号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、樹脂キャップに要求される成形性、成形品外観、強度、剛性、ESCR、食品安全性、リサイクル性等の特性に加えて、従来のポリオレフィン系樹脂キャップの欠点であるガスバリア性にも優れることで、酸化劣化や気密性の低下が問題となる内容物であっても長期保管が可能となる、ポリエチレン製キャップを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討を行なった結果、高密度ポリエチレンに、特定の物性を有するエチレン系重合体を特定量配合してキャップとすることで、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、下記特性(a)〜(c)を満足する高密度ポリエチレン(A)95〜60重量%と下記特性(d)〜(g)を満足するエチレン系重合体(B)5〜40重量%((A)と(B)の合計は100重量%)を含む樹脂組成物からなり、かつ、該樹脂組成物が下記特性(h)〜(m)を満足することを特徴とするポリエチレン製キャップに関するものである。
(a)MFRが0.1〜10.0g/10分である。
(b)密度が955〜975kg/mである。
(c)ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーによる分子量測定から得られた重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)が5.0〜20.0の範囲である。
(d)MFRが0.1〜15.0g/10分である。
(e)密度が920〜960kg/mである。
(f)ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーによる分子量測定において2つのピークを示し、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)が2.0〜7.0の範囲である。
(g)分子量分別した際のMnが10万以上のフラクション中に長鎖分岐を主鎖1000炭素数あたり0.15個以上有する。
(h)MFRが0.1〜15.0g/10分である。
(i)密度が950〜965kg/mである。
(j)曲げ弾性率が1,000〜1,700MPaである。
(k)引張破壊応力が10MPa以上である。
(l)ESCRが15時間以上である。
(m)酸素透過度が3.5×10−13mol/(m×s×Pa)以下である。
【0009】
本発明に用いる高密度ポリエチレン(A)とエチレン系重合体(B)の配合割合は、高密度ポリエチレン(A)が95〜60重量%、好ましくは90〜65重量%、より好ましくは85〜70重量%、エチレン系重合体(B)が5〜40重量%、好ましくは10〜35重量%、より好ましくは15〜30重量%である。
【0010】
高密度ポリエチレン(A)が60重量%未満の場合(即ち、エチレン系重合体(B)が40重量%を超える場合)は、得られたキャップの剛性およびESCRが低下するため好ましくない。高密度ポリエチレン(A)が95重量%を超える場合(即ち、エチレン系重合体(B)が5重量%未満の場合)は、得られたキャップのガスバリア性が低下するため好ましくない。
【0011】
以下に、本発明のポリエチレン製キャップに使用する樹脂材料について説明する。
[1]高密度ポリエチレン(A)
本発明の高密度ポリエチレン(A)は、エチレンの単独重合体またはエチレンと炭素数3〜20のα−オレフィンとの共重合体である。ここで、α−オレフィンとしては、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン等があげられる。これらを1種あるいは2種以上組み合わせて使用することができる。これらのα−オレフィンのうち、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテンが特に好ましい。
【0012】
本発明の高密度ポリエチレン(A)は、JIS K6922−1に準拠し、190℃、荷重2.16kgで測定したメルトフローレート(以下、MFRという)が0.1〜10.0g/10分、好ましくは0.5〜5.0g/10分である。MFRが0.1g/10分未満だと流動性が低下し、成形加工が難しくなる。また、MFRが10.0g/10分を超える場合は、ESCRが低下するため好ましくない。
【0013】
本発明の高密度ポリエチレン(A)は、JIS K6922−1に準拠した密度が955〜975kg/m、好ましくは960〜970kg/mである。密度が955kg/m未満だと剛性が不足し、975kg/mを超える場合は、ESCRが低下するため好ましくない。
【0014】
本発明の高密度ポリエチレン(A)は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーによる分子量測定から得られた重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)が5.0〜20.0、好ましくは6.0〜15.0、より好ましくは7.0〜10.0の範囲である。Mw/Mnが5.0未満だと成形加工時の流動性が低下すると共に、高分子量成分が不足してESCRが低下する。また、Mw/Mnが20.0を超える場合は、分子量1×10を超える超高分子量成分が原因と考えられるフィッシュアイ(ゲル)が増加し、キャップとしての強度が低下するため好ましくない。
【0015】
本発明の高密度ポリエチレン(A)は、前述のようにMw/Mnが5.0〜20.0の範囲にあれば、単独の重合器を用いて重合した単一のエチレン系重合体でも、分子量や密度が異なる単一のエチレン系重合体を2種以上混合したエチレン系重合体組成物であってもかまわないが、エチレン系重合体を2種以上混合した樹脂組成物の方が、成形加工性とESCRのバランスがより一層向上するため好ましい。
【0016】
その中でも、本発明の高密度ポリエチレン(A)が、下記特性(n)〜(o)を満足するエチレン系重合体(i)55〜45重量%と下記特性(p)〜(q)を満足するエチレン系重合体(ii)45〜55重量%((i)と(ii)の合計は100重量%)を含む樹脂組成物から成り、かつ、極限粘度が[η]ii>[η]、密度がd>diiなる関係を満たすエチレン系重合体組成物である場合、成形加工性とESCRのバランスが良く、かつ、フィッシュアイ(ゲル)の発生が少なくなるため、特に好ましい。
(n)極限粘度([η])が0.3〜2.0dl/g
(o)密度(d)が960kg/m以上
(p)極限粘度([η]ii)が1.0〜6.0dl/g
(q)密度(dii)が920〜960kg/m
エチレン系重合体(i)の極限粘度([η])が0.3〜2.0dl/g、好ましくは0.4〜1.0の範囲にある場合、成形性と機械強度のバランスが良好となる。ここで、極限粘度はオルトジクロルベンゼン(ODCB)を溶媒として135℃で測定した値である。また、エチレン系重合体(i)の密度(d)は960kg/m以上、好ましくは965kg/m以上、さらに好ましくは970kg/mにあることが、剛性の高いキャップが得られるため好ましい。
【0017】
エチレン系重合体(ii)の極限粘度([η]ii)が1.0〜6.0dl/g、好ましくは2.0〜5.0dl/gの範囲にある場合、成形加工時の流動性とESCRのバランスが良好となる。また、エチレン系重合体(ii)の密度(dii)は920〜960kg/m、好ましくは925〜955kg/m、さらに好ましくは930〜950kg/mの範囲にあることが、剛性とESCRのバランスに優れたキャップが得られるため好ましい。
【0018】
さらに、エチレン系重合体(i)とエチレン系重合体(ii)の配合比率 (エチレン系重合体(i)の配合比率/エチレン系重合体(ii)の配合比率) は、55/45〜45/55の範囲にあることが、成形加工時の流動性とESCRのバランスに優れ、かつ、フィッシュアイ(ゲル)の発生が少ないキャップが得られるため好ましい。
【0019】
一般に、エチレン系重合体(i)の配合比率を少なくすると、極限粘度の高い(分子量の大きい) エチレン系重合体(ii)の比率が高まるため、流動性が低下する傾向にある。また、エチレン系重合体(i)の配合比率を高めると、エチレン系重合体(ii)の比率が少なくなり、ESCRが低下する。さらに、エチレン系重合体(i)の配合比率を高め、かつ、エチレン系重合体(i)とエチレン系重合体(ii)を含む組成物のMFRの増大を抑えようとすると、エチレン系重合体(ii)の極限粘度([η]ii)を高くする(分子量を大きくする)必要があり、エチレン系重合体(ii)に由来する高分子量鎖の分散不良が生じてフィッシュアイ(ゲル)が増加する傾向がある。
【0020】
本発明の高密度ポリエチレン(A)は、例えば、特公昭52−15110号、特公昭62−58367号、特開昭60−262802号、特開平7−41513号の各公報に記載の金属マグネシウム、アルコール、チタンアルコキサイドから得られる均一溶液およびハロゲン化有機アルミニウムを原料として調製されたチーグラー・ナッタ触媒を用いてスラリー重合法により製造できるが、前記公報に記載された以外のチーグラー・ナッタ触媒、シングルサイト系触媒、フィリップス型クロム系触媒により製造することも可能である。
【0021】
本発明の高密度ポリエチレン(A)は、単独の重合器を用いて重合した単一のエチレン系重合体であってもよいが、2種以上のエチレン系重合体を混合したエチレン系重合体組成物とする場合は、各エチレン系重合体を混合した後、単軸あるいは多軸の押出機を用いて溶融混練する方法、あるいは、バンバリーミキサー、ニーダー、ロールなどの公知の混練装置を用いて溶融混練する方法により得ることができる。また、複数の重合器を直列につないで重合する多段式スラリー重合法により、エチレン系重合体を連続的に重合することによっても得ることができる。この場合、各エチレン系重合体の重合順序に関しては特に制限はない。
[2]エチレン系重合体(B)
本発明のエチレン系重合体(B)は、エチレンの単独重合体またはエチレンと炭素数3〜20のα−オレフィンとの共重合体である。ここで、α−オレフィンとしては、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン等があげられる。これらを1種あるいは2種以上組み合わせて使用することができる。これらのα−オレフィンのうち、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテンが特に好ましい。
【0022】
本発明に関わるエチレン系重合体(B)は、JIS K6922−1に準拠し、190℃、荷重2.16kgで測定したMFRが0.1〜15.0g/10分、好ましくは0.5〜10.0g/10分、より好ましくは1.0〜5.0g/10分である。MFRが0.1g/10分未満だと、流動性が低下し、成形加工が難しくなる。また、MFRが15.0g/10分を超える場合は、ESCRが低下するため好ましくない。
【0023】
本発明に関わるエチレン系重合体(B)は、JIS K6922−1に準拠した密度が920〜960kg/mの範囲であり、好ましくは925〜955kg/m、特に好ましくは930〜950kg/mの範囲である。密度が920kg/m未満だと剛性が不足し、高密度ポリエチレン(A)に配合した際のガスバリア性向上効果が低下するため好ましくない。密度が960kg/mを超える場合、ESCRが低下すると共に、ガスバリア性向上効果が低下するため好ましくない。
【0024】
本発明に関わるエチレン系重合体(B)は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(以下、GPCという。)による分子量測定において2つのピークを示す。ピークトップ分子量(Mp)はGPC測定によって得られた分子量分布曲線を後述の方法で2個のピークに分割し、高分子量側のピークと低分子量側のピークのトップ分子量を評価し、その差が100,000以上である場合を2つのMpを有するとした。100,000未満である場合は、実測された分子量分布曲線のトップ分子量を1つのMpとした。
【0025】
分子量分布曲線の分割方法は以下のとおりに行った。GPC測定によって得られた、分子量の対数であるLogMに対して重量割合がプロットされた分子量分布曲線のLogMに対して、標準偏差が0.30であり、任意の平均値(ピークトップ位置の分子量)を有する2つの対数分布曲線を任意の割合で足し合わせることによって、合成曲線を作成する。さらに、実測された分子量分布曲線と合成曲線との同一分子量(M)値に対する重量割合の偏差平方和が最小値になるように、平均値と割合を求める。偏差平方和の最小値は、各ピークの割合がすべて0の場合の偏差平方和に対して0.5%以下にした。偏差平方和の最小値を与える平均値と割合が得られた時に、2つの対数正規分布曲線に分割して得られるそれぞれの対数分布曲線のピークトップの分子量をMpとした。
【0026】
GPCによる分子量測定においてピークが1つのエチレン系重合体は、本発明に関わる高密度ポリエチレン(A)に配合しても、2つのピークを有するエチレン系重合体(B)を配合した場合のようにキャップのガスバリア性向上効果は得られない。
【0027】
本発明に関わるエチレン系重合体(B)は、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)が2.0〜7.0、好ましくは2.5〜6.5、さらに好ましくは3.0〜6.0である。Mw/Mnが2.0未満の場合は、成形加工時の押出負荷が大きいばかりでなく、高密度ポリエチレン(A)に配合した際のガスバリア性向上効果が低下するため好ましくない。Mw/Mnが7.0を超えると、得られたキャップの強度が低下するため好ましくない。
【0028】
本発明に関わるエチレン系重合体(B)は、GPCにより測定した数平均分子量(Mn)が15,000以上であることが好ましく、さらに好ましくは15,000〜100,000、特に15,000〜50,000が好ましい。Mnが15,000以上である場合、得られたキャップの強度が高くなる。
【0029】
本発明に関わるエチレン系重合体(B)は、分子量分別で得られたMnが10万以上のフラクションの長鎖分岐数が主鎖1000炭素数あたり0.15個以上である。Mnが10万以上のフラクションの長鎖分岐数が主鎖1000炭素数あたり0.15個未満である場合、本発明に関わる高密度ポリエチレン(A)に特定量配合しても、顕著なガスバリア性の向上効果は得られない。
【0030】
また、本発明に関わるエチレン系重合体(B)は、分子量分別で得られたMnが10万以上のフラクションの割合が、エチレン系重合体(B)全体の40%未満であることが好ましい。分子量分別で得られたMnが10万以上のフラクションの割合が、エチレン系重合体(B)全体の40%未満である場合、成形加工時の押出負荷が小さく、成形性が良好である。
【0031】
以上、高密度ポリエチレン(A)にエチレン系重合体(B)を配合することにより、成形性、成形品外観、強度、剛性、耐ストレスクラック性、食品安全性、リサイクル性に加えて、ガスバリア性に優れたポリエチレン製キャップを得ることが可能となる。さらには、高密度ポリエチレン(A)にエチレン系重合体(B)を配合して成形した場合、エチレン系重合体(B)を配合しない場合に比べて成形収縮率が低下し、キャップの寸法精度が改善されることが判明した。
【0032】
本発明のポリエチレン製キャップに関わるエチレン系重合体(B)は、例えば、特開2012−126862号公報、特開2012−126863号公報、特開2012−158654号公報、特開2012−158656号公報、特開2013−28703号公報等に記載の方法により得ることができる。
[3]樹脂組成物
本発明のポリエチレン製キャップの製造に用いる樹脂組成物は、高密度ポリエチレン(A)とエチレン系重合体(B)を、従来公知の方法、例えばヘンシェルミキサー、V−ブレンダー、リボンブレンダー、タンブラーブレンダー等で混合する方法、あるいはこのような方法で得られた混合物をさらに一軸押出機、二軸押出機、ニーダー、バンバリーミキサー等で溶融混練した後、造粒することによって得ることができる。
【0033】
本発明のポリエチレン製キャップの製造に用いる樹脂組成物は、JIS K6922−1に準拠し、190℃、荷重2.16kgで測定したMFRが0.1〜15.0g/10分、好ましくは0.5〜10.0g/10分、より好ましくは1.0〜5.0g/10分である。MFRが0.1g/10分未満だと、流動性が低下し、成形加工が難しくなる。また、MFRが15.0g/10分を超える場合は、ESCRが低下し、容器に装着したキャップが保管時に破壊する恐れがある。
【0034】
本発明のポリエチレン製キャップの製造に用いる樹脂組成物は、JIS K6922−1に準拠した密度が950〜965kg/mの範囲であり、好ましくは955〜960kg/mの範囲である。密度が950kg/m未満だと剛性が不足し、容器装着時にキャップが変形し易いため好ましくない。また、密度が965kg/mを超える場合は、ESCRが低下し、容器に装着したキャップが保管時に破壊する恐れがある。
【0035】
本発明のポリエチレン製キャップの製造に用いる樹脂組成物は、JIS K6922−2に準拠した曲げ弾性率が1,000〜1,700MPaの範囲である。曲げ弾性率が1,000MPa未満だとキャップの剛性が不足し、容器装着時にキャップが変形し易くなるため好ましくない。また、曲げ弾性率が1,700MPaを超える場合、キャップの剛性としては特に問題ないが、ESCR等、他の物性要件が満たせなくなるため現実性がない。
【0036】
本発明のポリエチレン製キャップの製造に用いる樹脂組成物は、JIS K6922−2に準拠した引張破壊応力が10MPa以上である。引張破壊応力が10MPa未満だと、キャップの強度が低下し、容器への装着時(巻締め時)にキャップが破壊する恐れがある。
【0037】
本発明のポリエチレン製キャップの製造に用いる樹脂組成物は、JIS K6922−2に準拠したESCRが15時間以上である。ESCRが15時間未満だと、容器に装着したキャップが保管時に破壊する恐れがある。
【0038】
本発明のポリエチレン製キャップの製造に用いる樹脂組成物は、JIS K7126−1に準拠した酸素透過度が3.5×10−13mol/(m×s×Pa)以下である。酸素透過度が3.5×10−13mol/(m×s×Pa)を超える場合は、キャップを装着した容器の気密性が不十分となり、内容物の長期保存が難しくなる。
【0039】
本発明のポリエチレン製キャップを製造するための樹脂組成物には、本発明の効果を著しく損なわない範囲において、通常用いられる公知の添加剤、例えば酸化防止剤、帯電防止剤、滑剤、アンチブロッキング剤、防曇剤、有機系あるいは無機系の顔料、紫外線吸収剤、分散剤、結晶核剤等を適宜必要に応じて配合することができる。また、ガスバリア性を有する層状珪酸塩などの層状無機化合物を配合することも可能である。
【0040】
本発明に関わる樹脂組成物に前記の添加剤を配合する方法は特に制限されるものではないが、例えば、重合後のペレット造粒工程で直接添加する方法、また、予め高濃度のマスターバッチを作製し、これを成形時にドライブレンドする方法等が挙げられる。
【0041】
また、本発明のポリエチレン製キャップを製造するための樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない程度の範囲内で、高圧法低密度ポリエチレン、エチレン−プロピレン共重合体ゴム、ポリ−1−ブテン、エチレン−ビニルアルコール共重合体、不飽和カルボン酸等をグラフトした変性ポリオレフィン等の他の熱可塑性樹脂を配合して用いることもできる。
[4]キャップ
本発明のポリエチレン製キャップは、高密度ポリエチレン(A)とエチレン系重合体(B)を含む組成物を、射出成形あるいは圧縮成形することで得ることができる。射出成形する場合は、射出成形機を用いて、前記樹脂の溶融物を樹脂キャップ用金型に圧入し、冷却固化してキャップとする。また、圧縮成形する場合は、単軸押出機を用いて前記樹脂の溶融物をダイヘッドからストランド状に押出し、ストランドカッターにより一定重量の溶融物をペレット状にカットして、成形金型の中心に落下させた後、加圧冷却してキャップとする。
【0042】
本発明のポリエチレン製キャップの用途としては、包装容器全般に使用でき、例えば、清涼飲料(炭酸飲料、果汁飲料、スポーツ飲料等)、アルコール飲料、コーヒー飲料、茶飲料、ミネラルウォーター、ドレッシング、焼き肉等用タレ、調味用ソース、マヨネーズ、サラダ油、ゴマ油等の飲料用及び食品用のキャップが挙げられる。
【発明の効果】
【0043】
本発明のポリエチレン製キャップは、成形性、成形品外観、強度、剛性、耐ストレスクラック性、食品安全性、リサイクル性に優れ、さらにガスバリア性にも優れるため、炭酸飲料のような密封性が要求される容器や内容物の酸化が問題となる容器に好適に用いることができる。
【実施例】
【0044】
以下に、実施例を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例により制限されるものではない。
A.樹脂
実施例、比較例に用いた樹脂の諸性質は下記の方法により評価した。
【0045】
<分子量、分子量分布>
重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、重量平均分子量と数平均分子量の比(Mw/Mn)およびピークトップ分子量(Mp)は、GPCによって測定した。GPC装置(東ソー(株)製(商品名)HLC−8121GPC/HT)およびカラム(東ソー(株)製(商品名)TSKgel GMHhr−H(20)HT)を用い、カラム温度を140℃に設定し、溶離液として1,2,4−トリクロロベンゼンを用いて測定した。測定試料は1.0mg/mlの濃度で調製し、0.3ml注入して測定した。分子量の検量線は、分子量既知のポリスチレン試料を用いて校正した。なお、MwおよびMnは直鎖状ポリエチレン換算の値として求めた。
【0046】
<分子量分別>
分子量分別は、カラムとしてガラスビーズ充填カラム(直径:21mm、長さ:60cm)を用い、カラム温度を130℃に設定して、サンプル1gをキシレン30mLに溶解させたものを注入する。次に、キシレン/2−エトキシエタノールの比率が5/5のものを展開溶媒として用い、留出物を除去する。その後、キシレンを展開溶媒として用い、カラム中に残った成分を留出させ、ポリマー溶液を得る。得られたポリマー溶液に5倍量のメタノールを添加しポリマー分を沈殿させ、ろ過および乾燥することにより、Mnが10万以上である成分を回収した。
【0047】
<極限粘度>
極限粘度は、以下の条件で測定した。
装置:柴山科学器械製作所製 毛細管粘度自動測定装置 SS 201−H2T
粘度管:ウベローデ改良型
溶媒:o−ジクロロベンゼン(BHT0.1%入り)
測定温度:135±0.2℃
計算方法:Mead&Fuossの式(1点法)、n=2の平均値
<長鎖分岐数>
長鎖分岐数は、日本電子(株)製JNM−GSX400型核磁気共鳴装置を用いて、13C−NMRによってヘキシル基以上の分岐数を測定した。溶媒はベンゼン−d6/オルトジクロロベンゼン(体積比30/70)である。主鎖メチレン炭素(化学シフト:30ppm)1,000個当たりの個数として、α−炭素(34.6ppm)およびβ−炭素(27.3ppm)のピークの平均値から求めた。
【0048】
<MFR>
MFR(メルトフローレート)は、JIS K6922−1に準拠して測定を行った。
【0049】
<密度>
密度は、JIS K6922−1に準拠して密度勾配管法で測定を行った。
【0050】
実施例、比較例では、下記の方法により製造した樹脂を用いた。
(1)高密度ポリエチレン(A)
(A)−1
[重合触媒の調製]
攪拌装置を備えた1リットルのガラス製フラスコに、金属マグネシウム粉末10.0g(0.412モル)およびチタンテトラブトキシド56.0g(0.165モル)を入れ、ヨウ素0.5gを溶解したn−ブタノール33.5g(0.45モル)とi−プロパノール27.2g(0.45モル)を80から90℃の温度範囲で2時間かけて加え、さらに発生する水素ガスを排除しながら窒素シール下120℃で2時間撹拌した。次いで、ヘキサン700mlを加えて、均一溶液を得た。
【0051】
この均一溶液100g(マグネシウムとして0.07モル相当を含有)を別途用意した500mlのガラス製フラスコに入れ、ジエチルアルミニウムクロライドの30%ヘキサン溶液0.14モルを1時間かけて加え、さらに60℃で1時間撹拌した。次にメチルヒドロポリシロキサン(25℃における粘度が約30センチストークス)8.4g(ケイ素0.14グラム原子)を加え、68〜70℃で1時間撹拌した。45℃に冷却後、i−ブチルアルミニウムジクロライドの50%ヘキサン溶液0.14モルを2時間かけて加えた。すべてを加えた後、70℃で1時間撹拌を行い固体触媒成分(A)を得た。得られた固体触媒成分(A)はヘキサンを用いて残存する未反応物および副生成物を除去した後、ヘキサンスラリーとしてエチレンの重合に用いた。
[(A)−1の製造]
内容積2lのステンレススチール製電磁撹拌式オートクレーブ内を十分窒素で置換し、ヘキサン1.2lを仕込み、内温を80℃に調節した。その後、触媒成分(B)としてトリ−i−ブチルアルミニウム0.23g(1.2ミリモル)および前記で得た固体触媒成分(A)7.0mgを含有するスラリーを順次添加した。オートクレーブ内圧を0.1MPaGに調節した後、水素を0.5MPa加え、次いでオートクレーブ内圧が1.2MPaGになるように、連続的にエチレンを加えながら1.5時間重合を行った。重合終了後冷却し、未反応ガスを追い出して乾燥することで218gのポリマーを得た。得られたポリマーはMFR=2.4g/10分、密度961kg/mであった。基本特性の評価結果を表1に示す。
【0052】
(A)−2
[重合触媒の調製]
(A)−1と同様の方法により重合触媒を調製した。
[(A)−2の製造]
内容積10lのステンレススチール製電磁撹拌式オートクレーブ内を十分窒素で置換し、ヘキサン6lを仕込み、内温を85℃に調節した。その後、触媒成分(B)としてトリ−i−ブチルアルミニウム1.2g(6.0ミリモル)および前記固体触媒成分(A)35mgを含有するスラリーを順次添加した。オートクレーブ内圧を0.1MPaGに調節した後、水素を2.4MPa加え、次いでオートクレーブ内圧が2.7MPaGになるように、連続的にエチレンを加え、エチレン流量を積算しながら1.5時間第一段階の重合を行った。第一段階の重合終了後、冷却して未反応ガスを追い出した後、オートクレーブ下部より少量のサンプルを採取した。(第一段階におけるエチレン系重合体(i)の極限粘度([η])は0.46dl/g、密度(d)は976kg/mであった。)引き続き、内温を80℃とし、オートクレーブ内圧を0.1MPaGに調節した後、1−ブテンを28g、水素を0.25MPa加え、次いでオートクレーブ内圧が0.75MPaGになるように連続的にエチレンを加え、エチレン流量を積算して第一段階の重合と同じエチレン流量となるまで第2段階の重合を行った。重合終了後冷却し、未反応ガスを追い出して乾燥することで1341gのポリマーを得た。得られたポリマーはMFR=2.5g/10分、密度960kg/mであった。(第二段階におけるエチレン系重合体(ii)の極限粘度([η]ii=2.12dl/g)および密度(dii=944kg/m)は、最終的に得られたポリマーと第一段階で得られたエチレン系重合体(i)の物性および生成比率から加成則に基づき推算した。)基本特性の評価結果を表1に示す。
【0053】
(A)−3
[重合触媒の調製]
(A)−1と同様の方法により重合触媒を調製した。
[(A)−3の製造]
内容積2lのステンレススチール製電磁撹拌式オートクレーブ内を十分窒素で置換し、ヘキサン1.2lを仕込み、内温を80℃に調節した。その後、触媒成分(B)としてトリ−i−ブチルアルミニウム0.23g(1.2ミリモル)および前記で得た固体触媒成分(A)8.0mgを含有するスラリーを順次添加した。オートクレーブ内圧を0.1MPaGに調節した後、水素を0.65MPa加え、次いでオートクレーブ内圧が1.3MPaGになるように、連続的にエチレンを加えながら1.5時間重合を行った。重合終了後冷却し、未反応ガスを追い出して乾燥することで225gのポリマーを得た。得られたポリマーはMFR=5.0g/10分、密度964kg/mであった。基本特性の評価結果を表1に示す。
【0054】
(A)−4
[重合触媒の調製]
(A)−1と同様の方法により重合触媒を調製した。
[(A)−4の製造]
内容積10lのステンレススチール製電磁撹拌式オートクレーブ内を十分窒素で置換し、ヘキサン6lを仕込み、内温を85℃に調節した。その後、触媒成分(B)としてトリ−i−ブチルアルミニウム1.2g(6.0ミリモル)および前記固体触媒成分(A)35mgを含有するスラリーを順次添加した。オートクレーブ内圧を0.1MPaGに調節した後、水素を1.65MPa加え、次いでオートクレーブ内圧が2.0MPaGになるように、連続的にエチレンを加え、エチレン流量を積算しながら1.5時間第一段階の重合を行った。第一段階の重合終了後、冷却して未反応ガスを追い出した後、オートクレーブ下部より少量のサンプルを採取した。(第一段階におけるエチレン系重合体(i)の極限粘度([η])は0.46dl/g、密度(d)は976kg/mであった。)引き続き、内温を80℃とし、オートクレーブ内圧を0.1MPaGに調節した後、1−ブテンを9g、水素を0.03MPa加え、次いでオートクレーブ内圧が0.3MPaGになるように連続的にエチレンを加え、エチレン流量を積算して第一段階の重合と同じエチレン流量となるまで第2段階の重合を行った。重合終了後冷却し、未反応ガスを追い出して乾燥することで1565gのポリマーを得た。得られたポリマーはMFR=0.15g/10分、密度957kg/mであった。(第二段階におけるエチレン系重合体(ii)の極限粘度([η]ii=4.07dl/g)および密度(dii=933kg/m)は、最終的に得られたポリマーと第一段階で得られたエチレン系重合体(i)の物性および生成比率から加成則に基づき推算した。)基本特性の評価結果を表1に示す。
【0055】
(A)−5
[重合触媒の調製]
(A)−1と同様の方法により重合触媒を調製した。
[(A)−5の製造]
内容積10lのステンレススチール製電磁撹拌式オートクレーブ内を十分窒素で置換し、ヘキサン6lを仕込み、内温を85℃に調節した。その後、触媒成分(B)としてトリ−i−ブチルアルミニウム1.2g(6.0ミリモル)および前記固体触媒成分(A)35mgを含有するスラリーを順次添加した。オートクレーブ内圧を0.1MPaGに調節した後、水素を1.7MPa加え、次いでオートクレーブ内圧が2.0MPaGになるように、連続的にエチレンを加え、エチレン流量を積算しながら1.5時間第一段階の重合を行った。第一段階の重合終了後、冷却して未反応ガスを追い出した後、オートクレーブ下部より少量のサンプルを採取した。(第一段階におけるエチレン系重合体(i)の極限粘度([η])は0.65dl/g、密度(d)は971kg/mであった。)引き続き、内温を75℃とし、オートクレーブ内圧を0.1MPaGに調節した後、1−ブテンを35g、水素を0.04MPa加え、次いでオートクレーブ内圧が0.4MPaGになるように連続的にエチレンを加え、エチレン流量を積算して第一段階の重合と同じエチレン流量となるまで第2段階の重合を行った。重合終了後冷却し、未反応ガスを追い出して乾燥することで1605gのポリマーを得た。得られたポリマーはMFR=0.07g/10分、密度956kg/mであった。(第二段階におけるエチレン系重合体(ii)の極限粘度([η]ii=4.70dl/g)および密度(dii=935kg/m)は、最終的に得られたポリマーと第一段階で得られたエチレン系重合体(i)の物性および生成比率から加成則に基づき推算した。)基本特性の評価結果を表1に示す。
(2)エチレン系重合体(B)
(B)−1
[変性粘土の調製]
1Lのフラスコに工業用アルコール(日本アルコール販売社製(商品名)エキネンF−3)300mL及び蒸留水300mLを入れ、濃塩酸17.5g及びジメチルベヘニルアミン(ライオン株式会社製(商品名)アーミンDM22D)49.4g(140mmol)を添加し、45℃に加熱して合成ヘクトライト(Rockwood Additives社製(商品名)ラポナイトRDS)を100g分散させた後、60℃に昇温させてその温度を保持したまま1時間攪拌した。このスラリーを濾別後、60℃の水600mLで2回洗浄し、85℃の乾燥機内で12時間乾燥させることにより132gの有機変性粘土を得た。この有機変性粘土はジェットミル粉砕して、メジアン径を15μmとした。
[重合触媒の調製]
温度計と還流管が装着された300mLのフラスコを窒素置換した後に[変性粘土の調製]で得られた有機変性粘土25.0gとヘキサンを108mL入れ、次いでジメチルシリレン(シクロペンタジエニル)(2,4,7−トリメチルインデニル)ジルコニウムジクロリドを0.4406g、及び20%トリイソブチルアルミニウム142mLを添加して60℃で3時間攪拌した。45℃まで冷却した後に上澄み液を抜き取り、200mLのヘキサンにて5回洗浄後、ヘキサンを200ml加えて触媒懸濁液を得た(固形重量分:12.4重量%)。
[(B)−1の製造]
2Lのオートクレーブにヘキサンを1.2L、20%トリイソブチルアルミニウムを1.0mL、[重合触媒の調製]で得られた触媒懸濁液を52mg(固形分6.4mg相当)加え、70℃に昇温後、1−ブテンを17.6g加え、分圧が0.80MPaになるようにエチレン/水素混合ガスを連続的に供給した(エチレン/水素混合ガス中の水素の濃度:590ppm)。90分経過後に脱圧し、スラリーを濾別後、乾燥することで61.8gのポリマーを得た。得られたポリマーのMFRは1.6g/10分、密度は930kg/mであった。また、数平均分子量は17,600、重量平均分子量は86,700であり、分子量30,500および155,300の位置にピークが観測された。また、分子量分別した際のMn10万以上のフラクション中に含まれる長鎖分岐数は、主鎖1,000炭素数あたり0.27個であった。また、分子量分別した際のMn10万以上のフラクションの割合は、全ポリマーの20.1重量%であった。基本特性の評価結果を表2に示す。
【0056】
(B)−2
[変性粘土の調製]
1Lのフラスコに工業用アルコール(日本アルコール販売社製(商品名)エキネンF−3)300mL及び蒸留水300mLを入れ、濃塩酸18.8g及びジメチルヘキサコシルアミン(MeN(C2653)、常法によって合成)49.1g(120mmol)を添加し、45℃に加熱して合成ヘクトライト(Rockwood Additives社製(商品名)ラポナイトRDS)を100g分散させた後、60℃に昇温させてその温度を保持したまま1時間攪拌した。このスラリーを濾別後、60℃の水600mLで2回洗浄し、85℃の乾燥機内で12時間乾燥させることにより140gの有機変性粘土を得た。この有機変性粘土はジェットミル粉砕して、メジアン径を14μmとした。
[重合触媒の調製]
温度計と還流管が装着された300mLのフラスコを窒素置換した後に[変性粘土の調製]で得られた有機変性粘土25.0gとヘキサンを108mL入れ、次いでジメチルシリレン(シクロペンタジエニル)(2、4,7−トリメチル−1−インデニル)ジルコニウムジクロリドを0.4406g、及び20%トリイソブチルアルミニウム142mLを添加して60℃で3時間攪拌した。45℃まで冷却した後に上澄み液を抜き取り、200mLのヘキサンにて5回洗浄後、ヘキサンを200ml加えて触媒懸濁液を得た(固形重量分:12.0重量%)
[(B)−2の製造]
2Lのオートクレーブにヘキサンを1.2L、20%トリイソブチルアルミニウムを1.0mL、[重合触媒の調製]で得られた触媒懸濁液を75mg(固形分9.0mg相当)加え、80℃に昇温後、1−ブテンを8.3g加え、分圧が0.85MPaになるようにエチレン/水素混合ガスを連続的に供給した(エチレン/水素混合ガス中の水素の濃度:850ppm)。90分経過後に脱圧し、スラリーを濾別後、乾燥することで58.5gのポリマーを得た。得られたポリマーのMFRは4.0g/10分、密度は941kg/mであった。また、数平均分子量は21,200、重量平均分子量は74,000であり、分子量41,500および217,100の位置にピークが観測された。また、分子量分別した際のMn10万以上のフラクション中に含まれる長鎖分岐数は、主鎖1,000炭素数あたり0.18個であった。また、分子量分別した際のMn10万以上のフラクションの割合は、全ポリマーの14.8重量%であった。基本特性の評価結果を表2に示す。
【0057】
(B)−3
[変性粘土の調製]
1Lのフラスコに工業用アルコール(日本アルコール販売社製(商品名)エキネンF−3)300mL及び蒸留水300mLを入れ、濃塩酸15.0g及びジメチルベヘニルアミン(ライオン株式会社製(商品名)アーミンDM22D)42.4g(120mmol)を添加し、45℃に加熱して合成ヘクトライト(Rockwood Additives社製(商品名)ラポナイトRDS)を100g分散させた後、60℃に昇温させてその温度を保持したまま1時間攪拌した。このスラリーを濾別後、60℃の水600mLで2回洗浄し、85℃の乾燥機内で12時間乾燥させることにより122gの有機変性粘土を得た。この有機変性粘土はジェットミル粉砕して、メジアン径を15μmとした。
[重合触媒の調製]
温度計と還流管が装着された300mLのフラスコを窒素置換した後に[変性粘土の調製]で得られた有機変性粘土25.0gとヘキサンを108mL入れ、次いでジメチルシリレン(シクロペンタジエニル)(2,4,7−トリメチル−1−インデニル)ジルコニウムジクロリドを0.4406g、及び20%トリイソブチルアルミニウム142mLを添加して60℃で3時間攪拌した。45℃まで冷却した後に上澄み液を抜き取り、200mLのヘキサンにて5回洗浄後、ヘキサンを200ml加えて触媒懸濁液を得た(固形重量分:11.5重量%)。
[(B)−3の製造]
2Lのオートクレーブにヘキサンを1.2L、20%トリイソブチルアルミニウムを1.0mL、[重合触媒の調製]で得られた触媒懸濁液を70mg(固形分8.4mg相当)加え、80℃に昇温後、1−ブテンを2.4g加え、分圧が0.90MPaになるようにエチレン/水素混合ガスを連続的に供給した(エチレン/水素混合ガス中の水素の濃度:720ppm)。90分経過後に脱圧し、スラリーを濾別後、乾燥することで63.0gのポリマーを得た。得られたポリマーのMFRは11.5g/10分、密度は954kg/mであった。また、数平均分子量は16,200、重量平均分子量は58,400であり、分子量28,200および181,000の位置にピークが観測された。また、分子量分別した際のMn10万以上のフラクション中に含まれる長鎖分岐数は、主鎖1,000炭素数あたり0.16個であった。また、分子量分別した際のMn10万以上のフラクションの割合は、全ポリマーの6.8重量%であった。基本特性の評価結果を表2に示す。
【0058】
(B)−4
[変性粘土の調製]
1Lのフラスコに工業用アルコール(日本アルコール販売社製(商品名)エキネンF−3)300mL及び蒸留水300mLを入れ、濃塩酸20.0g及びジメチルベヘニルアミン(ライオン株式会社製(商品名)アーミンDM22D)56.5g(160mmol)を添加し、45℃に加熱して合成ヘクトライト(Rockwood Additives社製(商品名)ラポナイトRDS)を100g分散させた後、60℃に昇温させてその温度を保持したまま1時間攪拌した。このスラリーを濾別後、60℃の水600mLで2回洗浄し、85℃の乾燥機内で12時間乾燥させることにより145gの有機変性粘土を得た。この有機変性粘土はジェットミル粉砕して、メジアン径を15μmとした。
[重合触媒の調製]
温度計と還流管が装着された300mLのフラスコを窒素置換した後に(1)で得られた有機変性粘土25.0gとヘキサンを108mL入れ、次いでジメチルシリレン(シクロペンタジエニル)(2,4,7−トリメチル−1−インデニル)ジルコニウムジクロリドを0.4406g、及び20%トリイソブチルアルミニウム142mLを添加して60℃で3時間攪拌した。45℃まで冷却した後に上澄み液を抜き取り、200mLのヘキサンにて5回洗浄後、ヘキサンを200ml加えて触媒懸濁液を得た(固形重量分:11.2重量%)。
[(B)−4の製造]
2Lのオートクレーブにヘキサンを1.2L、20%トリイソブチルアルミニウムを1.0mL、[重合触媒の調製]で得られた触媒懸濁液を74mg(固形分8.3mg相当)加え、65℃に昇温後、1−ブテンを17.5g加え、分圧が0.75MPaになるようにエチレン/水素混合ガスを連続的に供給した(エチレン/水素混合ガス中の水素の濃度:570ppm)。90分経過後に脱圧し、スラリーを濾別後、乾燥することで51.5gのポリマーを得た。得られたポリマーのMFRは0.8g/10分、密度は928kg/mであった。また、数平均分子量は17,900、重量平均分子量は99,300であり、分子量28,100および229,100の位置にピークが観測された。また、分子量分別した際のMn10万以上のフラクション中に含まれる長鎖分岐数は、主鎖1,000炭素数あたり0.26個であった。また、分子量分別した際のMn10万以上のフラクションの割合は、全ポリマーの25.4重量%であった。基本特性の評価結果を表2に示す。
【0059】
(B)−5
[変性粘土の調製]
1Lのフラスコに工業用アルコール(日本アルコール販売社製(商品名)エキネンF−3)300mL及び蒸留水300mLを入れ、濃塩酸15.0g及びジメチルベヘニルアミン(ライオン株式会社製(商品名)アーミンDM22D)42.4g(120mmol)を添加し、45℃に加熱して合成ヘクトライト(Rockwood Additives社製(商品名)ラポナイトRDS)を100g分散させた後、60℃に昇温させてその温度を保持したまま1時間攪拌した。このスラリーを濾別後、60℃の水600mLで2回洗浄し、85℃の乾燥機内で12時間乾燥させることにより122gの有機変性粘土を得た。この有機変性粘土はジェットミル粉砕して、メジアン径を15μmとした。
[重合触媒の調製]
温度計と還流管が装着された300mLのフラスコを窒素置換した後に[変性粘土の調製]で得られた有機変性粘土25.0gとヘキサンを108mL入れ、次いでジメチルシリレン(シクロペンタジエニル)(2,4,7−トリメチル−1−インデニル)ジルコニウムジクロリドを0.4406g、及び20%トリイソブチルアルミニウム142mLを添加して60℃で3時間攪拌した。45℃まで冷却した後に上澄み液を抜き取り、200mLのヘキサンにて5回洗浄後、ヘキサンを200ml加えて触媒懸濁液を得た(固形重量分:11.5重量%)。
[(B)−5の製造]
2Lのオートクレーブにヘキサンを1.2L、20%トリイソブチルアルミニウムを1.0mL、[重合触媒の調製]で得られた触媒懸濁液を90mg(固形分10.4mg相当)加え、65℃に昇温後、1−ブテンを17.5g加え、分圧が0.75MPaになるようにエチレン/水素混合ガスを連続的に供給した(エチレン/水素混合ガス中の水素の濃度:550ppm)。90分経過後に脱圧し、スラリーを濾別後、乾燥することで61.4gのポリマーを得た。得られたポリマーのMFRは0.08g/10分、密度は926kg/mであった。また、数平均分子量は21,900、重量平均分子量は127,000であり、分子量31,300および247,800の位置にピークが観測された。また、分子量分別した際のMn10万以上のフラクション中に含まれる長鎖分岐数は、主鎖1,000炭素数あたり0.32個であった。また、分子量分別した際のMn10万以上のフラクションの割合は、全ポリマーの36.9重量%であった。基本特性の評価結果を表2に示す。
【0060】
(B)−6
[変性粘土の調製]
1Lのフラスコに工業用アルコール(日本アルコール販売社製(商品名)エキネンF−3)300mL及び蒸留水300mLを入れ、濃塩酸15.0g及びジメチルベヘニルアミン(ライオン株式会社製(商品名)アーミンDM22D)42.4g(120mmol)を添加し、45℃に加熱して合成ヘクトライト(Rockwood Additives社製(商品名)ラポナイトRDS)を100g分散させた後、60℃に昇温させてその温度を保持したまま1時間攪拌した。このスラリーを濾別後、60℃の水600mLで2回洗浄し、85℃の乾燥機内で12時間乾燥させることにより122gの有機変性粘土を得た。この有機変性粘土はジェットミル粉砕して、メジアン径を15μmとした。
[重合触媒の調製]
温度計と還流管が装着された300mLのフラスコを窒素置換した後に[変性粘土の調製]で得られた有機変性粘土25.0gとヘキサンを108mL入れ、次いでジメチルメチレン(シクロペンタジエニル)(2,7−ジ−t−ブチル−9−フルオレニル)ジルコニウムジクロリド/0.5447g、及び20%トリイソブチルアルミニウム142mLを添加して60℃で3時間攪拌した。45℃まで冷却した後に上澄み液を抜き取り、200mLのヘキサンにて5回洗浄後、ヘキサンを200ml加えて触媒懸濁液を得た。(固形重量分:10.9wt%)
[(B)−6の製造]
2Lのオートクレーブにヘキサンを1.2L、20%トリイソブチルアルミニウムを1.0mL、[重合触媒の調製]で得られた触媒懸濁液を86mg(固形分9.4mg相当)加え、65℃に昇温後、1−ブテンを17.5g加え、分圧が0.75MPaになるようにエチレン/水素混合ガスを連続的に供給した(エチレン/水素混合ガス中の水素の濃度:610ppm)。90分経過後に脱圧し、スラリーを濾別後、乾燥することで17.9gのポリマーを得た。得られたポリマーのMFRは5.0g/10分、密度は910kg/mであった。また、数平均分子量は28,000、重量平均分子量は82,300であり、分子量42,500および260,900の位置にピークが観測された。また、分子量分別した際のMn10万以上のフラクション中に含まれる長鎖分岐数は、主鎖1,000炭素数あたり0.40個であった。また、分子量分別した際のMn10万以上のフラクションの割合は、全ポリマーの39.8wt%であった。基本特性の評価結果を表2に示す。
【0061】
(S)−1
東ソー(株)製、(商品名)ペトロセン 219(MFR=3.0g/10分、密度=934kg/m)(S)−1の基本特性評価結果を表2に示す。
【0062】
(S)−2
日本ポリオレフィン(株)製、(商品名)RS1000(MFR=0.1g/10分、密度=953kg/m)(S)−2の基本特性評価結果を表2に示す。
【0063】
【表1】
【0064】
【表2】
B.樹脂組成物およびキャップ
実施例、比較例に用いた樹脂組成物およびキャップは下記の方法により評価した。
【0065】
<MFR>
MFR(メルトフローレート)は、JIS K6922−1に準拠して測定を行った。
【0066】
<密度>
密度は、JIS K6922−1に準拠して密度勾配管法で測定を行った。
【0067】
<曲げ弾性率>
曲げ弾性率は、射出成形体により、JIS K6922−2に準拠して測定を行った。
【0068】
<引張破壊応力>
引張破壊応力は、射出成形体により、JIS K6922−2に準拠して測定を行った。
【0069】
<ESCR>
ESCRは、圧縮成形体により、JIS K6922−2に準拠して測定を行った。
【0070】
<酸素透過度>
酸素透過度は、圧縮成形シート(寸法150mm×150mm×0.5mm)を用いて、JIS K7126 A法(差圧法)に準拠して測定を行った。尚、測定条件は、雰囲気温度23±2℃、試験圧力100kPa、使用セル10cc、測定直径70mmとした。
【0071】
<キャップの成形方法>
東芝機械(株)製射出成形機「IS150EN−9Y」と28mm口径樹脂キャップ用金型を用い、シリンダー温度180℃、金型温度40℃にて射出成形した。
【0072】
<樹脂キャップの成形性>
上記方法により成形したキャップのうち、形状が良好であったキャップの割合を目視にて評価した。形状が良好であったキャップの割合が98%以上の場合を成形性が良いとした。
【0073】
実施例1
高密度ポリエチレン[(A)−1]90重量%とエチレン系重合体[(B)−1]10重量%を単軸押出機により溶融混練してペレット状の樹脂組成物を作製した。次いで、この樹脂組成物を圧縮成形機、射出成形機によりシートおよびキャップ形状に成形して、物性およびキャップ成形性を評価した。結果を表3に示す。
【0074】
実施例2〜5、比較例1〜9
樹脂を表3および表4に示すように変更した以外は、実施例1と同様にしてシートおよびキャップを作製し、評価を行った。結果を表3および表4に示す。
【0075】
【表3】
【0076】
【表4】