特許第6500479号(P6500479)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6500479親水性重合体、その製造方法、及びそれを用いたバインダー並びに電極
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6500479
(24)【登録日】2019年3月29日
(45)【発行日】2019年4月17日
(54)【発明の名称】親水性重合体、その製造方法、及びそれを用いたバインダー並びに電極
(51)【国際特許分類】
   C08G 18/60 20060101AFI20190408BHJP
   C08G 18/12 20060101ALI20190408BHJP
   C08G 73/10 20060101ALI20190408BHJP
   C08L 75/04 20060101ALI20190408BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20190408BHJP
【FI】
   C08G18/60
   C08G18/12
   C08G73/10
   C08L75/04
   H01M4/62 Z
【請求項の数】10
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2015-26942(P2015-26942)
(22)【出願日】2015年2月13日
(65)【公開番号】特開2016-121317(P2016-121317A)
(43)【公開日】2016年7月7日
【審査請求日】2018年1月16日
(31)【優先権主張番号】特願2014-25621(P2014-25621)
(32)【優先日】2014年2月13日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2014-263542(P2014-263542)
(32)【優先日】2014年12月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】吉田 圭介
(72)【発明者】
【氏名】粟野 裕
【審査官】 松浦 裕介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−129770(JP,A)
【文献】 特開2013−256666(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/074439(WO,A1)
【文献】 特開2011−137063(JP,A)
【文献】 特開2013−097906(JP,A)
【文献】 特開平08−208835(JP,A)
【文献】 米国特許第05773559(US,A)
【文献】 特開平08−231719(JP,A)
【文献】 米国特許第05686559(US,A)
【文献】 特開2000−204250(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC C08G 18/00 − 18/87
C08G 71/00 − 71/04
C08G 73/00 − 73/26
H01M 4/00 − 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されることを特徴とする親水性重合体。
【化1】
(式中、Rは炭素数4〜30の2価の有機基を表し、Rは数平均分子量が100〜10,000の直鎖若しくは分枝状の炭素数2〜5のポリオキシアルキレン構造を有する2価の有機基を表し、Rは炭素数4〜30の芳香環を1又は2個含有する3価以上の有機基を表し、Rは炭素数4〜30の4価の有機基を表し、Xはカルボキシル基又はスルホン酸基を表し、xは1〜800の整数を表し、yは1〜800の整数を表し、zは1〜100の整数を表し、aは1〜4の整数を表す。ただし、Xがカルボキシル基の場合、Rの芳香環の数は1であり、aは1である。さらに、式(1)中、下記式(2)で表される構造が10〜99重量%であり、式(3)で表されるウレタンユニット構造のモル数Aに対する式(2)で表されるイミドユニット構造のモル数Bの比率(B/A)が1〜30である。)
【化2】
(式中、R、R、X、y及びaは前記の定義と同じである。但し、Xがカルボキシル基の場合、Rの芳香環の数は1であり、aは1である。)
【化3】
(式中、R、R及びxは前記の定義と同じである。)
【請求項2】
T字剥離試験(引張速度300mm/分)における、銅との初期接着力が0.05N/mm以上である請求項1に記載の親水性重合体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の親水性重合体の製造方法であり、下記式(4)で表されるウレタンプレポリマー(A)と、下記式(5)で表されるポリイミドプレポリマー(B)とを、反応時におけるポリイミド分率([(B)の重量]/[(A)の重量+(B)の重量]×100)が10〜99重量%であり、かつ、式(4)で表されるウレタンプレポリマーに対する式(5)で表されるポリイミドプレポリマーのモル比が1以上30以下で反応させることを特徴とする製造方法。
【化4】
(式中、R、R及びxは前記の定義と同じである。)
【化5】
(式中、R、R、X、y及びaは前記の定義と同じである。但し、Xがカルボキシル基の場合、Rの芳香環の数は1であり、aは1である。)
【請求項4】
ウレタンプレポリマー(A)が、下記式(6)で表されるジイソシアネートと下記式(7)で表されるポリオールとを、イソシアネート基と水酸基のモル比(イソシアネート基/水酸基)が1〜2の範囲で反応させて得られる、請求項3に記載の親水性重合体の製造方法。
【化6】
(式中、Rは前記の定義と同じである。)
【化7】
(式中、Rは前記の定義と同じである。)
【請求項5】
ポリイミドプレポリマー(B)が、下記式(8)で表されるジアミンと下記式(9)で表されるテトラカルボン酸二無水物とを、ジアミンとテトラカルボン酸二無水物のモル比(ジアミン/テトラカルボン酸二無水物)が1より大きく2以下の範囲で反応させて得られる、請求項3又は請求項4に記載の親水性重合体の製造方法。
【化8】
(式中、R、X及びaは前記の定義と同じである。但し、Xがカルボキシル基の場合、Rの芳香環の数は1であり、aは1である。)
【化9】
(式中、Rは前記の定義と同じである。)
【請求項6】
請求項1又は2に記載の親水性重合体にアルカリ金属の水酸化物、アルカリ金属の炭酸塩、3級アミン化合物、4級アミン化合物又はアンモニアを反応させて得られる、親水性重合体の塩。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の親水性重合体及び/又は請求項6に記載の親水性重合体の塩を、水、有機溶媒又は含水有機溶媒に溶かしてなる、バインダー用溶液。
【請求項8】
請求項7に記載のバインダー用溶液を乾燥して得られる二次電池用バインダー。
【請求項9】
請求項1又は2に記載の親水性重合体及び/又は請求項6に記載の親水性重合体の塩を含む電極。
【請求項10】
請求項9に記載の電極からなるリチウムイオン2次電池用電極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた親水性を持ちながら、柔軟であり、かつ、金属との優れた接着性を示す親水性重合体、その製造方法、それを使用するバインダー、及び該バインダーを使用する電極に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン二次電池に代表される二次電池は、充電可能な高容量電池として、電子機器の高機能化、長時間動作を可能にした。さらに自動車などに搭載され、ハイブリッド車、電気自動車の電池として有力視されている。リチウムイオン電池のエネルギー密度をさらに高めるために、負極活物質として高い充放電の理論容量を有するシリコン、ゲルマニウムまたはスズ等を用いることが検討されている(特許文献1参照)。
【0003】
一般にリチウムイオン二次電池として充放電特性を維持するためには活性物質と集電体とが安定に近接した状態を保つ必要があり、集電体との接着性の良いバインダーが求められる。それに対して、これまで汎用に用いられたバインダーとしては、非水系のポリフッ化ビニリデン(PVDF)又は水系で分散性の良いスチレンブタジエン共重合体(SBR)などが主流であった。
【0004】
しかしながら、上記負極活物質を用いたリチウムイオン二次電池においては、充放電に伴い負極活物質の膨張収縮が起こり、バインダー樹脂が柔軟性と接着性の両立が不足しているため、破壊されたり、負極活物質及び負極集電体とバインダー樹脂との界面での剥離が発生して充放電サイクル特性が低下する場合があるという課題があった。
【0005】
そこで、シリコンを含む負極活物質を、特定ポリイミド樹脂やポリアミドイミド樹脂で結着して負極を得ることで、サイクル特性の向上を図る技術(特許文献2、3参照)などが知られている。
【0006】
特許文献2は、高い樹脂強度をもつ非水系ポリイミド樹脂を用いて負極集電体とバインダーとの界面で剥離が生じるのを抑制しサイクル特性を向上させている。しかし、バインダー前躯体からの脱水縮合には高温での熱処理が必用で、集電体への影響が懸念される。また、ポリイミド単体のため、硬い物性を有して弾性及び柔軟性が十分ではなく、接着性が疑問視される。
【0007】
特許文献3は、芳香族イミド基とガラス転移点が30℃以下の単独ポリマーを形成し得るソフトセグメントを含有するウレタン樹脂を非水系の結着剤として、
比較的低温で銅箔と剥離しない接着性の良好な負極を作成している。
同様に特許文献4でも、前駆体のポリアミック酸から高温熱処理での脱水反応でポリイミドを得る際にポリイミドが収縮し負極板が屈曲する問題があり、解決策として、負極活物質組成物は、負極活物質、ポリイミド前駆体化合物及び高柔軟性高分子を含むことで極板の屈曲を防ぐことができ、容量特性及び寿命特性の向上をさせることができるとしている。
【0008】
しかし、塗工溶液は有機溶媒系のNMPであり、活物質表面への皮膜形成の恐れがあり、また親水性の点で満足できるものではない。
【0009】
一般的に柔軟性なポリイミド樹脂やポリイミドエラストマーも知られているが(非特許文献1、特許文献5参照)、特別に親水性を意図したものではないため、使用した際に水分散性が得られず、親水性の点で満足できるものではない。以上から、これまでの電池用ポリイミド樹脂は、一般的に前駆体からイミド化させるためには200〜350℃の熱処理を必要としていたが、今後は、活性物質を被膜しない水系かつ150℃以下の熱処理でも従来のポリイミド樹脂と同等かそれ以上のバインダー性能が得られるような材料が開発されれば、Si系負極の実用化が急激に進むと期待される(非特許文献2参照)。
環境負荷が小さく、溶液安定性に優れた微粒子を水中に均一分散できる水酸基、カルボキシル基、またはスルホン酸基を有するポリイミド系樹脂が注目されている(特許文献6参照)。
【0010】
しかしながら、これらのポリマーは柔軟性、及び集電体との接着性の点で満足できるものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2009−199761号公報
【特許文献2】特開2008−34352号公報
【特許文献3】特開2000−200608号公報
【特許文献4】特開2008−135384号公報
【特許文献5】特開2013−129770号公報
【特許文献6】特開2011−137063号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】手銭英之、椎葉哲郎、古川睦久、「ポリイミドウレタンエラストマーの合成と物性」、エラストマー討論会要旨集、1999年、p72−75
【非特許文献2】中村彰宏、「次世代蓄電池最新材料技術と性能評価」、株式会社技術情報協会、2013年、p166−167
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、極めて優れた親水性を持ちながら、柔軟であり、かつ、金属との優れた接着性を示す親水性重合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために本発明者等が検討を行った結果、特定の組成を持つ重合体について、極めて優れた親水性を持ちながら、柔軟であり、かつ、金属と優れた接着性を示し、バインダー用として適する親水性重合体が得られことを見出した。
【0015】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
【0016】
本発明の親水性重合体は、下記一般式(1)で表される構造を持つものである。
【0017】
【化1】
(式中、Rは炭素数4〜30の2価の有機基を表し、Rは平均分子量が100〜10,000の直鎖若しくは分枝状の炭素数2〜5のポリオキシアルキレン構造を有する2価の有機基を表し、Rは炭素数4〜30の芳香環を1又は2個含有する3価以上の有機基を表し、Rは炭素数4〜30の4価の有機基を表し、Xはカルボキシル基又はスルホン酸基を表し、xは1〜800の整数を表し、yは1〜800の整数を表し、zは1〜100の整数を表し、aは1〜4の整数を表す。ただし、Xがカルボキシル基の場合、Rの芳香環の数は1であり、aは1である。さらに、式(1)中、下記式(2)で表される構造が10〜99重量%であり、式(3)で表されるウレタンユニット構造のモル数Aに対する式(2)で表されるイミドユニット構造のモル数Bの比率(B/A)が1〜30である。)
【0018】
【化2】
(式中、R、R、X、y及びaは前記の定義と同じである。但し、Xがカルボキシル基の場合、Rの芳香環の数は1であり、aは1である。)
【0019】
【化3】
(式中、R、R及びxは前記の定義と同じである。)
式(1)は、繰返し単位中に少なくとも一つのカルボキシル基又はスルホン酸基を持つイミドユニットとウレタンユニットがウレア結合を介して結ばれることを特徴としている。
【0020】
は好ましくは炭素数4〜15の芳香環または脂肪族環を含む2価の有機基である。Rは、平均分子量が好ましくは100〜5,000であり、更に好ましくは100〜2,000である。Rは好ましくは炭素数6〜20の芳香環を1〜2含有する3価以上の有機基を表す。xは好ましくは1〜600の整数を表す。yは好ましくは2〜600の整数を表す。本発明の親水性重合体は、芳香環とカルボキシル基又はスルホン酸基を組み合わせることで、極めて優れた接着性と親水性を示す。
【0021】
本発明の親水性重合体は、バインダーに用いることに適しているが、特に限定されるものでは無い。ここに、バインダーとは、集電体金属と活物質を結合させるものをいい、特に二次電池用のバインダーをいう。
【0022】
本発明の親水性重合体は、構造中に剛直なポリイミド構造単位と、柔軟なポリアルキレン構造を有するものである。
【0023】
本発明の親水性重合体は、構造の中に、ポリイミドプレポリマーにより剛直なハードセグメントとしてポリイミド構造単位を有し、更にポリイミド構造単位にカルボキシル基又はスルホン酸基を有する。このような置換基を有することで、柔軟で、かつ、金属と優れた接着性を示す。
【0024】
本発明の親水性重合体は、特に二次電池用としての使用を想定した条件下では、電気化学的に安定な親水性重合体である。例えば、リチウムイオン二次電池用として使用可能な電位の範囲では、サイクリックボルタンメトリで酸化及び還元反応が観察されず、安定な親水性重合体であることはこれまで知られていなかった。
【0025】
さらに、本発明の親水性重合体は、構造の中にポリイミド構造単位と同時にウレタンプレポリマーよりソフトセグメントとして導入されるポリオキシアルキレン構造を、イソシアネートとアミノ基の反応により生成するウレア結合を介して導入することで、柔軟性に欠け耐屈曲性に劣るポリイミド構造に、耐久性と柔軟性を付与でき、柔軟で金属との接着性の優れた親水性重合体にできる。
【0026】
本発明の親水性重合体は、式(2)に記載の構造を親水性と接着力のバランスの点で10〜99重量%、好ましくは10〜98重量%含むものである。親水性を良くする点で、より好ましくは40〜98重量%、さらに好ましくは50〜95重量%であり、特に好ましくは最も親水性と接着力とのバランスが優れていることから60〜98重量%である。10重量%未満では、親水性が劣り、99重量%を超えると柔軟性が不足する。
【0027】
本発明の親水性重合体は、式(3)で表されるウレタンユニット構造のモル数Aに対する式(2)で表されるイミドユニット構造のモル数Bの比率(B/A)が親水性と接着力のバランスの点で、1以上30以下であり、好ましくは1より大きく30以下であり、親水性を良くする点で、より好ましくは1より大きく10以下であり、更に親水性を改良する点で、さらに好ましくは1より大きく5以下であり、最も親水性と接着力とのバランスが優れることから、最も好ましくは1より大きく2以下である。1未満の場合は、原因は不明であるが、反応中に高粘度化してしまい親水性重合体が得られない。おそらく親水性重合体の鎖の末端がポリイミド構造となる方が、水酸基やアミノ基と高い反応性を有するイソシアナート基を持つポリウレタン構造となるより安定な為と推定される。比率(B/A)が30を超えると親水性、及び接着力が低下してしまい、好ましくない。
【0028】
本発明の親水性重合体は、二次電池、中でも特にリチウムイオン二次電池用として、電極活物質と電極との結合力が強いため好ましい。特に、金属である銅に対して優れた接着性を表す、T字剥離試験(引張速度300mm/分)における銅との初期接着力が0.05N/mm以上であることが好ましい。さらに好ましくは1.0N/mm以上である。本発明の親水性重合体を二次電池用として使用する場合、銅の他に、アルミニウム、鉄、ステンレス等を用いることができる。
【0029】
本発明の親水性重合体は、ジイソシアネートとポリオールとの反応で得られる下記式(4)で表されるウレタンプレポリマーと、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを溶媒中で重縮合しポリアミド酸を経て、イミド環化させて得られた下記式(5)で表される両末端にアミノ基を有するポリイミドプレポリマーとを反応することにより得ることができる。
【0030】
【化4】
(式中、R、R及びxは前記の定義と同じである。)
【0031】
【化5】
(式中、R、R、X、y及びaは前記の定義と同じである。但し、Xがカルボキシル基の場合、Rの芳香環の数は1であり、aは1である。)
本発明の親水性重合体の製造のために用いられる式(4)で表されるウレタンプレポリマーは、下記式(6)で表されるジイソシアネートと下記式(7)で表されるポリオールとの反応の際に、イソシアネート基とポリオール中の水酸基のモル比(イソシアネート基/水酸基)を1〜2の範囲にして反応することにより得ることができる。
【0032】
【化6】
(式中、Rは前記の定義と同じである。)
【0033】
【化7】
(式中、Rは前記の定義と同じである。)
式(6)で表されるジイソシアネートとしては、例えば、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、2,4−トリレンジイソシアネート(TDI)、2,6−トリレンジイソシアネート(TDI)、ポリメリックMDI、ジアニシジンジイソシアネート、ジフェニルエーテルジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネートメチルエステル、メタキシリレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、イソプロピリデンビス(4−シクロヘキシルイソシアネート)、シクロヘキシルメタンジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート2量体等が挙げられる。これらは1種又は2種以上を混合して用いてもよい。
【0034】
一般式(7)で表されるポリオールとしては、例えば、ポリオキシテトラメチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール等のポリエーテルポリオール等が挙げられる。これらは1種又は2種以上を混合して用いてよい。また、必要に応じて、ポリブタジエンポリオール、アクリルポリオール等を混合して使用することもできる。
【0035】
ウレタンプレポリマーは、例えば、アルゴンガス、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気下、ジイソシアネートとポリオールとを所定の割合で混合して、反応させることで得ることができる。ジイソシアネート中のイソシアネートとポリオール中の水酸基の割合はイソシアネート/水酸基の仕込み比率(モル比)が1に近いほどウレタンプレポリマーの重合度は大きくなり、分子量が増加する。
【0036】
本発明においてはイソシアネート/水酸基の仕込み比率(モル比)は、1〜2、好ましくは1より大きく2以下であり、ポリイミドプレポリマーとの反応性を考慮すると1.01〜2がより好ましく、1.02〜2がさらに好ましい。イソシアネート/水酸基の仕込み比率(モル比)が1未満の場合は両末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーとならないため、好ましくない。
【0037】
ウレタンプレポリマーの調製において、反応は通常用いられるジイソシアネートの反応性に応じて室温〜140℃で、触媒の非存在下又は存在下で行われる。触媒としては、例えば、有機スズ化合物、アミン化合物等が挙げられる。有機スズ化合物としては、例えば、二酢酸ジブチルスズ、ジラウリン酸ジブチルスズ、ジオクチルスズジラウレート、ビスアセト酢酸ジブチルスズ、オクタン酸スズ等を挙げることができる。アミン化合物としては、例えば、1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン等を挙げることができる。任意に溶媒の存在下又は非存在下で反応することも可能である。溶媒としては、例えば、アセトン、ブタノン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメトキシエタン、メトキシプロピルアセタート、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N,N’−ジメチル−2,5−ジアザペンタノン、N−メチル−2−ピロリドン等が挙げられる。反応時間としては、1〜24時間が好ましい。
【0038】
本発明の親水性重合体の製造のために用いられる式(5)で表されるポリイミドプレポリマーは、下記式(8)で表されるジアミンと下記式(9)で表されるテトラカルボン酸二無水物との反応において、ジアミンとテトラカルボン酸二無水物のモル比(ジアミン/テトラカルボン酸二無水物)が1より大きく2以下で反応後、脱水イミド化により得ることができる。
【0039】
【化8】
(式中、R、X及びaは前記の定義と同じである。但し、Xがカルボキシル基の場合、Rの芳香環の数は1であり、aは1である。)
【0040】
【化9】
(式中、Rは前記の定義と同じである。)
式(8)で表されるジアミンとしては、例えば、3,5−ジアミノ安息香酸、3,4−ジアミノ安息香酸、2,4−ジアミノ安息香酸、3,5−ジアミノ−トリメチルベンゼンスルホン酸、2,2’−ジスルホン酸ベンジジン、1,4−ジアミノベンゼン−3−スルホン酸、1,3−ジアミノベンゼン−4−スルホン酸、4,4’−ジアミノ−5,5’−ジメチル−(1,1’−ビフェニル)−2,2’−ジスルホン酸ベンジジン等が挙げられる。必要に応じこれらを2種以上使用してもよい。さらに必要に応じて、パラフェニレンジアミン、メタフェニレンジアミン、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルサルファイド、3,3’−ジアミノジフェニルサルファイド、ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)メチレン、ビス(4−アミノ−3−ヒドロキシフェニル)メチレンを混合して使用することもできる。
【0041】
式(9)で表されるテトラカルボン酸二無水物としては、例えば、4,4’−オキシジフタル酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸二無水物、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−パラターフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−メタターフェニルテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。必要に応じこれらを2種以上使用してもよい。本発明においては必要に応じて、これらの化合物の水素原子1〜4個を、カルボキシル基、スルホン酸基又は水酸基により置換したものを使用することもできる。
【0042】
ポリイミドプレポリマーは、例えば、アルゴンガス、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気下、有機溶媒中で、ジアミンとテトラカルボン酸二無水物とを所定の割合で混合して反応させ、ポリアミド酸とした後、更にイミド環化反応を経て得ることができる。ポリイミドプレポリマーを合成する際の重縮合は、通常の重縮合反応と同様に、ジアミン/テトラカルボン酸二無水物の仕込み比率(モル比)が1に近いほど、生成するポリアミド酸の重合度は大きくなり、分子量が増加する。本発明においては、ジアミン/テトラカルボン酸二無水物の仕込み比率(モル比)は、1より大きく2以下であり、ポリイミドプレポリマーとの反応性を考慮すると1.01〜2が好ましい。ジアミン/テトラカルボン酸二無水物の仕込み比率(モル比)が1以下の場合は両末端にアミノ基のポリイミドプレポリマーとならないため、好ましくない。
【0043】
ポリイミドプレポリマーを合成する際に用いられる有機溶媒としては、テトラカルボン酸二無水物とジアミンに対して不活性であり、生成したポリアミド酸が溶解するものであれば特に限定するものではなく、例えば、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N,N’−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチルカプロラクタム、γ−ブチロラクトン、ジメチルイミダゾリン、スルホラン、メチルイソブチルケトン、アセトニトリル、ベンゾニトリル、フェノール、m−クレゾール、クロロフェノール、4−メチルフェノール、ニトロフェノール等の有機溶媒を挙げることができ、1種又は2種以上を用いることができる。有機溶媒の使用量としては、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの反応が効率よく進行できる量であれば特に限定するものではないが、テトラカルボン酸二無水物とジアミンを合わせた濃度が1〜50重量%となるようにすることが好ましく、より好ましくは、5〜40重量%である。また、反応に支障のない任意の割合で、トルエン、アセトン、テトラヒドロフラン、キシレン等を添加することができる。
【0044】
一般には、これらの有機溶媒中でテトラカルボン酸二無水物とジアミンを100℃以下、好ましくは10〜90℃の温度で反応させることにより、ポリイミド前駆体であるポリアミド酸を得る。その後、好ましくは100〜300℃の反応温度でイミド化を行い、ポリイミドプレポリマーを得ることができる。イミド化の際に、トリエチルアミン、イソキノリン、ピリジン、メチルモルホリンなどの塩基を触媒として添加することができる。更に副生する水をトルエンなどの非極性溶媒と共沸させて系外に除去し、反応を進行させることもできる。必要であれば、水、メタノール、エタノール等のポリイミドプレポリマーが不溶な溶媒に反応液を添加し、ポリマーを析出させ、乾燥してポリイミドプレポリマーを取り出すことができる。また、ポリイミドプレポリマーを単離することなく、ポリイミドプレポリマーの反応液をウレタンプレポリマーとの反応に用いることができる。
【0045】
ウレタンプレポリマーとポリイミドプレポリマーの反応は、任意で有機溶媒の存在下又は無溶媒化のいずれの条件で行うことができる。有機溶媒の存在下で行う場合には、ウレタンプレポリマーとポリイミドプレポリマーを所定の割合で有機溶媒に加えて混合して、アルゴンガス、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気下で反応を行い、親水性重合体を含有する反応液を得るのが好ましい。反応液を、電極活物質と混練してバインダーとして塗布するためには、不溶なゲル分の無い均一な反応液となることが好ましい。
【0046】
ウレタンプレポリマーとポリイミドプレポリマーを反応して得られた親水性重合体を含有する反応液は、ウレタン部位に起因する柔軟な相が存在するため、低温(25℃以下)のガラス転移温度を示す。
【0047】
本発明の親水性重合体を得る反応時の組成(ポリイミド分率=(ポリイミドプレポリマーの仕込み量/(ポリイミドプレポリマーの仕込み量+ウレタンプレポリマーの仕込み量))×100)は10〜99重量%であり、好ましくは10〜98重量%であり、更に好ましくは40〜98重量%であり、特に好ましくは60〜98重量%であり、最も好ましい範囲は80〜98重量%である。10重量%未満の場合は親水性が劣り、99重量%を超えると柔軟性が不足する。
【0048】
さらには本発明の親水性重合体を得る場合、式(4)で表されるウレタンプレポリマーに対して式(5)で表されるポリイミドプレポリマーのモル比は、1より大きく30以下、好ましくは1以上2以下で、更に好ましくは1より大きく2以下で反応させる。1未満の場合は親水性が著しく低下したり、反応中に全体が固化(ゲル化)したりする。30を超える場合も親水性が低下する。
【0049】
式(4)で表されるウレタンプレポリマーの分子量は、ジイソシアネート化合物とポリオールの仕込みにより求められる重合度より、計算し求めることができるが、GPC(ゲル浸透クロマトグラフ)等の公知の分子量測定方法からも求める事ができる。式(5)で表されるポリイミドプレポリマーの分子量は、ジアミンと酸無水物の仕込みにより求められる重合度より、計算し求めることができるし、GPC等の公知の分子量測定方法からも求める事ができる。以下にポリイミド分率の詳細を示す。
【0050】
<ポリイミド分率>
ポリイミド分率(重量%)=[WPI/(WPU+WPI)]
PU:ウレタンプレポリマー仕込み量
PI:ポリイミドプレポリマー仕込み量
ウレタンプレポリマーとポリイミドプレポリマーの反応で用いることができる有機溶媒としては、ポリイミドプレポリマーの合成で使用可能で、イソシアネート基に対し不活性なものであれば特に限定するものではない。例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N,N’−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、γ−ブチロラクトン等を挙げることができる。通常、反応は0〜150℃、好ましくは10〜100℃の温度で行われる。反応時間としては1〜72時間、好ましくは1〜42時間である。無溶媒下で反応を行う場合には、通常の攪拌槽型反応器の他、排気系を有する加熱手段を備えた押し出し機の中でも行うことができる。
【0051】
本発明のバインダー用溶液は、本発明の親水性重合体を含む有機溶媒溶液である反応液をそのまま使用することができる。また、その他の使用可能な有機溶媒としては、親水性重合体が可溶であれば特に限定するものではなく、N−メチル−2−ピロリドン、N,N’−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、モノメチルホルムアミド、γ−ブチロラクトン、モノメチルホルムアミド、パラクロルフェノール、4−メチルフェノール、オルトジクロロベンゼン、フェノール、クロルベンゼン等が挙げられる。その他の使用形態は以下の通りである。
【0052】
一般的に重合体の水溶液又は含水有機溶媒溶液は乳化重合又は懸濁重合等の水を媒体とした特殊な重合法により合成されるが、本発明の親水性重合体は、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ金属の炭酸塩、3級アミン化合物、4級アミン化合物又はアンモニアを反応させると親水性重合体の塩が得られ、その塩と水、有機溶媒又は含水有機溶媒とを混合することによりバインダー用溶液が得られる。その方法としては、特に限定するものではないが、親水性重合体100重量部に対し、5〜1000重量部、好ましくは5〜300重量部のアルカリ金属の水酸化物、アルカリ金属の炭酸塩、3級アミン化合物、4級アミン化合物又はアンモニアを加え、親水性重合体と塩を形成させた後、水を加え、水溶液又は含水有機溶媒溶液とし、バインダー用溶液とすることができる。
【0053】
また、ウレタンプレポリマーとポリイミドプレポリマーとの反応物の有機溶媒溶液を減圧乾燥するか、水やメタノール若しくはヘキサン等の親水性溶媒でない溶媒中に、親水性重合体を析出し、乾燥させた後、親水性重合体100重量部に対し、5〜1000重量部のアルカリ金属の水酸化物、アルカリ金属の炭酸塩、3級アミン化合物、4級アミン化合物又はアンモニアを加えた水溶液中に分散又は溶解させ、水溶液化又は含水有機溶媒溶液化し、バインダー用溶液とすることもできる。塩を形成させる方法としては、有機溶媒の存在下又は非存在下いずれを用いてもよい。有機溶媒としては親水性重合体が可溶であれば特に限定するものではないが、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N,N’−ジメチルアセトアミド、モノメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド等を挙げることができる。また親水性重合体を所定量のアルカリ金属の水酸化物、アルカリ金属の炭酸塩、3級アミン化合物、4級アミン化合物又はアンモニアを溶解した水溶液に加え、攪拌することにより、親水性重合体の水溶液又は含水有機溶媒溶液を得ることができる。水溶液又は含水有機溶媒溶液の溶解性を上げるためには、30〜150℃の温度で加温してもよいし、超音波処理を行ってもよい。溶解した後にさらに水を加えたり、濃縮したりしても良い。
【0054】
本発明の親水性重合体は、該親水性重合体と有機溶媒を含有する反応液(バインダー用溶液)として使用できる他、水溶液又は含水有機溶媒溶液の所望の形態(バインダー用溶液)としても使用できる。本発明の親水性重合体は、金属に対する接着性が優れているので、二次電池の電極活物質と電極を結合させるバインダーに好適である。
【0055】
電極活物質としては、炭素、ケイ素、スズ、アルミニウム、チタン、ゲルマニウム又は鉄を含むものが挙げられる。例えば、グラファイト、ハードカーボン、ケイ素、酸化ケイ素、炭化ケイ素、スズ化合物、ケイ素とアルミの合金、ケイ素とスズの合金、ケイ素とチタンの合金、アルミとスズの合金、スズとチタンの合金などが挙げられる。
【0056】
本発明の親水性重合体は、柔軟でかつ金属と優れた接着性を示すため、特に二次電池、その中でも特にリチウムイオン二次電池用の電極活物質と電極を結合させるバインダーに好適である。
【0057】
本発明のバインダー用溶液は、それを製造する際に、含水有機溶媒溶液、及び有機溶媒溶液の安定化やスケール発生量の低減を目的として、緩衝剤、増粘剤、縮合リン酸塩、分散剤、粘着付与剤、pH調整剤、消泡剤、防腐剤、造膜助剤、界面活性剤、凍結防止剤等を添加することもできる。
【発明の効果】
【0058】
本発明の親水性重合体は、柔軟でかつ金属との接着性に優れており、環境負荷が小さく、二次電池に使用の際に電気化学的に安定であるため、二次電池の活物質と電極を結合させるバインダーに適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
図1】親水性重合体のCV測定の結果を示した図である。
図2】親水性重合体を用いて作成した電池の初期充放電曲線を示した図である。
図3】親水性重合体を用いて作成した電池の初期充放電曲線を示した図である。
図4】親水性重合体を用いて作成した電池の初期充放電曲線を示した図である。
図5】親水性重合体を用いて作成した電池の初期充放電曲線を示した図である。
【実施例】
【0060】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0061】
なお、以下の実施例等で用いた値は以下の測定法で行ったものである。
【0062】
<分子量>
ウレタンプレポリマーの分子量はジイソシアネート化合物とポリオールの仕込みより求められる重合度より計算した。
=ジイソシアネート化合物の仕込みモル数÷ポリオールの仕込みモル数
ウレタンプレポリマーの重合度(N)=(r+1)÷(r−1)
ウレタンプレポリマーの分子量
=(N÷0.5×ジイソシアネート化合物の分子量)
+(N÷0.5×ポリオールの分子量)
ポリイミドプレポリマーの分子量はジアミン化合物と酸無水物の仕込みより求められる重合度より計算した。
=ジアミン化合物の仕込みモル数÷
テトラカルボン酸二無水物の仕込みモル数
ポリイミドプレポリマーの重合度(N)=(r+1)÷(r−1)
ポリイミドプレポリマーの分子量
=(N÷0.5×ジアミン化合物の分子量)
+(N÷0.5×テトラカルボン酸二無水物の分子量)−重合度×18。
【0063】
<赤外吸収スペクトル測定>
赤外吸収スペクトルはPERKIN ELMER社製System2000 FT−IRを用いて測定した。
【0064】
<親水性評価>
1重量%のN−メチルピロリドン溶液を80g調製し、親水性重合体100重量部に対してカルボキシル基に対し3倍等量の水酸化ナトリウムを加え、更に320gの水を1時間かけて添加して、重合体の親水性を評価した。
(1)含水有機溶媒溶液の生成:◎
(2)僅かに凝集物の生成:○
(3)多量に凝集物の生成:△
(4)水添加中に塊が生成:×。
【0065】
<接着性の評価>
親水性重合体を10重量%含むN−メチル−2−ピロリドン(NMP)溶液を調製し、2×10cmの短冊状の銅箔にドクターブレードにて塗布した後、乾燥(120℃×2時間熱風乾燥、更に120℃×2時間減圧乾燥)して得られた塗膜を用いて接着試験を行った。
銅箔;日本テストパネル社製 C122OR(縦100mm×横100mm×厚さ0.05mm)。
【0066】
<折り曲げ試験1>
前記銅箔に親水性重合体を塗布した銅箔を180°に折り曲げ、折り曲げた部分の親水性重合体の欠落を目視評価した。目視での判定基準は以下のとおりとした。
(1)欠落なし(接着性がきわめて優れる):◎
(2)塗布面の僅かな欠落が見られる(接着性良好):○
(3)欠落して金属箔がわずかに露出する:△
(4)欠落して金属箔が完全に露出する:×。
【0067】
<折り曲げ試験2>
前記銅箔に親水性重合体を塗布した銅箔を水平状態から、直径1cmのパイプに塗布面が外になるように重ねて繰返し折り曲げ、塗膜が剥離するまでの回数を測定した。
【0068】
<ポリイミド分率(重合体中の式(2)の構造の割合)>
ポリイミド分率(重量%)=[WPI/(WPU+WPI)]
PU:ウレタンプレポリマー仕込み量
PU:ポリイミドプレポリマー仕込み量。
【0069】
<ガラス転移温度の測定>
ガラス転移温度の測定はネッチ社製示差走査熱量計(DSC200F3)を用い、−100℃から250℃の範囲にて窒素雰囲気下10℃/分の昇温条件にて測定した。
【0070】
<銅箔とのT字剥離試験による初期接着力の評価>
1.親水性重合体の反応液をガラス板上に流延し、120℃で2時間熱風乾燥した後、更に120℃で減圧乾燥し、厚さ100μmのフィルムを作製した。
2.得られたフィルムを幅35mm×長さ70mmに切断し、銅箔:日本テストパネル社製のC122OR(縦100mm×横100mm×厚さ0.05mm)と熱プレス装置を用いて、180℃×1分の条件にて貼り合せた。この貼り合せた試料を幅15mmの短冊状に打ち抜き、接着力測定試料とした。
3.接着力は、T字剥離試験(引張速度300mm/分)(JIS6854に準拠)により剥離強度を測定し(n=3)、接着力とした。
【0071】
<サイクリックボルタンメトリー(CV)測定>
12重量%の親水性重合体を含むN−メチルピロリドン溶液を調製し、日本テストパネル社製のC122OR(縦100mm×横100mm×厚さ0.05mm)銅箔に150μmのドクターブレードにて塗布した。その後、乾燥(120℃×2時間熱風乾燥、更に120℃×2時間減圧乾燥)して得られた塗膜を電極とし、以下の条件によりCV測定を行った。
「CV測定条件」
・対極=Li(16.6cm
・対極=Li/Li
・試験極面積=0.5cm
・測定温度=室温(25℃)
・スウィープ速度=0.5mV/sec
・電解液=1M−LiPF/炭酸エチレン/炭酸ジメチル混合液(1.2(vol比))
・測定装置=ELECTROCHEMICAL INTERFACE SI−1287(SOLARTRON社製)
先ず2V→0V→2Vまでスィープした後、2〜0V(vsLi/Li)の範囲で2回泡けしスィープし、流れた電流を記録することでCV測定を実施した。
【0072】
<電極の調製>
電極活物質、バインダー、導電助剤、及びN−メチルピロリドン(NMP)を所定量混合し、自公転ミキサーで攪拌混合し、電極用塗工液を調製した。
得られた電極用塗工液を塗布速度1cm/min.にてクリアランス=0.4μmのコーターを使い、厚さ18μmの銅箔に塗工し、120℃×30min.真空乾燥し、電極活物質などが塗布された銅箔を調製した。
得られた銅箔を直径16mmに打ち抜き、電極とした。
【0073】
<電極の評価>
以下の条件にて、充放電を行ない、電極を評価した
対極:Li
電解液:1M LiPF 炭酸エチレン:炭酸ジメチル(1:2(vol比))
電流:0.2CA
温度:25℃。
【0074】
合成例1a
窒素雰囲気下500mlの四つ口セパラブルフラスコにジイソシアネートとして4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)20.0gとポリオールとしてポリオキシテトラメチレングリコール(分子量1000、三菱化学社製PTMG1000)76.1gを加え(ジイソシアネート/ポリオール(モル比=1.05))、80℃で2時間反応し、ウレタンプレポリマー1aを得た。
【0075】
合成例2a〜11aについては合成例1aと同様な操作にて合成を行った。結果を表1に示す。
【0076】
【表1】
合成例1b
窒素雰囲気下水分定量管と還流冷却器を付けた200mlの四つ口フラスコにジアミンとして3,5−ジアミノ安息香酸(DAB)6.25gとNMP122.9gを量り取り、溶解した。その後、テトラカルボン酸二無水物として4,4’−オキシジフタル酸二無水物12.5gを加え、50℃に加熱し、1時間反応した(ジアミン/テトラカルボン酸二無水物(モル比=1.02))。その後、イソキノリン0.04gをトルエン10.5gに溶解した溶液を加え、180℃で3時間攪拌し、トルエンと共沸した水を取り除いてポリイミドプレポリマー1bの有機溶媒溶液を得た。
【0077】
合成例2b〜13bについては合成例1bと同様な操作にて合成を行った。結果を表2に示す。
【0078】
【表2】
実施例1
窒素雰囲気下500mlの四つ口セパラブルフラスコにウレタンプレポリマー1aを4.4g及びNMP3.1gを量り取り、攪拌し溶解した。その後、ポリイミドプレポリマー1bの有機溶媒溶液77.4g(ポリマーとして8.9g相当)を添加し、室温で24時間反応させて、不溶成分の無い均一な親水性重合体の有機溶媒溶液を得た。ポリイミド分率は66.9重量%であった。赤外吸収スペクトルによりイソシアネート基に由来する2270cm−1吸収が消失し、1780cm−1及び1360cm−1にイミド構造に由来する吸収が存在し、3290cm−1、1540cm−1にウレタン構造に由来する吸収が存在することから反応の進行を確認した。得られたポリマーのガラス転移温度は−58℃を示した。イミドユニット/ウレタンユニット(モル比)は2.4であった。
【0079】
得られた親水性重合体の有機溶媒溶液にN−メチルピロリドンを加え、500mlの四つ口セパラブルフラスコに親水性重合体1重量%の有機溶媒溶液を80g調製した。0.11gの水酸化ナトリウムを加え、更に320gの水を1時間かけて添加し、200メッシュのナイロンフィルターでろ過して、親水性重合体の塩の含水有機溶媒溶液(バインダー用溶液)を得ることができた(親水性◎)。
【0080】
反応で得られた親水性重合体の有機溶媒溶液を用いて、0.15μmのドクターブレードで銅箔に塗布し、接着性の評価を行った。折り曲げ試験1ではきわめて優れる結果であった(評価◎)。折り曲げ試験2では100回以上繰返し折り曲げても塗膜が剥離することはなかった。
【0081】
また、銅箔に対する初期接着力は、1.20N/mmであった。
CV測定結果より結果より酸化反応、還元反応に由来する電流は測定されず、バインダー用に適していることがわかった。
【0082】
実施例2〜31については実施例1と同様な操作にて合成を行った。結果を表3〜5に示す。
【0083】
図1に実施例3の親水性重合体のCV測定結果を示す。
【0084】
【表3】
比較例1
500mlの四つ口セパラブルフラスコにウレタンプレポリマー1aにN−メチルピロリドンを加え1重量%の有機溶媒溶液として80gを調製した。0.06gの水酸化ナトリウムを加え、更に320gの水を1時間かけて添加したところ、凝集物が多量に生成し、重合体の塩の含水有機溶媒溶液(バインダー用溶液)を得ることができず(親水性×)、実施例に対して劣った。
【0085】
また、ウレタンプレポリマーの有機溶媒溶液を、0.15μmのドクターブレードを用いて、銅箔に塗布し、接着性の評価を行った。折り曲げ試験1ではきわめて優れる結果であった(評価◎)。折り曲げ試験2では100回以上繰返し折り曲げても塗膜が剥離することはなかった。
【0086】
また、銅箔に対する初期接着力は、0.1N/mmであり、実施例に対して劣った。
【0087】
ウレタンプレポリマーの有機溶媒溶液のCV測定結果は、酸化反応、還元反応に由来する電流は測定されなかった。結果を表4に示す。
【0088】
比較例2
500mlの四つ口セパラブルフラスコにポリイミドプレポリマー1bにN−メチルピロリドンを加え1重量%の有機溶媒溶液として80gを調製した。0.06gの水酸化ナトリウムを加え、更に320gの水を1時間かけて添加したところ、親水性重合体の塩の均一水溶液を得ることができた(親水性○)。
【0089】
また、得られたポリイミドプレポリマーの有機溶媒溶液を用いて、0.15μmのドクターブレードで銅箔に塗布し、接着性の評価を行った。折り曲げ試験1ではポリマーが金属箔から剥離し(評価×)、実施例に対し劣った。折り曲げ試験2では53回でポリマーが銅箔から完全に剥離し、実施例に対し劣った。
【0090】
また、銅箔に対する初期接着力は、0.00N/mmであり、実施例に対し低かった。
【0091】
ポリイミドプレポリマーのCV測定結果は、酸化反応、還元反応に由来する電流は測定されなかった。結果を表4に示す。
【0092】
比較例3〜11
表4に記載の条件で実施例1と同様な操作にて親水性重合体の合成を試みた。しかし、いずれの親水性重合体も実施例に対し特性として劣る結果となった。なお、比較例10については反応中に粘度が増大し攪拌不能となり、親水性重合体を得ることができなかった。
【0093】
比較例12
ポリマーとして市販PVDF(KF#1120、株式会社クレハ製)を用い、実施例と同様な評価を行った。結果を表4に示す。親水性の評価についてはNaOHの添加は行わなかった。しかし、実施例に対し親水性、初期接着力、折り曲げ試験1、及び折り曲げ試験2が劣る(=接着耐久性が低い)点で実施例に劣る結果となった。またCV測定においては反応由来の電流が観測された。
【0094】
【表4】
実施例32
活物質にSiO(大阪チタニウム社製)を用い、活物質/親水性重合体(実施例18)/導電助剤(アセチレンブラック)=70/20/10(重量部)の組成で電極用塗工液を調製し、リチウムイオン2次電池用電極を作製した。この電極を用いLiを対極として充放電試験を行った。その充放電曲線を図2に示す。図2の結果より、親水性重合体をバインダーとして用いた電極は充放電を行うことができることがわかった。
【0095】
実施例33
親水性重合体として実施例22を用いた以外は、実施例30と同様にしてリチウムイオン2次電池用電極を作製した。この電極を用いLiを対極として充放電試験を行った。その充放電曲線を図3に示す。図3の結果より親水性重合体をバインダーとして用いた電極は充放電を行うことができることがわかった。
【0096】
実施例34
活物質に黒鉛(日本黒鉛社製CGB−10)を用い、活物質/親水性重合体(実施例19)=100/5(重量部)の組成で電極用塗工液を調製し、リチウムイオン2次電池用電極を作製した。この電極を用いLiを対極として充放電試験を行った。その充放電曲線を図4に示す。図4の結果より、親水性重合体をバインダーとして用いた電極は充放電を行うことができることがわかった。
【0097】
実施例35
親水性重合体として実施例19を用いた以外は、実施例30と同様にしてリチウムイオン2次電池用電極を作製した。この電極を用いLiを対極として充放電試験を行った。その充放電曲線を図5に示す。図5の結果より、親水性重合体をバインダーとして用いた電極は充放電を行うことができることがわかった。
【0098】
実施例36
実施例18で得られた反応液(有機溶媒(NMP)溶液)を200メッシュのSUS金網でろ過したところ、目視で不溶物の生成は確認できなかった。溶解度を測定したところ、親水性重合体は13重量%溶解していた。
【0099】
また実施例18で得られた反応液を110℃で恒量となるまで真空乾燥した。3.8gの水酸化ナトリウムを水180gに溶解した水溶液に得られた親水性重合体を16.2g溶かし、4時間室温で攪拌した。水溶液を400メッシュのSUS金網でろ過し、得られた水溶液を120℃の熱風乾燥機で恒量となるまで乾燥し、固形分から溶解度を測定したところ親水性重合体は9.5重量%溶解していた。
図1
図2
図3
図4
図5