(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6500752
(24)【登録日】2019年3月29日
(45)【発行日】2019年4月17日
(54)【発明の名称】全自動鉱物分析装置と微小部X線回折装置とを用いた、鉱石中に存在する鉱物粒子の同定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 23/2252 20180101AFI20190408BHJP
G01N 23/203 20060101ALI20190408BHJP
G01N 23/207 20180101ALI20190408BHJP
G01N 23/2206 20180101ALI20190408BHJP
【FI】
G01N23/2252
G01N23/203
G01N23/207
G01N23/2206
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-219146(P2015-219146)
(22)【出願日】2015年11月9日
(65)【公開番号】特開2017-90182(P2017-90182A)
(43)【公開日】2017年5月25日
【審査請求日】2017年11月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【弁理士】
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(72)【発明者】
【氏名】中村 公二
【審査官】
越柴 洋哉
(56)【参考文献】
【文献】
特開2015−040724(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2014/0183357(US,A1)
【文献】
米国特許第06072853(US,A)
【文献】
特開平11−064251(JP,A)
【文献】
特開2015−114241(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2014/0117231(US,A1)
【文献】
特開2014−137344(JP,A)
【文献】
特開2000−028604(JP,A)
【文献】
特開2012−242171(JP,A)
【文献】
堀内弘之、田中雅彦,「微小領域X線回折による鉱物結晶組織の研究」,鉱物学雑誌,1992年 4月,第21巻,第2号,pp47-57
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00−23/2276
G01N 33/24
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉱石中に存在する鉱物粒子を同定する方法であって、
前記鉱石を樹脂包埋した鉱石試料を作製し、当該鉱石試料を研磨する第1の工程と、
前記研磨された鉱石試料を全自動鉱物分析装置に装填し、前記全自動鉱物分析装置により前記研磨された鉱石試料の研磨面における反射電子像を測定し、得られた反射電子像から前記研磨面における鉱物粒子の研磨面を判別する第2の工程と、
前記全自動鉱物分析装置により判別された鉱物粒子の研磨面毎に、エネルギー分散X線スペクトルを測定する第3の工程と、
前記測定されたエネルギー分散X線スペクトルを、前記全自動鉱物分析装置に予め内蔵された鉱物リストのエネルギー分散X線スペクトルと照合し、前記全自動鉱物分析装置のフィルタリング機能を適用して前記鉱物リストと一致しないスペクトルを有する鉱物粒子を抽出して未同定鉱物粒子とし、さらに前記未同定鉱物粒子から得られたエネルギー分散X線スペクトルへ前記全自動鉱物分析装置のフィルタリング機能を適用し、所定の元素を含有する所定元素含有未同定鉱物粒子を抽出し、前記所定元素含有未同定鉱物粒子へ目印を付与する第4の工程と、
前記研磨された鉱石試料を前記全自動鉱物分析装置より取出して、微小部X線回折スペクトル測定装置に装填し、前記目印を付与された所定元素含有未同定鉱物粒子のX線回折スペクトルを測定する第5の工程と、
前記得られたX線回折スペクトルを、前記微小部X線回折スペクトル測定装置に内蔵された鉱物リストのスペクトルデータと照合し、前記所定元素含有未同定鉱物粒子を同定する第6の工程とを有し、
前記第1から第6の工程を、当該順に実施することを特徴とする鉱石中に存在する鉱物粒子の同定方法。
【請求項2】
前記第4の工程において、エネルギー分散X線スペクトルを用いて、所定の元素を含有する所定元素含有未同定鉱物粒子を抽出する際、K線、L線、M線から選択されるいずれかのX線スペクトルに対応するピークを用いて、所定元素の含有の有無を判別することを特徴とする請求項1に記載の鉱石中に存在する鉱物粒子の同定方法。
【請求項3】
前記第4の工程における全自動鉱物分析装置に予め内蔵された、鉱物リストのエネルギー分散X線スペクトルは、前記全自動鉱物分析装置の使用者が予め入力したものであり、
前記第6の工程において、前記微小部X線回折スペクトル測定装置に内蔵された、鉱物リストのX線回折スペクトルは、国際回析データセンター(ICDD:The International Centre for Diffraction Data)が作成したものであることを特徴とする請求項1または2に記載の鉱石中に存在する鉱物粒子の同定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全自動鉱物分析装置(本発明において「MLA」と記載する場合がある。)と微小部X線回折装置(本発明において「微小部XRD」と記載する場合がある。)とを用い、鉱石中に含まれる鉱物粒子を同定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
銅、ニッケル等の非鉄金属、金等の貴金属は、工業的に極めて重要な材料である。自然界において、これら金属は、当該金属元素を含む酸化物、硫化物等の化合物(本発明において「鉱物」と記載する場合がある。)として存在している。
【0003】
これら鉱物を鉱石として採掘し、破砕、選鉱、精錬等の各処理工程を経て、段階的に金属元素の品位を高めることで、例えば99.99%以上の純度を有する金属(本発明において「地金」と記載する場合がある。)を得ることができる。一方で、上述した各処理段階においては、金属元素を含む化合物を回収し終えた後に、不要物が濃縮した副産物が生じる。例えば選鉱工程であれば不用鉱物が濃縮した尾鉱が、湿式精錬工程であれば未反応物と副生成物が濃縮した浸出残渣がそれぞれ副産物として生じる。
【0004】
一方、回収対象としている金属元素の収率は、各工程を管理するうえで極めて重要な指標であり、当該収率から各工程の処理条件を検討する必要がある。
例えば工程管理上、上述した収率の悪化が生じた場合、その原因と改善策を検討するための様々な分析が行われる。当該分析の一つが、上述した尾鉱や浸出残渣といった副産物である鉱石中に存在する、回収対象の金属元素を含む鉱物の同定である。具体的には、当該回収対象の金属元素を含む鉱物が、既に同定された回収対象の金属元素を含む鉱物(本発明において「所定元素含有鉱物」と記載する場合がある。)のいずれの鉱物であるかを、同定するものである。
【0005】
ここで、未同定の鉱物を同定する方法としては、X線回折法による定性分析を行うことが一般的である。しかしながら本発明者らの検討によると、上述した工程から回収された副産物の鉱石において、所定元素含有鉱物粒子の存在量は微量である。このため当該所定元素含有鉱物粒子のX線回折法による同定は、困難である場合が多い。
【0006】
そこで、上述した鉱石の試料を樹脂包埋して研磨し、試料の研磨面を得る。そして、当該研磨面を光学顕微鏡で目視観察し、反射光の色で、存在する鉱物粒子を同定する方法が考えられる。当該鉱物粒子同定方法によれば手間と時間とが求められるが、試料研磨面における幅広い視野を観察することで、所定元素含有鉱物粒子を同定することが可能である。しかし、当該鉱物粒子同定方法は人の視覚に頼る方法であるため、反射光の色が幅を持つ鉱物粒子においては同定が難しい。さらに、酸化物等の透明鉱物粒子においては、そもそも同定すること自体が困難である。
【0007】
上述の課題を解決するため本発明者らは研究をおこない、鉱石中に微量に存在する所定元素含有鉱物粒子を同定するために、MLAを用いることに想到した。
MLAは、上述した光学顕微鏡を用いた方法と同様な原理で、鉱物粒子同定を行う分析装置であって、エネルギー分散型X線分析器(本発明において「EDS」と記載する場合がある。)が2基備えられた走査電子顕微鏡(本発明において「SEM」と記載する場合がある。)がプラットフォームとなっている。そして、当該SEM・EDSを全自動制御し、画像処理やスペクトルマッチングを行い、鉱物粒子の同定操作を実施する制御PCを備えた分析装置である。
【0008】
まず、MLAの測定原理について簡単に説明する。
MLAでは、鉱物粒子と樹脂とが混合して固結した鉱石試料へ研磨を施し、得られた研磨面に対して測定を行う。MLAの測定では、まず研磨面へ電子線を照射して反射電子像(本発明において「BSE像」と記載する場合がある。)を取得し、当該研磨面に現れた鉱物粒子の位置、大きさ、研磨面形状のデータを取得する。次に、当該鉱物粒子のEDSスペクトルデータを取得する。そして、研磨面に現れた各鉱物粒子に対して、これらのデータ取得を自動測定で順番に行うものである。
【0009】
上述したように、当該MLAを用いた鉱物粒子の同定方法においては、鉱物粒子を構成する元素の情報を取得して同定を行う。このため、当該MLAを用い、予め各種の鉱物粒子の元素情報が網羅されたデータベースを活用してスペクトルマッチングすることで、簡便に鉱物粒子を解析して同定することが可能である。さらに、当該MLAでは、被測定対象鉱物粒子の元素情報を取得して分析を行うことから、予め測定対象元素を絞り、特性X線強度により被測定対象鉱物粒子を抽出するフィルタリング機能を用いて測定することも好ましい。この結果、被測定対象の鉱石において微量存在している所定元素含有鉱物粒子を、効率よく抽出して分析することができる。
【0010】
以上説明した、MLAを用いて、鉱石中における鉱物粒子の種類毎の存在割合を精度良く分析する鉱物粒子の同定方法を、出願人は、特許文献1として開示した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2015−40724号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明者らは、上述した鉱石の各種処理工程、回収工程等の管理において、上述した所定元素含有鉱物の分析に加え、回収対象の金属元素を含みながら未同定の鉱物(本発明において「所定元素含有未同定鉱物」と記載する場合がある。)を見出し、さらに同定することが肝要であることに想到した。
ところが本発明者らの研究によると、鉱石中には、微量の所定元素含有鉱物粒子と所定元素含有未同定鉱物粒子とが混在している。そして、当該混在している所定元素含有鉱物粒子と所定元素含有未同定鉱物粒子とにおいて、その構成元素と含有量とが互いに重複している場合や、構成元素の含有量が互いに近似している場合がある。このような場合、MLAを用いた鉱石の同定方法を適用しても、当該所定元素含有未同定鉱物粒子と所定元素含有鉱物粒子とを互いに判別し、さらに、判別された所定元素含有未同定鉱物粒子を同定することは困難である、という新たな課題が見出された。
【0013】
本発明は、上述の状況の下でなされたものであり、その解決しようとする課題は、鉱石中に所定元素含有未同定鉱物粒子と所定元素含有鉱物粒子とが混在し、当該所定元素含有未同定鉱物粒子の構成元素とその量とが、当該所定元素含有鉱物粒子と重複している場合、または、構成元素の量が所定元素含有鉱物粒子と近似している場合であっても、当該所定元素含有未同定鉱物粒子と所定元素含有鉱物粒子とを互いに判別し、さらに所定元素含有未同定鉱物粒子を簡便に同定することが出来る鉱物粒子の同定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
ここで、本発明者らは研究をおこない、MLAと微小部XRDとを相補的に使用し、両装置を有機的に組み合わせることに想到した。具体的には、まずMLAにて所定元素含有未同定鉱物粒子を抽出し、さらに当該抽出された所定元素含有未同定鉱物粒子に対して、微小部XRD測定による同定を実施するという画期的な構成に想到したものである。
【0015】
即ち、上述の課題を解決するための第1の発明は、
鉱石中に存在する鉱物粒子を同定する方法であって、
前記鉱石を樹脂包埋した鉱石試料を作製し、当該鉱石試料を研磨する第1の工程と、
前記研磨された鉱石試料を
全自動鉱物分析装置に装填し、前記
全自動鉱物分析装置により前記研磨された鉱石試料の研磨面における反射電子像を測定し、得られた反射電子像から前記研磨面における鉱物粒子の研磨面を判別する第2の工程と、
前記
全自動鉱物分析装置により判別された鉱物粒子の研磨面毎に、エネルギー分散X線スペクトルを測定する第3の工程と、
前記測定されたエネルギー分散X線スペクトルを、前記
全自動鉱物分析装置に予め内蔵された鉱物リストのエネルギー分散X線スペクトルと照合し、
前記全自動鉱物分析装置のフィルタリング機能を適用して前記鉱物リストと一致しないスペクトルを有する鉱物粒子を抽出して未同定鉱物粒子とし、さらに前記未同定鉱物粒子から得られたエネルギー分散X線スペクトル
へ前記全自動鉱物分析装置のフィルタリング機能を適用し、所定の元素を含有する所定元素含有未同定鉱物粒子を抽出
し、前記所定元素含有未同定鉱物粒子へ目印を付与する第4の工程と、
前記研磨された鉱石試料を前記
全自動鉱物分析装置より取出して、微小部X線回折スペクトル測定装置に装填し、前記
目印を付与された所定元素含有未同定鉱物粒子のX線回折スペクトルを測定する第5の工程と、
前記得られたX線回折スペクトルを、前記微小部X線回折スペクトル測定装置に内蔵された鉱物リストのスペクトルデータと照合し、前記所定元素含有未同定鉱物粒子を同定する第6の工程とを有し、
前記第1から第6の工程を、当該順に実施することを特徴とする鉱石中に存在する鉱物粒子の同定方法である。
第2の発明は、
前記第4の工程において、エネルギー分散X線スペクトルを用いて、所定の元素を含有する所定元素含有未同定鉱物粒子を抽出する際、K線、L線、M線から選択されるいずれかのX線スペクトルに対応するピークを用いて、所定元素の含有の有無を判別することを特徴とする鉱石中に存在する鉱物粒子の同定方法である。
第3の発明は、
前記第4
の工程における
全自動鉱物分析装置に予め内蔵された、鉱物リストのエネルギー分散X線スペクトルは、前記
全自動鉱物分析装置の使用者が予め入力したものであり、
前記第6
の工程において、前記微小部X線回折スペクトル測定装置に内蔵された、鉱物リストのX線回折スペクトルは、国際回析データセンター(ICDD:The International Centre for Diffraction Data)が作成したものであることを特徴とする鉱石中に存在する鉱物粒子の同定方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、所定元素含有未同定鉱物粒子と所定元素含有鉱物粒子とが混在している鉱石において、当該両鉱物粒子の構成元素とその量とが重複していたり、または、構成元素とその量とが重複はしていなくても、その量が近似している場合であっても、当該所定元素含有未同定鉱物粒子と所定元素含有鉱物粒子とを互いに判別し、さらに、当該判別された所定元素含有未同定鉱物粒子を簡便に同定することが出来た。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】(a)研磨面に現れた鉱物粒子の位置、大きさ、研磨面形状、(b)抽出された所定元素含有未同定鉱物粒子のBSE像である。
【
図2】抽出された所定元素含有未同定鉱物粒子におけるEDSの分析結果である。
【
図3】抽出された所定元素含有未同定鉱物粒子における微小部XRDの分析結果である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係る鉱石試料中に存在する鉱物粒子の同定方法について、1)鉱石試料の調製、2)MLA分析、3)微小部XRD分析、4)所定元素含有未同定鉱物粒子の同定、の順に説明する。
【0019】
1)鉱石試料の調製
鉱石が樹脂の中に埋め込まれた鉱石試料を調製する。
この調製の際、樹脂は、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、光硬化樹脂等、多様なものが使用可能であるが、熱硬化性樹脂を用いることが好ましい。これは、樹脂として熱可塑性樹脂や光硬化樹脂を用いた場合、鉱物の粒子が液体状態の樹脂中に分散する工程を経るからである。鉱物粒子が液体状態の樹脂中に分散すると、当該鉱物粒子の比重差により、固化した鉱石試料の位置によって、鉱物粒子の比重差による分布が生じることが考えられる。こうなると、後工程にて鉱石試料を研磨する際、研磨位置によって鉱物粒子の種類が異なることになり、正確な分析結果を得ることが困難になると考えられるからである。
当該観点から、鉱物の粒子が液体状態の樹脂中に分散する工程を経ることがない、熱硬化性樹脂、例えば、ベークライト樹脂を用いことが好ましい。
【0020】
鉱物粒子が樹脂の中に埋め込まれた鉱石試料が固化したら、バフ研磨機を用いて研磨を施して研磨面を得る。そして、当該研磨面へ蒸着処理による導電性膜を形成する。
【0021】
2)MLA分析
上述した研磨面を有する鉱石試料をMLAに装填して研磨面へ電子線を照射し、当該研磨面のBSE像を測定する。そして、得られた反射電子像から当該研磨面における鉱物粒子の研磨面と樹脂の研磨面とを判別し、研磨面に現れた鉱物粒子の位置、大きさと研磨面形状の情報を取得する。次に、当該判別された鉱物粒子の研磨面毎に、電子線を照射しEDSを測定する。この際、K線、L線、M線から選択されるいずれかのX線スペクトルに対応するピークを用いることが出来る。
【0022】
当該測定されたEDSを、MLAに予め内蔵された鉱物リストのEDSと照合し、前記鉱物リストと一致しないスペクトルを有する鉱物粒子を抽出し、当該鉱物粒子を未同定鉱物粒子とする。
次に、当該未同定鉱物粒子から得られたEDSを用いて、予め定めてある所定の元素を含有する未同定鉱物粒子を、所定元素含有未同定鉱物粒子として抽出する。当該抽出操作には、MLAが有しているフィルタリング機能を適用するのが便宜である。
【0023】
ここで、上述した研磨面のBSE像における鉱物粒子のうち、当該所定元素含有未同定鉱物粒子として抽出された鉱物の粒子に、適宜な目印を付与する。そして、当該研磨面におけるBSE像の写真データ、電子化データ等を得る。ここで、MLA分析を終了し、鉱石試料をMLA内から取出す。
【0024】
3)微小部XRD分析
MLA分析を終了した鉱石試料を、今度は、微小部XRDに設置する。
次に、微小部XRDにより観察される鉱石試料の研磨面の画像と、上述したMLAで得た研磨面のBSE像の写真データ、電子化データ等とを照合する。そして、当該写真データ、電子化データ等において、所定元素含有未同定鉱物粒子へ付与された目印に従って、当該所定元素含有未同定鉱物粒子のXRDスペクトルを測定する。
【0025】
従来、鉱石全体でみれば所定元素含有未同定鉱物粒子の存在量は微量であるため、X線回折法による同定は困難であった。
しかし本発明においては上述の構成をとることで、測定対象を抽出され目印を付与された所定元素含有未同定鉱物粒子とし、微小部XRDを用いてXRDスペクトルを測定するため、当該所定元素含有未同定鉱物粒子の同定にとって有益なデータを、簡便に取得することが可能となった。
【0026】
4)所定元素含有未同定鉱物粒子の同定
得られた前記目印を付与された所定元素含有未同定鉱物粒子のXRDスペクトルへ、前記MLAで得られた当該粒子の構成元素情報を加えて、微小部XRDに内蔵された、鉱物リストのX線回折スペクトルとの間でパターンマッチングする。この結果、鉱石試料中に存在し同定が困難だった所定元素含有未同定鉱物粒子の同定が便宜に可能となった。
【実施例】
【0027】
(実施例1)
実施例1として、ニッケル鉱石を酸で高圧浸出した後の残渣である試料(本実施例において「鉱石試料」と略記する場合がある。)中に微量含まれていた、所定元素含有未同定鉱物粒子であるNi含有Fe酸化物が、針鉄鉱(FeO(OH))であると同定できた例を参照しながら説明する。
実施例1に係る鉱石試料0.5cc、ベークライト樹脂10ccをそれぞれ量りとり、均一に混ざるまで混合して混合物を得た。当該混合物を圧縮成形用金具内に装填し、万力を用いて当該金具を圧縮して、直径20mm、高さ3mm程度の円柱状に圧縮成形されたペレットを作製した。
熱間埋込装置に前記ペレットを設置し、フェノール樹脂約2g加えて封入した。そして、前記ペレットを、180℃、75barの条件で5分間加温加圧し、直径25mm高さ6mm程度の円柱状の熱硬化性樹脂硬化物(固結片)である鉱石試料を得た。
【0028】
得られた鉱石試料が固化したらバフ研磨機を用いて研磨を施し、得られた研磨面に鉱物粒子を現して鉱物粒子の研磨面を露出させた。
【0029】
鉱石試料の研磨面側にカーボン蒸着を施した後、当該鉱石試料をMLA(FEI社製 MLA650FEG)内に設置し、研磨面の全面における鉱物粒子のBSE像を観測する。そして、得られたBSE像から当該研磨面における鉱物粒子の研磨面と樹脂の研磨面とを判別し、研磨面に現れた鉱物粒子の位置、大きさと研磨面形状の情報を当該MLAに取り込んだ。
【0030】
当該MLAは、研磨面に現れた鉱物粒子毎にEDSを測定し、当該MLAに予め内蔵された鉱物リストのEDSと照合し、前記鉱物リストと一致しないスペクトルを有する鉱物粒子を抽出し、当該鉱物粒子を未同定鉱物粒子と判定した。
尚、当該鉱物リストのEDSは、予め、MLAの使用者(研究者、操作担当者、等)が、所望の鉱物リストのEDSを、MLAに設置したものである。
次に、MLAは、そして、当該未同定鉱物粒子に対し、ニッケル元素のK線強度をフィルタリングしてニッケル元素の有無を判別し、ニッケル元素を有すると判断したものを所定元素含有未同定鉱物粒子として抽出した。そしてMLAによって、上述した鉱物粒子のBSE像中における当該所定元素含有未同定鉱物粒子へ目印を付与した写真データ
図1(a)に示し、当該
図1(a)において所定元素含有未同定鉱物粒子を破線で囲って示す。そして、当該所定元素含有未同定鉱物粒子のBSE像を
図1(b)に示し、当該粒子のEDSデータを
図2に示す。
ここで、MLAによる測定を終了した。
【0031】
次に、当該鉱石試料をMLAから取出し、微小部XRD(スペクトリス社製 X’Pert PRO)内に設置した。
そして、MLAにて得られた
図1(a)に示す、鉱石の研磨面の全面に現れた鉱物粒子の位置、大きさ、研磨面形状において、所定元素含有未同定鉱物粒子へ目印を付与した写真データと、
図1(b)に示す抽出された当該所定元素含有未同定鉱物粒子のBSE像とを基にして、X線照射位置を当該抽出された所定元素含有未同定鉱物粒子へ設定し、X線回折測定を実施し、
図3に示す抽出された所定元素含有未同定鉱物粒子に係る微小部XRDの分析結果を得た。
【0032】
得られた未同定鉱物粒子のX線回折スペクトルに、MLAで得られた当該未同定鉱物粒子の構成元素情報を加えて、微小部XRDに装填されたX線回折スペクトルデータベースとの間でパターンマッチングした結果、当該所定元素含有未同定鉱物粒子は、針鉄鉱であることが同定された。
尚、当該鉱物リストのX線回折スペクトルのデータベースは、国際回析データセンター(ICDD:The International Centre for Diffraction Data)が作成したものである。
【0033】
(比較例1)
実施例1にて針鉄鉱であることが同定された所定元素含有未同定鉱物粒子を、MLAのEDSで分析した結果を
図4に示す。
図4のデータから当該所定元素含有未同定鉱物粒子の同定を試みた。しかし、当該所定元素含有未同定鉱物粒子がFeとOとを主成分とする鉱物であることは判明したものの、磁鉄鉱(Fe
3O
4)または赤鉄鉱(Fe
2O
3)の可能性も考えられた。この結果、上述した所定元素含有未同定鉱物粒子を同定する迄には至らなかった。