(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
イオン交換基を有するフッ素系ポリマー、前記フッ素系ポリマー中に埋設された補強糸と任意に含まれる犠牲糸から形成される補強材、および前記補強糸間に存在する前記犠牲糸の溶出孔、を有する塩化アルカリ電解用イオン交換膜であって、
前記補強材を形成する補強糸の長さ方向に直交する断面において、補強糸の中心から隣の補強糸の中心までの平均距離(d1)が750〜1000μmであり、溶出孔の断面積と、当該溶出孔内に残存する犠牲糸の断面積とを合計した総面積(S)が、溶出孔1個あたり500〜5000μm2であり、
かつ、隣り合う補強糸間の溶出孔の数nが4〜6個であることを特徴とする塩化アルカリ電解用イオン交換膜。
補強糸の長さ方向に直交する断面において、前記平均距離(d1)および平均距離(d2)を決定するために測定した全ての測定箇所において、下式(1’)を満たす関係が成立する、請求項2に記載の塩化アルカリ電解用イオン交換膜。
0.4≦{d2’/d1×(n+1)}≦1.6 ・・・(1’)
ただし、式(1’)中の記号は以下の意味を示す。
d2’:溶出孔の中心から、隣の溶出孔の中心までの距離。
d1およびn:前記と同じ。
イオン交換基に変換できる基を有するフッ素系ポリマーが、カルボン酸型官能基を有するフッ素系ポリマーと、スルホン酸型官能基を有するフッ素系ポリマーからなり、補強材が、スルホン酸型官能基を有するフッ素系ポリマー中に埋設されてなる請求項1〜6のいずれか一項に記載の塩化アルカリ電解用イオン交換膜。
陰極および陽極を備える電解槽と、前記電解槽内の前記陰極側の陰極室と前記陽極側の陽極室とを区切る請求項1〜7のいずれか一項に記載の塩化アルカリ電解用イオン交換膜とを有する塩化アルカリ電解装置。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下の用語の定義は、本明細書および特許請求の範囲にわたって適用される。
「イオン交換基」とは、該基に含まれるイオンの少なくとも一部を、他のイオンに交換し得る基である。下記のカルボン酸型官能基、スルホン酸型官能基等が挙げられる。
「カルボン酸型官能基」とは、カルボン酸基(−COOH)、またはカルボン酸塩基(−COOM
1。ただし、M
1はアルカリ金属または第4級アンモニウム塩基である。)を意味する。
「スルホン酸型官能基」とは、スルホン酸基(−SO
3H)、またはスルホン酸塩基(−SO
3M
2。ただし、M
2はアルカリ金属または第4級アンモニウム塩基である。)を意味する。
「イオン交換基に変換できる基」とは、加水分解処理、酸型化処理等の公知の処理によって、イオン交換基に変換できる基を意味する。
「カルボン酸型官能基に変換できる基」とは、加水分解処理、酸型化処理等の公知の処理によって、カルボン酸型官能基に変換できる基を意味する。
「スルホン酸型官能基に変換できる基」とは、加水分解処理、酸型化処理等の公知の処理によって、スルホン酸型官能基に変換できる基を意味する。
【0015】
「フッ素系ポリマー」とは、分子中にフッ素原子を有する高分子化合物を意味する。
「ペルフルオロカーボンポリマー」とは、ポリマー中の炭素原子に結合している水素原子の全部がフッ素原子に置換されたポリマーを意味する。ペルフルオロカーボンポリマー中のフッ素原子の一部は、塩素原子または臭素原子に置換されていてもよい。
「モノマー」とは、重合反応性の炭素−炭素二重結合を有する化合物を意味する。
「フッ素系モノマー」とは、分子中にフッ素原子を有するモノマーを意味する。
「単位」とは、ポリマー中に存在してポリマーを構成する、モノマーに由来する部分を意味する。たとえば、単位が炭素−炭素不飽和二重結合を有するモノマーの付加重合により生じる場合、該モノマーに由来する単位は、該不飽和二重結合が開裂して生じた2価の単位である。また、単位は、ある単位の構造を有するポリマーを形成した後に、該単位を化学的に変換した得られた単位であってもよい。なお、以下において、場合により、個々のモノマーに由来する単位を、そのモノマー名に「単位」を付した名称で記載する。
【0016】
「補強布」とは、イオン交換膜の強度の向上させるための補強材の原料として用いられる布を意味する。本明細書における「補強布」は、補強糸と犠牲糸を製織してなる。補強布の補強糸と犠牲糸は、それぞれ経糸と緯糸に製織され、これらの経糸と緯糸は、平織等の通常の製織法による場合は直交している。
「補強材」とは、イオン交換膜の強度の向上させるために用いられる材料であり、イオン交換膜の製造工程において、補強布が埋設されたフッ素系ポリマーからなる強化前駆体膜を、アルカリ水溶液に浸漬することにより、補強布の犠牲糸の少なくとも一部が溶出して形成された補強布由来の補強糸と任意に含まれる犠牲糸とから形成される材料を意味する。補強材は、犠牲糸の一部が溶解した場合は補強糸と溶解残りの犠牲糸とからなり、犠牲糸の全部が溶解した場合は補強糸のみからなる。すなわち、補強材は、補強糸と任意に含まれる犠牲糸とから形成される材料である。補強材はイオン交換膜中に埋設されており、補強布が埋設されたフッ素系ポリマーからなる強化前駆体膜を、アルカリ水溶液に浸漬することにより形成される。
補強材を構成する補強糸は、補強布に由来するため経糸と緯糸からなるが、これらの縦糸と緯糸は、通常、直交しており、それぞれイオン交換膜のMD方向とTD方向と並行に存在する。
なお、MD(Machine Direction)とは、イオン交換膜の製造において、前駆体膜、強化前駆体膜、およびイオン交換膜が搬送される方向である。TD(Transverse Direction)とはMD方向と垂直の方向である。
【0017】
「犠牲糸」とは、補強布を構成する糸であり、補強布を水酸化ナトリウム水溶液(例えば、濃度が32質量%の水溶液)に浸漬したときに、水酸化ナトリウム水溶液に溶出する材料からなる糸を意味する。1本の犠牲糸は、1本のフィラメントからなるモノフィラメントであっても、2本以上のフィラメントからなるマルチフィラメントであってもよい。犠牲糸がマルチフィラメントの場合は、2本以上のフィラメントの集合体が1本の犠牲糸となる。犠牲糸は、補強布が埋設されたフッ素系ポリマーからなる強化前駆体膜を、アルカリ水溶液に浸漬することにより、犠牲糸の少なくとも一部が溶出して溶出孔を形成する。犠牲糸の一部が溶出する場合には、溶出孔の中に溶出残りの犠牲糸が存在する。
「溶出孔」とは、一本の犠牲糸が、水酸化ナトリウム水溶液(例えば、濃度が32質量%の水溶液)に浸漬されることにより溶出した結果、生成する孔を意味する。一本の犠牲糸がモノフィラメントの場合は、該モノフィラメントの材料の少なくとも一部が溶出してイオン交換膜内部に1つの孔が形成される。1本の犠牲糸がマルチフィラメントの場合は、該マルチフィラメントの少なくとも一部が溶出してイオン交換膜内部に複数の孔の集まりが形成されるが、この複数の孔の集まりが1つの溶出孔である。
【0018】
「補強糸」とは、補強布を構成する糸であり、水酸化ナトリウム水溶液(例えば、濃度が32質量%の水溶液)に浸漬しても溶出することのない材料からなる糸を意味する。補強布が埋設されたフッ素系ポリマーからなる強化前駆体膜を、アルカリ水溶液に浸漬して補強布から犠牲糸が溶出した後も、補強材を構成する糸として溶解せずに残存し、塩化アルカリ電解用イオン交換膜の機械的強度や寸法安定性を維持する。
「補強糸の中心」とは、イオン交換膜の補強糸の長さ方向に直交する断面における、補強糸の幅方向の中心を意味する。
「溶出孔の中心」とは、イオン交換膜の補強糸の長さ方向に直交する断面における、溶出孔の幅方向の中心を意味する。犠牲糸がモノフィラメントである場合には、溶出前の犠牲糸の中心と溶出孔の中心とは一致する。犠牲糸がマルチフィラメントである場合の溶出孔の中心とは、前記断面において、幅方向の一方の孔の端部ともう一方の孔の端部との中間点をいう。
「開口率」とは、補強材の面方向の面積に対する、補強糸を除いた部分の面積の比率を意味する。
「強化前駆体膜」とは、イオン交換基に変換できる基を有するフッ素系ポリマーを含む前駆体膜中に、補強糸と犠牲糸とからなる補強布が埋設された膜を意味する。イオン交換基に変換できる基を有するフッ素系ポリマーを含む前駆体膜を2枚製造し、2枚の前駆体膜の間に補強布を積層することが好ましい。
「前駆体膜」とは、イオン交換基に変換できる基を有するフッ素系ポリマーを含む膜を意味する。イオン交換基に変換できる基を有するフッ素系ポリマーの単層からなる膜であってもよく、複数の層からなる膜であってもよい。
【0019】
以下、本発明のイオン交換膜を
図1に基づいて説明するが、本発明は
図1の内容に限定されるものではない
<塩化アルカリ電解用イオン交換膜>
本発明の塩化アルカリ電解用イオン交換膜は、イオン交換基を有するフッ素系ポリマー、前記フッ素系ポリマー中に埋設された状態で存在する補強糸と任意に含まれる犠牲糸から形成される補強材、および前記補強糸間に存在する前記犠牲糸が溶出することにより形成された溶出孔を有する。
図1は、本発明の塩化アルカリ電解用イオン交換膜の一例を示す断面図である。
塩化アルカリ電解用イオン交換膜1(以下、「イオン交換膜1」と記す。)は、イオン交換基を有するフッ素系ポリマーを含む電解質膜10が、補強材20で補強されたものである。
【0020】
[電解質膜]
電解質膜10は、高い電流効率を発現する機能層としての、カルボン酸型官能基を有するフッ素系ポリマーからなる層12と、機械的強度を保持する、スルホン酸型官能基を有するフッ素系ポリマーからなる層14aおよび層14bとからなる積層体である。
【0021】
(カルボン酸型官能基を有するフッ素系ポリマーからなる層12)
カルボン酸型官能基を有するフッ素系ポリマー(以下、「フッ素系ポリマー(C)」とも記す。)からなる層12(以下、「層(C)」も記す。)としては、例えば、カルボン酸型官能基を有するフッ素系モノマーに由来する単位と、含フッ素オレフィンに由来する単位との共重合体からなる層が挙げられる。
フッ素系ポリマー(C)は、後述する工程(b)にて、後述するカルボン酸型官能基に変換できる基を有するフッ素系ポリマー(以下、「フッ素系ポリマー(C’)」とも記す。)をカルボン酸型官能基に変換することによって得るのが好ましい。
【0022】
層(C)は、通常は膜状の形態を有する。層(C)の厚さは、5〜50μmが好ましく、10〜35μmがより好ましい。層(C)の厚さが前記下限値以上であれば、高い電流効率が発現しやすい。また、塩化ナトリウムの電解を行った場合には、製品となる水酸化ナトリウム中の塩化ナトリウム量を少なくできる。層(C)の厚さが前記上限値以下であれば、イオン交換膜1の膜抵抗が低く抑えられ、電解電圧が低くなりやすい。
【0023】
(スルホン酸型官能基を有するフッ素系ポリマーからなる層14aおよび層14b)
スルホン酸型官能基を有するフッ素系ポリマー(以下、「フッ素系ポリマー(S)」とも記す。)からなる層14a(以下、「層(Sa)」とも記す。)および層14b(以下、「層(Sb)」とも記す。)としては、スルホン酸型官能基を有するフッ素系モノマーに由来する単位と、含フッ素オレフィンに由来する単位との共重合体からなる層が挙げられる。
フッ素系ポリマー(S)は、後述する工程(b)にて、スルホン酸型官能基に変換できる基を有するフッ素系ポリマー(以下、「フッ素系ポリマー(S’)」とも記す)のスルホン酸型官能基に変換できる基を、スルホン酸型官能基に変換することによって得るのが好ましい。
【0024】
図1は補強材20が層(Sa)と層(Sb)(以下、層(Sa)と層(Sb)を総称して「層(S)」とも記す。)の間に埋設された状態を表わしている。補強材20は、2つの層(Sa)および層(Sb)との積層構造とし、その2層の層間に埋め込まれ、結果として補強材20は層(S)中に埋設される。
図1においては、層(Sa)および層(Sb)は単層となっているが、それぞれの層は複数の層から形成される層であってもよい。
【0025】
層(Sb)の厚さは、30〜140μmが好ましく、30〜100μmがより好ましい。層(Sb)の前記部分の厚さが下限値以上であれば、イオン交換膜1の機械的強度が充分に高くなる。層(Sb)の厚さが上限値以下であれば、イオン交換膜1の膜抵抗が充分に低く抑えられ、電解電圧の上昇が充分に抑えられる。
【0026】
層(Sa)の厚さは、10〜60μmが好ましく、10〜40μmがより好ましい。層(Sa)の厚さが下限値以上であれば、補強材20が電解質膜10中に収まり、補強材20の剥離耐性が向上する。また、電解質膜10の表面に補強材20が近づきすぎることがなく、電解質膜10の表面にクラックが入りにくく、その結果、機械的強度の低下が抑えられる。層(Sa)の厚さが上限値以下であれば、イオン交換膜1の膜抵抗が充分に低く抑えられ、電解電圧の上昇が充分に抑えられる。
【0027】
(補強材)
補強材20は、電解質膜10を補強する材料であり、補強糸22と犠牲糸24とを製織した補強布に由来する材料である。
【0028】
本発明のイオン交換膜においては、前記補強材を形成する補強糸の長さ方向に直交する断面において、補強糸間の平均距離、溶出孔の数、および溶出孔の断面積と、当該溶出孔内に存在する溶出残りの犠牲糸の断面積とを合計した総面積が、特定の範囲にあることが、本発明の効果を発揮するために重要である。
すなわち、本発明のイオン交換膜においては、イオン交換膜1の補強糸の長さ方向に直交する断面における、補強糸22の中心から隣の補強糸22の中心までの平均距離(d1)は、750〜1000μmであり、800〜1000μmが好ましく、800〜930μmがより好ましく、800〜900μmが特に好ましい。前記平均距離(d1)がこの範囲内であれば、膜強度を高めつつ、塩化アルカリ電解時の電解電圧を低減できる。また、前記平均距離(d1)が下限値以上であれば、塩化アルカリ電解時の電解電圧を低減しやすい。前記平均距離(d1)が上限値以下であれば、イオン交換膜1の膜強度を高くしやすい。
平均距離(d1)は、イオン交換膜の補強糸の長さ方向に断面において測定される値であり、該補強糸の経糸の長さ方向に直交するMD断面(MD方向に垂直に裁断した断面)および緯糸の長さ方向に直交するTD断面(TD方向に垂直に裁断した断面)のそれぞれの断面における、補強糸の中心から隣の補強糸の中心までの距離の測定値の平均値をいう。本発明における平均値とは、各断面における距離を無作為に10箇所ずつ測定した測定値の平均値であり、d1以外の値においても、同様である。
【0029】
本発明では、イオン交換膜の補強糸における前記補強糸の中心から隣の補強糸の中心までの距離が、全ての測定箇所において前記範囲内となっていることが好ましい。これにより、イオン交換膜の膜強度を高めつつ、塩化アルカリ電解時の電解電圧を低減する効果が得られやすくなる。全ての測定箇所とは、平均値を算出するために無作為に測定した点の全てをいう。d1以外の値においても、同様である。
【0030】
補強材20を形成するため補強布中の補強糸22の密度(打ち込み数)は、22〜33本/インチが好ましく、25〜30本/インチがより好ましい。補強糸22の密度が前記下限値以上であれば、補強材としての機械的強度が充分に高くなる。補強糸22の密度が前記上限値以下であれば、イオン交換膜1の膜抵抗が充分に低く抑えられ、電解電圧の上昇が充分に抑えられる。
【0031】
補強材を形成するため補強布中の犠牲糸24の密度は、補強糸22の密度の偶数倍が好ましい。具体的には、犠牲糸24の密度は、補強糸22の密度の4倍または6倍が好ましい。偶数倍であれば、補強糸22の経糸と緯糸とが交互に上下に交差するため、犠牲糸24が溶出した後の補強材が織物組織を形成する。
補強布における補強糸22および犠牲糸24の合計の密度は、製織のしやすさ、目ずれの起きにくさの点から、110〜198本/インチが好ましい。
【0032】
補強材の開口率は、60〜90%が好ましく、65〜85%がより、70〜85%がさらに好ましく、70〜80%が特に好ましい。補強材の開口率が前記下限値以上であれば、イオン交換膜1の膜抵抗が充分に低く抑えられ、電解電圧の上昇が充分に抑えられる。補強材の開口率が上限値以下であれば、補強材としての機械的強度が充分に高くなる。
前記補強材の開口率は、光学顕微鏡写真から求めることができる。
【0033】
補強材20の厚さは、40〜160μmが好ましく、60〜150μmがより好ましく、70〜140μmが特に好ましく、80〜130μmがとりわけ好ましい。補強材20の厚さが下限値以上であれば、補強材としての機械的強度が充分に高くなる。補強材20の厚さが上限値以下であれば、糸交点の厚みが抑えられ、補強材20の電流遮蔽による電解電圧上昇の影響を充分に抑えられる。
補強材は補強布に由来するため、補強布の厚さは補強材の厚さと同等となる。補強布の厚さの好ましい範囲も、補強材と同様である。
【0034】
補強糸22としては、塩化アルカリ電解における高温条件、ならびに、塩素、次亜塩素酸ナトリウム、および水酸化ナトリウムに対する耐性を有するものが好ましい。補強糸22としては、機械的強度、耐熱性および耐薬品性の点から、フッ素系ポリマーを材料の一部または全部に用いた糸が好ましく、フッ素含有量ができるだけ高いポリマーを含む糸が好ましく、ペルフルオロカーボンポリマーを含む糸がより好ましく、PTFEを含む糸がさらに好ましく、PTFEのみからなるPTFE糸がとりわけ好ましい。
【0035】
補強糸22は、モノフィラメントであってもよく、マルチフィラメントであってもよい。補強糸22がPTFE糸の場合、紡糸が容易である点から、モノフィラメントが好ましく、PTFEフィルムをスリットして得られたテープヤーンがより好ましい。
【0036】
補強糸22の繊度は、50〜200デニールが好ましく、80〜150デニールがより好ましい。補強糸22の繊度が下限値以上であれば、機械的強度が充分に高くなる。補強糸22の繊度が上限値以下であれば、イオン交換膜1の膜抵抗が充分に低く抑えられ、電解電圧の上昇が充分に抑えられる。また、電解質膜10の表面に補強糸22が近づきすぎることがなく、電解質膜10の表面にクラックが入りにくく、その結果、機械的強度の低下が抑えられる。
【0037】
補強材20の布面に直交する方向から見た補強糸22の幅は、70〜160μmであり、90〜150μmが好ましく、100〜130μmがより好ましい。補強糸22の幅が前記下限値以上であれば、イオン交換膜1の膜強度が高くなりやすい。補強糸22の幅が前記上限値以下であれば、イオン交換膜1の膜抵抗を低くしやすく、電解電圧の上昇を抑えやすい。
【0038】
犠牲糸24は、イオン交換膜を製造する下記工程(i)において、その材料の少なくとも一部がアルカリ性水溶液に溶出し、溶出孔を形成する。また、工程(i)を経て得られたイオン交換膜は、その後、電解槽に配置され、塩化アルカリ電解の本運転前に、下記工程(ii)のコンディショニング運転が行われる。工程(i)で犠牲糸24の溶解残りがあった場合においても、工程(ii)において、犠牲糸24はその材料の残部の大部分、好ましくは全部がアルカリ性水溶液に溶出して除去される。
なお、本発明の塩化アルカリ電解用イオン交換膜は、工程(i)を経て製造され、工程(ii)において電解槽に配置される膜であり、工程(ii)のコンディショニング運転後の膜ではない。
工程(i):イオン交換基に変換できる基を有するフッ素系ポリマーに補強布が埋設された強化前駆体膜を、アルカリ性水溶液に浸漬し、イオン交換基に変換できる基を有するフッ素系ポリマーを、イオン交換基を有するフッ素系ポリマーに変換する工程。
工程(ii):工程(i)を経て得られたイオン交換膜を電解槽に配置し、塩化アルカリ電解の本運転前のコンディショニング運転する工程。
【0039】
犠牲糸24としては、PET、ポリブチレンテレフタレート(以下、PBTと記す。)、ポリトリメチレンテレフタレート(以下、PTTと記す。)、レーヨン、およびセルロースからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む糸が好ましく、PETのみからなるPET糸、PETおよびPBTの混合物からなるPET/PBT糸、PBTのみからなるPBT糸、またはPTTのみからなるPTT糸がより好ましい。
【0040】
犠牲糸24としては、コストの点からは、PET糸が好ましい。また犠牲糸24としては、工程(i)の際に、アルカリ性水溶液に溶出しにくい糸である方が、犠牲糸の一部が残存して、機械的強度が充分に高いイオン交換膜1が得られるため好ましい。該犠牲糸としては、PBT糸またはPTT糸が好ましく、PTT糸が特に好ましい。犠牲糸24としては、コストと、イオン交換膜1の機械的強度とのバランスの点からは、PET/PBT糸が好ましい。
【0041】
犠牲糸24は、
図1に示すように、フィラメント26が2本集まったマルチフィラメントであってもよく、モノフィラメントであってもよい。犠牲糸24がマルチフィラメントであると、アルカリ水溶液との接触面積が広くなり、工程(ii)の際に、犠牲糸24が容易にアルカリ性水溶液に溶出する点から、マルチフィラメントが好ましい。
【0042】
犠牲糸24がマルチフィラメントの場合、犠牲糸24の1本あたりのフィラメント26の数は、2〜32本が好ましく、2〜16本がより好ましく、2〜8本がさらに好ましい。フィラメント26の数が前記下限値以上であれば、工程(ii)の際に、犠牲糸24がアルカリ性水溶液に溶出しやすい。フィラメント26の数が前記上限値以下であれば、工程(i)の際に、アルカリ性水溶液に溶出しにくく、犠牲糸の一部が残存して、機械的強度が充分に高いイオン交換膜1が得られる。
【0043】
犠牲糸24の繊度は、工程(i)の犠牲糸24の溶出の前、すなわち犠牲糸が補強布の犠牲糸の太さと同じ段階において、7〜100デニールが好ましく、9〜60デニールがより好ましく、12〜40デニールがさらに好ましい。犠牲糸24の繊度が前記下限値以上であれば、機械的強度が充分に高くなるとともに、織布性が充分高くなる。犠牲糸24の繊度が前記上限値以下であれば、犠牲糸24が溶出した後に形成される孔が、電解質膜10の表面に近づきすぎることがなく、電解質膜10の表面にクラックが入りにくく、その結果、機械的強度の低下が抑えられる。
【0044】
(溶出孔)
イオン交換膜1は、電解質膜10の層(S)(14aおよび14b)中に、工程(i)の際に犠牲糸24の少なくとも一部が溶出して形成された溶出孔28を有している。
図1のように、犠牲糸24が2本のフィラメント26からなるマルチフィラメントの場合、該マルチフィラメントの材料の少なくとも一部が溶出し、2つの孔の集まりからなる溶出孔が形成される。犠牲糸24がモノフィラメントからなる場合は、該モノフィラメントの材料の少なくとも一部が溶出して溶出孔が形成される。工程(i)において、犠牲糸24の一部が溶出せず残った場合には、溶出孔の中に溶出残りの犠牲糸が存在する。
【0045】
イオン交換膜1では、工程(i)の後においても犠牲糸24の一部が残存し、犠牲糸24のフィラメント26のまわりに溶出孔28が形成されていることが好ましい。これにより、イオン交換膜1の製造後から塩化アルカリ電解のコンディショニング運転の前までのイオン交換膜1の取り扱い時や、コンディショニング運転の際の電解槽へのイオン交換膜1の設置時において、イオン交換膜1にクラック等の破損が発生しにくくなる。
工程(i)の後に犠牲糸24の一部が残存しても、工程(ii)の際に犠牲糸24がアルカリ性水溶液に溶出し、その大部分、好ましくは全部が除去されるため、イオン交換膜1を用いた塩化アルカリ電解の本運転の時点では、膜抵抗に影響を及ぼさない。電解槽にイオン交換膜1を設置した後は、イオン交換膜1に外部から大きな力が作用することはないため、犠牲糸24が完全にアルカリ性水溶液に溶出し、除去されても、イオン交換膜1にクラック等の破損は発生しにくい。
なお、犠牲糸は、工程(i)において犠牲糸24の全てを溶出させてもよい。
【0046】
イオン交換膜1の補強糸の長さ方向に直交する断面における、溶出孔28の断面積と、当該溶出孔28内に残存する溶出残りの犠牲糸24の断面積とを合計した総面積(S)は、溶出孔1個あたり、500〜5000μm
2であり、1000〜5000μm
2が好ましく、1000〜4000μm
2がより好ましく、1000〜3000μm
2が特に好ましい。犠牲糸が完全に溶出した場合には、総面積(S)は、溶出孔のみの断面積となる。すなわち、断面積を合計した総面積(S)は、補強布における1本の犠牲糸の断面積の総面積とほぼ同等となる。総面積(S)は、犠牲糸がモノフィラメントの場合は、1本のフィラメントから形成される溶出孔の断面積となり、2本以上のマルチフィラメントの場合は、マルチフィラメントを構成する各フィラメントから形成される溶出孔の断面積の合計となる。
総面積(S)が前記下限値以上であれば、製織時に犠牲糸の糸切れを起こさず補強布を製作でき、かつ、得られたイオン交換膜においては、塩化アルカリ電解時の電解電圧を低減できる。前記総面積(S)が前記上限値以下であれば、補強布の製織時に補強糸の間に犠牲糸を収めることができ、塩化アルカリ電解時の電解電圧を低減できる。
前記総面積(S)は、90℃で2時間以上乾燥したイオン交換膜の断面を光学電子顕微鏡にて観察し、画像ソフトを用いて測定される。
本発明においては、補強材を形成する補強糸の長さ方向に直交する断面において、総面積(S)が前記範囲にある。補強糸の長さ方向に直交する断面とは、イオン交換膜のMD方向に垂直に裁断した断面(以下、「MD断面」という。)およびTD方向に垂直に裁断した断面(以下、「TD断面」という。)から選ばれる少なくとも一方の断面を意味する。すなわち、MD断面における総面積(S)およびTD断面における総面積(S)の少なくとも一方の総面積(S)が前記の範囲にある。
また、本発明においてイオン交換膜のMD断面は、イオン交換膜に埋設される補強材中のMD方向と垂直に設置された補強糸、犠牲糸および溶出孔と重ならない断面が好ましく、TD断面も同様である。
本発明における断面における総面積(S)は、MD断面における総面積(S)およびTD断面における総面積(S)の平均値が前記範囲にあることがより好ましく、MD断面における総面積(S)およびTD断面における総面積(S)の両方が前記の範囲にあることがさらに好ましい。
MD断面における総面積(S)は、イオン交換膜のMD断面において、無作為に10箇所の溶出孔について総面積(S)を測定し、それらの平均値を求めることにより得られる。TD断面にける総面積(S)も同様にして求めることにより得られる。
イオン交換膜において、犠牲糸が完全に溶解している場合には、総面積(S)は溶出孔の断面積となり、溶出孔内に溶出残りの犠牲糸が存在する場合には、総面積(S)は溶出孔の断面積と溶出残りの犠牲糸の断面積とを合計した面積となる。
【0047】
イオン交換膜1の補強糸の長さ方向に直交する断面における、隣り合う補強糸22間の溶出孔28の数nは、4〜6個であり、4個が特に好ましい。前記溶出孔28の数nが4〜6個であることで、膜強度を高めつつ、塩化アルカリ電解時の電解電圧を低減できる。
なお、マルチフィラメントの犠牲糸1本から形成される溶出孔は1個と数える。
図1は、隣り合う補強糸22間の犠牲糸24から形成される溶出孔28の数nが4個の例である。
【0048】
本発明のイオン交換膜は、補強糸と溶出孔の距離が前記の範囲にあり、かつ溶出孔の距離が前記の範囲にある膜であるが、さらに、補強糸と溶出孔の距離と、溶出孔の数とが一定の条件を満たす関係にある構造、すなわち、補強糸の距離と溶出孔の数と距離とが規則性のある構造、を有するイオン交換膜である場合が特に好ましい。
すなわち、本発明のイオン交換膜における溶出孔の間隔については、イオン交換膜1の補強糸の長さ方向に直交する断面における、溶出孔28の中心から、隣の溶出孔28の中心までの平均距離(d2)は、下式(1)の関係を満たすことが好ましく、下式(1−1)の関係を満たすことがより好ましく、下式(1−2)を満たすことがさらに好ましい。これにより、膜強度を高めつつ、塩化アルカリ電解時の電解電圧を低減する効果が得られやすくなる。
0.5≦{d2/d1×(n+1)}≦1.5 ・・・(1)
0.7≦{d2/d1×(n+1)}≦1.4 ・・・(1−1)
0.8≦{d2/d1×(n+1)}≦1.2 ・・・(1−2)
ただし、
d1:補強糸の中心から隣の補強糸の中心までの平均距離。
d2:溶出孔の中心から、隣の溶出孔の中心までの平均距離。
n:隣り合う補強糸間の溶出孔の数。
なお、本発明においては、補強糸の長さ方向に直交する断面において、前記平均距離(d1)および均距離(d2)が、前記式の関係を満たすことが好ましい。補強糸の長さ方向に直交する断面とは、イオン交換膜のMD断面およびTD断面から選ばれる少なくとも一方の断面を意味する。すなわち、MD断面およびTD断面から選ばれる少なくとも一方の断面における平均距離(d1)および平均距離(d2)が、前記式の関係を満たすことが好ましい。
本発明においては、MD断面における平均距離(d1)とTD断面における平均距離(d1)との平均値およびMD断面における平均距離(d2)とTD断面における平均距離(d2)との平均値が前記式を満たすことが好ましく、MD断面およびTD断面の両方において平均距離(d1)および平均距離(d2)が前記式の関係を満たすことがさらに好ましい。
MD断面における平均距離(d1)と平均距離(d2)の値は、イオン交換膜のMD断面において、無作為に各10箇所の平均距離(d1)と平均距離(d2)を測定し、それらの平均値を求めることにより得られる。TD断面における平均距離(d1)および平均距離(d2)も同様にして求めることにより得られる。
【0049】
本発明では、イオン交換膜の補強糸の長さ方向に直交する断面における、溶出孔の中心から、隣の溶出孔の中心までの距離d2’が、平均距離(d2)を決定するために測定した全ての測定箇所において、下式(1’)の関係を満たすことが好ましく、下式(1’−1)の関係を満たすことがより好ましく、下式(1’−2)の関係を満たすことがさらに好ましく、下式(1’−3)の関係を満たすことが特に好ましい。これにより、膜強度を高めつつ、塩化アルカリ電解時の電解電圧を低減する効果が得られやすくなる。なお、距離d2’における、平均距離(d2)を決定するために測定した全ての測定箇所とは、前記平均距離(d2)を算出するために測定した全ての測定箇所を意味する。具体的には、MD断面またはTD断面において、平均距離(d2)を得るために測定した各10個所の測定点をいう。
0.4≦{d2’/d1×(n+1)}≦1.6 ・・・(1’)
0.5≦{d2’/d1×(n+1)}≦1.5 ・・・(1’−1)
0.7≦{d2’/d1×(n+1)}≦1.4 ・・・(1’−2)
0.8≦{d2’/d1×(n+1)}≦1.2 ・・・(1’−3)
【0050】
また、本発明のイオン交換膜における補強糸と溶出孔の間隔については、イオン交換膜1の補強糸の長さ方向に直交する断面における、補強糸22の中心から、隣の溶出孔28の中心までの平均距離(d3)が、下式(2)の関係を満たすことが好ましく、下式(2−1)の関係を満たすことがより好ましく、下式(2−2)を満たすことがさらに好ましい。これにより、膜強度を高めつつ、塩化アルカリ電解時の電解電圧を低減する効果が得られやすくなる。
0.5≦{d3/d1×(n+1)}≦1.5 ・・・(2)
0.8≦{d3/d1×(n+1)}≦1.5 ・・・(2−1)
0.9≦{d3/d1×(n+1)}≦1.4 ・・・(2−2)
ただし、式(2)中の記号は以下の意味を示す。
d3:補強糸の中心から、隣の溶出孔の中心までの平均距離。
d1およびn:前記と同じ。
なお、本発明においては、補強糸の長さ方向に直交する断面において、前記平均距離(d1)および平均距離(d3)が、前記式の関係を満たすことが好ましい。補強糸の長さ方向に直交する断面とは、イオン交換膜のMD断面またはTD断面の少なくとも一方の断面を意味する。すなわち、MD断面およびTD断面から選ばれる少なくとも一方の断面における平均距離(d1)および平均距離(d3)が、前記式の関係を満たすことが好ましい。
本発明においては、MD断面における平均距離(d1)とTD断面における平均距離(d1)との平均値およびMD断面における平均距離(d3)とTD断面における平均距離(d3)との平均値が前記式を満たすことが好ましく、MD断面およびTD断面の両方において平均距離(d1)および平均距離(d3)が前記式の関係を満たすことがさらに好ましい。
MD断面における平均距離(d1)と平均距離(d3)の値は、イオン交換膜のMD断面において、無作為に10箇所の平均距離(d1)と平均距離(d3)を測定し、それらの平均値を求めることにより得られる。TD断面における平均距離(d1)および平均距離(d3)も同様にして求めることにより得られる。
【0051】
本発明では、イオン交換膜の補強糸の長さ方向に直交する断面における、補強糸の中心から、隣の溶出孔の中心までの距離d3’が 全ての測定箇所において、下式(2’)の関係を満たすことが好ましく、下式(2’−1)の関係を満たすことがより好ましく、(2’−2)の関係を満たすことがさらに好ましく、下式(2’−3)の関係を満たすことがとりわけ好ましい。これにより、膜強度を高めつつ、塩化アルカリ電解時の電解電圧を低減する効果が得られやすくなる。なお、距離d3’における、平均距離(d3)を決定するために測定した全ての測定箇所とは、前記平均距離(d3)を算出するために測定した全ての測定箇所を意味する。具体的には、任意のMD断面またはTD断面において、平均距離(d3)を得るために測定した各10個所を測定箇所をいう。
0.4≦{d3’/d1×(n+1)}≦1.6 ・・・(2’)
0.5≦{d3’/d1×(n+1)}≦1.5 ・・・(2’−1)
0.8≦{d3’/d1×(n+1)}≦1.5 ・・・(2’−2)
0.9≦{d3’/d1×(n+1)}≦1.4 ・・・(2’−3)
【0052】
[製造方法]
本発明におけるイオン交換膜1は、前記工程(i)を経て製造されるのが好ましいが、工程(i)は、下記工程(a)および工程(b)とからなるのが好ましい。
工程(a):イオン交換基に変換できる基を有するフッ素系ポリマーに、補強糸と犠牲糸とからなる補強布を埋設して強化前駆体膜を得る工程。
工程(b):工程(a)で得た強化前駆体膜をアルカリ性水溶液に接触させることによって、イオン交換基に変換できる基を有するフッ素系ポリマーを、イオン交換基を有するフッ素系ポリマーに変換するとともに、埋設された補強布の犠牲糸の少なくとも一部を溶出させて、イオン交換基を有するフッ素系ポリマーと、補強布中の犠牲糸の少なくとも一部が溶出した補強材と、溶出孔とを有するイオン交換膜1を得る工程。
なお、工程(b)においては、イオン交換基に変換できる基をイオン交換基に変換した後に、必要に応じて、イオン交換基の対カチオンを交換する塩交換を行ってもよい。塩交換では、例えば、イオン交換基の対カチオンを、カリウムからナトリウムに交換する。
【0053】
(工程(a))
工程(a)においては、まず、共押出法によって、カルボン酸型官能基に変換できる基を有するフッ素系ポリマーからなる層(以下、層(C’)と記す)と、スルホン酸型官能基に変換できる基を有するフッ素系ポリマーからなる層(以下、層(S’)と記す)とを有する積層膜を得る。また、別途、単層押出法によって、スルホン酸型官能基に変換できる基を有するフッ素系ポリマーの層(S’)からなる膜(以下、膜(S’)と記す)を得る。
ついで、膜(S’)、補強布、および積層膜を、この順に配置し、積層ロールまたは真空積層装置を用いてこれらを積層する。この際、層(S’)と層(C’)との積層膜は、層(S’)が補強布に接するように配置する。
【0054】
層(C’)を形成するフッ素系ポリマー(C’)としては、例えば、カルボン酸型官能基に変換できる基を有するフッ素系モノマー(以下、フッ素系モノマー(C’)と記す)に由来する単位と、含フッ素オレフィンに由来する単位とを有する共重合体が挙げられる。
【0055】
フッ素系モノマー(C’)としては、分子中に1個以上のフッ素原子を有し、エチレン性の二重結合を有し、かつカルボン酸型官能基に変換できる基を有する化合物であれば、特に限定されず、従来から公知のものを用いることができる。
【0056】
フッ素系モノマー(C’)としては、モノマーの製造コスト、他のモノマーとの反応性、得られるフッ素系ポリマーの特性に優れる点から、下式(3)で表されるフルオロビニルエーテルが好ましい。
CF
2=CF−(O)
p−(CF
2)
q−(CF
2CFX)
r−(O)
s−(CF
2)
t−(CF
2CFX’)
u−A
1 ・・・(3)。
【0057】
式(3)におけるXは、フッ素原子またはトリフルオロメチル基である。X’は、フッ素原子またはトリフルオロメチル基である。式(3)のXおよびX’は同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0058】
A
1は、カルボン酸型官能基に変換できる基である。カルボン酸型官能基に変換できる基とは、加水分解処理または酸型化処理によってカルボン酸型官能基に変換できる官能基であり、−CN、−COF、−COOR
1(ただし、R
1は炭素数1〜10のアルキル基である。)、−COONR
2R
3(ただし、R
2およびR
3は、水素原子または炭素数1〜10のアルキル基である。R
2およびR
3は、同一であってもよく、異なっていてもよい。)等が挙げられる。
【0059】
pは、0または1であり、qは、0〜12の整数であり、rは、0〜3の整数であり、sは、0または1であり、tは、0〜12の整数であり、uは、0〜3の整数である。ただし、pおよびsが同時に0になることはなく、rおよびuが同時に0になることはない。すなわち、1≦p+sであり、1≦r+uである。
【0060】
式(3)で表されるフルオロビニルエーテルの具体例としては、下記の化合物が挙げられ、製造が容易である点から、p=1、q=0、r=1、s=0〜1、t=1〜3、u=0〜1である化合物が好ましい。
CF
2=CF−O−CF
2CF
2−COOCH
3、
CF
2=CF−O−CF
2CF
2−CF
2−COOCH
3、
CF
2=CF−O−CF
2CF
2−CF
2CF
2−COOCH
3、
CF
2=CF−O−CF
2CF
2−O−CF
2CF
2−COOCH
3、
CF
2=CF−O−CF
2CF
2−O−CF
2CF
2−CF
2−COOCH
3、
CF
2=CF−O−CF
2CF
2−O−CF
2CF
2−CF
2CF
2−COOCH
3、
CF
2=CF−O−CF
2−CF
2CF
2−O−CF
2CF
2−COOCH
3、
CF
2=CF−O−CF
2CF(CF
3)−O−CF
2CF
2−COOCH
3、
CF
2=CF−O−CF
2CF(CF
3)−O−CF
2−CF
2CF
2−COOCH
2。
フッ素系モノマー(C’)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0061】
含フッ素オレフィンとしては、例えば、分子中に1個以上のフッ素原子を有する炭素数が2〜3のフルオロオレフィンが挙げられる。フルオロオレフィンとしては、テトラフルオロエチレン(CF
2=CF
2)(以下、TFEと記す。)、クロロトリフルオロエチレン(CF
2=CFCl)、フッ化ビニリデン(CF
2=CH
2)、フッ化ビニル(CH
2=CHF)、ヘキサフルオロプロピレン(CF
2=CFCF
3)等が挙げられる。なかでも、モノマーの製造コスト、他のモノマーとの反応性、得られるフッ素系ポリマーの特性に優れる点から、TFEが特に好ましい。
含フッ素オレフィンは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0062】
層(C’)を形成するフッ素系ポリマー(C’)の製造には、フッ素系モノマー(C’)および含フッ素オレフィンに加えて、さらに他のモノマーを用いてもよい。他のモノマーとしては、CF
2=CF−R
f(ただし、R
fは炭素原子数2〜10のペルフルオロアルキル基である。)、CF
2=CF−OR
f1(ただし、R
f1は炭素数1〜10のペルフルオロアルキル基である。)、CF
2=CFO(CF
2)
vCF=CF
2(ただし、vは1〜3の整数である。)等が挙げられる。他のモノマーを共重合させることによって、イオン交換膜1の可撓性や機械的強度を向上できる。他のモノマーの割合は、イオン交換性能の維持の点から、全モノマー(100質量%)のうち30質量%以下が好ましい。
【0063】
フッ素系ポリマー(C)のイオン交換容量は、0.5〜2.0ミリ当量/グラム乾燥樹脂が好ましい。イオン交換容量は、イオン交換膜としての機械的強度や電気化学的性能の点から、0.6ミリ当量/グラム乾燥樹脂以上が好ましく、0.7ミリ当量/グラム乾燥樹脂以上がより好ましい。
フッ素系ポリマー(C)のイオン交換容量を前記の範囲とするには、フッ素系ポリマー(C’)中のフッ素系モノマー(C’)に由来する単位の含有量を、フッ素ポリマー(C’)中のカルボン酸型官能基に変換できる基をカルボン型官能基に変換した後に、フッ素系ポリマー(C)のイオン交換容量が前記の範囲内となるようにすればよい。フッ素系ポリマー(C)中のカルボン酸型官能基の含有量は、フッ素系ポリマー(C’)中のカルボン酸型官能基に変換できる基の含有量と同一であることが好ましい。
【0064】
フッ素系ポリマー(C’)の分子量は、イオン交換膜としての機械的強度および製膜性の点から、TQ値で150℃以上が好ましく、170〜340℃がより好ましく、170〜300℃がさらに好ましい。
TQ値は、重合体の分子量に関係する値であって、容量流速:100mm
3/秒を示す温度で示したものである。容量流速は、ポリマーを3MPaの加圧下に一定温度のオリフィス(径:1mm、長さ:1mm)から溶融、流出させ、流出するポリマーの量をmm
3/秒の単位で示したものである。TQ値は、ポリマーの分子量の指標となり、TQ値が高いほど高分子量であることを示す。
【0065】
層(S’)を形成するスルホン酸型官能基に変換できる基を有するフッ素系ポリマーとしては、例えば、スルホン酸型官能基に変換できる基を有するフッ素系モノマー(以下、フッ素系モノマー(S’)と記す。)に由来する単位と、含フッ素オレフィンに由来する単位とを有する共重合体が挙げられる。
【0066】
フッ素系モノマー(S’)としては、分子中に1個以上のフッ素原子を有し、エチレン性の二重結合を有し、かつ、スルホン酸型官能基に変換できる基を有する化合物であれば、特に限定されず、従来から公知のものを用いることができる。
【0067】
フッ素系モノマー(S’)としては、モノマーの製造コスト、他のモノマーとの反応性、得られるフッ素系ポリマーの特性に優れる点から、下式(4)で表される化合物または下式(5)で表される化合物が好ましい。
CF
2=CF−O−R
f2−A
2 ・・・(4)、
CF
2=CF−R
f2−A
2 ・・・(5)。
【0068】
R
f2は、炭素数1〜20のペルフルオロアルキレン基であり、エーテル性の酸素原子を含んでいてもよく、直鎖状または分岐状のいずれでもよい。
A
2は、スルホン酸型官能基に変換できる基である。スルホン酸型官能基に変換できる基は、加水分解処理または酸型化処理によってスルホン酸型官能基に変換できる官能基である。スルホン酸型官能基に変換できる官能基としては、−SO
2F、−SO
2Cl、−SO
2Br等が挙げられる。
【0069】
式(4)で表される化合物としては、具体的には下記の化合物が好ましい。
CF
2=CF−O−(CF
2)
a−SO
2F(ただし、aは1〜8の整数である。)、
CF
2=CF−O−CF
2CF(CF
3)O(CF
2)
a−SO
2F(ただし、aは1〜8の整数である。)、
CF
2=CF[OCF
2CF(CF
3)]
aSO
2F(ただし、aは1〜5の整数である。)。
【0070】
式(5)で表される化合物としては、具体的には下記の化合物が好ましい。
CF
2=CF(CF
2)
b−SO
2F(ただし、bは1〜8の整数である。)、
CF
2=CF−CF
2−O−(CF
2)
b−SO
2F(ただし、bは1〜8の整数である。)。
【0071】
フッ素系モノマー(S’)としては、工業的な合成が容易である点から、下記の化合物がより好ましい。
CF
2=CFOCF
2CF
2SO
2F、
CF
2=CFOCF
2CF
2CF
2SO
2F、
CF
2=CFOCF
2CF
2CF
2CF
2SO
2F、
CF
2=CFOCF
2CF(CF
3)OCF
2CF
2SO
2F、
CF
2=CFOCF
2CF(CF
3)OCF
2CF
2CF
2SO
2F、
CF
2=CFOCF
2CF(CF
3)SO
2F、
CF
2=CFCF
2CF
2SO
2F、
CF
2=CFCF
2CF
2CF
2SO
2F、
CF
2=CF−CF
2−O−CF
2CF
2−SO
2F。
フッ素系モノマー(S’)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0072】
含フッ素オレフィンとしては、先に例示したものが挙げられ、モノマーの製造コスト、他のモノマーとの反応性、得られるフッ素系ポリマーの特性に優れる点から、TFEが特に好ましい。
含フッ素オレフィンは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0073】
層(S’)を形成するフッ素系ポリマー(S’)の製造には、フッ素系モノマー(S’)および含フッ素オレフィンに加えて、さらに他のモノマーを用いてもよい。他のモノマーとしては、先に例示したものが挙げられる。他のモノマーを共重合させることによって、イオン交換膜1の可撓性や機械的強度を向上できる。他のモノマーの割合は、イオン交換性能の維持の点から、全モノマー(100質量%)のうち30質量%以下が好ましい。
【0074】
フッ素系ポリマー(S)のイオン交換容量は、0.5〜2.0ミリ当量/グラム乾燥樹脂が好ましい。イオン交換容量は、イオン交換膜としての機械的強度や電気化学的性能の点から、0.6ミリ当量/グラム乾燥樹脂以上が好ましく、0.7ミリ当量/グラム乾燥樹脂以上がより好ましい。
フッ素系ポリマー(S)のイオン交換容量を前記の範囲とするには、フッ素系ポリマー(S’)中のフッ素系モノマー(S’)に由来する単位の含有量を、フッ素ポリマー(S’)中のスルホン酸型官能基に変換できる基をスルホン型官能基に変換した後に、フッ素系ポリマー(S)のイオン交換容量が前記の範囲内となるようにすればよい。フッ素系ポリマー(S)中のスルホン酸型官能基の含有量は、フッ素系ポリマー(S’)中のスルホン酸型官能基に変換できる基の含有量と同一であることが好ましい。
【0075】
フッ素系ポリマー(S’)の分子量は、イオン交換膜としての機械的強度および製膜性の点から、TQ値で150℃以上が好ましく、170〜340℃がより好ましく、170〜300℃がさらに好ましい。
【0076】
(工程(b))
前記工程(a)で得た強化前駆体膜を、カルボン酸型官能基に変換できる基およびスルホン酸型官能基に変換できる基を、加水分解処理または酸型化処理して、それぞれカルボン酸型官能基およびスルホン酸型官能基に変換することによって、イオン交換膜1が得られる。加水分解の方法としては、たとえば、日本特開平1−140987号公報に記載されるような、水溶性有機化合物とアルカリ金属の水酸化物との混合物を用いる方法が好ましい。
【0077】
工程(b)においては、強化前駆体膜をアルカリ性水溶液に接触させることによって、犠牲糸24の少なくとも一部をアルカリ性水溶液に溶出させる。犠牲糸24の溶出は、犠牲糸を構成する材料を加水分解することによることが好ましい。
【0078】
[作用効果]
イオン交換膜が補強糸と任意に含まれる犠牲糸から形成される補強材で補強されている場合、補強糸は膜内でのナトリウムイオン等の陽イオンの移動を妨げるため、イオン交換膜内の補強糸の陰極側近傍が実質的に電解部として作用しない領域(以下、電流遮蔽領域と記す。)となると考えられる。そのため、補強糸の間隔を狭くしてその密度を高めると、イオン交換膜内の電流遮蔽領域がより多くなり、膜抵抗が上昇して電解電圧が高くなると考えられる。
【0079】
これに対して、本発明の塩化アルカリ電解用イオン交換膜では、前記した平均距離(d1)、総面積(S)、および溶出孔の数nが特定の範囲内に制御されているため、補強糸の間隔を狭くして膜強度を高めても、膜抵抗が低く抑えられ塩化アルカリ電解時の電解電圧を低減できる。これは以下のように考えられる。
総面積(S)が小さいときは、補強糸近傍において溶出孔の部分をナトリウムイオン等が通過しにくく、総面積(S)が大きいときに比べて補強糸近傍の膜抵抗が高くなる。一方、補強糸から離れた部分は溶出孔の体積が、総面積(S)が大きいときに比べて小さいため、余分な抵抗が増えず、膜抵抗が低くなる。また、前記した総面積(S)が大きいときは、補強糸近傍において溶出孔の部分を塩水とともにナトリウムイオン等が通過しやすく、電流遮蔽領域がより小さくなるため、総面積(S)が小さいときに比べて補強糸近傍の膜抵抗が低くなる。一方、補強糸から離れた部分は溶出孔の体積が、総面積(S)が小さいときに比べて大きいため、余分な抵抗が増えて、膜抵抗が高くなる。以上のことから、本発明においては、総面積(S)を特定の範囲内に制御することが重要である。
【0080】
また、溶出孔の数nが小さいときは、総面積(S)が小さい場合と同様に、補強糸近傍でナトリウムイオン等が通過しにくく、溶出孔の数nが大きいときに比べて補強糸近傍の膜抵抗が高くなる。一方、補強糸から離れた部分は溶出孔の体積が小さくなるので、余分な抵抗が増えず、溶出孔の数nが大きいときに比べて膜抵抗が低くなる。また、前記した溶出孔の数nが大きいときは、補強糸近傍でナトリウムイオン等が通過しやすく、電流遮蔽領域がより小さくなることで、溶出孔の数nが小さいときに比べて補強糸近傍の膜抵抗が低くなる。一方、補強糸から離れた部分は溶出孔の体積が大きくなるので、余分な抵抗が増えて、溶出孔の数nが小さいときに比べて膜抵抗が高くなる。以上のことから溶出孔の数(n)は特定の範囲内に制御することが重要である。
補強糸の間隔を狭くし過ぎ、イオン交換膜内の電流遮蔽領域が極端に大きくなると、総面積(S)と溶出孔の数nによる膜抵抗の低減効果が相対的に小さくなる。また、補強糸の間隔を広くし過ぎ、電流遮蔽領域が極端に小さくなると、溶出孔が余分な抵抗になりやすくなり、相対的に電解電圧の低減効果が小さくなる。そのため、補強糸の間隔は特定の範囲内に制御することが重要である。
【0081】
本発明では、前記した総面積(S)および溶出孔の数nを特定の範囲に制御することで、補強糸近傍の電流遮蔽領域を小さくして補強糸近傍の膜抵抗を低くしつつ、補強糸から離れた部分の溶出孔の体積がある程度小さく維持されているため、当該部分での膜抵抗の上昇が抑えられている。このように、補強糸から離れた部分での膜抵抗の上昇度合いに比べて、補強糸近傍の膜抵抗の低下度合いが大きくなるため、膜全体としての膜抵抗が低くなり、補強糸の間隔を狭くして膜強度を高めても塩化アルカリ電解時の電解電圧を低減できると考えられる。
【0082】
[他の形態]
なお、本発明のイオン交換膜は、前記したイオン交換膜1には限定されない。
例えば、本発明のイオン交換膜は、電解質膜が単層の膜であってもよく、層(C)および層(S)以外の他の層を有する積層体であってもよい。また、補強材が層(C)に埋設されたものであってもよい。
また、犠牲糸は、図示例のようなマルチフィラメントに限定はされず、モノフィラメントであってもよい。
【0083】
<塩化アルカリ電解装置>
本発明の塩化アルカリ電解装置は、本発明の塩化アルカリ電解用イオン交換膜を有する以外は、公知の態様を採用できる。
図3は、本発明の塩化アルカリ電解装置の一例を示した模式図である。
本実施形態の塩化アルカリ電解装置100は、陰極112および陽極114を備える電解槽110と、電解槽110内を陰極112側の陰極室116と陽極114側の陽極室118とに区切るように電解槽110内に装着されるイオン交換膜1と、を有する。
イオン交換膜1は、層(C)12が陰極112側、層(S)14が陽極114側となるように電解槽110内に装着する。
【0084】
陰極112は、イオン交換膜1に接触させて配置してもよく、イオン交換膜1との間に間隔を開けて配置してもよい。
陰極室116を構成する材料としては、水酸化ナトリウムおよび水素に耐性がある材料が好ましい。該材料としては、ステンレス、ニッケル等が挙げられる。
陽極室118を構成する材料としては、塩化ナトリウムおよび塩素に耐性がある材料が好ましい。該材料としては、チタンが挙げられる。
陰極の基材としては、水酸化ナトリウムおよび水素に対する耐性や加工性等の点から、ステンレスやニッケル等が好ましい。また、陽極の基材としては、塩化ナトリウムおよび塩素に対する耐性や加工性等の点からチタンが好ましい。電極基材の表面は、例えば、酸化ルテニウム、酸化イリジウム等でコーティングされることが好ましい。
【0085】
例えば、塩化ナトリウム水溶液を電解して水酸化ナトリウム水溶液を製造する場合は、塩化アルカリ電解装置100の陽極室118に塩化ナトリウム水溶液を供給し、陰極室116に水酸化ナトリウム水溶液を供給し、陰極室116から排出される水酸化ナトリウム水溶液の濃度を所定の濃度(たとえば、32質量%)に保ちながら、塩化ナトリウム水溶液を電解する。
【0086】
以上説明した本発明の塩化アルカリ電解装置は、膜強度が高く、塩化アルカリ電解時の電解電圧を低減できる。
【実施例】
【0087】
以下に実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの例により限定されない。例1〜4、9および14は、実施例であり、例5〜8および10〜13は、比較例である。
[TQ値の測定方法]
TQ値は、ポリマーの分子量に関係する値であって、容量流速:100mm
3/秒を示す温度として求めた。容量流速は、島津フローテスターCFD−100D(島津製作所社製)を用い、イオン交換基に変換できる基を有するフッ素系ポリマーを、3MPaの加圧下に一定温度のオリフィス(径:1mm、長さ:1mm)から溶融、流出させたときの流出量(単位:mm
3/秒)とした。
【0088】
[イオン交換容量の測定方法]
イオン交換基に変換できる基を有するフッ素系ポリマーの約0.5gを、そのTQ値より約10℃高い温度にて平板プレスしてフィルム状にし、これを透過型赤外分光分析装置によって分析し、得られたスペクトルのCF
2ピーク、CF
3ピークおよびOHピークの各ピーク高さを用いて、イオン交換容量を算出した。
【0089】
[補強糸および溶出孔の距離の測定方法]
90℃で2時間以上乾燥させたイオン交換膜の、補強糸の長さ方向に垂直に切断した断面を光学顕微鏡にて観察し、画像ソフトを用いて、距離を測定した。測定は、MD断面およびTD断面のそれぞれにおいて、補強糸の中心からその隣の補強糸の中心までの距離を各10箇所ずつ測定した。MD断面について、10個所の測定値の平均値である平均距離(d1)を求めた。TD断面についても同様にして平均距離(d1)を求めた。また、平均距離(d2)、(d3)についても同様に求めた。
なお、平均距離(d1)、(d2)、および(d3)は、工程(a)および(b)を経て製造されたイオン交換膜に埋設された補強材の値である。
【0090】
[断面積の測定方法]
90℃で2時間以上乾燥させたイオン交換膜の補強糸の長さ方向に垂直に切断した断面を光学顕微鏡にて観察し、画像ソフトを用いて、溶出孔の断面積と、犠牲糸の断面積とを合計した総面積(S)を測定した。総面積(S)は、MD断面およびTD断面において、無作為に各10箇所ずつ測定した。MD断面について、総断面積(S)を10箇所の測定値の平均値として求めた。TD断面についても同様にして総面積(S)を求めた。
犠牲糸が完全に溶解している場合には、総面積(S)は溶出孔の断面積となり、溶出孔内に溶出残りの犠牲糸が存在する場合には、総面積(S)は溶出孔の断面積と溶出残りの犠牲糸の断面積とを合計した値となる。
【0091】
[補強糸の幅の測定方法]
90℃で2時間以上乾燥させたイオン交換膜の断面を光学顕微鏡にて観察し、画像ソフトを用いて、補強材の布面に直交する方向から見た補強糸の幅を測定した。該補強糸の幅は、MD断面およびTD断面において、無作為に各10箇所ずつ測定を行った。MD断面ついて、補強糸の幅を10箇所の測定値の平均値として求めた。TD断面についても同様にして補強糸の幅を求めた。
【0092】
[電解電圧の測定方法]
イオン交換膜を、層(C)が陰極に面するように、電解面サイズ150mm×100mmの試験用電解槽に配置し、水酸化ナトリウム濃度:32質量%、塩化ナトリウム濃度:200g/L、温度:90℃、電流密度:8kA/m
2の条件で、塩化ナトリウム水溶液の電解を行い、運転開始から3〜10日後の電解電圧(V)を測定した。
[開口率の測定]
開口率は、90℃で2時間以上乾燥させたイオン交換膜の、補強糸の長さ方向に垂直に切断した断面を光学顕微鏡にて観察し、画像ソフトを用いて、開口率を算出した。算出は、MD断面(MD方向に垂直に裁断した断面)およびTD断面(TD方向に垂直に裁断した断面)のそれぞれにおいて、補強糸の中心からその隣の補強糸の中心までの距離および補強糸の幅を各10箇所ずつ測定し、以下の式から算出した。
{(MD断面の補強糸間の距離―MD断面の補強糸の幅)×(TD断面の補強糸間の距離―TD断面の補強糸の幅)}/{(MD断面の補強糸間の距離)×(TD断面の補強糸間の距離)}×100
【0093】
〔例1〕
TFEと、下式(3−1)で表されるフッ素系モノマーとを共重合してフッ素系ポリマー(イオン交換容量:1.06ミリ当量/グラム乾燥樹脂、TQ:225℃)(以下、ポリマーCと記す。)を合成した。
CF
2=CF−O−CF
2CF
2−CF
2−COOCH
3 ・・・(3−1)。
【0094】
TFEと下式(4−1)で表されるフッ素系モノマーとを共重合してフッ素系ポリマー(イオン交換容量:1.1ミリ当量/グラム乾燥樹脂、TQ:235℃)(以下、ポリマーSと記す。)を合成した。
CF
2=CF−O−CF
2CF(CF
3)−O−CF
2CF
2−SO
2F ・・・(4−1)。
【0095】
ポリマーCとポリマーSとを共押し出し法により成形し、ポリマーCからなる層(C’)(厚さ:12μm)およびポリマーSからなる層(S’)の層(厚さ:68μm)の2層構成のフィルムAを得た。
また、ポリマーSを溶融押し出し法により成形し、フィルムB(厚さ:30μm)を得た。
【0096】
PTFEフィルムを急速延伸した後、100デニールの太さにスリットして得たモノフィラメントに2000回/mの撚糸をかけたPTFE糸を補強糸とした。20デニールのPETフィラメントを2本引き揃えた40デニールのマルチフィラメントからなるPET糸を犠牲糸とした。補強糸1本と犠牲糸4本とが交互に配列されるように平織りし、補強布(補強糸の密度:27本/インチ、犠牲糸の密度:108本/インチ)を得た。
フィルムB、補強布、フィルムA、離型用PETフィルム(厚さ:100μm)の順に、かつフィルムAの層(C’)が離型用PETフィルム側となるように重ね、ロールを用いて積層した。離型用PETフィルムを剥がし、強化前駆体膜を得た。
酸化ジルコニウム(平均粒子径:1μm)の29.0質量%、メチルセルロースの1.3質量%、シクロヘキサノールの4.6質量%、シクロヘキサンの1.5質量%および水の63.6質量%からなるペーストを、強化前駆体膜の層(S’)の上層側にロールプレスにより転写し、ガス開放性被覆層を形成した。酸化ジルコニウムの付着量は、20g/m
2とした。
【0097】
片面にガス開放性被覆層を形成した強化前駆体膜を、5質量%のジメチルスルホキシドおよび30質量%の水酸化カリウムの水溶液に95℃で8分間浸漬した。これにより、ポリマーCの−COOCH
3およびポリマーSの−SO
2Fを加水分解してイオン交換基に転換し、前駆体層(C’)を層(C)に、層(S’)を層(S)とした膜を得た。
ポリマーSの酸型ポリマーを2.5質量%含むエタノール溶液に、酸化ジルコニウム(平均粒子径:1μm)を13質量%の濃度で分散させた分散液を調製した。該分散液を、前記膜の層(C)側に噴霧し、ガス開放性被覆層を形成し、両面にガス開放性被覆層が形成されたイオン交換膜を得た。酸化ジルコニウムの付着量は3g/m
2とした。
【0098】
〔例2〕
犠牲糸として、16デニールのPETフィラメントを2本引き揃えた32デニールのマルチフィラメントからなるPET糸を用いた以外は、例1と同様にしてイオン交換膜を得た。
【0099】
〔例3〕
犠牲糸として、9デニールのPETフィラメントを2本引き揃えた18デニールのマルチフィラメントからなるPET糸を用いた以外は、例1と同様にしてイオン交換膜を得た。
【0100】
〔例4〕
犠牲糸として、9デニールのモノフィラメントからなるPET糸を用いた以外は、例1と同様にしてイオン交換膜を得た。
【0101】
〔例5〕
犠牲糸として、5デニールのモノフィラメントを6本引き揃えて撚った30デニールのマルチフィラメントからなるPET糸を用い、補強布における補強糸の密度を27本/インチ、犠牲糸の密度を54本/インチとした以外は、例1と同様にしてイオン交換膜を得た。
【0102】
〔例6〕
犠牲糸として、16デニールのPETフィラメントを2本引き揃え得た32デニールのマルチフィラメントからなるPET糸を用い、補強糸における補強糸の密度を34本/インチ、犠牲糸の密度を136本/インチに変更した以外は例1と同様にして平織りに製織したところ、補強糸の間に犠牲糸が収まり切らず、織布できなかった。
【0103】
〔例7〕
犠牲糸として、5デニールのモノフィラメントPET糸を用いた以外は、例1と同様にして平織りに製織したところ、犠牲糸が糸切れし、織布できなかった。
【0104】
〔例8〕
犠牲糸として、40デニールのPETフィラメントを2本引き揃えた80デニールのマルチフィラメントからなるPET糸を用いた以外は、例1と同様にして平織りに製織したところ、補強糸の間に犠牲糸が収まり切らず、織布できなかった。
【0105】
〔例9〕
犠牲糸として、3.3デニールのモノフィラメントを6本引き揃えて撚った20デニールのマルチフィラメントからなるPET糸を用いた以外は、例1と同様にしてイオン交換膜を得た。
【0106】
〔例10〕
犠牲糸として、30デニールのPETフィラメントを2本引き揃えた60デニールのマルチフィラメントからなるPET糸を用いた以外は、例1と同様にしてイオン交換膜を得た。
【0107】
〔例11〕
PTFEフィルムを急速延伸した後、100デニールの太さにスリットして得たモノフィラメントに450回/mの撚糸をかけたPTFE糸を補強糸とした。犠牲糸として、5デニールのモノフィラメントを6本引き揃えて撚った30デニールのマルチフィラメントからなるPET糸を用い、補強布における補強糸の密度を21本/インチ、犠牲糸の密度を42本/インチとした以外は、例1と同様にしてイオン交換膜を得た。
【0108】
〔例12〕
PTFEフィルムを急速延伸した後、100デニールの太さにスリットして得たモノフィラメントに450回/mの撚糸をかけたPTFE糸を補強糸とした。犠牲糸として、7デニールのモノフィラメントからなるPET糸を用い、補強布における補強糸の密度を21本/インチ、犠牲糸の密度を126本/インチとした以外は、例1と同様にしてイオン交換膜を得た。
【0109】
〔例13〕
PTFEフィルムを急速延伸した後、100デニールの太さにスリットして得たモノフィラメントに450回/mの撚糸をかけたPTFE糸を補強糸とした。犠牲糸として、5デニールのモノフィラメントを6本引き揃えて撚った30デニールのマルチフィラメントからなるPET糸を用い、補強布における補強糸の密度を25本/インチ、犠牲糸の密度を50本/インチとした以外は、例1と同様にしてイオン交換膜を得た。
【0110】
〔例14〕
PTFEフィルムを急速延伸した後、100デニールの太さにスリットして得たモノフィラメントに450回/mの撚糸をかけたPTFE糸を補強糸とした。犠牲糸として、9デニールのモノフィラメントからなるPET糸を用い、補強布における補強糸の密度を25本/インチ、犠牲糸の密度を135本/インチとした以外は、例1と同様にしてイオン交換膜を得た。
各例におけるイオン交換膜の各平均距離(d1)、(d2)、(d3)、溶出孔1個あたりの総面積(S)、補強糸の幅および電解電圧の測定結果を表1に示す。
【0111】
【表1】
【0112】
【表2】
【0113】
表1に示すように、平均距離(d1)が750〜1000μmであり、総面積(S)が、溶出孔1個あたり500〜5000μm
2であり、かつ溶出孔の数nが4個であるイオン交換膜を用いた例1〜4および9では、溶出孔の数が2個であるイオン交換膜を用いた例5、および総面積(S)が5000μm
2を超えるイオン交換膜を用いた例10と比較して、平均距離(d1)が同等であるにも関わらず電解電圧が低かった。
例6は、平均距離(d1)が750μmより狭いと予想されるが、犠牲糸が補強糸間に収まらず、織布出来なかった。例7は、総面積(S)が溶出孔1個あたり500μm
2より小さいと予想されるが犠牲糸が切れて織布出来なかった。例8は、溶出孔1個あたりの総面積(S)が5000μm
2より大きいと予想されるが、犠牲糸が補強糸間に収まらず、織布出来なかった。
例11および13は、PTFEフィルムを急速延伸した後、100デニールの太さにスリットして得たモノフィラメントに450回/mの撚糸をかけたPTFE糸を補強糸として使用しており、2000回/mの撚糸をかけたPTFE糸を補強糸とした例5より補強糸の幅が大きくなっている。そのため、平均距離(d1)は、例5より大きいが電解電圧が大きくなっている。
平均距離(d1)が1000μmを超えるイオン交換膜を用いた例12は、溶出孔1個あたりの総面積(S)は500〜5000μm
2であり、かつ溶出孔の数nが6個であるが、溶出孔の数が2個であるイオン交換膜を使用した例11と比較して、電解電圧の低下を確認できなかった。
平均距離(d1)が750〜1000μmであり、総面積Sが、溶出孔1個当たり500〜5000μm
2であり、かつ溶出孔の数nが6個であるイオン交換膜を用いた例14では、溶出孔の数が2個であるイオン交換膜を用いた例13と比較して、距離の平均値d1が同等であるにも関わらず電解電圧が低かった。
なお、例1〜4、例9および例14の、平均距離(d1)、(d2)、(d3)、総面積(S)、および補強糸の幅の測定においては、各10箇所全てで上記範囲内の測定値であった。