特許第6501385号(P6501385)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6501385
(24)【登録日】2019年3月29日
(45)【発行日】2019年4月17日
(54)【発明の名称】薄膜トランジスタおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 29/786 20060101AFI20190408BHJP
【FI】
   H01L29/78 618B
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-215355(P2014-215355)
(22)【出願日】2014年10月22日
(65)【公開番号】特開2016-82198(P2016-82198A)
(43)【公開日】2016年5月16日
【審査請求日】2017年8月28日
【権利譲渡・実施許諾】特許権者において、実施許諾の用意がある。
(73)【特許権者】
【識別番号】000004352
【氏名又は名称】日本放送協会
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100171446
【弁理士】
【氏名又は名称】高田 尚幸
(74)【代理人】
【識別番号】100114937
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 裕幸
(74)【代理人】
【識別番号】100171930
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 郁一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男
(72)【発明者】
【氏名】辻 博史
(72)【発明者】
【氏名】中田 充
【審査官】 岩本 勉
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−078645(JP,A)
【文献】 特開2012−023346(JP,A)
【文献】 特開2010−062229(JP,A)
【文献】 特開2011−249674(JP,A)
【文献】 特開2011−216624(JP,A)
【文献】 特開2010−251604(JP,A)
【文献】 特開2010−251606(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0279943(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0037897(US,A1)
【文献】 国際公開第2010/119952(WO,A1)
【文献】 特開2006−173580(JP,A)
【文献】 特開2016−058554(JP,A)
【文献】 特開2014−015680(JP,A)
【文献】 特開2007−189120(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/114588(WO,A1)
【文献】 特開2011−018777(JP,A)
【文献】 特開2014−036031(JP,A)
【文献】 特開2014−039019(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 29/786
H01L 21/336
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲート電極と、ゲート絶縁層と、酸化物半導体層と、ソース電極と、ドレイン電極とを有し、
前記酸化物半導体層が、酸化インジウムタングステン亜鉛で形成され、前記ソース電極および前記ドレイン電極が、金属層を複数積層してなる積層構造を有し、前記金属層がAl、Mo、それらの合金のうちいずれかからなり、
前記ゲート電極が基板上に設けられ、
前記ゲート電極上に、前記ゲート絶縁層を介して前記酸化物半導体層が設けられ、
前記ソース電極が、前記酸化物半導体層上の一部に平面視で重なり合って接しており、
前記ドレイン電極が、前記ソース電極と離間して配置され、前記酸化物半導体層上の一部に平面視で重なり合って接していることを特徴とする薄膜トランジスタ。
【請求項2】
前記酸化インジウムタングステン亜鉛が、WOを5.0〜15.5質量%含有することを特徴とする請求項1に記載の薄膜トランジスタ。
【請求項3】
前記酸化インジウムタングステン亜鉛が、ZnOを0.2〜0.8質量%含有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の薄膜トランジスタ。
【請求項4】
基板上に、ゲート電極とゲート絶縁層と酸化インジウムタングステン亜鉛からなる酸化物半導体層と、金属層を複数積層してなる積層構造を有し前記金属層がAl、Mo、それらの合金のうちいずれかからなる電極層とをこの順で形成する積層工程と、
前記電極層の一部を、前記酸化物半導体層が露出するまで混酸Alエッチング液を用いるウェットエッチングにより除去することで、所定の形状を有するソース電極およびドレイン電極を形成するエッチング工程とを有することを特徴とする薄膜トランジスタの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜トランジスタおよびその製造方法に関し、特に、薄膜トランジスタのチャネル層(活性層)に、酸化インジウムタングステン亜鉛(In−W−Zn−O)を用いた薄膜トランジスタおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ディスプレイなどの表示装置の駆動回路には、薄膜トランジスタ(以下、TFT(Thin−Film Transistor)と称することもある。)が用いられている。薄膜トランジスタとしては、チャネルの形成されるチャネル層に、酸化インジウムガリウム亜鉛(In−Ga−Zn−O(IGZO:商標登録第5451821号))からなる酸化物半導体層を用いたものが注目されている。
【0003】
チャネル層にIn−Ga−Zn−Oを用いたTFT(以下、IGZO−TFTと称することもある。)は、アモルファスシリコンを用いたTFTと比べて電子の移動速度が速い(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】K.Nomura et al., Nature vol.432,p.488(2004)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、IGZO−TFTは、産出量の限られているガリウムを含むものである。このため、チャネル層の材料としてガリウムを含まないものを用いて、高い移動度を有する薄膜トランジスタを実現することが要求されていた。
【0006】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、ガリウムを含まない酸化物半導体層を有し、しかも高い移動度を有する薄膜トランジスタおよびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決すべく、薄膜トランジスタの酸化物半導体層の材料として、ガリウムを含まず、高い移動度の得られる材料について、鋭意検討を重ねた。その結果、酸化インジウムタングステン亜鉛を用いればよいことを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、以下の発明に関わるものである。
【0008】
[1] ゲート電極と、ゲート絶縁層と、酸化物半導体層と、ソース電極と、ドレイン電極とを有し、前記酸化物半導体層が、酸化インジウムタングステン亜鉛で形成されていることを特徴とする薄膜トランジスタ。
[2] 前記酸化インジウムタングステン亜鉛が、WOを5.0〜15.5質量%含有することを特徴とする[1]に記載の薄膜トランジスタ。
[3] 前記酸化インジウムタングステン亜鉛が、ZnOを0.2〜0.8質量%含有することを特徴とする[1]または[2]に記載の薄膜トランジスタ。
【0009】
[4] 前記ゲート電極が基板上に設けられ、前記ゲート電極上に、前記ゲート絶縁層を介して前記酸化物半導体層が設けられ、前記ソース電極が、前記酸化物半導体層上の一部に平面視で重なり合って接しており、前記ドレイン電極が、前記ソース電極と離間して配置され、前記酸化物半導体層上の一部に平面視で重なり合って接していることを特徴とする[1]〜[3]のいずれかに記載の薄膜トランジスタ。
【0010】
[5] 基板上に、ゲート電極とゲート絶縁層と酸化インジウムタングステン亜鉛からなる酸化物半導体層と電極層とをこの順で形成する積層工程と、前記電極層の一部を、前記酸化物半導体層が露出するまでウェットエッチングにより除去することで、所定の形状を有するソース電極およびドレイン電極を形成するエッチング工程とを有することを特徴とする薄膜トランジスタの製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の薄膜トランジスタは、酸化物半導体層が、酸化インジウムタングステン亜鉛で形成されている。したがって、酸化物半導体層の材料として、ガリウムを含まない。また、酸化物半導体層が酸化インジウムタングステン亜鉛で形成されているので、高い移動度を有する薄膜トランジスタが得られる。このため、例えば、本発明の薄膜トランジスタを表示装置の画素駆動回路に用いた場合、表示装置の画素を高速で駆動させることができる。
【0012】
本発明の薄膜トランジスタの製造方法では、酸化物半導体層と電極層とをこの順で形成してから、電極層の一部を、酸化物半導体層が露出するまでウェットエッチングにより除去する。本発明の製造方法では、酸化物半導体層の材料として、ソース電極およびドレイン電極を形成するためのウェットエッチングにおいて、ウェットエッチング液に対する耐性を備える酸化インジウムタングステン亜鉛を用いている。したがって、ソース電極およびドレイン電極を形成するためのウェットエッチングを行う際に、酸化物半導体層の他にエッチングストッパー層を形成する必要はない。よって、例えば、酸化物半導体層の他にエッチングストッパー層を形成する場合と比較して、少ない工程で効率よく製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の薄膜トランジスタの一例を示した断面模式図である。
図2図1に示す薄膜トランジスタの製造方法の一例を説明するための断面模式図である。
図3図1に示す薄膜トランジスタの製造方法の一例を説明するための断面模式図である。
図4】実施例1の薄膜トランジスタのゲート電圧−ドレイン電流特性を示したグラフである。
図5】実施例2の薄膜トランジスタのゲート電圧−ドレイン電流特性を示したグラフである。
図6】実施例3の薄膜トランジスタのゲート電圧−ドレイン電流特性を示したグラフである。
図7】実施例4の薄膜トランジスタのゲート電圧−ドレイン電流特性を示したグラフである。
図8】実施例5の薄膜トランジスタのゲート電圧−ドレイン電流特性を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について、図面を用いて詳細に説明する。但し、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨及びその範囲から逸脱することなく、その形態及び詳細を様々に変更し得ることは当業者であれば容易に理解される。したがって、本発明は、以下に示す実施形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0015】
「薄膜トランジスタ」
図1は、本発明の薄膜トランジスタの一例を示した断面模式図である。
図1に示す薄膜トランジスタ10は、ボトムゲート−トップコンタクト型のTFTである。図1において、符号1は基板である。基板1上にはゲート電極2が設けられている。ゲート電極2上には、ゲート絶縁膜3を介して酸化物半導体層4が設けられている。酸化物半導体層4上には、ソース電極5と、ソース電極5と離間して配置されたドレイン電極6とが設けられている。
【0016】
基板1は、特に限定されるものではなく、薄膜トランジスタ10の用途に応じて選択できる。例えば、基板1として、シリコン基板、ガラス基板、プラスチックフィルム基板などを使用できる。プラスチックフィルム基板としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)などからなるものを用いることができる。
【0017】
ゲート電極2としては、例えば、Ti、Mo、W、Al、Au等の金属、ITO(Indium Tin Oxide:酸化インジウムスズ)等の導電性酸化物などを使用できる。
また、ゲート電極2を兼ねる基板1として、ドーパント原子が高濃度で注入された高ドープシリコン基板を用いてもよい。
【0018】
ゲート絶縁層3としては、例えば、Si酸化物、Si窒化物、Al酸化物、Al窒化物などを使用できる。
ソース電極5およびドレイン電極6としては、例えば、Al、Mo、それらの合金などの金属材料を用いることができる。ソース電極5およびドレイン電極6は、単独の金属層からなるものであってもよいし、異なる金属材料からなる金属層を複数積層してなる積層構造を有するものであってもよい。このような積層構造としては、例えば、Mo合金層とAl層とMo合金層との3層構造が挙げられる。
ソース電極5およびドレイン電極6は、それぞれ、図1に示すように、酸化物半導体層4上の一部に平面視で重なり合って接している。
【0019】
酸化物半導体層4は、アモルファスの酸化インジウムタングステン亜鉛(In−W−Zn−O)で形成されている。酸化インジウムタングステン亜鉛は、酸に対する耐性に優れるものであり、金属をウェットエッチングする場合に用いられるエッチング液に対して、十分に高い耐性を有している。このため、例えば、ウェットエッチングによりソース電極5およびドレイン電極6を形成する場合に、エッチングストッパー層が不要である。
【0020】
酸化物半導体層4を形成している酸化インジウムタングステン亜鉛は、WOを5.0〜15.5質量%含有することが好ましい。WOを5.0質量%以上、より好ましくは10.0質量%以上含有すると、薄膜トランジスタ10の信頼性が向上する。また、WOを5.0質量%以上、より好ましくは10.0質量%以上含有すると、酸化物半導体層4の耐熱性が向上する。しかし、WOの含有量が15.0質量%を超えると、薄膜トランジスタ10の移動度が不十分となる恐れがある。したがって、WOの含有量は15.0質量%以下であることが好ましく、12.5質量%以下であることがより好ましい。
【0021】
酸化物半導体層4を形成している酸化インジウムタングステン亜鉛は、ZnOを0.2〜0.8質量%含有することが好ましい。酸化インジウムタングステン亜鉛がZnOを0.2〜0.8質量%含有するものであると、膜密度の高い酸化物半導体層4が得られるため、薄膜トランジスタ10の信頼性が向上する。膜密度の高い酸化物半導体層4を得るためには、ZnOを0.3〜0.7質量含有することがより好ましい。
【0022】
酸化物半導体層4を形成している酸化インジウムタングステン亜鉛の組成は、WOを5.0〜15.5質量%含有し、ZnOを0.2〜0.8質量%含有し、残部がInあることが好ましい。
酸化物半導体層4の厚みは、特に限定されるものではないが、例えば、薄膜トランジスタ10を表示装置の画素駆動回路に用いる場合、10〜50nmであることが好ましい。
【0023】
「製造方法」
図1に示す薄膜トランジスタ10は、例えば、以下に示す方法により製造できる。
まず、図2に示すように、基板1上に、従来公知の方法を用いて、ゲート電極2とゲート絶縁膜3とを順次形成する。
次に、ゲート絶縁膜3上に、酸化インジウムタングステン亜鉛からなる酸化物半導体層4を形成する。
【0024】
酸化物半導体層4は、例えば、スパッタ法、化学気相蒸着(CVD)法、塗布法などの方法により形成できる。スパッタ法により酸化物半導体層4を形成する場合、例えば、ターゲットの組成および成膜条件を調整することにより、所望の組成を有する酸化物半導体層4が得られる。成膜条件としては、成膜時にチャンバーに供給するガスの種類及び流量などが挙げられる。具体的には、スパッタ法により酸化物半導体層4を形成する場合、成膜時にArガスなどの不活性ガスとOガスとの混合ガスを、所定の流量で供給することが好ましい。
このようにして酸化物半導体層4を形成した後、必要に応じて、酸化物半導体層4に存在する欠陥を除去するための熱処理を行ってもよい。
【0025】
次に、図2に示すように、酸化物半導体層4上に、ソース電極5およびドレイン電極6となる電極層51を形成する。電極層51は、従来公知の方法を用いて形成できる。
次に、電極層51上に、従来公知の方法および材料を用いて、マスクとなる層を形成する。その後、従来公知の方法を用いて、マスクとなる層をパターニングし、図3に示すように、ソース電極5およびドレイン電極6の形状に対応する所定の形状を有するマスク52とする。
【0026】
その後、電極層51の一部を、酸化物半導体層4の一部(図1において符号4aで示す)が露出するまでウェットエッチングにより除去する。その後、マスク52を除去することにより、所定の形状を有するソース電極5およびドレイン電極6が得られる。
【0027】
電極層51をウェットエッチングする場合に用いるエッチング液としては、金属をウェットエッチングする場合に通常用いられるエッチング液を用いることができ、特に限定されない。具体的には、エッチング液として、例えば、関東化学株式会社製の混酸Alエッチング液などが挙げられる。
このようにしてソース電極5およびドレイン電極6を形成した後、必要に応じて、ソース電極5およびドレイン電極6に存在する欠陥を除去するための熱処理を行ってもよい。
以上の工程を行うことにより、図1に示す薄膜トランジスタ10が得られる。
【0028】
本実施形態の薄膜トランジスタ10は、酸化物半導体層4が、酸化インジウムタングステン亜鉛で形成されている。したがって、酸化物半導体層4の材料として、ガリウムを用いない。また、本実施形態の薄膜トランジスタ10は、酸化物半導体層4が、酸化インジウムタングステン亜鉛で形成されているので、高い移動度が得られる。
【0029】
本実施形態の薄膜トランジスタ10において、酸化物半導体層4がWOを5.0〜15.5質量%含有する酸化インジウムタングステン亜鉛で形成されている場合、信頼性および耐熱性に優れ、しかも、移動度の高いものとなる。
また、酸化物半導体層4がZnOを0.2〜0.8質量%含有する酸化インジウムタングステン亜鉛で形成されている場合、膜密度が高く信頼性に優れるものとなる。
【0030】
本実施形態の薄膜トランジスタ10は、ゲート電極2が基板1上に設けられ、ゲート電極2上に、ゲート絶縁層3を介して酸化物半導体層4が設けられ、ソース電極5が、酸化物半導体層4上の一部に平面視で重なり合って接しており、ドレイン電極6が、ソース電極5と離間して配置され、酸化物半導体層上4の一部に平面視で重なり合って接しているボトムゲート−トップコンタクト型のTFTである。このため、薄膜トランジスタ10を製造する際の、ソース電極5およびドレイン電極6を形成するためのウェットエッチングにおいて、酸化物半導体層4がウェットエッチング液に耐性を備えるため、エッチングストッパー層が不要である。よって、例えば、酸化物半導体層4の他にエッチングストッパー層を形成する場合と比較して、少ない工程で効率よく製造できる。
【0031】
本実施形態の薄膜トランジスタ10の製造方法では、酸化物半導体層4と電極層51とをこの順で形成してから、電極層51の一部を、酸化物半導体層4が露出するまでウェットエッチングにより除去する。このため、ソース電極5およびドレイン電極6を形成するためのウェットエッチングにおいて、酸化物半導体層4の他にエッチングストッパー層を形成する必要はない。したがって、例えば、酸化物半導体層4の他にエッチングストッパー層を形成する場合と比較して、少ない工程で効率よく製造できる。
【0032】
これに対し、酸化物半導体層4が、酸化インジウムガリウム亜鉛(In−Ga−Zn−O)で形成されている場合、酸化物半導体層4をエッチングストッパー層として用いることはできない。それは、酸化インジウムガリウム亜鉛に含まれるGaが、ソース電極5およびドレイン電極6を除去するために用いるエッチング液に容易に溶解するためである。したがって、酸化物半導体層4を、酸化インジウムガリウム亜鉛で形成する場合には、酸化物半導体層4の他にエッチングストッパー層を形成する必要がある。
【0033】
「他の例」
本発明は、上記の実施形態に限定されるものではない。
上記の実施形態においては、ボトムゲート−トップコンタクト型のTFTを例に挙げて説明したが、本発明の薄膜トランジスタは、この構造に限定されるものではない。例えば本発明の薄膜トランジスタは、ゲート電極の下にゲート絶縁膜を介して酸化物半導体層が設けられ、基板とゲート電極との間に酸化物半導体層が設けられたトップゲート型のTFTであってもよいし、ソース電極およびドレイン電極が酸化物半導体層の基板側に配置されたボトムコンタクト型のTFTであってもよい。
【実施例】
【0034】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例にのみ限定されるものではない。
「実施例1」
以下に示す方法により、図1に示す薄膜トランジスタ10を形成し、評価した。
まず、ゲート電極2を兼ねた基板1として、高ドープシリコン基板を用意し、表面のシリコンを熱酸化することにより、厚さ100nmのSiO熱酸化膜からなるゲート絶縁膜3を形成した。
【0035】
その後、ゲート絶縁膜3の上に、スパッタ法により、WOを5.0質量%、ZnOを0.5質量%、Inを94.5質量%含む酸化インジウムタングステン亜鉛で形成された厚さ30nmの酸化物半導体層4を形成した。スパッタは、印加電力を高周波(RF)で100Wとし、成膜時のガス流量を、Arガスを18.0sccm、Oガスを2.0sccmとして行った。
【0036】
次に、酸化物半導体層4上に、メタルマスクを用いて、図1に示すソース電極5およびドレイン電極6を形成した。ソース電極5およびドレイン電極6としては、厚さ10nmのMo合金層と、厚さ30nmのAl層と、厚さ10nmのMo合金層とが、下から順に積層された3層構造のものを形成した。Mo合金層は、MTD−46(商品名:日立金属株式会社製)を用いて形成した。Al層は、一般的な材料を用いて形成した。
【0037】
次に、ソース電極5およびドレイン電極6までの各層の形成された基板1に対して、ホットプレートを用いて、大気中で200℃、1時間の熱処理を行った。
【0038】
以上の工程により、実施例1の薄膜トランジスタを得た。なお、実施例1の薄膜トランジスタは、チャネル長が200μm、チャネル幅が1000μmとなるように作製した。
このようにして得られた実施例1の薄膜トランジスタについて、半導体パラメータアナライザを用いて、ゲート電圧−ドレイン電流特性の測定を行った。ゲート電圧−ドレイン電流特性は、ソース電極に0V、ドレイン電極にドレイン電圧として10Vを印加し、ゲート電極に加えるゲート電圧を変化させて、その時のドレイン電流を測定した。その結果を図4に示す。
【0039】
図4は、実施例1の薄膜トランジスタのゲート電圧−ドレイン電流特性を示したグラフである。実施例1の薄膜トランジスタは、図4に示すように、良好なトランジスタ特性を有するものであった。また、実施例1の薄膜トランジスタは、移動度が16.5cm/Vsであり、高い移動度を有するものであった。
【0040】
「実施例2」
実施例1と同様にして形成したゲート絶縁膜3の上に、スパッタ法により、WOを10.0質量%、ZnOを0.5質量%、Inを89.5質量%含む酸化インジウムタングステン亜鉛で形成された厚さ10nmの酸化物半導体層4を形成した。スパッタは、印加電力を高周波(RF)で100Wとし、成膜時のガス流量を、Arガスを19.6sccm、Oガスを0.4sccmとして行った。
【0041】
次いで、実施例1と同様にして酸化物半導体層4上に、ソース電極5およびドレイン電極6を形成した。
その後、ソース電極5およびドレイン電極6までの各層の形成された基板1に対して、ホットプレートを用いて、大気中で250℃、1時間の熱処理を行った。
【0042】
以上の工程により、実施例2の薄膜トランジスタを得た。なお、実施例2の薄膜トランジスタは、実施例1の薄膜トランジスタと同様に、チャネル長が200μm、チャネル幅が1000μmとなるように作製した。
このようにして得られた実施例2の薄膜トランジスタについて、実施例1と同様にして、ゲート電圧−ドレイン電流特性の測定を行った。その結果を図5に示す。
【0043】
図5は、実施例2の薄膜トランジスタのゲート電圧−ドレイン電流特性を示したグラフである。実施例2の薄膜トランジスタは、図5に示すように、良好なトランジスタ特性を有するものであった。また、実施例2の薄膜トランジスタは、移動度が17.0cm/Vsであり、高い移動度を有するものであった。
【0044】
「実施例3」
実施例1と同様にして形成したゲート絶縁膜3の上に、スパッタ法により、WOを15.0質量%、ZnOを0.5質量%、Inを84.5質量%含む酸化インジウムタングステン亜鉛で形成された厚さ10nmの酸化物半導体層4を形成した。スパッタは、印加電力を高周波(RF)で100Wとし、成膜時のガス流量を、Arガスを19.6sccm、Oガスを0.4sccmとして行った。
その後、酸化物半導体層4の形成された基板1に対して、ホットプレートを用いて、大気中で300℃、1時間の熱処理を行った。
【0045】
次いで、実施例1と同様にして酸化物半導体層4上に、ソース電極5およびドレイン電極6を形成した。
その後、ソース電極5およびドレイン電極6までの各層の形成された基板1に対して、ホットプレートを用いて、大気中で250℃、1時間の熱処理を行った。
【0046】
以上の工程により、実施例3の薄膜トランジスタを得た。なお、実施例3の薄膜トランジスタは、実施例1の薄膜トランジスタと同様に、チャネル長が200μm、チャネル幅が1000μmとなるように作製した。
このようにして得られた実施例3の薄膜トランジスタについて、実施例1と同様にして、ゲート電圧−ドレイン電流特性の測定を行った。その結果を図6に示す。
【0047】
図6は、実施例3の薄膜トランジスタのゲート電圧−ドレイン電流特性を示したグラフである。実施例3の薄膜トランジスタは、図6に示すように、良好なトランジスタ特性を有するものであった。また、実施例3の薄膜トランジスタは、移動度が10.5cm/Vsであり、高い移動度を有するものであった。
【0048】
「実施例4」
実施例1と同様にして形成したゲート絶縁膜3の上に、スパッタ法により、WOを12.5質量%、ZnOを0.5質量%、Inを87.0質量%含む酸化インジウムタングステン亜鉛で形成された厚さ10nmの酸化物半導体層4を形成した。スパッタは、印加電力を高周波(RF)で100Wとし、成膜時のガス流量を、Arガスを19.6sccm、Oガスを0.4sccmとして行った。
【0049】
次いで、実施例1と同様にして酸化物半導体層4上に、ソース電極5およびドレイン電極6を形成した。
その後、ソース電極5およびドレイン電極6までの各層の形成された基板1に対して、ホットプレートを用いて、大気中で250℃、1時間の熱処理を行った。
【0050】
以上の工程により、実施例4の薄膜トランジスタを得た。なお、実施例4の薄膜トランジスタは、実施例1の薄膜トランジスタと同様に、チャネル長が200μm、チャネル幅が1000μmとなるように作製した。
このようにして得られた実施例4の薄膜トランジスタについて、ドレイン電圧として20Vを印加したこと以外は、実施例1と同様にして、ゲート電圧−ドレイン電流特性の測定を行った。その結果を図7に示す。
【0051】
図7は、実施例4の薄膜トランジスタのゲート電圧−ドレイン電流特性を示したグラフである。実施例4の薄膜トランジスタは、図7に示すように、良好なトランジスタ特性を有するものであった。また、実施例4の薄膜トランジスタは、移動度が16.1cm/Vsであり、高い移動度を有するものであった。
【0052】
「実施例5」
以下に示す方法により、図1に示す薄膜トランジスタ10を形成し、評価した。
まず、ゲート電極2を兼ねた基板1として、高ドープシリコン基板を用意し、表面のシリコンを熱酸化することにより、厚さ100nmのSiO熱酸化膜からなるゲート絶縁膜3を形成した。
【0053】
その後、ゲート絶縁膜3の上に、スパッタ法により、WOを15.0質量%、ZnOを0.5質量%、Inを84.5質量%含む酸化インジウムタングステン亜鉛で形成された厚さ10nmの酸化物半導体層4を形成した。スパッタは、印加電力を高周波(RF)で100Wとし、成膜時のガス流量を、Arガスを19.6sccm、Oガスを0.4sccmとして行った。
その後、酸化物半導体層4の形成された基板1に対して、ホットプレートを用いて、大気中で300℃、1時間の熱処理を行った。
【0054】
次に、図2に示すように、酸化物半導体層4上に、ソース電極5およびドレイン電極6となる電極層51を形成した。電極層51としては、厚さ10nmのMo合金層と、厚さ30nmのAl層と、厚さ10nmのMo合金層とが、下から順に積層された3層構造のものを形成した。Mo合金層は、MTD−46(商品名:日立金属株式会社製)を用いて形成した。Al層は、一般的な材料を用いて形成した。
【0055】
次に、図3に示すように、電極層51上に、公知の方法を用いて所定の形状にパターニングされたマスク52を形成した。続いて、電極層51の一部を酸化物半導体層4の一部が露出するまでウェットエッチングにより除去した。エッチング液としては、関東化学株式会社製の混酸Alエッチング液を用いた。
その後、マスク52を除去することにより、所定の形状を有するソース電極5およびドレイン電極6を得た。
次に、ソース電極5およびドレイン電極6までの各層の形成された基板1に対して、ホットプレートを用いて、大気中で200℃、1時間の熱処理を行った。
【0056】
以上の工程により、実施例5の薄膜トランジスタを得た。なお、実施例5の薄膜トランジスタは、チャネル長が100μm、チャネル幅が1000μmとなるように作製した。
このようにして得られた実施例5の薄膜トランジスタについて、実施例4と同様にして、ゲート電圧−ドレイン電流特性の測定を行った。その結果を図8に示す。
【0057】
図8は、実施例5の薄膜トランジスタのゲート電圧−ドレイン電流特性を示したグラフである。実施例5の薄膜トランジスタは、図8に示すように、良好なトランジスタ特性を有するものであった。また、実施例5の薄膜トランジスタは、移動度が11.0cm/Vsであり、高い移動度を有するものであった。
【0058】
実施例1〜実施例5の結果から、本発明の薄膜トランジスタは、ガリウムを含まない酸化物半導体層を有するものであり、しかも10.0cm/Vs以上の高い移動度が得られるものであることが確認できた。
【符号の説明】
【0059】
1…基板、2…ゲート電極、3…ゲート絶縁膜、4…酸化物半導体層、5…ソース電極、6…ドレイン電極、10…薄膜トランジスタ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8