(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
回転軸を中心として回転し、かつ前記回転軸と直交する方向に突出する複数の突極を有するローターと、前記ローターの径方向外側に配置されて前記ローターの周囲を取り囲む環状の構造体及び6×n個の巻線を前記構造体の周方向に沿って有し、かつ前記突極の数をm、界磁磁束の次数をk、3相の回転電機として駆動するための駆動信号を前記巻線に与えたときに発生する電機子の磁束の次数をpとしたとき、m−k=pとなる回転電機を制御するにあたり、
前記回転電機に界磁磁束を発生させるための界磁信号と前記回転電機を3相の回転電機として駆動するための駆動信号とを重畳して前記巻線に出力する、回転電機の制御装置。
p、m及びkは1以上の自然数である。
回転軸を中心として回転し、かつ前記回転軸と直交する方向に突出する複数の第1磁極を有する第1ローターと、前記第1磁極よりも多い数の第2磁極を有し、かつ前記第1ローターの径方向外側に設けられて前記回転軸を中心として回転する第2ローターと、前記第2ローターの径方向外側に配置されて前記第2ローターの周囲を取り囲む環状の構造体及び前記構造体の周方向に沿って設けられた6×n個の巻線を有するステーターと、を含み、前記第1磁極の数をm1、前記第2磁極の数をm2、界磁磁束の次数をk、3相の回転電機として駆動するための駆動信号を前記巻線に与えたときに発生する電機子の磁束の次数をpとしたとき、m1=k+pかつm2=2×k+m1となる、回転電機を制御するにあたり、
前記回転電機に界磁磁束を発生させるための界磁信号と前記回転電機を3相の回転電機として駆動するための駆動信号とを重畳して前記巻線に出力する、回転電機の制御装置。
n、p、m1、m2及びkは1以上の自然数である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明を実施するための形態(実施形態)につき、図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0016】
<回転電機の構造>
図1は、実施形態1に係る回転電機1を、その回転軸Zrを通りかつ回転軸Zrを含む平面で切った断面図である。
図2は、実施形態1に係る回転電機1が備える巻線3Cの配線を示す図である。回転電機1は、ローター2と、ステーター3とを含む。ローター2は、回転軸Zrを中心として回転する。ローター2は、本体部2Bと、複数の突極2Tとを有する。複数の突極2Tは、本体部2Bの表面2BSから、回転軸Zrと直交する方向に突出する。本実施形態において、ローター2は、10個の突極2Tを備えるが、突極2Tの数はこれに限定されない。ローター2は、例えば、電磁鋼板を積層して製造される。
【0017】
ステーター3は、ローター2の径方向外側に配置されてローター2の周囲を取り囲む環状の構造体としてのステーターコア3Kと、この構造体に取り付けられた複数の巻線3Cとを有する。ステーターコア3Kは、環状のヨーク3Yと、ヨーク3Yの内側、すなわちローター2側に設けられた複数の突極3Tとを有する。複数の突極3Tは、ヨーク3Yの周方向に沿って設けられる。隣接する突極3Tの間はスロット3Sであり、ここに巻線3Cが設けられる。本実施形態において、複数の巻線3Cは突極3T及びスロット3Sに集中巻されている。ステーターコア3Kは、例えば、電磁鋼板を積層して製造される。
【0018】
巻線3Cを形成する電線は導体であり、例えば、銅線又はアルミニウム線等が用いられる。ステーター3は、巻線3Cが突極3Tに巻き回された構造体が樹脂でモールドされてもよい。このようにすることで、構造体と巻線とを一体にすることができるので、ステーター3の取り扱いが容易になる。
【0019】
巻線3Cは、それぞれの突極3Tに巻き回され、スロット3Sに設けられる。本実施形態において、ステーター3は、12個の巻線3Cを備える。巻線3Cの個数は12個に限定されるものではないが、6の整数倍、すなわち6×n個(nは自然数)である。突極3T及びスロット3Sの数は巻線3Cの数に等しく、6×n個(nは自然数)となる。複数の巻線3Cは、環状の構造体、より具体的にはヨーク3Yの周方向に沿って設けられる。
【0020】
回転電機1の巻線3Cは、電機子巻線と界磁巻線とが共通となっている。回転電機1は、界磁巻線としての巻線3Cが作る磁界をローター2の磁極である突極2Tで変調し、電機子巻線としての巻線3Cが作る磁界と同期させてローター2を回転させる。このため、複数の巻線3Cは、界磁磁束を発生させるための界磁信号とローター2を3相の回転電機として駆動するための駆動信号とが重畳されて入力される。界磁信号と駆動信号とが重畳された信号を、適宜合成駆動信号と称する。
【0021】
図1及び
図2中の符号A、B、C、D、E、F及び符号U、V、Wは、それぞれの巻線3Cの相を表す。本実施形態において、A相は巻線3Ca1、3Ca2、B相は巻線3Cb1、3Cb2、C相は巻線3Cc1、3Cc2、D相は巻線3Cd1、3Cd2、E相は巻線3Ce1、3Ce2、F相は巻線3Cf1、3Cf2である。本実施形態において、A相〜F相の巻線3Cは、それぞれ並列に接続されているが、直列に接続されていてもよい。
【0022】
A相に対応する巻線3Ca1、3Ca2及びD相に対応する巻線3Cd1、3Cd2には、回転電機1を3相の回転電機として駆動するための駆動信号のU相が入力される。B相に対応する巻線3Cb1、3Cb2及びE相に対応する巻線3Ce1、3Ce2には、回転電機1に対する駆動信号のV相が入力される。また、C相に対応する巻線3Cc1、3Cc2及びF相に対応する巻線3Cf1、3Cf2には、回転電機1に対する駆動信号のW相が入力される。
【0023】
(1)A相及びU相に対応する巻線3Ca1、3Ca2には、駆動信号のU相に対応する駆動電圧Vuと、回転電機1に界磁磁束を発生させるための界磁信号として界磁電圧+Vfとが重畳された上で印加される。
(2)B相及びV相に対応する巻線3Cb1、3Cb2には、駆動信号のV相に対応する駆動電圧Vvと、回転電機1に界磁磁束を発生させるための界磁信号として界磁電圧−Vfとが重畳された上で印加される。
(3)C相及びW相に対応する巻線3Cc1、3Cc2には、駆動信号のW相に対応する駆動電圧Vwと、回転電機1に界磁磁束を発生させるための界磁信号として界磁電圧+Vfとが重畳された上で印加される。
(4)D相及びU相に対応する巻線3Cd1、3Cd2には、駆動信号のU相に対応する駆動電圧Vuと、回転電機1に界磁磁束を発生させるための界磁信号として界磁電圧−Vfとが重畳された上で印加される。
(5)E相及びV相に対応する巻線3Ce1、3Ce2には、駆動信号のV相に対応する駆動電圧Vvと、回転電機1に界磁磁束を発生させるための界磁信号として界磁電圧+Vfとが重畳された上で印加される。
(6)F相及びW相に対応する巻線3Cf1、3Cf2には、駆動信号のW相に対応する駆動電圧Vwと、回転電機1に界磁磁束を発生させるための界磁信号として界磁電圧−Vfとが重畳された上で印加される。
駆動電圧Vu、Vv、Vwは交流電圧であり、界磁電圧+Vf、―Vfは直流電圧である。
【0024】
図3は、実施形態1に係る回転電機1及びこの回転電機1を制御する回転電機の制御装置100を示す図である。
図3中の回転電機1は、
図1に示した巻線3Cを省略してある。回転電機1は、回転電機の制御装置(以下、適宜制御装置と称する)100によって制御される。制御装置100は、制御部103とインバーター105とを有する。制御部103は、回転電機1に界磁磁束を発生させて、回転電機1を3相の回転電機として駆動するための制御信号を生成する。インバーター105は、制御部103によって生成された制御信号によって動作し、直流電源107から供給された直流電力から合成駆動信号を生成する。
【0025】
インバーター105は、
図2に示すそれぞれの巻線3Ca1から3Ce2に、界磁磁束を発生させるための界磁信号である界磁電圧+Vf、−Vfと、ローター2を3相の回転電機として駆動するための駆動信号である駆動電圧Vu、Vv、Vwとが重畳された制御電圧を印加する。回転電機1を制御するインバーター105は、6相のインバーターであり、12個のスイッチング素子106によってフルブリッジが形成されている。スイッチング素子106の種類は問わないが、例えば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)が用いられる。制御部103によって生成された制御信号は、インバーター105が備える各スイッチング素子106のゲートに入力される。
【0026】
図4は、制御装置100の制御部103を説明するための図である。制御部103は、PI(比例及び積分)制御部110と、3相逆dq変換部111と、3相dq変換部112と、界磁電圧生成部113と、目標d軸電流生成部114と、目標q軸電流生成部115とを含む。PI制御部110は、インバーター105によって回転電機1に供給されるU相、V相及びW相の電流が、目標d軸電流生成部114によって生成された目標d軸電流Idt及び目標q軸電流生成部115によって生成された目標q軸電流Iqtとなるように、d軸電流及びq軸電流の電流指令値を生成する。
【0027】
3相dq変換部112は、インバーター105から回転電機1に供給されるU相、V相及びW相の電流Iu、Iv及びIwを、d軸電流Id及びq軸電流Iqにdq変換する。回転電機1のU相の電流Iuは、同相となるA相の電流とD相の電流とを合成したものである。回転電機1のV相の電流Ivは、同相となるB相の電流とE相の電流とを合成したものである。回転電機1のW相の電流Iwは、同相となるC相の電流とF相の電流とを合成したものである。
【0028】
dq変換において、3相dq変換部112は、
図1に示す回転電機1のローター2の回転角度θrを用いる。出力シャフト4は、
図1に示すローター2に連結されているので、出力シャフト4の回転角度は、ローター2の回転角度θrとなる。出力シャフト4の回転角度は、回転電機1の出力シャフト4の回転角度を検出する回転角度センサ5によって検出される。
【0029】
PI制御部110は、3相dq変換部112によって変換された、回転電機1のd軸電流Id及びq軸電流Iqを取得し、目標d軸電流Idtとd軸電流Idとの偏差及び目標q軸電流Iqtとq軸電流Iqとの偏差がそれぞれ0になるように、電圧指令値を生成する。3相逆dq変換部111は、PI制御部110によって生成された電圧指令値を逆dq変換してU相の電圧指令値vu、V相の電圧指令値vv及びW相の電圧指令値vwを生成する。逆dq変換において、3相逆dq変換部111は、ローター2の回転角度θrを用いる。界磁電圧生成部113は、回転電機1に界磁磁束を発生させるために必要な界磁電圧の指令値を生成する。界磁電圧の指令値は、前述したA相〜F相までの6相に対応して、それぞれ+vf、−vf、+vf、−vf、+vf、−vfが生成される。
【0030】
制御部103は、3相逆dq変換部111によって生成された電圧指令値vu、vv、vwと、界磁電圧生成部113が生成した界磁電圧の指令値+vf、−vf、+vf、−vf、+vf、−vfとをそれぞれ重畳して、制御信号を生成する。制御部103は、生成された制御信号をインバーター105に出力する。
図2に示す巻線3Ca1、3Ca2に対する制御信号はvu+vf、巻線3Cb1、3Cb2に対する制御信号はvv−vf、巻線3Cc1、3Cc2に対する制御信号はvw+vf、巻線3Cd1、3Cd2に対する制御信号はvu−vf、巻線3Ce1、3Ce2に対する制御信号はvv+vf、巻線3Cf1、3Cf2に対する制御信号はvw−vfとなる。これらの信号がインバーター105に入力されることにより、インバーター105は、巻線3Ca1、3Ca2に合成駆動電圧Vu+Vfを印加し、巻線3Cb1、3Cb2に合成駆動電圧Vv−Vfを印加し、巻線3Cc1、3Cc2に合成駆動電圧Vw+Vfを印加し、巻線3Cd1、3Cd2に合成駆動電圧Vu−Vfを印加し、巻線3Ce1、3Ce2に合成駆動電圧Vv+Vfを印加し、巻線3Cf1、3Cf2に合成駆動電圧Vw−Vfを印加する。
【0031】
図5及び
図6は、実施形態1に係る回転電機1の相電流と時間tとの関係を示す図である。
図5は、
図2に示すA相及びD相の相電流Ifa、Ifdの時間tに対する変化を示し、
図6は、
図2に示すU相、V相及びW相の相電流Iu、Iv、Iwの時間tに対する変化を示している。A相の相電流Ifa及びD相の相電流Ifdには界磁電流Ixが加えられているため、A相の相電流Ifaは0以上、D相の相電流Ifdは0以下となっている。A相及びD相はいずれもU相なので、これらを合成したU相の相電流Iuは、A相の相電流IfaとD相の相電流Ifdとを合成したものになる。
図6に示すように、U相の相電流Iuは、所定の周期で変動する電流となる。V相の相電流Iv及びW相の相電流IwもU相の相電流Iuと同様に求められる。このように、回転電機1のU相、V相及びW相には、3相の駆動電流が与えられるので、通常の3相のベクトル制御が可能になる。
【0032】
制御部103は、界磁電圧生成部113が、前述したA相〜F相までの6相に対応するそれぞれの界磁電圧の指令値+vf、−vf、+vf、−vf、+vf、−vfを別個独立に生成することができる。このため、制御装置100は、回転電機1の各巻線3Cに印加される界磁電圧を別個独立に制御することができるので、回転電機1の制御の自由度を向上させることができる。また、制御装置100は、回転電機1の各巻線3Cに印加される界磁電圧を変更することにより、回転電機1が発生するトルク及びトルクの特性、具体的には回転速度に対するトルクの変化の仕方を変更することができる。さらに、1つのインバーター105を含む1つの制御装置100が回転電機1を制御する。すなわち、回転電機1は、界磁磁束の制御と電機子の磁束の制御とに、それぞれ別個の機器は不要であるので、回転電機1は、簡易な機器で界磁磁束及び電機子の磁束の両方が制御できる。
【0033】
図7は、実施形態1に係る回転電機1の回転速度NとトルクTとの関係を評価した結果を示す図である。
図7には、回転電機1の回転速度Nに対するトルクTの変化を、界磁電圧を異ならせて評価した結果をN−T曲線として示してある。この評価において、界磁電圧Vfは、Vf1、Vf2、Vf3、Vf4の順に大きくなるように変化させた。界磁電圧をVf1、Vf2、Vf3、Vf4の順に変化させると、同じ回転速度Nにおいて、トルクTは上昇することが分かる。また、界磁電圧を変化させると、回転速度Nに対するトルクTの変化の仕方も異なることが分かる。具体的には、回転電機1の界磁電圧を上昇させると、トルク定数が増加するので、無負荷回転速度、すなわちトルクTが0のときの回転速度が低下し、N−T曲線の傾きが急峻になる。このように、制御装置100は、回転電機1の各巻線3Cに印加される界磁電圧Vfを変更することにより、回転電機1が発生するトルクT及びN−T曲線の特性を変化させることができる。
【0034】
図8は、
図7に示される例よりも界磁電圧を大きくしたときにおける、実施形態1に係る回転電機1の回転速度NとトルクTとの関係を評価した結果を示す図である。界磁電圧Vfは、Vf1、Vf2、Vf3、Vf4、Vf5、Vf6の順に大きくなっている。界磁電圧をVf4よりもさらに大きくすると、回転電機1の回転速度N及びトルクTは大きくなる。すなわち、回転電機1の出力は大きくなる。また、界磁電圧をVf4よりもさらに大きくすると、無負荷回転速度は上昇する。
【0035】
界磁電圧を大きくしていくと電機子の磁束が増加するので、無負荷回転速度が低下する。さらに界磁電圧を大きくすると、界磁磁束によってローター2及びステーター3が磁気飽和し、電機子の磁束が低下する。すると、電機子の磁束の増加及び磁気飽和によるローター2及びステーター3の透磁率の低下が同時に発生する。界磁電圧が低いときは電機子の磁束の増加が支配的である。界磁電圧が高いときは、ローター2及びステーター3の磁気飽和による透磁率の低下が支配的となる。
【0036】
図9は、回転電機の電機子磁束と界磁磁束とを示す図である。
図9の実線の矢印が界磁磁束を示し、破線の矢印が電機子磁束を示す。回転電機1は、界磁磁束のみ又は電機子磁束のみでは正のトルクと負のトルクとが釣り合っているので、合成トルクは0になる。領域R1及び領域R2は、電機子磁束の方向と界磁磁束の方向とが反対なので、電機子電流、すなわち駆動電流が増加することにより磁束が減少し、負のトルクも減少する。領域R3及び領域R4は、電機子磁束の方向と界磁磁束の方向とが同じ方向なので、電機子電流が増加することにより磁束が増加し、正のトルクが増加する。このように、本実施形態の回転電機1は、界磁磁束による正のトルクと負のトルクとのバランスを崩すことで回転する。すなわち、電機子の磁束により界磁磁束による正のトルクを増加させ、負のトルクを減少させる。
【0037】
界磁電圧が比較的小さい場合、例えば、
図8に示される結果のVf3である場合、回転電機1は、電機子電流がある程度の大きさまでは、電機子の磁束と界磁磁束とが相殺される。その結果、回転電機1は、負のトルクを発生させる磁束がほぼ0になる。電機子電流が、前述したある程度の大きさを超えると、電機子の磁束は界磁磁束よりも大きくなり、電機子の磁束は負のトルクを発生させる磁束を生成する。回転電機1に正のトルクを発生させる方、すなわち界磁磁束は磁気飽和するので、電機子電流を大きくすると、回転電機1のトルクが低下する。
【0038】
界磁電圧が比較的大きい場合、例えば、
図8に示される結果のVf5以上である場合、電機子電流を大きくしても、界磁磁束は0にはならず、界磁磁束による負のトルクが発生する。すなわち、電機子電流をさらに大きくしても、正のトルクは一定で負のトルクが減少し続ける結果、トータルのトルクは増加する。
【0039】
回転電機1は、界磁磁束によって発生している正のトルクを増加し,負のトルクを減少させることによって回転する。すなわち、回転電機1は、界磁磁束だけで飽和していても、電機子電流が増加するほど負のトルクを低下させていく。この場合、電機子磁束による正のトルクはほとんど発生しない。界磁電圧をさらに大きくすると、ローター2の磁気飽和とステーター3の磁気飽和とが進行するため、無負荷回転速度はある大きさに収束する。電機子電流が流れると、界磁磁束による負のトルクは低下していくが、正のトルクは磁気飽和のために変化しない。このため、回転電機1は、負のトルクが0になった場合に最大のトルクを発生する。回転電機1は、SR(Switched Reluctance)モータと比較した場合、SRモータでは出力が増加しない大きさを超えて界磁電圧を大きくしても、出力を増加させることができる。
【0040】
本実施形態において、回転電機1は、巻線3Cが界磁巻線として機能したときに発生する磁界をローター2の突極2Tで変調し、巻線3Cが電機子巻線として機能したときに発生する磁界と同期させてローター2を回転させる。このため、突極2Tで変調された磁束の次数と、電機子の磁束の次数とが一致する。回転電機1は、巻線3Cが6×n個である。ローター2の突極2Tの数をm、界磁磁束の次数をkとすると、突極2Tで変調された磁束の次数はm−kで求められる。このため、電機子の磁束の次数をPとすると、m−k=pの関係が成立する。次数pは、回転電機1を3相の回転電機として駆動するための駆動信号を巻線3Cに与えたときに発生する電機子の磁束の次数である。k、m、n及びpは1以上の自然数である。回転電機1は、この関係が満たされることにより、合成駆動信号によって駆動され、かつトルクTの大きさ及びトルクTの特性が変更される。
【0041】
図1に示す例において、p=4、m=10なので、界磁磁束の次数kは6になる。また、電機子の磁束の次数pが2、界磁磁束の次数kが6の場合、ローター2の突極2Tの数mは8になり、電機子の磁束の次数pが5、界磁磁束の次数kが6の場合、ローター2の突極2Tの数mは11になる。
【0042】
(第1変形例)
図10は、実施形態1の第1変形例に係る回転電機1aを、その回転軸Zrを通りかつ回転軸Zrを含む平面で切った断面図である。回転電機1aは、前述した
図1に示す回転電機1と同様であるが、ローター2aが備える突極2Tの数mが7個、界磁磁束の次数kが3である点が異なる。このため、電機子の磁束の次数pは4になる。回転電機1aは、ローター2aが備える突極2Tの数が前述した回転電機1のローター2よりも少ない。このため、回転電機1aのローター2aが回転する際におけるある点の磁束の変化は、回転電機1のローター2よりも少なくなる。その結果、ローター2aに発生する渦電流は、ローター2に発生する渦電流よりも小さくなるので、回転電機1aは、回転電機1よりも高速回転に好適である。
【0043】
界磁磁束の次数kを3にするため、ステーター3aの周方向に沿った巻線3Cの配置は、A相、E相、F相、D相、E相、C相、D相、B相、C相、A相、B相、F相の順になる。ステーター3aの周方向に沿った界磁電圧は、+Vf、+Vf、−Vf、−Vf、+Vf、+Vf、−Vf、−Vf、+Vf、+Vf、−Vf、−Vfとなる。このような配置により、界磁磁束の次数kが3になる。
【0044】
(第2変形例)
図11は、実施形態1の第2変形例に係る回転電機1cを、その回転軸Zrを通りかつ回転軸Zrを含む平面で切った断面図である。
図11は、巻線は省略してある。この回転電機1cは、ローター2の突極2Tの数mが10、ステーター3cのヨーク3Yに設けられた突極3Tの数が48、ステーター3cのスロット3Sの数が48である。巻線は、ステーター3cに分布巻で設けられている。この回転電機1cは、m=10、界磁磁束の次数kは6であるので、電機子の磁束の次数pは4である。分布巻の回転電機1cにおいても、m−k=pの関係を成立させるようにすることで、合成駆動信号によって駆動され、かつトルクTの大きさ及びトルクTの特性が変更される。
【0045】
本実施形態及びその変形例の構成要素は、以下の実施形態でも、適宜組み合わせることが可能である。
【0046】
(実施形態2)
図12は、実施形態2に係る回転電機1dを、その回転軸Zrを通りかつ回転軸Zrを含む平面で切った断面図である。回転電機1dは、ステーター3d以外は実施形態1の回転電機1と同様である。回転電機1dは、ステーター3dのそれぞれの突極3Tdに、永久磁石8が設けられている。永久磁石8は、突極3Tdのローター2側に設けられている。永久磁石8を備えるそれぞれの突極3Tdは、ステーター3dの周方向に沿って配列されている。N極の永久磁石8NとS極の永久磁石8Sとは、ステーター3dの周方向に沿って交互に並んでいる。回転電機1dは、永久磁石8によって生成される界磁磁束の次数が6、ローター2の突極2Tの数が10なので、ローター2の突極2Tで変調された磁束の次数は10−6=4である。したがって、回転電機1dを3相の回転電機として駆動するための駆動信号を巻線3Cに与えたときに発生する電機子の磁束の次数は4である。すなわち、ローター2を回転させるための回転磁界の次数は4である。回転電機1dは、永久磁石8による界磁磁束のみでローター2が回転する。
【0047】
図13は、実施形態2に係る回転電機1eを、その回転軸Zrを通りかつ回転軸Zrを含む平面で切った断面図である。回転電機1eは、ローター2e以外は実施形態1の回転電機1と同様である。回転電機1eは、ローター2eの本体部2Beに、それぞれの突極2Tに対応して永久磁石9が埋め込まれている。N極の永久磁石9NとS極の永久磁石9Sとは、ローター2eの周方向に沿って交互に並んでいる。回転電機1eは、永久磁石9によって生成される界磁磁束の次数が6、ローター2eの突極2Tの数が10なので、ローター2eの突極2Tで変調された磁束の次数は10−6=4である。したがって、回転電機1eを3相の回転電機として駆動するための駆動信号を巻線3Cに与えたときに発生する電機子の磁束の次数は4である。すなわち、ローター2を回転させるための回転磁界の次数は4である。回転電機1eは、永久磁石9による界磁磁束のみでローター2が回転する。
【0048】
図14は、実施形態1に係る回転電機1の誘起電圧Veと界磁電圧Vfとの関係を示す図である。
図15は、実施形態2に係る回転電機1d及び1eの誘起電圧Veと界磁電圧Vfとの関係を示す図である。
図16は、実施形態2に係る回転電機1d及び1eの界磁電圧Vfの有無によるトルクTと回転速度Nとの関係を示す図である。
図17は、実施形態2に係る回転電機1d及び1eの界磁電圧Vfを変化させたときのトルクTと回転速度Nとの関係を示す図である。
【0049】
図15に示されるように、実施形態2に係る回転電機1d及び1eは、界磁電圧Vfが低い場合は永久磁石8及び永久磁石9の磁束が支配的で、誘起電圧Veは略一定である。回転電機1d及び1eは、界磁電圧Vfを大きくすると、誘起電圧Veがピーク値になった後、
図14に示される実施形態1の回転電機1と同様に、界磁電圧Vfが大きくなるにしたがって誘起電圧Veは小さくなる。実施形態2に係る回転電機1d及び1eの方が、実施形態1に係る回転電機1よりも誘起電圧Veのピークが低くなる。これは、ステーター3dの突極3Td又はローター2eの突極2Teに設けられた永久磁石8又は永久磁石9が、巻線3Cによって生成された界磁磁束にとっての磁気抵抗になっているからである。
【0050】
図16には、実施形態2に係る回転電機1d及び1eの界磁電圧がVfaの場合のN−T曲線とVfbの場合のN−T曲線とが示されている。Vfaは0ボルトであり、Vfaは0ボルトよりも大きい。回転電機1d及び1eは、いずれも同様のN−T曲線となっている。すなわち、回転電機1d及び1eは、永久磁石8及び永久磁石9による界磁磁束が発生するので、巻線3Cによる界磁による界磁磁束の有無に関わらず同様のN−T特性となっている。
図17に示されるように、実施形態2に係る回転電機1d及び1eは、界磁電圧がVfc、Vfd、VfeVffの順に大きくなると、出力が増加する。このように、実施形態2に係る回転電機1d及び1eは、実施形態1に係る回転電機1と同様の特性を示す。
【0051】
本実施形態の構成要素は、以下の実施形態でも、適宜組み合わせることが可能である。
【0052】
(実施形態3)
図18は、実施形態3に係る回転電機1fを、その回転軸Zrを通りかつ回転軸Zrを含む平面で切った断面図である。回転電機1fは、実施形態1に係る回転電機1と同様であるが、第1ローター2fと、第2ローター7とを備える点が異なる。回転電機1fの他の構造は、実施形態1に係る回転電機1と同様である。
【0053】
第1ローター2fは、回転軸Zrを中心として回転する。第1ローター2fは、本体部2Bfと、複数の第1磁極2Tfとを有する。複数の第1磁極2Tfは、本体部2Bfの表面2BSfから、回転軸Zrと直交する方向に突出する。本実施形態において、ローター2は、10個の第1磁極2Tfを備えるが、第1磁極2Tfの数は10個に限定されない。第1ローター2fは、例えば、電磁鋼板を積層して製造される。
【0054】
第2ローター7は、複数の第2磁極7Tが環状に配列された構造体である。第2ローター7は、第1ローター2fの径方向外側に設けられて、回転軸Zrを中心として回転する。第2ローター7が備える複数の第2磁極7Tの数は第1ローター2fが備える複数の第1磁極2Tfの数よりも多く、本実施形態では22個である。本実施形態において、複数の第2磁極7Tは、隣接する第2磁極7T同士が連結部材7Yによって連結されて、環状の構造体である第2ローター7を形成している。第2ローター7は、例えば、電磁鋼板を積層して製造される。回転電機1fが電動機として用いられる場合、回転電機1fの出力は、第2ローター7から取り出される。また、回転電機1fが発電機として用いられる場合、第2ローター7から回転電機1fに電力を発生させるための動力が入力される。
【0055】
ステーター3は、実施形態1に係る回転電機1と同様なので説明を省略する。ステーター3は、界磁磁束を発生させるための界磁信号と第1ローター2f及び第2ローター7を3相の回転電機として駆動するための駆動信号とが重畳されて巻線3Cに入力される。回転電機1fは、実施形態1に係る回転電機1を制御する制御装置100(
図2参照)によって制御される。すなわち、回転電機1fは、6相のインバーター105によって制御される。
【0056】
直流電圧である界磁電圧と、3相の回転電機として回転電機1fを回転させるための電機子電圧とが重畳された上で、回転電機1fの各相に印加されることにより、回転電機1fの第1ローター2fは回転する。回転電機1fの第2ローター7は、回転電機1fの各相に与えられる界磁電圧による磁束を磁気ギアの磁力源として利用することで回転する。
【0057】
回転電機1fは、実施形態1の制御装置100によって制御される。この場合、制御装置100は、実施形態1の回転電機1を制御する処理と同様の処理によって回転電機1fを制御する。すなわち、制御装置100は、回転電機1fに界磁磁束を発生させるための界磁信号と回転電機1fを3相の回転電機として駆動するための駆動信号とを重畳して回転電機1fの巻線3Cに出力する。
【0058】
第1ローター2fの第1磁極2Tfの数をm1、界磁磁束の次数をkとすると、第1ローター2fの第1磁極2Tfが界磁磁束を変調することによって発生する高調波磁束の次数は、m1±kで求めることができる。同様に、第2ローター7の第2磁極7Tの数をm2、界磁磁束の次数をkとすると、第2ローター7の第2磁極7Tが界磁磁束を変調することによって発生する高調波磁束の次数は、m2±kで求めることができる。本実施形態では、m1=10、m2=22、k=6なので、第1ローター2fの第1磁極2Tfが界磁磁束を変調することによって発生する高調波磁束の次数は4又は10、第2ローター7の第2磁極7Tが界磁磁束を変調することによって発生する高調波磁束の次数は16又は28になる。
【0059】
図19は、第1ローター2fの回転原理を説明するための図である。本実施形態において、第1ローター2fは、10個の第1磁極2Tfを有するので、パーミアンス分布は10次になる(
図19の曲線PD)。前述したように、ステーター3は、12個のスロット3Sと、12個の突極3Tと、それぞれのスロット3Sに設けられる、
図18に示される巻線3Cとを備えている。ステーター3には、A相、B相、C相、D相、E相及びF相に界磁電圧が印加されるので、界磁磁束は、6次になる(
図19の曲線LM)。第1ローター2fの第1磁極2Tfが界磁磁束を変調することによって発生する高調波磁束の次数のうち小さい方は4次になる(
図19の曲線HH1)。ステーター3の各巻線3Cには、
図19の曲線RMで示される4次の回転磁束をステーター3に発生させるための駆動電圧Vv、Vu、Vwが印加される。このようにすることで、ステーター3が発生する4次の回転磁界と、第1磁極2Tfが界磁磁束を変調することによって発生する4次の高調波磁束とが同期して、第1ローター2fが回転する。
【0060】
図20は、第2ローター7の回転原理を説明するための図である。本実施形態において、第2ローター7は、22個の第2磁極7Tを有する。このため、第2ローター7の第2磁極7Tが界磁磁束を変調することによって発生する高調波磁束の次数のうち小さい方は16次になる(
図20の曲線HL)。ステーター3による界磁磁束は6次になる(
図20の曲線LM)。このようにすることで、第1ローター2fの第1磁極2Tfが界磁磁束を変調することによって発生する次数が大きい方の16次の高調波磁束と、第2磁極7Tが界磁磁束を変調することによって発生する16次の高調波磁束とが同期して、第2ローター7が回転する。
【0061】
回転電機1fを3相の回転電機として駆動するための駆動信号をステーター3の巻線3Cに与えたときに発生する電機子の磁束の次数をpとすると、m1=k+pかつm2=2×k+m1となる。n、p、m1、m2及びkは1以上の自然数である。pは、第1ローター2fの第1磁極2Tfが界磁磁束を変調することによって発生する高調波磁束のうち、小さい方である。第2ローター7は、第1ローター2fよりも低い回転速度で回転する。減速比をGrとすると、Gr=m2/m1となる。
【0062】
(評価)
本実施形態の回転電機1fを評価した。評価に供した回転電機1fの仕様は、ステーター3が12スロット、ステーター3の直径が220mm、厚みが70mm、第1ローター2fの第1磁極2Tfの数が10、第2ローター7の第2磁極7Tの数が22、巻線3Cは20ターンで抵抗は0.0155Ωとした。回転電機1fの界磁磁束は6次、電機子の磁束(回転磁束)は4次とした。コンピュータによる電磁解析の数値シミュレーションにより、回転電機1fを評価した。回転電機1fの評価にあたり、まず、有限要素法に基づく回転電機1fの解析モデルを、例えばコンピュータを用いて作成した。次に、作成された解析モデルを、コンピュータを用いた電磁解析のシミュレーションによって回転させて、回転電機1fの回転速度N及びトルクT等の特性値を評価した。
【0063】
図21は、第1ローター2f及び第2ローター7の回転速度Nの時間変化を示す図である。
図21において、時間t=0は回転電機1fが回転を開始したタイミングを示す。時間tが経過するにしたがって、第1ローター2f及び第2ローター7の回転速度Nは増加し、一定の値になる。第1ローター2f及び第2ローター7の回転速度Nが一定になったとき、第1ローター2fの回転速度Nは毎分5743回転であり、第2ローター7の回転速度Nは毎分2610回転であった。このときの速度比、すなわち第1ローター2fの回転速度と第2ローター7の回転速度との比Grは2.20であり、回転電機1fの減速比Gr=m2/m1=22/10=2.2に等しい。この結果から、回転電機1fは理論通りに動作することが確認された。
【0064】
図22は、実施形態3に係る回転電機1fの界磁電圧を変化させたときにおける回転速度NとトルクTとの関係を示す図である。
図22は、界磁電圧がVfg、Vfh、Vfiの順に大きくなっている。
図22示される結果から、回転電機1fは、界磁電圧を変化させることで、N−T特性が変化することが分かった。具体的には、界磁電圧を大きくすると、
図22に示されるN−T曲線の傾きが大きくなる、すなわち回転電機1fの出力が大きくなることが分かった。
【0065】
図23は、実施形態3に係る回転電機1fの界磁電圧Vfと最大伝達トルクTtとの関係を示す図である。
図23に示されるように、回転電機1fは、界磁電圧Vfを変化させることで、最大伝達トルクTtが変化することが分かった。具体的には、界磁電圧Vfを大きくすると、最大伝達トルクTtが大きくなることが分かった。最大伝達トルクTtは、第1ローター2fと第2ローター7との間で伝達される最大のトルクである。最大伝達トルクTtを超える大きさのトルクを伝達しようとすると、回転電機1fは、第1ローター2fと第2ローター7との間で滑りが発生する。このため、回転電機1fの巻線3Cに過電流が流れたり、回転電機1fに過大な負荷が作用したりすることが低減される。このように、回転電機1fは、トルクリミッタ機能を有する。
【0066】
以上、実施形態1、その変形例、実施形態2及び実施形態3について説明したが、前述した内容により実施形態1、変形例、実施形態2及び実施形態3が限定されるものではない。また、前述した実施形態1、その変形例、実施形態2及び実施形態3の構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、前述した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。また、実施形態1、その変形例、実施形態2及び実施形態3の要旨を逸脱しない範囲で構成要素の種々の省略、置換及び変更を行うことができる。