(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を説明する。同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。図面の寸法比率は、説明のものと必ずしも一致していない。
【0014】
図1は、一実施形態に係る有機ELデバイス(有機電子デバイス)の製造に使用する保護フィルム付き封止部材10の側面図であり、保護フィルム付き封止部材10の構成を概略的に示している。保護フィルム付き封止部材10は、封止部材20と、保護フィルム30とを備える。保護フィルム付き封止部材10は、帯状でもよいし、枚葉状でもよい。以下、断らない限り、保護フィルム付き封止部材10は、帯状を呈する。
【0015】
封止部材20は、有機ELデバイスに含まれる有機層の劣化を防止するための部材である。封止部材20は、封止基材21と、接着層22と、樹脂フィルム(樹脂層)23とを有する。
【0016】
封止基材21は、水分バリア機能を有する。封止基材21の水分透過率の例は、温度40℃、湿度90%RHの環境下で5×10
−5g/(m
2・24hr)以下である。なお、水蒸気透過率は、例えば、カルシウム腐食法により測定することができる。封止基材21は、ガスバリア機能を有してもよい。封止基材21の例としては、金属箔、透明なプラスチックフィルムの片面又はその両面にバリア機能層を形成したバリアフィルム、或いはフレキシブル性を有する薄膜ガラス、プラスチックフィルム上にバリア性を有する金属を積層させたフィルム等が挙げられる。封止基材21の厚さの例は、10μm〜300μmである。金属箔としては、バリア性の観点から、銅箔、アルミニウム箔、又はステンレス箔が好ましい。封止基材21が金属箔である場合、金属箔の厚さとしては、ピンホール抑制の観点から厚い程好ましいが、フレキシブル性の観点も考慮すると10μm〜50μmが好ましい。
【0017】
接着層22は、封止基材21の一方の面に積層されている。接着層22は、隣接する少なくも2層を互いに接着するために配置される層である。接着層22は、有機ELデバイスにおける封止部材20で封止すべき部分を埋設可能な厚さを有していればよい。接着層22の厚さの例は、5μm〜100μmである。
【0018】
接着層22の材料の例は、光硬化性又は熱硬化性のアクリレート樹脂、光硬化性又は熱硬化性のエポキシ樹脂等が挙げられる。その他一般に使用されるインパルスシーラーで融着可能な樹脂フィルム、例えばエチレン酢酸ビニルコポリマー(EVA)、ポリプロピレン(PP)フィルム、ポリエチレン(PE)フィルム、ポリブタジエンフィルム等の熱融着性フィルムを接着層22として使用できる。熱可塑性樹脂も接着層22の材料に使用でき、例えば、オレフィン系エラストマーやスチレン系エラストマー、ブタジエン系エラストマー等が挙げられる。
【0019】
接着層22は吸湿剤を含んでもよい。吸湿剤は、水分を吸収する剤であるが、水分の他に、酸素等を吸収してもよい。吸湿剤の吸湿速度は、温度24℃、湿度55%RHの環境下において、1wt%/hr以上であることが好ましい。
【0020】
樹脂フィルム23は、封止基材21の他方の面(接着層22と接する面と反対側の面)に積層されている。樹脂フィルム23は、封止基材21の支持体として機能し得る。樹脂フィルム23の材料としては、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリイミド(PI)などが挙げられる。
【0021】
保護フィルム30は、接着層22のうち封止基材21と接する面と反対側の面に積層されている。すなわち、保護フィルム30は、接着層22を介して封止部材20に積層されている。保護フィルム30は、有機ELデバイスが製造されるまでに、接着層22へのゴミ付着の防止、及び、後述する複数の搬送ロールRへの接着層22の付着を防止するための部材である。保護フィルム30は、接着層22から剥離可能な剥離フィルムであり得る。
【0022】
保護フィルム30の材料の例としては、ポリエチレンナフタレート(PEN)、PET、PP、PE、PI、シクロオレフィンポリマー、シクロオレフィンコポリマー等が挙げられる。保護フィルム30の厚さの例としては、9μm〜50μmが挙げられる。
【0023】
保護フィルム30の接着層22と接する面には、コーティング層が形成されてもよい。コーティング層の材料の例は、シリコーン樹脂系離型剤、フッ素系離型剤、アルキド系離型剤、アクリル系離型剤等である。
【0024】
次に、
図1に示した保護フィルム付き封止部材10を用いた有機ELデバイスの製造方法の一例を説明する。
図2に示したように、有機ELデバイスの製造方法は、デバイス基材形成工程S10と、保護フィルム付き封止部材10の準備工程S20と、封止部材貼合工程S30とを備える。断らない限り、製造すべき有機ELデバイスがボトムエミッション型の場合を説明するが、有機ELデバイスはトップエミッション型でもよい。
【0025】
[デバイス基材形成工程]
デバイス基材形成工程S10では、
図3に示したように、基板41上に、陽極(第1電極)42、有機EL部(有機層を含むデバイス機能部)43及び陰極(第2電極)44を順に積層することによってデバイス基材40を形成する。デバイス基材40を説明する。
【0026】
[基板]
基板41は、製造する有機ELデバイスが出射する光(波長400nm〜800nmの可視光を含む)に対して透光性を有する。本実施形態において、有機ELデバイスの製造に使用する基板41は帯状を呈する。基板41の厚さの例は、30μm〜700μmである。
【0027】
基板41は、可撓性を有する基板が好ましい。可撓性とは、基板に所定の力を加えても基板が剪断したり破断したりすることがなく、基板を撓めることが可能な性質である。基板41の例はプラスチックフィルム又は高分子フィルムである。基板41は、水分バリア機能を有するバリア層を更に有してもよい。バリア層は、水分をバリアする機能に加えて、ガス(例えば酸素)をバリアする機能を有してもよい。
【0028】
[陽極]
陽極42は、基板41上に設けられている。陽極42には、光透過性を示す電極が用いられる。光透過性を示す電極としては、電気伝導度の高い金属酸化物、金属硫化物及び金属等の薄膜を用いることができ、光透過率の高い薄膜が好適に用いられる。陽極42は、導電体(例えば金属)からなるネットワーク構造を有してもよい。陽極42の厚さは、光の透過性、電気伝導度等を考慮して決定され得る。陽極42の厚さは、通常、10nm〜10μmであり、好ましくは20nm〜1μmであり、さらに好ましくは50nm〜500nmである。
【0029】
陽極42の材料としては、例えば酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、インジウム錫酸化物(Indium Tin Oxide:略称ITO)、インジウム亜鉛酸化物(Indium Zinc Oxide:略称IZO)、金、白金、銀、銅等が挙げられ、これらの中でもITO、IZO、又は酸化スズが好ましい。陽極42は、例示した材料からなる薄膜として形成され得る。陽極42の材料には、ポリアニリン及びその誘導体、ポリチオフェン及びその誘導体等の有機物を用いてもよい。この場合、陽極42は、透明導電膜として形成され得る。
【0030】
陽極42は、ドライ成膜法、メッキ法、塗布法などにより形成され得る。ドライ成膜法としては、例えば、真空蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法、CVD法などが挙げられる。塗布法としては、例えば、インクジェット印刷法、スリットコート法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイヤーバーコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法及びノズル印刷法等が挙げられ、これらの中でもインクジェット印刷法が好ましい。
【0031】
[有機EL部]
有機EL部43は、陽極42及び陰極44に印加された電圧に応じて、電荷の移動及び電荷の再結合などの有機ELデバイスの発光に寄与する機能部であり、発光層等の有機層を有する。
【0032】
発光層は、光(可視光を含む)を発する機能を有する機能層である。発光層は、通常、主として蛍光及びりん光の少なくとも一方を発光する有機物、又はこの有機物とこれを補助するドーパント材料とから構成される。従って、発光層は有機層(有機物を含む層)である。ドーパント材料は、例えば発光効率の向上や、発光波長を変化させるために加えられる。上記有機物は、低分子化合物でも高分子化合物でもよい。発光層の厚さは、例えば約2nm〜200nmである。
【0033】
主として蛍光及びりん光の少なくとも一方を発光する有機物としては、例えば以下の色素系材料、金属錯体系材料及び高分子系材料が挙げられる。
【0034】
(色素系材料)
色素系材料としては、例えば、シクロペンダミン誘導体、テトラフェニルブタジエン誘導体化合物、トリフェニルアミン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ピラゾロキノリン誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、ジスチリルアリーレン誘導体、ピロール誘導体、チオフェン環化合物、ピリジン環化合物、ペリノン誘導体、ペリレン誘導体、オリゴチオフェン誘導体、オキサジアゾールダイマー、ピラゾリンダイマー、キナクリドン誘導体、クマリン誘導体などが挙げられる。
【0035】
(金属錯体系材料)
金属錯体系材料としては、例えばTb、Eu、Dyなどの希土類金属、又はAl、Zn、Be、Ir、Ptなどを中心金属に有し、オキサジアゾール、チアジアゾール、フェニルピリジン、フェニルベンゾイミダゾール、キノリン構造などを配位子に有する金属錯体が挙げられ、例えばイリジウム錯体、白金錯体などの三重項励起状態からの発光を有する金属錯体、アルミニウムキノリノール錯体、ベンゾキノリノールベリリウム錯体、ベンゾオキサゾリル亜鉛錯体、ベンゾチアゾール亜鉛錯体、アゾメチル亜鉛錯体、ポルフィリン亜鉛錯体、フェナントロリンユーロピウム錯体などが挙げられる。
【0036】
(高分子系材料)
高分子系材料としては、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリシラン誘導体、ポリアセチレン誘導体、ポリフルオレン誘導体、ポリビニルカルバゾール誘導体、上記色素系材料や金属錯体系発光材料を高分子化したものなどが挙げられる。
【0037】
(ドーパント材料)
ドーパント材料としては、例えばペリレン誘導体、クマリン誘導体、ルブレン誘導体、キナクリドン誘導体、スクアリウム誘導体、ポルフィリン誘導体、スチリル系色素、テトラセン誘導体、ピラゾロン誘導体、デカシクレン、フェノキサゾンなどが挙げられる。
【0038】
発光層は、ドライ成膜法、塗布法などによって形成され得る。ドライ成膜法及び塗布法の例は、陽極42の場合と同様である。発光層は、好ましくは、インクジェット印刷法で形成される。
【0039】
有機EL部43は、発光層の他、種々の機能層を有してもよい。陽極42と発光層との間に配置される機能層の例は、正孔注入層、正孔輸送層などである。陰極44と発光層との間に配置される機能層の例は、電子注入層、電子輸送層などである。電子注入層は、陰極44の一部であってもよい。ここで、正孔注入層とは、陽極42から発光層への正孔注入効率を向上させる機能を有する機能層であり、正孔輸送層とは、陽極42、正孔注入層又は正孔輸送層のうち陽極42により近い部分から発光層への正孔注入効率を向上させる機能を有する機能層であり、電子輸送層とは、陰極44、電子注入層又は電子輸送層のうち陰極44により近い部分から発光層への電子注入効率を向上させる機能を有する機能層であり、電子注入層とは、陰極44から発光層への電子注入効率を向上させる機能を有する機能層である。
【0040】
有機EL部43の層構成の例を以下に示す。下記層構成の例では、陽極42及び陰極44と各種機能層の配置関係を示すために、陽極及び陰極も括弧書きで記載している。
(a)(陽極)/発光層/(陰極)
(b)(陽極)/正孔注入層/発光層/(陰極)
(c)(陽極)/正孔注入層/発光層/電子注入層/(陰極)
(d)(陽極)/正孔注入層/発光層/電子輸送層/電子注入層/(陰極)
(e)(陽極)/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/(陰極)
(f)(陽極)/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子注入層/(陰極)
(g)(陽極)/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/(陰極)
(h)(陽極)/発光層/電子注入層/(陰極)
(i)(陽極)/発光層/電子輸送層/電子注入層/(陰極)
記号「/」は、記号「/」の両側の層同士が接合していることを意味している。
【0041】
有機EL部43が有する発光層以外の機能層(例えば、正孔注入層、正孔輸送層、電子注入層、電子輸送層など)の材料には公知の材料が用いられ得る。これらの機能層は有機物を含む有機層であってもよい。有機EL部43が有する機能層の厚さは、用いる材料によって最適値が異なり、電気伝導度、耐久性等を考慮して設定される。有機EL部43が有する発光層以外の機能層も発光層と同様の方法で形成され得る。
【0042】
[陰極]
陰極44は、有機EL部43上に設けられている。陰極44の厚さは、用いる材料によって最適値が異なり、電気伝導度、耐久性等を考慮して設定される。陰極44の厚さは、通常、10nm〜10μmであり、好ましくは20nm〜1μmであり、さらに好ましくは50nm〜500nmである。
【0043】
有機EL部43からの光(具体的には、発光層からの光)が陰極44で反射して陽極42側に進むように、陰極44の材料は、有機EL部43が有する発光層からの光(特に可視光)に対して反射率の高い材料が好ましい。陰極44の材料としては、例えばアルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属及び周期表の第13族金属等が挙げられる。陰極44として、導電性金属酸化物及び導電性有機物等からなる透明導電性電極を用いてもよい。
【0044】
陰極44の形成方法としては、例えば、インクジェット法、スリットコーター法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、スプレーコーター法等の塗布法、真空蒸着法、スパッタリング法、金属薄膜を熱圧着するラミネート法等が挙げられる。
【0045】
デバイス基材形成工程S10では、ロールツーロール方式で帯状の基板41を長手方向に搬送しながら、基板41上に仮想的に設定された複数のデバイス形成領域上に、それぞれ陽極42、有機EL部43及び陰極44を順次積層することによってデバイス基材40を形成する。陽極42、有機EL部43及び陰極44は、前述した方法で形成され得る。有機EL部43が多層構造を有する場合は、陽極42側から順に各層を形成すればよい。
【0046】
[保護フィルム付き封止部材の準備工程]
保護フィルム付き封止部材の準備工程S20(以下、準備工程S20と称する。)では、ロールツーロール方式で、保護フィルム付き封止部材10を加熱脱水する。
図2に示したように、準備工程S20は、巻出し工程S21と、脱水工程S22と、徐冷工程S23と、巻取り工程S24とを有する。本実施形態では、脱水工程S22と巻取り工程S24の間に、徐冷工程S23を備える形態を説明する。しかしながら、準備工程S20は、徐冷工程S23を有さなくてもよい。
【0047】
図4は、保護フィルム付き封止部材の準備工程S20を説明する図面である。
図4では、保護フィルム付き封止部材10を模式的に太い実線で示しているとともに、説明の便宜のため、脱水工程S22及び徐冷工程S23に関連する領域を破線で示している。準備工程S20では、保護フィルム付き封止部材10を、複数の搬送ロールRを用いてその長手方向に搬送しながら加熱脱水を行う。保護フィルム付き封止部材10の搬送中には、長手方向に一定の張力(例えば30N)を印加する。本実施形態では、保護フィルム付き封止部材10を、保護フィルム30が搬送ロールRに接するように搬送するが、樹脂フィルム23が搬送ロールRに接してもよい。
【0048】
(巻出し工程)
巻出し工程S21では、
図4に示したように、巻出し室51内に配置された巻出し部61にロール状の保護フィルム付き封止部材10をセットした後、保護フィルム付き封止部材10を巻き出す。巻き出された保護フィルム付き封止部材10は、搬送ロールRで加熱室52に搬送される。巻出し室51と加熱室52とは、
図4に示したように直接連結されていてもよいし、連結部で連結されていてもよい。
【0049】
(脱水工程)
脱水工程S22では、巻出し室51から搬送されてきた保護フィルム付き封止部材10を搬送ロールRで搬送しながら赤外線で加熱脱水する。具体的には、保護フィルム付き封止部材10の搬送経路上に配置された赤外線照射部54から保護フィルム付き封止部材10に赤外線を照射して保護フィルム付き封止部材10を加熱脱水する。
【0050】
赤外線照射部54は、加熱脱水に使用する赤外線を出力可能な構成を有していればよく、例えば赤外線ヒータである。赤外線照射部54は、例えば保護フィルム30側から保護フィルム付き封止部材10に赤外線を照射するように、保護フィルム付き封止部材10に対して配置され得る。
【0051】
保護フィルム付き封止部材10に照射する赤外線は、保護フィルム付き封止部材10を効率的に加熱脱水するために水の吸収波長を含む近・中赤外線(波長1.8μm〜3.0μm)が好ましい。
【0052】
脱水工程S22で使用する複数の搬送ロールRのそれぞれは加熱ロール(ロール)R1である。上記加熱ロールR1(すなわち、赤外線照射部54からの赤外線で加熱されている保護フィルム付き封止部材10が接する加熱ロールR1)のロール表面の温度は、樹脂フィルム23のガラス転移温度以上に設定されている。複数の加熱ロールR1のロール表面の温度は、実質的に同じ温度で設定されていてもよいし、樹脂フィルム23のガラス転移温度以上であれば異なっていてもよい。加熱ロールR1の構成は、ロール表面の温度が上記温度に設定できれば限定されない。例えば、加熱ロールR1の軸線に沿って、ロール表面の温度を上記ガラス転移温度以上に設定可能な温度を有する液体(例えば水、油など)が流れるように構成されていてもよいし、ヒータが内蔵されていてもよい。本実施形態では、脱水工程S22で使用する加熱ロールR1を複数用いる形態を説明しているが、脱水工程S22で使用する加熱ロールR1は一つであってもよい。
【0053】
(徐冷工程)
徐冷工程S23は、脱水工程S22に引き続き加熱室52内で実施される。徐冷工程S23では、保護フィルム付き封止部材10を加熱室52内で複数の搬送ロールRで搬送しながら、樹脂フィルム23のガラス転移温度未満まで保護フィルム付き封止部材10を徐冷する。徐冷工程S23中に保護フィルム付き封止部材10が接する複数の搬送ロールRも加熱ロールR1であり、複数の加熱ロールR1のロール表面の温度は、上流側の加熱ロールR1から下流側の加熱ロールR1に向けて、樹脂フィルム23のガラス転移温度以上の温度からガラス転移温度未満の温度まで段階的に低くなるように設定され得る。このように、複数の加熱ロールR1のロール表面の温度を変化させることで、保護フィルム付き封止部材10が徐冷され得る。段階的に低下させる複数の加熱ロールR1において、各加熱ロールR1のロール表面の温度は、例えば徐冷工程S23における搬送距離、搬送速度などにより設定され得る。例えば、徐冷工程S23における搬送距離が長い場合、保護フィルム付き封止部材10の搬送方向において隣り合う加熱ロールR1のロール表面温度の差が大きく設定され、搬送速度が速い場合、保護フィルム付き封止部材10の搬送方向において隣り合う加熱ロールR1のロール表面温度の差が小さく設定され得る。徐冷工程S23における搬送距離は、樹脂フィルム23の温度がガラス転移温度未満になる距離であればよく、例えばシミュレーションで予め算出していてもよいし、実際の実験結果に基づいた距離でもよい。
【0054】
徐冷工程S23では、例えば、赤外線照射部54を用いて、下流側に向けて段階的に温度が低くなるように、脱水工程S22より低い温度で予備加熱をしてもよいし、例えば、温風を流してもよい。
【0055】
本実施形態では、上記徐冷工程S23を経ることで、樹脂フィルム23の温度がガラス転移温度未満になった後に、保護フィルム付き封止部材10をロール表面の温度がガラス転移温度未満である搬送ロールRに接触させて搬送する。該搬送ロールRのロール表面の温度は、常温(例えば22℃〜30℃)が好ましい。
【0056】
(巻取り工程)
巻取り工程S24では、加熱室52で加熱脱水された保護フィルム付き封止部材10を、加熱室52の後段に設けられた巻取り室53内の巻取り部62でロール状に巻き取る。巻取り室53内では、加熱室52から搬送されてきた保護フィルム付き封止部材10を搬送ロールRで巻取り部62に向けて搬送する。加熱室52と巻取り室53とは、
図4に示したように、直接連結されていてもよいし、それらが連結部で連結されてもよい。
【0057】
[封止部材貼合工程]
封止部材貼合工程S30では、脱水工程S22を経た保護フィルム付き封止部材10から保護フィルム30を剥離し、
図5に示したように、接着層22を介して封止部材20をデバイス基材40に貼合することによって、有機ELデバイスを得る。封止部材貼合工程S30は、保護フィルム付き封止部材10及びデバイス基材40をそれぞれ長手方向に搬送しながらロールツーロール方式で実施され得る。
【0058】
具体的には、封止部材貼合工程S30用の保護フィルム付き封止部材10の巻出し室に配置された巻出し部に、加熱脱水されたロール状の保護フィルム付き封止部材10をセットする。その後、保護フィルム付き封止部材10を巻き出して、長手方向に搬送しながら連続的に保護フィルム付き封止部材10から保護フィルム30を剥離する。
【0059】
次いで、保護フィルム付き封止部材10から保護フィルム30を剥離して得られた封止部材20を長手方向に搬送しながら、長手方向に搬送されているデバイス基材40に連続的に貼合する。具体的には、封止部材20の接着層22を、
図5に示したように、デバイス基材40と対向させた状態で、封止部材20とデバイス基材40とをその厚さ方向に加圧及び加熱することによって、封止部材20をデバイス基材40に貼合する。
【0060】
長手方向に搬送されているデバイス基材40は、デバイス基材形成工程S10における陰極44形成後に引き続いて連続的に搬送されてきたデバイス基材40であってもよいし、陰極44形成後に一旦ロール状に巻き取られたデバイス基材40を、デバイス基材40用の巻出し部にセットした後に、巻き出されたデバイス基材40であってもよい。
【0061】
図3及び
図5では、デバイス基材40を簡略化して模式的に図示しているが、陽極42及び陰極44に電圧を印加可能なように、陽極42及び陰極44のそれぞれは、封止部材20から陽極42及び陰極44それぞれの一部が引き出され得るように構成され得る。或いは、陽極42及び陰極44それぞれに対応して設けられているとともに、一部が封止部材20の外側に配置される電極部を基板41上に形成しておき、陽極42及び陰極44を、対応する電極部と電気的に接続するように形成しておいてもよい。
【0062】
封止部材貼合工程S30を経ることで、基板41に仮想的に設定されたデバイス形成領域毎に有機ELデバイスが形成されている。よって、有機ELデバイスの製造方法は、封止部材貼合工程S30を経た基板41をデバイス形成領域毎に個片化する個片化工程を備えてもよい。個片化工程で、基板41がデバイス形成領域毎に分割されることで、製品サイズの有機ELデバイスが得られる。
【0063】
上記有機ELデバイスの製造方法では、脱水工程S22を有することから、封止部材20の水分を除去して、デバイス基材40に封止部材20を貼合できる。そのため、良好な封止性能を実現可能であり、有機ELデバイス内の有機層の水分による劣化を抑制できる。
【0064】
脱水工程S22では、赤外線を利用して保護フィルム付き封止部材10内の水分を直接加熱することから、脱水工程S22を効率的に実施できる。更に、赤外線を利用することで、保護フィルム付き封止部材10を搬送しながら脱水工程S22を実施し易い。よって、脱水工程S22に要する時間を短縮でき、結果として、有機ELデバイスの生産性の向上を図れる。
【0065】
脱水工程S22では、樹脂フィルム23のガラス転移温度以上に保護フィルム付き封止部材10が加熱される傾向にある。この場合、樹脂フィルム23に局所的な分子配向の変化が生じる。この状態で、樹脂フィルム23が急冷されると、搬送方向に連続的に延びたシワが生じるとともに、そのシワが固定され顕在化する。加熱室52内において、複数の搬送ロールRは、通常、設計上の搬送経路で保護フィルム付き封止部材10を搬送するように配置されている。しかしながら、搬送ロールRを設置する際の誤差などによって保護フィルム付き封止部材10が若干蛇行する場合もあり得る。このような蛇行が生じると、保護フィルム付き封止部材10の幅方向(長手方向に直交する方向)において搬送ロールRとの接触状態が不均一になり、シワが更に顕在化し易い。樹脂フィルム23にシワが生じると、それに応じて封止基材21にもシワが生じる。その結果、シワが生じた封止部材がデバイス基材に貼合されるので、貼合面に気泡が混入したり、シワによって十分な貼合が実現できない等により、所望の封止性能を確保できないおそれがある。
【0066】
これに対して、上記製造方法の脱水工程S22では、ロール表面の温度が樹脂フィルム23のガラス転移温度以上に設定された加熱ロールR1を用いて保護フィルム付き封止部材10を搬送している。これによって、加熱されている保護フィルム付き封止部材10が加熱ロールR1に接しても樹脂フィルム23の温度が急冷されないので、上記シワの発生自体を抑制可能であるとともに、シワが固定されることを抑制可能である。その結果、シワが抑制された所望の形状の封止部材20をデバイス基材40に貼合でき、良好な封止性能を有する有機ELデバイスを製造可能である。
【0067】
本実施形態で説明した製造方法では、脱水工程S22の後に徐冷工程S23を備える。この徐冷工程S23では、脱水工程S22で加熱された保護フィルム付き封止部材10が徐冷されるので、脱水工程S22から巻取り工程S24までの間においても、前述したシワの発生及びシワの固定化が抑制される。徐冷工程S23における搬送ロールRが加熱ロールR1である形態では、徐冷工程S23中においても、保護フィルム付き封止部材10が加熱ロールR1に接触することによる急冷が生じないので、シワの発生及びシワの固定化が抑制される。
【0068】
次に、実施例及び比較例を参照して、加熱ロールR1を用いることの作用効果を更に説明する。
【0069】
[実施例1]
実施例1では、保護フィルム(厚さ:12μm)、粘着層(厚さ:30μm)、アルミニウム箔(厚さ:30μm)及びPETフィルム(厚さ:38μm)の順に積層された長尺の保護フィルム付き封止部材Aを準備した。保護フィルム付き封止部材Aの幅は300mmであった。保護フィルム付き封止部材Aにおいて、粘着層、アルミニウム箔及びPETフィルムは、
図1に示した接着層22、封止基材21及び樹脂フィルム23に相当する。よって、保護フィルム付き封止部材Aから保護フィルムを剥離した部材を封止部材とも称す。PETフィルムの材料であるPETのガラス転移温度は69℃であった。
【0070】
準備した保護フィルム付き封止部材Aを加熱室内で30Nの張力で搬送しながら赤外線ヒータで130℃に加熱し、脱水工程を実施した。脱水工程中において、保護フィルム付き封止部材Aが接する搬送ロールは加熱ロールであり、温水でロール表面を80℃に加熱していた。その結果、脱水工程を経た保護フィルム付き封止部材A(より具体的には、封止部材)のシワの有無を目視で確認した。その結果、保護フィルム付き封止部材Aにシワは見られなかった。
【0071】
実施例1では、基板上に陽極層と有機EL部と、陰極層とが順に設けられたデバイス基材Bを更に作製した。有機EL部は、陽極層側から正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層及び電子注入層が積層された多層構造を有していた。
【0072】
上記脱水工程を経た保護フィルム付き封止部材Aから保護フィルムを剥離して得られた封止部材を、デバイス基材Bに貼合することによって、有機ELデバイスを製造した。封止部材と、デバイス基材Bとの貼合面において、気泡混入やシワは確認されなかった。
【0073】
[比較例1]
比較例1では、実施例1と同じ構成の保護フィルム付き封止部材Aを準備した。比較例1では、保護フィルム付き封止部材Aが接する搬送ロール(加熱ロール)のロール表面の温度を50℃に加熱した点以外は、実施例1と同じ条件で脱水工程を実施した。その結果、比較例1では、脱水工程を経た保護フィルム付き封止部材A(より具体的には、封止部材)に、搬送方向に連続的に延びたシワが見られた。
【0074】
比較例1でも、実施例1の場合と同じ構成のデバイス基材Bを作製した。その後、比較例1の脱水工程を経た保護フィルム付き封止部材Aから保護フィルムを剥離して得られた封止部材を、デバイス基材Bに貼合して有機ELデバイスを製造した。封止部材と、デバイス基材Bとの貼合面には、気泡混入やシワが生じていた。
【0075】
[実施例2]
実施例2では、実施例1と同じ構成の保護フィルム付き封止部材Aを準備し、実施例1と同じ条件で脱水工程を実施するとともに、脱水工程から連続して徐冷工程を実施した。具体的には、保護フィルム付き封止部材Aが赤外線ヒータで加熱されていない状態で、ロール表面が80℃に加熱された加熱ロールに接触させた後、ロール表面の温度が70℃に加熱された加熱ロール、ロール表面の温度が60℃に加熱された加熱ロールに順に保護フィルム付き封止部材Aを接触させながら搬送することで、保護フィルム付き封止部材Aの温度(より具体的には、PETフィルムの温度)を60℃に徐冷した。その後、保護フィルム付き封止部材Aの温度が60℃になった後にロール表面の温度が23℃の搬送ロールに接触させた。その結果、保護フィルム付き封止部材A(より具体的には、封止部材)に、シワは見られなかった。
【0076】
実施例2でも、実施例1の場合と同じ構成のデバイス基材Bを作製した後、上記徐冷工程を経た保護フィルム付き封止部材Aから保護フィルムを剥離して得られた封止部材を、デバイス基材Bに貼合して有機ELデバイスを製造した。封止部材と、デバイス基材Bとの貼合面には、気泡混入やシワは見られなかった。
【0077】
実施例1及び比較例1の結果の比較より、赤外線ヒータで加熱されている保護フィルム付き封止部材Aが接する搬送ロールのロール表面の温度が、保護フィルム付き封止部材AのPETフィルム(樹脂フィルム23に相当)のガラス転移温度(69℃)以上であることによって、脱水工程を経た保護フィルム付き封止部材Aにシワを抑制できることが検証された。実施例2の結果より、脱水工程の後に連続して徐冷工程を実施した場合も保護フィルム付き封止部材AのPETフィルムにシワが生じないことが検証された。
【0078】
以上、本発明の種々の実施形態を説明した。しかしながら、本発明は、例示した種々の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0079】
保護フィルム付き封止部材が帯状である場合を例にして説明したが、保護フィルム付き封止部材は、枚葉状であってもよい。同様に、デバイス基材(又はデバイス基材が有する基板)も枚葉状であってもよい。
【0080】
巻出し工程及び巻取り工程を含む保護フィルム付き封止部材の準備工程を説明した。しかしながら、保護フィルム付き封止部材の準備工程は、巻出し工程及び巻取り工程の少なくとも一方を備えなくてもよい。例えば、巻出し工程を設けずに、脱水工程の後、加熱脱水された保護フィルム付き封止部材をそのまま連続搬送しながら、続けて封止部材貼合工程を実施してもよい。
【0081】
これまで説明した有機ELデバイスの製造方法は、脱水工程の前に、保護フィルム付き封止部材が、樹脂層のガラス転移温度以上になるまで段階的に加熱する予備加熱工程を有してもよい。この場合、予備加熱工程に引き続き脱水工程が行われる。予備加熱工程を有する形態では、温度上昇過程において保護フィルム付き封止部材にシワが生じにくい。予備加熱工程では、例えば、保護フィルム付き封止部材を複数の予備加熱ロールで搬送する。上記複数の予備加熱ロールのロール表面の温度は、上流側の予備加熱ロールから下流側の予備加熱ロールに向けて、樹脂層のガラス転移温度未満の温度から樹脂層のガラス転移温度以上の温度に段階的に高くなるように設定され得る。この場合、加熱中に上記樹脂層がロールに接触することで生じる樹脂層の急冷を防止できる。そのため、上記急冷に起因するシワを防止しながら、保護フィルム付き封止部材を徐々に且つ効率的に加熱可能である。段階的に高くなるように設定する複数の予備加熱ロールにおいて、各予備加熱ロールのロール表面の温度は、例えば予備加熱工程における搬送距離、搬送速度などにより設定され得る。例えば、予備加熱工程における搬送距離が長い場合、保護フィルム付き封止部材の搬送方向において隣り合う予備加熱ロールのロール表面温度の差が大きく設定され、搬送速度が速い場合、保護フィルム付き封止部材の搬送方向において隣り合う予備加熱ロールのロール表面温度の差が小さく設定され得る。予備加熱工程における搬送距離は、樹脂層の温度がガラス転移温度以上になる距離であればよく、シミュレーションで予め算出していてもよいし、実際の実験結果に基づいた距離でもよい。予備加熱工程で使用する上記予備加熱ロールの数が3つである場合、予備加熱工程において最上流の予備加熱ロールのロール表面の温度は常温(例えば22℃〜30℃)に設定され、中間の予備加熱ロールのロール表面の温度は、上記常温と上記ガラス転移温度との間の温度に設定され、最下流の予備加熱ロールのロール表面の温度は上記ガラス転移温度以上に設定され得る。上記最下流の予備加熱ロールは、脱水工程における最上流の加熱ロールR1(
図4参照)と共通とし得る。予備加熱工程では、赤外線を照射しながら保護フィルム付き封止部材を段階的に加熱し得る。
【0082】
有機ELデバイスの製造方法で製造される有機ELデバイスは、基板側から光を発する形態に限定されず、基板と反対側から光を発生する有機ELデバイスにも適用可能である。デバイス基材の第1電極及び第2電極がそれぞれ陽極及び陰極である形態を説明したが、第1電極が陰極で、第2電極が陽極であってもよい。本発明は、有機ELデバイス以外の有機電子デバイス、例えば、有機太陽電池、有機フォトディテクタ、有機トランジスタなどにも適用可能である。
【解決手段】一実施形態に係る有機電子デバイスの製造方法は、基板上に第1電極と、有機層を含むデバイス機能部と、第2電極とが順に設けられたデバイス基材を形成するデバイス基材形成工程と、封止基材と封止基材の一方の面に積層された接着層と封止基材の他方の面に積層された樹脂層とを有する封止部材に、接着層を介して保護フィルムが積層された保護フィルム付き封止部材10を搬送しながら加熱脱水する脱水工程S22と、脱水工程を経た保護フィルム付き封止部材から保護フィルムを剥離して、接着層を介して封止部材をデバイス基材に貼合する封止部材貼合工程と、を備え、脱水工程において、搬送されている保護フィルム付き封止部材が接するロールR1のロール表面の温度が樹脂層のガラス転移温度以上である。