(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来の橋梁の設計においては、自動車、人、橋桁等の自重による荷重、衝撃荷重、風荷重、土圧などが考慮されている。風荷重については、平均的な抗力及び揚力並びに振動及び共振が重要な要素となる。
【0003】
例えば、特許文献1のように、風により振動する構造物又は構造部材の振動を抑止する方法において、風の流れの剥離点付近の表面に、この流れとほぼ同一方向又はこの流れと直交する鉛直上下方向を有し、かつ扇形状に形成された空気流を、構造物の長手方向に継続的に発生させることが知られている。
【0004】
また、特許文献2の可動フェアリング型耐風構造では、橋桁の両側に可動フェアリングを取付けて、幅方向の向きの気流に対する空力断面形状を流線形化すると共に、この断面形状を下流側に伸びた上流側と下流側で非対称のものとしている。このことで、橋桁に対する幅方向の向きの気流による揚力変動を抑制して、橋梁のこの気流に対する安定性を増すことができると共に、橋梁設計上の種々の制約を満たしつつも許容できる最大風速を十分な水準にまで引き上げることができるようにしている。
【0005】
特許文献3では、橋桁に取付けた可動の翼型フラップと、構造物の振動を検出するセンサーと、このセンサーからの検出信号に基づき翼型フラップの傾き角を制御して翼型フラップに発生する揚力により構造物の振動を抑制するコントローラとを備え、センサーにより構造物の振動を検出して、そのとき得られる検出信号をコントローラへ送り、このコントローラにより翼型フラップの傾き角を制御し、翼型フラップに発生する揚力(制振力)により構造物の振動を抑制するようにしている。
【0006】
特許文献4では、橋梁の橋軸方向に略直交する上部構造の横断面の外形状を包絡する包絡四角形の幅をB、高さをDとした場合に、橋軸方向に対して、包絡四角形の断面辺長比B/Dを変化させた上部構造を有するようにし、コスト低減を達成しつつ、橋梁の耐風安定性を確保することができるようにしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献1〜4のような従来の橋梁の設計では、風の荷重及び振動を考慮しているが、橋桁が完全に越流するような状況での流水に対する耐力は考慮されていない。
【0009】
水と空気とでは密度や粘性が大きく異なり、水流の方が平均的な抗力及び揚力が大きくなる。さらに、橋桁を越流する場合には水面が橋桁付近に形成されることで大規模な振動を減衰させる効果を有する。このことから風の荷重及び振動への対策と越水による流失及び損害への対策は異なる。
【0010】
このため、従来の橋梁の構造では、台風や梅雨の大雨などによって橋が設置された河川が増水すると、越水による流体力及び水と共に流下する倒木等による、橋の損傷や流失が発生する。しかも、大きな水害や津波など(以下、大規模災害という)が発生すると橋梁が軒並み流失することとなり、そのこと自体が社会基盤の損害であるだけでなく、救助活動、二次避難、復旧活動などの大きな支障となっている。
【0011】
一方、沈下橋のような低水路に設けられる橋梁では、橋桁が損傷するのを防ぐために大雨などの増水時には沈下するように設計されており、増水時に橋として機能しなくなるという問題がある。
【0012】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、大規模災害時にも橋梁の果たす通行機能を完全に又は部分的に保つことができるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を達成するために、この発明では、越水時に橋桁において厚さ方向に発生する揚力が下向きとなるようにした。
【0014】
具体的には、第1の発明では、
橋桁の、各橋脚が並ぶ方向から見た断面形状が、
上面を切り欠いた楕円形又は
上辺に直線部を持ち、下辺が上辺より長い多角形で構成された上下非対称であり、
越水時に上記橋桁において水流により厚さ方向に発生する揚力が下向きとなるように上記断面形状が設定されている。
【0015】
上記の構成によると、越水時に上面よりも下面の
水流による圧力を相対的に低下させることで、下向きの揚力を発生させることができる。水流により厚さ方向に発生する揚力を下向きに発生させることで、流れや浮力による橋桁の浮き上がりを抑止して流失を防ぐことができる。
【0016】
第2の発明では、第1の発明に加え、
上記橋桁の断面形状が、幅方向中心線に対して対称形状であり、
楕円の上側を
全体の12.5%以上37.5%以下切り欠いた形状である。
【0017】
上記の構成によると、下流側から津波が押し寄せたときだけでなく、津波が下流側へ戻るとき及び洪水時の越水に対応可能である。また、対称形なのでバランスがよく設計しやすい。
【0018】
第3の発明では、第1又は第2の発明に加え、
上記橋桁の断面形状が、幅方向中心線に対して非対称で
、洪水による一方向からの越水に対応可能に構成されている。
【0019】
上記の構成によると、津波の影響をあまり考えなくてよい山側地域において橋梁を設ける場合に洪水による一方向からの越水に対応可能である。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように、本発明によれば、越水時に橋桁において
水流により厚さ方向に発生する揚力が下向きとなるようにしたことにより、大規模災害時にも橋梁の果たす通行機能を完全に又は部分的に保つことができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0023】
図2は本発明の実施形態の橋梁1の概略を示す側面図であり、
図1は、
図2のI−I線拡大断面図である。この橋梁1は、例えば、橋桁2が複数の橋脚3で支持されているが、橋脚3がなく、橋桁2の両端が橋台(図示せず)に支持されたものでもよい。本実施形態では、橋脚3が橋桁2に一体形成されたラーメン橋としているが、橋脚3と橋桁2とを別々に成形する桁橋であってもよい。この橋梁1は、沈下橋のように河川敷と同程度の高さに設けられているのではなく、橋台が河川敷よりも高いところにある、いわゆる抜水橋又は永久橋である。
【0024】
本実施形態では、橋桁2の断面形状は、自動車、人等が通行するために上辺4が略水平となっている。ここで略水平とあるのは、雨水が溜まらないように橋桁2の幅方向に向かって下方へ多少傾斜していてもよく、また、多少の凸凹や湾曲があってもよいことを意味する。そして、本実施形態では、上辺4に連続する幅方向の両側の側方から下方まで湾曲して延びる上下非対称となっている。
【0025】
具体的には、例えば流体構造物である翼の設計を基盤として、橋梁1に必要となる各種荷重への耐力や施工性などを考慮して橋桁2の断面形状を決定する。翼では、流れにより断面の長手方向に発生する力である抗力と、厚さ方向に発生する揚力との設計を行う。例えば、本実施形態では、橋桁2の断面は、上面を切り欠いた楕円形となっている。上面を通行のために利用するために水平又は水平に近い平面又は曲面で構成している点で、このような制約がない翼設計とは根本的に異なる。
【0026】
本実施形態では、越水時に橋桁2において厚さ方向に発生する揚力が下向きとなるように構成されている。この揚力を下向きに発生させることで、流れや浮力による橋桁2の浮き上がりを抑止して流失を防ぐようにしている。
【0027】
次に、本実施形態にかかる橋梁1の作用を確認するための解析結果について説明する。
図3に橋桁2の解析用モデルを示す。
【0028】
まず、解析条件について説明する。本解析においては、比較的交通容量が小さい1車線の橋梁1において、コンクリート又は鋼製のボックス構造で橋桁2を設計する場合の越流水により発生する流体力を検討する。流水外力は洪水と津波の双方を考慮するものとし双方向から流体力が作用しうる条件を想定し、幅方向中心線Xに対して対称な断面形状とする。
【0029】
具体的には、
図3に示すように上面を切り欠いた楕円形とし、本楕円形の厚さ(短軸L2/長軸L1)については0.1と0.2の2種類を比較する。カット率については、厚さ0.1のときは短軸L2の25%、厚さ0.2のときは短軸L2の12.5%、25%、37.5%の4通りを比較する。
【0030】
従来の橋梁1の形状との違いを比較するために、矩形断面についても評価する。厚さ(単辺長/長辺長)は0.05,0.1,0.2の3種類を設定した。
【0031】
解析手法としては、Reynolds平均型乱流モデルを用いた2次元流場の数値解析を行い、各断面の流力特性を調査した。解析にはCFDオープンツールボックスであるOpenFOAM (ver.2.1.0) の定常乱流解析コードsimpleFoamを使用した。乱流モデルにはSpalart-Allmarasモデルを用いた。乱流粘性の上流側の流入境界条件及び初期条件として、ν
t =1.0×10
3νを与えた。ここでν
tは乱流動粘性,νは動粘性でありν=1×10
-6m
2/sである。
【0032】
物理条件として、Reynolds数は1.0×10
7とした。断面に対する流向αについて、−15°〜15°の間の計9条件の解析を行い、流向αによる流体力変化を調査した。流力特性の処理として、
図1に示すような橋梁1を固定する座標系を考え、橋梁1の横向きの力Fxと上向きの力Fyを無次元化した横力係数Cx ( =Fx/(0.5ρU
2A) )及び鉛直力係数Cy ( =Fy/(0.5ρU
2A) )を用いて流力特性を示す。ここにU: 接近流速(m/s)、ρ: 密度(=1×10
3kg/m
3)である。無次元化に用いる面積Aは(弦長)×(幅)で算出するものとする。また、モーメント係数Cmzについては、断面中央(切欠き楕円形状の場合は、切欠き前の楕円中心O)周りのモーメントMzを用い、無次元化に用いるレバー長Hはコード長としている。すなわち、Cmz =Mz/(0.5ρU
2AH)とした。見付面積A=WHとし、幅Wは解析領域幅とした。
【0033】
次いで、解析結果について説明する。まず、従来形状と本発明の形状の1つを取り上げて特徴を比較する。そこで、代表的な2つの断面について流力特性を比較する。従来の橋梁の断面形状を厚さ0.05(幅6mに対して厚さ0.3m)の矩形断面とし、本発明の形状は25%カットの切欠き楕円断面の厚さ0.2のもの(幅L1=6mに対して厚さL2=1.2m、カット後の厚さW=0.9m)とする。以下に、各流力係数について示す。
【0034】
図4は、横力係数Cxの従来との比較を示すグラフである。同図に破線で示す本実施形態の形状(○)では、明らかに橋梁1が水平方向に押し流される流体力が低減されていることがわかる。Cxの最大値は、一点鎖線で示す従来形状(△)で0.0287(α=0°)、本実施形態の形状では0.0120(α=2°)であり、両者の差0.0167は6m幅15m長さの橋梁1に5m/sの水流が作用する場合に換算して、約3.8 tonf(37kN)の差に相当する。
【0035】
図5は、鉛直力係数Cyの従来との比較を示すグラフである。本実施形態の形状(破線:○)では、水平方向に流れている場合(α=0°)、係数にして−0.165の下向き流体力を生じている。これは、6m幅15m長さの橋梁1に5m/sの水流が作用する場合に換算して、約38 tonf(370kN)の鉛直下向き力に相当する。また、強い下降流(
図2でのαをプラスとすると、降下流ではなく突き上げるような流れに相当する)(α<−10°)が作用する場合には、本実施形態の断面の下向き力は従来断面(一点鎖線:△)の下向き力を下回っており、流体力による過負荷の危険性も低減可能な断面形状であるといえる。
【0036】
図6は、転倒モーメント係数Cmzの従来との比較を示すグラフである。この転倒モーメントについても、本実施形態の形状(破線:○)では従来形状(一点鎖線:△)に比べ値が小さく、上流側の橋梁1端が流体力で持ち上げることによる転倒の抑制についても、本実施形態の形状は効果的であることがわかる。
【0037】
次に、厚さの異なるものも含めた7つの断面(楕円断面で厚さ0.1で25%カット及び厚さ0.2で12.5%カット、25%カット、37.5%カット並びに矩形断面で厚さ0.05,0.1,0.2)の流体力特性を示す。
図7は、横力係数の形状パラメータに対する変化を示すグラフである。
図7に示すように、楕円では厚みによる横力係数の増加はほとんど見られないが、矩形断面では厚くなるに従い横力係数が比例して大きくなる。カット厚さが増大することで、楕円断面ではα=0°での値が大きくなり、またαの絶対値が大きくなると変化も大きくなる。このため、楕円断面ではカット厚さが小さい方が特性がよいことがわかる。流水抵抗は、矩形断面では大きいが、楕円断面では厚さを確保しても抵抗が小さく保たれる。
【0038】
図8は、鉛直力係数の形状パラメータに対する変化を示すグラフである。
図8に示すように、鉛直力係数について、α=0°において厚さにかかわらず楕円断面ではマイナス値を持ち、浮き上がりを押さえる下向きの力を発生させる効果が認められる。楕円の厚さ0.1ではα=0°での浮き上がり防止効果は小さい。矩形断面で認められるαが大きい状況での上向きの力の発生は、楕円断面において厚さにかかわらず抑制されている。また、矩形断面でのαが小さい(マイナス側)での大きな下向きの力の発生も、楕円断面において抑制されている。このことから楕円断面を採用することで、橋桁2の上下方向の流体力が抑制され、流体力による浮き上がりや破損を防止することができることがわかる。また、楕円断面では、カット厚さ増大に伴って鉛直下向き力(マイナスの値)が大きくなることから基本的にはカット厚さが大きいものの特性がよい。
【0039】
図9は、転倒モーメント係数の形状パラメータに対する変化を示すグラフである。
図9に示すように、転倒モーメントについて、楕円断面及び矩形断面は、ともに厚さの効果は副次的であり、広いαの範囲にわたって楕円断面を採用することによる転倒モーメントの抑制効果が認められる。
【0040】
なお、カット厚さについては、
図6〜
図9に現れた特性と、橋梁の構造的な特徴に合わせてバランスをとるように設計するとよい。楕円断面における流水による流失及び損傷のリスク低減効果は、切り欠き厚さに鋭敏には反応しないが、ある程度の影響は認められるので、設計上調整事項となる。逆に安定化の性能を調整するパラメータとして利用できる。
【0041】
このように本実施形態のような断面形状を有することにより、越水時に上面より下面の圧力を相対的に低下させることで下向きの揚力を発生させ流失に対する安定性を確保することができることがわかった。
【0042】
具体的な断面形状は、想定する交通容量や地盤や周囲の道路との接続状況、想定する流水の方向の特性などにより調整を行うとよい。これにより、橋脚3へ作用する流体力を低減することで、橋脚3の破損・転倒による橋梁1システムの大規模破壊を防ぐことができる。
【0043】
本実施形態の橋桁2の断面形状では、矩形断面形状に比べて、流れの安定効果が高いため振動強度を低減させる傾向を有する。従来の橋梁1断面は、風荷重に対して、振動の制御を計ることで安定化する点を考慮している。一方で、本実施形態では、流水荷重に対して、力(抗力・揚力)の制御を計ることで、流水への耐久性を高めるようにしている。
【0044】
また、本実施形態の断面形状とすることにより越水時に上面よりも下面の圧力を相対的に低下させることで、下向きの揚力を発生させ流失に対する安定性を確保する。水流により厚さ方向に発生する揚力を下向きに発生させることで、流れや浮力による橋桁2の浮き上がりを抑止して流失を防ぐことができる。
【0045】
橋桁2の断面形状を幅方向中心線に対して対称形状である、楕円の上側を切り欠いた形状としたことにより、下流側から津波が押し寄せたときだけでなく、津波が下流側へ戻るとき、洪水時の越水に対応可能である。また、対称形なのでバランスがよく設計しやすい。
【0046】
以上説明したように、本実施形態の橋梁1によれば、大規模災害時にも橋梁1の果たす通行機能を完全に又は部分的に保つことができる。
【0047】
(その他の実施形態)
本発明は、上記実施形態について、以下のような構成としてもよい。
【0048】
すなわち、上記実施形態では、橋桁2の断面を上面を切り欠いた楕円形としたが、上辺4に直線部を持ち、下辺が上辺4より長い多角形で構成された上下非対称の断面形状としてもよい。この場合でも同様に越水時に橋桁2において厚さ方向に発生する揚力が下向きとなるように構成することができる。
【0049】
さらには、橋桁2の断面を幅方向中心線に対して非対称で上下反転した翼状断面としてもよい。この場合、津波の影響をあまり考えなくてよい山側において設ける場合に洪水による一方向からの越水に対応可能である。
【0050】
なお、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物や用途の範囲を制限することを意図するものではない。また、各実施形態に記載された技術的特徴は、互いに組合せ可能であり、組み合わせることにより、新しい技術的特徴を形成することができる。