特許第6504172号(P6504172)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6504172
(24)【登録日】2019年4月5日
(45)【発行日】2019年4月24日
(54)【発明の名称】熱サイクルシステム
(51)【国際特許分類】
   F25B 1/00 20060101AFI20190415BHJP
   F25D 23/00 20060101ALI20190415BHJP
   C09K 5/04 20060101ALI20190415BHJP
   H01B 7/02 20060101ALI20190415BHJP
   H01B 17/60 20060101ALI20190415BHJP
   H01B 3/04 20060101ALI20190415BHJP
   H01B 3/06 20060101ALI20190415BHJP
   H01B 3/08 20060101ALI20190415BHJP
   H01B 3/12 20060101ALI20190415BHJP
   H01B 3/30 20060101ALI20190415BHJP
【FI】
   F25B1/00 396Z
   F25B1/00 396A
   F25D23/00 305G
   C09K5/04 F
   C09K5/04 E
   H01B7/02 Z
   H01B17/60 K
   H01B17/60 A
   H01B3/04
   H01B3/06
   H01B3/08 A
   H01B3/12 337
   H01B3/30 D
【請求項の数】14
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2016-542581(P2016-542581)
(86)(22)【出願日】2015年8月10日
(86)【国際出願番号】JP2015072705
(87)【国際公開番号】WO2016024576
(87)【国際公開日】20160218
【審査請求日】2018年2月14日
(31)【優先権主張番号】特願2014-164315(P2014-164315)
(32)【優先日】2014年8月12日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】特許業務法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上野 勝也
(72)【発明者】
【氏名】速水 洋輝
(72)【発明者】
【氏名】岡本 秀一
(72)【発明者】
【氏名】一本松 正道
【審査官】 石黒 雄一
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/136977(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/157764(WO,A1)
【文献】 特開2009−108837(JP,A)
【文献】 特開2002−358837(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/156064(WO,A1)
【文献】 国際公開第2016/199396(WO,A1)
【文献】 国際公開第2017/131013(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F25B 1/00
C09K 5/04
F25D 23/00
H01B 3/04
H01B 3/06
H01B 3/08
H01B 3/12
H01B 3/30
H01B 7/02
H01B 17/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリフルオロエチレンを含む熱サイクル用作動媒体を、圧縮機から、凝縮器、膨張弁および蒸発器を経由して前記圧縮機に循環させる循環経路を有する熱サイクルシステムであって、
前記循環経路内に設けられた導線と、該導線に接続された保護回路と、
前記導線が、300℃未満(全温度領域)の条件において、前記保護回路が働くまでの時間の間に、その少なくとも一部が消失して前記導線が露出することがない耐熱性材料で被覆されていることを特徴とする熱サイクルシステム。
【請求項2】
耐熱性材料が、マイカ、アスベスト、アルミナ、シリカガラス、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂からなる群より選ばれる材料を少なくとも1種含有する耐熱性材料である、請求項1に記載の熱サイクルシステム。
【請求項3】
前記耐熱性材料が、マイカ、アスベスト、アルミナおよびシリカガラスからなる群より選ばれる材料を少なくとも1種含有する耐熱性材料である、請求項1または2に記載の熱サイクルシステム。
【請求項4】
前記耐熱性材料が、マイカ、アスベスト、アルミナおよびシリカガラスからなる群より選ばれる材料とポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂からなる群より選ばれる材料とを組み合わせた耐熱性材料である、請求項2または3に記載の熱サイクルシステム。
【請求項5】
前記耐熱性材料で被覆された導線の外周がさらにシリコーン樹脂で保護されている、請求項1〜4のいずれか一項に記載の熱サイクルシステム。
【請求項6】
前記導線が、前記圧縮機の駆動手段と、前記圧縮機の外殻に設けられ、外部電源から電力を供給可能とする電源供給端子と、を接続する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の熱サイクルシステム。
【請求項7】
前記熱サイクル用作動媒体が、前記トリフルオロエチレンを50質量%超含む、請求項1〜6のいずれか一項に記載の熱サイクルシステム。
【請求項8】
前記熱サイクル用作動媒体が、前記トリフルオロエチレンを60質量%超含む、請求項7に記載の熱サイクルシステム。
【請求項9】
前記熱サイクル用作動媒体が、ジフルオロメタン、1,1,1,2−テトラフルオロエタンおよびペンタフルオロエタンからなる群から選ばれる少なくとも1種をさらに含む、請求項1〜8のいずれか一項に記載の熱サイクルシステム。
【請求項10】
前記熱サイクル用作動媒体が、2,3,3,3−テトラフルオロ−1−プロペン、トランス−1,2−ジフルオロエチレンおよびシス−1,2−ジフルオロエチレンからなる群から選ばれる少なくとも1種をさらに含む、請求項1〜9のいずれか一項に記載の熱サイクルシステム。
【請求項11】
前記熱サイクル用作動媒体が、トリフルオロエチレンとジフルオロメタンの混合媒体である、請求項1〜10のいずれか一項に記載の熱サイクルシステム。
【請求項12】
前記熱サイクル用作動媒体が、トリフルオロエチレンとジフルオロメタンと2,3,3,3−テトラフルオロ−1−プロペンの混合媒体である、請求項1〜11のいずれか一項に記載の熱サイクルシステム。
【請求項13】
熱サイクルシステムが、冷凍・冷蔵機器、空調機器、発電システム、熱輸送装置または二次冷却機である、請求項1〜12のいずれか一項に記載の熱サイクルシステム。
【請求項14】
熱サイクルシステムが、ルームエアコン、店舗用パッケージエアコン、ビル用パッケージエアコン、設備用パッケージエアコン、ガスエンジンヒートポンプ、列車用空調装置、自動車用空調装置、内蔵型ショーケース、別置型ショーケース、業務用冷凍・冷蔵庫、製氷機または自動販売機である、請求項1〜13のいずれか一項に記載の熱サイクルシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリフルオロエチレンを含む作動媒体を使用した熱サイクルシステムに係り、特に、システム内部が高温または高圧下となった場合でもトリフルオロエチレンの自己分解反応を抑えた熱サイクルシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、冷凍機用冷媒、空調機器用冷媒、発電システム(廃熱回収発電等)用作動媒体、潜熱輸送装置(ヒートパイプ等)用作動媒体、二次冷却媒体等の熱サイクル用の作動媒体としては、クロロトリフルオロメタン、ジクロロジフルオロメタン等のクロロフルオロカーボン(CFC)、クロロジフルオロメタン等のヒドロクロロフルオロカーボン(HCFC)が用いられてきた。しかし、CFCおよびHCFCは、成層圏のオゾン層への影響が指摘され、現在、規制の対象となっている。
【0003】
このような経緯から、熱サイクル用作動媒体としては、CFCやHCFCに代えて、オゾン層への影響が少ない、ジフルオロメタン(HFC−32)、テトラフルオロエタン、ペンタフルオロエタン(HFC−125)等のヒドロフルオロカーボン(HFC)が用いられている。例えば、R410A(HFC−32とHFC−125の質量比1:1の擬似共沸混合冷媒)等は従来から広く使用されてきた冷媒である。しかし、HFCは、地球温暖化の原因となる可能性が指摘されている。
【0004】
R410Aは、冷凍能力の高さからいわゆるパッケージエアコンやルームエアコンと言われる通常の空調機器等に広く用いられる。しかし、地球温暖化係数(GWP)が2088と高く、そのため低GWP作動媒体の開発が求められている。
【0005】
そこで最近では、炭素−炭素二重結合を有しその結合が大気中のOHラジカルによって分解されやすいことから、オゾン層への影響が少なく、かつ地球温暖化への影響が少ない作動媒体である、ヒドロフルオロオレフィン(HFO)、すなわち炭素−炭素二重結合を有するHFCに期待が集まっている。本明細書においては、特に断りのない限り飽和のヒドロフルオロカーボンをHFCといい、HFOとは区別して用いる。また、HFCを飽和のヒドロフルオロカーボンと記載する場合もある。さらに、HFCやHFOのハロゲン化炭化水素については、化合物名の後の括弧内にその化合物の略称を記すが、本明細書では必要に応じて化合物名に代えてその略称を用いる。
【0006】
このHFOを用いた作動媒体として、例えば、特許文献1には上記特性を有するとともに、優れたサイクル性能が得られるトリフルオロエチレン(HFO−1123)を用いた作動媒体に係る技術が開示されている。特許文献1では、さらに、該作動媒体の不燃性、サイクル性能等を高める目的で、HFO−1123に、各種HFCを組み合わせて作動媒体とする試みもされている。
また、このHFO−1123は、単独で用いた場合に高温または高圧下で着火源があると、自己分解することが知られている。そこで、非特許文献1には、HFO−1123を、他の成分、例えばフッ化ビニリデン等と混合し、HFO−1123の含有量を抑えた混合物とすることで自己分解反応を抑える試みが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2012/157764号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Combusion, Explosion, and Shock Waves, Vol. 42, No 2, pp. 140-143, 2006
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
HFO−1123の作動媒体としての使用を検討する場合、熱サイクルシステムにおいて、異常運転等によりHFO−1123が高温または高圧下に晒されるとHFO−1123の自己分解反応が生じるおそれがある点にも留意する必要がある。
そこで、本発明は、地球温暖化への影響が少なく、かつ、サイクル性能(能力)が良好なトリフルオロエチレンを作動媒体として用いた熱サイクルシステムであって、異常運転のようなトラブルが生じた場合においても、HFO−1123の自己分解反応を回避した、熱サイクルシステムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討したところ、熱サイクルシステムが所定の異常運転状態となった場合にも、HFO−1123の自己分解反応を回避する構成を見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[14]に記載の構成を有する熱サイクルシステムを提供する。
【0011】
[1]トリフルオロエチレンを含む熱サイクル用作動媒体を、圧縮機から、凝縮器、膨張弁および蒸発器を経由して前記圧縮機に循環させる循環経路を有する熱サイクルシステムであって、前記循環経路内に設けられた導線が、300℃以上の耐熱性を有する耐熱性材料で被覆されていることを特徴とする熱サイクルシステム。
[2]耐熱性材料が、マイカ、アスベスト、アルミナ、シリカガラス、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂からなる群より選ばれる材料を少なくとも1種含有する耐熱性材料である、[1]に記載の熱サイクルシステム。
[3]前記耐熱性材料が、マイカ、アスベスト、アルミナおよびシリカガラスからなる群より選ばれる材料を少なくとも1種含有する耐熱性材料である、[1]または[2]に記載の熱サイクルシステム。
[4]前記耐熱性材料が、マイカ、アスベスト、アルミナおよびシリカガラスからなる群より選ばれる材料とポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂からなる群より選ばれる材料とを組み合わせた耐熱性材料である、[2]または[3]に記載の熱サイクルシステム。
【0012】
[5]前記耐熱性材料で被覆された導線の外周がさらにシリコーン樹脂で保護されている、[1]〜[4]のいずれかに記載の熱サイクルシステム。
[6]前記導線が、前記圧縮機の駆動手段と、前記圧縮機の外殻に設けられ、外部電源から電力を供給可能とする電源供給端子と、を接続する、[1]〜[5]のいずれかに記載の熱サイクルシステム。
【0013】
[7]前記熱サイクル用作動媒体が、前記トリフルオロエチレンを50質量%超含む、[1]〜[6]のいずれかに記載の熱サイクルシステム。
[8]前記熱サイクル用作動媒体が、前記トリフルオロエチレンを60質量%超含む、[7]に記載の熱サイクルシステム。
【0014】
[9]前記熱サイクル用作動媒体が、ジフルオロメタン、1,1,1,2−テトラフルオロエタンおよびペンタフルオロエタンからなる群から選ばれる少なくとも1種をさらに含む、[1]〜[8]のいずれかに記載の熱サイクルシステム。
[10]前記熱サイクル用作動媒体が、2,3,3,3−テトラフルオロ−1−プロペン、トランス−1,2−ジフルオロエチレンおよびシス−1,2−ジフルオロエチレンからなる群から選ばれる少なくとも1種をさらに含む、[1]〜[9]のいずれかに記載の熱サイクルシステム。
[11]前記熱サイクル用作動媒体が、トリフルオロエチレンとジフルオロメタンの混合媒体である、[1]〜[10]のいずれかに記載の熱サイクルシステム。
[12]前記熱サイクル用作動媒体が、トリフルオロエチレンとジフルオロメタンと2,3,3,3−テトラフルオロ−1−プロペンの混合媒体である、[1]〜[11]のいずれかに記載の熱サイクルシステム。
【0015】
[13]熱サイクルシステムが、冷凍・冷蔵機器、空調機器、発電システム、熱輸送装置または二次冷却機である、[1]〜[12]のいずれかに記載の熱サイクルシステム。
[14]熱サイクルシステムが、ルームエアコン、店舗用パッケージエアコン、ビル用パッケージエアコン、設備用パッケージエアコン、ガスエンジンヒートポンプ、列車用空調装置、自動車用空調装置、内蔵型ショーケース、別置型ショーケース、業務用冷凍・冷蔵庫、製氷機または自動販売機である、[1]〜[13]のいずれかに記載の熱サイクルシステム。
【発明の効果】
【0016】
本発明の熱サイクルシステムによれば、地球温暖化への影響を抑え、HFO−1123を含む実用的な熱サイクル性能を有する作動媒体を使用し、仮にシステム内部が異常な高温または高圧条件になった場合でも、HFO−1123の自己分解反応を回避できる熱サイクルシステムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の熱サイクルシステムの一例である冷凍サイクルシステムの概略構成図である。
図2図1の冷凍サイクルシステムにおける作動媒体の状態変化を圧力−エンタルピ線図上に記載したサイクル図である。
図3】耐熱性材料で被覆された被覆導線を有する圧縮機の概略構成を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
(第1の実施形態)
まず、本発明の熱サイクルシステムに使用される熱サイクル用作動媒体(以下、単に作動媒体と称することもある。)について説明する。ここで使用する作動媒体は、HFO−1123を含む熱サイクル用作動媒体である。また、ここで使用する作動媒体は、作動媒体全量中におけるHFO−1123の含有量が50質量%を超え100質量%以下である熱サイクル用の作動媒体であることが好ましい。
【0019】
本発明で使用される熱サイクル用作動媒体は、上記のようにHFO−1123単独の作動媒体またはHFO−1123とそれ以外の作動媒体とを含有する混合媒体である。ここで、HFO−1123の地球温暖化係数(100年)は、IPCC第4次評価報告書に準じて測定された値として、0.3である。本明細書においてGWPは、特に断りのない限りIPCC第4次評価報告書の100年の値である。
【0020】
このように、本発明の作動媒体としては、GWPの極めて低いHFO−1123を50質量%超含有することで、得られる作動媒体のGWPの値も低く抑えたものとできる。HFO−1123以外の成分のGWPが、例えば、後述の飽和HFCのように、HFO−1123よりも高い場合には、その含有割合が低いほどGWPが低い組成となる。
この熱サイクル用作動媒体に用いられるHFO−1123は、作動媒体中においてその含有割合が高い場合に、高温または高圧下で着火源が存在すると、連鎖的な自己分解反応をおこすおそれがある。なお、作動媒体としてHFO−1123の含有量を低くすることで自己分解反応を抑えることができるが、その含有量が低くなりすぎると、混合する他の作動媒体にもよるが、GWPが上昇し、冷凍能力および成績係数が低下する場合が多い。
【0021】
ここで、熱サイクル用作動媒体は、本発明の熱サイクルシステムに適用するにあたっては、作動媒体中のHFO−1123の含有割合が50質量%超とすることが好ましく、60質量%超とすることがより好ましく、70質量%超とすることがさらに好ましい。このような含有量とすることで、GWPが十分に低く、良好な冷凍能力を確保できる。
【0022】
[任意成分]
本発明に使用される熱サイクル用作動媒体は、本発明の効果を損なわない範囲でHFO−1123以外に、通常作動媒体として用いられる化合物を任意に含有してもよい。
任意成分としては、HFC、HFO−1123以外のHFOが好ましい。
【0023】
(HFC)
HFCとしては、例えば、HFO−1123と組み合わせて熱サイクルに用いた際に、温度勾配を下げる作用、能力を向上させる作用または効率をより高める作用を有するHFCが用いられる。本発明に使用される熱サイクル用作動媒体がこのようなHFCを含むと、より良好なサイクル性能が得られる。
なお、HFCは、HFO−1123に比べてGWPが高いことが知られている。したがって、上記作動媒体としてのサイクル性能の向上に加えて、GWPを許容の範囲にとどめる観点から任意成分として用いるHFCを選択する。
【0024】
オゾン層への影響が少なく、かつ地球温暖化への影響が小さいHFCとして具体的には炭素数1〜5のHFCが好ましい。HFCは、直鎖状であっても、分岐状であってもよく、環状であってもよい。
HFCとしては、ジフルオロメタン(HFC−32)、ジフルオロエタン、トリフルオロエタン、テトラフルオロエタン、ペンタフルオロエタン(HFC−125)、ペンタフルオロプロパン、ヘキサフルオロプロパン、ヘプタフルオロプロパン、ペンタフルオロブタン、ヘプタフルオロシクロペンタン等が挙げられる。
【0025】
なかでも、HFCとしては、オゾン層への影響が少なく、かつ冷凍サイクル特性が優れる点から、HFC−32、1,1−ジフルオロエタン(HFC−152a)、1,1,1−トリフルオロエタン(HFC−143a)、1,1,2,2−テトラフルオロエタン(HFC−134)、1,1,1,2−テトラフルオロエタン(HFC−134a)、およびHFC−125が好ましく、HFC−32、HFC−134a、およびHFC−125がより好ましい。
HFCは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
なお、上記好ましいHFCのGWPは、HFC−32については675であり、HFC−134aについては1430であり、HFC−125については3500である。得られる作動媒体のGWPを低く抑える観点から、HFCとしては、HFC−32が最も好ましい。
【0026】
(HFO−1123以外のHFO)
HFO−1123以外のHFOとしては、2,3,3,3−テトラフルオロ−1−プロペン(HFO−1234yf)、トランス−1,2−ジフルオロエチレン(HFO−1132(E))、シス−1,2−ジフルオロエチレン(HFO−1132(Z))、2−フルオロプロペン(HFO−1261yf)、1,1,2−トリフルオロプロペン(HFO−1243yc)、トランス−1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロペン(HFO−1225ye(E))、シス−1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロペン(HFO−1225ye(Z))、トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFO−1234ze(E))、シス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFO−1234ze(Z))、3,3,3−トリフルオロプロペン(HFO−1243zf)等が挙げられる。
【0027】
なかでも、高い臨界温度を有し、安全性、成績係数が優れる点から、HFO−1234yf、HFO−1234ze(E)、HFO−1234ze(Z)が好ましい。
これらのHFO−1123以外のHFOは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
本発明に使用される熱サイクル用作動媒体が、HFCおよび/または、HFO−1123以外のHFOを含む場合、該作動媒体100質量%中のHFCおよび、HFO−1123以外のHFOの合計の含有量は、50質量%以下が好ましく、0〜40質量%がより好ましく、0〜30質量%が最も好ましい。作動媒体におけるHFCおよびHFO−1123以外のHFOの合計の含有量は、用いるHFCおよびHFO−1123以外のHFOの種類に応じて、上記範囲内で適宜調整される。このとき、HFO−1123と組み合わせて熱サイクルに用いた際に、温度勾配を下げる、能力を向上させるまたは効率をより高める観点、さらには地球温暖化係数を勘案して、調整する。
【0029】
(HFC、HFO以外の任意成分)
本発明に使用される熱サイクル用作動媒体は、上記HFC、HFO以外に、二酸化炭素、炭化水素、クロロフルオロオレフィン(CFO)、ヒドロクロロフルオロオレフィン(HCFO)等を含有してもよい。これらHFC、HFO以外の任意成分としては、オゾン層への影響が少なく、かつ地球温暖化への影響が小さい成分が好ましい。
【0030】
炭化水素としては、プロパン、プロピレン、シクロプロパン、ブタン、イソブタン、ペンタン、イソペンタン等が挙げられる。
炭化水素は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
本発明に使用される熱サイクル用作動媒体が炭化水素を含有する場合、その含有量は作動媒体の100質量%に対して10質量%以下が好ましく、1〜10質量%がより好ましく、1〜7質量%がさらに好ましく、2〜5質量%が最も好ましい。炭化水素が下限値以上であれば、作動媒体への鉱物系冷凍機油の溶解性がより良好になる。
【0031】
CFOとしては、クロロフルオロプロペン、クロロフルオロエチレン等が挙げられる。本発明において熱サイクル用作動媒体のサイクル性能を大きく低下させることなく作動媒体の燃焼性を抑えやすい点から、CFOとしては、1,1−ジクロロ−2,3,3,3−テトラフルオロプロペン(CFO−1214ya)、1,3−ジクロロ−1,2,3,3−テトラフルオロプロペン(CFO−1214yb)、1,2−ジクロロ−1,2−ジフルオロエチレン(CFO−1112)が好ましい。
CFOは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
本発明に使用される熱サイクル用作動媒体がCFOを含有する場合、その含有量は該作動媒体の100質量%に対して50質量%が好ましく、0〜40質量%がより好ましく、0〜30質量%が最も好ましい。CFOの含有量が下限値を超える値であれば、作動媒体の燃焼性を抑制しやすい。CFOの含有量が上限値以下であれば、良好なサイクル性能が得られやすい。
【0032】
HCFOとしては、ヒドロクロロフルオロプロペン、ヒドロクロロフルオロエチレン等が挙げられる。本発明に使用される熱サイクル用作動媒体のサイクル性能を大きく低下させることなく作動媒体の燃焼性を抑えやすい点から、HCFOとしては、1−クロロ−2,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HCFO−1224yd)、1−クロロ−1,2−ジフルオロエチレン(HCFO−1122)が好ましい。
HCFOは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
本発明の熱サイクル用作動媒体がHCFOを含む場合、該作動媒体100質量%中のHCFOの含有量は、50質量%以下が好ましく、0〜40質量%がより好ましく、0〜30質量%が最も好ましい。HCFOの含有量が下限値を超える値であれば、作動媒体の燃焼性を抑制しやすい。HCFOの含有量が上限値以下であれば、良好なサイクル性能が得られやすい。
【0033】
本発明に使用される熱サイクル用作動媒体が上記のような任意成分を含有する場合、その合計含有量は、作動媒体100質量%に対して50質量%以下が好ましい。
【0034】
以上説明した本発明に使用される熱サイクル用作動媒体は、地球温暖化への影響が少ないHFOであって、作動媒体としての能力に優れるHFO−1123を含有するものであり、地球温暖化への影響を抑えつつ、実用的なサイクル性能を有するものである。
【0035】
(熱サイクルシステム用組成物)
上記の熱サイクル用作動媒体は、通常、冷凍機油と混合して本発明の熱サイクルシステムに使用される熱サイクルシステム用組成物とする。この熱サイクルシステム用組成物は、上記熱サイクルシステムの循環経路内に封入して使用される。この熱サイクルシステム用組成物は、これら以外にさらに、安定剤、漏れ検出物質等の公知の添加剤を含有してもよい。
【0036】
(冷凍機油)
冷凍機油としては、従来からハロゲン化炭化水素からなる作動媒体とともに、熱サイクルシステム用組成物に用いられる公知の冷凍機油が特に制限なく採用できる。冷凍機油として具体的には、含酸素系冷凍機油(エステル系冷凍機油、エーテル系冷凍機油等)、フッ素系冷凍機油、鉱物系冷凍機油、炭化水素系冷凍機油等が挙げられる。
【0037】
エステル系冷凍機油としては、二塩基酸エステル油、ポリオールエステル油、コンプレックスエステル油、ポリオール炭酸エステル油等が挙げられる。
【0038】
二塩基酸エステル油としては、炭素数5〜10の二塩基酸(グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸等)と、直鎖または分枝アルキル基を有する炭素数1〜15の一価アルコール(メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、ウンデカノール、ドデカノール、トリデカノール、テトラデカノール、ペンタデカノール等)とのエステルが好ましい。この二塩基酸エステル油としては、具体的には、グルタル酸ジトリデシル、アジピン酸ジ(2−エチルヘキシル)、アジピン酸ジイソデシル、アジピン酸ジトリデシル、セバシン酸ジ(3−エチルヘキシル)等が挙げられる。
【0039】
ポリオールエステル油としては、ジオール(エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、1,5−ペンタジオール、ネオペンチルグリコール、1,7−ヘプタンジオール、1,12−ドデカンジオール等)または水酸基を3〜20個有するポリオール(トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、ペンタエリスリトール、グリセリン、ソルビトール、ソルビタン、ソルビトールグリセリン縮合物等)と、炭素数6〜20の脂肪酸(ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、エイコサン酸、オレイン酸等の直鎖または分枝の脂肪酸、もしくはα炭素原子が4級であるいわゆるネオ酸等)とのエステルが好ましい。
なお、これらのポリオールエステル油は、遊離の水酸基を有していてもよい。
【0040】
ポリオールエステル油としては、ヒンダードアルコール(ネオペンチルグリコール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、ペンタエリスルトール等)のエステル(トリメチロールプロパントリペラルゴネート、ペンタエリスリトール2−エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールテトラペラルゴネート等)が好ましい。
【0041】
コンプレックスエステル油とは、脂肪酸および二塩基酸と、一価アルコールおよびポリオールとのエステルである。脂肪酸、二塩基酸、一価アルコール、ポリオールとしては、上述と同様のものを用いることができる。
【0042】
ポリオール炭酸エステル油とは、炭酸とポリオールとのエステルである。
ポリオールとしては、上述と同様のジオールや上述と同様のポリオールが挙げられる。また、ポリオール炭酸エステル油としては、環状アルキレンカーボネートの開環重合体であってもよい。
【0043】
エーテル系冷凍機油としては、ポリビニルエーテル油やポリオキシアルキレン油が挙げられる。
【0044】
ポリビニルエーテル油としては、アルキルビニルエーテルなどのビニルエーテルモノマーを重合して得られた重合体や、ビニルエーテルモノマーとオレフィン性二重結合を有する炭化水素モノマーとを共重合して得られた共重合体がある。
ビニルエーテルモノマーは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
オレフィン性二重結合を有する炭化水素モノマーとしては、エチレン、プロピレン、各種ブテン、各種ペンテン、各種ヘキセン、各種ヘプテン、各種オクテン、ジイソブチレン、トリイソブチレン、スチレン、α−メチルスチレン、各種アルキル置換スチレン等が挙げられる。オレフィン性二重結合を有する炭化水素モノマーは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
ポリビニルエーテル共重合体は、ブロックまたはランダム共重合体のいずれであってもよい。ポリビニルエーテル油は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0045】
ポリオキシアルキレン油としては、ポリオキシアルキレンモノオール、ポリオキシアルキレンポリオール、ポリオキシアルキレンモノオールやポリオキシアルキレンポリオールのアルキルエーテル化物、ポリオキシアルキレンモノオールやポリオキシアルキレンポリオールのエステル化物等が挙げられる。
【0046】
ポリオキシアルキレンモノオールやポリオキシアルキレンポリオールは、水酸化アルカリなどの触媒の存在下、水や水酸基含有化合物などの開始剤に炭素数2〜4のアルキレンオキシド(エチレンオキシド、プロピレンオキシド等)を開環付加重合させる方法等により得られたものが挙げられる。また、ポリアルキレン鎖中のオキシアルキレン単位は、1分子中において同一であってもよく、2種以上のオキシアルキレン単位が含まれていてもよい。1分子中に少なくともオキシプロピレン単位が含まれることが好ましい。
反応に用いる開始剤としては、水、メタノールやブタノール等の1価アルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ペンタエリスリトール、グリセロール等の多価アルコールが挙げられる。
【0047】
ポリオキシアルキレン油としては、ポリオキシアルキレンモノオールやポリオキシアルキレンポリオールの、アルキルエーテル化物やエステル化物が好ましい。また、ポリオキシアルキレンポリオールとしては、ポリオキシアルキレングリコールが好ましい。特に、ポリグリコール油と呼ばれる、ポリオキシアルキレングリコールの末端水酸基がメチル基等のアルキル基でキャップされた、ポリオキシアルキレングリコールのアルキルエーテル化物が好ましい。
【0048】
フッ素系冷凍機油としては、合成油(後述する鉱物油、ポリα−オレフィン、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン等)の水素原子をフッ素原子に置換した化合物、ペルフルオロポリエーテル油、フッ素化シリコーン油等が挙げられる。
鉱物系冷凍機油としては、原油を常圧蒸留または減圧蒸留して得られた冷凍機油留分を、精製処理(溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製、白土処理等)を適宜組み合わせて精製したパラフィン系鉱物油、ナフテン系鉱物油等が挙げられる。
炭化水素系冷凍機油としては、ポリα−オレフィン、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン等が挙げられる。
【0049】
冷凍機油は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
冷凍機油としては、作動媒体との相溶性の点から、ポリオールエステル油、ポリビニルエーテル油およびポリグリコール油から選ばれる1種以上が好ましい。
冷凍機油の添加量は、本発明の効果を著しく低下させない範囲であればよく、作動媒体100質量部に対して、10〜100質量部が好ましく、20〜50質量部がより好ましい。
【0050】
(安定剤)
安定剤は、熱および酸化に対する作動媒体の安定性を向上させる成分である。安定剤としては、従来からハロゲン化炭化水素からなる作動媒体とともに、熱サイクルシステムに用いられる公知の安定剤、例えば、耐酸化性向上剤、耐熱性向上剤、金属不活性剤等が特に制限なく採用できる。
【0051】
耐酸化性向上剤および耐熱性向上剤としては、N,N’−ジフェニルフェニレンジアミン、p−オクチルジフェニルアミン、p,p’−ジオクチルジフェニルアミン、N−フェニル−1−ナフチルアミン、N−フェニル−2−ナフチルアミン、N−(p−ドデシル)フェニル−2−ナフチルアミン、ジ−1−ナフチルアミン、ジ−2−ナフチルアミン、N−アルキルフェノチアジン、6−(t−ブチル)フェノール、2,6−ジ−(t−ブチル)フェノール、4−メチル−2,6−ジ−(t−ブチル)フェノール、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)等が挙げられる。耐酸化性向上剤および耐熱性向上剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0052】
金属不活性剤としては、イミダゾール、ベンズイミダゾール、2−メルカプトベンズチアゾール、2,5−ジメチルカプトチアジアゾール、サリシリジン−プロピレンジアミン、ピラゾール、ベンゾトリアゾール、トルトリアゾール、2−メチルベンズイミダゾール、3,5−ジメチルピラゾール、メチレンビス−ベンゾトリアゾール、有機酸またはそれらのエステル、第1級、第2級または第3級の脂肪族アミン、有機酸または無機酸のアミン塩、複素環式窒素含有化合物、アルキル酸ホスフェートのアミン塩またはそれらの誘導体等が挙げられる。
【0053】
安定剤の添加量は、本発明の効果を著しく低下させない範囲であればよく、作動媒体100質量部に対して、5質量部以下が好ましく、1質量部以下がより好ましい。
【0054】
(漏れ検出物質)
漏れ検出物質としては、紫外線蛍光染料、臭気ガスや臭いマスキング剤等が挙げられる。
紫外線蛍光染料としては、米国特許第4249412号明細書、特表平10−502737号公報、特表2007−511645号公報、特表2008−500437号公報、特表2008−531836号公報に記載されたもの等、従来、ハロゲン化炭化水素からなる作動媒体とともに、熱サイクルシステムに用いられる公知の紫外線蛍光染料が挙げられる。
臭いマスキング剤としては、特表2008−500437号公報、特表2008−531836号公報に記載されたもの等、従来からハロゲン化炭化水素からなる作動媒体とともに、熱サイクルシステムに用いられる公知の香料が挙げられる。
【0055】
漏れ検出物質を用いる場合には、作動媒体への漏れ検出物質の溶解性を向上させる可溶化剤を用いてもよい。
可溶化剤としては、特表2007−511645号公報、特表2008−500437号公報、特表2008−531836号公報に記載されたもの等が挙げられる。
【0056】
漏れ検出物質の添加量は、本発明の効果を著しく低下させない範囲であればよく、作動媒体100質量部に対して、2質量部以下が好ましく、0.5質量部以下がより好ましい。
【0057】
<熱サイクルシステム>
次に、上記の熱サイクル用作動媒体を適用する本発明の熱サイクルシステムについて説明する。この熱サイクルシステムは、HFO−1123を熱サイクル用作動媒体として用いたシステムである。この熱サイクル用作動媒体を熱サイクルシステムに適用するにあたっては、通常、作動媒体を含有する熱サイクルシステム用組成物として適用する。
また、本発明の熱サイクルシステムは、基本的な熱サイクルは従来公知の熱サイクルシステムと同一の構成のものが挙げられ、凝縮器で得られる温熱を利用するヒートポンプシステムであってもよく、蒸発器で得られる冷熱を利用する冷凍サイクルシステムであってもよい。
【0058】
この熱サイクルシステムとして、具体的には、冷凍・冷蔵機器、空調機器、発電システム、熱輸送装置および二次冷却機等が挙げられる。なかでも、本発明の熱サイクルシステムは、より高温の作動環境でも安定して熱サイクル性能を発揮できるため、屋外等に設置されることが多い空調機器に用いられることが好ましい。また、本発明の熱サイクルシステムは、冷凍・冷蔵機器に用いられることも好ましい。
【0059】
空調機器として、具体的には、ルームエアコン、パッケージエアコン(店舗用パッケージエアコン、ビル用パッケージエアコン、設備用パッケージエアコン等)、ガスエンジンヒートポンプ、列車用空調装置、自動車用空調装置等が挙げられる。
冷凍・冷蔵機器として、具体的には、ショーケース(内蔵型ショーケース、別置型ショーケース等)、業務用冷凍・冷蔵庫、自動販売機、製氷機等が挙げられる。
【0060】
発電システムとしては、ランキンサイクルシステムによる発電システムが好ましい。
発電システムとして、具体的には、蒸発器において地熱エネルギー、太陽熱、50〜200℃程度の中〜高温度域廃熱等により作動媒体を加熱し、高温高圧状態の蒸気となった作動媒体を膨張機にて断熱膨張させ、該断熱膨張によって発生する仕事によって発電機を駆動させ、発電を行うシステムが例示される。
【0061】
また、本発明の熱サイクルシステムは、熱輸送装置であってもよい。熱輸送装置としては、潜熱輸送装置が好ましい。
潜熱輸送装置としては、装置内に封入された作動媒体の蒸発、沸騰、凝縮等の現象を利用して潜熱輸送を行うヒートパイプおよび二相密閉型熱サイフォン装置が挙げられる。ヒートパイプは、半導体素子や電子機器の発熱部の冷却装置等、比較的小型の冷却装置に適用される。二相密閉型熱サイフォンは、ウィッグを必要とせず構造が簡単であることから、ガス−ガス型熱交換器、道路の融雪促進および凍結防止等に広く利用される。
【0062】
以下、本発明の実施形態の熱サイクルシステムの一例として、図1に示した冷凍サイクルシステム10を参照して説明する。ここで、冷凍サイクルシステムとは、蒸発器で得られる冷熱を利用するシステムである。
【0063】
図1に示す冷凍サイクルシステム10は、作動媒体蒸気Aを圧縮して高温高圧の作動媒体蒸気Bとする圧縮機11と、圧縮機11から排出された作動媒体蒸気Bを冷却し、液化して低温高圧の作動媒体Cとする凝縮器12と、凝縮器12から排出された作動媒体Cを膨張させて低温低圧の作動媒体Dとする膨張弁13と、膨張弁13から排出された作動媒体Dを加熱して高温低圧の作動媒体蒸気Aとする蒸発器14と、蒸発器14に負荷流体Eを供給するポンプ15と、凝縮器12に流体Fを供給するポンプ16と、を具備して概略構成されるシステムである。すなわち、この冷凍サイクルシステム10は、公知の熱サイクルシステムと同様に、熱サイクル用作動媒体を、圧縮機11から、凝縮器12、膨張弁13および蒸発器14を経由して圧縮機11に循環させて運転されるものである。
【0064】
まず、冷凍サイクルの流れを説明する。冷凍サイクルシステム10においては、以下の(i)〜(iv)のサイクルが繰り返される。
(i)蒸発器14から排出された作動媒体蒸気Aを圧縮機11にて圧縮して高温高圧の作動媒体蒸気Bとする(以下、「AB過程」という。)。
(ii)圧縮機11から排出された作動媒体蒸気Bを凝縮器12にて流体Fによって冷却し、液化して低温高圧の作動媒体Cとする。この際、流体Fは加熱されて流体F’となり、凝縮器12から排出される(以下、「BC過程」という。)。
(iii)凝縮器12から排出された作動媒体Cを膨張弁13にて膨張させて低温低圧の作動媒体Dとする(以下、「CD過程」という。)。
(iv)膨張弁13から排出された作動媒体Dを蒸発器14にて負荷流体Eによって加熱して高温低圧の作動媒体蒸気Aとする。この際、負荷流体Eは冷却されて負荷流体E’となり、蒸発器14から排出される(以下、「DA過程」という。)。
【0065】
冷凍サイクルシステム10は、断熱・等エントロピ変化、等エンタルピ変化および等圧変化からなるサイクルシステムである。作動媒体の状態変化を、図2に示される圧力−エンタルピ線(曲線)図上に記載すると、A、B、C、Dを頂点とする台形として表すことができる。
【0066】
AB過程は、圧縮機11で断熱圧縮を行い、高温低圧の作動媒体蒸気Aを高温高圧の作動媒体蒸気Bとする過程であり、図2においてAB線で示される。
BC過程は、凝縮器12で等圧冷却を行い、高温高圧の作動媒体蒸気Bを低温高圧の作動媒体Cとする過程であり、図2においてBC線で示される。この際の圧力が凝縮圧である。圧力−エンタルピ線とBC線の交点のうち高エンタルピ側の交点Tが凝縮温度であり、低エンタルピ側の交点Tが凝縮沸点温度である。ここで、HFO−1123と他の作動媒体との混合媒体で非共沸混合媒体の場合、その温度勾配はTとTの差として示される。
CD過程は、膨張弁13で等エンタルピ膨張を行い、低温高圧の作動媒体Cを低温低圧の作動媒体Dとする過程であり、図2においてCD線で示される。なお、低温高圧の作動媒体Cにおける温度をTで示せば、T−Tが(i)〜(iv)のサイクルにおける作動媒体の過冷却度(以下、必要に応じて「SC」で示す。)となる。
DA過程は、蒸発器14で等圧加熱を行い、低温低圧の作動媒体Dを高温低圧の作動媒体蒸気Aに戻す過程であり、図2においてDA線で示される。この際の圧力が蒸発圧である。圧力−エンタルピ線とDA線の交点のうち高エンタルピ側の交点Tは蒸発温度である。作動媒体蒸気Aの温度をTで示せば、T−Tが(i)〜(iv)のサイクルにおける作動媒体の過熱度(以下、必要に応じて「SH」で示す。)となる。なお、Tは作動媒体Dの温度を示す。
【0067】
そして、本発明の熱サイクルシステムは、その循環経路内において、導線が300℃以上の耐熱性を有する耐熱性材料で被覆されている。このように非常に耐熱性の高い材料で導線を被覆することで、熱サイクルシステムの異常運転等が生じた場合に、装置内部が異常な高温または高圧状態となった場合でも、HFO−1123の自己分解反応を抑制することができる。すなわち、HFO−1123が高濃度に存在し、かつ、高温または高圧条件となった場合であっても、自己分解反応の起点となりうる導線について耐熱性材料による被覆状態を安定して維持できる。このため、高温または高圧条件で被覆材料が溶融や分解等により消失し、導体が露出して、露出部同士が接触することにより電気短絡を起こすことで自己分解反応の起点になることがない。これにより上記反応を効果的に抑制できる。なお、本明細書において、「300℃以上の耐熱性を有する」とは、導線被覆材が300℃未満(全温度領域)の条件において、保護回路等が働くまでの時間の間に溶融や分解等によりその少なくとも一部が消失し、導体が露出することがない耐熱性を有することを意味する。また、この被覆材の少なくとも一部が消失して導体が露出することのない時間としては、0.1秒以上であることが好ましく、0.3秒以上がより好ましく、0.5秒以上がさらに好ましい。保護回路等とは、例えば漏電遮断器が挙げられる。JIS−8201−2−2によると感電事故防止を目的として設置する漏電遮断器は0.1秒以内の動作時間が定義される。また、300℃以上になると、HFO−1123自身が二量化反応を起こすため、自己分解反応を起こすことが無くなるため、導線の被覆材の耐熱性を300℃以上とすることで、本実施形態のHFO−1123を熱サイクル用作動媒体として使用する熱サイクルシステムにおいて、HFO−1123の自己分解反応が生じることを確実に防止できる。
【0068】
以下、耐熱性材料で被覆された導線を圧縮機内の循環経路に有する場合について、図3を参照しながら説明する。ここでは、耐熱性材料で被覆された導線を、スクロール式圧縮機に設けた例について説明する。図3に示したスクロール式圧縮機110は、密閉容器111内に、ステーター112とローター113とからなる駆動手段と、駆動手段の回転により熱サイクル用作動媒体を圧縮するスクロール圧縮機構114と、圧縮器と接続され、該スクロール圧縮機構114内に熱サイクル用作動媒体を導く吸入管115と、凝縮器と接続され、密閉容器111内の圧縮された熱サイクル用作動媒体を凝縮器側へ送り出す吐出管116と、密閉容器111と接続され、電源と接続して駆動手段に電源を供給する電源供給端子117と、電源供給端子117と駆動手段を接続する耐熱性材料で被覆された被覆導線118と、を有して構成されている。
【0069】
このスクロール式圧縮機110は、基本的に公知の圧縮機と同様の構成を有するものであり、被覆導線118が特徴的な部分である。したがって、以下、被覆導線118について説明する。なお、ここではスクロール式圧縮機を例に説明したが、公知の圧縮機であれば特に限定されずに適用できる。例えば、ピストンクランク式圧縮機、ピストン斜板式圧縮機、回転ピストン式圧縮機、ロータリーベーン式圧縮機、シングルローター式圧縮機、ツインローター式圧縮機、遠心式圧縮機等が挙げられる。
【0070】
圧縮機の駆動手段、例えば、図3におけるステーター112およびローター113は、通常、電源供給端子117を介して電源と接続されて、その駆動エネルギーを得ている。この駆動手段と電源供給端子117を接続する銅等の導線は、通常、絶縁性材料で被覆されている。この導線を被覆する材料は、一般に、ポリエチレンテレフタレート等で被覆されている。ところが、上記のような異常運転時において、導線を被覆する材料の耐熱温度を超えると、耐熱性材料が劣化して導線が露出し、HFO−1123と接触することでHFO−1123の自己分解反応が進行するおそれがある。
そこで、熱サイクルシステムに使用される上記導線を被覆する耐熱性材料を、従来よりも高い耐熱性を有する材料で形成することで、異常な高温状態となった場合でも、耐熱性材料が導線の被覆状態を安定して保持することができる。特に、HFO−1123を含む作動媒体を使用した熱サイクルシステムにおいては、導線とHFO−1123との接触を防止し、HFO−1123の自己分解反応を抑えることができる。
【0071】
ここで使用される耐熱性材料としては、JIS C4003で設けられている耐熱クラスH、N、R、250に例示される電線材料等が挙げられる。例えば主要材料としては、マイカ、アスベスト、アルミナ、シリカガラス、石英、酸化マグネシウム、ポリ四フッ化エチレン樹脂、シリコーンゴム、シリコーン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂等の高い耐熱性を含有するものが挙げられる。四フッ化エチレン樹脂、シリコーンゴム、シリコーン樹脂、ポリイミド樹脂等の耐熱性の高い樹脂やゴムは導線の被覆に使用でき、マイカ、アルミナ、シリカガラス等の無機質粉末やアスベストやガラス繊維などの無機繊維は耐熱性の樹脂やゴムに充填して使用される。また、アスベストやガラス繊維などの無機繊維は編織物の形態で導線を被覆することもできる。
さらに、ポリベンゾイミダゾール樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリフェニレンスルファイド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、アセチルセルロース樹脂等のうち300℃以下で溶融や分解を起こさない樹脂を耐熱樹脂として使用することもできる。また、アリル樹脂、ジアリルフタレート樹脂等の熱硬化性樹脂の硬化物(300℃以下で分解を起こさないもの)を耐熱樹脂として使用することもできる。
【0072】
耐熱性材料としては、マイカ、アスベスト、アルミナ、シリカガラス、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂が好ましい。
これら耐熱性材料は、1種を単独で用いてもよいが、良好な耐熱性を付与するために、2種以上を組み合わせて用いることが好ましい。たとえば、マイカ、アスベスト、アルミナ、シリカガラス等の無機質材料(繊維状であってもよい)とポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂等の耐熱性の高い樹脂とを組み合わせた耐熱性材料が好ましい。また、耐熱性材料で被覆された導線の外周をさらにシリコーン樹脂等の柔軟な耐熱性樹脂で保護した被覆導線とすることもできる。
また、耐熱材料電線を製造する際に使用する含浸塗布材料や絶縁処理材料としては、硬化性シリコーン樹脂、アリル樹脂、ジアリルフタレート樹脂等の硬化性樹脂(その硬化物が300℃以下で分解を起こさないもの)が挙げられる。この含浸塗布材料や絶縁処理材料は上記耐熱性材料と併用して、絶縁性向上等の補助機能を発現させるものである。
【0073】
(水分濃度)
なお、熱サイクルシステムの稼働に際しては、水分の混入や、酸素等の不凝縮性気体の混入による不具合の発生を避けるために、これらの混入を抑制する手段を設けることが好ましい。
熱サイクルシステム内に水分が混入すると、特に低温で使用される際に問題が生じる場合がある。例えば、キャピラリーチューブ内での氷結、作動媒体や冷凍機油の加水分解、サイクル内で発生した酸成分による材料劣化、コンタミナンツの発生等の問題が発生する。特に、冷凍機油がポリグリコール油、ポリオールエステル油等である場合は、吸湿性が極めて高く、また、加水分解反応を生じやすく、冷凍機油としての特性が低下し、圧縮機の長期信頼性を損なう大きな原因となる。したがって、冷凍機油の加水分解を抑えるためには、熱サイクルシステム内の水分濃度を制御する必要がある。
【0074】
熱サイクルシステム内の水分濃度を制御する方法としては、乾燥剤(シリカゲル、活性アルミナ、ゼオライト、塩化リチウム等)等の水分除去手段を用いる方法が挙げられる。
乾燥剤は、液状の作動媒体と接触させることが、脱水効率の点で好ましい。例えば、凝縮器12の出口、または蒸発器14の入口に乾燥剤を配置して、作動媒体と接触させることが好ましい。
【0075】
乾燥剤としては、乾燥剤と作動媒体との化学反応性、乾燥剤の吸湿能力の点から、ゼオライト系乾燥剤が好ましい。
ゼオライト系乾燥剤としては、従来の鉱物系冷凍機油に比べて吸湿量の高い冷凍機油を用いる場合には、吸湿能力に優れる点から、下式(3)で表される化合物を主成分とするゼオライト系乾燥剤が好ましい。
2/nO・Al・xSiO・yHO …(3)
ただし、Mは、Na、K等の1族の元素またはCa等の2族の元素であり、nは、Mの原子価であり、x、yは、結晶構造にて定まる値である。Mを変化させることにより細孔径を調整できる。
【0076】
乾燥剤の選定においては、細孔径および破壊強度が重要である。
作動媒体の分子径よりも大きい細孔径を有する乾燥剤を用いた場合、作動媒体が乾燥剤中に吸着され、その結果、作動媒体と乾燥剤との化学反応が生じ、不凝縮性気体の生成、乾燥剤の強度の低下、吸着能力の低下等の好ましくない現象を生じることとなる。
したがって、乾燥剤としては、細孔径の小さいゼオライト系乾燥剤を用いることが好ましい。特に、細孔径が3.5オングストローム以下である、ナトリウム・カリウムA型の合成ゼオライトが好ましい。作動媒体の分子径よりも小さい細孔径を有するナトリウム・カリウムA型合成ゼオライトを適用することによって、作動媒体を吸着することなく、熱サイクルシステム内の水分のみを選択的に吸着除去できる。言い換えると、作動媒体の乾燥剤への吸着が起こりにくいことから、熱分解が起こりにくくなり、その結果、熱サイクルシステムを構成する材料の劣化やコンタミナンツの発生を抑制できる。
【0077】
ゼオライト系乾燥剤の大きさは、小さすぎると熱サイクルシステムの弁や配管細部への詰まりの原因となり、大きすぎると乾燥能力が低下するため、約0.5〜5mmが好ましい。形状としては、粒状または円筒状が好ましい。
ゼオライト系乾燥剤は、粉末状のゼオライトを結合剤(ベントナイト等。)で固めることにより任意の形状とすることができる。ゼオライト系乾燥剤を主体とするかぎり、他の乾燥剤(シリカゲル、活性アルミナ等。)を併用してもよい。
作動媒体に対するゼオライト系乾燥剤の使用割合は、特に限定されない。
【0078】
熱サイクルシステム内の水分濃度は、熱サイクル用作動媒体に対する質量割合で、10000ppm未満が好ましく、1000ppm未満が更に好ましく、100ppm未満が特に好ましい。
【0079】
(不凝縮性気体濃度)
さらに、熱サイクルシステム内に不凝縮性気体が混入すると、凝縮器や蒸発器における熱伝達の不良、作動圧力の上昇という悪影響をおよぼすため、極力混入を抑制する必要がある。特に、不凝縮性気体の一つである酸素は、作動媒体や冷凍機油と反応し、分解を促進する。
不凝縮性気体濃度は、熱サイクル用作動媒体に対する質量割合で、10000ppm未満が好ましく、1000ppm未満が更に好ましく、100ppm未満が特に好ましい。
【0080】
(塩素濃度)
熱サイクルシステム内に塩素が存在すると、金属との反応による堆積物の生成、軸受け部の磨耗、熱サイクル用作動媒体や冷凍機油の分解等、好ましくない影響をおよぼす。
熱サイクルシステム内の塩素濃度は、熱サイクル用作動媒体に対する質量割合で100ppm以下が好ましく、50ppm以下が特に好ましい。
【0081】
(金属濃度)
熱サイクルシステム内にパラジウム、ニッケル、鉄などの金属が存在すると、HFO−1123の分解やオリゴマー化等、好ましくない影響をおよぼす。
熱サイクルシステム内の金属濃度は、熱サイクル用作動媒体に対する質量割合で5ppm以下が好ましく、1ppm以下が特に好ましい。
【0082】
(酸分濃度)
熱サイクルシステム内に酸分が存在すると、HFO−1123の酸化分解、自己分解反応が促進する等、好ましくない影響をおよぼす。
熱サイクルシステム内の酸分濃度は、熱サイクル用作動媒体に対する質量割合で1ppm以下が好ましく、0.2ppm以下が特に好ましい。
また、熱サイクル組成物から酸分を除去する目的で、NaFなどの脱酸剤による酸分除去を行う手段を熱サイクルシステム内に設けることで、熱サイクル組成物から酸分を除去することが好ましい。
【0083】
(残渣濃度)
熱サイクルシステム内に金属粉、冷凍機油以外の他の油、高沸分などの残渣が存在すると、気化器部分の詰まりや回転部の抵抗増加等、好ましくない影響をおよぼす。
熱サイクルシステム内の残渣濃度は、熱サイクル用作動媒体に対する質量割合で1000ppm以下が好ましく、100ppm以下が特に好ましい。
残渣は、熱サイクルシステム用作動媒体をフィルター等でろ過することで除去することができる。また、熱サイクルシステム用作動媒体とする前に、熱サイクルシステム用作動媒体の各成分(HFO−1123、HFO−1234yf等)ごとにフィルターでろ過を行って残渣を除去し、その後に混合して熱サイクルシステム用作動媒体としてもよい。
【0084】
上記した熱サイクルシステムは、トリフルオロエチレンを含む熱サイクル用作動媒体を用いることで、地球温暖化への影響を抑えつつ、実用的なサイクル性能が得られると共に、異常運転時においてHFO−1123の自己分解反応を抑えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明の熱サイクルシステムは、冷凍・冷蔵機器(内蔵型ショーケース、別置型ショーケース、業務用冷凍・冷蔵庫、自動販売機、製氷機等)、空調機器(ルームエアコン、店舗用パッケージエアコン、ビル用パッケージエアコン、設備用パッケージエアコン、ガスエンジンヒートポンプ、列車用空調装置、自動車用空調装置等)、発電システム(廃熱回収発電等)、熱輸送装置(ヒートパイプ等)、二次冷却機等として有用である。
なお、2014年8月12日に出願された日本特許出願2014−164315号の明細書、特許請求の範囲、要約書および図面の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。
【符号の説明】
【0086】
10…冷凍サイクルシステム、11…圧縮機、12…凝縮器、13…膨張弁、14…蒸発器、15,16…ポンプ、110…スクロール式圧縮機、111…密閉容器、112…ステーター、113…ローター、114…スクロール圧縮機構、115…吸入管、116…吐出管、117…電源接続端子、118…被覆導線
図1
図2
図3