特許第6504461号(P6504461)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6504461熱可塑性エラストマー組成物、成形体及び接着剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6504461
(24)【登録日】2019年4月5日
(45)【発行日】2019年4月24日
(54)【発明の名称】熱可塑性エラストマー組成物、成形体及び接着剤
(51)【国際特許分類】
   C08L 53/02 20060101AFI20190415BHJP
   C08L 23/26 20060101ALI20190415BHJP
   C08L 29/14 20060101ALI20190415BHJP
   C09J 153/02 20060101ALI20190415BHJP
   C09J 123/26 20060101ALI20190415BHJP
   C09J 129/14 20060101ALI20190415BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20190415BHJP
   C08J 5/12 20060101ALI20190415BHJP
【FI】
   C08L53/02
   C08L23/26
   C08L29/14
   C09J153/02
   C09J123/26
   C09J129/14
   C09J11/06
   C08J5/12CEQ
【請求項の数】14
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2015-552501(P2015-552501)
(86)(22)【出願日】2014年12月11日
(86)【国際出願番号】JP2014082793
(87)【国際公開番号】WO2015087955
(87)【国際公開日】20150618
【審査請求日】2017年7月4日
(31)【優先権主張番号】特願2013-255861(P2013-255861)
(32)【優先日】2013年12月11日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(73)【特許権者】
【識別番号】510079008
【氏名又は名称】アミリス,インコーポレイティド
(74)【代理人】
【識別番号】100089185
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 誠
(72)【発明者】
【氏名】田中 祐介
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 啓光
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 翔太
(72)【発明者】
【氏名】上原 陽介
【審査官】 内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】 特表2012−502135(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 53/02
C09J 11/06
C09J 123/26
C09J 129/14
C09J 153/02
C08F 297/04
B32B 25/16
B32B 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ビニル化合物由来の構造単位からなる重合体ブロック(a)と、ファルネセン由来の構造単位(b1)を1〜100質量%含有し、ファルネセン以外の共役ジエン由来の構造単位(b2)を99〜0質量%含有する重合体ブロック(b)とを含み、重合体ブロック(a)と重合体ブロック(b)との質量比[(a)/(b)]が1/99〜70/30である水添ブロック共重合体(A)100質量部に対して、極性基含有オレフィン系重合体(B)5〜300質量部を含有し、該極性基含有オレフィン系重合体(B)が有する極性基含有構造単位の、全構造単位に対する割合が0.01〜10質量%である、熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項2】
前記ファルネセンがβ−ファルネセンである、請求項1に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項3】
前記重合体ブロック(b)中の炭素−炭素二重結合の水素添加率が50モル%以上である、請求項1又は2に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項4】
前記水添ブロック共重合体(A)のピークトップ分子量(Mp)が4,000〜1,500,000である、請求項1〜3のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項5】
前記水添ブロック共重合体(A)の分子量分布(Mw/Mn)が1〜4である、請求項1〜4のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項6】
前記芳香族ビニル化合物がスチレンである、請求項1〜5のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項7】
前記ファルネセン以外の共役ジエンが、イソプレン、ブタジエン及びミルセンの少なくとも1種である、請求項1〜6のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項8】
前記極性基含有オレフィン系重合体(B)が有する極性基が、(メタ)アクリロイルオキシ基、水酸基、アミド基、ハロゲン原子、カルボキシル基及び酸無水物基から選ばれる少なくとも1種である、請求項1〜7のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項9】
前記熱可塑性エラストマー組成物が、更にポリビニルアセタール樹脂(C)を、前記水添ブロック共重合体(A)100質量部に対し、0.1〜100質量部含有する、請求項1〜8のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項10】
前記ポリビニルアセタール樹脂(C)がポリビニルブチラールである、請求項9に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項11】
前記熱可塑性エラストマー組成物が、更に軟化剤(D)を、前記水添ブロック共重合体(A)100質量部に対して0.1〜300質量部含有する、請求項1〜10のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物を含む接着剤。
【請求項13】
請求項1〜11のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物からなる成形体。
【請求項14】
前記熱可塑性エラストマー組成物が、セラミックス、金属、極性樹脂及びポリオレフィン樹脂から選ばれる少なくとも1種に接着されてなる、請求項13に記載の成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族ビニル化合物由来の構造単位からなる重合体ブロック及びファルネセン由来の構造単位からなる重合体ブロックで構成されるブロック共重合体を含有する熱可塑性エラストマー組成物、成形体及び接着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
家電製品、電子部品、機械部品、自動車部品などの様々な用途で、耐久性、耐熱性及び機械強度に優れたセラミックス、金属、合成樹脂が幅広く使用されている。これらの部材は、用途、部品構成及び使用方法などにより、他の構造部材への固定のためや、衝撃吸収、破損防止又はシーリングなどの目的のため、柔軟性に優れたエラストマー部材を接着又は複合化して使用する場合がある。
【0003】
このようなエラストマー部材として、柔軟性及び力学特性、更には成形加工性に優れるスチレン系熱可塑性エラストマーが好適に用いられることがある。ここで、スチレン系熱可塑性エラストマーとは、芳香族ビニル化合物単位からなる重合体ブロックと共役ジエン化合物単位からなる重合体ブロックとを有するブロック共重合体又はその水素添加物を指す。
しかしながら、スチレン系熱可塑性エラストマーは極性が低い材料であるため、セラミックス、金属などに対する接着力が十分でなく、そのままでは溶融接着が困難であるという問題点を有する。そのため、セラミックスや金属とスチレン系熱可塑性エラストマーを接着させるために、接着剤を塗布したり、あらかじめセラミックス、金属、合成樹脂の表面をプライマー処理したりする方法が開示されている(特許文献1〜6参照)。
【0004】
ところが、特許文献1〜6に開示された方法は、工程が煩雑であるばかりでなく、生産性も低くなり、製造コストが高くなるという問題がある。
このような問題に対し、セラミックス、金属及び合成樹脂に対して優れた接着性を有する、スチレン系熱可塑性エラストマーとポリビニルアセタールを含む熱可塑性重合体組成物が開示されている(特許文献7参照)。この熱可塑性重合体組成物は、接着剤を塗布したり、プライマー処理したりすることなく、加熱処理のみによってセラミックス、金属及び合成樹脂に接着させることが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−291019号公報
【特許文献2】特開2006−206715号公報
【特許文献3】特開昭63−25005号公報
【特許文献4】特開平9−156035号公報
【特許文献5】特開2009−227844号公報
【特許文献6】特開2010−1364号公報
【特許文献7】国際公開第2009/081877号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献7に開示された熱可塑性重合体組成物は、セラミックス、金属又は合成樹脂に接着してなる成形体の製造工程において、200℃以上(特にセラミックスや金属を接着する場合には240℃以上)の高温で加熱処理してから接着している。しかし200℃以上の高温では多くの合成樹脂部材が溶融・変形するため、同時に加熱される接着部分周辺の合成樹脂部材が破壊されたりする問題があった。
また、熱可塑性エラストマーと基材との接着成形体においては、剥離試験の際に界面剥離を起こさず、凝集破壊を起こす方が接着剤としての性能に優れているとされている。しかしながら、特許文献7に開示された熱可塑性重合体組成物は界面剥離を生じる場合があり、より接着力に優れた、破壊形態が凝集破壊である熱可塑性エラストマーが求められていた。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、柔軟性、成形加工性に優れ、プライマー処理などを施さなくても、セラミックス、金属、樹脂等と低温(例えば190℃以下)での加熱処理によっても接着でき、かつ剥離試験において破壊形態が凝集破壊であり、強固な接着力を有する熱可塑性エラストマー組成物、並びにそれからなる成形体及び接着剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らが鋭意検討した結果、特定の水添ブロック共重合体と極性基含有オレフィン系重合体とを含有する熱可塑性エラストマー組成物が上記課題を解決できることを見出し、本発明に至った。
【0009】
すなわち本発明は、以下の[1]〜[3]を要旨とするものである。
[1]芳香族ビニル化合物由来の構造単位からなる重合体ブロック(a)と、ファルネセン由来の構造単位(b1)を1〜100質量%含有し、ファルネセン以外の共役ジエン由来の構造単位(b2)を99〜0質量%含有する重合体ブロック(b)とを含み、重合体ブロック(a)と重合体ブロック(b)との質量比[(a)/(b)]が1/99〜70/30である水添ブロック共重合体(A)100質量部に対して、極性基含有オレフィン系重合体(B)5〜300質量部を含有する熱可塑性エラストマー組成物。
[2]上記[1]に記載の熱可塑性エラストマー組成物を含む接着剤。
[3]上記[1]に記載の熱可塑性エラストマー組成物からなる成形体。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、柔軟性、成形加工性に優れ、プライマー処理などを施さなくても、セラミックス、金属、樹脂等と低温(例えば190℃以下)での加熱処理によっても接着でき、かつ剥離試験において破壊形態が凝集破壊であり、強固な接着力を有する熱可塑性エラストマー組成物、並びにそれからなる成形体及び接着剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[1]熱可塑性エラストマー組成物
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、芳香族ビニル化合物由来の構造単位からなる重合体ブロック(a)と、ファルネセン由来の構造単位(b1)を1〜100質量%含有し、ファルネセン以外の共役ジエン由来の構造単位(b2)を99〜0質量%含有する重合体ブロック(b)とを含み、重合体ブロック(a)と重合体ブロック(b)との質量比[(a)/(b)]が1/99〜70/30である水添ブロック共重合体(A)100質量部に対して、極性基含有オレフィン系重合体(B)5〜300質量部を含有する熱可塑性エラストマー組成物である。
【0012】
[水添ブロック共重合体(A)]
本発明の熱可塑性エラストマー組成物に用いられる水添ブロック共重合体(A)は、芳香族ビニル化合物由来の構造単位からなる重合体ブロック(a)と、ファルネセン由来の構造単位(b1)を1〜100質量%含有し、ファルネセン以外の共役ジエン由来の構造単位(b2)を99〜0質量%含有する重合体ブロック(b)とを含み、重合体ブロック(a)と重合体ブロック(b)との質量比[(a)/(b)]が1/99〜70/30であるブロック共重合体(以下、「ブロック共重合体(P)」ということがある)の水素添加物(以下、「水添ブロック共重合体(A)」ということがある)である。
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、ファルネセン由来の構造単位(b1)を特定量含有する水添ブロック共重合体(A)を含有するため、ファルネセン由来の構成単位を含有しないスチレン系熱可塑性エラストマーと比べて、柔軟性、成形加工性に優れ、プライマー処理などを施さなくても、セラミックス、金属、樹脂等と低温(例えば190℃以下)での加熱処理によっても接着でき、かつ剥離試験において破壊形態が凝集破壊であり、強固な接着力を有する。また、加熱処理後における熱収縮率も小さいため、加熱処理による熱応力の発生が抑制され、接着力がより強固なものとなる。
【0013】
前記重合体ブロック(a)は芳香族ビニル化合物由来の構造単位で構成される。かかる芳香族ビニル化合物としては、例えばスチレン、α−メチルスチレン、2−メチルスチレン、3−メチルスチレン、4−メチルスチレン、4−プロピルスチレン、4−t−ブチルスチレン、4−シクロヘキシルスチレン、4−ドデシルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、2,4−ジイソプロピルスチレン、2,4,6−トリメチルスチレン、2−エチル−4−ベンジルスチレン、4−(フェニルブチル)スチレン、1−ビニルナフタレン、2−ビニルナフタレン、ビニルアントラセン、N,N−ジエチル−4−アミノエチルスチレン、ビニルピリジン、4−メトキシスチレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン及びジビニルベンゼン等が挙げられる。これらの芳香族ビニル化合物は1種を単独で又は2種以上を併用してもよい。中でも、スチレン、α−メチルスチレン、4−メチルスチレンがより好ましく、スチレンが更に好ましい。
【0014】
前記重合体ブロック(b)はファルネセン由来の構造単位(b1)を1〜100質量%含有し、ファルネセン以外の共役ジエン由来の構造単位(b2)を99〜0質量%含有する。構造単位(b1)は、α−ファルネセン又は下記式(I)で表されるβ−ファルネセン由来の構造単位のいずれでもよいが、ブロック共重合体(P)の製造容易性の観点から、β−ファルネセン由来の構造単位であることが好ましい。なお、α−ファルネセンとβ−ファルネセンとは組み合わせて用いてもよい。
【0015】
【化1】
【0016】
ファルネセン以外の共役ジエンに由来する構造単位(b2)を構成する共役ジエンとしては、例えばブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチルブタジエン、2−フェニル−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、2−メチル−1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン、1,3−オクタジエン、1,3−シクロヘキサジエン、2−メチル−1,3−オクタジエン、1,3,7−オクタトリエン、ミルセン及びクロロプレン等が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を併用してもよい。中でもブタジエン、イソプレン及びミルセンがより好ましく、ブタジエン及び/又はイソプレンが更に好ましく、ブタジエンが最も好ましい。
【0017】
重合体ブロック(b)はファルネセン由来の構造単位(b1)を1〜100質量%含有し、ファルネセン以外の共役ジエン由来の構造単位(b2)を99〜0質量%含有する。ファルネセンに由来する構造単位(b1)の含有量が1質量%未満であると、柔軟性、成形加工性に優れ、セラミックス等と低温の加熱処理によっても接着でき、かつ剥離試験において破壊形態が凝集破壊であり、強固な接着力を有する熱可塑性エラストマー組成物を得ることができない。また、ファルネセンに由来する構造単位(b1)の含有量が1質量%以上であると、加熱処理後における熱収縮率が小さいため、加熱処理による熱応力の発生が抑制され、接着力がより強固なものとなる。重合体ブロック(b)中の構造単位(b1)の含有量は30〜100質量%が好ましく、45〜100質量%がより好ましい。また、重合体ブロック(b)がファルネセン以外の共役ジエン由来の構造単位(b2)を含有する場合には、構造単位(b2)の含有量は70質量%以下が好ましく、55質量%以下がより好ましい。
例えば、熱可塑性エラストマー組成物が後述する軟化剤(D)を含有しない場合には、重合体ブロック(b)中の構造単位(b1)の含有量は、柔軟性、成形加工性、低温接着性、低熱収縮性の観点から、60〜100質量%が好ましく、80〜100質量%がより好ましく、90〜100質量%が更に好ましく、実質的に100質量%がより更に好ましい。また、熱可塑性エラストマー組成物が後述する軟化剤(D)を含有する場合には、重合体ブロック(b)中の構造単位(b1)の含有量は、同様の観点から、30〜90質量%が好ましく、30〜80質量%がより好ましく、45〜75質量%が更に好ましい。
重合体ブロック(b)中の構造単位(b1)及び構造単位(b2)の合計含有量は、50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、70質量%以上が更に好ましく、90質量%以上が最も好ましい。
【0018】
水添ブロック共重合体(A)は、重合体ブロック(a)及び重合体ブロック(b)をそれぞれ少なくとも1個含むブロック共重合体(P)の水素添加物である。水添ブロック共重合体(A)は、重合体ブロック(a)を2個以上、及び重合体ブロック(b)を1個以上含むブロック共重合体(P)の水素添加物であることが好ましい。
重合体ブロック(a)及び重合体ブロック(b)の結合形態は特に制限されず、直線状、分岐状、放射状又はそれらの2つ以上の組み合わせであってもよい。中でも、各ブロックが直線状に結合した形態が好ましく、重合体ブロック(a)をa、重合体ブロック(b)をbで表したときに、(a−b)l、a−(b−a)m又はb−(a−b)nで表される結合形態が好ましい。なお、前記l、m及びnはそれぞれ独立して1以上の整数を表す。
前記結合形態としては、柔軟性、成形加工性及び取り扱い性等の観点から、a−b−aで表されるトリブロック共重合体が好ましい。
また、ブロック共重合体(P)が重合体ブロック(a)を2個以上又は重合体ブロック(b)を2個以上有する場合には、それぞれの重合体ブロックは、同じ構造単位からなる重合体ブロックであっても、異なる構造単位からなる重合体ブロックであってもよい。例えば、〔a−b−a〕で表されるトリブロック共重合体における2個の重合体ブロック(a)において、それぞれの芳香族ビニル化合物は、その種類が同じであっても異なっていてもよい。
【0019】
ブロック共重合体(P)中の重合体ブロック(a)と重合体ブロック(b)との質量比[(a)/(b)]は1/99〜70/30である。当該範囲内であると、柔軟性、成形加工性に優れ、セラミックス等と低温の加熱処理によっても接着でき、かつ剥離試験において破壊形態が凝集破壊であり、強固な接着力を有する熱可塑性エラストマー組成物を得ることができる。当該観点から、重合体ブロック(a)と重合体ブロック(b)との質量比[(a)/(b)]は、1/99〜60/40が好ましく、10/90〜55/45がより好ましく、10/90〜45/55が更に好ましく、15/85〜45/55がより更に好ましい。
【0020】
水添ブロック共重合体(A)のピークトップ分子量(Mp)は、成形加工性の観点から4,000〜1,500,000が好ましく、9,000〜1,200,000がより好ましく、30,000〜1,000,000が更に好ましく、50,000〜800,000がより更に好ましい。なお、本明細書におけるピークトップ分子量(Mp)は後述する実施例に記載した方法で測定した値を意味する。
【0021】
水添ブロック共重合体(A)の分子量分布(Mw/Mn)は1〜4が好ましく、1〜3がより好ましく、1〜2が更に好ましい。分子量分布が前記範囲内であると、水添ブロック共重合体(A)の粘度のばらつきが小さく、取り扱いが容易である。
【0022】
ブロック共重合体(P)は、前記重合体ブロック(a)と重合体ブロック(b)のほか、本発明の効果を阻害しない限り、他の単量体で構成される重合体ブロック(c)を含有していてもよい。
かかる他の単量体としては、例えばプロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ウンデセン、1−ドデセン、1−トリデセン、1−テトラデセン、1−ペンタデセン、1−ヘキサデセン、1−ヘプタデセン、1−オクタデセン、1−ノナデセン、1−エイコセン等の不飽和炭化水素化合物;アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、イタコン酸、2−アクリロイルエタンスルホン酸、2-メタクリロイルエタンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、2−メタクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、ビニルスルホン酸、酢酸ビニル、メチルビニルエーテル等の官能基含有不飽和化合物;等が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を併用してもよい。
ブロック共重合体(P)が重合体ブロック(c)を有する場合、その含有量は50質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましく、30質量%以下が更に好ましい。
【0023】
[水添ブロック共重合体(A)の製造方法]
水添ブロック共重合体(A)は、例えばブロック共重合体(P)をアニオン重合により得る重合工程、及び該ブロック共重合体(P)中の重合体ブロック(b)中の炭素−炭素二重結合を水素添加する工程により好適に製造できる。
<重合工程>
ブロック共重合体(P)は、溶液重合法又は特表2012−502135号公報、特表2012−502136号公報に記載の方法等により製造することができる。中でも溶液重合法が好ましく、例えば、アニオン重合やカチオン重合等のイオン重合法、ラジカル重合法等の公知の方法を適用できる。中でもアニオン重合法が好ましい。アニオン重合法としては、溶媒、アニオン重合開始剤、及び必要に応じてルイス塩基の存在下、芳香族ビニル化合物、ファルネセン及び/又はファルネセン以外の共役ジエンを逐次添加して、ブロック共重合体(P)を得る。
アニオン重合開始剤としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属;ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等のアルカリ土類金属;ランタン、ネオジム等のランタノイド系希土類金属;前記アルカリ金属、アルカリ土類金属、ランタノイド系希土類金属を含有する化合物等が挙げられる。中でもアルカリ金属及びアルカリ金属を含有する化合物が好ましく、有機アルカリ金属化合物がより好ましい。
【0024】
前記有機アルカリ金属化合物としては、例えばメチルリチウム、エチルリチウム、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、t−ブチルリチウム、ヘキシルリチウム、フェニルリチウム、スチルベンリチウム、ジリチオメタン、ジリチオナフタレン、1,4−ジリチオブタン、1,4−ジリチオ−2−エチルシクロヘキサン、1,3,5−トリリチオベンゼン等の有機リチウム化合物;ナトリウムナフタレン、カリウムナフタレン等が挙げられる。中でも有機リチウム化合物が好ましく、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウムがより好ましく、sec−ブチルリチウムが特に好ましい。なお、有機アルカリ金属化合物は、ジイソプロピルアミン、ジブチルアミン、ジヘキシルアミン、ジベンジルアミン等の第2級アミンと反応させて、有機アルカリ金属アミドとして用いてもよい。
重合に用いる有機アルカリ金属化合物の使用量は、ブロック共重合体(P)の分子量によっても異なるが、通常、芳香族ビニル化合物、ファルネセン及びファルネセン以外の共役ジエンの総量に対して0.01〜3質量%の範囲である。
【0025】
溶媒としてはアニオン重合反応に悪影響を及ぼさなければ特に制限はなく、例えば、n−ペンタン、イソペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、イソオクタン等の飽和脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロペンタン等の飽和脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素等が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を併用してもよい。溶媒の使用量には特に制限はない。
【0026】
ルイス塩基はファルネセン由来の構造単位及びファルネセン以外の共役ジエン由来の構造単位におけるミクロ構造を制御する役割がある。かかるルイス塩基としては、例えばジブチルエーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールジエチルエーテル等のエーテル化合物;ピリジン;N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、トリメチルアミン等の3級アミン;カリウムt−ブトキシド等のアルカリ金属アルコキシド;ホスフィン化合物等が挙げられる。ルイス塩基を使用する場合、その量は、通常、アニオン重合開始剤1モルに対して0.01〜1000モル当量の範囲であることが好ましい。
【0027】
重合反応の温度は、通常、−80〜150℃、好ましくは0〜100℃、より好ましくは10〜90℃の範囲である。重合反応の形式は回分式でも連続式でもよい。重合反応系中の芳香族ビニル化合物、ファルネセン及び/又はファルネセン以外の共役ジエンの存在量が特定範囲になるように、重合反応液中に各単量体を連続的あるいは断続的に供給するか、又は重合反応液中で各単量体が特定比となるように順次重合することで、ブロック共重合体(P)を製造できる。
重合反応は、メタノール、イソプロパノール等のアルコールを重合停止剤として添加して停止できる。得られた重合反応液をメタノール等の貧溶媒に注いでブロック共重合体(P)を析出させるか、重合反応液を水で洗浄し、分離後、乾燥することによりブロック共重合体(P)を単離できる。
【0028】
本重合工程では、前記のように未変性のブロック共重合体(P)を得てもよいが、後述の水素添加工程の前に、前記ブロック共重合体(P)に官能基を導入して、変性したブロック共重合体(P)を得てもよい。導入可能な官能基としては、例えばアミノ基、アルコキシシリル基、水酸基、エポキシ基、カルボキシル基、カルボニル基、メルカプト基、イソシアネート基、酸無水物等が挙げられる。
ブロック共重合体(P)の変性方法としては、例えば、重合停止剤を添加する前に、重合活性末端と反応し得る四塩化錫、テトラクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、ジメチルジエトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、テトラグリシジル−1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサン、2,4−トリレンジイソシアネート、4,4’−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、N−ビニルピロリドン等の変性剤、又は特開2011−132298号公報に記載のその他の変性剤を添加する方法が挙げられる。また、単離後の共重合体に無水マレイン酸等をグラフト化して用いることもできる。
官能基が導入される位置はブロック共重合体(P)の重合末端でも、側鎖でもよい。また上記官能基は1種を単独で又は2種以上を組み合わせてもよい。上記変性剤は、アニオン重合開始剤に対して、通常、0.01〜10モル当量の範囲であることが好ましい。
【0029】
<水素添加工程>
前記方法により得られたブロック共重合体(P)又は変性されたブロック共重合体(P)を水素添加する工程に付すことにより、水添ブロック共重合体(A)を得ることができる。水素添加する方法は公知の方法を用いることができる。例えば、水素添加反応に影響を及ぼさない溶媒にブロック共重合体(P)を溶解させた溶液に、チーグラー系触媒;カーボン、シリカ、けいそう土等に担持されたニッケル、白金、パラジウム、ルテニウム又はロジウム金属触媒;コバルト、ニッケル、パラジウム、ロジウム又はルテニウム金属を有する有機金属錯体等を、水素添加触媒として存在させて水素化反応を行う。水素添加工程においては、前記したブロック共重合体(P)の製造方法によって得られたブロック共重合体(P)を含む重合反応液に水素添加触媒を添加して水素添加反応を行ってもよい。本発明においては、パラジウムをカーボンに担持させたパラジウムカーボンが好ましい。
水素添加反応において、水素圧力は0.1〜20MPaが好ましく、反応温度は100〜200℃が好ましく、反応時間は1〜20時間が好ましい。
【0030】
重合体ブロック(b)中の炭素−炭素二重結合の水素添加率は、柔軟性及び成形加工性に優れる熱可塑性エラストマー組成物を得る観点から、好ましくは50〜100モル%である。当該水素添加率は、70〜100モル%がより好ましく、80〜100モル%が更に好ましく、85〜100モル%がより更に好ましい。なお、水素添加率は、ブロック共重合体(P)及び水素添加後の水添ブロック共重合体(A)の1H−NMRを測定することにより算出できる。
【0031】
[極性基含有オレフィン系重合体(B)]
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、極性基含有オレフィン系重合体(B)を含有することにより、適度な柔軟性と成形加工性を兼ね備え、かつプライマー処理などを施さなくても、セラミックス、金属、樹脂、コンクリート、アスファルト等と低温での加熱処理によっても接着でき、さらに剥離試験において破壊形態が凝集破壊であり、強固な接着力を発揮することができる。
このような効果が得られるのは、必ずしも詳細は明らかではないが、極性基含有オレフィン系重合体(B)を含有することにより、セラミックス、金属、樹脂、コンクリート、アスファルト等の被着体と本発明の熱可塑性エラストマー組成物との相容性が良好になること、また、被着体が極性基を有する場合は、極性基含有オレフィン系重合体(B)に含まれる極性基と被着体表面の極性基との間で化学結合を生じること、などの理由が考えられる。
【0032】
極性基含有オレフィン系重合体(B)を構成するオレフィンとしては、炭素数2〜10のオレフィンが好ましく、炭素数2〜8のオレフィンが好ましい。このようなオレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、4−メチル−1−ペンテン、シクロヘキセンなどが挙げられる。これらのオレフィンは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせた共重合体であってもよい。これらの中でも、エチレン、プロピレンが好ましく、プロピレンがより好ましい。
また、極性基含有オレフィン系重合体(B)が有する極性基としては、例えば(メタ)アクリロイルオキシ基;水酸基;アミド基;塩素原子などのハロゲン原子;カルボキシル基;エステル基;酸無水物基などが挙げられる。これらの中でも、(メタ)アクリロイルオキシ基、カルボキシル基、エステル基、酸無水物基が接着力向上の観点から好ましく、カルボキシル基及び酸無水物基がより好ましい。
【0033】
該極性基含有オレフィン系重合体(B)の製造方法に特に制限はないが、オレフィンおよび極性基含有共重合性単量体を、公知の方法でランダム共重合、ブロック共重合またはグラフト共重合することによって得られる。これらの中でも、ランダム共重合、グラフト共重合が好ましく、グラフト共重合体がより好ましい。このほかにも、ポリオレフィン系樹脂を公知の方法で酸化または塩素化などの反応に付することによっても得られる。また、市販のポリオレフィンに対し、極性基含有化合物を反応させて変性することによっても製造することができる。
極性基含有共重合性単量体としては、例えば、酢酸ビニル、塩化ビニル、酸化エチレン、酸化プロピレン、アクリルアミド、不飽和カルボン酸またはそのエステルもしくは酸無水物が挙げられる。中でも、不飽和カルボン酸またはそのエステルもしくは酸無水物が好ましい。不飽和カルボン酸またはそのエステルもしくは酸無水物としては、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、無水イタコン酸、ハイミック酸、無水ハイミック酸などが挙げられる。中でも、マレイン酸、無水マレイン酸がより好ましい。これらの極性基含有共重合性単量体は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせてもよい。
【0034】
前記極性基含有共重合性単量体として例示した(メタ)アクリル酸エステルとしては、具体的には、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n−ヘキシル、アクリル酸イソヘキシル、アクリル酸n−オクチル、アクリル酸イソオクチル、アクリル酸2−エチルヘキシルなどのアクリル酸アルキルエステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸n−ヘキシル、メタクリル酸イソヘキシル、メタクリル酸n−オクチル、メタクリル酸イソオクチル、メタクリル酸2−エチルヘキシルなどのメタクリル酸アルキルエステルが挙げられる。これらの(メタ)アクリル酸エステルは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
極性基含有オレフィン系重合体(B)としては、接着性の観点から、極性基としてカルボキシル基又は酸無水物基を含有するポリオレフィン、つまりカルボン酸変性オレフィン系重合体又はカルボン酸無水物変性オレフィン系重合体が好ましく、マレイン酸変性オレフィン系重合体、無水マレイン酸変性オレフィン系重合体がより好ましい。
【0036】
極性基含有オレフィン系重合体(B)が有する極性基は、重合後に後処理されていてもよい。例えば、(メタ)アクリロイルオキシ基やカルボキシル基に対し金属イオンによる中和を行ってアイオノマーとしていてもよいし、メタノールやエタノールなどによってエステル化していてもよい。また、酢酸ビニルの加水分解などを行っていてもよい。
【0037】
極性基含有オレフィン系重合体(B)の230℃、荷重2.16kg(21N)の条件下におけるメルトフローレート(MFR)は、好ましくは0.1〜300g/10分、より好ましくは0.1〜100g/10分、更に好ましくは0.1〜80g/10分、より更に好ましくは0.1〜50g/10分、特に好ましくは1〜30g/10分である。極性基含有オレフィン系重合体(B)の上記条件下におけるMFRが0.1g/10分以上であれば、良好な成形加工性が得られる。一方、該MFRが300g/10分以下であれば、力学特性が発現し易い。なお、MFRは実施例記載の方法により測定される。
極性基含有オレフィン系重合体(B)の融点は、耐熱性の観点から、好ましくは100℃以上、より好ましくは110〜170℃、さらに好ましくは120〜145℃である。なお、融点は実施例記載の方法により測定される。
【0038】
極性基含有オレフィン系重合体(B)が有する極性基含有構造単位の、全構造単位に対する割合は、好ましくは0.01〜10質量%である。0.01質量%以上であればセラミックス等と低温の加熱処理によっても接着でき、かつ剥離試験において破壊形態が凝集破壊であり、強固な接着力を有する熱可塑性エラストマー組成物を得ることができる。極性基含有構造単位の割合が10質量%以下であれば、水添ブロック共重合体(A)との親和性が向上し、力学特性が良好となり、得られる熱可塑性エラストマー組成物は柔軟性、成形加工性に優れたものとなる。上記の割合は、より好ましくは0.01〜7質量%、更に好ましくは0.01〜5質量%である。極性基含有構造単位の割合が最適になるよう、極性基含有構造単位を高濃度で含有するポリオレフィン系樹脂を、極性基含有構造単位を有しないポリオレフィン系樹脂で希釈したものを極性基含有オレフィン系重合体(B)として用いてもよい。なお、極性基含有オレフィン系重合体(B)が有する構造単位に対する、極性基含有構造単位及びオレフィン由来構成単位の合計含有量は、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは95質量%以上、より更に好ましくは100質量%である。
【0039】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、水添ブロック共重合体(A)100質量部に対して、極性基含有オレフィン系重合体(B)を5〜300質量部含有する。極性基含有オレフィン系重合体(B)が5質量部以上であれば、セラミックス等と低温の加熱処理によっても接着でき、かつ剥離試験において破壊形態が凝集破壊であり、強固な接着力を有する熱可塑性エラストマー組成物を得ることができる。一方、極性基含有オレフィン系重合体(B)が300質量部より多くなると、十分な接着性は得られるが、熱可塑性エラストマー組成物が硬くなり、柔軟性および成形加工性の低下を招く場合がある。同様の観点から、極性基含有オレフィン系重合体(B)の含有量は、水添ブロック共重合体(A)100質量部に対して、好ましくは10質量部以上、より好ましくは15質量部以上であり、好ましくは250質量部以下、より好ましくは200質量部以下である。
これらより、極性基含有オレフィン系重合体(B)の含有量は、水添ブロック共重合体(A)100質量部に対して、好ましくは10〜250質量部、より好ましくは15〜200質量部である。
【0040】
[ポリビニルアセタール樹脂(C)]
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、ポリビニルアセタール樹脂(C)を含有していてもよい。ポリビニルアセタール樹脂(C)を含有することにより、本発明の熱可塑性エラストマー組成物の、特にガラス等のセラミックスに対する接着力を向上させることができる。
該ポリビニルアセタール樹脂(C)は、通常、下記式(II)で表される繰り返し単位を有する樹脂である。
【0041】
【化2】
【0042】
上記式(II)中、nは、アセタール化反応に用いたアルデヒドの種類の数を表す。R1、R2、・・・、Rnは、アセタール化反応に用いたアルデヒドのアルキル残基又は水素原子を表し、k(1)、k(2)、・・・、k(n)は、それぞれ[ ]で表す構成単位の割合(モル比)を表す。また、lは、ビニルアルコール単位の割合(モル比)、mは、ビニルアセテート単位の割合(モル比)を表す。
ただし、k(1)+k(2)+・・・+k(n)+l+m=1であり、k(1)、k(2)、・・・、k(n)、l及びmは、いずれかがゼロであってもよい。
各繰返し単位は、特に上記配列順序によって制限されず、ランダムに配列されていてもよいし、ブロック状に配列されていてもよいし、テーパー状に配列されていてもよい。
【0043】
ポリビニルアセタール樹脂(C)は、例えば、ポリビニルアルコールとアルデヒドとを反応させることによって得ることができる。
ポリビニルアセタール樹脂(C)の製造に用いられるポリビニルアルコールは、平均重合度が、好ましくは100〜4,000、より好ましくは100〜3,000、より好ましくは100〜2,000、更に好ましくは250〜2,000である。
ここでポリビニルアルコールの平均重合度は、JIS K 6726に準じて測定したものである。具体的には、ポリビニルアルコールを再けん化し、精製した後、30℃の水中で測定した極限粘度から求めた値である。
【0044】
ポリビニルアルコールの製法は特に限定されず、例えば、ポリ酢酸ビニルなどをアルカリ、酸、アンモニア水などによりけん化して製造されたものを用いることができる。また、市販品を用いてもよい。市販品としては、株式会社クラレ製の「クラレポバール」シリーズなどが挙げられる。ポリビニルアルコールは、完全けん化されたものであってもよいが、部分的にけん化されたものであってもよい。けん化度は、好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%以上、更に好ましくは95モル%以上である。
【0045】
また、上記ポリビニルアルコールとしては、エチレン−ビニルアルコール共重合体や部分けん化エチレン−ビニルアルコール共重合体などのビニルアルコールと、ビニルアルコールと共重合可能なモノマーとの共重合体を用いることができる。更に、一部にカルボン酸などが導入された変性ポリビニルアルコールを用いることができる。これらポリビニルアルコールは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0046】
ポリビニルアセタール樹脂(C)の製造に用いられるアルデヒドは特に制限されない。例えば、ホルムアルデヒド(パラホルムアルデヒドを含む)、アセトアルデヒド(パラアセトアルデヒドを含む)、プロピオンアルデヒド、n−ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、ペンタナール、ヘキサナール、ヘプタナール、n−オクタナール、2−エチルヘキシルアルデヒド、シクロヘキサンカルバルデヒド、フルフラール、グリオキサール、グルタルアルデヒド、ベンズアルデヒド、2−メチルベンズアルデヒド、3−メチルベンズアルデヒド、4−メチルベンズアルデヒド、p−ヒドロキシベンズアルデヒド、m−ヒドロキシベンズアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、β−フェニルプロピオンアルデヒドなどが挙げられる。これらのアルデヒドは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらアルデヒドのうち、製造容易性の観点から、ブチルアルデヒドが好ましく、n−ブチルアルデヒドがより好ましい。
【0047】
ブチルアルデヒドを用いたアセタール化によって得られるポリビニルアセタール樹脂(C)を、特に、ポリビニルブチラール(PVB)と称する。ポリビニルアセタール樹脂としては、PVBが好ましい。
【0048】
本発明に用いられるポリビニルアセタール樹脂(C)のアセタール化度は、好ましくは55〜88モル%である。アセタール化度が55モル%以上のポリビニルアセタール樹脂(C)は、製造コストが低く、入手が容易であり、また成形加工性が良好である。一方、アセタール化度が88モル%以下のポリビニルアセタール樹脂(C)は、製造が非常に容易であり、製造に際し、アセタール化反応に長い時間を要しないので経済的である。
ポリビニルアセタール樹脂(C)のアセタール化度は、より好ましくは60〜88モル%であり、更に好ましくは70〜88モル%であり、特に好ましくは75〜85モル%である。ポリビニルアセタール樹脂(C)のアセタール化度が低いほど、ポリビニルアセタール樹脂(C)が有する水酸基の割合が大きくなり、セラミックス、金属及び樹脂等に対する接着性において有利となるが、上記範囲のアセタール化度とすることで、水添ブロック共重合体(A)との親和性や相容性が良好となり、本発明の熱可塑性エラストマー組成物の接着力がより向上する。
なお、ポリビニルアセタール樹脂(C)のアセタール化度は、JIS K 6728(1977年)に記載の方法に則って求めることができる。
また、ポリビニルアセタール樹脂(C)のアセタール化度は、ポリビニルアセタール樹脂(C)を重水素化ジメチルスルホキシドなどの適切な重水素化溶媒に溶解し、1H−NMRや13C−NMRを測定して算出してもよい。
【0049】
ポリビニルアルコールとアルデヒドとの反応(アセタール化反応)は、公知の方法で行うことができる。例えば、ポリビニルアルコールの水溶液とアルデヒドとを酸触媒の存在下でアセタール化反応させて、ポリビニルアセタール樹脂(C)の粒子を析出させる水媒法;ポリビニルアルコールを有機溶媒中に分散させ、酸触媒の存在下、アルデヒドとアセタール化反応させ、得られた反応混合液に、ポリビニルアセタール樹脂(C)に対して貧溶媒である水などを混合することにより、ポリビニルアセタール樹脂(C)を析出させる溶媒法などが挙げられる。
上記酸触媒は特に限定されず、例えば、酢酸、p−トルエンスルホン酸などの有機酸類;硝酸、硫酸、塩酸などの無機酸類;二酸化炭素などの水溶液にした際に酸性を示す気体;陽イオン交換樹脂や金属酸化物などの固体酸触媒などが挙げられる。
【0050】
前記水媒法や溶媒法などにおいて生成したスラリーは、通常、酸触媒によって酸性を呈している。酸触媒を除去する方法として、前記スラリーの水洗を繰り返し、pHを好ましくは5〜9、より好ましくは6〜9、更に好ましくは6〜8に調整する方法;前記スラリーに中和剤を添加して、pHを好ましくは5〜9、より好ましくは6〜9、更に好ましくは6〜8に調整する方法;前記スラリーにアルキレンオキサイド類などを添加する方法などが挙げられる。
pHを調整するために用いられる化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物;酢酸ナトリウムなどのアルカリ金属の酢酸塩;炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ金属の炭酸塩;炭酸水素ナトリウムなどのアルカリ金属の炭酸水素塩;アンモニア、アンモニア水溶液などが挙げられる。また、前記アルキレンオキサイド類としては、例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド;エチレングリコールジグリシジルエーテルなどのグリシジルエーテル類が挙げられる。
【0051】
次に中和により生成した塩、アルデヒドの反応残渣などを除去する。除去方法は特に制限されず、脱水と水洗を繰り返すなどの方法が通常用いられる。残渣などが除去された含水状態のポリビニルアセタール樹脂(C)は、必要に応じて乾燥され、必要に応じてパウダー状、顆粒状あるいはペレット状に加工される。
【0052】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物にポリビニルアセタール樹脂(C)を含有させる場合にあっては、水添ブロック共重合体(A)100質量部に対して、ポリビニルアセタール樹脂(C)を0.1〜100質量部含有するのが好ましい。ポリビニルアセタール樹脂(C)の含有量がこの範囲内であると、セラミックス(例えばガラス)との接着力をより向上させることができ、また、熱可塑性エラストマー組成物が硬くなることが防止され、柔軟性も発現する。ポリビニルアセタール樹脂(C)の含有量は、水添ブロック共重合体(A)100質量部に対して、より好ましくは1〜70質量部、更に好ましくは5〜70質量部、より更に好ましくは10〜50質量部である。
【0053】
[軟化剤(D)]
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、さらに軟化剤(D)を含有していてもよい。軟化剤(D)としては、一般にゴム、プラスチックスに用いられる軟化剤を使用できる。例えばパラフィン系、ナフテン系、芳香族系のプロセスオイル;ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート等のフタル酸誘導体;ホワイトオイル;ミネラルオイル;エチレンとα−オレフィンとの液状コオリゴマー;流動パラフィン;ポリブテン;低分子量ポリイソブチレン;液状ポリブタジエン、液状ポリイソプレン、液状ポリイソプレン/ブタジエン共重合体、液状スチレン/ブタジエン共重合体、液状スチレン/イソプレン共重合体等の液状ポリジエン及びその水添物等が挙げられる。中でも、水添ブロック共重合体(A)との相容性の観点から、パラフィン系プロセスオイル;エチレンとα−オレフィンとの液状コオリゴマー;流動パラフィン;低分子量ポリイソブチレン及びその水添物が好ましく、パラフィン系プロセスオイルの水添物がより好ましい。
【0054】
また、一般的にポリビニルアセタール樹脂と併せて使用される公知の軟化剤、例えば一塩基性有機酸エステル、多塩基性有機酸エステルなどの有機酸エステル系可塑剤;有機リン酸エステル、有機亜リン酸エステルなどのリン酸系可塑剤なども使用できる。
一塩基性有機酸エステルとしては、例えば、トリエチレングリコール−ジカプロン酸エステル、トリエチレングリコール−ジ−2−エチル酪酸エステル、トリエチレングリコール−ジ−n−オクチル酸エステル、トリエチレングリコール−ジ−2−エチルヘキシル酸エステルなどに代表されるトリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリプロピレングリコールなどのグリコールと、酪酸、イソ酪酸、カプロン酸、2−エチル酪酸、ヘプチル酸、n−オクチル酸、2−エチルヘキシル酸、ペラルゴン酸(n−ノニル酸)、デシル酸などの一塩基性有機酸との反応によって得られたグリコール系エステルが挙げられる。
多塩基酸有機エステルとしては、例えばセバシン酸ジブチルエステル、アゼライン酸ジオクチルエステル、アジピン酸ジブチルカルビトールエステルなどに代表されるアジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸などの多塩基性有機酸と直鎖状又は分岐状アルコールのエステルなどが挙げられる。
有機リン酸エステルとしては、例えばトリブトキシエチルホスフェート、イソデシルフェニルホスフェート、トリイソプロピルホスフェートなどが挙げられる。
軟化剤(D)は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0055】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物が軟化剤(D)を含有する場合、その含有量は水添ブロック共重合体(A)100質量部に対して、軟化剤(D)0.1〜300質量部の範囲が好ましい。軟化剤(D)がこの範囲内であると、熱可塑性エラストマー組成物の柔軟性、成形加工性がより向上する。当該観点から、軟化剤(D)の含有量は、水添ブロック共重合体(A)100質量部に対して、好ましくは1〜300質量部、より好ましくは10〜250質量部、更に好ましくは50〜200質量部である。
【0056】
[その他の任意成分]
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲で、必要に応じて、他の熱可塑性重合体、無機充填材、粘着性付与樹脂、酸化防止剤、滑剤、光安定剤、加工助剤、顔料や色素などの着色剤、難燃剤、帯電防止剤、艶消し剤、シリコンオイル、ブロッキング防止剤、紫外線吸収剤、離型剤、発泡剤、抗菌剤、防カビ剤、香料を含有してもよい。前記他の熱可塑性重合体としては、例えば極性基を有さないオレフィン系重合体、スチレン系重合体、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリエチレングリコールなどが挙げられる。これらの中でも、本発明の熱可塑性エラストマー組成物に極性基を有さないオレフィン系重合体を含有させると、その成形加工性が更に向上する。このような極性基を有さないオレフィン系重合体としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、プロピレンとエチレンや1−ブテンなどの他のα−オレフィンとのブロック共重合体やランダム共重合体などの1種又は2種以上を使用することができる。
他の熱可塑性重合体を含有させる場合、その含有量は、水添ブロック共重合体(A)100質量部に対して、好ましくは100質量部以下、より好ましくは50質量部以下、より好ましくは20質量部以下、更に好ましくは10質量部以下である。
【0057】
前記無機充填材は、本発明の熱可塑性エラストマー組成物の耐熱性、耐候性などの物性の改良、硬度調整、増量剤としての経済性の改善などを目的として含有させることができる。無機充填材としては、例えば、炭酸カルシウム、タルク、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、マイカ、クレー、天然ケイ酸、合成ケイ酸、酸化チタン、カーボンブラック、硫酸バリウム、ガラスバルーン、ガラス繊維などが挙げられる。無機充填材は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
無機充填材を含有させる場合、その含有量は、熱可塑性エラストマー組成物の柔軟性が損なわれない範囲であることが好ましく、水添ブロック共重合体(A)100質量部に対して、好ましくは100質量部以下、より好ましくは70質量部以下、更に好ましくは30質量部以下、特に好ましくは10質量部以下である。
【0058】
前記粘着付与樹脂としては、例えばロジン系樹脂、テルペンフェノール樹脂、テルペン樹脂、芳香族炭化水素変性テルペン樹脂、脂肪族系石油樹脂、脂環式系石油樹脂、芳香族系石油樹脂、クマロン・インデン樹脂、フェノール系樹脂、キシレン樹脂などが挙げられる。
粘着付与樹脂を含有させる場合、その含有量は、熱可塑性エラストマー組成物の力学特性が損なわれない範囲であることが好ましく、水添ブロック共重合体(A)100質量部に対して、好ましくは100質量部以下、より好ましくは70質量部以下、更に好ましくは30質量部以下、特に好ましくは10質量部以下である。
【0059】
前記酸化防止剤としては、例えばヒンダードフェノール系、リン系、ラクトン系、ヒドロキシル系の酸化防止剤などが挙げられる。これらの中でも、ヒンダードフェノール系酸化防止剤が好ましい。酸化防止剤を含有させる場合、その含有量は、得られる熱可塑性エラストマー組成物を溶融混練する際に着色しない範囲であることが好ましく、水添ブロック共重合体(A)100質量部に対して、好ましくは0.1〜5質量部である。
【0060】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物の製造方法に特に制限はなく、水添ブロック共重合体(A)、極性基含有オレフィン系重合体(B)、及び必要に応じて添加されるポリビニルアセタール樹脂(C)、軟化剤(D)、その他の成分を均一に混合し得る方法であればいずれの方法で製造してもよく、溶融混練法が好ましく用いられる。溶融混練は、例えば、単軸押出機、2軸押出機、ニーダー、バッチミキサー、ローラー、バンバリーミキサーなどの溶融混練装置を用いて行うことができ、好ましくは170〜270℃で溶融混練することにより、本発明の熱可塑性エラストマー組成物を得ることができる。
【0061】
こうして得られた本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、JIS K 6253のJIS−A法による硬度(以下、「A硬度」と称することがある)が、好ましくは93以下、より好ましくは85以下、更に好ましくは75以下である。A硬度が高くなりすぎると、良好な柔軟性、弾性、力学特性が得られにくく、合成樹脂、特に無機充填材(ガラス繊維など)を含有する樹脂、セラミックス及び金属等と優れた接着性を有する熱可塑性エラストマー組成物としての好適な使用が難しくなる傾向にある。
【0062】
[2]接着剤
本発明はまた、前記した本発明の熱可塑性エラストマー組成物を含む接着剤を提供する。本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、セラミックス、コンクリート、アスファルト、金属、極性樹脂及びポリオレフィン樹脂等に対する接着性が良好であるので、同種材料同士のみならず、異種材料同士を接着する接着剤として好適に用いられる。しかも、柔軟性も有しているので、異種材料同士の熱膨張係数の相違などに対する緩衝作用も有している。接着剤中における当該熱可塑性エラストマー組成物の含有量は、80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上が更に好ましく、100質量%がより更に好ましい。
【0063】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物の接着力の強さは、例えば剥離試験後の試験体の破壊形態を見ることによっても評価できる。本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、剥離試験において、主に凝集破壊を起こす。ここで、凝集破壊とは、本発明の熱可塑性エラストマー組成物を含む接着層自体が破壊される態様を意味する。一般に、凝集破壊の方が、界面剥離に比べ基材により強固に接着しており、接着剤としての信頼性が高いとされている。よって、本発明の熱可塑性エラストマー組成物を含む接着剤は、接着力が要求される種々の用途に好適に使用できる。
【0064】
[3]成形体
本発明はまた、前記した本発明の熱可塑性エラストマー組成物からなる成形体を提供する。
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は成形加工性に優れるので、種々の成形体を製造することができる。成形体は、シートやフィルムであってもよい。
成形方法としては、熱可塑性エラストマー組成物に対して一般に用いられている各種の成形方法が使用できる。具体的には、射出成形法、押出成形法、プレス成形法、ブロー成形法、カレンダー成形法、流延成形法などの任意の成形法を採用できる。また、フィルム、シートの成形に、一般的な、Tダイ法、カレンダー法、インフレーション法、ベルト法なども採用できる。
【0065】
本発明の成形体の好ましい実施態様は、上記本発明の熱可塑性エラストマー組成物が、セラミックス、金属、極性樹脂及びポリオレフィン樹脂(以下、被着体と称することがある。)から選ばれる少なくとも1種に接着されてなる成形体である。また、本発明の成形体は、上記熱可塑性エラストマー組成物と、上記被着体2種以上を接着させた複層成形体であってもよい。
【0066】
成形体における熱可塑性エラストマー組成物の接着力は、JIS K 6854−2に準じて測定した値で、20N/25mm以上が好ましい。20N/25mm以上であると、実用性の観点からは十分に接着しているといえる。この接着力は、より好ましくは50N/25mm以上であり、更に好ましくは70N/25mm以上であり、より更に好ましくは80N/25mm以上である。
【0067】
さらに、本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、プライマー処理などを施さなくても、上記被着体と低温(190℃以下)での加熱処理によって接着させることができる。したがって、上記被着体と本発明の熱可塑性エラストマー組成物とを接着させた成形体の製造工程において、射出成形機や押出機から吐出されたこの熱可塑性エラストマー組成物の表面温度が190℃以下に冷却されても十分な接着が可能であるため、別途ヒーターを設置することなく既存の設備をそのまま使用できる。また、190℃以下では多くの合成樹脂製部材が溶融・変形しないため、同時に加熱される接着部分周辺の合成樹脂部材の破壊を回避することができる。上記加熱処理は150℃以上で行われるのが好ましく、160℃以上で行われるのがより好ましい。
【0068】
本発明の成形体に使用し得るセラミックスは、非金属系の無機材料を意味し、金属酸化物、金属炭化物、金属窒化物などが挙げられる。例えば、ガラス、セメント類、アルミナ、ジルコニア、酸化亜鉛系セラミックス、チタン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸鉛、炭化ケイ素、窒化ケイ素、フェライト類などが挙げられる。
本発明の成形体に使用し得る金属は、例えば、鉄、銅、アルミニウム、マグネシウム、ニッケル、クロム、亜鉛、及びそれらを成分とする合金が挙げられる。また、銅メッキ、ニッケルメッキ、クロムメッキ、錫メッキ、亜鉛メッキ、白金メッキ、金メッキ、銀メッキなどメッキによって形成された金属の表面を持つ成形体であってもよい。
本発明の成形体に使用し得る極性樹脂としては、例えば、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、(メタ)アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂、(メタ)アクリロニトリル−スチレン樹脂、(メタ)アクリル酸エステル−ブタジエン−スチレン樹脂、(メタ)アクリル酸エステル−スチレン樹脂、ブタジエン−スチレン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ポリイミド樹脂、メラミン樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリスチレン樹脂、シンジオタクティックポリスチレン樹脂、などが挙げられる。これらの樹脂は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。上記ポリアミド樹脂としては、例えば、ポリアミド6(PA6)、ポリアミド66(PA66)等が好ましく用いられる。
【0069】
前記極性樹脂は、無機充填材を含有していてもよい。無機充填材としては、例えば、炭酸カルシウム、タルク、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、マイカ、クレー、天然ケイ酸、合成ケイ酸、酸化チタン、カーボンブラック、硫酸バリウム、ガラス繊維及びガラスバルーンなどが挙げられる。無機充填材は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、ガラス繊維が好ましい。
無機充填材の配合量は、無機充填材を含有する樹脂の加工性と機械的強度が損なわれない範囲であることが好ましく、一般に前記極性樹脂100質量部に対して、好ましくは0.1〜100質量部、より好ましくは1〜50質量部、更に好ましくは3〜40質量部である。
【0070】
本発明の成形体に使用し得るポリオレフィン樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン−1、ポリヘキセン−1、ポリ−3−メチル−ブテン−1、ポリ−4−メチル−ペンテン−1、エチレンと炭素数3〜20のα−オレフィン(例えばプロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−デセン、3−メチル−1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、6−メチル−1−ヘプテン、イソオクテン、イソオクタジエン、デカジエンなど)の1種または2種以上との共重合体、エチレン/プロピレン/ジエン共重合体(EPDM)、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体等が好ましく用いられる。
【0071】
本発明の成形体の製造方法は特に制限されず、溶融接着により接着成形体を製造する方法であればいずれの方法を採用して行ってもよく、例えば、射出インサート成形法、押出しラミネーション法、プレス成形法、溶融注型法などの成形法が挙げられる。
例えば、射出インサート成形法により接着成形体を製造する場合には、あらかじめ所定の形状及び寸法に形成しておいた被着体を金型内に配置し、そこに本発明の熱可塑性エラストマー組成物を射出成形して接着成形体を製造する方法が採用される。また、押出しラミネーション法により接着成形体を製造する場合には、あらかじめ所定の形状及び寸法に形成しておいた被着体の表面、又はその縁に対して、押出機に取り付けられた所定の形状を有するダイスから押出した溶融状態の熱可塑性エラストマー組成物を直接押出して接着成形体を製造することもできる。プレス成形法により接着成形体を製造する場合には、射出成形法や押出成形法により、予め本発明の熱可塑性エラストマー組成物からなる成形体を成形しておき、その成形体を、あらかじめ所定の形状及び寸法に形成しておいた被着体に、プレス成形機などを用いて、加熱・加圧して製造することもできる。このような成形法は、被着体がセラミックス、金属である場合に特に適している。
【0072】
また、被着体が極性樹脂やポリオレフィン樹脂である場合は、両者を同時に溶融させて共押出成形したり、共射出成形したりすることができる。また、予め一方を成形しておき、その上に溶融コーティングしてもよいし、溶液コーティングしてもよい。他に、二色成形やインサート成形なども採用することができる。前記、溶融コーティング、溶液コーティングは被着体がコンクリート、アスファルトである場合にも適している。
【0073】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物及び本発明の成形体は、様々な用途に広く適用することができる。例えば、電子・電気機器、OA機器、家電機器、自動車用部材などのハウジング材に、合成樹脂、ガラス繊維を含有する合成樹脂、アルミニウム、マグネシウム合金といった軽金属が用いられるが、これらのハウジング材に本発明の熱可塑性エラストマー組成物が接着された成形体を用いることができる。より具体的には、大型ディスプレイ、ノート型パソコン、携帯用電話機、PHS、PDA(電子手帳などの携帯情報端末)、電子辞書、ビデオカメラ、デジタルスチルカメラ、携帯用ラジオカセット再生機、インバーターなどのハウジングに接着され、衝撃緩和材、滑り止め防止機能を持った被覆材、防水材、意匠材などの用途に好ましい。
また、自動車や建築物のウィンドウモールやガスケット、ガラスのシーリング材、防腐蝕材など、ガラスと接着された成形体や構造体として広い範囲の用途に有用である。また、自動車や建築物の窓におけるガラスとアルミニウムサッシや金属開口部などとの接合部、太陽電池モジュールなどにおけるガラスと金属製枠体との接続部などのシーラントとしても好適に使用できる。更には、ノート型パソコン、携帯電話、ビデオカメラなどの各種情報端末機器や、ハイブリッド自動車、燃料電池自動車などに用いられる二次電池のセパレーターなどにも好適に使用できる。
更に橋梁などの道路舗装のコンクリート層とアスファルト層の接着剤の用途に好適に使用でき、防水材としても効果も兼ね備える。
【実施例】
【0074】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、β−ファルネセン(純度97.6質量%アミリス,インコーポレイティド社製)は、3Åのモレキュラーシーブにより精製し、窒素雰囲気下で蒸留することで、ジンギベレン、ビサボレン、ファルネセンエポキシド、ファルネソール異性体、E,E−ファルネソール、スクアレン、エルゴステロール及びファルネセンの数種の二量体等の炭化水素系不純物を除き、以下の重合に用いた。
【0075】
実施例及び比較例に使用される各成分は次のとおりである。
<水添ブロック共重合体(A)>
後述の製造例1〜4の水添ブロック共重合体(A−1)〜(A−4)
<水添ブロック共重合体(A’)>
後述の製造例5、6の水添ブロック共重合体(A’−1)〜(A’−2)
<極性基含有オレフィン系重合体(B)>
後述の製造例7、8の極性基含有オレフィン系重合体(B−1)〜(B−2)
<ポリビニルアセタール樹脂(C)>
後述の製造例9のポリビニルブチラール(PVB)
<軟化剤(D)>
水添パラフィン系オイル(出光興産株式会社製「ダイアナプロセスオイルPW−90」)
【0076】
また、製造例における各測定方法の詳細は次のとおりである。
(1)分子量分布及びピークトップ分子量(Mp)等の測定
水添ブロック共重合体のピークトップ分子量(Mp)及び分子量分布(Mw/Mn)は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により標準ポリスチレン換算分子量で求め、分子量分布のピークの頂点の位置からピークトップ分子量(Mp)を求めた。測定装置及び条件は、以下のとおりである。
・装置 :東ソー株式会社製GPC装置「GPC8020」
・分離カラム :東ソー株式会社製「TSKgelG4000HXL」
・検出器 :東ソー株式会社製「RI−8020」
・溶離液 :テトラヒドロフラン
・溶離液流量 :1.0ml/分
・サンプル濃度:5mg/10ml
・カラム温度 :40℃
【0077】
(2)水素添加率の測定方法
各実施例及び比較例において、水素添加前のブロック共重合体及び水素添加後のブロック共重合体(水添ブロック共重合体)をそれぞれ重クロロホルム溶媒に溶解し、日本電子株式会社製「Lambda−500」を用いて50℃で1H−NMRを測定した。水添ブロック共重合体(A)中の重合体ブロック(b)の水素添加率は、得られたスペクトルの4.5〜6.0ppmに現れる炭素−炭素二重結合が有するプロトンのピークから、下記式により算出した。
水素添加率={1−(水素添加後のブロック共重合体1モルあたりに含まれる炭素−炭素二重結合のモル数)/(水素添加前のブロック共重合体1モルあたりに含まれる炭素−炭素二重結合のモル数)}×100(モル%)
(3)メルトフローレート(MFR)の測定方法
試料をメルトインデクサL244(株式会社テクノ・セブン製)を用いて、230℃、21N、ノズル寸法=直径1mm×長さ10mmの条件で測定した。
【0078】
<水添ブロック共重合体(A)>
〔製造例1〕
窒素置換し、乾燥させた耐圧容器に、溶媒としてシクロヘキサン50.0kg、アニオン重合開始剤としてsec−ブチルリチウム(10.5質量%シクロヘキサン溶液)35.1g(sec−ブチルリチウム3.7g)を仕込み、50℃に昇温した後、スチレン(1)1.87kgを加えて1時間重合させ、引き続いてβ−ファルネセン8.75kgを加えて2時間重合を行い、更にスチレン(2)1.87kgを加えて1時間重合することにより、ポリスチレン−ポリ(β−ファルネセン)−ポリスチレントリブロック共重合体を含む反応液を得た。この反応液に、水素添加触媒としてパラジウムカーボン(パラジウム担持量:5質量%)を前記ブロック共重合体に対して5質量%添加し、水素圧力2MPa、150℃の条件で10時間反応を行った。放冷、放圧後、濾過によりパラジウムカーボンを除去し、濾液を濃縮し、更に真空乾燥することにより、ポリスチレン−ポリ(β−ファルネセン)−ポリスチレントリブロック共重合体の水素添加物(以下、水添ブロック共重合体(A−1と称する))を得た。水添ブロック共重合体(A−1)について上記した評価を行った。結果を表1に示す。
【0079】
〔製造例2〜4〕
表1に記載の配合にしたがったこと以外は、製造例1と同様にして水添ブロック共重合体(A−2)〜(A−4)を製造した。得られた水添ブロック共重合体(A−2)〜(A−4)について、上記した評価を行った。結果を表1に示す。
【0080】
<水添ブロック共重合体(A’)>
〔製造例5〕
水添ブロック共重合体(A’−1)は、溶媒のシクロヘキサン50.0kgにテトラヒドロフラン288gを混合し、表1に記載の配合にしたがった以外は、製造例1と同様にして水添ブロック共重合体(A’−1)を製造した。得られた水添ブロック共重合体(A’−1)について、上記した評価を行った。結果を表1に示す。
〔製造例6〕
表1に記載の配合にしたがったこと以外は、製造例1と同様にして水添ブロック共重合体(A’−2)を製造した。得られた水添ブロック共重合体(A’−2)について、上記した評価を行った。結果を表1に示す。
【0081】
【表1】
【0082】
<極性基含有オレフィン系重合体(B)>
〔製造例7〕
ポリプロピレン「プライムポリプロF327」(MFR[230℃、荷重2.16kg(21N)]:7g/10分、株式会社プライムポリマー製)42g、無水マレイン酸160mg、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ターシャルブチルパーオキシ)ヘキサン42mgを、バッチミキサーを用いて180℃およびスクリュー回転数40rpmの条件下で溶融混練し、無水マレイン酸基を含有するポリプロピレン(B−1)を得た。得られた(B−1)のMFR[230℃, 21N]は6g/10分、無水マレイン酸基含有構造単位の割合は0.3質量%であり、融点は138℃であった。なお、該無水マレイン酸基含有構造単位の割合は、得られた(B−1)を水酸化カリウムのメタノール溶液を用いて滴定して得られた値であり、以下同様である。また、融点は10℃/minで昇温した際の示差走査熱量測定曲線の吸熱ピークから読み取った値であり、以下同様である。
【0083】
〔製造例8〕
ポリプロピレン「ノバテックPP E111G(日本ポリプロ社製)」42g、無水マレイン酸8.4g、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ターシャルブチルパーオキシ)ヘキサン126mgを、バッチミキサーを用いて200℃およびスクリュー回転数100rpmの条件下で溶融混練し、無水マレイン酸基を含有するポリプロピレン(B−2)を得た。得られた(B−2)のMFR[230℃, 21N]は80g/10分、無水マレイン酸基含有構造単位の割合は6.0質量%であり、融点は135℃であった。
【0084】
<ポリビニルアセタール樹脂(C)>
〔製造例9〕
平均重合度500、けん化度99モル%のポリビニルアルコール樹脂を溶解した水溶液に、n−ブチルアルデヒド及び酸触媒(塩酸)を添加し、攪拌してアセタール化反応を行った。析出した樹脂をpH=6になるまで水洗し、次いで中和剤を添加して中和した後、中和により生じた塩を洗浄して除去した。脱水した後、生成物を揮発分が0.3%になるまで乾燥することにより、アセタール化度が80モル%のポリビニルアセタール樹脂を得た。
【0085】
〔実施例1〜12及び比較例1〜6〕
表2〜表4に記載の各成分を表2〜表4に示す割合にて、バッチミキサーを用いて230℃およびスクリュー回転数200rpmの条件下で溶融混練し、熱可塑性エラストマー組成物を作製した。得られた熱可塑性エラストマー組成物について下記の通り物性評価を行った。結果を表2〜表4に示す。
【0086】
(1)硬度の測定方法
(1−1)熱可塑性エラストマー組成物のシートの作製
実施例及び比較例で得られた熱可塑性エラストマー組成物を、株式会社新藤金属工業所製圧縮プレス成形機「NF−37」を使用して、「テフロン(登録商標)」コーティング金属枠をスペーサーとして用い、230℃、100kgf/cm2の荷重で5分間、圧縮プレス成形した後、18℃、15kgf/cm2の荷重で1分間、圧縮プレス成形することで厚さ1mmの熱可塑性エラストマー組成物のシートを得た。
(1−2)硬度の測定
このシートからJIS K 6251に準拠したダンベル5号型の試験片を打ち抜いて試験片を得た。
得られた試験片を用い、タイプAデュロメータの圧子を用い、JIS K 6253−3に準拠して測定した。なお、硬度が低いほど柔軟性に優れる。
【0087】
(2)溶融粘度
上記(1−1)で作成した熱可塑性エラストマー組成物のシートを細断した後に、キャピログラフ(東洋精機社製)に仕込み、1mmφ×10mmサイズのキャピラリー、温度230℃、せん断速度1210s-1での溶融粘度を測定した。この値が小さいほど、成形性に優れる。
【0088】
(3)接着強さの測定方法
(3−1)測定用試料(積層体)の作製
<アルミニウム板との積層体の作製>
長さ75mm×幅25mm×厚さ1mmのアルミニウム板の両面の表面を、洗浄液として、界面活性剤水溶液、蒸留水をこの順に用いて洗浄し、乾燥させた。該アルミニウム板と、上記(1−1)で作製した熱可塑性エラストマー組成物のシートと、厚さ50μmのポリエチレンテレフタレート(PET)シートをこの順で重ね、外寸200mm×200mm、内寸150mm×150mm、厚さ2mmの金属製スペーサーの中央部に配置した。
この重ねたシートと金属製スペーサーをポリテトラフルオロエチレン製シートで挟み、さらに外側から金属板で挟み、圧縮成形機を用いて、160℃の温度条件下、荷重20kgf/cm2(2N/mm2)で3分間圧縮成形することで、PET/熱可塑性エラストマー組成物/アルミニウム板からなる積層体を得た。
<ガラス板との積層体の作製>
長さ75mm×幅25mm×厚さ1mmのガラス板の両面の表面を、洗浄液として界面活性剤水溶液、メタノール、アセトン、蒸留水をこの順に用いて洗浄し、乾燥させた以外は、上記したアルミニウム板との積層体の作製と同様の操作を行い、PET/熱可塑性エラストマー組成物/ガラス板からなる積層体を得た。
<ポリプロピレン(PP)板との積層体の作製>
ポリプロピレン(ノバテックPP MA3 日本ポリプロ社製)を射出成形して得られた、長さ75mm×幅25mm×厚さ1mmのポリプロピレン板を用いた以外は上記したアルミニウム板との積層体の作製と同様の操作を行い、PET/熱可塑性エラストマー組成物/ポリプロピレン板からなる積層体を得た。
<ナイロン板との積層体の作製>
ナイロン(UBE Nylon6 1013B、宇部興産社製)を射出成形して得られた長さ75mm×幅25mm×厚さ1mmのナイロン板を用いた以外は上記したアルミニウム板との積層体の作製と同様の操作を行い、PET/熱可塑性エラストマー組成物/ナイロン板からなる積層体を得た。
【0089】
(3−2)接着強さの測定
上記で作製した積層体について、インストロン社製「インストロン5566」を使用して、JIS K6854−2に準じて、剥離角度180°、引張速度50mm/minの条件で剥離接着強さ試験を行い、接着強さ(剥離強度)を測定した。
また、剥離接着強さ試験後の積層体を目視観察し、凝集破壊及び界面剥離のいずれの破壊形態であるかを評価した。破壊形態が凝集破壊であるものをAで表し、界面剥離であるものをBで表した。
【0090】
(4)熱収縮率の測定
熱収縮率の測定はJIS K 7133に準拠した方法により測定した。すなわち上記(1−1)で作製したエラストマー組成物のシートから120mm×120mmの寸法に試験片を切り出した。試験片中央部に標線の印をつけ、23℃にて標線間距離(L0)を測定した後、220℃で20分間試験片を加熱した。試験片を取り出した後23℃にて30分間放冷し、標線間距離(L)を再度測定した。熱収縮率(ΔL)は以下の計算方法に従って算出した。熱収縮率の値が小さいほど、得られた熱可塑性エラストマー組成物は耐熱性に優れることを示す。
ΔL=(L0−L)/L×100
【0091】
【表2】
【0092】
【表3】
【0093】
【表4】
【0094】
表2において、水添ブロック共重合体の種類のみが異なっている実施例1〜3と比較例1とを比較すると、ファルネセン由来の構造単位(b1)を有する水添ブロック共重合体(A)を用いた実施例1〜3は、ファルネセン由来の構造単位(b1)を有しない水添ブロック共重合体(A’)を用いた比較例1と比べて、硬度が低く柔軟性に優れ、溶融粘度の値が小さく成形加工性にも優れ、かつ接着強度が高く、破壊形態が凝集破壊であり接着性にも優れていることが分かる。また、熱収縮率が小さいことから、耐熱性にも優れていることがわかる。
また、表2において、水添ブロック共重合体(A)に対する極性基含有オレフィン系重合体(B)の含有量が異なっている実施例2,4〜6と比較例2〜4とを比較すると、極性基含有オレフィン系重合体(B)の割合が本発明の範囲内である実施例2,4〜6は、柔軟性、成形加工性及び接着性に優れている。一方、極性基含有オレフィン系重合体(B)の割合が本発明の範囲よりも多い比較例2、3は、柔軟性及び成形加工性に劣る。また、極性基含有オレフィン系重合体(B)の割合が本発明の範囲よりも少ない比較例4は、接着性に劣る。
表3において、実施例8と比較例5は、ともにポリビニルアセタール樹脂(C)を同様の組成で含んでおり、両者は、水添ブロック共重合体の種類のみが異なっている。実施例8と比較例5とを比較すると、ファルネセン由来の構造単位(b1)を有する水添ブロック共重合体(A)を用いた実施例8は、ファルネセン由来の構造単位(b1)を有しない水添ブロック共重合体(A’)を用いた比較例5と比べて、柔軟性、成形加工性及び接着性に優れ、特にガラスに対する接着力がより向上していることが分かる。また、実施例8は熱収縮率が小さいことから、耐熱性にも優れていることがわかる。
表4において、実施例9と比較例6は、ともに軟化剤(D)を同様の組成で含んでおり、両者は、水添ブロック共重合体の種類のみが異なっている。実施例9と比較例6とを比較すると、ファルネセン由来の構造単位(b1)を有する水添ブロック共重合体(A)を用いた実施例9は、ファルネセン由来の構造単位(b1)を有しない水添ブロック共重合体(A’)を用いた比較例6と比べて、柔軟性、成形加工性及び接着性に優れている。さらに、実施例9は熱収縮率が小さく良好な耐熱性を示したが、比較例6は測定中にシートが溶融し、測定できなかった。また、実施例9〜12の結果から、軟化剤(D)の含有量を広い範囲で変化させても、本発明の熱可塑性エラストマー組成物は上記の各種性能に優れることが分かる。