【実施例】
【0040】
本発明者らの先願(特願2014−95566およびPCT/JP2015/061409)で実証しているように、金属Crが含まれていると磁性薄膜の結晶磁気異方性定数Kuに悪影響を与えるので、本発明では、磁性薄膜の形成に用いるスパッタリングターゲットから不可避的な不純物以外の金属Crを除いている。
【0041】
そのため、以下に記載する実施例および比較例においては、磁性薄膜の形成に用いるスパッタリングターゲットから不可避的な不純物以外の金属Crを除くこと(磁性薄膜中の磁性結晶粒を、不可避的な不純物以外の金属Crを含有していないCoPt合金で形成すること)を前提に、合計で13種類の酸化物で検討を行った。
【0042】
(実施例1)
DCスパッタ装置を用いてスパッタリングを行い、磁気記録膜を作製した。磁気記録膜はガラス基板上に作製した。作製した磁気記録膜の層構成は、ガラス基板に近い方から順に表示して、Ta(5nm, 0.6Pa)/Pt(6nm, 0.6Pa)/Ru(10nm, 0.6Pa)/Ru(10nm, 8Pa)/Co
60Cr
40−26vol%SiO
2(2nm, 4Pa)/CoPt合金−B
2O
3 (16nm, 8Pa)/C (7nm, 0.6Pa)である。括弧内の左側の数字は膜厚を示し、右側の数字はスパッタリングを行ったときのAr雰囲気の圧力を示す。CoPt合金−B
2O
3が垂直磁気記録媒体の記録層となる磁性薄膜である。
【0043】
実施例1として作製したターゲット全体の組成は、モル比で表すと、91.4(80Co−20Pt)−7.5B
2O
3であり、以下のようにしてターゲットの作製を行うとともに評価を行った。なお、酸化物(B
2O
3)の含有割合をターゲット全体に対する体積分率で表して、本実施例1で作製したターゲット全体の組成を表示すると、(80Co−20Pt)−30vol%B
2O
3である。
【0044】
本実施例1に係るターゲットの作製に際しては、まず、80Co−20Pt合金アトマイズ粉末を作製した。具体的には、合金組成がCo:80at%、Pt:20at%となるように各金属を秤量し、1500℃以上に加熱して合金溶湯とし、ガスアトマイズを行って80Co−20Pt合金アトマイズ粉末を作製した。
【0045】
作製した80Co−20Pt合金アトマイズ粉末を150メッシュのふるいで分級して、粒径が106μm以下の80Co−20Pt合金アトマイズ粉末を得た。
【0046】
分級後の80Co−20Pt合金アトマイズ粉末1150gに、B
2O
3粉末74.78gを添加してボールミルで混合分散を行い、加圧焼結用混合粉末を得た。ボールミルの累計回転回数は2,805,840回であった。
【0047】
得られた加圧焼結用混合粉末30gを、焼結温度:720℃、圧力:24.5MPa、時間:30min、雰囲気:5×10
-2Pa以下の条件でホットプレスを行い、焼結体テストピース(φ30mm)を作製した。作製した焼結体テストピースの相対密度は99.009%であった。なお、計算密度は9.04g/cm
3である。
【0048】
図4および
図5は、得られた焼結体テストピースの厚さ方向断面の金属顕微鏡写真であり、
図4は撮影時の倍率が100倍の写真(写真中の縮尺目盛りは500μm)で、
図5は撮影時の倍率が500倍の写真(写真中の縮尺目盛りは100μm)である。
【0049】
図4および
図5からわかるように、80Co−20Pt合金相とB
2O
3相とは微細に混合分散されていた。
【0050】
次に、作製した加圧焼結用混合粉末を用いて、焼結温度:720℃、圧力:24.5MPa、時間:60min、雰囲気:5×10
-2Pa以下の条件でホットプレスを行い、φ153.0×1.0mm+φ161.0×4.0mmのターゲットを1つ作製した。作製したターゲットの相対密度は101.0%であった。
【0051】
作製したターゲットについて、ASTM F2086−01に基づき、漏洩磁束についての評価を行ったところ、平均漏洩磁束率は30.9%であった。この平均漏洩磁束率はマグネトロンスパッタリングを良好に行うのに十分な数値である。
【0052】
次に、作製したターゲットを用いてマグネトロンスパッタリングを行い、(80Co−20Pt)−30vol%B
2O
3からなる磁性薄膜を基板上に成膜させ、磁気特性測定用サンプルを作製した。この磁気特性測定用サンプルの層構成は、前述したように、ガラス基板に近い方から順に表示して、ガラス/Ta(5nm, 0.6Pa)/Pt(6nm, 0.6Pa)/Ru(10nm, 0.6Pa)/Ru(10nm, 8Pa)/Co
60Cr
40−26vol%SiO
2(2nm, 4Pa)/CoPt合金−B
2O
3 (16nm, 8Pa)/C (7nm, 0.6Pa)である。括弧内の左側の数字は膜厚を示し、右側の数字はスパッタリングを行ったときのAr雰囲気の圧力を示す。
【0053】
CoPt合金−B
2O
3が本実施例で作製したターゲットを用いて成膜した磁性薄膜である。なお、この磁性薄膜を成膜する際には基板は昇温させておらず、室温で成膜した。
【0054】
得られた磁気特性測定用サンプルについて、ヒステリシスループを磁気光学カー効果装置を用いて測定した。そして、ヒステリシスループから保磁力Hcを読み取った。読み取った保磁力Hcの値は8.8kOeであった。現状の技術レベルにおいて実現されている磁性薄膜の保磁力Hcは6〜7kOe程度である。
【0055】
実施例1のヒステリシスループを、他の比較例の結果と合わせて
図1に示す。
図1の横軸は加えた磁場の強さである。
図1の縦軸は、入射光の偏光の軸の回転角(カー回転角)を飽和カー回転角で除して規格化した値である。
【0056】
保磁力Hcについての測定結果を比較例の結果と合わせて
図2および
図3に示す。
図2および
図3の縦軸は保磁力Hcであるが、
図2の横軸は当該酸化物の融点Tm(℃)であり、
図3の横軸は当該酸化物が生成するときのO
21molあたりの標準生成ギブズ自由エネルギーΔGf(kJ/mol O
2)である。
【0057】
(比較例1)
比較例1として作製したターゲット全体の組成は、(80Co−20Pt)−30vol%WO
3である。用いる酸化物をWO
3とした以外は実施例1と同様にしてターゲットを作製した。また、作製したターゲットを用いて実施例1と同様にして磁気特性測定用サンプルを作製した。
【0058】
そして、実施例1と同様にして、磁気特性測定用サンプルについて、ヒステリシスループを磁気光学カー効果装置を用いて測定した。そして、ヒステリシスループから保磁力Hcを読み取った。読み取った保磁力Hcの値は7.1kOeであった。比較例1のヒステリシスループを、他の実施例および比較例の結果と合わせて
図1に示す。また、保磁力Hcについての測定結果を他の実施例および比較例の結果と合わせて
図2および
図3に示す。
【0059】
(比較例2)
比較例2として作製したターゲット全体の組成は、(80Co−20Pt)−30vol%TiO
2である。用いる酸化物をTiO
2とした以外は実施例1と同様にしてターゲットを作製した。また、作製したターゲットを用いて実施例1と同様にして磁気特性測定用サンプルを作製した。
【0060】
そして、実施例1と同様にして、磁気特性測定用サンプルについて、ヒステリシスループを磁気光学カー効果装置を用いて測定した。そして、ヒステリシスループから保磁力Hcを読み取った。読み取った保磁力Hcの値は5.8kOeであった。比較例2のヒステリシスループを、他の実施例および比較例の結果と合わせて
図1に示す。また、保磁力Hcについての測定結果を他の実施例および比較例の結果と合わせて
図2および
図3に示す。
【0061】
(比較例3)
比較例3として作製したターゲット全体の組成は、(80Co−20Pt)−30vol%SiO
2である。用いる酸化物をSiO
2とした以外は実施例1と同様にしてターゲットを作製した。また、作製したターゲットを用いて実施例1と同様にして磁気特性測定用サンプルを作製した。
【0062】
そして、実施例1と同様にして、磁気特性測定用サンプルについて、ヒステリシスループを磁気光学カー効果装置を用いて測定した。そして、ヒステリシスループから保磁力Hcを読み取った。読み取った保磁力Hcの値は5.2kOeであった。比較例3のヒステリシスループを、他の実施例および比較例の結果と合わせて
図1に示す。また、保磁力Hcについての測定結果を他の実施例および比較例の結果と合わせて
図2および
図3に示す。
【0063】
(比較例4)
比較例4として作製したターゲット全体の組成は、(80Co−20Pt)−30vol%Al
2O
3である。用いる酸化物をAl
2O
3とした以外は実施例1と同様にしてターゲットを作製した。また、作製したターゲットを用いて実施例1と同様にして磁気特性測定用サンプルを作製した。
【0064】
そして、実施例1と同様にして、磁気特性測定用サンプルについて、ヒステリシスループを磁気光学カー効果装置を用いて測定した。そして、ヒステリシスループから保磁力Hcを読み取った。読み取った保磁力Hcの値は0.8kOeであった。比較例4のヒステリシスループを、他の実施例および比較例の結果と合わせて
図1に示す。また、保磁力Hcについての測定結果を他の実施例および比較例の結果と合わせて
図2および
図3に示す。
【0065】
(比較例5)
比較例5として作製したターゲット全体の組成は、(80Co−20Pt)−30vol%MoO
3である。用いる酸化物をMoO
3とした以外は実施例1と同様にしてターゲットを作製した。また、作製したターゲットを用いて実施例1と同様にして磁気特性測定用サンプルを作製した。
【0066】
そして、実施例1と同様にして、磁気特性測定用サンプルについて、ヒステリシスループを磁気光学カー効果装置を用いて測定した。そして、ヒステリシスループから保磁力Hcを読み取った。読み取った保磁力Hcの値は5.1kOeであった。比較例5のヒステリシスループを、他の実施例および比較例の結果と合わせて
図1に示す。また、保磁力Hcについての測定結果を他の実施例および比較例の結果と合わせて
図2および
図3に示す。
【0067】
(比較例6)
比較例6として作製したターゲット全体の組成は、(80Co−20Pt)−30vol%ZrO
2である。用いる酸化物をZrO
2とした以外は実施例1と同様にしてターゲットを作製した。また、作製したターゲットを用いて実施例1と同様にして磁気特性測定用サンプルを作製した。
【0068】
そして、実施例1と同様にして、磁気特性測定用サンプルについて、ヒステリシスループを磁気光学カー効果装置を用いて測定した。そして、ヒステリシスループから保磁力Hcを読み取った。読み取った保磁力Hcの値は1.6kOeであった。比較例6のヒステリシスループを、他の実施例および比較例の結果と合わせて
図1に示す。また、保磁力Hcについての測定結果を他の実施例および比較例の結果と合わせて
図2および
図3に示す。
【0069】
(比較例7)
比較例7として作製したターゲット全体の組成は、(80Co−20Pt)−30vol%Co
3O
4である。用いる酸化物をCo
3O
4とした以外は実施例1と同様にしてターゲットを作製した。また、作製したターゲットを用いて実施例1と同様にして磁気特性測定用サンプルを作製した。
【0070】
そして、実施例1と同様にして、磁気特性測定用サンプルについて、ヒステリシスループを磁気光学カー効果装置を用いて測定した。そして、ヒステリシスループから保磁力Hcを読み取った。読み取った保磁力Hcの値は4.7kOeであった。比較例7のヒステリシスループを、他の実施例および比較例の結果と合わせて
図1に示す。また、保磁力Hcについての測定結果を他の実施例および比較例の結果と合わせて
図2および
図3に示す。
【0071】
(比較例8)
比較例8として作製したターゲット全体の組成は、(80Co−20Pt)−30vol%MnOである。用いる酸化物をMnOとした以外は実施例1と同様にしてターゲットを作製した。また、作製したターゲットを用いて実施例1と同様にして磁気特性測定用サンプルを作製した。
【0072】
そして、実施例1と同様にして、磁気特性測定用サンプルについて、ヒステリシスループを磁気光学カー効果装置を用いて測定した。そして、ヒステリシスループから保磁力Hcを読み取った。読み取った保磁力Hcの値は5.6kOeであった。比較例8のヒステリシスループを、他の実施例および比較例の結果と合わせて
図1に示す。また、保磁力Hcについての測定結果を他の実施例および比較例の結果と合わせて
図2および
図3に示す。
【0073】
(比較例9)
比較例9として作製したターゲット全体の組成は、(80Co−20Pt)−30vol%Cr
2O
3である。用いる酸化物をCr
2O
3とした以外は実施例1と同様にしてターゲットを作製した。また、作製したターゲットを用いて実施例1と同様にして磁気特性測定用サンプルを作製した。
【0074】
そして、実施例1と同様にして、磁気特性測定用サンプルについて、ヒステリシスループを磁気光学カー効果装置を用いて測定した。そして、ヒステリシスループから保磁力Hcを読み取った。読み取った保磁力Hcの値は3.3kOeであった。比較例9のヒステリシスループを、他の実施例および比較例の結果と合わせて
図1に示す。また、保磁力Hcについての測定結果を他の実施例および比較例の結果と合わせて
図2および
図3に示す。
【0075】
(比較例10)
比較例10として作製したターゲット全体の組成は、(80Co−20Pt)−30vol%Y
2O
3である。用いる酸化物をY
2O
3とした以外は実施例1と同様にしてターゲットを作製した。また、作製したターゲットを用いて実施例1と同様にして磁気特性測定用サンプルを作製した。
【0076】
そして、実施例1と同様にして、磁気特性測定用サンプルについて、ヒステリシスループを磁気光学カー効果装置を用いて測定した。そして、ヒステリシスループから保磁力Hcを読み取った。読み取った保磁力Hcの値は1.2kOeであった。比較例10のヒステリシスループを、他の実施例および比較例の結果と合わせて
図1に示す。また、保磁力Hcについての測定結果を他の実施例および比較例の結果と合わせて
図2および
図3に示す。
【0077】
(比較例11)
比較例11として作製したターゲット全体の組成は、(80Co−20Pt)−30vol%WO
2である。用いる酸化物をWO
2とした以外は実施例1と同様にしてターゲットを作製した。また、作製したターゲットを用いて実施例1と同様にして磁気特性測定用サンプルを作製した。
【0078】
そして、実施例1と同様にして、磁気特性測定用サンプルについて、ヒステリシスループを磁気光学カー効果装置を用いて測定した。そして、ヒステリシスループから保磁力Hcを読み取った。読み取った保磁力Hcの値は3.3kOeであった。比較例11のヒステリシスループを、他の実施例および比較例の結果と合わせて
図1に示す。また、保磁力Hcについての測定結果を他の実施例および比較例の結果と合わせて
図2および
図3に示す。
【0079】
(比較例12)
比較例12として作製したターゲット全体の組成は、(80Co−20Pt)−30vol%Mn
3O
4である。用いる酸化物をMn
3O
4とした以外は実施例1と同様にしてターゲットを作製した。また、作製したターゲットを用いて実施例1と同様にして磁気特性測定用サンプルを作製した。
【0080】
そして、実施例1と同様にして、磁気特性測定用サンプルについて、ヒステリシスループを磁気光学カー効果装置を用いて測定した。そして、ヒステリシスループから保磁力Hcを読み取った。読み取った保磁力Hcの値は5.3kOeであった。比較例12のヒステリシスループを、他の実施例および比較例の結果と合わせて
図1に示す。また、保磁力Hcについての測定結果を他の実施例および比較例の結果と合わせて
図2および
図3に示す。
【0081】
(酸化物の種類についての考察(実施例1、比較例1〜12))
実施例1および比較例1〜12で用いた酸化物についての融点およびO
21molあたりの標準生成ギブズ自由エネルギーΔGfならびに実施例1および比較例1〜12の磁気特性測定用サンプルとして得られた磁性薄膜の保磁力Hcの値を、次の表1に一覧にして示す。なお、実施例1および比較例1〜12で用いた酸化物の含有量は、ターゲット全体に対していずれも30vol%である。
【0082】
【表1】
【0083】
表1ならびに
図2および
図3からわかるように、磁性薄膜の保磁力Hcの値は、用いた酸化物の融点Tmが低いほど大きくなる傾向があり、融点が600℃以下の時に特に大きくなっている。一方、酸化物のO
21molあたりの標準生成ギブズ自由エネルギーΔGfに対しては、磁性薄膜の保磁力Hcの値は、酸化物の標準生成ギブズ自由エネルギーΔGfが−1000kJ/mol O
2 以上−500kJ/mol O
2 以下の範囲に入っているときに大きくなる。
【0084】
したがって、磁性薄膜の保磁力Hcを大きくするのに適した酸化物は、融点が600℃以下で、かつ、O
21molあたりの標準生成ギブズ自由エネルギーΔGfが−1000kJ/mol O
2 以上−500kJ/mol O
2 以下の酸化物であると考えられる。
【0085】
なお、磁性薄膜の保磁力Hcを大きくするのに適した酸化物は、その融点が600℃以下で、かつ、O
21molあたりの標準生成ギブズ自由エネルギーΔGfが−1000kJ/mol O
2 以上−500kJ/molO
2 以下であることの理由は現段階では明確になっていないが、磁性薄膜の保磁力Hcの値は、用いた酸化物の融点Tmが低いほど大きくなる傾向があることについては、次のように説明することができる。即ち、磁性薄膜よりも下層に(基板寄りに)位置するRu層は表面に凹凸を有するところ、スパッタリング後の冷却過程において、融点が1460℃と高いCoPt合金がまずRu層の凸部(Ru層の凸部の表面のCo
60Cr
40−26vol%SiO
2層)に選択的に析出して柱状に成長する一方、融点の低い酸化物は液体のままであるので、酸化物は柱状に成長するCoPt合金粒子の間に液体の状態で存在すると考えられる。そして、さらに冷却が進むと、CoPt合金粒子の間に存在する液体の酸化物も固体となるため、柱状に成長したCoPt合金粒子の間を仕切るように酸化物の壁体ができ、グラニュラ構造になると考えられる。
【0086】
したがって、融点の低い酸化物を用いた方が、酸化物の壁体によってCoPt合金粒子の間をより確実に仕切ることになり、CoPt合金粒子同士の間の相互作用が小さくなるため、融点の低い酸化物を用いた磁性薄膜の方が保磁力Hcが大きくなるものと考えられる。
【0087】
なお、酸化物のO
21molあたりの標準生成ギブズ自由エネルギーΔGfが小さい(マイナスが大きい)ほど、その酸化物は酸化物として安定するので、この点では、酸化物のO
21molあたりの標準生成ギブズ自由エネルギーΔGfが小さい(マイナスが大きい)ほど好ましいと考えられる。
【0088】
また、表1からわかるように、実施例1のスパッタリングターゲットで用いた酸化物B
2O
3は融点Tmが450℃であって600℃以下であり、かつ、O
21molあたりの標準生成ギブズ自由エネルギーΔGfが−795.8kJ/mol O
2であって−1000kJ/mol O
2 以上−500kJ/mol O
2 以下であるので、実施例1のスパッタリングターゲットは本発明の範囲に含まれる。実施例1で作製した磁気特性測定用サンプルの保磁力Hcの値は8.8kOeであり、他の酸化物を用いた比較例1〜12と比べて保磁力Hcの値が特に大きくなっており、保磁力Hcの値が唯一8kOeを上回っている。
【0089】
したがって、CoPt合金−酸化物系磁性薄膜の保磁力Hcを大きくするためには、実施例1のように、B
2O
3を用いたCoPt合金−酸化物系ターゲットを用いることが最も適切であると考えられる。
【0090】
(酸化物含有量についての追加検討(実施例2〜8))
前述したように、CoPt合金−酸化物系磁性薄膜の保磁力Hcを大きくするためには、実施例1のように、B
2O
3を用いたCoPt合金−酸化物系ターゲットを用いることが最も適切であると考えられる。
【0091】
しかしながら、実施例1で用いたスパッタリングターゲットにおけるB
2O
3の含有量は、30vol%の1種類のみである。
【0092】
そこで、B
2O
3の含有量を変えた以外は実施例1と同様にしてターゲット(CoとPtの組成は80Co−20Pt)を複数作製して追加検討を行った。追加検討したスパッタリングターゲット(実施例2〜8)中のB
2O
3の含有量は、実施例2が10vol%であり、実施例3が15vol%であり、実施例4が20vol%であり、実施例5が25vol%であり、実施例6が35vol%であり、実施例7が40vol%であり、実施例8が50vol%である。作製したターゲットを用いて実施例1と同様にして磁気特性測定用サンプルを作製した。
【0093】
そして、実施例1と同様にして、磁気特性測定用サンプルについて、ヒステリシスループを磁気光学カー効果装置を用いて測定した。そして、ヒステリシスループから保磁力Hcを読み取った。
【0094】
それらの測定結果を実施例1の測定結果とともに次の表2に一覧にして示す。
【0095】
【表2】
【0096】
表2からわかるように、実施例1〜8のいずれにおいても保磁力Hcが5kOeを上回っており、良好な結果が得られた。したがって、酸化物としてB
2O
3を用いたCoPt−酸化物ターゲットの場合、ターゲット全体に対するB
2O
3の含有量が10vol%以上50vol%以下であれば、保磁力Hcが5kOeを上回る良好な磁性薄膜を得ることができると考えられる。
【0097】
また、表2からわかるように、ターゲット全体に対するB
2O
3の含有量が20vol%以上40vol%以下のとき、保磁力Hcが7.6kOe以上であるより良好な磁性薄膜が得られているので、ターゲット全体に対するB
2O
3の含有量は20vol%以上40vol%以下であることがより好ましいと考えられる。
【0098】
また、表2からわかるように、ターゲット全体に対するB
2O
3の含有量が25vol%以上35vol%以下のとき、保磁力Hcが8.2kOe以上である特に良好な磁性薄膜が得られているので、ターゲット全体に対するB
2O
3の含有量は25vol%以上35vol%以下であることが特に好ましいと考えられる。