(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
  使用済み吸収性物品からパルプ繊維と高吸水性ポリマーと水の混合物を取り出す工程の前に、使用済み吸収性物品に水を付与する工程をさらに含む請求項1に記載の方法。
  使用済み吸収性物品からパルプ繊維と高吸水性ポリマーと水の混合物を取り出す工程が、使用済み吸収性物品を一対のローラーの間に通して、使用済み吸収性物品の外包体からパルプ繊維と高吸水性ポリマーと水の混合物を搾り出す工程である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
  パルプ繊維を分離する工程が、水の中で、パルプ繊維を浮遊させ、不活化した高吸水性ポリマーを沈降させることによって、パルプ繊維と不活化した高吸水性ポリマーを分離する工程である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
  使用済み吸収性物品からパルプ繊維と高吸水性ポリマーと水の混合物を取り出した後の残渣または不活化した高吸水性ポリマーを固体燃料化する工程をさらに含む請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
  特許文献1の方法は、高吸水性ポリマーの不活化に充分な量の石灰を投入しており、また、消毒剤(殺菌剤)としてオゾンまたは塩素系化合物を用いている。したがって、石灰によって、処理槽内が高いpH(12.4)環境となり、パルプ繊維がアルカリセルロース化して劣化してしまうばかりか、殺菌のためにオゾンまたは塩素系化合物を用いるため、パルプ繊維が傷んでしまい、リサイクルを繰り返すことによって劣化が進み、リサイクルが困難なレベルに劣化してしまう虞がある。
  本発明は、パルプ繊維の性能劣化がなく、安全性の高いパルプ繊維を効率的に回収する方法を提供する。
 
【課題を解決するための手段】
【0006】
  本発明者らは、電極間に形成した電場により、高吸水性ポリマーの塩基解離イオン(Na
+)と水の電気分解によって生じる水素イオンとのイオン交換で高吸水性ポリマーを不活化するとともに、電場エネルギーによって細胞膜を破壊し殺菌することが可能となることに着目し、本発明を完成した。
  本発明は、パルプ繊維および高吸水性ポリマーを含む使用済み吸収性物品からパルプ繊維を回収する方法であって、該方法が、
  使用済み吸収性物品からパルプ繊維と高吸水性ポリマーと水の混合物を取り出す工程、
  パルプ繊維と高吸水性ポリマーと水の混合物に、一対の電極を用いて電圧を印加して、高吸水性ポリマーを不活化する工程、および
  パルプ繊維と不活化した高吸水性ポリマーと水の混合物からパルプ繊維を分離する工程
を含むことを特徴とする。
【0007】
  本発明は、次の態様を含む。
  [1]パルプ繊維および高吸水性ポリマーを含む使用済み吸収性物品からパルプ繊維を回収する方法であって、該方法が、
  使用済み吸収性物品からパルプ繊維と高吸水性ポリマーと水の混合物を取り出す工程、
  パルプ繊維と高吸水性ポリマーと水の混合物に、一対の電極を用いて電圧を印加して、高吸水性ポリマーを不活化する工程、および
  パルプ繊維と不活化した高吸水性ポリマーと水の混合物からパルプ繊維を分離する工程
を含む、方法。
  [2]使用済み吸収性物品からパルプ繊維と高吸水性ポリマーと水の混合物を取り出す工程の前に、使用済み吸収性物品に水を付与する工程をさらに含む[1]に記載の方法。
  [3]高吸水性ポリマーを不活化する工程において高吸水性ポリマーから排出される尿由来の成分を含む排液を回収する工程をさらに含む[1]または[2]に記載の方法。
  [4]使用済み吸収性物品からパルプ繊維と高吸水性ポリマーと水の混合物を取り出した後の残渣を濾過または脱水し、尿由来の成分を含む排液を回収する工程をさらに含む[1]〜[3]のいずれかに記載の方法。
  [5]高吸水性ポリマーを不活化する工程の後、パルプ繊維を分離する工程の前に、パルプ繊維と不活化した高吸水性ポリマーと水の混合物をさらに脱水し、尿由来の成分を含む排液を回収する工程をさらに含む[1]〜[4]のいずれかに記載の方法。
  [6]尿由来の成分を含む排液から尿由来の栄養塩を回収する栄養塩回収工程をさらに含む[3]〜[5]のいずれかに記載の方法。
  [7]尿由来の成分を含む排液を微生物燃料電池に投入して排水中のTOC濃度を低減するとともに発電による電力を回収する微生物燃料電池工程をさらに含む[3]〜[6]のいずれかに記載の方法。
  [8]パルプ繊維を分離する工程の前に、パルプ繊維と不活化した高吸水性ポリマーと水の混合物を殺菌する殺菌工程をさらに含む[1]〜[7]のいずれかに記載の方法。
  [9]殺菌工程後の混合物の生菌数が1×10
3以下である、[8]に記載の方法。
  [10]高吸水性ポリマーがアクリル酸由来の高吸水性ポリマーである、[1]〜[9]のいずれかに記載の方法。
  [11]使用済み吸収性物品に水を付与する工程が、使用済み吸収性物品を50℃以上100℃未満の温水に浸漬する工程である、[2]〜[10]のいずれかに記載の方法。
  [12]使用済み吸収性物品に水を付与する工程において、水を付与した後の使用済み吸収性物品の重量が使用済み吸収性物品の最大吸収重量の90%以上である、[2]〜[11]のいずれかに記載の方法。
  [13]使用済み吸収性物品からパルプ繊維と高吸水性ポリマーと水の混合物を取り出す工程が、使用済み吸収性物品を一対のローラーの間に通して、使用済み吸収性物品の外包体からパルプ繊維と高吸水性ポリマーと水の混合物を搾り出す工程である、[3]〜[12]のいずれかに記載の方法。
  [14]パルプ繊維を分離する工程が、水の中で、パルプ繊維を浮遊させ、不活化した高吸水性ポリマーを沈降させることによって、パルプ繊維と不活化した高吸水性ポリマーを分離する工程である、[1]〜[13]のいずれかに記載の方法。
  [15]使用済み吸収性物品からパルプ繊維と高吸水性ポリマーと水の混合物を取り出した後の残渣または不活化した高吸水性ポリマーを固体燃料化する工程をさらに含む[1]〜[14]のいずれかに記載の方法。
 
【発明の効果】
【0008】
  本発明は、電圧印加により高吸水性ポリマーを不活化し脱塩脱水するので、高吸水性ポリマーの不活化のためにパルプ繊維の性能(灰分付着量)を悪化させる薬品を使用する必要がない。また、電圧印加により細菌の細胞膜を破壊し殺菌するので、殺菌のためにパルプ繊維を劣化させる薬品を使用する必要がない。すなわち、本発明によれば、薬品を使用しないので、パルプ繊維の性能劣化(分子量低下、繊維切れ)がなく、安全性の高いパルプ繊維を効率的に回収することができる。
 
 
【発明を実施するための形態】
【0010】
  本発明は、パルプ繊維および高吸水性ポリマーを含む使用済み吸収性物品からパルプ繊維を回収する方法に関する。
 
【0011】
  吸収性物品としては、パルプ繊維および高吸水性ポリマーを含むものであれば、特に限定されず、使い捨ておむつ、失禁パッド、尿取りパッド、生理用ナプキン、パンティーライナー等を例示することができる。なかでも、施設等でまとめて回収される失禁パッドや使い捨ておむつが分別の手間がなくパルプ量が比較的多い点で好ましい。
 
【0012】
  パルプ繊維としては、特に限定するものではないが、フラッフ状パルプ繊維、化学パルプ繊維等を例示することができる。
  この明細書においては、本発明の方法によって回収されたパルプ繊維を「リサイクルパルプ」と称する。
 
【0013】
  高吸水性ポリマーとは、SAP(Superabsorbent Polymer)とも呼ばれ、水溶性高分子が適度に架橋された三次元網目構造を有するもので、数十倍〜数百倍の水を吸収するが、本質的に水不溶性であり、一旦吸収された水は多少の圧力を加えても離水しないものであり、たとえば、アクリル酸系、デンプン系、アミノ酸系の粒子状または繊維状のポリマーを例示することができる。本発明においては、不活化によりポリアクリル酸となりpHを下げる効果が期待でき、パルプ繊維のアルカリセルロース化による劣化を妨げるの点で、アクリル酸系の高吸水性ポリマーであることが好ましい。アクリル酸系の高吸水性ポリマーは、ナトリウム置換されたカルボキシル基−COONaを有し、水を吸収すると−COONaは−COO
−とNa
+に電離して、Na
+イオンを解離し、高吸水性ポリマー中の解離イオン濃度が増大し、高吸水性ポリマー内外の浸透圧差により高吸水性ポリマーの外の水は高吸水性ポリマーの中に入り込み、その結果、高吸水性ポリマーは膨潤し、多量の水を保持することになる。
 
【0014】
  本発明の方法は、使用済み吸収性物品からパルプ繊維と高吸水性ポリマーと水の混合物を取り出す工程(以下、単に「取り出し工程」ともいう。)を含む。使用済み吸収性物品からパルプ繊維と高吸水性ポリマーと水の混合物を取り出す方法は、限定されないが、使用済み吸収性物品を一対のローラーの間に通して(ローラープレスにより)、使用済み吸収性物品の外包体(不織布、フィルム、ゴムなど)からパルプ繊維と高吸水性ポリマーと水の混合物を搾り出すという方法が好ましい。その場合は、使用済み吸収性物品を一対のローラーの間に通す前に、外包体からパルプ繊維と高吸水性ポリマーと水の混合物を搾り出すのを容易にするために、使用済み吸収性物品の外包体の破砕や穿孔を目的とした一対のロール間を通してもよい。
 
【0015】
  本発明の方法は、パルプ繊維と高吸水性ポリマーと水の混合物に、一対の電極を用いて電圧を印加して、高吸水性ポリマーを不活化する工程(以下、単に「電圧印加工程」ともいう。)を含む。高吸水性ポリマーがナトリウム置換されたカルボキシル基(−COO
−Na
+)を有する場合、この工程では、高吸水性ポリマー中のNa
+イオンが、電圧印加により形成される電場により、電気泳動によってマイナス電極に向かって移動するので、高吸水性ポリマーからNa
+イオンが離脱し、高吸水性ポリマー中の解離イオン濃度が低下するので、浸透圧差により高吸水性ポリマー中の水は外に出ていき、高吸水性ポリマーは脱水し、収縮する。高吸水性ポリマー中の−COO
−は水の電離により生じるH
+イオンと結合して−COOHを形成するが、その構造は水素結合による内部架橋が強すぎ網目を広げることができなくなり、高吸水性ポリマーは不活化する。
 
【0016】
  電圧を印加する方法は、限定されないが、たとえば、水平に配置した2枚の金網の間にパルプ繊維と高吸水性ポリマーと水の混合物を挟み、2枚の金網の間に電圧を印加すればよい。印加する電圧は、高吸水性ポリマーを不活化することができる限り限定されない。
 
【0017】
  電圧の印加により、高吸水性ポリマーから排出された排液は、重力により、金網を通過して、金網の下に落ちる。金網の下に落ちた排液は、金網の下に配置した排液回収用容器の中に、回収する。排液には、高吸水性ポリマーから離脱したNa
+イオン、水の電離により生じたOH
−イオン、尿由来の塩類、排泄物由来の有機物などが含まれる。
 
【0018】
  電圧印加工程は、回分式(バッチ式)で実施してもよいし、流通式で実施してもよい。流通式で実施するときは、たとえば、
図1に示すような装置で実施することができる。
 
【0019】
  石灰により処理槽内が高いpH(12.4)環境になるとセルロースが膨潤してパルプ繊維がアルカリセルロース化して劣化してしまうが、本発明の方法は、高吸水性ポリマーの不活化に電圧印加処理を用いるため、pHが過度に変化しないためパルプ繊維を劣化させることがない。
  使用済みおむつからパルプ繊維を再生しても、劣化を抑制できるため、繰り返し再生しても、品質の低下を最小限に留めることが可能となる。
 
【0020】
  本発明の方法は、パルプ繊維と不活化した高吸水性ポリマーと水の混合物からパルプ繊維を分離する工程(以下、単に「分離工程」ともいう。)を含む。
  パルプ繊維と不活化した高吸水性ポリマーと水の混合物からパルプ繊維を分離する方法は、限定されないが、分離工程は、好ましくは、水の中で、パルプ繊維を浮遊させ、不活化した高吸水性ポリマーを沈降させることによって、パルプ繊維と不活化した高吸水性ポリマーを分離する工程である。不活化した高吸水性ポリマーはパルプ繊維に比べ比重が大きいので、パルプ繊維と不活化した高吸水性ポリマーを水に入れると、比重差で分かれ、比重の軽いパルプ繊維は浮遊し、不活化した高吸水性ポリマーは沈降するので、浮遊するパルプ繊維をすくい取って回収する。
 
【0021】
  本発明の方法は、使用済み吸収性物品からパルプ繊維と高吸水性ポリマーと水の混合物を取り出す工程の前に、使用済み吸収性物品に水を付与する工程(以下、単に「水付与工程」ともいう。)をさらに含んでもよい。使用済み吸収性物品に水を付与し、高吸水性ポリマーを充分に膨潤させることによって、使用済み吸収性物品からパルプ繊維と高吸水性ポリマーを取り出すのが容易になるとともに、電圧印加工程においてパルプ繊維と高吸水性ポリマーと水の混合物と電極との間の接触抵抗を低減させることができ、かつ水が存在することでパルプ繊維と高吸水性ポリマーと水の混合物の中に電気が流れやすくなり電圧印加処理の効率が上がる。紙おむつ等の吸収性物品は、通常、パルプ繊維と高吸水性ポリマーからなる吸収体が上下の被覆層(外包体)で挟まれており、上下の被覆層で挟まれているので吸収体を押し出しやすい。また、水を付与することにより使用済み吸収性物品からパルプ繊維と高吸水性ポリマーを取り出すのが容易になる結果、回収すべきパルプ繊維の量の目減りが少ないので効率よく回収できる。
 
【0022】
  付与する水の量は、電圧印加工程において高吸水性ポリマーの不活化ができる限り限定されないが、水を付与した後の使用済み吸収性物品の重量が使用済み吸収性物品の最大吸収重量の90%以上であることが好ましい。使用済み吸収性物品の最大吸収重量の90%以上に膨潤させると、使用済み吸収性物品がパンパンに膨れるので、パルプ繊維と高吸水性ポリマーからなる吸収体押し出しやすく効率よく取り出せる。
 
【0023】
  ここで、最大吸収重量とは、以下の手順で、吸収性物品を水道水に浸漬させた後の重量に相当する。
[最大吸収重量の測定方法]
(1)
図2(a)に示すように、吸収性物品61について、吸収体62に達しないように、ポケットを形成しうる伸縮材料63,64に切り込み65を入れ、平らにする。
(2)十分な水道水で満たされた水浴に、吸収面を下にして浸漬し、30分間放置する。
(3)放置後、網66の上に、吸収面67を下にして置き、20分水切りした後の重量を最大吸収重量とする(
図2(b)参照)。
 
【0024】
  水を付与する方法は、限定されないが、使用済み吸収性物品を水に浸漬するという方法が好ましい。水に浸漬するという方法によれば、高吸水性ポリマーを膨潤させると同時に、洗浄することができる。使用済み吸収性物品が大便などの夾雑物を含む場合には、大便などの夾雑物も取り除くことができる。
  水の温度は、限定されないが、好ましくは55℃以上100℃未満であり、より好ましくは60℃以上100℃未満であり、さらに好ましくは70℃以上100℃未満である。55℃以上の温水を使用することにより、高吸水性ポリマーへの吸水効率を上げ、また、一部の菌を一次殺菌し、さらに、吸収性物品に使用されているホットメルト接着剤を軟化させ、吸収体を押し出しやすくするので、パルプ繊維の回収効率が上がる。
  浸漬時間は、電圧印加工程において高吸水性ポリマーの不活化ができる限り限定されないが、好ましくは1分以上であり、より好ましくは5分以上であり、さらに好ましくは10分以上である。
 
【0025】
  本発明の方法は、さらに、高吸水性ポリマーを不活化する工程において高吸水性ポリマーから排出される尿由来の成分を含む排液を回収する工程(以下、単に「排液回収工程」ともいう。)を含んでもよい。排液には、高吸水性ポリマーから離脱したNa
+イオン、水の電離により生じたOH
−イオン、尿由来の塩類、排泄物由来の有機物などが含まれる。この工程は、不活化工程と同時に行なうことができる。回収された排液は、後述する栄養塩回収工程および/または微生物燃料電池工程に送られて有効活用することができる。パルプ繊維以外も回収し再利用することで使用済み吸収性物品のリサイクル率が上がる。
 
【0026】
  本発明の方法は、さらに、使用済み吸収性物品からパルプ繊維と高吸水性ポリマーと水の混合物を取り出した後の残渣を濾過または脱水し、尿由来の成分を含む排液を回収する工程(以下、単に「残渣濾過・脱水工程」ともいう。)を含んでもよい。残渣の濾過または脱水により回収される排液には、尿由来の塩類、排泄物由来の有機物などが含まれる。回収された排液は、後述する栄養塩回収工程および/または微生物燃料電池工程に送り、有効活用することができる。パルプ繊維以外も回収し再利用することで使用済み吸収性物品のリサイクル率が上がる。
 
【0027】
  本発明の方法は、さらに、高吸水性ポリマーを不活化する工程の後、パルプ繊維を分離する工程の前に、パルプ繊維と不活化した高吸水性ポリマーと水の混合物をさらに脱水し、尿由来の成分を含む排液を回収する工程(以下、単に「混合物脱水工程」ともいう。)を含んでもよい。混合物の脱水により回収される排液には、尿由来の塩類、排泄物由来の有機物などが含まれる。回収された排液は、後述する栄養塩回収工程および/または微生物燃料電池工程に送り、有効活用することができる。パルプ繊維以外も回収し再利用することで使用済み吸収性物品のリサイクル率が上がる。
 
【0028】
  使用済み吸収性物品からパルプ繊維と高吸水性ポリマーと水の混合物を取り出した後の残渣またはパルプ繊維と不活化した高吸水性ポリマーと水の混合物を脱水する方法は、特に限定されないが、ロールプレス、ベルトプレス、スクリュープレスなどを例示することができる。
 
【0029】
  本発明の方法は、さらに、尿由来の成分を含む排液から尿由来の栄養塩を回収する栄養塩回収工程を含んでもよい。栄養塩とは、肥料として利用可能な窒素、リンまたはカリウムを含む塩をいい、より具体的には、アンモニウム塩、リン酸塩等が挙げられる。回収した栄養塩は、肥料として利用することができる。
  栄養塩を回収する方法は、限定するものではないが、排液中のリンをヒドロキシアパタイトとして晶析することによりリンを含む栄養塩を回収する方法(以下、「HAP法」ともいう。)、排液中のリンおよび/または窒素をリン酸マグネシウムアンモニウムとして晶析することによりリンおよび/または窒素を含む栄養塩を回収する方法(以下、「MAP法」ともいう。)を例示することができる。
 
【0030】
  HAP法は、排液中のPO
43-とCa
2+およびOH
−の反応によって生成するヒドロキシアパタイト(Ca
10(OH)
2(PO
4)
6)の晶析現象を利用した方法である。反応式は次式のとおりである。
    10Ca
2++2OH
-+6PO
43-  →  Ca
10(OH)
2(PO
4)
6      (1)
  HAP法は、リンを含む水溶液にCa
2+およびOH
−を添加し、過飽和状態(準安定域)で種晶と接触させることで、種晶表面にヒドロキシアパタイトを晶析させ排液中のリンを回収するものである。種晶には、リン鉱石、骨炭、珪酸カルシウム水和物などを用いることができる。
  この方法においてCa
2+濃度は5ミリモル/リットル以上、pHは8以上、より好ましくはCa
2+濃度は10ミリモル/リットル以上、pHは9以上が必要である。
 
【0031】
  MAP法は、排液中のPO
43-とNH
4+、Mg
2+の反応によって生成するリン酸マグネシウムアンモニウム(MgNH
4PO
4・6H
2O)の晶析現象を利用した方法である。反応式は次式のとおりである。
    Mg
2++NH
4++PO
43-+6H
2O  →  MgNH
4PO
4・6H
2O      (2)
  この方法において、Mg
2+濃度は30〜60ミリモル/リットルが好ましく、pHは6.8〜7.7が好ましい。
 
【0032】
  本発明の方法は、さらに、尿由来の成分を含む排液を微生物燃料電池に投入して排水中のTOC濃度を低減するとともに発電による電力を回収する微生物燃料電池工程を含んでもよい。
  ここで、微生物燃料電池とは、微生物を利用して、燃料としての有機物を電気エネルギーに変換する装置をいう。微生物燃料電池は、燃料である有機物の溶液に負極と正極を浸し、負極では有機物が微生物により酸化分解されるときに発生する電子を回収し、その電子は外部回路を経由して正極に移動し、正極では電子が酸化剤の還元反応により消費される。負極で起こる化学反応と正極で起こる化学反応の酸化還元電位の差により電子が流れ、両極の電位差と外部回路を流れる電流の積に相当するエネルギーが外部回路において得られる。
  微生物燃料電池工程では、排液を微生物燃料電池に投入して排水中のTOC濃度を低減するとともに発電による電力を回収する。微生物燃料電池内では、微生物が排液に含まれる汚物、微細パルプ等の有機物を酸化分解することにより、排水中のTOC濃度が低減され、かつ発電が行われる。
 
【0033】
  微生物燃料電池に使用される微生物としては、有機物を酸化分解するとともに電気エネルギーを発生するのに寄与し得る限り、特に限定されないが、主に水素産生微生物が用いられ、その中でも偏性嫌気性菌、通性嫌気性菌が好ましく用いられる。
 
【0034】
  微生物燃料電池の構成の一例を
図3に示す。図中、101は排液槽、102はポンプ、103は負極反応槽、104は負極、105はプロトン交換膜、106は正極槽、107は正極、108はテスター、109はパソコン、110は汚泥沈降槽、111はポンプ、112は浄化水槽である。
 
【0035】
  微生物燃料電池工程からの排水のpHは8.0未満であることが好ましい。微生物燃料電池工程からの排水のpHが高すぎると、微生物燃料電池工程の発電効率が低下する。
  微生物燃料電池工程からの排水のTOC濃度は2000mg/L以下であることが好ましい。微生物燃料電池工程からの排水のTOC濃度が2000mg/L以下であれば、次工程の一般的な浄化槽等で簡単に浄化処理が可能である。また、微生物燃料電池工程から直接排水する場合は、排水のTOC濃度が30mg/L以下であることが好ましい。
 
【0036】
  本発明の方法は、さらに、パルプ繊維を分離する工程の前に、パルプ繊維と不活化した高吸水性ポリマーと水の混合物を殺菌する殺菌工程を含んでもよい。
  本発明の方法によれば、電圧印加工程において、電圧の印加により細菌の細胞膜が破壊され、細菌が死滅するので、電圧印加工程は殺菌機能も有し、殺菌工程も兼ねる。したがって、必ずしも電圧印加工程の他に殺菌工程を設ける必要はないが、安全性のより高いパルプ繊維を求める場合には、パルプ繊維の性能を劣化させない範囲の条件で、殺菌工程を設けてもよい。
  殺菌の方法は、薬品処理ではなく、熱処理、電気、紫外線、オゾン等の残留物が出ない殺菌方法が好ましい。
 
【0037】
  殺菌工程後のパルプ繊維と不活化した高吸水性ポリマーと水の混合物の生菌数は、好ましくは1×10
3以下である。生菌数が1×10
3以下であれば、安全性の高いパルプ繊維を得ることができる。
 
【0038】
  本発明の方法は、さらに、使用済み吸収性物品からパルプ繊維と高吸水性ポリマーと水の混合物を取り出した後の残渣または不活化した高吸水性ポリマーを固体燃料化する工程(以下、単に「固体燃料化工程」ともいう。)を含んでもよい。使用済み吸収性物品からパルプ繊維と高吸水性ポリマーと水の混合物を取り出した後の残渣には、不織布、プラスチックフィルム、ゴムなどが含まれる。使用済み吸収性物品から回収されたプラスチック素材は固形燃料化することによって再資源化することができる。パルプ繊維以外も回収し再利用することで使用済み吸収性物品のリサイクル率が上がる。固体燃料化は、いわゆるRPF化手法によって行なうことができる。
 
【0039】
  本発明の方法は、さらに、分離したパルプ繊維を洗浄する工程(以下、単に「パルプ繊維洗浄工程」ともいう。)を含んでもよい。
  分離したパルプ繊維を洗浄する方法は、限定するものではないが、たとえば、分離したパルプ繊維をメッシュ袋に入れ、水ですすぎ洗いをすることにより行うことができる。すすぎ洗いは、回分式で行ってもよいし、半回分式で行ってもよいし、流通式で行ってもよい。回分式で行う場合は、たとえば洗濯機を用いてすすぎ洗いを行うことができる。
  洗浄の条件は、パルプ繊維以外の物質が十分に除去される限り、特に限定されないが、たとえば、洗浄時間は、好ましくは3〜60分であり、より好ましくは5〜50分であり、さらに好ましくは10〜40分である。回分式で行う場合、使用する水の量は、パルプ繊維100質量部(絶乾質量)に対し、好ましくは500〜5000質量部であり、より好ましくは800〜4000質量部であり、さらに好ましくは1000〜3000質量部である。
 
【0040】
  本発明の方法は、さらに、洗浄したパルプ繊維を脱水する工程(以下「パルプ繊維脱水工程」という。)を含んでもよい。
  洗浄したパルプ繊維を脱水する方法は、限定するものではないが、たとえば、メッシュ袋に入った洗浄したパルプ繊維を、脱水機で脱水することにより行うことができる。
  脱水の条件は、水分率を目標とする値まで下げることができる限り、特に限定されないが、たとえば、脱水時間は、好ましくは1〜10分であり、より好ましくは2〜8分である。
 
【0041】
  本発明の方法は、さらに、脱水したパルプ繊維を乾燥する工程(以下「パルプ繊維乾燥工程」という。)を含んでもよい。
  脱水したパルプ繊維を乾燥する方法は、限定するものではないが、たとえば、熱風乾燥機等の乾燥機を用いて行うことができる。
  乾燥の条件は、パルプ繊維が十分に乾燥される限り、特に限定されないが、たとえば、乾燥温度は、好ましくは100〜200℃であり、より好ましくは110〜180℃であり、さらに好ましくは120〜160℃である。乾燥時間は、好ましくは10〜120分であり、より好ましくは20〜80分であり、さらに好ましくは30〜60分である。
  乾燥後のパルプ繊維の水分率は、好ましくは5〜13%であり、より好ましくは6〜12%であり、さらに好ましくは7〜11%である。水分率が低すぎると、水素結合が強くなり、硬くなりすぎる場合があり、逆に、水分率が多すぎるとカビ等が発生する場合がある。
 
【0042】
  パルプ繊維の水分率は、次のように測定する。なお、この測定は、20℃±1℃の雰囲気下にて実施する。
(1)測定対象サンプルを入れる容器(ふたの無い容器)の質量A(g)を測定する。
(2)測定対象サンプル約5gを準備し、(1)で質量を測定した容器内に入れ、サンプルの入った容器の質量B(g)を測定する。
(3)サンプルの入った容器を、105℃±3℃の温度とされたオーブン内に2時間置く。
(4)サンプルの入った容器をオーブンから取り出し、デシケータ(乾燥剤:着色シリカゲルの入ったもの)内に30分間置く。
(5)サンプルの入った容器をデシケータから取り出し、質量C(g)を測定する。
(6)水分率(%)を、次式により算出する。
          水分率(%)=(B−C)/(C−A)×100
 
【0043】
  以下、図面を参照しながら、本発明をさらに説明するが、本発明は図面に示される形態に限定されるものではない。
  
図1は、本発明を実施するための装置1の一例の模式図である。
  装置1は、取り出し工程2、電圧印加工程3および分離工程4からなる。
 
【0044】
  取り出し工程2は、コンベアー21および一対のローラー23を有する。使用済み吸収性物品11はコンベアー21の上に載せられて搬送され、一対のローラー23に送られる。そこで、使用済み吸収性物品を構成する外包体12は一対のローラー23の間を通過するが、パルプ繊維と高吸水性ポリマーと水の混合物が一対のローラー23によって外包体から搾り出され、一対のローラー23の手前に溜まる。一対のローラー23の手前に溜まったパルプ繊維と高吸水性ポリマーと水の混合物13は定期的に掻き出され、電圧印加工程3に送られる。
 
【0045】
  電圧印加工程3は、第一の電極31および第二の電極32を有する。第二の電極32は第一の電極31の上部に設置されている。第一の電極31は金網で作られたベルトコンベアーである。第二の電極32もベルト状であり、電導性の材料で作られていればよく、金網である必要はないが、金網であってもよい。第一の電極31と第二の電極32の間には所定の電圧が印加されている(図示せず)。第一の電極31と第二の電極32のいずれをプラス電極にしてもよい。第二の電極32を構成するベルトの下半分は、第一の電極31を構成するベルトコンベアーの上半分と同じ速度で(図面の左から右へ)移動する。第一の電極31と第二の電極32の間の隙間は調節できるようにしておき、好ましくは左から右へ移動するにつれて隙間が狭くなるように調節しておく。取り出し工程において使用済み吸収性物品から取り出されたパルプ繊維と高吸水性ポリマーと水の混合物13は、第一の電極31の上に載せられて搬送され、第一の電極31と第二の電極32の間に挟まれ、電圧が印加される。電圧が印加された高吸水性ポリマーからは、Na
+イオン、OH
−イオン、尿由来の塩類、排泄物由来の有機物などを含む排液14が排出される。排出された排液14は、第一の電極31を構成する金網を通過して、第一の電極31の下に設置された排液回収用容器33の中に落ち、貯められる。電圧印加工程3の出口からは、パルプ繊維と不活化した高吸水性ポリマーと水の混合物15が排出され、分離工程4へ送られる。
 
【0046】
  分離工程4は、分離槽41を有する。分離槽41には電圧印加工程3から送られてきたパルプ繊維と不活化した高吸水性ポリマーと水の混合物15が投入される。分離槽41に、追加の水を投入し、攪拌した後、静置すると、不活化した高吸水性ポリマーはパルプ繊維に比べ比重が大きいので、不活化した高吸水性ポリマーは分離槽41の底に沈降し、パルプ繊維は浮遊する。浮遊するパルプ繊維をすくい取る。