(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述するように、フルオレン骨格を有する化合物やフッ素などの活性基を有するフルオレン系化合物、さらにそれらの製造方法も一応は知られているが、この製造方法は反応効率が悪く、オレフィン系副生成物が多量に生成することが知られており、例えば有機EL素子に要求される高純度や低コストの材料を製造するために使用できるものではない。したがって、製造方法の選択肢を増やすためにも、さらにそれ以上に純度及び反応効率をより高めるためにも新規な製造方法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、OH前駆体に対して酸だけでなく多孔質無機物質などの担体と共に反応させることで、極めて高い効率でフルオレン系化合物を製造することに成功した。さらにこの方法により、従来知られていなかった新規な活性基含有フルオレン系化合物を製造できることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
[1]
下記式(II)で表される構造を分子内に有するOH前駆体を、担体および酸の存在下および/または固定酸触媒の存在下で反応させて、下記式(I)で表されるフルオレン構造を分子内に有する化合物を製造する方法。
【化4】
A
1およびA
2は、それぞれ独立して、アルキル、アリールまたはヘテロアリールであり、これらの基は置換されていてもよく、A
1およびA
2は結合して環を形成していてもよい。
【0009】
[2]
下記一般式(2−1)または式(2−2)で表されるOH前駆体を、担体および酸の存在下および/または固定酸触媒の存在下で反応させて、下記一般式(1)で表されるフルオレン系化合物を製造する、上記[1]に記載する製造方法。
【化5】
式(1)、式(2−1)および式(2−2)中、
A
1およびA
2は、それぞれ独立して、アルキル、アリールまたはヘテロアリールであり、これらの基は置換されていてもよく、A
1およびA
2は結合して環を形成していてもよく、
R
1〜R
4およびR
5〜R
8は、それぞれ独立して、水素、アルキル、アリール、ヘテロアリールまたはジアリール置換アミノであり、これらの基は置換されていてもよく、R
1およびR
2、R
2およびR
3、R
3およびR
4、R
5およびR
6、R
6およびR
7ならびにR
7およびR
8は、それぞれ独立して、結合して環を形成していてもよく、
式(1)で表されるフルオレン系化合物における水素は、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素またはアルコキシで置換されていてもよく、この場合、式(2−1)または式(2−2)で表されるOH前駆体における対応する水素が同じく置換されている。
【0010】
[3]
前記担体が、無機酸化物または金属硫酸化物であり、
前記酸が、硫酸、燐酸、ポリ燐酸またはスルホン酸であり、
前記固定酸触媒が、スルホン化処理された樹脂または表面がスルホン化処理された多孔質物質である、上記[1]または[2]に記載する製造方法。
【0011】
[4]
前記担体が多孔質物質である、上記[1]〜[3]のいずれかに記載する製造方法。
【0012】
[5]
式(1)、式(2−1)および式(2−2)中、
A
1およびA
2は、それぞれ独立して、アルキル、アリールまたはヘテロアリールであり、A
1およびA
2は結合して脂肪族環または芳香族環を形成していてもよく、
R
1〜R
4およびR
5〜R
8は、それぞれ独立して、水素、アルキル、アリール、ヘテロアリールまたはジアリール置換アミノであり、R
1およびR
2、R
2およびR
3、R
3およびR
4、R
5およびR
6、R
6およびR
7ならびにR
7およびR
8は、それぞれ独立して、結合して芳香族環を形成していてもよく、
式(1)で表されるフルオレン系化合物中のフルオレン骨格における水素は、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素またはアルコキシで置換されていてもよく、この場合、式(2−1)または式(2−2)で表されるOH前駆体における対応する水素が同じく置換されている、
上記[1]〜[4]のいずれかに記載する製造方法。
【0013】
[6]
式(1)、式(2−1)および式(2−2)中、
A
1およびA
2は、それぞれ独立して、アルキル、アリールまたはヘテロアリールであり、
R
1〜R
4は、それぞれ独立して、水素、アルキル、アリール、ヘテロアリール、ジアリール置換アミノまたはフッ素であり、R
1〜R
4のうちの少なくとも1つはフッ素であり、
R
5〜R
8は、それぞれ独立して、水素、アルキル、アリール、ヘテロアリール、ジアリール置換アミノ、塩素、臭素、ヨウ素またはアルコキシであり、R
5〜R
8のうちの少なくとも1つは塩素、臭素、ヨウ素またはアルコキシである、
上記[1]〜[5]のいずれかに記載する製造方法。
【0014】
[7]
下記一般式(1)で表されるフルオレン系化合物。
【化6】
式(1)中、
A
1およびA
2は、それぞれ独立して、アルキル、アリールまたはヘテロアリールであり、
R
1〜R
4は、それぞれ独立して、水素、アルキル、アリール、ヘテロアリール、ジアリール置換アミノまたはフッ素であり、R
1〜R
4のうちの少なくとも1つはフッ素であり、
R
5〜R
8は、それぞれ独立して、水素、アルキル、アリール、ヘテロアリール、ジアリール置換アミノ、塩素、臭素、ヨウ素またはアルコキシであり、R
5〜R
8のうちの少なくとも1つは塩素、臭素、ヨウ素またはアルコキシである。
【0015】
[8]
式(1)中、
A
1およびA
2は、それぞれ独立して、アルキルであり、
R
1〜R
4は、それぞれ独立して、水素、アルキル、アリール、ヘテロアリール、ジアリール置換アミノまたはフッ素であり、R
1〜R
4のうちの少なくとも1つはフッ素であり、
R
5〜R
8は、それぞれ独立して、水素、アルキル、アリール、ヘテロアリール、ジアリール置換アミノ、塩素、臭素、ヨウ素またはアルコキシであり、R
5〜R
8のうちの少なくとも1つは塩素、臭素、ヨウ素またはアルコキシである、
上記[7]に記載するフルオレン系化合物。
【発明の効果】
【0016】
本発明の好ましい態様によれば、従来の酸だけを用いた一般的な製造方法と比較して、酸と共に担体、特に多孔質の担体を共に用いることで、OH前駆体からフルオレン系化合物への転換率を飛躍的に高めることができる。さらにこの好ましい態様により、従来知られていなかった新規な活性基含有フルオレン系化合物を製造できるようになり、例えば有機EL素子に用いることが可能な材料のバリエーションを増やすことができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
1.フルオレン系化合物の製造方法
本発明に係るフルオレン系化合物の製造方法は、下記式(II)で表される構造を分子内に有するOH前駆体を、担体および酸の存在下および/または固定酸触媒の存在下で反応させて、下記式(I)で表されるフルオレン構造を分子内に有する化合物を製造する方法である。
【化7】
【0018】
なお、「構造を分子内に有する」とは、当該構造に置換基や環などが結合したり環が縮合したりして当該分子が形成されることを意味し、当該構造は当該分子の一部の構造に相当する。また、当該構造自体が当該分子であってもよく、この場合は当該構造と当該分子とが同じ化学構造であることを意味する。例えば式(I)で表されるフルオレン構造を分子内に有する化合物とは、式(I)で表されるフルオレン構造に置換基や環などが結合したり環が縮合したりして形成された化合物である。式(II)で表される構造を分子内に有するOH前駆体についても同様である。
【0019】
また、本発明に係るより具体的なフルオレン系化合物の製造方法は、下記一般式(2−1)または式(2−2)で表されるOH前駆体を、担体および酸の存在下または固定酸触媒の存在下で反応させて、下記一般式(1)で表されるフルオレン系化合物を製造する方法である。
【化8】
【0020】
式(1)は目的化合物であるフルオレン系化合物を表し、式(I)は目的化合物であるフルオレン系化合物中のフルオレン構造部分を表し、式(2−1)または式(2−2)や式(II)は、このフルオレン系化合物を製造するための原料を表す。この製造方法は、原料となる式(2−1)または式(2−2)で表される化合物や式(II)表される構造を分子内に有する化合物におけるOH基(水酸基)に対して、酸を作用させることで、隣接する炭素(上記「*」で示す)と環化させる脱水環化反応である。なお、この原料を便宜的にOH前駆体とも呼ぶ。
【0021】
<各式中のA1、A2、R1〜R4およびR5〜R8について>
式(1)や式(I)と、式(2−1)および式(2−2)や式(II)とは、目的化合物(またはその部分構造)と原料(またはその部分構造)との関係にあるので、各式で用いられているA
1、A
2、R
1〜R
4およびR
5〜R
8は、それぞれ同じ基を意味する。A
1およびA
2、R
1およびR
2、R
2およびR
3、R
3およびR
4、R
5およびR
6、R
6およびR
7ならびにR
7およびR
8は結合して環を形成していてもよいが、式(2−1)および式(2−2)や式(II)において環が形成されている場合には、式(1)や式(I)においても対応する位置に環が形成されている。式(2−1)および式(2−2)や式(II)において環が形成されていない場合には、式(1)や式(I)においても対応する位置には環は形成されていないが、式(1)で表される化合物や式(I)で表されるフルオレン構造を分子内に有する化合物を製造した後に、これらの環を形成する反応を行ってもよい。
【0022】
本発明に係るフルオレン系化合物の製造方法は、上述するとおり、OH前駆体中のOH基に対して酸を作用させて隣接する炭素と環化させる簡単な反応を用いるものであるため、式(I)、式(1)、式(II)、式(2−1)および式(2−2)中で用いているA
1、A
2、R
1〜R
4およびR
5〜R
8はこの反応を阻害しない基、一般的な基であれば特に限定されない。これらの基として好ましい基を挙げるとすれば以下のとおりである。
【0023】
A
1およびA
2は、それぞれ独立して、アルキル、アリールまたはヘテロアリールであり、これらの基は置換されていてもよく、A
1およびA
2は結合して環を形成していてもよい。A
1およびA
2がアルキルなどである場合、立体障害や反応活性などの要因で、反応溶剤などとの反応が起こりにくく、OH前駆体自体の分子内脱水環化反応の方が進みやすいと推測されるため、フルオレン系目的化合物が得られやすくなると思われる。一方で、A
1およびA
2が水素であると、OH前駆体自体の分子内脱水環化反応よりもトルエンとの分子間脱水反応の方がはるかに反応速度が速いと推測され、フルオレン系目的化合物は得られにくいと考えられる。
また、R
1〜R
4およびR
5〜R
8は、それぞれ独立して、水素、アルキル、アリールヘテロアリールまたはジアリール置換アミノであり、これらの基は置換されていてもよく、R
1およびR
2、R
2およびR
3、R
3およびR
4、R
5およびR
6、R
6およびR
7ならびにR
7およびR
8は、それぞれ独立して、結合して環を形成していてもよい。このように、R
1〜R
4およびR
5〜R
8として様々な置換基を有していてもOH前駆体自体の分子内脱水環化反応が阻害されない理由としては、環化反応の部位に対する各置換基の立体障害(特に反応部位に近いR
1やR
8などの立体障害)が少ないことなどが考えられる。
また、式(1)で表されるフルオレン系化合物における水素は、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素またはアルコキシで置換されていてもよく、この場合、式(2−1)または式(2−2)で表されるOH前駆体における対応する水素が同じく置換されている。
【0024】
A
1、A
2、R
1〜R
4およびR
5〜R
8におけるアルキルとしては、直鎖および分枝鎖のいずれでもよく、例えば、炭素数1〜24の直鎖アルキルまたは炭素数3〜24の分枝鎖アルキルが挙げられる。好ましいアルキルは、炭素数1〜18のアルキル(炭素数3〜18の分枝鎖アルキル)である。より好ましいアルキルは、炭素数1〜12のアルキル(炭素数3〜12の分枝鎖アルキル)である。さらに好ましいアルキルは、炭素数1〜6のアルキル(炭素数3〜6の分枝鎖アルキル)である。特に好ましいアルキルは、炭素数1〜4のアルキル(炭素数3〜4の分枝鎖アルキル)である。
【0025】
具体的なアルキルとしては、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、s−ブチル、t−ブチル、n−ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、t−ペンチル、n−ヘキシル、1−メチルペンチル、4−メチル−2−ペンチル、3,3−ジメチルブチル、2−エチルブチル、n−ヘプチル、1−メチルヘキシル、n−オクチル、t−オクチル、1−メチルヘプチル、2−エチルヘキシル、2−プロピルペンチル、n−ノニル、2,2−ジメチルヘプチル、2,6−ジメチル−4−ヘプチル、3,5,5−トリメチルヘキシル、n−デシル、n−ウンデシル、1−メチルデシル、n−ドデシル、n−トリデシル、1−ヘキシルヘプチル、n−テトラデシル、n−ペンタデシル、n−ヘキサデシル、n−ヘプタデシル、n−オクタデシル、n−エイコシルなどが挙げられる。
【0026】
A
1、A
2、R
1〜R
4およびR
5〜R
8におけるアリールとしては、例えば、炭素数6〜30のアリールが挙げられる。好ましいアリールは炭素数6〜16のアリールであり、より好ましくは炭素数6〜14のアリールであり、さらに好ましくは炭素数6〜12のアリールであり、特に好ましくは炭素数6〜10のアリールである。
【0027】
具体的なアリールとしては、単環系アリールであるフェニル、二環系アリールである(2−,3−,4−)ビフェニリル、縮合二環系アリールである(1−,2−)ナフチル、三環系アリールであるテルフェニリル(m−テルフェニル−2’−イル、m−テルフェニル−4’−イル、m−テルフェニル−5’−イル、o−テルフェニル−3’−イル、o−テルフェニル−4’−イル、p−テルフェニル−2’−イル、m−テルフェニル−2−イル、m−テルフェニル−3−イル、m−テルフェニル−4−イル、o−テルフェニル−2−イル、o−テルフェニル−3−イル、o−テルフェニル−4−イル、p−テルフェニル−2−イル、p−テルフェニル−3−イル、p−テルフェニル−4−イル)、縮合三環系アリールである、アセナフチレン−(1−,3−,4−,5−)イル、フルオレン−(1−,2−,3−,4−,9−)イル、フェナレン−(1−,2−)イル、(1−,2−,3−,4−,9−)フェナントリル、四環系アリールであるクアテルフェニリル(5’−フェニル−m−テルフェニル−2−イル、5’−フェニル−m−テルフェニル−3−イル、5’−フェニル−m−テルフェニル−4−イル、m−クアテルフェニル)、縮合四環系アリールであるトリフェニレン−(1−,2−)イル、ピレン−(1−,2−,4−)イル、ナフタセン−(1−,2−,5−)イル、縮合五環系アリールであるペリレン−(1−,2−,3−)イル、ペンタセン−(1−,2−,5−,6−)イルなどが挙げられる。
【0028】
A
1、A
2、R
1〜R
4およびR
5〜R
8におけるヘテロアリールとしては、例えば、炭素数2〜30のヘテロアリールが挙げられる。好ましいヘテロアリールは、炭素数2〜25のヘテロアリールであり、より好ましくは炭素数2〜20のヘテロアリールであり、さらに好ましくは炭素数2〜15のヘテロアリールであり、特に好ましくは炭素数2〜10のヘテロアリールである。また、ヘテロアリールとしては、例えば環構成原子として炭素以外に酸素、硫黄および窒素から選ばれるヘテロ原子を1ないし5個含有するものが挙げられる。
【0029】
具体的なヘテロアリールとしては、例えば、フリル、チエニル、ピロリル、オキサゾリル、イソオキサゾリル、チアゾリル、イソチアゾリル、イミダゾリル、ピラゾリル、オキサジアゾリル、フラザニル、チアジアゾリル、トリアゾリル、テトラゾリル、ピリジル、ピリミジニル、ピリダジニル、ピラジニル、トリアジニル、ベンゾフラニル、イソベンゾフラニル、ベンゾ[b]チエニル、インドリル、イソインドリル、1H−インダゾリル、ベンゾイミダゾリル、ベンゾオキサゾリル、ベンゾチアゾリル、1H−ベンゾトリアゾリル、キノリル、イソキノリル、シンノリル、キナゾリル、キノキサリニル、フタラジニル、ナフチリジニル、プリニル、プテリジニル、カルバゾリル、アクリジニル、フェノキサジニル、フェノチアジニル、フェナジニル、フェノキサチイニル、チアントレニル、インドリジニルなどが挙げられる。
【0030】
R
1〜R
4およびR
5〜R
8におけるジアリール置換アミノとしては、上述したアリールが2つ置換したアミノ基が挙げられる。
【0031】
A
1、A
2、R
1〜R
4およびR
5〜R
8として選択されるアルキル、アリールまたはヘテロアリールや、R
1〜R
4およびR
5〜R
8として選択されるジアリール置換アミノは置換されていてもよく、この置換基としては、上述したアルキルやアリールと同じものが挙げられる。
【0032】
A
1およびA
2、R
1およびR
2、R
2およびR
3、R
3およびR
4、R
5およびR
6、R
6およびR
7ならびにR
7およびR
8は、それぞれ独立して、結合して環を形成していてもよく、形成された環としては脂肪族環や芳香族環が挙げられる。脂肪族環としては例えばシクロアルカン環であり、具体的にはシクロブタン環、シクロペンタン環、シクロヘキサン環などが挙げられ、これらの環は上記アルキルやアリールで置換されていてもよい。また、芳香族環としては上記アリールやヘテロアリールとして挙げたものと同じ構造を有する環であり、具体的にはベンゼン環、ナフタレン環、ピリジン環などが挙げられ、これらの環は上記アルキルやアリールで置換されていてもよい。これらの中でも、形成された環としてはベンゼン環がより好ましい。
【0033】
これらの基が環を形成した場合については、特に、式(1)において、R
2およびR
3、R
3およびR
4、R
5およびR
6ならびにR
6およびR
7のうちの少なくとも一対が環を形成することが好ましく、R
2およびR
3ならびにR
3およびR
4のうちのいずれかが環を形成することがより好ましく、R
3およびR
4が環を形成することが最も好ましい。
【0034】
このようにして構成された式(1)で表されるフルオレン系化合物における水素は、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素またはアルコキシで置換されていてもよい。なお、同じくその原料である式(2−1)または式(2−2)で表されるOH前駆体も置換されることは上述したとおりである。
【0035】
置換基であるアルコキシとしては、例えば、炭素数1〜15のアルコキシがあげられる。好ましいアルコキシは、炭素数1〜10のアルコキシである。さらに好ましいアルコキシは、炭素数1〜4のアルコキシである。
【0036】
具体的なアルコキシとしては、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、n−ブトキシ、イソブトキシ、s−ブトキシ、t−ブトキシ、ペンチルオキシ、シクロペンチルオキシ、ヘキシルオキシ、シクロヘキシルオキシ、ヘプチルオキシ、シクロヘプチルオキシ、オクチルオキシ、シクロオクチルオキシ、フェノキシなどが挙げられる。
【0037】
これらの置換基を有する場合には、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素またはアルコキシの置換形態(数および位置)に制限はないが、式(1)で表されるフルオレン系化合物中のフルオレン骨格における水素が置換されることが好ましい。
【0038】
さらに、式(1)中、R
1〜R
4のうちの少なくとも1つはフッ素であり、R
5〜R
8のうちの少なくとも1つは塩素、臭素、ヨウ素またはアルコキシであることが好ましい。
この場合、式(1)中、
R
1〜R
4は、それぞれ独立して、水素、アルキル、アリール、ヘテロアリール、ジアリール置換アミノまたはフッ素であり、R
1〜R
4のうちの少なくとも1つはフッ素であり、
R
5〜R
8は、それぞれ独立して、水素、アルキル、アリール、ヘテロアリール、ジアリール置換アミノ、塩素、臭素、ヨウ素またはアルコキシであり、R
5〜R
8のうちの少なくとも1つは塩素、臭素、ヨウ素またはアルコキシである。
【0039】
<一般式(1)で表されるフルオレン系化合物について>
本発明に係るフルオレン系化合物は、下記一般式(1)で表されるフルオレン系化合物である。
【化9】
式(1)中、
A
1およびA
2は、それぞれ独立して、アルキル、アリールまたはヘテロアリールであり、
R
1〜R
4は、それぞれ独立して、水素、アルキル、アリール、ヘテロアリール、ジアリール置換アミノまたはフッ素であり、R
1〜R
4のうちの少なくとも1つはフッ素であり、
R
5〜R
8は、それぞれ独立して、水素、アルキル、アリール、ヘテロアリール、ジアリール置換アミノ、塩素、臭素、ヨウ素またはアルコキシであり、R
5〜R
8のうちの少なくとも1つは塩素、臭素、ヨウ素またはアルコキシである。
なお、A
1、A
2、R
1〜R
4およびR
5〜R
8の各基の詳細については上述したとおりである。
【0040】
より具体的なフルオレン系化合物としては、以下に列挙するものが挙げられる。なお、構造式中の「Me」はメチル基、「Et」はエチル基、「tBu」はt−ブチル基、「OMe」はメトキシ基、「OEt」はエトキシ基、「Ph」はフェニル基である。
【0056】
<反応で用いる担体について>
担体は、本発明に係る製造方法において、同時に使用する酸がOH前駆体に効果的に作用する役割を有すると考えられる。例えば、反応場に存在する担体の表面に酸が吸着して触媒活性点を形成し、それがOH前駆体に作用して反応効率を飛躍的に高めると推測しているが、本発明はこの原理に制限されるものではない。
【0057】
したがって、担体としては上記作用を奏し得る物質であれば特に制限されない。一例としては、無機酸化物や金属硫酸化物などが挙げられ、これらは多孔質構造を有する(多孔質物質)であることが好ましい。担体は、単一の種類を単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
【0058】
無機酸化物としては、シリカ(SiO
2)、アルミナ(Al
2O
3)、チタニア(TiO
2)、マグネシア(MgO)、ジルコニア(ZrO
2)、酸化スズ(SnO
2またはSnO)、酸化ハフニウム(HfO
2)、酸化鉄(Fe
2O
3またはFe
3O
4)などが挙げられ、特にアルミナやシリカが好適に用いられる。
【0059】
金属硫酸化物としては、硫酸アルミニウム(Al
2(SO
4)
3)、硫酸亜鉛(ZnSO
4)、硫酸スズ(SnSO
4)、硫酸鉄II(FeSO
4)、硫酸鉄III(Fe
2(SO
4)
3)などが挙げられ、特に硫酸アルミニウムや硫酸亜鉛が好適に用いられる。
【0060】
多孔質物質である場合、比表面積は30〜1500g/m
2が好ましく、50〜1000g/m
2がより好ましく、100〜800g/m
2がさらに好ましく、200〜700g/m
2が特に好ましく、300〜600g/m
2が最も好ましい。比表面積が30〜1500g/m
2であると反応効率と精製効率のバランスが最も優れる。
【0061】
反応に使用する担体の量は、上記比表面積に応じて変化する場合があるが、一般的にはOH前駆体1モルに対して0.1〜5モルが好ましく、0.2〜3モルがより好ましく、0.3〜2モルがさらに好ましい。
【0062】
担体の形態としては、特に限定されるものではないが、粉末状、球形粒状、不定形顆粒状、クラスターなどが挙げられる。
【0063】
<反応で用いる酸について>
酸は、OH前駆体からフルオレン系化合物を製造する従来の一般的な反応で用いられてきた酸を使用することができる。例えば、塩酸、硝酸、硫酸、燐酸、ポリ燐酸、塩素酸、臭素酸、ヨウ素酸、過ヨウ素酸、過マンガン酸、チオシアン酸、テトラフルオロホウ酸、ヘキサフルオロリン酸、スルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸などが挙げられる。これらの酸の中でも、好ましくは硫酸、燐酸、ポリ燐酸またはスルホン酸であり、濃硫酸が特に好ましい。
【0064】
反応に使用する酸の量は、一般的にはOH前駆体1モルに対して0.05〜2モルが好ましく、0.1〜1モルがより好ましく、0.2〜0.5モルがさらに好ましい。
【0065】
<反応で用いる固定酸触媒について>
固定酸触媒は、本発明に係る製造方法において、当該触媒に既に結合(化学的結合、物理吸着など)している酸性官能基がOH前駆体に効果的に作用する役割を有すると考えられる。例えば、反応場に存在する固定酸触媒の表面に酸性官能基が存在していて、それがOH前駆体に作用して反応効率を飛躍的に高めると推測しているが、本発明はこの原理に制限されるものではない。
【0066】
酸性官能基としては、スルホン酸基、カルボキシル基、リン酸基などが挙げられる。これらの酸性官能基の中でもスルホン酸基が好ましい。またこの酸性官能基が結合する物質としては樹脂、上述した担体、多孔質の担体などが挙げられる。固定酸触媒としては、例えば、スルホン化処理された樹脂や表面がスルホン化処理された多孔質物質などが挙げられる。
【0067】
固定酸触媒の表面性状としては、比表面積は20〜1200g/m
2が好ましく、30〜1000g/m
2がより好ましく、40〜800g/m
2がさらに好ましく、80〜600g/m
2が特に好ましく、100〜500が最も好ましい。比表面積が20〜1200g/m
2であると反応効率と精製効率のバランスが最も優れる。また、固定酸触媒における酸性官能基量は0.05mmol/g以上が好ましく、0.1mmol/g以上がより好ましく、0.3mmol/g以上がさらに好ましく、0.5mmol/g以上が特に好ましい。酸性官能基量が0.05mmol/g以上であると反応効率が優れる。
【0068】
具体的な固定酸触媒としては、シグマアルドリッチジャパン合同会社製のポリスチレン系スルホン酸イオン交換樹脂、例えば、AMBERLYST 15(H)、AMBERLYST 16(H)、AMBERLYST 36(H)、AMBERLITE IR120(H)、AMBERJET 1200(H)、DOWEX 15W×2、DOWEX 15W×4、DOWEX 15W×8など、テイカ株式会社製のシリカゲル系スルホン酸固定酸触媒、例えば、テイカキュア−6、テイカキュア−10、テイカキュア−15など、和光純薬工業株式会社製の高濃度硫酸含有硫酸シリカゲル、例えば、22%硫酸シリカゲル、44%硫酸シリカゲル、55%硫酸シリカゲルなどが挙げられる。
【0069】
反応に使用する固定酸触媒の量については、一般的にはOH前駆体1モルに対して0.02〜1モルの酸性官能基量となるようにすることが好ましく、0.03〜0.8モルの酸性官能基量となるようにすることがより好ましく、0.05〜0.7モルの酸性官能基量となるようにすることがさらに好ましい。
【0070】
なお、アルミナ、シリカ、ゼオライトなどの無機酸化物は、その表面に酸性を有する活性点がわずかに存在することから固体酸触媒とも呼ばれることがあるが、この固体酸触媒自体は本願の比較例で検証されるように所望の反応効率を有さない。したがって、一般に知られている固体酸触媒は、本発明では固定酸触媒ではなく単なる担体として分類される。
【0071】
<反応の温度、時間について>
反応温度は、OH前駆体からフルオレン系化合物を製造する従来の一般的な反応で用いられてきた温度でもよく、50〜200℃が好ましく、70〜150℃がより好ましく、80〜130℃がさらに好ましい。反応時間は、OH前駆体からフルオレン系化合物を製造する従来の一般的な反応で用いられてきた時間でもよく、0.1〜10時間が好ましく、0.5〜5時間がより好ましく、0.8〜3時間がさらに好ましい。
【0072】
<反応溶媒について>
反応に使用する溶媒は、OH前駆体からフルオレン系化合物を製造する従来の一般的な反応で用いられてきた溶媒でもよく、例えば、ジクロロメタン、オルトジクロロベンゼン、四塩化炭素、トルエン、キシレン、o−キシレン、p−キシレン、m−キシレン、1,2,3−トリメチルベンゼン、1,2,4−トリメチルベンゼン、1,3,5−トリメチルベンゼン、酢酸、クロロホルムなどが挙げられる。特に、トルエン、キシレン、o−キシレン、p−キシレン、m−キシレン、1,2,3−トリメチルベンゼン、1,2,4−トリメチルベンゼン、1,3,5−トリメチルベンゼンが好ましい。
【実施例】
【0073】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0074】
[実施例1]
担体として和光純薬工業株式会社製の活性アルミナ(Al
2O
3)および酸として濃硫酸を用いて、OH前駆体からフルオレン系目的化合物の合成を試みた。なお、活性アルミナ(Al
2O
3)は平均粒径45μm、比表面積137m
2/gである。
【0075】
まず、窒素雰囲気下、(3,5−ジフルオロフェニル)ボロン酸(31.65g)、メチル 2−ブロモ−5−クロロベンゾアート(50g)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(6.95g、「Pd(PPh
3)
4」)、炭酸カリウム(55.4g)およびトルエン(450ml)をフラスコに入れて5分間攪拌した。その後、水(50ml)を加え、4時間還流した。加熱終了後に反応液を冷却し、水(100ml)を添加した。その後、反応混合液をトルエンで抽出し、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、乾燥剤を除去し、溶媒を減圧留去して得られた粗製品を適量のトルエンに溶解し、シリカゲルでカラム精製(溶媒:ヘプタン/トルエン=1/2(容量比))して、溶媒を減圧留去することにより、メチル 4−クロロ−3’,5’−ジフルオロ−[1,1’−ビフェニル]−2−カルボキシラートを得た(57g、収率100%)。
【化25】
【0076】
次に、窒素雰囲気下、メチル 4−クロロ−3’,5’−ジフルオロ−[1,1’−ビフェニル]−2−カルボキシラート(22g)およびテトラヒドロフラン(50ml)をフラスコに入れて5分間攪拌し、0.96Mの臭化メチルマグネシウムのテトラヒドロフラン溶液(250ml)をゆっくり滴下した後、反応液を室温で2時間攪拌した。その後、飽和塩化アンモニウム水溶液(150ml)をゆっくり滴下した。反応混合液を酢酸エチルで抽出し、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、乾燥剤を除去し、溶媒を減圧留去して得られた粗製品を適量のトルエンに溶解し、シリカゲルでカラム精製(溶媒:トルエン)して、溶媒を減圧留去することにより、OH前駆体である2−(4−クロロ−3’,5’−ジフルオロ−[1,1’−ビフェニル]−2−イル)プロパン−2−オールを得た(21.5g、収率97.7%)。
【化26】
【0077】
最後に、2−(4−クロロ−3’,5’−ジフルオロ−[1,1’−ビフェニル]−2−イル)プロパン−2−オール(1.13g)、活性アルミナ(Al
2O
3)(0.4g)およびトルエン(16ml)をフラスコに入れ、攪拌しながら濃硫酸(0.08g)を加えた。その後、110℃で1時間還流した。反応液をガスクロマトグラフィーで分析した結果、OH前駆体からフルオレン系目的化合物への転化率は100%であった。反応終了後、反応液をシリカゲルでショートカラム精製(溶媒:トルエン)して、溶媒を減圧留去することにより、フルオレン系目的化合物である7−クロロ−1,3−ジフルオロ−9,9−ジメチル−9H−フルオレンを得た(1.04g、収率98%)。なお、この反応におけるOH前駆体:活性アルミナ:濃硫酸のモル比率は約1:1:0.2である。
【化27】
【0078】
MSスペクトルおよびNMR測定によりフルオレン系目的化合物の構造を確認した。
1H−NMR(CDCl
3):δ=7.55(d,1H)、7.38(s,1H)、7.32(d,1H)、7.15(d,1H)、6.70(t,1H)、1.56(s,6H).
【0079】
[比較例1]
担体を用いず、酸として濃硫酸を用いて、上記OH前駆体から上記フルオレン系目的化合物の合成を試みた。
【0080】
上記OH前駆体(1.13g)および酢酸(16ml)をフラスコに入れ、攪拌しながら濃硫酸(0.08g)を加えた。その後、117℃で1時間還流した。反応液をガスクロマトグラフィーで分析した結果、OH前駆体からフルオレン系目的化合物への転化率は17.7%であり、オレフィン系副生成物への転化率は82.3%であった。反応終了後、水(20ml)を添加した。反応混合液をトルエンで抽出し、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、乾燥剤を除去し、溶媒を減圧留去して得られた粗製品を適量のトルエンに溶解し、シリカゲルでカラム精製(溶媒:ヘプタン)して、溶媒を減圧留去することにより、オレフィン系副生成物である4−クロロ−3’,5’−ジフルオロ−2−(プロペン−2−イル)−1,1’−ビフェニルを得た(0.75g、収率71%)。なお、この反応におけるOH前駆体:濃硫酸のモル比率は約1:0.2である。
【化28】
【0081】
MSスペクトルおよびNMR測定によりオレフィン系副生成物の構造を確認した。
1H−NMR(CDCl
3):δ=7.29(s,1H)、7.28(d,1H)、7.16(d,1H)、6.90(d,2H)、6.75(t,1H)、5.13(s,1H)、4.99(s,1H)、1.68(s,3H).
【0082】
[比較例2]
担体を用いず、酸として濃硫酸を用いて、上記OH前駆体から上記フルオレン系目的化合物の合成を試みた。
【0083】
上記OH前駆体(1.13g)およびトルエン(16ml)をフラスコに入れ、攪拌しながら濃硫酸(0.08g)を加えた。その後、110℃で1時間還流した。反応液をガスクロマトグラフィーで分析した結果、OH前駆体からフルオレン系目的化合物への転化率は37.7%であり、オレフィン系副生成物への転化率は62.3%であった。なお、この反応におけるOH前駆体:濃硫酸のモル比率は約1:0.2である。
【0084】
[比較例3]
担体として実施例1と同じ活性アルミナ(Al
2O
3)を用い、酸を用いず、上記OH前駆体から上記フルオレン系目的化合物の合成を試みた。
【0085】
上記OH前駆体(1.13g)、活性アルミナ(0.4g)およびトルエン(16ml)をフラスコに入れた後、110℃で1時間還流した。反応液をガスクロマトグラフィーで分析した結果、残留したOH前駆体が95%であり、OH前駆体からフルオレン系目的化合物への転化率は0%であり、オレフィン系副生成物への転化率は5%であった。なお、この反応におけるOH前駆体:活性アルミナのモル比率は約1:1である。
【0086】
[比較例4]
担体を用いず、酸としてトリフルオロボランジエチルエーテル錯体(Et
2O・BF
3)を用いて、上記OH前駆体から上記フルオレン系目的化合物の合成を試みた。
【0087】
上記OH前駆体(2.83g)およびクロロホルム(30ml)をフラスコに入れ、5℃以下に冷却した。0〜5℃温度の範囲でトリフルオロボランジエチルエーテル錯体(2.13g)を滴下した後、室温で1時間攪拌した。反応液をガスクロマトグラフィーで分析した結果、OH前駆体からフルオレン系目的化合物への転化率は30.5%であり、オレフィン系副生成物への転化率は69.5%であった。なお、この反応におけるOH前駆体:トリフルオロボランジエチルエーテル錯体のモル比率は約1:1.5である。
【0088】
[実施例2]
担体として実施例1と同じ活性アルミナ(Al
2O
3)および酸として濃硫酸を用いて、上記OH前駆体から上記フルオレン系目的化合物の合成を試みた。
【0089】
上記OH前駆体(1.13g)、活性アルミナ(0.14g)およびトルエン(16ml)をフラスコに入れ、攪拌しながら濃硫酸(0.08g)を加えた。その後、110℃で2時間還流した。反応液をガスクロマトグラフィーで分析した結果、OH前駆体からフルオレン系目的化合物への転化率は100%であった。反応終了後、反応液をシリカゲルでショートカラム精製(溶媒:トルエン)して、溶媒を減圧留去することにより、上記フルオレン系目的化合物を得た。なお、この反応におけるOH前駆体:活性アルミナ:濃硫酸のモル比率は約1:0.35:0.2である。
【0090】
[比較例5]
担体を用いず、酸として濃硫酸を用いて、上記OH前駆体から上記フルオレン系目的化合物の合成を試みた。
【0091】
上記OH前駆体(1.13g)およびトルエン(16ml)をフラスコに入れ、攪拌しながら濃硫酸(0.08g)を加えた。その後、110℃で2時間還流した。反応液をガスクロマトグラフィーで分析した結果、OH前駆体からフルオレン系目的化合物への転化率は36.5%であり、オレフィン系副生成物への転化率は63.5%であった。なお、この反応におけるOH前駆体:濃硫酸のモル比率は約1:0.2である。
【0092】
[実施例3]
担体として新越化成工業株式会社製の球状シリカゲル(SiO
2、製品名:PSQ100)および酸として濃硫酸を用いて、上記OH前駆体から上記フルオレン系目的化合物の合成を試みた。なお、シリカゲル(SiO
2)は平均粒径110μm、比表面積490m
2/gである。
【0093】
上記OH前駆体(1.13g)、シリカゲル(0.4g)およびトルエン(16ml)をフラスコに入れ、攪拌しながら濃硫酸(0.08g)を加えた。その後、110℃で2時間還流した。反応液をガスクロマトグラフィーで分析した結果、OH前駆体からフルオレン系目的化合物への転化率は100%であった。なお、この反応におけるOH前駆体:シリカゲル:濃硫酸のモル比率は約1:1.7:0.2である。
【0094】
[比較例6]
担体として実施例3と同じシリカゲル(SiO
2)を用い、酸を用いず、上記OH前駆体から上記フルオレン系目的化合物の合成を試みた。
【0095】
上記OH前駆体(1.13g)、シリカゲル(0.4g)およびトルエン(16ml)をフラスコに入れた後、110℃で2時間還流した。反応液をガスクロマトグラフィーで分析した結果、残留したOH前駆体が93.2%であり、OH前駆体からフルオレン系目的化合物への転化率は0%であり、オレフィン系副生成物への転化率は6.8%であった。なお、この反応におけるOH前駆体:シリカゲルのモル比率は約1:1.7である。
【0096】
[実施例4]
担体として微粉末の硫酸アルミニウム(Al
2(SO
4)
3)および酸として濃硫酸を用いて、上記OH前駆体から上記フルオレン系目的化合物の合成を試みた。
【0097】
上記OH前駆体(1.13g)、硫酸アルミニウム(0.4g)およびトルエン(16ml)をフラスコに入れ、攪拌しながら濃硫酸(0.08g)を加えた。その後、110℃で2時間還流した。反応液をガスクロマトグラフィーで分析した結果、OH前駆体からフルオレン系目的化合物への転化率は100%であった。なお、この反応におけるOH前駆体:硫酸アルミニウム:濃硫酸のモル比率は約1:0.3:0.2である。
【0098】
[比較例7]
担体として実施例4と同じ硫酸アルミニウム(Al
2(SO
4)
3)を用い、酸を用いず、上記OH前駆体から上記フルオレン系目的化合物の合成を試みた。
【0099】
上記OH前駆体(1.13g)、硫酸アルミニウム(0.4g)およびトルエン(16ml)をフラスコに入れた後、110℃で2時間還流した。反応液をガスクロマトグラフィーで分析した結果、残留したOH前駆体が3.2%であり、OH前駆体からフルオレン系目的化合物への転化率は15.5%であり、オレフィン系副生成物への転化率は81.3%であった。なお、この反応におけるOH前駆体:硫酸アルミニウムのモル比率は約1:0.3である。
【0100】
[実施例5]
固定酸触媒としてスチレン−ジビニルベンゼン強酸性化マクロ網状樹脂(Styrene-DVB strongly acidic macroreticular resin)(製品名:AMBERLYST 15(H))を用いて、上記OH前駆体から上記フルオレン系目的化合物の合成を試みた。なお、AMBERLYST 15(H)は、スルホン酸を官能基として有するポリスチレン系の強カチオン交換樹脂であり、スルホン酸の含有量が4.4mmol/gであり、比表面積が50m
2/gである。
【0101】
上記OH前駆体(1.13g)、AMBERLYST 15(H)(0.4g)およびトルエン(16ml)をフラスコに入れ、110℃で2時間還流した。反応液をガスクロマトグラフィーで分析した結果、OH前駆体からフルオレン系目的化合物への転化率は100%であった。なお、この反応におけるOH前駆体:固定酸触媒の酸性官能基のモル比率は約1:0.44である。
【0102】
[実施例6]
固定酸触媒として和光純薬工業株式会社製の高濃度硫酸含有シリカゲル(製品名:55%硫酸シリカゲル)を用いて、上記OH前駆体から上記フルオレン系目的化合物の合成を試みた。なお、高濃度硫酸含有シリカゲルの比表面積は300〜800m
2/gである。
【0103】
上記OH前駆体(1.13g)およびトルエン(16ml)をフラスコに入れ、室温で1分間攪拌した後、55%硫酸シリカゲル(0.4g)を加えた。その後、110℃で2時間還流した。反応液をガスクロマトグラフィーで分析した結果、OH前駆体からフルオレン系目的化合物への転化率は100%であった。なお、この反応におけるOH前駆体:固定酸触媒の酸性官能基のモル比率は約1:0.56である。
【0104】
[実施例7]
固定酸触媒としてテイカ株式会社製のテイカキュア(製品名:テイカキュアSAC−10)を用いて、上記OH前駆体から上記フルオレン系目的化合物の合成を試みた。なお、テイカキュアSAC−10のスルホン酸の含有量は0.84mmol/gであり、比表面積は245m
2/gである。
【0105】
上記OH前駆体(1.13g)、テイカキュアSAC−10(0.4g)およびトルエン(16ml)をフラスコに入れ、110℃で2時間還流した。反応液をガスクロマトグラフィーで分析した結果、OH前駆体からフルオレン系目的化合物への転化率は100%であった。なお、この反応におけるOH前駆体:固定酸触媒の酸性官能基のモル比率は約1:0.084である。
【0106】
[実施例8]
固定酸触媒としてテイカ株式会社製のテイカキュア(製品名:テイカキュアSAC−15)を用いて、上記とは異なるOH前駆体からフルオレン系目的化合物の合成を試みた。なお、テイカキュアSAC−15のスルホン酸の含有量は0.55mmol/gであり、比表面積は205m
2/gである。
【0107】
まず、窒素雰囲気下、メチル 2−ヒドロオキシ−4−メトキシベンゾアート(50g)およびピリジン(350ml)をフラスコに入れ、0℃まで冷却した後、トリフルオロメタンスルホン酸無水物(154.9g、「Tf
2O」)をゆっくり滴下した。その後、反応液を0℃で1時間、室温で2時間攪拌した。反応後、水を500ml添加した。反応混合液をトルエンで抽出し、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、乾燥剤を除去し、溶媒を減圧留去した。得られた粗製品を適量のトルエンに溶解し、シリカゲルでカラム精製(溶媒:トルエン)して、溶媒を減圧留去することにより、メチル 4−メトキシ−2−(((トリフルオロメチル)スルホニル)オキシ)ベンゾアートを得た(86.3g、収率100%)。
【化29】
【0108】
次に、窒素雰囲気下、メチル 4−メトキシ−2−(((トリフルオロメチル)スルホニル)オキシ)ベンゾアート(23g)、(4−(ジフェニルアミノ)フェニル)ボロン酸(25.4g)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(2.54g、「Pd(PPh
3)
4」)、リン酸三カリウム(31.1g)、トルエン(184ml)およびエタノール(28ml)をフラスコに入れて5分間攪拌した。その後、水(28ml)を加え、3時間還流した。加熱終了後に反応液を冷却し、水(150ml)を添加した。その後、反応混合液をトルエンで抽出し、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、乾燥剤を除去し、溶媒を減圧留去した。得られた粗製品を適量のトルエンに溶解し、シリカゲルでカラム精製(溶媒:ヘプタン/トルエン=1/2(容量比))して、溶媒を減圧留去することにより、メチル 4’−(ジフェニルアミノ)−5−メトキシ−[1,1−ビフェニル]−2−カルボキシラートを得た(29.7g、収率99%)。
【化30】
【0109】
次に、窒素雰囲気下、メチル 4’−(ジフェニルアミノ)−5−メトキシ−[1,1−ビフェニル]−2−カルボキシラート(35g)およびテトラヒドロフラン(45ml)をフラスコに入れて5分間攪拌し、0.91Mの臭化メチルマグネシウムのテトラヒドロフラン溶液(375ml)をゆっくり滴下した。その後、反応液を4時間還流した。反応終了後、飽和塩化アンモニウム水溶液(400ml)をゆっくり滴下した。反応混合液を酢酸エチルで抽出し、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、乾燥剤を除去し、溶媒を減圧留去した。得られた粗製品を適量のトルエンに溶解し、シリカゲルでカラム精製(溶媒:トルエン)して、溶媒を減圧留去することにより、上記とは異なるOH前駆体である2−(4’−(ジフェニルアミノ)−5−メトキシ−[1,1’−ビフェニル]−2−イル)プロパン−2−オールを得た(25.7g、収率73.4%)。
【化31】
【0110】
最後に、このようにして得られたOH前駆体(13.5g)、テイカキュアSAC−15(6.7g)およびトルエン(162ml)をフラスコに入れ、110℃で2時間還流した。反応液をガスクロマトグラフィーで分析した結果、OH前駆体からフルオレン系目的化合物への転化率は100%であった。反応終了後、反応液をシリカゲルでショートカラム精製(溶媒:トルエン)して、溶媒を減圧留去することにより、フルオレン系目的物化合物である6−メトキシ−9,9−ジメチル−N,N−ジフェニル−9H−フルオレン−2−アミンを得た(12.7g、収率98%)。なお、この反応におけるOH前駆体:固定酸触媒の酸性官能基のモル比率は約1:0.11である。
【化32】
【0111】
MSスペクトルおよびNMR測定によりフルオレン系目的化合物の構造を確認した。
1H−NMR(CDCl
3):δ=7.52(d,1H)、7.27〜7.23(m,5H)、7.17〜7.12(m,6H)、7.03〜6.99(m,3H)、6.81(d,1H)、3.86(s,3H)、1.38(s,6H).
【0112】
[比較例8]
担体を用いず、酸としてp−トルエンスルホン酸を用いて、実施例5で用いたOH前駆体から実施例5で得られたフルオレン系目的化合物の合成を試みた。
【0113】
実施例5で用いたOH前駆体(1.13g)、p−トルエンスルホン酸(0.4g)およびトルエン(16ml)をフラスコに入れ、110℃で2時間還流した。反応液をガスクロマトグラフィーで分析した結果、OH前駆体からフルオレン系目的化合物への転化率は16.7%であり、オレフィン系副生成物への転化率は83.3%であった。なお、この反応におけるOH前駆体:p−トルエンスルホン酸のモル比率は約1:0.58である。また、p−トルエンスルホン酸は固定酸触媒と比較するために選択した酸であって、固定酸触媒ではない。
【0114】
[比較例9]
固定酸触媒としてテイカ株式会社製のテイカキュア(製品名:テイカキュアSAC−10)を用いて、比較対象としてのOH前駆体からフルオレン系目的化合物の合成を試みた。なお、ここで用いた比較対象としてのOH前駆体は、アルコール部位への置換基がない(すなわち、式(II)におけるA
1およびA
2が水素である)化合物である。
【0115】
比較対象としてのOH前駆体である2−ビフェニルメタノール(0.37g)、テイカキュアSAC−10(0.2g)およびトルエン(8ml)をフラスコに入れ、110℃で2時間還流した。反応液をガスクロマトグラフィーで分析した結果、OH前駆体からフルオレン系目的化合物(すなわち、9H−フルオレン)は得られず、OH前駆体と溶剤であるトルエンとの分子間で脱水した縮合物が得られた。その転化率は、2−(4−メチルベンジル)−1,1’−ビフェニルが93.3%、2−(2−メチルベンジル)−1,1’−ビフェニルが6.7%であった。なお、この反応におけるOH前駆体:固定酸触媒の酸性官能基のモル比率は約1:0.084である。
【化33】
【0116】
以上の結果を表1および表2にまとめた。
【表1】
【0117】
【表2】
【0118】
以上のとおり、本発明の製造方法によれば、いずれも極めて高い転化率でフルオレン系目的化合物が得られている。これに対して、従来方法である酸のみを使用した反応では(比較例1、2、4、5、8)、フルオレン系目的化合物への転化率は極めて低く、また一般に固体酸触媒とも呼ばれる担体のみを使用した反応では(比較例3、6、7)、フルオレン系目的化合物への転化率は極めて低いだけでなく、原料であるOH前駆体が反応せずに残ってしまうことが分かる。さらに、アルコール部位への置換基がない(すなわち、式(II)におけるA
1およびA
2が水素である)OH前駆体を用いた場合には(比較例9)、フルオレン系目的化合物は得られず、溶剤であるトルエンとの分子間脱水縮合物しか得られなかった。これは、アルコール部位への置換基がない場合、OH前駆体自体の分子内脱水環化反応よりもトルエンとの分子間脱水反応の方がはるかに反応速度が速い結果であると推測される。これに対して、アルコール部位への置換基がある(A
1およびA
2がアルキルなどである)場合、立体障害や反応活性などの要因で、溶剤であるトルエンとの反応が起こりにくく、OH前駆体自体の分子内脱水環化反応の方が進みやすいため、フルオレン系目的化合物が得られやすくなると推測される。