特許第6508520号(P6508520)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ DIC株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6508520
(24)【登録日】2019年4月12日
(45)【発行日】2019年5月8日
(54)【発明の名称】水性顔料分散体及び水性インク
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/322 20140101AFI20190422BHJP
   C09D 17/00 20060101ALI20190422BHJP
   C09B 67/46 20060101ALI20190422BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20190422BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20190422BHJP
【FI】
   C09D11/322
   C09D17/00
   C09B67/46 B
   B41M5/00 120
   B41J2/01 501
【請求項の数】2
【全頁数】44
(21)【出願番号】特願2015-115757(P2015-115757)
(22)【出願日】2015年6月8日
(65)【公開番号】特開2016-20483(P2016-20483A)
(43)【公開日】2016年2月4日
【審査請求日】2018年4月20日
(31)【優先権主張番号】特願2014-127207(P2014-127207)
(32)【優先日】2014年6月20日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177471
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 眞治
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(74)【代理人】
【識別番号】100159293
【弁理士】
【氏名又は名称】根岸 真
(72)【発明者】
【氏名】川原田 雪彦
(72)【発明者】
【氏名】鍋 卓哲
【審査官】 菅野 芳男
(56)【参考文献】
【文献】 特表2007−505816(JP,A)
【文献】 特開平05−132644(JP,A)
【文献】 特開2002−285064(JP,A)
【文献】 特開2006−083267(JP,A)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも顔料と、スチレン−アクリル酸系共重合体と、結晶セルロース複合体とを含んでなることを特徴とするインクジェット記録用水性インク用水性顔料分散体。
【請求項2】
前記結晶セルロース複合体の含有量が、結晶セルロース複合体/顔料=1/40〜3/5である請求項1に記載のインクジェット記録用水性インク用水性顔料分散体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は結晶セルロース複合体を含有する水性顔料分散体及び水性インクに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、水性インク組成物(以下、「水性インク」と表記する場合もある)はその安全性と環境負荷が少ないことから幅広い分野で有機溶剤系インクに取って代わってきており、特にビジネス用途では、オフィス等において各種印刷に使用されるインクとして臭いのない水性インクが必要不可欠になっている。水性インクは、オフセット印刷方式、グラビア印刷方式、あるいはインクジェット記録方式等、各々な印刷方式に適用され、中でもインクジェット記録方式への適用は、オフィスにおける電子写真(トナー)方式の代替を目的に、現在数多くの検討がなされている。
【0003】
例えば、形成される画像の発色性(光学濃度)及び画像の耐擦過性を向上させる目的で、画像形成用インクと固定化用インク(処理剤とも呼ばれる)を用いた2液反応システムが多用されている(例えば特許文献1〜3参照)。しかしながら2液反応システムの場合、事実上、画像形成用インクと固定化用インクとの2段階印刷となるため、電子写真(トナー)方式と同等レベル以上の高速印刷を実現することが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−35227号公報
【特許文献2】特開2013−35226号公報
【特許文献3】特開2011−140213号公報
【特許文献4】特開2010−1381号公報
【特許文献5】特開2013−124360号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、得られる画像の光学濃度、及び耐擦過性に優れた水性顔料分散体及び水性インクを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、結晶セルロース複合体と、顔料分散剤やバインダーとして機能するアニオン性基含有有機高分子化合物とを必須成分とする水性顔料分散体及び水性インクが、前記課題を解決することを見出した。
【0007】
結晶セルロースは一般的に食品添加物等として使用されるものである。結晶セルロースを水性インクに使用した例としては、水性ボールペン用インクに結晶セルロースを添加して、筆記性を悪化させることなくインクの直流現象を抑制する例が知られている(例えば特許文献4、5参照)。しかしながら、結晶セルロースを添加した画像の発色性については、何ら知見が得られていない。また一般に、水性ボールペン用インクは粘度が高く、インクジェット記録用水性インクには適用が困難である。
【0008】
本発明者らは鋭意検討の結果、結晶セルロース複合体が配合されたインクジェット記録用水性インクは、インク特性と得られる画像の光学濃度とを向上することを見出した。
【0009】
即ち本発明は、少なくとも顔料と、アニオン性基含有有機高分子化合物と、結晶セルロース複合体とを含んでなる水性顔料分散体を提供する。
【0010】
また本発明は、少なくとも顔料と、アニオン性基含有有機高分子化合物と、結晶セルロース複合体とを含んでなる水性インクを提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、得られる画像の光学濃度及び耐擦過性に優れた水性顔料分散体及び水性インクを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
(顔料)
本発明で使用する顔料は、公知慣用の有機顔料あるいは無機顔料の中から選ばれる少なくとも一種の顔料である。また、本発明は未処理顔料、処理顔料のいずれでも適用することができる。普通紙を被記録材とする印刷の場合、イエローインク、シアンインク、マゼンタインク、ブラックインク等が使用される。これらの使用される顔料は特に限定はなく、通常水性インク用の顔料として使用されているものが使用できる。具体的には、水や水溶性有機溶剤に分散可能であり、公知の無機顔料や有機顔料が使用できる。無機顔料としては例えば、酸化鉄、コンタクト法、ファーネス法、サーマル法等の公知の方法によって製造されたカーボンブラック等がある。また、有機顔料としては、アゾ顔料(アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料などを含む)、多環式顔料(例えば、フタロシアニン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフラロン顔料など)、染料キレート(例えば、塩基性染料型キレート、酸性染料型キレートなど)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラックなどを使用することができる。
【0013】
例えばブラックインクに使用される顔料としては、カーボンブラックとして、三菱化学社製のNo.2300、No.2200B、No.900、No.960、 No.980、No.33、No.40、No,45、No.45L、No.52、HCF88、MA7、MA8、MA100、等が、コロンビア社製のRaven5750、Raven5250、Raven5000、Raven3500、Raven1255、Raven700等が、キャボット社製のRegal 400R、Regal 330R、Regal 660R、Mogul L、Mogul 700、Monarch800、Monarch880、Monarch900、Monarch1000、Monarch1100、Monarch1300、Monarch1400等が、デグサ社製のColor Black FW1、同FW2、同FW2V、同FW18、同FW200、同S150、同S160、同S170、Printex 35、同U、同V、同1400USpecial Black 6、同5、同4、同4A、NIPEX150、NIPEX160、NIPEX170、NIPEX180等が挙げられる。
【0014】
またイエローインクに使用される顔料の具体例としては、C.I.ピグメントイエロー1、2、12、13、14、16、17、73、74、75、83、93、95、97、98、109、110、114、120、128、129、138、150、151、154、155、174、180、185等が挙げられる。
【0015】
また、マゼンタインクに使用される顔料の具体例としては、C.I.ピグメントレッド5、7、12、48(Ca)、48(Mn)、57(Ca)、57:1、112、122、123、146、168、176、184、185、202、209、269等が挙げられる。
【0016】
また、シアンインクに使用される顔料の具体例としては、C.I.ピグメントブルー1、2、3、15、15:3、15:4、16、22、60、63、66等が挙げられる。
【0017】
水性インク、中でもインクジェット向けとする場合、顔料の含有量(質量基準)は、水性インク全量に対して0.5〜30%が好ましく、さらには1.0〜12%が好ましい。普通紙において十分な光学濃度を得るためには3%以上で12%以下が最も好ましい含有量である。3%未満の含有量では、普通紙における印字濃度が確保できなくなり、また12%を超えた含有量では、インクの粘度増加等により、インクジェットヘッドからの当該水性インクの吐出安定性が悪化するからである。
【0018】
また、顔料の粒経は1μm以下が好ましく、より好ましくは10nm〜150nmの粒子からなる顔料を、さらに好ましくは50nm〜120nmの粒子からなる顔料が好ましい。
【0019】
(結晶セルロース複合体)
本発明で使用する結晶セルロース複合体とは、主成分である結晶セルロースに水溶性高分子が複合化されたものである。複合化とは、結晶セルロースの表面が、水素結合等の化学結合により、水溶性高分子で被覆された形態を意味する。したがって、結晶セルロース複合体は、結晶セルロース粉末と水溶性高分子とを単に混合した状態ではなく、結晶セルロース表面に水溶性高分子が被覆してなる。そのため、結晶セルロース複合体を水系媒体中に分散させると、水溶性高分子が結晶セルロース表面から剥離することなく、表面から放射状に広がった構造を形成し、水中でコロイド状となる。このコロイド状で存在する結晶セルロース複合体は、それぞれの静電反発や立体反発、ファンデルワールス力等の相互作用によって、高次のネットワーク構造を形成することができる。
【0020】
本発明において水溶性高分子とは、親水性高分子物質のことであり、ここで親水性とは、常温のイオン交換水に、一部が溶解する特性を有することである。定量的に親水性を定義すると、この水溶性高分子0.05gを、50cmのイオン交換水に、攪拌下(スターラーチップ等による)で平衡まで溶解させ、メンブレンフィルター(フィルター径1μm)で処理した際に、通過する成分が、水溶性高分子中に1質量%以上含まれることである。
【0021】
本発明に使用できる水溶性高分子は、化学構造の一部に糖又は多糖を含むもので、そのようなものとして多糖類を用いる場合には、ジェランガム、サイリウムシードガム、ローカストビーンガム、キサンタンガム、グアガム、タラガム、タマリンドシードガム、カラヤガム、キトサン、アラビアガム、ガッティガム、グルコマンナン、トラガントガム、寒天、カラギーナン、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カルシウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル、HMペクチン、LMペクチン、アゾトバクター・ビネランジーガム、カードラン、プルラン、デキストラン、並びにカルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースおよびヒドロキシエチルセルロース等のセルロース誘導体が好適な例として挙げられる。また、糖を含まない水溶性高分子として、ゼラチンなども使用できるが、本発明の水溶性高分子はそれらのものに限定されない。また、これらの水溶性高分子は1種類でもよいし、2種以上を組み合わせてもよい。
また、結晶セルロース複合体は、水系媒体への分散性を高める目的で、上記の水溶性高分子に加えて、又はそれに替えて、親水性物質を含んでもよい。親水性物質を含むことにより、水系媒体中に結晶セルロース複合体を分散させた際の、崩壊剤、または導水剤として機能し、結晶セルロース複合体が、より水系媒体に分散しやすくなる。
【0022】
前記親水性物質とは、冷水への溶解性が高く粘性を殆どもたらさない有機物質であり、澱粉加水分解物、デキストリン類、難消化性デキストリン、ポリデキストロース等の親水性多糖類、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、マルトオリゴ糖、イソマルトオリゴ糖、乳糖、マルトース、ショ糖、α−、β−、γ−シクロデキストリン等のオリゴ糖類、ブドウ糖、果糖、ソルボース等の単糖類、マルチトール、ソルビット、エリスリトール等の糖アルコール類等が適している。これらの親水性物質は、2種類以上組み合わせてもよい。上述の中でも、澱粉加水分解物、デキストリン類、難消化性デキストリン、ポリデキストロース等の親水性多糖類が分散性の点で好ましい。親水性物質の中には、デキストリン類のように、水溶性高分子としての機能も、僅かではあるがあわせ持つものもある。そのような親水性物質を用いる場合でも水溶性高分子をあわせて用いることが望ましいが、そのような場合には水溶性高分子を用いなくてもよい別の態様もある。その他の成分の配合については、組成物の水中での分散および安定性を阻害しない程度に配合することは自由である。
【0023】
前記結晶セルロース複合体の製造方法としては、混練工程において結晶セルロースと水溶性高分子に機械的せん断力をあたえ、結晶セルロースを微細化させるとともに、結晶セルロース表面に水溶性高分子を複合化させる処理を含む方法を挙げることができる。また、その他の添加剤などを添加しても良い。上述の処理を経たものは、必要に応じ、乾燥され、粉体状にする。市販品を用いてもよく、例えば旭化成ケミカルズ(株)のセオラス(登録商標)RCシリーズ等を挙げることができる。
【0024】
本発明で使用する結晶セルロース複合体の熱分解温度は、結晶セルロースの結晶性、平均重合度等によっても異なるが、200℃以上であることが好ましく、250℃以上であることがより好ましく、300℃以上であることが更により好ましい。熱分解温度が200℃未満となると、インクジェット記録用途、特にインクジェットプリンターがサーマル方式の場合には、インクノズル部分への熱分解生成物等の蓄積が顕著となり、インク吐出不良を誘発する傾向があるからである。なお、本明細書における熱分解温度とは、熱重量・示差熱分析装置(TG−DTA)によって、室温から昇温(昇温スピード:10℃/分)させたとき、熱分解による重量減少が始まる温度を意味する。ここで、重量減少が始まる温度は、縦軸に重量減少率、横軸に温度をプロットしたグラフを描き、最も大きく重量減少する時の接線と重量減少前の接線との交点の温度である。
【0025】
本発明で使用する結晶セルロース複合体の含有量(質量基準)は、結晶セルロース複合体/顔料=1/40〜3/5であることが好ましく、1/30〜2/5であることがより好ましく、1/20〜1/3であることがより更に好ましい。かかる範囲では、様々な印刷方式への適性を損なうことなく、形成される画像の発色性(光学濃度)及び耐擦過性が所望レベルに到達するからである。
【0026】
このように、水性顔料分散体における結晶セルロース複合体を特定量とすることにより、当該水性インクにより形成される画像の発色性(光学濃度)及び耐擦過性を所望レベルとすることができる。そのメカニズムについて充分な検証はできていないが、アゾ顔料(例えば、C.I.ピグメントイエロー74)とそれ以外の顔料(例えば、カーボンブラック、C.I.ピグメントレッド122、C.I.ピグメントブルー15:3など)とでは、好適な結晶セルロース複合体が異なる傾向を示すことから、以下のように推察している。
即ち前述したように、結晶セルロース複合体を水系媒体中に分散させると、水中でコロイド状となり、それぞれの静電反発や立体反発、ファンデルワールス力等の相互作用によって、高次のネットワーク構造を形成する。このため、水性インク中では、結晶セルロース複合体に由来するコロイドは後述するアニオン性基含有有機高分子化合物と共に、顔料粒子の保護コロイドとして作用し、顔料粒子表面の電荷をコントロールしつつ、顔料粒子間のファンデルワールス力に打ち勝ち得る斥力を付与するといった、顔料の安定分散に必須となる高度なバランスを獲得したと考えている。
よって、様々な紙の成分が混じっている普通紙に対する印刷時においても、顔料粒子が被印刷物たる紙に不必要に浸透せず固定化できるため、高い光学濃度を発現し、多色系のカラー印刷においては隣り合った色インクが混色することはないし、耐擦過性にも優れる。
【0027】
水性インク、中でもインクジェット向けとする場合は、インク全質量に対し結晶セルロース複合体を0.001〜3%含有することが好ましく、さらには0.01〜2%が好ましく、0.05〜1%の範囲であることがさらに好ましい。0.001%未満の含有量では、光学濃度及び耐擦過性が確保できなくなり、また3%を超えた含有量では、インクの粘度増加等により、印刷適性が損なわれるおそれがある。
【0028】
(水性媒体)
本発明の水性顔料分散体または水性インクにおいて、溶媒としては水溶性溶媒及び/または水等の水性媒体を使用する。これらは水単独で使用してもよいし、水と水溶性溶媒からなる混合溶媒でもよい。水溶性溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン、等のケトン類;メタノール、エタノール、2−プロパノール、2−メチル−1−プロパノール、1−ブタノール、2−メトキシエタノール、等のアルコール類;テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、等のエーテル類;ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、等のアミド類が挙げられ、とりわけ炭素数が3〜6のケトン及び炭素数が1〜5のアルコールからなる群から選ばれる化合物を用いるのが好ましい。
また、その他、水性に溶解しうる水溶性有機溶剤も使用することができる。例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのグリコール類;ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、およびこれらと同族のジオールなどのジオール類;ラウリン酸プロピレングリコールなどのグリコールエステル;ジエチレングリコールモノエチル、ジエチレングリコールモノブチル、ジエチレングリコールモノヘキシルの各エーテル、プロピレングリコールエーテル、ジプロピレングリコールエーテル、およびトリエチレングリコールエーテルを含むセロソルブなどのグリコールエーテル類;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、ブチルアルコール、ペンチルアルコール、およびこれらと同族のアルコールなどのアルコール類;あるいは、スルホラン;γ−ブチロラクトンなどのラクトン類;N−(2−ヒドロキシエチル)ピロリドンなどのラクタム類;グリセリンおよびその誘導体、ポリオキシエチレンベンジルアルコールエーテルなど、水溶性有機溶剤として知られる他の各種の溶剤などを挙げることができる。これらの水溶性有機溶剤は1種または2種以上混合して用いることができる。
中でも、高沸点、低揮発性で、高表面張力のグリコール類やジオール類等多価アルコール類が好ましく、特にジエチレングリコール、トリエチレングリコール等のグリコール類が好ましい。
【0029】
(アニオン性基含有有機高分子化合物)
本発明で使用するアニオン性基含有有機高分子化合物は、例えば、カルボキシル基、スルホン酸基または燐酸基を含有する、有機高分子化合物が挙げられる。この様なアニオン性基含有有機高分子化合物としては、例えば、アニオン性基を有する多糖類誘導体、アニオン性基を有するポリビニル系樹脂、アニオン性基を有するポリエステル系樹脂、アニオン性基を有するアミノ系樹脂、アニオン性基を有するアクリル系共重合体、アニオン性基を有するエポキシ系樹脂、アニオン性基を有するポリウレタン樹脂、アニオン性基を有するポリエーテル系樹脂、アニオン性基を有するポリアミド系樹脂、アニオン性基を有する不飽和ポリエステル系樹脂、アニオン性基を有するフェノール系樹脂、アニオン性基を有するシリコーン系樹脂、アニオン性基を有するフッ素系高分子化合物等が挙げられる。
中でもアニオン性基を有するアクリル系共重合体やアニオン性基を有するポリウレタン樹脂は、原料が豊富であり設計が容易であること、顔料分散機能に優れることから好ましい。
中でも、アニオン性基を有する多糖類誘導体、アニオン性基を有するアクリル系共重合体及びアニオン性基を有するポリウレタン樹脂は、原料が豊富であり設計が容易であることから好ましい。中でもアニオン性基を有する多糖類誘導体は生理的に無害であり、かつ少量添加で所望の物性を得やすいことから好ましく、アニオン性基を有するセルロース誘導体がなお好ましい。
【0030】
(アニオン性基を有するアクリル系共重合体)
アニオン性基を有するアクリル系共重合体は、具体的には、(メタ)アクリル酸等のアニオン性基を有する単量体とそれと共重合可能なその他のエチレン性不飽和単量体との共重合体が挙げられる。尚、本発明において(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸とメタクリル酸との総称を意味するものとする。(メタ)アクリル酸の各種エステルの場合も前記と同様に解釈される。
【0031】
同一酸価対比においてより共重合体の疎水性を高め、共重合体の顔料表面への吸着がより強固と出来る点で、前記したその他の共重合可能なエチレン性不飽和単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、β−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、α−エチルスチレン、α−ブチルスチレン、α−ヘキシルスチレンの如きアルキルスチレン、4−クロロスチレン、3−クロロスチレン、3−ブロモスチレンの如きハロゲン化スチレン、更に3−ニトロスチレン、4−メトキシスチレン、ビニルトルエン等のスチレン系モノマーや、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、フェニルエチル(メタ)アクリレート、フェニルプロピル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート等のベンゼン環を有する(メタ)アクリル酸エステル系単量体を用いることが好ましい。中でも、スチレン、α−メチルスチレン、tert−ブチルスチレン等のスチレン系単量体を用いることが特に好ましい。
【0032】
本発明における共重合体は、(メタ)アクリル酸の重合単位とその他の共重合可能なエチレン性不飽和単量体の重合単位を必須の重合単位として含有する共重合体であれば良く、それらの二元共重合体であっても更にその他の共重合可能なエチレン性不飽和単量体との三元以上の多元共重合体であっても良い。
【0033】
エチレン性不飽和単量体としては、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、n−プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、sec−ブチルアクリレート、tert−ブチルアクリレート、2−エチルブチルアクリレート、1,3−ジメチルブチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、オクチルアクリレート、エチルメタアクリレート、n−ブチルメタアクリレート、2−メチルブチルメタアクリレート、ペンチルメタアクリレート、ヘプチルメタアクリレート、ノニルメタアクリレート等のアクリル酸エステル類及びメタアクリル酸エステル類;3−エトキシプロピルアクリレート、3−エトキシブチルアクリレート、ジメチルアミノエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシブチルアクリレート、エチル−α−(ヒドロキシメチル)アクリレート、ジメチルアミノエチルメタアクリレート、ヒドロキシエチルメタアクリレート、ヒドロキシプロピルメタアクリレートのようなアクリル酸エステル誘導体及びメタクリル酸エステル誘導体;フェニルアクリレート、ベンジルアクリレート、フェニルエチルアクリレート、フェニルエチルメタアクリレートのようなアクリル酸アリールエステル類及びアクリル酸アラルキルエステル類;ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、ビスフェノールAのような多価アルコールのモノアクリル酸エステル類あるいはモノメタアクリル酸エステル類;マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチルのようなマレイン酸ジアルキルエステル、酢酸ビニル等を挙げることができる。これらのモノマーはその1種又は2種以上をモノマー成分として添加することができる。
【0034】
本発明で用いる共重合体は、モノエチレン性不飽和単量体の重合単位のみの線状(リニアー)共重合体であっても、各種の架橋性を有するエチレン性不飽和単量体を極少量共重合させ、一部架橋した部分を含有する共重合体であっても良い。
【0035】
この様な架橋性を有するエチレン性不飽和単量体としては、例えば、グリシジル(メタ)アクリレートや、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングルコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリ(オキシエチレンオキシプロピレン)グリコールジ(メタ)アクリレート、グリセリンのアルキレンオキシド付加物のトリ(メタ)アクリレート等の多価アルコールのポリ(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0036】
本発明においては、用いる各単量体の反応率等は略同一と考えて、各単量体の仕込割合を、各単量体の重合単位の質量換算の含有割合と見なすものとする。本発明における共重合体は、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合等の従来より公知の種々の反応方法によって合成することが出来る。この際には、公知慣用の重合開始剤、連鎖移動剤(重合度調整剤)、界面活性剤及び消泡剤を併用することも出来る。
【0037】
本発明で使用するアニオン性基含有有機高分子化合物として特に好ましくは、前記共重合体の中でも、例えば、スチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル−(メタ)アクリル酸共重合体、(メタ)アクリル酸エステル−(メタ)アクリル酸共重合体等の、スチレン系モノマー、及び(メタ)アクリル酸を原料モノマーとして含むスチレン−アクリル酸系共重合体が挙げられる。(なお、本発明において「スチレン−アクリル酸系共重合体」とは、前述の通り「スチレン系モノマー、及び(メタ)アクリル酸を原料モノマーとして含む共重合体」と定義するものとする。従って、スチレン系モノマー、及び(メタ)アクリル酸以外の汎用のモノマーを共重合させてあってもよい)
【0038】
前記スチレン−アクリル酸系共重合体はスチレン系モノマー、アクリル酸モノマー及びメタクリル酸モノマーの少なくとも一方の共重合によって得られるが、アクリル酸とメタクリル酸を併用することが好ましい。その理由は、樹脂合成時の共重合性が向上して、樹脂の均一性が良くなり、その結果、保存安定性が良好となり、且つより微粒子化された顔料分散液が得られる傾向があるためである。
前記スチレン−アクリル酸系共重合体においてスチレン系モノマーとアクリル酸モノマーとメタクリル酸モノマーの共重合時の総和は、全モノマー成分に対して95質量%以上であることが好ましい。
【0039】
前記スチレン−アクリル酸系共重合体の製造方法としては、通常の重合方法を採ることが可能で、溶液重合、懸濁重合、塊状重合等、重合触媒の存在下に重合反応を行う方法が挙げられる。重合触媒としては、例えば、2,2´−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2´−アゾビスイソブチロニトリル、1,1´−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、ベンゾイルパーオキサイド、ジブチルパーオキサイド、ブチルパーオキシベンゾエート等が挙げられ、その使用量はビニルモノマー成分の0.1〜10.0質量%が好ましい。
【0040】
また、前記スチレン−アクリル酸系共重合体はランダム共重合体でもよいが、グラフト共重合体であっても良い。グラフト共重合体としてはポリスチレンあるいはスチレンと共重合可能な非イオン性モノマーとスチレンとの共重合体が幹又は枝となり、アクリル酸、メタクリル酸とスチレンを含む他のモノマーとの共重合体を枝又は幹とするグラフト共重合体をその一例として示すことができる。スチレン−アクリル酸系共重合体は、このグラフト共重合体とランダム共重合体の混合物であってもよい。
【0041】
本発明において、アニオン性基を有するアクリル系共重合体の重量平均分子量は5000〜20000の範囲内であることが好ましい。例えば前記スチレン−アクリル酸系共重合体を使用する場合も、その重量平均分子量は5000〜20000の範囲内であることが好ましく、5000〜18000の範囲内にあることがより好ましい。中でも、5500〜15000範囲内にあることが特に好ましい。ここで重量平均分子量とはGPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)法で測定される値であり、標準物質として使用するポリスチレンの分子量に換算した値である。
【0042】
本発明で使用するアニオン性基含有有機高分子化合物がスチレン−アクリル酸系共重合体の場合、アクリル酸モノマー及びメタクリル酸モノマー由来のカルボキシル基を有するが、その酸価は50〜220(mgKOH/g)であることが好ましく、60〜200(mgKOH/g)であることがさらに好ましい。酸価が220(mgKOH/g)以下であると顔料の凝集がより発生し難くなる傾向にある。
【0043】
ここでいう酸価とは、日本工業規格「 K 0070:1992. 化学製品の酸価,けん化価,エステル価,よう素価,水酸基価及び不けん化物の試験方法」に従って測定された数値であり、樹脂1gを完全に中和するのに必要な水酸化カリウムの量(mg)である。
酸価が低すぎる場合には顔料分散や保存安定性が低下し、また後記するインクジェット記録用水性インクを調製した場合に、印字安定性が悪くなるので好ましくない。酸価が高すぎる場合には、着色記録画像の耐水性が低下するのでやはり好ましくない。共重合体を該酸価の範囲内とするには、(メタ)アクリル酸を、前記酸価の範囲内となる様に含めて共重合すれば良い。
【0044】
(アニオン性基を有するウレタン樹脂)
本発明で使用するアニオン性基を有するウレタン樹脂は、具体的には、カルボキシ基やスルホン酸基等のアニオン性基を有するポリオールとポリイソシアネート、さらに必要に応じて汎用のアニオン性基を有さないポリオールや鎖伸長剤を反応させて得たウレタン樹脂があげられる。
【0045】
本発明で使用するカルボキシ基を有するポリオールとしては、例えば、多価アルコールと多塩基酸無水物との反応によって得られるエステル、2,2−ジメチロール乳酸、2,2−ジメチロールプロピオン酸、2,2−ジメチロールブタン酸、2,2−ジメチロール吉草酸などのジヒドロキシアルカン酸等が挙げられる。好ましい化合物としては2,2−ジメチロールプロピオン酸、2,2−ジメチロールブタン酸が挙げられる。中でも、ジメチロールプロピオン酸、又はジメチロールブタン酸の入手が容易であり好ましい。
また、スルホン酸基を有するポリオールとしては、例えば5−スルホイソフタル酸、スルホテレフタル酸、4−スルホフタル酸、5[4−スルホフェノキシ]イソフタル酸等のジカルボン酸、及びそれらの塩と、前記低分子量ポリオールとを反応させて得られるポリエステルポリオールが挙げられる。
【0046】
本発明で使用するジイソシアネートとしては、例えばヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネー卜化合物、イソホロンジイソシアネー卜、水添キシリレンジイソシアネート、4,4−シクロヘキシルメタンジイソシアネート等の脂環族ジイソシアネー卜化合物、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシレンジイソシアネー卜等の芳香脂肪族ジイソシアネー卜化合物、トルイレンジイソシアネー卜、フェニルメタンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネー卜が挙げられる。
中でも、印字画像の耐光変色が起こり難い点では、脂肪族ジイソシアネート化合物または脂環族ジイソシアネートが好ましい。
【0047】
また、汎用のアニオン性基を有さないポリオールとしては、例えば、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリヒドロキシポリカーボネート、ポリヒドロキシポリアセタール、ポリヒドロキシポリアクリレート、ポリヒドロキシポリエステルアミドおよびポリヒドロキシポリチオエーテルが挙げられる。中でも、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオールおよびポリヒドロキシポリカーボネートが好ましい。これらのポリオールは1種のみを反応させてもよく、数種を混合して反応させてもよい。
また前記ポリオールのほか、印字物における皮膜硬度の調整等を目的として、低分子量のジオールを適宜併用しても良い。例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール等が挙げられる。
【0048】
本発明で使用する鎖伸長剤は、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,9−ノナンジオール、1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、1,4−シクロヘキサンジオール、キシリレングリコール等のジオール類、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、キシリレンジアミン、イソホロンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、トリレンジアミン、4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン等のジアミン類の1種または2種以上を使用することができる。
【0049】
前記ウレタン樹脂は、例えば無溶剤下または有機溶剤の存在下で、前記ポリオールと前記ポリイソシアネートとを反応させることでウレタン樹脂を製造する。次いで、前記塩基性化合物等を用いて中和することにより形成されたアニオン性基を有するウレタン樹脂を、水性媒体中に混合し水性化する際に、必要に応じて鎖伸長剤と混合し、反応させることによって製造することができる。
【0050】
前記ポリオールとポリイソシアネートとの反応は、例えば、前記ポリオールが有する水酸基に対する、前記ポリイソシアネートが有するイソシアネート基の当量割合が、0.8〜2.5の範囲で行うことが好ましく、0.9〜1.5の範囲で行うことがより好ましい。
【0051】
本発明において、アニオン性基を有するウレタン樹脂の重量平均分子量は5,000〜500,000の範囲内であることが好ましく、10,000〜200,000のものを使用することがより好ましく、15,000〜100,000のものを使用することが特に好ましい。
【0052】
ここで重量平均分子量とはGPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)法で測定される値であり、標準物質として使用するポリスチレンの分子量に換算した値である。
【0053】
また、前記ウレタン樹脂としては、2〜200(mgKOH/g)の範囲の酸価を有するものを使用することが好ましく、2〜100(mgKOH/g)の範囲であることが、ウレタン樹脂の良好な水分散安定性等を向上するうえで好ましい。
【0054】
ここでいう酸価とは、日本工業規格「 K 0070:1992. 化学製品の酸価,けん化価,エステル価,よう素価,水酸基価及び不けん化物の試験方法」に従って測定された数値であり、樹脂1gを完全に中和するのに必要な水酸化カリウムの量(mg)である。
酸価が低すぎる場合には顔料分散や保存安定性が低下するおそれがあり、酸価が高すぎる場合には形成画像の耐水性が低下するおそれがある。共重合体を該酸価の範囲内とするには、カルボキシ基を有するポリオールを、前記酸価の範囲内となる様に含めて共重合すれば良い。
【0055】
(アニオン性基を有する多糖類誘導体)
アニオン性基を有する多糖類誘導体は、ポリアニオン性多糖類であれば特に限定されない。具体的には、ヒアルロン酸、アルギン酸、ペクチン、ポリガラクチュロン酸などの天然多糖類、カルボキシメチルプルラン、カルボキシメチルキチン、カルボキシメチルキトサン、カルボキシメチルマンナン、カルボキシメチルスターチ、カルボキシメチルデキストラン、カルボキシエチルセルロース、カルボキシメチルプルランなどのカルボキシアルキル多糖類、酸化セルロースや酸化でんぷんなどの酸化多糖類、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ヘパリンやヘパラン硫酸など硫酸基を含む多糖類を挙げることができる。そのなかでもカルボキシメチルセルロースやヒアルロン酸が好ましく、特にカルボキシメチルセルロースが好ましい。原料多糖類の重量平均分子量は特に限定されないが、重合度が高くなるに従い、粘度も高くなる傾向があることから、目的に応じて選択すれば良い。あえて例示するならば、5万以上100万以下が好ましく、5万以上50万以下がより好ましい。
【0056】
これらアニオン性基を有する多糖類誘導体と塩を形成するカチオンにも特に限定はないが、プロトンや金属イオン、具体的にはナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウム、マグネシウムなどの金属イオン、有機アンモニウムなどの有機カチオン類が例示できる。これらの中でも、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩やカルボキシメチルセルロースアンモニウム塩が、入手容易かつ目的とする効果を得られやすく好ましい。これらのアニオン性基を有する多糖類誘導体を単独で又は2種以上併用することができることは当然である。
【0057】
本発明で用いるアニオン性基を有する多糖類誘導体、特にカルボキシメチルセルロースのナトリウム塩やアンモニウム塩のエーテル化度(置換度(Degree of Substitution;DS)ともいう)および中和度は、特に限定されるものではないが、B型粘度計により、ローター回転数60rpm、25℃で測定した1重量%水溶液の粘度が、300〜7000mPa・sとなるように調製することが好ましく、500〜5000mPa・sとなるように調製することが更に好ましい。7000mPa・sを超えると、均一な顔料分散が困難になる傾向があり、得られたインク粘度が高くなり過ぎ、実用上不利である。一方、300mPa・s未満になると、メディアへの密着性や耐擦過性に関する改善を顕著に認めにくくなる傾向があり、やはり不利である。
【0058】
ここで「エーテル化度」とは、カルボキシメチルセルロースにおいて、セルロースの構成単位である無水グルコースに3個含まれる水酸基のうち、カルボキシメチル基がエーテル結合されている水酸基の数を平均して示す数値である。従って、その値は理論的に0〜3の間の値となる。
【0059】
本発明で用いるカルボキシメチルセルロースのナトリウム塩やアンモニウム塩のエーテル化度は、0.5〜2であることが好ましく、より好ましくは0.6〜1.6、さらに好ましくは0.8〜1.4である。エーテル化度が0.8以上であれば耐塩性を有するからである。 エーテル化度は理論的には3が上限であるが、2を超えるものは安定生産が難しく、0.4を下回ると水性媒体への溶解が困難となり、実用性に乏しいからである。
【0060】
エーテル化度は、例えば、CMC工業会分析法(灰化法)に従って求めることができる。カルボキシメチルセルロース1gを精秤し、磁性ルツボに入れて600℃で灰化し、灰化によって生成した酸化ナトリウムを0.05mol/L硫酸でフェノールフタレインを指示薬として滴定し、カルボキシメチルセルロース1gあたりの滴定量AmLを次式に入れて計算して求めることができる。
エーテル化度=(162×A)/(10,000−80×A)
また、市販品の場合は、カタログ記載値をそのまま用いることもできる。
【0061】
アニオン性基を有する多糖類誘導体の配合量は特に限定はなく前述の目的に応じて適当量配合される。例えば、形成される画像の発色性(光学濃度)や、画像の耐擦過性の向上を目的とする場合は、セルロース結晶体の質量部1に対してアニオン性基を有する多糖類誘導体の質量部は5以下であることが好ましく、3以下であることがなお好ましく、2以下であることが最も好ましい。
【0062】
カルボキシメチルセルロースナトリウムやカルボキシメチルセルロースアンモニウムは、市販のものを利用することができる。例えば第一工業製薬株式会社から販売されているセロゲンシリーズ、ダイセルファインケム株式会社から販売されているCMCダイセルシリーズ、日本製紙ケミカル株式会社から販売されているサンローズFシリーズ等が利用できる。カルボキシメチルセルロースアンモニウムとしては、ダイセルファインケム株式会社から販売されているDNシリーズなどを挙げることができる。
【0063】
(塩基性化合物)
本発明において塩基性化合物は、前記アニオン性基含有有機高分子化合物のアニオン性基を中和する目的で使用する。塩基性化合物としては公知のものを使用でき、例えばカリウム、ナトリウムなどのアルカリ金属の水酸化物;カリウム、ナトリウムなどのアルカリ金属の炭酸塩;カルシウム、バリウムなどのアルカリ土類金属などの炭酸塩;水酸化アンモニウム等の無機系塩基性化合物や、トリエタノールアミン、N,N−ジメタノールアミン、N−アミノエチルエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、N−N−ブチルジエタノールアミンなどのアミノアルコール類、モルホリン、N−メチルモルホリン、N−エチルモルホリンなどのモルホリン類、N−(2−ヒドロキシエチル)ピペラジン、ピペラジンヘキサハイドレートなどのピペラジン等の有機系塩基性化合物が挙げられる。中でも、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウムに代表されるアルカリ金属水酸化物は、水性顔料分散体の低粘度化に寄与し、水性インクジェット記録用インクとした場合に吐出安定性の面から好ましく、特に水酸化カリウムが好ましい。
【0064】
これらを使用した前記アニオン性基の中和率は特に限定はないが、一般に80〜120%となる範囲で行うことが多い。なお本発明において、中和率とは塩基性化合物の配合量が前記アニオン性基含有有機高分子化合物中の全てのカルボキシル基の中和に必要な量に対して何%かを示す数値であり、以下の式で計算される。
【0065】
【数1】
【0066】
本発明で使用するアニオン性基含有有機高分子化合物の含有量(質量基準)は、水性インク、中でもインクジェット向けとする場合は、インク全質量に対して0.1〜10%が好ましく、さらには0.3〜5%が好ましく、0.5〜2%の範囲であることがさらに好ましい。0.1%未満の含有量では、耐擦過性が確保できなくなり、また10%を超えた含有量では、インクの粘度増加等により、印刷適性が損なわれるからである。
また、結晶セルロース複合体/アニオン性基含有有機高分子化合物=1/10〜9/2であることが好ましく、1/8〜7/2であることがより好ましく、1/6〜5/2であることがより更に好ましい。かかる範囲では、様々な印刷方式への適性を損なうことなく、形成される画像の発色性(光学濃度)、画像の耐擦過性が所望レベルに到達するからである。
【0067】
前記アニオン性基含有有機高分子化合物は、主として顔料を分散させる目的で使用するが、該化合物は高分子であるため、バインダーとしての機能も有する。
【0068】
また市販品を使用することも勿論可能である。市販品としては、味の素ファインテクノ株式会社のアジスパーPBシリーズ、BYK社製のDISPERBYKシリーズ並びにBYK−シリーズ、BASF社製のEfkaシリーズ等を使用することができる。
【0069】
(水性顔料分散体の製造方法)
本発明の水性顔料分散体の製造方法は、特に限定なく公知の方法で得ることができる.例えば、(1)本発明の少なくとも顔料と結晶セルロース複合体とを含んでなる水性顔料分散体を、必要に応じてその他の添加剤を添加して、メディアレス分散により調製する方法、
(2)予め顔料の高濃度水性分散液(顔料ペースト)を作成し、それを水性媒体で希釈する際に同時に結晶セルロース複合体、必要に応じてその他の添加剤を添加して調製する方法、等があげられる。
【0070】
(1)水性顔料分散体のメディアレス分散
本発明において、(1)メディアレス分散とは、具体的には、超音波分散法(US)、高速ディスクインペラー、コロイドミル、ロールミル、高圧ホモジナイザー、ナノマイザー、アルティマイザー等による分散法等があげられるが、生産性やメディアの摩耗によるコンタミ(異物の混入や汚染)などを顧慮すると超音波分散法(US)が好ましい。
以下超音波分散法(US)を例に挙げて説明する。
【0071】
超音波分散の前には顔料と水性媒体を混合・攪拌しておくことが、流動性を高めるため或いは顔料の沈降を防ぐために好ましいが、必須ではなく、混合・攪拌装置も特に限定されない。
また、この時の粘度範囲は流動性を確保する観点から、0.1〜100mPa・sが好ましく、0.5〜50mPa・sがさらには好ましく、0.5〜30mPa・sがさらにより好ましく、1.0〜20mPa・sが最も好ましい。また、この時の顔料濃度は、1〜30質量%が好ましく、1〜25質量%がさらには好ましく、3〜20質量%がさらにより好ましく、5〜20質量%が最も好ましい。
【0072】
超音波照射の条件は、特に制限されないが、100〜3000Wの出力と15〜40kHzの周波数で行うことが好ましく、さらに好ましくは150〜2000Wの出力と15〜30kHzの周波数で行うことが出来る。
【0073】
出力および周波数を前記範囲に設定することにより、キャビテーションによる分散工程を効果的に実施でき、水性インク中の粗大粒子数が減少し、水性インク自身から得られる着色被膜の彩度(質感)が改良され、水性インクをインクジェット印刷する際にスムーズな吐出が得られる(良好な吐出安定性)こと、顔料粒子の沈降等による製品の品質の低下がなくなること、発振棒のエロージョン(腐食)が著しく小さくなり機器メンテナンスコストが下がること等の理由により、大変好ましい。
【0074】
超音波照射を行う時間は、実質的に水性インク中に顔料粒子や結晶セルロース複合体が事実上均一分散するのに必要にして十分な時間を確保すれば良い。分散液中に含まれる顔料の質量に対して5〜100W/gの電力量を与えるのが通常である。超音波処理をより長時間の処理を行うことも、短時間で処理をとりやめることもできるのは当然である。顔料種に応じて、分散粒子径、粘度、画像鮮明度などのパフォーマンスに支障を生じない範囲で、超音波処理時間を選択し、時間的な生産性の低下が生じないように工夫することが好ましい。
【0075】
水性顔料分散体に超音波照射を終えた後に、必要であれば更に分散を更に行うこともできる。また分散と超音波照射を繰り返し行うこともできる。
この分散工程において用いることのできる分散装置として、既に公知の種々の方式による装置が使用でき、特に限定されるものではない。例えばサンドミル、ビーズミル、ペブルミル、ボールミル、パールミル、バスケットミル、アトライター、ダイノーミル、ボアミル、ビスコミル、モーターミル、SCミル、ドライスミル、ペイントコンディショナー等のメディア分散や、高速ディスクインペラー、コロイドミル、高圧ホモジナイザー、ナノマイザー、アルティマイザー等のメディアレス分散機が上げられる。ただし前記したように顔料表面に不必要な物理的損傷を与える場合もあることに留意すべきである。
【0076】
超音波照射に供する水性顔料分散体の温度は、特に制限されるものではないが、この水性顔料分散体を凝固点〜70℃となる様に制御しながら、超音波を照射する様にすることが好ましい。凝固点以下だと超音波分散が不可能になり、70℃以上であると水分の蒸発が生じ、顔料濃度の増加などの不確定条件が生じるからである。
【0077】
超音波照射時に水性顔料分散体を冷却する手段は、公知のもの、氷冷、風冷、水冷などをごく一般的に使うことが出来る。具体的には、水性インクを保持する容器の外套(ジャケット)中に冷媒を流す方法、水性インクの入っている容器を冷媒の中に浸漬する方法、気体の風を吹き付ける方法、水などの冷媒と風とを使って蒸発熱で冷却する方法などを例示できる。
例えば、冷媒として、予め0℃を越えて20℃以下、好ましくは0℃を越えて10℃以下に冷却された冷却水を使用する方法は、比較的に経済的であり、しかも冷却効率も優れているため望ましい方法の一つである。この際、冷却水を循環装置で循環すると同時に、冷却装置で冷却も行うことが出来る。この際、冷却水中に、エチレングリコール、ジエチレングリコールなどの凍結温度を下げるものを加えたり、塩化ナトリウムなどを加えて凝固点降下を起こさせるのも大変望ましい。その結果、0℃を越える冷却水では十分な冷却効果が得られない時でも、それ以下の温度の冷却水とすることが出来、より水性インクを前記温度範囲内でもより低温となる様に保持して超音波照射することが可能になる。風冷する場合も、単に雰囲気温度の風を吹き付けるのではなく、予め冷やした冷風を用いることが好ましい。
【0078】
上記超音波照射に用いる装置は、出来るだけ少ない台数で行うことがコストの関係から望ましいが、必要ならば最低限の複数の装置を、直列または並列に連結させて処理を行うことも出来る。
【0079】
なお、超音波照射の終点は、粒ゲージや市販の粒径測定装置で顔料粒子や前記複合粒子の粒径を測定して決める他、粘度、接触角、各種の方法で調製した塗膜の反射光度、色彩等の物性測定で決定しても良い。また顕微鏡などを使った直接観察を行って決定しても良い。
【0080】
(2)高濃度の水性顔料分散液(顔料ペースト)を経由する方法
予め顔料ペーストを作成する方法は、特に限定はなく、公知の分散方法を使用することができる。
【0081】
該顔料ペーストを調製する方法としては、以下(i)〜(iii)を例示することができる。
(i)顔料、及び顔料分散剤を2本ロール、ミキサー等の混練機を用いて混練し、得られた混練物を、水を含む水性媒体中に添加し、攪拌・分散装置を用いて顔料ペーストを調製する方法。
(ii)顔料分散剤及び水を含有する水性媒体に、顔料を添加した後、攪拌・分散装置を用いて顔料を該水性媒体中に分散させることにより、顔料ペーストを調製する方法。
(iii)メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン等のような水との相溶性を有する有機溶剤中に顔料分散剤を溶解して得られた溶液に顔料を添加した後、攪拌・分散装置を用いて顔料を有機溶液中に分散させ、次いで水性媒体を用いて転相乳化させた後、前記有機溶剤を留去し顔料ペーストを調製する方法。
以下(i)の混練分散法を例に挙げて説明する。
【0082】
(混練分散法)
混練分散法は、例えば、顔料と、アニオン性基含有有機高分子化合物、アニオン性基含有有機高分子化合物のアニオン性基を中和しうる塩基性化合物と、水溶性溶媒及び/または水との混合物を、混練機に仕込んで混練分散を行う。
このとき、顔料や顔料分散剤であるポリマー(A)に剪断力が加わることで、粗大粒子が低減された水性顔料分散体を得ることができる。
【0083】
剪断力を得るために、顔料とアニオン性基含有有機高分子化合物とを含む固形分比率は40質量%以上が好ましく、50質量%以上がなお好ましい。この状態で、前記混合物中の顔料の粉砕と顔料へアニオン性基含有有機高分子化合物の吸着を同時に進行させることができる。
また、得られる水性顔料分散体の顔料濃度を高濃度とするために、前記混合物中の顔料量はなるべく多くすることが好ましい。例えば、前記混合物全量に対して35質量%以上とすることが好ましく、40質量%以上であることがなお好ましい。
また、顔料とアニオン性基含有有機高分子化合物との含有比率は、特に限定はないが、通常は質量比で10/0.5〜10/20の範囲で行うことが多く、より好ましくは10/0.5〜10/10である。
【0084】
前記混合物を混練機に仕込む方法は、特に限定はなく、例えば、一度に顔料やアニオン性基含有有機高分子化合物、水溶性溶媒及び/または水等のすべての原料を仕込んでもよいし、それぞれの原料を順次仕込んでもよいし、また、それぞれの原料を分割して仕込んでもよい。
【0085】
前記混練分散法においては、媒体である水溶性溶媒及び/または水として、前述の水性媒体であげた水性に溶解しうる水溶性有機溶剤を使用することが好ましい。前記水溶性有機溶剤は、質量比で顔料の1/5以上使用することが好ましく、1/3以上使用することが最も好ましい。水溶性有機溶剤を質量比で顔料の1/3以上使用することにより、混練工程における開始時から終了時に至るまで、常に一定量の溶剤の存在のもとに混練を進行させることができる。
【0086】
混練機としては、特に限定されることなく、例えば、ヘンシェルミキサー、加圧ニーダー、バンバリーミキサー、プラネタリーミキサーなどがあげられる。
また、攪拌・分散装置としても特に限定されることなく、例えば、超音波ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、ペイントシェーカー、ボールミル、ロールミル、サンドミル、サンドグラインダー、ダイノーミル、ディスパーマット、SCミル、ナノマイザー等を挙げられる。これらのうちの1つを単独で用いてもよく、2種類以上装置を組み合わせて用いてもよい。
【0087】
得られた前記顔料ペーストに占める顔料量は5〜60質量%であることが好ましく、10〜50質量%であることがより好ましい。顔料量が5質量%より少ない場合は、前記顔料ペーストから調製した水性インクの着色が不充分であり、充分な画像濃度が得られない傾向にある。また、逆に60質量%よりも多い場合は、顔料ペーストにおいて顔料の分散安定性が低下する傾向があるからである。
【0088】
また、粗大粒子の残存は、各種画像特性を劣化させる原因になるため、インク調製前後に、遠心分離、あるいは濾過処理等により、適宜、粗大粒子を除去することが好ましい。
【0089】
分散工程の後に、イオン交換処理や限外処理による不純物除去工程を経て、その後に後処理を行っても良い。イオン交換処理によって、カチオン、アニオンといったイオン性物質(2価の金属イオン等)を除去することができ、限外処理によって、不純物溶解物質(顔料合成時の残留物質、分散液組成中の過剰成分、有機顔料に吸着していない樹脂、混入異物等)を除去することができる。イオン交換処理は、公知のイオン交換樹脂を用いる。限外処理は、公知の限外ろ過膜を用い、通常タイプ又は2倍能力アップタイプのいずれでもよい。
【0090】
(インクジェット記録用水性インク)
前記水性顔料分散体は、必要に応じて、任意のタイミングで、水溶性溶媒で希釈する、あるいは湿潤剤(乾燥抑止剤)、浸透剤、あるいはその他の添加剤、いわゆる公知慣用の添加剤を添加することもできる。当該添加により、自動車や建材用の塗料分野や、オフセットインキ、グラビアインキ、フレキソインキ、シルクスクリーンインキ等の印刷インキ分野、あるいはインキジェット記録用インク分野等様々な用途に使用することができる。インクの調製後に、遠心分離あるいは濾過処理工程を追加して、粗大粒子除去を行うこともできる。ここでは、インクジェット記録用水性インクについて、詳述する。
【0091】
(湿潤剤)
前記湿潤剤は、インクの乾燥防止を目的として添加する。乾燥防止を目的とする湿潤剤のインク中の含有量は3〜50質量%であることが好ましい。
本発明で使用する湿潤剤としては特に限定はないが、水との混和性がありインクジェットプリンターのヘッドの目詰まり防止効果が得られるものが好ましい。例えば、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、分子量2000以下のポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、イソプロピレングリコール、イソブチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、メソエリスリトール、ペンタエリスリトール、等が挙げられる。中でも、プロピレングリコール、1,3−ブチルグリコールを含むことが安全性を有し、かつインク乾燥性、吐出性能に優れた効果が見られる。
【0092】
(浸透剤)
前記浸透剤は、被記録媒体への浸透性改良や記録媒体上でのドット径調整を目的として添加する。
浸透剤としては、例えばエタノール、イソプロピルアルコール等の低級アルコール、エチレングリコールヘキシルエーテルやジエチレングリコールブチルエーテル等のアルキルアルコールのエチレンオキシド付加物やプロピレングリコールプロピルエーテル等のアルキルアルコールのプロピレンオキシド付加物等が挙げられる。
インク中の浸透剤の含有量は0.01〜10質量%であることが好ましい。
【0093】
(界面活性剤)
前記界面活性剤は、表面張力等のインク特性を調整するために添加する。このために添加することのできる界面活性剤は特に限定されるものではなく、各種のアニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤などが挙げられ、これらの中では、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤が好ましい。
【0094】
アニオン性界面活性剤としては、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルフェニルスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、高級脂肪酸塩、高級脂肪酸エステルの硫酸エステル塩、高級脂肪酸エステルのスルホン酸塩、高級アルコールエーテルの硫酸エステル塩及びスルホン酸塩、高級アルキルスルホコハク酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、アルキルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩等が挙げられ、これらの具体例として、ドデシルベンゼンスルホン酸塩、イソプロピルナフタレンスルホン酸塩、モノブチルフェニルフェノールモノスルホン酸塩、モノブチルビフェニルスルホン酸塩、ジブチルフェニルフェノールジスルホン酸塩などを挙げることができる。
【0095】
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、脂肪酸アルキロールアミド、アルキルアルカノールアミド、アセチレングリコール、アセチレングリコールのオキシエチレン付加物、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールブロックコポリマー、等を挙げることができ、これらの中では、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸アルキロールアミド、アセチレングリコール、アセチレングリコールのオキシエチレン付加物、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールブロックコポリマーが好ましい。
【0096】
その他の界面活性剤として、ポリシロキサンオキシエチレン付加物のようなシリコーン系界面活性剤;パーフルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロアルキルスルホン酸塩、オキシエチレンパーフルオロアルキルエーテルのようなフッ素系界面活性剤;スピクリスポール酸、ラムノリピド、リゾレシチンのようなバイオサーファクタント等も使用することができる。
【0097】
これらの界面活性剤は、単独で用いることもでき、又2種類以上を混合して用いることもできる。界面活性剤を添加する場合は、その添加量はインクの全質量に対し、0.001〜2質量%の範囲が好ましく、0.001〜1.5質量%であることがより好ましく、0.01〜1質量%の範囲であることがさらに好ましい。界面活性剤の添加量が0.001質量%未満の場合は、界面活性剤添加の効果が得られない傾向にあり、2質量%を超えて用いると、画像が滲むなどの問題を生じやすくなる。
【0098】
また、必要に応じて、防腐剤、粘度調整剤、pH調整剤、キレート化剤、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等を添加することができる。
【0099】
(記録部材)
本発明の水性インクは、特に普通紙に対しても高い光学濃度及び耐擦過性を発現する。その他の吸収性の記録部材に使用してももちろん構わない。吸水性の記録媒体の例には、普通紙、(微)塗工紙、布帛、インクジェット専用紙、インクジェット光沢紙、ダンボール、木材、などが含まれる。
【実施例】
【0100】
以下、本発明の実施例を示して詳しく説明する。
なお、特に断りがない限り「部」は「質量部」、「%」は「質量%」である。
【0101】
<結晶セルロース複合体>
下記の表1に、使用した結晶セルロース複合体等に関して記載した。
モード径および80%粒子径/20%粒子径は、動的光散乱式ナノトラック粒度分析計UPA−150EX(日機装株式会社製)を用いて、供試サンプル0.1質量%(溶媒:水、温度25℃)の測定値(体積基準)から有効数字2桁にて算出した。
【0102】
熱分解温度は、熱重量測定装置TGA/DSC1(メトラー・トレド株式会社製)を用いて、窒素ガス雰囲気中、10℃/分の昇温条件で40℃から120℃まで昇温し、120℃で10分間保持してから、再度10℃/分の昇温条件で120〜500℃まで昇温したときの熱分解による重量減少が始まる温度を意味する。重量減少が始まる温度は、縦軸に重量減少率、横軸に温度をプロットしたグラフを描き、最も大きく重量減少する時の接線と重量減少前の接線との交点の温度とした。
【0103】
【表1】
【0104】
<アニオン性基含有有機高分子化合物(固体)>
CMC1390(ダイセルファインケム株式会社製):カルボキシメチルセルロースナトリウム(エーテル化度1.0〜1.5)
DN−800H(ダイセルファインケム株式会社製):カルボキシメチルセルロースアンモニウム
【0105】
<製造例101:アニオン性基含有有機高分子化合物の溶液(SA−1)>
モノマー組成比において、スチレン/メタアクリル酸/アクリル酸=77/13/10(質量比)であり、質量平均分子量8800、酸価150mgKOH/g、ガラス転移点107℃である樹脂Aを作製し、アクリル系顔料分散剤の例とした。メチルエチルケトン(以下、MEKと略記する)50部、前記樹脂A50部、これにイオン交換水87.4部、34質量%の水酸化カリウム(KOH)水溶液22gを加え、良く撹拌し、樹脂溶液を得た。この樹脂溶液について、ウォーターバス温度45℃、40hPaの減圧条件でMEKを除去し、樹脂固形分20%としたものをアニオン性基含有有機高分子化合物の溶液(SA−1)とした。
【0106】
<顔料等>
顔料等としては、以下の市販品を使用した。
(顔料)
#960(三菱化学株式会社製):カーボンブラック
FASTOGEN Blue TGR(DIC株式会社製):C.I.Pigment Blue 15:3
FASTOGEN Super Magenta RY(DIC株式会社製):C.I.Pigment Red 122
Fast Yellow 7413(山陽色素株式会社製):C.I.Pigment Yellow 74
【0107】
<製造例1:超音波分散法(US)水性ブラック顔料分散体の製造方法>
金属製ビーカーに、「#960」(三菱化学株式会社製カーボンブラック)20部、アニオン性基含有有機高分子化合物の溶液(SA−1)20部、トリエチレングリコール5部、純水により全量100部となるように加え、手動攪拌した。その後、超音波分散機(Hielscher社製UP200St、運転周波数:26KHz、運転出力:160W)により10分間超音波分散した。この超音波分散処理後の混合物100部に、結晶セルロース複合体「セオラスRC−591」(旭ケミカルズ株式会社製)7.5部、純水により全量250部となるように加え、手動攪拌後、超音波分散機(Hielscher社製UP200St、運転周波数:26KHz、運転出力:160W)により25分間超音波分散し、水性ブラック顔料分散体(顔料濃度8%相当)を得た。
【0108】
<製造例2〜4:超音波分散法(US)水性シアン顔料分散体等の製造方法>
使用する顔料の種類、アニオン性基含有有機高分子化合物の種類、結晶セルロース複合体の種類と添加量を、実施例に記載した配合に変更した以外は、上述の製造方法に従って、水性シアン顔料分散体等を調製した。
表2に、超音波分散法(US)水性顔料分散体の仕込み量を例示した。
【0109】
【表2】
【0110】
<調製例1:超音波分散法(US)水性ブラックインク(Type1)>
製造例1で得た水性顔料分散体(顔料濃度8%相当)75部に、純水を25部加えて、マグネチックスターラーで攪拌してから、1.2μmのメンブレンフィルターで濾過して、実施例1の超音波分散法(US)水性ブラックインク(Type1)を得た。調製したインクの物性等は後述の表に記載した。
【0111】
<調製例2:超音波分散法(US)水性ブラックインク(Type2)>
製造例1で得た水性顔料分散体(顔料濃度8%相当)50部に、別途調製したビヒクル50部(質量基準配合比:2−ピロリドン/トリエチレングリコールモノブチルエーテル/グリセリン/サーフィノール440/純水=16/16/6/1/61)を加え、マグネチックスターラーで攪拌してから、1.2μmのメンブレンフィルターで濾過して、実施例14の超音波分散法(US)水性ブラックインク(Type2)を得た。調製したインクの物性等は後述の表に記載した。
【0112】
使用する顔料の種類、アニオン性基含有有機高分子化合物の種類と添加量、バイオナノファイバーの種類と添加量を、実施例に記載した配合に変更した以外は、上述の調製例1等に従って超音波分散法(US)水性シアンインク(Type1)等を調製した。調製したインクの物性等は後述の表に記載した。
【0113】
<製造例5:混練法(PLM)水性ブラック顔料分散体の製造方法)
プラネタリーミキサー(株式会社愛工舎製作所製ACM04LVTJ−B)に、混合物(カーボンブラック「#960」(三菱化学株式会社製)50部、アニオン性基含有有機高分子化合物(樹脂A)10部、34%水酸化カリウム水溶液4.4部、トリエチレングリコール50部)を仕込み、ジャケット温度60℃、攪拌羽根回転数25rpm(公転数80rpm)にて60分間混練を行なった。更に、得られた混練物全部を家庭用ミキサー(象印社製ヘルシーミックス)に投入し、純水218.6部を加え密栓し20分間撹拌溶解し、水性混合物MX333部を得た。金属製ビーカーに、この水性混合物MX53.33部と、結晶セルロース複合体「セオラスRC−591」(旭化成ケミカルズ株式会社製、製品名(略記号):RC−591)3.6部および純水により全量100部になるように加え、ホモジナイザー(シルバーソン社製ローターステーター)にて8000RPMで11分間撹拌混合後、更に純水で希釈し、混練法(PLM)水性ブラック顔料分散体(顔料濃度8%相当)を得た。
【0114】
<製造例6〜8:混練法(PLM)水性シアン顔料分散体等の製造方法>
使用する顔料の種類、アニオン性基含有有機高分子化合物の種類、バイオナノファイバーの種類と添加量を、実施例に記載した配合に変更した以外は、上述の製造方法に従って、混練法(PLM)水性シアン顔料分散体等を調製した。表3に、混練法(PLM)水性顔料分散体の仕込み量を例示した。
【0115】
【表3】
【0116】
<調製例3:混練法(PLM)水性ブラックインク(Type1)>
製造例5の方法で得た水性顔料分散体(顔料濃度8%相当)37.5部に、純水を12.5部加えて、マグネチックスターラーで攪拌してから、1.2μmのメンブレンフィルターで濾過して、実施例11の混練法(PLM)水性ブラックインク(Type1)を得た。調製したインクの物性等を後述の表に記載した。
【0117】
<調製例4:混練法(PLM)水性ブラックインク(Type2)>
製造例5の方法で得た水性顔料分散体(顔料濃度8%相当)25部に、別途調製したビヒクル25部(質量基準配合比:2−ピロリドン/トリエチレングリコールモノブチルエーテル/グリセリン/サーフィノール440/純水=16/16/6/1/61)を加え、マグネチックスターラーで攪拌してから、1.2μmのメンブレンフィルターで濾過して、実施例47の混練法(PLM)水性ブラックインク(Type2)を得た。調製したインクの物性等を後述の表に記載した。
【0118】
使用する顔料の種類、アニオン性基含有有機高分子化合物の種類と添加量、バイオナノファイバーの種類と添加量を、実施例に記載した配合に変更した以外は、上述の調製例3等に従って、混練法(PLM)水性シアンインク(Type1)等を調製した。調製したインクの物性等は後述の表に記載した。
【0119】
<インク物性の測定>
(pH測定方法)
MM−60R(東亜ディーケーケー株式会社製)を用いて測定(インク温度25℃)した。
【0120】
(粘度測定方法)
ViscometerTV−20(東機産業株式会社製)を用いて、測定(インク温度25℃)した。
【0121】
(平均粒子径測定方法)
動的光散乱式ナノトラック粒度分析計UPA−150EX(日機装株式会社製)用いて、測定(インク温度25℃)した。平均粒子径の値として、体積基準(Mv)のメジアン径(D50)を用いた。
【0122】
<印刷物の評価>
(光学濃度(O.D.)値の測定)
調製した前記インクを、ワイヤーバー#3にてPPC用紙に塗布した。24時間自然乾燥後、塗布物の光学濃度(O.D.))を測定した。測定には「Gretag Macbeth Spectro Scan Transmission」(米X−Rite社)を使用し、塗布物の光学濃度(O.D.)値として、縦3点×横3点の合計9点測定の平均値を採用した。
なお、光学濃度向上は、下記式に従い算出し、以下に示す評価基準にしたがって光学濃度(O.D.)を評価した。
【0123】
【数2】
【0124】
(判定基準)
G:3%以上の光学濃度の向上あり。
N:3%以上の光学濃度の向上なし。
【0125】
(耐擦過性試験)
調製した前記インクを、ワイヤーバー#3にて光沢紙に塗布した。24時間自然乾燥後、塗布した面を、学振型摩擦試験機(株式会社大栄科学精機製作所製)を用いて、加重200g、摩擦回数10回の条件で、摩擦用PPC用紙を巻き付けた45R摩擦子で擦った。その後、塗布面の状態をパネラー3名により目視評価し、以下の基準に従って評価した。
G:評価者3名とも「キズ無し」。
N:評価者1名以上が「キズ有り」。
【0126】
<インクジェット(IJ)用適性>
吐出性、及び印刷性能について、恒温恒湿室(室温25℃、湿度50%)において、サーマル型インクジェットノズルを有するインクジェット記録装置(ヒューレットパッカード社製ENVY4500)に、水性インクを装填した。その後、被記録材としてPPC用紙上へ、テスト印刷用パターン(文字部、罫線部、ベタ部あり)を用いて10分連続して印刷を行った。10分連続印刷後の紙面をパネラー3名により目視観察し、印刷パターンの欠けや滲みに関し、以下の基準に従って評価した。
G:パネラー3名が、印刷パターンの欠けや滲みを認めない。
M:パネラー1名のみが、印刷パターンの欠けや滲みを認めた(他のパネラー2名は、印刷パターンの欠けや滲みを認めない。)。
N:パネラー2名以上が、印刷パターンの欠けや滲みを認めた。
【0127】
各インク組成、及びインク評価結果を表に示した。
【0128】
【表4】
【0129】
【表5】

【0130】
【表6】

【0131】
【表7】

【0132】
【表8】

【0133】
【表9】

【0134】
【表10】

【0135】
【表11】

【0136】
【表12】

【0137】
【表13】

【0138】
【表14】

【0139】
【表15】

【0140】
【表16】

【0141】
【表17】

【0142】
【表18】
【0143】
【表19】

【0144】
【表20】


【0145】
【表21】

【0146】
【表22】

【0147】
【表23】



【0148】
【表24】

【0149】
【表25】

【0150】
【表26】

【0151】
【表27】

【0152】
【表28】

【0153】
【表29】

【0154】
【表30】

【0155】
【表31】

【0156】
【表32】

【0157】
【表33】

【0158】
【表34】

【0159】
【表35】

【0160】
【表36】

【0161】
【表37】