特許第6508524号(P6508524)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6508524コンティニアス用インクジェット記録用インク及び有機溶剤可溶性染料の精製方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6508524
(24)【登録日】2019年4月12日
(45)【発行日】2019年5月8日
(54)【発明の名称】コンティニアス用インクジェット記録用インク及び有機溶剤可溶性染料の精製方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/328 20140101AFI20190422BHJP
   C09B 67/54 20060101ALI20190422BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20190422BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20190422BHJP
【FI】
   C09D11/328
   C09B67/54 Z
   B41M5/00 120
   B41J2/01 501
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-122889(P2015-122889)
(22)【出願日】2015年6月18日
(65)【公開番号】特開2017-8154(P2017-8154A)
(43)【公開日】2017年1月12日
【審査請求日】2018年4月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177471
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 眞治
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(74)【代理人】
【識別番号】100159293
【弁理士】
【氏名又は名称】根岸 真
(72)【発明者】
【氏名】尾島 治
【審査官】 菅野 芳男
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−040238(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00−201/10
B41J 2/01
B41M 5/00
C09B 67/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
色材としてソルベントブラック29またはソルベントブラック43である有機溶剤可溶性染料を使用するコンティニアス用インクジェット記録用インクであって、乾燥させた有機溶剤可溶性染料と前記有機溶剤可溶性染料の重量に対し10倍量以上の精製水とを30分間以上混合させて得た有機溶剤可溶性染料ウエットケーキ(A)から、前記ウエットケーキ(A)の含水率が30重量%以下となるまで留去して得た留去水(A)の電気伝導度(A)μS/cmと、
前記含水率が30重量%以下の前記ウエットケーキ(A)と前記含水率が30重量%以下の前記ウエットケーキ(A)の重量に対し10倍量以上の精製水とを30分以上混合させて得た有機溶剤可溶性染料ウエットケーキ(B)から、前記ウエットケーキ(B)の含水率が30重量%以下となるまで留去して得た留去水(B)の電気伝導度(B)μS/cmとが、式(1)と(2)を満たすことを特徴とするコンティニアス用インクジェット記録用インク。
【数1】
【数2】
【請求項2】
アルコール系溶剤を使用する請求項1に記載のコンティニアス用インクジェット記録用インク。
【請求項3】
有機溶剤可溶性染料の精製方法であって、
乾燥させた有機溶剤可溶性染料と前記有機溶剤可溶性染料の重量に対し10倍量以上の精製水とを30分間以上混合させて得た有機溶剤可溶性染料ウエットケーキ(A)から、前記ウエットケーキ(A)の含水率が30重量%以下となるまで水を留去する工程(1)と、
前記含水率が30重量%以下の前記ウエットケーキ(A)と前記含水率が30重量%以下の前記ウエットケーキ(A)の重量に対し10倍量以上の精製水とを30分以上混合させて得た有機溶剤可溶性染料ウエットケーキ(B)から、前記ウエットケーキ(B)の含水率が30重量%以下となるまで水を留去する工程(2)とを有し、
前記工程(1)で得た留去水(A)の電気伝導度(A)μS/cmと、前記工程(2)で得た留去水(B)の電気伝導度(B)μS/cmとが、式(1)と(2)を満たすことを特徴とする有機溶剤可溶性染料の精製方法。
【数3】
【数4】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコンティニアス用インクジェット記録用インク、及びコンティニアス用インクジェット記録用インクの色材に適した有機溶剤可溶性染料の精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、ノズルよりインクを吐出して被記録媒体に付着させる方式であり、該ノズルと被記録媒体が非接触状態にあるため、曲面や凹凸した不規則な形状を有する表面に対して、良好な印刷を行うことができる。
これらインクジェット記録方式としては、たとえばコンティニュアス方式(荷電制御方式)、静電吸引方式、圧電素子を用いてインクに機械的振動又は変位を与えるピエゾ方式、インクを加熱して発泡させそのときの圧力を利用するサーマル方式等が知られており、この中で主にマーキング用途に使用されるコンティニアス方式によるインクジェット記録用インクは、色材として有機溶剤可溶性染料を使用しており、その他該染料の溶媒である有機溶剤や記録媒体にインクを定着させるためのバインダー樹脂を含んでいる。
【0003】
前記有機溶剤可溶性染料とは、室温で有機溶剤に可溶であり且つ水には実質的に溶解しない染料を指す。有機溶剤可溶性染料は従来染色用途で使用されており、流通品の多くは、塩化ナトリウムや硫酸ナトリウムなどの無機塩類をはじめとして、カリウム、ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、鉄等の金属イオンを多くの不純物として含む。しかしながら、このような不純物を多く含む有機溶剤可溶性染料をインクジェット記録用インクの色材として使用した場合、溶媒として使用する有機溶剤中に該金属イオンが溶出し、インク中での前記有機溶剤可溶性染料の溶解安定性を低下させたり、低温環境下で前記有機溶剤可溶性染料の凝集や析出をもたらすことがあった。又、インク吐出オリフィスや毛細孔付近は、インクが蒸発しインク濃度が高くなるなどの変化が生じるが、過度の金属イオンはここでも析出をもたらす要因となりうる。凝集や析出はいずれもインクジェット方式による記録において最も忌避すべき目詰まりや液滴曲がりの原因となる。こうした不具合を解消、防止するために、たとえば染料濃度を下げることで析出を抑えたインクを使用することも行っているが、染料濃度を下げることは被記録媒体上の印字画像の濃度の低下につながり、得られる画像は品位に欠けるものとなる。
【0004】
前記不純物を多く含む有機溶剤可溶性染料をインクジェット記録用インクの色材として使用する場合、これらを取り除くことを目的に、染料精製が行われる。
インクジェット記録用インクの色材として使用する染料の精製方法としては、たとえばインクの保存安定性と吐出信頼性を確保するために、染料を塩析法で精製しカルシウムイオン濃度を管理する方法や(たとえば特許文献1参照)、ノズル目詰まりの原因となる不溶残分を含まないようにするために、染料中に含まれる硫酸濃度と塩化物濃度を特定した精製染料を使用する方法(たとえば特許文献2参照)等が知られている。
しかしながら、コンティニアス方式に使用するインクジェット記録用インクの保存安定性や吐出信頼性を確保するには、特定の不純物を低減、管理するだけでは不十分であり、インク中に含まれる金属イオン種全般を分離、低減したことを管理するための手法が必要であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−5073号公報
【特許文献2】特開2001−40238号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、目詰まりや液滴曲がりがなく吐出信頼性に優れ、かつ保存安定性に優れたコンティニアス用インクジェット記録用インクを提供することにあり、該インクに使用する有機溶剤可溶性染料の精製方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、有機溶剤可溶性染料を最初に水洗浄した後の洗浄水の電気伝導度(A)と、二度目の水洗浄後の洗浄水の電気伝導度(B)を測定し、該電気伝導度(A)と(B)とが特定の範囲内にあるような水不溶染料を使用することで、前記課題を解決した。
【0008】
すなわち本発明は、色材として有機溶剤可溶性染料を使用するコンティニアス用インクジェット記録用インクであって、乾燥させた有機溶剤可溶性染料と前記有機溶剤可溶性染料の重量に対し10倍量以上の精製水とを30分間以上混合させて得た有機溶剤可溶性染料ウエットケーキ(A)から、前記ウエットケーキ(A)の含水率が30重量%以下となるまで留去して得た留去水(A)の電気伝導度(A)μS/cmと、前記含水率が30重量%以下の前記ウエットケーキ(A)と前記含水率が30重量%以下の前記ウエットケーキ(A)の重量に対し10倍量以上の精製水とを30分以上混合させて得た有機溶剤可溶性染料ウエットケーキ(B)から、前記ウエットケーキ(B)の含水率が30重量%以下となるまで留去して得た留去水(B)の電気伝導度(B)μS/cmとが、式(1)と(2)を満たすコンティニアス用インクジェット記録用インクを提供する。
【0009】
【数1】
【0010】
【数2】
【0011】
また本発明は、有機溶剤可溶性染料の精製方法であって、乾燥させた有機溶剤可溶性染料と前記有機溶剤可溶性染料の重量に対し10倍量以上の精製水とを30分間以上混合させて得た有機溶剤可溶性染料ウエットケーキ(A)から、前記ウエットケーキ(A)の含水率が30重量%以下となるまで水を留去する工程(1)と、前記含水率が30重量%以下の前記ウエットケーキ(A)と前記含水率が30重量%以下の前記ウエットケーキ(A)の重量に対し10倍量以上の精製水とを30分以上混合させて得た有機溶剤可溶性染料ウエットケーキ(B)から、前記ウエットケーキ(B)の含水率が30重量%以下となるまで水を留去する工程(2)とを有し、
前記工程(1)で得た留去水(A)の電気伝導度(A)μS/cmと、前記工程(2)で得た留去水(B)の電気伝導度(B)μS/cmとが、式(1)と(2)を満たす有機溶剤可溶性染料の精製方法を提供する。
【0012】
【数3】
【0013】
【数4】
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、目詰まりや液滴曲がりがなく吐出信頼性に優れ、かつ保存安定性に優れたコンティニアス用インクジェット記録用インクを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(有機溶剤可溶性染料)
本発明で使用する有機溶剤可溶性染料は、公知の、有機溶剤に可溶であるが実質的に水に溶解しない染料であり、印刷皮膜に十分な耐水性を付与できる程度に水との親和性の小さいものをいう(有機溶剤可溶性染料は水に実質的に不溶なことから、水不溶性染料と称
【0016】
されることもある。)たとえばクロム錯塩染料、ニグロシン系染料,造塩染料(塩基性染料と酸性染料を造塩させた染料)等が挙げられるが、印刷皮膜の耐水性、耐光性等の観点から、クロム錯塩染料が好ましく、C.I.ソルベントブラック27、29、43等が挙げられる。本発明においては、これらを1種又は2種以上用いることができる。本発明における有機溶剤可溶性染料は、インク中において印刷物に十分な濃度を与える点から、インク全量に対し2〜10重量%が好ましく、特に4〜8重量%が好ましい。
【0017】
本発明においては、前述のとおり、染色用途として流通している前記有機溶剤可溶性染料はそのままでは不純物を多く含む可能性があるために、下記精製方法により得た有機溶剤可溶性染料を使用する。
【0018】
(工程(1))
工程(1)は、乾燥させた有機溶剤可溶性染料と前記有機溶剤可溶性染料の重量に対し、10倍量以上の精製水とを30分間以上混合させて得た有機溶剤可溶性染料ウエットケーキ(A)から、前記ウエットケーキ(A)の含水率が30重量%以下となるまで留去する工程である。
【0019】
前記したウエットケーキの含水率が30重量%以下となるまで留去する方法としては、常法で行えばよく、たとえば、ヌッチェによる減圧ろ過、フィルタープレスによる圧縮法等を使用すればよい。
【0020】
前記乾燥させた有機溶剤可溶性染料の1重量部に対し10倍量以上の精製水を加え、30分間以上混合させて有機溶剤可溶性染料ウエットケーキ(A)を得る。混合方法は常法で行えばよく、たとえば、分散攪拌機(ディスパミル)等を使用し、30分以上攪拌混合すればよい。
ここで、精製水の量が有機溶剤可溶性染料に対し少ない量であると、不純物が一部有機溶剤可溶性染料に残ってしまう恐れがあることから、水は有機溶剤可溶性染料の1重量部に対し10倍量以上とすることが好ましく、12倍量以上とすることがなお好ましい。
【0021】
このとき前記ウエットケーキ(A)の含水率が30重量%以下となるまで留去する。このとき得られた留去水(A)の電気伝導度を電気伝導度(A)μS/cmとする。
【0022】
(工程(2))
工程(2)は、前記得られた含水率が30重量%以下の前記ウエットケーキ(A)は、もう一度精製水で洗浄する。具体的には、前記含水率が30重量%以下の前記ウエットケーキ(A)の1重量部に対し10倍量以上の精製水を再度加え30分以上混合させる。このときの混合方法は工程(1)と同じ方法で構わない。
得られた有機溶剤可溶性染料ウエットケーキ(B)から、前記ウエットケーキ(B)の含水率が30重量%以下となるまで留去し、このとき得られた留去水(B)の電気伝導度を電気伝導度(B)μS/cmとする。このときの留去方法は工程(1)と同じ方法で構わない。
【0023】
最終的な精製染料を得るためには、この有機溶剤可溶性染料ウエットケーキ(B)を完全乾燥させなければならないが、係る方法は常法で行えばよく、たとえば、加熱乾燥機、減圧乾燥機等を使用し、40℃以上で処理すればよい。
【0024】
前記工程(1)で得た留去水(A)の電気伝導度(A)μS/cmと、前記工程(2)で得た留去水(B)の電気伝導度(B)μS/cmとは、式(1)と式(2)を満たす。
【0025】
【数5】
【0026】
【数6】

【0027】
式(1)は、工程(1)で不純物が有機溶剤可溶性染料から十分取り除かれているかどうかの指標を数値化したものである。式(1)の値が大きい、すなわちその差が大きいほど、工程(1)での精製効率は高く、不純物が取り除かれた良好な精製有機溶剤可溶性染料が得られたことを示す。
一方式(2)は、工程(1)で除去できなかった不純物量の一部を示している。本発明では工程(1)、工程(2)と水洗浄工程は2回行っているが、実質的に工程(1)で殆どの不純物を取り除けていない場合、得られるインクジェット記録用インクの保存安定性や吐出信頼性が確保できないことがあった。従って工程(1)ではできるだけ不純物が取り除けていることが好ましく、その指標を本発明では式(2)として数値化した。
【0028】
本発明においては、前記式(1)と式(2)とを満たす有機溶剤可溶性染料を使用する以外は特に限定なく、コンティニアス方式に使用するインクジェット記録用インクに使用する公知の原料を使用することができる。
【0029】
(有機溶剤)
本発明で前記有機溶剤可溶性染料の溶媒として使用する有機溶剤は、特に限定なく公知の有機溶剤を使用できるが、使用環境等の観点からより安全性の高いアルコール系有機溶剤を使用することが好ましく、前記炭素原子数が4以下の低級アルコールがなお好ましい。本発明に使用する低級アルコールは、炭素原子数4以下のものであり、具体的にはメタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、n−ブタノール、i−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノールが挙げられる。本発明においては、これらを1種又は2種以上混合して用いることができる。このうち、炭素原子数4以上の低級アルコール中のエタノール含量が60重量%以上であることが好ましく、70重量%以上であることがより好ましく、80重量%以上であることが特に好ましい。また、かかる炭素原子数4以上の低級アルコールの、本発明のジェットプリンター用インク中の含有量は、60重量%以上が好ましい。さらに、コンティニュアス方式のジェットプリンター用インクに用いる場合、インクの電気電導度を高めるためにジェットプリンター用インク中のエタノール含有量を60重量%以上、特に65重量%以上とすることが好ましい。このとき、精製水を添加して濃度を調整することができる。また、エタノールを85.5%含有する混合溶剤が変性アルコールという名称で販売されており、これを用いることもできる。
【0030】
また、前記アルコール系有機溶媒に加えて、エステル系溶剤を併用することも好ましい。エステル系溶媒は、有機溶剤可溶性染料の溶解性をさらに高め系中での安定性を高める効果がある。このようなエステル系溶媒としては、たとえばプロピレングリコールモノアルキルエーテルアルキレート、カルボン酸エステル、アルコキシカルボン酸エステル等が好ましい。プロピレングリコールモノアルキルエーテルアルキレートの、モノアルキルエーテルを構成するアルキル基の炭素原子数及びアルキレートを構成するアルキル基の炭素原子数は、1〜10であることが好ましく、1〜4であることがより好ましい。該アルキル基は直鎖状、分岐鎖状のいずれでもよい。このうち、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルプロピオネート、プロピレングリコールモノメチルエーテルブチレート等がさらにより好ましく、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートが特に好ましい。
【0031】
カルボン酸エステルとしては、カルボン酸残基を構成するアシル基の炭素原子数が2〜7であり、酸素原子に結合する基が炭素原子数1〜6のアルキル基であることが好ましい。該アシル基は直鎖状、分岐鎖状のいずれでもよい。このうち、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸アミル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、プロピオン酸イソプロピル、プロピオン酸ブチル、プロピオン酸アミル、プロピオン酸ヘキシル等がより好ましく、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、プロピオン酸イソプロピル、プロピオン酸ブチル、プロピオン酸アミル、プロピオン酸ヘキシル等がさらにより好ましく、プロピオン酸エチルが特に好ましい。アルコキシカルボン酸エステルは、カルボン酸残基の炭素原子に結合する水素原子の1個以上がアルコキシ基で置換されたものであり、アルコキシ基を構成するアルキル基の炭素原子数が1〜6であり、カルボン酸残基を構成するアシル基の炭素原子数が2〜7であり、酸素原子に結合する基が炭素原子数1〜6のアルキル基であることが好ましい。該アルキル基は直鎖状、分岐鎖状のいずれでもよい。このうち、メトキシプロピオン酸メチル、エトキシプロピオン酸エチル、プロポキシプロピオン酸メチル、ブトキシプロピオン酸メチル、イソブトキシプロピオン酸エチル、ペンチルオキシプロピオン酸ペンチル、ヘキシルオキシプロピオン酸ヘキシル等がより好ましく、エトキシプロピオン酸エチルが特に好ましい。本発明においては、これらのエステル系溶剤を1種又は2種以上用いることができる。これらのエステル系溶剤の含有量は、低温での有機溶剤可溶性染料の溶解安定性の点から、有機溶剤可溶性染料の含有重量に対し50重量%以上、特に60重量%以上であることが好ましい。
【0032】
本発明においては、使用する有機溶剤可溶性染料は水にほぼ溶解しないことから、媒体中には水を実質的に含まないことが好ましく、含んでも5重量%以下であることが好ましい。
【0033】
また、ケトン系溶剤は実質的に含有しないことが好ましく、含んでも0.1重量%以下とすることが好ましく、全く含有しないことが特に好ましい。ケトン系溶剤を実質的に含有しないものであれば、毒性の低いコンティニアス用インクジェット記録用インクを得ることができる。
【0034】
(バインダー樹脂)
本発明で使用するバインダー樹脂は、記録媒体にインクを定着させる機能を有する。本発明に使用するバインダーとしての樹脂は,使用する有機溶媒に可溶性であり、かつ低温における溶解安定性が良好なものであれば特に問題なく使用できる。具体的にはスチレンアクリル樹脂、スチレンマレイン酸樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、テルペンフェノール樹脂、ポリエステル樹脂、ロジンマレイン酸樹脂、ケトン樹脂、セルロース系樹脂、ロジンエステル等が挙げられるが,これらに限定されるものではない。また、これらの樹脂は1種又は2種類以上混合して用いることもできる。これらの樹脂の含有量は、インクに適度な粘度を与える点,および印刷皮膜に良好な耐摩耗性,耐水性等の皮膜性能を与える点から、インク全量に対し5〜15重量%、特に7〜10重量%が好ましい。
【0035】
(導電性付与剤)
本発明のコンティニアス用インクジェット記録用インクは導電性付与剤を併用することが好ましい。本発明に使用できる導電性付与剤としては、硝酸リチウム、硝酸ナトリウム、硝酸アンモニウム、硝酸テトラメチルアンモニウム、過塩素酸リチウム、過塩素酸ナトリウム、過塩素酸アンモニウム、過塩素酸テトラメチルアンモニウム、テトラフェニルホウ酸リチウム、テトラフェニルホウ酸ナトリウム、テトラフェニルホウ酸アンモニウム、テトラフェニルホウ酸テトラメチルアンモニウム等が好ましい
【0036】
これら導電性付与剤の使用量は特に限定なく通常知られた範囲内で使用できる。一般的に導電性付与剤を除いたインク全量100質量部に対して0.01〜8質量部の範囲が好ましく、より好ましくは0.2〜4質量部である。
【0037】
(その他添加剤)
本発明のコンティニアス用インクジェット記録用インクは、得られるインク皮膜の耐摩耗性,耐転写性,耐スクラッチ性等の印字皮膜性能を高めるために、シリコーン系化合物、フッ素系化合物等であって、本発明に使用する混合溶剤に可溶な化合物を添加することができる。
シリコーン系化合物としては、シリコーンオイル、変性シリコーンオイル、シリコーンレジン等が挙げられる。具体的には、信越化学工業製のKF−56(シリコーンオイル)、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ製のTSF−410(高級脂肪酸変性シリコーンオイル)、TSF−4446、4460(ポリエーテル変性シリコーンオイル)、TSF−4710(アミノ変性シリコーンオイル)、信越化学工業製のKP−316、360A(シリコーンレジン)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。本発明においては、これらを1種又は2種以上混合して用いることができる。
【0038】
フッ素系化合物としては、フッ素系界面活性剤等が挙げられる。具体的には、DIC(株)製のメガファックF−470、F−173、F−177等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。本発明においては、これらを1種又は2種類以上混合して用いることができる。また、上記のシリコーン系化合物と混合して用いることもできる。
【0039】
本発明のコンティニアス用インクジェット記録用インクは、各原料を混合し、十分に撹拌、溶解した後、必要に応じて濾過することによって調製することができる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下の記述中の「部」は重量部を表す。
【0041】
(実施例1)
乾燥させた有機溶剤可溶性染料としてソルベントブラック29(BASF(株)製 製品名「Orazol Black X55」)12部、精製水150部を、分散撹拌機(ディスパミル)を用いて、60分間、ソルベントブラック29を精製水中に十分巻き込むように混合撹拌し、ソルベントブラック29のウエットケーキ(A1)を得た。その後ヌッチェによる減圧ろ過で、その含水率が20重量%になるまで前記ウエットケーキ(A1)を水とろ別、留去水(A1)を採取した。この際、ろ別した留去水(A1)の電気伝導度は、120μS/cmであった。
続いて、得られた含水率20重量%の前記ウエットケーキ(A1)15部、精製水150部を再び、分散撹拌機(ディスパミル)を用いて、60分間、ウエットケーキ(A1)を精製水中に十分巻き込むように混合撹拌しウエットケーキ(B1)を得た。その後ヌッチェによる減圧ろ過で、その含水率が20重量%になるまで前記ウエットケーキ(B1)を水とろ別、留去水(B1)を採取した。この際得られた留去水(B1)の電気伝導度は、20μS/cmであった。最後に、得られた前記ウエットケーキ(B1)を50℃の加熱乾燥機を用いて、完全乾燥させて精製ブラック染料(1)を完成させた。
このときの留去水(A1)、留去水(B1)の電気伝導度の関係は表1に示した。
【0042】
続いて、エタノール83.0部に、スチレンアクリル樹脂(BASF(株)製 製品名「ジョンクリル67」)を6.3部、導電性付与剤である硝酸リチウムを0.4部、シリコーン系化合物であるポリエーテル変性シリコーンオイル(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ製 製品名「TSF−4460」)を0.2部、エステル系溶媒であるプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートを4.5部加えて、分散撹拌機(ディスパミル)を用いて、60分間、混合撹拌し、樹脂等を完全溶解させた。その後、完全乾燥させた精製ブラック染料(1)を5.6部加えて、更に60分間、混合撹拌し、染料を完全溶解させ、0.45μmのメンブランフィルターを用いて、ろ過することにより、コンティニアス用インクジェット記録用ブラックインク(1)を作製した。
【0043】
得られたブラックインク(1)の高温/低温保存安定性を粘度変化率で評価したところ、初期粘度(20℃)3.04mPa・sに対して、高温環境下の60℃では、720時間後の粘度(20℃)が、3.08mPa・sとなり、その粘度変化率は、+1.3%であった。尚、粘度変化率は以下の計算式で算出した。
【0044】
【数7】
【0045】
同様に、低温環境下の−5℃では、720時間後の粘度(20℃)が、3.05mPa・sとなり、その粘度変化率は、+0.3%であった。何れの環境下においても、良好な保存安定性を有すると確認出来た。
【0046】
更に保存安定性試験後のブラックインク(1)をポアサイズ0.6ミクロン径のメンブレンフィルタでろ過したが、何れの劣化インクもフィルタ上に残存する析出物もなく、良好であった。
【0047】
又、得られたブラックインク(1)を用いて、吐出安定性を評価したが、1500時間の連続吐出試験で、ビーム曲がりやノズル閉塞を起こすことはなかった。
【0048】
このときのインクの初期粘度、高温/低温保存安定性試験後の粘度変化率、劣化インクの析出物および連続吐出試験での不具合の有無の関係は表2に示した。
【0049】
(実施例2)
乾燥させた有機溶剤可溶性染料としてソルベントブラック43(保土ヶ谷化学工業(株)製 製品名「Aizen Spilon Black GMH Special」)10部、精製水150部を、分散撹拌機(ディスパミル)を用いて、45分間、ソルベントブラック43を精製水中に十分巻き込むように混合撹拌しソルベントブラック43のウエットケーキ(A2)を得た。その後ヌッチェによる減圧ろ過で、その含水率が22重量%になるまで前記ウエットケーキ(A2)を水とろ別、留去水(A2)を採取した。この際、ろ別した留去水(A2)の電気伝導度は、95μS/cmであった。
続いて、得られた含水率22重量%の前記ウエットケーキ(A2)12.2部、精製水150部を再び、分散撹拌機(ディスパミル)を用いて、45分間、ウエットケーキ(A2)を精製水中に十分巻き込むように混合撹拌しウエットケーキ(B2)を得た。その後ヌッチェによる減圧ろ過で、その含水率が23重量%になるまで前記ウエットケーキ(B2)を水とろ別、留去水(B2)を採取した。この際得られた留去水(B2)の電気伝導度は、16μS/cmであった。最後に、得られた前記ウエットケーキ(B2)を50℃の加熱乾燥機を用いて、完全乾燥させて精製ブラック染料(2)を完成させた。
このときの留去水(A2)、留去水(B2)の電気伝導度の関係は表1に示した。
【0050】
続いて、エタノール87.4部に、ロジンマレイン樹脂(DIC(株)製 製品名「ベッカサイトP720」)を6.2部、導電性付与剤である硝酸リチウムを0.7部、シリコーン系化合物であるポリエーテル変性シリコーンオイル(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ製 製品名「TSF−4460」)を0.2部、分散撹拌機(ディスパミル)を用いて、60分間、混合撹拌し、樹脂等を完全溶解させた。その後、完全乾燥させた精製ブラック染料(2)を5.5部加えて、更に60分間、混合撹拌し、染料を完全溶解させ、0.45μmのメンブランフィルターを用いて、ろ過することにより、コンティニアス用インクジェット記録用ブラックインク(2)を作製した。
【0051】
得られたブラックインク(2)の高温/低温保存安定性を粘度変化率で評価したところ、初期粘度(20℃)2.99mPa・sに対して、高温環境下の60℃では、720時間後の粘度(20℃)が、3.03mPa・sとなり、その粘度変化率は、+1.3%であった。同様に、低温環境下の−5℃では、720時間後の粘度(20℃)が、2.98mPa・sとなり、その粘度変化率は、−0.3%であった。何れの環境下においても、良好な保存安定性を有すると確認出来た。
【0052】
更に保存安定性試験後のブラックインクをポアサイズ0.6ミクロン径のメンブレンフィルタでろ過したが、何れの劣化インクもフィルタ上に残存する析出物もなく、良好であった。
【0053】
又、得られたブラックインク(2)を用いて、吐出安定性を評価したが、1500時間の連続吐出試験で、ビーム曲がりやノズル閉塞を起こすことはなかった。
【0054】
このときのインクの初期粘度、高温/低温保存安定性試験後の粘度変化率、劣化インクの析出物および連続吐出試験での不具合の有無の関係は表2に示した。
【0055】
(比較例1)
乾燥させた有機溶剤可溶性染料としてソルベントブラック29(BASF(株)製 製品名「Orazol Black X55」)15部、精製水100部を、分散撹拌機(ディスパミル)を用いて、20分間、ソルベントブラック29を精製水中に十分巻き込むように混合撹拌しソルベントブラック29のウエットケーキ(AH1)を得た。その後ヌッチェによる減圧ろ過で、その含水率が30重量%になるまで前記ウエットケーキ(AH1)を水とろ別、留去水(AH1)を採取した。この際、ろ別した留去水(AH1)の電気伝導度は、75μS/cmであった。続いて、得られた含水率30重量%の前記ウエットケーキ(AH1)15部、精製水90部を再び、分散撹拌機(ディスパミル)を用いて、25分間、前記ウエットケーキ(AH1)を精製水中に十分巻き込むように混合撹拌しウエットケーキ(BH1)を得た。その後ヌッチェによる減圧ろ過で、その含水率が25重量%になるまで前記ウエットケーキ(BH1)を水とろ別、留去水(BH1)を採取した。この際得られた留去水(BH1)の電気伝導度は、48μS/cmであった。最後に、得られた前記ウエットケーキ(BH1)を50℃の加熱乾燥機を用いて、完全乾燥させて精製ブラック染料(H1)を完成させた。
このときの留去水(AH1)、留去水(BH1)の電気伝導度の関係は表1に示した。
【0056】
続いて、完全乾燥させた精製ブラック染料(H1)を用いる以外は実施例1と同様のブラックインク組成、手法でコンティニアス用インクジェット記録用ブラックインク(H1)を作製した。
【0057】
得られたブラックインク(H1)の高温/低温保存安定性を粘度変化率で評価したところ、初期粘度(20℃)3.00mPa・sに対して、高温環境下の60℃では、720時間後の粘度(20℃)が、3.21mPa・sとなり、その粘度変化率は、+7.0%であった。同様に、低温環境下の−5℃では、720時間後の粘度(20℃)が、3.02mPa・sとなり、その粘度変化率は、+0.6%であった。特に高温環境下での保存安定性が不良であると確認出来た。
【0058】
更に保存安定性試験後のブラックインク(H1)をポアサイズ0.6ミクロン径のメンブレンフィルタでろ過したところ、低温環境下で保存した劣化インクで、フィルタ上に多数の析出物が発現するなど、実使用に耐えるものではなかった。
【0059】
又、得られたブラックインク(H1)を用いて、吐出安定性を評価したが、約600時間の連続吐出試験で、激しいビーム曲がりとノズル閉塞を起こし、実使用に耐えるものではなかった。
【0060】
このときのインクの初期粘度、高温/低温保存安定性試験後の粘度変化率、劣化インクの析出物および連続吐出試験での不具合の有無の関係は表2に示した。
【0061】
(比較例2)
乾燥させた有機溶剤可溶性染料としてソルベントブラック43(保土ヶ谷化学工業(株)製 製品名「Aizen Spilon Black GMH Special」)10部、精製水80部を、分散撹拌機(ディスパミル)を用いて、15分間、ソルベントブラック43を精製水中に十分巻き込むように混合撹拌しソルベントブラック43のウエットケーキ(AH2)を得た。その後ヌッチェによる減圧ろ過で、その含水率が28重量%になるまで前記ウエットケーキ(AH2)を水とろ別、留去水を採取した。この際、ろ別した留去水(AH2)の電気伝導度は、55μS/cmであった。
続いて、得られた含水率28重量%の前記ウエットケーキ(AH2)15部、精製水75部を再び、分散撹拌機(ディスパミル)を用いて、25分間、前記ウエットケーキ(AH2)を精製水中に十分巻き込むように混合撹拌した。その後ヌッチェによる減圧ろ過で、その含水率が30重量%になるまで前記ウエットケーキ(BH2)を水とろ別、留去水(BH2)を採取した。この際得られた留去水(BH2)の電気伝導度は、35μS/cmであった。最後に、得られた前記ウエットケーキ(BH2)を50℃の加熱乾燥機を用いて、完全乾燥させて精製ブラック染料(H2)を完成させた。このときの留去水(AH2)、留去水(BH2)の電気伝導度の関係は表1に示した。
【0062】
続いて、完全乾燥させた精製ブラック染料(H2)を用いる以外は実施例2と同様のブラックインク組成、手法でコンティニアス用インクジェット記録用ブラックインク(H2)を作製した。
【0063】
得られたブラックインク(H2)の高温/低温保存安定性を粘度変化率で評価したところ、初期粘度(20℃)3.01mPa・sに対して、高温環境下の60℃では、720時間後の粘度(20℃)が、3.34mPa・sとなり、その粘度変化率は、+11.0%であった。同様に、低温環境下の−5℃では、720時間後の粘度(20℃)が、3.02mPa・sとなり、その粘度変化率は、+0.3%であった。特に高温環境下での保存安定性が不良であると確認出来た。
【0064】
更に保存安定性試験後のブラックインクをポアサイズ0.6ミクロン径のメンブレンフィルタでろ過したところ、低温環境下で保存した劣化インクで、フィルタ上に多数の析出物が発現するなど、実使用に耐えるものではなかった。
【0065】
又、得られたブラックインク(H2)を用いて、吐出安定性を評価したが、約450時間の連続吐出試験で、激しいビーム曲がりとノズル閉塞を起こし、実使用に耐えるものではなかった。
【0066】
このときのインクの初期粘度、高温/低温保存安定性試験後の粘度変化率、劣化インクの析出物および連続吐出試験での不具合の有無の関係は表2に示した。
【0067】
一連の結果を以下、表1、表2に記す。
【0068】
【表1】
【0069】
【表2】

【0070】
表1、2の結果の通り、本発明で得た実施例のコンティニアス用インクジェット記録用ブラックは、良好な保存安定性(粘度変化率が±2%以内と小さく、試験環境下で劣化させたインクのろ過試験で析出物は発生しない)と、連続吐出信頼性を保持していることが確認出来た。
【0071】
これに対して、比較例に示したコンティニアス用インクジェット記録用ブラックは、保存安定性(粘度変化率が±5%を超え、試験環境下で劣化させたインクのろ過試験で析出物が多量に発生)、更に、激しいビーム曲がりとノズル閉塞を起こす等連続吐出信頼性、両者において不良となり、実使用に耐えうるものではなかった。