(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
  前記近赤外線吸収微粒子の表面が、Si、Ti、Al、Zrから選択される1種以上の化合物で被覆されていることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の近赤外線吸収微粒子分散液。
  近赤外線吸収微粒子を、アルコール類、エーテル類、エステル類、ケトン類、芳香族炭化水素類、グリコールエーテル類とから選択される1種以上の溶剤であって沸点180℃以下の溶剤へ混合し湿式媒体ミルで分散処理して、第1の分散液を得る工程と、
  前記第1の分散液へ、植物油または植物油由来の化合物から選択される1種類以上の溶剤を添加、混合して、第2の分散液を得る工程と、前記第2の分散液から、前記アルコール類、エーテル類、エステル類、ケトン類、芳香族炭化水素類、グリコールエーテル類とから選択される1種以上の溶剤であって沸点180℃以下の溶剤の含有量が5質量%以下となるまで、前記アルコール類、エーテル類、エステル類、ケトン類、芳香族炭化水素類、グリコールエーテル類とから選択される1種以上の溶剤を除去する工程とを有することを特徴とする近赤外線吸収微粒子分散液の製造方法。
  アルコール類、エーテル類、エステル類、ケトン類、芳香族炭化水素類、グリコールエーテル類とから選択される1種以上の溶剤であって沸点180℃以下の溶剤と、植物油または植物油由来の化合物から選択される1種類以上の溶剤を混合して、混合溶剤を得る工程と、
  近赤外線吸収微粒子を、前記混合溶剤へ混合し湿式媒体ミルで分散処理して、第3の分散液を得る工程と、
  前記第3の分散液から、前記アルコール類、エーテル類、エステル類、ケトン類、芳香族炭化水素類、グリコールエーテル類とから選択される1種以上の溶剤であって沸点180℃以下の溶剤を、含有量が5質量%以下となるまで除去する工程とを有することを特徴とする近赤外線吸収微粒子分散液の製造方法。
  前記植物油または植物油由来の化合物から選択される1種類以上の溶剤の少なくとも1種以上へ、当該溶剤に可溶な脂肪酸を構造中に有する分散剤を加えることを特徴とする請求項10から13のいずれかに記載の近赤外線吸収微粒子分散液の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
  本発明者らの検討によれば、特許文献1に用いられているフタロシアニン化合物のような有機顔料は、温度や紫外線等の影響によってその赤外線吸収特性が変化してしまい、耐久性に劣るという問題を有している。
  また、特許文献2に用いられている錫ドープ酸化インジウムを用いた赤外線吸収材料は、可視光として透過または反射する波長領域と、赤外光として吸収する波長領域とにおけるコントラストが不十分な為、印刷部の読み取り精度などが低下する問題があった。
【0009】
  一方、特許文献3に記載の近赤外線吸収微粒子は、トルエン等の有機溶剤に分散されている為、ゴム製のブランケットを溶解する可能性が有りオフセット印刷用として用いることは出来なかった。
  そこで、本発明者らは、オフセット印刷用の溶媒として用いられる植物油や植物油由来の化合物へ、一般式M
xW
yO
zで表記される複合タングステン酸化物微粒子や、一般式W
yO
zで表記されるマグネリ相を有する酸化タングステン微粒子という近赤外線吸収微粒子を添加し分散させることを試行した。しかしながら、分散液の粘性が上昇してしまい、近赤外線吸収微粒子を粉砕したり、溶剤中へ分散させることが困難になるという問題を知見した。
【0010】
  本発明は、このような状況の下になされたものであり、その解決しようとする課題は、近赤外線領域の吸収能力を有し、コントラストが明確なオフセット印刷へ適用可能な近赤外線吸収微粒子分散液と、その製造方法を提供することである。
 
【課題を解決するための手段】
【0011】
  上記課題を解決するため、本発明者らが鋭意研究を行った結果、植物油または植物油由来の化合物から選択される1種類以上の溶剤へ近赤外線吸収微粒子を添加して、粉砕し分散させるのではなく、まず、当該近赤外線吸収微粒子を、アルコール類、エーテル類、エステル類、ケトン類、芳香族炭化水素類、グリコールエーテル類とから選択される1種以上の溶剤であって沸点180℃以下の溶剤(以下、本発明において「第1の溶剤」と記載する場合がある。)に添加して粉砕し分散させ、さらに、第1の溶剤を、植物油または植物油由来の化合物から選択される1種類以上の溶剤(以下、本発明において「第2の溶剤」と記載する場合がある。)へと溶剤置換する、という構成に想到して本発明を完成した。
【0012】
  即ち、上述の課題を解決する第1の発明は、
  植物油または植物油由来の化合物から選択される1種類以上の溶剤と、
  M
xW
yO
zで表記される複合タングステン酸化物(Mは、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iのうちから選択される1種類以上の元素で、Wはタングステン、Oは酸素で、0.001≦x/y≦1、2.2≦z/y≦3.0)、または、一般式W
yO
zで表記されるマグネリ相を有するタングステン酸化物(Wはタングステン、Oは酸素、2.45≦z/y≦2.999)から選択される1種以上の近赤外線吸収微粒子と、
  アルコール類、エーテル類、エステル類、ケトン類、芳香族炭化水素類、グリコールエーテル類とから選択される1種以上の溶剤であって沸点180℃以下の溶剤と、を含み、
  
前記植物油または植物油由来の化合物から選択される1種類以上の溶剤に可溶で、脂肪酸を構造中に有する分散剤と、を含み、
  
前記複合タングステン酸化物の濃度が25質量%以上75質量%以下であり、
  前記アルコール類、エーテル類、エステル類、ケトン類、芳香族炭化水素類、グリコールエーテル類とから選択される1種以上の溶剤の含有量が5質量%以下であることを特徴とする近赤外線吸収微粒子分散液である。
  
第2の発明は
  前記分散剤のアンカー部が2級アミノ基、3級アミノ基、および、4級アンモニウム基のうち1種類以上を含むことを特徴とする
第1の発明に記載の近赤外線吸収微粒子分散液である。
  
第3の発明は、
  前記分散剤の酸価が1mgKOH/g以上の分散剤であることを特徴とする
第1または第2の発明に記載の近赤外線吸収微粒子分散液である。
  
第4の発明は、
  前記近赤外線吸収微粒子の分散粒子径が1nm以上200nm以下であることを特徴とする
第1から第3の発明のいずれかに記載の近赤外線吸収微粒子分散液である。
  
第5の発明は、
  
植物油または植物油由来の化合物から選択される1種類以上の溶剤と、
  MxWyOzで表記される複合タングステン酸化物(Mは、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iのうちから選択される1種類以上の元素で、Wはタングステン、Oは酸素で、0.001≦x/y≦1、2.2≦z/y≦3.0)、または、一般式WyOzで表記されるマグネリ相を有するタングステン酸化物(Wはタングステン、Oは酸素、2.45≦z/y≦2.999)から選択される1種以上の近赤外線吸収微粒子と、
  アルコール類、エーテル類、エステル類、ケトン類、芳香族炭化水素類、グリコールエーテル類とから選択される1種以上の溶剤であって沸点180℃以下の溶剤と、を含み、
  前記近赤外線吸収微粒子の分散粒子径が1nm以上200nm以下であり、
  前記アルコール類、エーテル類、エステル類、ケトン類、芳香族炭化水素類、グリコールエーテル類とから選択される1種以上の溶剤の含有量が5質量%以下であることを特徴とする近赤外線吸収微粒子分散液である。
  第6の発明は、
  前記M
xW
yO
zで表記される近赤外線吸収微粒子が、六方晶の結晶構造を含む、または六方晶の結晶構造からなることを特徴とする第1から第5の発明のいずれかに記載の近赤外線吸収微粒子分散液である。
  第7の発明は、
  前記M
xW
yO
zで表記される近赤外線吸収微粒子の格子定数が、a軸は0.74060nm以上0.74082nm以下、c軸は0.76106nm以上0.76149nm以下であることを特徴とする第1から第6の発明のいずれかに記載の近赤外線吸収微粒子分散液である。
  第8の発明は、
  前記近赤外線吸収微粒子の表面が、Si、Ti、Al、Zrから選択される1種以上の化合物で被覆されていることを特徴とする第1から第7の発明のいずれかに記載の近赤外線吸収微粒子分散液である。
  第9の発明は、
  前記植物油が、乾性油、半乾性油から選択される1種類以上の植物油であることを特徴とする第1から第8の発明のいずれかに記載の近赤外線吸収微粒子分散液である。
  第10の発明は、
  近赤外線吸収微粒子を、アルコール類、エーテル類、エステル類、ケトン類、芳香族炭化水素類、グリコールエーテル類とから選択される1種以上の溶剤であって沸点180℃以下の溶剤へ混合し湿式媒体ミルで分散処理して、第1の分散液を得る工程と、
  前記第1の分散液へ、植物油または植物油由来の化合物から選択される1種類以上の溶剤を添加、混合して、第2の分散液を得る工程と、前記第2の分散液から、前記アルコール類、エーテル類、エステル類、ケトン類、芳香族炭化水素類、グリコールエーテル類とから選択される1種以上の溶剤であって沸点180℃以下の溶剤の含有量が5質量%以下となるまで、前記アルコール類、エーテル類、エステル類、ケトン類、芳香族炭化水素類、グリコールエーテル類とから選択される1種以上の溶剤を除去する工程とを有することを特徴とする近赤外線吸収微粒子分散液の製造方法である。
  第11の発明は、
  前記第1の分散液における近赤外線吸収微粒子濃度が5質量%以上50質量%以下であることを特徴とする第10の発明に記載の近赤外線吸収微粒子分散液の製造方法である。
  第12の発明は、
  アルコール類、エーテル類、エステル類、ケトン類、芳香族炭化水素類、グリコールエーテル類とから選択される1種以上の溶剤であって沸点180℃以下の溶剤と、植物油または植物油由来の化合物から選択される1種類以上の溶剤を混合して、混合溶剤を得る工程と、
  近赤外線吸収微粒子を、前記混合溶剤へ混合し湿式媒体ミルで分散処理して、第3の分散液を得る工程と、
  前記第3の分散液から、前記アルコール類、エーテル類、エステル類、ケトン類、芳香族炭化水素類、グリコールエーテル類とから選択される1種以上の溶剤であって沸点180℃以下の溶剤を、含有量が5質量%以下となるまで除去する工程とを有することを特徴とする近赤外線吸収微粒子分散液の製造方法である。
  第13の発明は、
  前記第3の分散液における近赤外線吸収微粒子濃度が5質量%以上50質量%以下であることを特徴とする第12の発明に記載の近赤外線吸収微粒子分散液の製造方法である。
  第14の発明は、
  前記植物油または植物油由来の化合物から選択される1種類以上の溶剤の少なくとも1種以上へ、当該溶剤に可溶な脂肪酸を構造中に有する分散剤を加えることを特徴とする第10から第13の発明のいずれかに記載の近赤外線吸収微粒子分散液の製造方法である。
 
【発明の効果】
【0013】
  本発明に係る近赤外線吸収微粒子分散液は、近赤外線領域の吸収能力を有しコントラストが明確なオフセット印刷へ容易に適用することが出来る。
 
 
【発明を実施するための形態】
【0015】
  本発明を実施するための形態について、近赤外線吸収微粒子、溶剤(第1の溶剤、第2の溶剤)、分散剤、近赤外線吸収微粒子の溶剤(第1の溶剤、第2の溶剤)への分散方法、近赤外線吸収微粒子分散液、の順で詳細に説明する。
 
【0016】
1.近赤外線吸収微粒子
  本発明に用いられる近赤外線吸収微粒子は、M
xW
yO
zで表記される複合タングステン酸化物(Mは、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iのうちから選択される1種類以上の元素で、Wはタングステン、Oは酸素で、0.001≦x/y≦1、2.2≦z/y≦3.0)、または、一般式W
yO
zで表記されるマグネリ相を有するタングステン酸化物(Wはタングステン、Oは酸素、2.45≦z/y≦2.999)から選択される1種以上である。
  尚、アルカリ金属は水素を除く周期表第1族元素、アルカリ土類金属は周期表第2族元素、希土類元素はSc、Yおよびランタノイド元素である。
 
【0017】
  本発明に用いられる近赤外線吸収微粒子が、M
xW
yO
zで表記される複合タングステン酸化物の場合、元素Mが添加されている。この為、z/y=3.0の場合も含めて自由電子が生成され、近赤外線領域に自由電子由来の吸収特性が発現し、波長1000nm付近の近赤外線吸収材料として有効となる。
 
【0018】
  特に、近赤外線吸収材料としての光学特性を向上、および、耐候性を向上させる観点から、M元素が、Cs、Rb、K、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe、Snのうちの1種類以上であることが好ましく、さらにM元素がCsであることがより好ましい。
  また、Cs
xW
yO
z(0.25≦x/y≦0.35、2.2≦z/y≦3.0)の場合、格子定数がa軸は0.74060nm以上0.74082nm以下で、c軸が0.76106nm以上0.76149nm以下であることが好ましい。格子定数が前記の範囲内にあると、特に光学特性や耐候性に優れた近赤外線吸収微粒子が得られる。格子定数は、例えばXRDパターンのデータを基にリートベルト解析を行うことで求めることができる。
  また、当該複合タングステン酸化物が、シランカップリング剤で処理されていることも好ましい。優れた分散性が得られ、優れた近赤外線吸収機能、可視光領域における透明性が得られるからである。
 
【0019】
  元素Mの添加量を示すx/yの値が0.001より大きければ、十分な量の自由電子が生成され近赤外線吸収効果を十分に得ることが出来る。元素Mの添加量が多いほど、自由電子の供給量が増加し、近赤外線吸収効果も上昇するが、x/yの値が1程度で飽和する。また、x/yの値が1より小さければ、微粒子含有層中に不純物相が生成されるのを回避できるので好ましい。
  次に、酸素量の制御を示すz/yの値については、M
xW
yO
zで表記される複合タングステン酸化物においても、上述のW
yO
zで表記されるタングステン酸化物と同様の機構が働くことに加え、z/y=3.0においても、上述した元素Mの添加量による自由電子の供給があるため、2.2≦z/y≦3.0が好ましく、さらに好ましくは2.45≦z/y≦3.0である。
  尚、本発明に係る複合タングステン酸化物やタングステン酸化物の製造時に使用する原料化合物に由来して、当該複合タングステン酸化物やタングステン酸化物を構成する酸素原子の一部がハロゲン原子に置換している場合があるが、本発明の実施において問題はない。そこで、本発明に係る複合タングステン酸化物やタングステン酸化物には、酸素原子の一部がハロゲン原子に置換している場合も含むものである。
 
【0020】
  さらに、近赤外線吸収微粒子である当該複合タングステン酸化物微粒子が六方晶の結晶構造を有する場合、当該微粒子の可視光領域の透過が向上し、近赤外領域の吸収が向上する。
  この六角形の空隙に元素Mの陽イオンが添加されて存在するとき、可視光領域の透過が向上し、近赤外領域の吸収が向上する。ここで、一般的には、イオン半径の大きな元素Mを添加したとき当該六方晶が形成され、具体的には、Cs、K、Rb、Tl、In、Ba、Sn、Li、Ca、Sr、Feを添加したとき六方晶が形成されやすい。勿論これら以外の元素でも、WO
6単位で形成される六角形の空隙に添加元素M が存在すれば良く、上記元素に限定される訳ではない。
  六方晶の結晶構造を有する複合タングステン酸化物微粒子が均一な結晶構造を有するとき、添加元素Mの添加量は、x/yの値で0.2以上0.5以下が好ましく、更に好ましくは0.30以上0.35以下であり、理想的には0.33である。x/yの値が0.33となることで、添加元素Mが、六角形の空隙の全てに配置されると考えられる。
 
【0021】
  また、六方晶以外では、正方晶、立方晶のタングステンブロンズも近赤外線吸収効果がある。そして、これらの結晶構造によって、近赤外線領域の吸収位置が変化する傾向があり、立方晶<正方晶<六方晶の順に、吸収位置が長波長側に移動する傾向がある。また、それに付随して可視光線領域の吸収が少ないのは、六方晶<正方晶<立方晶の順である。このため、より可視光領域の光を透過して、より近赤外線領域の光を吸収する用途には、六方晶のタングステンブロンズを用いることが好ましい。
 
【0022】
  次に、W
yO
zと表記されるタングステン酸化物において、2.45≦z/y≦2.999で表される組成比を有する所謂「マグネリ相」は、化学的に安定であり、近赤外線領域の吸収特性も良いので、近赤外線吸収材料として好ましい。
 
【0023】
  本発明に係る近赤外線吸収微粒子は、近赤外線領域、特に波長1000nm付近の光を大きく吸収するため、その透過色調は青色系から緑色系となる物が多い。また、当該近赤外線吸収材料の粒子の分散粒子径は、その使用目的によって、各々選定することができる。まず、透明性を保持した応用に使用する場合は、2000nm以下の分散粒子径を有していることが好ましい。これは、分散粒子径が2000nm以下であれば、透過率のピークと近赤外線領域の吸収とのボトムの差が大きくなり、可視光領域の透明性を有する近赤外線吸収材料としての効果が発揮出来るからである。さらに分散粒子径が2000nmよりも小さい粒子は、散乱により光を完全に遮蔽することが無く、可視光線領域の視認性を保持し、同時に効率良く透明性を保持することが出来るからである。
 
【0024】
  さらに可視光領域の透明性を重視する場合は、粒子による散乱を考慮することが好ましい。具体的には、近赤外線吸収微粒子の分散粒子径は200nm以下、好ましくは100nm以下が良い。理由は分散粒子径が小さければ、幾何学散乱もしくはミー散乱による、波長400nm〜780nmの可視光線領域の光の散乱が低減される結果、近赤外線吸収膜が曇りガラスのようになり、鮮明な透明性が得られなくなるのを回避できるからである。即ち、近赤外線吸収微粒子の分散粒子径が200nm以下になると、上記幾何学散乱もしくはミー散乱が低減し、レイリー散乱領域になる。レイリー散乱領域では、散乱光は分散粒子径の6乗に反比例して低減するため、分散粒子径の減少に伴い散乱が低減し透明性が向上するからである。さらに分散粒子径が100nm以下になると、散乱光は非常に少なくなり好ましい。光の散乱を回避する観点からは、分散粒子径が小さい方が好ましい。一方、分散粒子径が1nm以上あれば工業的な製造は容易である。
 
【0025】
  また、本発明の近赤外線吸収材料を構成する微粒子の表面が、Si、Ti、Zr、Alの一種類以上を含有する酸化物で被覆されていることは、当該近赤外線吸収材料の耐候性の向上の観点から好ましい。
 
【0026】
2.溶剤
〈第1の溶剤〉
  本発明に用いられる第1の溶剤は、本発明に係る近赤外線吸収材料を微粒子に粉砕し、溶剤中に分散させる工程に適した溶剤である。具体的には、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコール、ジアセトンアルコールなどのアルコール類、メチルエーテル,エチルエーテル,プロピルエーテルなどのエーテル類、エステル類、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、シクロヘキサノン、エチルイソブチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類、トルエン、キシレン、ベンゼンなどの芳香族炭化水素類、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルなどのグリコールエーテル類といった各種の有機溶媒であって、後述する第2の溶剤と相溶するものが好ましい。
  なかでも、アルコール類、グリコールエーテル類は、人体への健康有害性が低く、工程での安全性や操作性の観点から好ましい溶剤である。また、メチルイソブチルケトンやトルエンは作業性に優れ、生産性向上の観点から好ましい溶剤である。
 
【0027】
  具体的には、これら第1の溶剤として低沸点の溶剤を用い、後述する第2の溶剤との間に沸点の差を設け、加熱蒸留によって第1の溶剤の含有量を削減することが考えられる。
  当該加熱蒸留による溶媒置換を行うのであれば、第1の溶剤の沸点は180℃以下であることが好ましいと考えられる。
 
【0028】
〈第2の溶剤〉
  本発明に用いられる第2の溶剤は、非水溶性であり、かつ、オフセット印刷において用いられるゴム製のブランケットを溶解しないことが求められる。具体的には、植物油、植物油由来の化合物から選択される1種類以上からなる溶剤が用いられる。
  植物油としては、アマニ油、ヒマワリ油、桐油等の乾性油、ゴマ油、綿実油、菜種油、大豆油、米糠油等の半乾性油、オリーブ油、ヤシ油、パーム油、脱水ヒマシ油等の不乾性油が用いられる。植物油由来の化合物としては、植物油の脂肪酸とモノアルコールを直接エステル反応させた脂肪酸モノエステル、エーテル類などが用いられる。
 
【0029】
  上述した、植物油、植物油由来の化合物は、構成成分である油脂の脂肪酸中に二重結合を含んでいる。この二重結合が空気中の酸素と反応することで、二重結合間の重合反応が進行する。また、油の分子同士の重合反応や、油の分子とオフセット印刷用の顔料成分等との重合反応によって結合することで、オフセット印刷後の塗膜が固化する。
  当該固化は、脂肪酸中の二重結合が多い程速くなるが、当該脂肪酸中の二重結合はヨウ素価により評価される。即ち、植物油、植物油由来の化合物の固化は、ヨウ素価が高い程早くなる。具体的には、乾性油ではヨウ素価が130以上、半乾性油では130〜100、不乾性油では100以下である。そして、オフセット印刷に用いる植物油、植物油由来の化合物としては、半乾性油、ヨウ素価が130以上であるアマニ油、ヒマワリ油、桐油等の乾性油から選択される1種以上が好ましい。
 
【0030】
3.分散剤
  前記近赤外線吸収微粒子を前記溶剤中に分散させる分散剤は、脂肪酸の構造を有するものが好ましい。さらに、当該分散剤は、上述した本発明に係る溶剤に可溶であることが求められる。
  また、当該分散剤の構造は、特に限定されるものではないが、ポリラクトン骨格やヒドロキシステアリン酸鎖を有するものが好ましい。さらに後述するアンカー部として、2級アミノ基、3級アミノ基、および、4級アンモニウム基から選択される1種類以上を有する分散剤であれば、本発明に係る近赤外線吸収微粒子を、本発明に係る溶剤に分散させる能力が高く好ましい。
  さらに、本発明に係る分散剤の酸価が1mgKOH/g以上であると、上述した近赤外線吸収微粒子を、本発明に係る溶剤に分散させる能力が高く好ましい。
 
【0031】
  本発明においてアンカー部とは、分散剤を構成する分子における部位であって、前記近赤外線吸収微粒子や顔料の表面へ吸着する部位のことである。
  そして、本発明に係る分散剤としては、塩基性のアンカー部を有する高分子分散剤を用いることが好ましい。これは、特に、塩基性のアンカー部を有する高分子分散剤を用いることにより、製造されるインクの保存安定性が改良され好ましいからである。
 
【0032】
  以上説明したアンカー部を有する高分子分散剤について、一態様を
図5に示す。
  
図5に示した、一般式[X−A1−Y−A2−Z]にて表記されアンカー部を有する高分子分散剤において、A1、A2は前記近赤外線吸収微粒子や顔料等の固体微粒子に吸着する部分、即ちアンカー部である。当該高分子分散剤が、アンカー部を1個以上有していれば、その構造は特に制限はなく、例えば、鎖状、環状、縮合多環状、または、それらの組み合わせで構成されていても良い。また、A1、A2は、互いに同一のものであっても、異なっているものであっても良い。一方、X、Y、Zは、前記固体微粒子が溶媒和した際、当該固体微粒子の表面から溶媒中へ溶け拡がる分子鎖部分である。以下、XおよびZをテール部と、Yをループ部と記載する場合がある。当該テール部、ループ部には、単一のモノマーからなるホモポリマーや、複数のモノマーからなるコポリマーが用いられる。
 
【0033】
  また、本発明に係る分散剤においては、ループ部(Y)が存在しないものも用いることが出来る。この場合、上述した一般式[X−A1−Y−A2−Z]は、一般式[X−A1−A2−Z]と同義となる。
  さらにまた、本発明に係る分散剤の一態様として
図6に示す、ループ部(Y)が存在せず、かつ、一つのアンカー部(A3)に二つのテール部(X、Z)が結合したものも用いることが出来る。この場合、一般式[X−A3−Z]となる。
  加えて、本発明に係る分散剤の一態様として
図7に示す、テール部(Z)が存在せず、かつ、一つのアンカー部(A4)に一つのテール部(X)が結合したものも用いることが出来る。この場合、一般式[X−A4]となる。
 
【0034】
  本発明に係る分散剤を構成するA1、A2、A3、A4は、水素結合や酸・塩基相互作用などによって、固体微粒子の表面との間で吸着相互作用を発揮する官能基(吸着点)を少なくとも1つ有している。また、上述したようにA1とA2とは互いに同一のものであっても、異なったものであっても良いが、前記固体微粒子の表面への吸着性を考慮すると、吸着相互作用を発揮する官能基(吸着点)として、同じ官能基を有するものが好ましい。さらに、高分子分散剤製造の容易さの観点からも、A1とA2とは同一のものであることが好ましい。
 
【0035】
  本発明に係る分散剤を構成する分子鎖X、Y、Zは、互いに異なった化学種で構成されていても良く、また、少なくとも2つが互いに同じ化学種で構成されていても良い。当該分子鎖のテール部(X、Z)およびループ部(Y)は、溶媒和して固体微粒子表面から溶媒中に溶け拡がる部分であるため、当該溶媒に親和性を有する分子鎖が用いられる。
 
【0036】
  本発明に係る分散剤は、1種類以上の石油系溶剤から成る溶剤へ、10質量%以上25質量%以下の本発明に係る複合タングステン酸化物および/またはタングステン酸化物を加えて、機械的な分散操作を実施して分散液とした場合に、当該分散液の粘度を180mPa・S以下に保つことを可能にする分散能力を発揮するものである。
  当該分散液の粘度が180mPa・S以下に保たれる結果、複合タングステン酸化物微粒子および/またはタングステン酸化物において、粉砕および分散が十分に進行する。そして、製造される近赤外線吸収微粒子分散液において、複合タングステン酸化物および/またはタングステン酸化物の分散粒子径を200nm以下とすることが可能となるからである。
 
【0037】
  好ましい分散剤の具体例として市販の分散剤であれば、ディスパービック(DISPERBYK)142;ディスパービック160、ディスパービック161、ディスパービック162、ディスパービック163、ディスパービック166、ディスパービック170、ディスパービック180、ディスパービック182、ディスパービック184、ディスパービック190、ディスパービック2155(以上、ビックケミー・ジャパン(株)製);EFKA−46、EFKA−47、EFKA−48、EFKA−49(以上、BASF社製);ポリマー100、ポリマー120、ポリマー150、ポリマー400、ポリマー401、ポリマー402、ポリマー403、ポリマー450、ポリマー451、ポリマー452、ポリマー453(EFKAケミカル社製);ソルスパース(SOLSPERSE)11200、ソルスパース13940、ソルスパース16000、ソルスパース17000、ソルスパース18000、ソルスパース20000、ソルスパース24000、ソルスパース27000、ソルスパース28000、ソルスパース32000、ソルスパース33000、ソルスパース39000、ソルスパース56000、ソルスパース71000(以上、日本ルーブリゾール(株)製);ソルプラス(SOLPLUS)ソルプラスD530、ソルプラスDP320、ソルプラスL300、ソルプラスK500、ソルプラスR700(以上、日本ルーブリゾール(株)製);アジスパーPB711、アジスパーPA111、アジスパーPB811、アジスパーPW911(以上、味の素社製);フローレンDOPA−15B、フローレンDOPA−22、フローレンDOPA−17、フローレンTG−730W、フローレンG−700、フローレンTG−720W(以上、共栄社化学工業(株)製)等を挙げることができる。
 
【0038】
  本発明に係る分散剤の添加量は、近赤外線吸収微粒子100重量部に対して、30重量部以上200重量部以下であることが好ましい。
  また、市販の分散剤を用いる場合は、当該分散剤がアクリル樹脂等を溶解する可能性のある溶剤を含有していないことが好ましい。従って、当該分散剤の不揮発分(180℃、20分間加熱後)は高いことが好ましく、例えば95%以上であることが好ましい。
 
【0039】
4.近赤外線吸収微粒子の溶剤への分散方法
  上述した第2の溶剤は粘度が高いため、第2の溶剤中で近赤外線吸収微粒子を分散処理することは難しい。特に、粘度(24℃)が180mPa・S以上あるような、桐油のような溶剤では困難である。
  そこで、近赤外線吸収微粒子の溶剤への分散方法としては、
(1)第1の近赤外線吸収微粒子分散液の製造方法
  まず、前記近赤外線吸収微粒子を前記第1の溶剤へ混合し、湿式媒体ミルで分散処理して、第1の分散液を得る工程と、前記第1の分散液へ、植物油または植物油由来の化合物から選択される1種類以上の溶剤を添加、混合して、第2の分散液を得る工程と、前記第2の分散液から、前記第1の溶剤の含有量が5質量%以下となるまで、前期第1の溶剤を除去する工程とを有する近赤外線吸収微粒子分散液の製造方法、
(2)第2の近赤外線吸収微粒子分散液の製造方法
  まず、前記第1の溶剤と第2の溶剤とを混合して、混合溶剤を得る工程と、近赤外線吸収微粒子を、前記混合溶剤へ混合し湿式媒体ミルで分散処理して、第3の分散液を得る工程と、前記第3の分散液から、前記第1の溶剤の含有量が5質量%以下となるまで、前期第1の溶剤を除去する工程とを有する近赤外線吸収微粒子分散液の製造方法とがある。
  以下、(1)第1の近赤外線吸収微粒子分散液の製造方法、(2)第2の近赤外線吸収微粒子分散液の製造方法、の順で説明する。
 
【0040】
(1)第1の近赤外線吸収微粒子分散液の製造方法
  本発明に係る近赤外線吸収微粒子を前記第1の溶剤の1種以上へ分散させて、第1の分散液を得る為の分散方法は、当該微粒子が均一に溶剤に分散する方法であれば任意に選択できる。具体的には、ビーズミル、ボールミル等の湿式媒体ミルを用いることが好ましい。尚、前記第1の溶剤は、沸点180℃以下の溶剤、好ましくは150℃以下の沸点である。
 
【0041】
  前記第1の分散液中における近赤外線吸収微粒子の濃度が5質量%以上あれば、オフセット印刷用インキ組成物製造の際の生産性に優れる。一方、近赤外線吸収微粒子の濃度が50質量%以下であれば第1の分散液の粘度が高くならず、近赤外線吸収微粒子の粉砕、分散操作が容易である。
  当該観点から、第1の分散液における近赤外線吸収微粒子の濃度は5〜50質量%が好ましく、より好ましくは10〜40質量%、さらに好ましくは20〜30質量%である。
 
【0042】
  前記第1の分散液へ、植物油または植物油由来の化合物から選択される第2の溶剤の1種類以上を添加、混合して、第2の分散液を得る。このとき、第1の溶媒と第2の溶媒として、互いに相溶するものを選択しておくことが好ましい。
  第1の分散液と第2の溶剤の混合は、第1の分散液に含有される近赤外線吸収微粒子100重量部に対して、第2の溶剤が2.5重量部以上であれば、最終的に得られる本発明に係る近赤外線吸収微粒子分散液の流動性が保たれ、回収が容易となり生産性が保たれる。
  一方、第1の分散液に含有される近赤外線吸収微粒子100重量部に対して、第2の溶剤が270重量部以下であれば、最終的に得られる本発明に係る近赤外線吸収微粒子分散液中の近赤外線吸収微粒子の濃度が担保される。そのため、本発明に係る近赤外線吸収微粒子分散液を多く添加する事態を回避出来、インキの粘度を担保出来る。この結果、粘度調整が不要で工程が単純化し製造コストの増加を回避出来るので好ましい。
  以上の観点から、第1の分散液と第2の溶剤の混合は、第1の分散液に含有される近赤外線吸収微粒子100重量部に対して、第2の溶剤が2.5〜270重量部が好ましく、より好ましくは70〜270重量部、さらに好ましくは92〜204重量部である。
 
【0043】
  上述した、近赤外線吸収微粒子を第1の溶剤の1種以上へ分散させて、第1の近赤外線吸収微粒子分散液を得、そこへ、第2の溶剤の1種類以上を添加、混合して、第2の分散液を得る工程において、第1、第2の分散液の粘度の上昇をさらに抑制したいと考える場合は、上述した分散剤を添加することも好ましい構成である。分散剤を添加する方法としては、(i)第1の溶剤に添加する、(ii)予め第2の溶剤に添加して分散剤溶液としておき、その分散剤溶液を第1の分散液に添加する、(iii)第1の分散液へ第2の溶剤添加と並行して添加する等、の方法を採ることが出来る。尚、第1の溶剤に分散剤を添加する方法を用いる場合は、当該第1の溶剤に可溶な分散剤を選択する。
 
【0044】
  次に、前記第2の分散液から前記第1の溶剤を除去し、第2の分散液中における第1の溶剤含有量を5質量%以下とし、本発明に係る近赤外線吸収微粒子分散液を得る。
  当該第2の分散液からの前記第1の溶剤除去には、両溶剤の沸点の差を用いた加熱蒸留法を用いることが出来る。さらに、減圧操作も加えた減圧加熱蒸留は、安全性、エネルギーコスト、品質の安定化の観点からも好ましい構成である。
 
【0045】
  (2)第2の近赤外線吸収微粒子分散液の製造方法
  上述した、第1の溶剤の1種以上と、第2の溶剤の1種以上とを予め混合し混合溶剤を得る。このとき、第1の溶剤と第2の溶剤として、互いに相溶するものを選択しておくことが好ましい。
  本発明に係る近赤外線吸収微粒子を、前記混合溶剤へ分散させて、第3の分散液を得る為の分散方法は、当該微粒子が均一に溶剤に分散する方法であれば任意に選択できる。具体的には、ビーズミル、ボールミル等の湿式媒体ミルを用いることが好ましい。
 
【0046】
  前記第3の分散液中における近赤外線吸収微粒子の濃度が5質量%以上あれば、オフセット印刷用インキ組成物製造の際の生産性に優れる。一方、近赤外線吸収微粒子の濃度が50質量%以下であれば第3の分散液の粘度が高くならず、近赤外線吸収微粒子の粉砕、分散操作が容易である。
  当該観点から、第3の分散液における近赤外線吸収微粒子の濃度は5〜50質量%が好ましく、より好ましくは10〜40質量%、さらに好ましくは20〜30質量%である。
 
【0047】
  上述した、近赤外線吸収微粒子を加えた前記混合溶剤の粘度の上昇をさらに抑制したいと考える場合は、上述した分散剤を添加することも好ましい構成である。分散剤を添加する方法としては、分散操作の前に前記混合溶剤へ加えておけばよい。
 
【0048】
  次に、前記近赤外線吸収微粒子を分散させた混合溶剤から前記第1の溶剤を除去し、近赤外線吸収微粒子を分散させた混合溶剤中における第1の溶剤含有量を5質量%以下とし、本発明に係る近赤外線吸収微粒子分散液を得る。
  当該近赤外線吸収微粒子を分散させた混合溶剤からの前記第1の溶剤除去には、第1と第2の溶剤との沸点の差を用いた、減圧操作も加えた加熱蒸留法を用いることが出来る。
  具体的には、減圧操作も加えた加熱蒸留法では前記第2の分散液を撹拌しながら減圧して蒸留し、当該第2の分散液から前記第1の溶剤を分離する。減圧操作も加えた加熱蒸留に用いる装置としては、真空撹拌型の乾燥機が挙げられるが、上記機能を有する装置であればよく、特に限定されない。加熱蒸留の際の温度は35〜200℃が好ましい。より好ましくは40〜150℃、特に好ましくは60℃〜120℃である。加熱蒸留の際の温度が35℃以上あれば、溶剤の除去速度を担保出来る。一方、200℃以下であれば、分散剤が変質する事態を回避出来る。
  上述した加熱蒸留へ減圧操作を併用する場合の真空度は、ゲージ圧で−0.05MPa以下、より好ましくは−0.06MPa以下である。ゲージ圧が−0.05MPa以下であると溶剤の除去速度が速く、生産性が良い。
  当該圧蒸留法を用いることで、溶剤の除去効率が向上すると共に、本発明に係る近赤外線吸収微粒子分散液が長時間高温に曝されることがないので、分散している近赤外線吸収微粒子の凝集や、第2の溶剤の劣化が起こらず好ましい。さらに生産性も上がり、蒸発した有機溶剤を回収することも容易で、環境的配慮からも好ましい。
 
【0049】
5.近赤外線吸収微粒子分散液
  以上説明した製造方法により、本発明に係る近赤外線吸収微粒子分散液が得られる。
  本発明に係る近赤外線吸収微粒子分散液中における近赤外線吸収微粒子の濃度は、高い方がオフセット印刷用のインキ調製が容易であり好ましい。一方、近赤外線吸収微粒子の濃度が高くなるほど、近赤外線吸収微粒子分散液の流動性が低下するが、上述した製造方法において、製造された近赤外線吸収微粒子分散液が回収出来る程度の流動性があればよい。
  当該観点から、本発明に係る近赤外線吸収微粒子分散液において、近赤外線吸収微粒子の好ましい濃度は25質量%以上75質量%以下、より好ましくは25質量%以上50質量%以下、さらに好ましくは30%以上45質量%以下である。
  一方、近赤外線吸収微粒子の分散粒子径は、湿式媒体ミルの処理時間により、任意に制御出来る。処理時間を長くする事により、分散粒子径を小さくすることができる。
  尚、本発明に係る近赤外線吸収微粒子分散液の粘度の下限値は、用いられる植物油または植物油由来の化合物の粘度に依存する。例えば、ヒマワリ油の粘度(24℃)は50mPa・Sであり、アマニ油の粘度(24℃)は40mPa・S、桐油の粘度(24℃)は210mPa・Sである。
 
【実施例】
【0050】
  以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるわけではない。
  尚、本実施例に係る分散剤の酸価の測定方法は、酸価はJIS  K  0070に準拠し、電位差滴定法によった。
  本実施例に係る近赤外線吸収微粒子分散液の粘度の測定方法は、振動式粘度計VM100A−L(CBCマテリアルズ(株)製)を用いて測定した。
  一方、本実施例に係る膜の光学特性は、分光光度計U−4000(日立製作所(株)製)を用いて測定した。可視光透過率は、JIS  R  3106に準拠して測定を行った。
【0051】
(実施例1)
  近赤外線吸収微粒子として複合タングステン酸化物である六方晶Cs
0.33WO
3(a軸0.74077nm、c軸0.76128nm)を23質量%、分散剤として脂肪酸を構造中に有し、アミノ基を有し、酸価が20.3mgKOH/gであり、ヒドロキシステアリン酸鎖を有し、不揮発分100%である分散剤(以下、分散剤aと略称する。)11.5質量%、溶剤としてメチルイソブチルケトン(以下、MIBKと略称する。)65.5質量%を秤量した。
  これらの近赤外線吸収微粒子、分散剤、溶剤を、0.3mmφZrO
2ビーズを入れたペイントシェーカーに装填し、10時間粉砕・分散処理し、実施例1に係る近赤外線吸収微粒子分散液(以下、分散液Aと略称する)を得た。
  さらに、A液100重量部へ桐油42.2重量部を混合添加し、それを撹拌型真空乾燥機(月島製ユニバーサルミキサー)を使用して、減圧操作(ゲージ圧で−0.08MPa)も加えた加熱蒸留を80℃で1時間行い、MIBKを除去し、複合タングステン酸化物微粒子分散液(以下、分散液Bと略称する)を得た。
  ここで、分散液Bの残留MIBK量を乾式水分計で測定したところ、1.15質量%であった。分散液B中のタングステン酸化物微粒子の分散粒子径を大塚電子製粒度分布計で測定したところ81nmであった。
  結果を表1に示す(以下、実施例2、3、4比較例1、2も同様に示す。)。
【0052】
  被印刷基材として厚さ50μmの透明PETフィルムを準備し、その表面に分散液Bをバーコーターにより8μm成膜した。この膜を70℃で3時間加熱して分散液Bを乾燥させた。
【0053】
  得られた分散液Bの乾燥膜の可視光透過率は71.3%であった。また、可視光領域の550nmの透過率は72.2であり、近赤外線領域の800nmの透過率は30.0%、900nmの透過率は18.8%、1000nmの透過率は16.6%、1500nmの透過率は9.9%であった。この分散液Bの乾燥膜の透過プロファイルを
図1に、測定結果を表1に示す(以下、実施例2、3、4も同様に示す。)。
【0054】
(実施例2)
  A液100重量部へ桐油11.5重量部を混合添加した以外は、実施例1と同様にして実施例2に係る近赤外線吸収微粒子分散液(以下、分散液Cと略称する)を得た。
  分散液Cの残留MIBK量を乾式水分計で測定したところ、2.10質量%であった。分散液C中のタングステン酸化物微粒子の分散粒子径を大塚電子製粒度分布計で測定したところ77nmであった。
  次に、実施例1と同様にして実施例2に係る乾燥膜を得、光学特性を測定した。
【0055】
  得られた乾燥膜の可視光透過率は71.7%であった。また、可視光領域の550nmの透過率は72.6であり、近赤外線領域の800nmの透過率は33.9%、900nmの透過率は21.5%、1000nmの透過率は18.4%、1500nmの透過率は10.7%であった。この分散液Cの乾燥膜の透過プロファイルを
図2に示す。
【0056】
(実施例3)
  A液100重量部へアマニ油42.2重量部を混合添加した以外は、実施例1と同様にして実施例3に係る近赤外線吸収微粒子分散液(以下、分散液Dと略称する)を得た。
  分散液Dの残留MIBK量を乾式水分計で測定したところ、1.7質量%であった。分散液D中のタングステン酸化物微粒子の分散粒子径を大塚電子製粒度分布計で測定したところ79nmであった。
  次に、実施例1と同様にして実施例3に係る乾燥膜を得、光学特性を測定した。
【0057】
  得られた乾燥膜の可視光透過率は70.5%であった。また、可視光領域の550nmの透過率は71.3であり、近赤外線領域の800nmの透過率は30.8%、900nmの透過率は17.6%、1000nmの透過率は14.7%、1500nmの透過率は9.3%であった。この分散液Dの乾燥膜の透過プロファイルを
図3に示す。
【0058】
(実施例4)
  近赤外線吸収微粒子として、実施例1と同様の複合タングステン酸化物である六方晶Cs
0.33WO
3を23質量%、分散剤として分散剤aを11.5質量%、溶剤としてプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(以下、PGM−Acと略称する。)65.5質量%を秤量した以外は、実施例1と同様にして実施例4に係る近赤外線吸収微粒子分散液(以下、分散液Eと略称する)を得た。
  次に、分散液Eを用いた以外は実施例1と同様にして、実施例4に係る複合タングステン酸化物微粒子分散液(以下、分散液Fと略称する。)を得た。
  分散液Fの残留PGM−Ac量を乾式水分計で測定したところ、4.20質量%であった。分散液F中のタングステン酸化物微粒子の分散粒子径を大塚電子製粒度分布計で測定したところ82nmであった。
  次に、実施例1と同様にして乾燥膜を得、光学特性を測定した。
【0059】
  得られた乾燥膜の可視光透過率は72.2%であった。また、可視光領域の550nmの透過率は73.0であり、近赤外線領域の800nmの透過率は38.2%、900nmの透過率は24.1%、1000nmの透過率は19.8%、1500nmの透過率は12.2%であった。この分散液Fの乾燥膜の透過プロファイルを
図4に示す。
【0060】
(比較例1)
  近赤外線吸収微粒子として、実施例1と同様の複合タングステン酸化物である六方晶Cs
0.33WO
3を23質量%、分散剤として分散剤aを11.5質量%、溶剤として沸点197℃のエチレングリコール(以下、E.G.と略称する。)65.5質量%を秤量した。
  これらの近赤外線吸収微粒子、分散剤、溶剤を、0.3mmφZrO
2ビーズを入れたペイントシェーカーに装填し、10時間粉砕・分散処理し、比較例1に係る近赤外線吸収微粒子分散液(以下、分散液Gと略称する)を得た以外は、実施例1と同様にして、比較例1に係る複合タングステン酸化物微粒子分散液(以下、分散液Hと略称する)を得た。
  分散液Hの残留E.G.量を乾式水分計で測定したところ、34.21質量%であった。分散液H中におけるタングステン酸化物微粒子の分散粒子径を大塚電子製粒度分布計で測定したところ71nmであった。
  次に、分散液Hを用いた以外は実施例1と同様にして、比較例1に係る乾燥膜を作製したが、E.G.が多く含まれていた為、乾燥膜が得られず、光学特性を測定できなかった。
【0061】
(比較例2)
  近赤外線吸収微粒子として、実施例1と同様の複合タングステン酸化物である六方晶Cs
0.33WO
3を23質量%、分散剤として分散剤aを11.5質量%、溶剤として桐油65.5質量%を秤量した。
  これらの近赤外線吸収微粒子、分散剤、溶剤を、0.3mmφZrO
2ビーズを入れたペイントシェーカーに装填し、40時間粉砕・分散処理したが、粘度が高かったため粉砕性が悪く近赤外線吸収微粒子分散液は得られなかった。
【0062】
(実施例1〜4の評価)
  実施例1〜4において、植物油中にタングステン酸化物や複合タングステン酸化物の微粒子を分散させた2の分散液中における、第1の溶剤の含有量は、いずれも5質量%未満であった。
  また、実施例1〜4に係る乾燥膜は、可視光領域では高い透過率を示し、近赤外線領域では透過率が顕著に低くなっている。
  また、実施例1〜4に係る乾燥膜は、可視光領域では高い透過率を示し、近赤外線領域では透過率が顕著に低くなっている。
  この結果から、本発明に係る近赤外線吸収微粒子分散液と他のインキ用材料とを用いて調製したオフセット印刷インキの印刷パターンは、近赤外線鑑定機で判別可能であることが推測される。
【0063】
【表1】