【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、従来技術について鋭意検討を行った結果、リチウム二次電池用複合活物質の製造原料として一酸化ケイ素および炭素前駆体を用いることにより、所望の特性を示すリチウム二次電池用複合活物質が得られることを見出した。
【0012】
つまり、以下の構成によって上記課題を解決できることを見出した。
(1) シリコンおよび二酸化ケイ素を含む複合物と、黒鉛成分とを含有し、加速電圧10kV以下での走査型電子顕微鏡(SEM)観察により観察される表面上に露出している前記黒鉛成分の面積率が95%以上であるリチウム二次電池用複合活物質。
(2) 前記シリコンの平均粒子径が1〜100nmである(1)に記載のリチウム二次電池用複合活物質。
(3) 前記複合物の平均粒子径が50〜1000nmである(1)または(2)に記載のリチウム二次電池用複合活物質。
(4) 比表面積30m
2/g以上の黒鉛と、一酸化ケイ素と、炭素前駆体とを混合して、混合物を得る混合工程と、
前記混合物を球形化処理し、球状の混合物を得る球形化工程と、
前記球状の混合物を加熱処理し、略球状のリチウム二次電池用複合活物質を製造する加熱工程と、
を有する(1)に記載のリチウム二次電池用複合活物質の製造方法。
(5) 前記一酸化ケイ素の平均粒子径が1μm以下である(4)に記載のリチウム二次電池用複合活物質の製造方法。
(6) 前記炭素前駆体が、高分子化合物、石炭系ピッチ、石油系ピッチ、メソフェーズピッチ、コークス、低分子重質油、およびそれらの誘導体からなる群から選択される少なくとも1種である(4)または(5)に記載のリチウム二次電池用複合活物質の製造方法。
(7) 前記黒鉛が膨張黒鉛である(4)〜(6)のいずれかに記載のリチウム二次電池用複合活物質の製造方法。
(8) (1)〜(3)のいずれかに記載のリチウム二次電池用複合活物質を含むリチウム二次電池。
【0013】
以下に、本発明のリチウム二次電池用複合活物質およびその製造方法について詳述する。
【0014】
まず、従来技術と比較した本発明の特徴点について詳述する。
【0015】
本発明の製造方法の特徴点の一つとしては、リチウム二次電池用複合活物質の出発原料として、所定の比表面積を有する黒鉛と共に、一酸化ケイ素および炭素前駆体を使用している点が挙げられる。本発明者らは、特許文献1に記載のリチウム二次電池用複合活物質を用いた電池材料において充放電を繰り返した後に不可逆的な異常体積膨張が生じる原因について検討を行ったところ、リチウムイオンと化合可能な電池活物質であるシリコンが徐々に酸化され、スポンジ状になっていることを知見した。シリコンが酸化される原因としては、シリコンにリチウムイオンが貯蔵・放出される際に体積の膨張および収縮が起こり、その際にシリコンにストレスがかかり割れが生じ、その割れから電解液が侵入してシリコンが酸化されるプロセスが繰り返されることによるものと推測される。そこで、本発明者らは、出発原料として一酸化ケイ素を使用することにより、上記問題を解決できることを見出した。より具体的には、一酸化ケイ素を用いて後述する混合工程および球形化処理を施すことにより、一酸化ケイ素が黒鉛成分により内包された球状の混合物が得られる。その混合物に対して加熱処理を施すと、以下のような反応が進行して、二酸化ケイ素(SiO
2)およびシリコン(Si)を含む複合物(シリコン含有複合物)が得られる。
【0016】
2SiO→Si+SiO
2
得られた複合物では、シリコンは微細結晶(好ましくは、100nm以下)であるため、このようなシリコンにはストレスがかかりにくく、膨張収縮を繰り返してもひび割れが生じにくいという特性がある。従って、電解液による酸化も表面のみに留まり、内部まで電解液による酸化が進行することが避けられる。また、上記態様で得られる微細なシリコンの表面の大部分は二酸化ケイ素により保護されており、上述したように電解液により酸化が生じにくく、この点も結果として電極材料の体積膨張の抑制に寄与していると考えられる。
【0017】
また、合わせて使用される炭素前駆体は、黒鉛成分と上記複合物との接着剤として機能し、両者の電気的接触を助ける機能を有する。結果として、リチウム二次電池のサイクル特性がより向上する。
【0018】
以下では、まず、本発明のリチウム二次電池用複合活物質(以後、単に複合活物質とも称する)の製造方法について詳述し、その後製造されるリチウム二次電池用複合活物質の態様について詳述する。
【0019】
本発明のリチウム二次電池用複合活物質の製造方法は、所定の成分を混合する混合工程と、得られた混合物に球形化処理を施す球形化工程と、得られた球状の混合物に対して加熱処理を施す加熱工程とを備える。
【0020】
以下、工程ごとに、使用される材料、および、その手順について詳述する。
【0021】
<混合工程>
混合工程は、比表面積30m
2/g以上の黒鉛と、一酸化ケイ素と、炭素前駆体とを混合して、混合物を得る工程である。本工程を実施することによって、極めて広い黒鉛表面に一酸化ケイ素が均一に混じり合い、極めて高度に一酸化ケイ素が分散した混合物を得ることができる。なお、その際、炭素前駆体は、黒鉛と一酸化ケイ素との接着性を助ける役割を果たす。なお、後述するように、黒鉛は大きな面積を有しているため、混合物中の黒鉛表面に分散し付着した一酸化ケイ素および炭素前駆体は、黒鉛に僅かな圧力を加えるだけで黒鉛に挟みこまれる形で、黒鉛間に包み込まれる(言い換えれば内包される)。
【0022】
まず、本工程で使用される材料(黒鉛、一酸化ケイ素、炭素前駆体など)について詳述し、その後本工程の手順について詳述する。
【0023】
(黒鉛)
本工程で使用される黒鉛は、比表面積が30m
2/g以上を有する。上記範囲内であれば、高表面積(好ましくは、厚みの薄い)の黒鉛表面に高度にシリコンが分散したリチウム二次電池用複合活物質が得られる。その結果として、本発明のリチウム二次電池用複合活物質を用いた電池材料は、優れた電池特性(例えば、高速充放電特性、大充放電容量および良好なサイクル特性など)を示す。なかでも、該複合活物質を用いたリチウム二次電池のサイクル特性がより優れる点で、比表面積は40m
2/g以上が好ましく、60m
2/g以上がより好ましい。上限は特に制限されないが、製造の手順が煩雑となり、合成が困難な点で、比表面積は200m
2/g以下が好ましい。
【0024】
黒鉛の比表面積が30m
2/g未満の場合、黒鉛と一酸化ケイ素との混合が不均一となり、成型時の一酸化ケイ素の脱落や成型複合物表面への複合物の露出などが起こり、結果として、複合活物質を含む電池材料の体積膨張が大きい、または、複合活物質を用いたリチウム二次電池のサイクル特性が劣る。
【0025】
なお、黒鉛の比表面積は、窒素吸着によるBET法(JIS Z 8830、一点法)を用いて測定したものである。
【0026】
黒鉛中においては、黒鉛面を重ねる方向でグラフェンシートが複数枚重なった層が含まれており、グラフェンシートは主にファンデルワールス力によって互いに結合している。
【0027】
上記所定の比表面積を示す黒鉛中に含まれる積層したグラフェンシートの層の平均厚みは、複合活物質を用いたリチウム二次電池の充放電量およびサイクル特性がより優れる点で、29nm以下が好ましく、22nm以下がより好ましい。下限は特に制限されないが、製造手順が煩雑になることから、通常、4.4nm以上である場合が多い。
【0028】
なお、上記平均厚みの測定方法としては、電子顕微鏡観察(TEM)によって黒鉛を観察し、黒鉛中の積層したグラフェンシートの層の厚みを10個以上測定して、その値を算術平均することによって、平均厚みが得られる。
【0029】
使用される黒鉛の嵩比重の上限は特に制限されないが、複合活物質中において黒鉛成分への複合物のより均一かつより高度な分散がなされる点で、0.02g/cm
3以下が好ましく、0.01g/cm
3以下がより好ましい。下限は、製造上の問題から、0.005g/cm
3以上の場合が多い。
【0030】
なお、嵩比重の測定方法としては、500mlのガラス製メスシリンダーに試料を圧縮しないように挿入し、その試料重量を試料体積で除して求める。
【0031】
本工程で使用される黒鉛としては、市販品を使用してもよいし、公知の方法で製造してもよい。
【0032】
該黒鉛としては、いわゆる膨張黒鉛や、薄片状黒鉛を使用することができる。
【0033】
膨張黒鉛の製造方法としては、例えば、酸中に黒鉛(例えば、鱗片状黒鉛)を室温で浸漬した後、得られた酸処理黒鉛に加熱処理(好ましくは、700〜1000℃で処理)を施すことにより製造することができる。より具体的には、硫酸9重量部と硝酸1重量部の混酸に鱗片状天然黒鉛を1時間程度浸漬後、酸を除去し、水洗・乾燥を行う。その後、得られた酸処理黒鉛を850℃程度の炉に投入することで膨張黒鉛が得られる。なお、酸処理黒鉛の代わりに、アルカリ金属など黒鉛と層間化合物を形成した黒鉛を使用しても、膨張黒鉛を得ることができる。
【0034】
上記で得られた酸処理黒鉛の嵩密度は特に限定されないが、酸処理黒鉛が十分に膨張する点で、0.6g/cm
3以上が好ましく、0.7g/cm
3以上がより好ましい。上限は特に制限されないが、製造上の問題から、1.0g/cm
3以下の場合が多い。
【0035】
なお、嵩密度の測定方法としては、100mlのガラス製メスシリンダーに試料を圧縮しないように挿入し、その試料重量を試料体積で除して求める。
【0036】
また、薄片状黒鉛の製造方法としては、上記膨張黒鉛を溶媒に分散後、超音波処理や大きなズリ応力を与える粉砕機(例えば、石臼)などで処理することにより、膨張黒鉛のヒンジ部が破壊され、グラフェンシート枚数で50枚程度(好ましくは、10〜150枚)が積層した薄片状の黒鉛を得ることができる。
【0037】
なお、上記比表面積を示す膨張黒鉛を構成するグラフェンシートの枚数と、それを解砕した薄片状黒鉛を構成するグラフェンシートの枚数は、基本的にほぼ同一と推測される。
【0038】
(一酸化ケイ素)
本工程で使用される一酸化ケイ素は、リチウムイオンと化合可能な電池活物質であるシリコンを生成する前駆体として機能する。より具体的には、一酸化ケイ素を含む球状の混合物に対して後述する加熱工程での加熱処理を施すことにより、シリコン(Si)と二酸化ケイ素(SiO
2)との複合物(シリコン含有複合物)が得られる。
【0039】
使用される一酸化ケイ素としては、SiOx(0.8≦X≦1.5)を用いることが好ましい。特にSiO(x≒1)を用いることが、シリコンと二酸化ケイ素との量的関係を好ましい比率とする上で望ましい。
【0040】
使用される一酸化ケイ素の形状は特に制限されず、粉状、板状、粒状、繊維状、塊状、球状など、あらゆる形状のものが使用可能である。
【0041】
使用される一酸化ケイ素の平均粒子径としては、黒鉛との複合化時の一酸化ケイ素の脱落やサイクルに伴うシリコンの膨張破壊などがより抑制される点、および、黒鉛と電気的接点をより多く設ける点で、1μm以下が好ましく、0.5μm以下がより好ましく、0.3μm以下がさらに好ましい。下限値については、特に制限はなく小さいほうが好ましいが、通常、0.1μm以上の場合が多い。
【0042】
なお、平均粒子径の測定方法としては、レーザー回折式の粒度分布測定器が用いられる。より具体的には、D50:50%体積粒径を平均粒子径とする。
【0043】
なお、上記所定の平均粒子径の一酸化ケイ素を得る方法としては、攪拌槽型攪拌ミル(ビーズミル等)等などの公知の装置を用いて一酸化ケイ素の粉砕を行うことによって、上記した粒径の小さい粉末を得ることが可能である。
【0044】
(炭素前駆体)
本工程で使用される炭素前駆体は、混合物中における黒鉛と一酸化ケイ素との接着性を高める接着剤として機能する。炭素前駆体は、後述する加熱工程による加熱処理が施されると、炭化物(例えば、ハードカーボン、ソフトカーボン、非晶カーボンなど)へと変換される。
【0045】
炭素前駆体としては、上記のように加熱処理(焼成炭化)により、炭化物に変換される物質であれば特に制限されず、例えば、高分子化合物(有機高分子)、石炭系ピッチ、石油系ピッチ、メソフェーズピッチ、コークス、低分子重質油、またはそれらの誘導体などが挙げられる。なかでも、リチウム二次電池用複合活物質を用いた電池材料の膨張がより抑制され、リチウム二次電池のサイクル特性がより優れる点で(以後、単に「本発明の効果がより優れる点」とも称する)、高分子化合物が好ましい。
【0046】
高分子化合物としては、フェノール樹脂、フラン樹脂、エポキシ樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリエチレンイミン、セルロース、レーヨン、ポリアクリロニトリル、ポリスチレンなどが挙げられる。
【0047】
なお、炭素前駆体としては、1種のみを使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0048】
使用される炭素前駆体の形状は特に制限されず、粉状、板状、粒状、繊維状、塊状、球状など、あらゆる形状のものが使用可能である。これらの炭素前駆体は、一酸化ケイ素と膨張黒鉛を混合する際に使用する溶剤に溶解することが好ましい。
【0049】
使用される炭素前駆体の平均分子量としては、本発明の効果がより優れる点で1000以上が好ましく、1,000,000以下がより好ましい。
【0050】
(工程の手順)
上述した黒鉛と一酸化ケイ素と炭素前駆体との混合方法は特に制限されず、公知の方法を採用することができ、いわゆる乾式処理または湿式処理などが挙げられる。なお、得られる混合物中での黒鉛と一酸化ケイ素と炭素前駆体とがより均一に混合する点より、湿式処理の態様が好ましい。
【0051】
乾式処理としては、例えば、公知の攪拌機(例えば、ヘンシェルミキサー)に上述した黒鉛と一酸化ケイ素と炭素前駆体とを加え、混合する方法が挙げられる。
【0052】
湿式処理としては、例えば、上述した黒鉛と一酸化ケイ素と炭素前駆体とを溶媒中に分散させ、得られた溶液を混合攪拌して、溶媒を除去する方法が挙げられる。
【0053】
湿式処理の際に使用される溶媒の種類は特に制限されず、黒鉛と一酸化ケイ素と炭素前駆体とを分散させることができる溶媒であればよい。例えば、アルコール系溶媒(例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール)、ケトン系溶媒(例えば、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン)、アミド系溶媒(例えば、ホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、N−エチルピロリドン)、ニトリル系溶媒(例えば、アセトニトリル、プロピオニトリル)、エステル系溶媒(例えば、酢酸メチル、酢酸エチル)、カーボネート系溶媒(例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート)、エーテル系溶媒(例えば、セロソルブ)、ハロゲン系溶媒、水およびこれらの混合物などが挙げられる。
【0054】
なかでも、得られるリチウム二次電池用複合活物質を用いたリチウム二次電池のサイクル特性がより優れる点で、アルコール系溶媒が好ましい。
【0055】
湿式処理において、黒鉛と一酸化ケイ素と炭素前駆体とを混合攪拌する条件は特に制限されず、使用される材料に応じて適宜最適な条件が選択される。通常、攪拌時間としては、黒鉛と一酸化ケイ素と炭素前駆体とをより均一に分散できる結果、得られるリチウム二次電池用複合活物質を用いたリチウム二次電池のサイクル特性がより優れる点で、1〜2時間程度が好ましい。
【0056】
また、必要に応じて、攪拌処理時に超音波を加えてもよい。この場合、撹拌時間は10分程度でもよい。
【0057】
溶媒を除去する方法は特に制限されず、公知の装置(例えば、エバポレータ)などを使用する方法が挙げられる。
【0058】
黒鉛と一酸化ケイ素との混合比は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる点で、黒鉛100質量部に対して、一酸化ケイ素を10〜230質量部混合することが好ましく、20〜200質量部混合することがより好ましい。
【0059】
黒鉛と炭素前駆体との混合比は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる点で、黒鉛100質量部に対して、炭素前駆体を1〜50質量部混合することが好ましく、5〜20質量部混合することがより好ましい。
【0060】
一酸化ケイ素と炭素前駆体との混合比は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる点で、一酸化ケイ素100質量部に対して、炭素前駆体を0.1〜100質量部混合することが好ましく、1〜50質量部混合することがより好ましい。
【0061】
また、溶媒を使用する場合、溶媒の使用量は特に制限されないが、より高度な分散が図られる結果、本発明の効果がより優れる点で、黒鉛100質量部に対して、溶媒を3000〜15000質量部混合することが好ましく、5000〜7000質量部混合することがより好ましい。
【0062】
なお、上記混合工程の後述する球形化工程の前に、必要に応じて、得られた混合物をプレスするプレス工程が含まれていてもよい。プレス工程を実施すると、黒鉛間の距離がより小さくなり、後述する球形化処理がより効率的に進行する。
【0063】
なお、プレスの方法は特に制限されず、公知の方法を採用できる。
【0064】
<球形化工程>
球形化工程は、上記混合工程で得られた黒鉛、一酸化ケイ素および炭素前駆体を含む混合物に球形化処理を施し、球状の混合物を製造する工程である。
【0065】
本工程を実施することにより、黒鉛のシートがその内部に一酸化ケイ素および炭素前駆体を取り込むように折り畳まれて球形化する。その際、黒鉛のエッジ部は内部に折り畳まれ、形成されるリチウム二次電池用複合活物質の表面には実質的に一酸化ケイ素が露出しない構造が得られる。
【0066】
以下に、比表面積30m
2/g未満の鱗片状の黒鉛を使用した場合と、比表面積の大きな黒鉛(膨張黒鉛または薄片状黒鉛)を使用した場合との球形化工程におけるメカニズムの違いについて詳述する。なお、以下では、一酸化ケイ素と炭素前駆体との両者を含めて、前駆体物質と称する。
【0067】
例えば、特開2008−27897公報に記載されるように、比表面積30m
2/g未満の鱗片状の黒鉛と前駆体物質とを高速気流中に置くと、黒鉛の長軸方向、即ち黒鉛のAB面は気流の方向に配列し、気流と垂直に設けられたピンまたは衝突板、または黒鉛と前駆体物質の混合物粒子同士が衝突し、黒鉛AB面は圧縮変形し、結果的に前駆体物質を挟み込む形で球形化する。この場合、黒鉛表面に存在する前駆体物質の多くは衝突時の衝撃で黒鉛表面から離れ、たまたま黒鉛AB面間に挟まれた状態の前駆体物質のみが黒鉛層間に挟み込まれる。
【0068】
一方、本発明においては、例えば、使用される比表面積の大きな黒鉛が膨張黒鉛の場合、膨張黒鉛の長軸は黒鉛C軸方向であり、高速気流中に該黒鉛が置かれると、黒鉛C軸が気流方向に配列し、ピンや衝突板に、または粒子同士で衝突する。その結果、まず黒鉛C軸が圧縮され、黒鉛は膨張前の形態に近い状態に変化する。これは黒鉛のAB面に付着した前駆体物質が黒鉛で押し潰され、完全に前駆体物質が黒鉛層同士で挟み込まれることを意味する。一旦C軸方向に圧縮された黒鉛は、AB面が長軸となる構造に変化し、やがて黒鉛AB面が折り畳まれた球形成型体へと変化する。
【0069】
また、薄片状黒鉛の場合、黒鉛AB面に平行方向の圧縮と垂直方向の圧縮を同時に受けるが、黒鉛AB面の弾性率が低いため、黒鉛AB面に垂直方向の圧縮により黒鉛AB間で容易に接着して変形し、薄片状黒鉛表面に付着した前駆体物質は黒鉛AB面内に挟み込まれる作用が先行する。その後、弾性率の高い黒鉛AB面の変形が起こり、球形化が進行する。
【0070】
また、膨張黒鉛または薄片状黒鉛は、それを構成する積層したグラフェンシートの層の厚みが小さいため、より小さなAB面方向の圧縮力でAB面の変形が容易に行われることはいうまでもない。
【0071】
球形化処理の方法は特に制限されず、主に衝撃応力を加えられる粉砕機であれば特に限定されない。粉砕機としては、例えば、高速回転衝撃式粉砕機が挙げられ、より具体的にはサンプルミル、ハンマミル、ピンミル等を用いることができる。なかでも、黒鉛と前駆体物質との混合がより均一に実施され、本発明の効果がより優れる点で、ピンミルが好ましい。
【0072】
高速回転衝撃式粉砕機としては、高速回転するローターに試料を衝突させて、その衝撃力による微細化を達成するものが挙げられ、例えば、ローターに固定式あるいはスイング式の衝撃子を取り付けたハンマーミルタイプのハンマー型、回転する円盤にピンや衝撃ヘッドを取り付けたピンミルタイプの回転円盤型、試料がシャフト方向に搬送されながら粉砕する軸流型、狭い環状部での粒子の微細化を行うアニュラー型などが挙げられる。より具体的には、ハンマミル、ピンミル、スクリーンミル、ターボ型ミル、遠心分級型ミルなどが挙げられる。
【0073】
なお、本工程を上記高速回転衝撃式粉砕機で行なう場合には、通常100rpm以上、好ましくは1500rpm以上、また、通常20000rpm以下の回転速度で球形化を行うことが好ましい。したがって衝突速度は20m/秒〜100m/秒程度とすることが好ましい。
【0074】
粉砕と異なり、球形化処理は低い衝撃力で処理するため、本工程は通常循環処理を行うことが好ましい。その処理時間は、使用する粉砕機の種類や仕込み量等によって異なるが、通常2分以内であり、適切なピン或いは衝突板の配置がなされた装置であれば処理時間は10秒程度で終了する。
【0075】
また、球形化処理は空気中で行うことが好ましい。窒素気流中で同処理を行うと、大気開放時に発火する危険がある。
【0076】
上記球形化処理により得られる球状の混合物(球状混合物)の大きさは特に制限されないが、本発明の効果がより優れる点で、球状混合物の粒径(D50:50%体積粒径)は2〜40μmが好ましく、5〜35μmがより好ましく、5〜30μmがさらに好ましい。
【0077】
D50は、レーザー回折散乱法により測定した累積粒度分布の微粒側から累積50%の粒径にそれぞれ該当する。
【0078】
なお、測定に際しては、球状混合物を液体に加えて超音波などを利用しながら激しく混合し、作製した分散液を装置にサンプルとして導入し、測定を行う。液体としては作業上、水やアルコール、低揮発性の有機溶媒を用いることが好ましい。この時、得られる粒度分布図は正規分布を示すことが好ましい。
【0079】
(加熱工程)
加熱工程は、上記で得られた球状混合物に対して加熱処理を施し、略球状のリチウム二次電池用複合活物質(複合活物質)を製造する工程である。なお、複合活物質には、上記黒鉛由来の黒鉛成分と、シリコンおよび二酸化ケイ素が含まれる複合物(シリコン含有複合物)とが含まれ、後述するように複合物は黒鉛成分に内包される。また、複合物はシリコンおよび二酸化ケイ素を含んでいれば両者の分散状態は特に制限されず、例えば、海島状の分散状態が挙げられる。なかでも、本発明の効果がより優れる点で、特に、二酸化ケイ素中にシリコンが分散した複合物であることが好ましい。なお、前駆体である一酸化ケイ素が一部、複合物中に残存する場合もある。
【0080】
加熱処理の条件としては、本発明の効果がより優れる点で、加熱温度としては700℃以上が好ましく、800℃以上がより好ましい。なお、上限は特に制限されないが、複合活物質の耐熱性の点から、2000℃以下が好ましく、1500℃以下がより好ましく、1000℃以下がさらに好ましい。
【0081】
また、加熱時間としては、0.5時間以上が好ましく、1時間以上がより好ましい。なお、上限は特に制限されないが、発明の効果が飽和する点、また、シリコンの微細結晶が好ましい大きさである点から、5時間以下の場合が多い。
【0082】
加熱処理を行う雰囲気は、シリコンや炭素の酸化を防ぐ観点から、不活性雰囲気下が好ましい。
【0083】
<リチウム二次電池用複合活物質>
上述した工程を経て得られるリチウム二次電池用複合活物質は略球状であり、黒鉛成分と複合物とを含有する。
図1に、複合活物質の一実施形態の模式図を示す。
図1に示すように、複合活物質10は略球状であり、その構造は黒鉛成分12中に複合物14が内包され、複合物14では二酸化ケイ素16中にシリコン18が分散している。なお、上記では二酸化ケイ素中にシリコンが分散している複合物を記載したが、この態様には限定されない。
【0084】
以下、得られた複合活物質について詳述する。
【0085】
複合活物質の形状は、上記処理によって略球状の形状を有する。略球状とは、複合活物質が丸みを帯びた構造を有し、破砕粒に一般的に見られるような鋭いエッジ(峰部や綾部)を有さない形状であることを意図する。
【0086】
より具体的には、略球状とは、長径と短径との比率であるアスペクト比(長径/短径)が1〜3の範囲程度(本発明の効果がより優れる点で、1〜2がより好ましい)の複合活物質粒子の形状を表す。上記アスペクト比は、少なくとも100の粒子について一つ一つの粒子の長径/短径を求め、それらの算術平均した値(算術平均値)を意味する。
【0087】
なお、上記における短径とは、走査型電子顕微鏡などによって観察される粒子の外側に接し、粒子を挟み込む二つの平行線の組み合わせのうち最短間隔になる二つの平行線の距離である。一方、長径とは、該短径を決定する平行線に直角方向の二つの平行線であって、粒子の外側に接する二つの平行線の組み合わせのうち、最長間隔になる二つの平行線の距離である。これらの四つの線で形成される長方形は、粒子がちょうどその中に納まる大きさとなる。
【0088】
加速電圧10kV以下での走査型電子顕微鏡(SEM)観察により観察される複合活物質表面上に露出している黒鉛成分の面積率は、95%以上である。なかでも、98%以上がより好ましく、99%以上がさらに好ましい。上限値は特に制限されず、100%が挙げられる。面積率が上記範囲内であれば、複合活物質の表面上に露出している複合物の量が少なく、結果として複合活物質を含む電極材料の体積膨張が抑制され、複合活物質を含むリチウム二次電池が優れたサイクル特性を示す。
【0089】
上記面積率が上記範囲外(95%未満)の場合、複合物の脱落などが生じやすくサイクル特性に劣る、または、複合活物質を含む電極材料の体積膨張が大きい。
【0090】
面積率の測定方法としては、加速電圧10kV以下での走査型電子顕微鏡(SEM)(好ましくは、倍率2000倍以上)によって、少なくとも100個以上の複合活物質を観察し、各複合活物質表面上に占める黒鉛成分の面積率を測定し、それらを算術平均した値である。
【0091】
また、加速電圧10kV以下での走査型電子顕微鏡(SEM)観察により観察される複合活物質表面上に露出している複合物の面積率は、5%以下が好ましい。なかでも、2%以下がより好ましく、1%以下がさらに好ましい。下限は特に制限されず、0%が挙げられる。面積率が上記範囲内であれば、複合活物質の表面上に露出している複合物の量が少なく、結果として複合活物質を含む電極材料の体積膨張が抑制され、複合活物質を含むリチウム二次電池が優れたサイクル特性を示す。
【0092】
面積率の測定方法としては、加速電圧10kV以下での走査型電子顕微鏡(SEM)(好ましくは、倍率2000倍以上)によって、少なくとも100個以上の複合活物質を観察し、各複合活物質表面上に占める複合物の面積率を測定し、それらを算術平均した値である。
【0093】
また、リチウム二次電池用複合活物質の特徴として、加速電圧10kV以下での走査型電子顕微鏡(SEM)観察により観察すると、薄い黒鉛層を透過して黒鉛層内に挟み込まれた状態で内包された複合物を直接観察できる。
【0094】
また、複合活物質の好ましい態様として、黒鉛のエッジ部がその表面上に実質的に露出していない態様が挙げられる。エッジ部が表面に露出していないことによって、充放電サイクル時に発生しやすい電解液の分解や黒鉛の破壊がより抑制され、結果としてサイクル特性の向上がもたらされる。
【0095】
複合活物質中の黒鉛成分は、上述した黒鉛由来の成分である。なお、複合活物質を形成する際に球形化処理が施されるために、上述した黒鉛は複合活物質中においてはより折り曲げられた構造をとっていてもよい。
【0096】
複合活物質中における複合物の含有量は、上述した混合工程における一酸化ケイ素の含有量により適宜調整できる。
【0097】
なかでも、本発明の効果がより優れる点で、複合物の含有量は、複合活物質全量に対して、10質量%以上が好ましく、20質量%がより好ましく、30質量%以上が特に好ましい。上限としては、80質量%以下が好ましく、70質量%以下がより好ましい。
【0098】
なお、得られる複合活物質において複合物の含有量が上記範囲内である場合でも、複合活物質表面に露出する黒鉛成分の面積率は上記範囲内となる。
【0099】
複合活物質中における複合物の形状は特に制限されないが、通常、略球状の場合が多い。また、
図1に示すように、複合活物質中に複合物は多数含まれていてもよい。
【0100】
複合活物質中における複合物の平均粒子径は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる点で、1μm以下が好ましく、0.5μm以下がより好ましく、0.3μm以下がさらに好ましい。下限値については、特に制限はなく小さいほうが好ましい(なお、50nm以上の場合が多い)。
【0101】
平均粒子径の測定方法としては、複合活物質の断面を電子顕微鏡で観察して、少なくとも10個の複合物の直径を測定して、それらを算術平均した値である。なお、複合物が真円状でない場合は、円相当径を用いる。「円相当径」とは、観察される複合物の形状を、複合物の投影面積と同じ投影面積をもつ円と想定したときの当該円の直径である。
【0102】
上述したように、複合物にはシリコンと二酸化ケイ素とが含まれ、シリコンが二酸化ケイ素中に内包されることが好ましい。また、
図1に示すように、複合物中にシリコンは多数含まれていてもよい。
【0103】
複合物中におけるシリコンの平均粒子径は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる点で、1〜100nmが好ましく、1〜20nmがより好ましい。
【0104】
平均粒子径の測定方法としては、複合活物質の断面を電子顕微鏡(TEM)で観察して、少なくとも10個のシリコンの直径を測定して、それらを算術平均した値である。なお、シリコンが真円状でない場合は、円相当径を用いる。「円相当径」とは、観察されるシリコンの形状を、シリコンの投影面積と同じ投影面積をもつ円と想定したときの当該円の直径である。
【0105】
また、複合物中におけるシリコンの含有量は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる点で、複合物中の二酸化ケイ素の全合計質量に対して、20〜200質量%が好ましく、40〜150質量%がより好ましい。
【0106】
なお、必要に応じて、複合体中の二酸化ケイ素(SiO
2)はHFなどを用いて一部取り除いても構わない。その際、エッチングの量により、シリコン(Si)表面の二酸化ケイ素の量を調整することも可能である。表面保護の観点からは、ある一定量の二酸化ケイ素を残すことが好ましい。二酸化ケイ素を取り除くことで、活物質であるSiの相対質量を増加させ、容量を増加させることができる。また、必要であれば、さらに球形化に用いたミル等、等方的に圧力をかける装置を用い、二酸化ケイ素が抜けた後の空隙を減少させることも可能である。
【0107】
なお、上記のように、シリコンの含有量はHFでSiO
2を溶出することで上昇させることができ、その場合、シリコンの含有量は、複合物中の二酸化ケイ素の全合計質量に対して、100〜9900質量%に調整できる。
【0108】
上記シリコンの含有量は、ICP発光分光分析法により測定することができる。
【0109】
複合活物質には、通常、炭素前駆体由来の炭化物(炭素材。例えば、ハードカーボン、ソフトカーボンなど)が含まれる。
【0110】
複合活物質中における炭化物の含有量は、上述した混合工程における炭素前駆体の含有量により適宜調整できる。
【0111】
なかでも、本発明の効果がより優れる点で、炭化物の含有量は、複合活物質全量に対して、1質量%以上が好ましく、2質量%がより好ましく、5質量%以上が特に好ましい。上限としては、30質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましい。
【0112】
複合活物質の粒径(D50:50%体積粒径)は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる点で、2〜40μmが好ましく、5〜35μmがより好ましく、5〜30μmがさらに好ましい。
【0113】
なお、粒径(D90:90%体積粒径)は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる点で、10〜60μmが好ましく、20〜45μmがより好ましい。
【0114】
さらに、粒径(D10:10%体積粒径)は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる点で、1〜20μmが好ましく、2〜10μmがより好ましい。
【0115】
D10、D50およびD90は、レーザー回折散乱法により測定した累積粒度分布の微粒側から累積10%、累積50%、累積90%の粒径にそれぞれ該当する。
【0116】
なお、測定に際しては、複合活物質を液体に加えて超音波などを利用しながら激しく混合し、作製した分散液を装置にサンプルとして導入し、測定を行う。液体としては作業上、水やアルコール、低揮発性の有機溶媒を用いることが好ましい。この時、得られる粒度分布図は正規分布を示すことが好ましい。
【0117】
複合活物質の嵩密度は特に制限されないが、得られる複合活物質の体積当たりの容量をより大きくするため、0.5g/cm
3以上が好ましく、0.7g/cm
3以上がより好ましい。上限は特に制限されない。
【0118】
嵩密度の測定方法は、25mlのメスシリンダーを用いる以外、上述した黒鉛の嵩密度の測定方法と同じである。
【0119】
複合活物質のタップ密度は特に制限されないが、得られる複合活物質の体積当たりの容量をより大きくするため、0.8g/cm
3以上が好ましく、1.0g/cm
3以上がより好ましい。上限は特に制限されないが、1.6g/cm
3以下が好ましい。
【0120】
タップ密度の測定方法は、試料を25mlメスシリンダーには入れ、タッピングを行い、容量変化がなくなった時点の試料重量を試料体積で除して求める。
【0121】
複合活物質の比表面積(BET比表面積)は特に制限されないが、得られる複合活物質を用いたリチウム二次電池のサイクル特性がより優れる点で、5m
2/g以上が好ましく、8m
2/g以上がより好ましい。上限は特に制限されないが、100m
2/g以下が好ましい。
【0122】
複合活物質の比表面積(BET比表面積)の測定方法は、試料を300℃で30分真空乾燥後、窒素吸着1点法で測定する。
【0123】
必要に応じて、複合活物質の表面を炭素で被覆することができる。該処理を実施することにより、複合活物質の表面積を調整し、電気化学的安定性を高めることができる。
【0124】
炭素で被覆する方法は特に制限されないが、例えば、CVD法が挙げられる。より具体的には、トルエンなどのガスを流し、750〜1100℃でCVD処理を行うことが好ましい。
【0125】
<リチウム二次電池>
上述した複合活物質は、リチウム二次電池で使用される電池材料(電極材料)に使用される活物質として有用である。
【0126】
上記複合活物質を用いた電池材料の特徴として、電池材料の理論値に近い容量が得られること、膨張が抑制されていることが挙げられる。なお、該電池材料を用いた電池は優れたサイクル特性を示す。また、それ以外にも急速充放電特性にも優れ、その理由としては、シリコンが微細化している結果、Liイオンの拡散距離が小さいことが挙げられる。
【0127】
なお、上記複合活物質は特に負極に適用されることが好ましい。以下、複合活物質を負極に用いた態様について詳述する。
【0128】
複合活物質を使用してリチウム二次電池用負極を製造する方法は特に制限されず、公知の方法を使用することができる。
【0129】
例えば、複合活物質と結着剤とを混合し、加圧成形または溶剤を用いてペースト化し、銅箔上に塗布してリチウム二次電池用負極とすることができる。より具体的には、複合活物質92g、13%PVDF/NMP溶液62g、導電用カーボンブラック0.5g、およびNMP29gを混合し、通常用いられる双腕型ミキサーを用いて良好なスラリーが得られる。
【0130】
なお、集電体としては銅箔以外に、電池のサイクル特性がより優れる点で、三次元構造を有する材料を用いることもできる。三次元構造を有する集電体の材料としては、例えば、炭素繊維、スポンジ状カーボン(スポンジ状樹脂にカーボンを塗工したもの)、金属などが挙げられる。
【0131】
三次元構造を有する集電体(多孔質集電体)としては、金属や炭素の導電体の多孔質体として、平織り金網、エキスパンドメタル、ラス網、金属発泡体、金属織布、金属不織布、炭素繊維織布、または炭素繊維不織布などが挙げられる。
【0132】
使用される結着剤としては、公知の材料を使用でき、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素系樹脂、SBR、ポリエチレン、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、膠などが用いられる。
【0133】
また、溶剤としては、例えば、水、イソプロピルアルコール、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミドなどが挙げられる。
【0134】
なお、ペースト化する際には、上記のように必要に応じて、公知の攪拌機、混合機、混練機、ニーダーなどを用いて攪拌混合してもよい。
【0135】
複合活物質を用いて塗工用スラリーを調製する場合、導電材として導電性カーボンブラック、カーボンナノチューブまたはその混合物を添加することが好ましい。上記工程により得られた複合活物質の形状は、比較的、粒状化(特に、略球形化)している場合が多く、粒子間の接触は点接触となりやすい。この弊害を避けるために、スラリーにカーボンブラック、カーボンナノチューブまたはその混合物を配合する方法が挙げられる。カーボンブラック、カーボンナノチューブまたはその混合物はスラリー溶剤の乾燥時に該複合活物質が接触して形成する毛細管部分に集中的に凝集することが出来るので、サイクルに伴う接点切れ(抵抗増大)を防止することができる。
【0136】
カーボンブラック、カーボンナノチューブまたはその混合物の配合量は特に制限されないが、複合活物質100質量部に対して、0.2〜4質量部であることが好ましく、0.5〜2質量部であることがより好ましい。カーボンナノチューブの例としては、シングルウォールカーボンナノチューブ、マルチウォールカーボンナノチューブがある。
【0137】
(正極)
上記複合活物質を使用して得られる負極を有するリチウム二次電池に使用される正極としては、公知の正極材料を使用した正極を使用することができる。
【0138】
正極の製造方法としては公知の方法が挙げられ、正極材料と結合剤および導電剤よりなる正極合剤を集電体の表面に塗布する方法などが挙げられる。正極材料(正極活物質)としては、酸化クロム、酸化チタン、酸化コバルト、五酸化バナジウムなどの金属酸化物や、LiCoO
2、LiNiO
2、LiNi
1−yCo
yO
2、LiNi
1−x−yCo
xAl
yO
2、LiMnO
2、LiMn
2O
4、LiFeO
2などのリチウム金属酸化物、硫化チタン、硫化モリブデンなどの遷移金属のカルコゲン化合物、または、ポリアセチレン、ポリパラフェニレン、ポリピロールなどの導電性を有する共役系高分子物質などが挙げられる。
【0139】
(電解液)
上記複合活物質を使用して得られる負極を有するリチウム二次電池に使用される電解液としては、公知の電解液を使用することができる。
【0140】
例えば、電解液中に含まれる電解質塩として、LiPF
6、LiBF
4、LiAsF
6、LiClO
4、LiB(C
6H
5)、LiCl、LiBr、LiCF
3SO
3、LiCH
3SO
3、LiN(CF
3SO
2)
2、LiC(CF
3SO
2)
3、LiN(CF
3CH
2OSO
2)
2、LiN(CF
3CF
3OSO
2)
2、LiN(HCF
2CF
2CH
2OSO
2)
2、LiN{(CF
3)
2CHOSO
2}
2、LiB{(C
6H
3(CF
3)
2}
4、LiN(SO
2CF
3)
2、LiC(SO
2CF
3)
3、LiAlCl
4、LiSiF
6などのリチウム塩を用いることができる。特にLiPF
6およびLiBF
4が酸化安定性の点から好ましい。
【0141】
電解質溶液中の電解質塩濃度は0.1〜5mol/lであることが好ましく、0.5〜3mol/lであることがより好ましい。
【0142】
電解液で使用される溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネートなどのカーボネート、1,1−または1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、γ−ブチロラクトン、1,3−ジオキソフラン、4−メチル―1,3−ジオキソラン、アニソール、ジエチルエーテルなどのエーテル、スルホラン、メチルスルホランなどのチオエーテル、アセトニトリル、クロロニトリル、プロピオニトリルなどのニトリル、ホウ酸トリメチル、ケイ酸テトラメチル、ニトロメタン、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、酢酸エチル、トリメチルオルトホルメート、ニトロベンゼン、塩化ベンゾイル、臭化ベンゾイル、テトラヒドロチオフェン、ジメチルスルホキシド、3−メチル−2−オキサゾリン、エチレングリコール、ジメチルサルファイトなどの非プロトン性有機溶媒を用いることができる。
【0143】
また、電解液には、フルオロエチレンカーボネート等の添加剤を加えることもできる。これらの添加剤はシリコン表面に安定な保護膜を形成し、サイクル特性を向上させることが知られている。
【0144】
なお、電解液の代わりに、高分子固体電解質、高分子ゲル電解質などの高分子電解質を使用してもよい。高分子固体電解質または高分子ゲル電解質のマトリクスを構成する高分子化合物としては、ポリエチレンオキサイドやその架橋体などのエーテル系高分子化合物、ポリメタクリレートなどのメタクリレート系高分子化合物、ポリアクリレートなどのアクリレート系高分子化合物、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)やビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン共重合体などのフッ素系高分子化合物が好ましい。これらを混合して使用することもできる。酸化還元安定性などの観点から、PVDFやビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン共重合体などのフッ素系高分子化合物が特に好ましい。
【0145】
(セパレータ)
上記複合活物質を使用して得られる負極を有するリチウム二次電池に使用されるセパレータとしては、公知の材料を使用できる。例えば、織布、不織布、合成樹脂製微多孔膜などが例示される。合成樹脂製微多孔膜が好適であるが、中でもポリオレフィン系微多孔膜が、膜厚、膜強度、膜抵抗などの点から好適である。具体的には、ポリエチレンおよびポリプロピレン製微多孔膜、またはこれらを複合した微多孔膜などである。
【0146】
リチウム二次電池は、上述した負極、正極、セパレータ、電解液、その他電池構成要素(例えば、集電体、ガスケット、封口板、ケースなど)を用いて、常法に従って円筒型、角型あるいはボタン型などの形態を有することができる。
【0147】
本発明のリチウム二次電池は、各種携帯電子機器に用いられ、特にノート型パソコン、ノート型ワープロ、パームトップ(ポケット)パソコン、携帯電話、携帯ファックス、携帯プリンター、ヘッドフォンステレオ、ビデオカメラ、携帯テレビ、ポータブルCD、ポータブルMD、電動髭剃り機、電子手帳、トランシーバー、電動工具、ラジオ、テープレコーダー、デジタルカメラ、携帯コピー機、携帯ゲーム機などに用いることができる。また、さらに、電気自動車、ハイブリッド自動車、自動販売機、電動カート、ロードレベリング用蓄電システム、家庭用蓄電器、分散型電力貯蔵機システム(据置型電化製品に内蔵)、非常時電力供給システムなどの二次電池として用いることもできる。