(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6512811
(24)【登録日】2019年4月19日
(45)【発行日】2019年5月15日
(54)【発明の名称】分離液状調味料
(51)【国際特許分類】
A23L 27/60 20160101AFI20190425BHJP
A23D 9/013 20060101ALI20190425BHJP
【FI】
A23L27/60 A
A23D9/013
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-251471(P2014-251471)
(22)【出願日】2014年12月12日
(65)【公開番号】特開2016-111945(P2016-111945A)
(43)【公開日】2016年6月23日
【審査請求日】2017年8月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000227009
【氏名又は名称】日清オイリオグループ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 康信
【審査官】
小倉 梢
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−278932(JP,A)
【文献】
Cryst. Growth Des.,2013年,Vol. 13,p. 4746-4754
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 27/00 − 27/60
A23D 9/00 − 9/06
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
WPIDS/WPIX(STN)
FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
油相と水相を含む分離液状調味料であって、該油相中にラウリン系油脂、20℃で液状の油脂、及びHLBが3〜5であり、構成脂肪酸のうち炭素数10〜16の飽和脂肪酸が30〜55質量%、炭素数18〜22の不飽和脂肪酸が45〜70質量%であるポリグリセリン脂肪酸エステルを含有し、油相全体に対する含有量が、該ラウリン系油脂1〜12質量%、該20℃で液状の油脂50〜98質量%、該ポリグリセリン脂肪酸エステル0.1〜1質量%であることを特徴とする分離液状調味料。
【請求項2】
前記油相を、分離液状調味料中に合計で3〜50質量%含有することを特徴とする請求項1に記載の分離液状調味料。
【請求項3】
前記ラウリン系油脂がヤシ油であることを特徴とする請求項1又は2に記載の分離液状調味料。
【請求項4】
油相と水相を含む分離液状調味料において該油相部分の白濁及び/又は結晶物の発生を抑制する方法であって、該油相中にラウリン系油脂、20℃で液状の油脂、及びHLBが3〜5であり、構成脂肪酸のうち炭素数10〜16の飽和脂肪酸が30〜55質量%、炭素数18〜22の不飽和脂肪酸が45〜70質量%であるポリグリセリン脂肪酸エステルを含有し、油相全体に対する含有量が、該ラウリン系油脂1〜12質量%、該20℃で液状の油脂50〜98質量%、該ポリグリセリン脂肪酸エステル0.1〜1質量%に調製することを含んでなる方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラウリン系油脂を含有する分離液状調味料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、消費者の健康志向の高まりから、健康機能の付与された様々な加工食品が開発され、発売されている。ドレッシング等の分離液状調味料についても、毎日の食事のなかで手軽に摂取できることから、カロリーや塩分の量が低減された商品が多く販売されている。
【0003】
ヤシ油(ココナッツオイル)は、ココヤシ果実の胚乳から抽出精製される油脂であり、昔からよく知られている食用油であるが、最近では健康に関する多くの研究が進み、様々な健康効果・効能が知られるようになってきた。
一方で、ヤシ油は、加工食品で汎用される菜種油や大豆油と比べて、油脂の構成脂肪酸がかなり異なるため、加工食品に配合する場合、油脂の物性が変化して、加工食品に好ましくない性状が現れることがあった。また、ドレッシング等の分離液状調味料にも利用されていなかった。
【0004】
食品メーカーでは、大量生産化と流通網の拡大から、長時間、安定した品質を保てる商品設計が重要になってきている。例えば、在庫過程や流通過程においては様々な温度に曝されるため、低温から高温までの温度幅と温度変化に対して安定な品質を保つことが要求される。
【0005】
ドレッシング等の分離液状調味料は、低温環境下で長時間保管すると、油相部分(特に容器壁面や水相との境界)が白濁したり、結晶物が発生して商品価値を損なうことがある。これは、油相成分の結晶化が原因と考えられるが、水相による影響も考えられ、調味料の配合によって様々な要因が複合して起こる。よって、使用する原材料に応じて、低温環境下でも油相に白濁や結晶物が発生しない商品設計をする必要がある。
【0006】
油脂の結晶化を抑制する方法として、例えば、炭素数14以下の飽和脂肪酸の含有量が20〜80重量%、炭素数16以上の飽和脂肪酸の含有量が20〜80重量%であることを特徴とするポリグリセリン脂肪酸エステルを添加する方法(特許文献1)が提案されているが、この技術は、分離液状調味料のように、水相部が存在する場合については検討されていない。
また、分離液状調味料の界面の清澄性を得る方法として、例えば、柑橘オイルを添加する方法(特許文献2)が提案されているが、この技術は、柑橘オイル特有の風味が、調味料の種類によっては好ましくない場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−279115号公報
【特許文献2】特公平6−57124号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、油相にヤシ油等のラウリン系油脂を含有し、低温環境下でも油相に白濁や結晶物が発生しない分離液状調味料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねたところ、ヤシ油等のラウリン系油脂と20℃で液状の油脂とを含む油相に、特定の構成脂肪酸から成るポリグリセリン脂肪酸エステルを配合することで、低温で長期保存した場合でも、油相に白濁や結晶物が発生しないことを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0010】
(1)油相と水相を含む分離液状調味料であって、該油相中にラウリン系油脂、20℃で液状の油脂、及びHLBが2〜6であり、構成脂肪酸のうち炭素数10〜16の飽和脂肪酸が60質量%以下、炭素数18〜22の不飽和脂肪酸が40質量%以上であるポリグリセリン脂肪酸エステルを含有し、油相全体に対する含有量が、該ラウリン系油脂1〜12質量%、該20℃で液状の油脂50〜98質量%、該ポリグリセリン脂肪酸エステル0.1〜1質量%であることを特徴とする分離液状調味料。
(2)前記油相を、分離液状調味料中に合計で3〜50質量%含有することを特徴とする(1)に記載の分離液状調味料。
(3)前記ラウリン系油脂がヤシ油であることを特徴とする(1)又は(2)に記載の分離液状調味料。
(4)油相と水相を含む分離液状調味料において該油相部分の白濁及び/又は結晶物の発生を抑制する方法であって、該油相中にラウリン系油脂、20℃で液状の油脂、及びHLBが2〜6であり、構成脂肪酸のうち炭素数10〜16の飽和脂肪酸が60質量%以下、炭素数18〜22の不飽和脂肪酸が40質量%以上であるポリグリセリン脂肪酸エステルを含有し、油相全体に対する含有量が、該ラウリン系油脂1〜12質量%、該20℃で液状の油脂50〜98質量%、該ポリグリセリン脂肪酸エステル0.1〜1質量%に調製することを含んでなる方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ヤシ油等のラウリン系油脂と20℃で液状の油脂を含有する油相に対して、特定のポリグリセリン脂肪酸エステルを配合することで、低温で長期保存した場合でも、油相に白濁や結晶物が発生しない分離液状調味料が提供される。
なお、本発明における低温(低温保管等)とは、温度が0℃〜10℃の範囲を指すものである。また、本発明において、油相に白濁や結晶物が発生するとは、具体的に、油相全体、容器壁面、又は水相との境界に、白色の微細な結晶物や曇りが発生して、油相の澄明性が損なわれた状態を指すものである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について具体的に説明する。
【0013】
[分離液状調味料]
本発明における分離液状調味料とは、油相と水相とを含む調味料であり、静置時には油相と水相とがほぼ分離しており、使用時に振盪するなどして混ぜ合わせて使用されるものであり、具体的には、ドレッシング、タレ、ソース、又はその他これらに類する食品を指す。本発明の分離液状調味料の好ましい態様としてはドレッシングが挙げられ、より具体的には、日本農林規格(JAS)において定義される「分離液状ドレッシング」等が挙げられる。
【0014】
以下、本発明の分離液状調味料中に含まれる各成分について詳述する。
(ラウリン系油脂)
本発明におけるラウリン系油脂とは、構成脂肪酸中のラウリン酸含量が30質量%以上の油脂のことである。ラウリン系油脂の構成脂肪酸中のラウリン酸含量は、好ましくは40質量%以上であり、より好ましくは40〜60質量%である。ラウリン系油脂の具体例としては、ヤシ油(未精製ヤシ油、精製ヤシ油等)、パーム核油やこれらの加工油脂(分別油、硬化油等)等が挙げられるが、ヤシ油やパーム核油のエステル交換油脂は含まれない。本発明においては、ヤシ油が好適に使用できる。
【0015】
本発明におけるラウリン系油脂は、本発明の分離液状調味料の油相中に1〜12質量%含有する。また、前記ラウリン系油脂の油相中の含有量は、2〜10質量%が好ましく、3〜8質量%がより好ましく、4〜6質量%がもっとも好ましい。ラウリン系油脂の含有量が上記の範囲にあると、低温で長期保存した場合に、油相に白濁や結晶物が発生することを抑えられる。
【0016】
(20℃で液状の油脂)
本発明における20℃で液状の油脂とは、前記ラウリン系油脂以外の20℃で液状の植物油であることが好ましい。前記20℃で液状の植物油としては、具体的には、菜種油、オリーブ油、米油、ゴマ油、綿実油、落花生油、トウモロコシ油、大豆油、ヒマワリ油、紅花油、炭素数8及び/又は10の中鎖脂肪酸を構成脂肪酸とする中鎖脂肪酸トリグリセリド、炭素数8及び/又は10の中鎖脂肪酸と炭素数12〜24の長鎖脂肪酸とを構成脂肪酸とするトリグリセリド、及びこれらの混合油等が挙げられ、これらの中でも、消化吸収が早く、栄養摂取に優れた中鎖脂肪酸を構成脂肪酸とするトリグリセリドが好ましい。
【0017】
本発明における20℃で液状の油脂は、本発明の分離液状調味料の油相中に50〜98質量%含有する。また、油相中の前記20℃で液状の油脂の含有量は、70〜98質量%が好ましく、80〜97質量%がより好ましく、90〜96質量%がもっとも好ましい。20℃で液状の油脂の含有量が上記の範囲にあると、低温で長期保存した場合に、油相に白濁や結晶物が発生することを抑えられる。
【0018】
本発明における20℃で液状の油脂は、構成脂肪酸中に中鎖脂肪酸を含有する場合、中鎖脂肪酸を10〜50質量%含有することが好ましく、10〜35質量%含有することがより好ましく、10〜20質量%含有することが最も好ましい。前記20℃で液状の油脂中の構成脂肪酸の中鎖脂肪酸含有量が上記の範囲にあると、本発明の分離液状調味料が、風味に優れ、且つ、栄養摂取に優れたものになる。
なお、油脂中の構成脂肪酸の中鎖脂肪酸含有量は、ガスクロマトグラフィー法に準じて求めることができる。
【0019】
本発明の分離液状調味料は、油相を分離液状調味料全体に対して3〜50質量%含有することが好ましく、10〜45質量%含有することがより好ましく、12〜40質量%含有することが最も好ましい。油相の含有量が上記の範囲にあると、本発明の分離液状調味料が、コク味とまろやかな味の優れたものになる。
【0020】
(ポリグリセリン脂肪酸エステル)
本発明におけるポリグリセリン脂肪酸エステルは、グリセリン重合体と脂肪酸とがエステル結合した化合物である。本発明におけるポリグリセリン脂肪酸エステルは、本発明の分離液状調味料の油相中に0.1〜1質量%含有する。また、前記ポリグリセリン脂肪酸エステルの油相中の含有量は、0.1〜0.8質量%が好ましく、0.2〜0.6質量%がより好ましく、0.2〜0.4質量%がもっとも好ましい。また、本発明におけるポリグリセリン脂肪酸エステルのHLBは2〜6であり、3〜5が好ましい。ポリグリセリン脂肪酸エステルの油相中の含有量とHLBが上記の範囲にあると、本発明の分離液状調味料が、乳化剤特有の異味が無く、風味が良好であり、且つ、水相と油相の境界面における白濁や結晶物の発生が抑制されたものになる。
ここで、HLB値は、界面活性剤における親水性と疎水性のバランスを表す数値であり、例えば、「改訂三版 油脂化学便覧」(日本油化学協会編)に記載された方法により測定することができる。
【0021】
本発明におけるポリグリセリン脂肪酸エステルは、その構成脂肪酸中、炭素数10〜16の飽和脂肪酸が60質量%以下であり、30〜55質量%が好ましく、35〜50質量%がより好ましい。また、前記ポリグリセリン脂肪酸エステルは、その構成脂肪酸中、炭素数18〜22の不飽和脂肪酸が40質量%以上であり、45〜75質量%が好ましく、50〜70質量%がより好ましい。ポリグリセリン脂肪酸エステルの構成脂肪酸の炭素数10〜16の飽和脂肪酸と炭素数18〜22の不飽和脂肪酸の含有量が上記の範囲にあると、低温で長期保存した場合に、油相に白濁や結晶物が発生するのをより効果的に抑えられる。
ここで、ポリグリセリン脂肪酸エステルを構成する脂肪酸組成は、例えば、「基準油脂分析試験法」(日本油化学協会編)に記載された方法により測定することができる。
【0022】
本発明におけるポリグリセリン脂肪酸エステルは、HLB及び構成脂肪酸が上記の範囲のものであれば、市販のポリグリセリン脂肪酸エステルを用いてもよいし、従来公知の方法により製造したポリグリセリン脂肪酸エステルを用いてもよい。ポリグリセリン脂肪酸エステルの製造方法は、特に限定されるものではなく、例えば、グリセリンと脂肪酸とのエステル化やグリセリンと油脂とのエステル交換といった従来公知の方法が挙げられる。以下に、ポリグリセリン脂肪酸エステルの製造方法の一例を示すが、これに限定されるものではない。まず、グリセリンと、水酸化ナトリウム(触媒)とを混合し、90℃以上で減圧しながら乾燥させた後、200〜270℃にて重合反応させて、ポリグリセリンを得る。得られたポリグリセリンと、脂肪酸とを、適当な比率で反応容器に仕込み、触媒として水酸化ナトリウム溶液を添加する。次いで、窒素気流下で、200℃以上の温度に加熱し、1〜3時間程度反応させた後、さらに内温を250℃以上とし、3〜5時間反応させる。その後、常温まで冷却し、常法により精製し、ポリグリセリン脂肪酸エステルを得ることができる。
【0023】
(その他の原料)
本発明の分離液状調味料には、食塩、食酢、醤油、果汁、酸味料、うま味調味料、たんぱく加水分解物、糖類、甘味料、エキス類、香料、香辛料、酸化防止剤、具材(キザミ野菜、すりおろし野菜等)、粉末チーズ、トマトペースト、コーンペースト、ごま等を使用してもよい。このような原料等を使用することにより、本発明の分離液状調味料に所望の風味や食感を与えることができる。また、本発明の効果を損なわない範囲において、ポリグリセリン脂肪酸エステル以外の乳化剤を使用してもよい。
例えば、製造しようとする分離液状調味料がドレッシングである場合、上述の原料等を使用して、和風ドレッシング、イタリアンドレッシング、フレンチドレッシング、中華ドレッシング、ごまドレッシング、シーザードレッシング等を調製できる。
【0024】
[分離液状調味料の製造方法]
本発明の分離液状調味料は、通常の分離液状調味料の製造方法に従って製造できる。例えば、本発明の分離液状調味料の一つの態様であるドレッシングの製造方法の場合、油相部と水相部を別々に調製し、重層して製造する。具体的には、油脂に油溶性のポリグリセリン脂肪酸エステルを均一に溶解し油相部を調製し、それとは別に、水相の原料(例えば、糖類、増粘多糖類、酢、食塩、水等)を加熱撹拌して原料を均一に分散させ水相部を調製する。水相部の加熱攪拌は加圧、減圧又は常圧下で可能であり、通常は常圧下で行われる。加熱温度に特に制限はなく、原材料が溶解、殺菌がなされる温度であればよく、通常は40〜95℃の温度で、好ましくは60〜95℃の温度で行われる。攪拌は原料の均一な分散等がなされるものであればどのようなものでも実施することができ、例えば、プロペラ、ホモミキサー、ブレンダー、ディスパー、パドルミキサー、スタティックミキサー、超音波等の攪拌機又は方法を用いることができる。その後、常温程度まで冷却し、得られた水相部に、別で調製した油相部を加えて重層することによってドレッシングを得る。
【0025】
本発明の分離液状調味料は、ホットパック殺菌又はレトルト殺菌されていてもよい。分離液状調味料をホットパック殺菌する方法及びホットパックの材質等に特に制限はなく、従来公知の方法及び材質のものを用いることができる。ホットパック充填条件についても特に制限はなく、従来公知の条件でよく、例えば45℃以上の温度、好ましくは60℃以上の温度で行うことができる。また、分離液状調味料をレトルト殺菌する方法及びレトルト殺菌に用いる容器に特に制限はなく、従来公知の方法等を用いることができる。レトルト殺菌の方法としては、例えば120℃、30〜60分等でよい。また、105〜115℃の温度でのセミレトルト、130℃以上の温度のハイレトルト等であってもよい。
【実施例】
【0026】
以下、実施例によって本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。また、本発明の分離液状調味料は、油相部の白濁や、結晶物の発生の抑制効果をモデル実験により検証することができる。
【0027】
[ポリグリセリン脂肪酸エステルの製造]
下記表1に示す構成脂肪酸組成及びHLBを示すポリグリセリン脂肪酸エステル(PGFE1〜3)を常法により得た。なお、表中の「PGFE」はポリグリセリン脂肪酸エステルを指し、例えば「C16:0」は、炭素数16の脂肪酸であって不飽和結合を有さない飽和脂肪酸、「C18:1」は炭素数18で2重結合を1つ有する不飽和脂肪酸を指す。なお、ポリグリセリン脂肪酸エステルを構成する脂肪酸組成は、「基準油脂分析試験法」(日本油化学協会編)、HLBは、「改訂三版 油脂化学便覧」(日本油化学協会編)に記載された方法により測定した。
【0028】
【表1】
【0029】
[20℃で液状の油脂(構成脂肪酸に中鎖脂肪酸を含むエステル交換油脂)の製造]
n−オクタン酸とn−デカン酸を構成脂肪酸とし、n−オクタン酸とn−デカン酸の質量比が3:1である中鎖脂肪酸トリグリセリドと、日清キャノーラ油(日清オイリオグループ社製)とを14:86(質量比)の割合で混合し、混合油を得た。得られた混合油に、リパーゼ粉末を前記混合油に対して0.1質量%添加した後、60℃で15時間撹拌し、エステル交換反応させた。次いで、反応生成物からリパーゼ粉末を濾別し、濾液を水洗、乾燥後、脱色、脱臭して、構成脂肪酸に中鎖脂肪酸を含むエステル交換油脂を得た。なお、前記エステル交換油脂は、20℃で液状の油脂であり、構成脂肪酸に中鎖脂肪酸を13質量%含有していた。
【0030】
[精製ヤシ油]
精製ヤシ油は日清オイリオグループ(株)製造品を使用した。なお、前記精製ヤシ油は、構成脂肪酸中のラウリン酸含量が47質量%であった。
【0031】
[油水二相系での油相の白濁及び結晶物の発生の検証]
油相と水相から成る組成物をモデル実験として、低温保存下における白濁及び結晶物の発生の検証を行った。表2及び3の配合に従い、60℃に加温した油脂にポリグリセリン脂肪酸エステルを均一に溶解後、室温まで徐冷し、水を加えて実施例1〜3及び比較例1〜4を調製した。次に各調製物を100mLの透明サンプル瓶に充填・密封し、5℃恒温槽中に、遮光下で7日間静置保管した。
【0032】
<評価>
保管開始から7日目に、5℃恒温槽からサンプル瓶を取り出し、下記の指標に基づき、白濁及び結晶物の発生の評価を行った。評価結果を表2及び3に示す。
(白濁及び結晶物の発生の評価)
サンプル瓶の状態で、油相部分を目視で観察して評価した。評価基準は下記の通りである。
○:白濁や微細な結晶物が認められない
△:油相全体、サンプル瓶の油相の壁面、水相との界面のいずれかに、白濁及び/又は微細な結晶物が僅かに認められる
×:油相全体、サンプル瓶の油相の壁面、水相との界面のいずれかに、白濁及び/又は微細な結晶物が明確に認められる
【0033】
【表2】
【0034】
【表3】
【0035】
表2及び3の結果より、PGFE1は油相の白濁及び結晶物の発生に優れた抑制効果を有していた。また、油相中の精製ヤシ油の含量が15質量%(比較例1)になると、PGFE1を含有しても油相に白濁が発生した。
【0036】
[分離液状ドレッシング(和風ドレッシング)の製造]
表4の配合に従い、上記で製造した20℃で液状の油脂を、撹拌機付きの加温可能な容器に投入し、60℃に加温した後、各ポリグリセリン脂肪酸エステルを均一に溶解した。その後、精製ヤシ油を投入し混合した後、室温まで冷却して油相部を調製した。また、表4の配合に従い、グラニュー糖、玉ねぎみじん切り、醸造酢、濃口醤油、食塩、グルタミン酸ナトリウム、キサンタンガム及び水を、撹拌機付きの加温可能な容器に投入し、撹拌しながら品温が90℃になるまで加熱保持して原料を溶解し、その後、室温まで冷却して水相部を調製した。次に、200mLの透明のサンプル瓶に水相部を充填後、油相部を重層して密封し分離液状ドレッシング(和風ドレッシング)を製造した。
【0037】
<評価>
製造した分離液状ドレッシングを5℃恒温槽中に、遮光下で28日間静置保管し、保管開始から7日目と28日目に、5℃恒温槽からサンプル瓶を取り出し、下記の指標に基づき、白濁及び結晶物の発生の評価を行った。評価結果を表4に示す。
(白濁及び結晶物の発生の評価)
サンプル瓶の状態で、油相部分を目視で観察して評価した。評価基準は下記の通りである。
◎:白濁や微細な結晶物が認められない
○:油相全体、サンプル瓶の油相の壁面、水相との界面のいずれかに、白濁及び/又は微細な結晶物がごく僅かに認められるが、商品として許容できる
×:油相全体、サンプル瓶の油相の壁面、水相との界面のいずれかに、白濁及び/又は微細な結晶物が明確に認められ、商品として許容できない
【0038】
【表4】
【0039】
表4の結果より、油相中に精製ヤシ油を5質量%、20℃で液状の油脂を94.8質量%、及びHLBが4であり、構成脂肪酸のうち炭素数10〜16の飽和脂肪酸が46質量%、炭素数18〜22の不飽和脂肪酸が52質量%であるポリグリセリン脂肪酸エステルを0.2質量%含有する分離液状ドレッシング(実施例4)は、5℃で28日間保管しても、油相部分に白濁や微細な結晶物を生じなかった。また、実施例4及び5の分離液状ドレッシングの風味は、製造直後から変化はなく、良好であった。