特許第6512980号(P6512980)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6512980
(24)【登録日】2019年4月19日
(45)【発行日】2019年5月15日
(54)【発明の名称】X線透過検査装置及びX線透過検査方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/04 20180101AFI20190425BHJP
   G01N 23/18 20180101ALI20190425BHJP
   G01N 23/083 20180101ALI20190425BHJP
【FI】
   G01N23/04
   G01N23/18
   G01N23/083
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-149138(P2015-149138)
(22)【出願日】2015年7月29日
(65)【公開番号】特開2017-32285(P2017-32285A)
(43)【公開日】2017年2月9日
【審査請求日】2018年6月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】503460323
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテクサイエンス
(74)【代理人】
【識別番号】100120396
【弁理士】
【氏名又は名称】杉浦 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】的場 吉毅
(72)【発明者】
【氏名】竹田 明弘
(72)【発明者】
【氏名】坪井 臣悟
(72)【発明者】
【氏名】酒井 俊広
【審査官】 蔵田 真彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−257884(JP,A)
【文献】 特開2011−149701(JP,A)
【文献】 特開平03−010151(JP,A)
【文献】 特開2006−010429(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0216024(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00−23/2276
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料に対してX線を照射するX線源と、
前記X線源からのX線を照射中に前記試料を特定の方向に連続して移動させる試料移動機構と、
前記試料に対して前記X線源と反対側に設置され前記試料を透過した前記X線を検出するTDIセンサと、
前記X線源と前記試料との距離を測定する距離センサと、
前記距離センサで測定した前記距離の変動に基づいてリアルタイムに前記TDIセンサの電荷送り速度を変化させて前記TDIセンサを制御するTDI制御部とを備えていることを特徴とするX線透過検査装置。
【請求項2】
請求項1に記載のX線透過検査装置において、
前記試料が、帯状であり、
前記距離センサが、前記試料に向けて出射したレーザ光の反射で前記距離を測定するレーザ距離センサであり、前記レーザ光を前記試料の移動方向に交差する方向かつ前記試料の幅方向に延在する線状のスポット形状にして照射することを特徴とするX線透過検査装置。
【請求項3】
X線源により試料に対してX線を照射するX線照射ステップと、
前記X線源からのX線を照射中に前記試料を特定の方向に連続して移動させる試料移動ステップと、
前記試料に対して前記X線源と反対側に設置されたTDIセンサで前記試料を透過した前記X線を検出するX線検出ステップと、
距離センサで前記X線源と前記試料との距離を測定する距離測定ステップと、
前記距離センサで測定した前記距離の変動に基づいてリアルタイムに前記TDIセンサの電荷送り速度を変化させて前記TDIセンサを制御するTDI制御ステップとを有していることを特徴とするX線透過検査方法。
【請求項4】
請求項3に記載のX線透過検査方法において、
前記試料が、帯状であり、
前記距離センサが、前記試料に向けて出射したレーザ光の反射で前記距離を測定するレーザ距離センサであり、前記レーザ光を前記試料の移動方向に交差する方向かつ前記試料の幅方向に延在する線状のスポット形状にして照射することを特徴とするX線透過検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料中の微小な異物等を検出可能であり、特に数十μm以下の異物の検出が可能なX線透過検査装置及びX線透過検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、試料中の微小な金属等の異物等を検出するために、試料にX線を照射して取得したX線透過像により検査を行うX線透過検査が用いられている。例えば、近年、自動車、ハイブリッド車又は電気自動車等に採用されるリチウムイオン二次電池において、正極となる電極は、Al膜の両面にMn酸リチウム膜やCo酸リチウム膜が形成されている。そのため、FeやSUS等の数十μm以上の異物が混入すると、短絡が発生してバッテリーの焼失や性能低下が生じるおそれがあり、異物混入を製造時にX線透過検査で検出して除去している。
【0003】
このような試料中の異物等を検出するX線透過検査装置として、インラインで検査を実施する際、X線源とラインセンサ等のX線検出器とが一方向に移動する試料を挟むように対向配置されたものが知られている。例えば、特許文献1には、TDIセンサを利用することで微小な異物でも高感度に検出するX線異物検査装置が提案されている。
【0004】
このX線異物検査装置では、X線イメージインテンシファイアー(画像強度増幅装置:IIF)と、TDIセンサとを備えており、X線イメージインテンシファイアーの結像面上を移動するX線透過画像と、TDIセンサの電荷送り速度とを同期させること、またベルトコンベアの移動速度Vに対してX線イメージインテンシファイアーの入力画面に結像される画像が、X線源から異物(実際にはベルトコンベア)までの距離b、X線源からX線イメージインテンシファイアーの入力画面までの距離aにより、光学的拡大率b/aに拡大されること、そしてTDIセンサに結像される異物の画像の移動速度が、ベルトコンベアの移動速度Vに対してb/a及びその他を乗じた速度Vとなることが記載されている。
【0005】
すなわち、このX線異物検査装置では、試料の移動速度とTDIセンサの電荷移動速度とを同期させること、並びに予め設定したX線源から異物(実際は、ベルトコンベアの載置面)までの距離(FOD)とX線源からX線検出器までの距離(FDD)との比(FDD/FOD)による光学的拡大率を補正ファクターとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−257884号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記従来の技術には、以下の課題が残されている。
すなわち、従来のX線透過検査装置では、光学的拡大率を加味したTDIセンサの電荷送り速度としても、それを一定として検査を行うため、試料が移動途中で高さ方向に位置変化を起こした場合、TDIセンサの検出面においてX線透過像の焦点位置が変化してしまい、同じ試料の同じ異物を検出したとしても、TDIセンサによる検出信号の積算の程度に差異が生じて像にぼけが生じてしまう問題があった。このように、試料の高さ方向に位置変化があると、試料中の異物の過検出や誤検出が発生してしまうおそれがあった。
【0008】
本発明は、前述の課題に鑑みてなされたもので、試料の高さ方向に位置変化があっても、異物の過検出や誤検出を防ぐことができるX線透過検査装置及びX線透過検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。すなわち、本発明のX線透過検査装置は、試料に対してX線を照射するX線源と、前記X線源からのX線を照射中に前記試料を特定の方向に連続して移動させる試料移動機構と、前記試料に対して前記X線源と反対側に設置され前記試料を透過した前記X線を検出するTDIセンサと、前記X線源と前記試料との距離を測定する距離センサと、前記距離センサで測定した前記距離の変動に基づいてリアルタイムに前記TDIセンサの電荷送り速度を変化させて前記TDIセンサを制御するTDI制御部とを備えていることを特徴とする。
【0010】
このX線透過検査装置では、距離センサで測定した前記距離の変動に基づいてリアルタイムにTDIセンサの電荷送り速度を変化させてTDIセンサを制御するので、前記距離の変動をリアルタイムに感知し、その変動を電荷送り速度に都度反映させることで、X線透過像の焦点位置を適正化して像のぼけを防止することができる。また、物理的な動作を伴わず、TDIセンサの電荷送り速度をリアルタイムで瞬時に変化させることができると共に、変動に対応する一連の制御に要する時間が短いため、データ取得間隔を短くでき、より緻密なデータ取得が可能になって、高精度な試料の位置補正が可能になる。
【0011】
第2の発明に係るX線透過検査装置は、第1の発明において、前記試料が、帯状であり、前記距離センサが、前記試料に向けて出射したレーザ光の反射で前記距離を測定するレーザ距離センサであり、前記レーザ光を前記試料の移動方向に交差する方向かつ前記試料の幅方向に延在する線状のスポット形状にして照射することを特徴とする。
すなわち、このX線透過検査装置では、距離センサが、レーザ光を試料の移動方向に交差する方向かつ試料の幅方向に延在する線状のスポット形状にして照射するので、二次元での測定となり、広い領域の位置変動をとらえることができ、より一層の精度の向上を図ることができる。
【0012】
第3の発明に係るX線透過検査方法は、X線源により試料に対してX線を照射するX線照射ステップと、前記X線源からのX線を照射中に前記試料を特定の方向に連続して移動させる試料移動ステップと、前記試料に対して前記X線源と反対側に設置されたTDIセンサで前記試料を透過した前記X線を検出するX線検出ステップと、距離センサで前記X線源と前記試料との距離を測定する距離測定ステップと、前記距離センサで測定した前記距離の変動に基づいてリアルタイムに前記TDIセンサの電荷送り速度を変化させて前記TDIセンサを制御するTDI制御ステップとを有していることを特徴とする。
【0013】
第4の発明に係るX線透過検査方法は、第3の発明において、前記試料が、帯状であり、前記距離センサが、前記試料に向けて出射したレーザ光の反射で前記距離を測定するレーザ距離センサであり、前記レーザ光を前記試料の移動方向に交差する方向かつ前記試料の幅方向に延在する線状のスポット形状にして照射することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、以下の効果を奏する。
すなわち、本発明に係るX線透過検査装置及びX線透過検査方法によれば、距離センサで測定した前記距離の変動に基づいてリアルタイムにTDIセンサの電荷送り速度を変化させてTDIセンサを制御するので、X線透過像のぼけを防止することができる。したがって、試料の高さ方向に位置変化があっても、異物の過検出や誤検出を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明に係るX線透過検査装置及びX線透過検査方法の第1実施形態を示す概略的な全体構成図である。
図2】第1実施形態において、TDIセンサを示す斜視図である。
図3】第1実施形態において、距離センサによる距離測定方法を示す説明図である。
図4】本発明に係るX線透過検査装置及びX線透過検査方法の第2実施形態において、距離センサによる距離測定方法を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係るX線透過検査装置及びX線透過検査方法の一実施形態を、図1から図3を参照しながら説明する。
【0017】
本実施形態のX線透過検査装置は、図1に示すように、試料Sに対してX線Xを照射するX線源2と、X線源2からのX線Xを照射中に試料Sを特定の方向に連続して移動させる試料移動機構3と、試料Sに対してX線源2と反対側に設置され試料Sを透過したX線を検出するTDIセンサ4と、X線源2と試料Sとの距離を測定する距離センサ5と、試料Sの移動時に距離センサ5で測定した前記距離の変動に基づいてリアルタイムにTDIセンサ4の電荷送り速度を変化させてTDIセンサ4を制御するTDI制御部6とを備えている。
【0018】
さらに、本実施形態のX線透過検査装置1は、前記各構成に接続されてそれぞれを制御する主制御部7と、検出された透過X線の強度の分布を示す透過像を表示する表示部8とを備えている。
上記主制御部7は、CPU等で構成されたコンピュータである。入力されるTDIセンサ4からの信号に基づいて画像処理を行って透過像を作成し、さらにその画像を表示部8に表示させる演算処理回路等を含む。
上記表示部8は、主制御部7に接続されてコントラスト像などを表示するディスプレイ装置である。この表示部8は、主制御部7からの制御に応じて種々の情報を表示可能である。
【0019】
上記X線源2は、X線Xを照射可能なX線管球であって、管球内のフィラメント(陰極)から発生した熱電子がフィラメント(陰極)とターゲット(陽極)との間に印加された電圧により加速されターゲットのW(タングステン)、Mo(モリブデン)、Cr(クロム)などに衝突して発生したX線Xを1次X線としてベリリウム箔などの窓から出射するものである。
【0020】
上記試料Sは、例えば帯状に形成されたLiイオンバッテリー用の材料や医薬品系に用いられる材料である。
上記試料Sは、例えば帯状に形成されたLiイオンバッテリー用の材料や医薬品系に用いられる材料である。例えば、試料SがLiイオン二次電池に使用される電極シートなどである場合、それに混入する異物は、例えば電極に異物として混入が懸念されるFeやSUSである。
【0021】
上記試料移動機構3は、TDIセンサ4に対して、例えば試料Sの延在方向に相対的に移動可能なモータ等である。上記試料移動機構3は、例えば帯状の試料Sをロール・to・ロール方式で延在方向に移動させる少なくとも一対のローラ(図示略)等を備えている。
また、試料移動機構3には、試料Sの移動量を定量化するために、リニアスケール9が設置されており、試料Sの移動量を計測ピッチLsで計測可能である。
【0022】
上記TDI(Time Delay Integration)センサ4は、図2に示すように、試料Sの移動方向に対して垂直な方向と平行な方向とのそれぞれに複数のセル(センサ素子)を配置したX線検出器であって、検出面4aに配された蛍光体4bと、蛍光体4b下に複数の光ファイバを二次元的に縦横に複数列並べて配したFOP(ファイバオプティクスプレート)4cと、FOP4cの下に配されたSi受光素子4dとを備え、ラインセンサを複数列並べたような構成を有している。例えば、試料Sの送り方向に200〜1000段の単位ラインセンサが並んでTDIセンサ4が構成されている。
このTDIセンサ4では、CsI(ヨウ化セシウム)、GOS(ガドリニウムオキシ硫化物)又はYAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット)等の蛍光体4bが用いられている。
なお、TDIセンサ4は、センサピッチLtで電荷蓄積及び電荷転送が行われる。ラインレートは、通常0.5〜100kHz程度である。
【0023】
上記距離センサ5は、試料Sに向けて出射したレーザ光Lの反射で前記距離を測定する反射型のレーザ距離センサである。この距離センサ5は、X線源2側で試料Sに対向配置され、レーザ光Lを点状のスポット形状にして試料Sに照射し、その反射光に基づいて主に三角法を利用して試料SとX線源2との距離を測定する。また、距離センサ5の距離測定結果は、TDI制御部6に送られる。
この距離センサ5は、繰り返し測定精度で0.01μm程度、応答周波数が300kHz以上であり、サンプリングタイムが十数μsと、極めて短時間でリアルタイム高精度測定が可能である。
【0024】
距離センサ5のスポット形状は点状であるが、移動する試料S上にレーザ光Lのポイントを取ることで、図3に示すように、一次元(ライン状)での計測となる。この際、使用する距離センサ5の応答速度と、TDIセンサ4の電荷送り速度の応答速度とから、X線源2から試料Sまでの距離FOD’の計測間隔を決定する。
なお、距離センサ5は、同じ目的を達成できるその他の原理を利用した距離センサでも構わない。
【0025】
上記TDI制御部6は、TDIセンサ4の電荷転送の方向及び速度を、試料Sの移動方向及び速度に合わせると共に、受光面4aの検出領域においてTDIセンサ4が受光したX線Xの輝度値を積算する機能を有している。
すなわち、TDI制御部6は、試料Sの高さ方向に変動がない場合の制御として、試料Sの速度Vに対してTDIセンサ4の検出領域における電荷転送の速度(電荷送り速度)VTDIと駆動方向の向きとを同じに設定し、試料Sの流れとTDIセンサ4の積算処理とを同期させて制御している。
なお、図中の矢印Y1は、試料Sの移動方向であり、矢印Y2は、TDIセンサ4のTDI駆動向きである。
【0026】
また、TDI制御部6は、TDIセンサ4の拡大率(試料S上の像が受光面4a上に投影された際の拡大率)を決定して、この拡大率でTDIセンサ4を制御する機能を有している。
すなわち、TDI制御部6は、TDIセンサ4の拡大率Nを算出する分周器6aと、分周器6aで求めた拡大率Nを補正して補正拡大率N’とすると共に補正拡大率N’に基づいて試料Sの移動速度を補正した速度で電荷送り速度を算出する修正部6bとを備えている。
【0027】
上記分周器6aは、試料Sの移動量を計測するリニアスケール9の計測ピッチLsと、TDIセンサ4のTDIピッチLtとの比「Lt/Ls」からTDIセンサ4の拡大率Nを固定値として算定し、修正部6bに送る機能を有している。
上記拡大率Nは、固定値であり、式「N=(Lt/Ls)×(FOD/FDD)」により算出される。このとき、FODは、固定値であって、変動していない状態のX線源2と試料Sとの距離である。
なお、分周器6aは、例えば周波数f1の信号を加えて、これに同期した周波数f2(f2=f1/n、n:整数)の出力を得る回路を有する装置であり、デジタルICによる計数回路を用いて周波数を整数分の1に落とすものである。
【0028】
上記修正部6bは、距離センサ5によりリアルタイムで計測したX線源2から試料Sまでの距離FOD’と、固定値としてのX線源2と受光面4aとの距離FDDとの比「FOD’/FDD」をファクターとして、分周器6aから送られた拡大率Nを補正して補正拡大率N’とし、この補正拡大率N’に基づいたTDIセンサ4の電荷送り速度を決定し、TDIセンサ4に送る機能を有している。
上記補正拡大率N’は、常時計測される距離FOD’の変化に伴い、式「N’=(Lt/Ls)×(FOD’/FDD)」によりリアルタイムに算出される。ここで「リアルタイム」とは、使用するTDIセンサ4のラインレート及び距離センサ5のサンプリングタイムにより決定され、可能な範囲で距離センサ5のサンプリングタイムを短くすることで、より精度の高い制御が可能となる。
【0029】
次に、本実施形態のX線透過検査装置を用いたX線透過検査方法について説明する。このX線透過検査方法では、例えば、Liイオン二次電池における正極シートを検査対象の試料Sとし、その中の異物を検出することを目的とする。
【0030】
まず、試料移動機構3により、試料Sを対向するX線源2とTDIセンサ4との間で一定速度で移動させる。なお、この試料Sは、試料SとTDIセンサ4との距離に比して非常に小さい厚さを有している。
この状態で、距離センサ5の測定結果からX線源2と試料Sとの距離FOD’を計算する。
【0031】
次に、X線源2からX線Xを試料Sに照射すると共に、TDIセンサ4で試料S及び異物を透過した透過X線を検出する。なお、試料移動機構3により試料Sが一定方向に移動されるため、試料Sが移動方向において全体がスキャンされ、透過X線について全体の強度分布が取得される。
【0032】
さらに、上記のように取得した透過X線の強度分布を、主制御部7で画像処理して透過像を作成すると共に表示部8において透過像を表示する。なお、この際、異物が存在する部位は、異物が存在していない部分と対比して、X線の透過量が異なることから、異物が存在する部位のコントラストがそれ以外と異なるため、異物が存在していることが検出可能となる。
【0033】
上記試料Sの移動時において、例えば試料移動機構3の都合等により試料Sが上方に移動して高さ方向に位置変動を生じた場合、X線源2と試料Sとの距離FOD’が大きくなる。その際、この変動に対応する機構を有しない従来の装置であると、X線発生ポイントの大きさがあることに起因して、異物によるコントラスト及び強度分布が異なり、異物によるコントラストの強弱が判り難くなって、異物の検出が困難になる場合がある。
【0034】
しかしながら、本実施形態では、距離センサ5によりリアルタイムで測定したX線源2と試料Sとの距離FOD’と、リニアスケール9によって得た試料Sの移動量に基づいて分周器6aで算定した拡大率Nとを用いて、修正部6bが拡大率Nを補正して補正拡大率N’を算出する。この補正拡大率N’に基づいてTDI制御部6が、TDIセンサ4の新たな電荷送り速度を決定してTDIセンサ4を制御する。
【0035】
すなわち、変動前の電荷送り速度をvとすると、変動後の新たな電荷送り速度v’は、式「v’=v×(FOD’/FDD)」により算出される。したがって、TDI制御部6が、電荷送り速度v’でTDIセンサ4を制御する。
これにより、試料Sの高さ位置の変動によってTDIセンサ4への入力画像の焦点位置の変動が起こるところ、電荷送り速度を適正に変化させることで、最適な焦点位置を再現することができる。
したがって、常に距離センサ5が距離FOD’を測定し、その変化に対応して補正した補正拡大率N’に基づいてTDIセンサ4の電荷送り速度を修正しているので、試料Sが上方又は下方に移動して高さ方向に位置変動を生じても、X線透過像のぼけが生じず、異物の高精度な検出が可能になる。
【0036】
このように本実施形態のX線透過検査装置1及びこれを用いたX線透過検査方法では、試料Sの移動時に距離センサ5で測定した前記距離FOD’の変動に基づいてリアルタイムにTDIセンサ4の電荷送り速度を変化させてTDIセンサ4を制御するので、距離FOD’の変動をリアルタイムに感知し、その変動を電荷送り速度に都度反映させることで、X線透過像の焦点位置を適正化して像のぼけを防止することができる。
【0037】
また、物理的な動作を伴わず、TDIセンサ4の電荷送り速度をリアルタイムで瞬時に変化させることができると共に、変動に対応する一連の制御に要する時間が短いため、データ取得間隔を短くでき、より緻密なデータ取得が可能になって、高精度な試料Sの位置補正が可能になる。
【0038】
次に、本発明に係るX線透過検査装置及びX線透過検査方法の第2実施形態について、図4を参照して以下に説明する。なお、以下の実施形態の説明において、上記実施形態において説明した同一の構成要素には同一の符号を付し、その説明は省略する。
【0039】
第2実施形態と第1実施形態との異なる点は、第1実施形態では、図3に示すように、距離センサ5のレーザ光Lのスポット形状が点状であり、移動する試料S上でラインによる一次元測定を行っているのに対し、第2実施形態のX線透過検査装置及びX線透過検査方法は、図4に示すように、距離センサ25のレーザ光Lのスポット形状が線状であり、移動する試料S上でエリアによる二次元測定を行っている点である。
【0040】
すなわち、第2実施形態では、距離センサ25が、レーザ光Lを試料Sの移動方向に交差する方向かつ試料Sの幅方向に延在する線状のスポット形状にして照射する点である。
例えば、距離センサ25のレーザ光Lのスポット形状を、数十mm〜数十μmのライン状とし、距離センサ25から測定位置までの距離を、数mmから数十mmとして距離測定を行えばよく、状況に合わせて最適な配置とする。
【0041】
したがって、第2実施形態のX線透過検査装置及びX線透過検査方法では、距離センサ25が、レーザ光Lを試料Sの移動方向に交差する方向かつ試料Sの幅方向に延在する線状のスポット形状にして照射するので、二次元での測定となり、広い領域の位置変動をとらえることができ、より一層の精度の向上を図ることができる。
【0042】
なお、本発明の技術範囲は上記各実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、試料Sの移動量を定量化するためのリニアスケール9は、ロータリーエンコーダでもよく、その効果はリニアスケールと同じである。
また、上記実施形態においては、リニアスケール9によって得た試料Sの移動量に基づいて分周器6aで算定した拡大率Nを用いたが、試料Sの移動量の根拠となる駆動源である試料移動機構3(図示しないモーター等)に指示する駆動信号に基づいて、拡大率Nを算定することもできる。
【0043】
また、第2実施形態の距離センサ25として、エリアセンサを使用することも可能である。エリアセンサとしては、スポット形状が二次元に広がっているものの他、スポット形状が線状のセンサを複数並べたものでもよい。このようなエリアセンサの使用は、より高精度な距離測定の結果を得ることが可能である。
【符号の説明】
【0044】
1…X線透過検査装置、2…X線源、3…試料移動機構、4…TDIセンサ、5,25…距離センサ、6…TDI制御部、S…試料、X…X線
図1
図2
図3
図4