特許第6512997号(P6512997)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6512997
(24)【登録日】2019年4月19日
(45)【発行日】2019年5月15日
(54)【発明の名称】乾燥食品
(51)【国際特許分類】
   A23L 5/00 20160101AFI20190425BHJP
   A23L 29/30 20160101ALI20190425BHJP
   A23L 2/39 20060101ALI20190425BHJP
   A23L 27/50 20160101ALI20190425BHJP
   A23L 27/10 20160101ALI20190425BHJP
   A23L 23/10 20160101ALI20190425BHJP
【FI】
   A23L5/00 D
   A23L29/30
   A23L2/00 Q
   A23L27/50 111
   A23L27/10 B
   A23L27/10 C
   A23L23/10
【請求項の数】6
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2015-168250(P2015-168250)
(22)【出願日】2015年8月27日
(65)【公開番号】特開2017-42113(P2017-42113A)
(43)【公開日】2017年3月2日
【審査請求日】2018年5月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000187079
【氏名又は名称】昭和産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112874
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 薫
(72)【発明者】
【氏名】寺田 敦
(72)【発明者】
【氏名】今井 恵太
(72)【発明者】
【氏名】樋口 政泰
【審査官】 星 功介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−182563(JP,A)
【文献】 特開平10−276757(JP,A)
【文献】 特開昭58−111678(JP,A)
【文献】 特開昭58−094387(JP,A)
【文献】 特開昭57−170152(JP,A)
【文献】 特開2010−226988(JP,A)
【文献】 特開2010−229234(JP,A)
【文献】 米国特許第05853487(US,A)
【文献】 特開2016−202106(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 2/00−35/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
DP1〜2の含有量(質量%)x、及び、分子量1500〜14000の含有量(質量%)yが、下記(1)及び(2)を満たす澱粉分解物を賦形剤及び/又は結着剤として含有する乾燥食品。
(1)x≦3.0
(2)5.0≦y≦25.0
【請求項2】
前記澱粉分解物は、分子量80000〜900000の含有量(質量%)zが、下記(3)を満たす請求項1に記載の乾燥食品。
(3)z≦−2.2x+9.8
【請求項3】
前記xが、下記(1’)を満たす請求項1又は2に記載の乾燥食品。
(1’)1.0≦x≦2.5
【請求項4】
前記yが、下記(2’)を満たす請求項1から3のいずれか一項に記載の乾燥食品。
(2’)5.0≦y≦23.0
【請求項5】
前記zが、下記(3’)を満たす請求項2から4のいずれか一項に記載の乾燥食品。
(3’)z≦−1.3x+6.2
【請求項6】
調味料、植物エキス、動物エキス、香料、スープ、飲料のいずれか一つ以上の乾燥物を含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の乾燥食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乾燥食品に関する。より詳しくは、所定の特性を満たす澱粉分解物を賦形剤及び/又は結着剤として含有する乾燥食品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、食品を乾燥して低水分に保つことによって、細菌・カビからの腐敗や品質変化を防ぎ、常温でも長期間の保存を可能とする乾燥食品が多く存在する。乾燥食品は、乾燥の結果、保存や運搬が便利になるといった利点の他に、例えば、インスタント粉末茶やインスタントスープ等のように、水やお湯で復元して直ちに喫食することができる食品への用途も可能である。
【0003】
このような乾燥食品には、賦形剤、結着剤などの用途に、澱粉分解物が利用されている。また、このような乾燥食品に使用される澱粉分解物は、味質の調整、香気の保持、乾燥性の向上、防湿、保存安定性の向上等の効果を発揮する場合もある。
【0004】
澱粉分解物の甘味度、味質、浸透圧、粘度、吸湿性、糖液とした際の濁り易さ等の基本的物性は、構成成分であるグルコースの重合度(DP)によって左右されるといわれている。例えば、グルコース重合度(DP)の低いものを多く含む澱粉分解物は、甘味度が高く、吸湿性が高くなる。逆にグルコース重合度(DP)の高いものを多く含む澱粉分解物は、粘度が高く、糖液とした際、濁り易くなる。
【0005】
また、澱粉分解物の基本的物性をコントロールする指標として、DE値(dextrose equivalent)を求めることも多い。「DE(dextrose equivalent)」とは、デキストロース当量とも称され、還元糖をグルコースとして測定し、その全固形分に対する割合(数式1参照)を示す値である。このDE値は、澱粉の加水分解の程度(分解度)、即ち糖化の進行の程度を示す指標である。
【0006】
【数1】
【0007】
一般に、DE値が高いほど、甘味度、浸透圧、吸湿性が高く、逆に粘度は低くなる。逆に、DE値が低いほど、澱粉臭などの風味が強くなり、糖液とした際に濁りやすく、粘度も高くなる。例えば、非特許文献1には、DEが低いほど粘度が高く、溶解性が低いことが記載されている。
【0008】
近年、基本的物性をコントロールした澱粉分解物を、乾燥食品に使用して、乾燥食品の品質を向上させる技術が開発されている。例えば、特許文献1では、調味液又は醤油に、当該調味液又は醤油中の固形物重量に対し、DE値6〜15のデキストリンとDE値1〜5のデキストリンから成り、かつDE値1〜5のデキストリン含有率が5〜60重量%であるデキストリンを100〜250重量%及びゼラチンを3〜20重量%添加した後、噴霧乾燥することで、調味液又は醤油の複雑なしかも特有の好ましい風味を有し、かつ吸湿によるブロッキング、褐変等の不都合な変質が防止された粉末調味料が開示されている。
【0009】
また、特許文献2では、澱粉分解物が有する50質量%水溶液の粘度値に50質量%換算水溶液の浸透圧を乗じた特性値が20000以下であり、且つ、分子量10000以上の区分が20質量%以下である澱粉分解物を粉末化基剤の主成分とする粉末化食品が開示されている。
【0010】
更に、特許文献3では、DE18以下の澱粉加水分解物および該澱粉加水分解物の10−40重量%の香味油脂を混合して、得られた香味油脂を吸着した澱粉加水分解物の0.5−5重量%のプルランを水溶液として噴霧して加えた後、流動層造粒することを特徴とする粉末香味料の製造法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開H8−252073号公報
【特許文献2】特開2003−38119号公報
【特許文献3】特開H8−47378号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】月刊フードケミカル2000-10
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
デキストリン(DE20以下)などのDEの低い澱粉分解物は、調味料などの乾燥食品に用いられている。しかし、前述の通り、澱粉分解物は、DE値が低いほど、澱粉臭などの風味が強くなり、乾燥食品への風味の影響が懸念されていた。また、DE値が低いほど、マスキング効果が高く、飲食品本来の風味が阻害されるという問題があった。さらに、糖液とした際に濁りやすくなり、乾燥食品を製造する際の作業性が悪くなり、水やお湯で復元した後の飲食品に濁りが発生するという問題があった。
【0014】
逆に、風味や作業性を向上させるために、DEが高い澱粉分解物を用いると、甘味が強くなり、乾燥食品の味への影響が懸念されるといった問題があった。また、DEが高い澱粉分解物は、吸湿性が高いため、乾燥食品への使用が難しいという問題もあった。
【0015】
そこで、本発明では、風味が良好で、吸湿性が低く、製造時の作業性も良好な乾燥食品を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
デキストリンはDEが低い(分解の程度が低い)ほど濁りやすいことから、従来は、デキストリンの高分子量画分の方が、デキストリンの濁り易さにあたえる影響が大きいと考えられていた。しかし、本願発明者らは、澱粉分解物中の糖組成について鋭意研究を行った結果、この常識から発想を一転し、実際には、中分子量画分(分子量1500〜14000の成分)の割合が、濁りや澱粉臭に大きく影響することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0017】
即ち、本発明では、DP1〜2の含有量(質量%)x、及び、分子量1500〜14000の含有量(質量%)yが、下記(1)及び(2)を満たす澱粉分解物を賦形剤及び/又は結着剤として含有する乾燥食品を提供する。
(1)x≦3.0
(2)5.0≦y≦25.0
本発明に係る乾燥食品が含有する前記澱粉分解物としては、分子量80000〜900000の含有量(質量%)zが、下記(3)を満たすものを用いることができる。
(3)z≦−2.2x+9.8
本発明に係る乾燥食品は、前記xが、下記(1’)を満たす澱粉分解物を用いることもできる。
(1’)1.0≦x≦2.5
また、本発明に係る乾燥食品は、前記yが、下記(2’)を満たす澱粉分解物を用いることもできる。
(2’)5.0≦y≦23.0
更に、本発明に係る乾燥食品は、前記zが、下記(3’)を満たす澱粉分解物を用いることもできる。
(3’)z≦−1.3x+6.2
本発明に係る乾燥食品には、調味料、植物エキス、動物エキス、香料、スープ、飲料のいずれか一つ以上の乾燥物を用いることも可能である。
【0018】
ここで、本発明に係る技術用語の定義付けを行う。
本発明において、「乾燥食品」とは、液状(溶液状、コロイド状及び、懸濁液状)又はスラリー状又は、ペースト状の飲食品を乾燥させて得られる食品である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、風味が良好で、吸湿性が低く、製造時の作業性も良好な乾燥食品を提供することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための好適な形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0021】
<澱粉分解物>
本発明に係る乾燥食品に用いる澱粉分解物は、DP1〜2の含有量(質量%)x、及び、分子量1500〜14000の含有量(質量%)yが、下記(1)及び(2)を満たす澱粉分解物である。
(1)x≦3.0
(2)5.0≦y≦25.0
【0022】
本発明に係る澱粉分解物は、中分子量画分(分子量1500〜14000)の割合が、前記(2)に示す通り、5.0〜25.0質量%であることを特徴とする。本願発明者らは、分子量1500〜14000の含有量がこの範囲外となると、後述する実施例で示す通り、濁りやすくなることを見出した。また、乾燥食品とした場合に澱粉臭が強くなり、乾燥食品の風味への影響が出てしまうことも見出した。
【0023】
しかしながら、本願発明者らは、分子量1500〜14000の含有量が5.0〜25.0質量%であったとしても、DP1〜2の含有量が3.0質量%を超えると、乾燥食品とした場合の吸湿性が高くなり、甘味度も上昇するため、乾燥食品の風味に影響を与えることも見出した。
【0024】
このように、風味が良好で、吸湿性が低く、濁り難いことによる製造時の作業性も良好な乾燥食品を得るためには、前記(1)及び(2)の両方を満たす必要がある。
【0025】
本発明に用いる澱粉分解物は、前記(1)及び(2)を満たしていれば、他の条件は特に限定されないが、高分子量画分(分子量80000〜900000)の含有量と、DP1〜2の含有量との関係が、下記(3)を満たすことで、乾燥食品とした場合に感じられる澱粉臭が低減され、乾燥食品の風味を向上させることができる。
(3)z≦−2.2x+9.8
【0026】
本発明に用いる澱粉分解物の分子量1500〜14000の含有量は、5.0〜25.0質量%の範囲内であれば特に限定されないが、本発明では特に、5.0〜23.0質量%とすることがより好ましい。23.0質量%以下とすることで、更に濁りの発生を抑制できるといった効果が生じる。
【0027】
また、DP1〜2の含有量は、3.0質量%を超えなければよいが、本発明では特に、1.0〜2.5質量%であることが好ましい。この範囲とすることで、吸湿性がより低減された乾燥食品を得ることができる。
【0028】
更に、DP1〜2の含有量xと分子量80000〜900000の含有量zとの関係は、前記(3)を満たしていればよいが、本発明では特に、下記(3’)を満たすことがより好ましい。DP1〜2の含有量と分子量80000〜900000の含有量との関係が、下記(3’)を満たすことで、更に、澱粉臭が低減され、風味が向上し、濁りの発生も抑制できるといった効果が生じる。
(3’)z≦−1.3x+6.2
【0029】
本発明に用いる澱粉分解物は、ヨウ素液を混合したときの660nmの吸光度vが、下記(4)を満たすことが好ましく、下記(4’)を満たすことがより好ましい。
(4)v≦0.6
(4’)v≦0.5
なお、ヨウ素呈色値は、分岐構造含有量の程度を示し、濁りやすさと相関があると考えられる。
【0030】
なお、本願において、ヨウ素呈色値は、下記の方法で測定した値とした。
5mLの水に対し、澱粉分解物を固形分25mgとなるように加えて混合し、さらに、100μLのヨウ素−ヨウ化カリウム溶液(0.2w/v%ヨウ素、2w/v%ヨウ化カリウム)を加えて混合し、30℃の恒温槽で20分間保持する。この溶液の660nmにおける吸光度を、10mm幅のガラスセル、分光光度計UV−1600(株式会社島津製作所製)を用いて測定し、サンプル測定値から、ブランク測定値(水5mLと100μLのヨウ素−ヨウ化カリウム溶液を混合したものの測定値)を差し引いた値をヨウ素呈色値とした。
【0031】
本発明に用いる澱粉分解物は、初期濁度が0.2以下であり、かつ、7日保存後の濁度の増加が3.0以下であることが好ましい。
【0032】
なお、本願において、濁度は、下記の条件で測定した濁度とした。
固形分濃度55%となるように調製した糖液を、沸騰浴中で10分間加熱したものを、固形分30%となるように希釈して、100mm幅のガラスセルに入れ、分光光度計UV−1600(株式会社島津製作所製)を用いて、720nmにおける吸光度を測定した値を、濁度とした。
【0033】
また、保存は、固形分濃度55%となるように調製した糖液を、沸騰浴中で10分間加熱したものを、密封容器に入れて、4℃の条件下で行った。更に、保存後の濁度は、保存後の糖液を、固形分30%となるように希釈して、100mm幅のガラスセルに入れ、分光光度計UV−1600(株式会社島津製作所製)を用いて、720nmにおける吸光度を測定した値を、濁度とした。
【0034】
本発明に用いる澱粉分解物の具体的な粘度は特に限定されないが、固形分濃度55%となるように調製した糖液の50℃での粘度(mPa・s)wが下記(5−1)又は(5−2)を満たすことが好ましい。前記粘度を下記(5−1)又は(5−2)を満たすように設定することで、本発明に係る澱粉分解物を液状品とした場合にハンドリングが良好になり、高濃度の液状品とした場合でも、製造時、流通時、及び使用時において、取扱いがし易いという効果が生じる。
DP1〜2の含有量(質量%)xが、0.5≦x≦2.2のとき、
(5−1)w≦−400x+1200
DP1〜2の含有量(質量%)xが、2.2<x≦3.0のとき、
(5−2)w≦−65x+463
【0035】
なお、本願において、粘度は、下記の方法で下記の条件で測定した値とした。
固形分濃度55%となるように調整した糖液を、測定温度:50℃、パラレルプレート:40mm、トルク:一定 30μN・mの条件でレオメータ(AR1000型、ティー・エイ・インスツルメント社製)を用いて測定した値を粘度とした。
【0036】
<澱粉分解物の製造方法>
本発明に係る乾燥食品に用いる澱粉分解物は、その組成自体が新規であって、その収得の方法については特に限定されることはない。例えば、澱粉原料を、一般的な酸や酵素を用いた処理や、各種クロマトグラフィー、膜分離、エタノール沈殿等の所定操作を適宜、組み合わせて行うことによって得ることができる。
【0037】
本発明で用いる澱粉分解物を得るために原料となり得る澱粉原料としては、公知の澱粉分解物の原料となり得る澱粉原料を1種又は2種以上自由に選択して用いることができる。例えば、コーンスターチ、米澱粉、小麦澱粉などの澱粉(地上系澱粉)、馬鈴薯、キャッサバ、甘藷などのような地下茎又は根由来の澱粉(地下系澱粉)を挙げることができる。
【0038】
本発明で用いる澱粉分解物を効率的に得る方法として、澱粉原料を、酸又はαアミラーゼを用いて液化した後、枝作り酵素を作用させる方法がある。酸を用いて液化する場合、本発明で用いる澱粉分解物の製造に用いることができる酸の種類は特に限定されず、澱粉の酸液化が可能な酸であれば、公知の酸を1種又は2種以上、自由に選択して用いることができる。例えば、塩酸、シュウ酸等を用いることができる。
【0039】
また、澱粉原料の酸液化の前後や、枝作り酵素を作用させる前後に、他の分解酵素(例えば、αアミラーゼ等)による処理を自由に組み合わせることも可能である。例えば、澱粉原料を、酸を用いて液化した後、枝作り酵素を作用させ、更に、他の分解酵素(例えば、αアミラーゼ等)による処理を行う方法を採用することも可能である。このように、酸液化、枝作り酵素による作用の後に、分解酵素を作用させることで、澱粉分解物の分解度を所望の範囲に調整することが容易になる。
【0040】
ここで、枝作り酵素(branching enzyme)とは、α−1,4−グルコシド結合でつながった直鎖グルカンに作用して、α−1,4−グルコシド結合を切断してα−1,6−グルコシド結合による枝分かれを形成させる働きを持った酵素の総称である。本発明で用いる澱粉分解物の製造で枝作り酵素を用いる場合、その種類は特に限定されず、公知の枝作り酵素を1種又は2種以上、自由に選択して用いることができる。例えば、動物や細菌などから精製したもの、又は、馬鈴薯、イネ種実、トウモロコシ種実などの植物から精製したもの等を用いることができる。
【0041】
なお、本発明で用いる澱粉分解物は、澱粉原料の酸液化及び枝作り酵素処理を行わなくても、各種クロマトグラフィー、膜分離、エタノール沈殿等の所定操作を行うことで、製造することも可能である。
【0042】
また、本発明で用いる澱粉分解物は、澱粉原料の酸液化を行わず、澱粉原料をαアミラーゼ等の分解酵素を用いて分解し、次いで、枝作り酵素を用いた処理を行った後、更に、αアミラーゼ等の分解酵素を用いて分解することによっても、製造することができる。
【0043】
以上のように、本発明で用いる澱粉分解物は、様々な方法を用いて製造することができるが、これらの方法の中でも、澱粉原料の酸液化及び枝作り酵素処理を行う方法が好ましい。この方法を用いれば、経時的な濁度の増加がより少ない澱粉分解物を得ることができる。また、クロマトグラフィーや膜分離等の操作を行うことなく、本発明で用いる澱粉分解物を得られるため、本発明で用いる澱粉分解物を安価にかつ、工業的に製造する場合に好適である。更に、澱粉原料の酸液化の前後や、枝作り酵素を作用させる前後に、αアミラーゼ処理を行う方法が好ましい。この方法を用いれば、澱粉分解物の分解度を所望の範囲に調整することが容易になる。
【0044】
また、本発明では、目的の澱粉分解物となるように各種処理を行った後に、活性炭脱色、イオン精製等を行い、不純物を除去することも可能であり、不純物を除去することが好ましい。本発明で用いる澱粉分解物は、濁りにくいため、イオン精製がし易いといったメリットもある。
【0045】
更に、固形分30〜80%に濃縮してシラップにすることや、真空乾燥や噴霧乾燥により脱水乾燥することで粉末化することも可能である。なお、後述する乾燥食品は、乾燥前の食品に澱粉分解物を添加した上で乾燥して乾燥食品とすることも可能であるし、予め乾燥した食品に、粉末化した澱粉分解物を添加して乾燥食品とすることも可能である。
【0046】
<乾燥食品>
本発明に係る乾燥食品は、前述した澱粉分解物を含有することを特徴とする。前述した澱粉分解物は、糖液とした際に濁りにくい。乾燥食品に用いる澱粉分解物が糖液とした際に濁ると、乾燥食品を製造する際に乾燥する原液が不均一になり、粘度も高くなり、製造上のハンドリングが悪くなるといった問題がある。一方、本発明で用いる澱粉分解物は、糖液とした際に濁りにくいため、乾燥食品を製造する際に乾燥する原液が均一になり、粘度も低くなり、製造上のハンドリングが良好になるといった効果を有する。
【0047】
また、乾燥食品に用いる澱粉分解物が糖液とした際に濁ると、乾燥後の製品も不均一になり、風味が悪くなるといった問題があるが、本発明で用いる澱粉分解物は、糖液とした際に濁りにくいため、乾燥食品の風味が良好になるといった効果を有する。
【0048】
更に、凍結乾燥によって乾燥食品を製造する場合、凍結乾燥前の凍結工程において、濁りが発生すると、乾燥後の製品の表面が荒れて、製品の外観が悪くなるといった問題や、製品を溶解するときに溶け残りが発生するという問題がある。一方、本発明で用いる澱粉分解物は、糖液とした際に濁りにくいため、凍結乾燥によって乾燥食品を製造する場合でも、凍結乾燥前の凍結工程における濁りの発生を防止することで、乾燥後の製品の外観を良好にし、溶解するときの溶け残りの発生も防止するといった効果を有する。
【0049】
加えて、本発明で用いる澱粉分解物は、乾燥食品の製造時に高濃度でも濁らないので、製造効率を向上させることができる。また、濁りを防ぐために高温に維持する必要がないため、熱に弱い食品にも適用することが可能である。
【0050】
本発明で用いる澱粉分解物は、澱粉臭及び甘味度が少なく、同程度のDEの澱粉分解物と比較してマスキング作用が弱い。そのため、これを用いる乾燥食品の風味への影響が少なく、出汁や果汁などの繊細な風味の乾燥食品にも好適に用いることができる。また、粉末香料などの乾燥食品に本発明の澱粉分解物を用いることで、味に影響を与えずに所望のフレーバーを飲食品に付与することができる。
【0051】
本発明で用いる澱粉分解物は、吸湿性が低い。そのため、これを用いる乾燥食品も吸湿性が低く、乾燥後の包装工程や流通、及び保存が非常に容易であるといった効果を有する。また、本発明に係る乾燥食品は、吸湿しにくいため、保存時の吸湿による外観低下を防止することができる。醤油や味噌などの調味料は、乾燥食品にした時に、特に吸湿性が高く保存が難しいが、本発明に係る乾燥調味料は、吸湿しにくいため保存が容易である。
【0052】
本発明に係る乾燥食品の形態は特に限定されず、目的に応じて自由な形態に設計することができる。本発明では特に、粉末状食品、顆粒状食品、及びブロック状などの成形食品が好ましい。
【0053】
本発明に係る乾燥食品には、調味料、植物エキス、動物エキス、香料、スープ、飲料のいずれか一つ以上の乾燥物を用いることも可能である。
【0054】
本発明に係る乾燥食品の具体例としては、例えば、調味料、香辛料、醤油、味噌、酢、ソース、香料、魚介エキス、畜肉エキス、野菜エキス、エキス調味料、酵母エキス、スープ、味噌汁、吸い物、果汁、青汁、コーヒー、茶、ココア、バター、クリーム、牛乳、栄養剤、スポーツ飲料、サプリメント等の乾燥物が挙げられる。
【0055】
本発明に係る乾燥食品の製造時における乾燥方法は特に限定されず、公知の乾燥方法を1種又は2種以上、自由に組み合わせて用いることができる。例えば、噴霧乾燥、真空乾燥、凍結真空乾燥、被膜乾燥、ドラム乾燥、ベルト乾燥、流動層乾燥、気流乾燥等の乾燥方法を挙げることができる。
【実施例】
【0056】
以下、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。なお、以下に説明する実施例は、本発明の代表的な実施例の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0057】
<実験例1>
実験例1では、澱粉分解物の具体的な糖組成が、その特性にどのように影響するかを検討した。
【0058】
(1)試験方法
[枝作り酵素]
本実験例では、枝作り酵素の一例として、Eur. J. Biochem. 59, p615-625 (1975)の方法に則って、精製した馬鈴薯由来の酵素(以下「馬鈴薯由来枝作り酵素」とする)と、WO00/58445の方法に則って、精製したRhodothermus obamensis由来の酵素(以下「細菌由来枝作り酵素」とする)を用いた。
【0059】
なお、枝作り酵素の活性測定は、以下の方法で行った。
基質溶液として、0.1M酢酸 緩衝液(pH5.2)にアミロース(Sigma社製,A0512)を0.1質量%溶解したアミロース溶液を用いた。
50μLの基質液に50μLの酵素液を添加し、30℃で30分間反応させた後、ヨウ素-ヨウ化カリウム溶液(0.39mMヨウ素−6mMヨウ化カリウム−3.8mM塩酸混合用液)を2mL加え反応を停止させた。ブランク溶液として、酵素液の代わりに水を添加したものを調製した。反応停止から15分後に660nmの吸光度を測定した。枝作り酵素の酵素活性量1単位は、上記の条件で試験する時、660nmの吸光度を1分間に1%低下させる酵素活性量とした。
【0060】
[DE]
「澱粉糖関連工業分析法」(澱粉糖技術部会編)のレインエイノン法に従って算出した。
【0061】
[分子量]
下記の表1に示す条件で、ゲルろ過クロマトグラフィーにて分析を行った。
分子量スタンダードとして、ShodexスタンダードGFC(水系GPC)カラム用Standard P-82(昭和電工株式会社製)を使用し、分子量スタンダードの溶出時間と分子量の相関から算出される検量線に基づいて、試作品の分子量を測定した。
【0062】
【表1】
【0063】
[DP1〜2の含有量]
下記の表2に示す条件で液体クロマトグラフィーにて分析を行い、保持時間に基づいて、DP1およびDP2の含量を測定した。
【0064】
【表2】
【0065】
[濁度]
〔初期濁度〕
固形分濃度55%となるように調製した糖液を、沸騰浴中で10分間加熱したものを、固形分30%となるように希釈して、100mm幅のガラスセルに入れ、分光光度計UV−1600(株式会社島津製作所製)を用いて、720nmにおける吸光度を測定した値を、初期濁度とした。
【0066】
〔7日保存後の濁度の増加量〕
固形分濃度55%となるように調製した糖液を、沸騰浴中で10分間加熱したものを、密封容器に入れ、4℃で7日間保管した。その後、固形分30%となるように希釈して、初期濁度と同様に、吸光度を測定した値から、初期濁度の値を差し引いたものを、7日保存後の濁度の増加量とした。
【0067】
[評価方法]
(a)澱粉臭
後述する実施例又は比較例の澱粉分解物を、固形分10質量%になるように水に溶解した。この溶液について、澱粉臭が最も低いと感じるものを5点、最も高いと感じるものを1点とし、5点満点で評価を行った。評価は、10人の専門パネルの平均点とした。
【0068】
(b)風味
市販の果汁100%のグレープフルーツジュース100gに、後述する実施例又は比較例の澱粉分解物を、固形分5質量%になるように溶解した。この澱粉分解物添加グレープフルーツジュースについて、グレープフルーツの風味を最も感じるものを5点、最も感じないものを1点として、5点満点で評価を行った。評価は、10人の専門パネルの平均点とした。
【0069】
(c)濁り
前述した濁度測定における7日保存後の濁度の増加量に基づいて、下記の表3に示す評価基準で濁り易さを評価した。評価は、1サンプルあたり5回実施し、その平均点を濁りの評価とした。
【0070】
【表3】
【0071】
(d)吸湿性
コンウェイ水分活性測定器用セミ・ミクロユニット(柴田科学株式会社製)のサンプル用皿に、後述する実施例又は比較例の澱粉分解物を1g秤量して、飽和塩化ナトリウム溶液で調湿して、25℃、相対湿度75%の環境下で72時間保存した。試験は1サンプルあたり5回実施し、保存後の状態を、下記表4に示す基準で5段階に分類したときの平均点を、実施例又は比較例の吸湿性の点数とした。
【0072】

【表4】
【0073】
(e)総合評価
澱粉臭、風味、濁り、吸湿性の評価の各点数から平均値を求め、総合評価とした。
【0074】
(2)実施例・比較例の製法
[実施例1]
10質量%消石灰にてpH5.8に調整した30質量%のタピオカスターチスラリーに、αアミラーゼ(ターマミルSC、ノボザイムズ ジャパン株式会社製)を、固形分(g)当たり0.2%添加し、ジェットクッカー(温度110℃)で液化して、この液化液を95℃で保温して、継時的にDEを測定して、DE3になった時点で、塩酸でpH4に調整し、煮沸により反応を停止した。反応を停止した糖液のpHを6.0に調整した後、細菌由来枝作り酵素を固形分(g)当たり1000ユニット添加し、65℃で20時間反応させた。この糖液を90℃に昇温して、αアミラーゼ(ターマミルSC、ノボザイムズ ジャパン株式会社製)を、固形分(g)当たり0.02%添加し、DE5になった時点で、塩酸でpH4に調整し、煮沸により反応を停止した。この澱粉分解物の溶液を、活性炭脱色、イオン精製し、固形分濃度40質量%に濃縮した。更に濃縮液をスプレードライヤーで粉末化し、実施例1の澱粉分解物を得た。
【0075】
[実施例2]
10%塩酸にてpH2.5に調整した30質量%のコーンスターチスラリーを、140℃の温度条件でDE6まで分解した。常圧に戻した後、消石灰を用いて中和することにより反応を停止した糖液のpHを5.8に調整した後、αアミラーゼ(リコザイムスープラ、ノボザイムズ ジャパン株式会社製)を、固形分(g)当たり0.02%添加し、95℃で反応を行い、経時的にDEを測定して、DEが13になった時点で、塩酸でpH4に調整し、煮沸により反応を停止した。反応を停止した糖液のpHを6.0に調整した後、馬鈴薯由来枝作り酵素を固形分(g)当たり4000ユニット添加し、35℃で20時間反応させた。この澱粉分解物の溶液を、活性炭脱色、イオン精製し、固形分濃度60質量%に濃縮した。更に濃縮液をスプレードライヤーで粉末化し、実施例2の澱粉分解物を得た。
【0076】
[実施例3]
10質量%消石灰にてpH5.8に調整した30質量%のワキシーコーンスターチスラリーに、αアミラーゼ(リコザイムスープラ、ノボザイムズ ジャパン株式会社製)を、固形分(g)当たり0.2%添加し、ジェットクッカー(温度110℃)で液化して、この液化液を95℃で保温して、継時的にDEを測定して、DE4になった時点で、塩酸でpH4に調整し、煮沸により反応を停止した。反応を停止した糖液のpHを6.0に調整した後、細菌由来枝作り酵素を固形分(g)当たり800ユニット添加し、65℃で24時間反応させた。この糖液を90℃に昇温して、αアミラーゼ(リコザイムスープラ、ノボザイムズ ジャパン株式会社製)を、固形分(g)当たり0.02%添加し、DE7になった時点で、塩酸でpH4に調整し、煮沸により反応を停止した。この澱粉分解物の溶液を、活性炭脱色、イオン精製し、固形分濃度50質量%に濃縮した。更に濃縮液をスプレードライヤーで粉末化し、実施例3の澱粉分解物を得た。
【0077】
[実施例4]
10%塩酸にてpH2.5に調整した30質量%のコーンスターチスラリーを、140℃の温度条件でDE4まで分解した。常圧に戻した後、消石灰を用いて中和することにより反応を停止した糖液のpHを5.8に調整した後、αアミラーゼ(ターマミルSC、ノボザイムズ ジャパン株式会社製)を、固形分(g)当たり0.02%添加し、95℃で反応を行い、経時的にDEを測定して、DEが6になった時点で、塩酸でpH4に調整し、煮沸により反応を停止した。反応を停止した糖液のpHを6.0に調整した後、細菌由来枝作り酵素を固形分(g)当たり500ユニット添加し、65℃で48時間反応させた。この澱粉分解物の溶液を、活性炭脱色、イオン精製し、固形分濃度40質量%に濃縮した。更に濃縮液をスプレードライヤーで粉末化し、実施例4の澱粉分解物を得た。
【0078】
[実施例5]
10%塩酸にてpH2.5に調整した30質量%のコーンスターチスラリーを、140℃の温度条件でDE3まで分解した。常圧に戻した後、消石灰を用いて中和することにより反応を停止した糖液のpHを5.8に調整した後、αアミラーゼ(リコザイムスープラ、ノボザイムズ ジャパン株式会社製)を、固形分(g)当たり0.02%添加し、95℃で反応を行い、経時的にDEを測定して、DEが11になった時点で、塩酸でpH4に調整し、煮沸により反応を停止した。反応を停止した糖液のpHを6.0に調整した後、馬鈴薯由来枝作り酵素を固形分(g)当たり2000ユニット添加し、35℃で32時間反応させた。この澱粉分解物の溶液を、活性炭脱色、イオン精製し、固形分濃度50質量%に濃縮した。更に濃縮液をスプレードライヤーで粉末化し、実施例5の澱粉分解物を得た。
【0079】
[実施例6]
10%塩酸にてpH2.5に調整した30質量%のコーンスターチスラリーを、140℃の温度条件でDE6まで分解した。常圧に戻した後、消石灰を用いて中和することにより反応を停止した糖液のpHを5.8に調整した後、αアミラーゼ(クライスターゼT10S、天野エンザイム株式会社製)を、固形分(g)当たり0.02%添加し、95℃で反応を行い、経時的にDEを測定して、DEが8になった時点で、塩酸でpH4に調整し、煮沸により反応を停止した。反応を停止した糖液のpHを6.0に調整した後、細菌由来枝作り酵素を固形分(g)当たり750ユニット添加し、65℃で16時間反応させた。この澱粉分解物の溶液を、活性炭脱色、イオン精製し、固形分濃度50質量%に濃縮した。更に濃縮液をスプレードライヤーで粉末化し、実施例6の澱粉分解物を得た。
【0080】
[実施例7]
10%塩酸にてpH2.5に調整した30質量%のコーンスターチスラリーを、140℃の温度条件でDE5まで分解した。常圧に戻した後、消石灰を用いて中和することにより反応を停止した糖液のpHを5.8に調整した後、αアミラーゼ(リコザイムスープラ、ノボザイムズ ジャパン株式会社製)を、固形分(g)当たり0.02%添加し、95℃で反応を行い、経時的にDEを測定して、DEが9になった時点で、塩酸でpH4に調整し、煮沸により反応を停止した。反応を停止した糖液のpHを6.0に調整した後、細菌由来枝作り酵素を固形分(g)当たり500ユニット添加し、65℃で24時間反応させた。この澱粉分解物の溶液を、活性炭脱色、イオン精製し、固形分濃度50質量%に濃縮した。更に濃縮液をスプレードライヤーで粉末化し、実施例7の澱粉分解物を得た。
【0081】
[実施例8]
10質量%消石灰にてpH5.8に調整した30質量%のコーンスターチスラリーに、αアミラーゼ(リコザイムスープラ、ノボザイムズ ジャパン株式会社製)を、固形分(g)当たり0.2%添加し、ジェットクッカー(温度110℃)で液化して、この液化液を95℃で保温して、経時的にDEを測定して、DE12になった時点で、塩酸でpH4に調整し、煮沸により反応を停止した。反応を停止した糖液のpHを6.0に調整した後、細菌由来枝作り酵素を固形分(g)当たり600ユニット添加し、65℃で18時間反応させた。この澱粉分解物の溶液を、活性炭脱色、イオン精製し、固形分濃度50質量%に濃縮した。更に濃縮液をスプレードライヤーで粉末化し、実施例8の澱粉分解物を得た。
【0082】
[比較例1]
10%塩酸にてpH2.5に調整した30質量%のタピオカスターチスラリーを、140℃の温度条件でDE3まで分解した。常圧に戻した後、消石灰を用いて中和することにより反応を停止した糖液のpHを5.8に調整した後、αアミラーゼ(リコザイムスープラ、ノボザイムズ ジャパン株式会社製)を、固形分(g)当たり0.02%添加し、95℃で反応を行い、経時的にDEを測定して、DE9になった時点で、塩酸でpH4に調整し、煮沸により反応を停止した。この澱粉分解物の溶液を、活性炭脱色、イオン精製し、固形分濃度40質量%に濃縮した。更に濃縮液をスプレードライヤーで粉末化し、比較例1の澱粉分解物を得た。
【0083】
[比較例2]
10%塩酸にてpH2.5に調整した30質量%のタピオカスターチスラリーを、140℃の温度条件でDE4まで分解した。常圧に戻した後、消石灰を用いて中和することにより反応を停止した糖液のpHを5.8に調整した後、αアミラーゼ(ターマミルSC、ノボザイムズ ジャパン株式会社製)を、固形分(g)当たり0.02%添加し、95℃で反応を行い、経時的にDEを測定して、DE13になった時点で、塩酸でpH4に調整し、煮沸により反応を停止した。この澱粉分解物の溶液を、活性炭脱色、イオン精製し、固形分濃度50質量%に濃縮した。更に濃縮液をスプレードライヤーで粉末化し、比較例2の澱粉分解物を得た。
【0084】
[比較例3]
10%塩酸にてpH2.5に調整した30質量%のコーンスターチスラリーを、140℃の温度条件でDE16まで分解した。常圧に戻した後、消石灰を用いて中和することにより反応を停止した糖液のpHを5.8に調整した後、αアミラーゼ(リコザイムスープラ、ノボザイムズ ジャパン株式会社製)を、固形分(g)当たり0.02%添加し、95℃で反応を行い、経時的にDEを測定して、DE20になった時点で、塩酸でpH4に調整し、煮沸により反応を停止した。この澱粉分解物の溶液を、活性炭脱色、イオン精製し、固形分濃度60質量%に濃縮した。更に濃縮液をスプレードライヤーで粉末化し、比較例3の澱粉分解物を得た。
【0085】
[比較例4]
10質量%消石灰にてpH5.8に調整した30質量%のコーンスターチスラリーに、αアミラーゼ(クライスターゼT10S、天野エンザイム株式会社製)を、固形分(g)当たり0.2%添加し、ジェットクッカー(温度110℃)で液化して、この液化液を95℃で保温して、経時的にDEを測定して、DE15になった時点で、塩酸でpH4に調整し、煮沸により反応を停止した。この澱粉分解物の溶液を、活性炭脱色、イオン精製し、固形分濃度40質量%に濃縮した。更に濃縮液をスプレードライヤーで粉末化し、比較例4の澱粉分解物を得た。
【0086】
[比較例5]
10質量%消石灰にてpH5.8に調整した30質量%のコーンスターチスラリーに、αアミラーゼ(ターマミルSC、ノボザイムズ ジャパン株式会社製)を、固形分(g)当たり0.2%添加し、ジェットクッカー(温度110℃)で液化して、この液化液を95℃で保温して、経時的にDEを測定して、DE14になった時点で、塩酸でpH4に調整し、煮沸により反応を停止した。反応を停止した糖液のpHを6.0に調整した後、細菌由来枝作り酵素を固形分(g)当たり500ユニット添加し、65℃で24時間反応させた。この澱粉分解物の溶液を、活性炭脱色、イオン精製し、固形分濃度50質量%に濃縮した。更に濃縮液をスプレードライヤーで粉末化し、比較例5の澱粉分解物を得た。
【0087】
(3)測定
前記で得られた実施例1〜8及び比較例1〜5について、それぞれ、DE、分子量、DP1〜2の含有量、濁度を、前述した方法で測定した。また、澱粉臭、風味、濁り及び吸湿性について、前述した方法で評価した。結果を下記の表5に示す。
【0088】
【表5】
【0089】
表5に示す通り、実施例1〜8は、澱粉臭が少なく、風味も良好で、濁りも少なく、吸湿性も低い結果であった。
【0090】
一方、分子量1500〜14000の含有量(y)が25.0質量%を超える比較例1及び2は、7日保存後の濁度の増加量が高く、澱粉臭も強く、風味が悪い結果であった。
比較例4及び5は、分子量1500〜14000の含有量(y)としては、25.0質量%以下であるが、DP1〜2の含有量が3質量%を超えているために、吸湿性が高く、甘みが強いため風味も悪い結果であった。
分子量1500〜14000の含有量(y)が25.0質量%を超え、かつ、DP1〜2の含有量が3質量%を超えている比較例3は、7日保存後の濁度の増加量が高く、吸湿性も高い結果であった。
【0091】
これらの結果から、風味が良好で、吸湿性が低く、濁り難いことによる製造時の作業性も良好な乾燥食品を得るためには、DP1〜2の含有量(質量%)x、及び、分子量1500〜14000の含有量(質量%)yが、前記(1)及び(2)の両方を満たす必要があることが分かった。
【0092】
実施例内の結果で検討すると、DP1〜2の含有量と分子量80000〜900000の含有量との関係が式(3)を満たしていない実施例8に比べ、式(3)を満たしている実施例1〜7の方が、総合評価が高いことが分かった。また、DP1〜2の含有量と分子量80000〜900000の含有量との関係が式(3’)を満たしていない実施例1〜3に比べ、式(3’)を満たしている実施例4〜7の方が、更に総合評価が高いことが分かった。特に澱粉臭及び風味の評価が良好であり、濁りの発生も抑えられていた。
また、分子量1500〜14000の含有量(y)が23質量%を超える実施例3及び8に比べ、23質量%以下の実施例1、2、4〜7の方が、更に濁りの発生が抑えられていることが分かった。
更に、DP1〜2の含有量が2.5質量%を超える実施例2及び8に比べ、2.5質量%以下の実施例1、3〜7の方が、吸湿性が低いことが分かった。
【0093】
<実験例2>
実験例2では、前記実験例1で製造した澱粉分解物を、実際の食品に適用した場合の風味、澱粉臭及び吸湿性について、検証した。
【0094】
[評価方法]
(a)風味
前記実験例1で製造した実施例又は比較例の澱粉分解物を、実際に乾燥食品に適用した場合の食品の好ましい風味について、10名の専門パネルが、強く感じるほど高得点として、5〜1点の5段階で評価し、その平均点を評価点とした。
【0095】
(b)澱粉臭
前記実験例1で製造した実施例又は比較例の澱粉分解物を、実際に乾燥食品に適用した場合の好ましくない澱粉臭について、10名の専門パネルが、少ないほど高得点として、5〜1点の5段階で評価し、その平均点を評価点とした。
【0096】
(c)吸湿性
コンウェイ水分活性測定器用セミ・ミクロユニット(柴田科学株式会社製)のサンプル用皿に、前記実験例1で製造した実施例又は比較例の澱粉分解物を用いた乾燥食品を1g秤量して、飽和塩化ナトリウム溶液で調湿して、25℃、相対湿度75%の環境下で12時間(試験例2、6)又は24時間(試験例1、3、4、5)保存した。試験は1サンプルあたり5回実施し、保存後の状態を、前記表4に示す基準で5段階に分類したときの平均点を、吸湿性の点数とした。
【0097】
(d)総合評価
試験例1〜5は、風味、澱粉臭、吸湿性の評価の各点数から平均値を求め、総合評価とした。試験例6は、湯戻し時の復元性、風味、澱粉臭、吸湿性の評価の各点数から平均値を求め、総合評価とした。
【0098】
(1)試験例1:粉末果汁
市販の100%りんご果汁1000gに、実施例3、7又は比較例1、3の澱粉分解物200g、水500gを添加混合した。これをスプレードライヤーにて噴霧乾燥して、粉末果汁を調製した。調製した粉末果汁50gを水150gで溶解したものの風味、及び粉末果汁の吸湿性を評価した。結果を表6に示す。
【0099】
【表6】
【0100】
表6に示す通り、比較例1を用いた粉末果汁に比べ、実施例3及び7を用いた粉末果汁は、吸湿性は同等であったが、風味及び澱粉臭の評価が良好であり、総合評価も高かった。また、比較例3を用いた粉末果汁に比べ、実施例3及び7を用いた粉末果汁の方が、全ての評価について良好であった。
【0101】
(2)試験例2:粉末醤油
市販のこいくち醤油1000gに、実施例2、4、6又は比較例4、5の澱粉分解物300gを添加混合した。これをスプレードライヤーにて噴霧乾燥して、粉末醤油を調製した。調製した粉末醤油50gを水100gで溶解したものの風味、及び粉末醤油の吸湿性を評価した。結果を表7に示す。
【0102】
【表7】
【0103】
表7に示す通り、比較例4又は5を用いた粉末醤油に比べ、実施例2、4及び6を用いた粉末醤油の方が、全ての評価について良好であった。
【0104】
(3)試験例3:粉末鰹出汁
水1000gを鍋に入れ、ガスコンロで加熱して沸騰させた後、火を止め、これに市販の鰹節30gを入れ、2分間静置した。これを、ガーゼを用いてろ過した後、さらにNo.5Cのろ紙でろ過した。この液700gに対し、実施例5、7、8又は比較例1、5の澱粉分解物300gを加えて60℃で加温しながら溶解した。これをスプレードライヤーにて噴霧乾燥して、粉末鰹出汁を調製した。調製した粉末鰹出汁50gを熱湯150gで溶解したものの風味、及び粉末鰹出汁の吸湿性を評価した。結果を表8に示す。
【0105】
【表8】
【0106】
表8に示す通り、比較例1を用いた粉末鰹出汁に比べ、実施例5、7及び8を用いた粉末鰹出汁のは、吸湿性は大きな差は認められなかったが、風味及び澱粉臭の評価が良好であり、総合評価も高かった。また、比較例5を用いた粉末鰹出汁に比べ、実施例5、7及び8を用いた粉末鰹出汁の方が、全ての評価について良好であった。
【0107】
(4)試験例4:粉末ブイヨンスープ
鶏がら500gと水1000gを鍋に入れ、強火で加熱させ、沸騰後、灰汁取りを行い、荒く切った玉ねぎ、ニンジン、セロリを各1個鍋に加え、煮込んだ後、再度灰汁取りを行った。ローリエ1枚と胡椒1gを加えた後、弱火で2時間煮込んだ。これを、ガーゼを用いてろ過した後、さらにNo.5Cのろ紙でろ過した。この液700gに対し、実施例4、7又は比較例4の澱粉分解物300gを加えて60℃で加温しながら溶解した。これをスプレードライヤーにて噴霧乾燥して、粉末ブイヨンスープを調製した。調製した粉末ブイヨンスープ60gを熱湯140gで溶解したものの風味、及び粉末ブイヨンスープの吸湿性を評価した。結果を表9に示す。
【0108】
【表9】
【0109】
表9に示す通り、比較例4を用いた粉末ブイヨンスープに比べ、実施例4及び7を用いた粉末ブイヨンスープの方が、全ての評価について良好であった。
【0110】
(5)試験例5:粉末香料
水600gに、実施例1、6、8又は比較例2、5の澱粉分解物200g、アラビアガム100gを、60℃で加温しながら添加混合した。冷却後、市販のペパーミントオイル100gを添加して、高圧ホモジナイザーで乳化させた。これをスプレードライヤーにて噴霧乾燥して、粉末香料を調製した。調製した粉末香料1gを、粉糖100gに添加して十分に撹拌・混合したものの風味、及び粉末香料の吸湿性を評価した。結果を表10に示す。
【0111】
【表10】
【0112】
表10に示す通り、比較例2又は5を用いた粉末香料に比べ、実施例1、6及び8を用いた粉末香料の方が、全ての評価について良好であった。
【0113】
(6)試験例6:フリーズドライ味噌汁
市販のだし入り味噌200gに、実施例3、4又は比較例2、3の澱粉分解物25g、水275gを添加混合した。この液50gを、湯掻いた刻みネギ10g、刻み油揚げ10gと共に型に移し、−20℃で十分に凍結させた。これを常法により凍結乾燥してフリーズドライ味噌汁を調製した。調製したフリーズドライ味噌汁を熱湯200gに溶解させ、湯戻し時の復元性、溶解したものの風味、及びフリーズドライ味噌汁の吸湿性を評価した。
【0114】
なお、湯戻し時の復元性の評価は、90℃の熱湯200gにフリーズドライ味噌汁を静かに浮かべ、10秒後の状態が完全に溶解したものを5点、半分以上溶け残りがあるものを1点として5〜1点の5段階で評価した。結果を表11に示す。
【0115】
【表11】
【0116】
表11に示す通り、比較例2又は3を用いたフリーズドライ味噌汁に比べ、実施例3及び4を用いたフリーズドライ味噌汁の方が、全ての評価について良好であった。