【文献】
BRITO-SILVA, M. Antonio et al.,Engineering of CdTe Multicore in ZnO Nanoshell as a New Charge-Transfer Material,J. Phys. Chem. C,2014年,vol.118,p.18372-18376
【文献】
RAMIREZ-ORTEGA, David et al.,Semiconducting properties of ZnO/TiO2 composites by electrochemical measurements and their relations,Electrochimica Acta,2014年,vol.140,p.541-549
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記半導体シェルAが、II族元素およびVI族元素を含有するII−VI族半導体、または、III族元素およびV族元素を含有するIII−V族半導体である、請求項1〜7のいずれか1項に記載のマルチコアシェル粒子。
前記半導体コア、前記半導体シェルAおよび前記半導体シェルBのうち、前記半導体コアのバンドギャップが最も小さく、かつ、前記半導体コアおよび前記半導体シェルBがタイプ1型のバンド構造を示す、請求項1〜10のいずれか1項に記載のマルチコアシェル粒子。
前記マルチコアシェル粒子が、前記マルチコアシェル粒子と前記シングルコアシェル粒子とを合計したコアシェル粒子の合計量に対して、10〜50%存在している、請求項13に記載のナノ粒子分散液。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。
なお、本明細書において、「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0013】
[マルチコアシェル粒子]
本発明のマルチコアシェル粒子は、複数の半導体コアと、複数の半導体コアを包含する半導体シェルAとを有する。
すなわち、本発明のマルチコアシェル粒子は、複数の半導体コアを島とし、半導体シェルAを海とする海島構造を有するものである。
また、本発明のマルチコアシェル粒子が有する半導体コアは、半導体コアの表面の少なくとも一部を覆う半導体シェルBを有しているのが好ましい。ここで、半導体シェルBは、上述した半導体シェルAとは異なり、複数の半導体コアの各々を独立して(個別に)覆う半導体シェルである。
【0014】
本発明のマルチコアシェル粒子は、複数の半導体コアを包含する半導体シェルAを有することにより、光安定性が良好となる。
このように光安定性が良好となる理由は、詳細には明らかではないが、およそ以下のとおりと推測される。
まず、半導体シェルAを有するマルチコアシェル粒子は、半導体コアを複数包含しているため、半導体シェルAを有していないシングルコアシェル粒子(すなわち1個の半導体コアを個別に半導体シェルで被覆したコアシェル粒子)よりも大きな構造となり、また、半導体シェルAの厚みや被覆量は、1個の半導体コアを個別に被覆する半導体シェルよりも大きくなる。
そのため、半導体シェルAを有するマルチコアシェル粒子は、半導体コアの酸化や、半導体コアへの水分吸着の影響が抑制されやすくなり、光安定性が良好になったと考えられる。
また、半導体シェルAを有するマルチコアシェル粒子は、上述した通り、大きな構造となり、体積に対する表面積が小さくなるため、任意の配位性分子を有する場合にも、配位性分子による表面被覆がされやすくなり、表面欠陥が抑制できるという効果が期待できる。
更に、半導体シェルAを有するマルチコアシェル粒子は、半導体コアに発光ブリンキング現象が生じても、内包するすべての半導体コアの発光が同時に消失する可能性が低くなるため、生体標識などへの適用も好適であると考えられる。
【0015】
〔半導体コア〕
本発明のマルチコアシェル粒子が有する半導体コアは、特に限定されず、従来公知の量子ドットを構成するコア材料を適宜用いることができる。
【0016】
本発明においては、欠陥の少ない良質な結晶相が得られ、高い発光効率が実現しやすくなる理由から、半導体コアが、III族元素およびV族元素を含有する、いわゆるIII−V族半導体であるのが好ましい。
【0017】
<III族元素>
III族元素としては、具体的には、例えば、インジウム(In)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)等が挙げられ、なかでも、Inであるのが好ましい。
【0018】
<V族元素>
V族元素としては、具体的には、例えば、P(リン)、N(窒素)、As(ヒ素)等が挙げられ、なかでも、Pであるのが好ましい。
【0019】
本発明においては、半導体コアとして、上述したIII族元素およびV族元素の例示を適宜組み合わせたIII−V族半導体を好適に用いることができるが、発光効率が高くなり、発光半値幅が狭くなり、また、明瞭なエキシトンピークが得られる理由から、InP、InN、InAsであるのが好ましく、中でも、発光効率が更に高くなる理由から、InPであるのがより好ましい。
【0020】
本発明においては、半導体コアが、上述したIII族元素およびV族元素以外に、更にII族元素を含有しているのが好ましい。特にコアがInPである場合、II族元素としてのZnをドープさせることにより格子定数が小さくなり、InPよりも格子定数の小さいシェル(例えば、後述するGaP、ZnSなど)との格子整合性が高くなる。
【0021】
〔半導体シェルA〕
本発明のマルチコアシェル粒子が有する半導体シェルAは、上述した半導体コアを複数包含するシェル材料である。
【0022】
本発明においては、半導体コアまたは半導体シェルBとの界面欠陥を抑制し、また、半導体シェルA自体も欠陥の少ない良質な結晶相が得られる理由から、半導体シェルAが、II族元素およびVI族元素を含有するII−VI族半導体、または、III族元素およびV族元素を含有するIII−V族半導体であるのが好ましく、材料自体の反応性が高く、より結晶性の高いシェルが容易に得られる理由から、II−VI族半導体であるのがより好ましい。
【0023】
<II−VI族半導体>
上記II−VI族半導体に含まれるII族元素としては、具体的には、例えば、亜鉛(Zn)、カドミウム(Cd)、マグネシウム(Mg)等が挙げられ、なかでもZnであるのが好ましい。
また、上記II−VI族半導体に含まれるVI族元素としては、具体的には、例えば、硫黄(S)、酸素(O)、セレン(Se)、テルル(Te)等が挙げられ、なかでもSまたはSeであるのが好ましく、Sであるのがより好ましい。
【0024】
半導体シェルAとして、上述したII族元素およびVI族元素の例示を適宜組み合わせたII−VI族半導体を用いることができるが、上述した半導体と同一または類似の結晶系(例えば、閃亜鉛鉱構造)であるのが好ましい。具体的には、ZnSe、ZnS、またはそれらの混晶であるのが好ましく、ZnSであるのがより好ましい。
【0025】
<III−V族半導体>
上記III−V族半導体に含まれるIII族元素としては、具体的には、例えば、インジウム(In)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)等が挙げられ、なかでも、Gaであるのが好ましい。
また、上記III−V族半導体に含まれるV族元素としては、具体的には、例えば、P(リン)、N(窒素)、As(ヒ素)等が挙げられ、なかでも、Pであるのが好ましい。
【0026】
半導体シェルAとして、上述したIII族元素およびV族元素の例示を適宜組み合わせたIII−V族半導体を用いることができるが、上述した半導体と同一または類似の結晶系(例えば、閃亜鉛鉱構造)であるのが好ましい。具体的には、GaPであるのが好ましい。
【0027】
本発明においては、得られるコアシェル粒子の表面欠陥が少なくなる理由から、半導体シェルAと、上述した半導体コアまたは後述する半導体シェルBを有する場合は半導体シェルBとの格子定数の差が小さい方が好ましく、具体的には、格子定数の差が10%以下であることが好ましい。
例えば、上述した半導体コアがInPである場合、半導体シェルAはZnS(格子定数の差:7.8%)であることが好ましく、後述する半導体シェルBとしてGaPを有する場合、半導体シェルAはZnS(格子定数の差:0.8%)であることが好ましい。
【0028】
また、本発明においては、半導体シェルAがII−VI族半導体である場合、半導体コアとのバンドギャップの大小関係(半導体コア<半導体シェルA)に影響を与えない範囲で他の元素(例えば、上述したIII族元素およびV族元素)を含有またはドープしていてもよい。同様に、半導体シェルAがIII−V族半導体である場合、半導体コアとのバンドギャップの大小関係(半導体コア<半導体シェルA)に影響を与えない範囲で他の元素(例えば、上述したII族元素およびVI族元素)を含有またはドープしていてもよい。
【0029】
〔半導体シェルB〕
本発明のマルチコアシェル粒子が有する半導体コアは、上述した通り、半導体コアの表面の少なくとも一部を覆う半導体シェルBを有しているのが好ましい。
ここで、半導体シェルBは、上述した半導体シェルAとは異なり、複数の半導体コアの各々を独立して(個別に)覆う半導体シェルである。すなわち、半導体シェルBを有する態様は、上述した半導体シェルAの中に、上述した半導体コアと半導体シェルBとを有するシングルコアシェル粒子を複数包含する態様となる。
また、本発明においては、半導体シェルBが半導体コアの表面の少なくとも一部を被覆しているか否かは、例えば、透過型電子顕微鏡を用いたエネルギー分散型X線分光法(TEM−EDX)による組成分布解析によっても確認することが可能である。
【0030】
本発明においては、半導体コアとの界面欠陥を抑制しやすくなる理由から、半導体シェルBがII族元素またはIII族元素を含むことが好ましい。
ここで、上述した半導体コアおよび半導体シェルBがいずれもIII族元素を含む場合は、半導体コアおよび半導体シェルBに含まれるIII族元素は互いに異なるIII族元素であるのが好ましい。なお、2種以上のIII族元素を含む場合は、少なくも1種が異なるIII族元素であればよい。例えば、半導体コアがInを含む場合、半導体シェルBはGaを含むのが好ましいが、InおよびGaを含む態様であってもよい。
また、II族元素またはIII族元素を含む半導体シェルBとしては、例えば、後述するII−VI族半導体およびIII−V族半導体の他、III族元素およびVI族元素を含有するIII−VI族半導体(例えば、Ga
2O
3、Ga
2S
3など)などが挙げられる。
【0031】
本発明においては、欠陥の少ない良質な結晶相が得られる理由から、半導体シェルBが、II族元素およびVI族元素を含有するII−VI族半導体、または、III族元素およびV族元素を含有するIII−V族半導体であるのが好ましく、上述した半導体コアとの格子定数の差が小さいIII−V族半導体であるのがより好ましい。
ここで、上述した半導体コアがIII族元素を含み、かつ、半導体シェルBがIII−V族半導体である場合、半導体コアおよび半導体シェルBに含まれるIII族元素は互いに異なるIII族元素であるのが好ましい。なお、2種以上のIII族元素を含む場合は、少なくも1種が異なるIII族元素であればよい。例えば、半導体コアがInを含む場合、半導体シェルBはGaを含むのが好ましいが、InおよびGaを含む態様であってもよい。
なお、II族元素およびVI族元素ならびにIII族元素およびV族元素としては、いずれも、半導体シェルAにおいて説明したものが挙げられる。
【0032】
半導体シェルBとして、上述したII族元素およびVI族元素の例示を適宜組み合わせたII−VI族半導体を用いることができるが、上述した半導体コアと同一または類似の結晶系(例えば、閃亜鉛鉱構造)であるのが好ましい。具体的には、ZnSeであるのが好ましい。
【0033】
半導体シェルBとして、上述したIII族元素およびV族元素の例示を適宜組み合わせたIII−V族半導体を用いることができるが、上述した半導体コアと同一または類似の結晶系(例えば、閃亜鉛鉱構造)であるのが好ましい。具体的には、GaPであるのが好ましい。
【0034】
本発明においては、得られるシングルコアシェル粒子の表面欠陥が少なくなる理由から、上述した半導体コアと半導体シェルBとの格子定数の差が小さい方が好ましく、具体的には、格子定数の差が10%以下であることが好ましい。
例えば、上述した半導体コアがInPである場合、半導体シェルBはZnSe(格子定数の差:3.4%)、または、GaP(格子定数の差:7.1%)であることが好ましく、特に、半導体コアと同じIII−V族半導体であり、半導体コアと半導体シェルBとの界面に混晶状態を作りやすいGaPであることがより好ましい。
【0035】
また、本発明においては、半導体シェルBがIII−V族半導体である場合、半導体コアとのバンドギャップの大小関係(半導体コア<半導体シェルB)に影響を与えない範囲で他の元素(例えば、上述したII族元素およびVI族元素)を含有またはドープしていてもよい。同様に、半導体シェルBがII−VI族半導体である場合、半導体コアとのバンドギャップの大小関係(半導体コア<半導体シェルB)に影響を与えない範囲で他の元素(例えば、上述したIII族元素およびV族元素)を含有またはドープしていてもよい。
【0036】
本発明においては、エピタキシャル成長が容易となり、各層間の界面欠陥を抑制しやすくなる理由から、上述した半導体コアと、半導体シェルAと、半導体シェルBとが、いずれも閃亜鉛鉱構造を有する結晶系であるのが好ましい。
【0037】
また、本発明においては、半導体コアにエキシトンが滞在する確率が増大し、発光効率がより高くなる理由から、上述した半導体コア、半導体シェルAおよび半導体シェルBのうち、半導体コアのバンドギャップが最も小さく、かつ、半導体コアおよび半導体シェルBがタイプ1型(タイプI型)のバンド構造を示すコアシェル粒子であるのが好ましい。
【0038】
〔配位性分子〕
本発明のマルチコアシェル粒子は、分散性を付与する観点から、マルチコアシェル粒子の表面に配位性分子を有していることが望ましい。
配位性分子は、溶媒への分散性等の観点から、脂肪族炭化水素を含むことが好ましい。
また、配位性分子は、分散性を向上する観点から、主鎖の炭素数が少なくとも6以上の配位子であることが好ましく、主鎖の炭素数が10以上の配位子であることがより好ましい。
【0039】
このような配位性分子としては、飽和化合物であっても不飽和化合物であってもよく、具体的には、例えば、デカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、オレイン酸、エルカ酸、オレイルアミン、ドデシルアミン、ドデカンチオール、1,2−ヘキサデカンチオール、トリオクチルホスフィンオキシド、臭化セトリモニウム等が挙げられ、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0040】
〔平均粒子径〕
本発明のマルチコアシェル粒子は、均一なサイズの粒子を合成しやすく、かつ、量子サイズ効果による発光波長の制御が容易となる理由から、平均粒子径は2nm以上であるのが好ましく、30nm以下であるのがより好ましい。
ここで、平均粒子径は、透過電子顕微鏡で少なくとも20個のマルチコアシェル粒子を直接観察し、粒子の投影面積と同一面積を有する円の直径を算出し、それらの算術平均の値をいう。
【0041】
[コアシェル粒子の製造方法]
上述した本発明のマルチコアシェル粒子を合成するマルチコアシェル粒子の製造方法(以下、「本発明の製造方法」ともいう。)は、上述した本発明のマルチコアシェル粒子を合成する方法であって、例えば、下記第1工程から第4工程を有する方法などが挙げられる。
(1)溶媒中にIII族元素を含むIII族原料を添加した溶液を加熱撹拌する第1工程
(2)第1工程後の上記溶液中に、V族元素を含むV族原料を添加して半導体コアを形成する第2工程
(3)第2工程後の上記溶液中に、半導体シェルBの原料を添加し、半導体シェルBを形成する第3工程
(4)第3工程後の上記溶液中に、半導体シェルAの原料を添加し、半導体シェルAを形成し、マルチコアシェル粒子を合成する第4工程
以下、各工程について説明する。
【0042】
〔第1工程〕
第1工程は、溶媒中にIII族元素を含むIII族原料を添加した溶液を加熱撹拌する工程である。
【0043】
<溶媒>
第1工程において使用する溶媒としては、170℃以上の沸点を有する非極性溶媒が好適に挙げられる。
非極性溶媒としては、具体的には、例えば、n−デカン、n−ドデカン、n−ヘキサデカン、n−オクタデカンなどの脂肪族飽和炭化水素;1−ウンデセン、1−ドデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセンなどの脂肪族不飽和炭化水素;トリオクチルホスフィン;等が挙げられる。
これらのうち、炭素数12以上の脂肪族不飽和炭化水素が好ましく、1−オクタデセンがより好ましい。
【0044】
<III族原料>
溶媒中に添加するIII族原料としては、具体的には、例えば、塩化インジウム、酸化インジウム、硝酸インジウム、硫酸インジウム、インジウム酸;リン酸アルミニウム、アセチルアセトナトアルミニウム、塩化アルミニウム、フッ化アルミニウム、酸化アルミニウム、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム;アセチルアセトナトガリウム、塩化ガリウム、フッ化ガリウム、酸化ガリウム、硝酸ガリウム、硫酸ガリウム;等が挙げられ、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
これらのうち、発光効率がより高くなり、可視域での発光波長制御がし易いという理由から、Inを含む化合物であることが好ましく、特に、塩化物などの不純物イオンがコアに取り込まれ難く、高い結晶性を実現しやすい酢酸インジウムを用いるのがより好ましい。
【0045】
<II族原料>
本発明の製造方法においては、第1工程において、上述したIII族原料とともに、II族元素を含むII族原料を添加してもよい。
II族元素を含むII族原料としては、具体的には、例えば、ジメチル亜鉛、ジエチル亜鉛、亜鉛カルボキシル酸塩、アセチルアセトナト亜鉛、ヨウ化亜鉛、臭化亜鉛、塩化亜鉛、フッ化亜鉛、炭酸亜鉛、シアン化亜鉛、硝酸亜鉛、酸化亜鉛、過酸化亜鉛、亜鉛過塩素酸塩、酢酸亜鉛、硫酸亜鉛等が挙げられる。
これらのうち、塩化物などの不純物を含まず、かつ、上述した配位性分子との相溶性や溶媒への溶解性が比較的高いという理由から、Znの酢酸塩である、酢酸亜鉛を用いるのが好ましい。
【0046】
<配位性分子>
第1工程において溶媒に配位性分子を添加してもよい。使用する配位性分子としては、上述した本発明のマルチコアシェル粒子において説明したものと同様のものが挙げられる。なかでも、半導体コアの合成を促進し、半導体コアへの適度な配位力を有するオレイン酸、パルミチン酸、ステアリン酸が好ましい。
【0047】
<加熱撹拌条件>
第1工程において、上述した各材料(III族原料、II族原料、配位性分子)は、上述した溶媒に溶解させるのが好ましく、例えば、100〜180℃の温度で加熱撹拌して溶解させることが好ましい。なお、この際に、減圧条件下で加熱することより、溶解させた混合溶液から溶存酸素や水分などを除去することが好ましい。
また、上述した加熱溶解に要する時間は、30分以上であることが好ましい。
【0048】
〔第2工程〕
第2工程は、第1工程後の溶液中に、V族元素を含むV族原料を添加して半導体コアを形成する工程である。
第1工程で添加したIII族原料に対する、第2工程で添加したV族原料のモル比は0.5よりも小さいことが好ましい。これにより、X線光電子分光分析〔X-ray Photoelectron Spectroscopy(以下、「XPS」ともいう。)〕から求められる、コアシェル粒子全体に含まれるV族元素に対する、コアに含まれるIII族元素のモル比〔以下、「モル比(III族/V族)」ともいう。〕が2.2よりも大きいコアシェル粒子となり、より高い発光効率を示す。
なお、「第1工程で添加したIII族原料に対する、第2工程で添加したV族原料のモル比」は、第2工程で添加するV族原料の一部を第3工程における半導体シェルBの原料としても使用する場合であっても、第1工程で添加したIII族原料に対する、第2工程で添加したV族原料のモル比をいう。
また、半導体コアの表面においてIII族元素由来の金属カチオンがより多く存在しうる理由から、第1工程で添加したIII族原料に対する、第2工程で添加したV族原料のモル比は、0.4よりも小さいことが好ましく、0.38〜0.25であることが好ましい。
【0049】
ここで、上記モル比(III族/V族)は、以下のようにして求められる。
すなわち、マルチコアシェル粒子についてXPSを測定し、マルチコアシェル粒子全体に含まれるV族元素のピーク強度に対する、半導体コアに含まれるIII族元素のピーク強度の比を、元素ごとの相対測定感度で補正することで求められる。相対感度係数は組成既知の標準サンプルについて後述する測定元素(測定軌道)を測定することで求められる(Journal of Surface Analysis Vol.12 No.3 頁357(2005年))。
なお、ピーク強度は、以下の測定条件により観測されたピークから、バックグラウンドを差し引き、ピークの面積をエネルギーに対して積分した面積強度をいう。
また、XPS測定は、コアシェル粒子を含む分散液(溶媒:トルエン)をノンドープのSi基板上に塗布し、乾燥させたサンプルを用いて行う。
【0050】
(測定条件)
・測定装置:Ulvac−PHI社製Quantera SXM型XPS
・X線源:Al−Kα線(分析径100μm、25W、15kV)
・光電子取出角度:45°
・測定範囲:300μm×300μm
・補正:電子銃・低速イオン銃併用による帯電補正
・測定元素(測定軌道):C(1s)、N(1s)、O(1s)、Si(2p)、P(2p、S(2p)、Cl(2p)、Zn(2p3/2)、Ga(2p3/2)、In(3d5/2)
【0051】
<V族原料>
V族元素を含むV族原料としては、具体的には、例えば、トリストリアルキルシリルホスフィン、トリスジアルキルシリルホスフィン、トリスジアルキルアミノホスフィン;酸化砒素、塩化砒素、硫酸砒素、臭化砒素、ヨウ化砒素;一酸化窒素、硝酸、硝酸アンモニウム;等が挙げられる。
これらのうち、Pを含む化合物であるのが好ましく、例えば、トリストリアルキルシリルホスフィン、トリスジアルキルアミノホスフィンを用いるのが好ましく、具体的には、トリストリメチルシリルホスフィンを用いるのがより好ましい。
【0052】
〔第3工程〕
第3工程は、第2工程後の溶液中に、半導体シェルBの原料を添加し、半導体シェルBを形成する工程である。
ここで、半導体シェルBの原料としては、半導体シェルBが上述したII−VI族半導体である場合には、上述したII族元素を含むII族原料および後述するVI族元素を含むVI族原料が挙げられ、半導体シェルBが上述したIII−V族半導体である場合には、上述したIII族元素を含むIII族原料および上述したV族元素を含有するV族原料が挙げられる。
ここで、半導体シェルBが、上述したIII−V族半導体である場合には、本発明のマルチコアシェル粒子において説明した通り、III−V族半導体に含まれるIII族元素は、上述した半導体コアに含まれるIII族元素とは異なるIII族元素であることが好ましい。
また、半導体シェルBが、上述したIII−V族半導体である場合には、V族元素を含むV族原料については、コアを形成するV族原料と同一原料であってもよいため、第2工程で使用するV族原料の一部を使用し、第3工程においてはIII族原料のみを添加する態様であってもよい。
【0053】
<VI族原料>
VI族元素を含むVI族原料としては、具体的には、例えば、硫黄、アルキルチオール、トリアルキルホスフィンスルフィド、トリアルケニルホスフィンスルフィド、アルキルアミノスルフィド、アルケニルアミノスルフィド、イソチオシアン酸シクロヘキシル、ジエチルジチオカルバミン酸、ジエチルジチオカルバミン酸;トリアルキルホスフィンセレン、トリアルケニルホスフィンセレン、アルキルアミノセレン、アルケニルアミノセレン、トリアルキルホスフィンテルリド、トリアルケニルホスフィンテルリド、アルキルアミノテルリド、アルケニルアミノテルリド;等が挙げられる。
これらのうち、得られるマルチコアシェル粒子の分散性が良好となる理由から、アルキルチオールを用いるのが好ましく、具体的には、ドデカンチオール、オクタンチオールを用いるのがより好ましく、ドデカンチオールを用いるのが更に好ましい。
【0054】
これらの材料のうち、III族原料およびV族原料を用いるのが好ましい。
特に、III族原料としては、Gaを含む化合物(例えば、アセチルアセトナトガリウム、塩化ガリウム、フッ化ガリウム、酸化ガリウム、硝酸ガリウム、硫酸ガリウム等)を用いるのがより好ましく、Gaの塩化物を用いるのが更に好ましい。
なお、V族原料としては、上述したとおり、第2工程で使用するV族原料の一部を用いるのが好ましい。
【0055】
〔第4工程〕
第4工程は、第3工程後の溶液中に、半導体シェルAの原料を添加し、半導体シェルAを形成し、マルチコアシェル粒子を合成する工程である。
ここで、半導体シェルAの原料としては、半導体シェルAが上述したII−VI族半導体である場合には、上述したII族元素を含むII族原料および上述したVI族元素を含むVI族原料が挙げられ、半導体シェルAが上述したIII−V族半導体である場合には、上述したIII族元素を含むIII族原料および上述したV族元素を含有するV族原料が挙げられる。
【0056】
これらの原料のうち、II族原料およびVI族原料を用いるのが好ましい。
特に、II族原料としては、Znを含む化合物(特に、Znのカルボン酸塩)を用いるのが好ましい。
また、VI族原料としては、アルキルチオールを用いるのが好ましい。
【0057】
本発明の製造方法においては、半導体シェルAが上述した半導体コアを複数包含しやすくなる理由から、第4工程の後に、再度第4工程を行うのが好ましい。第4工程の後に第4工程を複数回行ってもよい。
また、第1工程で添加したIII族原料に対する、第1工程から第4工程までの全ての工程で添加したII族原料のモル比は、10以上であることが好ましく、15以上であることがより好ましく、20以上であることが更に好ましい。これにより、得られるコアシェル粒子は、半導体シェルAが上述した半導体コアを複数包含しやすくなる。なお、「第1工程から第4工程までの全ての工程で添加したII族原料のモル比」とは、第1工程から第4工程までの全ての工程で添加したII族原料の合計のモル比を意図し、第4工程のII族原料だけでなく、例えば、第1工程でもII族原料を添加していれば、そのII族原料も含めることを意図する。
【0058】
[ナノ粒子分散液]
本発明のナノ粒子分散液は、上述した本発明のマルチコアシェル粒子を含有するナノ粒子分散液である。
ここで、コアシェル粒子を分散させる溶媒としては、有機溶媒であるのが好ましく、例えば、トルエン、オクタン、ヘキサン、クロロホルムなどの疎水性の極性有機溶媒を好適に用いることができる。なお、この疎水性の極性有機溶媒とは、水酸基、カルボキシル基、アミノ基などの水素結合能を有する官能基を持たない極性の有機溶媒のことである。
【0059】
また、本発明のナノ粒子分散液における上述した本発明のマルチコアシェル粒子の濃度は、特に限定されないが、例えば、0.1×10
-6〜10×10
-6mol/L程度とすることが好ましく、0.5×10
-6〜6×10
-6mol/L程度とすることがより好ましく、1×10
-6〜3×10
-6mol/L程度とすることがさらに好ましい。
【0060】
本発明のナノ粒子分散液は、上述した本発明のマルチコアシェル粒子とは別に、半導体コアと、半導体コアの表面の少なくとも一部を覆う半導体シェルとを有するシングルコアシェル粒子を含有していてもよい。
シングルコアシェル粒子としては、例えば、本発明のマルチコアシェル粒子において説明した半導体コアと半導体シェルBとを有するコアシェル粒子;本発明のマルチコアシェル粒子において説明した半導体コアと半導体シェルBとを有するコアシェル粒子の半導体シェルBの表面の少なくとも一部に、他の半導体シェル(例えば、上述した半導体シェルAと同様のシェル材料を用いて得られるシェル)を被覆させたコアシェル粒子;などが挙げられる。
【0061】
また、本発明のナノ粒子分散液は、シングルコアシェル粒子を含有する場合、上述した本発明のマルチコアシェル粒子は、マルチコアシェル粒子とシングルコアシェル粒子とを合計したコアシェル粒子の合計量に対して、10〜50%存在しているのが好ましく、20〜40%存在していることがより好ましい。
ここで、本発明のマルチコアシェル粒子の存在量は、以下のようにして求められる。
まず、ナノ粒子分散液を、アモルファスシリコン支持膜を張った透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:TEM)用メッシュに滴下し、自然乾燥させる。
その後、JEOL社製のJEM−2800型FE−TEM(加速電圧200kV)を用いて、エネルギー分散型X線分光器(Energy dispersive X-ray spectrometer:EDS)を用いた走査透過電子顕微鏡法(Scanning transmission electron microscope:STEM)による分析(以下、「STEM−EDS分析」ともいう。)を行う。
また、EDS分析には、JEOL社製100mm
2の検出器を2つ取り付けたものを使用し、アナライザーにはThermo fisher社製Noranを用いる。
自然乾燥させたメッシュ上の少なくとも任意の10粒子の形態および組成分析を行ない、マルチコアシェル粒子とシングルコア粒子の割合を算出した。
【0062】
[フィルム]
本発明のフィルムは、上述した本発明のマルチコアシェル粒子を含有するフィルムである。
このような本発明のフィルムは、発光効率が高く、発光半値幅が狭く、量子ドットとして有用であるため、例えば、ディスプレイ用途の波長変換フィルム、太陽電池の光電変換(または波長変換)フィルム、生体標識、薄膜トランジスタ等に適用することができる。
特に、本発明のフィルムは、量子ドットの吸収端よりも短波の領域の光を吸収し、より長波の光を放出するダウンコンバージョン、または、ダウンシフト型の波長変換フィルムへの応用が好適である。
【0063】
また、本発明のフィルムを構成する母材としてのフィルム材料は特に限定されず、樹脂であってもよく、薄いガラス膜であってもよい。
具体的には、アイオノマー、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体フィルム、ナイロン等をベースとする樹脂材料が挙げられる。
【実施例】
【0064】
以下に実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す実施例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0065】
<実施例1>
フラスコ中に32mLのオクタデセン、酢酸インジウム140mg(0.48mmol)、酢酸亜鉛48mg(0.24mmol)、パルミチン酸364mg(1.44mmol)を加え、真空下で110℃加熱攪拌を行い、原料を十分溶解させると共に90分間脱気を行った。続いて窒素フロー下でフラスコを300℃まで昇温し、溶液の温度が安定したところで、約4mLのオクタデセンに溶解させた0.24mmolのトリストリメチルシリルホスフィンを加えた。その後溶液を230℃にした状態で120分間加熱した。溶液が赤色に着色し粒子(半導体コア)が形成されている様子が確認された。その後溶液を200℃に加熱した状態において、8mLのオクタデセンに溶解させた、塩化ガリウム30mg(0.18mmol)及びオレイン酸125μL(0.4mmol)を加え、1時間ほど加熱することで、ZnがドープされたInP(半導体コア)とGaP(半導体シェルB)とを有するシングルコアシェル粒子の分散液を得た。
その後、分散液の温度を室温に冷却し、1100mg(6.0mmol)の酢酸亜鉛を加え、分散液を230℃に加熱し、4時間程キープした。次いで、ドデカンチオール4.58mL(19.4mmol)を加え、分散液を240℃に加熱した。得られた分散液を室温まで冷却した後、再度1100mg(6.0mmol)の酢酸亜鉛を加え、分散液を230℃に加熱し、1時間程キープした。次いで、再度ドデカンチオール4.58mL(19.4mmol)を加え、溶液を240℃に加熱した。得られた分散液を室温まで冷却した後、エタノールを加え、遠心分離を行い、粒子を沈殿させた。上澄みを廃棄した後、トルエン溶媒に分散させた。こうして、ZnがドープされたInP(半導体コア)と半導体コアの表面を覆うGaP(半導体シェルB)とを有するシングルコアシェル粒子を複数含む、ZnS(半導体シェルA)が形成されたマルチコアシェル粒子を含有するトルエン分散液を得た。
得られたトルエン分散液におけるマルチコアシェル粒子の存在割合を上述したSTEM−EDS分析で調べたところ、30%であることが確認できた。
【0066】
<比較例1>
フラスコ中に32mLのオクタデセン、酢酸インジウム140mg(0.48mmol)、酢酸亜鉛48mg(0.24mmol)、パルミチン酸364mg(1.44mmol)を加え、真空下で110℃加熱攪拌を行い、原料を十分溶解させると共に90分間脱気を行った。続いて窒素フロー下でフラスコを300℃まで昇温し、溶液の温度が安定したところで、約4mLのオクタデセンに溶解させた0.18mmolのトリストリメチルシリルホスフィンを加えた。その後溶液を230℃にした状態で120分間加熱した。溶液が赤色に着色し粒子(半導体コア)が形成されている様子が確認された。その後溶液を200℃に加熱した状態において、8mLのオクタデセンに溶解させた、塩化ガリウム30mg(0.18mmol)及びオレイン酸125μL(0.4mmol)を加え、1時間ほど加熱することで、ZnがドープされたInP(半導体コア)とGaP(第1半導体シェル)とを有するシングルコアシェル粒子の分散液を得た。
その後、分散液の温度を室温に冷却し、330mg(1.8mmol)の酢酸亜鉛を加え、分散液を230℃に加熱し、4時間程キープした。次いで、ドデカンチオール1.17mL(7.5mmol)を加え、分散液を240℃に加熱した。得られた分散液を室温まで冷却した後、エタノールを加え、遠心分離を行い、粒子を沈殿させた。上澄みを廃棄した後、トルエン溶媒に分散させた。こうして、ZnがドープされたInP(半導体コア)とコアの表面を覆うGaP(第1半導体シェル)と第1半導体シェルの表面を覆うZnS(第2半導体シェル)とを有するシングルコアシェル粒子のトルエン分散液を得た。
得られたトルエン分散液を上述したSTEM−EDS分析で調べたところ、マルチコアシェル粒子の存在割合は0%であることが確認できた。
【0067】
<実施例2〜4>
実施例1で調製したトルエン分散液と比較例1で調製したトルエン分散液とを、下記表1に示すマルチコアシェル粒子の存在割合となるように混合し、トルエン分散液を得た。
【0068】
<比較例2>
InPからなる半導体コアとZnSからなる半導体シェルとを有する市販のコアシェル粒子(NN−Labs社製)のトルエン分散液を用いた。
このトルエン分散液を上述したSTEM−EDS分析で調べたところ、マルチコアシェル粒子の存在割合は0%であることが確認できた。
【0069】
<光安定性>
実施例1〜4および比較例1〜2で調製ないし使用した分散液について、吸光度が約0.2となるようにトルエンで希釈したものを、大気中でバイアル瓶に封入し、測定サンプルとした。
また、365nmの波長の紫外線をおよそ1mW/cm
2の強度で、測定サンプルに24時間照射した。
蛍光分光光度計FluoroMax−3(堀場ジョバンイボン社製)を用いて、紫外線の照射前と照射後のサンプルについて発光強度測定を行い、下記式から発光強度の低下率を算出した。その結果を、各分散液におけるマルチコアシェルの存在割合とともに下記表1に示す。
低下率=(紫外線照射後の発光強度/紫外線照射前の発光強度)×100
【0070】
【表1】
【0071】
表1に示す結果から、複数の半導体コアを包含する半導体シェルAを有するコアシェル粒子(マルチコアシェル粒子)が存在しない分散液は、発光強度の低下率が大きくなり、光安定性に劣ることが分かった(比較例1および2)。
これに対し、マルチコアシェル粒子が存在する分散液は、発光効率の低下を抑制することができ、光安定性に優れていることが分かった(実施例1〜4)。