特許第6514550号(P6514550)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6514550冷凍した「ぽろたん」果実の熱水を用いた剥皮法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6514550
(24)【登録日】2019年4月19日
(45)【発行日】2019年5月15日
(54)【発明の名称】冷凍した「ぽろたん」果実の熱水を用いた剥皮法
(51)【国際特許分類】
   A23N 5/08 20060101AFI20190425BHJP
【FI】
   A23N5/08 A
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-76963(P2015-76963)
(22)【出願日】2015年4月3日
(65)【公開番号】特開2016-195568(P2016-195568A)
(43)【公開日】2016年11月24日
【審査請求日】2017年12月28日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 〔刊行物による公開〕(1)農林水産省 食料生産地域再生のための先端技術展開事業「被災地の早期復興に資する果樹生産・利用技術の実証研究」平成26年度成果伝達会資料(平成26年10月9日)農林水産省 食料生産地域再生のための先端技術展開事業 地域再生(果樹生産)コンソーシアム発行 第9−12頁 (2)農産物流通技術研究会「第5回研究発表会」発表要旨(平成26年11月25日)農産物流通技術研究会発行 第6頁(2014−06) 〔集会での発表による公開〕(1)宮城県農業・園芸総合研究所で平成26年10月9日に開催された農林水産省 食料生産地域再生のための先端技術展開事業「被災地の早期復興に資する果樹生産・利用技術の実証研究」平成26年度成果伝達会で発表 (2)南青山会館(3・4号会議室)で平成26年11月25日に開催された農産物流通技術研究会「第5回研究発表会」で発表
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度、農林水産省、食料生産地域再生のための先端技術展開事業のうち「被災地の早期復興に資する果樹生産・利用技術の実証研究」委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願。
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100118773
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 節
(74)【代理人】
【識別番号】100169579
【弁理士】
【氏名又は名称】村林 望
(72)【発明者】
【氏名】生駒 吉識
【審査官】 西尾 元宏
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−147365(JP,A)
【文献】 特開2002−238526(JP,A)
【文献】 吉浦 貴紀,外3名,渋皮が剥けやすいニホングリ「ぽろたん」の生産・利用技術の確立,茨城県工業技術センター研究報告,日本,茨城県工業技術センター,2011年 7月,第39号
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23N 5/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷凍したニホングリ品種ぽろたん(品種登録第15658号)又はその系統品種の完熟果実を沸騰水処理に1〜2分間、供する第1工程と、
第1工程後の果実を傷入れ処理に供する第2工程と、
第2工程後の果実を沸騰水処理に供する第3工程と、
第3工程後の果実を剥皮処理に供する第4工程と、
を含み、剥皮処理において果実から鬼皮と渋皮を同時に剥皮する、クリの剥皮方法。
【請求項2】
第3工程における沸騰水処理時間が2〜3分間である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
冷凍したニホングリ品種ぽろたん(品種登録第15658号)又はその系統品種の完熟果実を沸騰水処理に1〜2分間、供する第1工程と、
第1工程後の果実を傷入れ処理に供する第2工程と、
第2工程後の果実を沸騰水処理に供する第3工程と、
第3工程後の果実を剥皮処理に供する第4工程と、
を含み、剥皮処理において果実から鬼皮と渋皮を同時に剥皮する、クリ果肉の製造方法。
【請求項4】
第3工程における沸騰水処理時間が2〜3分間である、請求項3記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば冷凍したニホングリ品種ぽろたん又はその系統品種の渋皮剥皮方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ニホングリは、チュウゴクグリのように渋皮を容易に剥皮できないが、その欠点を克服した渋皮剥皮性に優れるニホングリ新品種「ぽろたん」が育成された。
【0003】
当該品種ぽろたんには、家庭や加工産業において種々の需要が期待できるが、収穫期が9月に集中するため、長期間・安定的に利用するためには、長期貯蔵技術を開発する必要がある(通常の冷蔵では数か月が貯蔵期間の限界)。そこで、当該品種の果実を冷凍保存(1年間程度保存することが目標)する条件を検討したところ、生果実用に開発された渋皮剥皮法では、冷凍果実の渋皮剥皮に時間がかかり容易に剥皮できず、さらに、剥皮の際に身が割れる等の問題が生じることが明らかとなった。
【0004】
このため、これまで知見の無かった冷凍「ぽろたん」果実に適する渋皮剥皮法を開発することが望まれ、この技術は、家庭や加工産業等の実需者において、1年中「ぽろたん」を利用したいというニーズに応えるものである。
【0005】
ところで、従来において、クリの渋皮剥皮方法としては、以下の方法が知られている。
【0006】
特許文献1は、生栗を50〜80℃の温水処理に供することで渋皮の表面温度を50〜80℃に昇温し、次いで50〜80℃の高圧水のジェット噴射によって渋皮を剥皮する方法を開示する。
【0007】
特許文献2は、栗の鬼皮に、渋皮に達する深さの多数の傷をつけて、次いで高圧水のジェット噴射により鬼皮と渋皮を同時に剥離することを含む栗の剥皮方法を開示する。
【0008】
特許文献3は、ぽろたんをマイクロ波照射処理又は加熱処理に供することを含む、クリの渋皮剥皮方法を開示する。
【0009】
特許文献4は、ぽろたんの完熟果実に傷を付ける前又は傷を付けた後に、渋皮が果肉ではなく鬼皮の方に接着するように、当該完熟果実を凍結処理に供することを含む、鬼皮と渋皮を同時に剥皮する、クリの渋皮剥皮方法を開示する。
【0010】
非特許文献1は、ぽろたんの剥皮における熱湯によるブランチング(加熱処理)方法を開示する。
【0011】
しかしながら、これらの従来の方法は、生栗を対象にした剥皮方法であり、冷凍果実を想定した剥皮方法ではなかった。また、これらの方法を冷凍果実に適用すると、過剰な解凍が主因となって、剥皮時に実割れや果肉表面色の劣化が著しくなり、剥皮果実の品質が低下するといった問題が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2001-238654号公報
【特許文献2】特開平10-201458号公報
【特許文献3】特許第4925038号公報
【特許文献4】特許第5429874号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】茨城県工業技術センター研究報告第39号(平成22年度)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上述した実情に鑑み、冷凍したニホングリ品種ぽろたん又はその系統品種の果実の渋皮を、果実の品質を変化させることなく、簡便に、且つ短時間で剥皮することを可能とする方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、冷凍したニホングリ品種ぽろたん又はその系統品種の完熟果実を、傷入れ前後、2回に分けて沸騰水に浸漬する沸騰水処理に供することで、果実の品質を変化させることなく、鬼皮と渋皮を同時に剥皮できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
本発明は以下を包含する。
(1)冷凍したニホングリ品種ぽろたん又はその系統品種の完熟果実を沸騰水処理に供する第1工程と、第1工程後の果実を傷入れ処理に供する第2工程と、第2工程後の果実を沸騰水処理に供する第3工程と、第3工程後の果実を剥皮処理に供する第4工程とを含み、剥皮処理において果実から鬼皮と渋皮を同時に剥皮する、クリの剥皮方法。
(2)第1工程における沸騰水処理時間が1〜2分間である、(1)記載の方法。
(3)第3工程における沸騰水処理時間が2〜3分間である、(1)又は(2)記載の方法。
(4)冷凍したニホングリ品種ぽろたん又はその系統品種の完熟果実を沸騰水処理に供する第1工程と、第1工程後の果実を傷入れ処理に供する第2工程と、第2工程後の果実を沸騰水処理に供する第3工程と、第3工程後の果実を剥皮処理に供する第4工程とを含み、剥皮処理において果実から鬼皮と渋皮を同時に剥皮する、クリ果肉の製造方法。
(5)第1工程における沸騰水処理時間が1〜2分間である、(4)記載の方法。
(6)第3工程における沸騰水処理時間が2〜3分間である、(4)又は(5)記載の方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、クリの加工分野において、冷凍した良渋皮剥皮系ニホングリ品種ぽろたん又はその系統品種の果実の渋皮を、果実の品質を変化させることなく、簡便に且つ短時間で剥皮できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】ぽろたんの系統図である。
図2】果実の傷入れ部位を示す図である。
図3】実施例1と比較例1における鬼皮と渋皮の剥皮後の果実の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0020】
本発明に係るクリの剥皮方法(以下、「本方法」という)は、
冷凍したニホングリ品種ぽろたん又はその系統品種の完熟果実を沸騰水処理に供する第1工程と、
第1工程後の果実を傷入れ処理に供する第2工程と、
第2工程後の果実を沸騰水処理に供する第3工程と、
第3工程後の果実を剥皮処理に供する第4工程と、
を含む方法である。本方法によれば、剥皮処理において果実から鬼皮と渋皮を同時に剥皮することができる。
【0021】
本方法では、第1工程の沸騰水処理により、果実表面だけが解凍されて、容易に刃物による傷入れが可能となる。第3工程の沸騰水処理では、それよりも解凍が果実内部まで進むが、果実の中心部付近では、凍結されたままであるため、第4工程の剥皮時に果実に力が加わっても、中心部付近の果肉が硬く維持され、実割れが起こりにくい。特に、本方法では、第1工程の沸騰水処理によって冷凍果実の過剰な解凍を避けるよう調節でき、第4工程における剥皮時の実割れや果肉表面の褐変を軽減でき、果肉の品質劣化を避けることができる。
【0022】
また、本方法は、冷凍したニホングリ品種ぽろたん又はその系統品種の完熟果実からクリ果肉を製造(加工)できることから、本方法は、クリ果肉の製造(加工)方法ということもできる。
【0023】
ここで、ニホングリ品種ぽろたんは、種苗法によって、2007年10月22日に登録番号:第15658号として品種登録されている。その特性は、以下の通りである。(1)渋皮剥皮性がよい、(2)大果である、(3)粉質で食味が優れる、(4)早生である、(5)裂果が少ない、(6)場所により虫害果率が高い。図1は、ぽろたんの系統図を示す。図1に示すように、ぽろたんは、早生の大果系統である550-40と早生の主要品種である丹沢との交雑品種である。なお、ぽろたんは、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 果樹研究所より提供される。
【0024】
また、ぽろたんの系統品種としては、例えば、図1に示す品種とぽろたんとの交雑品種が挙げられる。
【0025】
さらに、ここで、完熟果実とは、毬が開裂した状態で収穫される果実を意味する。一般に、完熟果実の鬼皮と座は茶色に着色する。
【0026】
本方法では、果実の中心部まで完全に凍結した冷凍のぽろたん又はその系統品種の完熟果実を準備する。例えば、果実の中心部まで完全に凍結するように、当該完熟果実をフリーザー内で-80〜-10℃(好ましくは-30〜-20℃)下で1日以上貯蔵する。当該貯蔵から冷凍したぽろたん又はその系統品種の完熟果実をそのまま本方法に供する。
【0027】
本方法では、先ず、第1工程として、冷凍したぽろたん又はその系統品種の完熟果実を沸騰水(例えば90〜100℃(好ましくは95〜100℃)の熱水)に浸漬する沸騰水処理に供する。沸騰水処理時間(沸騰水浸漬時間)としては、果実表面だけが解凍されるように、例えば1〜2分間、好ましくは1〜1.2分間が挙げられる。
【0028】
次いで、第1工程の沸騰水処理後、第2工程として果実を傷入れ処理に供する。傷の付け方としては、例えば、図2に示すように、傷入れ部位を、果実の頂部から座の中心を通り一周する最長となる線上で(すなわち、クリの輪郭を規定する側面に沿って)、座(果実底面)側下方半分程度とし、ナイフ等の刃物で鬼皮及び渋皮を通して果肉に達する程度まで傷(切り口)を付ける方法が挙げられる。なお、ここで、クリの輪郭とは、尖鋭な頂部と、扁平な座部と、左右に略均等に膨らんだ側部とを備えた形状のことである。
【0029】
さらに、第2工程の傷入れ処理後、第1工程の沸騰水処理に準じて、第3工程として果実を再度沸騰水処理に供する。第3工程における沸騰水処理時間(沸騰水浸漬時間)としては、解凍が果実内部まで進むが、果実の中心部付近では凍結されたままであるように、例えば2〜3分間、好ましくは2〜2.2分間が挙げられる。
【0030】
第3工程の沸騰水処理後、第4工程として、果実を剥皮処理に供し、果実から鬼皮と渋皮を同時に剥皮する。例えば、道具等を用いずに徒手(素手)で果実から鬼皮と渋皮を同時に剥皮する。剥皮後の果肉表面は非常に綺麗であり、果肉の歩留まりも高い。
【実施例】
【0031】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0032】
〔実施例1〕冷凍した「ぽろたん」果実の熱水による剥皮
-28℃下で6ヶ月間冷凍した「ぽろたん」完熟果実を沸騰水に浸漬し、1分間の沸騰水処理に供した。当該1分間の沸騰水処理後、果肉に達するように(およそ3mm)、鬼皮の表面から刃物で傷入れを行い、再度2分間の沸騰水処理に供した。傷入れ部位は、果実の頂部から座の中心を通り、一周する最長となる線上で(すなわち、クリの輪郭を規定する側面に沿って)、座(果実底面)側下方半分程度であった。当該2分間の沸騰水処理後、道具等を用いずに徒手で果実から鬼皮と渋皮を同時に剥皮した。
【0033】
〔比較例1〕冷凍した「ぽろたん」果実のオーブン加熱による剥皮
特許文献3又は非特許文献1に記載の生果実用に開発されたオーブン加熱による方法を冷凍果実に適用する場合には、-28℃下で6ヶ月間冷凍した「ぽろたん」完熟果実を室温放置等により解凍後、果肉に達するように(およそ3mm)、鬼皮の表面から刃物で傷入れを行い、オーブンで加熱(約180℃で15分程度)に供した。傷入れ部位は、果実の頂部から座の中心を通り、一周する最長となる線上で(すなわち、クリの輪郭を規定する側面に沿って)、座(果実底面)側下方半分程度であった。当該加熱後、道具等を用いずに徒手で果実から鬼皮と渋皮を同時に剥皮した。
【0034】
実施例1と比較例1における鬼皮と渋皮の剥皮結果を図3に示す。図3において、(A)の写真が比較例1における鬼皮と渋皮の剥皮結果であり、(B)の写真が実施例1における鬼皮と渋皮の剥皮結果である。
【0035】
実施例1に記載の方法では、1回目の沸騰水処理により、果実表面だけが解凍されて、容易に刃物による傷入れが可能であった。2回目の沸騰水処理では、それよりも解凍が果実内部まで進むが、果実の中心部付近では、凍結されたままであるため、剥皮時に果実に力が加わっても、中心部付近の果肉が硬く維持され、実割れが起こりにくかった。
【0036】
このように、実施例1に記載の方法によれば、傷入れ前の1分間の沸騰水処理によって冷凍果実の過剰な解凍を避けるよう調節でき、剥皮時の実割れや果肉表面の褐変を軽減でき、果肉の品質劣化を避けることができた。
【0037】
一方、比較例1に記載の方法では、冷凍果実の解凍程度を制御することが難しく(解凍時間・室温で変化)、過剰に解凍してしまうことが多くなり、過剰解凍に起因する剥皮時の実割れや果肉表面色の劣化が著しかった。
【0038】
また、非特許文献1に記載の生果実用に開発された温湯による方法を適用する場合にも、室温放置等で解凍後、刃物で傷入れするプロセスがあり、オーブン加熱の場合と同様に、過剰解凍に起因する剥皮時の実割れや果肉表面色の劣化が著しくなる。
図1
図2
図3