特許第6514664号(P6514664)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6514664-スパッタリングターゲット材 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6514664
(24)【登録日】2019年4月19日
(45)【発行日】2019年5月15日
(54)【発明の名称】スパッタリングターゲット材
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/34 20060101AFI20190425BHJP
   C22C 19/03 20060101ALI20190425BHJP
   G11B 5/851 20060101ALI20190425BHJP
   G11B 5/738 20060101ALI20190425BHJP
   B22F 1/00 20060101ALN20190425BHJP
【FI】
   C23C14/34 A
   C22C19/03 E
   G11B5/851
   G11B5/738
   !B22F1/00 M
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-103902(P2016-103902)
(22)【出願日】2016年5月25日
(65)【公開番号】特開2017-210647(P2017-210647A)
(43)【公開日】2017年11月30日
【審査請求日】2018年12月27日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000180070
【氏名又は名称】山陽特殊製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100074790
【弁理士】
【氏名又は名称】椎名 彊
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 浩之
(72)【発明者】
【氏名】新村 夢樹
【審査官】 神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−127111(JP,A)
【文献】 米国特許第7828913(US,B1)
【文献】 特開2000−206314(JP,A)
【文献】 特許第4499044(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/34
C22C 19/03
G11B 5/738
G11B 5/851
B22F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
at.%で、Taを35〜50%含有し残部がNi及び不可避的不純物からなるスパッタリングターゲット材であって、Ni2 Ta化合物相及びNiTa化合物相のみからなり、該Ni2 Ta化合物相とNiTa化合物相のミクロ組織の最大内接円径が10μm以下であることを特徴としたスパッタリングターゲット材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、垂直磁気記録媒体における軟磁性薄膜層用スパッタリングターゲット材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、磁気記録技術の進歩は著しく、ドライブの大容量化のために、磁気記録媒体の高記録密度化が進められており、従来普及していた面内磁気記録媒体より更に高記録密度が実現できる、垂直磁気記録方式が実用化されている。垂直磁気記録方式とは、垂直磁気記録媒体の磁性膜中の媒体面に対して磁化容易軸が垂直方向に配向するように形成したものであり、高記録密度に適した方法である。
【0003】
例えば、特許第4499044号公報(特許文献1)に記載されているように、ガラス基板やAl基板等の基板上に密着層、軟磁性層、シード層、中間層、磁気記録層及び保護層は順次積層され、軟磁性層はCo合金を有し、シード層は軟磁性層側の第一シード層と中間層側の第二シード層を有し、第一シード層はCrにTa、Ti、Nb、Si、Alから選ばれた1種以上の元素を含む非晶質合金、第二シード層は、NiにCr、Ta、Ti、Nb、V、W、Mo、Cuから選ばれた1種以上の元素を含む結晶質合金からなる垂直磁気記録媒体から構成されている。
【0004】
また、上記密着層の形成に使用されるターゲットとして、特開2013−127111号公報(特許文献2)に示すようなNi−Taスパッタリングターゲット材が使用されている。この特許文献2のスパッタリングターゲット材はスパッタリングターゲット材中にNiTa化合物相と純Ta相を含有させることでスパッタリングターゲット材の強度を向上し、ターゲット時の割れやパーティクル発生を低減している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4499044号公報
【特許文献2】特開2013−127111号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した特許文献2のスパッタリングターゲット材は純Ta相を含有させることでスパッタリングターゲット材の強度を向上し、スパッタ時の割れやパーティクル発生を低減するもので、純Ta粉末を活用することでスパッタリングターゲット材の強度を高めている。しかし、スパッタリングターゲット材中に純Ta相が存在することにより、スパッタリングターゲット材のミクロ組織内で大きな組成の変化が生じ、その組成変化を反映し、スパッタ膜が組成ムラを起こす課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述のような課題を解決するために、発明者らは鋭意開発を進めた結果、純Taを用いずともスパッタリングターゲット材の強度を高め、スパッタ時の割れやパーティクルを防ぎ、スパッタ膜の組成ムラを防ぐことの出来るスパッタリングターゲット材を見出した。すなわち、従来は純Ta粉末を活用することでスパッタリングターゲット材の強度を高めているのに対し、本発明は純Ta粉末を活用せず、スパッタリングターゲット材のミクロ組織を調整することで強度を向上させることにある。
【0008】
その発明の要旨とするところは
at.%で、Taを35〜50%含有し残部がNi及び不可避的不純物からなるスパッタリングターゲット材であって、Ni2 Ta化合物相及びNiTa化合物相のみからなり、該Ni2 Ta化合物相とNiTa化合物相のミクロ組織の最大内接円径が10μm以下であることを特徴としたスパッタリングターゲット材にある。
【発明の効果】
【0009】
以上述べたように、本発明は、Niを主体にTaを35〜50%の範囲に限定したスパッタリングターゲット材のミクロ組織でNi2 Ta化合物とNiTa化合物相を微細に分散させることで、スパッタ時に割れやパーティクルを発生させず、スパッタ膜の組成ムラを起こさせない強度のあるNi−Taスパッタリングターゲット材を提供することにある。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明に係るミクロ組織を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した結果を示す図である。この図に示すように、符号1は、Ni2 Ta化合物相(灰色部)であり、符号2は、NiTa化合物相(白色部)の2相によってミクロ組織が構成されていることが分かる。このNi2 Ta化合物相とNiTa化合物相のミクロ組織の最大内接円径が10μm以下と微細な相を形成することに特徴がある。このような相を有するミクロ組織とすることで、スパッタリングターゲット材の強度を向上し、スパッタ時のパーティクルを抑え、スパッタリングターゲット材中の組成ムラに起因するスパッタ膜の組成ムラを防ぐことができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に関わる限定理由を説明する。
at.%で、Taを35〜50%含有し残部がNi及び不可避的不純物からなる。しかし、Taが35%未満ないし50%の範囲を超えるとNi2 TaとNiTaの化合物のうち、どちらか一方しか形成しない。すなわち、平衡状態図から100%Ni〜Ni−35Ta未満の間で形成される相は、Ni、Ni8 Ta、Ni3 Ta、Ni2 Taであり、また、Ni−50Ta超から100%Taの間で成形される相はNiTa、NiTa2 、Taであり、Ni−35Ta%からNi−50Ta%の間のみNi2 TaとNiTaが共存できる。
【0012】
上記Taを35〜50%、残部がNiなる範囲に限定した成分組成でアトマイズ粉末を使用することから、その形成される相はNi2 Ta化合物相及びNiTa化合物相のみとなる。すなわち、Ni2 Ta化合物相及びNiTa化合物相の両相が共存することであって、2相以外の相は出ない。このような相を有するミクロ組織とすることで、スパッタリングターゲット材の強度を向上し、スパッタ時のパーティクルを抑え、スパッタリングターゲット材中の組成ムラに起因するスパッタ膜の組成ムラを防ぐことができる。
【0013】
しかも、成形温度を1000〜1200℃、成形圧力を100〜150MPaとすることで、微細な組織を達成させる。しかし、成形温度1000℃未満、成形圧力100MPa未満では、目的とする微細な組織を十分達成することができない。また、逆に成形温度が1200℃を超え、かつ成形圧力が150MPaを超えると上記同様に微細な組織である、Ni2 Ta化合物相とNiTa化合物相のミクロ組織の内接円径が10μm以下を達成することが出来ない。したがって、成形温度を1000〜1200℃、成形圧力を100〜150MPaとした。
【0014】
上記により、純Taを用いず、構成相をNi2 Ta化合物相及びNiTa化合物相の両相が共存することに限定し、かつ、Ni2 Ta化合物相とNiTa化合物相のミクロ組織の内接円径が10μm以下なる微細な組織にすることによりスパッタリングターゲット材の強度を高めると共にスパッタ時の割れやパーティクルを防ぎ、スパッタ膜の組成ムラを防ぐことができるスパッタリングターゲット材を提供可能としたものである。
【0015】
また、本発明の急冷凝固処理方法としては、不純物の混入が少なく、充填率が高く焼結に適した球状粉末が得られるガスアトマイズ法が好ましい。粉末の加圧焼結方法としては、ホットプレス、熱間静水圧プレス、通電加圧焼結、熱間押し出しなどの方法を適用することができる。中でも熱間静水圧プレスは加圧圧力が高く、最高温度を低く抑えて金属間化合物相の粗大化を抑制しても、緻密な焼結体が得られるため、特に好ましい。
【0016】
なお、本発明のターゲット材は、ミクロ組織の制御が可能であれば、溶解鋳造法、粉末焼結法のいずれも適用可能である。なお、ミクロ組織において、Ni2 Ta化合物相とNiTa化合物相のミクロ組織の最大内接円径を10μm以下に制御するためには、溶解鋳造法を適用する場合、例えば、合金溶湯を水冷等により冷却した鋳型に鋳造して一般的な鋳造に比べて凝固速度を速めることが望ましい。
【実施例】
【0017】
以下、本発明について実施例によって具体的に説明する。
表1に示す各成分組成を、ガスアトマイズ法によりNi−Ta合金粉末を作製した。得られた粉末を500μm以下に分級し、HIP成形(熱間当方圧プレス)の原料粉末として用いた。HIP成形用ビレットは、直径250mm、長さ50mmの炭素鋼製缶に原料粉末を充填したのち、真空脱気、封入し作製した。この粉末充填ビレットを表1に示す成形圧力、成形温度、保持時間の条件でHIP成形した。その後、成形体から直径180mm、厚さ7mmのスパッタリングターゲット材を作製した。
【0018】
評価方法としては、スパッタリングターゲット材のミクロはスパッタリングターゲット端材から走査型電子顕微鏡(SEM)用試験片を採取し、試験片断面を研磨し、反射電子像を撮影し、化合物中に描ける最大内接円を評価した。また、電子線マイクロアナライザ(Electron Probe Micro Analyzer)にて長さ1mmの線分析を5箇所で実施し、Niの原子量の最大値と最小値の差を評価した。Niの原子量の最大値と最小値が20at%以下であれば良好な均質性を有するスパッタリングターゲット材としOKとした。20at%以上の差がある場合にNGとした
【0019】
パーティクル評価方法は、直径95mm、板厚1.75mmのアルミ基板上にDCマグネトロンスパッタにてArガス圧力0.9Paで成膜し、Optical Surface Analyzerにてパーティクル数を評価した。
【0020】
スパッタ膜の組成のムラは、スパッタした基板を電子線マイクロアナライザ(Electron Probe Micro Analyzer)にて長さ1mmの線分析を5箇所で実施しNiの原子量の最大値と最小値の差を評価した。Niの原子量の最大値と最小値が20at%以下であれば良好な均質性の膜で、OKとした。Niの原子量の最大値と最小値が20at%以上であれば不均質な膜であるのでNGとした。
【0021】
スパッタリングターゲット材の強度は横4mm、縦3mm、長さ25mmのTPをワイヤーで割り出したものを、三点曲げ試験によって評価した。三点曲げ試験の条件は、支点間距離20mmで実施し、縦方向に圧下しその時の応力(N)を測定し、次の式に基づき、三点曲げ強度とした。
三点曲げ強度(MPa)=(3×応力(N)×支点間距離(mm))/(2×試験片の幅(mm)×(試験片厚さ(mm)2
【0022】
【表1】
表1に示すように、No.1〜12は本発明例であり、No.13〜18は比較例である。
【0023】
比較例No.13は、Taの成分組成が高く、かつ一様にNiTa化合物相となっている。すなわち、Ni2 Taが存在せず、全面がNiTa化合物相であるため抗折応力が極めて低くなっている。抗折応力が低いためパーティクルが多数発生している。比較例No.14は、Ni2 Ta化合物相のミクロ組織の最大内接円径が16μmと粗大化しており、抗折応力が低くなっている。そのため、パーティクルが多数発生している。比較例No.15は、Taの成分組成が低く、一様にNi2 Ta化合物相となっている。すなわち、NiTa化合物相が存在せず、全面がNi2 Ta化合物相であるため抗折応力が低くなっている。そのため、パーティクルが多数発生している。
【0024】
比較例No.16は、純Ta粉末を41.33とNi37.5Taアトマイズ粉末を33.1と純Niアトマイズ粉末を25.57の混合比でV型混合器で30分混合したのち、直径250mm、長さ50mmの炭素鋼製缶に充填し、真空脱気、封入し作製した。この粉末充填ビレットを表1に示す成形圧力、成形温度、保持時間の条件でHIP成形した。その後、成形体から直径180mm、厚さ7mmのスパッタリングターゲット材を作製した。そのターゲット材は、Ni2 Ta化合物相、NiTa化合物相のミクロ組織の最大内接円径が15と粗大化しており、また、Ni2 Ta化合物相とNiTa化合物相以外にTa相、Ni3 Ta相、Ni相が存在し抗折応力が低くなっている。そのため、パーティクルが多数発生している。
【0025】
比較例No.17は、No.16と同様に、純Ta粉末を11.09とNi37.5Taアトマイズ粉末を88.91の混合比でV型混合器で30分混合したのち、直径250mm、長さ50mmの炭素鋼製缶に充填し、真空脱気、封入し作製した。この粉末充填ビレットを表1に示す成形圧力、成形温度、保持時間の条件でHIP成形した。その後、成形体から直径180mm、厚さ7mmのスパッタリングターゲット材を作製した。そのターゲット材は、NiTa化合物相のミクロ組織の最大内接円径が13μmと大きく、また、Ni2 Ta化合物相とNiTa化合物相以外にTa相が存在し抗折応力は比較例16より改善しているが、低くそのためパーティクルを発生している。また、純Taを含有し、スパッタリングターゲット材として、組成が不均一で、また、スパッタした膜も組成が不均一となっている。
【0026】
比較例No.18は、比較例No.16と同様に、純Ta粉末を64.91と純Niアトマイズ粉末を35.09の混合比でV型混合器で30分混合したのち、直径250mm、長さ50mmの炭素鋼製缶に充填し、真空脱気、封入し作製した。この粉末充填ビレットを表1に示す成形圧力、成形温度、保持時間の条件でHIP成形した。その後、成形体から直径180mm、厚さ7mmのスパッタリングターゲット材を作製した。そのターゲット材は、Ni2 Ta化合物相のミクロ組織の最大内接円径が13μmと大きく、また、Ni2 Ta化合物相とNiTa化合物相以外にTa相、Ni3 Ta相、Ni相が存在し抗折応力は比較例16より改善しているが、低くそのためパーティクルを発生している。また、純Taや、Ni3 Ta相を含有し、スパッタリングターゲット材として、組成が不均一で、また、スパッタした膜も組成が不均一となっている。
【符号の説明】
【0027】
1:Ni2 Ta化合物
2:NiTa化合物


特許出願人 山陽特殊製鋼株式会社
代理人 弁理士 椎 名 彊
図1