特許第6515548号(P6515548)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6515548クロマトグラフ用データ処理システムおよびクロマトグラムの検索方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6515548
(24)【登録日】2019年4月26日
(45)【発行日】2019年5月22日
(54)【発明の名称】クロマトグラフ用データ処理システムおよびクロマトグラムの検索方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 30/86 20060101AFI20190513BHJP
   G01N 30/88 20060101ALI20190513BHJP
【FI】
   G01N30/86 G
   G01N30/86 M
   G01N30/88 Q
   G01N30/86 B
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-10463(P2015-10463)
(22)【出願日】2015年1月22日
(65)【公開番号】特開2016-133486(P2016-133486A)
(43)【公開日】2016年7月25日
【審査請求日】2017年12月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】福谷 俊二
(72)【発明者】
【氏名】秋山 聖
【審査官】 高田 亜希
(56)【参考文献】
【文献】 特開平02−091565(JP,A)
【文献】 特開平01−191055(JP,A)
【文献】 特開2014−062774(JP,A)
【文献】 特開平10−197509(JP,A)
【文献】 特開平09−251016(JP,A)
【文献】 特表2007−538261(JP,A)
【文献】 特開2005−077144(JP,A)
【文献】 特開平03−262965(JP,A)
【文献】 特開平05−093719(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0272292(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/00−30/93
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロマトグラフ用のデータ処理システムであって、
・クロマトグラフによって測定されたクロマトグラフデータを取得して記憶するクロマトグラフデータ記憶手段と、
・前記クロマトグラフデータ記憶手段からクロマトグラフデータを選択し、クロマトグラムとして画面表示するクロマトグラム表示手段と、
・画面表示された前記クロマトグラムに対して1以上のピークトップ以外の保持時間を指定するポインティング手段と、
・前記ポインティング手段によって指定された1以上のピークトップ以外の保持時間をインデックスデータとしてクロマトグラムごとに記憶するインデックスデータ記憶手段と、
・前記ポインティング手段によって指定された1以上のピークトップ以外の保持時間を検索キーとして、前記インデックスデータ記憶手段の中から前記検索キーに関連付けられたクロマトグラムを検索して検索結果を画面表示する検索表示手段と、
を備えた前記データ処理システム。
【請求項2】
請求項1に記載のデータ処理システムにおいて、
・ポインティング手段が、ピークトップ以外の保持時間のそれぞれに対応する波形の特徴を入力可能なものであり、
・インデックスデータ記憶手段が、入力された前記波形の特徴もインデックスデータとしてクロマトグラムごとに記憶するものであり、
・検索表示手段が、入力された前記波形の特徴も検索キーとして検索して検索結果を画面表示するものである、
前記データ処理システム。
【請求項3】
参照クロマトグラムの中から、分析試料を測定して得た試料クロマトグラムに関連するクロマトグラムを検索する方法であって、
(1)参照クロマトグラムのそれぞれに対して、検索に供するための1以上のピークトップ以外の保持時間がインデックスデータとして記録されており、
(2)試料クロマトグラムに対して検索に供するための1以上のピークトップ以外の保持時間を指定して検索キーとし、ステップ1で記録されているインデックスデータの全部または一部を検索対象として検索し、前記検索キーに関連付けられた参照クロマトグラムの検索結果を取得するステップと、を含み、
(3)さらに、ステップ2で取得した検索結果を絞り込む必要があれば、前記検索結果を新たな検索対象とし、同じ試料クロマトグラムに対し、異なる1以上のピークトップ以外の保持時間においてステップ2を実行する
ことを特徴とする前記方法。
【請求項4】
請求項3に記載の方法において、ステップ1でピークトップ以外の保持時間のそれぞれに対応する波形の特徴もインデックスデータとして記録されており、ステップ2でピークトップ以外の保持時間のそれぞれに対応する波形の特徴をも検索キーとする方法。
【請求項5】
参照クロマトグラムの中から、分析試料を測定して得た試料クロマトグラムに関連するクロマトグラムを検索する方法であって、
(1)参照クロマトグラムのそれぞれに対して、検索に供するための1以上のピークトップ以外の保持時間、および前記保持時間のそれぞれに対応する波形の特徴がインデックスデータとして記録されており、
(2)試料クロマトグラムに対して検索に供するための1以上のピークトップ以外の保持時間を指定して検索キーとし、ステップ1で記録されているインデックスデータの全部または一部を検索対象として検索し、前記検索キーに関連付けられた参照クロマトグラムの検索結果を取得するステップ、
または、試料クロマトグラムに対して検索に供するための1以上のピークトップ以外の保持時間、および前記保持時間のそれぞれに対応する波形の特徴を指定して検索キーとし、ステップ1で記録されているインデックスデータの全部または一部を検索対象として検索し、前記検索キーに関連付けられた参照クロマトグラムの検索結果を取得するステップ、
とを含み、
(3)さらに、ステップ2で取得した検索結果を絞り込む必要があれば、同じ試料クロマトグラムに対し、異なる1以上のピークトップ以外の保持時間においてステップ2を実行することを特徴とする前記方法。
【請求項6】
参照クロマトグラムがヘモグロビンの表現型を示すものである、請求項3から5のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロマトグラフ装置に接続可能で、クロマトグラムのデータ処理に使用することができるデータ処理システム、および参照クロマトグラムの中から関連するクロマトグラムを検索する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クロマトグラフィーは、化学成分をクロマトグラムにおけるピークの保持値(保持時間、保持体積、保持係数等)によって同定することが可能である。しかし、生体試料のように構造が似通った種々の表現型のタンパク質を含んでいたり、成分同士の相互作用もあり得るサンプルに対しては、サンプル中の各成分を1次元の指標に分離展開することは一般に困難である。そのため、医療診断のために使用する液体クロマトグラフィーにおいては、成分ピークへの分離が不完全ではあっても疾病または病態に特有の表現型を有する代謝産物に由来する独特のピーク形状をとらえて診断に供することが行われている。たとえばBio−Rad社のヘモグロビン分析計は、既知のヘモグロビン異常症に基づく種々の表現型ヘモグロビンのクロマトグラムを集めたライブラリーを利用可能としている(非特許文献1)。ユーザーはディスプレイ上に、取得したサンプルクロマトグラムと類似した形状の参照クロマトグラムをライブラリーから呼び出し目視により比較することができる。また、サンプルプログラムと標準クロマトグラムの形状の類似性を定量的に把握するために、同じ保持時間に対応する両者の波形信号の相関係数を求めるという発明(特許文献1)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−251016号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Philippe Joly他,Ann Biol Clin 2010;68(2)254−256.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
クロマトグラムのピーク形状から試料の組成情報を同定ないし推定しようとする場合、非特許文献1のような既知クロマトグラムのライブラリーを目視で参照するのは、たとえサンプルクロマトグラムと参照クロマトグラムを同一画面上に並べたり重ね描き表示できたとしても、似通った形状の参照クロマトグラムが多数ある場合は、操作者に過度の負担をかけることになる。
【0006】
また特許文献1のように、比較するクロマトグラム同士の相関係数を算出する場合は、特徴的なピークを含む保持時間の範囲を多くの参照クロマトグラムそれぞれに対してあらかじめ調べておく必要がある。さもないと、目視では特徴的なピーク同士が類似しているように見えても、相関係数をとってみると肩ピークやテーリング、アーティファクト等により相関性が低いという判定となったりすることがある。また、すべての参照クロマトグラムに対して毎回相関係数を計算するのは時間的にもメモリ資源的にも好ましくない。
【0007】
操作者に煩雑な目視比較を要求したり、逆にユーザーの習熟度を無視した非効率的な自動化に走ることなく、測定したクロマトグラムを多数の参照クロマトグラムと効率的・合理的に比較検索するための新しいシステム・方法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明者らは個々の参照クロマトグラムから波形の特徴を代表し得る保持時間を抽出して検索用のインデックスとすることに着目し以下の発明を完成した。
【0009】
すなわち第1の本発明に係るデータ処理システムは、
クロマトグラフ用のデータ処理システムであって、
・クロマトグラフによって測定されたクロマトグラフデータを取得して記憶するクロマトグラフデータ記憶手段と、
・前記クロマトグラフデータ記憶手段からクロマトグラフデータを選択し、クロマトグラムとして画面表示するクロマトグラム表示手段と、
・画面表示された前記クロマトグラムに対して1以上の保持時間を指定するポインティング手段と、
・前記ポインティング手段によって指定された1以上の保持時間をインデックスデータとしてクロマトグラムごとに記憶するインデックスデータ記憶手段と、
・前記ポインティング手段によって指定された1以上の保持時間を検索キーとして、前記インデックスデータ記憶手段の中から前記検索キーに関連付けられたクロマトグラムを検索して検索結果を画面表示する検索表示手段と、
を備えたことを特徴とする。
【0010】
ここで保持時間という用語は、液体クロマトグラフィーで使われる溶離時間、溶出時間と言い換えることができ、さらに、当分野の学術用語である保持体積、保持容量、保持係数を含む保持値ないし保持パラメータと同じ意味で使われる。参照標準のそれに対する相対量で表された保持時間すなわち相対保持時間も本願でいう保持時間に含まれる。通常、保持時間はクロマトグラム上のピークの頂点における時間軸成分を意味するが、本発明においてはクロマトグラムを構成する任意の波形部位の時間軸成分を表すこととする。たとえば正常検体ならば本来あるべき時間軸上の位置にピークがないことが異常検体の波形の特徴であるようなとき、ピークのないその場所を保持時間のインデックスとしてインデックスデータ記憶手段に記憶させることができる。
【0011】
また、本発明において「検索する」とは分析対象の同定を必ずしも意味しない。例えば数100ある参照クロマトグラムのデータベースないしライブラリーの中から操作者にとって取り扱いやすい件数にまで対象を絞り込むことができれば事足りる。
【0012】
なお、保持時間を検索キーとするということは、試料クロマトグラム上で指定された保持時間(数値データ)と1つ又は複数の参照クロマトグラムのインデックスデータ(数値データ)の一致・不一致を判定することを意味する。そのためには比較する一方の数値データに許容幅をもたせ、他方の数値データがこの許容幅に収まるかどうかを判定すればよい。本発明では、検索キーとしての保持時間に許容幅をもたせるのが好都合である。
【0013】
このように保持時間を検索キーとするためには、クロマトグラフ装置の十分な再現性があることが好ましい。日常点検操作、試料採取、検量線作成の自動化はもとより、複数のクロマトグラフをネットワークでつないでバリデーション情報をシステム管理することも可能となった今日、十分な再現性を満足するのは決して困難なことではない。ただし、保持時間の厳密な再現性を達成できない状況もあり得るが、同じ装置内、または異なる装置間における保持時間の補正・整合方法に係る周知技術を使用することにより保持時間の実質的な再現性が確保されていれば、補正された保持時間を用いることも本発明において好ましい。
【0014】
本発明において、インデックスデータをインデックスデータ記憶手段に記憶させる操作者は、クロマトグラフ用のデータ処理システムを供給する製造業者あるいはその顧客サービス提供部門であってもよいし、クロマトグラフ分析を行うユーザーであってもよい。たとえば、製造業者が典型的なクロマトグラム(参照クロマトグラム)およびそのインデックスデータをプリインストールしたインデックスデータ記憶手段を備えたデータ処理システムを提供し、ユーザーが自ら測定した既知試料に係るクロマトグラム(参照クロマトグラム)およびインデックスデータを随時インデックスデータ記憶手段に追加記憶させるといった実施形態が一般的である。その際、参照クロマトグラムとしてプリインストールされたデータとユーザーが追加したデータをマージしてインデックスデータ記憶手段内に記憶させてもよいし、プリインストール分と追加分は区別して管理することもできる。
【0015】
本発明においてクロマトグラフデータ記憶手段は、クロマトグラフによって測定されたクロマトデータを取得/記憶するものであり、参照クロマトグラムや試料を測定して得た試料クロマトグラムを記憶するものである。
【0016】
本発明における検索表示手段は、検索キーに関連付けられたクロマトグラムを検索するが、特に検索キーに類似する参照クロマトグラムを検索するのが好ましい。そして検索結果として、検索ヒット件数、該当する参照クロマトグラムの識別名称のリスト等を画面に表示することができる。表示画面には、検索キー(保持時間)の設定位置を示す1以上のポインタカーソルと、検索キーを設定したクロマトグラムと、検索結果から選ばれた1以上のクロマトグラムとを重ね描き表示することが好ましい。このことにより操作者は、検索のため指定した波形部位(保持時間)が、検索の適否にどう結びついたかを即座に認識することができる。したがって、検索キーを指定する操作者は経験を積むにしたがって、より的確な検索キーの指定の仕方を学習することになる。このことは、インデックスデータを蓄積する製造業者やユーザーに対しても成り立つ。すなわち、インデックスデータが参照クロマトグラムの特徴を的確に代表するものでなければ、検索がうまくいかないわけであり、インデックスデータを見直して修正することにより検索キーによる関連性検索の改善を図ることができる。
さて、保持時間だけを検索キーとしてクロマトグラムの類似性を検索するのでは、時間がかかりすぎたり、絞り込みが進まないといった場合に備え、保持時間のそれぞれに対応する波形の特徴をインデックスデータ記憶手段に記録しておき、保持時間と併せて検索用のインデックスとすることが考えられる。すなわち、第2の本発明に係るデータ処理システムは、第1の本発明にかかるデータ処理システムにおいて、
・ポインティング手段が、保持時間のそれぞれに対応する波形の特徴を入力可能なものであり、
・インデックスデータ記憶手段が、入力された前記波形の特徴もインデックスデータとしてクロマトグラムごとに記憶するものであり、
・検索表示手段が、入力された前記波形の特徴も検索キーとして検索して検索結果を画面表示するものである。
【0017】
波形の特徴を入力する場合、入力の手間を軽減させ、また検索速度を速めるために、限られた数たとえば10件前後のあらかじめ登録された選択肢から選択入力できるようにポインティング手段およびインデックスデータ記憶手段を構成することが好ましい。
【0018】
また、第3の本発明に係る方法は、参照クロマトグラムの中から、分析試料を測定して得た試料クロマトグラムに関連するクロマトグラムを検索する方法であって、
(1)参照クロマトグラムのそれぞれに対して、検索に供するための1以上の保持時間がインデックスデータとして記録されており、
(2)試料クロマトグラムに対して検索に供するための1以上の保持時間を指定して検索キーとし、ステップ1で記録されているインデックスデータの全部または一部を検索対象として検索し、前記検索キーに関連付けられた参照クロマトグラムの検索結果を取得するステップと、を含み、
(3)さらに、ステップ2で取得した検索結果を絞り込む必要があれば、前記検索結果を新たな検索対象とし、同じ試料クロマトグラムに対し、異なる1以上の保持時間においてステップ2を実行する
ことを特徴とする。
【0019】
本発明において参照クロマトグラムとは、前述のようにプリインストールされた典型的なクロマトグラムであってもよく、また既知試料にかかるクロマトグラムを随時追加したものであってもよい。また参照クロマトグラムの中から試料クロマトグラムに「関連する」クロマトグラムを検索するとは、第1の本発明で記載したように「類似する」クロマトグラムを検索することが好ましい。
【0020】
上記ステップ3において、「検索結果を絞り込む必要があれば」とは、この方法を実施する操作者が、所与の状況において、絞り込む必要性を適宜判断するということを意味する。多くの参照クロマトグラムとの類似性比較によって、分析試料に関する定性的な情報を得るのに必要十分なヒット件数の検索結果を得ることができれば事足りる。操作者は、分析目的によりクロマトグラフィー上の判断に加えて他の分析手法、たとえば質量分析、分光学的手法、電気泳動、核酸分析等を利用して分析の確度を高めていくことができる。異常ヘモグロビンを含む生体試料の医療分析が目的であれば、本発明により推定された異常ヘモグロビンの型をDNA分析によって確定するという例があげられる。
【0021】
上記ステップ1において、参照クロマトグラムの保持時間だけが記録されていることも本発明の技術的範囲であるが、波形の特徴をも記録されていることが好ましい。第2の本発明に係るデータ処理システムに関して上述したように、保持時間だけを検索キーとしてクロマトグラムの関連性を検索するよりも、その保持時間における波形の特徴を併せて検索した方が、より早く正確な検索結果を得ることができると考えられるからである。すなわち、第4の本発明に係る方法は、第3の本発明の方法において、ステップ1で保持時間のそれぞれに対応する波形の特徴もインデックスデータとして記録されており、ステップ2で保持時間のそれぞれに対応する波形の特徴をも検索キーとする方法である。
【0022】
第3および第4の本発明は、使用する状況や操作者の習熟度に応じて使うことができる。たとえば参照クロマトグラムが初めから少ない場合には、保持時間の指定だけで満足する検索結果が得られるだろうが、参照すべきクロマトグラムの数が多ければ、波形の特徴を併せて検索した方が効率的な検索ができると考えられる。また、操作者の、分析手法・分析対象に関する習熟度・知識が初歩的段階にある場合は、試料クロマトグラムに対して波形の特徴を的確に指定することには困難や失敗が伴うことが予想される。これに対して、波形の特徴を瞬時に把握できるような習熟した操作者にとっては、初めから波形の特徴を併せて検索した方が効率的な検索ができる。また、初めから的を射た保持時間を複数指定することにより、一気に満足すべき検索結果を得ることも可能になる。
【0023】
第3および第4の本発明においては、検索結果を絞り込むためにステップ2を繰り返し実行することができる。第3の発明では少なくとも保持時間を指定して検索を繰り返し、第4の発明では少なくとも保持時間と波形の特徴を指定して検索を繰り返す。
【0024】
一方、検索操作の繰り返しごとに波形の特徴を指定して検索するかどうかを操作者の判断にゆだねる方法が考えられる。これが第5の本発明である。すなわち第5の本発明は、参照クロマトグラムの中から、分析試料を測定して得た試料クロマトグラムに関連するクロマトグラムを検索する方法であって、
(1)参照クロマトグラムのそれぞれに対して、検索に供するための1以上の保持時間、および前記保持時間のそれぞれに対応する波形の特徴がインデックスデータとして記録されており、
(2)試料クロマトグラムに対して検索に供するための1以上の保持時間を指定して検索キーとし、ステップ1で記録されているインデックスデータの全部または一部を検索対象として検索し、前記検索キーに関連付けられた参照クロマトグラムの検索結果を取得するステップ、
または、試料クロマトグラムに対して検索に供するための1以上の保持時間、および前記保持時間のそれぞれに対応する波形の特徴を指定して検索キーとし、ステップ1で記録されているインデックスデータの全部または一部を検索対象として検索し、前記検索キーに関連付けられた参照クロマトグラムの検索結果を取得するステップ、
とを含み、
(3)さらに、ステップ2で取得した検索結果を絞り込む必要があれば、同じ試料クロマトグラムに対し、異なる1以上の保持時間においてステップ2を実行する
ことを特徴とする前記方法である。
【0025】
第5の発明の利点は、必要に応じて保持時間に加えて波形の特徴を用いて検索するかの自由度を高めた点にある。すなわち、保持時間を指定するステップ2において、波形の特徴を合わせて指定するか否かは繰り返しのたびに任意に選択することができる。本願発明は検索対象(参照クロマトグラム)の数が増えるほど、必要な検索の繰り返し回数が増える。また、検索キーの指定を操作者の判断にゆだねているために、不適切な個所(保持時間)に検索キーを指定しまった場合、操作者の意に反して検索に時間を要することが予想される。したがって、たとえば第3の発明において保持時間だけを検索キーとする検索操作を実行している途中で、波形の特徴を追加することにより検索を速めたいという要望が起こり得る。また、第4の本発明において繰り返し検索を実行してる途中で、一気に絞り込み過ぎないように、波形の特徴を指定せずに保持時間だけで検索をしたいといった要望も起こり得る。第5の発明はこのような要望に応えることができる。
【0026】
なお、第1〜5の発明において、クロマトグラフを適用する試料には特に限定なく、例えば血液、血漿、血清等の体液や、水道水、下水や環境中の水等があげられる。また第3〜5の発明において、参照クロマトグラムはヘモグロビンの表現型を示すものが好ましい。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係るデータ処理システムは、クロマトグラムの類似性検索等の関連性検索のために、保持時間をインデックスとして利用する。保持時間は1個の数値データであり、複数指定するとしても例えば1クロマトグラム当たり高々数10件程度である。範囲指定するとしても下限・上限を指定すればよく、いずれにしても検索用インデックスとして非常に単純で取り扱いやすいデータである。したがって、コンピュータのメモリ資源の節約、計算速度の点においてきわめて有利である。また、保持時間を指定する方法は、画面上で波形の特徴をポインティング手段により指定するだけなので、簡単に実施することができる。
【0028】
本発明では、検索結果を画面表示する検索表示手段を設けているので、操作者は検索のため指定した波形部位(保持時間)が、検索の適否にどう結びついたかを画面上で即座に認識することができる。もし検索結果が意に反したものであれば、指定した検索キーを即座にまたは次回から修正することができる。インデックスデータ記憶手段についても検索結果から学習することにより修正または追加することができる。このように操作者の経験を最大限に生かすことができるのは、検索用インデックスとして保持時間を採用したからである。一つの保持時間により波形の特徴を表すのは無理な場合であっても、保持時間を複数組み合わせることにより有力な検索用インデックスを構成することができる。
【0029】
一方、保持時間だけを検索キーとしてクロマトグラムの類似性を検索するのではなく、保持時間のそれぞれに対応する波形の特徴をインデックスデータ記憶手段に記録しておき、保持時間と併せて検索用のインデックスとする場合は、少ない検索回数で満足すべき検索結果を得ることができる。
【0030】
参照クロマトグラムの中から、分析試料を測定して得た試料クロマトグラムに関連するクロマトグラムを検索する本発明に係る方法は、保持時間を検索キーとして検索を実施し、得られた検索結果に対して絞り検索を繰り返し可能とするものである。この発明によれば、初めに指定した検索キーにより検索した結果の件数が多すぎる場合でも、検索キーを追加して検索を絞り込むことができる。検索キーの最初の指定から絞り込みの過程において、検索キーの指定の仕方すなわち検索の経路は無数あるが、検索を繰り返すことにより、最終的に得られる検索結果は検索の巧拙によらずほぼ同じとなることが期待される。したがって、分析対象およびクロマトグラフィーの知識・経験に乏しい分析者に対しても、クロマトグラム上から直感的に選択した波形位置(保持時間)から出発した場合でも数回の検索操作により満足すべき検索結果を得ることが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明の基本構成を示すブロック図である。
図2】本発明の方法における登録操作のフローチャートを示す図である。
図3】本発明の方法における検索操作のフローチャートを示す図である。
図4】本発明において特徴の種類を入力する登録操作を示す画面を示す図である。
図5】本発明におけるライブラリーの登録状態を示す画面を示す図である。
図6】本発明における検索結果画面を示す図である。
【実施例】
【0032】
図1に本発明に係るデータ処理システムの基本的構成の例を示す。ここに示すデータ処理システム1は、コンピュータシステムを利用して構成することができるものであり、クロマトグラフ装置2からの測定データを受け入れる入出力機能および演算機能を備えた処理部10と、クロマトグラフデータ記憶手段11と、前記クロマトグラフデータ記憶手段11からクロマトグラフデータを選択し、クロマトグラムとして画面表示するクロマトグラム表示手段12と、画面表示された前記クロマトグラムに対して1以上の保持時間を指定するポインティング手段13と、前記ポインティング手段13によって指定された1以上の保持時間をインデックスデータとしてクロマトグラムごとに記憶するインデックスデータ記憶手段14と、前記ポインティング手段13によって指定された1以上の保持時間を検索キーとして、前記インデックスデータ記憶手段14の中から前記検索キーに関連付けられたクロマトグラムを検索して検索結果を画面表示する検索表示手段15と、を備えている。
【0033】
図2に、参照クロマトグラムを取得/選択し、特徴的な波形部位を表す1以上の保持時間および波形の特徴をインデックスデータとしてクロマトグラムごとに記憶・登録する操作の例をフローチャートにして示す。まずステップS11において、既知試料を測定して得た参照クロマトグラフデータを取得/選択し、ステップS12においてその参照クロマトグラムを画面表示する。ステップS13およびS14において、登録する保持時間を指定し、その保持時間における波形の特徴を指定する。そのときの画面の様子を図4に示す。図4に示したクロマトグラムは、ヘモグロビン変異体の一種であるHb Riccartonを含む既知試料を測定して得たものである。ここでは、クロマトグラム上の時間軸に垂直な縦線カーソル20を左右に操作可能なポインティング手段により保持時間0.66分を登録する画面を示している。このとき10種類の特徴、すなわち大きいまたは明瞭なピーク、小さいまたは不明瞭なピーク、太いピーク、分離不良、フロントショルダー、バックショルダー、リーディング、テーリング、ピークなしおよび分類できない特徴、を選択入力することができる。この参照プログラムには保持時間0.48分(特徴の種類:テーリング)および保持時間0.66分(特徴の種類:大きいまたは明瞭なピーク)の二つの保持時間が設定されている。図2のステップS15に対応してライブラリ(データ)の登録名としてHb Riccartonが図4右上に入力されている。
【0034】
上記のようにそれぞれ特徴的な保持時間が登録された複数の参照クロマトグラムの集まりであるライブラリー、ここではヘモグロビン変異型のライブラリー(異常ヘモグロビンライブラリーとも称する)、を図5に示す。このライブラリーはインデックスデータ記憶手段に記録されている。このライブラリーを構成する参照クロマトグラムは29件あり、図5の画面左には18件のライブラリー(データ)名称が表示されている。画面中央の参照クロマトグラムHb Iraq Halabjaには3本の縦線カーソルの位置が示す保持時間0.29分(Front Shoulder)、0.33分(Large or Clear Peak)および0.64分(Large or Clear Peak)が登録されている。
【0035】
図3に、参照クロマトグラムの中から、分析試料を測定して得た試料クロマトグラムに関連するクロマトグラムを検索する方法の例をフローチャートにして示す。まずステップS21において、分析試料を測定して得た試料クロマトグラフデータを取得/選択し、ステップS22においてその試料クロマトグラムを画面表示する。次にステップS23において前記試料クロマトグラムに対して、検索キーとなる保持時間、および検索対象を含む検索条件を指定する。通常検索対象は試料クロマトグラムと関連性の高い参照クロマトグラムの集団を指定する。本実施例では最初はヘモグロビン変異型のライブラリー全体が自動的に検索対象に指定される。検索キーとなる保持時間の指定は、参照クロマトグラムの登録操作を示す図4と同様に、波形の特徴の種類を併せて指定してもよい。検索処理(S24)を実行した結果の表示(S25)の例を図6に示す。検索ターゲットとしての試料クロマトグラムを画面上部に、検索ヒットしたライブラリデータのうちの一つ(Hb J−Bangkok)の参照クロマトグラムが画面下部に描かれている。上下双方のクロマトグラム中の縦線カーソル21は検索キーとしての保持時間0.82分を表している。この例では検索キーとして保持時間0.82分だけを指定しているため、ライブラリーを構成する参照クロマトグラムのデータ数29件に対して、検索の結果11件がヒットしており、この画面には9件がスクロール可能に表示されている。ステップS26においてこの検索結果に満足(YES)ならばそれで検索終了となる。これに対して、満足でない(NO)ならば今得られた検索結果である11件の参照クロマトグラムを新たな検索対象に設定し(S27)、ステップS23に戻って先の試料クロマトグラムに対し検索キーとして先の検索キーとは異なる保持時間(必要ならば波形の特徴も)を指定し再び検索する(S24)。以上のような絞り込み検索により試料クロマトグラムに類似した参照クロマトグラムをライブラリーの中から効果的に抽出することが可能となる。
【符号の説明】
【0036】
1 データ処理システム
2 クロマトグラフ装置
10 処理部
11 クロマトグラフデータ記憶手段
12 クロマトグラム表示手段
13 ポインティング手段
14 インデックスデータ記憶手段
15 検索表示手段
20 保持時間指定用の縦線カーソル
21 検索キーに使用した保持時間を表す縦線カーソル
図1
図2
図3
図4
図5
図6