(54)【発明の名称】シミュレーション方法、MBDプログラムによるシミュレーション方法、数値解析装置、MBD用数値解析システム、数値解析プログラムおよびMBDプログラム
【文献】
大畠 明,モデルベース開発のための複合物理領域モデリング,TechShare株式会社,2012年11月30日,初版,pp.55-65,ISBN 978-4-906864-02-7
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記集合領域特性量は、隣り合う前記集合領域同士の境界面の特性を示す境界面特性量と、隣り合う前記集合領域同士の結合情報と、隣り合う前記集合領域同士の距離とからなり、
前記分割領域特性量は、隣り合う前記分割領域同士の境界面の特性を示す境界面特性量と、隣り合う前記分割領域同士の結合情報と、隣り合う前記分割領域同士の距離とからなる、
請求項1又は2に記載の方法。
前記分割領域での支配方程式及び前記集合領域での支配方程式は、質量保存の方程式、運動量保存の方程式、エネルギ保存の方程式、移流拡散方程式、及び波動方程式から予め導出されて記憶されている、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の方法。
請求項1乃至6のいずれか一項に記載の方法によって得られた前記コンダクタンスと前記キャパシタンスとを使用し、更に、前記解析領域を含む他の解析領域で物理量の非定常計算をする、ことを特徴とするMBDプログラムによるシミュレーション方法。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本実施形態のシミュレーション方法、MBDプログラムによるシミュレーション方法、数値解析装置、MBDプログラム用数値解析システム、数値解析プログラムおよびMBDプログラム用数値解析プログラムを、図面を参照しつつ説明する。以下で説明する実施形態は一例に過ぎず、本発明が適用される実施形態は、以下の実施形態に限られない。
【0024】
なお、実施形態を説明するための全図において、同一の機能を有するものは同一符号を用い、繰り返しの説明は省略する。
【0025】
本実施形態でいう「XXに基づく」とは、「少なくともXXに基づく」ことを意味し、XXに加えて別の要素に基づく場合も含む。また、「XXに基づく」とは、XXを直接に用いる場合に限定されず、XXに対して演算や加工が行われたものに基づく場合も含む。「XX」は、任意の要素(例えば、任意の情報)である。
【0026】
本実施形態でいう「物理現象」とは、シミュレーションで再現可能な現象を意味する。例えば、自動車のキャビンに関するシミュレーションの場合には、窓ガラスを透過する太陽による日射や、車速に応じて窓ガラス外表面から奪われる熱や空調による空気の吹き出しやキャビン内の熱対流、熱輻射等の熱移動の現象が挙げられる。その他、内燃機関での燃焼現象、産業機械の部材での力学現象、電気システムでの電気的現象等も例として挙げられる。
【0027】
本実施形態でいう「物理量」とは、物理現象のシミュレーションでの解析結果となる、温度、熱流束、応力、圧力、電圧、電流、流速、拡散速度、その他の値を意味する。
【0028】
本実施形態でいう「解析領域」とは、物理現象をシミュレーションするために設定した解析モデルの対象領域を意味する。例えば、自動車のキャビンであれば、ボディ、窓ガラス等で囲まれる部分となる。但し、解析領域には、MBDプログラムで使用するための以下のコンダクタンスとキャパシタンスとを計算するための解析領域以外のMBDプログラムで非定常計算をするための解析対象は、含まない。
【0029】
本実施形態でいう「コンダクタンス」とは、電気回路でのコンダクタンスに限定されず、熱の伝わりにくさを示す熱コンダクタンス、流体の流れにくさを示すコンダクタンス等を意味し、物理量の移動の特性を表す。
【0030】
本実施形態でいう「キャパシタンス」とは、電気回路でのキャパシタンスに限定されず、熱容量を示す熱キャパシタンス、流体の質量や運動量の蓄積量を示すキャパシタンス等を意味し、物理量の蓄積の特性を表す。
【0031】
(実施形態)
本発明のシミュレーション方法は、コンピュータによって物理現象での物理量を数値的に解析する方法である。
【0032】
シミュレーション方法は、コンピュータが、解析領域を複数の分割領域に分割し、分割領域の頂点の座標(Vertex)及び該頂点の連結情報(Connectivity)を必要としない量のみを使用すると共に重み付き残差積分法によって導出された離散化された分割領域での支配方程式に基づき、各分割領域の体積と隣り合う分割領域同士の特性を示す分割領域特性量とを分割領域の頂点の座標(Vertex)及び該頂点の連結情報(Connectivity)を必要としない量として有する分割領域での計算用データモデルを生成する。
【0033】
さらに、シミュレーション方法は、分割領域を複数集合させることによって、要求される数の集合領域を生成し、集合領域の頂点の座標(Vertex)及び該頂点の連結情報(Connectivity)を必要としない量のみを使用すると共に重み付き残差積分法によって導出された離散化された集合領域での支配方程式に基づき、各集合領域の体積と隣り合う集合領域同士の特性を示す集合領域特性量とを集合領域の頂点の座標(Vertex)及び該頂点の連結情報(Connectivity)を必要としない量として有する集合領域での計算用データモデルを生成する。
【0034】
さらに、シミュレーション方法は、解析領域での物性値と、集合領域での計算用データモデルとに基づいて、集合領域同士及び解析領域外への物理量の移動の特性を表すコンダクタンスと、集合領域ごとの物理量の蓄積の特性を表すキャパシタンスとを計算する。
【0035】
本実施形態で用いられる離散化された支配方程式(以下「離散化支配方程式」という)は、従来のように分割領域の幾何学的形状を規定する量である座標(Vertex)及び該頂点の連結情報(Connectivity)を含んだ形式で表現されるものではなく、分割領域の幾何学的形状を規定する量である座標(Vertex)及び該頂点の連結情報(Connectivity)を必要としない。本実施形態では、以下、幾何学的形状を規定する量である座標(Vertex)及び該頂点の連結情報(Connectivity)を単に「幾何学的形状を規定する量」と呼ぶ。
【0036】
本実施形態で用いられる離散化支配方程式は、複数の分割領域を集合させた集合領域の幾何学的形状を規定する量をも必要としない。本実施形態で用いられる離散化支配方程式は、従来の幾何学的形状を規定する量を使用する方程式を重み付き残差積分法に基づいて導出する過程で敢えて途中にて留めることによって得ることができる。
【0037】
このような本実施形態で用いられる離散化支配方程式は、分割領域の幾何学的形状を規定する量を必要としない量で表現され、例えば分割領域の体積と境界面特性量の2つのみに依存する形式とすることができる。また、本実施形態で用いられる離散化支配方程式は、集合領域の幾何学的形状を規定する量を必要としない量で表現され、例えば、集合領域の体積と境界面特性量の2つのみに依存する形式とすることができる。
【0038】
なお、本実施形態において、便宜上、分割領域と呼んでいるが、この分割領域は、従来の有限要素法や有限体積法などでの分割領域とは異なるもので、本実施形態においては、いわゆるメッシュを必要としない。本実施形態は、メッシュレスによるシミュレーション方法である。
【0039】
つまり、従来の有限要素法や有限体積法では、前提として解析対象物を微小領域に分割するため、この微小領域の幾何学的形状を規定する量を用いることを前提にして離散化支配方程式を導出している。しかし、本実施形態で用いられる離散化支配方程式は、従来のこれらの方法と異なる発想に基づいて導出される。
【0040】
そして、本実施形態は、この発想に基づいて導出された離散化支配方程式を用いるものであり、従来の有限要素法や有限体積法等の数値解析方法と異なり、幾何学的形状に依存しない。さらに、本実施形態は、従来の問題を解決し、種々の顕著な効果を奏する。また、本実施形態は、これらの効果に加えて、特許文献1に開示も示唆もない、分割領域を集合する集合領域で計算を可能としたことによって、モデル縮退を可能にし、MBDプログラムへの実装を可能にし、MBDプログラムでの計算時間を短縮する効果を奏する。
【0041】
ここで、分割領域の体積と境界面特性量とが、分割領域の特定の幾何学的形状を規定する量を必要としない量であることについて説明する。なお、幾何学的形状を規定する量を必要としない量とは、VertexとConnectivityとを用いなくとも定義が可能な量をいう。
【0042】
例えば、分割領域の体積について考えると、分割領域の体積がある所定の値となるための分割領域の幾何学的形状は複数存在する。つまり、体積がある所定の値をとる分割領域の幾何学的形状は、立方体である場合や球である場合も考えられる。そして、例えば、分割領域の体積は、全分割領域の総和が解析領域全体の体積と一致するという制約条件の下で、例えば分割領域の体積が隣接分割領域との平均距離の3乗にできるだけ比例するような最適化計算により定義できる。したがって、分割領域の体積は、分割領域の特定の幾何学的形状を規定する量を必要としない量と捉えることができる。
【0043】
また、分割領域の境界面特性量としては、例えば境界面の面積や、境界面の法線ベクトル、境界面の周長等が考えられるが、これらの境界面特性量がある所定の値となるための分割領域の幾何学的形状は複数存在する。そして、例えば、境界面特性量は、各分割領域を取り囲む全境界面に対して、法線ベクトルの面積加重平均ベクトルの長さがゼロとなる制約条件の下で、境界面の法線ベクトルの方向を隣接する2つの分割領域のコントロールポイント(
図1参照)を結ぶ線分に近づけ、かつ、分割領域を取り囲む全境界面面積の総和が当該分割領域の体積の2分の3乗にできるだけ比例するような最適化計算により定義することができる。したがって、境界面特性量は、分割領域の特定の幾何学的形状を規定する量を必要としない量と捉えることができる。このような分割領域の境界面特性量が有する特徴は、集合領域の境界面特性量も有する。
【0044】
また、集合領域の体積と境界面特性量とが、集合領域の特定の幾何学的形状を規定するVertexとConnectivityとを必要としない量であることについても、分割領域の場合と同様である。
【0045】
また、本実施形態において「幾何学的形状を規定する量を必要としない量のみを使用する離散化支配方程式」とは、代入される値がVertexとConnectivityとを必要としない量のみである離散化支配方程式を意味する。
【0046】
図1の概念図を参照して、本実施形態の数値解析手法と従来の数値解析手法とにおけるプリ処理及びソルバ処理を対比しながら、詳細な説明を行う。
【0047】
本実施形態を用いる数値解析手法の場合には、ソルバ処理にて、幾何学的形状を規定する量を必要としない量のみを使用する離散化支配方程式を用いて集合領域における物理量の算出が行われる。このため、離散化支配方程式を解くにあたり、プリ処理にて作成される計算用データモデルにVertexとConnectivityとを含める必要がない。
【0048】
そして、本実施形態を用いる場合には、幾何学的形状を規定する量を必要としない量として、集合領域の体積と境界面特性量とが使用される。このため、プリ処理にて作成される計算用データモデルは、VertexとConnectivityとを持たず、集合領域の体積と、境界面特性量と、その他補助データ(例えば、後述する、分割領域の係合情報やコントロールポイント座標等)とを有するものとなる。
【0049】
このように本実施形態を用いた場合には、前述のように、幾何学的形状を規定する量を必要としない量である集合領域の体積と境界面特性量に基づいて各領域における物理量が計算できる。このため、計算用データモデルに、集合領域の幾何学的形状を規定する量を持たせることなく物理量を算出できる。したがって、本実施形態を用いることにより、プリ処理において、少なくとも集合領域の体積と境界面特性量(境界面の面積及び境界面の法線ベクトル)とを有する計算用データモデルを作成すればよくなり、幾何学的形状を規定する量を有する計算用データモデルを作成することなく物理量の計算ができる。
【0050】
幾何学的形状を規定する量を持たない計算用データモデルは、集合領域の幾何学的形状を規定する量を必要としないため、集合領域の幾何学的形状に縛られることなく作成できる。
【0051】
このため、3次元形状データの修正作業に対する規制も大幅に緩和される。よって、幾何学的形状を規定する量を持たない計算用データモデルは、幾何学的形状を規定する量を有する計算用データモデルと比較して遥かに容易に作成できる。したがって、本実施形態によれば、計算用データモデルの作成における作業負担を軽減できる。
【0052】
また、本実施形態を用いる場合であっても、プリ処理においては、幾何学的形状を規定する量を使用しても構わない。つまり、プリ処理において幾何学的形状を規定する量を用いて分割領域の体積や境界面特性値等を算出してもよい。このような場合であっても、ソルバ処理においては集合領域の体積や境界面特性値があれば物理量を計算できるため、プリ処理において幾何学的形状を規定する量を利用するにしても、集合領域の幾何学的形状に対する制約、例えば分割領域の歪みや捩じれ等に起因する制約がなく、計算用データモデルの作成における作業負担を軽減できる。
【0053】
また、本実施形態を用いることによって、プリ処理において、集合領域の幾何学的形状に対する制約がなくなるため、集合領域を任意の形状に変更できる。このため、集合領域の数を増やすことなく、解析領域を実際に解析したい領域に容易にフィッティングでき、計算負荷を増大させることなく解析精度を向上できる。
【0054】
さらに、本実施形態を用いることによって集合領域の分布密度も任意に変更できるため、必要な範囲で計算負荷の増大を許容しながらさらに解析精度を向上できる。
【0055】
本実施形態では、プリ処理において、まず、任意に配置された分割領域の体積、境界面特性量(境界面の面積、境界面の法線ベクトル)及び物理量のやり取りを行う分割領域同士を関連付ける情報を有する分割領域の計算用データモデルを作成する。例えば、この物理量のやり取りを行う分割領域同士を関連付ける情報は、隣り合う分割領域同士の結合情報(link)と、隣り合う分割領域同士の距離からなる。そして、このlinkによって関連付けられる分割領域は、必ずしも空間的に隣接されている必要はなく、空間的に離間していても構わない。このようなlinkは、幾何学的形状を規定する量と関連するものではなく、幾何学的形状を規定する量と比較すると、極めて短時間で作成できる。また、後に詳説するが、本実施形態では、必要に応じて、分割領域の内部に配置されるコントロールポイントの座標を、分割領域の計算用データモデルに持たせる場合もある。次に、本実施形態では、プリ処理において、分割領域を複数集合させることによって、要求される数の集合領域を生成する。そして、集合領域の体積、境界面特性量(境界面の面積、境界面の法線ベクトル)及び物理量のやり取りを行う集合領域同士を関連付ける情報を有する集合領域の計算用データモデルを作成する。この物理量のやり取りを行う集合領域同士を関連付ける情報、隣り合う集合領域同士の結合情報(link)も、分割領域に対する特徴と同様の特徴を有する。また、後に詳説するが、本実施形態では、必要に応じて、集合領域の内部に配置されるコントロールポイントの座標を、集合領域の計算用データモデルに持たせる場合もある。
【0056】
そして、本実施形態では、プリ処理から、分割領域の体積、境界面特性量及びlink並びにコントロールポイントの座標等を有する分割領域の計算用データモデルと、境界条件や初期条件等とをソルバ処理に受け渡す。ソルバ処理では、受け渡されたその計算用データモデルに含まれる分割領域の体積、境界面特性量等を使用して離散化支配方程式を解くことによって物理量の算出を行う。
【0057】
また、本実施形態では、プリ処理から、集合領域の体積、境界面特性量及びlink並びにコントロールポイントの座標等を有する計算用データモデルと、境界条件や初期条件等とをソルバ処理に受け渡す。ソルバ処理では、受け渡されたその計算用データモデルに含まれる集合領域の体積、境界面特性量等を使用して離散化支配方程式を解くことによって物理量の算出を行う。
【0058】
そして、本実施形態では、ソルバ処理において、幾何学的形状を規定する量を使用しないで物理量を計算している点が従来の有限体積法と大きく異なり、この点が本実施形態の大きな特徴である。このような特徴は、ソルバ処理にて、幾何学的形状を規定する量を必要としない量のみを使用する離散化支配方程式を用いることによって得られる。
【0059】
この結果、本実施形態では、ソルバ処理に幾何学的形状を規定する量を受け渡す必要がなくなり、プリ処理において、幾何学的形状を規定する量を持たない計算用データモデルを作成すればよい。したがって、従来の有限体積法と比較して本実施形態では、遥かに容易に計算用データモデルを作成でき、計算用データモデルの作成における作業負担を軽減できる。
【0060】
本実施形態の数値解析手法(以下、本数値解析手法と称する)の原理である重み付き残差積分法に基づいて導出された離散化支配方程式と、集合領域の体積と境界面特性量とによって物理量を算出可能となる原理について詳細に説明する。なお、以下の説明において、[]にて挟まれた文字は、図面において太字で記されたベクトルを示す。
【0061】
まず、本実施形態を用いた数値解析手法における数値解析の処理の流れを簡単に説明する。
【0062】
前述したように、本実施形態を用いた数値解析手法は、解析領域を複数の分割領域に分割する処理(以下「複数の分割領域に分割する処理」という)を有する。さらに、本数値解析手法は、分割領域の頂点の座標(Vertex)及び該頂点の連結情報(Connectivity)を必要としない量のみを使用すると共に重み付き残差積分法に基づいて導出された離散化された分割領域での支配方程式に基づき、各分割領域の体積と隣り合う分割領域同士の特性を示す分割領域特性量とを分割領域の頂点の座標(Vertex)及び該頂点の連結情報(Connectivity)を必要としない量として有する分割領域での計算用データモデルを生成する処理(以下「分割領域での計算用データモデルを生成する処理」という)を有する。
【0063】
さらに、本数値解析手法は、分割領域を複数集合させることによって、要求される数の集合領域を生成する処理(以下「集合領域を生成する処理」という)を有する。さらに、本数値解析手法は、集合領域の頂点の座標(Vertex)及び該頂点の連結情報(Connectivity)を必要としない量のみを使用すると共に重み付き残差積分法に基づいて導出された離散化された集合領域での支配方程式に基づき、各集合領域の体積と隣り合う集合領域同士の特性を示す集合領域特性量とを集合領域の頂点の座標(Vertex)及び該頂点の連結情報(Connectivity)を必要としない量として有する集合領域での計算用データモデルを生成する処理(以下「集合領域での計算用データモデルを生成する処理」という)を有する。さらに、本数値解析手法は、解析領域での物性値と、集合領域での計算データモデルとに基づいて、集合領域同士の物理量の移動の特性を表すコンダクタンスと、集合領域の物理量の蓄積の特性を表すキャパシタンスとを計算する処理(以下「計算する処理」という)を有する。
【0064】
(複数の分割領域に分割する処理)
複数の分割領域に分割する処理について説明する。複数の分割領域に分割する処理では、解析領域を、幾何学的形状を規定する量を使用しないセルで細かく分割する。
【0065】
(分割領域での計算用データモデルを生成する処理)
分割領域での計算用データモデルを生成する処理について説明する。なお、この分割領域での計算用データモデルを生成する処理は、特許文献1で開示されている処理と同様である。
【0066】
図1において、セルR
1,R
2,R
3・・・は、解析領域を分割して得られる分割領域であり、各々が体積V
a,V
b,V
c・・・を有している。また、境界面Eは、セルR
1とセルR
2との間において物理量の交換が行われる面であり、本実施形態における境界面に相当する。また、面積S
abは、境界面Eの面積を示し、本実施形態における境界面特性量の1つである。また、[n]
abは、境界面Eの法線ベクトルを示し、本実施形態における境界面特性量の1つである。
【0067】
また、コントロールポイントa,b,c・・・は、各セルR1,R2,R3の内部に配置されており、
図1においては各セルR
1,R
2,R
3・・・の重心位置に配置されている。ただし、コントロールポイントa,b,c・・・は、必ずしも各セルR
1,R
2,R
3・・・の重心位置に配置される必要はない。また、αは、コントロールポイントaからコントロールポイントbまでの距離を1とした場合におけるコントロールポイントaから境界面Eまでの距離を示し、境界面Eがコントロールポイントaとコントロールポイントbとを結ぶ線分のどの内分点に存在するかを示す比率である。なお、コントロールポイントaからコントロールポイントbまでの距離は、隣り合う分割領域同士の距離の一例である。
【0068】
なお、境界面は、セルR
1とセルR
2との間のみに限らず、隣り合う全てのセル間に存在する。そして、境界面の法線ベクトル及び境界面の面積も、境界面ごとに与えられる。
【0069】
そして、実際の分割領域での計算用データモデルは、各コントロールポイントa,b,c・・・の配置データと、各コントロールポイントa,b,c・・・が存在するセルR
1,R
2,R
3・・・の体積V
a,V
b,V
c・・・を示す体積データと、各境界面の面積を示す面積データと、各境界面の法線ベクトル(以下「法線ベクトル」という。)を示す法線ベクトルデータとを有するデータ群として構築されている。
【0070】
本数値解析手法の分割領域での計算用データモデルは、セルR
1,R
2,R
3・・・の体積V
a,V
b,V
c・・・と、隣り合うセルR
1,R
2,R
3・・・同士の境界面の特性を示す境界面特性量である境界面の面積と、隣り合うセルR
1,R
2,R
3・・・同士の境界面の特性を示す境界面特性量である境界面の法線ベクトルとを有して定義されている。
【0071】
なお、各セルR
1,R
2,R
3・・・は、コントロールポイントa,b,c・・・を有している。このため、セルR
1,R
2,R
3・・・の体積V
a,V
b,V
c・・・は、コントロールポイントa,b,c・・・が仮想的に占める空間(コントロールボリューム)の体積として捉えることができる。
【0072】
また、本数値解析手法の計算用データモデルは、必要に応じて、境界面が挟まれたコントロールポイント同士を結ぶ線分のどの内分点に存在するかの比率αを示す比率データを有する。
【0073】
以下では、前述の分割領域での計算用データモデルを用いて解析領域の各セルにおける温度を求める物理量計算例について説明する。なお、ここでは、各コントロールポイントにおける温度を各セルにおける温度として求める。
【0074】
まず、本物理量計算において本数値解析手法は、熱移動の解析の場合、下式(1)で示す熱伝導方程式と、下式(2)で示す熱の移流拡散方程式とを用いる。
【0076】
【数2】
なお、式(1),(2)において、tは時間を示し、x
i(i=1,2,3)はカーテシアン系における座標を示し、ρは熱が移動する物質の密度を示し、Cpは熱が移動する物質の比熱を示し、u
i(i=1,2,3)は熱が移動する物質の流速成分を示し、λは熱が移動する物質の熱伝導率を示し、添字i(i=1,2,3),j(j=1,2,3)はカーテシアン座標系における各方向成分を示している。また、添字jに関しては総和規約に従うものとする。
【0077】
ここで、α
*は、式(3)で定義される乱流拡散を考慮した温度拡散率であり、α
tは乱流拡散係数である。
【0078】
【数3】
そして、式(1),(2)を、重み付き残差積分法に基づいて、コントロールボリュームの体積に対して積分して示すと、式(1)が下式(4)のように示され、式(2)が下式(5)のように示される。
【0080】
【数5】
なお、式(4),(5)において、Vがコントロールボリュームの体積を示し、∫VdVが体積Vに関する積分を示し、Sがコントロールボリュームの面積を示し、∫SdSが面積Sに関する積分を示し、[n]がSの法線ベクトルを示し、n
i(i=1,2,3)が法線ベクトル[n]の成分を示し、∂/∂nが法線方向微分を示している。また、u
nは法線方向流速を示す。
【0081】
ここで、説明を簡単化するために、熱が移動する物質の密度ρと比熱Cpと熱伝導率λを定数とする。さらに、熱が移動する物質の乱流拡散を考慮した温度拡散率α
*も定数とする。ただし、以下の定数化は、熱が移動する物質の物性値やα
*が、時間、空間、温度等によって変化する場合に対して拡張できる。
【0082】
そして、
図1のコントロールポイントaについて、境界面Eの面積S
abについて離散化し、代数方程式による近似式に変換すると、式(4)が下式(6)、式(5)が下式(7)のように示される。
【0084】
【数7】
ここで、添字abが付く、u
nab,T
ab,(∂T/∂n)
abは、コントロールポイントaとコントロールポイントbとの間の境界面E上における物理量であることを示す。u
nabはコントロールポイントaとコントロールポイントbとの間の境界面E上における法線方向流速である。また、mは、コントロールポイントaと結合関係(境界面を挟む関係)にある全てのコントロールポイントの数である。
【0085】
そして、式(6),(7)をV
a(コントロールポイントaのコントロールボリュームの体積)で割ると、式(6)が下式(8)のように示され、式(7)が下式(9)のように示される。
【0087】
【数9】
ここで、下式(10)とする。
【0088】
【数10】
すると、式(8)が下式(11)のように示され、式(9)が下式(12)のように示される。
【0090】
【数12】
式(11),(12)において、u
nab,T
ab,(∂T/∂n)
abは、コントロールポイントaとコントロールポイントb上の物理量の重み付け平均(移流項については、風上性を考慮した重み付け平均)により近似的に求められ、コントロールポイントa,b間の距離及び向きと、その間に存在する境界面Eとの位置関係(上記比率α)と、境界面Eの法線ベクトルの向きに依存して決定される。ただし、u
nab,T
ab,(∂T/∂n)
abは、境界面Eの幾何学的形状を規定する量には無関係な量である。
【0091】
また、式(10)で定義されるφ
abも(面積/体積)という量であり、コントロールボリュームの幾何学的形状を規定する量には無関係な量である。
【0092】
つまり、このような式(11),(12)は、セル形状を規定するVertexとConnectivityとを必要としない量のみを使用して物理量が算出可能な、重み付き残差積分法に基づく演算式である。
【0093】
このため、物理量計算(ソルバ処理)に先立って前述の計算用データモデルを作成し、物理量計算において当該計算用データモデルと、式(11),(12)の離散化支配方程式とを用いることによって、物理量計算においてコントロールボリュームの幾何学的形状を全く使用せずに、温度の計算を行うことができる。
【0094】
このように、物理量計算において幾何学的形状を規定する量を全く使用せずに温度の計算が行えることから、計算用データモデルに幾何学的形状を規定する量を持たせる必要がなくなる。よって、計算用データモデルの作成にあたり、セルの幾何学的形状に縛られる必要がなくなるため、セルの形状を任意に設定することができる。このため、本数値解析手法によれば、前述のように3次元形状データの修正作業に対する規制を大幅に緩和することができる。
【0095】
なお、実際に式(11),(12)を解くにあたり、T
ab等の境界面E上の物理量は、通常、線形補間によって補間される。例えば、コントロールポイントaの物理量をψ
a、コントロールポイントbの物理用をψ
bとすると、境界面E上の物理量ψ
abは、下式(13)によって求めることができる。
【0096】
【数13】
また、物理量ψ
abは、境界面が挟まれたコントロールポイント同士を結ぶ線分のどの内分点に存在するかの比率αを用いることによって、下式(14)によって求めることもできる。
【0097】
【数14】
したがって、計算用データモデルが比率αを示す比率データを有している場合には、式(14)を用いて境界面E上の物理量をコントロールポイントaとコントロールポイントbとからの離間する距離に応じた重み付け平均を用いて算出することができる。
【0098】
また、連続体モデルの方程式(熱の移流拡散方程式等)には、式(1)に示すように、1階の偏導関数(偏微分)が含まれる。
【0099】
ここで、連続体モデルの方程式の微係数を部分積分、ガウスの発散定理、あるいは一般化されたグリーンの定理を利用して、体積分を面積分に変換し、微分の次数を下げる。これによって1次微分は0次微分(スカラー量またはベクトル量)とすることができる。
【0100】
例えば一般化されたグリーンの定理では、物理量をψとすると、下式(15)という関係が成り立つ。
【0101】
【数15】
なお、式(15)において、n
i(i=1,2,3)は、表面S上の単位法線ベクトル[n]のi方向の成分である。
【0102】
連続体モデルの方程式の1次微分項は、体積分から面積分の変換により、境界面上ではスカラー量またはベクトル量として取り扱われる。そして、これらの値は、前述の線形補間等によって、各コントロールポイント上の物理量から補間できる。
【0103】
また、連続体モデルの方程式によっては、2階の偏導関数が含まれる場合もある。
【0104】
式(15)の被積分関数をさらに1階微分した式は下式(16)となり、連続体モデルの方程式の2次微分項は、体積分から面積分の変換により境界面E上では下式(17)となる。
【0106】
【数17】
なお、式(16)において∂/∂nは法線方向微分を示し、式(17)において∂/∂n
abは、[n]ab方向微分を示す。
【0107】
つまり、連続体モデルの方程式の2次微分項は、体積分から面積分の変換により、物理量ψの法線方向微分(S
abの法線[n]
ab方向への微分)に、[n]の成分n
iab、n
jabを乗じた形となる。
【0108】
ここで式(17)中の∂ψ/∂n
abは、下式(18)と近似される。
【0109】
【数18】
なお、コントロールポイントaとコントロールポイントbとのコントロールポイント間ベクトル[r]
abは、コントロールポイントaの位置ベクトル[r]
aとコントロールポイントbの位置ベクトル[r]
bから下式(19)のように定義される。
【0110】
【数19】
したがって、境界面Eの面積がS
abであるため、式(17)は下式(20)となり、これを利用して式(16)を計算できる。
【0111】
【数20】
なお、式(17)の導出にあたり、次のことがわかる。
【0112】
すべての線形偏微分方程式は、定数と、1次、2次、その他の偏導関数に係数を乗じた項の線形和で表わされる。式(16)から式(19)において、物理量ψをψの1次偏導関数に置き換えると、より高次の偏導関数の体積分を、式(15)のように低次の偏導関数の面積分により求めることができる。この手順を、低次の偏微分から順次繰り返すと、線形偏微分方程式を構成するすべての項の偏導関数は、コントロールポイントの物理量ψと、式(13)又は式(14)で計算される境界面上のψであるψ
abと、式(19)で定義されるコントロールポイント間ベクトルから求められるコントロールポイント間距離と、式(6)に示される境界面Eの面積S
ab、式(17)に示される法線ベクトルの成分n
iabとn
jabから、すべて求めることができる。
【0113】
本数値解析手法において物理量計算にあたり幾何学的形状を規定する量を必要としないことは前述した。このため、計算用データモデルの作成(プリ処理)にあたり、コントロールボリュームの体積と、境界面の面積及び法線ベクトルとを、幾何学的形状を規定する量を使用しないで求めれば、式(11)と式(12)との離散化支配方程式を用いて、コントロールボリュームの幾何学的形状であるセルの幾何学的形状を全く使用せずに、温度の計算を行うことができる。
【0114】
ただし、本数値解析手法においては、必ずしも、コントロールボリュームの体積と、境界面の面積及び法線ベクトルとを、コントロールボリュームの具体的な幾何学的形状を使用しないで求める必要はない。このように、ソルバ処理において幾何学的形状を規定する量を利用しないので、コントロールボリュームの具体的な幾何学的形状、具体的にはVertexとConnectivityとを利用するとしても、従来の有限要素法、有限体積法のような分割領域に関わる制約である分割領域の歪みや捩じれに対する制約がないため、前述のように容易に計算用データモデルの作成ができる。
【0115】
本実施形態は、物理量計算にあたり、物理量保存則が満足される。これについては、次に説明する。但し、物理量保存則が満足される理由は、特許文献1に記載した理由と同様である。
【0116】
まず、本実施形態の物理量計算にあたり、物理量の保存則が満足されるためには、コントロールポイントが示すコントロールボリューム領域についての離散化支配方程式は、全てのコントロールポイントについて足し加えると、計算対象である解析領域の全領域に関する保存則を満足する方程式にならなくてはならない。
【0117】
続いて、コントロールポイントの全数をNとし、式(6)、式(7)を全てのコントロールポイントについて足し加えると、式(21)、式(22)が得られる。
【0119】
【数22】
式(21)、式(22)において、各コントロールポイント間の境界面の面積は、コントロールポイントa側から見てもコントロールポイントb側から見ても等しいとすると、各コントロールポイント間の移動熱量は、コントロールポイントa側とコントロールポイントb側で正負が逆で絶対値が等しくなるので差し引きゼロとなりキャンセルされる。つまり、式(21)、式(22)は、計算する全領域に対して、流入する熱量の積算値と流出する熱量の積算値との差が、全領域での熱容量の単位時間変化に等しいことを示す。したがって、式(21)、式(22)は、解析領域全体における熱エネルギ保存の式となる。
【0120】
よって、式(21)、式(22)が、計算する全領域についての熱エネルギ保存則を満足するためには、2つのコントロールポイント間の境界面の面積が一致するという条件及び法線ベクトルが一方のコントロールポイント側から見た場合と他方のコントロールポイント側から見た場合とで絶対値が一致し正負が逆であるという条件が必要である。
【0121】
また、熱エネルギ保存則を満足するためには、下式(23)に示される全コントロールポイントのコントロールボリュームの占める体積が解析領域の全体積V
totalと一致するという条件が必要である。
【0122】
【数23】
なお、ここでは、熱エネルギ保存則に対して説明を行ったが、保存則は、連続体の質量や運動量に対しても成立しなければならない。これらの物理量に対しても、全コントロールポイントに対して足し加えることによって、保存側が満足されるためには、全コントロールポイントのコントロールボリュームの占める体積が解析領域の全体積と一致するという条件と、2つのコントロールポイント間の境界面の面積が一致する条件及び法線ベクトルが一方のコントロールポイント側から見た場合と他方のコントロールポイント側から見た場合とで絶対値が一致する(正負逆符号)という条件とが必要であることが分かる。
【0123】
また、保存則を満たすためには、
図2に示すように、コントロールポイントaの占めるコントロールボリュームを考えた場合に、コントロールポイントaを通り、任意の向きの単位法線ベクトル[n]pを持つ無限に広い投影面Pを考えたときに下式(24)が成り立つという条件が必要である。
【0124】
【数24】
なお、
図2及び式(24)において、S
iが境界面E
iの面積、[n]
iが境界面E
iの単位法線ベクトル、mがコントロールボリュームの面の総数を示す。
【0125】
式(24)は、コントロールボリュームを構成する多面体が、閉包空間を構成することを示す。この式(24)は、コントロールボリュームを構成する多面体の一部が凹んでいる場合であっても成立する。
【0126】
なお、
図3に示すように、2次元における三角形についても式(24)が成り立つ。また、多面体の1つの面を微小面dSとし、mを∞とする極限を取ると、下式(25)となり、
図4に示すような閉包曲面体についても成り立つことが分かる。
【0127】
【数25】
式(24)が成り立つという条件は、ガウスの発散定理や、式(15)に示す一般化されたグリーンの定理が成り立つために必要な条件である。
【0128】
そして、一般化されたグリーンの定理は、連続体の離散化のための基本となる定理である。したがって、グリーンの定理にしたがって体積分を面積分に変形させ離散化させる場合において、保存則を満足させるためには式(24)が成り立つという条件は必須となる。
【0129】
このように、前述の計算用データモデル及び物理量計算を用いて数値解析を行う際に、物理量の保存則が満足されるためには、以下の3つの条件が必要となる。
【0130】
(a)全コントロールポイントのコントロールボリュームの体積(全分割領域の体積)の総和が解析領域の体積と一致する。
【0131】
(b)2つのコントロールポイント間の境界面の面積が一致する及び法線ベクトルが一方のコントロールポイント側(境界面を挟む一方の分割領域)から見た場合と他方のコントロールポイント側(境界面を挟む他方の分割領域)から見た場合とで絶対値が一致する(正負逆符号)。
【0132】
(c)コントロールポイントを通り(分割領域を通り)、任意の向きの単位法線ベクトル[n]pを持つ無限に広い投影面Pを考えたときに式(24)が成り立つ。
【0133】
つまり、保存則を満足させる場合には、これらの条件を満足するように計算用データモデルを作成する必要がある。ただし、前述のように本数値解析手法においては、計算用データモデルの作成にあたり、セル形状を任意に変形することができることから、容易に上記3つの条件を満足するように計算用データモデルを作成できる。
【0134】
なお、前述の説明においては、熱伝導方程式及び熱の移流拡散方程式から重み付き残差積分法に基づいて導出した離散化支配方程式を用いる物理量の計算例について説明したが、本数値解析手法において用いられる離散化支配方程式はこれに限られるものではない。
【0135】
つまり、種々の方程式(質量保存の方程式、運動量保存の方程式、エネルギ保存の方程式、移流拡散方程式、及び波動方程式等)から重み付き残差積分法に基づいて導出されると共に、幾何学的形状を規定する量を必要としない量のみを使用して物理量を算出可能な離散化支配方程式であれば本数値解析手法に用いることができる。
【0136】
そして、このような離散化支配方程式の特性によって、従来の有限要素法や有限体積法のようにいわゆるメッシュを必要としない、メッシュレスでの計算が可能となる。また、たとえ、プリ処理において、セルの幾何学的形状を規定する量を利用するとしても、従来の有限要素法、有限体積法、ボクセル法のようなメッシュに対する制約がないため、計算用データモデルの作成に伴う作業負荷を軽減できる。
【0137】
本実施形態では、質量保存の方程式、運動量保存の方程式、エネルギ保存の方程式、移流拡散方程式、及び波動方程式から、重み付き残差積分法に基づいて、幾何学的形状を規定する量を必要としない量のみを使用する離散化支配方程式が導出可能である。本数値解析手法において他の支配方程式を用いることができる。これについては、特許文献1に記載した理由と同様であるため、説明を省略する。
【0138】
(集合領域を生成する処理)
集合領域を生成する処理について説明する。集合領域を生成する処理では、セルの集合和により集合領域を作成する。以下、集合領域は、ドメインと呼ぶこともある。ドメインが作成されることによって、解析領域はドメイン分割された状態となる。
【0139】
図5で、集合領域を生成する処理では、解析領域内に自動生成されたコントロールボリューム(セル)を集合させ、新たに設定されたコントロールボリュームを、ドメインと定義する。ドメインは、コントロールボリュームであり、セルの集合和である。
【0140】
図6に示される複数のドメインのうち、任意のドメインをドメインAとする。ドメインA内に存在するセルの総数をNV
Aとした場合、ドメインAの体積V
Aは式(26)で表され、ドメインAのコントロールポイントの座標ベクトル[r]
Aは式(27)で表される。以下の式(26)、式(27)により、セルの集合和を計算し、ドメインを設定する。
【0142】
【数27】
式(26)、(27)において、A,B,・・・は、ドメインを表す添え字である。
【0143】
ここで、ドメインを設定した後に、設定したドメインを集合させることによって、新たにドメインを設定するようにしてもよい。
【0144】
図7に示されるように、複数のドメインの集合和が設定される。
図7に示される例では、細い線によってドメインが示されている。
【0145】
図8に示されるように、ドメインを複数集合させることによって、新たにドメインが設定される。新たに設定されたドメインは、太線によって示されている。
【0146】
新たに設定されたドメインも、コントロールボリュームであり、ドメインの集合和である。新たに設定されたドメインについても、式(26)、式(27)により、新たに設定されたドメインの体積と、新たに設定されたドメインのコントロールポイントの座標ベクトルが計算される。
図9に示されるように、コントロールポイントが示される。そして、新たに設定されたドメインは、ドメインと同様に取り扱われる。
【0147】
セルの集合和によって作成されたドメインをドメイン1とし、ドメイン1の集合和によって作成されたドメインをドメイン2とし、ドメイン2の集合和によって作成されたドメインをドメイン3とする。解析領域に自動生成されたコントロールボリューム(セル)に基づいて、ドメイン1、ドメイン2、ドメイン3、・・・、最終ドメインと階層構造型にドメインを設定できる。
【0148】
MBDは、基本的に非定常解析であり、計算回数が非常に多いため、1回の計算での高速性が要求される。MBDで要求される計算精度に合わせて、コントロールボリューム(セル)から、ドメイン1、ドメイン2、ドメイン3、・・・、最終ドメインと階層構造型にドメインを設定できる。ここで、ドメイン1から、ドメイン2やドメイン3を経ることなく、最終ドメインを設定してもよい。コントロールボリューム(セル)から、ドメイン1、ドメイン2、ドメイン3、・・・、最終ドメインと階層構造型にドメインを設定した場合や、ドメイン1から、ドメイン2を経ることなく、最終ドメインを設定した場合に、最初の解析領域の境界形状のセル分割精度が失われない。
【0149】
従来の有限体積法や有限要素法では、初期の分割メッシュを集合させると、集合させたドメインの境界形状は複雑な多面となるため、計算を実行できない。具体的には、現状では、有限体積法では二十面体が限度であり、有限要素法では6面体を超える多面体の要素内補間関数を定義できない。そのため、従来の方法においては、初期の分割メッシュを集合するという思想自体が存在しない。このことから、本実施形態は、分割領域から集合領域を形成することの動機づけも示唆もないところから着想され、従来の方法では不可能で、それを可能にすることによって、後述する顕著な効果を奏する。
【0150】
自動生成されたコントロールボリューム(セル)では、セル間でのマスバランス(質量保存)や運動量保存、エネルギ保存などの物理量の保存則を満足させながら数値解析ができる。従って、コントロールボリューム(セル)から、ドメイン1、ドメイン2、ドメイン3、・・・、最終ドメインと階層構造型に設定されたドメインでも、ドメイン1から、ドメイン2やドメイン3を経ることなく、最終ドメインと階層構造型に設定された場合でも、ドメイン間での物理量の保存則は満足される。
【0151】
解析領域内に自動生成されたコントロールボリューム(セル)を集合させることによって、新たにドメインを設定するための、コントロールボリューム(セル)の集合方法について説明する。
【0152】
図10に示されるように、解析領域を直交格子状の領域に粗く分割し、その直交格子内にコントロールポイントの座標が含まれるセルを集合させる。
【0153】
図11に示されるように、解析領域内に、ドメインのコントロールポイントを設定する。ドメインのコントロールポイントから、予め指定された半径の球体内にコントロールポイントの座標が含まれるセルを集合させる。半径を徐々に拡大し、解析領域内のセルを全て、ドメインのいずれかに集合させる。
【0154】
また、ボクセル法で、解析領域を包含する領域にボクセルを生成し、そのボクセルをドメインとしてもよい。この場合、ボクセル内にコントロールポイントの座標が含まれるセルを集合させる。
【0155】
ここでは、セルの集合方法として、三例について説明したが、この例に限られない。例えば、ここに示した例以外の集合方法が使用されてもよい。
【0156】
解析領域内に自動生成されたコントロールボリューム(セル)を、コントロールボリューム(セル)の集合方法にしたがって集合させることによって新たにドメインを設定した場合には、最初の解析領域の境界形状のセル分割精度が失われない。このため、解析領域内に自動生成されたコントロールボリューム(セル)を、コントロールボリューム(セル)の集合方法にしたがって集合させることによって新たに設定されたドメイン間で、物理量の保存則を満足させながら数値解析ができる。
【0157】
(集合領域での計算用データモデルを生成する処理)
集合領域での計算用データモデルを生成する処理について説明する。
【0158】
図12は、発明の数値解析手法の集合領域における境界面特性量の一例を示す概念図である。
図12は解析領域を分割する複数の分割領域と、複数の集合領域とを表す。
図12において、実線で囲まれたドメインA及びドメインBは、集合領域である。
図12において、破線で囲まれた図形は分割領域である。例えば、セルR201〜セルR208は、分割領域である。ドメインAは、セルR201〜セルR208を含む複数の分割領域を集合して得られる集合領域である。境界面E
ABは、ドメインAとドメインBとの間において物理量の交換が行われる面であり、集合領域での計算用データモデルにおける境界面に相当する。また、面積S
ABは、境界面E
ABの面積を示し、本実施形態における集合領域の境界面特性量の1つである。
【0159】
[n]
a1〜[n]
a8の各々は、境界面E
ABで互いに接するセル同士の境界面の特性を示す量である法線ベクトルである。
【0160】
図13のドメインA及びドメインBは、
図12のドメインA及びドメインBである。コントロールポイントA
c及びコントロールポイントB
cは、それぞれドメインA及びドメインBの内部に配置されている。
【0161】
ドメインBに属し境界面E
ABに接するセルbの境界面の総数をNS
ABとすると、ドメインAとドメインBとの間の境界面の面積S
ABと、ドメインAとドメインBとの間の境界面の法線ベクトル[n]
ABは、式(28)、式(29)で計算される。ここで、Sabは、ドメインBに属し境界面E
ABに接するセルbの境界面の面積である。
【0163】
【数29】
図14に示される例では、ドメインAが解析領域のうちの外部空間との境界に接している場合を示す。この場合、
図15に示されるように、ドメインBが解析領域の外部に存在すると仮定して、ドメインBに接するセルaの境界面の集合和を計算することによって、式(28)、式(29)と同様に、ドメインAとドメインBとの間の境界面の面積S
ABと、ドメインAとドメインBとの間の境界面の法線ベクトル[n]
ABとを導出できる。
【0164】
(計算する処理)
計算する処理について説明する。前述した数値解析手法では、解析領域内に自動生成されたコントロールボリューム(セル)を集合させることによって、ドメインを生成した。
【0165】
さらに、数値解析手法では、セルaとセルbとの間の境界面S
abにおける境界面特性量(境界面の面積S
ab、境界面の法線ベクトル[n]
ab)を用いて、ドメインAとドメインBとの間の境界面S
ABに関して、集合和を計算することによって、ドメインAとドメインBとの間の境界面S
ABにおける境界面特性量(境界面の面積S
AB、境界面の法線ベクトル[n]
AB)を求めた。つまり、幾何学的形状を規定する量を使用しないセルによる連続体の数値解析手法を、ドメインに対しても全く同じ計算手法として適用した。
【0166】
さらに、解析領域内に自動生成されたコントロールボリューム(セル)に基づいて、ドメイン1、ドメイン2、ドメイン3、・・・、最終ドメインと階層構造型にドメインを設定することができる。したがって、連続体の数値解析手法を、ドメイン1、ドメイン2、ドメイン3、・・・、最終ドメインと階層構造型に設定されたドメイン全てに対して適用できる。
【0167】
コントロールボリューム(セル)から一度に最終ドメインを設定したときも、コントロールボリューム(セル)からドメイン1、ドメイン2、ドメイン3、・・・、最終ドメインと階層構造型にドメインを設定したときも、最初の解析領域の境界形状のセル分割精度は失われない。これは、熱流体解析のように伝熱面積を重要視する数値解析では、非常に大きなメリットである。
【0168】
解析領域内に自動的に生成されたコントロールボリューム(セル)の分割数が、数10個〜数1000個のオーダー以下の粗さの場合、その粗い分割数のセルを用いた数値解析は、解析結果に誤差を多く含むおそれがある。
【0169】
一方、数1000万個〜数億個以上のオーダーのセル分割による数値解析は、非常に高精度であるが、スーパーコンピュータを用いて行う計算レベルであり、大型のメモリ容量と、HDD容量との計算資源が必要であり、長大な計算時間、解析結果処理のための多大な計算コストの増大を招く。
【0170】
しかし、数1000万個〜数億セル以上のオーダーのセル分割に関しては、セルの自動生成だけなら、比較的低容量のメモリを備えるコンピュータで、短時間で実行できる。
【0171】
そこで、数1000万個〜数億個以上のオーダーのセル分割を、解析領域内で行い、そのセル分割に基づいて、ドメイン1、ドメイン2、ドメイン3、・・・、最終ドメインと階層構造型にドメイン分割を行うこともできる。ドメイン分割数が、数千〜数万個のオーダーであれば、比較的低容量のメモリを備えるコンピュータで短時間に数値解析を実行できる。
【0172】
この場合、セルを集合させたドメインの境界形状は非常に複雑な多面となるが、幾何学的形状を規定する量を使用しないセルによる連続体の数値解析手法を用いることによって、解析領域の境界形状のセル分割精度を維持した状態で、連続体の数値解析を、比較的低メモリのコンピュータで、解析結果に含まれる誤差を問題とならない程度に抑制しながら、短時間に実行できる。
【0173】
以下、連続体の数値解析をMBDへ適用した場合について、詳細に説明する。
【0174】
MBDは、基本的に非定常解析であり、計算の高速性が要求される。スーパーコンピュータを用いて行う計算レベルの数値解析と、MBDプログラムによる非定常解析とを連成させて解析することは困難である。
【0175】
しかし、ドメイン分割数が、数千〜数万個のオーダーであれば、比較的低容量のメモリを備えるコンピュータで、短時間で、数値解析を実行できる。このため、解析領域の境界形状のセル分割の細かさ、計算精度を維持した状態の数値解析の結果に基づいて、MBDプログラムによる非定常解析を短時間に実行できる。
【0176】
さらに、前述したように、自動生成されたコントロールボリューム(セル)では、セル間での物理量の保存則を満足させながら数値解析を行う。このため、コントロールボリューム(セル)から、ドメイン1、ドメイン2、ドメイン3、・・・、最終ドメインと階層構造型に設定されたドメインでも、ドメイン間での物理量の保存則は満足されている。比較的粗い、数千〜数万個のオーダーのドメイン分割でも、非常に細かいセル分割と同じオーダーで物理量の保存則を満足させながら数値解析ができる。
【0177】
MBDプログラム、例えば、シーメンス社の1D(1次元)マルチドメインシミュレーションのための統合プラットフォームとして、LMS Imagine.Lab Amesim(商品名)やマスワークス社のSimulink(商品名)に、計算モデルを実装する場合は、MBDプログラムの仕様、計算性能、CPUやメモリ等の計算環境にも依存するが、ドメイン分割数は、数個〜数10個〜数100個のオーダーとするのが好ましい。
【0178】
解析領域内の高い計算精度の細かなセル分割に基づいて、最終ドメインを形成するが、MBDプログラムに実装する計算モデルでのドメイン分割数が数個〜数10個〜数100個のオーダーの場合、最初のセル分割の細かく大きなセル分割数と、MBDプログラムに実装する計算モデルでのドメイン分割数との間に大きな差が生じる。
【0179】
ドメイン分割数が数個〜数10個〜数100個のオーダーであるため、ドメインのコントロールポイントで計算される物理量は、初期の詳細なセル分割による計算結果と比較すると、平均化された量として計算される。しかし、非常に細かいセル分割と同じオーダーで物理量の保存則を満足させながら数値解析を行うことができ、一定程度の高精度を維持し、且つ計算時間を短縮できる。
【0180】
(熱伝導解析)
拡散場の数値解析の一例として熱伝導解析を説明する。
【0181】
熱伝導解析の基礎方程式は、式(30)、または、式(31)、式(32)によって示される。
【0184】
【数32】
式(30)、または、式(31)、式(32)において、Tは温度、λは熱伝導率、αは温度拡散率、ρは密度、C
pは比熱を表す。それ以外の変数、添え字、偏微分係数、に関しては、前述した通りである。温度拡散率αは、式(32)で定義され、式(30)を、αを用いて記述すると、式(31)が得られる。
【0185】
前述した基礎方程式を、コントロールボリューム(セル)で積分すると、式(33)が得られる。式(33)を、
図1に示すセルaと、セルaを囲むm個のセルbに対して離散化を行うと、式(34)が得られる。
【0187】
【数34】
式(30)−式(34)、および以降の式において、セルに関するV
a、S
ab等の表記法、ドメインに関するV
A、S
AB等の表記法は、前述した通りである。
【0188】
式(34)の右辺の温度の法線方向微分(∂T/∂n)
abは、以下のように計算される。
【0190】
【数36】
従って、式(34)は、以下のように表される。
【0191】
【数37】
ドメインに関しては、
図13に示すドメインAと、ドメインAを囲むM個のドメインBに対して離散化を行うと、式(38)が得られる。
【0192】
【数38】
一方、ドメインにおける離散化方程式は、式(37)をドメイン内で加算し集合和を計算することによって得ることができる。ドメインA内に含まれるコントロールボリューム(セル)の数をNV
Aとすると、式(39)が得られる。
【0193】
【数39】
式(39)の右辺における、(T
b−T
a)/([r]
ab・[n]
ab)の項は、
図1において、セルaの離散化式とセルbの離散化式とでは、面S
abにおいて絶対値が等しく正負が逆であるため、ドメインA内の集合和を計算する際に互いに打ち消しあう。このため、式(39)の右辺は、式(40)のようにドメインAの境界積分となる。
【0194】
【数40】
式(40)において、NS
ABは、ドメインAの境界S
ABに接するコントロールボリューム(セル)の境界の数である。
【0195】
ドメインとコントロールボリューム(セル)との間の変数の関係をまとめると、式(41)−式(45)が得られる。
【0200】
【数45】
式(41)−式(45)と、式(46)の近似が成り立つ場合、式(39)と式(40)とは、式(38)と一致する。この場合、セル間で保存される移動熱量の積算値は、セルの集合和であるドメイン間でも保存される。
【0201】
【数46】
ドメインAとドメインBとの間の境界面S
ABにおける温度の法線方向勾配と、ドメインAとドメインBの中心間の温度の法線方向勾配がほぼ等しい場合、式(46)の近似が成り立つ。
【0202】
ドメインに含まれるセル数が少なく、ドメイン間温度勾配とセル間温度勾配が近い値を示すときは、式(46)の近似が成り立ち、式(38)を用いて、移動熱量を高い精度で保存しながら熱伝導解析を行うことができる。
【0203】
ここで、ドメインAとドメインBの間の境界面S
ABにおける補正係数をξ
λABとし、以下の式(47)を定義する。式(47)によれば、物性値と、分割領域での計算データモデルによる物理現象の解析結果である物理量とに基づく補正係数を導出できる。
【0204】
【数47】
ドメインAとドメインBの間の境界面S
ABにおける温度の法線方向勾配と、ドメインAとドメインBの中心間の温度の法線方向勾配が等しいとき、補正係数は、ξ
λAB=1となる。
【0205】
式(47)の補正係数を用いると、ドメインにおける離散化方程式である式(38)は、以下の式(48)のように表される。式(48)によれば、物性値と、分割領域での計算データモデルによる物理現象の解析結果である物理量とに基づく補正係数と、集合領域での離散化方程式を補正係数で補正した補正離散化方程式に基づく集合領域での計算データモデルと、に基づいて、コンダクタンスが計算される。
【0206】
【数48】
式(48)をMBDの電気回路形式で表すために、以下のように、熱抵抗R
ABと、その逆数である熱コンダクタンスC
ABを定義する。
【0207】
【数49】
式(49)を式(48)に代入すると、以下の式(50)のように、MBDの電気回路形式で表された微分方程式(熱回路網方程式)が得られる。
【0208】
【数50】
MBDの電気回路形式で表された微分方程式(熱回路網方程式)(50)において、集合領域Aの熱キャパシタンス(熱容量)は、式(50)左辺の時間微分項の係数として、(ρ・C
p・V
A)と表される。
【0209】
式(50)は、熱抵抗を電気抵抗、温度Tを電圧、熱容量(ρ・C
p・V
A)を電気容量(キャパシタンス)に置き換えれば、キルヒホッフの法則を満足させながら非定常計算される電気回路の計算(熱回路網計算)と同じである。
【0210】
熱伝導解析によれば、解析領域での物性値と、集合領域での計算データモデルとに基づいて、集合領域同士及び解析領域外への物理量の移動の特性を表すコンダクタンスと、集合領域ごとの物理量の蓄積の特性を表すキャパシタンスとを計算できる。
【0211】
従って、後述するMBDプログラムへの熱コンダクタンスと熱キャパシタンスの実装方法により、熱コンダクタンスと熱キャパシタンスをMBDプログラムに組み込み、あるいは、熱コンダクタンスと熱キャパシタンスを組み込んだ熱回路網モデルをMBDプログラムから呼び出される実行モジュールとすることにより、熱コンダクタンスと熱キャパシタンスを組み込んだ熱回路網モデルを連成させたMBDプログラムによって、非定常数値計算を実行することができる。
【0212】
以上のように、分割領域のコントロールボリューム(セル)によって、一度、解析結果を得れば、それ以降の非定常計算は、セルよりも少ない数のドメインで解析をすればよい。
【0213】
(熱の移流拡散解析)
移流拡散場の数値解析の一例として、熱の移流拡散解析について説明する。熱伝導解析の場合と同様に、MBDプログラムとの連成を目的に、粗く分割されたドメインの計算精度(保存則の計算精度)の改良方法を説明する。
【0214】
熱の移流拡散解析の基礎方程式を、式(51)に示す。ここで、変数、添え字、偏微分係数、に関しては、前述の通りである。ただし、α
*は、式(52)で定義される乱流拡散を考慮した温度拡散率であり、α
tは乱流拡散係数である。
【0216】
【数52】
基礎方程式を、コントロールボリューム(セル)で積分すると、式(53)が得られる。
【0217】
【数53】
式(53)の左辺第1項と右辺に関しては、熱伝導解析で説明した通りである。
【0218】
ここでは、式(53)の左辺第2項(移流項)の取り扱いを説明する。説明を簡易にするために、左辺第2項(移流項)から物性値を除いた、式(54)の項を対象とする。
【0219】
【数54】
前述したように、保存則が満足されていれば、ドメイン内に含まれるセルの加算による集合和については、ドメイン内部は打ち消しあうため、以下の式(55)のようにドメインの境界積分となる。
【0220】
【数55】
ここで、u
nabはセルaとセルbの間の境界面S
abにおける法線方向流速であり、予め解析領域をセル分割し、熱流体計算を実行し、セル間の境界面の全てについて法線方向流速を求めておく。
【0221】
T
abはセルaとセルbのコントロールポイントの温度から補間によって計算された境界面S
AB上の温度である。風上性を考慮する場合は、セルaとセルbの温度から補間する際に、風上スキームを考慮して、境界面S
AB上の温度を計算する。
【0222】
前述したように、ドメイン内に含まれるセル数が非常に多い場合は、ドメインAとドメインBとの間の境界面S
ABにおける補正係数を、以下のように定義する。
【0223】
ドメイン境界面S
AB上の法線方向流速u
nABは、式(56)から求められる。これを用いて、式(57)により、補正係数ξ
UABを求める。
【0225】
【数57】
式(57)の補正係数を用いて、式(53)を基にドメイン内加算による集合和を計算すると、以下のようなドメイン分割に対する離散化方程式が得られる。
【0226】
【数58】
式(58)の右辺の補正係数ξ
αABは、前述した熱伝導解析の補正係数の式(47)を使用し、熱伝導率λを温度拡散率α
*に置き換えることで求められる。補正係数ξ
αABは、物性値と、分割領域での計算データモデルによる物理現象の解析結果である物理量とに基づく補正係数である。
【0227】
式(58)をMBDプログラムの電気回路形式で表すために、以下のように、熱抵抗とその逆数である熱コンダクタンスを定義する。
【0229】
【数60】
式(59)と、式(60)とを、式(58)に代入すると、以下のように、MBDの電気回路形式で表された微分方程式(熱回路網方程式)が得られる。
【0230】
移流項(左辺第2項)は、法線方向流速u
nABの正負によって変化する。1次風上スキームの場合、正のときT
AB=T
A、負のときT
AB=T
Bである。
【0231】
【数61】
7 MBDの電気回路形式で表された微分方程式(熱回路網方程式)(61)において、集合領域Aの熱キャパシタンス(熱容量)は、式(61)の左辺第1項の時間微分項の係数として、(ρ・C
p・V
A)と表される。
【0232】
式(61)は、熱伝導解析と同様に、MBDプログラムの電気回路形式で表された微分方程式(熱回路網方程式)として表すことができる。熱抵抗を電気抵抗、温度Tを電圧、熱容量(ρ・C
p・V
A)を電気容量(キャパシタンス)に置き換えれば、キルヒホッフの法則を満足させながら非定常計算される電気回路の計算(熱回路網計算)と同じである。従って、後述するMBDプログラムへの熱コンダクタンスと熱キャパシタンスの実装方法により、熱コンダクタンスと熱キャパシタンスをMBDプログラムに組み込み、あるいは、熱コンダクタンスと熱キャパシタンスを組み込んだ熱回路網モデルをMBDプログラムから呼び出される実行モジュールとすることにより、熱コンダクタンスと熱キャパシタンスを組み込んだ熱回路網モデルを連成させたMBDプログラムによって非定常数値計算を実行することができる。
【0233】
以上のように、熱の拡散場、熱の移流拡散場を、MBDプログラムに実装するための電気回路モデルとして表すことができることを説明した。従って、移流と拡散場で表される連続体モデル(熱、流体、物質拡散、等)は全て、後述するMBDプログラムへの実装方法により、コンダクタンスとキャパシタンスをMBDプログラムに組み込み、あるいは、コンダクタンスとキャパシタンスを組み込んだ電気回路モデルを連成させたMBDプログラムによって非定常数値計算を実行することができる。
【0234】
なお、拡散場の説明の式(47)で表される補正係数を、ξ
λAB=1とすると、式(49)で表されるドメイン間の熱コンダクタンスC
ABは、ドメイン間の境界面特性量(境界面の面積、法線ベクトル)、ドメインのコントロールポイント間の距離、物性値、から計算される。補正係数を求めるために、計算領域のセル分割から、熱伝導解析を実行する必要は無い。
【0235】
同様に、温度場の移流拡散解析も同じである。式(57)、式(58)の補正係数を1とすると、ドメイン間の熱コンダクタンスである式(59)、式(60)は、ドメイン間の境界面特性量(境界面の面積、法線ベクトル)、ドメインのコントロールポイント間の距離、物性値、から計算される。補正係数を求めるために、計算領域のセル分割から、熱流体解析を実行する必要は無い。
【0236】
補正係数を1とすると、補正係数を求めるために解析領域のセル分割を用いた数値シミュレーション計算を実行する必要が無く、この計算時間を削減できる。解析領域の境界形状のセル分割精度は、粗いドメイン分割でも維持されるので、解析領域の境界からの入出熱量を求める際に、境界の伝熱面積を高精度に維持したMBDプログラムを実行することができる。
【0237】
次に、熱コンダクタンスと熱キャパシタンスの汎用MBDプログラムへの実装方法について説明する。熱コンダクタンスと熱キャパシタンスの汎用MBDプログラムへの実装とは、式(49)、式(50)、式(59)、式(60)、式(61)から計算される熱コンダクタンスおよび熱キャパシタンスを使用し、熱伝導解析の場合は式(50)、熱の移流拡散解析の場合は式(61)を基礎方程式とした熱回路網モデルを作成し、熱回路網モデルを、モデル記述言語を用いて汎用MBDプログラムにライブラリとして組み込む、あるいは熱回路網モデルを、プログラミング言語を用いて記述しコンパイルし実行モジュールとして汎用MBDプログラムから呼び出す、などの方法により、熱回路網モデルを汎用MBDプログラムと連成させることをいう。
【0238】
ここで、熱伝導解析の場合は式(50)、熱の移流拡散解析の場合は式(61)を基礎方程式とした熱回路網モデルは、次の手順で作成される。式(50)、式(61)の基礎方程式は、ドメインAからドメインBに移動する熱エネルギとドメインAに蓄積される熱エネルギの非定常変化を表す基礎方程式である。前述の通り、熱抵抗を電気抵抗、温度Tを電圧、熱容量(ρ・C
p・V
A)を電気容量(キャパシタンス)に置き換えれば、非定常計算される電気回路の計算(熱回路網計算)として、式(50)と、式(61)との非定常数値シミュレーション計算を実行することができる。前述の通り、解析領域は複数の集合領域、すなわちドメインに分割されている。これらのドメイン1つ1つに対して熱キャパシタンスを計算する。次に、1つのドメインから熱エネルギが移動する複数の他のドメインとの間の熱コンダクタンスを計算する。この手順を解析領域内のすべてのドメインに対して行うと、解析領域内のドメイン間をネットワーク状に結合した熱回路網モデルが作成される。各ドメインには熱キャパシタンスが設定され、ドメインとドメインの間には熱コンダクタンスが設定された熱回路網モデルが構築される。次に、熱キャパシタンスを電気容量、熱コンダクタンスの逆数である熱抵抗を電気抵抗に置き換えると、上記熱回路網モデルと等価な電気回路モデルが作成される。この電気回路モデルを、モデル記述言語、あるいはプログラミング言語を用いて記述する。モデル記述言語、あるいはプログラミング言語を用いて記述された電気回路モデルは、汎用MBDプログラムにライブラリとして組み込む、あるいはコンパイルされた実行モジュールとして汎用MBDプログラムから呼び出す、などの方法により、汎用MBDプログラムと連成させる。
【0239】
モデル記述言語としては、VHDL−AMS(Very−High Speed IC Hardware Description Language−Analog Mixed Signals)と呼ばれる汎用的なモデル記述言語がある。さらに、汎用MBDプログラムそれぞれに固有のモデル記述言語があり、それを用いる。
【0240】
式(50)と、式(61)とを、モデル記述言語でプログラムコード化する。電気抵抗や電気容量(キャパシタンス)のモデルの記述方法はパターン化されており、ドメイン分割とドメイン間のネットワーク結合に従って、式(50)と、式(61)とに対して、ドメイン数とドメイン間のネットワーク結合の数だけモデル記述言語でプログラムコードを自動生成させることができる。これをライブラリとしてMBDプログラムへ受け渡すことにより、MBDプログラムと連成させて非定常数値シミュレーション計算を実行することができる。
【0241】
同様に、Fortran、C++などの数値計算に用いられる通常のプログラミング言語により、式(50)と、式(61)とを、通常のプログラミング言語でプログラムコード化する。電気抵抗や電気容量(キャパシタンス)のモデルのプログラミング言語による記述はパターン化することができるので、ドメイン分割とドメイン間のネットワーク結合に従って、式(50)と、式(61)とに対して、ドメイン数とドメイン間のネットワーク結合の数だけプログラミング言語でプログラムコードを自動生成させることができる。これをコンパイラーによりコンパイルし実行モジュールを生成しMBDプログラムから呼び出すことにより、MBDプログラムと連成させた非定常数値シミュレーション計算を実行することができる。
【0242】
(数値解析装置、数値解析プログラム)
以下、本実施形態に係る数値解析装置と、本実施形態に係る数値解析プログラムとについて説明する。以下の実施形態においては、自動車のキャビン空間の熱の移流拡散現象を数値解析によって求める場合について説明する。
【0243】
図16に示すように、本実施形態の数値解析装置Aは、パーソナルコンピュータやワークステーション等のコンピュータによって構成されるものであり、CPU1、記憶装置2、DVD(Digital Versatile Disc)ドライブ3、入力装置4、出力装置5、及び通信装置6を備えている。数値解析装置Aは、社内LAN等のネットワークNを介して、CAD装置Cと、数値解析装置Bと接続される。
【0244】
CPU1は、記憶装置2、DVDドライブ3、入力装置4、出力装置5、及び通信装置6と電気的に接続されており、これらの各種装置から入力される信号を処理すると共に、処理結果を出力する。
【0245】
記憶装置2は、メモリ等の内部記憶装置及びハードディスクドライブ等の外部記憶装置によって構成されており、CPU1から入力される情報を記憶すると共にCPU1から入力される指令に基づいて記憶した情報を出力する。
【0246】
そして、本実施形態において記憶装置2は、プログラム記憶部2aとデータ記憶部2bとを備えている。
【0247】
プログラム記憶部2aは、数値解析プログラムPを記憶している。この数値解析プログラムPは、所定のOSにおいて実行されるアプリケーションプログラムであり、コンピュータから構成される本実施形態の数値解析装置Aを、数値解析を行うように機能させる。そして、数値解析プログラムPは、本実施形態の数値解析装置Aを、例えば演算部1opとして機能させる。
【0248】
そして、
図16に示すように、数値解析プログラムPは、プリ処理プログラムP1と、ソルバ処理プログラムP2と、ポスト処理プログラムP3とを有している。
【0249】
プリ処理プログラムP1は、ソルバ処理を実行するための前処理(プリ処理)を本実施形態の数値解析装置Aに実行させるものであり、本実施形態の数値解析装置Aを演算部1opとして機能させることによって、計算用データモデルを作成させる。また、プリ処理プログラムP1は、本実施形態の数値解析装置Aに、ソルバ処理を実行するにあたり必要となる条件の設定を実行させ、さらには上記計算用データモデルや設定された条件を纏めたソルバ入力データファイルFの作成を実行させる。
【0250】
そして、プリ処理プログラムP1は、本実施形態の数値解析装置Aを演算部1opとして機能させる場合に、まず本実施形態の数値解析装置Aに対して、自動車のキャビン空間を含む3次元形状データを取得させ、この取得させた3次元形状データに含まれる自動車のキャビン空間を示す解析領域の作成を実行させる。
【0251】
なお、後に詳説するが、本実施形態においては、ソルバ処理において、前述の本数値解析手法にて説明した幾何学的形状を規定する量を必要としない量のみを使用すると共に重み付き残差積分法に基づいて導出された離散化支配方程式を用いる。このため、計算用データモデルの作成にあたり、保存則を満たす条件の下、分割領域の形状及び解析領域の形状を任意に変更できる。よって、3次元形状データに含まれる自動車のキャビン空間の修正あるいは変更作業は簡易的なもので充分となる。そこで、本実施形態においてプリ処理プログラムP1は、本実施形態の数値解析装置Aに対して、取得させた3次元形状データに含まれる自動車のキャビン空間に存在する穴や隙間に、微小な閉曲面を覆いかぶせるラッピング処理によって修繕する処理を実行させる。
【0252】
その後、プリ処理プログラムP1は、本実施形態の数値解析装置Aに対して、複数の分割領域に分割する処理で説明したように分割領域を形成し、ラッピング処理等により修繕されたキャビン空間の全領域を含む解析領域の作成を実行させる。続いて、プリ処理プログラムP1は、本実施形態の数値解析装置Aに対して作成された分割領域のうちキャビン空間から食み出した領域をカットすることによって、キャビン空間を示す解析領域の作成を実行させる。ここでも、ソルバ処理において前述の離散化支配方程式を用いることから、解析領域のうちキャビン空間から食み出した領域を容易にカットすることができる。
【0253】
これにより、ボクセル法のように、外部空間との境界が階段状になることがなく、また、ボクセル法のカットセル法のような外部空間の境界付近の解析領域の形成に対して、経験や試行錯誤を要する非常に膨大な手作業を伴う特別な修正または処理を必要としない。そのため、本実施形態では、ボクセル法で問題となる外部空間との境界の処理に関わる問題がない。
【0254】
なお、本実施形態においては、後述のようにキャビン空間とカットした領域との隙間に新たな任意形状の分割領域を充填することによって、直交格子形状のみによらない分割領域で解析領域が構成されるようにし、さらには解析領域に分割領域を重なることなく充填させている。
【0255】
また、プリ処理プログラムP1は、本実施形態の数値解析装置Aを演算部1opとして機能させる場合に、本実施形態の数値解析装置Aに対して、作成させたキャビン空間を示す解析領域に含まれる分割領域の各々の内部に対して1つのコントロールポイントを仮想的に配置する処理を実行させ、コントロールポイントの配置情報、及び各分割領域が占める体積データを記憶させる。
【0256】
また、プリ処理プログラムP1は、本実施形態の数値解析装置Aを演算部1opとして機能させる場合に、本実施形態の数値解析装置Aに対して、上記分割領域同士の境界面である境界面の面積及び法線ベクトルの算出を実行させ、これらの境界面の面積及び法線ベクトルを記憶させる。
【0257】
また、プリ処理プログラムP1は、本実施形態の数値解析装置Aを演算部1opとして機能させる場合に、各分割領域のコントロールポイントの結合情報(link)を作成させ、このlinkを記憶させる。
【0258】
そして、プリ処理プログラムP1は、分割領域での計算用データモデルを生成する処理で説明したように、本実施形態の数値解析装置Aに対して、上記各分割領域の体積と、境界面の面積及び法線ベクトルと、各分割領域のコントロールポイントの配置情報と、各分割領域のコントロールポイントの結合情報(link)とを纏めさせて計算用データモデルを作成させる。配置情報が示す配置は、例えば座標を用いて示されてもよい。
【0259】
また、プリ処理プログラムP1は、本実施形態の数値解析装置Aを演算部1opとして機能させる場合に、本実施形態の数値解析装置Aに対して、集合領域を生成する処理で説明したように、作成させたキャビン空間を示す解析領域に含まれる分割領域を複数集合させることによって、要求される数の集合領域を生成させる。
【0260】
また、プリ処理プログラムP1は、本実施形態の数値解析装置Aを演算部1opとして機能させる場合に、本実施形態の数値解析装置Aに対して、生成させた集合領域の各々の内部に対して1つのコントロールポイントを仮想的に配置する処理を実行させ、各集合領域のコントロールポイントの配置情報、及び各集合領域の体積データを記憶させる。
【0261】
また、プリ処理プログラムP1は、本実施形態の数値解析装置Aを演算部1opとして機能させる場合に、本実施形態の数値解析装置Aに対して、上記集合領域同士の境界面である境界面の面積及び法線ベクトルの算出を実行させ、これらの境界面の面積及び法線ベクトルを記憶させる。
【0262】
また、プリ処理プログラムP1は、本実施形態の数値解析装置Aを演算部1opとして機能させる場合に、集合領域のコントロールポイントの結合情報(link)を作成させ、このlinkを記憶させる。
【0263】
そして、プリ処理プログラムP1は、本実施形態の数値解析装置Aに対して、集合領域での計算用データモデルを生成する処理で説明したように、上記各集合領域の体積と、上記集合領域同士の境界面である境界面の面積及び法線ベクトルと、各集合領域のコントロールポイントの配置情報と、各集合領域のコントロールポイントの結合情報(link)とを纏めさせて計算用データモデルを作成させる。配置情報が示す配置は、例えば座標を用いて示されてもよい。
【0264】
また、プリ処理プログラムP1は、本実施形態の数値解析装置Aに、前述のソルバ処理を実行するにあたり必要となる条件の設定を行わせる場合には、物性値の設定、境界条件の設定、初期条件の設定、計算条件の設定を行わせる。
【0265】
ここで、物性値とは、キャビン空間における空気の密度、粘性係数、熱伝導率等である。
【0266】
境界条件とは、コントロールポイント間の物理量の交換の法則を規定するものであり、本実施形態においては前述した式(11)で示される熱伝導方程式に基づく離散化支配方程式、及び式(12)で示される熱の移流拡散方程式に基づく離散化支配方程式である。
【0267】
また、境界条件には、キャビン空間と外部空間との境界面に臨む分割領域を示す情報が含まれる。
【0268】
初期条件とは、ソルバ処理を実行する際の最初の物理量を示すものであり、各分割領域の物理量の初期値である。
【0269】
計算条件とは、ソルバ処理における計算の条件であり、例えば反復回数や収束基準である。
【0270】
また、プリ処理プログラムP1は、本実施形態の数値解析装置Aに、GUI(Graphical User Interface)を形成させる。より詳細には、プリ処理プログラムP1は、出力装置5が備えるディスプレイ5aに対してグラフィックを表示させると共に、入力装置4が備えるキーボード4aやマウス4bによって操作が可能な状態とさせる。
【0271】
ソルバ処理プログラムP2は、本実施形態の数値解析装置Aにソルバ処理を実行させるものであり、本実施形態の数値解析装置Aを物理量計算装置として機能させる。
【0272】
ここで、集合領域同士の物理量移動の特性を表すコンダクタンスと、集合領域の物理量の蓄積量の特性を表すキャパシタンスを計算させる際の、補正係数を1とするか1としない(ソルバ処理により補正係数を導出)か、その選択を、前述のGUIおよびキーボードやマウス操作により数値解析装置Aの作業者に入力させる。
【0273】
そして、補正係数を1としない場合、初期計算として、ソルバ処理プログラムP2は、本実施形態の数値解析装置Aを演算部1opとして機能させる場合に、計算用データモデルが有する分割領域のコントロールボリュームの体積と分割領域の境界面の面積及び法線ベクトルとを含むソルバ入力データファイルFを用いて、解析領域における物理量を計算させる(初期計算)。この解析領域における物理量の初期計算結果と、分割領域での物性値と分割領域での計算用データモデルとに基づいて、補正係数を計算する。
【0274】
そして、ソルバ処理プログラムP2は、本実施形態の数値解析装置Aを演算部1opとして機能させる場合に、計算する処理で説明したように、前述の補正係数と、解析領域での物性値と、集合領域での計算データモデルとに基づいて、集合領域同士の物理量の移動の特性を表すコンダクタンスと、集合領域の物理量の蓄積量の特性を表すキャパシタンスを計算させる。
【0275】
補正係数を1とする場合は、ソルバ処理プログラムP2は、初期計算を実行せず、本実施形態の数値解析装置Aを演算部1opとして機能させる場合に、計算する処理で説明したように、補正係数を1とし、解析領域での物性値と、集合領域での計算データモデルとに基づいて、集合領域同士の物理量移動の特性を表すコンダクタンスと、集合領域の物理量の蓄積量の特性を表すキャパシタンスを計算させる。
【0276】
次に、ソルバ処理では、熱コンダクタンスと熱キャパシタンスの汎用MBDプログラムへの実装方法で説明したように、前述のコンダクタンスとキャパシタンスとを用いて、解析領域内の全ての集合領域のコントロールポイント間をネットワーク状に結合したキャビン熱回路網モデルを作成し、モデル記述言語あるいはプログラミング言語で記述されたキャビン熱回路網モデルデータ(計算結果データ)としてデータ記憶部2bに記憶させる。
【0277】
ポスト処理プログラムP3は、本実施形態の数値解析装置Aに対して、計算結果の可視化処理、抽出処理等を実行させる。
【0278】
ここで、可視化処理とは、例えば、前述の初期計算を実行した場合、初期計算結果データを用いて、断面コンタ表示、ベクトル表示、等値面表示、アニメーション表示を出力装置5に出力させる処理である。また、抽出処理とは、前述の初期計算を実行した場合、初期計算結果データを用いて、作業者が指定する領域の定量値を抽出して数値やグラフとして出力装置5に出力させる、あるいは作業者が指定する領域の定量値を抽出してファイル化したものの出力を実行させる処理である。
【0279】
また、ポスト処理プログラムP3は、本実施形態の数値解析装置Aに対して、ソルバ処理により計算されたコンダクタンスとキャパシタンスおよびキャビン熱回路網モデルデータに関する自動レポート作成、計算結果の表示等を実行させる。
【0280】
データ記憶部2bは、計算用データモデルM、境界条件を示す境界条件データD1、計算条件を示す計算条件データD2、物性値を示す物性値データD3、及び初期条件を示す初期条件データD4を有するソルバ入力データファイルFと、3次元形状データD5と、計算結果データD6等を記憶する。また、データ記憶部2bは、CPU1の処理過程において生成される中間データを一時的に記憶する。
【0281】
DVDドライブ3は、DVDメディアXを取り込み可能に構成されており、CPU1から入力される指令に基づいて、DVDメディアXに記憶されるデータを出力する。そして、本実施形態においては、DVDメディアXに数値解析プログラムPが記憶されており、DVDドライブ3は、CPU1から入力される指令に基づいて、DVDメディアXに記憶される数値解析プログラムPを出力する。
【0282】
入力装置4は、本実施形態の数値解析装置Aと作業者とのマンマシンインターフェイスであり、ポインティングデバイスであるキーボード4aやマウス4bを備えている。
【0283】
出力装置5は、CPU1から入力される信号を可視化して出力するものであり、ディスプレイ5a及びプリンタ5bを備えている。
【0284】
通信装置6は、本実施形態の数値解析装置AとCAD装置C等の外部装置との間においてデータの受け渡しを行うものであり、社内LAN(Local Area Network)等のネットワークNに対して電気的に接続されている。ここでは、通信装置6は、CPU1が抽出したキャビン熱回路網モデルデータを取得し、取得したキャビン熱回路網モデルデータを、後述する数値解析装置Bへ送信する。また、USBフラッシュドライブ(USB flash drive)などの補助記憶装置にキャビン熱回路網モデルデータを記憶させ、補助記憶装置から数値解析装置Bへ、記憶させたキャビン熱回路網モデルデータを出力させてもよい。
【0285】
次に、このように構成された本実施形態の数値解析装置Aを用いた数値解析方法(本実施形態のシミュレーション方法)について、
図17と、
図18のフローチャートを参照して説明する。
【0286】
本実施形態の数値解析方法を行うより前に、CPU1は、DVDドライブ3に取り込まれたDVDメディアXに記憶された数値解析プログラムPをDVDメディアXから取り出し、記憶装置2のプログラム記憶部2aに記憶させる。
【0287】
そして、CPU1は、入力装置4から数値解析の開始を指示する信号が入力されると、記憶装置2に記憶された数値解析プログラムPに基づいて数値解析を実行する。より詳細には、CPU1は、プログラム記憶部2aに記憶されたプリ処理プログラムP1に基づいてプリ処理を実行し、プログラム記憶部2aに記憶されたソルバ処理プログラムP2に基づいてソルバ処理を実行し、プログラム記憶部22aに記憶されたポスト処理プログラムP3に基づいてポスト処理を実行する。なお、このようにCPU1がプリ処理プログラムP1に基づくプリ処理を実行することによって、本実施形態の数値解析装置Aが演算部1opとして機能される。また、CPU1がソルバ処理プログラムP2に基づくソルバ処理を実行することによって、本実施形態の数値解析装置Aが演算部1opとして機能される。
【0288】
図17は、本実施形態の数値解析装置Aの動作の一例を示すフローチャートである。
図17は、数値解析装置Aが、計算用データモデルを作成する処理を示す。
【0289】
(ステップS1)
プリ処理が開始されると、CPU1は、通信装置6に、ネットワークNを介してCAD装置Cから自動車のキャビン空間を含む3次元形状データD5を取得させる。CPU1は、取得した3次元形状データD5を記憶装置2のデータ記憶部2bに記憶させる。
【0290】
続いて、CPU1は、取得した3次元形状データD5の分析を行い、データ記憶部2bに記憶された3次元形状データD5に含まれる、曲面の重なり、交差した曲面、曲面間の隙間、微小穴等を検出する。
【0291】
続いて、CPU1は、取得した3次元形状データD5の修正あるいは変更処理を実行する。より詳細には、CPU1は、3次元形状データD5に含まれるキャビン空間Kを微小な閉曲面によってラッピング等の処理を実行することによって、曲面の重なり、交差した曲面、曲面間の隙間、微小穴等の存在が排除されたキャビン空間の3次元形状データD5とする。
【0292】
なお、CPU1は、当該修正あるいは変更処理において、GUIを形成し、GUIから指令(例えば修繕する領域を示す指令)が入力された場合には、当該指令を反映させた修正あるいは変更処理を実行する。
【0293】
CPU1は、修正あるいは変更された3次元形状データD5から、キャビン空間の全領域を含むと共に分割領域に分割された解析領域の作成を実行する。なお、ここでは、時間の短縮のために、解析領域が直交格子の分割領域で分割するようにしているが、解析領域を構成する分割領域は、必ずしも直交格子である必要はなく、任意の形状とすることができる。
【0294】
次に、CPU1は、キャビン空間から食み出した分割領域を削除することで、解析領域をキャビン空間に食み出すことなく収容する。この結果、解析領域の境界面とキャビン空間の境界面との間に隙間が形成される。
【0295】
次に、CPU1は、解析領域の一部となる新たな分割領域を隙間に充填する。
【0296】
本実施形態の数値解析方法では、前述したように、幾何学的形状を規定する量を持たない分割領域での計算用データモデルを作成するため、分割領域の幾何学的形状に制約を課すことなく計算用データモデルを作成できる。つまり、計算用データモデルを作成するにあたり、解析領域を構成する分割領域は、任意の形状を取ることができる。したがって、CPU1は、新たな分割領域を隙間に充填するにあたり、分割領域の形状を任意に設定できる。このため、極めて容易に隙間を分割領域で充填でき、例えば、GUIにより作業者が作業しなくとも、自動で分割領域を形成することも充分に可能である。仮に、従来の有限体積法において隙間を分割領域で充填する場合には、前述のように、分割領域の幾何学的形状に対する制約の下、許容外の歪みや捩れが生じないように分割領域を配置する必要がある。この作業は、作業者の手作業となり、結果、作業者に膨大な負担を強いることとなると共に、解析作業時間の長期化を招くこととなる。
【0297】
次にCPU1は、キャビン空間を示す解析領域に含まれる各分割領域内に1つのコントロールポイントを仮想的に配置する。ここでは、CPU1は、分割領域に対して1つのコントロールポイントを仮想的に配置する。そして、CPU1は、コントロールポイントの配置情報、各コントロールポイントが占めるコントロールボリュームの体積(コントロールポイントが配置される分割領域の体積)を算出し、記憶装置2のデータ記憶部2bに一時的に記憶させる。
【0298】
また、CPU1は、分割領域同士の境界面である境界面の面積及び法線ベクトルを算出し、これらの境界面の面積及び法線ベクトルを記憶装置2のデータ記憶部2bに一時的に記憶させる。
【0299】
また、CPU1は、linkを作成し、このlinkを記憶装置2のデータ記憶部2bに一時的に記憶させる。
【0300】
そして、CPU1は、データ記憶部2bに記憶された、コントロールポイントの配置情報と、各コントロールポイントが占めるコントロールボリュームの体積と、境界面の面積及び法線ベクトルと、linkとをデータベース化することによって計算用データモデルMを作成し、作成した計算用データモデルMを記憶装置2のデータ記憶部2b内に記憶させる。
【0301】
なお、キャビン空間を含む解析領域を分割領域にて分割し、さらにキャビン空間から食み出した分割領域を削除し、さらにその結果生じた解析領域とキャビン空間との隙間に新たな分割領域を充填することによって最終的な解析領域が作成される。このため、キャビン空間の全領域が重ならない分割領域によって充填された状態とされる。
【0302】
したがって、計算用データモデルは、前述した保存則を満足するための3つの条件(a)〜(c)を満たすものとされている。
【0303】
また、本実施形態では、先に分割領域を形成し、その後コントロールポイントを配置し、各コントロールポイントに対して、自らが配置された分割領域の体積を割り当てる構成を採用している。
【0304】
しかしながら、本実施形態においては、先にコントロールポイントを解析領域に配置し、各コントロールポイントに対して後から体積を割り当てることもできる。
【0305】
具体的には、例えば、異なるコントロールポイントにぶつかるまでの半径や、結合関係にある(linkで関連付けられた)コントロールポイントまでの距離に基づいて、各コントロールポイントに対して重み付けを行う。
【0306】
また、当該計算用データモデルの作成において、CPU1は、GUIを形成し、GUIから指令(例えば分割領域の密度を示す指令や分割領域の形状を示す指令)が入力された場合には、当該指令を反映させた処理を実行する。したがって、作業者は、GUIを操作することによって、コントロールポイントの配置や分割領域の形状を任意に調節することができる。
【0307】
ただし、CPU1は、数値解析プログラムに記憶された保存則を満足するための3つの条件に照らし合わせ、GUIから入力される指令が、当該条件から外れる場合には、その旨をディスプレイ5aに表示させる。
【0308】
(ステップS2)
次に、CPU1は、分割領域を複数集合させることによって、要求される数の集合領域を生成する。
【0309】
本実施形態の数値解析方法では、前述したように、幾何学的形状を規定する量を持たない集合領域での計算用データモデルを作成するため、集合領域の幾何学的形状に制約を課すことなく計算用データモデル作成することができる。つまり、計算用データモデルを作成するにあたり、集合領域は、任意の形状を取ることができる。
【0310】
(ステップS3)
数値解析装置AのCPU1は、前述した集合領域を生成する処理にしたがって、要求されるセル分割の細かさや、計算精度に基づいて、ステップS2で生成したドメインを複数集合させることによって、新たにドメインを生成するか否かを判定する。ステップS3で、生成すると判定した場合、ステップS2へ移行する。
【0311】
(ステップS4)
ステップS3で、生成しないと判定した場合、数値解析装置AのCPU1は、キャビン空間を示す解析領域に含まれる各集合領域内に1つのコントロールポイントを仮想的に配置する。ここでは、CPU1は、集合領域に対して1つのコントロールポイントを仮想的に配置する。そして、CPU1は、コントロールポイントの配置情報、各コントロールポイントが占めるコントロールボリュームの体積(コントロールポイントが配置される集合領域の体積)を算出し、記憶装置2のデータ記憶部2bに一時的に記憶させる。
【0312】
また、CPU1は、集合領域同士の境界面である境界面の面積及び法線ベクトルを算出し、これらの境界面の面積及び法線ベクトルを記憶装置2のデータ記憶部2bに一時的に記憶させる。
【0313】
また、CPU1は、linkを作成し、このlinkを記憶装置2のデータ記憶部2bに一時的に記憶させる。
【0314】
そして、CPU1は、データ記憶部2bに記憶された、コントロールポイントの配置情報と、各コントロールポイントが占めるコントロールボリュームの体積と、境界面の面積及び法線ベクトルと、linkとをデータベース化することによって計算用データモデルMを作成し、作成した計算用データモデルMを記憶装置2のデータ記憶部2b内に記憶させる。
【0315】
集合領域での計算用データモデルは、前述した保存則を満足するための3つの条件(a)〜(c)を満たすものとされている。
【0316】
図18は、本実施形態の数値解析装置Aの動作の一例を示すフローチャートである。
図18は、数値解析装置Aが、キャビン熱回路網を作成する処理を示す。
【0317】
(ステップS11)
数値解析装置AのCPU1は、前述の計算用データモデルMを、記憶装置2のデータ記憶部2bから呼び出し、
図18のフローチャートに従って計算処理を実行する。
【0318】
(ステップS12)
補正係数を1とするか否か、その判定を、GUIから入力された数値解析装置Aの作業者による指令により判定する。
【0319】
(ステップS13)
補正係数を1としないと判定した場合について説明する。
【0320】
CPU1は、境界条件データの設定を行う。具体的には、CPU1は、GUIを用いて、ディスプレイ5a上に境界条件の入力画面を表示し、キーボード4aあるいはマウス4bから入力される境界条件を示す信号を境界条件データD1としてデータ記憶部2bに一時的に記憶させることで境界条件データの設定を行う。なお、ここで言う境界条件とは、キャビン空間の物理現象を支配する離散化支配方程式や、キャビン空間と外部空間との境界面に臨むコントロールポイントの特定情報、及びキャビン空間と外部空間との間における熱の伝熱条件等を示す。境界条件データが予め用意されたデフォルトデータでよい場合は、境界条件の入力画面でのGUIによる入力を行う必要は無く、デフォルトデータが自動的に境界条件データとして設定される。
【0321】
なお、これらの離散化支配方程式は、例えば、数値解析プログラムPに予め記憶された複数の離散化支配方程式をディスプレイ5a上に表示された複数の離散化支配方程式から作業者がキーボード4aやマウス4bを用いることによって選択される。
【0322】
CPU1は、初期条件データの設定を行う。具体的には、CPU1は、GUIを用いて、ディスプレイ5a上に初期条件の入力画面を表示し、キーボード4aあるいはマウス4bから入力される初期条件を示す信号を初期条件データD4としてデータ記憶部2bに一時的に記憶させることで初期条件データの設定を行う。初期条件データが予め用意されたデフォルトデータでよい場合は、初期条件の入力画面でのGUIによる入力を行う必要は無く、デフォルトデータが自動的に初期条件データとして設定される。
【0323】
CPU1は、計算条件データの設定を行う。具体的には、CPU1は、GUIを用いて、ディスプレイ5a上に計算条件の入力画面を表示し、キーボード4aあるいはマウス4bから入力される計算条件を示す信号を計算条件データD2としてデータ記憶部2bに一時的に記憶させることで計算条件データの設定を行う。なお、ここで言う計算条件とは、ソルバ処理における計算の条件であり、例えば、反復回数や収束基準を示す。計算条件データが予め用意されたデフォルトデータでよい場合は、計算条件の入力画面でのGUIによる入力を行う必要は無く、デフォルトデータが自動的に計算条件データとして設定される。
【0324】
CPU1は、物性値データの設定を行う。具体的には、CPU1は、GUIを用いて、ディスプレイ5a上に物性値の入力画面を表示し、キーボード4aあるいはマウス4bから入力される物性値を示す信号を物性値データD3としてデータ記憶部2bに一時的に記憶させることで物性値の設定を行う。なお、ここで言う物性値とは、キャビン空間における流体である空気の特性値であり、空気の密度、粘性係数、熱伝導率等である。物性値データが予め用意されたデフォルトデータでよい場合は、物性値の入力画面でのGUIによる入力を行う必要は無く、デフォルトデータが自動的に物性値データとして設定される。
【0325】
CPU1は、ソルバ入力データファイルFの作成を行う。
【0326】
具体的には、CPU1は、計算用データモデルMと、物性値データD3と、境界条件データD1と、初期条件データD4と、計算条件データD2とをソルバ入力データファイルFに格納することによってソルバ入力データファイルFを作成する。なお、このソルバ入力データファイルFは、データ記憶部2bに記憶される。
【0327】
続いて、CPU1は、ソルバ入力データの整合性を判定する。なお、ソルバ入力データとは、ソルバ入力データファイルFに格納されたデータを示し、計算用データモデルM、境界条件データD1、計算条件データD2、物性値データD3及び初期条件データD4である。
【0328】
具体的には、CPU1は、ソルバ処理において物理量計算を実行可能なソルバ入力データがソルバ入力データファイルFに全て格納されているかを分析することによってソルバ入力データの整合性の判定を行う。
【0329】
そして、CPU1は、ソルバ入力データが不整合であると判定した場合には、ディスプレイ5aにエラーを表示させ、さらには不整合である部分のデータを入力するための画面を表示させる。その後、CPU1は、GUIから入力される信号に基づいてソルバ入力データの調整を行う。
【0330】
一方、CPU1は、ソルバ入力データの整合性があると判定した場合には、初期計算処理を実行する。
【0331】
具体的には、CPU1は、境界条件データD1と、物性値データD3と、計算用データモデルMに記憶された部分領域の離散化支配方程式から離散化係数行列を作成し、さらにマトリクス計算用のデータテーブルの作成を行うことによって初期計算処理を行う。
【0332】
(ステップS14)
CPU1は、分割領域での初期計算結果とドメイン間の境界面特性量などから、補正係数を導出する。
【0333】
(ステップS15)
CPU1は、前述した計算する処理にしたがって、MBDでの熱回路網方程式の集合領域の熱コンダクタンスを、境界条件データD1と、物性値データD3と、計算用データモデルMに記憶された集合領域の離散化支配方程式とから、前述の補正係数を利用して、算出する。
【0334】
CPU1は、前述した計算する処理にしたがって、MBDでの熱回路網方程式の集合領域の熱キャパシタンス(熱容量)を、境界条件データD1と、物性値データD3と、計算用データモデルMに記憶された集合領域の離散化支配方程式とから、初期計算結果を利用せずに、算出する。
【0335】
(ステップS16)
補正係数を1とすると判定した場合について説明する。
【0336】
CPU1は、境界条件データの設定を行う。具体的には、CPU1は、GUIを用いて、ディスプレイ5a上に境界条件の入力画面を表示し、キーボード4aあるいはマウス4bから入力される境界条件を示す信号を境界条件データD1としてデータ記憶部2bに一時的に記憶させることで境界条件データの設定を行う。なお、ここで言う境界条件とは、キャビン空間の物理現象を支配する離散化支配方程式や、キャビン空間と外部空間との境界面に臨むコントロールポイントの特定情報、及びキャビン空間と外部空間との間における熱の伝熱条件等を示す。境界条件データが予め用意されたデフォルトデータでよい場合は、境界条件の入力画面でのGUIによる入力を行う必要は無く、デフォルトデータが自動的に境界条件データとして設定される。
【0337】
なお、これらの離散化支配方程式は、例えば、数値解析プログラムPに予め記憶された複数の離散化支配方程式をディスプレイ5a上に表示された複数の離散化支配方程式から作業者がキーボード4aやマウス4bを用いることによって選択される。
【0338】
CPU1は、物性値データの設定を行う。具体的には、CPU1は、GUIを用いて、ディスプレイ5a上に物性値の入力画面を表示し、キーボード4aあるいはマウス4bから入力される物性値を示す信号を物性値データD3としてデータ記憶部2bに一時的に記憶させることで物性値の設定を行う。なお、ここで言う物性値とは、キャビン空間における流体である空気の特性値であり、空気の密度、粘性係数、熱伝導率等である。物性値データが予め用意されたデフォルトデータでよい場合は、物性値の入力画面でのGUIによる入力を行う必要は無く、デフォルトデータが自動的に物性値データとして設定される。
【0339】
CPU1は、ソルバ入力データファイルFの作成を行う。具体的には、CPU1は、計算用データモデルMと、物性値データD3と、境界条件データD1とをソルバ入力データファイルFに格納することによってソルバ入力データファイルFを作成する。なお、このソルバ入力データファイルFは、データ記憶部2bに記憶される。
【0340】
続いて、CPU1は、ソルバ入力データの整合性を判定する。なお、ソルバ入力データとは、ソルバ入力データファイルFに格納されたデータを示し、計算用データモデルM、境界条件データD1、物性値データD3である。
【0341】
具体的には、CPU1は、ソルバ処理において、MBD熱回路網方程式の熱キャパシタンス(熱容量)や熱コンダクタンスの計算を実行可能なソルバ入力データがソルバ入力データファイルFに全て格納されているかを分析することによってソルバ入力データの整合性の判定を行う。
【0342】
そして、CPU1は、ソルバ入力データが不整合であると判定した場合には、ディスプレイ5aにエラーを表示させ、さらには不整合である部分のデータを入力するための画面を表示させる。その後、CPU1は、GUIから入力される信号に基づいてソルバ入力データの調整を行う。
【0343】
一方、CPU1は、ソルバ入力データの整合性があると判定した場合には、MBD熱回路網方程式の集合領域の熱キャパシタンス(熱容量)や集合領域の熱コンダクタンスの計算処理を実行する。
【0344】
具体的には、CPU1は、境界条件データD1と、物性値データD3と、計算用データモデルMに記憶された集合領域の離散化支配方程式とから、MBD熱回路網方程式の集合領域の熱キャパシタンス(熱容量)と、集合領域の熱コンダクタンスとを算出する。(ステップS17)
続いて、CPU1は、前述した熱コンダクタンスと熱キャパシタンスの汎用MBDプログラムへの実装方法で説明したように、MBD熱回路網方程式の集合領域の熱キャパシタンス(熱容量)と集合領域の熱コンダクタンスとを用いて、解析領域内の全ての集合領域のコントロールポイント間をネットワーク状に結合したキャビン熱回路網モデルを作成し、モデル記述言語あるいはプログラミング言語で記述されたキャビン熱回路網モデルデータ(計算結果データ)としてデータ記憶部2bに記憶させる。
【0345】
図19に示すように、本実施形態の数値解析装置Bは、パーソナルコンピュータやワークステーション等のコンピュータによって構成されるものであり、CPU1a、記憶装置2a、DVDドライブ3、入力装置4、出力装置5、及び通信装置6を備えている。
【0346】
CPU1aは、記憶装置2a、DVDドライブ3、入力装置4、出力装置5、及び通信装置6と電気的に接続されており、これらの各種装置から入力される信号を処理すると共に、処理結果を出力する。
【0347】
記憶装置2aは、メモリ等の内部記憶装置及びハードディスクドライブ等の外部記憶装置によって構成されており、CPU1aから入力される情報を記憶すると共にCPU1aから入力される指令に基づいて記憶した情報を出力する。
【0348】
そして、本実施形態において記憶装置2aは、プログラム記憶部2cとデータ記憶部2dとを備えている。
【0349】
プログラム記憶部2cは、MBDプログラムSを記憶している。このMBDプログラムSは、所定のOSにおいて実行されるアプリケーションプログラムであり、コンピュータから構成される本実施形態の数値解析装置Bを、数値解析を行うように機能させる。そして、MBDプログラムSは、本実施形態の数値解析装置Bを、例えば演算部1aopとして機能させる。
【0350】
MBDプログラムSは、本実施形態の数値解析装置Bを演算部1aopとして機能させる場合に、数値解析装置Aが送信したキャビン熱回路網モデルデータを使用して、MBDプログラムSは、解析領域を含む解析対象での物理量の非定常数値計算を行う。また、MBDプログラムSは、本実施形態の数値解析装置Bを演算部1aopとして機能させる場合に、補助記憶装置が出力したキャビン熱回路網モデルを使用して、解析領域を含む解析対象で物理量の非定常数値計算を行ってもよい。
【0351】
MBDプログラムSは、本実施形態の数値解析装置Bに対して、非定常数値計算の計算結果の可視化処理、抽出処理を実行させる。
【0352】
ここで、可視化処理とは、例えば、計算された物理量のグラフ表示、一覧表表示、アニメーション表示を出力装置5に出力させる処理である。また、抽出処理とは、作業者が指定する物理量の定量値を抽出して数値やグラフや一覧表として出力装置5に出力させる、あるいは作業者が指定する物理量の定量値を抽出してファイル化したものの出力を実行させる処理である。
【0353】
また、MBDプログラムSは、本実施形態の数値解析装置Bに対して、自動レポート作成、計算残差の表示及び分析を実行させる。
【0354】
データ記憶部2dは、MBDモデルライブラリファイルLと、計算結果データD7等を記憶する。また、データ記憶部2bは、CPU1aの処理過程において生成される中間データを一時的に記憶する。
【0355】
さらに、データ記憶部2dは、MBDモデルライブラリファイルLとして、通信装置6により数値解析装置Aから送信されたキャビン熱回路網モデルL1を記憶する。あるいは、補助記憶装置にキャビン熱回路網モデルデータを記憶させ、補助記憶装置から数値解析装置Bへ、記憶させたキャビン熱回路網モデルデータを出力させて、データ記憶部2dに記憶させてもよい。
【0356】
また、本実施形態の数値解析装置Bは、データ記憶部2dに、MBDモデルライブラリファイルLとして、MBDプログラムSにデフォルトで付帯されているボディ蓄熱・伝熱モデルL2、車外環境(日射・外気)モデルL3、空調モデルL4、エンジンモデルL5、制御系モデルL6、その他熱系モデルL7等を記憶する。なお、MBDモデルライブラリファイルLは、作業者が解析目的に合わせてMBDモデル内部のパラメータ等を変更しカスタマイズすることも可能である。また、別の作業者が作成したMBDモデルライブラリファイルを記憶させることも可能である。
【0357】
DVDドライブ3は、DVDメディアXを取り込み可能に構成されており、CPU1aから入力される指令に基づいて、DVDメディアXに記憶されるデータを出力する。そして、本実施形態においては、DVDメディアXにMBDプログラムSが記憶されており、DVDドライブ3は、CPU1aから入力される指令に基づいて、DVDメディアXに記憶されるMBDプログラムSを出力する。
【0358】
通信装置6は、本実施形態の数値解析装置BとCAD装置Cと数値解析装置A等の外部装置との間においてデータの受け渡しを行うものであり、社内LAN等のネットワークNに対して電気的に接続されている。ここでは、通信装置6は、数値解析装置Aが送信するキャビン熱回路網モデルデータを受信し、受信したキャビン熱回路網モデルデータを、CPU1aへ出力する。
【0359】
図20は、本実施形態の数値解析装置Bの動作の一例を示す図である。
図20に示される例では、数値解析装置Bは、解析領域を自動車のキャビンとし、通信装置6により数値解析装置Aから受信したキャビン熱回路網モデルL1と、空調モデルL4と、エンジンモデルL5と、自動車車体蓄熱・伝熱モデルL2と、日射・外気等車外環境モデルL3と、その他熱系モデルL7とのうち、一つ以上のモデルを連成計算させることによって、自動車のキャビン内の空気の熱流体などの物理量の非定常数値計算を行う。ただし、空調モデルL4、エンジンモデルL5、その他熱系モデルL7は、制御系モデルL6によって制御される。
【0360】
ここでは、一例として、数値解析装置Bが、キャビン内の空気の熱流体シミュレーションを行う場合について説明する。
【0361】
図21は、本実施形態の熱流体シミュレーションの一例を示す図である。熱流体シミュレーションでは、解析領域の一例は自動車のキャビンであり、境界条件の一例は夏季で、冷房空調条件である。具体的には、車外参照温度は35度、車外熱伝達率は40W/m
2K、乗車人員数は4名、空調吹出風速は5m/s、空調吹出温度は8℃である。また、境界条件に、エンジンルームの温度と、トランクルームの温度と、床下フロアーの温度と、ダッシュボードの内側の温度と、天井の温度との少なくとも一つが含まれる場合もある。
【0362】
数値解析装置Aは、解析領域(自動車のキャビン)を、前述したように、頂点の座標(Vertex)及び該頂点の連結情報(Connectivity)を必要としないセルに分割する。本実施形態では、数値解析装置Aは、解析領域(自動車のキャビン)を、約450万個のセルに分割する場合について説明する。
【0363】
解析領域(自動車のキャビン)を、約450万個のセルに分割した結果を、
図22に示す。数値解析装置Aは、解析領域(自動車のキャビン)に対して約450万個のセルを自動生成し、このセルを用いて、3D熱流体シミュレーションを行う。これは、前述したステップS13で説明した補正係数を1としない場合に実行する初期計算に該当する。この3D熱流体シミュレーションの結果は、熱コンダクタンスを求める際の補正係数の計算に使用される。
【0364】
本実施形態では、数値解析装置Aは、解析領域(自動車のキャビン)に対して約450万個のセルを自動生成する。数値解析装置Aは、前述したセルから集合領域を生成する処理によって、セルから、8個の集合領域(ドメイン)を生成する。8個の集合領域の各々を生成した結果を、
図23〜
図30に示す。
図23〜
図30の各々において、DCPは集合領域(ドメイン)のコントロールポイントであり、CCPはセルのコントロールポイントの一つである。
図23〜
図30は、順番にドメイン1からドメイン8までを示す。また、
図23〜
図30には、図示されていないが、数値解析装置Aは、各集合領域について、外表面を取得する。数値解析装置Aは、取得した外表面と、その外表面に接している部材との間の境界条件を取得する。境界条件は、外表面が接する部材の材料によって異なる場合がある。
【0365】
表1と表2と
図31と
図32は、本実施形態の数値計算の結果の一例を示す。表1と表2には、数値解析装置Aで数値計算された8個の集合領域(ドメイン)の熱キャパシタンスと、8個の集合領域(ドメイン)の間で計算された熱コンダクタンスを示す。表1に示される例では補正係数を1としない場合を示し、表2に示される例では補正係数を1とする場合を示す。補正係数を1としない場合には、前述した約450万個のセルを用いて行った3D熱流体シミュレーションの結果を前述のステップS13で説明した補正係数を1としない場合に実行する初期計算として使用した。
【0367】
【表2】
表1と表2に示される熱コンダクタンスと熱キャパシタンスとの値は、前述した熱コンダクタンスと熱キャパシタンスの汎用MBDプログラムへの実装方法で説明したように、解析領域内の全ての集合領域のコントロールポイント間をネットワーク状に結合したキャビン熱回路網モデルを数値解析装置Aで作成し、モデル記述言語あるいはプログラミング言語で記述されたキャビン熱回路網モデルデータとして、数値解析装置Aから数値解析装置Bへ送信される。数値解析装置Bは、MBDプログラムを実行することによって、数値解析装置Aが送信したキャビン熱回路網モデルデータを受信し、データ記憶部2dに記憶されているMBDモデルライブラリファイルLの中の空調モデルと、エンジンモデル、自動車車体蓄熱・伝熱モデル、日射・外気等車外環境モデル、及びその他熱系モデルのうち一つ以上のモデルとを結合させ連成計算させることにより、MBDプログラムに実装し、自動車キャビン内熱流体解析を実行することができる。
【0368】
例えば、MBDプログラムに、自動車用空調機器のMBDモデルが構築されていたと仮定した場合、前述した熱回路網方程式を熱回路網モデルとしてMBDプログラムに実装することにより、自動車用空調機器のMBDモデルと、自動車のキャビン内の空気の温度分布を表す熱回路網モデルとを連成させた非定常シミュレーションを実行することができる。
【0369】
例えば、夏季日中時に屋根のない駐車場に駐車された自動車のキャビン内空気は30℃以上に高温化するが、エンジンスタートしてから何秒後かにキャビン内空気温度が、目的とする冷房空調の制御温度まで下がる。その際、ドライバー、アシスタント、後部座席での空気温度は何度まで下がるのか、その3次元的な空気温度分布も含めて非定常シミュレーション解析を行うことができる。なお、本実施形態では、8個の集合領域(ドメイン)のコントロールポイントで、自動車のキャビン内の空気の温度分布を表した。より詳細に空気温度分布を解析する場合は、集合領域(ドメイン)の数を増やすことが必要である。
【0370】
前述した解析領域(自動車のキャビン)に対して約450万個のセルを自動生成し、このセルを用いて行った3D熱流体シミュレーション(
図22)は、定常状態の計算結果を得るまでに、インテル社製CPU Xeon(2.6GHz)を搭載したPCを用いて、約30時間の計算時間を要した。これに対し、8つのドメインでの3D熱流体シミュレーションは、同じPCで、1秒以下で計算結果を得ることができた。
【0371】
MBDプログラムに実装される自動車用空調機器などのMBDモデルの非定常シミュレーション計算は、1ステップ当たり数秒で計算されるが、3D熱流体シミュレーションと連成させると、3D熱流体シミュレーションの計算時間が律速となり非常に膨大な計算時間を要する非定常シミュレーションとなる。これに対して、本実施形態では、8個の集合領域(ドメイン)のコントロールポイントで自動車のキャビン内の空気の温度分布を表す熱回路網モデルと連成させた場合、非定常シミュレーションの1ステップの計算時間は数秒から大きく増加せず、実用的な計算時間で非定常シミュレーションを実行することができる。空気温度の分布をより詳細に解析する場合は集合領域(ドメイン)の数を増やすことになるが、仮に、数100個程度まで増やした場合でも、非定常シミュレーションの1ステップの計算時間は数秒から大きく増加せず、実用的な計算時間で非定常シミュレーションを実行することができる。
【0372】
したがって、本実施形態の数値解析装置A、数値解析方法及び数値解析プログラムの利用者が、自動車用空調機器のMBDモデルと、自動車のキャビン内の空気の温度分布を表す熱回路網モデルとを連成させた非定常シミュレーションの結果に応じて、解析領域である自動車のキャビンの形状を変更して再度、当該解析領域の前記形状を変更した3次元形状データから前記非定常シミュレーションまでを繰り返す場合にも、実用的な計算時間で非定常シミュレーションを実行することができる。
【0373】
即ち、利用者は、非定常シミュレーションにより得られた計算結果データを評価することにより、解析対象である3次元形状データにより所望の結果が得られたと判断する場合には、シミュレーションを終了してよい。また利用者は、非定常シミュレーションにより得られた計算結果データを評価することにより、解析対象である3次元形状データにより所望の結果が得られていないと判断する場合には、3次元形状データを修正してから再度シミュレーションを実行してよい。
上記の動作において、シミュレーションが所望の結果を示す場合、その解析対象であった3次元形状データが表現する物理的実体(閉鎖された空間を構成する自動車キャビン、コックピット、住宅、若しくは電気機器や産業機器の内部等、又はガラスや鉄鋼等の製造装置等)の設計が満足できるものと判断し、当該物理的実体を製造・生産してよい。またシミュレーションが所望の結果を示さない場合、その解析対象で、あった3次元形状データが表現する物理的実体の設計が満足できないものと判断し、当該物理的実体の設計を変更し、この設計変更後の3次元形状データに基づいて再度シミュレーションを実行することになる。
【0374】
図31と
図32は、数値解析装置Aで数値計算された表1と表2に示す熱キャパシタンスと熱コンダクタンスの数値を用いて作成されたキャビン熱回路網モデルを、数値解析装置Bに送信し、数値解析装置Bの空調モデルと結合し連成計算させてMBDプログラムで数値計算したキャビン内の空気の熱流体シミュレーション結果である。車外参照温度は35℃、車外熱伝達率は40W/m
2K、乗車人員数は4名、空調吹出風速は5m/s、空調吹出温度は8℃一定の条件の下で、キャビン内空気温度35℃を初期温度として非定常熱流体シミュレーションを実行し、キャビン内空気温度が冷房空調により下がり、空気温度が一定で時間変化のない定常状態に達した状態の、8個の集合領域(ドメイン)の空気温度の数値を表示している。
図31が補正係数を1としない場合、
図32が補正係数を1とする場合の結果である。
【0375】
図31の結果と
図32の結果とを比較することによって、計算精度を比較する。
【0376】
図31と
図32において、空気温度の数値の下の括弧内には、同一境界条件の下で行った約450万個のセルを用いて数値計算された3D熱流体シミュレーションの定常解析の結果を記載した。集合領域(ドメイン)での空気温度の計算結果は、補正係数を1としない場合のシミュレーション結果(
図31)の方が、同一境界条件の下で行った約450万個のセルを用いて数値計算された3D熱流体シミュレーションの定常解析結果に、よく一致していることが分かる。これにより補正係数を使用すると計算精度が向上することが分かる。しかし、補正係数を使用する場合は、セルでの1回の3D熱流体シミュレーション結果が必要であり、その分、全体の解析時間は増加する。本実施形態では、8個の集合領域(ドメイン)の実施例を示したが、集合領域(ドメイン)の数を、仮に数100個に増やした場合は、補正係数を1としても比較的よい精度で空気温度分布を解析することができる。解析する目的や必要とされる精度に応じて、補正係数の使用、集合領域(ドメイン)の数を選択することによって、空気温度の分布の精度を向上できる。
【0377】
以上のような本実施形態の数値解析装置A、数値解析装置B、数値解析方法及び数値解析プログラムによれば、プリ処理にてコントロールボリュームの体積と境界面の面積及び法線ベクトルとを有する計算用データモデルMが作成され、ソルバ処理にて計算用データモデルMに含まれるコントロールボリュームの体積と、境界面の面積と、法線ベクトルと、ドメイン間のリンクと、ドメインのコントロールポイント間の距離とを用いて、集合領域同士の物理量の移動の特性を表すキャパシタンスと集合領域の物理量の蓄積の特性を表すコンダクタンスが計算される。
【0378】
また、本実施形態の数値解析装置A、数値解析装置B、数値解析方法及び数値解析プログラムによれば、解析を分割領域ではなく、集合領域で行うため、計算時間が短縮できる。特に、補正係数を1とした場合には、分割領域の程度によって解析精度が低下する場合もあるが、補正係数がゼロでない場合に対して、更に、計算時間が短くなる。 本実施形態の数値解析装置A、数値解析方法及び数値解析プログラムは、自動車ボディの形状、エアコンなどのHeating Ventilation and Air Conditioning(HVAC)での消費エネルギ、ガラス、人の存在、外部日射エネルギ、湿度、車速等をシミュレーションモデルに反映させて、集合領域同士のエネルギ移動の特性と集合領域のエネルギ蓄積量を表す物理量の算出が可能である。ここで、物理量には、熱キャパシタンス(熱容量)、熱コンダクタンスが含まれる。
【0379】
また、本実施形態の数値解析装置A、数値解析方法及び数値解析プログラムは、上記以外の自動車への適用として、エンジンの熱解析、排気ガスの熱解析、エンジンルームの温熱解析、自動車の燃費の解析などが挙げられる。
【0380】
また、本実施形態の数値解析装置A、数値解析方法及び数値解析プログラムは、自動車以外の分野への適用として、航空機、船舶、宇宙船、宇宙ステーションのキャビン、コックピット等の内部空間の温熱解析と音解析、住宅、ビル、アトリウム等の内部空間の温熱解析と音解析、電気機器、産業機器の内部の温熱解析と音解析、ガラス、鉄鋼、その他の製造設備の装置自体及び周辺の温熱解析と音解析が挙げられる。
【0381】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されないことは言うまでもない。前述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0382】
上記実施形態においては、熱伝導方程式及び熱の移流拡散方程式から導出した離散化支配方程式を用いて空気の温度を数値解析によって求める構成について説明した。
【0383】
しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、質量保存の方程式、運動量保存の方程式、角運動量保存の方程式、エネルギ保存の方程式、移流拡散方程式及び波動方程式の少なくともいずれかから導出した離散化支配方程式を用いて物理量を数値解析によって求めることが可能である。
【0384】
また、上記実施形態においては、本発明の境界面特性量として、境界面の面積と境界面の法線ベクトルとを用いる構成について説明した。
【0385】
しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、境界面特性量として他の量(例えば境界面の周長)を用いることもできる。
【0386】
また、上記実施形態においては、保存則を満足するために前述の3つの条件を満たすように計算用データモデルを作成する構成について説明した。
【0387】
しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、保存則を満足させる必要がない場合には、計算用データモデルを必ずしも前述の3つの条件を満たすように作成する必要はない。
【0388】
また、上記実施形態においては、分割領域の体積を、当該分割領域の内部に配置されるコントロールポイントが占めるコントロールボリュームの体積として捉えた構成について説明した。
【0389】
しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、分割領域の内部に対してコントロールポイントを配置する必要は必ずしもない。分割領域を形成する境界形状に凹面が存在する場合は、コントロールポイントが分割領域の外部となる場合がある。このような場合でも、コントロールボリュームの体積を分割領域の体積に置き換えることによって、数値解析を行うことができる。
【0390】
また、上記実施形態においては、数値解析プログラムPがDVDメディアXに記憶されて搬送可能な構成について説明した。
【0391】
しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、数値解析プログラムPを他のリムーバブルメディアに記憶させて搬送可能とする構成を採用することもできる。
【0392】
また、プリ処理プログラムP1とソルバ処理プログラムP2とを別々のリムーバブルメディアに記憶させて搬送可能とすることもできる。また、数値解析プログラムPは、ネットワークを介して伝達することも可能である。
【0393】
上記実施形態において、数値解析装置Aと、数値解析装置Bとはコンピュータの一例であり、数値解析装置Aは数値解析装置の一例であり、数値解析装置Bは他の数値解析装置の一例である。
【0394】
上述した実施の形態に関し、さらに以下の付記を開示する。
(付記1)
コンピュータによって物理現象での物理量を数値的に解析するシミュレーション方法であって、
コンピュータが、外部装置から解析領域の3次元形状データを取得して前記解析領域を複数の分割領域に分割し、
前記分割領域の頂点の座標(Vertex)及び該頂点の連結情報(Connectivity)を必要としない量のみを使用すると共に重み付き残差積分法によって導出された離散化された分割領域での支配方程式に基づき、各前記分割領域の体積と隣り合う前記分割領域同士の特性を示す分割領域特性量とを前記分割領域の頂点の座標(Vertex)及び該頂点の連結情報(Connectivity)を必要としない量として有する前記分割領域での計算用データモデルを生成し、
前記分割領域を複数集合させることによって、要求される数の集合領域を生成し、
前記集合領域の頂点の座標(Vertex)及び該頂点の連結情報(Connectivity)を必要としない量のみを使用すると共に重み付き残差積分法によって導出された離散化された集合領域での支配方程式に基づき、各前記集合領域の体積と隣り合う前記集合領域同士の特性を示す集合領域特性量とを前記集合領域の頂点の座標(Vertex)及び該頂点の連結情報(Connectivity)を必要としない量として有する前記集合領域での計算用データモデルを生成し、
前記解析領域での物性値と、前記集合領域での計算データモデルとに基づいて、前記集合領域同士及び前記解析領域外への物理量の移動の特性を表すコンダクタンスと、前記集合領域ごとの物理量の蓄積の特性を表すキャパシタンスとを計算し、前記コンダクタンスおよび前記キャパシタンスを前記コンピュータの記憶部に格納することにより、前記解析領域を含む他の解析領域で物理量の非定常計算を可能とし、
当該シミュレーション方法の利用者が、前記非定常計算の結果に応じて前記解析領域の前記形状を変更して再度、前記解析領域の前記形状を変更後の3次元形状データから前記非定常計算までを繰り返すシミュレーション方法。
(付記2)
コンピュータによって物理現象での物理量を数値的に解析するシミュレーション方法であって、
コンピュータが、外部装置から解析領域の3次元形状データを取得して前記解析領域を複数の分割領域に分割し、
前記分割領域の頂点の座標(Vertex)及び該頂点の連結情報(Connectivity)を必要としない量のみを使用すると共に重み付き残差積分法によって導出された離散化された分割領域での支配方程式に基づき、各前記分割領域の体積と隣り合う前記分割領域同士の特性を示す分割領域特性量とを前記分割領域の頂点の座標(Vertex)及び該頂点の連結情報(Connectivity)を必要としない量として有する前記分割領域での計算用データモデルを生成し、
前記分割領域を複数集合させることによって、要求される数の集合領域を生成し、
前記集合領域の頂点の座標(Vertex)及び該頂点の連結情報(Connectivity)を必要としない量のみを使用すると共に重み付き残差積分法によって導出された離散化された集合領域での支配方程式に基づき、各前記集合領域の体積と隣り合う前記集合領域同士の特性を示す集合領域特性量とを前記集合領域の頂点の座標(Vertex)及び該頂点の連結情報(Connectivity)を必要としない量として有する前記集合領域での計算用データモデルを生成し、
前記解析領域での物性値と、前記集合領域での計算データモデルとに基づいて、前記集合領域同士及び前記解析領域外への物理量の移動の特性を表すコンダクタンスと、前記集合領域ごとの物理量の蓄積の特性を表すキャパシタンスとを計算し、前記コンダクタンスおよび前記キャパシタンスを前記コンピュータの記憶部に格納することにより、前記解析領域を含む他の解析領域で物理量の非定常計算を可能とする、シミュレーション方法。
(付記3)
全分割領域の体積の総和が解析領域の体積と一致するという条件と、
前記分割領域同士の境界面の面積が一致するという条件及び法線ベクトルが当該境界面を挟む一方の分割領域から見た場合と他方の分割領域から見た場合とで絶対値が一致するという条件と、
前記分割領域を通る無限に広い投影面Pの任意の向きの単位法線ベクトルが[n]
p、境界面の面積がS
i、境界面の単位法線ベクトルが[n]
i、分割領域の面の総数がm、前記[]で囲まれた文字がベクトルを示す太字であるときに下式(1)が成り立つという条件と、
【0395】
【数1】
が満足されるように前記分割領域を形成する、付記1又は2に記載の方法。
(付記4)
前記集合領域特性量は、隣り合う前記集合領域同士の境界面の特性を示す境界面特性量と、隣り合う前記集合領域同士の結合情報と、隣り合う前記集合領域同士の距離とからなり、
前記分割領域特性量は、隣り合う前記分割領域同士の境界面の特性を示す境界面特性量と、隣り合う前記分割領域同士の結合情報と、隣り合う前記分割領域同士の距離とからなる、
付記1乃至3のいずれか一項に記載の方法。
(付記5)
前記隣り合う前記集合領域同士の境界面の特性を示す前記境界面特性量は、前記隣り合う前記集合領域同士の境界面の面積と前記境界面の法線ベクトルとであり、
前記隣り合う前記分割領域同士の境界面の特性を示す境界面特性量は、前記隣り合う前記分割領域同士の境界面の面積と前記境界面との法線ベクトルである、
付記4に記載の方法。
(付記6)
前記物性値と、前記分割領域での計算データモデルによる物理現象の解析結果である物理量とに基づき前記集合領域での計算用の補正係数を導出し、
前記物性値と、前記集合領域での計算データモデルを前記集合領域での支配方程式を前記補正係数で補正した補正支配方程式に基づく、前記集合領域での補正計算データモデルとによる物理現象の解析結果である物理量とに基づいて、前記コンダクタンスと前記キャパシタンスを計算する、
付記1乃至5のいずれか一項に記載の方法。
(付記7)
前記分割領域での支配方程式及び前記集合領域での支配方程式は、質量保存の方程式、運動量保存の方程式、エネルギ保存の方程式、移流拡散方程式、及び波動方程式から予め導出されて記憶されている、付記1乃至6のいずれか一項に記載の方法。
(付記8)
付記1乃至7のいずれか一項に記載の方法によって得られた前記コンダクタンスと前記キャパシタンスとを使用し、更に、前記解析領域を含む他の解析領域で物理量の非定常計算をする、ことを特徴とするMBDプログラムによるシミュレーション方法。
(付記9)
物理現象での物理量を数値的に解析する数値解析装置であって、
外部装置との間においてデータの受け渡しを行う通信装置と、
前記通信装置を介して前記外部装置から解析領域の3次元形状データを取得し、前記解析領域を複数の分割領域に分割し、前記分割領域を複数集合させることによって、要求される数の集合領域を生成する演算部と、
前記分割領域の頂点の座標(Vertex)及び該頂点の連結情報(Connectivity)を必要としない量のみを使用すると共に重み付き残差積分法によって導出された離散化された分割領域での支配方程式と、前記集合領域の頂点の座標(Vertex)及び該頂点の連結情報(Connectivity)を必要としない量のみを使用すると共に重み付き残差積分法によって導出された離散化された集合領域での支配方程式とを記憶する記憶部とを備え、
前記演算部は、前記記憶部に記憶された前記分割領域での支配方程式に基づき、各前記分割領域の体積と隣り合う前記分割領域同士の特性を示す分割領域特性量とを前記分割領域の頂点の座標(Vertex)及び該頂点の連結情報(Connectivity)を必要としない量として有する前記分割領域での計算用データモデルを生成し、前記記憶部に記憶された前記集合領域での支配方程式に基づき、各前記集合領域の体積と隣り合う前記集合領域同士の特性を示す集合領域特性量とを前記集合領域の頂点の座標(Vertex)及び該頂点の連結情報(Connectivity)を必要としない量として有する前記集合領域での計算用データモデルを生成し、前記解析領域での物性値と、前記集合領域での計算データモデルとに基づいて、前記集合領域同士及び前記解析領域外への物理量の移動の特性を表すコンダクタンスと、前記集合領域の物理量の蓄積の特性を表すキャパシタンスとを計算し、前記コンダクタンスおよび前記キャパシタンスを前記記憶部に格納することにより、前記解析領域を含む他の解析領域で物理量の非定常計算を可能とする、数値解析装置。
(付記10)
付記9の数値解析装置と、
前記数値解析装置で計算され前記記憶部に格納された前記コンダクタンスと前記キャパシタンスとを入力データとして使用し、前記解析領域を含む他の解析領域で物理量の非定常計算を、コンピュータに実行させるMBDプログラムを搭載する他の数値解析装置とを含む、MBD用数値解析システム。
(付記11)
付記9の数値解析装置で計算され前記記憶部に格納された前記コンダクタンスと前記キャパシタンスとを入力データとして使用し、前記解析領域を含む他の解析領域で物理量の非定常計算を、コンピュータに実行させるMBDプログラムを搭載する、MBD用数値解析システム。
(付記12)
コンピュータに、外部装置から
物理現象での物理量を解析する解析領域の3次元形状データを取得させて前記解析領域を複数の分割領域に分割させ、
前記分割領域の頂点の座標(Vertex)及び該頂点の連結情報(Connectivity)を必要としない量のみを使用すると共に重み付き残差積分法によって導出された離散化された分割領域での支配方程式に基づき、各前記分割領域の体積と隣り合う前記分割領域同士の特性を示す分割領域特性量とを前記分割領域の頂点の座標(Vertex)及び該頂点の連結情報(Connectivity)を必要としない量として有する前記分割領域での計算用データモデルを生成させ、
前記分割領域を複数集合させることによって、要求される数の集合領域を生成させ、
前記集合領域の頂点の座標(Vertex)及び該頂点の連結情報(Connectivity)を必要としない量のみを使用すると共に重み付き残差積分法によって導出された離散化された集合領域での支配方程式に基づき、各前記集合領域の体積と隣り合う前記集合領域同士の特性を示す集合領域特性量とを前記集合領域の頂点の座標(Vertex)及び該頂点の連結情報(Connectivity)を必要としない量として有する前記集合領域での計算用データモデルを生成させ、
前記解析領域での物性値と、前記集合領域での計算データモデルとに基づいて、前記集合領域同士及び前記解析領域外への物理量の移動の特性を表すコンダクタンスと、前記集合領域の物理量の蓄積の特性を表すキャパシタンスとを計算させ、前記コンダクタンスおよび前記キャパシタンスを記憶部に格納することにより、前記解析領域を含む他の解析領域で物理量の非定常計算を可能とする、数値解析プログラム。
(付記13)
付記12の数値解析プログラムと、
前記数値解析プログラムで計算され前記記憶部に格納された前記コンダクタンスと前記キャパシタンスとを入力データとして使用し、前記解析領域を含む他の解析領域で物理量の非定常計算を、コンピュータに実行させるMBDプログラムとを含む、MBDプログラム。
(付記14)
付記12の数値解析プログラムで計算され前記記憶部に格納された前記コンダクタンスと前記キャパシタンスとを入力データとして使用し、前記解析領域を含む他の解析領域で物理量の非定常計算を、コンピュータに実行させる、MBDプログラム。
【解決手段】コンピュータが、解析領域を複数の分割領域に分割し、各分割領域の体積と隣り合う分割領域同士の特性を示す分割領域特性量とを分割領域の頂点の座標及び該頂点の連結情報を必要としない量として有する分割領域での計算用データモデルを生成し、分割領域を複数集合させることによって、要求される数の集合領域を生成し、各集合領域の体積と隣り合う集合領域同士の特性を示す集合領域特性量とを集合領域の頂点の座標及び該頂点の連結情報を必要としない量として有する集合領域での計算用データモデルを生成し、解析領域での物性値と、集合領域での計算データモデルとに基づいて、集合領域同士及び前記解析領域外への物理量の移動の特性を表すコンダクタンスと、前記集合領域の物理量の蓄積の特性を表すキャパシタンスとを計算する。