(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6516447
(24)【登録日】2019年4月26日
(45)【発行日】2019年5月22日
(54)【発明の名称】パーム椰子種子殻の取扱方法
(51)【国際特許分類】
B09B 3/00 20060101AFI20190513BHJP
C10L 5/44 20060101ALI20190513BHJP
【FI】
B09B3/00 303Z
C10L5/44ZAB
【請求項の数】5
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-231804(P2014-231804)
(22)【出願日】2014年11月14日
(65)【公開番号】特開2016-93790(P2016-93790A)
(43)【公開日】2016年5月26日
【審査請求日】2017年9月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(72)【発明者】
【氏名】安川 通
(72)【発明者】
【氏名】井上 保史
【審査官】
吉岡 沙織
(56)【参考文献】
【文献】
特開平08−013231(JP,A)
【文献】
特開2002−030633(JP,A)
【文献】
特開2001−204287(JP,A)
【文献】
国際公開第99/033757(WO,A1)
【文献】
特開平09−100479(JP,A)
【文献】
特許第6356013(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09B
C10L 5/
C10B 53/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘキサン抽出により測定される含油率が、パーム椰子種子殻1gあたり、10mg以下となるように核油を搾取して得られたパーム椰子種子殻の全含水率を7〜15質量%の範囲内に調整する工程を含み、該全含水量を上記範囲内に維持することを特徴とするパーム椰子種子殻の取扱方法。
【請求項2】
パーム椰子種子殻を、115℃以上の温度で加熱処理する熱処理工程を含む請求項1に記載の取扱方法。
【請求項3】
実質的に炭化が進行しない条件で処理を行う請求項1又は2に記載の取扱方法。
【請求項4】
輸送方法である請求項1〜3のいずれか一項に記載された取扱方法。
【請求項5】
貯蔵方法である請求項1〜3のいずれか一項に記載された取扱方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パーム椰子種子殻の新規な取扱方法に関する。詳しくは、核油を搾取した後のパーム椰子種子殻を炭化処理することなく、不快臭が効果的に低減された状態でパーム椰子種子殻を取り扱う方法を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
火力発電に使用する石油や石炭等の化石燃料の利用を抑制するため、近年、種々のバイオマス燃料が検討されている。その中に、パーム椰子種子殻(以下、PKSともいう。)がある。上記PKSは、パーム椰子の果肉から分離され、胚平からパーム核油を搾取した後の殻であり、燃焼時の発熱量は4400kca1/Kgと木屑と比較して高いものである。
【0003】
前記パーム椰子の生産量の増大に伴い、PKSの発生量も増大し、その処理が問題となっている中で、該PKSを大量に処理する手段の一つとして、石炭等の発電用燃料としての利用が検討されている。
【0004】
ところが、PKSは、産地で収集され、燃料庫に移送されるが、成分として低級脂肪酸を含有し、不快臭が強いため、作業環境や周囲の環境に及ぼす影響を低減することも課題として存在していた。そのため、使用に向けて、大量に輸送したり、輸送先で大量に貯蔵したりすることが困難であり、その使用量も限られていた。
【0005】
前記かかる不快臭を防止する方法として、消臭剤の散布等が考えられるが、安価な燃料として優位性があるPKSに対して、高価な消臭剤は、処理費用の増大を招き、致命的な問題である。また、特に、粉砕性を高めるため、PKSを炭化処理する方法も提案されており(特許文献1参照)、かかる方法によれば、PKSの臭気も低減することは予測されるが、炭化処理は、多大な設備と処理のためのエネルギーを必要とし、やはり、処理費用の増大を招くという課題は解消されない。
【0006】
このように、PKSの利用において、臭気対策は、実用化に向けての大きな壁となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】WO2012/023479号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、核油を搾取して得られたPKSを炭化処理することなく、前記PKSの輸送、貯蔵などの取り扱いにおいて、不快臭が低減されたPKSの取扱方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成すべく、PKSの臭気に関係するPKSの性状に関して鋭意研究を重ねた。その結果、かかる臭気に最も支配的な要素は、PKSの含水率であるとの知見を得た。即ち、核油を搾取して得られたPKSは、一般に、殻の内部に存在する10質量%程度の水分と付着水分とを含む水分量が、後述する測定方法により測定される全含水率での最高値で25〜35質量%と高い範囲内にあるが、かかるPKSの全含水率を特定の範囲に調整すると、臭気の原因となる低級脂肪酸の量は殆ど同じでも、その臭気が著しく減少し、しかも、かかる全含水率とするためには、PKSの炭化が起こる程の加熱を必要とすること無く、低エネルギーにて達成可能であること、そして、かかる状態を維持してPKSを取り扱うことにより、その効果が持続することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明によれば、
ヘキサン抽出により測定される含油率が、パーム椰子種子殻1gあたり、10mg以下となるように核油を搾取して得られたパーム椰子種子殻の全含水率を7〜15質量%の範囲内に調整する工程を含み、該全含水量を上記範囲内に維持することを特徴とするパーム椰子種子殻の取扱方法が提供される。
【0011】
また、更なる検討によれば、PKSの臭気は、特定の含油率を特定の量以下に減少させることにより一層低減させることができることが判明した。即ち、本発明の取扱方法は、前記全含水率と共に、ヘキサン抽出により測定される含油率をPKS1gあたり、10mg以下に調整する工程を含むことが好ましい。
【0012】
更に、前記取扱方法は、115℃以上の温度で加熱処理する熱処理工程を含むものであることが、臭気の原因となる低級脂肪酸を生成する菌を効果的に失活させ、長期の保存において、臭気の増加をより一層防止することができ好ましい。
【0013】
更にまた、前記取扱方法における各工程は、実質的に炭化が進行しない条件で処理を行うことが好ましい。
【0014】
前記本発明の取扱方法は、PKSの輸送又は貯蔵において効果的である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、多大の処理エネルギーや設備を使用することなく、簡易に、PKSの取扱時の臭気を効果的に低減し、環境汚染を抑えることが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明において、取り扱う対象となるPKSは、パーム核油を採取後の殻であり、公知の方法によりパーム核油を採取する工程を経たものであれば、その産地などは特に制限されない。
【0017】
一般に入手可能なPKSには、パーム椰子房、パーム椰子ファイバー、石、木屑等の異物を含んでいることが多く、これらの異物は、品質の安定性を阻害したり、輸送時などにおける日詰まりの原因になったり、更には、PKSの用途の一つである発電設備のボイラーでの燃焼を妨げたり、供給ラインの閉塞といった問題を引き起こす場合があるので、除去することが好ましい。かかる除去方法は特に限定されないが、メッシュ30mm×30mm〜メッシュ50mm×50mm(JIS規格3553、JIS記号CR―S)の篩にPKSをかけ、通過分を回収する方法が簡便であり、しかも、十分な除去効果を有する。
【0018】
上記異物の除去は、改質PKSを製造する方法において、どこで実施してもよいが、改質PKSを製造する前段階において実施することが、各工程の処理がし易く好ましい。
【0019】
また、上記PKSの大きさは、核油を搾取して得られる状態の大きさが一般的であるが、必要に応じて適当な大きさに粉砕されていてもよい。
【0020】
ところで、一般に、核油を搾取して得られるPKSの全含水率は約30質量%と高く、従来は、かかるPKSが野積みされたヤードより、船舶等に積み込まれ輸送されるが、その際の全含水率は、天日でその表面が乾燥されたとしても、その表面部で17質量%程度であり、内部に至っては、20質量%を超える。そして、かかる全含水率を有するPKSは、船舶での輸送時、陸揚げ時、貯蔵時において、不快臭が酷い状体となる。
【0021】
尚、本発明において、PKSの全含水率は、PKSの全重量(W)に対する、殻中の水分量と付着水分量とを合計した水分重量(W1)の割合((W1/W)×100(質量%))であり、詳細は実施例において説明する。
【0022】
本発明の取扱方法は、上記PKSの全含水率を、7〜15質量%、好ましくは、9〜13質量%の範囲内に調整する水分調整工程を含み、該全含水率を上記範囲内に維持することを特徴とする。即ち、PKSについて測定される全含水率の最高値が15質量%を超える場合、不快臭の低減効果が十分でなく、また、全含水率の最低値が7質量%より低い場合、処理に多大のエネルギーを必要とし、本発明の目的を達成することができない。
【0023】
本発明において、前記「全含水率を、7〜15質量%の範囲に調整する」及び「該全含水率を上記範囲内に維持する」とは、PKSの全含水率の最高値、最低値がかかる範囲内であればよいが、工業的な実施においては、例えば、取扱時にPKSの一部が雨水等と接触して水分量が前記範囲を超える場合も想定され、全含水率が前記範囲内にあるPKSが、90質量%以上、特に、95質量%以上存在すれば、前記水分調整による臭気低減効果は十分発揮することができ、本発明は、かかる態様を含むものである。勿論、全てのPKSの全含水率が、前記範囲内に維持することが最も好ましい。
【0024】
本発明は、PKSを炭化状態や絶乾状態まで乾燥させなくとも、水分を含んだ状態で、不快臭を防止できる領域が存在するという知見により見出されたものであり、かかる点において、従来のPKSの取扱方法と区別される。
【0025】
前記水分調整工程は、PKSの全含水率を上記範囲に調整可能であれば、特に制限されない。例えば、スチームドライヤー、キルン等の加熱乾燥装置による加熱が一般的であり、その他、天日による乾燥を長時間にわたり実施することも可能である。前記スチームドライヤーの蒸気源としては、発電所の廃蒸気を使用することが好ましい。
【0026】
上記水分調整を加熱により行う際、PKSが実質的に炭化しない温度、時間等の条件を設定することが好ましい。好適な加熱温度は、40〜350℃、好ましくは、50〜320℃の比較的低温度の加熱条件で実質的に炭化物が生成しない条件が推奨される。
【0027】
ここで、PKSにおいて、炭化物を実質的に生成しないということは、炭化処理を経ていないことを示すものであり、前記水分調整工程においてPKSが局部的に加熱された結果、若干の炭化物が生成することは許容される。上記生成する炭化物は、具体的には、1質量%以下、好ましくは、0.5質量%以下であることが好ましい。
【0028】
そして、本発明の加熱処理工程におけるいずれの方法においても、PKSの全含水率をそれほど低くしなくても、PKSの不快臭低減が可能であるため、加熱に要するエネルギーを抑制することが可能である。
【0029】
本発明において、前記水分調整工程に先立ち、PKS中の高級脂肪酸を主成分とする油分を低減する処理工程を設けることは、前記したように、不快臭の原因となる低級脂肪酸の生成を抑制するために好ましい。即ち、上記油分は、不快臭の原因となる低級脂肪酸の量は極めて少なく、低級脂肪酸の生成源となる高級脂肪酸が殆どを占めるが、本発明者らの実験によれば、かかる高級脂肪酸を多く含む油分の量を低く抑えることにより、前記全含水量との関係において、改質PKSからの不快臭が効果的に低減することが判明した。
【0030】
上記油分を低減する処理は、特に制限されないが、核油の分離を高性能の分離器を使用して行う方法、洗浄液により付着する油を洗浄する方法などが挙げられる。この処理により、後述の実施例に記載のヘキサン抽出法により測定される含油率を、0.3質量%以下に調整することが好ましい。
【0031】
更に、本発明の取扱方法は、PKSを115℃以上の温度で、加熱処理する熱処理工程を含むことが好ましい。その理由は、上記含油率において測定される高級脂肪酸を分解して、臭気の原因となる低級脂肪酸を生成する菌を効果的に失活させることができるためである。かかる熱処理工程を経ることにより、改質PKSの長期保存性が格段に向上する。
【0032】
上記熱処理は、前記水分調整工程と別途実施してもよいし、水分調整工程において実施されてもよい。また、上記熱処理工程においても、実質的に炭化が進行しない条件で処理を行うことが好ましい。
【0033】
本発明において、熱処理工程は、前記したようにPKSの表面に存在する菌を失活させることが目的であり、少なくともPKSの表面温度が、前記温度以上に達するように加熱する方法により目的を達成することができる。具体的な熱処理方法としては、前記加熱装置として挙げたキルンを使用する方法が好適である。
【0034】
(PKSの全含水量の維持と輸送・貯蔵)
前記本発明のPKSの取扱方法は、全含水率が前記した特定の範囲内に調整され、且つ全含水率を該範囲内に維持することにより、不快臭の発生を低減した状態で実施されるものであり、取扱方法の具体的な実施態様として、輸送方法や貯蔵方法が挙げられる。
【0035】
かかる輸送や貯蔵において、PKSの全含水率を前記した特定の範囲内に維持するためには、輸送においては、荷槽にシート、板などによる雨水の浸入防止のための手段を、また、貯蔵においては、屋根、シートにより雨水との接触を防止する手段が好適に採用される。
【実施例】
【0036】
以下本発明を更に具体的に説明するため、実施例を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0037】
尚、実施例において、全含水率、含油率、臭いの評価は以下のようにして行った。
【0038】
(1)PKSの全含水率
堆積された約1tのPKS試料の表面から内部にわたる任意の10箇所よりそれぞれ約100gずつ採取し、採取されたそれぞれのPKSより10g(W)を計り取り、10個の試料を準備した。上記試料について、絶乾状態に至るまでの水分重量(W1)を測定した。上記測定値より、次式により全水分率を算出し、全試料における最高値と最低値とを示した。
【0039】
全水分率(質量%)=(W1/W)×100
(2)PKSの含油率
上記全含水率の測定と同様にして採取されたPKSについて、10g(W)を計り取り、これをヘキサン100ccを入れた300ccフラスコに入れ、縦型振とう機を用いて、温度25℃、200rpmの振とう回数で10分間振とうし、ヘキサン抽出を行い、ヘキサン中に抽出された油分の重量(W2)をガスクロマトグラフ/質量分析計装置を用いて、高級脂肪酸類ピークとして検出し、面積値から算出した。上記測定値より、次式により全油分率を算出し、試料における最高値と最低値とを示した。
【0040】
含油率(質量%)=(W2/W)×100
(3)臭いの評価
前記試料について、新コスモス電機株式会社製(XP−329III
R)ニオイセンサとRAE社製(PGM−7340)携帯式揮発性有機化合物(VOC)モニターを用い、臭気の強さを測定し、その値を示した。
【0041】
実施例1、2、比較例1
パーム核油を採取後、野積みされていたPKSを、メッシュ50mm×50mm(JIS規格3553、JIS記号CR―S)の篩に掛けて異物を除去した後、全水分含有量を測定した結果、最高値26.3質量%、最低値16.8質量%であった。このPKSを温度50℃で処理時間を変えて乾燥処理を行い、表1に示す全含水率と含油率を有するPKSを得た。
【0042】
上記処理により得られたPKSについて、臭いの評価を実施した結果を表1に示す。
【0043】
また、前記試料として採取したPKSを屋根付きの倉庫に2週間保存した後全含水率を測定した結果、表1に示すように、全含水率は殆ど変化無く、また、臭いの評価も殆ど変わらず、良好であった。
【0044】
一方、前記試料として採取したPKSを一部取り分け、これに散水して、全含水率の最低値を17.1質量%とした試料は、前記臭いの評価が1500を超え、強い臭気が戻った。
【0045】
【表1】