(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記還元窒化において、過剰の窒素存在下、カーボン源の使用量を、還元窒化反応により得られる反応生成物中に存在する複合酸化物の割合が45〜60質量%、該複合酸化物中のB2O3の割合が25〜50モル%、となるように調整し、前記カーボン源の消費が完了した時点で反応を終了する請求項6に記載の六方晶窒化硼素粉末の製造方法。
【背景技術】
【0002】
六方晶窒化硼素粉末は、一般に黒鉛と同様の六方晶系の層状構造を有する白色粉末であり、高熱伝導性、高電気絶縁性、高潤滑性、耐腐食性、離型性、高温安定性、化学的安定性等の多くの特性を有する。そのため、六方晶窒化硼素粉末を充填した樹脂組成物は、成形加工することで熱伝導性絶縁シートとして好適に使用されている。
【0003】
上記六方晶窒化硼素の製造方法としては、(i)硼素を窒素、アンモニア等を用いて直接窒化する方法、(ii)ハロゲン化硼素をアンモニアやアンモニウム塩と反応させる方法、(iii)硼酸、酸化硼素等の硼素化合物とメラミン等の含窒素化合物とを800℃程度の温度で反応させて硼素化合物を還元窒化するメラミン法、(iv)窒素雰囲気下、硼素化合物とカーボン源を1600℃以上の高温に加熱して、硼素化合物を還元窒化する還元窒化法がある。
【0004】
そして、このようにして得られる六方晶窒化硼素粉末は、結晶構造に由来する鱗片状粒子よりなる一次粒子を含み、該鱗片状粒子は熱的異方性を有している。即ち、前記鱗片状粒子は面方向よりも厚み方向の熱伝導率の方が格段に優れている。通常、上記鱗片状粒子を含む窒化硼素粉末を充填剤として用いた熱伝導性絶縁シートの場合、該熱伝導性絶縁シートの面方向に鱗片状粒子が配向するため、鱗片状粒子同士の接触の機会が少なく、該熱伝導性絶縁シートの厚さ方向の熱伝導率は低い。
【0005】
このような鱗片状の構造を有する六方晶窒化硼素粒子の熱的異方性を改善するために、上記鱗片状の粒子が多方向を向いて凝集した窒化硼素凝集粒子が提案されている(特許文献1参照)。窒化硼素凝集粒子の利点としては熱的異方性の改善と、大粒径化の2点が挙げられる。
【0006】
しかしながら、上記窒化硼素凝集粒子は、取扱時、或いは、樹脂との混練時に凝集粒子が崩壊し、凝集粒子を構成する一次粒子が遊離し、熱抵抗が増大するが故に、熱伝導性絶縁シートとした際の、熱伝導率が低下するといった問題があった。
【0007】
更に、小粒径の窒化硼素粒子を凝集させてなる窒化硼素凝集粒子は、粒子間に微細な空隙を多数有するため、樹脂に充填した際、樹脂組成物中に気泡が残存し易く、該樹脂組成物を成形して得られる成形体の絶縁耐性の低下を招くという問題も有する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の目的は、樹脂に充填した際、高い熱伝導率を発現し、且つ、気泡が残存し難く、絶縁耐性の高い樹脂組成物、更に、それを成形して得られる成形体を得ることができる六方晶窒化硼素粉末を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、上記課題を解決するため鋭意検討を行った。その結果、硼素源として、硼素とアルカリ土類金属との複合酸化物を使用して還元窒化反応を行う、特定の製造方法を採用することによって、2以上の屈曲部において六方晶の結晶形態を有する結晶が連続した多面構造を有する新規な六方晶窒化硼素粒子を得ることに成功した。そして、このようにして得られた六方晶窒化硼素粒子を含む六方晶窒化硼素粉末を使用して熱伝導性絶縁シートを構成することにより、該粒子は六方晶窒化硼素結晶が多方向を向いて連続しているため、六方晶窒化硼素結晶が元来有する面方向の熱的異方性が低減され、しかも、従来の凝集粒子に比して、粒子間に存在する微細な間隙の生成を回避でき、該間隙に残存する空気による樹脂の絶縁耐性の低下を大幅に低減し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明によれば、2以上の屈曲部において六方晶の結晶形態を有する結晶が連続した多面構造を有
し、前記屈曲部の角度が139±3度であることを特徴とする六方晶窒化硼素粒子が提供される。
【0012】
以下、上記多面構造を有する六方晶窒化硼素粒子を「多結晶六方晶窒化硼素粒子」「多結晶h−BN粒子」ともいう。
【0014】
また、本発明は、上記多結晶h−BN粒子を含む窒化硼素粉末をも提供する。
【0015】
更に、本発明は、上記窒化硼素粉末よりなる樹脂用フィラー、該樹脂用フィラーを充填した樹脂組成物、上記樹脂組成物よりなる電子部品の放熱材をも提供する。
【0016】
上記本発明の多結晶h−BN粒子を含む六方晶窒化硼素粉末の製造方法として、硼素を酸化物(B
2O
3)換算で33モル%以上含有する、硼素とアルカリ土類金属との複合酸化物およびカーボン源を、B/C(元素比)換算で0.7〜1.0となるように混合し、窒素雰囲気下にて1700〜2200℃の温度に加熱して、上記複合酸化物中の硼素酸化物を還元窒化した後、反応生成物中に存在する複合酸化物を除去することを特徴とする六方晶窒化硼素粉末の製造方法を提供する。
【0017】
上記製造方法の還元窒化において、過剰の窒素存在下、カーボン源の使用量を、還元窒化反応により得られる反応生成物中に存在する複合酸化物の割合が45〜60質量%、該複合酸化物中のB
2O
3の割合が25〜50モル%、となるように調整し、前記カーボン源の消費が完了した時点で反応を終了することが、効率良く目的とする六方晶窒化硼素粉末を製造するために好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の多結晶h−BN粒子は、前記したように、2以上の屈曲部において六方晶の結晶形態を有する結晶が連続した多面構造を有することにより、六方晶窒化硼素の結晶が多方向を向いて固定されているため、熱伝導率について異方性が低減され、樹脂に充填して、例えば、熱伝導性絶縁シートを成形した時に、高い熱伝導率を発現する。
【0019】
また、本発明の多結晶h−BN粒子は、六方晶窒化硼素の結晶が傾角粒界を介して連続して構成されているため、六方晶窒化硼素の結晶を凝集させた従来の窒化凝集粒子のように一次粒子の遊離が起き難く、また、凝集粒子の宿命とも言える凝集粒子間の間隙への気泡の取込が回避され、樹脂に充填した際の、樹脂の絶縁耐圧の低下を効果的に減少することができる。
【0020】
また、前記本発明の多結晶h−BN粒子の製造方法によれば、硼素を特定の割合で含有する、硼素とアルカリ土類金属との複合酸化物を原料として使用することにより、目的とする本発明の多結晶h−BN粒子を含む六方晶窒化硼素粉末を再現性良く製造することができる。
【0021】
尚、前記製造方法において、本発明の多結晶h−BN粒子が得られる理由は明らかではないが、本発明者らは、硼素とアルカリ土類金属との複合酸化物の粒子が、還元窒化反応温度に到達時から均一な液相を形成し、該液相表面に沿って六方晶窒化硼素粒子が粒成長することによるものと推定している。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(多結晶h−BN粒子)
本発明の多結晶h−BN粒子の六方晶窒化硼素の結晶形態は、後述する実施例に示すように、Rigaku社製全自動水平型多目的X線回折装置 SmartLabを用いるX線回折測定によって確認することができる。かかる六方晶窒化硼素の結晶は一般的に板状結晶であり、本発明の多結晶h−BN粒子は、後述の実施例1で得られる多結晶h−BN粒子を示す
図1に見られるように、上記六方晶窒化硼素の結晶が、2以上、好ましくは、4以上、更に好ましくは、8以上の屈曲部において連続した多面構造を有する。また上記板状結晶の厚みは特に制限されないが、0.5〜10μm程度が好ましい。
【0024】
このように、本発明の多結晶h−BN粒子は、2以上の屈曲部において六方晶の結晶形態を有する結晶が連続した多面構造を有する点において、従来の六方晶窒化硼素粒子に無い新規な形態を有する。
【0025】
本発明の多結晶h−BN粒子において、前記屈曲部の角度(θ)は、殆どが139±3度を示し、このことから、該屈曲部は、<10−10>面の対象傾角粒界により形成されているものと推定される。
【0026】
また、本発明の多結晶h−BN粒子は、一般に、2以上の屈曲部によって形成される多面構造により、球状に近い形状、所謂、擬球状となり、内部に空洞を形成する形態で得られる場合が多いが、該空洞部は、一般に、前記擬球状粒子の一部に比較的大きい、具体的には、相当径で2μm以上の開口が複数箇所に存在するため、樹脂に充填時、樹脂は該間隙より容易に粒子内部に浸透し得る。
【0027】
尚、本発明の多結晶h−BN粒子は、上記擬球状の形状に限定されるものではなく、2以上の屈曲部によって形成される多面構造を有するものを含むものである。
【0028】
本発明の多結晶窒化硼素粒子の平均粒径は、10〜150μm、特に、20〜125μm、更に、30〜100μmが好ましい。
【0029】
尚、本発明において、多結晶h−BN粒子の屈曲部の角度(θ)、平均粒径などは、実施例に示す方法により測定した値である。
【0030】
(六方晶窒化硼素粉末)
本発明の多結晶h−BN粒子は、後述の製造方法によって得ることができるが、多結晶h−BN粒子以外の六方晶窒化硼素粒子、例えば、平板状の構造を有する粒子なども一部生成するため、一般には、該多結晶h−BN粒子を含む六方晶窒化硼素粉末として得られる。
【0031】
上記六方晶窒化硼素粉末において、多結晶h−BN粒子の含有率は、該粒子による効果を十分発揮するためには多いほど好ましく、30容量%以上、特に、60容量%以上が好ましい。
【0032】
勿論、篩工程での粗粒業凝集粒子の除去、乾式分級による微粉除去などにより、得られる六方晶窒化硼素粉末から、多結晶h−BN粒子以外の粒子を除去して分離して含有率を上げることも可能である。
【0033】
(窒化硼素粉末の製造方法)
本発明の六方晶窒化硼素粉末の製造方法は、特に制限されるものではないが、代表的な製造方法を例示すれば、硼素を酸化物(B
2O
3)換算で33モル%以上含有する、硼素とアルカリ土類金属との複合酸化物およびカーボン源を、B/C(元素比)換算で0.7〜1.0となるように混合し、窒素雰囲気下にて1700〜2200℃の温度に加熱して、上記複合酸化物中の硼素酸化物を還元窒化した後、反応生成物中に存在する複合酸化物を除去することを特徴とする六方晶窒化硼素粉末の製造方法が挙げられる。
【0034】
(原料)
上記本発明の製造方法の最大の特徴は、原料として硼素源とアルカリ土類金属とを別々に使用するのではなく、複合酸化物の形態で使用する点にある。即ち、これらを複合酸化物の形態で使用することにより、後述する還元窒化温度において、各原料の融解時期の時差を小さくすることができ、還元窒化反応及び生成した六方晶窒化硼素の粒成長を、溶融した液相中で均一に行うことができ、後述の製造条件と協働してその液相の表面において、連続した結晶よりなる多面構造を形成することが可能となる。
【0035】
本発明に使用する硼素とアルカリ土類金属との複合酸化物(以下、単に複合酸化物ということもある。)としては、硼素とアルカリ土類金属とが含有される酸化物、加熱によりかかる複合酸化物と成り得る化合物が制限なく使用される。例えば、硼素酸化物とカルシウム酸化物が主成分である天然鉱物のコレマナイト、ウレキサイトなどが好適に使用できる。また、硼素を含む化合物とアルカリ土類金属を含む化合物から合成された複合酸化物も使用することができる。合成方法としては、硼素を含む化合物とアルカリ土類金属を含む化合物を乾式混合して、加熱溶融、冷却、粉砕する方法、水溶性の硼素を含む化合物とアルカリ土類金属を含む化合物の水溶液、もしくは懸濁液を加熱還流した後に脱水乾固する方法などが特に制限なく使用出来る。
【0036】
上記複合酸化物を調製するために使用する硼素を含む化合物としては、硼酸、無水硼酸、メタ硼酸、過硼酸、次硼酸、四硼酸ナトリウム、過硼酸ナトリウム等が特に制限なく使用できる。アルカリ土類金属を含む化合物としては、炭酸カルシウム、炭酸水素カルシウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、硝酸カルシウム、硫酸カルシウム、リン酸カルシウム、シュウ酸カルシウム、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム等を使用することが出来る。
【0037】
このようにして準備される該複合酸化物の純度は、高いほど好ましいが、前述したような天然鉱物を使用することも可能であり、これに含まれる若干量、一般には、5質量%以下程度の割合で含有される不純物は許容することができる。
【0038】
本発明の六方晶窒化硼素粉末の製造に使用される複合酸化物は、硼素を酸化物(B
2O
3)換算で33モル%以上、好ましくは、40モル%以上含有するものを使用することが必要である。即ち、かかる硼素の含有量が上記範囲より少ない複合酸化物を使用した場合、還元窒化温度に達した際に、十分な液相を形成することが困難となり、本発明の多結晶h−BN粒子の生成が困難となる。一方、硼素の割合が過度に多くても多結晶h−BN粒子の生成には問題無いが、昇温時に過剰の硼素が揮散するため、経済的に不利であると共に、装置の汚染が懸念される。従って、複合酸化物中の硼素は、酸化物(B
2O
3)換算で70モル%以下、特に、60モル%以下とすることが好ましい。
【0039】
本発明の六方晶窒化硼素粉末の製造方法において、還元窒化反応に供する複合酸化物の平均粒子径は、得られる多結晶h−BN粒子の粒子径及び反応性の観点から、30〜300μmが好ましく、50〜200μmがより好ましく、70〜150μmが更に好ましい。すなわち、30μm以下では得られるh−BN粒子が多結晶になり難く、300μm以下では、複合酸化物内部の窒化不良が懸念されるため、好ましくない。
【0040】
本発明の製造方法において、カーボン源としては公知の炭素材料が特に制限無く使用される。例えば、カーボンブラック、活性炭、カーボンファイバー等の非晶質炭素の他、ダイヤモンド、グラファイト、ナノカーボン等の結晶性炭素、モノマーやポリマーを熱分解して得られる熱分解炭素等が挙げられる。そのうち、反応性の高い非晶質炭素が好ましく、更に、工業的に品質制御されている点で、カーボンブラックが特に好適に使用される。また、上記カーボンブラックとしては、アセチレンブラック、ファーネスブラック、サーマルブラック等を使用することができる。また、上記カーボン源の平均粒子径は、0.01〜5μmが好ましく、0.02〜4μmがより好ましく、0.05〜3μmが特に好ましい。即ち、該カーボン源の平均粒子径を5μm以下とすることにより、カーボン源の反応性が高くなり、また、0.01μm以上とすることにより、取り扱いが容易となる。
【0041】
本発明の製造方法において、上記の各原料を含む混合物の反応への供給形態は特に制限されず、粉末状のままでもよいが、造粒体を形成して行ってもよい。
【0042】
本発明の製造方法において、前記複合酸化物とカーボン源との混合方法は特に制限されず、振動ミル、ビーズミル、ボールミル、ヘンシェルミキサー、ドラムミキサー、振動攪拌機、V字混合機等の一般的な混合機が使用可能である。
【0043】
また、造粒を行う場合の造粒方法も、必要に応じてバインダーを使用し、押出造粒、転動造粒、コンパクターによる造粒など、公知の方法により実施することができる。この場合、造粒体の大きさは、5〜10mm程度が好適である。
【0044】
(原料の調製)
本発明において、還元窒化反応は、カーボン源と窒素の供給により実施されるが、目的とする多結晶h−BN粒子を効果的に得るためには、複合酸化物とカーボン源との割合は、B/C(元素比)換算で0.7〜1.0、好ましくは0.75〜0.95とすることが必要である。即ち、該モル比が1.0を超えると、還元されずに揮散する硼素化合物の割合が増加し、収率が低下するばかりでなく、上記揮散成分により、製造ラインに悪影響を及ぼす。また、該モル比が0.7未満では、未反応の酸化硼素量が少なく、還元窒化温度に達した際に、十分な液相を形成出来ないため、目的とする多結晶h−BN粒子が生成し難くなる。
【0045】
目的とする多結晶h−BN粒子を更に効果的に得るためには、上記条件下、過剰の窒素の存在下で、カーボン源の使用量を、還元窒化反応により得られる反応生成物中に存在する複合酸化物の割合が45〜60質量%、特に、50〜55質量%、該複合酸化物中のB
2O
3の割合が25〜50モル%、特に、30〜40モル%となるように、通常の条件より少なめに調整し、前記カーボン源の消費が完了した時点で反応を終了することが好ましい。
【0046】
ここで、かかるカーボン源の消費の完了は、反応系からの一酸化炭素の発生が無くなったことにより確認することができる。
【0047】
前記カーボンの使用量の決定において、反応生成物中に存在する複合酸化物の割合が、45質量%未満である場合、液相量が少なく多結晶h−BN粒子形成への粒成長が十分に行われない傾向があり、また、60質量%を超える場合、液相が窒化硼素粒子に対して過剰に存在するため、生成した六方晶窒化硼素結晶が多面構造を形成し難くなる傾向があり、多結晶h−BN粒子の収率が低下することがある。また、上記複合酸化物中のB
2O
3の割合が50モル%を超える場合、収率の低下を招き、25%に満たない場合、還元窒化の終了まで液相を維持することが困難となり、多結晶h−BN粒子を形成するための粒成長が十分に行われない虞がある。
(還元窒化)
本発明の製造方法において、結晶性の高い六方晶窒化硼素粉末を得るために、通常1700℃以上、好ましくは、1700〜2200℃、更に好ましくは1800〜2000℃で熱処理を行い、六方晶窒化硼素を得る。即ち、かかる熱処理温度が1700℃未満では結晶性の高い六方晶窒化硼素は得られず、2200℃以上では、効果が頭打ちとなり、経済的に不利である。
【0048】
本発明の窒化硼素製造方法において、反応系への窒素源の供給は、公知の手段によって形成することが出来る。例えば、後に例示した反応装置の反応系内に窒素ガスを流通させる方法が最も一般的である。また、使用する窒素源としては、上記窒素ガスに限らず、還元窒化反応において窒化が可能なガスであれば特に制限されない。具体的には、前記窒素ガスの他、アンモニアガスを使用することも可能である。また、窒素ガス、アンモニアガスに、水素、アルゴン、ヘリウム等の非酸化性ガスを混合したガスも使用可能である。
【0049】
本発明の六方晶窒化硼素粉末の製造方法は、反応雰囲気制御の可能な公知の反応装置を使用して行うことができる。例えば、高周波誘導加熱やヒーター加熱により加熱処理を行う雰囲気制御型高温炉が挙げられ、バッチ炉の他、プッシャー式トンネル炉、竪型反応炉等の連続炉も使用可能である。
【0050】
(酸洗浄)
本発明の製造方法において、上述の還元窒化によって得られる反応生成物は、多結晶h−BN粒子を含む六方晶窒化硼素粉末の他に、原料の複合酸化物が反応により組成を変化させた複合酸化物等の不純物が存在するため、酸を用いて洗浄することが好ましい。かかる酸洗浄の方法は特に制限されず、公知の方法が制限無く採用される。例えば、窒化処理後に得られた副生成物含有窒化硼素を解砕して容器に投入し、該不純物を含有する六方晶窒化硼素粉末の5〜10倍量の希塩酸(10〜20重量%HCl)を加え、4〜8時間接触せしめる方法などが挙げられる。
【0051】
上記酸洗浄時に用いる酸としては、塩酸以外にも、硝酸、硫酸、酢酸等を用いることも可能である。
【0052】
上記酸洗浄の後、残存する酸を洗浄する目的で、純水を用いて洗浄する。上記洗浄の方法としては、上記酸洗浄時の酸をろ過した後、使用した酸と同量の純水に酸洗浄した窒化硼素を分散させ、再度ろ過する。この操作を数回実施することで、本発明の窒化硼素粉末の純度を達成可能となる。
【0053】
(窒化硼素粉末の用途)
本発明の窒化硼素粉末の用途は、特に限定されず、公知の用途に特に制限無く適用可能である。好適に使用される用途を例示するならば、電気絶縁性向上や熱伝導性付与等の目的で樹脂に充填剤として使用する用途が挙げられる。上記窒化硼素粉末の用途において、得られる樹脂組成物は、高い電気絶縁性や熱伝導性を有する。
【0054】
従って、本発明の窒化硼素粉末は、電子部品の放熱シートや放熱ゲルに代表される固体状または液体状のサーマルインターフェイスマテリアル用の充填剤として好適に使用することができる。
【0055】
前記樹脂としては、ポリオレフィン、塩化ビニル樹脂、メタクリル酸メチル樹脂、ナイロン、フッ素樹脂等の熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ケイ素樹脂等の熱硬化性樹脂、合成ゴムなどが挙げられる。
【0056】
また、本発明の窒化硼素粉末は、立方晶窒化硼素や窒化硼素成型品等の窒化硼素加工品製品の原料、エンジニアリングプラスチックへの核剤、フェーズチェンジマテリアル、固体状または液体状のサーマルインターフェイスマテリアル、溶融金属や溶融ガラス成形型の離型剤、化粧品、複合セラミックス原料等の用途にも使用することができる。
【実施例】
【0057】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例になんら限定されるものではない。
【0058】
尚、実施例において、各測定は、以下の方法により測定した値である。
【0059】
[六方晶窒化硼素の同定]
X線回折測定を用いて六方晶窒化硼素の同定を行った。X線回折測定は、Rigaku社製全自動水平型多目的X線回折装置 SmartLabを用いて測定した。測定条件はスキャンスピード20度/分、ステップ幅0.02度、スキャン範囲10〜90度とした。
【0060】
[六方晶窒化硼素粒子の平均粒径]
倍率500倍のSEM観察像から異なる多結晶h−BN粒子100個を無作為に選び、多結晶h−BN粒子の長軸の長さ(L:平均粒子径)を測定し、値の平均値を算出して求めた。
【0061】
[多結晶h−BN粒子の屈曲部の数]
倍率500倍のSEM観察像から異なる多結晶h−BN粒子100個を無作為に選び、それぞれの多結晶h−BN粒子について、視野で確認される屈曲部をカウントし、それを2倍した数を屈曲部の数とし、100個の粒子の平均値を算出して求めた。
【0062】
[多結晶h−BN粒子含有割合(容量%)]
倍率500倍のSEM観察像10水準から多結晶h−BN粒子と非多結晶h−BN粒子を選別して多結晶h−BN粒子含有容量%を求めた。
【0063】
[反応生成物中に存在する複合酸化物の割合と該複合酸化物中のB
2O
3の割合]
反応生成物中に存在する複合酸化物の割合(質量%)と、該複合酸化物中のB
2O
3の割合(モル%)は、次の方法により求めた。
【0064】
反応生成物のX線回折測定及び、反応生成物中のX線回折測定結果リートベルト解析を用いて、該複合酸化物中のB
2O
3の割合(モル%)、反応生成物中に存在する複合酸化物の割合(質量%)を求めた。X線回折測定は、Rigaku社製全自動水平型多目的X線回折装置 SmartLabを用いて測定した。測定条件はスキャンスピード20度/分、ステップ幅0.02度、スキャン範囲10〜90度とした。リートベルト解析は反応生成物のX線回折測定結果を用いて求めた。
【0065】
実施例1
複合酸化物として、酸化硼素、酸化カルシウムからなる天然鉱物であるコレマナイト(平均粒径100μm)0.72CaO−B
2O
3100gとカーボンブラック20.5gを含む混合物120.5gを、ボールミルを使用して混合した。該混合物の(B/C)元素比換算は0.84である。該混合物100gを、黒鉛製タンマン炉を用い、窒素ガス雰囲気下、1950℃で2時間保持することで窒化処理した。還元窒化反応終了後に存在する複合酸化物の質量%、複合酸化物中のB
2O
3のモル%を表1に示した。
【0066】
次いで、副生成物含有窒化硼素を解砕して容器に投入し、該副生成物含有窒化硼素の5倍量の塩酸(7重量%HCl)を加え、回転数800rpmで24時間撹拌した。該酸洗浄の後、酸をろ過し、使用した酸と同量の純水に、ろ過して得られた窒化硼素を分散させ、再度ろ過した。この操作を5回繰り返した後、150℃で6時間乾燥させた。
【0067】
乾燥後に得られた粉末を目開き125μmの篩にかけて、白色の六方晶窒化硼素粉末を得た。得られた六方晶窒化硼素粉末中の多結晶窒化硼素粒子の含有有無、割合をSEM観察にて確認、屈曲部の数、角度、平均粒径(L)、六方晶窒化硼素粉末の平均粒径(l)を測定して表1に示した。
【0068】
実施例2
ホウ酸及び水酸化カルシウム水溶液から合成した複合酸化物を0.62CaO−B
2O
3とし、(B/C)元素比換算を0.79とした以外は実施例1と同様にした。各条件、測定値を表1に示した。
【0069】
実施例3
酸化硼素、酸化カルシウムからなる複合酸化物を0.43CaO−B
2O
3とし、(B/C)元素比換算を0.92とした以外は実施例1と同様にした。各条件、測定値を表1に示した。
【0070】
比較例1
酸化硼素、酸化カルシウム、カーボンブラックをCaO/B
2O
3モル比で0.72、(B/C)元素比換算を0.84となるように混合した以外は実施例1と同様にした。各条件、測定値を表1に示した。
【0071】
実施例4〜6
実施例1〜3で得られた窒化硼素粉末をシリコーン樹脂及びエポキシ樹脂に充填し樹脂組成物を作製し、熱伝導率の評価を行った。エポキシ樹脂は、(三菱化学株式会社製JER806)100重量部と硬化剤(脂環式ポリアミン系硬化剤、三菱化学株式会社製JERキュア113)28重量部との混合物を準備した。シリコーン樹脂は(信越化学工業社製KE−109)100重量部と硬化剤(信越化学工業社製CAT−RG)10重量部との混合物を準備した。次に、各基材樹脂35体積%と、前記特定窒化硼素粉末65体積%とを自転・公転ミキサー(倉敷紡績株式会社製MAZERUSTAR)にて混合して樹脂組成物を得た。
【0072】
これを金型体に注型し、熱プレスを使用し、温度:150℃、圧力:5MPa、保持時間:30分の条件で硬化させ、直径10mm、厚さ0.25mmのシートを作製した。該シートを温度波熱分析装置にて熱伝導率を測定した結果を表2に示した。実施例1〜3で作製した窒化硼素粉末を充填したシートはいずれも10.0W/m・K以上であり、高熱伝導率を示した。また、耐電圧試験機(多摩電測株式会社製)にて絶縁耐力を測定した結果、45kV/mm以上と高絶縁耐力であった。
【0073】
比較例2
比較例1で得られた窒化硼素粉末を用いた以外は実施例4と同様にした。温度波熱分析装置にて熱伝導率、耐電圧試験機(多摩電測株式会社製)にて絶縁耐力を測定した結果を表2に示した。比較例1で作製した窒化硼素粉末を充填したシートはいずれも10.0W/m・K、25kV/mm以下であり、低熱伝導率、低絶縁耐力を示した。
【0074】
【表1】
【0075】
【表2】