特許第6516638号(P6516638)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6516638ピリジンメタノール化合物の製造方法及びミルタザピンの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6516638
(24)【登録日】2019年4月26日
(45)【発行日】2019年5月22日
(54)【発明の名称】ピリジンメタノール化合物の製造方法及びミルタザピンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 401/04 20060101AFI20190513BHJP
   C07D 471/14 20060101ALI20190513BHJP
【FI】
   C07D401/04
   C07D471/14 102
【請求項の数】3
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-175614(P2015-175614)
(22)【出願日】2015年9月7日
(65)【公開番号】特開2017-52704(P2017-52704A)
(43)【公開日】2017年3月16日
【審査請求日】2018年5月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(72)【発明者】
【氏名】宮奥 隆行
(72)【発明者】
【氏名】葛西 宗江
【審査官】 石井 徹
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/046851(WO,A1)
【文献】 化学実験法,株式会社 東京化学同人,1976年 7月21日,第10刷,P189-194,295,296
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2−(4−メチル−2−フェニル−1−ピペラジニル)−3−ピリジンカルボン酸と水素化ビス(2−メトキシエトキシ)アルミニウムナトリウムとを反応させて2−(4−メチル−2−フェニル−1−ピペラジニル)−3−ピリジンメタノールを製造する方法において、2−(4−メチル−2−フェニル−1−ピペラジニル)−3−ピリジンカルボン酸と水素化ビス(2−メトキシエトキシ)アルミニウムナトリウムとの反応混合物をアルカリ金属ハロゲン化物の水溶液で洗浄する工程、及び、洗浄工程を経た前記反応混合物を濃縮することにより水を留去して得られた残渣に有機溶媒を加えて、ピリジンメタノール化合物を溶解させ、不溶なアルカリ金属ハロゲン化物をろ別して除去する工程
を含んでなる2−(4−メチル−2−フェニル−1−ピペラジニル)−3−ピリジンメタノールの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法で2−(4−メチル−2−フェニル−1−ピペラジニル)−3−ピリジンメタノールを得た後、該2−(4−メチル−2−フェニル−1−ピペラジニル)−3−ピリジンメタノールと硫酸とを反応させてミルタザピンを得ることを特徴とするミルタザピンの製造方法。
【請求項3】
アルカリ金属ハロゲン化物の水溶液の濃度が、(飽和濃度−17)質量%以上であることを特徴とする請求項1に記載の2−(4−メチル−2−フェニル−1−ピペラジニル)−3−ピリジンメタノールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬品原薬として有用なミルタザピン及びその中間体の新規な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記式(1)で示される1,2,3,4,10,14b−ヘキサヒドロ−2−メチル−ピラジノ[2,1−a]ピリド[2,3−c][2]ベンザゼピン)は、一般名でミルタザピンと呼ばれる医薬品原薬化合物であり、うつ病、うつ状態の患者に処方される極めて有用な抗うつ剤として利用されている。
【0003】
【化1】
【0004】
このミルタザピンの製造方法として、特許文献1及び2において開示されているように、下記式(2)で示される方法が、最も簡便で効率的であることから広く用いられている。具体的には、まず、2−(4−メチル−2−フェニル−1−ピペラジニル)−3−ピリジンカルボン酸(以下、「ピリジンカルボン酸化合物」ともいう。)と還元剤とを反応させ還元することにより、2−(4−メチル−2−フェニル−1−ピペラジニル)−3−ピリジンメタノール(以下、「ピリジンメタノール化合物」ともいう。)を製造する(以下、「還元工程」ともいう。)。次いで、当該ピリジンメタノール化合物と硫酸とを反応させ環化することにより、ミルタザピンを製造することができる(以下、「環化工程」ともいう。)。
【0005】
【化2】
【0006】
上記還元工程の反応に使用する還元剤として、反応性が良好であるために金属水素化物が好適に使用でき、具体的には、特許文献1において、水素化リチウムアルミニウムが用いられ、特許文献2において、水素化ビス(2−メトキシエトキシ)アルミニウムナトリウムが用いられている。しかし、水素化リチウムアルミニウムは自然発火性を有すること、また、水に対して過敏であり、反応時は厳密な無水下で実施する必要があること等、安全性や操作性に課題がある。一方、水素化ビス(2−メトキシエトキシ)アルミニウムナトリウム(以下、「SDMA」ともいう。)は、比較的水に対して安定であり、反応の再現性が高い等の利点を有することから、還元工程で使用する還元剤としてより好ましい。しかし、SDMAは、2−メトキシエトキシ基を有するために有機溶媒中に溶け易く、ゆえに、反応後に反応混合物から残存するSDMAを完全に除去するためには、特許文献2に記載されているように、反応後に残存するSDMAをクエンチ(失活)した後、最終的に反応混合物を水で洗浄する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公昭59−042678号公報
【特許文献2】国際公開第2010/046851号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
SDMAを用いた還元工程の課題として、本発明者らの検討結果によると、生成物であるピリジンメタノール化合物は水に対する溶解度が比較的高いため、クエンチ処理後の反応混合物を水で洗浄する際に、ピリジンメタノール化合物の理論収量に対して10%の量が水層に溶解し、製造収率が低下する。一方、上記の洗浄を水ではなく、無機塩の水溶液で洗浄することで、ピリジンメタノール化合物の水層への溶解量を抑制できる。当該無機塩は、水への溶解度を考慮すると、塩化ナトリウム等のアルカリ金属ハロゲン化物が好ましく、例えば、水と同量の25質量%塩化ナトリウム水溶液を使用した場合、水層への溶解量は理論収量の1%であり、水での洗浄時に比較して、ピリジンメタノール化合物の収率は約9%向上できる。
【0009】
しかしながら、新たな課題として、上記のアルカリ金属ハロゲン化物の水溶液で洗浄して製造されたピリジンメタノール化合物を使用して、硫酸との環化工程を実施した場合、水で洗浄して製造されたピリジンメタノール化合物を使用した場合と比較して、環化反応中に副生する不純物群の量が増加することが判明した。当該不純物群は、ミルタザピンの精製において除去困難であるため、反応時の副生量の増加に伴い、得られるミルタザピンの純度が低下する。
【0010】
当該不純物群とは、実施例に記載の高速液体クロマトグラフィー分析(HPLC)において、保持時間が20.1分付近、及び、20.5分付近を示す2種の不純物である。これら2種の不純物は、下記に示す液体クロマトグラフ質量分析(LC−MS)において、いずれも分子量が548であったことから、下記式(3)或いは下記式(4)で示されるピリジンメタノール骨格の二量体構造(ダイマー)の構造異性体であると推測される(以下、保持時間が20.1分付近を示す不純物は「二量体不純物1」、20.5分付近を示す不純物は「二量体不純物2」ともいう。)。
【0011】
【化3】
【0012】
【化4】
【0013】
(LC−MSの測定条件)
装置:液体クロマトグラフ装置及び質量分析計(Waters Corporation
製)
検出器:紫外吸光光度計(Waters Corporation製)
測定波長:240nm
カラム:内径4.6mm、長さ25cmのステンレス管に5μmの液体クロマトグラ
フィー用オクタデシルシリル化シリカゲルが充填されたもの。
移動相a:酢酸アンモニウム0.39gを水1000mLに添加し溶解させた混合液。
移動相b:アセトニトリル。
移動相の送液:移動相A及びBの混合比を表1のように変えて濃度勾配制御する。
【0014】
【表1】
【0015】
流量:毎分0.3mL。
カラム温度:40℃付近の一定温度。
イオン化法:エレクトロスプレーイオン化法(ESI)。
検出モード:正イオンモード。
【0016】
従って、ピリジンカルボン酸化合物を原料とし、還元及び環化工程により、ミルタザピンを製造する方法において、高収率で、且つ、高純度のミルタザピンを製造する方法が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意研究を重ねた結果、ピリジンメタノール化合物に残存する微量なアルカリ金属ハロゲン化物が、環化工程における二量体不純物1及び2の反応時の副生量に影響を与えることを見出した。即ち、還元工程において、反応終了後の後処理としてアルカリ金属ハロゲン化物の水溶液で洗浄した後、脱塩処理操作を実施し、ピリジンメタノール化合物に残存するアルカリ金属ハロゲン化物を低減することで、続く環化工程における上記副生量を抑制できることを見出した。
【0018】
ピリジンメタノール化合物に残存するアルカリ金属ハロゲン化物の質量は、通常、ピリジンメタノール化合物の質量に対して、0.3質量%〜2.0質量%である。このような微量なアルカリ金属ハロゲン化物が、二量体不純物1及び2の副生量に影響を与えることは驚くべきことである。アルカリ金属ハロゲン化物が副生量に影響を与える理由は、明らかではないが、以下のように推測する。推定される二量体不純物1及び2の副生メカニズムは、下記式(5)に示される。まず、ピリジンメタノール化合物と硫酸との反応により、反応中間体として2−(4−メチル−2−フェニル−1−ピペラジニル)−3−ピリジンメタノール硫酸水素塩(以下、「硫酸付加体」ともいう。)が生成する。通常、この硫酸付加体は、分子内環化反応によりミルタザピンが生成する(ルートA)。しかし、副反応として硫酸付加体がピリジンメタノール化合物と分子間で反応することにより、二量体不純物1及び2が副生する(ルートB)。ここで、アルカリ金属ハロゲン化物と硫酸との反応により生成したハロゲン化水素が、ピリジンメタノール化合物と反応することで、1−[3−(ハロメチル)2−ピリジニル]−4−メチル−2−フェニルピペラジン(以下、「ハロ化体」ともいう。)が生成する。当該化合物は、ピリジンメタノール化合物と比較して、硫酸付加体との反応性が高く、その結果、硫酸付加体との分子間反応が促進される。分子間反応により副生した化合物は、反応後の後処理操作において、ハロ基がヒドロキシル化され、結果的に二量体不純物1及び2の副生量が増加する(ルートC)。
【0019】
【化5】
【0020】
即ち、本発明は、ピリジンカルボン酸化合物とSDMAとを反応させピリジンメタノール化合物を製造する方法において、反応後の後処理操作として、アルカリ金属ハロゲン化物の水溶液により反応混合物を洗浄すること、及び、洗浄工程を経た前記反応混合物を濃縮することにより水を留去して得られた残渣に有機溶媒を加えて、ピリジンメタノール化合物を溶解させ、不溶なアルカリ金属ハロゲン化物をろ別して除去・低減することを特徴とするピリジンメタノール化合物の製造方法である。さらに、このようにして製造されたピリジンメタノール化合物と硫酸とを反応させることを特徴とするミルタザピンの製造方法である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、従来の方法と比較して、ピリジンメタノール化合物を高収率で製造することができる。さらに、続く環化反応時の二量体不純物の副生量を抑制でき、その結果、医薬品原薬として好適に使用できる高品質なミルタザピンを製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明においては、ピリジンカルボン酸化合物とSDMAとを反応させてピリジンメタノール化合物を製造する還元工程において、反応後の後処理操作として、反応混合物をクエンチ処理し、次いで、アルカリ金属ハロゲン化物の水溶液により洗浄する。さらに、当該反応混合物から、脱塩処理により残存するアルカリ金属ハロゲン化物を低減する。
【0023】
また、ピリジンメタノール化合物と硫酸とを反応させてミルタザピンを製造する環化工程において、上記のようにして製造されたピリジンメタノール化合物を使用する。
【0024】
≪還元工程≫
(ピリジンカルボン酸化合物)
本発明に使用するピリジンカルボン酸化合物は、特に制限されることなく、公知の方法により製造することができる。公知の方法の一例として、特許文献1に記載されているように、2−(4−メチル−2−フェニルピペラジン−1−イル)ピリジン−3−カルボニトリルをエタノール溶媒中、水酸化カリウムにて加水分解した後、塩酸で中和してピリジンカルボン酸化合物を製造する方法が記載されている。このようにして製造されるピリジンカルボン酸化合物は、通常、その純度が85.0%以上99.5%以下であり、好適に本発明に使用することができる。
【0025】
(SDMA)
本発明に使用する水素化ビス(2−メトキシエトキシ)アルミニウムナトリウム(SDMA)は、試薬や工業品等、特に制限されることなく使用することができる。また、固体或いは有機溶媒の溶液等、その形態も特に制限されないが、SDMAの安定性や反応性、操作性等を考慮すると、有機溶媒の溶液がより好ましい。当該有機溶媒の種類としては、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、1,2−ジメトキシエタンなどの鎖状エーテル類、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどの環状エーテル類、ヘキサン、ヘプタンなどの炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類が挙げられる。これらの中でも、SDMAの溶解性や反応性を考慮すると、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、トルエン、キシレンが好ましい。また、溶液の濃度は、有機溶媒の種類等によるため、一概に規定できないが、例えば、トルエン溶液の場合、溶液の全質量に対して、20質量%以上85質量%以下であり、反応性や操作性を考慮すると、50質量%以上80質量%以下がより好ましい。
【0026】
SDMAの使用量は、使用するピリジンカルボン酸化合物1モルに対して、通常、1モル以上8モル以下であり、反応性や不純物の副生量等を考慮すると、2モル以上6モル以下であることが好ましい。なお、溶液として使用する場合、その濃度を考慮して使用量を決定すれば良い。
【0027】
(反応条件)
本発明における還元工程の反応条件は、公知の条件を採用すれば良く、例えば、特許文献2に記載されているように、ピリジンカルボン酸化合物をテトラヒドロフランに懸濁、或いは、溶解させた後、SDMAを加えて40℃付近で反応させる。反応溶媒であるテトラヒドロフランは、ジエチルエーテル、ジブチルエーテルなどの鎖状エーテル類、ジオキサン、1,2−ジメトキシエタンなどの環状エーテル類等も代用できるが、反応性の観点から、テトラヒドロフランがより好ましい。また、反応温度は、SDMAの使用量や反応溶媒等の沸点等にもよるが、通常、25℃以上65℃以下である。中でも、反応時間が短く、過剰に還元された不純物の副生量が少ない点から、30℃以上50℃以下がより好ましい。なお、反応時間は、ピリジンカルボン酸化合物の残存量を、HPLC等で確認しながら適宜決定すれば良い。
【0028】
(クエンチ処理)
本発明において、上記のようにして反応後、反応混合物に残存するSDMAを失活させ、除去するクエンチ処理を行う。クエンチ処理方法は、2通りの方法が挙げられる。
【0029】
第一の方法は、まず、反応混合物に水或いはアルコールを加えてSDMAを失活させ、次いで、失活により析出するアルミニウム化合物をろ別する方法である。当該アルコールは、メタノール、エタノール等の炭素数が1以上4以下の低級アルコールが挙げられる。水或いはアルコールの使用量はSDMAの使用量1gに対して、0.75mL以上5mL以下である。水或いはアルコールを加えて失活させる際は、発熱を伴うため、反応混合物が0℃以上30℃以下となるように、冷却下で加えることが好ましい。なお、アルミニウム化合物のろ別方法等は、一般的な公知の方法を採用すれば良い。アルコールにより失活させた場合、ろ別後に均一な溶液が得られるが、水により失活させた場合、ろ別後に二層の混合物が得られる。よって、この場合は分液により水層を除去する必要がある。この際、水層にピリジンメタノール化合物が溶解し、収量の損失が生じるため、失活にはアルコールを用いることがより好ましい。
【0030】
第二の方法は、まず、反応混合物に酒石酸ナトリウムカリウム(別名:ロッシェル塩)の水溶液を加えSDMAを失活させ、次いで、水層とピリジンメタノール化合物が溶解した有機溶媒層とを分液する方法である。失活により生じるアルミニウム化合物はロッシェル塩と錯体を形成し水層に溶解するため、分液によって除去される。ロッシェル塩は、試薬及び工業品等、特に制限されること無く使用することができる。その使用量はSDMAの使用量1モルに対して、0.2モル以上5モル以下であり、水溶液の濃度は、ロッシェル塩の水への溶解度を考慮すると、水溶液の全質量に対して、5質量%以上38質量%以下である。当該失活操作も、上記と同様に発熱を伴うため、反応混合物が0℃以上30℃以下となるように、冷却下で加えることが好ましい。なお、分液操作等は、一般的な公知の方法を採用すれば良い。
【0031】
第一の方法は、ろ別操作が必要であること、析出するアルミニウム化合物中にピリジンメタノール化合物が含まれ収率が低下する場合があることから、第二の方法がより好ましい。
【0032】
上記何れの方法においても、反応後に残存するSDMAの大半を除去することができるが、微量のSDMAは失活されずに残存し、また、SDMAは親油性の官能基を有するために、クエンチ処理後の反応混合物中に残存する。よって、当該混合物を再度洗浄し、残存するSDMAを完全に除去する必要がある。
【0033】
(洗浄処理)
洗浄操作とは、上記クエンチ処理後の反応混合物にアルカリ金属ハロゲン化物の水溶液を加えて混合し、SDMAを失活させ水層へと溶解させた後、有機溶媒層と水層とを分離する操作である。クエンチ処理後のSDMAの残存量は微量であるため、失活により生じるアルミニウム化合物は析出せずに水層に溶解するため、クエンチ処理のように、ろ別操作等は必要としない。
【0034】
上記のアルカリ金属ハロゲン化物とは、アルカリ金属元素であるリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、フランシウムと、ハロゲン元素であるフッ素、塩素、臭素、ヨウ素からなる無機塩であり、例えば、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、臭化ナトリウム等である。これらの中でも、水への溶解度が高く、洗浄操作におけるピリジンメタノール化合物の損失量を少なくできる点から、塩化ナトリウム、塩化カリウムが特に好ましい。また、水溶液の濃度は、アルカリ金属ハロゲン化物の種類によるため、一概に規定できないが、上限は飽和濃度であり、下限はそれより17%少ない値((飽和濃度−17)質量%)であることが好ましい。例えば、塩化ナトリウムの水溶液であれば、水溶液の全重量に対する濃度が10質量%以上27質量%以下である。当該水溶液を原料であるピリジンカルボン酸化合物1gに対して2.5mL使用した場合、当該水溶液の濃度が25質量%であればピリジンメタノール化合物の損失量は理論収量の1%であり、20質量%であれば2%、15質量%であれば4%である。ゆえに、上記範囲の中でも、水溶液の濃度はより高いことが好ましい。また、その使用量は、ピリジンカルボン酸化合物1gに対して、0.5mL以上20mL以下である。当該範囲であれば、濃度に関わらず、損失量を7%以下とできる。これらの中でも、分層性やピリジンメタノール化合物の損失量を考慮すると、1.0mL以上15mL以下が好ましく、1.5mL以上10mL以下がより好ましい。
【0035】
上記のアルカリ金属ハロゲン化物の水溶液との混合操作は、特に混合順序は制限されず、クエンチ処理後の反応混合物にアルカリ金属ハロゲン化物の水溶液を滴下しても良く、逆の滴下順序でも良い。混合操作は、メカニカルスターラー、マグネティックスターラー等で撹拌しながら実施することが好ましく、そうすることで各層が十分に混合され、SDMAを十分に除去することができる。また、当該混合操作の実施温度は、0℃以上65℃以下であるが、5℃以上55℃以下が好ましく、10℃以上50℃以下がより好ましい。なぜなら、上記範囲であれば、より高い濃度の水溶液を使用することができ、損失量を低減できるためであり、また、有機溶媒の揮発を抑制しピリジンメタノール化合物の析出が起こらないためである。なお、当該混合操作は、通常、1分以上1時間以下で十分である。以上のようにして混合した後、有機溶媒層と水層とを分液することで、有機溶媒層としてSDMAが除去された反応混合物を得ることができる。
【0036】
以上のようにして洗浄することにより、残存するSDMAを完全に除去することができる。また、アルカリ金属ハロゲン化物の水溶液で洗浄することで、ピリジンメタノール化合物の損失量を抑制できる。アルカリ金属ハロゲン化物の水溶液での洗浄による損失量は、上記の通り、理論収量の7%以下であるのに対し、水で洗浄した場合、損失量は理論収量の10%である。また、他の無機塩、例えば、硫酸ナトリウムを使用した場合、その水への溶解度が低いために、損失量を抑制できず、8%の損失が生じる。よって、アルカリ金属ハロゲン化物の水溶液を使用することで、高い収率でピリジンメタノール化合物を製造することができる。
【0037】
しかしながら、上記混合時に各層がエマルジョンを形成し易いこと、また完全に各層を分層することは実質的に困難であるために、有機溶媒層には、通常、その質量に対して1質量%以上10質量%以下の水層が混入する。その結果、最終的に得られるピリジンメタノール化合物には、0.3質量%以上2.0質量%以下のアルカリ金属ハロゲン化物が残存する。この残存したアルカリ金属ハロゲン化物は、次工程の環化工程において、反応時の二量体不純物の副生量に影響を与える。よって、脱塩処理により、アルカリ金属ハロゲン化物を低減する必要がある。
【0038】
(脱塩処理)
脱塩処理の方法は、2通りの方法が挙げられる。第一の方法は、洗浄処理後の反応混合物(有機溶媒層)に、吸着剤を加えて混合し水を吸着させ、それにより析出するアルカリ金属ハロゲン化物を吸着剤と共にろ別して除去する方法である。吸着剤は、活性炭等の有機化合物;ポリスチレン、ポリアクリルアミド等の有機高分子化合物等の有機担体;シリカ、アルミナ、マグネシア、ジルコニア、ボリア、カルシア等の金属酸化物;硫酸カルシウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸セシウム、硫酸水素カルシウム、硫酸水素ナトリウム、硫酸マグネシウム、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸水素カルシウム、亜硫酸カルシウム、硝酸カリウム、硝酸ナトリウム、硝酸アンモニウム、硝酸ウラニル、硝酸カルシウム、硝酸バリウム、亜硝酸ナトリウム等の無機塩等の無機担体;および珪藻土、滑石、方解石、苦灰石、硝石、チリ硝石、沸石、黄鉄鉱、黄銅鉱、赤銅鉱、黒銅鉱、方鉛鉱、辰砂、石英、磁鉄鉱、コランダム、岩塩、蛍石、ダイアスポア、針鉄鉱、ギブス石等の鉱物等である。これらの中でも、水の吸着効率が高い点から、活性炭、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、シリカゲル、アルミナ、珪藻土、沸石が好ましい。
【0039】
吸着剤の使用量は、洗浄処理後の反応混合物に含まれる水層の量にもよるが、ピリジンカルボン酸化合物1gに対して0.1g以上20g以下を使用すれば十分に水の吸着効果が得られる。中でも、吸着によるピリジンメタノール化合物の損失が少ない点から、0.1g以上15g以下が好ましく、0.1g以上10g以下がより好ましい。また、吸着剤と混合する温度は、0℃以上40℃以下であるが、吸着効率が高い点から、0℃以上30℃以下が好ましく、0℃以上20℃以下がより好ましい。混合する時間は、通常、0.01分間以上2時間以下で十分に水が吸着される。以上のようにして、吸着剤と混合した後、減圧ろ過や加圧ろ過、遠心分離等により固液分離することで、水の吸着に伴い析出するアルカリ金属ハロゲン化物を低減することができる。
【0040】
第二の方法は、洗浄処理後の反応混合物を濃縮することにより、有機溶媒と水とを留去して得られた残渣に有機溶媒を加えて、ピリジンメタノール化合物を溶解させ、不溶なアルカリ金属ハロゲン化物をろ別して除去する方法である。上記の濃縮は、常圧下及び減圧下で実施できるが、留去効率が高い点から、減圧下がより好ましい。また、濃縮する温度は、圧力にもよるが、通常、20℃以上有機溶媒の沸点以下である。当該操作において、有機溶媒層中の水が無くなれば、有機溶媒は全量を留去する必要は無く、その時点で留去操作を終えても良い。なお、上記水量は、カールフィッシャー等の装置を用いて測定すれば良い。
【0041】
濃縮後に加える有機溶媒は、ピリジンメタノール化合物を溶解することができ、且つ、アルカリ金属ハロゲン化物が溶解しない溶媒であれば、特に制限されることなく使用することができる。例えば、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、1,2−ジメトキシエタンなどの鎖状エーテル類、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどの環状エーテル類、ヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類が挙げられる。これらの中でも、ピリジンメタノール化合物の溶解度が高く、使用量を少なくできる点から、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、トルエン、キシレンを用いることが好ましい。有機溶媒の使用量は、その種類にもよるが、通常、ピリジンカルボン酸化合物1gに対して、1mL以上30mL以下である。また、溶解させる際の温度は、10℃以上有機溶媒の沸点以下であるが、有機溶媒の使用量を少なくできる点から、20℃以上有機溶媒の沸点以下が好ましく、30℃以上有機溶媒の沸点以下がより好ましい。なお、上記の濃縮操作において、全量の有機溶媒を留去せずに、ピリジンメタノール化合物が析出していない場合は、有機溶媒を加えても良いが、加えなくても良い。
【0042】
以上のようにして、ピリジンメタノール化合物を溶解させた後、不溶物として残るアルカリ金属ハロゲン化物を減圧ろ過や加圧ろ過、遠心分離等により固液分離することで、アルカリ金属ハロゲン化物を低減することができる。具体的には、脱塩処理を実施しない場合、ピリジンメタノール化合物中にアルカリ金属ハロゲン化物が0.3質量%以上2.0質量%以下の量が残存するのに対し、脱塩処理により、その残存量を0.3質量%未満とすることができる。
【0043】
上記何れの方法によっても、アルカリ金属ハロゲン化物を低減することができるが、第一の方法は、吸着剤にピリジンメタノール化合物も吸着することによる収量の損失が生じるため、第二の方法がより好ましい。
【0044】
(単離操作)
本発明において、以上のようにして得られた、アルカリ金属ハロゲン化物が低減された、ピリジンメタノール化合物の有機溶媒溶液から、ピリジンメタノール化合物を単離する。単離の方法は、特に制限されることなく、公知の方法を採用すれば良く、例えば、特許文献1に記載されているように、当該溶液を濃縮し、濃縮残渣をエーテル等の溶媒による再結晶で精製することにより、ピリジンメタノール化合物を単離できる。再結晶溶媒は、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類、アセトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン等の鎖状エーテル類、テトラヒドロフラン、ジオキサン等の環状エーテル類、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、酢酸エチル、酢酸イソプロピル等のエステル類等が挙げられる。これらの溶媒は、単独で使用しても良く、2種類以上の混合溶媒として使用しても良い。また、その使用量は、使用する溶媒の種類により適宜決定すれば良い。再結晶後のろ別操作や乾燥操作についても、一般的な公知の方法で実施すれば良い。乾燥操作における圧力は、常圧下、空気や窒素等の通気下、減圧下等、特に制限されないが、温度はピリジンメタノール化合物が昇華性を有するために、10℃以上100℃以下で実施することが好ましい。
【0045】
以上のようにして、高純度のピリジンメタノール化合物を高収率で製造できる。このピリジンメタノール化合物を用いて、環化工程として硫酸との環化反応を実施することによりミルタザピンを製造することができる。
【0046】
≪環化工程≫
本発明において、環化工程の方法は公知の方法を採用すれば良く、例えば、特許文献2に記載の方法を採用できる。15℃付近に冷却した硫酸に、20℃以下でピリジンメタノール化合物を少しずつ加え、得られた混合物を25〜30℃で反応させる。HPLC等によりピリジンメタノール化合物の消失を確認した後、水を加え、さらにアンモニア水や水酸化ナトリウム水溶液等の塩基を加えpHを10〜11に調整する。次いで、酢酸エチルを加えて撹拌した後、分液して得られた有機溶媒層を活性炭処理して脱色する。さらに、酢酸エチルとジイソプロピルエーテルとの混合溶媒を用いた再結晶を行い、ミルタザピンをろ別、乾燥することにより、ミルタザピンを製造することができる。
【0047】
上記方法の各操作は、一般的な公知の方法により実施すれば良く、分液時の抽出溶媒や再結晶溶媒は、上記の限りではない。特に、再結晶溶媒は、ミルタザピンの水和物を製造する場合は、水を含む溶媒を採用すれば良い。
【0048】
硫酸の使用量や反応温度等、何れの反応条件を採用した場合においても、反応時に二量体不純物1及び2が副生する。脱塩処理を実施せずに製造されたピリジンメタノール化合物、即ち、0.3質量%以上2.0質量%以下のアルカリ金属ハロゲン化物を含むピリジンメタノール化合物を使用した場合、反応終了時の二量体不純物1の副生量は0.10%以上0.15%以下であり、二量体不純物2は0.15%以上0.23%以下である。一方、脱塩処理を実施して得られたピリジンメタノール化合物、即ち、0.3質量%未満のアルカリ金属ハロゲン化物を含むピリジンメタノール化合物を使用した場合、反応終了時の二量体不純物1の副生量は0.03%以上0.06%以下であり、二量体不純物2は0.06%以上0.08%以下である。
【0049】
二量体不純物1及び2は、ミルタザピンと類似の構造であり、溶解性等の物性が類似であるために、反応後の後処理や精製において除去が困難である。ゆえに、本発明においては、上記環化工程の反応時の副生量が少ないことにより、後処理や精製を簡潔にすることができ、その結果、二量体不純物1及び2の含有量がより少ない、より高純度なミルタザピンを収率良く製造することができる。
【実施例】
【0050】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何等制限されることはない。なお、実施例及び比較例における各種測定および評価方法は以下の通りである。
【0051】
(ミルタザピン及びピリジンメタノール化合物の純度及び二量体不純物の含有量の評価)
HPLCによるミルタザピンの純度及びダイマー不純物の含有量は、下記の装置、条件により測定した。当該条件によるHPLC分析において、ミルタザピンの保持時間は14.0分付近、二量体不純物1は20.1分付近、二量体不純物2は20.5分付近、ピリジンメタノール化合物は5.5分付近である。なお、ミルタザピン及びピリジンメタノール化合物の純度とは、得られたクロマトグラムにおけるミルタザピン及びピリジンメタノール化合物の各ピーク面積値の、全てのピークの面積値の合計に対する百分率で示した値である。また、二量体不純物1及び2の含有量は、各不純物のピーク面積値の、全てのピークの面積値の合計に対する百分率で示した値である。
【0052】
装置:ウォーターズ社製2695
検出器:紫外吸光光度計(ウォーターズ2489)
検出波長:240nm
カラム:内径4.6mm、長さ25cmのステンレス管に5μmの液体クロマトグラフィー用オクタデシルシリカゲルが充填されたもの。
移動相及び送液方法:以下に示す移動相A及びBを用い、試料注入後の経過時間に従い、両者の混合比を下記表2に示す様に制御し、送液した。
移動相A:リン酸水素二ナトリウム12水和物7.2gを水1000mLに溶解し、リン酸を加えてpH7.4とした。
移動相B:アセトニトリル
流量:毎分1.0mL
カラム温度:40℃付近の一定温度
【0053】
【表2】
【0054】
製造例1(ピリジンカルボン酸化合物の製造)
撹拌翼、温度計を取り付けた5Lの四口フラスコに、1−(3−シアノピリジル−2)−4−メチル−2−フェニルピペラジン300.0g(1077.9mmol)、25質量%水酸化カリウムのエタノール溶液6000mLを加え撹拌し、100℃付近に加温した。100℃付近で4時間反応した後、25℃付近まで冷却し水6000mLを加えた。エタノールを減圧下、濃縮し得られた懸濁液に、ジクロロメタン2000mLを加え15分間撹拌した後、分液した。この抽出操作を2回繰り返した。さらに、得られた水層に2N塩酸水溶液を加えてpH7に中和した。次いで、クロロホルム1500mLを加え15分間撹拌した後、分液した。得られた有機溶媒層を混合した後、減圧下、濃縮し得られた残渣に、エタノール1000mLを加え70℃付近に加温した。得られた溶液を25℃付近まで冷却し、同温度付近で7時間程撹拌した。同温度付近で2時間程撹拌した。析出した固体をろ別し、得られた湿体を80℃で10時間減圧乾燥して、ピリジンカルボン酸化合物164.7g(553.8mmol)を得た(純度99.90%、製造収率:51.4%)。
【0055】
実施例1(ピリジンメタノール化合物の製造、第二の方法による脱塩処理)
撹拌翼、温度計を取り付けた300mLの四口フラスコに、製造例1で得られたピリジンカルボン酸化合物10.0g(33.6mmol)、テトラヒドロフラン45mLを加え懸濁させ、10℃に冷却した。窒素雰囲気下にて、70%SDMAのトルエン溶液34.0g(117.7mmol)を滴下した後、40℃付近で5時間反応させた。反応終了後、35質量%ロッシェル塩水溶液54.0g(67.0mmol)を加えた後、有機溶媒層と水層を分液した。有機溶媒層に25質量%塩化ナトリウム水溶液25mLを加えて25℃付近で30分間撹拌して洗浄した後、分液を行った。分液により得られた水層に含まれるピリジンメタノール化合物の量は、理論収量に対して、1.1%であった。一方、分液により得られた有機溶媒層を減圧下で濃縮し、残渣を得た。この残査にテトラヒドロフラン75mLを加え、25℃付近で30分間撹拌した後、不溶物をろ別した。得られたテトラヒドロフラン溶液を減圧濃縮し、残渣に酢酸イソプロピル70mLを加え、60℃付近に加熱した。残渣が溶解した後、ヘプタン70mLを50℃以上で滴下した。得られた溶液を5℃付近まで冷却し、同温度付近で2時間程撹拌した。析出した固体をろ別し、得られた湿体を40℃で12時間減圧乾燥して、ピリジンメタノール化合物7.6g(26.9mmol)を得た。(純度:99.90%、製造収率:80.0%)。
【0056】
このピリジンメタノール化合物1.0gにテトラヒドロフラン5mLを加えて25℃付近で1時間撹拌したところ、不溶物を含まない溶液が得られた。即ち、このピリジンメタノール化合物は、塩化ナトリウムを含んでいなかった。
【0057】
実施例2〜7
アルカリ金属ハロゲン化物の種類、及び/或いは、その水溶液の濃度を変えたこと以外は実施例1と同様の方法でピリジンメタノール化合物を得た。製造条件及び結果を表3に示した。
【0058】
比較例1〜3
水、或いは、他の無機塩の水溶液で洗浄したこと以外は実施例1と同様の方法でピリジンメタノール化合物を得た。製造条件及び結果を表3に示した。
【0059】
【表3】
【0060】
参考例1(第一の方法による脱塩処理)
実施例1と同様にして、反応、クエンチ、洗浄を行い、有機溶媒層を得た。この有機溶媒層に硫酸マグネシウム5.0gを加え、25℃で30分間撹拌した。次いで、不溶物をろ別し、得られた溶液を減圧濃縮した。得られた残渣に酢酸イソプロピル70mLを加え、60℃付近に加熱した。残渣が溶解した後、ヘプタン70mLを50℃以上で滴下した。得られた溶液を5℃付近まで冷却し、同温度付近で2時間程撹拌した。析出した固体をろ別し、得られた湿体を40℃で12時間減圧乾燥して、ピリジンメタノール化合物7.4g(26.2mmol)を得た(純度:99.90%、製造収率:78.0%)。
【0061】
このピリジンメタノール化合物1.0gにテトラヒドロフラン5mLを加えて25℃付近で1時間撹拌したところ、不溶物が確認された。この不溶物をろ別し、60℃で10時間減圧乾燥したところ、その量は2.4mgであった。即ち、このピリジンメタノール化合物は、塩化ナトリウムを0.24質量%含んでいた。
【0062】
比較例4
塩化ナトリウム水溶液による洗浄後、脱塩処理を実施しなかったこと以外実施例1と同様の方法で、ピリジンメタノール化合物7.6g(26.9mmol)を得た。(純度:99.90%、製造収率:80.0%)。
【0063】
このピリジンメタノール化合物1.0gにテトラヒドロフラン5mLを加えて25℃付近で1時間撹拌したところ、不溶物が確認された。この不溶物をろ別し、60℃で10時間減圧乾燥したところ、その量は11.3mgであった。即ち、このピリジンメタノール化合物は、塩化ナトリウムを1.13質量%含んでいた。
【0064】
実施例9(ミルタザピンの製造)
撹拌翼、温度計を取り付けた100mLの四口フラスコに、窒素雰囲気下、濃度が96.3質量%の硫酸18.0g(176.4mmol)を加え、15℃付近に冷却した。次いで、実施例1で得られたピリジンメタノール化合物5.0g(17.6mmol)を、内温35℃以下で20分間かけて少しずつ加えた。得られた混合物を55℃に加温し、7時間反応させた(二量体不純物1:0.04%、二量体不純物2:0.06%)。
【0065】
反応終了後、5℃付近まで冷却し、水35mLを内温35℃以下で少しずつ加えた。次いで、23質量%水酸化ナトリウム水溶液41.2gを内温35℃以下で少しずつ加えた後、トルエン50mLを加えた。さらに、23質量%水酸化ナトリウム水溶液12.2gを加え中和した(pH14)。60℃付近で15分間撹拌した後、水層を分液した。有機層に水10mLを加え、60℃付近で15分間撹拌した後、水層を分液し、ミルタザピンのトルエン溶液として有機層を得た。この有機層に55℃付近でヘプタン25mLを加えて結晶化させ、55℃付近で1時間撹拌した。さらに、5℃付近に冷却し、5℃付近で1時間撹拌した後、減圧ろ過により、結晶をろ別した。ろ別した結晶をトルエン2.5mLとヘプタン2.5mLの混合液により洗浄した後、60℃で減圧下、15時間乾燥し、粗体のミルタザピン4.1g(15.5mmol)を得た(純度:98.14%、二量体不純物1:0.04%、二量体不純物2:0.05%)。
【0066】
撹拌翼、温度計を取り付けた100mLの四口フラスコに、得られた粗体のミルタザピン4.1g、メタノール12mLを加え溶解させた。5℃付近に冷却下後、活性炭0.75gを加え、5℃付近で30分間撹拌した。減圧ろ過により、活性炭をろ別し、得られた溶液に25℃付近で水44mLを少しずつ加えて結晶化させ、25℃付近で1時間撹拌した。さらに、5℃付近に冷却し、5℃付近で1時間撹拌した後、減圧ろ過により、結晶をろ別した。ろ別した結晶をメタノール1.5mLと水5mLの混合液により洗浄した後、60℃で減圧下、15時間乾燥し、ミルタザピン3.8g(14.3mmol、製造収率:81.3%)を得た(純度:99.89%、二量体不純物1:0.03%、二量体不純物2:0.03%)。
【0067】
参考例2
参考例1で得られたピリジンメタノール化合物を使用したこと以外は実施例9と同様の方法で実施し、ミルタザピン3.7g(13.9mmol、製造収率:79.0%)を得た(純度:99.85%、二量体不純物1:0.05%、二量体不純物2:0.05%)。なお、反応終了時点の結果は、二量体不純物1:0.06%、二量体不純物2:0.08%であった。

【0068】
比較例5
比較例4で得られたピリジンメタノール化合物を使用したこと以外は実施例9と同様の方法で実施し、ミルタザピン3.6g(13.6mmol、製造収率:77.1%)を得た(純度:99.78%、二量体不純物1:0.11%、二量体不純物2:0.15%)。なお、反応終了時点の結果は、二量体不純物1:0.13%、二量体不純物2:0.18%であった。