(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
表面処理層を有する窒化アルミニウム粉末であって、 窒化アルミニウム粉末100質量%に対して該表面処理層の炭素含有量が0.001〜0.35質量%であり、リン含有量が0.003〜0.55質量%であり、
当該粉末を以下の条件で石臼型摩砕機により乾式処理したものを120℃のイオン交換水中で保持した際に、pHが8.5に到達するか電気伝導度が150μS/cmを超えるまでの時間(耐水性)が24時間以上である耐水性窒化アルミニウム粉末。
・砥石直径:250mm
・回転速度:1800rpm
・上下2枚の砥石の間隔:窒化アルミニウム粉末の平均粒子径d50(単位:μm)の50±10倍
無機リン酸がオルトリン酸換算で0.01〜1.6質量部と、炭素数13から28の炭化水素基を有する有機リン酸化合物が0.002〜0.4質量部とを含む溶液を、窒化アルミニウム粉末100質量部に接触させてスラリーを調整する工程、及び該スラリーから溶媒を除去する工程を有する耐水性窒化アルミニウム粉末の製造方法であって、無機リン酸と有機リン酸化合物の質量比が無機リン酸/有機リン酸化合物=3〜30であることを特徴とする、請求項1または2に記載の耐水性窒化アルミニウム粉末の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の耐水性窒化アルミニウム粉末は、窒化アルミニウム粉末を構成する粒子の表面に無機リン酸と炭素数13〜炭素数28の炭化水素基を有する有機リン酸化合物の両方(以下、これら2つをまとめて表現する場合は、「リン酸化合物」と呼称する)で、かつこれらを質量比が無機リン酸/有機リン酸化合物=3〜30で処理することで得られる。このような処理により、後述する処理前後で耐水性のある表面処理層(以下、耐水被膜と呼ぶ)が形成される。なお本発明者等の検討によれば、上記リン酸化合物を用いた処理により、窒化アルミニウム表面に炭素数13〜炭素数28の炭化水素基を有する有機リン酸化合物が吸着しているはずであるが、当該吸着している化合物の炭素数はNMR、IRなどを用いても確認が困難であった。従って、確認可能な0.001〜0.35質量%の炭素含有量で特定するものである。当該炭素含有量は好ましくは0.006〜0.16質量%である。
【0021】
また無機リン酸も吸着しているが、通常は、水による溶出テストにより少なくともその一部が溶出してくるため、その存在を確認できる。溶出量は溶出前と比べて、耐水性窒化アルミニウム粉末の有する全リン量にして15〜70質量%であることが好ましい。推定ではあるが、殆どの無機リン酸は水による溶出テストで溶出してくるが、一部は窒化アルミニウム表面と強く結合して、溶出しないものもあると思われる。溶出性のある無機リン酸が存在することで、仮に窒化アルミニウムの一部が加水分解し、アンモニアが発生しても、リン酸アンモニウムとして粒子表面に留まり、イオン成分としての拡散を防ぐことができるものと思われる。ここで、水による溶出テストとは、耐水性窒化アルミニウム粉末2gおよびイオン交換水100gの混合物を、120℃で24時間静置した際に水中に溶出してくる無機リン酸を測定するテストである。
【0022】
また、耐水性窒化アルミニウムの表面処理層中のリンは、無機リン酸に由来するものか、有機リン酸化合物によるものか確認不能なため全リン量に対する割合で判断する。
【0023】
本発明の耐水性窒化アルミニウム粉末は上記全リン含有量が0.003〜0.55質量%である。好ましくは、(PO
4)換算で0.5〜45mg/m
2の割合で存在しているものである。リン酸化合物は、窒化アルミニウム粒子の表面に、特には酸化アルミニウム層を介して、化学的もしくは物理的またはその両方で吸着しているものと推測され、この吸着層が良好な耐水被膜として働き、耐水性が解砕後も維持される。表面処理層のリン含有量は蛍光X線分析により求めることができる。当該リンは、無機リン酸に由来するものと、有機リン酸化合物に由来するものの合計量となる。
【0024】
本発明の窒化アルミニウム粉末は一次粒子のみのものであっても良いし、一次粒子が凝集した凝集体であっても良いし、それらの混合状態であってもよい。凝集体を含む場合、本発明の耐水性窒化アルミニウムは見かけ上は顆粒のこともある。
【0025】
本発明の耐水性窒化アルミニウム粉末における上記凝集は弱く、水と混合し超音波分散を数分かけることにより水中で一次粒子として存在するようになる。即ち、通常のレーザー回折・散乱粒度分布計では一次粒子の大きさ(と分布)のみが測定され、凝集体の粒径は通常正確には測定できない。
【0026】
本発明の耐水性窒化アルミニウム粉末における特徴の一つは、上記凝集体の解砕を行って新たに現れる面にもリン酸化合物による表面処理層が形成されており、耐水性の低い面が生じないことにある。この点は、従来公知の方法で製造された耐水性窒化アルミニウム粉末は、凝集面が表面処理されておらず、凝集体の状態では耐水性が良好であっても、解砕することにより現れた新たな面は耐水性が劣ることに比べて、本発明の特徴的なことである。
【0027】
このような特徴は、下記条件で石臼型摩砕機により乾式処理したものを120℃のイオン交換水中で保持した際に明確に現れる。
【0028】
・砥石直径:250mm
・回転速度:1800rpm
・上下2枚の砥石の間隔:窒化アルミニウム粉末の平均粒子径d
50(単位:μm)の50±10倍
上記石臼型摩砕機とは、間隅を自由に調整できる上下2枚の砥石(グラインダー)で構成され、うち1枚の砥石が高速回転することで、投入物が2枚の砥石の隙間を通過する際に解砕される石臼形式の装置である。解砕の程度は、砥石の直径、回転数、上下2枚の砥石の間隔により決まる。耐水性窒化アルミニウム粉末の解砕は、粉末の砥石直径250mm、回転数1800rpmの石臼型摩砕機で実施する。上下2枚の砥石の間隔の条件は、粒子径によって変更し、原料窒化アルミニウム粉末の平均粒子径d
50(単位:μm)の50±10倍の間隔で実施する。例えば、原料が平均粒子径d
50=5.0μmの粉末であれば、砥石の間隔は200〜300μmで解砕を実施する。
【0029】
上記条件で処理を行った本発明の耐水性窒化アルミニウム粉末は、120℃のイオン交換水中で保持した際に、pHが8.5に到達するか電気伝導度が150μS/cmを超えるまでの時間(耐水性)の早いほうが24時間以上となる。即ち、耐水性に劣る窒化アルミニウム粉末は、表面が加水分解されやすくアンモニウムイオンを放出するため、早期にpHが上昇したり電気伝導度が上昇したりしやすい。本発明の窒化アルミニウム粉末としては、好ましくは耐水性が36時間以上である。
【0030】
なお上記処理条件は定量性を持って把握するために定められたものであり、回転速度や砥石間隔を異なる条件としても、従来公知の窒化アルミニウム粉末とは耐水性の相違を呈する。また、簡易的には乳棒と乳鉢を用いて手で解砕処理を行っても耐水性の良否は把握できる。
【0031】
また前述の通り、本発明の窒化アルミニウム粉末は一次粒子のみからなっていてもよい。このような一次粒子のみからなる場合は、上記石臼型摩砕機により処理した後でも新たな面が生じない(「解砕」が行われない)ため、当然に、耐水性は良好である(例えば、凝集体を一旦解砕処理した窒化アルミニウム粉末も、本発明の耐水性窒化アルミニウム粉末である場合がある)。
【0032】
本発明における耐水性窒化アルミニウム粉末の一次粒子の形状は特に限定されるものではなく、例えば不定形状、球状、多面体状、柱状、ウィスカー状、平板状など任意の形状であることができる。中でも、フィラー用途においては、粘度特性が良好で、熱伝導率の再現性の高い球状が望ましい。
【0033】
また粒径も特に限定されないが、有用性の観点からd
50が0.1〜100μm程度であることが好ましく、0.1〜100μmであることがより好ましい。なおd
50(平均粒子径)は、レーザー回折散乱型粒度分布計で湿式測定し、粒子の累積体積が50%となる粒径である。
【0034】
本発明において石臼型摩砕機による処理後にも耐水性の良好な窒化アルミニウム粉末が得られるのは、前記無機リン酸と有機リン酸化合物との双方を用い、さらにこれらを特定比で用いることにより可能になったものである。
【0035】
以下では上述のような本発明の耐水性窒化アルミニウム粉末を製造する方法を説明する。
【0036】
[原料窒化アルミニウム粉末]
本発明の製造方法における原料窒化アルミニウム粉末としては、従来公知の方法によって製造された粉末状のものを特に制限なく使用することができる。本発明では表面処理を施す前の窒化アルミニウム粉末を「原料窒化アルミニウム粉末」と呼ぶ。本発明における原料窒化アルミニウム粉末を製造する方法としては、例えば直接窒化法、還元窒化法、気相合成法などを挙げることができる。
【0037】
本発明の耐水性窒化アルミニウム粉末の製造において使用される原料窒化アルミニウム粉末は、後述する耐水処理工程の処理効率を高めるために、その表面に酸化アルミニウム層を有するものであることが好ましい。具体的には原料窒化アルミニウム粉末を構成する粒子の表面にAl−O−Al結合や、Al−OH基があることが望ましい。この酸化アルミニウム層は、原料窒化アルミニウム粉末を保管する際の自然酸化によって形成された酸化膜層であってもよく、意識的に行う酸化処理工程によって形成された酸化膜層であってもよい。この酸化処理工程は、原料窒化アルミニウム粉末の製造過程において行ってもよく、あるいは原料窒化アルミニウム粉末を製造した後に、別個の工程として行ってもよい。例えば、還元窒化法によって得られる原料窒化アルミニウム粉末は、反応時に使用する炭素を除去する目的で、製造過程に酸化処理工程を有するため、表面にはもともと酸化アルミニウム層が存在する。還元窒化法によって得られる窒化アルミニウム粉末に対しても、さらに酸化処理工程を行ってもよい。
【0038】
酸化処理工程を別個の工程として行う場合、その条件は以下のとおりである。
【0039】
各種方法で得られた原料窒化アルミニウム粉末を、酸素含有雰囲気中で、好ましくは400〜1,000℃の温度、より好ましくは600〜900℃の温度において、好ましくは10〜600分、より好ましくは30〜300分の時間、加熱することによって、原料窒化アルミニウム粒子表面に酸化アルミニウム層を形成することができる。上記酸素含有雰囲気としては、例えば酸素、空気、水蒸気、二酸化炭素などを使用することができるが、本発明の目的との関係においては、空気中、特に大気圧下における処理で足りる。
【0040】
上記酸化アルミニウム層の厚みは、原料窒化アルミニウム粉末及び耐水性窒化アルミニウム粉末の熱伝導性を著しく低下させない範囲で決定すればよく、好ましくは粒子の直径の0.05%〜0.2%程度の厚みである。
【0041】
本発明において、原料窒化アルミニウム粉末には不純物が一定量含まれていて構わない。例えば、焼結助剤としてアルカリ土類、希土類、Y等が10質量部程度を上限として含まれていても構わない。また、凝集防止剤として窒化ホウ素等が10質量部程度を上限として含まれていても構わない。
【0042】
本発明における原料窒化アルミニウムの一次粒子の形状は特に制限されず、例えば不定形状、球状、多面体状、柱状、ウィスカー状、平板状など任意の形状であることができる。中でも、フィラー用途においては、粘度特性が良好で、熱伝導率の再現性の高い球状が望ましい。後述する表面処理等により本発明の耐水性窒化アルミニウム粉末が得られるが、原料窒化アルミニウム粉末の一次粒子の形状が、そのまま耐水性窒化アルミニウム粉末を構成する一次粒子の形状となる。
【0043】
本発明において、原料窒化アルミニウムの粒子径は、耐水性窒化アルミニウム粉末の用途に応じて適宜決定され、特に制限されるものではない。原料となる本発明における原料窒化アルミニウム粉末の平均粒子径は、0.1〜100μm程度であることが好適である。このオーダーでは、原料窒化アルミニウムの一次粒子径がほぼそのまま耐水性窒化アルミニウムを構成する一次粒子の粒子径となる。原料窒化アルミニウム粉末が酸化アルミニウム層を有する場合、上記の粒子径は酸化アルミニウム層の厚みを含む粒子径である。なお平均粒子径は、レーザー回折散乱型粒度分布計で湿式測定し、粒子の累積体積が50%となる粒子径(d50)を平均粒子径とする。
【0044】
本発明における原料窒化アルミニウム粉末のBET比表面積は、0.01〜20m
2/gであることが好ましい。
【0045】
[表面処理剤]
<無機リン酸>
本発明の耐水性窒化アルミニウム粉末の製造方法において、無機リン酸は公知なものが特に制限なく使用できる。無機リン酸としては、オルトリン酸、二リン酸、ピロリン酸、ポリリン酸、メタリン酸、亜リン酸、次亜リン酸などが挙げられる。
【0046】
これらは、単独で用いてもよく、複数種類組み合わせても良い。また、表面処理において乾燥工程や追加乾燥工程中に、用いた無機リン酸の化学状態が変化していても良い。例えばオルトリン酸がそれら同士で脱水縮合し、ピロリン酸やポリリン酸に変化する場合や、下述する有機リン酸化合物が有するリン酸基またはホスホン酸基との脱水縮合等が挙げられる。
【0047】
上記に挙げた無機リン酸の中では、入手しやすさ、保管時の安定性、価格の点から、オルトリン酸が好ましい。オルトリン酸は通常水を含んだ液体状態で75%や85%の濃度のものが市販されており、これを好適に用いることができる。
【0048】
表面処理に用いる無機リン酸の量は、窒化アルミニウム粉末100質量部に対し、オルトリン酸換算で0.01〜1.6質量部が望ましい。0.01質量部を上回る量とすることで実用上、十分な耐水性を得ることが容易である。無機リン酸の使用量が多いほど前述した水による溶出テストによる無機リン酸の溶出量は増加する傾向にある。一方1.6質量部以下とすることにより、窒化アルミニウム粒子表面に被覆すると粒子自身の耐水性は高く、かつ余剰の無機リン酸の被膜による熱伝導性の低下、樹脂にフィラーとして配合し硬化させて用いる際の硬化性悪化や、フィラーからの無機リン酸の溶出による回路の腐食等の不具合を引き起こす可能性をなくすことができる。
【0049】
さらに、表面処理に用いる無機リン酸のより好ましい量は、窒化アルミニウム粉末の比表面積に依存し、比表面積が大きい程、耐水性を発揮するのに好適な無機リン酸量は異なる。好適な無機リン酸量の範囲は、表面積1m
2あたり0.05〜2.5重量部である。
【0050】
<有機リン酸化合物>
本発明の耐水性窒化アルミニウム粉末の製造においては、用いる有機リン酸化合物は、炭素数13から炭素数28の炭化水素基を有する有機リン酸化合物であれば公知なものが特に制限なく使用できる。炭化水素基が炭素数12未満だと、添加効果が小さくなる。より高い耐水性を得られる点で、炭素数16以上が好ましい。一方炭化水素基が炭素数28を超えると疎水性が高くなりすぎて、窒化アルミニウム表面で無機リン酸と相分離し、無機リン酸との耐水被膜形成を阻害しやすくなる。炭化水素基は脂肪族炭化水素基でも芳香環を含むものであっても構わない。また、炭化水素基は直鎖状でも分枝状でも構わない。さらに炭化水素鎖中に二重結合、酸素原子を含んでも良い。
【0051】
ここで有機リン酸化合物の添加効果とは、凝集粒子の解砕性と耐水性の維持を指す。無機リン酸のみによる表面処理だと、リン酸基同士の水素結合により粒子同士が強く凝集し、解砕されたときに無機リン酸の少ない場所が発生し耐水性が維持できなくなる。一方無機リン酸と有機リン酸化合物を一緒に被覆すると、有機リン酸化合物の炭化水素基により粒子間の水素結合及び凝集を抑制し、かつ解砕性が良くなるため、耐水性が維持されやすい粉末となる。
【0052】
本発明で用いることの可能な有機リン酸化合物は通常、下記一般式(1)〜(3)のいずれかで表される。本発明では、特に指定が無い限りは、アルキルホスホン酸類、アルキルリン酸エステル類、ピロリン酸エステル類が有する酸性リン酸基(P−OH)を「有機リン酸基」と呼ぶ。また、「リン酸基」をリン酸基とホスホン酸基の両方を含む総称として扱う。
【0053】
【化1】
(R
1は炭素数13〜炭素数28の炭化水素基を表す)
【0054】
【化2】
(R
2は炭素数13〜炭素数28の炭化水素基を表す。)
【0055】
【化3】
(R
3とR
4はそれぞれ炭化水素基を表し、R
3とR
4それぞれが有する炭素数の合計が13〜28である。)
本発明の耐水性窒化アルミニウム粉末を製造するために使用できる好適な有機リン酸化合物を具体的に例示すれば、テトラデシルホスホン酸、ヘキサデシルホスホン酸、オクタデシルホスホン酸、イコシルホスホン酸、ドコシルホスホン酸、テトラコシルホスホン酸等のアルキルホスホン酸類;テトラデシルリン酸、ヘキサデシルリン酸、オクタデシルリン酸、ジデシルリン酸、10−メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート、12−アクリロイルオキシドデシルジハイドロジェンホスフェート、12−メタクリロイルオキシドデシルジハイドロジェンホスフェート、16−アクリロイルオキシヘキサデシルジハイドロジェンホスフェート、16−メタクリロイルオキシヘキサデシルジハイドロジェンホスフェート、20−アクリロイルオキシイコシルジハイドロジェンホスフェート、20−メタクリロイルオキシイコシルジハイドロジェンホスフェート、ビス〔8−アクリロイルオキシオクチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔8−メタクリロイルオキシオクチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔9−アクリロイルオキシノニル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔9−メタクリロイルオキシノニル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔10−アクリロイルオキシデシル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔10−メタクリロイルオキシデシル〕ハイドロジェンホスフェート等のアルキルリン酸エステル類;ピロリン酸ビスオクチル、ピロリン酸ビス〔8−アクリロイルオキシオクチル〕、ピロリン酸ビス〔8−メタクリロイルオキシオクチル〕、ピロリン酸ビス〔10−アクリロイルオキシデシル〕、ピロリン酸ビス〔10−メタクリロイルオキシデシル〕等のピロリン酸エステル類が挙げられる。
【0056】
これらは、単独で用いてもよく、複数種類組み合わせても良い。また、耐水処理の過程の乾燥工程や追加乾燥工程中に、有機リン酸基の化学状態が変化していても良い。例えば有機リン酸基同士または有機リン酸基と無機リン酸のリン酸基とが脱水縮合して多量体を形成していても良い。
【0057】
また、上記に挙げた有機リン酸化合物の中では、耐熱性の観点から式(1)で表される化合物の内、R
1がアルキル基であるアルキルホスホン類が望ましい。また、耐水性付与と粒子間の凝集性改善の観点から、長鎖の炭化水素基を有するヘキサデシルホスホン酸、オクタデシルホスホン酸、エイコシルホスホン酸が特に望ましい。
【0058】
耐水処理に用いる有機リン酸化合物の量は、窒化アルミニウム粒子の粉末100質量部に対し、0.002〜0.4質量部が望ましい。0.002質量部より少ない場合は、添加効果が小さい。一方0.4質量部を超える量を添加すると、無機リン酸との耐水被膜形成を阻害しやすくなる。
【0059】
本発明の耐水性窒化アルミニウム粉末を得るために重要なのは、上記した無機リン酸と有機リン酸化合物とを質量比で、無機リン酸/有機リン酸化合物=3〜30の範囲で用いることである。この比が有機リン酸化合物の質量が無機リン酸の30以上だと、有機リン酸化合物の添加効果が小さく、3未満だと無機リン酸の耐水被膜形成を阻害する。
【0060】
さらに、耐水処理に用いる有機リン酸化合物のより好ましい量は、無機リン酸と同様に粒子の比表面積に依存し、比表面積が大きい程、耐水性を発揮するのに好適な有機リン酸化合物の量は異なる。好適な有機リン酸化合物量の範囲は、比表面積あたり0.004〜0.6質量部である。
【0061】
[表面処理工程の実施態様]
本発明においては、均一な被膜を形成するため、上記リン酸化合物は溶媒に溶解した状態で原料窒化アルミニウム粉末と接触させる。溶媒を用いないと、不均一に処理され、また凝集する傾向も強い。
【0062】
本発明では、溶媒とリン酸化合部物の混合物と窒化アルミニウム粉末とを接触させた後、溶媒を除去し、さらに乾燥工程を経ることで窒化アルミニウム粒子の表面にリン酸化合物の耐水被膜が形成され、粒子に耐水性が付与される。まだ溶媒が多量に残留する間は、リン酸化合物は粒子の表面に吸着した状態と溶媒に溶けた状態の両方で存在する。乾燥が進み、溶媒が除去されるにつれて、溶媒とともに浮遊していたリン酸化合物も粒子表面に吸着していくが、おそらく粒子表面はリン酸化合物がランダムに物理吸着して、不均一な状態である。さらに乾燥を進め、溶媒がほとんど無くなった後に、吸着したリン酸化合物の一部または全ては、粒子表面で再構成され、均一な耐水被膜を形成する。
【0063】
無機リン酸および有機リン酸化合物を処理する表面処理工程において、無機リン酸と有機リン酸化合物はそれぞれを1種類ずつ使用しても良いし、それぞれ複数種類の併用であっても良い。
【0064】
無機リン酸および有機リン酸化合物を処理する表面処理工程(およびまたはこれに続く乾燥工程、さらには任意的に続く追加加熱工程)は、最終的に表面処理層を形成するために用いた無機リン酸と有機リン酸化合物の質量比が、無機リン酸/有機リン酸化合物=3〜30であれば1回で行っても、2回以上に分けて行っても良い。表面処理工程を2回以上で行う場合、無機リン酸と有機リン酸化合物それぞれの量や種類が、1回目と2回目以降が同一であっても異なっても良い。コストの面から、表面処理工程は1回で行われることが好ましい。また一度表面処理工程を経た粉末は、乾燥による凝集があるため、再び粉末を溶媒へ分散するのに1回目の表面処理工程よりも高いエネルギーをかける必要が生じることもある。
【0065】
また表面処理に際しては、無機リン酸/有機リン酸化合物=3〜30の範囲であれば、無機リン酸と有機リン酸化合物を別々の工程で処理しても良いが、より耐水性の高い耐水性窒化アルミニウム粉末とするためには、無機リン酸と有機リン酸化合物との双方を含む溶液を作成し、この溶液により一度で処理することが好ましい。
【0066】
<溶媒>
溶媒の選択次第では、リン酸化合物同士の水素結合の方が強く、溶媒への分散が不十分で、粒子表面にリン酸化合物の大きな集合体として吸着する可能性が考えられる。そうした場合、表面での再構成が不十分で均一な耐水被膜ができない可能性がある。
【0067】
さらに本発明では、無機リン酸と有機リン酸化合物の両方により耐水被膜を形成させることを特徴としているが、それらの組み合わせによっては、溶媒中でそれぞれ同じ物質同士が大きな集合体を形成し、被膜中にムラができる可能性もある。
【0068】
従って溶媒は、無機リン酸及び有機リン酸化合物を均一に溶解するものが望ましい。この場合、無機リン酸と有機リン酸化合物を別々の工程で処理する場合には、各々が溶解する溶媒で良く、例えば、無機リン酸を溶解する溶媒は、有機リン酸化合物を溶解しなくとも良い。
【0069】
一方、無機リン酸と有機リン酸化合物とを同時に処理する場合には、無機リン酸と有機リン酸化合物の両方を均一に溶かし得るものが望ましい。特に、無機リン酸と有機リン酸化合物のそれぞれを単独で溶解可能な溶媒が望ましい。溶解していれば、リン酸化合物が粒子表面に均一に付着し、乾燥工程の後に均一な耐水被膜を形成しやすい。
【0070】
本発明における表面処理工程で使用される溶媒としては、水、アルコール類、エステル類、ケトン類、エーテル類、ニトリル類などを挙げることができる。このような溶媒の具体例としては、上記アルコール類として、例えばメタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、イソブタノールなどを;上記エステル類として、例えばギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、ギ酸ブチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチルなどを;上記ケトンとして、例えばアセトン、メチルエチルケトンなどを;上記エーテル類として、例えばジオキサン、ジエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフランなどを;ニトリル類として、例えばアセトニトリル、ベンゾニトリルなどを、それぞれ挙げることができる。これらの溶媒は、1種のみを使用してもよく、あるいは2種以上を併用してもよい。
【0071】
上記に上げた溶媒の中でも、無機リン酸とそれに含まれる水をよく溶かし、かつ有機リン酸化合物もよく溶かす溶媒として、アルコール類、ケトン類、エーテル類が好ましく、アルコール類がより好ましい。さらにアルコール類の中でも、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等の低級アルコールが、沸点が低くて蒸発除去しやすく好ましい。
【0072】
また、上記に挙げた溶媒の他に、溶媒中で無機リン酸同士が集合体を作らないように、無機リン酸に含まれる水分の他に、水をさらに少量添加しても構わない。水の量は溶媒全体の10質量%以下であることが好ましい。
【0073】
<スラリーの作製>
本発明における耐水性窒化アルミニウム粉末を製造する際の表面処理工程では、リン酸化合物が溶解した溶液に、原料窒化アルミニウム粉末が分散した状態のスラリーを形成する。当該スラリーは、例えば所望のリン酸化合物を含有する溶液中に窒化アルミニウム粉末を分散させる方法(A)、窒化アルミニウム粉末が分散された溶媒中にリン酸化合物を溶解する方法(B)、窒化アルミニウム粉末が分散された溶媒とリン酸化合物を含有する溶液とを混合する方法(C)、溶媒中に窒化アルミニウム粉末およびリン酸化合物の双方を存在させた状態で上記の分散状態を創出する方法(D)などによって得ることができる。特に好ましい分散の手順は、溶媒に無機リン酸と有機リン酸化合物の両方を均一に溶かした状態の溶液を先に作製し、その後、その溶液に窒化アルミニウム粉末を混合する(A)の方法である。ここで均一とは、無機リン酸と有機リン酸化合物とが溶媒に溶けていて、溶かす前に比べて溶媒の透明性が維持されている状態を指す。また、上記に挙げた(A)〜(D)のいずれの場合であっても、後述する好ましい接触時間が経過するまでは、上記の分散状態を維持することが好ましい。
【0074】
なお溶媒と混合する前の窒化アルミニウム粒子はその大部分が凝集状態にある場合が多く、そのため溶媒と混合するだけでは、十分に分散せずに、凝集体内部までリン酸化合物が行き渡らないことになり、耐水被膜の無い表面ができてしまう傾向が強い(1)。また、仮に凝集体の間隙にリン酸化合物が浸透したとしても、粒子間でリン酸化合物が共有される状態になりやすい(2)。さらに凝集体表面では、リン酸化合物は凝集粒子同士の接触面よりも凝集粒子の表面に吸着する量が多くなる(3)。このような凝集体の存在による耐水被膜のムラ(1)〜(3)があった場合、その後の乾燥工程を経て得られた窒化アルミニウムの凝集体に、何らかの物理的作用が加わって凝集が解けた際、リン酸化合物の少ない面が露出し、耐水性を損なうおそれがある。リン酸化合物が粒子間で共有されている(2)の場合でも、凝集が解けるときに片方の粒子にのみリン酸化合物が残り、もう片方の粒子表面にリン酸化合物が極端に少ない状態になる可能性がある。(3)の場合もやはり凝集体内部にリン酸化合物の少ない表面ができてしまう。従って、高い耐水性を得るためには、窒化アルミニウムは溶媒に十分に分散した状態でリン酸化合物と接触させることが好ましい。
【0075】
スラリーを高い分散状態にするために好適な装置としては、例えばディスパーザー、ホモジナイザー、超音波分散機、湿式ボールミル、湿式振動ボールミル、湿式ビーズミル、ナノマイザー、高圧分散機などの衝突分散機などを例示することができる。このとき必要以上に衝撃を加えて窒化アルミニウムの一次粒子まで砕いてしまう方法は、酸化被膜の無い表面を露出させてしまうおそれがあるため、避けるべきである。分散装置の中でも好適なのは、ディスパーザー、ホモジナイザー、超音波分散機、湿式ボールミルである。
【0076】
溶媒中における窒化アルミニウム粉末とリン酸化合物との接触は、好ましくは0〜75℃、より好ましくは10〜65℃の温度において、好ましくは5分〜24時間、より好ましくは10分〜10時間実施する。
【0077】
溶媒の最適な使用量は、窒化アルミニウム粉末100質量部に対し、100〜250質量部が好ましく、110〜160質量部が好ましい。100質量部以上とすることにより、窒化アルミニウム粉末と溶媒からなるスラリーの粘度を低減でき分散性を良好にできる。また250質量部以下とすることにより、溶媒の蒸発を短時間ででき、コスト低減ができる。
【0078】
<溶媒除去・乾燥>
本発明の耐水性窒化アルミニウム粉末を得るためには、上記スラリーから溶媒を除去する必要がある。溶媒の除去法は特に限定されないが、例えば、以下に挙げる3つの方法が挙げられる。1つ目は溶媒を乾燥除去し、溶媒や水などの全ての揮発成分を除去する蒸発乾固法である。2つ目は、溶媒を粗く乾燥させる工程と、その後溶媒を完全に除去する乾燥工程の2段階で行う方法である。3つ目は、固体成分と液体成分を分離する工程と、その後溶媒を完全に除去する乾燥工程の2段階で行う方法である。
【0079】
1つ目の方法は、リン酸化合物と窒化アルミニウム粉末から成るスラリーから溶媒を蒸発除去可能な加熱装置であれば使用でき、具体的にはコニカルドライヤー、ドラムドライヤー、V型ドライヤー、振動乾燥機、ロッキングミキサー、ナウタミキサー、リボコーン、真空造粒装置、真空乳化装置、その他攪拌型真空乾燥装置が好適に使用できる。最終乾燥までの工程の詳細については下記の乾燥工程の項で述べる。
【0080】
2つ目の方法は、スラリーから溶媒を揮発させる装置を使用できる。具体的には、ロータリーエバポレーター、薄膜乾燥装置、スプレードライヤー、ドラムドライヤー、ディスクドライヤー、流動層乾燥機などが挙げられる。
【0081】
3つ目の方法はろ過法であり、スラリーを固体成分と液体成分に分離する装置であれば好適に使用できる。具体的には吸引ろ過装置、遠心ろ過機、デカンター、ギナ式遠心分離機、加圧ろ過機、フィルタープレス機、およびろ過と乾燥を1台で実施できるろ過乾燥装置などが挙げられる。使用するろ材の材質、保留粒子径、分離の条件等は、用いる方法や捕集率に応じて適宜選択すれば良い。
【0082】
上記に挙げた溶媒除去の方法としては、1段階で全ての溶媒を除去できる1つ目の方法がコスト的に好ましい。また、3つ目のろ過法に比べ、粒子表面のリン酸化合物量にムラが発生しにくい。このように1つ目の方法で溶媒を除去した場合には、用いた無機リン酸と有機リン酸化合物の全量が窒化アルミニウムの表面に吸着していると見なすことができる。
【0083】
本発明の耐水性窒化アルミニウム粉末は最終乾燥物において、用いた溶媒の他に無機リン酸に微量に含まれていた水や、添加した水が完全に除去されていることが望ましい。水が粒子表面とリン酸基やホスホン酸基との間に存在することにより、耐水被膜が剥がれやすい状態になるばかりか、残留する水は窒化アルミニウムの加水分解を引き起こし、発生したアンモニアがリン酸基と結合すれば、さらに耐水被膜は脆くなる。ここで最終乾燥物とは、乾燥直後の耐水性窒化アルミニウム粉末の質量減少率が0.5%未満であるものを指す(大気中で120℃乾燥させた際の質量減少率を測定)。
【0084】
従って、溶媒除去工程と同時に、あるいは溶媒除去工程に続いて水を除去して乾燥させることが好ましい。
【0085】
最も好ましくは、溶媒除去工程と同時に水の除去を行う方法であり、その際の温度は、5〜100℃が好ましく、40〜70℃がより好ましい。乾燥温度が5℃未満であると、溶媒や水の残留量が多くなり最終乾燥に至らない可能性が高い。また、乾燥に時間がかかるため、工程上望ましくない。一方溶媒が多量に残留している状態で100℃以上で乾燥させると無機リン酸同士の脱水縮合が激しく進み、窒化アルミニウム粒子表面の耐水被膜にムラができやすい。なお追加加熱温度が低いほど、前述した水による溶出テストによる無機リン酸の溶出量は増加する傾向にある。 乾燥装置としては、通風式乾燥機、対流型乾燥機、真空乾燥機、コニカルドライヤー、ドラムドライヤー、V型ドライヤー、振動乾燥機、ロッキングミキサー、ナウタミキサー、リボコーン、真空造粒装置、真空乳化装置、その他攪拌型真空乾燥装置が好適に使用できる。
【0086】
乾燥工程の雰囲気は、真空中、不活性ガス中、乾燥空気中が好ましい。中でも耐水被膜の変質が少ない真空中、不活性ガス中が望ましく、真空中がより好ましい。
【0087】
<追加加熱>
また、乾燥工程後に得られた最終乾燥物に、さらに追加の加熱処理を加えても良い。追加加熱は、リン酸化合物と窒化アルミニウム表面の結びつきを強固にする効果があり、表面からのリン酸化合物の脱離が起こりにくくなる。またリン酸化合物のリン酸基またはホスホン酸基同士が脱水縮合し、水分子を脱離させる効果もある。これにより耐水被膜がより強固になり、耐水性窒化アルミニウム粉末の保存安定性を高くできる。
【0088】
追加加熱の温度は、前工程で実施された乾燥工程の温度以上で実施される。具体的な温度としては70〜250℃が好ましく、80〜150℃がより好ましい。70℃未満では、追加加熱の効果が小さい。一方250℃を超えると、耐水被膜同士が粒子間で脱水縮合することで粒子が凝集し、耐水被膜同士の凝集も起こる。そのため耐水被膜のムラが発生し、さらに凝集粒子の凝集を解砕等で解くと、耐水被膜の少ないところが露出しやすくなる。また、追加加熱によりリン酸基やホスホン酸基部分が脱水等により変化しても良いが、有機リン酸化合物が有する有機基が分解しない温度での加熱が望ましい。分解による炭化水素鎖の脱離は、粒子の耐水性や凝集性に悪影響を及ぼす。
【0089】
追加加熱装置としては、通風式乾燥機、対流型乾燥機、真空乾燥機、コニカルドライヤー、ドラムドライヤー、V型ドライヤー、振動乾燥機、ロッキングミキサー、ナウタミキサー、リボコーン、真空造粒装置、真空乳化装置、その他攪拌型真空乾燥装置が好適に使用できる。
【0090】
追加加熱の雰囲気は、真空中、不活性ガス中、乾燥空気中が望ましい。中でも耐水被膜の変質が少ない真空中、不活性ガス中が好ましく、真空中がより好ましい。
【0091】
<解砕処理>
上記の如くして乾燥(及び追加加熱)して本発明の耐水性窒化アルミニウム粉末が得られるが、得られた窒化アルミニウム粉末は、凝集粒子の多い粉末である。より具体的には、1次粒子および1次粒子の凝集体の混合物(殆どが凝集粒子)である(本発明の第一の耐水性窒化アルミニウム粉末)。このような大きな凝集粒子を含む粉末は、そのままでは粉末としての操作性が悪く、また樹脂と混練した際に十分に分散しない虞があるため、解砕することが好ましい。
【0092】
なお解砕により得られる本発明の第二の耐水性窒化アルミニウム粉末は水素結合により凝集しやすいため、凝集を解いても再凝集するおそれがあるが、再凝集体は溶媒の乾燥後に得られる固い凝集に比べるとほぐれやすく、追加解砕の必要はない。
【0093】
解砕処理の方法は、乾式解砕が良い。また、もともとスラリーの乾燥によって形成された凝集体を砕く程度の比較的マイルドな方法が望ましい。一次粒子や、一次粒子同士が強固に焼結して粒界が存在する二次粒子をも砕く装置・条件で実施すると、耐水被膜の無い粒子表面が露出してしまい、耐水不良が発生するおそれがある。解砕処理の雰囲気は、空気中または不活性ガス中が望ましい。また、雰囲気の湿度は高過ぎないことが好ましく、具体的には、湿度70%未満、より好ましくは55%未満がである。
【0094】
解砕装置としては、石臼型摩砕機、らいかい機、カッターミル、ハンマーミル、ピンミルなど乾式解砕装置が挙げられる。中でも凝集体を短時間で砕くことができ、解砕ムラが少ない石臼型摩砕機が好ましい。また、解砕を粗く実施した後、粗大な粒子を振動篩機などで除去しても良い。石臼型摩砕機を用いる場合、回転速度を500〜3000rpm、上下2枚の砥石の間隔を窒化アルミニウム粉末の平均粒子径d
50(単位:μm)の30〜200倍で行うことが良好な結果を得られやすい。砥石の直径は解砕処理する第一の窒化アルミニウム粉末の量に応じて適宜決めればよい。
【0095】
[放熱用複合材料]
本発明の方法によって得られる耐水性窒化アルミニウム粒子は、これを樹脂と混合することにより、放熱用複合材料として好適に使用することができる。
【0096】
ここで使用することのできる樹脂としては、熱可塑性樹脂および熱硬化性樹脂のいずれをも例示することができる。上記熱可塑性樹脂としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、ポリメチルペンテン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアルコール、ポリアセタール、フッ素樹脂(例えばポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレンなど)、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレート、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、スチレン−アクリロニトリル共重合体、ABS樹脂、ポリフェニレンエーテル(PPE)樹脂、変性PPE樹脂、脂肪族ポリアミド、芳香族ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸エステル(例えばポリメタクリル酸メチルなど)、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸エステル(例えばポリアクリル酸メチルなど)、ポリカーボネート、ポリフェニレンスルフィド、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルニトリル、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリケトン、液晶ポリマー、アイオノマーなどを;上記熱硬化性樹脂としては、例えばエポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、イミド樹脂、熱硬化型変性PPE、熱硬化型PPEなどを、それぞれ挙げることができる。
【0097】
本発明の方法によって得られた耐水性窒化アルミニウム粉末を用いて製造された放熱用複合材料の用途としては、例えば家電製品、自動車、ノート型パーソナルコンピュータなどに搭載される半導体部品からの発熱を効率よく放熱するための放熱部材の材料を挙げることができる。これらの具体例としては、例えば放熱グリース、放熱ゲル、放熱シート、フェイズチェンジシート、接着剤などを挙げることができる。上記複合材料は、これら以外にも、例えばメタルベース基板、プリント基板、フレキシブル基板などに用いられる絶縁層;半導体封止剤、アンダーフィル、筐体、放熱フィンなどとしても使用することができる。
【実施例】
【0098】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に
制限されるものではない。
【0099】
本発明における各種物性測定方法は、それぞれ以下のとおりである。
【0100】
<平均粒子径>
耐水性窒化アルミニウム粉末をエタノール中に1質量%濃度で分散し、超音波照射10分により分散させた液体について、レーザー回折散乱型粒度分布計を用いて粒子径を測定する。粒子径の体積頻度分布において、体積頻度の累積値が50%となるところの粒子径の値d
50を平均粒子径(メジアン径)とする。
【0101】
<蛍光X線分析>
耐水性窒化アルミニウム粉末のリン含有量を蛍光X線分析装置で測定した。窒化アルミニウム粉末を直径10mmのアルミ製のリングに充填し、加圧1トンで1秒間プレスした。蛍光X線分析用治具にプレス体を固定し、蛍光X線分析装置(リガク製ZSX PrimusII、線源:Cu−Kα)を用い真空モードで測定した。
【0102】
<炭素分析>
耐水処理前の窒化アルミニウム粉末と耐水処理後の窒化アルミニウム粉末(耐水性窒化アルミニウム粉末)の炭素含有量を炭素分析装置(例えば堀場製作所製EMIA−110)で測定した。粉末を酸素気流中1350℃にて二酸化炭素ガスが発生しなくなるまで燃焼し、発生した二酸化炭素量から各粉末の炭素含有量を定量した。下記式から、耐水性窒化アルミニウム粉末の表面処理層由来の炭素含有量を算出した。
【0103】
表面処理層由来の炭素含有量(質量%)=(A−B)×100/C
A:表面処理後の炭素量(質量)
B:表面処理前の炭素量(質量)
C:表面処理後の窒化アルミニウム粉末の質量
【0104】
<解砕処理>
耐水性窒化アルミニウムを石臼型摩砕機(増幸産業製スーパーマスコロイダーMKZA10−15J、砥石直径φ250mm、アルミナ製無気孔砥石MKG−A使用)で解砕処理する。砥石の回転速度は1800rpm、上下2枚の砥石の間隔は条件は、粒子径によって変更し、原料窒化アルミニウム粉末の平均粒子径d
50(単位:μm)の50±10倍の間隔で実施する。また、解砕処理は23℃、湿度50±10%の場所で実施する。
【0105】
<耐水性試験>
解砕前後の耐水性窒化アルミニウム粉末の耐水性を調べる。耐水性窒化アルミニウム粉末2gおよびイオン交換水100gを容量120mLのポリテトラフルオロエチレン製密封容器(PFA耐圧ジャー、フロン工業(株)製)に入れ、120℃で静置し、6時間後、12時間後および24時間後の水のpHをpH試験紙にて測定した。このとき、pHの値が8.5以上となったことをもって耐水性が失われたと判断した。同時に上澄みの電気伝導度を測定し、pHが8.5未満であっても、電気伝導度が100μS/cmを超えている場合は耐水性が失われたと判断した。耐水性喪失までの時間を6時間未満(<6)、6時間以上12時間未満(>6)、12時間以上24時間未満(>12)、24時間以上36時間未満(>24)、36時間以上(>36)の5段階に分類し、これを耐水時間とした。
【0106】
<溶出テスト>
耐水性窒化アルミニウム粉末2gおよびイオン交換水100gを容量120mlのポリテトラフルオロエチレン製密封容器(PFA耐圧ジャー、フロン工業(株)製)に入れ、120℃で静置し、その後室温まで冷却した縣濁水を遠心沈降させ、上澄みを捨てた。残った粉末を水分量が0.5質量%以下になるまで乾燥させ、得られた粉末を蛍光X線分析で分析し、溶出後の残存リン量を測定した。また溶出テスト前の窒化アルミニウムの含有リン量も測定し、下記式から耐水性窒化アルミニウム粉末の表面処理層由来の炭素含有量を算出した。
【0107】
水中に溶出したリン量(%)=(A−B)×100/A
A:溶出テスト前の窒化アルミニウム粉末の含有リン量(質量)
B:溶出テスト後の窒化アルミニウム粉末の含有リン量(質量)
【0108】
なお、炭素数が13以上の有機リン酸化合物の水への溶解度は室温では、無機リン酸の5分の1以下である。さらに本発明において耐水性窒化アルミニウムに含まれる無機リン酸と有機リン酸化合物は、無機リン酸/有機リン酸化合物=3〜30であるため、溶出テストで検出されるリン量のうち有機リン酸化合物の割合は無機リン酸の15分の1以下である。そのため、溶出テストで検出されるリン量のほとんどは無機リン酸由来である。
【0109】
実施例および比較例で用いた原料窒化アルミニウム、無機リン酸、有機リン酸化合物、および溶媒は以下のとおりである。
【0110】
<原料窒化アルミニウム>
・A1:窒化アルミニウム(平均粒子径1.2μm、比表面積2.6m
2/g)
・A2:窒化アルミニウム(平均粒子径4.9μm、比表面積0.64m
2/g)
・A3:窒化アルミニウム(平均粒子径29.4μm、比表面積0.20m
2/g)
・A4:窒化アルミニウム(平均粒子径50.7μm、比表面積0.15m
2/g)
・A5:窒化アルミニウム(平均粒子径82.3μm、比表面積0.09m
2/g)
【0111】
<無機リン酸>
・P1:リン酸(オルトリン酸;和光純薬工業、85%)
<有機リン酸化合物>
・6B:フェニルホスホン酸(和光純薬工業、95%)
・8P:オクチルジヒドロキシルホスホン酸(シグマ−アルドリッチ、97%)
・10P:デシルホスホン酸(シグマ−アルドリッチ、97%)
・12P:ドデシルホスホン酸(Alfa−Aesar、95%)
・14P:テトラデシルホスホン酸(シグマ−アルドリッチ、97%)
・16P:ヘキサデシルホスホン酸(シグマ−アルドリッチ、97%)
・18P:オクタデシルホスホン酸(シグマ−アルドリッチ、97%)
・12PO:モノ−n−ドデシルリン酸(ラウリルリン酸(東邦化学工業))
・18PO:モノ−n−オクタデシルリン酸とジ−(n−オクタデシル)リン酸の混合物(城北化学工業)
・18POE:モノ−n−オレイルリン酸とジ−(n−オレイル)リン酸の混合物オレイルリン酸(東京化成工業、>95%)
・24PO:モノ−n−テトラコシルリン酸とジ−(n−テトラコシル)リン酸の混合物(城北化学工業)
・2DPO:リン酸ジデシル(東京化成工業、>95%)
【0112】
<溶媒>
・IPA:イソプロピルアルコール(和光純薬工業、特級)
・ヘキサン(和光純薬工業、特級)
以下、実施例を示す。表面処理の条件は表1に示した。
【0113】
実施例1
窒化アルミニウム粉末A1を500g、無機リン酸P1を3.55g、有機リン酸化合物14Pを0.5g、IPAを600g、1Lガラスビーカーに入れ、攪拌翼で混合した。続いて攪拌しながら超音波バスで超音波を1時間照射した。その後、ロータリーエバポレーターで50℃で減圧乾燥し、半乾燥粉末を得た。さらに、50℃の真空乾燥機で12h乾燥し、続いて120℃の真空乾燥機で3h追加加熱した。その後真空中で放冷し、顆粒状の耐水性窒化アルミニウム粉末を得た(第一の耐水性窒化アルミニウム粉末)。顆粒状の粉末を解砕処理し、解砕除理前後の粉末について耐水試験を実施した。耐水試験結果を表2に示した。また、解砕1回処理後の粉末(第二の耐水性窒化アルミニウム粉末)について、炭素分析、リン量分析および溶出テストの結果を表2に示した。平均粒子径は解砕前後共に原料AlNと同一であった。
【0114】
実施例2
有機リン酸化合物14Pの代わりに有機リン酸化合物16Pを0.5g用いた以外は、実施例1と同様の方法で顆粒状の耐水性窒化アルミニウム粉末を得た。顆粒状の粉末を解砕処理し、解砕除理砕前後の粉末について耐水試験を実施した。耐水試験結果を表2に示した。また、解砕1回処理後の粉末について、炭素分析、リン量分析および溶出テストの結果を表2に示した。平均粒子径は解砕前後共に原料AlNと同一であった。
【0115】
実施例3
有機リン酸化合物14Pの代わりに有機リン酸化合物18Pを0.5g用いた以外は、実施例1と同様の方法で顆粒状の耐水性窒化アルミニウム粉末を得た。顆粒状の粉末を解砕処理し、解砕除理の粉末について耐水試験を実施した。耐水試験結果を表2に示した。また、解砕1回処理後の粉末について、炭素分析、リン量分析および溶出テストの結果を表2に示した。平均粒子径は解砕前後共に原料AlNと同一であった。
【0116】
実施例4
有機リン酸化合物14Pの代わりに有機リン酸化合物18POを0.5g用いた以外は、実施例1と同様の方法で顆粒状の耐水性窒化アルミニウム粉末を得た。顆粒状の粉末を解砕処理し、解砕除理前後の粉末について耐水試験を実施した。耐水試験結果を表2に示した。また、解砕1回処理後の粉末について、炭素分析、リン量分析および溶出テストの結果を表2に示した。平均粒子径は解砕前後共に原料AlNと同一であった。
【0117】
実施例5
有機リン酸化合物14Pの代わりに有機リン酸化合物18POEを0.5g用いた以外は、実施例1と同様の方法で顆粒状の耐水性窒化アルミニウム粉末を得た。顆粒状の粉末を解砕処理し、解砕除理前後の粉末について耐水試験を実施した。耐水試験結果を表2に示した。また、解砕1回処理後の粉末について、炭素分析、リン量分析および溶出テストの結果を表2に示した。平均粒子径は解砕前後共に原料AlNと同一であった。
【0118】
実施例6
有機リン酸化合物14Pの代わりに有機リン酸化合物24POを0.5g用いた以外は、実施例1と同様の方法で顆粒状の耐水性窒化アルミニウム粉末を得た。顆粒状の粉末を解砕処理し、解砕除理前後の粉末について耐水試験を実施した。耐水試験結果を表2に示した。また、解砕1回処理後の粉末について、炭素分析、リン量分析および溶出テストの結果を表2に示した。平均粒子径は解砕前後共に原料AlNと同一であった。
【0119】
実施例7
有機リン酸化合物14Pの代わりに有機リン酸化合物2DPOを0.5g用いた以外は、実施例1と同様の方法で顆粒状の耐水性窒化アルミニウム粉末を得た。顆粒状の粉末を解砕処理し、解砕除理前後の粉末について耐水試験を実施した。耐水試験結果を表2に示した。また、解砕1回処理後の粉末について、炭素分析、リン量分析および溶出テストの結果を表2に示した。平均粒子径は解砕前後共に原料AlNと同一であった。
【0120】
実施例8
有機リン酸化合物14Pの代わりに有機リン酸化合物18Pを0.2g用いた以外は、実施例1と同様の方法で顆粒状の耐水性窒化アルミニウム粉末を得た。顆粒状の粉末を解砕処理し、解砕除理前後の粉末について耐水試験を実施した。耐水試験結果を表2に示した。また、解砕1回処理後の粉末について、炭素分析およびリン量分析の結果を表2に示した。平均粒子径は解砕前後共に原料AlNと同一であった。
【0121】
実施例9
有機リン酸化合物14Pの代わりに有機リン酸化合物18Pを0.75g用いた以外は、実施例1と同様の方法で顆粒状の耐水性窒化アルミニウム粉末を得た。顆粒状の粉末を解砕処理し、解砕除理前後の粉末について耐水試験を実施した。耐水試験結果を表2に示した。また、解砕1回処理後の粉末について、粒度分布測定および炭素分析およびリン量分析の結果を表2に示した。平均粒子径は解砕前後共に原料AlNと同一であった。
【0122】
実施例10
有機リン酸化合物14Pの代わりに有機リン酸化合物18Pを1.0g用いた以外は、実施例1と同様の方法で顆粒状の耐水性窒化アルミニウム粉末を得た。顆粒状の粉末を解砕処理し、解砕除理前後の粉末について耐水試験を実施した。耐水試験結果を表2に示した。また、解砕1回処理後の粉末について、粒度分布測定および炭素分析およびリン量分析の結果を表2に示した。平均粒子径は解砕前後共に原料AlNと同一であった。
【0123】
実施例11
窒化アルミニウム粉末A2を500g、無機リン酸P1を2.75g、有機リン酸化合物18Pを0.3g、IPAを600g、1Lガラスビーカーに入れ、攪拌翼で混合した。続いて攪拌しながら超音波バスで超音波を1時間照射した。その後、ロータリーエバポレーターで50℃で減圧乾燥し、半乾燥粉末を得た。さらに、50℃の真空乾燥機で12h乾燥し、続いて120℃の真空乾燥機で3h追加加熱した。その後真空中で放冷し、顆粒状の耐水性窒化アルミニウム粉末を得た。顆粒状の粉末を解砕処理し、解砕除理前後の粉末について耐水試験を実施した。耐水試験結果を表2に示した。また、解砕1回処理後の粉末について、炭素分析、リン量分析および溶出テストの結果を表2に示した。平均粒子径は解砕前後共に原料AlNと同一であった。
【0124】
実施例12
窒化アルミニウム粉末A3を500g、無機リン酸P1を1.45g、有機リン酸化合物18Pを0.1g、IPAを600g、1Lガラスビーカーに入れ、攪拌翼で混合した。続いて攪拌しながら超音波バスで超音波を1時間照射した。その後、ロータリーエバポレーターで50℃で減圧乾燥し、半乾燥粉末を得た。さらに、50℃の真空乾燥機で12h乾燥し、続いて120℃の真空乾燥機で3h追加加熱した。その後真空中で放冷し、顆粒状の耐水性窒化アルミニウム粉末を得た。顆粒状の粉末を解砕処理し、解砕除理前後の粉末について耐水試験を実施した。耐水試験結果を表2に示した。また、解砕1回処理後の粉末について、炭素分析、リン量分析および溶出テストの結果を表2に示した。平均粒子径は解砕前後共に原料AlNと同一であった。
【0125】
実施例13
窒化アルミニウム粉末A4を500g、無機リン酸P1を0.9g、有機リン酸化合物18Pを0.05g、IPAを600g、1Lガラスビーカーに入れ、攪拌翼で混合した。続いて攪拌しながら超音波バスで超音波を1時間照射した。その後、ロータリーエバポレーターで50℃で減圧乾燥し、半乾燥粉末を得た。さらに、50℃の真空乾燥機で12h乾燥し、続いて120℃の真空乾燥機で3h追加加熱した。その後真空中で放冷し、顆粒状の耐水性窒化アルミニウム粉末を得た。顆粒状の粉末を解砕処理し、解砕除理前後の粉末について耐水試験を実施した。耐水試験結果を表2に示した。また、解砕1回処理後の粉末について、炭素分析、リン量分析および溶出テストの結果を表2に示した。平均粒子径は解砕前後共に原料AlNと同一であった。
【0126】
実施例14
窒化アルミニウム粉末A5を500g、無機リン酸P1を0.55g、有機リン酸化合物18Pを0.04g、IPAを600g、1Lガラスビーカーに入れ、攪拌翼で混合した。続いて攪拌しながら超音波バスで超音波を1時間照射した。その後、ロータリーエバポレーターで50℃で減圧乾燥し、半乾燥粉末を得た。さらに、50℃の真空乾燥機で12h乾燥し、続いて120℃の真空乾燥機で3h追加加熱した。その後真空中で放冷し、顆粒状の耐水性窒化アルミニウム粉末を得た。顆粒状の粉末を解砕処理し、解砕除理前後の粉末について耐水試験を実施した。耐水試験結果を表2に示した。また、解砕1回処理後の粉末について、炭素分析、リン量分析および溶出テストの結果を表2に示した。平均粒子径は解砕前後共に原料AlNと同一であった。
【0127】
実施例15
120℃の追加加熱の代わりに250℃の真空乾燥機で3h追加加熱する以外は、実施例3と同様の方法で顆粒状の耐水性窒化アルミニウム粉末を得た。顆粒状の粉末を解砕処理し、解砕除理前後の粉末について耐水試験を実施した。耐水試験結果を表2に示した。また、解砕1回処理後の粉末について、炭素分析、リン量分析および溶出テストの結果を表2に示した。平均粒子径は解砕前後共に原料AlNと同一であった。
【0128】
実施例16
窒化アルミニウム粉末A1を500g、無機リン酸P1を3.55g、IPAを600g、1Lガラスビーカーに入れ、攪拌翼で混合した。続いて攪拌しながら超音波バスで超音波を1時間照射した。その後、ロータリーエバポレーターで50℃で減圧乾燥し、半乾燥粉末を得た。さらに、50℃の真空乾燥機で12h乾燥し、続いて120℃の真空乾燥機で3h追加加熱した。その後真空中で放冷し、顆粒状の粉末を得た。
【0129】
得られた無機リン酸処理粉末500gを1000mlのナスフラスコに入れ、さらに有機リン酸化合物18Pを0.5g溶かしたIPA600mlを加えた。攪拌翼で攪拌状態にし、超音波バスで超音波を1時間照射した。その後、ロータリーエバポレーターで50℃で減圧乾燥し、半乾燥粉末を得た。さらに、50℃の真空乾燥機で12h乾燥し、続いて120℃の真空乾燥機で3h追加加熱した。その後真空中で放冷し、顆粒状の粉末を得た。顆粒状の粉末を解砕処理し、解砕除理前後の粉末について耐水試験を実施した。耐水試験結果を表2に示した。また、解砕1回処理後の粉末について、炭素分析、リン量分析および溶出テストの結果を表2に示した。平均粒子径は解砕前後共に原料AlNと同一であった。
【0130】
実施例17
窒化アルミニウム粉末A1を500g、無機リン酸P1を3.55g、IPAを600g、1Lガラスビーカーに入れ、攪拌翼で混合した。続いて攪拌しながら超音波バスで超音波を1時間照射した。その後、ロータリーエバポレーターで50℃で減圧乾燥し、半乾燥粉末を得た。さらに、50℃の真空乾燥機で12h乾燥し、続いて120℃の真空乾燥機で3h追加加熱した。その後真空中で放冷し、顆粒状の粉末を得た。
【0131】
得られた無機リン酸処理粉末500gを1000mlのナスフラスコに入れ、さらに有機リン酸化合物18POEを0.5g溶かしたIPA600mlを加えた。攪拌翼で攪拌状態にし、超音波バスで超音波を1時間照射した。その後、ロータリーエバポレーターで50℃で減圧乾燥し、半乾燥粉末を得た。さらに、50℃の真空乾燥機で12h乾燥し、続いて120℃の真空乾燥機で3h追加加熱した。その後真空中で放冷し、顆粒状の粉末を得た。顆粒状の粉末を解砕処理し、解砕除理前後の粉末について耐水試験を実施した。耐水試験結果を表2に示した。また、解砕1回処理後の粉末について、炭素分析、リン量分析および溶出テストの結果を表2に示した。平均粒子径は解砕前後共に原料AlNと同一であった。
【0132】
比較例1
有機リン酸化合物を用いないこと以外は、実施例1と同様の方法で顆粒状の粉末を得た。顆粒状の粉末を解砕処理し、解砕除理前後の粉末について耐水試験を実施した。耐水試験結果を表2に示した。また、解砕1回処理後の粉末について、炭素分析、リン量分析および溶出テストの結果を表2に示した。平均粒子径は解砕前後共に原料AlNと同一であった。
【0133】
比較例2
有機リン酸化合物14Pの代わりに6Pを0.5g用いた以外は、実施例1と同様の方法で顆粒状の粉末を得た。顆粒状の粉末を解砕処理し、解砕除理前後の粉末について耐水試験を実施した。耐水試験結果を表2に示した。また、解砕1回処理後の粉末について、炭素分析、リン量分析および溶出テストの結果を表2に示した。平均粒子径は解砕前後共に原料AlNと同一であった。
【0134】
比較例3
有機リン酸化合物14Pの代わりに10Pを0.5g用いた以外は、実施例1と同様の方法で顆粒状の粉末を得た。放冷後、顆粒状の粉末を解砕処理し、解砕除理前後の粉末について耐水試験を実施した結果を表2に示した。また、解砕1回処理後の粉末について、炭素分析、リン量分析および溶出テストの結果を表2に示した。平均粒子径は解砕前後共に原料AlNと同一であった。
【0135】
比較例4
有機リン酸化合物14Pの代わりに12POを0.5g用いた以外は、実施例1と同様の方法で顆粒状の粉末を得た。顆粒状の粉末を解砕処理し、解砕除理前後の粉末について耐水試験を実施した。耐水試験結果を表2に示した。また、解砕1回処理後の粉末について、炭素分析、リン量分析および溶出テストの結果を表2に示した。平均粒子径は解砕前後共に原料AlNと同一であった。
【0136】
比較例5
有機リン酸化合物14Pの代わりに有機リン酸化合物18Pを0.1g用いた以外は、実施例1と同様の方法で顆粒状の粉末を得た。顆粒状の粉末を解砕処理し、解砕除理前後の粉末について耐水試験を実施した。耐水試験結果を表2に示した。また、解砕1回処理後の粉末について、炭素分析およびリン量分析の結果を表2に示した。平均粒子径は解砕前後共に原料AlNと同一であった。
【0137】
比較例6
有機リン酸化合物14Pの代わりに有機リン酸化合物18Pを3.0g用いた以外は、実施例1と同様の方法で顆粒状の粉末を得た。顆粒状の粉末を大気中でメノウ乳鉢で解砕し、解砕前後の粉末について耐水試験を実施した。耐水試験結果を表2に示した。また、解砕1回処理後の粉末について、炭素分析およびリン量分析の結果を表2に示した。平均粒子径は解砕前後共に原料AlNと同一であった。
【0138】
比較例7
無機リン酸P1、3.55gの代わりに無機リン酸P1を16g、有機リン酸化合物14P、0.5gの代わりに18P、0.5gを用いた以外は、実施例1と同様の方法で顆粒状の粉末を得た。顆粒状の粉末を解砕処理し、解砕除理前後の粉末について耐水試験を実施した。耐水試験結果を表2に示した。また、解砕1回処理後の粉末について、炭素分析、リン量分析および溶出テストの結果を表2に示した。平均粒子径は解砕前後共に原料AlNと同一であった。
【0139】
比較例8
窒化アルミニウム粉末A1を500g、無機リン酸P1を3.55g、IPAを600g、1Lガラスビーカーに入れ、攪拌翼で混合した。続いて攪拌しながら超音波バスで超音波を1時間照射した。その後、ロータリーエバポレーターで50℃で減圧乾燥し、半乾燥粉末を得た。さらに、50℃の真空乾燥機で12h乾燥し、続いて120℃の真空乾燥機で3h追加加熱した。その後真空中で放冷し、顆粒状の粉末を得た。
【0140】
得られた無機リン酸処理粉末50gを500mlの三角フラスコに入れ、さらにヘキサン200mlを加えた。攪拌翼で攪拌状態にし、さらに60℃で加温した。別の容器に有機リン酸化合物18POEを0.5g、ヘキサンを12.5g、IPAを12.5g入れ、18POEを溶解させた溶液を用意した。この溶液をヘキサン中で攪拌状態の無機リン酸処理粉末に対し、10分かけて滴下投入した。得られた縣濁液をロータリーエバポレーターで50℃で減圧乾燥し、半乾燥粉末を得た。さらに、50℃の真空乾燥機で12h乾燥し、続いて120℃の真空乾燥機で3h追加加熱した。その後真空中で放冷し、顆粒状の粉末を得た。顆粒状の粉末を解砕処理し、解砕除理前後の粉末について耐水試験を実施した。耐水試験結果を表2に示した。また、解砕1回処理後の粉末について、炭素分析、リン量分析および溶出テストの結果を表2に示した。平均粒子径は解砕前後共に原料AlNと同一であった。
【0141】
表2から明らかなように、実施例1〜17に記載の耐水性窒化アルミニウム粒子は、解砕処理後も24時間以上の耐水性を示した。一方比較例1〜6では、解砕処理前では24時間以上の耐水性を示すものの、解砕処理後は24時間未満しか耐水性を維持できなくなった。比較例7では、リン酸が過剰量存在し、耐水性試験において電気伝導度が高くなり過ぎた。比較例8では、溶媒に低級アルカンのヘキサンを溶媒に用い、有機リン酸化合物を多く処理したが、解砕処理前のサンプルでも24時間の耐水性がなかった。
【0142】
【表1】
【0143】
【表2】