特許第6516670号(P6516670)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6516670連続的ヒドロホルミル化の際に触媒を補充する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6516670
(24)【登録日】2019年4月26日
(45)【発行日】2019年5月22日
(54)【発明の名称】連続的ヒドロホルミル化の際に触媒を補充する方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 45/50 20060101AFI20190513BHJP
   C07B 61/00 20060101ALI20190513BHJP
   C07C 47/02 20060101ALI20190513BHJP
【FI】
   C07C45/50
   C07B61/00 300
   C07C47/02
【請求項の数】17
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-504949(P2015-504949)
(86)(22)【出願日】2013年4月11日
(65)【公表番号】特表2015-516388(P2015-516388A)
(43)【公表日】2015年6月11日
(86)【国際出願番号】EP2013057526
(87)【国際公開番号】WO2013153136
(87)【国際公開日】20131017
【審査請求日】2016年4月4日
【審判番号】不服2017-16179(P2017-16179/J1)
【審判請求日】2017年11月1日
(31)【優先権主張番号】12163918.1
(32)【優先日】2012年4月12日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】エトガー ツェラー
(72)【発明者】
【氏名】アーミン ウロンスカ
(72)【発明者】
【氏名】アートゥア ヘーン
(72)【発明者】
【氏名】フォルカー ウーリヒ
(72)【発明者】
【氏名】レネ マグニー
(72)【発明者】
【氏名】ライムント ファトラー
【合議体】
【審判長】 佐藤 健史
【審判官】 佐々木 秀次
【審判官】 瀬下 浩一
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2003/0083528(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC C07C45/00−47/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3〜20個の炭素原子を有する、少なくとも1つのオレフィンを含有するオレフィン出発物質を、高められた温度で、および高められた圧力で、合成ガスと、反応帯域内で、有機燐配位子で錯化された、均一系の遷移金属触媒および遊離配位子の存在下に反応させ、その際に前記触媒は、インサイチュー(in−situ)で反応帯域内で形成され、遷移金属源は、前記反応帯域の外側に設けられた、予備成形された触媒ではなく、および触媒損失を補償するために、前記反応帯域に前記遷移金属源の溶液を供給する、連続的ヒドロホルミル化法であって、遷移金属としてロジウムを使用し、前記反応帯域におけるヒドロホルミル化生成物の空時収量を測定し、および前記反応帯域内への遷移金属源の添加速度を空時収量に依存して制御する方法であり、
− 前記反応帯域内への遷移金属源の添加速度を調節する調節手段を設け、
− 前記反応帯域におけるヒドロホルミル化生成物の空時収量の目標値を確定し、
− 空時収量の実際値を算出し、
− 目標値からの実際値のずれに対する下限値に達した後に、触媒損失を補償することが必要とされる、遷移金属源の量を算出し、および
− 前記反応帯域に前記遷移金属源の溶液を供給し、その際に前記反応帯域内への遷移金属源の添加速度は、空時収量が目標値からの実際値のずれに対する上限値を上回らない程度に制御されることを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記目標値からの空時収量の実際値のずれの下限値は、前記目標値に対して、最大40%であることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記目標値からの空時収量の実際値のずれの上限値は、前記目標値に対して、最大10%であることを特徴とする、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記反応帯域内での遷移金属濃度は、当該反応帯域の全ての液状内容物に対して、150〜250ppmの範囲内にある、請求項1から3までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記反応帯域内への遷移金属源の添加速度は、前記反応帯域の全ての液状内容物に対して、1日につき遷移金属源0.1ppm〜10ppmの範囲内にある、請求項1から4までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記遷移金属源の供給によって引き起こされる、前記反応帯域内での温度上昇は、2K未満である、請求項1から5までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
遷移金属源として酢酸ロジウム(II)および/または酢酸ロジウム(III)を使用する、請求項1からまでのいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記反応帯域に、溶剤が水、C1〜C4アルカノールおよびその混合物から選択されている当該溶剤中の遷移金属源の溶液を供給する、請求項1からまでのいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
反応帯域に供給される溶液中の遷移金属源の濃度は、0.1〜10質量%である、請求項1からまでのいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記配位子は、トリアリールホスフィン、C1〜C6アルキルジアリールホスフィンまたはアリールアルキルジホスフィンから選択される、請求項1からまでのいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
トリフェニルホスフィンを配位子として含むロジウム触媒を使用する、請求項1から10までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記反応帯域内での遷移金属に対する配位子のモル量比は、100:1〜1000:1の範囲内にあることを特徴とする、請求項1から11までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記ヒドロホルミル化のために、プロペン含有炭化水素混合物を使用する、請求項1から12までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記ヒドロホルミル化生成物を分離するために、液状排出物を反応帯域から取り出すことを特徴とする、請求項1から13までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記反応帯域におけるヒドロホルミル化生成物の空時収量の目標値は、75〜120kg/m3hであることを特徴とする、請求項14記載の方法。
【請求項16】
前記ヒドロホルミル化生成物を分離するために、ガス状排出物を反応帯域から取り出すことを特徴とする、請求項1から13までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記反応帯域におけるヒドロホルミル化生成物の空時収量の目標値は、50〜75kg/m3hであることを特徴とする、請求項16記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の背景
本発明は、連続操業において、連続的ヒドロホルミル化の際に触媒を補充する方法に関する。
【0002】
技術水準
ロジウム触媒系を使用するオレフィンの連続的ヒドロホルミル化は、オキソアルデヒドおよびその水素化生成物、オキソアルコールを商業的に製造するためによく知られ完成された方法である。この方法は、数多くの特許文献中、例えば米国特許第3527809号明細書、米国特許第4148830号明細書、米国特許第4247486号明細書および米国特許第4247468号明細書中に記載されている。
【0003】
連続的作業形式の場合、時間の経過と共に触媒系の活性は減少する。触媒系の当初の活性および反応器システムの生産性を維持するために、ヒドロホルミル化条件下で活性触媒種を後形成する、未使用の遷移金属化合物および/または未使用の配位子を添加することによって、効果がなくなる触媒成分を周期的に交換しなければならない。ヒドロホルミル化は強い発熱反応であるので、その際には、高められた触媒活性の結果として反応が制御不可能になることは、いずれにせよ回避されなければならない。
【0004】
現在、未使用の遷移金属化合物の添加の際、例えば酢酸ロジウムの添加の際には、先に反応器負荷量、出発オレフィンの供給量、反応器温度および/または反応器中の液体レベルを減少させ、その後に、典型的には2〜5時間の短い時間内に遷移金属化合物を添加する措置が取られている。このやり方により、前記添加と結びついた熱発生およびそれと結びついた、反応器中での温度上昇は、良好に制御することができ、および前記反応が制御不可能になることは、効果的に防止される。
【0005】
しかし、このやり方の欠点は、ヒドロホルミル化プラントの最大生産能力が遷移金属化合物の補充の間、完全には利用されていないことであり、このことは、相応する生産損失をまねく。
【0006】
本発明は、遷移金属化合物の確実な補充が、可能なかぎり僅かな生産損失と結びついている、飽和C3〜C20アルコールをC3〜C20アルデヒドから製造するための改善された方法を提供するという課題に基づくものである。
【0007】
ところで、意外なことに、反応帯域内への遷移金属源の添加速度が空時収量に依存して制御される場合には、強く減少された変換度または強く減少された収量を受け入れる必要なしに、連続的ヒドロホルミル化の際に遷移金属源が補充されうることが見い出された。したがって、本質的に前記反応器の全負荷の際に、触媒の活性を所望の目標範囲内で保持することに成功し、その際に前記遷移金属源の添加は、技術的に簡単に制御しうる、反応器中での、取るに足らない温度上昇だけを引き起こす。
【0008】
発明の要約
本発明の対象は、3〜20個の炭素原子を有する、少なくとも1つのオレフィンを含有するオレフィン出発物質を、高められた温度で、および高められた圧力で、合成ガスを有する反応帯域内で、有機燐配位子で錯化された、均一系の遷移金属触媒および遊離配位子の存在下に反応させ、その際に前記触媒は、インサイチュー(in−situ)で反応帯域内で形成され、および触媒損失を補償するために、前記反応帯域に遷移金属源の溶液を供給する、連続的ヒドロホルミル化法であって、
前記反応帯域におけるヒドロホルミル化生成物の空時収量を測定し、および前記反応帯域内への遷移金属源の添加速度を空時収量に依存して制御することを特徴とする、前記方法である。
【0009】
好ましい態様は、
− 前記反応帯域内への遷移金属源の添加速度を調節する調節手段を設け、
− 前記反応帯域におけるヒドロホルミル化生成物の空時収量の目標値を確定し、
− 空時収量の実際値を算出し、
− 目標値からの実際値のずれに対する下限値に達した後に、触媒損失を補償することが必要とされる、遷移金属源の量を算出し、および
− 前記反応帯域に前記遷移金属源の溶液を供給し、その際に前記反応帯域内への遷移金属源の添加速度は、空時収量が目標値からの実際値のずれに対する上限値を上回らない程度に制御されることを特徴とする方法である。
【0010】
発明の説明
「触媒損失」は、本発明の範囲内で、全く一般的に、前記反応帯域内での活性触媒の減少を示す。これは、例えば不活性化、すなわち活性の遷移金属錯体または遷移金属化合物が僅かに形成されるかまたはもはや形成されないことによって起こりうる。これは、例えば、反応排出物中に含まれる触媒が完全には前記反応帯域内へ返送され得ないことによっても生じうる。
【0011】
「遷移金属源」は、全く一般的に、遷移金属、遷移金属化合物および遷移金属錯体を示し、それから、前記反応帯域内でヒドロホルミル化条件下でヒドロホルミル化触媒は、インサイチュー(in−situ)で形成される。前記遷移金属源は、とりわけ、反応帯域の外側に設けられた、予備成形された触媒ではない。
【0012】
前記遷移金属は、とりわけ、元素の周期律表の第9族の元素、特に有利にロジウムまたはコバルトである。殊に、遷移金属として、ロジウムが使用される。
【0013】
前記遷移金属源として適当なロジウム化合物またはロジウム錯体は、例えばロジウム(II)塩およびロジウム(III)塩、例えばカルボン酸ロジウム(II)またはカルボン酸ロジウム(III)、酢酸ロジウム(II)および酢酸ロジウム(III)等である。さらに、ロジウム錯体、例えばロジウムビスカルボニルアセチルアセトネート、アセチルアセトナトビスエチレンロジウム(I)、アセチルアセトナトシクロオクタジエニルロジウム(I)、アセチルアセトナトノルボルナジエニルロジウム(I)、アセチルアセトナトカルボニルトリフェニルホスフィンロジウム(I)等が適している。好ましくは、遷移金属源として、酢酸ロジウム(II)および/または酢酸ロジウム(III)が使用される。
【0014】
遷移金属源として適当なコバルト化合物は、例えば硫酸コバルト(II)、炭酸コバルト(II)、これらのアミン錯体または水和物錯体、カルボン酸コバルト、例えば酢酸コバルト、エチルヘキサン酸コバルト、ナフテン酸コバルトおよびカプロン酸コバルトである。コバルトのカルボニル錯体、例えばジコバルトオクタカルボニル、テトラコバルトドデカカルボニルおよびヘキサコバルトヘキサデカカルボニルも適している。
【0015】
記載された、さらなる適当な遷移金属化合物および遷移金属錯体は、原理的に公知であり、かつ前記刊行物中に十分に記載されているか、またはこれらの遷移金属化合物および遷移金属錯体は、既に公知の化合物と同様に当業者によって製造されうる。
【0016】
特に有利には、遷移金属源として、酢酸ロジウム(II)および/または酢酸ロジウム(III)が使用される。
【0017】
本発明による方法の好ましい実施態様において、前記反応帯域には、溶剤が水、C1〜C4アルカノールおよびその混合物から選択されている、遷移金属源の溶液が供給される。
【0018】
殊に、前記反応帯域には、遷移金属源の水溶液が供給される。特に、前記反応帯域には、唯一の溶剤が水の酢酸ロジウム(II)および/または酢酸ロジウム(III)の水溶液が供給される。
【0019】
好ましくは、反応帯域に供給される、溶液中の遷移金属源の濃度は、0.1〜10質量%、特に有利に0.2〜7.5質量%、殊に0.5〜5質量%である。
【0020】
好ましくは、ヒドロホルミル化のために、ヒドロホルミル化反応の反応媒体中で可溶性の均一系の遷移金属錯体触媒が使用され、この遷移金属錯体触媒は、1つ以上の有機燐化合物を配位子として有する。好ましい配位子は、トリアリールホスフィン、C1〜C6アルキルジアリールホスフィンまたはアリールアルキルジホスフィン、殊にトリフェニルホスフィンの種類からのホスフィン配位子である。
【0021】
さらに、適当な配位子は、例えば欧州特許出願公開第0214622号明細書A2、米国特許第4668651号明細書、米国特許第4748261号明細書、米国特許第4769498号明細書、米国特許第4885401号明細書、米国特許第5235113号明細書、米国特許第5391801号明細書、米国特許第5663403号明細書、米国特許第5728861号明細書および米国特許第6172267号明細書中に記載されているジホスファイト化合物である。
【0022】
適当な立体障害配位子は、例えば米国特許第4774361号明細書、米国特許第4835299号明細書、米国特許第5059710号明細書、米国特許第5113022号明細書、米国特許第5179055号明細書、米国特許第5260491号明細書、米国特許第5264616号明細書、米国特許第5288918号明細書、米国特許第5360938号明細書、欧州特許出願公開第472071号明細書および欧州特許出願公開第518241号明細書中に記載されている。
【0023】
本発明による方法の特に好ましい実施態様において、トリフェニルホスフィンを配位子として含むロジウム触媒が使用される。
【0024】
好ましくは、前記反応帯域内での遷移金属濃度は、当該反応帯域の全ての液状内容物に対して、150〜250ppm、特に180〜200ppmの範囲内にある。
【0025】
好ましくは、前記反応帯域内での遷移金属に対する配位子のモル量比は、100:1〜1000:1、特に200:1〜500:1、殊に300:1〜500:1の範囲内にある。
【0026】
使用される、水素および一酸化炭素を含むガス混合物は、通常、合成ガスと呼称される。この合成ガスの組成は、広範囲内で変動しうる。水素に対する一酸化炭素のモル比は、たいてい、2:1〜1:2、殊に45:55〜50:50である。
【0027】
前記ヒドロホルミル化は、そのつどの反応条件下で不活性の適当な溶剤中で実施されうる。適当な溶剤は、例えばヒドロホルミル化の際に形成されるアルデヒドおよびより高沸点の反応成分、例えばアルドール縮合生成物である。さらに、芳香族化合物、例えばトルエンおよびキシレン、炭化水素または炭化水素混合物、脂肪族カルボン酸とアルカノールとのエステル、例えばTexanol(登録商標)、および芳香族カルボン酸エステル、例えばC8〜C13ジアルキルフタレートが適している。
【0028】
本発明によるヒドロホルミル化法に適したオレフィン原料は、原理的に、1個以上のエチレン性不飽和二重結合を含有する全ての化合物である。それには、末位二重結合を有するオレフィンおよび内部位二重結合を有するオレフィン、直鎖状オレフィンおよび分枝鎖状オレフィン、環状オレフィンならびにヒドロホルミル化条件下で本質的に不活性の置換基を有するオレフィンが含まれる。好ましくは、2〜12個、特に有利に3〜8個の炭素原子を有するオレフィンを含むオレフィン原料である。
【0029】
適当なα−オレフィンは、例えばエチレン、プロペン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、1−ウンデセン、1−ドデセン等である。好ましい分枝鎖状内部オレフィンは、C4〜C20オレフィン、例えば2−メチル−2−ブテン、2−メチル−2−ペンテン、3−メチル−2−ペンテン、内部ヘプテン混合物、分枝鎖状内部オクテン混合物、分枝鎖状内部ノネン混合物、分枝鎖状内部デセン混合物、分枝鎖状内部ウンデセン混合物、分枝鎖状内部ドデセン混合物等である。さらに、適当なオレフィンは、C5〜C8シクロアルケン、例えばシクロペンテン、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテンおよびこれらの誘導体、例えば1〜5個のアルキル置換基を有する、当該シクロアルケンのC1〜C20アルキル誘導体である。さらに、適当なオレフィンは、ビニル芳香族化合物、例えばスチレン、α−メチルスチレン、4−イソブチルスチレン等である。さらに、適当なオレフィンは、α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸および/またはα,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸のエステル、半エステルおよびアミド、例えば3−ペンテン酸メチルエステル、4−ペンテン酸メチルエステル、オレイン酸メチルエステル、アクリル酸メチルエステル、メタクリル酸メチルエステル、不飽和ニトリル、例えば3−ペンテンニトリル、4−ペンテンニトリル、アクリルニトリル、ビニルエーテル、例えばビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル、ビニルプロピルエーテル等、塩化ビニル、塩化アリル、C3〜C20アルケノール、C3〜C20アルケンジオールおよびC3〜C20アルカジエノール、例えばアリルアルコール、ヘクス−1−エン−4−オール、オクト−1−エン−4−オール、2,7−オクタジエノール−1である。さらに、適当な基質は、孤立二重結合または共役二重結合を有するジエンまたはポリエンである。それには、例えば1,3−ブタジエン、1,4−ペンタジエン、1,5−ヘキサジエン、1,6−ヘプタジエン、1,7−オクタジエン、1,8−ノナジエン、1,9−デカジエン、1,10−ウンデカジエン、1,11−ドデカジエン、1,12−トリデカジエン、1,13−テトラデカジエン、ビニルシクロヘキセン、ジシクロペンタジエン、1,5,9−シクロオクタトリエンならびにブタジエンホモポリマーおよびブタジエンコポリマーが含まれる。
【0030】
本発明による方法は、3または4個の炭素原子を有する、少なくとも1つのオレフィンを含むオレフィン出発材料が使用される、連続的ヒドロホルミル化法に特に適している。特に前記方法の場合、ヒドロホルミル化は、ロジウム源の添加の際に、明らかな実熱量と結びついている。
【0031】
特別な態様において、ヒドロホルミル化法では、工業的に使用すべきオレフィン含有炭化水素混合物が使用される。
【0032】
好ましくは、本発明による方法において、プロペン含有炭化水素混合物が使用される。好ましい工業用プロペン含有炭化水素混合物は、C3カットである。出発材料として適当なプロペン流は、プロペンの他に、プロパンも含んでいてよい。プロパン含量は、例えばプロパン0.5〜40質量%、特に1〜20質量%である。特別な実施態様において、プロパン含量は、全てのプロペン含有炭化水素混合物に対して、最大10質量%、特に有利に最大6質量%である。
【0033】
さらなる好ましい工業用オレフィン混合物は、C4カットである。C4カットは、例えばガス油を流動接触分解または水蒸気分解することによって得ることができるか、またはナフサを水蒸気分解することによって得ることができる。C4カットの組成に応じて、全体のC4カット(粗製C4カット)は、1,3−ブタジエンの分離後に得られる、いわゆるラフィネートIとイソブテン分離後に得られるラフィネートIIとで区別される。ラフィネートIIは、オレフィン含有炭化水素混合物として、ヒドロホルミル化に特に適している。
【0034】
このヒドロホルミル化は、1つ以上の、同一かまたは異なる反応器を含むことができる反応帯域内で行なわれる。最も簡単な場合には、この反応帯域は、個々の反応器によって形成される。これらの反応器は、そのつど、同一かまたは異なる混合特性を有することができる。これらの反応器は、所望の場合には、取付け物によって1回以上分割されていてよい。1つの帯域が2つ以上の反応器を形成する場合には、これらの反応器は、互いに任意に、例えば並行に接続されていてよいかまたは一列に接続にされていてよい。反応器として、原理的に、ヒドロホルミル化反応に適した全ての反応器タイプ、例えば攪拌型反応器、例えば米国特許第4778929号明細書中に記載されている気泡塔型反応器、例えば欧州特許出願公開第1114017号明細書の対象である循環型反応器、例えば欧州特許出願公開第423769号明細書中に記載された、一列の個々の反応器が異なる混合特性を有していてよい管状反応器が使用されてよく、さらに、例えば欧州特許出願公開第1231198号明細書または米国特許第5728893号明細書の対象である、仕切られた反応器が使用されてよい。
【0035】
反応帯域における温度は、一般に、約50〜200℃、特に約60〜180℃、殊に約70〜160℃の範囲内にある。前記反応は、とりわけ、約10〜700バールの、特に15〜200バール、殊に15〜60バールの範囲内の圧力で実施される。
【0036】
前記空時収量は、特に、前記反応帯域からの排出物中のアルデヒド含量の測定により測定される。この測定は、特に、オンライン測定装置によって行なわれる。しかし、規則的な間隔で反応帯域からの排出物から試料を取り出しかつアルデヒド含量を別々の分析装置中で測定することも可能である。アルデヒド含量は、例えば、ガスクロマトグラフィー、赤外分光法、比色法または化学発光分析法によって測定されうる。すなわち、例えば定量的化学発光分析法のために、アルデヒドを蛍光誘導体へ変換した後に、例えばフルオラル−P(4−アミノ−3−ペンテン−2−オン)を使用して、高い精度でアルデヒド含量を測定することが可能である。
【0037】
本発明による方法の最も簡単な場合には、前記反応帯域内への遷移金属源の供給速度は、適当な調節手段(アクチュエータ)を用いて、空時収量(RZA)の関数として、調節される。
【0038】
その際に、本発明による方法の最も簡単な場合には、調整の意味における、供給速度に対する出力パラメーター(RZA)の反結合を不要とすることができる。すなわち、例えば、前記反応帯域の空時収量に対して下限値に達した後に、それによって達成される、反応器中での遷移金属濃度の上昇率が先に確定された限界値を上回らない程度に、前記遷移金属源の溶液は、添加されうる。それによって、前記反応の暴走は、たいてい確実に回避されうる。
【0039】
好ましくは、前記反応帯域内での遷移金属濃度は、前記反応帯域の全ての液状内容物に対して、150〜250ppm、特に有利に180〜200ppmの範囲内にある。特に、前記遷移金属は、ロジウムである。その際に、前記遷移金属濃度は、「活性の」、すなわち触媒活性形またはその点で反応条件下で変換可能な形の遷移金属の割合だけに関連する。
【0040】
好ましくは、前記反応帯域内への遷移金属源の添加速度は、前記反応帯域の全ての液状内容物に対して、1日につき遷移金属源0.1ppm〜10ppmの範囲内、特に有利に1日につき遷移金属源0.5ppm〜5ppmの範囲内にある。このことは、本発明による方法の制御された変法ならびに調整された変法に当てはまる。特に、前記遷移金属は、ロジウムである。特に、前記遷移金属源は、酢酸ロジウムである。
【0041】
好ましくは、前記ロジウム源の供給によって引き起こされる、前記反応帯域内での温度上昇は、2K未満、有利に1K未満、殊に0.5K未満である。このことは、本発明による方法の制御された変法ならびに調整された変法に当てはまる。
【0042】
前記反応帯域内への遷移金属源の添加速度の制御に適した装置は、フローリミッター、絞り弁および計量ポンプから選択されている。適当な実施態様において、添加速度を制御するために、少なくとも1つのポンプと少なくとも1つのフローリミッターおよび/または少なくとも1つの絞り弁との組合せが使用される。好ましい実施態様において、前記反応帯域内への遷移金属源の添加速度を制御するために、計量ポンプが使用される。この計量ポンプは、他の点で必要とされる全てのシステム構成成分、例えばポンプ、絞り弁、任意に遮断弁等の機能を同時に引き受けている。適当な計量ポンプは、当業者に公知でありかつ正確に計量された液体量を運搬するという課題をもっている。当該計量ポンプは、例えば膜ポンプまたはピストンポンプであることができる。
【0043】
好ましい実施態様において、本発明による方法は、RZAのそのつどの実際値に応じて、前記反応帯域内への遷移金属源の添加速度を制御する装置を含む。前記添加速度を制御するための前記装置は、本発明による方法を調整して実施する場合に適した調節手段(アクチュエータ)でもある。さらに、前記装置は、例えば電子信号(例えば、制御コンピューターからの命令)を、前記反応帯域内への遷移金属源の溶液の添加速度の相当する機械的な増加または減少へ変換し、かつこうして、本発明により使用される調整システムにおける調整効果を発揮する。
【0044】
好ましくは、前記目標値からの空時収量の実際値のずれの下限値は、前記目標値に対して、最大40%、特に有利に最大30%である。
【0045】
好ましくは、前記目標値からの空時収量の実際値のずれの上限値は、前記目標値に対して、最大10%、特に有利に最大5%である。
【0046】
前記反応帯域からの排出物からヒドロホルミル化生成物を分離することは、様々な方法で行なうことができる。例えば、米国特許第4148830号明細書、欧州特許出願公開第16286号明細書、欧州特許出願公開第188246号明細書または欧州特許出願公開第423769号明細書中の記載と同様に、例えば、液状排出物を用いるヒドロホルミル化法が使用されうる。本質的に過剰でヒドロホルミル化に使用される合成ガスを除いて、液状排出物が前記反応帯域から放圧される液体排出法が好ましく、その際に前記排出物の圧力低下のために、本質的に、高沸点副生成物、均一に溶解されたヒドロホルミル化触媒、ヒドロホルミル化生成物の一部分および溶解された、反応されていないプロピレンおよびプロパンからなる液相と、本質的に、ヒドロホルミル化生成物、反応されていないプロピレンおよびプロパンならびに反応されていない一酸化炭素および水素ならびに不活性物質(例えば、N2、CO2、メタン)からなる気相とに分離される。前記液相は、任意に、その中に含まれている生成物アルデヒドのさらなる分離後に、返送流として元通りに前記反応器中に供給されうる。前記気相の少なくとも部分的な縮合によって、粗製ヒドロホルミル化生成物が得られる。前記縮合の際に残留する気相は、全部が反応帯域内に返送されるかまたは一部分が反応帯域内に返送される。有利には、放圧段階でまず第一に生じる気相および液相は、WO 97/07086中に記載された方法により後処理されうる。この目的のために、気相が塔の塔底部内に供給される一方で、液相は、加熱され、かつ前記塔の上部範囲内に供給される。それによって、液相と気相は、向流で導かれる。気相と液相とを密接に接触させることによって、液相中に存在する、ヒドロホルミル化生成物の残存量、反応されていないプロピレンおよびプロパンは、気相中に移動され、その結果、前記塔の塔頂部を離れるガス流は、前記塔の下端部で供給される、ヒドロホルミル化生成物のガス流ならびに反応されていないプロペンおよびプロパンと比較して富化されている。
【0047】
好ましくは、液状排出物を前記反応帯域から取出す際に、前記反応帯域におけるヒドロホルミル化生成物の空時収量の目標値は、75〜120kg/m3h、特に有利に85〜110kg/m3h、殊に94〜100kg/m3hである。
【0048】
それとは別に、ヒドロホルミル化反応器のガス空間からガス流を取出す、いわゆる再循環ガス法により方法を実施することができる。このガス流は、本質的に合成ガス、反応されていないプロピレンおよびプロパンからなり、その際にヒドロホルミル化反応器中の蒸気圧力に応じて、ヒドロホルミル化反応の際に形成されるヒドロホルミル化生成物が連行される。前記の連行された粗製ヒドロホルミル化生成物は、前記ガス流から、例えば冷却によって縮合除去され、および液体割合が取り除かれたガス流は、ヒドロホルミル化反応器中に返送される。さらに、縮合除去された粗製ヒドロホルミル化生成物中に溶解されて含まれる、反応されていないプロピレンおよびプロパンは、前記記載と同様に、脱ガス処理塔内で遊離されうる。
【0049】
好ましくは、ガス状排出物を前記反応帯域から取り出した際に、前記反応帯域におけるヒドロホルミル化生成物の空時収量の目標値は、50〜75kg/m3h、特に有利に55〜70kg/m3h、殊に60〜65kg/m3hである。
【0050】
本発明を次の、限定されない実施例につき、詳説する。
【実施例】
【0051】
例:
例1(常用のロジウム補充を有する比較例)
触媒としてのロジウム−トリフェニルホスフィン−カルボニル錯体およびガス状反応排出物を用いる、プロピレンのヒドロホルミル化の連続的プロセスの反応器に、空時収量が約45kg/m3hの値に低下した後に、新しい酢酸ロジウムを供給した。そのために、あらかじめ、プラント負荷量(プロピレン処理量)を100%から約60%へ減少させ、再循環ガス中のプロピレン含量を約40容積%から約30容積%へ減少させ、反応器中の液体レベルを約30%に減少させ、および反応器温度を109℃から105℃へ低下させ、その後に5質量%の酢酸ロジウム水溶液50 lを約2時間の時間間隔でポンプによって供給した。その際に、4℃までの温度上昇が観察され、この温度上昇は、存在する熱導出自由度によって良好に調整されえた。その後に、プロピレン負荷量を元通りに100%にもたらし、および運転条件を相応して適合させた。全ての負荷量のために必要とされる、より低い温度(109℃ではなく107℃)は、前記補充後の触媒の活性がより高いことを表わす。全てのロジウム補充プロセスは、約18時間継続された。
【0052】
例2(本発明による連続的なロジウム計量供給)
触媒としてのロジウム−トリフェニルホスフィン−カルボニル錯体およびガス状反応排出物を用いる、プロピレンのヒドロホルミル化の連続運転されるプロセスの全負荷反応器に、空時収量が約45kg/m3hの値に低下した後に、2.5質量%の酢酸ロジウム溶液100 lを計量ポンプによって10日間の時間間隔で供給した。計量供給時間にわたり、前記反応器中での言うに値する温度上昇は、観察されなかった。全負荷に必要とされる反応器温度は、ロジウム補充後に、約1℃低下することができたが、このことは、触媒活性の増加を示唆する。空時収量は、酢酸ロジウムの添加の終結後に、60〜65kg/m3hの望ましい値であった。