【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、ZnOにTiO
2を添加した高屈折率複合酸化物のアーキング現象及び割れ発生の原因についての鋭意検討を行った。その結果、ZnOとTiO
2により形成されるZn
2TiO
4結晶相は異常粒成長しやすく、一定サイズ以上の結晶としてターゲット内部に存在すると、高パワー投入時に極めて大きな電荷が蓄積され、激しい異常放電を引き起こすことを突き止めた。
【0008】
さらに、一定サイズ以上のZn
2TiO
4結晶相は焼結体の強度にも影響を与えることが判明した。異常粒成長したZn
2TiO
4結晶相の組織付近では部分的な粒界強度が低下し、ターゲット全体としての強度を低下させ、アーキングと同時にターゲット割れの原因になる。
【0009】
以上の点に鑑み、本発明はZn
2TiO
4相の異常粒成長を抑制することにより、高パワー投入時のアーキング発生及びターゲット割れを防止する酸化物焼結体を見出した。
【0010】
すなわち、本発明は
(1)構成元素として亜鉛、アルミニウム、チタン及び酸素を有する酸化物焼結体であって、当該焼結体を構成する元素の原子比が、亜鉛、アルミニウム、チタンの含有量をそれぞれZn、Al、Tiとしたときに、
Al/(Zn+Al+Ti)=0.035〜0.050
Ti/(Zn+Al+Ti)=0.05〜0.20
であり、当該酸化物焼結体中のZn
2TiO
4結晶相を母相とする結晶粒の平均粒径が5μm以下であることを特徴とする酸化物焼結体。
(2)前記酸化物焼結体中に粒径20μmを超えるZn
2TiO
4結晶相を母相とする結晶粒が存在しないことを特徴とする(1)に記載の酸化物焼結体。
(3)前記酸化物焼結体のX線回折において、酸化アルミニウム相の回折ピークが存在しないことを特徴とする(1)または(2)に記載の酸化物焼結体。
(4)相対密度が98%以上であることを特徴とする(1)から(3)のいずれかに記載の酸化物焼結体。
(5)抗折強度が150MPa以上であることを特徴とする(1)から(4)のいずれかに記載の酸化物焼結体。
(6)(1)から(5)のいずれかに記載の酸化物焼結体をターゲット材として用いることを特徴とするスパッタリングターゲット。
(7)(6)に記載のスパッタリングターゲットを用いてスパッタリング法で成膜したことを特徴とする薄膜。
(8)酸化亜鉛粉末、酸化チタン粉末及びBET比表面積が10m
2/g以上である酸化アルミニウム粉末を原料粉末として、元素の原子比が、亜鉛、アルミニウム、チタンの含有量をそれぞれZn、Al、Tiとしたときに、
Al/(Zn+Al+Ti)=0.035〜0.050
Ti/(Zn+Al+Ti)=0.05〜0.20
となるように混合し、成形した後、得られた成形体を焼成することを特徴とする酸化物焼結体の製造方法。
(9)大気または不活性ガス雰囲気下にて1300℃以下の温度で焼成することを特徴とする(8)に記載の酸化物焼結体の製造方法。
に関するものである。
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0012】
本発明は、構成元素として亜鉛、アルミニウム、チタン及び酸素を有する酸化物焼結体であって、当該焼結体を構成する元素の原子比が、亜鉛、アルミニウム、チタンの含有量をそれぞれZn、Al、Tiとしたときに、
Al/(Zn+Al+Ti)=0.035〜0.050
Ti/(Zn+Al+Ti)=0.05〜0.20
であり、当該酸化物焼結体中のZn
2TiO
4結晶相を母相とする結晶粒の平均粒径が5μm以下であることを特徴とする酸化物焼結体である。
【0013】
本発明の酸化物焼結体は、構成元素として亜鉛、アルミニウム及びチタンを有することを特徴とする。亜鉛は酸化物焼結体の導電性を確保する為のものであり、チタンはスパッタリングして得られる膜が所望の高屈折率を得る為のものである。絶縁性の高い酸化チタン相は酸化亜鉛と複合酸化物相であるZn
2TiO
4相を形成し、酸化チタン相は酸化物焼結体中に含有されなくなる。さらに、アルミニウムを添加することで導電性が向上し、本発明の酸化物焼結体は安定なDC放電が可能になる。
【0014】
本発明は、焼結体を構成する元素の原子比が、亜鉛、アルミニウム、チタンの含有量をそれぞれZn、Al、Tiとしたときに、Al/(Zn+Al+Ti)が0.035〜0.050、Ti/(Zn+Al+Ti)=0.05〜0.20であることを特徴とする。このような組成の範囲であれば、酸化チタンと酸化亜鉛により形成されるZn
2TiO
4相の異常粒成長を抑制することが可能となる。
【0015】
Al/(Zn+Al+Ti)は0.035〜0.050であり、0.037〜0.046であることが好ましい。Al/(Zn+Al+Ti)が0.035未満であるとZn
2TiO
4相の異常粒成長を抑制することが困難となり、Al/(Zn+Al+Ti)が0.050を超えると酸化亜鉛相に固溶置換できないアルミニウムが絶縁性の酸化アルミニウムやその複合酸化物として焼結体粒界に析出してしまい、焼結体の抵抗率が高くなってしまう。
【0016】
また、Ti/(Zn+Al+Ti)は0.05〜0.20であり、0.05〜0.19であることが好ましい。Ti/(Zn+Al+Ti)が0.05未満だと、スパッタリングして得られる膜の屈折率が低下してしまい、Ti/(Zn+Al+Ti)が0.20を超えると焼結体の抵抗率が急激に増加し、安定なDC放電が不可能になってしまう。
【0017】
本発明の酸化物焼結体は、主にZnO相を母相とする結晶粒と、Zn
2TiO
4相を母相とする結晶粒から構成されるが、酸化物焼結体中においてZnO相とZn
2TiO
4相の粒径に差が生じてしまうと、粒界部分の強度がアンバランスとなり、熱衝撃に弱い焼結体になる可能性があるため、Zn
2TiO
4相を母相とする結晶粒の平均粒径は5μm以下であることが好ましく、より好ましくは3.5μm以下である。さらに、粒径20μmを超えるZn
2TiO
4結晶相を母相とする結晶粒が存在しないことがより好ましく、粒径10μmを超えるZn
2TiO
4結晶相を母相とする結晶粒が存在しないことが特に好ましい。
【0018】
また、本発明においては、得られた酸化物焼結体のX線回折において、酸化アルミニウムに相当する回折ピークが存在しないことが好ましい。絶縁体の酸化アルミニウムはスパッタ時のアーキングの原因となるからである。本発明では、BET比表面積が10m
2/g以上である酸化アルミニウム粉末を用いることで焼成温度が比較的低温とすることができ、ZnO相に固溶出来ない過剰の酸化アルミニウムの再凝集、粒成長が抑制される為、酸化アルミニウムのX線回折ピークが現れない。
【0019】
本発明の酸化物焼結体は、相対密度が98%以上であることが好ましい。相対密度が98%未満であるとアーキング発生の頻度が高くなる傾向にあるためである。
【0020】
さらに、本発明の酸化物焼結体は、安定なDC放電を行うために、バルク抵抗が10Ωcm以下であることが好ましく、より好ましくは1Ωcm以下、さらに好ましくは0.1Ωcm以下である。
【0021】
また、本発明の酸化物焼結体は、抗折強度が150MPa以上であることが好ましく、180MPa以上であることがより好ましい。抗折強度が150MPa以上であれば、研削加工におりても割れが発生せず、歩留りが高いために生産性が良い。さらに、スパッタリング中に高いパワーが投入される円筒形スパッタリングターゲットに使用した場合においても、割れの問題が発生し難い。
【0022】
なお、ターゲットへの投入負荷は、投入電力をターゲットのエロージョン面積で割った電力密度(W/cm
2)で規格化される。通常生産における一般的な電力密度は1〜2.5W/cm
2程度であるが、本発明においては4W/cm
2以上の高パワー条件においてもアーキング発生の極めて少ない、高品質なターゲット材料となる酸化物焼結体が得られる。
【0023】
本発明の酸化物焼結体の製造方法は、酸化亜鉛粉末、酸化チタン粉末及びBET比表面積が10m
2/g以上である酸化アルミニウム粉末を原料粉末として、元素の原子比が、亜鉛、アルミニウム、チタンの含有量をそれぞれZn、Al、Tiとしたときに、
Al/(Zn+Al+Ti)=0.035〜0.050
Ti/(Zn+Al+Ti)=0.05〜0.20
となるように混合し、成形した後、得られた成形体を焼成することを特徴とする。
【0024】
以下、本発明の酸化物焼結体の製造方法について、工程毎に説明する。
【0025】
(1)原料混合工程
原料粉末は取り扱い性を考慮すると酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化チタンの各酸化物粉末が好ましい。各原料粉末の純度は、99.9%以上が好ましく、より好ましくは99.99%以上である。不純物が含まれると、焼成工程における異常粒成長の原因となる為、好ましくない。
【0026】
酸化アルミニウム粉末についてはBET比表面積が10m
2/g以上のものを使用する必要がある。BET比表面積が10m
2/g未満の酸化アルミニウム粉末だと、焼成時に形成されるZn
2TiO
4相の激しい粒成長を抑制することができない。また、酸化アルミニウム粉末はD50が0.15〜0.35μm、D90が0.30μm〜0.65μmのものを用いることが好ましい。
【0027】
原料混合工程において、酸化亜鉛粉末、酸化アルミニウム粉末及び酸化チタン粉末を、元素の原子比が亜鉛、アルミニウム、チタンの含有量をそれぞれZn、Al、Tiとしたときに、
Al/(Zn+Al+Ti)=0.035〜0.050
Ti/(Zn+Al+Ti)=0.05〜0.20
となるように混合する必要があり、
Al/(Zn+Al+Ti)=0.037〜0.046
Ti/(Zn+Al+Ti)=0.05〜0.19
となるように混合することが好ましい。
【0028】
また、Zn
2TiO
4相の粒成長を抑制するために、原料粉末は均一に混合することが好ましい。均一混合のためには、粉砕混合後の混合粉のBET比表面積が、主構成原料である酸化亜鉛粉末のBET比表面積よりも1m
2/g以上高くなることが好ましく、さらに好ましくは2m
2/g以上である。混合粉のBET比表面積は、高すぎると粉末の成形性が低下するため、15m
2/g以下に調製することが好ましい。
【0029】
これら各粉末の粉砕混合処理は、均一混合が可能な設備であれば、特に限定されるものではないが、ジルコニア、アルミナ、ナイロン樹脂等のボールやビーズを用いた乾式、湿式のメディア撹拌型ミルやメディアレスの容器回転式、機械撹拌式や気流式等の粉砕混合方法が例示される。具体的には、ボールミル、ビーズミル、アトライタ、振動ミル、遊星ミル、ジェットミル、二軸遊星撹拌式混合機等が挙げられる。湿式法のボールミルやビーズミル、アトライタ、振動ミル、遊星ミル、ジェットミル等を用いる場合には、粉砕後のスラリーを乾燥する必要がある。この乾燥方法は特に限定されるものではないが、例えば、濾過乾燥、流動層乾燥、噴霧乾燥等が例示できる。
【0030】
(2)成形工程
成形方法は、混合した原料粉末を目的とした形状に成形できる成形方法を適宜選択することが可能であり、特に限定されるものではない。プレス成形法、鋳込み成形法、射出成形法等が例示できる。
【0031】
成形圧力は成形体にクラック等の発生がなく、取り扱いが可能な成形体であれば特に限定されるものではないが、成形密度は可能な限り高めた方が好ましい。そのために冷間静水圧プレス(CIP)成形等の方法を用いることも可能である。CIP圧力は充分な圧密効果を得るため1ton/cm
2以上が好ましく、さらに好ましくは2ton/cm
2以上、とりわけ好ましくは2〜3ton/cm
2である。
【0032】
(3)焼成工程
次に得られた成形体を電気炉焼成炉等にて焼成を行う。被焼成物の昇温速度については特に限定されないが、一般的には20〜600℃/時間の範囲である。降温速度についても特に限定されず、焼結炉の容量、焼結体のサイズ及び形状、割れ易さなどを考慮して適宜決定することができる。焼成保持温度は、1100〜1300℃の範囲で行うことが好ましく、保持時間は0.5〜8時間が好ましく、1〜5時間がより好ましい。焼成保持温度及び保持時間をこの条件とすると、焼成時に生成するZn
2TiO
4相の異常粒成長を抑制し易い。焼成時の雰囲気としては特に制限されないが、亜鉛の昇華を抑制するために大気または酸素雰囲気とすることが好ましい。
【0033】
(4)ターゲット化工程
得られた焼結体は、平面研削盤、円筒研削盤、旋盤、切断機、マシニングセンター等の機械加工機を用いて、板状、円状、円筒状等の所望の形状に研削加工する。さらに、必要に応じて無酸素銅やチタン等からなるバッキングプレート、バッキングチューブにインジウム半田等を用いて接合(ボンディング)することにより、本発明の酸化物焼結体をターゲット材としたスパッタリングターゲットを得ることができる。
【0034】
焼結体のサイズは、特に限定されないが、本発明による焼結体は強度が高いため大型のターゲットを製造することが可能となる。平板形スパッタリングターゲットの場合、縦310mm×横420mm(ターゲット面の面積1302cm
2)以上、円筒形スパッタリングターゲットの場合、外径91mmΦ×170mm(ターゲット面の面積486cm
2)以上の大型の焼結体を作製することができる。なお、ここで言うターゲット面の面積とは、スパッタリングされる側の焼結体表面の面積を言う。複数の焼結体から構成される多分割ターゲットの場合、それぞれの焼結体の中でスパッタリングされる側の焼結体表面の面積が最大のものを多分割ターゲットにおけるターゲット面の面積とする。