特許第6520523号(P6520523)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6520523酸化物焼結体、その製造方法及びスパッタリングターゲット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6520523
(24)【登録日】2019年5月10日
(45)【発行日】2019年5月29日
(54)【発明の名称】酸化物焼結体、その製造方法及びスパッタリングターゲット
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/453 20060101AFI20190520BHJP
   C23C 14/34 20060101ALI20190520BHJP
【FI】
   C04B35/453
   C23C14/34 A
【請求項の数】9
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-147879(P2015-147879)
(22)【出願日】2015年7月27日
(65)【公開番号】特開2016-34892(P2016-34892A)
(43)【公開日】2016年3月17日
【審査請求日】2018年6月12日
(31)【優先権主張番号】特願2014-156608(P2014-156608)
(32)【優先日】2014年7月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】尾身 健治
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 謙一
(72)【発明者】
【氏名】内海 健太郎
【審査官】 小川 武
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭59−149604(JP,A)
【文献】 特開2011−093717(JP,A)
【文献】 特開2013−209741(JP,A)
【文献】 特開2013−177262(JP,A)
【文献】 特開2012−106878(JP,A)
【文献】 特開2009−298649(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00−35/84
C23C 14/00−14/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構成元素として亜鉛、アルミニウム、チタン及び酸素より成る酸化物焼結体であって、当該焼結体を構成する元素の原子比が、亜鉛、アルミニウム、チタンの含有量をそれぞれZn、Al、Tiとしたときに、
Al/(Zn+Al+Ti)=0.035〜0.050
Ti/(Zn+Al+Ti)=0.05〜0.20
であり、当該焼結体中のZnTiO結晶相を母相とする結晶粒の平均粒径が5μm以下であることを特徴とする酸化物焼結体。
【請求項2】
前記酸化物焼結体中に粒径20μmを超えるZnTiO結晶相を母相とする結晶粒が存在しないことを特徴とする請求項1に記載の酸化物焼結体。
【請求項3】
前記酸化物焼結体のX線回折において、酸化アルミニウム相の回折ピークが存在しないことを特徴とする請求項1または2に記載の酸化物焼結体。
【請求項4】
相対密度が98%以上であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の酸化物焼結体。
【請求項5】
抗折強度が150MPa以上であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の酸化物焼結体。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の酸化物焼結体をターゲット材として用いることを特徴とするスパッタリングターゲット。
【請求項7】
請求項6に記載のスパッタリングターゲットを用いてスパッタリング法で成膜することを特徴とする薄膜の製造方法
【請求項8】
酸化亜鉛粉末、酸化チタン粉末及びBET比表面積が10m/g以上である酸化アルミニウム粉末を原料粉末として、元素の原子比が、亜鉛、アルミニウム、チタンの含有量をそれぞれZn、Al、Tiとしたときに、
Al/(Zn+Al+Ti)=0.035〜0.050
Ti/(Zn+Al+Ti)=0.05〜0.20
となるように混合し、成形した後、得られた成形体を焼成することを特徴とする酸化物焼結体の製造方法。
【請求項9】
大気または不活性ガス雰囲気下にて1300℃以下の温度で焼成することを特徴とする請求項8に記載の酸化物焼結体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜鉛、アルミニウム、チタン及び酸素を構成元素とする酸化物焼結体及び当該焼結体を含んでなるスパッタリングターゲットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯型ディスプレイや建材ガラスにおいて屈折率調整用として高屈折率膜が採用されつつある。高屈折率ターゲットの代表例は酸化チタンターゲットであるが、その抵抗値が極めて高く、量産性の高いDCスパッタリングが困難であるという問題がある。この課題に対しては微量のドーパントの付与により比抵抗を下げ、DC放電を可能とする技術が報告されている(例えば、特許文献1参照)。しかし、酸化チタン系の酸化物材料は、チタンと酸素との結合強度が強いため、スパッタリング時に容易に原子化されず、成膜速度が極めて遅いという課題を残している。
【0003】
また、高屈折率ターゲットとして、亜鉛、アルミニウム、チタンより成る複合酸化物焼結体も報告されている(例えば、特許文献2参照)。チタンを含有した酸化亜鉛系ターゲットは、屈折率2.0以上の高屈折率を実現すると共に、アーキング発生の少ない、安定なDC放電性能を有する複合酸化物焼結体が得られるとされている。
【0004】
しかしながら、近年では高パワー負荷を投入可能な円筒ターゲットの採用等が進んでおり、従来想定していなかった高パワーを投入した成膜が主流になりつつある。したがって、高パワー投入時においてもアーキング発生やターゲット割れのない、安定なDC放電が可能な高屈折率ターゲットに対する必要性が高まっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−179129号公報
【特許文献2】特開2009−298649号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、高パワー成膜時においても異常放電現象が少なく、ターゲット割れのない、スパッタリングターゲットに用いられる酸化物焼結体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、ZnOにTiOを添加した高屈折率複合酸化物のアーキング現象及び割れ発生の原因についての鋭意検討を行った。その結果、ZnOとTiOにより形成されるZnTiO結晶相は異常粒成長しやすく、一定サイズ以上の結晶としてターゲット内部に存在すると、高パワー投入時に極めて大きな電荷が蓄積され、激しい異常放電を引き起こすことを突き止めた。
【0008】
さらに、一定サイズ以上のZnTiO結晶相は焼結体の強度にも影響を与えることが判明した。異常粒成長したZnTiO結晶相の組織付近では部分的な粒界強度が低下し、ターゲット全体としての強度を低下させ、アーキングと同時にターゲット割れの原因になる。
【0009】
以上の点に鑑み、本発明はZnTiO相の異常粒成長を抑制することにより、高パワー投入時のアーキング発生及びターゲット割れを防止する酸化物焼結体を見出した。
【0010】
すなわち、本発明は
(1)構成元素として亜鉛、アルミニウム、チタン及び酸素を有する酸化物焼結体であって、当該焼結体を構成する元素の原子比が、亜鉛、アルミニウム、チタンの含有量をそれぞれZn、Al、Tiとしたときに、
Al/(Zn+Al+Ti)=0.035〜0.050
Ti/(Zn+Al+Ti)=0.05〜0.20
であり、当該酸化物焼結体中のZnTiO結晶相を母相とする結晶粒の平均粒径が5μm以下であることを特徴とする酸化物焼結体。
(2)前記酸化物焼結体中に粒径20μmを超えるZnTiO結晶相を母相とする結晶粒が存在しないことを特徴とする(1)に記載の酸化物焼結体。
(3)前記酸化物焼結体のX線回折において、酸化アルミニウム相の回折ピークが存在しないことを特徴とする(1)または(2)に記載の酸化物焼結体。
(4)相対密度が98%以上であることを特徴とする(1)から(3)のいずれかに記載の酸化物焼結体。
(5)抗折強度が150MPa以上であることを特徴とする(1)から(4)のいずれかに記載の酸化物焼結体。
(6)(1)から(5)のいずれかに記載の酸化物焼結体をターゲット材として用いることを特徴とするスパッタリングターゲット。
(7)(6)に記載のスパッタリングターゲットを用いてスパッタリング法で成膜したことを特徴とする薄膜。
(8)酸化亜鉛粉末、酸化チタン粉末及びBET比表面積が10m/g以上である酸化アルミニウム粉末を原料粉末として、元素の原子比が、亜鉛、アルミニウム、チタンの含有量をそれぞれZn、Al、Tiとしたときに、
Al/(Zn+Al+Ti)=0.035〜0.050
Ti/(Zn+Al+Ti)=0.05〜0.20
となるように混合し、成形した後、得られた成形体を焼成することを特徴とする酸化物焼結体の製造方法。
(9)大気または不活性ガス雰囲気下にて1300℃以下の温度で焼成することを特徴とする(8)に記載の酸化物焼結体の製造方法。
に関するものである。
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0012】
本発明は、構成元素として亜鉛、アルミニウム、チタン及び酸素を有する酸化物焼結体であって、当該焼結体を構成する元素の原子比が、亜鉛、アルミニウム、チタンの含有量をそれぞれZn、Al、Tiとしたときに、
Al/(Zn+Al+Ti)=0.035〜0.050
Ti/(Zn+Al+Ti)=0.05〜0.20
であり、当該酸化物焼結体中のZnTiO結晶相を母相とする結晶粒の平均粒径が5μm以下であることを特徴とする酸化物焼結体である。
【0013】
本発明の酸化物焼結体は、構成元素として亜鉛、アルミニウム及びチタンを有することを特徴とする。亜鉛は酸化物焼結体の導電性を確保する為のものであり、チタンはスパッタリングして得られる膜が所望の高屈折率を得る為のものである。絶縁性の高い酸化チタン相は酸化亜鉛と複合酸化物相であるZnTiO相を形成し、酸化チタン相は酸化物焼結体中に含有されなくなる。さらに、アルミニウムを添加することで導電性が向上し、本発明の酸化物焼結体は安定なDC放電が可能になる。
【0014】
本発明は、焼結体を構成する元素の原子比が、亜鉛、アルミニウム、チタンの含有量をそれぞれZn、Al、Tiとしたときに、Al/(Zn+Al+Ti)が0.035〜0.050、Ti/(Zn+Al+Ti)=0.05〜0.20であることを特徴とする。このような組成の範囲であれば、酸化チタンと酸化亜鉛により形成されるZnTiO相の異常粒成長を抑制することが可能となる。
【0015】
Al/(Zn+Al+Ti)は0.035〜0.050であり、0.037〜0.046であることが好ましい。Al/(Zn+Al+Ti)が0.035未満であるとZnTiO相の異常粒成長を抑制することが困難となり、Al/(Zn+Al+Ti)が0.050を超えると酸化亜鉛相に固溶置換できないアルミニウムが絶縁性の酸化アルミニウムやその複合酸化物として焼結体粒界に析出してしまい、焼結体の抵抗率が高くなってしまう。
【0016】
また、Ti/(Zn+Al+Ti)は0.05〜0.20であり、0.05〜0.19であることが好ましい。Ti/(Zn+Al+Ti)が0.05未満だと、スパッタリングして得られる膜の屈折率が低下してしまい、Ti/(Zn+Al+Ti)が0.20を超えると焼結体の抵抗率が急激に増加し、安定なDC放電が不可能になってしまう。
【0017】
本発明の酸化物焼結体は、主にZnO相を母相とする結晶粒と、ZnTiO相を母相とする結晶粒から構成されるが、酸化物焼結体中においてZnO相とZnTiO相の粒径に差が生じてしまうと、粒界部分の強度がアンバランスとなり、熱衝撃に弱い焼結体になる可能性があるため、ZnTiO相を母相とする結晶粒の平均粒径は5μm以下であることが好ましく、より好ましくは3.5μm以下である。さらに、粒径20μmを超えるZnTiO結晶相を母相とする結晶粒が存在しないことがより好ましく、粒径10μmを超えるZnTiO結晶相を母相とする結晶粒が存在しないことが特に好ましい。
【0018】
また、本発明においては、得られた酸化物焼結体のX線回折において、酸化アルミニウムに相当する回折ピークが存在しないことが好ましい。絶縁体の酸化アルミニウムはスパッタ時のアーキングの原因となるからである。本発明では、BET比表面積が10m/g以上である酸化アルミニウム粉末を用いることで焼成温度が比較的低温とすることができ、ZnO相に固溶出来ない過剰の酸化アルミニウムの再凝集、粒成長が抑制される為、酸化アルミニウムのX線回折ピークが現れない。
【0019】
本発明の酸化物焼結体は、相対密度が98%以上であることが好ましい。相対密度が98%未満であるとアーキング発生の頻度が高くなる傾向にあるためである。
【0020】
さらに、本発明の酸化物焼結体は、安定なDC放電を行うために、バルク抵抗が10Ωcm以下であることが好ましく、より好ましくは1Ωcm以下、さらに好ましくは0.1Ωcm以下である。
【0021】
また、本発明の酸化物焼結体は、抗折強度が150MPa以上であることが好ましく、180MPa以上であることがより好ましい。抗折強度が150MPa以上であれば、研削加工におりても割れが発生せず、歩留りが高いために生産性が良い。さらに、スパッタリング中に高いパワーが投入される円筒形スパッタリングターゲットに使用した場合においても、割れの問題が発生し難い。
【0022】
なお、ターゲットへの投入負荷は、投入電力をターゲットのエロージョン面積で割った電力密度(W/cm)で規格化される。通常生産における一般的な電力密度は1〜2.5W/cm程度であるが、本発明においては4W/cm以上の高パワー条件においてもアーキング発生の極めて少ない、高品質なターゲット材料となる酸化物焼結体が得られる。
【0023】
本発明の酸化物焼結体の製造方法は、酸化亜鉛粉末、酸化チタン粉末及びBET比表面積が10m/g以上である酸化アルミニウム粉末を原料粉末として、元素の原子比が、亜鉛、アルミニウム、チタンの含有量をそれぞれZn、Al、Tiとしたときに、
Al/(Zn+Al+Ti)=0.035〜0.050
Ti/(Zn+Al+Ti)=0.05〜0.20
となるように混合し、成形した後、得られた成形体を焼成することを特徴とする。
【0024】
以下、本発明の酸化物焼結体の製造方法について、工程毎に説明する。
【0025】
(1)原料混合工程
原料粉末は取り扱い性を考慮すると酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化チタンの各酸化物粉末が好ましい。各原料粉末の純度は、99.9%以上が好ましく、より好ましくは99.99%以上である。不純物が含まれると、焼成工程における異常粒成長の原因となる為、好ましくない。
【0026】
酸化アルミニウム粉末についてはBET比表面積が10m/g以上のものを使用する必要がある。BET比表面積が10m/g未満の酸化アルミニウム粉末だと、焼成時に形成されるZnTiO相の激しい粒成長を抑制することができない。また、酸化アルミニウム粉末はD50が0.15〜0.35μm、D90が0.30μm〜0.65μmのものを用いることが好ましい。
【0027】
原料混合工程において、酸化亜鉛粉末、酸化アルミニウム粉末及び酸化チタン粉末を、元素の原子比が亜鉛、アルミニウム、チタンの含有量をそれぞれZn、Al、Tiとしたときに、
Al/(Zn+Al+Ti)=0.035〜0.050
Ti/(Zn+Al+Ti)=0.05〜0.20
となるように混合する必要があり、
Al/(Zn+Al+Ti)=0.037〜0.046
Ti/(Zn+Al+Ti)=0.05〜0.19
となるように混合することが好ましい。
【0028】
また、ZnTiO相の粒成長を抑制するために、原料粉末は均一に混合することが好ましい。均一混合のためには、粉砕混合後の混合粉のBET比表面積が、主構成原料である酸化亜鉛粉末のBET比表面積よりも1m/g以上高くなることが好ましく、さらに好ましくは2m/g以上である。混合粉のBET比表面積は、高すぎると粉末の成形性が低下するため、15m/g以下に調製することが好ましい。
【0029】
これら各粉末の粉砕混合処理は、均一混合が可能な設備であれば、特に限定されるものではないが、ジルコニア、アルミナ、ナイロン樹脂等のボールやビーズを用いた乾式、湿式のメディア撹拌型ミルやメディアレスの容器回転式、機械撹拌式や気流式等の粉砕混合方法が例示される。具体的には、ボールミル、ビーズミル、アトライタ、振動ミル、遊星ミル、ジェットミル、二軸遊星撹拌式混合機等が挙げられる。湿式法のボールミルやビーズミル、アトライタ、振動ミル、遊星ミル、ジェットミル等を用いる場合には、粉砕後のスラリーを乾燥する必要がある。この乾燥方法は特に限定されるものではないが、例えば、濾過乾燥、流動層乾燥、噴霧乾燥等が例示できる。
【0030】
(2)成形工程
成形方法は、混合した原料粉末を目的とした形状に成形できる成形方法を適宜選択することが可能であり、特に限定されるものではない。プレス成形法、鋳込み成形法、射出成形法等が例示できる。
【0031】
成形圧力は成形体にクラック等の発生がなく、取り扱いが可能な成形体であれば特に限定されるものではないが、成形密度は可能な限り高めた方が好ましい。そのために冷間静水圧プレス(CIP)成形等の方法を用いることも可能である。CIP圧力は充分な圧密効果を得るため1ton/cm以上が好ましく、さらに好ましくは2ton/cm以上、とりわけ好ましくは2〜3ton/cmである。
【0032】
(3)焼成工程
次に得られた成形体を電気炉焼成炉等にて焼成を行う。被焼成物の昇温速度については特に限定されないが、一般的には20〜600℃/時間の範囲である。降温速度についても特に限定されず、焼結炉の容量、焼結体のサイズ及び形状、割れ易さなどを考慮して適宜決定することができる。焼成保持温度は、1100〜1300℃の範囲で行うことが好ましく、保持時間は0.5〜8時間が好ましく、1〜5時間がより好ましい。焼成保持温度及び保持時間をこの条件とすると、焼成時に生成するZnTiO相の異常粒成長を抑制し易い。焼成時の雰囲気としては特に制限されないが、亜鉛の昇華を抑制するために大気または酸素雰囲気とすることが好ましい。
【0033】
(4)ターゲット化工程
得られた焼結体は、平面研削盤、円筒研削盤、旋盤、切断機、マシニングセンター等の機械加工機を用いて、板状、円状、円筒状等の所望の形状に研削加工する。さらに、必要に応じて無酸素銅やチタン等からなるバッキングプレート、バッキングチューブにインジウム半田等を用いて接合(ボンディング)することにより、本発明の酸化物焼結体をターゲット材としたスパッタリングターゲットを得ることができる。
【0034】
焼結体のサイズは、特に限定されないが、本発明による焼結体は強度が高いため大型のターゲットを製造することが可能となる。平板形スパッタリングターゲットの場合、縦310mm×横420mm(ターゲット面の面積1302cm)以上、円筒形スパッタリングターゲットの場合、外径91mmΦ×170mm(ターゲット面の面積486cm)以上の大型の焼結体を作製することができる。なお、ここで言うターゲット面の面積とは、スパッタリングされる側の焼結体表面の面積を言う。複数の焼結体から構成される多分割ターゲットの場合、それぞれの焼結体の中でスパッタリングされる側の焼結体表面の面積が最大のものを多分割ターゲットにおけるターゲット面の面積とする。
【発明の効果】
【0035】
本発明の酸化物焼結体は導電性があり、スパッタリングターゲットとして使用した場合、DC放電が可能で高パワー投入時においても、異常放電(アーキング)の発生やターゲットの割れが少なく、成膜された薄膜は高抵抗な膜となる。また、焼結体の強度が高いために加工が容易となり、大型のターゲットを歩留りよく製造することができる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、本実施例における各測定は以下のように行った。
(1)粉末のBET比表面積
粉末のBET比表面積は、比表面積測定装置(TriStar3000、島津製作所製)を用いて、ガス吸着法で測定を行った。
(2)粉末の粒径測定
粉末の粒径は、粒子径分布測定装置(SALD−7100、島津製作所製)を用いて、レーザー回折散乱法で測定し、体積度数分布でD50(50%径)とD90(90%径)を求めた。
(3)焼結体の密度
焼結体の相対密度は、JIS R 1634に準拠して、アルキメデス法によりかさ密度を測定し、真密度で割って相対密度を求めた。焼結体の真密度は、焼結体中のZn、Ti、Alを酸化物に換算して、それぞれ酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化チタンとしたときに、それぞれの量a(g)、b(g)、c(g)と、それぞれの真密度5.606(g/cm)、3.95(g/cm)、4.23(g/cm)を用いて、下記式で表される相加平均より算出した。
d=(a+b+c)/((a/5.606)+(b/3.95)+(c/4.23))
(4)X線回折試験
鏡面研磨した焼結体試料の2θ=20〜70°の範囲のX線回折パターンを測定した。
走査方法 :ステップスキャン法(FT法)
X線源 :CuKα
パワー :40kV、40mA
ステップ幅:0.01°
(5)結晶粒径
鏡面研磨し、EPMAによる組成分析によりZnO相とZnTiO相を同定した後、SEM像から直径法で結晶粒径を測定した。サンプルは任意の3点以上を観察し、各々300個以上の粒子の測定を行った。
(EPMA分析条件)
装置 :波長分散型電子線マイクロアナライザー
加速電圧:15kV
照射電流:30nA
(6)抗折強度
JIS R 1601に準拠して測定した。
(抗折強度の測定条件)
試験方法 :3点曲げ試験
支点間距離:30mm
試料サイズ:3mm×4mm×40mm
ヘッド速度:0.5mm/min
(7)バルク抵抗
得られた焼結体を約10mm×20mm×1mmtに加工し、測定プローブの接触点(4点)に銀ペーストを塗布して、粒子径分布測定装置(ロレスターHP MCP−T410、三菱油化社製)を用いて、4端子法で測定を行った。
(8)スパッタリング評価
得られた焼結体を101.6mmΦ×6mmtに加工した後、無酸素銅製のバッキングプレートにインジウムハンダによりボンディングしてスパッタリングターゲットとした。このターゲットを用いて以下の条件で投入パワーを変化させてスパッタリングを行い、アーキング計測及びターゲット割れの観察を行なった。
(スパッタリング条件)
ガス :アルゴン+酸素(3%)
圧力 :0.6Pa
電源 :DC
投入パワー:400W(4.9W/cm
600W(7.4W/cm
800W(9.9W/cm
放電時間 :各120min
アーキング計測条件(しきい電圧):スパッタ電圧−50[V]。
【0037】
(実施例1)
表1に示す粉末物性の酸化亜鉛粉末、酸化チタン粉末、酸化アルミニウム(a)の粉末を、Al/(Zn+Al+Ti)=0.045、Ti/(Zn+Al+Ti)=0.05の割合となるように秤量した。秤量した粉末と直径15mmの鉄心入り樹脂製ボールをポリエチレン製のポットに入れ、乾式ボールミルにより20時間混合した。混合後の粉末を300μmの篩に通し、金型プレスにより300kg/cmの圧力で120mm×120mm×8mmtの成形体を作製後、2ton/cmの圧力でCIP処理した。
【0038】
次にこの成形体をアルミナ製のセッターの上に設置して、以下の条件で抵抗加熱式の電気炉(炉内容積:250mm×250mm×250mm)にて焼成した。得られた焼結体の評価結果を表2、得られたスパッタリングターゲットのスパッタリング評価結果を表3に示す。
(焼成条件)
焼成温度:1100℃
保持時間:1時間
昇温速度:100℃/時間
雰囲気 :酸素フロー雰囲気(200mL/min)
降温速度:300℃/時間。
【0039】
(実施例2)
表1に示す粉末物性の酸化亜鉛粉末、酸化チタン粉末、酸化アルミニウム(a)の粉末を、Al/(Zn+Al+Ti)=0.040、Ti/(Zn+Al+Ti)=0.10の割合で実施例1と同じ条件にてCIP処理成形体を得た。この成形体をアルミナ製のセッターの上に設置して、焼成温度を1200℃、保持時間を3時間に変更した以外は実施例1と同様の条件で抵抗加熱式の電気炉にて焼成した。得られた焼結体の評価結果を表2、得られたスパッタリングターゲットのスパッタリング評価結果を表3に示す。
【0040】
(実施例3)
表1に示す粉末物性の酸化亜鉛粉末、酸化チタン粉末、酸化アルミニウム(b)の粉末を、Al/(Zn+Al+Ti)=0.038、Ti/(Zn+Al+Ti)=0.19の割合で実施例1と同じ条件にてCIP処理成形体を得た。この成形体をアルミナ製のセッターの上に設置して、焼成温度を1300℃、保持時間を5時間に変更した以外は実施例1と同様の条件で抵抗加熱式の電気炉にて焼成した。得られた焼結体の評価結果を表2、得られたスパッタリングターゲットのスパッタリング評価結果を表3に示す。
【0041】
(実施例4)
乾式ボールミルの混合時間を10時間とした以外は、実施例3と同様の条件で焼結体を作製した。得られた焼結体の評価結果を表2、得られたスパッタリングターゲットのスパッタリング評価結果を表3に示す。
【0042】
(実施例5)
混合粉末の調製方法を下記条件の湿式ビーズミルとスプレードライヤを用い、得られた粉末を150μmの篩に通した以外は、実施例2と同じ条件にてCIP処理成形体を得た。この成形体をアルミナ製のセッターの上に設置して、保持時間を1時間に変更した以外は実施例2と同様の条件で抵抗加熱式の電気炉にて焼成した。
(ビーズミル条件)
ビーズ径 :0.3mmΦ
ビーズ充填率 :85%
周速 :7m/sec
パス回数 :10回
スラリー濃度:粉末60wt%
(スプレードライヤ条件)
熱風温度 :入口180℃、出口120℃
ディスク回転数:10000rpm
得られた焼結体の評価結果を表2、得られたスパッタリングターゲットのスパッタリング評価結果を表3に示す。
【0043】
(成膜評価)
実施例1〜5で得られたスパッタリングターゲットを用いて以下の条件で成膜を行い、薄膜抵抗の測定を行った。薄膜抵抗は全て10Ω以上の高抵抗膜であった。
(スパッタリング条件)
ガス :アルゴン+酸素(3%)
圧力 :0.6Pa
電源 :DC
投入パワー:400W(4.9W/cm
膜厚 :80nm
基板 :無アルカリガラス(コーニング社製EAGLE XG、厚み0.7mm)
(抵抗の測定条件)
装置 :ロレスターHP (三菱油化社製 MCP−T410)
測定方式 :4端子法。
【0044】
(比較例1)
表1に示す粉末物性の酸化亜鉛粉末、酸化チタン粉末、酸化アルミニウム(a)の粉末を、Al/(Zn+Al+Ti)=0.025、Ti/(Zn+Al+Ti)=0.10の割合で実施例1と同じ条件にてCIP処理成形体を得た。この成形体をアルミナ製のセッターの上に設置して、焼成温度を1250℃、保持時間を5時間に変更した以外は実施例1と同様の条件で抵抗加熱式の電気炉にて焼成した。得られた焼結体の評価結果を表2、スパッタリングターゲットのスパッタリング評価結果を表3に示す。
【0045】
(比較例2)
表1に示す粉末物性の酸化亜鉛粉末、酸化チタン粉末、酸化アルミニウム(a)の粉末を、Al/(Zn+Al+Ti)=0.025、Ti/(Zn+Al+Ti)=0.10の割合で実施例1と同じ条件にてCIP処理成形体を得た。この成形体をアルミナ製のセッターの上に設置して、焼成温度を1350℃、保持時間を10時間に変更した以外は実施例1と同様の条件で抵抗加熱式の電気炉にて焼成した。得られた焼結体の評価結果を表2、スパッタリングターゲットのスパッタリング評価結果を表3に示す。
【0046】
(比較例3)
表1に示す粉末物性の酸化亜鉛粉末、酸化チタン粉末、酸化アルミニウム(c)の粉末を、Al/(Zn+Al+Ti)=0.040、Ti/(Zn+Al+Ti)=0.10の割合で実施例1と同じ条件にてCIP処理成形体を得た。この成形体をアルミナ製のセッターの上に設置して、焼成温度を1250℃、保持時間を5時間に変更した以外は実施例1と同様の条件で抵抗加熱式の電気炉にて焼成した。得られた焼結体の評価結果を表2、得られたスパッタリングターゲットのスパッタリング評価結果を表3に示す。
【0047】
(比較例4)
表1に示す粉末物性の酸化亜鉛粉末、酸化チタン粉末、酸化アルミニウム(c)の粉末を、Al/(Zn+Al+Ti)=0.040、Ti/(Zn+Al+Ti)=0.10の割合で実施例1と同じ条件にてCIP処理成形体を得た。この成形体をアルミナ製のセッターの上に設置して、焼成温度を1350℃、保持時間を10時間に変更した以外は実施例1と同様の条件で抵抗加熱式の電気炉にて焼成した。得られた焼結体の評価結果を表2、得られたスパッタリングターゲットのスパッタリング評価結果を表3に示す。
【0048】
(比較例5)
表1に示す粉末物性の酸化亜鉛粉末、酸化チタン粉末、酸化アルミニウム(a)の粉末を、Al/(Zn+Al+Ti)=0.040、Ti/(Zn+Al+Ti)=0.25の割合で実施例1と同じ条件にてCIP処理成形体を得た。この成形体をアルミナ製のセッターの上に設置して、焼成温度を1350℃、保持時間を5時間に変更した以外は実施例1と同様の条件で抵抗加熱式の電気炉にて焼成した。得られた焼結体の評価結果を表2に示す。得られた焼結体はバルク抵抗が高いため、スパッタリング評価は実施しなかった。
【0049】
(実施例6)
金型プレスの代わりに、CIP成形用型を用いて1ton/cmの圧力で351mm×477mm×8mmtの成形体を作製後、2ton/cmの圧力でCIP処理した以外は、実施例2と同じ条件にて9枚のCIP処理成形体を得た。次にこの成形体をアルミナ製のセッターの上に設置して、電気炉(炉内容積:1500mm×1200mm×600mm)にて酸素流量を120L/minに変更した以外は実施例2と同様の条件で抵抗加熱式の電気炉にて焼成した。得られた焼結体を310mm×420mm×6mmtに加工し、割れの無い9枚の焼結体を得た。次に、焼結体3枚を1組として無酸素銅製のバッキングプレートにインジウムハンダによりボンディングして3本のスパッタリングターゲットを得た。得られた焼結体の評価結果を表2に示す。
【0050】
(実施例7)
金型プレスの代わりに、CIP成形用型を用いて2ton/cmの圧力で内径86mm×外径116mm×長さ200mmの成形体を作製した以外は、実施例2と同じ条件にて9個の成形体を得た。次にこの成形体をアルミナ製のセッターの上に設置して、実施例2と同様の条件で抵抗加熱式の電気炉にて焼成した。得られた焼結体を内径77mm×外径91×長さ170mmに加工し、割れの無い9個の焼結体を得た。次に、焼結体3個を1組としてチタン製のバッキングチューブにインジウムハンダによりボンディングして3本のスパッタリングターゲットを得た。得られた焼結体の評価結果を表2に示す。
【0051】
【表1】
【0052】
【表2】
【0053】
【表3】