(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記単官能ラジカル重合性モノマーが、置換基を有していてもよい炭素数1〜16のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートを含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の多孔質樹脂成形体。
前記第二の重合体の存在下で前記反応性モノマーが重合して第一の重合体を形成したときに、当該多孔質樹脂成形体形成用組成物が形状記憶性を有する多孔質樹脂成形体を形成する、請求項8又は9に記載の多孔質樹脂成形体形成用組成物。
前記単官能ラジカル重合性モノマーが、置換基を有していてもよい炭素数1〜16のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートを含む、請求項8〜11のいずれか一項に記載の多孔質樹脂成形体形成用組成物。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0013】
一実施形態に係る成形用組成物は、多孔質樹脂成形体を形成するために用いられる。この成形用組成物は、式(I):
【0014】
【化2】
で表されるラジカル重合性化合物、及び単官能ラジカル重合性モノマーを含む反応性モノマーと、第二の重合体とを含有する。式(I)中、X、R
1及びR
2がそれぞれ独立に2価の有機基で、R
3及びR
4がそれぞれ独立に水素原子又はメチル基である。成形用組成物中で反応性モノマーが重合することで、それら反応性モノマーに由来するモノマー単位から構成される第一の重合体が生成する。これにより、成形用組成物が硬化して、樹脂成形体(硬化体)を形成する。硬化前、硬化中又は硬化後の成形用組成物を多孔化することにより、多孔質樹脂成形体が形成される。第一の重合体は、通常、第二の重合体と共有結合によって結合することなく、第二の重合体とは別の重合体として成形体中に形成される。
【0015】
第一の重合体は、式(I)の化合物に由来する、下記式(II)で表される環状のモノマー単位を含み得る。式(II)の環状のモノマー単位が、多孔質樹脂成形体の形状記憶性等の特異な特性の発現に寄与すると考えられる。ただし、第一の重合体は、必ずしも式(II)のモノマー単位を含んでいなくてもよい。
【0017】
式(I)及び(II)中のXは、例えば、下記式(10):
【化4】
で表される基であってもよい。式(10)中、Yは置換基を有していてもよい環状基で、Z
1及びZ
2はそれぞれ独立に炭素原子、酸素原子、窒素原子、及び硫黄原子から選ばれる原子を含む官能基で、i及びjはそれぞれ独立に0〜2の整数である。*は結合手を表す(これは他の式でも同様である)。Xが式(10)の基であると、式(II)の環状のモノマー単位が特に形成され易いと考えられる。環状基Yに対するZ
1及びZ
2の配置が、シス位であってもよいし、トランス位であってもよい。Z
1及びZ
2は、−O−、−OC(=O)−、−S−、−SC(=O)−、−OC(=S)−、−NR
10−(R
10は水素原子又はアルキル基)、又は−ONH−で表される基であってもよい。
【0018】
Yは、炭素数2〜10の環状基であってもよいし、酸素原子、窒素原子及び硫黄原子から選ばれるヘテロ原子を含んでいてもよい。この環状基Yは、例えば、脂環基、環状エーテル基、環状アミン基、環状チオエーテル基、環状エステル基、環状アミド基、環状チオエステル基、芳香族炭化水素基、複素芳香族炭化水素基、又はこれらの組み合わせであり得る。環状エーテル基は、単糖又は多糖が有する環状基であってもよい。Yの具体例としては、特に限定されないが、下記式(11)、(12)、(13)、(14)又は(15)で表される環状基が挙げられる。樹脂成形体の応力緩和性の観点から、Yは、式(11)の基(特に、1,2−シクロヘキサンジイル基)であってもよい。
【0020】
式(I)及び(II)中のR
1及びR
2は、互いに同一でも異なっていてもよく、下記式(20)で表される基であってもよい。
【0022】
式(20)中、R
6は炭素数1〜8の炭化水素基(アルキレン基等)であり、式(I)又は(II)中の窒素原子に結合する。Z
3は−O−、又は−NR
10−(R
10は水素原子又はアルキル基)で表される基である。R
1及びR
2が式(20)の基であると、式(II)の環状のモノマー単位が特に形成され易いと考えられる。R
6の炭素数は、2以上であってもよいし、6以下、又は4以下であってもよい。
【0023】
式(I)のラジカル重合性化合物の一つの具体例は、下記式(Ia)で表される化合物である。ここでのY、Z
1、Z
2、i及びjは式(10)と同様に定義される。
【0025】
式(Ia)の化合物としては、例えば、下記式(I−1)、(I−2)、(I−3)、(I−4)、(I−5)、(I−6)、(I−7)、又は(I−8)で表される化合物が挙げられる。
【0029】
以上例示した化合物を、単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0030】
成形用組成物における式(I)のラジカル重合性化合物の割合は、反応性モノマーの全体量を基準として、0.01モル%以上、0.1モル%以上、又は0.5モル%以上であってもよく、10モル%以下、5モル%以下、又は1モル%以下であってもよい。式(I)のラジカル重合性化合物の割合がこれら範囲内にあると、応力緩和性、伸び、強度などの機械特性に優れた多孔質樹脂成形体(硬化体)が得られるという点で更に有利な効果が得られる。
【0031】
式(I)の化合物は、当業者には理解されるように、通常入手可能な原料を出発物質として用いて、通常の合成方法によって合成することができる。例えば、環状ジオール化合物又は環状ジアミン化合物と、(メタ)アクリロイル基及びイソシアネート基を有する化合物との反応により、式(I)の化合物を合成することができる。
【0032】
成形用組成物中の反応性モノマーは、単官能ラジカル重合性モノマーとして、アルキル(メタ)アクリレート、及び/又はアクリロニトリルを含んでいてもよい。
【0033】
アルキル(メタ)アクリレートは、置換基を有していてもよい炭素数1〜16のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート((メタ)アクリル酸と置換基を有していてもよい炭素数1〜16のアルキルアルコールとのエステル)であってもよい。炭素数1〜16のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートが有し得る置換基は、酸素原子及び/又は窒素原子を含んでいてもよい。
【0034】
反応性モノマーが炭素数1〜16のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートを含んでいることにより、多孔質樹脂成形体の弾性率及びガラス転移温度(Tg)を制御できるという効果が得られる。
【0035】
成形用組成物における、置換基を有していてもよい炭素数1〜16のアルキル(メタ)アクリレートの割合は、反応性モノマーの全体量を基準として、10モル%以上、15モル%以上、又は20モル%以上であってもよく、95モル%以下、90モル%以下、又は85モル%以下であってもよい。置換基を有していてもよい炭素数1〜16のアルキル(メタ)アクリレートの割合がこれら範囲内にあると、応力緩和性、伸び、強度などの機械特性に優れた多孔質樹脂成形体が得られるという点で更に有利な効果が得られる。
【0036】
少ない炭素数のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートを用いることで、多孔質樹脂成形体の弾性率が高くなり、形状記憶性が発現し易い傾向がある。係る観点から、反応性モノマーが、単官能ラジカル重合性モノマーとして、置換基を有していてもよい炭素数10以下のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートを含んでいてもよい。成形用組成物における、置換基を有していてもよい炭素数10以下のアルキル(メタ)アクリレートの割合は、反応性モノマーの全体量を基準として、8モル%以上、10モル%以上、又は15モル%以上であってもよく、55モル%以下、45モル%以下、又は25モル%以下であってもよい。置換基を有していてもよい炭素数10以下のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートの割合がこれら範囲内にあると、ある程度高い弾性率を有し、形状記憶性を有する多孔質樹脂成形体が形成され易いという点で更に有利な効果が得られる。同様の観点から、反応性モノマーは、置換基を有していてもよい炭素数8以下のアルキル基を有する(メタ)アクリレートを含んでいてもよく、その割合は上記数値範囲であってもよい。
【0037】
置換基を有していてもよい炭素数1〜16のアルキル(メタ)アクリレートの例としては、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、n−ブチルアクリレート、n−ブチルメタクリレート、イソブチルアクリレート、イソブチルメタクリレート、ヘキシルアクリレート、ヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート(EHA)、2−エチルヘキシルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、2−ヒドロキシ−1−メチルエチルメタクリレート、2−メトキシエチルアクリレート(MEA)、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート、及びグリシジルメタクリレートが挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0038】
反応性モノマーがアクリロニトリルを含んでいることにより、ある程度高い弾性率を有し、形状記憶性を有する多孔質樹脂成形体が形成され易い傾向がある。アクリロニトリルと、炭素数1〜16(又は1〜10)のアルキル基を有する(メタ)アクリレートとの組み合わせは、高い弾性率の多孔質樹脂成形体を得るために特に有利である。成形用組成物における、アクリロニトリルの割合は、反応性モノマーの全体量を基準として、40モル%以上、50モル%以上、又は70モル%以上であってもよく、90モル%以下、85モル%以下、又は80モル%以下であってもよい。アクリロニトリルの割合がこれら範囲内にあると、形状回復が速いという点で更に有利な効果が得られる。
【0039】
反応性モノマーは、単官能ラジカル重合性モノマーとして、ビニルエーテル、スチレン及びスチレン誘導体から選ばれる1種又は2種以上の化合物を含んでいてもよい。ビニルエーテルの例としては、ビニルブチルエーテル、ビニルオクチルエーテル、ビニル−2−クロロエチルエーテル、ビニルイソブチルエーテル、ビニルドデシルエーテル、ビニルクタデシルエーテル、ビニルフェニルエーテル、及びビニルクレシルエーテルが挙げられる。スチレン誘導体の例としては、アルキルスチレン、アルコキシスチレン(α−メトキシスチレン、p−メトキシスチレン等)、及びm−クロロスチレンが挙げられる。
【0040】
反応性モノマーは、その他の単官能ラジカル重合性モノマー及び/又は多官能ラジカル重合性モノマーを含んでいてもよい。その他の単官能ラジカル重合性モノマーの例としては、ビニルフェノール、N−ビニルカルバゾール、2−ビニル−5−エチルピリジン、酢酸イソプロペニル、ビニルイソシアネート、ビニルイソブチルスルフィド、2−クロロ−3−ヒドロキシプロペン、ビニルステアレート、p−ビニルベンジルエチルカルビノール、ビニルフェニルスルフィド、アリルアクリレート、α−クロロエチルアクリレート、酢酸アリル、2,2,6,6−テトラメチル−ピペリジニルメタクリレート、N,N−ジエチルビニルカルバメート、ビニルイソプロペニルケトン、N−ビニルカプロラクトン、ビニルホルメート、p−ビニルベンジルメチルカルビノール、ビニルエチルスルフィド、ビニルフェロセン、ビニルジクロロアセテート、N−ビニルスクシンイミド、アリルアルコール、ノルボルナジエン、ジアリルメラミン、ビニルクロロアセテート、N−ビニルピロリドン、ビニルメチルスルフィド、N−ビニルオキサゾリドン、ビニルメチルスルホキシド、N−ビニル−N’−エチル尿素、及びアセナフタレンが挙げられる。
【0041】
以上例示した各種の反応性モノマーは、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0042】
成形用組成物は、以上説明した反応性モノマーと、直鎖状又は分岐状の第二の重合体とを含有する。第二の重合体は、2以上の線状鎖と、それらの末端同士を連結する連結基と、を含む重合体であってもよい。この重合体は、例えば下記式(B)で表される分子鎖を含む。式(B)中、R
20は線状鎖を構成するモノマー単位であり、n
1、n
2及びn
3はそれぞれ独立に1以上の整数であり、Lは連結基である。同一分子中の複数のR
20及びLは、それぞれ同一でも異なっていてもよい。
【0044】
モノマー単位R
20から構成される線状鎖は、ポリエーテル、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリオルガノシロキサン、又はこれらの組み合わせから誘導される分子鎖であってもよい。それぞれの線状鎖は、ポリマーであってもよいし、オリゴマーであってもよい。
【0045】
ポリエーテルから誘導される線状鎖の例としては、ポリオキシエチレン鎖、ポリオキシプロピレン鎖、ポリオキシブチレン鎖及びこれらの組み合わせのようなポリオキシアルキレン鎖が挙げられる。ポリアルキレングリコールのようなポリエーテルからポリオキシエチレン鎖が誘導される。ポリオレフィンから誘導される線状鎖の例としては、ポリエチレン鎖、ポリプロピレン鎖、ポリイソブチレン鎖及びこれらの組み合わせが挙げられる。ポリエステルから誘導される線状鎖としては、ポリεカプロラクトン鎖が挙げられる。ポリオルガノシロキサンから誘導される線状鎖としては、ポリジメチルシロキサン鎖が挙げられる。第二の重合体は、これらを単独で、又はこれらから選ばれる2種以上の組み合わせを含むことができる。
【0046】
第二の重合体を構成する線状の分子鎖のそれぞれの数平均分子量は、特に制限されないが、例えば1000以上、3000以上、又は5000以上であってもよく、80000以下、50000以下、又は20000以下であってもよい。本明細書において、数平均分子量は、特に別に定義されない限り、ゲル浸透クロマトグラフィーによって求められる、標準ポリスチレン換算値を意味する。
【0047】
連結基Lは、環状基を含む有機基、又は分岐状の有機基である。連結基Lは、例えば、下記式(30)で表される2価の基であってもよい。
【0049】
R
30は、環状基、2以上の環状基を含みそれらが直接若しくはアルキレン基を介して結合している基、又は、炭素原子を含み、酸素原子、窒素原子、硫黄原子及びケイ素原子から選ばれるヘテロ原子を含んでいてもよい分岐状の有機基を示す。Z
5及びZ
6は、R
30と線状鎖とを結合する2価の基であり、例えば、−NHC(=O)−、−NHC(=O)O−、−O−、−OC(=O)−、−S−、−SC(=O)−、−OC(=S)−、又は−NR
10−(R
10は水素原子又はアルキル基)で表される基である。本明細書において、線状鎖の末端の原子(線状鎖を構成するモノマーに由来する原子)は、通常、Z
5又はZ
6構成する原子とは解釈しない。線状鎖の末端の原子が、モノマーに由来する原子であるか否かが明確でない場合、その原子は、線状鎖、又は連結基のうちいずれに含まれると解釈してもよい。
【0050】
連結基Lが含む環状基は、窒素原子及び硫黄原子から選ばれるヘテロ原子を含んでいてもよい。連結基Lが含む環状基は、例えば、脂環基、環状エーテル基、環状アミン基、環状チオエーテル基、環状エステル基、環状アミド基、環状チオエステル基、芳香族炭化水素基、複素芳香族炭化水素基、又はこれらの組み合わせであり得る。連結基Lが含む環状基の具体例とては、1,4−シクロヘキサンジイル基、1,2−シクロヘキサンジイル基、1,3−シクロヘキサンジイル基、1,4−ベンゼンジイル基、1,3−ベンゼンジイル基、1,2−ベンゼンジイル基、及び3,4−フランジイル基が挙げられる。
【0051】
連結基Lが含む分岐状の有機基(例えば式(30)中のR
30)の例としては、リジントリイル基、メチルシラントリイル基、及び1,3,5−シクロヘキサントリイル基が挙げられる。
【0052】
式(30)で表される連結基Lは、下記式(31)で表される基であってもよい。式(31)中のR
31は、単結合、又はアルキレン基を示す。R
31は炭素数1〜3のアルキレン基であってもよい。Z
5及びZ
6の定義は式(30)と同様である。
【0054】
第二の重合体の重量平均分子量は、特に制限されないが、例えば5000以上、7000以上、又は9000以上であってもよく、100000以下、80000以下、又は60000以下であってもよい。本明細書において、重量平均分子量は、特に別に定義されない限り、ゲル浸透クロマトグラフィーによって求められる、標準ポリスチレン換算値を意味する。第二の重合体の重量平均分子量がこれら数値範囲内にあることで、第二の重合体の他の成分との良好な相溶性、及び多孔質樹脂成形体の良好な諸特性が得られ易い傾向がある。
【0055】
第二の重合体は、当業者には理解されるように、通常入手可能な原料を出発物質として用いて、通常の合成方法によって得ることができる。例えば、反応性の末端基(水酸基等)を有するポリアルキレングリコール、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリオルガノシロキサン、又はこれらの組み合わせを含む混合物と、反応性の官能基(イソシアネート基等)及び環状基若しくは分岐状の基を有する化合物との反応により、第二の重合体を合成することができる。合成される第二の重合体は、イソシアネート基の三量化等の副反応に基づく分岐構造を含んでいてもよい。
【0056】
成形用組成物は、反応性モノマーの重合のための重合開始剤を含有していてもよい。重合開始剤は、熱ラジカル重合開始剤、光ラジカル重合開始剤、又はこれらの組み合わせであり得る。重合開始剤の含有量は、通常の範囲で適宜調整されるが、例えば、成形用組成物の質量を基準として0.01〜5質量%であってもよい。
【0057】
熱ラジカル重合開始剤としては、ケトンパーオキサイド、パーオキシケタール、ジアルキルパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、パーオキシエステル、パーオキシジカーボネート、ハイドロパーオキサイド等の有機過酸化物、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩、2,2’−アゾビス−イソブチロニトリル(AIBN)、2,2’−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル(ADVN)、2,2’−アゾビス−2−メチルブチロニトリル、4,4’−アゾビス−4−シアノバレリック酸等のアゾ化合物、ナトリウムエトキシド、tert−ブチルリチウム等のアルキル金属、1−メトキシ−1−(トリメチルシロキシ)−2−メチル−1−プロペン等のケイ素化合物等を挙げることができる。
【0058】
熱ラジカル重合開始剤と、触媒とを組み合わせてもよい。この触媒としては、金属塩、及び、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン等の第3級アミン化合物のような還元性を有する化合物が挙げられる。
【0059】
光ラジカル重合開始剤としては、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オンが挙げられる。その市販品として、Irgacure 651(日本チバガイギー株式会社製)がある。
【0060】
成形用組成物は、組成物を発泡させるための発泡剤を更に含んでいてもよい。発泡剤は、例えば、有機溶剤、又は、分解によりガスを発生する化合物から選ばれる。有機溶剤の例としては、プロパン、ノルマルブタン、イソブタン、ノルマルペンタン、イソペンタン、シクロペンタン、ノルマルヘキサン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジクロロメタン、トリクロロフロロメタン、ジクロロジフロロメタン、及び1,1−ジフルオロエタンが挙げられる。分解によりガスを発生する化合物の例としては、アゾジカルボンアミド、アゾビスイソブチロニトリル、アゾシクロヘキシルニトリル、アゾジカルボン酸バリウム、ヒドラゾジカルボンアミド、重炭酸ナトリウム、重炭酸アンモニウム、炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、及びクエン酸が挙げられる。これらは1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0061】
発泡剤の含有量は、所望の量の気泡が成形体中に導入されるように適宜設定されるが、例えば、成形用組成物の質量を基準として0.1〜30質量%であってもよく、5〜20質量%であってもよい。
【0062】
成形用組成物は、発泡剤として又は他の目的で溶剤を含んでいてもよいし、実質的に無溶剤であってもよい。成形用組成物は、液状、半固形状又は固形状のいずれであってもよい。硬化前の成形用組成物がフィルム状であってもよい。
【0063】
成形用組成物は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、他の成分を更に含んでいてもよい。他の成分の例としては、発泡核剤、バインダポリマ、溶媒、光発色剤、熱発色防止剤、可塑剤、顔料、充填剤、難燃剤、安定剤、密着性付与剤、レベリング剤、剥離促進剤、酸化防止剤、香料、イメージング剤、及び熱架橋剤が挙げられる。これらは、1種類単独で又は2種類以上を組み合わせて使用され得る。
【0064】
多孔質樹脂成形体は、例えば、成形用組成物中で、反応性モノマーのラジカル重合により第一の重合体を生成させることと、成形用組成物を多孔化することとを含む方法により、製造することができる。
【0065】
反応性モノマーのラジカル重合は、加熱、又は紫外線等の活性光線の照射により開始させることができる。
【0066】
重合反応の温度は、特に制限されないが、成形用組成物が溶剤を含む場合、その沸点以下であることが好ましい。重合反応は、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス等の不活性ガスの雰囲気下で行なうことが好ましい。これにより、酸素による重合阻害が抑制され、良好な品質の成形体を安定して得ることができる。
【0067】
式(I)のラジカル重合性化合物を含む反応性モノマーが重合すると、式(II)の環状のモノマー単位が形成されると考えられる。第一の重合体の存在下で反応性モノマーが重合すると、式(II)の環状のモノマー単位の少なくとも一部において、環状部分を第二の重合体が貫通している構造が形成され得る。下記式(III)は、第一の重合体(A)が有する式(II)のモノマー単位の環状部分を、第二の重合体(B)が貫通している構造を模式的に示す。式(III)中のR
5は、式(I)のラジカル重合性化合物以外の反応性モノマーに由来するモノマー単位である。式(III)のような構造が形成されることで、第一の重合体と第二の重合体とで、三次元共重合体のような架橋ネットワーク構造が形成される。このネットワーク構造においては、環状部分を貫通する第二の重合体の運動の自由度が比較的高く保たれると考えられる。このような構造は、当業者に環動構造と称されることがあり、これが、樹脂成形体の形状記憶性等の特異な特性の発現に寄与していると本発明者らは推察している。環動構造が形成されていることを直接的に確認することは技術的に容易でないが、例えば、樹脂成形体の引張試験によって得られる応力−歪み曲線が、いわゆるJ字型の曲線であることから、環動構造の形成が示唆される。ただし、樹脂成形体は、このような環動構造を必ずしも含んでいなくてもよい。
【0069】
式(III)の例では、第二の重合体(B)は、複数のポリオキシエチレン鎖と、それらの末端同士を連結する連結基Lとを有している。連結基Lがポリオキシエチレン鎖と比較して嵩高いことから、ポリロタキサンのように、第二の重合体が式(II)のモノマー単位の環状部分を貫通している状態が維持され易い。第二の重合体を、環状のモノマー単位の大きさ、包接能力などのバランス、ポリロタキサンの特性に基づいて適宜選択することができる。
【0070】
成形用組成物を多孔化する方法は、特に制限はされず、例えば、発泡成形によって組成物中に気泡と導入して、多孔化された成形用組成物(多孔質樹脂成形体)を得ることができる。発泡成形によって得られる多孔質樹脂成形体は、樹脂発泡体とよばれることがある。樹脂発泡体は、形状記憶性等の特性を特に有し易い。
【0071】
発泡成形の例としては、ビーズ発泡成形、押出し発泡成形、射出発泡成形、発泡ブロー成形、及びプレス発泡成形が挙げられる。発泡成形の際の気泡の供給方法に制限は無い。発泡剤を含む成形用組成物を用いて、発泡剤によって組成物を発泡させてもよい。あるいは、成形中に空気、窒素、炭酸ガス等のガスを導入してもよい。
【0072】
成形用組成物を多孔化する他の方法としては、例えば、相分離、化学処理、延伸、レーザー照射、融着、又は積層による方法が挙げられる。これらを2種以上組み合わせることもできる。
【0073】
反応性モノマーのラジカル重合により第一の重合体を生成させる工程(成形用組成物を硬化する工程)と、成形用組成物を多孔化する工程とは、同時に又は別々に行うことができる。例えば、低温で反応性モノマーの重合をある程度進行させ、その後、高温で反応性モノマーの重合を更に進行させながら組成物を発泡させてもよい。流動性を有する成形用組成物を所定の型に充填し、型内で、反応性モノマーの重合及び/又は成形用組成物の発泡を進行させてもよい。
【0074】
多孔質樹脂成形体の形状、及び大きさは特に制限されず、例えば所定の型に充填された成形用組成物を硬化させることで、任意の形状の多孔質樹脂成形体を得ることができる。多孔質樹脂成形体は、例えば、繊維状、棒状、円柱状、筒状、平板状、円板状、螺旋状、球状、又はリング状であってもよい。硬化後の成形体をさらに機械加工等の種々の方法により加工してもよい。
【0075】
多孔質樹脂成形体は、形状記憶性を有していても有していなくてもよいが、反応性モノマーの種類等を適切に選択することで、形状記憶性を有する多孔質樹脂成形体を得ることができる。本明細書において、「形状記憶性」は、室温(例えば25℃)において外力によって多孔質樹脂成形体を変形させたときに、多孔質樹脂成形体が、変形後の形状を室温においては保持し、無荷重下で高温に加熱されたときに元の形状に戻る性質を意味する。ただし、加熱により多孔質樹脂成形体が完全に元の形状と同一の形状を回復しなくてもよい。形状回復のための加熱の温度は、例えば70℃である。
【0076】
多孔質樹脂成形体が形状記憶性を有する場合、通常、第一の重合体が生成し、硬化した時点の樹脂成形体の形状が、基本の形状となる。外力によって変形した多孔質樹脂成形体は、加熱によりこの基本の形状に近づくように変形する。所定の形状を有する型内で成形用組成物を硬化することにより、所望の形状を基本の形状として有する多孔質樹脂成形体を得ることができる。
【0077】
多孔質樹脂成形体の25℃における貯蔵弾性率は、特に限定されないが、10kPa以上であってもよい。10kPa以上の貯蔵弾性率を有する多孔質樹脂成形体は、通常、形状記憶性を有する。樹脂成形体の貯蔵弾性率は、20kPa以上、又は200kPa以上であってもよいし、10GPa以下、5GPa以下、又は500MPa以下であってもよい。貯蔵弾性率が高いことで、樹脂成形体が変形後の形状を保持し易い傾向がある。適度な大きさの貯蔵弾性率を有していることで、樹脂成形体が加熱時に元の形状を回復し易い傾向がある。同様の理由から、多孔質樹脂成形体の25℃における引張弾性率は、10kPa以上、20kMPa以上、又は200kPaであってもよいし、10GPa以下、5GPa以下、又は500MPa以下であってもよい。多孔質樹脂成形体の弾性率は、例えば、反応性モノマーの種類及びその配合比、第二の重合体の分子量、ラジカル重合開始剤の量に基づいて制御することができる。ここでの弾性率は、多孔質樹脂成形体を試験片として用いて測定される値である。
【0078】
樹脂成形体が多孔質であることは、例えば、気泡率、又は比表面積で定量的に表すことができる。多孔質樹脂成形体の気泡率は、例えば、多孔質樹脂成形体の見かけの体積を基準として1〜95体積%であってもよい。多孔質樹脂成形体の比表面積は、例えば、0.1〜1000m
2/gであってもよい。
【実施例】
【0079】
以下、実施例を挙げて本発明についてさらに具体的に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0080】
1.合成
合成例1:trans-1,2-ビス(2-アクリロイルオキシエチルカルバモイルオキシ)シクロヘキサン(BACH)の合成
100mL二口ナスフラスコにtrans-1,2−シクロヘキサンジオール(2.32g、20.0mmol)を加え、フラスコ内を窒素置換した。そこに乾燥したジクロロメタン(40mL)、及びジラウリン酸ジブチル錫(11.8μL、0,10mol%:0.020mmol)を入れた。フラスコ中の反応液に2-アクリロイルオキシエチルイソシアネート(5.93g、42.0mmol)のジクロロメタン(4mL)溶液を滴下ロートから滴下し、反応液を30℃で24時間撹拌して、反応を進行させた。反応終了後、反応液にジエチルエーテルを加えて飽和食塩水で洗浄した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥させた後、溶媒を減圧留去した。残渣をアセトニトリルに溶解させ、得られた溶液をヘキサンで3回洗浄した。溶媒を減圧留去し、残渣をジエチルエーテル及びヘキサンの混合溶媒からの再結晶によって精製して、BACHの白色結晶を得た。収量は、5.1gであり、収率は、64質量%であった。
【0081】
【化15】
【0082】
合成例2:PEG−PPGオリゴマーの合成
20mLナスフラスコにポリエチレングリコール(PEG1500、750mg、0.500mmol、数平均分子量1500)、ポリプロピレングリコール(PPG4000、2000mg、0.500mmol、数平均分子量4000)を加えてからフラスコ内を窒素置換し、内容物を115℃で融解させた。融解液に4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(262mg、1.00mmol)を加えて、窒素雰囲気下、115℃で24時間撹拌して、PEG−PPGオリゴマー(ポリオキシエチレン鎖及びポリオキシプロプレン鎖を含む第二の重合体)を得た。
【0083】
オリゴマーのGPCクロマトグラムを、10mMの臭化リチウムを含むDMF(N,N−ジメチルホルムアミド)を溶離液として用いて、流速1mL/分の条件で得た。得られたクロマトグラムから、オリゴマーの数平均分子量及び重量平均分子量をポリスチレン換算値として求めた。オリゴマーの重量平均分子量(Mw)は9300で、オリゴマーの重量平均分子量/数平均分子量(Mw/Mn)は1.65であった。
【0084】
2.多孔質成形体
冷却管を備えた100mLフラスコに、BACH、PEG−PPGオリゴマー、アクリロニトリル及び2−エチルヘキシルアクリレートと、発泡剤としてのメチルイソブチルケトンと、重合開始剤としての2,2’−アゾビス−イソブチロニトリルとを、表1に示す質量比で混合して、実施例及び比較例の成形用組成物を得た。表中の数値は質量部である。
【0085】
成形用組成物を70℃に加熱して、モノマーを10分間かけて重合させた。粘度が上昇したことを確認してから、組成物を100mm×20mm×20mmの金型に移した。真空乾燥機で減圧しながら、金型内の組成物を110℃に2時間加熱することで発泡させて、多孔質成形体を得た。この多孔質成形体を任意の形状に切り出し、評価用試験片を得た。
【0086】
弾性率
多孔質成形体から、短冊状の試験片(幅:8mm、厚さ:1mm)を切り出した。この試験片の引張試験を、EZ−TEST(株式会社島津製作所)を用いて以下の条件で行った。測定結果から、各成形体の引張弾性率を求めた。
・チャック間距離:30mm
・温度:室温(25℃)
・引張速度:10.0mm/min
【0087】
密度
多孔質成形体から50mm×10mm×20mmの試験片を切り出した。この試験片の質量を測定し、質量を体積(切り出した試験片の見かけ体積:10cm
3)で除すことで密度(見かけ密度)を求めた。
【0088】
10%圧縮強度
多孔質成形体から、立方体状の試験片(10mm角)を切り出した。この試験片の圧縮試験を、EZ−TEST(株式会社島津製作所)を用いて以下の条件で行った。試験片の歪みが10%となった時点の荷重から、10%圧縮強度を求めた。
・温度:室温(25℃)
・押出し速度:10.0mm/min
【0089】
形状記憶性
多孔質成形体から切り出した立方体状の試験片を、室温で圧縮することで変形させた。変形後の形状が維持されることを確認した後、変形させた試験片を70℃の水に浸漬した。浸漬時の試験片の形状の変化を観察して、以下の基準で形状記憶性の有無を評価した。
有り:10秒以内に元の形状(成形時の形状)に戻る。
無し:10秒以内に元の形状(成形時の形状)に戻らない。
【0090】
【表1】