特許第6520720号(P6520720)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本ゼオン株式会社の特許一覧

特許6520720リチウムイオン二次電池負極用バインダー組成物、リチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物、リチウムイオン二次電池用負極およびリチウムイオン二次電池
<>
  • 特許6520720-リチウムイオン二次電池負極用バインダー組成物、リチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物、リチウムイオン二次電池用負極およびリチウムイオン二次電池 図000003
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6520720
(24)【登録日】2019年5月10日
(45)【発行日】2019年5月29日
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池負極用バインダー組成物、リチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物、リチウムイオン二次電池用負極およびリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20190520BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20190520BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20190520BHJP
【FI】
   H01M4/62 Z
   H01M10/0566
   H01M10/052
【請求項の数】8
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2015-554521(P2015-554521)
(86)(22)【出願日】2014年12月8日
(86)【国際出願番号】JP2014006118
(87)【国際公開番号】WO2015098008
(87)【国際公開日】20150702
【審査請求日】2017年10月30日
(31)【優先権主張番号】特願2013-270105(P2013-270105)
(32)【優先日】2013年12月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(74)【代理人】
【識別番号】100175477
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 林太郎
(72)【発明者】
【氏名】荒井 健次
(72)【発明者】
【氏名】足立 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】小林 佳
【審査官】 渡部 朋也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−146871(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/161786(WO,A1)
【文献】 特開2011−204578(JP,A)
【文献】 特表2008−537841(JP,A)
【文献】 特開2000−181119(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/62
H01M 10/052
H01M 10/0566
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ビニル単量体単位を50〜80質量%、脂肪族共役ジエン単量体単位を20〜40質量%、エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位を0.5〜10質量%および(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を0.1〜3質量%含む粒子状重合体と、水とを含み、
前記粒子状重合体のTHF膨潤度が3〜10倍である、リチウムイオン二次電池負極用バインダー組成物。
【請求項2】
前記粒子状重合体の電解液膨潤度が1〜2倍である、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池負極用バインダー組成物。
【請求項3】
前記粒子状重合体の表面酸量が、0.20mmol/g以上であり、かつ、
前記粒子状重合体の表面酸量(mmol/g)を該粒子状重合体の水相中の酸量(mmol/g)で除した値が1.0以上である、請求項1又は2に記載のリチウムイオン二次電池負極用バインダー組成物。
【請求項4】
前記粒子状重合体の前記エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位が、イタコン酸単量体単位を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池負極用バインダー組成物。
【請求項5】
前記粒子状重合体の前記(メタ)アクリル酸エステル単量体単位が、2−ヒドロキシエチルアクリレート単量体単位を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池負極用バインダー組成物。
【請求項6】
負極活物質と、請求項1〜5のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池負極用バインダー組成物とを含むリチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物。
【請求項7】
請求項6に記載のリチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物を用いて得られる負極合材層を有する、リチウムイオン二次電池用負極。
【請求項8】
正極、負極、電解液およびセパレータを備え、
前記負極が、請求項7に記載のリチウムイオン二次電池用負極である、リチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池負極用バインダー組成物、リチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物、リチウムイオン二次電池用負極およびリチウムイオン二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、小型で軽量、且つエネルギー密度が高く、さらに繰り返し充放電が可能という特性があり、幅広い用途に使用されている。そのため、近年では、リチウムイオン二次電池の更なる高性能化を目的として、電極などの電池部材の改良が検討されている。
【0003】
ここで、リチウムイオン二次電池の電極(正極及び負極)などの電池部材は、これらの電池部材に含まれる成分同士、又は、該成分と基材(例えば、集電体など)とをバインダーで結着して形成されている。具体的には、例えばリチウムイオン二次電池の負極は、通常、集電体と、集電体上に形成された負極合材層(「負極活物質層」ともいう)とを備えている。そして、負極合材層は、例えば、粒子状重合体を含むバインダー組成物と、負極活物質などとを分散媒に分散させてなるスラリー組成物を集電体上に塗布し、乾燥させて負極活物質などを粒子状重合体で結着することにより形成されている。
そして、このようなスラリー組成物に関し、近年では、環境負荷低減などの観点から、分散媒として水系媒体を用いた水系スラリー組成物への関心が高まっている。
そこで、リチウムイオン二次電池の更なる性能向上を達成すべく、電極の形成に用いられる、分散媒として水系媒体を用いたバインダー組成物やスラリー組成物の改良が試みられている。
【0004】
例えば、特許文献1には、ヒドロキシル基を含有する(メタ)アクリル酸エステル系単量体2〜30質量%、脂肪族共役ジエン系単量体10〜50質量%、エチレン系不飽和カルボン酸単量体0.1〜10質量%およびこれらと共重合可能な他の単量体10〜87.9質量%から構成される単量体を乳化重合して得られた共重合体ラテックスからなる二次電池電極用バインダーを使用することにより、電極活物質とバインダーを含む水分散体である電極用スラリー組成物の安定性を高め、電極合材層(「電極活物質層」ともいう)の集電体への結着力を良好にすることが可能となる旨報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−140841号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、リチウムイオン二次電池においては、充放電に伴って、負極活物質が膨張および収縮することがある。そして、負極活物質の膨張および収縮が繰り返されると、バインダーがこの膨張および収縮に十分に追従できず、サイクル特性などの電気的特性が低下する可能性がある。そこで、サイクル特性などの電気的特性に優れるリチウムイオン二次電池を得る観点から、リチウムイオン二次電池の負極に用いるバインダーにおいては、充放電に伴う負極活物質の膨張および収縮に十分に追従し得ることが求められている。
【0007】
また、リチウムイオン二次電池は、高温保存下において電解液添加剤の分解などが原因でガスが発生し、セルが膨らみ電池容量が低下する、すなわち高温保存特性が損なわれる場合がある。そのため、リチウムイオン二次電池においては高温保存時においてセルの膨らみを抑制して、高温保存特性を確保することが求められている。
【0008】
しかし、上記従来のバインダーは、充放電に伴う負極活物質の膨張及び収縮への十分な追従性と、高温保存下におけるセルの膨らみ抑制と、そして高温保存特性との全てを十分に高いレベルで達成することができなかった。そのため、上記従来のバインダーを用いて形成した負極および当該負極を用いたリチウムイオン二次電池には、優れたサイクル特性を確保すると共に、高温保存下におけるセルの膨らみを抑制することで高温保存特性を確保する、という点において改善の余地があった。
【0009】
そこで、本発明は、負極の形成に使用した場合に、サイクル特性に優れるリチウムイオン二次電池を提供することができ、かつ、高温によるセルの膨らみを抑制して、高温保存特性を確保することができる二次電池負極用バインダー組成物を提供することを目的とする。
また、本発明は、負極の形成に使用した場合に、サイクル特性に優れるリチウムイオン二次電池を提供することができ、かつ、高温によるセルの膨らみを抑制して、高温保存特性を確保することができる二次電池負極用スラリー組成物を提供することを目的とする。
更に、本発明は、サイクル特性に優れるリチウムイオン二次電池を提供することができ、かつ、高温によるセルの膨らみを抑制して、高温保存特性を確保することができるリチウムイオン二次電池用負極を提供することを目的とする。
加えて、本発明は、サイクル特性および高温保存特性に優れるリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決することを目的として鋭意検討を行った。そして、本発明者は、芳香族ビニル単量体単位、脂肪族共役ジエン単量体単位、エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を所定の割合で含み、且つテトラヒドロフラン(THF)に対する膨潤度が所定の範囲内である粒子状重合体が適度な弾力性を有し、負極活物質の膨張及び収縮に対する良好な追従性を発揮することを見出した。そして、当該粒子状重合体を含むバインダー組成物を使用することで、良好なサイクル特性および高温保存特性を確保することに着想し、本発明を完成させた。
【0011】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明のリチウムイオン二次電池負極用バインダー組成物は、芳香族ビニル単量体単位を50〜80質量%、脂肪族共役ジエン単量体単位を20〜40質量%、エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位を0.5〜10質量%および(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を0.1〜3質量%含む粒子状重合体と、水とを含み、前記粒子状重合体のTHF膨潤度が3〜10倍であることを特徴とする。このように、上記単量体単位をそれぞれ所定の割合で含み、且つ、THF膨潤度が上記所定の範囲内である粒子状重合体を用いれば、負極の形成に使用した場合に、サイクル特性に優れるリチウムイオン二次電池を提供することができ、かつ、高温によるセルの膨らみを抑制して、高温保存特性を確保することができる。
【0012】
ここで、本発明のリチウムイオン二次電池負極用バインダー組成物は、前記粒子状重合体の電解液膨潤度が1〜2倍であることが好ましい。電解液膨潤度が上記所定の範囲内である粒子状重合体を用いれば、該粒子状重合体はリチウムイオン二次電池の電解液中で適度に膨潤するためリチウムイオンの伝導性が確保され、サイクル特性などの充放電の特性を確保することができる。また、該粒子状重合体を用いれば、負極合材層中の負極活物質や他の粒子と好適に結着し、これらの物質の集電体からの脱落を十分に抑制するため、負極合材層と集電体の密着強性を向上させることができる。
【0013】
そして、本発明のリチウムイオン二次電池負極用バインダー組成物は、前記粒子状重合体の表面酸量が、0.20mmol/g以上であり、かつ、前記粒子状重合体の表面酸量(mmol/g)を該粒子状重合体の水相中の酸量(mmol/g)で除した値が1.0以上であることが好ましい。粒子状重合体の表面酸量を上記の値以上とし、そして、該表面酸量と粒子状重合体の水相中の酸量との関係を上記のものとすれば、粒子状重合体の安定性が確保でき、該粒子状重合体を含むバインダー組成物を用いたスラリー組成物の粘度安定性を向上させることができる。また、該粒子状重合体を含むバインダー組成物から得られる負極合材層と集電体の密着性を向上させ、そして、リチウムイオン二次電池のサイクル特性などの電気的特性を確保することができる。
【0014】
更に、本発明のリチウムイオン二次電池負極用バインダー組成物は、前記粒子状重合体の前記エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位がイタコン酸単量体単位を含むことが好ましい。粒子状重合体がイタコン酸由来の単量体単位を含めば、該粒子状重合体を含むバインダー組成物を用いたスラリー組成物の粘度安定性を向上させることができる。
【0015】
加えて、本発明のリチウムイオン二次電池負極用バインダー組成物は、前記粒子状重合体の前記(メタ)アクリル酸エステル単量体単位が、2−ヒドロキシエチルアクリレート単量体単位を含むことが好ましい。粒子状重合体が2−ヒドロキシエチルアクリレート由来の単量体単位を含めば、該粒子状重合体を含むバインダー組成物を用いたスラリー組成物の粘度安定性を向上させることができる。
【0016】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明のリチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物は、負極活物質と、上述したリチウムイオン二次電池負極用バインダー組成物の何れかを含むことを特徴とする。このように、負極活物質および上述したリチウムイオン二次電池負極用バインダー組成物の何れかを含むスラリー組成物を負極の形成に使用すれば、サイクル特性に優れるリチウムイオン二次電池を提供することができ、かつ、高温によるセルの膨らみを抑制して、高温保存特性を確保することができる。
【0017】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明のリチウムイオン二次電池用負極は、上述のリチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物を用いて得られる負極合材層を有することを特徴とする。このように、上述したスラリー組成物から得られる負極合材層を有する負極を用いることで、サイクル特性に優れ且つ高温保存特性を確保可能なリチウムイオン二次電池を提供することができる。
【0018】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明のリチウムイオン二次電池は、正極、負極、電解液およびセパレータを備え、前記負極が、上述のリチウムイオン二次電池用負極の製造方法により製造されたリチウムイオン二次電池用負極であることを特徴とする。本発明のリチウムイオン二次電池は、サイクル特性および高温保存特性に優れている。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、負極の形成に使用した場合に、サイクル特性に優れるリチウムイオン二次電池を提供することができ、かつ、高温によるセルの膨らみを抑制して、高温保存特性を確保することができる二次電池負極用バインダー組成物を提供することができる。
また、本発明によれば、負極の形成に使用した場合に、サイクル特性に優れるリチウムイオン二次電池を提供することができ、かつ、高温によるセルの膨らみを抑制して、高温保存特性を確保することができる二次電池負極用スラリー組成物を提供することができる。
更に、本発明によれば、サイクル特性に優れるリチウムイオン二次電池を提供することができ、かつ、高温によるセルの膨らみを抑制して、高温保存特性を確保することができるリチウムイオン二次電池用負極を提供することができる。
加えて、本発明によれば、サイクル特性および高温保存特性に優れるリチウムイオン二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】粒子状重合体の表面酸量及び水相中の酸量の算出にあたり、添加した塩酸の累計量(mmol)に対して電気伝導度(ms)をプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
ここで、本発明のリチウムイオン二次電池負極用バインダー組成物は、リチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物の調製に用いられる。また、本発明のリチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物は、リチウムイオン二次電池の負極の形成に用いられる。そして、本発明のリチウムイオン二次電池用負極は、本発明のリチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物から形成される負極合材層を備えることを特徴とする。更に、本発明のリチウムイオン二次電池は、本発明のリチウムイオン二次電池用負極を用いたことを特徴とする。
【0022】
(リチウムイオン二次電池負極用バインダー組成物)
本発明のリチウムイオン二次電池負極用バインダー組成物は、粒子状重合体と、水とを含む。そして、本発明のリチウムイオン二次電池負極用バインダー組成物は、粒子状重合体が、芳香族ビニル単量体単位を50〜80質量%、脂肪族共役ジエン単量体単位を20〜40質量%、エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位を0.5〜10質量%および(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を0.1〜3質量%含み、且つ、粒子状重合体のTHF膨潤度が3〜10倍であることを特徴とする。
【0023】
本発明のリチウムイオン二次電池負極用バインダー組成物によれば、芳香族ビニル単量体単位、脂肪族共役ジエン単量体単位、エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位および(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を所定の割合で含み、THF膨潤度が所定の範囲内にある粒子状重合体を用いているため、リチウムイオン二次電池のサイクル特性を向上させることができ、かつ、高温によるセルの膨らみを抑制して、高温保存特性を確保することができる。
以下、上記リチウムイオン二次電池負極用バインダー組成物に含まれる粒子状重合体について説明する。
【0024】
<粒子状重合体>
粒子状重合体は、本発明の二次電池負極用バインダー組成物を用いて負極を形成した際に、製造した負極において、負極合材層に含まれる成分(例えば、負極活物質)が負極電極部材から脱離しないように保持しうる成分である。ここで、一般的に、負極合材層における粒子状重合体は、電解液に浸漬された際に、電解液を吸収して膨潤しながらも粒子状の形状を維持し、負極活物質同士を結着させ、負極活物質が集電体から脱落するのを防ぐ。また、粒子状重合体は、負極合材層に含まれる負極活物質以外の粒子をも結着し、負極合材層の強度を維持する役割も果たしている。
なお、「粒子状重合体」とは、水などの水系媒体に分散可能な重合体であり、水系媒体中において粒子状の形態で存在する。そして、通常、粒子状重合体は、25℃において、粒子状重合体0.5gを100gの水に溶解した際に、不溶分が90質量%以上となる。
【0025】
[粒子状重合体の組成]
そして、本発明で使用する粒子状重合体は、全単量体単位中、芳香族ビニル単量体単位の割合が50〜80質量%であり、脂肪族共役ジエン単量体単位の割合が20〜40質量%であり、エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位の割合が0.5〜10質量%であり、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の割合が0.1〜3質量%である。なお、粒子状重合体は、上述した単量体単位(芳香族ビニル単量体単位、脂肪族共役ジエン単量体単位、エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位および(メタ)アクリル酸エステル単量体単位)以外の単量体単位を含んでいてもよい。
ここで、本発明において「単量体単位を含む」とは、「その単量体を用いて得た重合体中に単量体由来の構造単位が含まれている」ことを意味する。
また、本発明において「(メタ)アクリル」とは、アクリル及び/又はメタクリルを意味する。
以下、本発明に用いる粒子状重合体の製造に使用可能な単量体について説明する。
【0026】
[[芳香族ビニル単量体]]
粒子状重合体の芳香族ビニル単量体単位を形成し得る芳香族ビニル単量体としては、特に限定されることなく、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、ジビニルベンゼンなどが挙げられ、中でもスチレンが好ましい。なお、これらは1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0027】
粒子状重合体において、芳香族ビニル単量体単位の含有割合は、50質量%以上であることが必要であり、好ましくは56質量%以上、より好ましくは62質量%以上であり、80質量%以下であることが必要であり、好ましくは79.4質量%以下、より好ましくは74質量%以下、特に好ましくは68質量%以下である。芳香族ビニル単量体単位の含有割合が上記範囲を外れると負極合材層と集電体との密着性を確保することができず、サイクル特性が悪化する。
【0028】
[[脂肪族共役ジエン単量体]]
粒子状重合体の脂肪族共役ジエン単量体単位を形成し得る脂肪族共役ジエン単量体としては、特に限定されることなく、1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3ブタジエン、2−クロル−1,3−ブタジエン、置換直鎖共役ペンタジエン類、置換および側鎖共役ヘキサジエン類などが挙げられ、中でも1,3−ブタジエンが好ましい。なお、これらは1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0029】
粒子状重合体において、脂肪族共役ジエン単量体単位の含有割合は、20質量%以上であることが必要であり、好ましくは26質量%以上、より好ましくは32質量%以上であり、40質量%以下であることが必要であり、好ましくは38質量%以下、より好ましくは35質量%以下である。脂肪族共役ジエン単量体単位の含有割合が20質量%未満であると、粒子状重合体の柔軟性が確保できず、負極活物質の膨張及び収縮への追従が困難となり、サイクル特性を確保することができない。一方、脂肪族共役ジエン単量体単位の含有割合が40質量%超であると、負極合材層と集電体との密着性を確保することができずサイクル特性および高温保存特性が悪化する。
【0030】
[[エチレン性不飽和カルボン酸単量体]]
粒子状重合体のエチレン性不飽和カルボン酸単量体単位を形成し得るエチレン性不飽和カルボン酸単量体としては、エチレン性不飽和モノカルボン酸及びその誘導体、エチレン性不飽和ジカルボン酸及びその酸無水物並びにそれらの誘導体などが挙げられる。
エチレン性不飽和モノカルボン酸の例としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸などが挙げられる。そして、エチレン性不飽和モノカルボン酸の誘導体の例としては、2−エチルアクリル酸、イソクロトン酸、α−アセトキシアクリル酸、β−trans−アリールオキシアクリル酸、α−クロロ−β−E一メトキシアクリル酸、β−ジアミノアクリル酸などが挙げられる。
エチレン性不飽和ジカルボン酸の例としては、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などが挙げられる。そして、エチレン性不飽和ジカルボン酸の酸無水物の例としては、無水マレイン酸、ジアクリル酸無水物、メチル無水マレイン酸、ジメチル無水マレイン酸などが挙げられる。さらに、エチレン性不飽和ジカルボン酸の誘導体の例としては、メチルマレイン酸、ジメチルマレイン酸、フェニルマレイン酸、クロロマレイン酸、ジクロロマレイン酸、フルオロマレイン酸、マレイン酸ジフェニル、マレイン酸ノニル、マレイン酸デシル、マレイン酸ドデシル、マレイン酸オクタデシル、マレイン酸フルオロアルキルなどが挙げられる。
これらは1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。そしてこれらの中でも、粒子状重合体を含むバインダー組成物を用いたスラリー組成物の粘度安定性の観点から、エチレン性不飽和ジカルボン酸及びその酸無水物並びにそれらの誘導体が好ましく、イタコン酸がより好ましい。すなわち、粒子状重合体はイタコン酸由来の単量体単位(エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位)を含むことが好ましい。
【0031】
粒子状重合体において、エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位の含有割合は、0.5質量%以上であることが必要であり、好ましくは2質量%以上、より好ましくは3質量%以上であり、10質量%以下であることが必要であり、好ましくは8質量%以下、より好ましくは6質量%以下であり、特に好ましくは4質量%以下である。エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位の含有割合が0.5質量%未満であると、粒子状重合体を含むバインダー組成物を用いたスラリー組成物の粘度安定性を確保することができず、また、負極合材層と集電体の密着性が低下するとともに、サイクル特性を確保することができない。一方、エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位の含有割合が10質量%超であると、バインダー組成物の粘度が高くなり、取扱いが困難になると共に、スラリー組成物の粘度変化も激しくなり、極板作製すら困難になる場合がある。また、負極合材層と集電体との密着性が低下するとともに、サイクル特性が低下する。
【0032】
[[(メタ)アクリル酸エステル単量体単位]]
粒子状重合体の(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を形成し得る(メタ)アクリル酸エステル単量体としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、t−ブチルアクリレー卜、ペンチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、ヘプチルアクリレート、オクチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート等のアクリル酸アルキルエステル;メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n−プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、t−ブチルメタクリレート、ペンチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、ヘプチルメタクリレート、オクチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート等のメタクリル酸アルキルエステル;2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、ヒドロキシブチルアクリレート、ヒドロキシブチルメタクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート等の水酸基含有(メタ)アクリル酸エステルなどが挙げられる。これらは1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
そしてこれらの中でも、粒子状重合体を含むバインダー組成物を用いたスラリー組成物の粘度安定性の観点から、水酸基含有(メタ)アクリル酸エステルが好ましく、2−ヒドロキシエチルアクリレートがより好ましい。すなわち、粒子状重合体は2−ヒドロキシエチルアクリレート由来の単量体単位(水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル単量体単位)を含むことが好ましい。
【0033】
粒子状重合体において、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の含有割合は、0.1質量%以上であることが必要であり、好ましくは0.3質量%以上であり、より好ましくは0.5質量%以上、特に好ましくは0.6質量%以上であり、3質量%以下であることが必要であり、好ましくは2質量%未満、より好ましくは1.5質量%以下である。(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の含有割合が0.1質量%未満であると、サイクル特性および高温保存特性を確保することができない。一方、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の含有割合が3質量%超であると、サイクル特性および高温保存特性を確保できず、また、スラリー組成物の粘度安定性および負極合材層と集電体の密着強度も悪化する。
【0034】
[[その他の単量体]]
また、粒子状重合体は、上述した以外にも任意の単量体単位を含んでいてもよい。前記の任意の単量体単位を形成し得るその他の単量体としては、例えば、シアン化ビニル系単量体、不飽和カルボン酸アミド単量体などが挙げられる。
【0035】
シアン化ビニル系単量体としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロルアクリロニトリル、α−エチルアクリロニトリルなどが挙げられる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
本発明で用いる粒子状重合体において、シアン化ビニル系単量体単位の含有割合は、好ましくは4質量%以下、より好ましくは2質量%以下である。加えて、粒子状重合体は、シアン化ビニル系単量体単位を実質的に含まないことが好ましい。粒子状重合体がシアン化ビニル系単量体単位を多く含むと、粒子状重合体の電解液膨潤度が上昇し、後述する好適な電解液膨潤度に設計し難くなるためである。
【0036】
不飽和カルボン酸アミド単量体としては、例えば、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミドなどが挙げられる。中でも、アクリルアミド、メタクリルアミドが好ましい。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0037】
[粒子状重合体の製造方法]
粒子状重合体は、上述した単量体を含む単量体組成物を水系溶媒中で重合することにより製造することができる。
ここで、本発明において単量体組成物中の各単量体の含有割合は、粒子状重合体における単量体単位(繰り返し単位)の含有割合に準じて定めることができる。
【0038】
水系溶媒は粒子状重合体が粒子状態で分散可能なものであれば格別限定されることはないが、水は可燃性がなく、粒子状重合体の粒子の分散体が容易に得られやすいという観点から特に好ましい。なお、主溶媒として水を使用して、粒子状重合体の粒子の分散状態が確保可能な範囲において水以外の水系溶媒を混合して用いてもよい。
【0039】
重合様式は、特に限定されず、例えば溶液重合法、懸濁重合法、塊状重合法、乳化重合法などのいずれの様式も用いることができる。重合方法としては、例えばイオン重合、ラジカル重合、リビングラジカル重合などいずれの方法も用いることができる。なお、高分子量体が得やすいこと、並びに、重合物がそのまま水に分散した状態で得られるので再分散化の処理が不要であり、そのまま本発明のバインダー組成物や本発明のスラリー組成物の製造に供することができることなど、製造効率の観点からは、乳化重合法が特に好ましい。なお、乳化重合は、常法に従い行うことができる。
【0040】
そして、重合に使用される乳化剤、分散剤、重合開始剤、重合助剤などは、一般に用いられるものを使用することができ、その使用量も、一般に使用される量とする。
【0041】
また、本発明で使用する粒子状重合体を製造すべく、バッチ重合、セミバッチ重合を用いることができるが、反応系に単量体を連続的又は断続的に添加するセミバッチ重合を用いることが好ましい。セミバッチ重合を用いることで、バッチ重合を用いた場合に比して、後述する粒子状重合体のTHF膨潤度を効果的に制御することが可能であり、即ち、本発明で規定する粒子状重合体のTHF膨潤度の達成がし易くなる。加えて、セミバッチ重合を用いることで、後述する粒子状重合体の表面酸量を上昇させることができる。
【0042】
セミバッチ重合を用いた粒子状重合体の製造方法の好適な態様は、反応系中の一次単量体組成物からシード粒子を得る工程と、得られたシード粒子を含む反応系に二次単量体組成物を添加して、粒子状重合体を得る工程とを備える。この好適な態様について、以下に詳述する。
【0043】
まず、一次単量体組成物からシード粒子を得る。
ここで、「一次単量体組成物」は、重合によりシード粒子を得るために最初に反応系に添加する単量体組成物であり、重合に用いる全単量体組成物のうち、好ましくは1〜10質量%、より好ましくは3〜7質量%を、一次単量体組成物に含める。そして、一次単量体組成物は、特に限定されないが、芳香族ビニル単量体、脂肪族共役ジエン単量体、エチレン性不飽和カルボン酸単量体を含むものであることが好ましく、また、水酸基含有(メタ)アクリル酸エステルを実質的に含有しないものであることが好ましい。
この一次単量体組成物に、適宜、乳化剤、連鎖移動剤、水、重合開始剤などを添加し、重合反応を開始することによりシード粒子を得る。シード粒子を得るための反応条件は特に限定されないが、反応温度は、好ましくは40〜80℃、より好ましくは50〜70℃であり、反応時間は、好ましくは1〜20時間、より好ましくは3〜10時間である。
【0044】
次に得られたシード粒子を含む反応系に二次単量体組成物を連続的又は断続的に添加して、粒子状重合体を得る(2段目の重合)。
ここで、「二次単量体組成物」とは、重合に用いる全単量体組成物のうち、一次単量体組成物として反応系内に添加されていないものをいう。
また、「連続的又は断続的に添加」とは、二次単量体組成物を反応系に同時に添加するのではなく、ある程度の時間(例えば少なくとも30分以上)をかけて添加することをいう。
シード粒子を含む反応系には、二次単量体組成物以外にも、適宜、乳化剤、連鎖移動剤、水、重合開始剤を添加し、2段目の重合を開始することにより粒子状重合体を得る。
2段目の重合の反応条件は特に限定されないが、反応温度は、好ましくは60〜95℃であり、反応時間は好ましくは3〜15時間である。
そして、2段目の重合においては、単量体組成物の添加率が70%以上となってから(即ち、重合に用いる全単量体組成物のうち70質量%を反応系に添加し終えた時以降から)、水酸基含有(メタ)アクリル酸エステルの添加を開始することが好ましい。このような添加順を採用する場合、水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル以外の二次単量体組成物の添加の開始(2段目の重合の開始)から60〜80℃で反応させ、2〜6時間経過後、水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル単量体の添加を開始し、そして、二次単量体組成物を全て添加終了後、80〜90℃で3〜9時間反応させることが好ましい。このように、水酸基含有(メタ)アクリル酸エステルを後で添加することで、水相中の酸量を制御することができる。
【0045】
その後、重合転化率が十分(例えば95%以上)となった時点で冷却し反応を停止させる。
ここで、上述した重合方法等によって得られる粒子状重合体の水分散液は、例えばアルカリ金属(例えば、Li、Na、K、Rb、Cs)の水酸化物、アンモニア、無機アンモニウム化合物(例えばNH4Clなど)、有機アミン化合物(例えばエタノールアミン、ジエチルアミンなど)などを含む塩基性水溶液を用いて、pHが通常5以上であり、通常10以下、好ましくは9以下の範囲になるように調整してもよい。なかでも、アルカリ金属水酸化物によるpH調整は、負極合材層と集電体の密着性を向上させるので、好ましい。
【0046】
[粒子状重合体の性状]
以下、本発明で使用する粒子状重合体のTHF膨潤度、THF不溶分、電解液膨潤度、表面酸量および水相中の酸量などについて詳述する。
【0047】
[[THF膨潤度]]
本発明において、粒子状重合体のTHF膨潤度とは、粒子状重合体の水分散液を乾燥させて得たフィルムをTHFに浸漬した際の、THFに不溶な部分の膨潤度合をいう。ここで、THF膨潤度は、粒子状重合体を構成する高分子鎖の特性を表すものであり、主として高分子鎖により形成される粒子としての特性を表す、THF不溶分量や後述の電解液膨潤度とは相関しない指標である。
そして粒子状重合体のTHF膨潤度は、具体的には以下の方法で算出することができる。
【0048】
粒子状重合体を含む水分散液を用意し、この水分散液を室温下で乾燥させて、厚み0.2〜0.5mmのフィルムを形成する。このフィルムを2.5mm角に裁断し、約1gを精秤する。裁断により得られたフィルム片の質量をW0とする。
得られたフィルム片を、100gのTHF(テトラヒドロフラン)に25℃で48時間浸漬する。その後、THFから引き揚げたフィルム片の質量W1を測定する。THFより引き上げたフィルム片を105℃で3時間真空乾燥して、THF不溶分の質量W2を測定する。下記式にしたがって質量変化を算出し、これをTHF膨潤度とする。
THF膨潤度(倍)=W1/W2
【0049】
粒子状重合体のTHF膨潤度は、3倍以上であることが必要であり、好ましくは4倍以上、特に好ましくは5倍以上であり、10倍以下であることが必要であり、好ましくは8倍以下、より好ましくは7倍以下である。THF膨潤度が3倍未満であると、負極合材層と集電体の密着性が低下する。また、THF膨潤度が3倍未満の粒子状重合体は製造が容易ではなく、加えて剛直であるため、例えば該粒子状重合体を含む成形体(負極合材層等等)の加工性を確保することができない。一方、THF膨潤度が10倍超であると、サイクル特性および高温保存特性をバランスよく確保することができない。
粒子状重合体のTHF膨潤度は、例えば、粒子状重合体を構成する単量体単位の種類及びその割合、そして重合方法及び重合条件(重合温度、分子量調整剤の量など)の変更により制御しうる。
より具体的には、例えば、共役ジエン単量体単量体単位、架橋性単量体単量体単位の割合を増加させることで、THF膨潤度を下げることができる。また、上述のセミバッチ重合を採用することで、THF膨潤度を下げることができる。そして、セミバッチ重合において、2段目の重合時の反応温度を上げることで、THF膨潤度を下げることができる。
【0050】
[[THF不溶分]]
本発明において、粒子状重合体のTHF不溶分とは、粒子状重合体の水分散液を乾燥させて得たフィルムをTHFに浸漬した際に溶解しない部分の割合をいう。
そして粒子状重合体のTHF不溶分は、具体的には以下の方法で算出することができる。
【0051】
上述のTHF膨潤度の測定時に用いた、裁断により得られたフィルム片の質量W0と、THFより引き上げたフィルム片を105℃で3時間真空乾燥した後のTHF不溶分の質量W2を用いて、下記式にしたがってTHF不溶分の割合(質量%)を算出する。
THF不溶分(質量%)=W2/W0×100
【0052】
粒子状重合体のTHF不溶分は、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、特に好ましくは90質量%以上である。粒子状重合体のTHF不溶分が70質量%以上であることで、粒子状重合体が電解液に溶解し難くなり、電解液による負極合材層と集電体の密着性の低下を抑制できる。このため、リチウムイオン二次電池のサイクル特性を改善することができる。また、THF不溶分が70質量%以上であることで、粒子状重合体の破断強度を向上させて、集電体と負極合材層との密着性を高めることもできる。
そして、粒子状重合体のTHF不溶分は、例えば、粒子状重合体の分子量により制御しうる。より具体的には、粒子状重合体の重量平均分子量を上げることで、THF不溶分の値を上昇させることができる。
【0053】
[[電解液膨潤度]]
本発明において、粒子状重合体の電解液膨潤度とは、粒子状重合体の水分散液を乾燥させて得たフィルムを特定の電解液に浸漬した際の膨潤度合をいう。ここで、粒子状重合体の電解液膨潤度は、以下の方法で算出することができる。
【0054】
粒子状重合体を含む水分散液を用意し、この水分散液を室温下で乾燥させて、厚み0.2〜0.5mmのフィルムを形成する。このフィルムを4cm2分切り取って質量(浸漬前質量A)を測定する。質量測定後のフィルム片を温度60℃の電解液(エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)とを20℃での容積比がEC:DEC=1:2となるように混合してなる混合溶媒に、LiPF6が1.0mol/Lの濃度で溶解した溶液)中に浸漬する。浸漬したフィルムを72時間後に引き上げ、タオルペーパーで電解液を拭きとってすぐに質量(浸漬後質量B)を測定する。下記式にしたがって質量変化を計算し、これを電解液膨潤度とする。
電解液膨潤度(倍)=B/A
【0055】
粒子状重合体の電解液膨潤度は、好ましくは1倍以上、より好ましくは1.2倍以上、特に好ましくは1.4倍以上であり、好ましくは2倍以下、より好ましくは1.8倍以下、特に好ましくは1.6倍以下である。電解液膨潤度が1倍以上であることで、リチウムイオンの伝導性が確保され、サイクル特性などの電気特性を確保することができる。一方、電解液膨潤度が2倍以下であることで、負極合材層中の負極活物質や他の粒子と好適に結着し、これらの物質の集電体からの脱落を十分に抑制し、電解液中での負極合材層の強度を確保することができる。
そして、粒子状重合体の電解液膨潤度は、例えば、粒子状重合体を構成する単量体単位の種類及びその割合により制御しうる。
より具体的には、例えば、シアン化ビニル系単量体の割合を下げる、または架橋性単量体単位の割合を増加させることで、電解液膨潤度を下げることができる。また、単量体単位を形成する単量体の溶解度パラメータを電解液と大きく異なるものを選択することで、電解液膨潤度を下げることができる。
【0056】
[[表面酸量および水相中の酸量]]
本発明において、粒子状重合体の表面酸量とは、粒子状重合体の固形分1g当たりの表面酸量をいい、粒子状重合体の水相中の酸量とは、粒子状重合体を含む水分散液における水相中に存在する酸の量であって、粒子状重合体の固形分1g当たりの酸量をいう。ここで、粒子状重合体の表面酸量および水相中の酸量は、以下の方法で算出することができる。
【0057】
まず、粒子状重合体を含む水分散液(固形分濃度4%)を調製する。蒸留水で洗浄した容量150mlのガラス容器に、前記粒子状重合体を含む水分散液を50g入れ、溶液電導率計にセットして攪拌する。なお、攪拌は、後述する塩酸の添加が終了するまで継続する。
粒子状重合体を含む水分散液の電気伝導度が2.5〜3.0mSになるように、0.1規定の水酸化ナトリウム水溶液を、粒子状重合体を含む水分散液に添加する。その後、5分経過してから、電気伝導度を測定する。この値を測定開始時の電気伝導度とする。
さらに、この粒子状重合体を含む水分散液に0.1規定の塩酸を0.5ml添加して、30秒後に電気伝導度を測定する。その後、再び0.1規定の塩酸を0.5ml添加して、30秒後に電気伝導度を測定する。この操作を、30秒間隔で、粒子状重合体を含む水分散液の電気伝導度が測定開始時の電気伝導度以上になるまで繰り返し行う。
得られた電気伝導度データを、電気伝導度(単位「mS」)を縦軸(Y座標軸)、添加した塩酸の累計量(単位「mmol」)を横軸(X座標軸)としたグラフ上にプロットする。これにより、図1のように3つの変曲点を有する塩酸量−電気伝導度曲線が得られる。3つの変曲点のX座標及び塩酸添加終了時のX座標を、値が小さい方から順にそれぞれP1、P2、P3及びP4とする。X座標が、零から座標P1まで、座標P1から座標P2まで、座標P2から座標P3まで、及び、座標P3から座標P4まで、の4つの区分内のデータについて、それぞれ、最小二乗法により近似直線L1、L2、L3及びL4を求める。近似直線L1と近似直線L2との交点のX座標をA1(mmol)、近似直線L2と近似直線L3との交点のX座標をA2(mmol)、近似直線L3と近似直線L4との交点のX座標をA3(mmol)とする。
粒子状重合体1g当たりの表面酸量及び粒子状重合体1g当たりの水相中の酸量は、それぞれ、下記の式(a)及び式(b)から、塩酸換算した値(mmol/g)として、与えられる。なお、水中に分散した粒子状重合体1g当たりの総酸量は、下記式(c)に表すように、式(a)及び式(b)の合計となる。
(a) 粒子状重合体1g当たりの表面酸量=A2−A1
(b) 粒子状重合体1g当たりの水相中の酸量=A3−A2
(c) 水中に分散した粒子状重合体1g当たりの総酸基量=A3−A1
【0058】
粒子状重合体の表面酸量は、好ましくは0.20mmol/g以上、より好ましくは0.25mmol/g以上、特に好ましくは0.27mmol/g以上である。表面酸量が0.20mmol/g以上であることで、スラリー組成物の粘度安定性が向上する。また、スラリー組成物の塗布性を改善され、欠陥の少ない負極合材層を製造できるようになるため、リチウムイオン二次電池の低温出力特性を改善することができる。加えて、粒子状重合体の表面酸量が0.20mmol/g以上であると、スラリー組成物を集電体に塗布する際のマイグレーションが抑制され、負極合材層と集電体の密着性を高めることができ、併せてリチウムイオン二次電池のサイクル特性を改善することができる。
なお、粒子状重合体の表面酸量の上限は特に限定されないが、例えば0.8mmol/g以下である。
【0059】
粒子状重合体の水相中の酸量は、好ましくは0.25mmol/g以下、より好ましくは0.2mmol/g以下、さらにより好ましくは0.15mmol/g以下である。水相中の酸量が0.25mmol/g以下であることで、粒子状重合体の製造の際に生成される親水性オリゴマー中に組み込まれた酸性基を有する単量体の影響による、負極合材層と集電体の密着性の低下や、サイクル特性などの電気的特性の低下を抑制することができる。
なお、粒子状重合体の水相中の酸量の下限は特に限定されないが、例えば0.01mmol/g以上である。
【0060】
そして、粒子状重合体の表面酸量を粒子状重合体の水相中の酸量で除した値は、好ましくは1.0以上、より好ましくは1.1以上、特に好ましくは1.2以上である。粒子状重合体の表面酸量を粒子状重合体の水相中の酸量で除した値が、1.0以上であることで、負極合材層と集電体の密着性、サイクル特性や低温出力特性などの電気的特性、スラリー組成物の分散安定性を優れたものとすることができる。
なお、粒子状重合体の表面酸量を粒子状重合体の水相中の酸量で除した値の上限は特に限定されないが、例えば10以下である。
【0061】
粒子状重合体の表面酸量は、例えば、粒子状重合体を構成する単量体単位の種類及びその割合、そして重合方法の変更により制御しうる。
より具体的には、例えば、エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位の種類及びその割合を調整することにより、表面酸量を効率的に制御することができる。通常は、エチレン性不飽和カルボン酸単量体のうちでも他の単量体との反応性との違いが大きいもの(イタコン酸など)を用いると、エチレン性不飽和カルボン酸単量体が粒子状重合体の表面で共重合しやすくなるので、表面酸量が上昇し易い傾向がある。さらにまた、上述のセミバッチ重合を採用することで、粒子状重合体の表面酸量を上昇させることができる。
一方、粒子状重合体の水相中の酸量は、例えば、水酸基含有単量体(水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル由来の単量体単位を含む)を重合反応の後半に添加し、エチレン性不飽和カルボン酸単量体と他の単量体との共重合性を高めることにより低減することができる。
【0062】
[[その他の粒子状重合体の性状]
粒子状重合体のガラス転移温度は、好ましくは−30℃以上、より好ましくは−20℃以上、特に好ましくは−5℃以上であり、好ましくは40℃以下、より好ましくは25℃以下、特に好ましくは15℃以下である。粒子状重合体のガラス転移温度が上記範囲であることにより、負極の柔軟性及び捲回性、負極合材層と集電体の密着性などの特性が高度にバランスされ好適である。
粒子状重合体のガラス転移温度は、本明細書の実施例の項に記載の方法で測定することができる。
【0063】
粒子状重合の個数平均粒径は、好ましくは50nm以上、より好ましくは80nm以上であり、さらに好ましくは110nm以上であり、好ましくは500nm以下、より好ましくは300nm以下、さらに好ましくは200nm以下である。また、個数平均粒径の標準偏差は好ましくは30nm以下、より好ましくは15nm以下である。個数平均粒径と標準偏差とが上記範囲にあることで、得られる負極の強度および柔軟性を良好にできる。なお、個数平均粒径は、透過型電子顕微鏡法によって容易に測定することができる。粒子径とその分布は、シード粒子の数と粒子径とによって制御することができる。
【0064】
<リチウムイオン二次電池負極用バインダー組成物の調製>
本発明のバインダー組成物は、単量体組成物を重合して得た粒子状重合体の水分散液に対し、水や、発明の効果を損ねない範囲で任意のその他の成分を添加して調製することができる。また、得られた粒子状重合体の水分散液を、そのまま本発明のリチウムイオン二次電池負極用バインダー組成物として使用してもよい。
【0065】
(リチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物)
本発明のリチウムイオン電池負極用スラリー組成物は、負極活物質と、上述の本発明のリチウムイオン二次電池負極用バインダー組成物とを含む水系のスラリー組成物である。なお、本発明のリチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物は、上述の負極活物質およびバインダー組成物以外に、後述するその他の成分を含有していてもよい。
【0066】
そして、本発明のリチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物によれば、上述の本発明のバインダー組成物を含んでいるので、リチウムイオン二次電池のサイクル特性を優れたものとすることができ、かつ、高温によるセルの膨らみを抑制して、高温保存特性を確保することができる。
以下、上記リチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物に含まれる、各成分について説明する。
【0067】
<負極活物質>
負極活物質は、リチウムイオン二次電池の負極において電子の受け渡しをする物質である。そして、リチウムイオン二次電池の負極活物質としては、通常は、リチウムを吸蔵および放出し得る物質を用いる。リチウムを吸蔵および放出し得る物質としては、例えば、炭素系負極活物質、金属系負極活物質、およびこれらを組み合わせた負極活物質などが挙げられる。
【0068】
[炭素系負極活物質]
ここで、炭素系負極活物質とは、リチウムを挿入(「ドープ」ともいう。)可能な、炭素を主骨格とする活物質をいい、炭素系負極活物質としては、例えば炭素質材料と黒鉛質材料とが挙げられる。
【0069】
炭素質材料は、炭素前駆体を2000℃以下で熱処理して炭素化させることによって得られる、黒鉛化度の低い(即ち、結晶性の低い)材料である。なお、炭素化させる際の熱処理温度の下限は特に限定されないが、例えば500℃以上とすることができる。
そして、炭素質材料としては、例えば、熱処理温度によって炭素の構造を容易に変える易黒鉛性炭素や、ガラス状炭素に代表される非晶質構造に近い構造を持つ難黒鉛性炭素などが挙げられる。
【0070】
黒鉛質材料は、易黒鉛性炭素を2000℃以上で熱処理することによって得られる、黒鉛に近い高い結晶性を有する材料である。なお、熱処理温度の上限は、特に限定されないが、例えば5000℃以下とすることができる。
そして、黒鉛質材料としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛などが挙げられる。
【0071】
[金属系負極活物質]
金属系負極活物質とは、金属を含む活物質であり、通常は、リチウムの挿入が可能な元素を構造に含み、リチウムが挿入された場合の単位質量当たりの理論電気容量が500mAh/g以上である活物質をいう。金属系活物質としては、例えば、リチウム金属、リチウム合金を形成し得る単体金属(例えば、Ag、Al、Ba、Bi、Cu、Ga、Ge、In、Ni、P、Pb、Sb、Si、Sn、Sr、Zn、Tiなど)およびその合金、並びに、それらの酸化物、硫化物、窒化物、ケイ化物、炭化物、燐化物などが用いられる。
【0072】
そして、金属系負極活物質の中でも、ケイ素を含む活物質(シリコン系負極活物質)が好ましい。シリコン系負極活物質を用いることにより、リチウムイオン二次電池を高容量化することができるからである。
【0073】
シリコン系負極活物質としては、例えば、ケイ素(Si)、ケイ素を含む合金、SiO、SiOx、Si含有材料を導電性カーボンで被覆または複合化してなるSi含有材料と導電性カーボンとの複合化物などが挙げられる。なお、これらのシリコン系負極活物質は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類上を組み合わせて用いてもよい。
【0074】
ケイ素を含む合金としては、例えば、ケイ素と、アルミニウムと、鉄などの遷移金属とを含み、さらにスズおよびイットリウム等の希土類元素を含む合金組成物が挙げられる。SiOxは、SiOおよびSiO2の少なくとも一方と、Siとを含有する化合物であり、xは、通常、0.01以上2未満である。
【0075】
ここで、負極活物質の粒径や比表面積は、特に限定されることなく、従来使用されている負極活物質と同様とすることができる。
【0076】
<リチウムイオン二次電池負極用バインダー組成物>
本発明のスラリー組成物に用いるバインダー組成物は、上述の本発明の粒子状重合体を含むリチウムイオン二次電池負極用バインダー組成物である。そして、本発明のスラリー組成物は、粒子状重合体を、負極活物質100質量部当たり、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上、特に好ましくは1質量部以上含有し、好ましくは20質量部以下、より好ましくは10質量部以下、特に好ましくは5質量部以下含有する。スラリー組成物が粒子状重合体を上記の量で含有することにより、粒子状重合体の量が負極活物質の膨張と収縮に好適に追従するために十分となり、リチウムイオン二次電池のサイクル特性を優れたものとすることができる。
【0077】
<その他の成分>
本発明のリチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物は、上記成分の他に、カルボキシメチルセルロースやポリアクリル酸などの水溶性重合体、導電材、補強材、レベリング剤、電解液添加剤などの成分を含有していてもよい。これらは、電池反応に影響を及ぼさないものであれば特に限られず、公知のもの、例えば国際公開第2012/115096号に記載のものを使用することができる。これらの成分は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。また、これらのその他の成分は、該成分を配合した本発明のバインダー組成物を使用することにより、本発明のスラリー組成物に含有させてもよい。
【0078】
<リチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物の調製方法>
本発明のリチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物は、上記各成分を分散媒としての水系媒体中に分散させることにより調製することができる。具体的には、ボールミル、サンドミル、ビーズミル、顔料分散機、らい潰機、超音波分散機、ホモジナイザー、プラネタリーミキサー、フィルミックスなどの混合機を用いて上記各成分と水系媒体とを混合することにより、スラリー組成物を調製することができる。
ここで、水系媒体としては、通常は水を用いるが、任意の化合物の水溶液や、少量の有機媒体と水との混合溶液などを用いてもよい。なお、バインダー組成物を調製後、該バインダー組成物に負極活物質などを添加することで、スラリー組成物を調製してもよい。そしてスラリー組成物中の水系媒体は、バインダー組成物由来のものであってもよい。
【0079】
(リチウムイオン二次電池用負極)
本発明のリチウムイオン二次電池用負極は、本発明のリチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物から形成される負極合材層を備える。具体的な製造方法は、以下の「リチウムイオン二次電池用負極の製造方法」の項で詳述する。
このリチウムイオン二次電池用負極は、集電体と、集電体上に形成された負極合材層とを備え、負極合材層には、少なくとも、負極活物質と、上述の粒子状重合体とが含まれる。なお、負極合材層中に含まれている各成分は、本発明のリチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物中に含まれていたものであり、それら各成分の好適な存在比は、負極用スラリー組成物中の各成分の好適な存在比と同じである。
【0080】
該負極は、本発明のスラリー組成物を用いているので、リチウムイオン二次電池のサイクル特性を優れたものとすることができ、かつ、高温によるセルの膨らみを抑制して、高温保存特性を確保することができる。
【0081】
(リチウムイオン二次電池用負極の製造方法)
本発明のリチウムイオン二次電池用負極は、例えば、集電体上に、上述したリチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物を塗布する工程(塗布工程)と、集電体上に塗布されたリチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物を乾燥し、集電体上に負極合材層を形成する工程(乾燥工程)とを経ることで製造される。
【0082】
[塗布工程]
上記リチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物を集電体上に塗布する方法としては、特に限定されず公知の方法を用いることができる。具体的には、塗布方法としては、ドクターブレード法、ディップ法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、ハケ塗り法などを用いることができる。この際、負極用スラリー組成物を集電体の片面だけに塗布してもよいし、両面に塗布してもよい。塗布後乾燥前の集電体上のスラリー膜の厚みは、乾燥して得られる負極合材層の厚みに応じて適宜に設定しうる。
【0083】
ここで、負極用スラリー組成物を塗布する集電体としては、電気導電性を有し、かつ、電気化学的に耐久性のある材料が用いられる。具体的には、集電体としては、例えば、鉄、銅、アルミニウム、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、タンタル、金、白金などからなる集電体を用い得る。中でも、負極に用いる集電体としては銅箔が特に好ましい。なお、前記の材料は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0084】
[乾燥工程]
集電体上の負極用スラリー組成物を乾燥する方法としては、特に限定されず公知の方法を用いることができ、例えば温風、熱風、低湿風による乾燥、真空乾燥、赤外線や電子線などの照射による乾燥法が挙げられる。このように集電体上の負極用スラリー組成物を乾燥することで、集電体上に負極合材層を形成し、集電体と負極合材層とを備えるリチウムイオン二次電池用負極を得ることができる。
【0085】
なお、乾燥工程の後、金型プレスまたはロールプレスなどを用い、負極合材層に加圧処理を施してもよい。加圧処理により、負極合材層と集電体との密着性を向上させることができる。
【0086】
(リチウムイオン二次電池)
本発明のリチウムイオン二次電池は、正極と、負極と、電解液と、セパレータとを備え、負極として、本発明のリチウムイオン二次電池用負極を用いたものである。そして、本発明のリチウムイオン二次電池は、本発明のリチウムイオン二次電池用負極を用いているので、サイクル特性および高温保存特性に優れている。
【0087】
<正極>
リチウムイオン二次電池の正極としては、リチウムイオン二次電池用正極として用いられる既知の正極を用いることができる。具体的には、正極としては、例えば、正極合材層(「正極活物質層」ともいう)を集電体上に形成してなる正極を用いることができる。
なお、集電体としては、アルミニウム等の金属材料からなるものを用いることができる。また、正極合材層としては、既知の正極活物質と、導電材と、結着材とを含む層を用いることができる。
【0088】
<電解液>
電解液としては、溶媒に電解質を溶解した電解液を用いることができる。
ここで、溶媒としては、電解質を溶解可能な有機溶媒を用いることができる。具体的には、溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、γ−ブチロラクトン等のアルキルカーボネート系溶媒に、2,5−ジメチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロフラン、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネート、酢酸メチル、ジメトキシエタン、ジオキソラン、プロピオン酸メチル、ギ酸メチル等の粘度調整溶媒を添加したものを用いることができる。
電解質としては、リチウム塩を用いることができる。リチウム塩としては、例えば、特開2012−204303号公報に記載のものを用いることができる。これらのリチウム塩の中でも、有機溶媒に溶解しやすく、高い解離度を示すという点より、電解質としてはLiPF6、LiClO4、CF3SO3Liが好ましい。
【0089】
<セパレータ>
セパレータとしては、例えば、特開2012−204303号公報に記載のものを用いることができる。これらの中でも、セパレータ全体の膜厚を薄くすることができ、これにより、リチウムイオン二次電池内の電極活物質の比率を高くして体積あたりの容量を高くすることができるという点より、ポリオレフィン系の樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリ塩化ビニル)からなる微多孔膜が好ましい。
【0090】
(リチウムイオン二次電池の製造方法)
本発明のリチウムイオン二次電池は、例えば、正極と、負極とを、セパレータを介して重ね合わせ、これを必要に応じて電池形状に応じて巻く、折るなどして電池容器に入れ、窒素雰囲気下105℃にて2時間真空乾燥した後、電池容器に電解液を注入して封口することにより製造することができる。リチウムイオン二次電池の内部の圧力上昇、過充放電等の発生を防止するために、必要に応じて、ヒューズ、PTC素子等の過電流防止素子、エキスパンドメタル、リード板などを設けてもよい。リチウムイオン二次電池の形状は、例えば、コイン型、ボタン型、シート型、円筒型、角形、扁平型など、何れであってもよい。
【実施例】
【0091】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、量を表す「%」及び「部」は、特に断らない限り、質量基準である。
粒子状重合体のTHF膨潤度、THF不溶分、電解液膨潤度、表面酸量、水相中の酸量は、上述の方法で算出および測定した。なお、表面酸量、水相中の酸量の測定において、溶液電導率計としては溶液電導率計(京都電子工業社製:CM−117、使用セルタイプ:K−121)を、0.1規定の水酸化ナトリウムおよび0.1規定の塩酸としては、それぞれ和光純薬製:試薬特級のものを用いた。
そして、粒子状重合体のガラス転移温度、負極合材層と集電体の密着強度、スラリー組成物の粘度安定性、リチウムイオン二次電池のサイクル特性および高温保存特性、並びに、高温保存後のセルの体積変化率は、それぞれ以下の方法を使用して評価した。
【0092】
<粒子状重合体のガラス転移温度>
粒子状重合体を含む水分散液を、湿度50%、温度23〜26℃の環境下で3日間乾燥させて、厚み約1mmのフィルムを得た。その後、乾燥させたフィルムをサンプルとして、JIS K7121に準拠し、測定温度:−100℃〜180℃、昇温速度:5℃/分の条件下、示差走査熱量分析計(ナノテクノロジー社製、DSC6220SII)を用いてガラス転移温度を測定した。なお、示差走査熱量分析計を用いた測定において、ピークが2つ以上現れた場合には、高温側のピークをガラス転移温度とした。
<負極合材層と集電体の密着強度>
二次電池用負極を、幅1cm×長さ10cmの矩形に切り出して試験片とした。負極合材層を有する面を下にし、負極合材層表面にセロハンテープ(JIS Z1522に規定されるもの)を貼り付け、集電体の一端を180°方向に引張り速度50mm/分で引っ張って剥がしたときの応力を測定した(なお、セロハンテープは試験台に固定されている)。測定を3回行い、その平均値を求めてこれを剥離ピール強度とし、以下の基準により評価した。この値が大きいほど、負極合材層と集電体の密着性に優れることを示す。
<スラリー組成物の粘度安定性>
スラリー組成物の粘度(η0)をB型粘度計で測定(25℃、回転数60rpm)した後、ミックスローターを用いて40℃で10rpmの速度で4日間撹拌した。撹拌後に25℃に放冷して、B型粘度計で再び粘度(η1)を測定(25℃、回転数60rpm)した。そして、下記式にしたがって粘度変化の度合を算出した。
粘度変化の度合=η1/η0
この値が1に近いほど、スラリー組成物の粘度安定性に優れることを示す。
<リチウムイオン二次電池のサイクル特性>
ラミネートセル型のリチウムイオン二次電池を、電解液注液後、25℃の環境下で、24時間静置させた後に、0.1Cの定電流法により、セル電圧4.25Vまで充電し、セル電圧3.0Vまで放電する充放電の操作を行い、初期容量C0を測定した。さらに、60℃の環境下で、0.1Cの定電流法によって、セル電圧4.25Vまで充電し、セル電圧3.0Vまで放電する充放電を繰り返し、100サイクル後の容量C2を測定した。そして、下記式にしたがって容量維持率△Ccを算出した。
△Cc(%)=(C2/C0)×100
この値が大きいほど、高温サイクル特性に優れることを示す。
<リチウムイオン二次電池の高温保存特性>
ラミネートセル型のリチウムイオン二次電池を、電解液注液後、25℃の環境下で、24時間静置させた後に、0.1Cの定電流法により、セル電圧4.25Vまで充電し、セル電圧3.0Vまで放電する充放電の操作を行い、初期容量C0を測定した。さらに、25℃の環境下で0.1Cの定電流法によって、セル電圧4.25Vに充電し、その後60℃の環境下で7日間保存(高温保存)した。次いで、25℃の環境下で、0.1Cの定電流法により、セル電圧4.25Vまで充電し、3.0Vまで放電する充放電の操作を行い、高温保存後の容量C1を測定した。そして、下記式にしたがって容量維持率△Csを算出した。
△Cs(%)=(C1/C0)×100
この値が大きいほど、高温保存特性に優れることを示す。
<高温保存後のセルの体積変化率>
ラミネートセル型のリチウムイオン二次電池を、電解液注液後、25℃の環境下で、24時間静置させた後に、0.1Cの定電流法により、セル電圧4.25Vまで充電し、セル電圧3.0Vまで放電する充放電の操作を行った。その後、電池のセルを流動パラフィンに浸漬し、その初期体積V0を測定した。
さらに前述のリチウムイオン二次電池の高温保存特性の評価を行った後の電池のセルを流動パラフィンに浸漬し、その体積V1を測定した。そして、下記式にしたがって、体積変化率ΔVを算出した。
ΔV(%)=(V1−V0)/V0×100
この値が小さいほど、ガスの発生を抑制し、高温保存後のセルの膨らみを抑制する能力に優れていることを示す。
【0093】
(実施例1)
<粒子状重合体の調製(セミバッチ重合)>
攪拌機付き5MPa耐圧容器Aに、芳香族ビニル単量体としてスチレン3.15部、脂肪族共役ジエン単量体として1,3−ブタジエン1.66部、エチレン性不飽和カルボン酸単量体としてイタコン酸0.19部、(以上、1次単量体組成物5部)、乳化剤としてラウリル硫酸ナトリウム0.2部、イオン交換水20部、及び、重合開始剤として過硫酸カリウム0.03部を入れ、十分に攪拌した後、60℃に加温して重合を開始させ、6時間反応させてシード粒子を得た。
上記の反応後、75℃に加温し、芳香族ビニル単量体としてスチレン58.85部、脂肪族共役ジエン単量体として1,3−ブタジエン32.34部、エチレン性不飽和カルボン酸単量体としてイタコン酸0.81部、(メタ)アクリル酸エステル単量体としてメチルメタクリレート2部、連鎖移動剤としてtert-ドデシルメルカプタン0.25部、乳化剤としてラウリル硫酸ナトリウム0.35部を入れた別の容器Bから、これらの混合物の耐圧容器Aへの添加を開始し、これと同時に、重合開始剤として過硫酸カリウム1部の耐圧容器Aへの添加を開始することで2段目の重合を開始した。
また、2段目の重合を開始から4時間後(単量体組成物全体のうち70%添加後)、耐圧容器Aに(メタ)アクリル酸エステル単量体として2―ヒドロキシエチルアクリレートを1部、1時間半に亘って加えた。
すなわち、単量体組成物全体としては、芳香族ビニル単量体としてスチレン62部、脂肪族共役ジエン単量体として1,3−ブタジエン34部、エチレン性不飽和カルボン酸単量体としてイタコン酸1部、(メタ)アクリル酸エステル単量体として2−ヒドロキシエチルアクリレート1部およびメチルメタクリレート2部を用いた。
2段目の重合開始から5時間半後、これら単量体組成物を含む混合物の全量添加が完了し、その後、さらに85℃に加温して6時間反応させた。
重合転化率が97%になった時点で冷却し反応を停止して、粒子状重合体を含む混合物を得た。この粒子状重合体を含む混合物に、5%水酸化ナトリウム水溶液を添加して、pH8に調整した。その後、加熱減圧蒸留によって未反応単量体の除去を行った。さらにその後冷却し、所望の粒子状重合体を含む水分散液(リチウムイオン二次電池負極用バインダー組成物)を得た。この粒子状重合体を含む水分散液を用いて、上述した要領で、粒子状重合体のTHF膨潤度、電解液膨潤度、表面酸量、水相中の酸量およびTHF不溶分を測定した。結果を表1に示す。
【0094】
<リチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物の製造>
ディスパー付きのプラネタリーミキサーに、負極活物質として比表面積4m2/gの人造黒鉛(体積平均粒子径:24.5μm)100部と、分散剤として機能しうる水溶性重合体としてカルボキシメチルセルロースの1%水溶液(日本製紙ケミカル社製「MAC−350HC」、1%水溶液粘度4000mPa・s)を固形分相当で0.90部とを加え、イオン交換水で固形分濃度55%に調整し、室温下で60分混合した。次に、イオン交換水で固形分濃度52%に調整し、さらに15分混合し、混合液を得た。
前記混合液に、負極活物質100部当たり、上述の粒子状重合体を含む水分散液を粒子状重合体の固形分相当で1.8部加えた。さらにイオン交換水を加え、最終固形分濃度50%となるように調整し、10分間混合した。これを減圧下で脱泡処理して、流動性の良いリチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物を得た。
【0095】
<負極の製造>
上述のリチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物を、コンマコーターで、厚さ18μmの銅箔(集電体)の上に、乾燥後の膜厚が150μm程度になるように塗布した。このリチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物が塗布された銅箔を、0.5m/分の速度で温度75℃のオーブン内を2分間、さらに温度120℃のオーブン内を2分間かけて搬送することにより、銅箔上のスラリー組成物を乾燥させ、負極原反を得た。この負極原反をロールプレスで圧延して、負極合材層の厚みが80μmの負極を得た。
得られた負極について、上述した要領で、負極合材層と銅箔(集電体)の密着強度を測定した。
【0096】
<正極の製造>
プラネタリーミキサーに、正極活物質としてのスピネル構造を有するLiCoO295部、正極合材層用バインダーとしてのPVDF(ポリフッ化ビニリデン)を固形分相当で3部、導電材としてのアセチレンブラック2部、および溶媒としてのN−メチルピロリドン20部を加えて混合し、リチウムイオン二次電池正極用スラリー組成物を得た。
得られたリチウムイオン二次電池正極用スラリー組成物を、コンマコーターで、厚さ20μmのアルミニウム箔(集電体)上に、乾燥後の膜厚が100μm程度になるように塗布した。このリチウムイオン二次電池正極用スラリー組成物が塗布されたアルミニウム箔を、0.5m/分の速度で温度60℃のオーブン内を2分間、さらに温度120℃のオーブン内を2分間かけて搬送することにより、アルミニウム箔上のスラリー組成物を乾燥させ、正極原反を得た。この正極原反をロールプレスで圧延して、正極合材層の厚みが70μmの正極を得た。
【0097】
<セパレータの用意>
単層のポリプロピレン製セパレータ(幅65mm、長さ500mm、厚さ25μm;乾式法により製造;気孔率55%)を用意した。このセパレータを、5cm×5cmの正方形に切り抜いて、下記のリチウムイオン二次電池に使用した。
【0098】
<リチウムイオン二次電池>
電池の外装として、アルミ包材外装を用意した。上記正極を、4cm×4cmの正方形に切り出して、集電体側の表面がアルミ包材外装に接するように配置した。次に、正極の正極合材層の面上に、上記正方形のセパレータを配置した。さらに、上記負極を、4.2cm×4.2cmの正方形に切り出して、これをセパレータ上に、負極合材層側の表面がセパレータに向かい合うよう配置した。その後、電解液として濃度1.0MのLiPF6溶液(溶媒はエチレンカーボネート(EC)/ジエチルカーボネート(DEC)=1/2(体積比)の混合溶媒、添加剤としてビニレンカーボネート2体積%(溶媒比)含有)を充填した。さらに、アルミ包材の開口を密封するために、150℃のヒートシールをしてアルミ包材外装を閉口し、ラミネートセル型のリチウムイオン二次電池を製造した。 得られたリチウムイオン二次電池について、上述した要領で、サイクル特性、高温保存特性、高温保存後のセルの体積変化率を評価した。
【0099】
(実施例2)
一次単量体組成物として用いる単量体の組成は変更せず、単量体組成物全体として、芳香族ビニル単量体としてスチレン65部、脂肪族共役ジエン単量体として1,3−ブタジエン30部、エチレン性不飽和カルボン酸単量体としてイタコン酸4部、(メタ)アクリル酸エステル単量体として2―ヒドロキシエチルアクリレート1部を使用し、2段目の重合時の単量体添加時の温度を70℃に変更し、そして連鎖移動剤としてのtert-ドデシルメルカプタンの量を0.3部に変更した以外は、実施例1と同様にして粒子状重合体を含む水分散液(リチウムイオン二次電池負極用バインダー組成物)、リチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物、負極、正極およびリチウムイオン二次電池を作製した。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
粒子状重合体の粒子径を、透過型電子顕微鏡を用いて測定した。具体的には、常法により粒子を、四酸化オスミウムを用いて染色した後、任意に選択した1000個の粒子の粒子径を測定した。その平均粒子径(個数平均粒径)は160nmであり、標準偏差は11nmであった。
【0100】
(実施例3)
一次単量体組成物として用いる単量体の組成は変更せず、単量体組成物全体として、芳香族ビニル単量体としてスチレン57.1部、脂肪族共役ジエン単量体として1,3−ブタジエン38部、エチレン性不飽和カルボン酸単量体としてイタコン酸4部、(メタ)アクリル酸エステル単量体として2―ヒドロキシエチルアクリレート0.9部を使用し、2段目の重合時の単量体添加時の温度を70℃に変更し、2段目の重合時の単量体添加後の温度を88℃に変更し、そして連鎖移動剤としてのtert-ドデシルメルカプタンの量を0.2部に変更した以外は、実施例1と同様にして粒子状重合体を含む水分散液(リチウムイオン二次電池負極用バインダー組成物)、リチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物、負極、正極およびリチウムイオン二次電池を作製した。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
粒子状重合体の粒子径を、実施例2と同様に測定した。その平均粒子径は156nmであり、標準偏差は11nmであった。
【0101】
(実施例4)
一次単量体組成物として用いる単量体の組成は変更せず、単量体組成物全体として、芳香族ビニル単量体としてスチレン66部、脂肪族共役ジエン単量体として1,3−ブタジエン29.8部、エチレン性不飽和カルボン酸単量体としてイタコン酸3部、(メタ)アクリル酸エステル単量体として2―ヒドロキシエチルアクリレート1.2部を使用し、2段目の重合時の単量体添加後の温度を90℃に変更し、そして連鎖移動剤としてのtert-ドデシルメルカプタンの量を0.3部に変更した以外は、実施例1と同様にして粒子状重合体を含む水分散液(リチウムイオン二次電池負極用バインダー組成物)、リチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物、負極、正極およびリチウムイオン二次電池を作製した。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
粒子状重合体の粒子径を、実施例2と同様に測定した。その平均粒子径は155nmであり、標準偏差は11nmであった。
【0102】
(実施例5)
一次単量体組成物として用いる単量体の組成は変更せず、単量体組成物全体として、芳香族ビニル単量体としてスチレン69.4部、脂肪族共役ジエン単量体として1,3−ブタジエン27部、エチレン性不飽和カルボン酸単量体としてイタコン酸3部、(メタ)アクリル酸エステル単量体として2―ヒドロキシエチルアクリレート0.6部を使用し、2段目の重合時の単量体添加時の温度を73℃に変更し、そして連鎖移動剤としてのtert-ドデシルメルカプタンの量を0.4部に変更した以外は、実施例1と同様にして粒子状重合体を含む水分散液(リチウムイオン二次電池負極用バインダー組成物)、リチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物、負極、正極およびリチウムイオン二次電池を作製した。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0103】
(実施例6)
一次単量体組成物として用いる単量体の組成は変更せず、単量体組成物全体として、芳香族ビニル単量体としてスチレン60部、脂肪族共役ジエン単量体として1,3−ブタジエン35.6部、エチレン性不飽和カルボン酸単量体としてイタコン酸3部、(メタ)アクリル酸エステル単量体として2―ヒドロキシエチルアクリレート1.4部を使用し、2段目の重合時の単量体添加時の温度を70℃に変更し、そして連鎖移動剤としてのtert-ドデシルメルカプタンの量を0.8部に変更した以外は、実施例1と同様にして粒子状重合体を含む水分散液(リチウムイオン二次電池負極用バインダー組成物)、リチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物、負極、正極およびリチウムイオン二次電池を作製した。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0104】
(実施例7)
2段目の重合の開始から2時間後(単量体組成物全体のうち40%添加後)、耐圧容器Aに2―ヒドロキシエチルアクリレートを0.9部、3時間半に亘って加えた以外は、実施例3と同様にして、粒子状重合体を含む水分散液(リチウムイオン二次電池負極用バインダー組成物)、リチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物、負極、正極およびリチウムイオン二次電池を作製した。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
粒子状重合体の粒子径を、実施例2と同様に測定した。その平均粒子径は157nmであり、標準偏差は12nmであった。
【0105】
(比較例1)
一次単量体組成物として用いる単量体の組成は変更せず、単量体組成物全体として、芳香族ビニル単量体としてスチレン57部、脂肪族共役ジエン単量体として1,3−ブタジエン31部、エチレン性不飽和カルボン酸単量体としてイタコン酸1部およびアクリル1部、(メタ)アクリル酸エステル単量体として2―ヒドロキシエチルアクリレート6部およびメチルメタクリレート4部を使用し、2段目の重合時の単量体添加時の温度を70℃に変更し、そして連鎖移動剤としてtert-ドデシルメルカプタンを0.3部およびα―メチルスチレンダイマーを1部使用した以外は、実施例1と同様にして粒子状重合体を含む水分散液(リチウムイオン二次電池負極用バインダー組成物)、リチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物、負極、正極およびリチウムイオン二次電池を作製した。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0106】
(比較例2)
一次単量体組成物として用いる単量体の組成は変更せず、単量体組成物全体として、芳香族ビニル単量体としてスチレン18部、脂肪族共役ジエン単量体として1,3−ブタジエン43.5部、エチレン性不飽和カルボン酸単量体としてイタコン酸1.5部およびアクリル酸2部、(メタ)アクリル酸エステル単量体としてメチルメタクリレート15部、および、シアン化ビニル系単量体としてアクリロニトリル20部を使用し、2段目の重合時の単量体添加時の温度を73℃に変更し、2段目の重合時の単量体添加後の温度を88℃に変更し、そして連鎖移動剤としてtert-ドデシルメルカプタンを0.4部およびα―メチルスチレンダイマーを0.6部使用した以外は、実施例1と同様にして粒子状重合体を含む水分散液(リチウムイオン二次電池負極用バインダー組成物)、リチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物、負極、正極およびリチウムイオン二次電池を作製した。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0107】
(比較例3)
<粒子状重合体の調製(バッチ重合)>
攪拌機付き5MPa耐圧容器に、芳香族ビニル単量体としてスチレン57部、脂肪族共役ジエン単量体として1,3−ブタジエン39部、エチレン性不飽和カルボン酸単量体としてアクリル酸を1部およびメタクリル酸を3部、乳化剤としてラウリル硫酸ナトリウム2.0部、連鎖移動剤としてtert-ドデシルメルカプタン0.5部、イオン交換水150部、及び、重合開始剤として過硫酸カリウム0.4部を入れ、十分に攪拌した後、70℃に加温して重合を開始した。
重合転化率が97%になった時点で冷却し反応を停止して、粒子状重合体を含む混合物を得た。この粒子状重合体を含む混合物に、5%水酸化ナトリウム水溶液を添加して、pH8に調整した。その後、加熱減圧蒸留によって未反応単量体の除去を行った。さらにその後冷却し、所望の粒子状重合体を含む水分散液(リチウムイオン二次電池負極用バインダー組成物)を得た。この粒子状重合体を含む水分散液を用いて、上述した要領で、粒子状重合体のTHF膨潤度、電解液膨潤度、表面酸量、水相中の酸量およびTHF不溶分を測定した。結果を表1に示す。
【0108】
そして、上述のバッチ重合で得られた粒子状重合体を使用した以外は、実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物、負極、正極およびリチウムイオン二次電池を作製した。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0109】
(比較例4)
一次単量体組成物として用いる単量体の組成は変更せず、単量体組成物全体として、芳香族ビニル単量体としてスチレン39部、脂肪族共役ジエン単量体として1,3−ブタジエン43部、エチレン性不飽和カルボン酸単量体としてイタコン酸3部、(メタ)アクリル酸エステル単量体としてメチルメタクリレート10部、および、シアン化ビニル系単量体としてアクリロニトリル5部を使用し、2段目の重合時の単量体添加後の温度を90℃に変更し、そして連鎖移動剤としてtert-ドデシルメルカプタンの量を0.4部使用した以外は、実施例1と同様にして粒子状重合体を含む水分散液(リチウムイオン二次電池負極用バインダー組成物)、リチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物、負極、正極およびリチウムイオン二次電池を作製した。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0110】
(比較例5)
2段目の重合時の単量体添加時の温度を60℃に変更した以外は、実施例2と同様にして粒子状重合体を含む水分散液(リチウムイオン二次電池負極用バインダー組成物)、リチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物、負極、正極およびリチウムイオン二次電池を作製した。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0111】
なお、表1においてSTはスチレンを、BDは1,3−ブタジエンを、IAはイタコン酸を、AAはアクリル酸を、MAAはメタクリル酸を、ANはアクリロニトリルを、2−HEAは、2−ヒドロキシエチルアクリレートを、MMAはメチルメタクリレートを、TDMはt−ドデシルメルカプタンを、MSDはα―メチルスチレンダイマーを示す。
【0112】
【表1】
【0113】
表1より、実施例1〜7では、サイクル特性が優れ、また、高温保存後のセルの膨らみを十分に抑制でき、高温保存特性が優れていることがわかる。
一方、表1より、比較例1,3,4では、実施例1〜7からサイクル特性が低下し、さらに高温保存後のセルの膨らみの抑制について著しく劣っており、高温保存特性が低下していることがわかる。また、比較例2,5では、サイクル特性はある程度確保できているが、高温保存後のセルの膨らみの抑制が不十分であり、高温保存特性が著しく劣っていた。すなわち、比較例2,5では、サイクル特性および高温保存特性をバランスよく優れたものとすることができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0114】
本発明によれば、負極の形成に使用した場合に、サイクル特性に優れるリチウムイオン二次電池を提供することができ、かつ、高温によるセルの膨らみを抑制して、高温保存特性を確保することができる二次電池負極用バインダー組成物を提供することができる。
また、本発明によれば、負極の形成に使用した場合に、サイクル特性に優れるリチウムイオン二次電池を提供することができ、かつ、高温によるセルの膨らみを抑制して、高温保存特性を確保することができる二次電池負極用スラリー組成物を提供することができる。
更に、本発明によれば、サイクル特性に優れるリチウムイオン二次電池を提供することができ、かつ、高温によるセルの膨らみを抑制して、高温保存特性を確保することができるリチウムイオン二次電池用負極を提供することができる。
加えて、本発明によれば、サイクル特性および高温保存特性に優れるリチウムイオン二次電池を提供することができる。
図1