(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6521511
(24)【登録日】2019年5月10日
(45)【発行日】2019年5月29日
(54)【発明の名称】手術トレーニング装置
(51)【国際特許分類】
G09B 9/00 20060101AFI20190520BHJP
G09B 23/30 20060101ALI20190520BHJP
【FI】
G09B9/00 Z
G09B23/30
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-25269(P2015-25269)
(22)【出願日】2015年2月12日
(65)【公開番号】特開2016-148765(P2016-148765A)
(43)【公開日】2016年8月18日
【審査請求日】2018年1月30日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度、総務省、戦略的情報通信研究開発推進事業「腹腔鏡手術における感覚融合技術を利用したトレーニング及びサポートシステムの研究開発」に係る委託業務、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000970
【氏名又は名称】特許業務法人 楓国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安藤 英由樹
(72)【発明者】
【氏名】前田 太郎
(72)【発明者】
【氏名】古川 正紘
【審査官】
比嘉 翔一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2014−071443(JP,A)
【文献】
特開2004−105725(JP,A)
【文献】
特開2009−077765(JP,A)
【文献】
特開2006−081568(JP,A)
【文献】
国際公開第2007/136090(WO,A1)
【文献】
特開平08−194170(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2013/0157239(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G09B 1/00− 9/56
G09B17/00−19/26
G09B23/00−29/14
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像を表示する表示部と、
内部に手術練習空間を提供する練習器と、
前記練習器内に挿入され、前記手術練習空間を撮像する練習用内視鏡カメラと、
教材用内視鏡カメラによる教材映像の撮影過程における前記教材用内視鏡カメラの動き履歴を、前記練習用内視鏡カメラに再現させる動き駆動部と、
前記教材映像と前記練習用内視鏡カメラの撮像映像とを合成して前記表示部に表示する映像合成手段とを含む手術トレーニング装置。
【請求項2】
前記動き履歴は、前記教材用内視鏡カメラの位置及び向きの情報を含む請求項1に記載の手術トレーニング装置。
【請求項3】
前記動き履歴を記録する記憶部を備える請求項1又は2に記載の手術トレーニング装置。
【請求項4】
前記練習器は、前記手術練習空間が遮光処理されていることを特徴とするものである請求項1〜3のいずれかに記載の手術トレーニング装置。
【請求項5】
前記動き駆動部は、パラレルリンク機構を含む請求項1〜4のいずれかに記載の手術トレーニング装置。
【請求項6】
前記撮影過程において録音された音声情報を含む請求項1〜5のいずれかに記載の手術トレーニング装置。
【請求項7】
前記練習用内視鏡カメラ及び前記教材用内視鏡カメラは、左右2個の撮像部を有する3Dカメラである請求項1〜6のいずれかに記載の手術トレーニング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内視鏡下での体腔鏡手術等をトレーニングする装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、例えば臓器手術において切開の必要のない腹腔鏡手術は、患者への負担が軽く、回復が早いというメリットがあり、特に体力が不十分である高齢者や子供には効果的であることから普及が望まれている。しかしながら、内視鏡下での腹腔鏡手術は高度な技術を要するため、専門医の数が必ずしも十分とはいえず、熟練者の養成が重要な課題である。特許文献1には、ドライボックスを用いた腹腔鏡手術であって、主に初心者のための動き学習支援装置が提案されている。この動き学習支援装置は、より具体的には教材映像中の、結紮、切断、剥離というような各動き要素の映像と自己側の撮像映像とを交互に表示して学習する要素学習と、各動き要素の映像と自己側の撮像映像とを合成表示して教材側の動きを追従する追従学習とを段階的に行わせて、それぞれの動き要素についての手術スキルを効果的に向上させるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012−220235号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、実際の手術では、手術の部位が手順に沿って順次移動するのが一般的である。そのため、内視鏡カメラが撮像する箇所は、手術部位の移動に伴って、例えば体内の手前側から奥行き方向へ、また左右方向へと漸次移動する。内視鏡カメラが移動すると、手術部位の映像の他、鉗子等の見え方も、その都度変化する。従って、術者は、この変化に適応させて鉗子等を正しく操作することを求められる。特許文献1は、主に初心者向けとした各動き要素毎の効果的学習に関するもので、内視鏡カメラの移動に伴う点を特徴としていない。中級者に求められるスキルは、個々の動き要素は言うまでもなく、一連の手術の行程をスムーズに進めるところにある一方、一連の手術の行程に応じた内視鏡カメラの移動に伴う視点変化下での映像に適応するための鉗子等の操作をトレーニングする技術は未だ提案されていない。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたもので、内視鏡カメラの移動に伴う教材映像の見え方の変化を練習時の表示に再現し、練習効果を高める手術トレーニング装置を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る手術トレーニング装置は、画像を表示する表示部と、内部に手術練習空間を提供する練習器と、前記練習器内に挿入され、前記手術練習空間を撮像する練習用内視鏡カメラと、教材用内視鏡カメラによる教材映像の撮影過程における前記教材用内視鏡カメラの動き履歴を、前記練習用内視鏡カメラに再現させる動き駆動部と、前記教材映像と前記練習用内視鏡カメラの撮像映像とを合成して前記表示部に表示する映像合成手段とを含むものである。
【0007】
本発明によれば、手術トレーニングのための教材は、内視鏡カメラが固定でなく、移動させるようにして、表示部に表示される教材映像の見え方を変化するように作成される。従って、練習者が注視する、表示部に表示される教材映像は内視鏡カメラの移動によって見え方(手術部位、手術器具の大きさ、範囲、向きなど)が変化する。一方、練習用内視鏡カメラは、教材作成時の内視鏡カメラの動き履歴を再現するように動きが制御されるので、練習時に練習用内視鏡カメラで撮像された映像が、教材作成時と同じ見え方で表示部に表示されることになる。そのため、練習者は、自己の操作する手術器具も教材映像と同様の見え方で表示されるので、教材映像の見え方の変化に適応し得る練習が可能となり、練習効果が高まる。
【0008】
また、前記動き履歴は、前記教材用内視鏡カメラの位置及び向きの情報を含むものである。この構成によれば、教材用内視鏡カメラの変化の全ての情報が採用されるので、練習用内視鏡カメラに対して完全な再現動作が可能となる。
【0009】
また、本発明は、前記動き履歴を記録する記憶部を備えるものである。この構成によれば、一旦記憶しておけば、必要時に誰でも練習を行うことが可能となる。
【0010】
また、前記練習器は、前記手術練習空間が遮光処理されていることを特徴とするものである。この構成によれば、教材側及び練習者側の手術器具以外には、教材映像の背景画像(一般的には、手術部位周辺)のみが表示されるので、手術部位の認識が容易、明確となる。
【0011】
また、前記動き駆動部として、市販の機構であるパラレルリンク機構を採用することが可能である。
【0012】
また、本発明は、前記撮影過程において録音された音声情報を含むものである。この構成によれば、教材作成者、主にベテラン術者のアドバイス等を参考にすることが可能となる。
【0013】
また、前記内視鏡カメラは、左右2個の撮像部を有する3Dカメラである。この構成によれば、実際の手術に使用される3D内視鏡カメラに対する効果的なトレーニングが可能となる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、内視鏡カメラの移動に伴う教材映像の見え方の変化を練習時の表示に再現するので、練習効果を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明に係る手術トレーニング装置の一実施形態を示す概略構成図である。
【
図2】教材作成のための装置の一例を示すブロック図である。
【
図3】パラレルリンク機構を採用した動き駆動部の概略構成図である。
【
図4】本発明に係る手術トレーニング装置の一実施形態を示すブロック図である。
【
図5】教材作成時の内視鏡カメラの映像例を示す図で、(a)は内視鏡カメラが手前側にある場合、(b)は内視鏡カメラが奥側に進入された場合である。
【
図6】練習時の合成映像例を示す図で、(a)は
図5(a)の映像と合成されている状態、(b)は
図5(b)の映像と合成されている状態を示している。
【
図7】練習用内視鏡カメラが3D型の場合の実施形態を示す概略構成図である。
【
図8】練習用内視鏡カメラが3D型の場合の手術トレーニング装置における特徴部分のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は、本発明に係る手術トレーニング装置の一実施形態を示す概略構成図である。手術トレーニング装置1は、練習台11上に搭載された練習操作部10と、情報処理装置20とを備えている。また、練習操作部10の近傍適所には、映像を表示する表示部31及び必要に応じて設けられた音声を発するスピーカ32を備えている。練習台11上には、患者の胴体を模擬したドライボックス12と、ドライボックス12の手前の動き駆動部15とが配置されている。
【0017】
ドライボックス12は、人体の腹部を模擬するべく、凸状曲面の上面部121を有している。上面部121は、不透明乃至は半透明の部材で構成され、適所に所定径(例えば10ミリ程度)を有する複数の円孔122が形成されている。この円孔122には樹脂材等の膜材が貼られ、その中央には、鉗子131や電気メス等の手術器具や内視鏡カメラ14を抜き差しする円筒状のトロカーを、機能面で模擬した十字状の切り込みが形成されている。なお、トロカーを模擬した構造体を直接配設する態様でもよい。
【0018】
鉗子131等は、円孔122を介して上方から挿通される。鉗子131は、公知のように長尺体の先端部に開閉可能な一対の挟持部材を有し、例えば腹膜、腸間膜また血管を患部臓器から剥離する場合等を想定して使用される。内視鏡カメラ14は、所定径を有する堅牢な長尺体で、ドライボックス12の手前側中央の円孔122を介してドライボックス12内に挿通される。内視鏡カメラ14は、
図3に示すように、先端部に、CCD等の動画撮影を可能にする撮像部141及び撮像範囲を照明する、例えばLED等の光源142を備え、練習時に鉗子131等の手術器具の動きを撮像して、練習者に練習空間を観察可能にする。ドライボックス12は、クロマキー処理の代用構造として、内壁が遮光処理、例えば黒色で塗装したり、暗幕で覆ったりして、光源142によって手術器具のみを撮像し、不必要に他の部材が練習映像内に映り込まないようにしている。なお、
図1では、内視鏡カメラ14は、動き駆動部15に取付けられる前の状態を示している。
【0019】
動き駆動部15は、作成された教材映像を撮像した内視鏡カメラ106(
図2参照)の動きを、練習用の内視鏡カメラ14に再現させるもので、詳細は
図2で後述する。情報処理装置20は、練習操作部10との間で情報の入出力を行うと共に、表示部31及びスピーカ32に対して教材情報を出力する。詳細は
図4を参照して後述する。
【0020】
まず、
図2を用いて教材作成装置を簡単に説明する。教材は、ダミー(例えば豚等)を用いた模擬手術での撮像映像でもよいが、実際の手術の際の撮像映像を採用することがより好ましい。教材作成装置100は、操作部101、処理プログラム等を記憶した記憶部102、教材記憶部103、制御部104、表示部105、教材映像を作成する録画用の内視鏡カメラ106、内視鏡カメラ106の動きを検出する動き検出部107、教材映像作成中の音声(術者による手術状況乃至は鉗子等の操作要領の説明、また手術補助者への指示など)を録音するマイク108、及び必要に応じて設けられる外部との通信を行う通信部109を備えている。操作部101は、各種の設定や教材作成動作開始、終了を指示する。教材記憶部103は、教材映像、教材音声、及び動き検出部107の検出結果である動き履歴をそれぞれ記憶する記憶部1031,1032,1033を有する。表示部105は、内視鏡カメラ106の撮像映像を表示する。内視鏡カメラ106は、腹腔内に挿入されて手術状況の撮像を行う。
【0021】
動き検出部107は、3次元位置及び向きが検出可能であれば、種々のタイプが採用可能であり、本実施形態では光学式及び磁気式の少なくとも一方のセンサで構成している。光学式は、近傍に金属材が存在して磁気検出精度の低下を補完するためのもので、磁気式は、光路が遮断される等による検出不能を補完するためのものである。光学式は、内視鏡カメラ106の後端側位置に取付けられる特定形状のマーカ、マーカを照らす光源、及びマーカからの反射光を撮像し、マーカの光量、撮像位置及び内視鏡カメラ106の形状寸法を用い、幾何学的手法によって内視鏡カメラ106の後端部の3軸位置と向きとを算出する演算部とを備えている。磁気式は、磁気発生器と磁気検知部とから構成されている。磁気発生器は、磁気信号の生成源であり、手術室の適所に配置されている。磁気検出部は、内視鏡カメラ106の後端部に3軸方向に向けられてそれぞれ取り付けられ、例えば磁気発生器から軸毎に対応して発生される磁気信号をそれぞれ検出することで、内視鏡カメラ106の後端部の3次元位置と向きとを検出する。なお、他の動き検出部107の例として、3軸の加速計を内視鏡カメラ106の後端部に取付けて動きを検出し、あるいは適所に取付けて後端部の動きを換算検出するようにしてもよい。なお、動き履歴記憶部1033には、内視鏡カメラ106の後端部の位置及び向きである動き履歴の情報が格納される。
【0022】
制御部104は、例えばコンピュータで構成され、記憶部102の処理プログラムが実行されることによって、教材記憶処理部1041、動き履歴記憶処理部1042、及び表示部105へ内視鏡カメラ106の映像を表示する映像表示処理部1043として機能する。教材記憶処理部1041は、内視鏡カメラ106からの撮像映像、及びマイク108からの音声を同期させて教材映像記憶部1031及び教材音声記憶部1032に記憶する。動き履歴記憶処理部1042は、動き検出部107からの動き履歴を、教材映像の取得動作と同期させて動き履歴記憶部1033に記憶する。
【0023】
図3は、手術トレーニング装置1の動き駆動部15の概略構成図で、本実施形態では、公知のパラレルリンク機構を採用している。動き駆動部15を構成するパラレルリンク機構は、公知のように、図略の本体部に鉛直方向に支持された、例えば円盤状の基礎部151と、可動部152と、基礎部151と可動部152とを連結し、基礎部151に対してそれぞれ1自由度を有する3個のリンク部153と、リンク部153それぞれの基端側を回動駆動する3個のモータ等のアクチュエータ154とを備えている。リンク部153のそれぞれは、基礎部151に回動可能に連結された駆動リンク、駆動リンクに球状ジョイントを介して連結された受動リンク、及び受動リンクに球状ジョイントを介して連結された可動部152とを備えている。アクチュエータ154は、モータの他、基礎部151に連結された駆動リンクの長さ寸法を伸縮させるシリンダ構造でもよい。
【0024】
可動部152は、アクチュエータ154によって空間上での位置と向きとが設定可能にされる。可動部152には、練習用内視鏡カメラ14の後端側適所が取付け可能にされている。練習用内視鏡カメラ14は、可動部152に取付けられ、円孔122を介してドライボックス12内に挿入されて、練習空間内の任意の位置及び向きで前方を照射し、かつ撮像動作を行う。
【0025】
なお、練習用内視鏡カメラ14は、教材作成で取得した動き履歴情報から逆運動学を利用して駆動量を得、かかる駆動量をアクチュエータ154に供給することで、教材作成時の内視鏡カメラ106の動き履歴を再現することができる。上記において、練習用内視鏡カメラ14と内視鏡カメラ106の長さ寸法が同一であれば、前記算出した駆動量がそのまま適用可能となり、一方、長さ寸法が違う場合には、その差分に応じて駆動量を補正すればよい。
【0026】
図4は、
図1,
図3に示す手術トレーニング装置の一実施形態を示すブロック図である。情報処理装置20は、表示部31、スピーカ32、練習用内視鏡カメラ14、及び動き駆動部15と接続されている。情報処理装置20は、例えばマイクロコンピュタから構成される制御部24を備えている。制御部24は、操作部21、処理プログラムを記憶する記憶部22、教材記憶部23、映像合成部25、及び必要に応じて設けられる通信部26と接続されている。
【0027】
操作部21は、各種の設定、例えば初期化、及び練習開始、終了等の指示を行う。ここに、初期化とは、練習開始に先立って練習用内視鏡カメラ14の位置を内視鏡カメラ106の初期位置に合わせる操作をいう。教材記憶部23は、教材作成時に得られ、教材記憶部103に記憶された内容と同一の内容、あるいは必要に応じて時間方向に編集加工された内容を記憶したもので、教材映像記憶部231、教材音声記憶部232及び動き履歴記憶部233を有する。動き履歴記憶部233には、前述した逆運動学の演算結果を記憶する態様でもよい。この場合、そのまま動き駆動部15のアクチュエータ154に適用できる。なお、教材記憶部23が、例えば携行式のUSBメモリ等の場合には、当該USBメモリを教材記憶部103として適用可能である。あるいは通信部109,26を経由して教材記憶部23にそれぞれ書き込む態様でもよい。
【0028】
映像合成部25は、練習用内視鏡カメラ14による撮像映像と教材記憶部23の教材映像記憶部231からの教材映像の読み出しとを同期させ、ビデオRAM(図略)に合成して書き込むものである。ビデオRAMに書き込まれた画像は、公知のように所定のフレーム周期で表示部31に読み出されてビデオ映像として表示される。
【0029】
制御部24は、処理プログラムが実行されることによって、映像合成処理部241、動き履歴再現制御部242及び音声再生処理部243として機能する。映像合成処理部241は、練習用内視鏡カメラ14の動作に同期して教材映像記憶部231から教材映像を経時方向に順次読み出して映像合成部25に出力し、練習用内視鏡カメラ14で撮像した自己映像と交互に時分割合成するべく合成して、ビデオRAMに書き込む処理を行う。なお、映像合成は、2つの映像を時分割で交互に表示させる態様の他、2つの映像を重ね合わせる視野合成法でもよい。この場合、ドライボックス12の内壁を暗幕で覆っているので、表示部31の画面には、背景として教材側の手術部位のみが表示された状態となり、手術部位の視認がより容易となる。時分割法は、教材映像と自己映像とをそれぞれ所定フレーム数毎に交互に切り替えて表示部31に出力して表示して自他融合感を想起させる方法であり、視野合成は、単に重畳して表示する方法である。音声再生処理部243は、教材映像の読み出し動作と同期して、教材記憶部23の教材音声記憶部232から教材音声の情報を読み出して、スピーカ32に出力する。
【0030】
また、動き履歴再現制御部242は、教材映像の読み出し動作と同期して、教材記憶部23の動き履歴記憶部233から動き履歴の情報を読み出して、動き駆動部15に出力する。動き駆動部15は、動き履歴記憶部233から動き履歴の情報に従って練習用内視鏡カメラ14を動かすことで、練習用内視鏡カメラ14の先端部の撮像部141の位置及び向きを練習教材の作成時と一致させる。これにより、表示部31には、教材作成時と練習時との視点及び視野の一致した映像が表示され、その状況下で、教材の鉗子映像の動きに合わせて自己の鉗子を動かすトレーニングによって、内視鏡カメラの移動に伴う見え方の変化に適応するべく効果的な練習が可能となる。
【0031】
図5は、教材作成時の内視鏡の映像例を示す図で、(a)は内視鏡が手前側にある場合、(b)は内視鏡が奥側に進入された場合である。
図5は、手術の一例としてのS字結腸の術例を示している。
図5(a)では、大腸映像B1のほぼ全体が見える浅い位置に内視鏡カメラ106が位置付けられており、
図5(b)では、内視鏡カメラ106がさらに奥へ、すなわち直腸映像B2とS字結腸映像B3との部位に接近している。このように内視鏡カメラ106の移動に伴って、手術部位の映像サイズが変化するとともに、画面内の術器具である鉗子映像61,62も映像サイズ、表示範囲、また視線(向き)も含めて見え方が変化している。
【0032】
例示したS字結腸の手術行程では、行程順に、内側アプローチとして、例えば、(1)直腸RS(S字部)からS字結腸間膜右側の腹膜切開、(2)結腸間膜背側の剥離があり、血管処理として、例えば、(3)IMA(下腸間膜動脈)血管周囲の剥離、(4)クリップ及びハサミを用いた血管(SRA,LCA,IMV)の切開があり、次いで、内側アプローチとして、(5)結腸間膜背側の剥離とあるように、それぞれ部位が変更されている。また、別の行程順として、(1)外側アプローチである、例えば直腸右側の剥離、(2)直腸後方の剥離、(3)直腸右側の剥離、(4)直腸左前方の剥離、(5)直腸前方の剥離が教材とあるように、同じくそれぞれ部位が変更されている。このように、手術部位が行程に沿って移動することで、これに対応して内視鏡カメラ106が移動し、その結果、
図5(a)から
図5(b)に例示するように映像も変化する。
【0033】
図6は、練習時の合成映像例を示す図で、(a)は
図5(a)の映像と合成されている状態、(b)は
図5(b)の映像と合成されている状態を示している。
【0034】
動き駆動部15によって練習用内視鏡カメラ14の位置が、教材作成時の動き履歴を再現する結果、表示部31には教材作成時と一致した視点及び視線で映像が表示されている。図中、鉗子映像161,162は練習者が操作している鉗子の映像である。内視鏡カメラ106の移動に伴って教材側の鉗子映像61,62の見え方が大きく変わっても、その動き履歴を再現するべく練習用内視鏡カメラ14の視点及び視線を一致させるので、鉗子映像161,162の見え方と一致するようになり、その結果、教材側の鉗子映像61,62の動きに重なり合わせる操作のトレーニングが有意となる。
【0035】
ところで、近年の内視鏡手術においては、3Dのカメラを用いることが多くなってきており、手術現場においては従来の2Dカメラを利用した場合に比べて、奥行き感が把握容易であるなどの理由で作業性が向上している。また、3Dのカメラに対するトレーニングは、3Dのカメラでトレーニングする方が2Dのカメラでトレーニングするよりも習得にかかる時間が短い。しかしながら、内視鏡手術で用いる3Dのカメラは非常に高価なため、トレーニング装置では利用されていない。また、通常のカメラを2台並べて3D化したとしても、市販されている2Dのカメラのサイズでは、瞳間距離は数センチオーダとなり、瞳間距離が数ミリの内視鏡手術で用いる3Dのカメラと同等の表示はできないため立体感覚に不整合が起きることから利用は困難であり、工夫が必要である。
【0036】
図7は、内視鏡カメラを3D型に構成した概略構成図である。
図7において、3D化内視鏡カメラ40は、所定形状、例えば長方形の基台41を備え、この基台41の上面に、前方側(
図7の上方側)で角度θで当接する平面状の1対のミラー42L,42Rが立設されている。1対のミラー42L,42Rは、外側がミラー面で、基台41上で所定長を有する。1対のミラー42L,42Rに対向して1対の2D型のビデオカメラ43L,43Rが配置されている。ビデオカメラ43L,43Rは、撮像部の光軸がミラー42L,42Rで反射して光軸L,Rとして所要の輻輳角を有して前方に向かい、交差するようにしている。また、ミラー42L,42Rの前記所定長寸法は、ビデオカメラ43L,43Rの撮像部の視野範囲と対応するサイズとされており、かつ配置関係が設定されている。かかる構成により、瞳間距離を数ミリ〜十数ミリ程度と可及的に小さく抑えることができ、これは市販の2Dのビデオカメラ2個を単純に並べた場合の瞳間距離を30ミリ程度以下に抑えることが困難であるのに比べて、その数分の1にでき、実際の3Dの内視鏡カメラ(瞳間距離は数ミリ)での立体感覚を概ね実現することが可能となる。すなわち、ミラー42L,43Rを使うことで瞳間距離を短縮でき、画角を小さくして数倍、例えば4倍の距離にビデオカメラを置くことで内視鏡と同等の3D知覚を正しく実現できる。
図7の例では、輻輳角は2.6度、ミラー42L,42Rの角度θは71.6度であり、瞳間距離は12ミリが達成できている。
【0037】
基台41に光源を設ける場合、その前方側は構成を不要とでき、あるいは基台41の前方側を長尺体として先端部に光源を設ける構成としてもよい。前方側をドライボックス内に配置し、基台41の基端側をパラレルリンク機構の可動部152に取付ければよい。
【0038】
図8は、3D化内視鏡カメラ40を用いたトレーニング装置における、3Dの特徴部分のブロック図である。ビデオカメラ43L,43Rでそれぞれ撮像されたドライボックス12内の映像は画像合成処理部2401に導かれる。画像合成処理部2401は、教材記憶部230から教材映像を、ビデオカメラ43L,43Rからの撮像映像と同期して読み出して、両映像を交互に時分割合成するべく画像合成部250に出力する。画像合成処理部2401及び画像合成部250は、合成処理に加えて、3D表示のための処理を実行する。3D表示処理は、特殊な表示部301と眼鏡を使用する。すなわち、公知のように、表示部310の画面には、走査線毎に交互に、互いに直交して偏光する円偏光フィルタ膜が張られ、一方、練習者は左右に異なる前記円偏光フィルタを有する眼鏡を掛ける。そして、この画面に走査線毎に交互に左側映像と右側映像とが表示されるように、画像合成部250内のビデオRAMに左側画像と右側画像とを書き込むことで行われる。なお、合成処理は、前記した実施形態と同一でよい。
【0039】
図7及び
図8に示す3D化内視鏡カメラ40は、教材映像が3D内視鏡カメラから得られたものである場合に、手術器具の先端側の立体感覚、特に、サイズが異なった状態を含めての奥行き感の変化を認識する上で極めて有意であるが、3D化内視鏡カメラ40は、かかる用途に限定されず、瞳間距離の狭い3D化された小型検査器として、例えば物の内部の細部まで構造その他を視認乃至は検査する機器等にも適用可能である。
【0040】
本発明は、以下の態様が採用可能である。内視鏡カメラ14を挿通する円孔122に代えて、その部分をドライボックス12から切り欠いた構造としてもよい。
【0041】
本実施形態では、動き駆動部15としてパラレルリンク機構を採用したが、これに限定されず、伸縮あるいはスライドする基台にジンバル機構を搭載し、このジンバル機構に練習用内視鏡カメラ14を装着して、進退方向、全方向への回動を可能にする構成としてもよい。
【0042】
また、本実施形態では、取得した教材を一時的に教材記憶部103に記憶し、必要に応じて教材記憶部23に転送したり、メモリ部材を装着して、トレーニングを行うようにしたが、これに代えて、通信部109,26を利用して、リアルタイムで教材情報をトレーニング装置側に転送し、練習を行う態様とすることもできる。
【0043】
また、本実施形態では、手術行程を有する一例としてS字結腸の手術で説明したが、その他手術行程を有する一連の手術、あるいはそれ以外の一連の手術態様に対するトレーニング全般に適用可能である。
【符号の説明】
【0044】
106 内視鏡カメラ(教材用内視鏡カメラ)
1 手術トレーニング装置
10 練習操作部
12 ドライボックス
131 鉗子
14 練習用内視鏡カメラ
15 動き駆動部(動き駆動部)
31 表示部
20 情報処理装置
231 教材映像記憶部
233 動き履歴記憶部(記憶部)
24 制御部
241 映像合成処理部(映像合成手段)
25 映像合成部(映像合成手段)
242 動き履歴再現制御部(動き駆動部)
40 3D化内視鏡カメラ