特許第6522286号(P6522286)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6522286-ヒアルロン酸産生促進剤 図000012
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6522286
(24)【登録日】2019年5月10日
(45)【発行日】2019年5月29日
(54)【発明の名称】ヒアルロン酸産生促進剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/19 20060101AFI20190520BHJP
   A61P 17/16 20060101ALI20190520BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20190520BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20190520BHJP
   A23L 2/52 20060101ALI20190520BHJP
   A21D 2/26 20060101ALN20190520BHJP
【FI】
   A61K38/19ZNA
   A61P17/16
   A61P43/00 111
   A23L33/10
   A23L2/00 F
   !A21D2/26
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-116845(P2014-116845)
(22)【出願日】2014年6月5日
(65)【公開番号】特開2015-229654(P2015-229654A)
(43)【公開日】2015年12月21日
【審査請求日】2017年5月19日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】711002926
【氏名又は名称】雪印メグミルク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】特許業務法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高野 義彦
(72)【発明者】
【氏名】日暮 聡志
(72)【発明者】
【氏名】春田 裕子
(72)【発明者】
【氏名】小林 敏也
(72)【発明者】
【氏名】門岡 幸男
【審査官】 ▲高▼ 美葉子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−234129(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/030887(WO,A1)
【文献】 特開2003−128573(JP,A)
【文献】 特開2005−272433(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0316944(US,A1)
【文献】 特開2012−193114(JP,A)
【文献】 BLOOD,2004年,Vol.103,No.8,p.2981-2989
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00− 8/99
A61Q 1/00−90/00
A23L 33/00
A61K 38/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/KOSMET/MEDLINE/BIOSIS(STN)
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳由来のSDF−1を有効成分とするヒアルロン酸産生促進用サプリメント。
【請求項2】
前記サプリメントは、関節機能低下防止用である請求項1記載のヒアルロン酸産生促進用サプリメント。
【請求項3】
乳由来のSDF−1を有効成分とするヒアルロン酸産生促進用飲食品。
【請求項4】
前記飲食品は、関節機能低下防止用である請求項記載のヒアルロン酸産生促進用飲食品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚の荒れ、シワ、弾性低下、関節機能低下等を防止するのに有用なヒアルロン酸産生促進剤、ヒアルロン酸産生促進用サプリメント、飲食品及びヒアルロン酸産生促進用化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光老化という、長年において肌に紫外線が照射され続けることによる、しみ、皺、たるみなどの肌の障害を防止することに関して、多くの研究がなされている。
皮膚はおおまかに皮膚表面に存在する表皮と表皮の下部に存在する真皮からなる。表皮は主に外部からの異物や病原菌、紫外線から保護するバリアー機能や、生体内からの物質の漏洩を防護する機能を有する。また真皮は表皮の約15〜40倍の厚さを持ち、皮膚の力学的強度を保つ役割を担っている。真皮はその乾燥重量の70%がコラーゲンからなる繊維成分であるが、真皮の線維と皮膚線維芽細胞との間には、糖蛋白質や、プロテオグリカンといった基質が存在する。プロテオグリカンは、糖蛋白質とグリコサミノグリカンといったムコ多糖とが結合した分子量10〜10以上の巨大分子であり、真皮のグリコサミノグリカンは、主にヒアルロン酸やデルマタン硫酸からなるため、ヒアルロン酸は真皮における主要なマトリックス成分であると言える。
老化などの生理的要因や、太陽光などの紫外線、乾燥、酸化等などの外的環境の変化により皮膚の水分含量や真皮のヒアルロン酸量が低下すると、皮膚に皺が発生し、たるんだ状態を引き起こす。ヒアルロン酸は、主に皮膚の水分を保持する機能を有していることから、真皮中のヒアルロン酸含量を高めることによって、皮膚の水分含量の低下を防ぐことができると考えられ、皮膚における水分保持機能の改善剤として、ヒアルロン酸を配合した化粧料が数多く提案されている。しかしながら、これらの皮膚表面に塗布されたヒアルロン酸は、皮膚表面の保湿効果を発揮するのみであり、肌の機能低下を本質的に改善し得るものではない。
また、ヒアルロン酸は、高い相対分子量や低い脂溶性、生体膜障壁の通過困難性、大量の多糖分解酵素の存在といった理由から、経口投与した際の消化管からの吸収が悪いことが報告されている(特許文献1)。したがって、肌の機能低下を本質的に改善するためには、真皮層のヒアルロン酸の生合成を促進させる必要があり、これによって皮膚のシワやたるみを防止でき、しかも安全性の点でも問題のないヒアルロン酸産生促進剤が望まれていた。
これまで、ヒアルロン酸産生促進剤としては、インシュリン様成長因子−1(IGF-1)や上皮成長因子(EGF)、血漿由来成長因子(PDGF)-BB、インターロイキンン−1(IL-1)、トランスフォーミング増殖因子(TGF)-β1などが知られているが、いずれも飲食品や化粧品、医薬品等として実用化に至っていない。
一方、関節液中のヒアルロン酸は、関節軟骨の表面を覆い、関節機能の円滑な作動に役立っている。正常人関節液中のヒアルロン酸濃度は約2.3mg/mLであるが、例えば、関節リウマチの場合、関節液中のヒアルロン酸濃度は約1.2mg/mLへと低下し、同時に関節液の粘度も著しく低下する。また、化膿性関節炎や痛風性関節炎などでも関節リウマチの場合と同様、ヒアルロン酸含量の低下が起こることが知られている(非特許文献1)。
上記疾患において、潤滑機能の改善、関節軟骨の被覆・保護、疼痛抑制及び病的関節液の性状改善をするために、関節液中のヒアルロン酸量を増加させることが行われている。例えば、関節リウマチ患者にヒアルロン酸ナトリウムの関節注入療法を行うと、上記の性状の改善が認められている(非特許文献2)。同様に、外傷性関節症、骨関節炎や変形性関節症においても、ヒアルロン酸の関節注入療法による改善効果が報告されている(非特許文献3)。
以上のことから、ヒアルロン酸産生の促進は、肌荒れ等の皮膚疾患、関節リウマチや外傷性関節症、骨関節炎、変形性関節症といった関節疾患の予防、治療に有効である。しかしながら、上記疾患の治療は長期にわたり、しかも医師の処方を必要とする。したがって、日常の生活の中で手軽に治療できるヒアルロン酸産生促進剤を含有するサプリメント、クリームあるいは飲食品が望まれていた。
ケモカインであるstromal cell derived factor 1 (SDF−1またはCXCL12、PBSF)は、Gタンパク質共役受容体であるCXCR4のリガンドであるが、そのSDF−1/CXCR4シグナル伝達系は、発生過程における造血・血管形成などの生理作用を有することが知られている。また、近年では、SDF−1はマウス背部の真皮に発現していることや、表皮の細胞増殖を促すことが報告されている。しかし、ヒアルロン酸を産生する機能についての報告はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開 2009-500503
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Journal of Cell Science, 第118巻, 1981頁, 2005年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、安全性の点で問題のないヒアルロン酸産生促進剤を提供することを課題とする。また、本発明は、そのような物質を配合したヒアルロン酸産生促進用サプリメント、飲食品及びヒアルロン酸産生促進用化粧料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、これらの課題を解決するために、広く食品素材に含まれているヒアルロン酸産生促進作用を示す物質について、鋭意、探索を進めたところ、SDF−1がヒアルロン酸産生量を増加させることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は、以下の態様を含むものである。
(1)SDF−1を有効成分とするヒアルロン酸産生促進剤。
(2)SDF−1を有効成分とするスキンケア剤。
(3)前記スキンケアが、肌荒れの予防及び/又は改善であることを特徴とする(2)記載のスキンケア剤。
(4)(1)〜(3)のいずれかに記載のSDF−1を配合したヒアルロン酸産生促進用サプリメント。
(5)(1)〜(3)のいずれかに記載のSDF−1を配合したヒアルロン酸産生促進用飲食品。
(6)(1)〜(3)のいずれかに記載のSDF−1を配合したヒアルロン酸産生促進用化粧料。
(7)SDF−1を経口摂取又は塗布することによる肌質の改善方法。
(8)SDF−1を1日あたり10μg以上経口摂取するか、又は0.05〜0.5重量%になるよう調整した物を塗布することによる肌質の改善方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、SDF−1を有効成分とするヒアルロン酸産促進剤、ヒアルロン酸産生促進用飲食品及びヒアルロン酸産生促進用化粧料が提供される。本発明のヒアルロン酸産生促進剤、ヒアルロン酸産生促進用サプリメント、飲食品及びヒアルロン酸産生促進用化粧料は、皮膚のヒアルロン酸産生を促進させる作用を有し、皮膚のシワやたるみ、乾燥感や肌荒れの予防や治療に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】SDF−1がヒアルロン酸合成酵素遺伝子(Has2)のmRNA発現へ及ぼす影響について比較したものである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のヒアルロン酸産生促進剤の特徴は、SDF−1を有効成分とすることにある。本発明のSDF−1はどのような由来のものであっても使用可能である。たとえば、ヒト及びウシ由来のSDF−1はすでにその遺伝子配列が明らかになっており、遺伝子組換えによる生産が可能であるが、本発明では、遺伝子工学的手法により生産されたSDF−1も使用可能であり、細胞培養の培養液から回収した細胞由来のものも使用可能である。また、SDF−1はウシ初乳中に含有されており、乳から回収したものであっても良く、生乳や粉乳、脱脂乳、還元乳等から、加熱処理、加塩処理、エタノール処理、イオン交換クロマトグラフィーやゲル濾過クロマトグラフィー等の各種クロマト処理、限外濾過処理等によって取得することも可能である。
【0010】
本発明のヒアルロン酸産生促進剤は、経口投与あるいは塗布することにより、ヒアルロン酸産生促進効果を発揮する。本発明のヒアルロン酸産生促進剤を経口投与するに際しては、有効成分であるSDF−1をそのままの状態で用いることもできるが、常法に従い、粉末剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、ドリンク剤等に製剤化して用いることもできる。本発明において、粉末剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤等の経口剤は、例えば、澱粉、乳糖、白糖、マンニット、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩類等の賦形剤を用いて常法によって製剤化することが可能である。この種の製剤には、前記賦形剤の他に、結合剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、流動性促進剤、着色料、香料等を適宜使用してもよい。結合剤としては、例えば、澱粉、デキストリン、アラビアガム、ゼラチン、ヒドロキシプロピルスターチ、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、結晶性セルロース、エチルセルロース、ポリビニルピロリドンが挙げられ、崩壊剤としては、例えば、澱粉、ヒドロキシプロピルスターチ、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、架橋カルボキシメチルセルロースナトリウム、結晶性セルロース等が挙げられる。また、界面活性剤としては、大豆レシチン、蔗糖脂肪酸エステル等、滑沢剤としては、タルク、ロウ、蔗糖脂肪酸エステル、水素添加植物油等、流動性促進剤としては無水ケイ酸、乾燥水酸化アルミニウム、ケイ酸マグネシウム等が挙げられる。
【0011】
さらには、これらのSDF−1をそのままあるいは製剤化した後、これをサプリメント、栄養剤や飲食品等に配合することも可能である。なお、SDF−1は、比較的熱に対して安定であるので、SDF−1を含む原料を通常行われるような条件で加熱殺菌することも可能である。
【0012】
本発明のヒアルロン酸産生促進剤を塗布するに際しては、その使用目的に応じて、通常用いられる公知の成分に配合することによって、液剤、固形剤、半固形剤等の各種剤形に調製することが可能で、好ましい組成物として軟膏、ゲル、クリーム、スプレー剤、貼付剤、ローション、粉末等が挙げられる。例えば、本発明のヒアルロン酸産生促進剤をワセリン等の炭化水素、ステアリルアルコール、ミリスチン酸イソプロピル等の高級脂肪酸低級アルキルエステル、ラノリン等の動物性油脂、グリセリン等の多価アルコール、グリセリン脂肪酸エステル、モノステアリン酸、ポリエチレングリコール等の界面活性剤、無機塩、ロウ、樹脂、水及び、要すればパラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸ブチル等の保存料に混合することによって、ヒアルロン酸産生促進用化粧料や医薬品を製造することができる。
【0013】
本発明のヒアルロン酸産生促進剤の経口投与による有効量は、その製剤形態、投与方法、使用目的、及びこれを適用される患者の年齢、体重、病状により適宜規定され一定でないが、ラットを用いた動物実験の結果、SDF−1は、ラット体重1kg当たり10μg以上摂取させることでヒアルロン酸産生促進作用を示すことが明らかとなった。したがって、外挿法によると、通常、成人一人当たり一日10μg以上のSDF−1を摂取すればヒアルロン酸産生促進効果が期待できるため、この必要量を確保できるよう飲食品に配合するか、あるいは、医薬として投与すれば良い。なお、投与は必要に応じて一日数回に分けて行うことも可能である。
【0014】
本発明のヒアルロン酸産生促進剤の塗布による有効量は、剤形により異なるが、適用する組成物全量を基準として、好ましくは、0.001〜2重量%となるように、SDF−1を配合すれば良い。ただし、入浴剤のように使用時に希釈されるものは、さらに配合量を増やすことができる。
【0015】
[試験例1]
Biolegend社より購入したRecombinant Human CXCL12 (SDF-1α) (carrier-free)を試料Aとし、ラットを用いた動物実験によりヒアルロン酸産生促進作用を調べた。7週齢のWistar系雄ラットを、生理食塩水投与群(対照群)、試料Aをラット体重1kg当たり10μg投与する群(A−1群)、試料Aをラット体重1kg当たり100μg投与する群(A−2群)、に分け、それぞれを毎日1回ゾンデで経口投与して10週間飼育した。皮膚のヒアルロン酸量については、試験前日に剃毛したラットを屠殺後速やかに回収した皮膚組織(各300mg)を測定に供した。加熱によりタンパク変性させた皮膚組織をアクチナーゼによりタンパク質分解した。得られた分解物を、更にヒアルロニダーゼにてヒアルロン酸に分解した。ヒアルロン酸をHPLC法にて測定した。
その結果を表1に示す。
【0016】
【表1】
数値は、平均値±標準偏差(n=6)を示す。
※は対照群と比較して有意差があることを示す(p<0.05)。
【0017】
この結果、10週間後の可溶性画分中ヒアルロン酸量は、対照群に比べ、すべての試験群で有意に高い値を示した。このことから、SDF−1には、ヒアルロン酸産生促進作用があることが明らかとなり、ヒアルロン酸産生促進剤として有用であることが示された。また、このヒアルロン酸産生促進作用はSDF−1をラット体重1kg当たり少なくとも10.0μg投与した場合に認められることが明らかとなった。
【0018】
[試験例2]
試料Aついて、正常ヒト線維芽細胞株〔白人女性の皮膚より採取されたCCD45SK(ATCCRL 1506)〕を用いた実験によりヒアルロン酸産生促進作用を調べた。10容量%ウシ胎児血清(以下FBSと略記)含有変法イーグル培地(MEM、10‐101、大日本製薬社製)を用いて、正常ヒト線維芽細胞株を4×10個/ウエル/0.4mlとなるように24ウエルプレートに播種して、5%炭酸ガス、飽和水蒸気下、37℃で24時間培養した後、0.6容量%FBS含有MEM培地に置換した。そして、試料Aを、各ウエルに0.1容量%となるように添加(n=6)して、72時間培養して培養液を得た。このようにして得られた培養液中の、ヒアルロン酸量(バイオテック トレーディング パートナーズ社製)を測定した。なお、対照として、SDF−1を添加せずに同様の試験を行った。その結果を表2に示す。
【0019】
【表2】

数値は、平均値±標準偏差(n=6)を示す。
※は対照と比較して有意差があることを示す(p<0.05)。
【0020】
表2の結果、SDF−1を添加した群は、SDF−1を添加していない群(対照)に比べて2倍以上のヒアルロン酸産生促進能を示した。このことから、SDF−1には、皮膚線維芽細胞に働きかけ、ヒアルロン酸産生を促進する作用があることが明らかとなり、ヒアルロン酸産生促進剤として有用であることが示された。
【0021】
[試験例3]
SDF−1がヒアルロン酸合成酵素遺伝子(Has2)のmRNA発現へ及ぼす影響について、正常ヒト新生児包皮皮膚線維芽細胞(NHDF(NB))を用いた細胞実験及びリアルタイムPCR法を用いて確認した。具体的には、NHDF(NB)細胞を24穴プレートに0.5×10cells/wellになる様に播種し、MEDIUM106培地(GIBCO社製)にて37℃、5%CO環境下にて7日間培養した。7日間の培養期間のうち最終の24時間について、試料Aをそれぞれ100nM、500nM、1μMになるようにMEDIUM106培地に溶解したものを細胞に添加した後、total RNAを回収しcDNAを合成した。培養した細胞にRNA抽出剤であるISOGEN(ニッポンジーン社製)を0.5ml添加し5分間静置した後、ピペッティングにて可溶化させた細胞液を1.5ml容チューブに回収した。細胞液に0.1mlのクロロホルムを添加し、十分に攪拌した後、二層に分離した上層(水層)を新たな1.5ml容チューブに回収した。回収液に0.25mlの2−プロピルアルコールを添加し、10分間静置後、15,000rpm、4℃にて15分間遠心し、total RNAの沈殿物を得た。得られた沈殿物は、70%エタノールにて洗浄した後、DEPC水に溶解しRNA液とした。1μg分のRNAからTakara PrimeScriptTM RT reagent Kit を用いてcDNAを合成した。得られたcDNAをテンプレートとして、SYBR Green (Takara SYBR Prime Ex Taq II)を使用したリアルタイムPCRを行った。反応条件は、95℃、30秒の初期変性後、95℃、5秒の変性、57℃、15秒のアニーリング、72℃、20秒の伸張であり、合計40サイクル反応させた。プライマーは表3に記載のHas2遺伝子発現確認用プライマーを使用した。結果を図1に示す。
【0022】
【表3】

【0023】
図1により、SDF−1をNHDF(NB)細胞に添加した時に、Has2遺伝子のmRNA発現量は、SDF−1の濃度に依存して有意に亢進された。
【実施例1】
【0024】
表4に示す配合のヒアルロン酸産生促進用飲料を常法により製造した。製造した飲料の風味は良好で沈殿等の問題もなかった。
【0025】
【表4】

【実施例2】
【0026】
表5に示す配合のドウを常法により作製し、成形した後、焙焼してヒアルロン酸産生促進用ビスケットを製造した。
【0027】
【表5】
【実施例3】
【0028】
表6に示す配合のヒアルロン酸産生促進剤を常法により製造した。
【0029】
【表6】


【実施例4】
【0030】
表7に示す配合の化粧水を常法により製造した。
【0031】
【表7】
【実施例5】
【0032】
表8に示す配合のクリームを常法により製造した。
【0033】
【表8】

【0034】
[試験例5]
実施例4で得られた化粧水及び実施例5で得られたクリームを用いて、実使用テストを行った。比較品としては、SDF−1を除いた以外は実施例4及び5と同じ配合のものを用いた。顔面のたるみや小ジワが認められ、なおかつ乾燥感を有する成人女性20人を、それぞれ10人ずつ無作為に2群(A、B群)に、また、手に肌荒れが認められる女性20人を、それぞれ10人ずつ無作為に2群(C、D群)に分け、A群の顔面には本発明品の化粧水2gを、B群の顔面には比較品の化粧水2gを、C群の手指には本発明品のクリーム2gを、D群の手指には比較品のクリーム2gを、それぞれ1日2回通常の使用状態と同様に10日間塗布した。結果を表9に示す。
【0035】
【表9】
++;10日間塗布後に顕著な改善効果あり。
+;10日間塗布後に改善効果あり。
±;10日間塗布後に改善効果なし(10日前と変わらない)。
【0036】
表9の結果より、本発明品の化粧水は、比較品の化粧水に比べて、乾燥感の改善、シワ等の改善が顕著であり、ヒアルロン酸産生促進効果に優れていることが実証された。また、本発明品のクリームについても、比較品のクリームに比べて、乾燥感の改善、肌荒れに顕著な改善がみられ、肌荒れ等の自然増悪抑制効果を有することが明らかとなった。
【0037】
[試験例6]
変形性関節炎による軽度の痛みを有する患者20名を対象に、実施例3の飲料を1日1回100g飲用し、1年間の臨床試験を行った。関節の疼痛および機能の評価を、疼痛に対するビジュアルアナログスケール(VAS)、及び、関節炎の関節における疼痛、機能、および硬直に関するWestern Ontario and McMaster Universities(WOMAC)指標にて変形性関節症の評価を行った。結果を表10に示す。
【0038】
【表10】

数値は、平均値±標準偏差(n=20)を示す。
※ は初期値と比較して有意差があることを示す(p<0.05)。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、皮膚の荒れ、シワ、弾性低下、関節機能低下等を防止するのに有用なヒアルロン酸産生促進剤、ヒアルロン酸産生促進用サプリメント、飲食品及びヒアルロン酸産生促進用化粧料に関する。
図1