【実施例1】
【0018】
図1に、本実施例の検査装置全体の概観を示す。
【0019】
床に設置される架台6には、床振動を除振するマウント7が取付けられており、更にマウント7は真空容器である試料室2を支持している。試料室2の上部には電子線12を生成し試料上を走査するように制御するカラム1が取り付けられている。カラム1には電子線12を発生する電子源11の他、試料上を走査するように電子線12を偏向させる偏向器や、電子線12を試料上に収束させる対物レンズなどが含まれている。また、その他各種レンズや絞りが含まれていてもよく、荷電粒子光学系の構成はこれに限られない。また、カラム1には、試料に電子線を照射することによって得られる二次電子や反射電子等の二次的荷電粒子を検出する検出器13が取り付けられている。
【0020】
試料室2には、試料を保持及び移動するためのステージ8が内包されており、水平面内(XY平面)の駆動が可能となっている。ステージ8の詳細は
図2,3を用いて後述する。
【0021】
試料室2の側方には、予備排気室4と試料室2との間でウエハを搬送する搬送ロボット40が内包される搬送室3が取り付けられ、さらに搬送室3の側方に予備排気室4が取り付けられている。試料室2は図示しない真空ポンプにより常時真空排気されており、カラム1内も図示しない高真空用ポンプ(イオンポンプなど)により高真空度に保たれている。一方、予備排気室4には大気との隔離を行う大気側ゲートバルブ42と、試料室2との隔離を行う真空側ゲートバルブ41が取付けられており、内部にはウエハ台43が内包されている。
【0022】
ここで、ウエハの搬送経路を簡単に説明する。
【0023】
大気側ゲートバルブ42をオープンし、図示しない搬送ロボットによって大気側からウエハ10を予備排気室4内のウエハ台43に導入する。次に、大気側ゲートバルブ42をクローズし、予備排気室4内を図示しない真空ポンプにより真空排気する。真空度が試料室2内と同程度になったら、真空側ゲートバルブ41をオープンし、試料室2に内包されるステージ8上にウエハ10をロボット40により搬送する。ステージ8の静電チャック23上にウエハ10を配置し、静電吸着を実施する。
【0024】
ステージ8上に搬送されたウエハ10の位置は、レーザ干渉計20によりステージ位置を計測することで、管理される。観察したい座標にステージを位置決めし、電子線を走査することで得られる二次的荷電粒子の信号を検出器13にて検出する。この信号と走査情報を基に制御系16に含まれる画像処理部で演算して画像を生成する。画像はモニタ17にSEM像として表示してもよいし、図示しないハードディスクなどの記憶装置に保存してもよい。
【0025】
本実施例の検査装置には、このほかにも各部分の動作を制御する制御系や電源が含まれている(図示省略)。上記の制御系や画像生成部は、専用の回路基板によってハードウェアとして構成されていてもよいし、当該検査装置に接続されたコンピュータで実行されるソフトウェアによって構成されてもよい。ハードウェアにより構成する場合には、処理を実行する複数の演算器を配線基板上、または半導体チップまたはパッケージ内に集積することにより実現できる。ソフトウェアにより構成する場合には、コンピュータに高速な汎用CPUを搭載して、所望の演算処理を実行するプログラムを実行することで実現できる。このプログラムが記録された記録媒体により、既存の装置をアップグレードすることも可能である。また、これらの装置や回路、コンピュータ間は有線又は無線のネットワークで接続され、適宜データが送受信される。
【0026】
ここで
図2及び
図3を参照しつつ、ステージの構造について説明する。
図2は本実施例のステージ8の正面図、
図3は本実施例のステージ8の側面図である。なお、以下で説明するステージ構造は一例であって、ステージの構造は以下に限定されない。例えば実施例2で述べるステージ構造を採用してもよい。
【0027】
ステージ8全体を支えるベース24上には、Xリニアモータ固定子29とXガイド27が取り付けられている。Xガイド27上にXテーブル25が実装される。Xテーブル25にはXリニアモータ可動子30、Xブレーキ33、Yリニアモータ固定子31、及びYガイド28が取り付けられている。Yガイド28上にはYテーブル26が実装される。Yテーブル26にはYリニアモータ可動子32、Yブレーキ34、静電チャック23、及びバーミラー22が取り付けられている。以下ではリニアモータ可動子、リニアモータ固定子を合わせてリニアモータまたは単にモータと称する。
【0028】
Xリニアモータ固定子29とXリニアモータ可動子30との相互作用によりXガイド27方向に力が発生する。より具体的にはコイルに電流を流すことで、マグネットが作る磁場との相互作用による力が発生し、この力により、Xリニアモータ可動子30と一緒にXテーブルが、Xガイド27に沿って移動する。また、Xブレーキ33をベース24に押し当てることにより発生する摩擦力によりXテーブルを静止状態に保持することができる。Y方向についても同様であるが、Yブレーキ34はXテーブル25に押し当てられ、この摩擦力によってYテーブル26を静止状態に保持する。本構成のブレーキは、各テーブルの両側から押圧するものであり互いに対向する方向に力をかけるため、ブレーキによる摩擦力以外の力は相殺される。
【0029】
なお、上記構成の一例として、リニアモータの固定子はマグネット、可動子はコイルとしてもよい。リニアモータ可動子は複数のコイルからなってもよい。また、一例として、リニアモータ固定子は複数のマグネットからなり、隣り合うマグネットは互いに異なる方向の磁場を形成するように配置されている。上記構成はコイル側が移動するムービングコイルの構成を示したが、本実施例のリニアステージはこれに限られるものではない。リニアステージにおいては、リニアモータの駆動によりコイルに電流が流れ、磁場を発生して推力を得る仕組みとなるが、同時にコイル抵抗によって発熱源となる。
【0030】
また、ブレーキは、ピエゾ素子等のアクチュエ−タを内蔵したON/OFF制御できるアクティブブレーキが好ましいが、具体的構成はこれに限られるものではなく、可動テーブルを静止状態に保持するアクティブブレーキであればよい。
【0031】
ステージの動作、すなわちXY方向それぞれのリニアモータ可動子やリニアモータ固定子、ブレーキの制御は制御系16によって行われる。つまり、以下で説明するモータの電流量の制御は制御系16が行う。制御系16と各部材はそれぞれ信号線により制御信号が送受信されるものとする。
【0032】
次に、
図4を用いて、ステージ移動時のシーケンスについて説明する。
【0033】
始めに、レーザ干渉計によって得られる情報よりステージの現在位置情報を取得する(S10)。
【0034】
次に、現在位置と目標位置、速度、加速度等の駆動条件から駆動プロファイルを生成する(S20)。
【0035】
次に、ブレーキのアクチュエータをOFFにし、ブレーキを解除し(S30)、目標位置への移動を開始する(S40)。
【0036】
レーザ干渉計による現在位置情報を取得しつつ(S50)、目標位置の許容範囲内かをリアルタイムに判定を実行する(S60)。ここで、リアルタイムとはステージ位置を計測する時間間隔当たりのステージの移動距離が十分短くなるような所定の時間間隔ごとの計測も含む意味である。
【0037】
判定がOKならばブレーキをONし(S70)、ステージ位置をその位置に固定して、位置決め動作を終了する。
【0038】
前述したようにリニアモータの発熱源はコイル部である。上記の構成例では、Xリニアモータ可動子30及びYリニアモータ可動子32から発熱する。ステージ駆動中はガイドレールおよびベースを介して放熱される放熱量より発熱量が大きく、ステージ全体の温度が上がる。一方、ステージが停止しているときにはステージ駆動時に比べて発熱量が小さくなるため、ステージ全体の温度はステージ駆動時より下がる。したがって、ステージが移動、停止を繰り返すと、ステージの温度が変動し、これにより位置決め精度が悪くなってしまう。このことを
図5〜7を用いて詳述する。
【0039】
まず、
図5及び
図6を用いて、リニアモータからの熱の伝達経路について説明する。ここでは、ステージ停止中の熱伝達を考えるため、ブレーキONの状態を図示している。
図5はXリニアモータ可動子からの伝熱経路51、
図6はYリニアモータ可動子からの伝熱経路52を示すものである。
【0040】
Xリニアモータ可動子の熱はXテーブルを通過し、XガイドまたはXブレーキを介してベースに到達する。ベースは試料室に搭載されているため、ベースに伝わった熱は試料室に伝達し、大気へ放熱される。また、試料室に冷却水を流す構造が備えられていると、冷却水を介して図示しない温調装置に吸熱されることになる。
【0041】
Yリニアモータ可動子の熱はYテーブルを通過し、YブレーキまたはYガイドを介してXテーブルに到達する。その後は、XガイドまたはXブレーキを介してベースに伝達され、図示しないチラーからの冷却水により試料室に吸熱される。
【0042】
ここでは伝熱モデルを単純化するため、Yテーブル>Xテーブル>ベース>試料室の順で温度が高いことを仮定している。そのため、伝熱は図の上から下に流れる経路となっている。実際は過渡状態においてテーブル温度が逆転する現象が発生するが、本発明は直接その効果に影響されるものでは無いため、ここでは単純化したモデルを想定する。また、実際には輻射による熱交換も発生するが、一般に熱伝導に比べて小さいためここでは無視する。
【0043】
このようなステージでは、リニアモータ可動子を起点として温度勾配が生じるため、各部品の温度は一様ではない。ヒータをテーブルに実装して制御する方法では、このような温度勾配を模擬することが困難である。特に、実際の装置稼動状態では、主な熱源がアクチュエータであるため、時々刻々と温度勾配が変化し、温度センサのある部分は所望の温度に制御可能ではあるとしてもステージ全体を常に同じ温度に保つことは困難である。仮に温度センサとヒータによりステージの温度制御を実施しようとすると、多数のヒータと温度センサを実装し、各ヒータ制御が干渉しないよう制御しなければならず非常に複雑な制御が要求される。また、ヒータ及びヒータ用制御機器が必要になるため、コストアップに繋がる。
【0044】
また、リニアモータの発熱部(コイル)が移動しないステージ構成では、発熱部に流体を通すことも容易であるが、発熱部であるコイルが可動の場合は当該流体を流すための配管をコイルの動作と合わせて動かすことになり、擦れなどの損傷が発生した場合、真空内容器を汚染してしまうリスクがある。
【0045】
次に、
図7を用いて、ステージが移動と静止を繰り返した場合のステージの温度変化を説明する。
【0046】
図7の破線60は、温度対策を実施していない従来のステージの温度変化を示している。装置が稼動している時には、ステージ動作があるため、温度が上がり、不稼動時には温度が下がる。このため、稼動時間、ステージ動作頻度、不稼動時間によってステージの温度が大きく変化してしまう。ここで、稼働時間とはステージが実際に移動している時間、不稼働時間とはステージが静止している時間を表す。
【0047】
そこで、本実施例においては、不稼動時間にブレーキをかけながら、ブレーキの摩擦力(ガイドレールに対するステージの最大静止摩擦力)以下の範囲でリニアモータに推力を発生させておく。つまり、ステージの静止を保った状態のままで、かつ、ステージが静止状態に保持されているときにコイルに流れる電流を、ブレーキの摩擦力より大きい推力を発生させるのに必要な最小の電流量より大きくする。なお、リニアモータ機構では、実施例3にて記載するように、ステージの座標と電流値の対応関係、すなわちリニアモータ固定子のマグネット位置と各コイルに流れる電流値の関係(以下では電流プロファイルと呼ぶ)はリニアモータのドライバにより設定及び記憶されている。リニアモータステージでは一般に各相のコイルの電流量を目的の座標に対応する電流値としたときにもっとも推力が得られる。よって、ここでいう「ブレーキの摩擦力より大きい推力を発生させるのに最小の電流量」とは、ステージに推力を発生させるのに最適な電流プロファイルの位相において、ブレーキの摩擦力より大きい推力を発生させる電流量のことを意味する。
【0048】
これにより、ステージを静止状態に保ちながら、ステージ動作時と同様にモータ部分から発熱させることができる。特にブレーキの摩擦力がステージ動作時のモータの推力以上であるときには、ステージ動作時と同じまたはそれ以上の電流量をモータに流すことができるので発熱を同程度とすることができる。本実施例の方法を用いてリニアモータへの電流を制御した場合におけるステージの温度変化は
図7の実線61である。T0は十分に長い時間、ステージを停止させて、暖機運転を行った場合に到達する温度を示している。このように装置不稼働時にリニアモータに発熱を生じる制御を行うことを以下、暖機運転と呼ぶこととする。特に本明細書で「暖機運転」とは、ステージの静止を保ちつつ、ステージに推力を与えるようにリニアモータのコイルに電流を流すことを意味する。
【0049】
図8に、本実施例を用いた場合のモータの稼働率を示す。ここで、モータの稼働率とは、モータの定格電流に対する所定時間当りの平均電流量を示しており、稼働率が大きい程、モータ発熱量は大きくなる。所定時間とはモータの稼働率を算出するのに用いる時間間隔であり、例えば一定の時間間隔や単位時間であってもよい。稼働率=平均電流÷定格電流となるが、モータの焼損等のリスクを考え、通常1以下の運用が望ましい。
図8の横軸は、
図7の横軸に対応するものである。モータ稼働率はモータへの電流量および単位時間当たりの発熱量に対応する量である。
【0050】
ステージ稼働時のモータの稼働率をD1、ステージ不稼働時のモータの稼働率をD0とする。ここで、モータをD0で稼働した場合、ブレーキをかけないとステージが駆動されてしまうが、モータの稼働率がD0のときの推力より大きな摩擦力のブレーキをかけることで、ステージを静止状態に保つことができる。
【0051】
なお、上記の通り、本実施例において不稼働時間にリニアモータに生じさせる発熱量を、稼動時のステージ動作によって生じる発熱量と等価にすることで、不稼働状態であっても稼動状態と同じ発熱状況が再現できるが、実際は暖機運転時のモータ稼働率は過去のステージ移動実績から算出したものであるため、ステージ移動時のモータ稼働率と、暖機運転時のモータ稼働率に差が発生する。したがって、両者は完全には同じ稼働率にはならない。それでもなお、実際の駆動状態に近い稼働率で装置不稼働時に暖気運転できれば、
図7の実線のように温度変化が抑えられる。
【0052】
図9ないし
図11を用いて、リニアモータに与える推力の算出方法について、説明する。
【0053】
図9は、ステージが断続的に移動している時にリニアモータ可動子(コイル)に流れる電流を示している。主にステージの加速区間(a)、一定速区間(b)、減速区間(c)からなり、ステージ動作の待ち時間でSEM像取得や、ウエハ搬送動作などが実行される。ここで、一定速区間(b)では、ガイドの転がり抵抗やオイルの粘性抵抗により若干の推力が必要となるため、電流が流れている。また減速区間(c)では、逆にガイドの転がり抵抗やオイルの粘性抵抗によりモータ負荷が軽減されるため、加速区間(a)よりも小さい電流値となる。
【0054】
コイルの発熱Wは以下の式で求めることができる。
【0055】
W=V・I=Ω・I
2
従って、
図9の電流によって単位時間当たりに生じる発熱量は
図10のようになる。この塗りつぶされた面積を総稼動時間Tで割ると稼動時の平均発熱量Waが計算できる(
図11参照)。次に、この平均発熱量Waより平均電流量Iaを以下の式にて求めることができる。
【0056】
Ia=(Wa/Ω)
1/2
この平均電流量Iaを不稼働時のリニアモータに流すことで、稼動時と等価の発熱状態を継続できることになる。但し、ブレーキによる摩擦力を超える推力が発生しないように、予め上限値を算出して、それ以上の推力がでないような制御方法をソフト、或いは電気的ハードにて作り込む必要がある。
【0057】
上記のような暖機運転時に流す電流値、すなわち暖機運転時にリニアモータに発生させる推力は、過去の推力の履歴から決定できる。具体的には、ステージ移動時の推力指令値(電流値)をメモリなどの記憶部に記憶し、制御系にて稼動時間が終了したときに蓄えられた推力指令値ログと稼動時間より計算可能である。つまり、総稼働時間にわたる電流値の積分値を発熱量に換算しこれを総稼働時間で除算すれば、単位時間当たりの平均発熱量が得られるので、この平均発熱量に対応する電流値を暖機運転時に流す電流量とすればよい。なお、ここでは説明のため、総稼働時間で平均するとしたが、計算対象とする所定の時間範囲を設定しておき、この設定された時間で平均してもよい。
【0058】
その後、その推力指令値が予め設定されたブレーキの摩擦力を超えるか否かを判定し、超えない範囲であれば不稼動時の指令値として採用される。一方、ブレーキの摩擦力を超えた場合は、ブレーキの摩擦力を超えない上限値を推力指令値として与える。ここで、上限値は摩擦力に安全率を考慮して設定すると、温度の影響や経時変化の影響があっても安定してステージが動かない状況となるため、好ましい。上記の電流量を求める処理は、ある一連のシーケンスが終わるたびに行ってもよいし、複数回シーケンスが実行されるたびに行ってもよい。また、一定時間ごとに行ってもよい。
【0059】
実際の装置稼動状況では、検査レシピと呼ばれる予め設定されたシーケンスに則り、ステージ動作が実行される。
図12はその一例であり、R1ないしR4までの動作に分類できる。
【0060】
R1はウエハ搬送動作時間である。R1ではステージ移動は無いため、モータの電流値は0となる。R2は、ウエハ上のパターンを複数個確認して装置座標とウエハ座標を合せ込むアライメント動作を表している。
図12では、ステージ制御は加速度を徐々に増加及び減少させるジャーク制御を想定しているため、電流値のグラフは傾斜を持っている。前述した
図9では加速度を一定値とするジャーク制御無しの加速及び減速動作を想定していたため、電流値のグラフは矩形となっている。当然ながらR2においても
図9のように加速度を一定として加減速してもよい。以下、R3,R4においても同様である。R3は実際に検査する動作である。R3において、ステージはウエハ内の多点を移動するため、1回当りの移動距離が短く、最高速度まで到達しない内に減速に移行する。そのため、モータに流れる電流値も小さい。R4はウエハのアンロード動作である。アンロード位置までステージが移動し、その後待ち時間となる。このような一連のステージ動作履歴を基に平均電流値Waが導出できる。したがって、例えばウエハをアンロードするたびに次のウエハの検査処理における暖機運転時の平均電流量を求めてもよい。また、連続してウエハが投入された場合は、このようなステージ動作が連続するため、全てのウエハ検査シーケンスが終了するまでを計算対象としてもよい。これによって、より計算精度が増し、実態と合致した暖機運転時の指令値を得ることができる。
【0061】
また別の方法として、実行予定のレシピが既知であり、ステージ移動プロファイルがある程度予想できれば、暖機運転時の電流指令値が計算可能である。つまり、将来のステージの動作予定に基づいて、この動作予定通りステージを動かすときに発生するであろう推力の時間平均を推測し、この推測した結果に基づいて暖機運転時の推力(すなわちリニアモータのコイルに流す電流値)を決定することができる。
【0062】
また別の方法として、1時間毎、1日毎、1週間毎など時間を広げて計算することも効率良くステージ温度の制御できる方法となる。
【0063】
例えば、1枚のウエハを観察する検査レシピのみを計算する場合、
図13に示すように装置稼動率が低い状況では、装置不稼働時の方が長く、1枚のウエハの観察だけでは
図14のように殆どステージ温度は上がらず、すぐに元の温度に戻ってしまう。よって、次の検査においても温度変化の影響を殆ど受けずに終了することになる。これに対して
図15に示すように、装置不稼働状態に1枚のウエハを観察する検査レシピのみで計算された指令値を与え続けると、
図16のように比較的温度の高い状態で一定にステージ温度を保つことができるが、装置不稼働状態でも連続して検査レシピが流れる状況に相当する電流を流すこととなり、消費電力が大きい設定となる。
【0064】
前述のように、所定の時間間隔の計算範囲を設定することで、装置不稼働状態の時間も指令値計算に含まれるため、有る程度の温度変化が許容できれば、装置不稼働時に与える指令値を小さく抑えることができる。
図17は、装置不稼働状態の時間も指令値計算に含めた場合を示しており、稼動状態の電流より小さい電流を暖気運転時の指令値に設定している。その結果、
図18の温度曲線に示す通り、装置稼動時に若干の温度変化はあるものの、不稼動時との変化は小さいため、全体の消費電力を抑えながらも、温度変化を抑えることができる。但し、温度変化は、ステージの比熱や、ステージ駆動条件、稼動率、チラーの排熱容量など様々な要因が関連するため、実験により温度と暖機運転時の指令値との相関を予め把握することが必要である。
【実施例3】
【0071】
次に、
図23及び
図24を用いて、第3の実施例を説明する。本実施例では、所定の時間ごとにステージを所定距離だけ移動して各位置で実施例1〜2で述べた暖機運転を行う例を説明する。
【0072】
まず、リニアモータの構造について説明する。通常リニアモータは3相(U相、V相、W相)のコイルで構成されることが多く、また、各相が1つの可動子に複数の同相のコイルが使用される。
図23では各相2個のコイルを配置した場合の可動子を示している。U相コイル35、V相コイル36、W相コイル37の合計6個のコイルからリニアモータ可動子(30,32)が構成される。リニアモータ固定子には、隣り合うマグネットが互いに異なる向きの磁場を生成するように、複数のマグネットが配置されている。
【0073】
図24は、ステージを移動させた場合に各座標でどのような電流が各相に流れるかを示している。
図24の横軸のステージ座標とは、ステージのある基準位置に対する座標(例えばレーザ干渉計で測定した値)を意味している。
図24の縦軸は各相のコイルに流れる電流値であり、この座標と電流値の対応関係、すなわちリニアモータ固定子のマグネット位置と各コイルに流れる電流値の関係(以下では電流プロファイルと呼ぶ)はリニアモータのドライバにより設定及び記憶されている。リニアモータステージでは一般に各相のコイルの電流量を目的の座標に対応する電流値としたときにもっとも推力が得られる。
【0074】
あるステージ座標で暖機運転を実行すると、推力指令を基に各コイルに流れる電流を決定する際には、3相であるため360°÷3=120°の位相差を各相に与えながら、サインカーブ状の電流値が設定される(
図24参照)。
【0075】
従って、ステージ位置により電流が多く流れるコイルと、少なく流れるコイルが存在する。例えば、ステージ座標Aでは、U相のコイルには大きな電流が流れるが、V相コイル、W相コイルにはほとんど電流が流れない状態となる。このため、同じ位置で暖気運転を続けると、リニアモータ可動子内に温度分布が発生する。一方、ステージのテーブル内でも同様に同じ座標で暖気運転し続けるとその場所での温度分布になり、実際の稼動状態とは異なる温度分布となる。
【0076】
本不具合の解決策としてある時間毎にステージを移動させて、温度分布をより稼動状態に近い傾向にする。また、その移動距離はリニアモータ固定子のマグネットピッチ(P)とは異なる距離が望ましい。同じ方向の磁界を形成するマグネットのピッチ(P)と同じ距離で動かすと、次の場所でも各コイルに同じ電流が流れるからである。例えば、60mmのコイルピッチならば、1回の移動距離を20mmにして2回移動し、各位置で暖機運転を同じ時間実行すると、3か所での合計の電流値は各コイルで同じとなる。しかし、ステージ稼動範囲が500mmなどの場合は、あまり移動距離が短いと暖気運転時間内にステージの限られた稼動範囲しか移動できなくなるため、移動距離Lを
L=n×P+P×(1/3)=P(n+1/3)
或いは
L=n×P+P×(2/3)=P(n+2/3)
とすれば、可動子及びステージ全体を装置稼動状態に近い温度分布に設定できる。
【0077】
なお、理想的には上記のような移動距離が望ましいが、移動距離がマグネットピッチ(P)の非整数倍であれば、温度分布を一様にする効果が得られる。
【0078】
上述のように決まる移動距離だけ一定時間ごとにステージを移動して各位置で実施例1〜2に述べた暖機運転を行うことで、当該一定時間内で各相のコイルに流れる累積電流値は同じとなるので、リニアモータ可動子内およびステージテーブル内での温度分布が一様になる。ただし、あまり頻繁に移動するとステージ可動部の寿命に影響するため、制御ソフトの設定によって30分毎や、1時間毎など時間間隔を可変にできることがさらに望ましい。これによって、装置の稼動状況に合わせて時間間隔を設定することができる。