特許第6523623号(P6523623)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6523623
(24)【登録日】2019年5月10日
(45)【発行日】2019年6月5日
(54)【発明の名称】荷電粒子線装置およびステージ制御方法
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/20 20060101AFI20190527BHJP
   H01L 21/027 20060101ALI20190527BHJP
   H01L 21/68 20060101ALI20190527BHJP
【FI】
   H01J37/20 D
   H01L21/30 541L
   H01L21/30 502V
   H01L21/68 K
【請求項の数】18
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2014-139283(P2014-139283)
(22)【出願日】2014年7月7日
(65)【公開番号】特開2016-18623(P2016-18623A)
(43)【公開日】2016年2月1日
【審査請求日】2017年3月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100091720
【弁理士】
【氏名又は名称】岩崎 重美
(72)【発明者】
【氏名】水落 真樹
(72)【発明者】
【氏名】西岡 明
(72)【発明者】
【氏名】中川 周一
(72)【発明者】
【氏名】小川 博紀
【審査官】 道祖土 新吾
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−235082(JP,A)
【文献】 特開2013−229530(JP,A)
【文献】 特開2012−009888(JP,A)
【文献】 特開2004−111684(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/145290(WO,A1)
【文献】 特開2007−184193(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 15/00 −15/08
H01J 37/20
H01L 21/3205−21/3213
H01L 21/64 −21/683
H01L 21/768
H01L 23/522
H01L 23/532
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物に荷電粒子線を照射することにより画像を取得する荷電粒子線装置において、
前記対象物をガイドレールに沿って移動させるステージと、
コイル及びマグネットからなり、前記コイルに電流を流すことで発生する推力により前記ステージを移動させるリニアモータ機構と、
前記コイルに流す電流を制御する制御部と、
前記ステージを固定するブレーキと、を有し、
前記制御部は、前記ステージの不稼働時間に前記ブレーキをかけつつ、前記ステージ動作時と同じまたはそれ以上の電流量であって、当該ブレーキによってもたらされる前記ガイドレールに対する前記ステージの静止摩擦力以下の推力を発生するような電流を、前記コイルに供給することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項2】
請求項1に記載の荷電粒子線装置において、
前記制御部は、前記ブレーキによって前記ステージを固定した状態で、前記ステージが動作している状態において前記コイルへ流される電流量以上の電流を前記コイルに流すように制御することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項3】
請求項2に記載の荷電粒子線装置において、
前記ステージの静止を保った状態において前記コイルに流される電流によって発生する推力は、前記ブレーキによる摩擦力以下であることを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項4】
請求項1に記載の荷電粒子線装置において、
前記制御部は、前記ステージの位置座標に対して前記コイルに流す電流量が対応づけられた第1の電流プロファイルと、前記第1の電流プロファイルとは位相がずれた第2の電流プロファイルを切り替え可能であることを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項5】
請求項4に記載の荷電粒子線装置において、
前記第1の電流プロファイルは前記ステージを駆動するときに用いられ、前記第2の電流プロファイルは前記ステージが静止した状態で用いられることを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項6】
対象物に荷電粒子線を照射することにより画像を取得する荷電粒子線装置において、
前記対象物をガイドレールに沿って移動させるステージと、
コイル及びマグネットからなり、前記コイルに電流を流すことで発生する推力により前記ステージを移動させるリニアモータ機構と、
前記コイルに流す電流を制御する制御部と、
前記ステージを固定するブレーキと、を有し、
前記制御部は、前記ステージの不稼働時間に前記ブレーキをかけつつ、当該ブレーキによってもたらされる前記ガイドレールに対する前記ステージの静止摩擦力以下の推力を発生するように、前記コイルに電流を供給するとともに、
前記ステージの位置座標に対して前記コイルに流す電流量が対応づけられた第1の電流プロファイルと、前記第1の電流プロファイルとは位相がずれた第2の電流プロファイルを有し、
前記第1の電流プロファイルは前記ステージを駆動するときに用いられ、前記第2の電流プロファイルは前記ステージが静止した状態で用いられ、
前記第2の電流プロファイルによって規定される電流量は前記第1の電流プロファイルによって規定される電流量より大きいことを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項7】
請求項1に記載の荷電粒子線装置において、
前記リニアモータ機構に発生した推力の過去の履歴を記憶する記憶部を有し、
前記制御部は、前記過去の履歴を時間平均処理して、前記ステージの静止を保った状態において前記リニアモータに発生させる推力を決定することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項8】
請求項1に記載の荷電粒子線装置において、
前記制御部は、将来の前記ステージの動作予定に基づいて将来発生する前記ステージの推力の時間平均を推測し、前記推測した結果に基づいて前記ステージの静止を保った状態において前記リニアモータに発生させる推力を決定することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項9】
対象物に荷電粒子線を照射することにより画像を取得する荷電粒子線装置において、
前記対象物をガイドレールに沿って移動させるステージと、
コイル及びマグネットからなり、前記コイルに電流を流すことで発生する推力により前記ステージを移動させるリニアモータ機構と、
前記コイルに流す電流を制御する制御部と、
前記ステージを固定するブレーキと、
前記ステージの温度を計測する温度センサと、を有し、
前記制御部は、前記ステージの不稼働時間に前記ブレーキをかけつつ、当該ブレーキによってもたらされる前記ガイドレールに対する前記ステージの静止摩擦力以下の推力を発生するように、前記コイルに電流を供給するとともに、
前記温度センサにより計測される温度が所定の目標温度範囲に収まるように前記コイルに流す電流量を決定することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項10】
対象物に荷電粒子線を照射することにより画像を取得する荷電粒子線装置において、
前記対象物をガイドレールに沿って移動させるステージと、
コイル及びマグネットからなり、前記コイルに電流を流すことで発生する推力により前記ステージを移動させるリニアモータ機構と、
前記コイルに流す電流を制御する制御部と、
前記ステージを固定するブレーキと、を有し、
前記制御部は、前記ステージの不稼働時間に前記ブレーキをかけつつ、当該ブレーキによってもたらされる前記ガイドレールに対する前記ステージの静止摩擦力以下の推力を発生するように、前記コイルに電流を供給するとともに、
所定時間ごとに、前記ステージを前記マグネットが配置された間隔の非整数倍の距離だけ移動させることを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項11】
対象物をガイドレールに沿って移動させるステージと、
コイル及びマグネットからなり、前記コイルに電流を流すことで発生する推力により前記ステージを移動させるリニアモータ機構と、
前記コイルに流す電流を制御する制御部と、
前記ステージを固定するブレーキと、を有する荷電粒子線装置におけるステージ制御方法において、
前記ステージの不稼働時間に前記ブレーキをかけつつ、前記ステージ動作時と同じまたはそれ以上の電流量であって、当該ブレーキによってもたらされる前記ガイドレールに対する前記ステージの静止摩擦力以下の推力を発生するような電流を、前記コイルに供給することを特徴とするステージ制御方法。
【請求項12】
請求項11に記載のステージ制御方法において、
前記ブレーキによって前記ステージを固定した状態で、前記ステージが動作している状態において前記コイルへ流される電流量以上の電流を前記コイルに流すように制御することを特徴とするステージ制御方法。
【請求項13】
請求項12に記載のステージ制御方法において、
前記ステージの静止を保った状態において前記コイルに流される電流によって発生する推力は、前記ブレーキによる摩擦力以下であることを特徴とするステージ制御方法。
【請求項14】
請求項11に記載のステージ制御方法において、
前記ステージの位置座標に対して前記コイルに流す電流量が対応づけられた第1の電流プロファイルによって前記コイルに電流を流して前記ステージを駆動し、
前記第1の電流プロファイルとは位相がずれた第2の電流プロファイルによって前記ステージが静止した状態で前記コイルに電流を流すことを特徴とするステージ制御方法。
【請求項15】
請求項11に記載のステージ制御方法において、
前記リニアモータ機構に発生した推力の過去の履歴を記憶し、
前記過去の履歴を時間平均処理して、前記ステージの静止を保った状態において前記リニアモータに発生させる推力を決定することを特徴とするステージ制御方法。
【請求項16】
請求項11に記載のステージ制御方法において、
将来の前記ステージの動作予定に基づいて将来発生する前記ステージの推力の時間平均を推測し、
前記推測した結果に基づいて前記ステージの静止を保った状態において前記リニアモータに発生させる推力を決定することを特徴とするステージ制御方法。
【請求項17】
請求項11に記載のステージ制御方法において、
前記ステージの温度が所定の目標温度範囲に収まるように前記コイルに流す電流量を決定することを特徴とするステージ制御方法。
【請求項18】
対象物をガイドレールに沿って移動させるステージと、
コイル及びマグネットからなり、前記コイルに電流を流すことで発生する推力により前記ステージを移動させるリニアモータ機構と、
前記コイルに流す電流を制御する制御部と、
前記ステージを固定するブレーキと、を有する荷電粒子線装置におけるステージ制御方法において、
前記ステージの不稼働時間に前記ブレーキをかけつつ、当該ブレーキによってもたらされる前記ガイドレールに対する前記ステージの静止摩擦力以下の推力を発生するように、前記コイルに電流を供給し、
所定時間ごとに、前記ステージを前記マグネットが配置された間隔の非整数倍の距離だけ移動させることを特徴とするステージ制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象物を保持するステージの制御方法、およびこれを用いたステージシステムに関する。特に、電子顕微鏡、イオンビーム加工/観察装置等の荷電粒子線装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体製品の集積度は益々向上し、その回路パターンの更なる高精細化が要求されてきている。回路パターンが形成されるウエハなどの試料において、品質管理、歩留まり向上を目的に様々な検査手段が用いられている。例えば、光を照射してウエハの異物や欠陥を検査する光学式検査装置や走査型電子顕微鏡(SEM)を用いたSEM式検査装置がある。また、荷電粒子線を照射し回路パターンの寸法精度を測定する走査型電子顕微鏡(以下、測長SEMと呼ぶ)や、荷電粒子線を照射し回路パターンの欠陥、或いは付着異物を高倍率で撮像して当該欠陥や異物を評価する走査型電子顕微鏡(以下、レビューSEMと呼ぶ)なども用いられる。これらの装置は検査装置と総称される。
【0003】
このような検査装置に用いられるステージとしては、真空チャンバ内において、ベース上にX方向に案内するXガイドレールを取り付け、Xテーブルを搭載し、更にその上にY方向に移動可能なYテーブルを搭載し、試料を保持するチャックを搭載する構成が一般的である。このようなステージにおいて、従来はボールネジと回転モータの組合せが駆動源となるアクチュエータとして用いられてきたが、近年構造がシンプルでメンテナンスも容易なリニアモータが用いられることが増加してきている。
【0004】
ウエハの複数箇所を連続的に観察するには、ステージを移動させて、ウエハの位置決めを行う必要がある。このとき、ステージを稼動し続けると、リニアモータの発熱によりステージが温度変化する。ステージが温度変化すると、テーブルの変形や膨張などにより、ステージ位置の位置決め精度が劣化する。また、ステージと搬送されたウエハとの温度差が大きいと、観察中にウエハの熱膨張により、所望の位置にパターンを位置決めできない不具合が生じる可能性がある。
【0005】
上記のような課題に関して、特許文献1には、「ステージが停止した後、モータに、モータ駆動に必要な励磁電流よりも少ない電流を通電してモータを発熱させて、ステージ11が加熱も冷却もされない状態に温度制御する」露光装置が開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、「試料ステージの温度が設定基準値以上になるまで試料ステージを一定動作させ」、すなわち装置不稼動状態での温度低下防ぐためにその時間の間、ステージを移動させて空運転させる電子ビーム描画装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−111684号公報
【特許文献2】特開2003−309062号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1のような方法の場合には、ステージ静止状態を維持できる程度、すなわちステージの駆動力が静止摩擦力を超えない範囲でしか電流量を調整することができない。当然ながら、一般に、ステージを駆動させるときの電流量はステージが静止状態のときの電流量より非常に大きい。発熱量は電流量と電圧によって決まるが、この方法では電流量を十分増やすことができず、ステージが動作しているときの発熱とステージが静止しているときの発熱とを同じ程度にすることができないことがある。
【0009】
そこで、特許文献2に記載のように、装置が稼働していない時間にステージを空運転させ、ステージが駆動しているときの温度を保つことが考えられる。しかしながら、この方法ではステージを本来の観察や検査に必要な稼動時間以外にも動作させるため、ステージのガイドや、屈曲配線などの寿命が短くなってしまう。
【0010】
本発明は、装置寿命に影響することなく、装置の駆動状態と静止状態とでの温度変化を低減し、試料の位置決め精度を向上させる装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明は、対象物を保持するステージと、コイルに電流を流すことで発生する推力によりステージを移動させるリニアモータ機構と、コイルに流す電流を制御する制御部と、を有するステージシステムにおいて、ステージの静止を保った状態におけるコイルに流れる電流を、ガイドレールに対するステージの最大静止摩擦力より大きい推力を発生させるのに必要な最小の電流量より大きくする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、装置寿命に影響することなく、装置の駆動状態と静止状態とでの温度変化を低減させることができるので、試料の位置決め精度を向上させることができる。
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】検査装置本体の概観側面図。
図2】実施例1のステージ正面図。
図3】実施例1のステージ側面図。
図4】実施例1のステージ位置決めのフローチャートを示す説明図。
図5】X軸用リニアモータが発生する熱の伝達経路を示す説明図。
図6】Y軸用リニアモータが発生する熱の伝達経路を示す説明図。
図7】ステージの温度変化を示す対比説明図。
図8】暖気運転中のモータ稼働状態を示す説明図。
図9】ステージ駆動中にリニアモータに流れる電流を示す説明図。
図10】ステージ駆動中にリニアモータで発生する発熱量を示す説明図。
図11】ステージ駆動中にリニアモータで発生する平均発熱量を示す説明図。
図12】ウエハ処理シーケンスでリニアモータに流れる電流量を示す説明図。
図13】稼働率の低い装置におけるモータ稼働率を示す説明図。
図14】稼働率の低い装置のステージ温度変化を示す説明図。
図15】稼働率の低い装置に対して暖機運転を適用した場合の電流量を示す説明図。
図16】稼働率の低い装置に対して暖機運転を適用した場合のステージ温度を示す説明図。
図17】稼働率の低い装置に対して稼働率を下げた暖機運転を適用した場合の電流量を示す説明図。
図18】稼働率の低い装置に対して稼働率を下げた暖機運転を適用した場合のステージ温度を示す説明図。
図19】実施例2のステージ正面図。
図20】実施例2のステージ側面図。
図21】実施例2の電流制御状態の一例を示す説明図。
図22】実施例2のステージ温度状態の一例を示す説明図。
図23】実施例3のリニアモータのコイル構成を示す説明図。
図24】実施例3のリニアモータのコイルに流す電流を示す説明図。
図25】実施例4のコイルに流す電流を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、検査装置の一例として走査型電子顕微鏡を用いた荷電粒子線装置の例を説明するが、これは本発明の単なる一例であって、本発明は以下説明する実施の形態に限定されるものではなく、光を用いた装置であってもよい。また、本発明において荷電粒子線装置とは荷電粒子線を用いて試料の画像を撮像する装置を広く含むものとする。荷電粒子線装置の一例として、走査型電子顕微鏡を用いた検査装置、レビュー装置、パターン計測装置が挙げられる。また、汎用の走査型電子顕微鏡や、走査型電子顕微鏡を備えた試料加工装置や試料解析装置にも適用可能である。また、以下で荷電粒子線装置とは、上記の荷電粒子線装置がネットワークで接続されたシステムや上記の荷電粒子線装置の複合装置も含むものとする。以下の実施例では、荷電粒子線装置の一例としてレビューSEMに本発明を適用した例を説明する。
【0015】
本明細書において、「欠陥」とはパターンの欠陥に限らず、異物やパターン寸法異常、構造不良等、観察対象物を広く含むものとする。
【0016】
本明細書において、「試料」とは検査や観察の対象物を広く含むものとする。以下では一例として半導体ウエハ(以下、ウエハとする)を用いる例を説明する。
【0017】
以下、図面を参照し、本発明の実施例について詳細に説明する。
【実施例1】
【0018】
図1に、本実施例の検査装置全体の概観を示す。
【0019】
床に設置される架台6には、床振動を除振するマウント7が取付けられており、更にマウント7は真空容器である試料室2を支持している。試料室2の上部には電子線12を生成し試料上を走査するように制御するカラム1が取り付けられている。カラム1には電子線12を発生する電子源11の他、試料上を走査するように電子線12を偏向させる偏向器や、電子線12を試料上に収束させる対物レンズなどが含まれている。また、その他各種レンズや絞りが含まれていてもよく、荷電粒子光学系の構成はこれに限られない。また、カラム1には、試料に電子線を照射することによって得られる二次電子や反射電子等の二次的荷電粒子を検出する検出器13が取り付けられている。
【0020】
試料室2には、試料を保持及び移動するためのステージ8が内包されており、水平面内(XY平面)の駆動が可能となっている。ステージ8の詳細は図2,3を用いて後述する。
【0021】
試料室2の側方には、予備排気室4と試料室2との間でウエハを搬送する搬送ロボット40が内包される搬送室3が取り付けられ、さらに搬送室3の側方に予備排気室4が取り付けられている。試料室2は図示しない真空ポンプにより常時真空排気されており、カラム1内も図示しない高真空用ポンプ(イオンポンプなど)により高真空度に保たれている。一方、予備排気室4には大気との隔離を行う大気側ゲートバルブ42と、試料室2との隔離を行う真空側ゲートバルブ41が取付けられており、内部にはウエハ台43が内包されている。
【0022】
ここで、ウエハの搬送経路を簡単に説明する。
【0023】
大気側ゲートバルブ42をオープンし、図示しない搬送ロボットによって大気側からウエハ10を予備排気室4内のウエハ台43に導入する。次に、大気側ゲートバルブ42をクローズし、予備排気室4内を図示しない真空ポンプにより真空排気する。真空度が試料室2内と同程度になったら、真空側ゲートバルブ41をオープンし、試料室2に内包されるステージ8上にウエハ10をロボット40により搬送する。ステージ8の静電チャック23上にウエハ10を配置し、静電吸着を実施する。
【0024】
ステージ8上に搬送されたウエハ10の位置は、レーザ干渉計20によりステージ位置を計測することで、管理される。観察したい座標にステージを位置決めし、電子線を走査することで得られる二次的荷電粒子の信号を検出器13にて検出する。この信号と走査情報を基に制御系16に含まれる画像処理部で演算して画像を生成する。画像はモニタ17にSEM像として表示してもよいし、図示しないハードディスクなどの記憶装置に保存してもよい。
【0025】
本実施例の検査装置には、このほかにも各部分の動作を制御する制御系や電源が含まれている(図示省略)。上記の制御系や画像生成部は、専用の回路基板によってハードウェアとして構成されていてもよいし、当該検査装置に接続されたコンピュータで実行されるソフトウェアによって構成されてもよい。ハードウェアにより構成する場合には、処理を実行する複数の演算器を配線基板上、または半導体チップまたはパッケージ内に集積することにより実現できる。ソフトウェアにより構成する場合には、コンピュータに高速な汎用CPUを搭載して、所望の演算処理を実行するプログラムを実行することで実現できる。このプログラムが記録された記録媒体により、既存の装置をアップグレードすることも可能である。また、これらの装置や回路、コンピュータ間は有線又は無線のネットワークで接続され、適宜データが送受信される。
【0026】
ここで図2及び図3を参照しつつ、ステージの構造について説明する。図2は本実施例のステージ8の正面図、図3は本実施例のステージ8の側面図である。なお、以下で説明するステージ構造は一例であって、ステージの構造は以下に限定されない。例えば実施例2で述べるステージ構造を採用してもよい。
【0027】
ステージ8全体を支えるベース24上には、Xリニアモータ固定子29とXガイド27が取り付けられている。Xガイド27上にXテーブル25が実装される。Xテーブル25にはXリニアモータ可動子30、Xブレーキ33、Yリニアモータ固定子31、及びYガイド28が取り付けられている。Yガイド28上にはYテーブル26が実装される。Yテーブル26にはYリニアモータ可動子32、Yブレーキ34、静電チャック23、及びバーミラー22が取り付けられている。以下ではリニアモータ可動子、リニアモータ固定子を合わせてリニアモータまたは単にモータと称する。
【0028】
Xリニアモータ固定子29とXリニアモータ可動子30との相互作用によりXガイド27方向に力が発生する。より具体的にはコイルに電流を流すことで、マグネットが作る磁場との相互作用による力が発生し、この力により、Xリニアモータ可動子30と一緒にXテーブルが、Xガイド27に沿って移動する。また、Xブレーキ33をベース24に押し当てることにより発生する摩擦力によりXテーブルを静止状態に保持することができる。Y方向についても同様であるが、Yブレーキ34はXテーブル25に押し当てられ、この摩擦力によってYテーブル26を静止状態に保持する。本構成のブレーキは、各テーブルの両側から押圧するものであり互いに対向する方向に力をかけるため、ブレーキによる摩擦力以外の力は相殺される。
【0029】
なお、上記構成の一例として、リニアモータの固定子はマグネット、可動子はコイルとしてもよい。リニアモータ可動子は複数のコイルからなってもよい。また、一例として、リニアモータ固定子は複数のマグネットからなり、隣り合うマグネットは互いに異なる方向の磁場を形成するように配置されている。上記構成はコイル側が移動するムービングコイルの構成を示したが、本実施例のリニアステージはこれに限られるものではない。リニアステージにおいては、リニアモータの駆動によりコイルに電流が流れ、磁場を発生して推力を得る仕組みとなるが、同時にコイル抵抗によって発熱源となる。
【0030】
また、ブレーキは、ピエゾ素子等のアクチュエ−タを内蔵したON/OFF制御できるアクティブブレーキが好ましいが、具体的構成はこれに限られるものではなく、可動テーブルを静止状態に保持するアクティブブレーキであればよい。
【0031】
ステージの動作、すなわちXY方向それぞれのリニアモータ可動子やリニアモータ固定子、ブレーキの制御は制御系16によって行われる。つまり、以下で説明するモータの電流量の制御は制御系16が行う。制御系16と各部材はそれぞれ信号線により制御信号が送受信されるものとする。
【0032】
次に、図4を用いて、ステージ移動時のシーケンスについて説明する。
【0033】
始めに、レーザ干渉計によって得られる情報よりステージの現在位置情報を取得する(S10)。
【0034】
次に、現在位置と目標位置、速度、加速度等の駆動条件から駆動プロファイルを生成する(S20)。
【0035】
次に、ブレーキのアクチュエータをOFFにし、ブレーキを解除し(S30)、目標位置への移動を開始する(S40)。
【0036】
レーザ干渉計による現在位置情報を取得しつつ(S50)、目標位置の許容範囲内かをリアルタイムに判定を実行する(S60)。ここで、リアルタイムとはステージ位置を計測する時間間隔当たりのステージの移動距離が十分短くなるような所定の時間間隔ごとの計測も含む意味である。
【0037】
判定がOKならばブレーキをONし(S70)、ステージ位置をその位置に固定して、位置決め動作を終了する。
【0038】
前述したようにリニアモータの発熱源はコイル部である。上記の構成例では、Xリニアモータ可動子30及びYリニアモータ可動子32から発熱する。ステージ駆動中はガイドレールおよびベースを介して放熱される放熱量より発熱量が大きく、ステージ全体の温度が上がる。一方、ステージが停止しているときにはステージ駆動時に比べて発熱量が小さくなるため、ステージ全体の温度はステージ駆動時より下がる。したがって、ステージが移動、停止を繰り返すと、ステージの温度が変動し、これにより位置決め精度が悪くなってしまう。このことを図5〜7を用いて詳述する。
【0039】
まず、図5及び図6を用いて、リニアモータからの熱の伝達経路について説明する。ここでは、ステージ停止中の熱伝達を考えるため、ブレーキONの状態を図示している。図5はXリニアモータ可動子からの伝熱経路51、図6はYリニアモータ可動子からの伝熱経路52を示すものである。
【0040】
Xリニアモータ可動子の熱はXテーブルを通過し、XガイドまたはXブレーキを介してベースに到達する。ベースは試料室に搭載されているため、ベースに伝わった熱は試料室に伝達し、大気へ放熱される。また、試料室に冷却水を流す構造が備えられていると、冷却水を介して図示しない温調装置に吸熱されることになる。
【0041】
Yリニアモータ可動子の熱はYテーブルを通過し、YブレーキまたはYガイドを介してXテーブルに到達する。その後は、XガイドまたはXブレーキを介してベースに伝達され、図示しないチラーからの冷却水により試料室に吸熱される。
【0042】
ここでは伝熱モデルを単純化するため、Yテーブル>Xテーブル>ベース>試料室の順で温度が高いことを仮定している。そのため、伝熱は図の上から下に流れる経路となっている。実際は過渡状態においてテーブル温度が逆転する現象が発生するが、本発明は直接その効果に影響されるものでは無いため、ここでは単純化したモデルを想定する。また、実際には輻射による熱交換も発生するが、一般に熱伝導に比べて小さいためここでは無視する。
【0043】
このようなステージでは、リニアモータ可動子を起点として温度勾配が生じるため、各部品の温度は一様ではない。ヒータをテーブルに実装して制御する方法では、このような温度勾配を模擬することが困難である。特に、実際の装置稼動状態では、主な熱源がアクチュエータであるため、時々刻々と温度勾配が変化し、温度センサのある部分は所望の温度に制御可能ではあるとしてもステージ全体を常に同じ温度に保つことは困難である。仮に温度センサとヒータによりステージの温度制御を実施しようとすると、多数のヒータと温度センサを実装し、各ヒータ制御が干渉しないよう制御しなければならず非常に複雑な制御が要求される。また、ヒータ及びヒータ用制御機器が必要になるため、コストアップに繋がる。
【0044】
また、リニアモータの発熱部(コイル)が移動しないステージ構成では、発熱部に流体を通すことも容易であるが、発熱部であるコイルが可動の場合は当該流体を流すための配管をコイルの動作と合わせて動かすことになり、擦れなどの損傷が発生した場合、真空内容器を汚染してしまうリスクがある。
【0045】
次に、図7を用いて、ステージが移動と静止を繰り返した場合のステージの温度変化を説明する。
【0046】
図7の破線60は、温度対策を実施していない従来のステージの温度変化を示している。装置が稼動している時には、ステージ動作があるため、温度が上がり、不稼動時には温度が下がる。このため、稼動時間、ステージ動作頻度、不稼動時間によってステージの温度が大きく変化してしまう。ここで、稼働時間とはステージが実際に移動している時間、不稼働時間とはステージが静止している時間を表す。
【0047】
そこで、本実施例においては、不稼動時間にブレーキをかけながら、ブレーキの摩擦力(ガイドレールに対するステージの最大静止摩擦力)以下の範囲でリニアモータに推力を発生させておく。つまり、ステージの静止を保った状態のままで、かつ、ステージが静止状態に保持されているときにコイルに流れる電流を、ブレーキの摩擦力より大きい推力を発生させるのに必要な最小の電流量より大きくする。なお、リニアモータ機構では、実施例3にて記載するように、ステージの座標と電流値の対応関係、すなわちリニアモータ固定子のマグネット位置と各コイルに流れる電流値の関係(以下では電流プロファイルと呼ぶ)はリニアモータのドライバにより設定及び記憶されている。リニアモータステージでは一般に各相のコイルの電流量を目的の座標に対応する電流値としたときにもっとも推力が得られる。よって、ここでいう「ブレーキの摩擦力より大きい推力を発生させるのに最小の電流量」とは、ステージに推力を発生させるのに最適な電流プロファイルの位相において、ブレーキの摩擦力より大きい推力を発生させる電流量のことを意味する。
【0048】
これにより、ステージを静止状態に保ちながら、ステージ動作時と同様にモータ部分から発熱させることができる。特にブレーキの摩擦力がステージ動作時のモータの推力以上であるときには、ステージ動作時と同じまたはそれ以上の電流量をモータに流すことができるので発熱を同程度とすることができる。本実施例の方法を用いてリニアモータへの電流を制御した場合におけるステージの温度変化は図7の実線61である。T0は十分に長い時間、ステージを停止させて、暖機運転を行った場合に到達する温度を示している。このように装置不稼働時にリニアモータに発熱を生じる制御を行うことを以下、暖機運転と呼ぶこととする。特に本明細書で「暖機運転」とは、ステージの静止を保ちつつ、ステージに推力を与えるようにリニアモータのコイルに電流を流すことを意味する。
【0049】
図8に、本実施例を用いた場合のモータの稼働率を示す。ここで、モータの稼働率とは、モータの定格電流に対する所定時間当りの平均電流量を示しており、稼働率が大きい程、モータ発熱量は大きくなる。所定時間とはモータの稼働率を算出するのに用いる時間間隔であり、例えば一定の時間間隔や単位時間であってもよい。稼働率=平均電流÷定格電流となるが、モータの焼損等のリスクを考え、通常1以下の運用が望ましい。図8の横軸は、図7の横軸に対応するものである。モータ稼働率はモータへの電流量および単位時間当たりの発熱量に対応する量である。
【0050】
ステージ稼働時のモータの稼働率をD1、ステージ不稼働時のモータの稼働率をD0とする。ここで、モータをD0で稼働した場合、ブレーキをかけないとステージが駆動されてしまうが、モータの稼働率がD0のときの推力より大きな摩擦力のブレーキをかけることで、ステージを静止状態に保つことができる。
【0051】
なお、上記の通り、本実施例において不稼働時間にリニアモータに生じさせる発熱量を、稼動時のステージ動作によって生じる発熱量と等価にすることで、不稼働状態であっても稼動状態と同じ発熱状況が再現できるが、実際は暖機運転時のモータ稼働率は過去のステージ移動実績から算出したものであるため、ステージ移動時のモータ稼働率と、暖機運転時のモータ稼働率に差が発生する。したがって、両者は完全には同じ稼働率にはならない。それでもなお、実際の駆動状態に近い稼働率で装置不稼働時に暖気運転できれば、図7の実線のように温度変化が抑えられる。
【0052】
図9ないし図11を用いて、リニアモータに与える推力の算出方法について、説明する。
【0053】
図9は、ステージが断続的に移動している時にリニアモータ可動子(コイル)に流れる電流を示している。主にステージの加速区間(a)、一定速区間(b)、減速区間(c)からなり、ステージ動作の待ち時間でSEM像取得や、ウエハ搬送動作などが実行される。ここで、一定速区間(b)では、ガイドの転がり抵抗やオイルの粘性抵抗により若干の推力が必要となるため、電流が流れている。また減速区間(c)では、逆にガイドの転がり抵抗やオイルの粘性抵抗によりモータ負荷が軽減されるため、加速区間(a)よりも小さい電流値となる。
【0054】
コイルの発熱Wは以下の式で求めることができる。
【0055】
W=V・I=Ω・I2
従って、図9の電流によって単位時間当たりに生じる発熱量は図10のようになる。この塗りつぶされた面積を総稼動時間Tで割ると稼動時の平均発熱量Waが計算できる(図11参照)。次に、この平均発熱量Waより平均電流量Iaを以下の式にて求めることができる。
【0056】
Ia=(Wa/Ω)1/2
この平均電流量Iaを不稼働時のリニアモータに流すことで、稼動時と等価の発熱状態を継続できることになる。但し、ブレーキによる摩擦力を超える推力が発生しないように、予め上限値を算出して、それ以上の推力がでないような制御方法をソフト、或いは電気的ハードにて作り込む必要がある。
【0057】
上記のような暖機運転時に流す電流値、すなわち暖機運転時にリニアモータに発生させる推力は、過去の推力の履歴から決定できる。具体的には、ステージ移動時の推力指令値(電流値)をメモリなどの記憶部に記憶し、制御系にて稼動時間が終了したときに蓄えられた推力指令値ログと稼動時間より計算可能である。つまり、総稼働時間にわたる電流値の積分値を発熱量に換算しこれを総稼働時間で除算すれば、単位時間当たりの平均発熱量が得られるので、この平均発熱量に対応する電流値を暖機運転時に流す電流量とすればよい。なお、ここでは説明のため、総稼働時間で平均するとしたが、計算対象とする所定の時間範囲を設定しておき、この設定された時間で平均してもよい。
【0058】
その後、その推力指令値が予め設定されたブレーキの摩擦力を超えるか否かを判定し、超えない範囲であれば不稼動時の指令値として採用される。一方、ブレーキの摩擦力を超えた場合は、ブレーキの摩擦力を超えない上限値を推力指令値として与える。ここで、上限値は摩擦力に安全率を考慮して設定すると、温度の影響や経時変化の影響があっても安定してステージが動かない状況となるため、好ましい。上記の電流量を求める処理は、ある一連のシーケンスが終わるたびに行ってもよいし、複数回シーケンスが実行されるたびに行ってもよい。また、一定時間ごとに行ってもよい。
【0059】
実際の装置稼動状況では、検査レシピと呼ばれる予め設定されたシーケンスに則り、ステージ動作が実行される。図12はその一例であり、R1ないしR4までの動作に分類できる。
【0060】
R1はウエハ搬送動作時間である。R1ではステージ移動は無いため、モータの電流値は0となる。R2は、ウエハ上のパターンを複数個確認して装置座標とウエハ座標を合せ込むアライメント動作を表している。図12では、ステージ制御は加速度を徐々に増加及び減少させるジャーク制御を想定しているため、電流値のグラフは傾斜を持っている。前述した図9では加速度を一定値とするジャーク制御無しの加速及び減速動作を想定していたため、電流値のグラフは矩形となっている。当然ながらR2においても図9のように加速度を一定として加減速してもよい。以下、R3,R4においても同様である。R3は実際に検査する動作である。R3において、ステージはウエハ内の多点を移動するため、1回当りの移動距離が短く、最高速度まで到達しない内に減速に移行する。そのため、モータに流れる電流値も小さい。R4はウエハのアンロード動作である。アンロード位置までステージが移動し、その後待ち時間となる。このような一連のステージ動作履歴を基に平均電流値Waが導出できる。したがって、例えばウエハをアンロードするたびに次のウエハの検査処理における暖機運転時の平均電流量を求めてもよい。また、連続してウエハが投入された場合は、このようなステージ動作が連続するため、全てのウエハ検査シーケンスが終了するまでを計算対象としてもよい。これによって、より計算精度が増し、実態と合致した暖機運転時の指令値を得ることができる。
【0061】
また別の方法として、実行予定のレシピが既知であり、ステージ移動プロファイルがある程度予想できれば、暖機運転時の電流指令値が計算可能である。つまり、将来のステージの動作予定に基づいて、この動作予定通りステージを動かすときに発生するであろう推力の時間平均を推測し、この推測した結果に基づいて暖機運転時の推力(すなわちリニアモータのコイルに流す電流値)を決定することができる。
【0062】
また別の方法として、1時間毎、1日毎、1週間毎など時間を広げて計算することも効率良くステージ温度の制御できる方法となる。
【0063】
例えば、1枚のウエハを観察する検査レシピのみを計算する場合、図13に示すように装置稼動率が低い状況では、装置不稼働時の方が長く、1枚のウエハの観察だけでは図14のように殆どステージ温度は上がらず、すぐに元の温度に戻ってしまう。よって、次の検査においても温度変化の影響を殆ど受けずに終了することになる。これに対して図15に示すように、装置不稼働状態に1枚のウエハを観察する検査レシピのみで計算された指令値を与え続けると、図16のように比較的温度の高い状態で一定にステージ温度を保つことができるが、装置不稼働状態でも連続して検査レシピが流れる状況に相当する電流を流すこととなり、消費電力が大きい設定となる。
【0064】
前述のように、所定の時間間隔の計算範囲を設定することで、装置不稼働状態の時間も指令値計算に含まれるため、有る程度の温度変化が許容できれば、装置不稼働時に与える指令値を小さく抑えることができる。図17は、装置不稼働状態の時間も指令値計算に含めた場合を示しており、稼動状態の電流より小さい電流を暖気運転時の指令値に設定している。その結果、図18の温度曲線に示す通り、装置稼動時に若干の温度変化はあるものの、不稼動時との変化は小さいため、全体の消費電力を抑えながらも、温度変化を抑えることができる。但し、温度変化は、ステージの比熱や、ステージ駆動条件、稼動率、チラーの排熱容量など様々な要因が関連するため、実験により温度と暖機運転時の指令値との相関を予め把握することが必要である。
【実施例2】
【0065】
次に第2の実施例として、温度センサをステージに実装し、その情報を暖機運転時の指令値にフィードバックする制御方法について、図19及び図20を参照しつつ説明する。以下では、実施例1と同様の部分については説明を省略する。
【0066】
実施例1では、ステージ稼働率を予想し、モータ電流を設定していたが、検査の頻度が時間によって大幅に変化する場合や、1つの検査の中でもステージ稼働率が高いレシピや、低いレシピが混在する場合は、精度良くモータ発熱量を予想することは難しい。モータに温度センサを実装し、温度情報を基に電流量を制御することで、ステージ稼働率が異なる場合においても、一定の温度を保つことが容易となる。
【0067】
本実施例では、Yブレーキを中央に配置した構造のステージについて説明する。また、本実施例のステージにはステージの温度を計測する温度センサ50が取り付けられている。温度センサ50は実施例1で説明した構造のステージに取り付けられてもよい。以下では、実施例1のステージ構造に対する相違部分について説明する。
【0068】
本実施例のステージではYリニアモータ(Yリニアモータ固定子31、Yリニアモータ可動子32)は、Xテーブル25及びYテーブル26側面に実装されており、Yテーブル26中央部にはYブレーキ34が実装されている。2個のYブレーキ34はガイドレール38を両側から挟みこめる構成であり、ブレーキの押し付け力を相殺できる構造となっている。静電チャック23内には温度センサ50が取り付けられ、その温度情報を図示しない制御系にてモニタする。
【0069】
制御系は、装置稼動状態の温度に近い値を目標温度として、暖機運転時の指令値にフィードバック制御を行う。即ち、目標温度よりも低い場合は、ブレーキの摩擦力以下で電流を与え、目標置近傍では電流値を小さくし、常に目標温度に近い温度になるようフィードバック制御を実行する。
【0070】
この時の指令値、及び静電チャック温度を図21及び図22に示す。本実施例では、温度センサの情報を基にしたPID制御を想定している。つまり、温度センサにより計測される温度が所定の目標温度範囲に収まるように、暖機運転時にコイルに流す電流が決定される。始めは目標温度Tよりもかなり低い温度のため、電流は上限値ILを流し、目標温度T付近に近づくと電流は減少させるように制御する。しかしながら、熱伝達の時定数があるため温度は上昇してオーバーシュート起こし、その後目標温度付近で収束する。この例では、装置立上直後など目標温度との差が大きい場合を示したが、実運用中では、実際の温度と目標温度の温度差が小さいため、暖機運転の指令値はあまり変化することなく、装置稼動状態と不稼働状態での静電チャック温度を一定に保つことができる。
【実施例3】
【0071】
次に、図23及び図24を用いて、第3の実施例を説明する。本実施例では、所定の時間ごとにステージを所定距離だけ移動して各位置で実施例1〜2で述べた暖機運転を行う例を説明する。
【0072】
まず、リニアモータの構造について説明する。通常リニアモータは3相(U相、V相、W相)のコイルで構成されることが多く、また、各相が1つの可動子に複数の同相のコイルが使用される。図23では各相2個のコイルを配置した場合の可動子を示している。U相コイル35、V相コイル36、W相コイル37の合計6個のコイルからリニアモータ可動子(30,32)が構成される。リニアモータ固定子には、隣り合うマグネットが互いに異なる向きの磁場を生成するように、複数のマグネットが配置されている。
【0073】
図24は、ステージを移動させた場合に各座標でどのような電流が各相に流れるかを示している。図24の横軸のステージ座標とは、ステージのある基準位置に対する座標(例えばレーザ干渉計で測定した値)を意味している。図24の縦軸は各相のコイルに流れる電流値であり、この座標と電流値の対応関係、すなわちリニアモータ固定子のマグネット位置と各コイルに流れる電流値の関係(以下では電流プロファイルと呼ぶ)はリニアモータのドライバにより設定及び記憶されている。リニアモータステージでは一般に各相のコイルの電流量を目的の座標に対応する電流値としたときにもっとも推力が得られる。
【0074】
あるステージ座標で暖機運転を実行すると、推力指令を基に各コイルに流れる電流を決定する際には、3相であるため360°÷3=120°の位相差を各相に与えながら、サインカーブ状の電流値が設定される(図24参照)。
【0075】
従って、ステージ位置により電流が多く流れるコイルと、少なく流れるコイルが存在する。例えば、ステージ座標Aでは、U相のコイルには大きな電流が流れるが、V相コイル、W相コイルにはほとんど電流が流れない状態となる。このため、同じ位置で暖気運転を続けると、リニアモータ可動子内に温度分布が発生する。一方、ステージのテーブル内でも同様に同じ座標で暖気運転し続けるとその場所での温度分布になり、実際の稼動状態とは異なる温度分布となる。
【0076】
本不具合の解決策としてある時間毎にステージを移動させて、温度分布をより稼動状態に近い傾向にする。また、その移動距離はリニアモータ固定子のマグネットピッチ(P)とは異なる距離が望ましい。同じ方向の磁界を形成するマグネットのピッチ(P)と同じ距離で動かすと、次の場所でも各コイルに同じ電流が流れるからである。例えば、60mmのコイルピッチならば、1回の移動距離を20mmにして2回移動し、各位置で暖機運転を同じ時間実行すると、3か所での合計の電流値は各コイルで同じとなる。しかし、ステージ稼動範囲が500mmなどの場合は、あまり移動距離が短いと暖気運転時間内にステージの限られた稼動範囲しか移動できなくなるため、移動距離Lを
L=n×P+P×(1/3)=P(n+1/3)
或いは
L=n×P+P×(2/3)=P(n+2/3)
とすれば、可動子及びステージ全体を装置稼動状態に近い温度分布に設定できる。
【0077】
なお、理想的には上記のような移動距離が望ましいが、移動距離がマグネットピッチ(P)の非整数倍であれば、温度分布を一様にする効果が得られる。
【0078】
上述のように決まる移動距離だけ一定時間ごとにステージを移動して各位置で実施例1〜2に述べた暖機運転を行うことで、当該一定時間内で各相のコイルに流れる累積電流値は同じとなるので、リニアモータ可動子内およびステージテーブル内での温度分布が一様になる。ただし、あまり頻繁に移動するとステージ可動部の寿命に影響するため、制御ソフトの設定によって30分毎や、1時間毎など時間間隔を可変にできることがさらに望ましい。これによって、装置の稼動状況に合わせて時間間隔を設定することができる。
【実施例4】
【0079】
次に、図25を用いて、第4の実施例を説明する。以下では、実施例1〜3と同様の部分については説明を省略する。実施例1〜3ではブレーキを作動させながらモータに電流を流す例を説明したが、本実施例ではブレーキがなくてもステージ駆動時と同程度の発熱が生じる電流量を与えることができる方法を説明する。なお、本実施例の方法を用いて実施例1〜3で述べた暖機運転を行うことも可能である。
【0080】
通常リニアモータを駆動するドライバ(制御系)は、磁石とコイルの位置情報により効率が高くなるような制御を実行する。つまり、少ない電流で大きな推力を出せるような電流の位相制御を実施し、できるだけ発熱を抑えて所望の駆動プロファイルで駆動ができるようなシステムにしている。
【0081】
図25で示すように、暖気運転を実施する際、最大効率となる電流の位相から、90°(或いは270°)位相を変えてドライバの電流制御をすることで、効率が最も悪くなる状態、つまり電流を流しても推力が発生し難い状態にしている。なお、図25はU相を代表として記載したが、V相及びW相も同様に通常状態の位相から各々同じ方向に90°位相を変えた電流制御を実行する。すなわち、リニアモータ固定子のマグネットの位置は変わらないため、U相、V相、W相のコイルに流す電流を、最大駆動力が得られる電流プロファイルから90°(或いは270°)ずらしたプロファイルが暖機運転用の電流プロファイルとして最適である。したがって、通常運転用の電流プロファイルと暖機運転用の電流プロファイルを記憶しておき、ドライバがこれら2つの電流プロファイルを装置動作に応じて切り替えればよい。なお、第2の電流プロファイルによる制御では、実際にはステージに推力が働かないので、第1の電流プロファイルで規定される電流量より第2の電流プロファイルで規定される電流量を大きくしてもよい。
【0082】
例えば、リニアモ−タのドライバは、暖気運転モードを識別するI/Oを有し、暖気運転モードの指令を上位コントローラから受けた際は、制御位相を90°(或いは270°)変化させてモータ駆動を実行する。通常のステージ動作に戻る際は、上位コントローラから暖気運転終了の指令を受け、制御位相を基に戻し、ステージ駆動を行う。なお、位相が正確に90°或いは270°でなくても、原理的には発生推力を抑えることができる。例えば、80°の位相ずれを設定できれば、通常位相の発生推力に対して、cos80°=17%の推力に抑えることになる。従って、理想は90°の位相ずれであるが、許容できる発生推力次第で位相のずれ量を規定することも可能である。
【0083】
本実施例の効果は、ステージへの推力が非常に小さいため、ブレーキによる摩擦力以下で流せる電流量が大きく取れることである。また、ブレーキへの負担も軽減できるため、ブレーキへのダメージを与えないことになる。更には、コイル位置と磁石位置の検出精度、コイルと磁石の製作精度を上げることで、必要な電流量を流した際に発生する推力をガイドの静止摩擦抵抗以下に抑え込むことができれば、ブレーキ自体を無くすことも可能となり、装置のコスト低減に繋がる。
【0084】
以上述べてきたような実施例1〜4は、各々組合せが可能であり、装置に必要な条件に最も適した形態にすることで、精度良くステージの恒温化を実現でき、スループットの高い装置を提供することができる。また、大気中で使用されるステージに関しても上述した各実施例と同様に制御することにより、同様の効果が期待できる。
【符号の説明】
【0085】
1:カラム、2:試料室、3:搬送室、4:予備排気室、5:真空ポンプ、6:架台、7:マウント、8:ステージ、9:流路、10:ウエハ、11:電子銃、12:電子線、13:電子検出器、14:継手、15:配管、16:制御系、17:モニタ、20:干渉計、21:レーザ光、22:バーミラー、23:静電チャック、24:ベース、25:Xテーブル、26:Yテーブル、27:Xガイド、28:Yガイド、29:Xリニアモータ固定子、30:Xリニアモータ可動子、31:Yリニアモータ固定子、32:Yリニアモータ可動子、33:Xブレーキ、34:Yブレーキ、35:U相コイル、36:V相コイル、37:W相コイル、38:ガイドレール、40:ロボット、40A:ロボットA、40B:ロボットB、41:真空側ゲートバルブ、42:大気側ゲートバルブ、43:ウエハ台、50:温度センサ、51:X可動子の伝熱経路、52:Y可動子の伝熱経路、60:暖機運転無しの温度曲線、61:暖機運転有りの温度曲線、62:ステージ駆動時のモータ稼働率、63:暖機運手中のモータ稼働率、70:通常のU相電流、71:暖機運転時のU相電流
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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