(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
2値のデータをそれぞれ異なる磁化方向として記録されることにより磁性細線の細線方向に連続して磁区が生成されると共に、前記磁性細線の細線方向に供給されるパルス電流により前記磁区が断続的に移動する磁気記録媒体であって、
前記磁性細線は、平面視で2本以上が平行に2周以上巻き回した渦巻き状に形成され、隣り合う2本が、前記パルス電流を互いに逆向きにかつ同期して供給される一対の電流供給端子をそれぞれの両端に備えることを特徴とする磁気記録媒体。
2値のデータをそれぞれ異なる磁化方向として記録されることにより磁性細線の細線方向に連続して磁区が生成されると共に、前記磁性細線の細線方向に供給されるパルス電流により前記磁区が断続的に移動する磁気記録媒体であって、
前記磁性細線は、平面視で2本以上が平行に2周以上巻き回した渦巻き状に形成され、隣り合う2本が、内周側の端同士および外周側の端同士の一方で導電材料により電気的に接続し、他方に前記パルス電流を供給される一対の電流供給端子を備えることを特徴とする磁気記録媒体。
2値のデータをそれぞれ異なる磁化方向として記録されることにより磁性細線の細線方向に連続して磁区が生成されると共に、前記磁性細線の細線方向に供給されるパルス電流により前記磁区が断続的に移動する磁気記録媒体であって、
前記磁性細線は、前記パルス電流を供給される一対の電流供給端子を両端に備え、平面視で、細線幅方向に隣り合う部分同士を平行にして、最内周または最外周で折り返して2周以上巻き回した二重の渦巻き状に形成されていることを特徴とする磁気記録媒体。
【背景技術】
【0002】
ハードディスクドライブ(HDD)等の記憶装置は、扱われる情報量の増大に伴い、高記録密度化ならびに記録や再生の高速化が進められている。高記録密度化に伴い、HDD等に使用される磁気ディスク等の記録媒体のトラックは狭ピッチ化し、さらにトラックにおける1データ(1ビット)分の長さは短くなり、このような微小な領域の磁気を検出するために、記録・再生方式はGMR(Giant MagnetoResistance:巨大磁気抵抗効果)素子やTMR(Tunnel MagnetoResistance:トンネル磁気抵抗)素子のような磁気抵抗効果素子からなる磁気ヘッドによる磁気方式、あるいはレーザー光の照射による光磁気方式が適用されている。
【0003】
このような磁気ディスクにおける記録および再生は、ディスクをスピンドルモータで回転駆動させ、磁気ヘッドやレーザー光の照射スポットをディスクの径方向のみに移動させることで、トラックに沿って(ディスクの周方向に)所定の磁化方向に磁化する(記録する)、または磁気を検出する(再生する)。このようなディスクにおいて記録および再生を高速化するためには、ディスクの回転速度を速くすることが第一に挙げられる。しかし、記録においてはトラックの磁化に要する時間、再生においては磁気の検出に要する時間、さらにディスクの振動による誤動作等の問題から、回転速度の高速化には限界がある。
【0004】
そこで、記録媒体を駆動させずに記録されているデータを移動する方法として、特許文献1には、細線状の磁性体(以下、適宜磁性細線)をU字型等に形成してトラックとしたメモリデバイスが開示されている。磁性体は、細線状に形成されると、その長さ方向に区切られて磁区が生成する。このような磁性体(磁性細線)は、当該長さ方向に電流を供給されると、磁区同士を区切る磁壁がすべて磁性細線の長さ方向に等距離移動するというシフト移動を行う特性がある(非特許文献1,2参照)。具体的には、トラック(磁性細線)上の所定の一箇所(特許文献1ではU字型の頂部)に記録用および再生用の各磁気ヘッドを固定し、トラック両端に接続した電流源で電流を供給して、磁壁に挟まれた所望の磁区を再生用の磁気ヘッドに対向する位置に移動させてデータを再生したり、記録用の磁気ヘッドで生成させた磁区をデータの格納領域まで移動させる。
【0005】
また、特許文献2〜4には、現行のHDD等のトラックのように複数の磁性細線を同心円状に形成した磁気記録媒体が開示されている。これらの磁気記録媒体にデータを記録、再生する方法においては、磁性体の形状(線幅等)や供給する電流の電流密度により異なるが、磁壁の移動速度は数十m/sから約250m/sと極めて高速であるので、現行のディスクの回転による再生速度を超えることが期待される。このような磁気記録媒体の磁性細線におけるデータの移動のためには、直流パルス電流を磁性細線に供給して、パルス幅刻みで磁壁と共にデータをシフト移動させて、移動長を制御することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る磁気記録媒体、および磁気記録媒体装置を実現するための形態について図面を参照して説明する。本発明に係る磁気記録媒体はいずれも、磁性体を細線状に形成してなる磁性細線をデータの記録(格納)領域として備え、磁性細線に電流を供給されることによる磁壁のシフト移動で、格納されたデータを磁区として磁性細線内を移動させるものである。
【0018】
〔第1実施形態〕
本発明の第1実施形態に係る磁気記録媒体10は、
図1に示すように、平面視円形の基板2と、基板2上に形成された、平面視渦巻き状の平行な2本の磁性細線1a,1bを備える。磁気記録媒体10はさらに、基板2上の磁性細線1a,1bの形成されていない領域に、間隙を埋めるように絶縁層4を備え、また、磁性細線1a,1bのそれぞれの両端に正電極(電流供給端子)31と負電極(電流供給端子)32を接続して備える。ここで、磁性細線1aは、内周側の端に正電極31を、外周側の端に負電極32を接続し、磁性細線1bは、外周側の端に正電極31を、内周側の端に負電極32を接続する。すなわち、磁気記録媒体10において、磁性細線1aと磁性細線1bは、互いに逆向きに電流を供給される。磁性細線1a,1bは、特許文献2〜4に記載された磁気記録媒体(磁気ディスク)と同様、データの記録(格納)領域であり、2値のデータすなわち「0」または「1」のデータを、
図2に示すように、異なる2つの磁化方向のいずれか、すなわち上向きまたは下向きの磁化方向の磁区にして記録される。磁気記録媒体10は、
図1において構造を簡略化して、磁性細線1a,1bがそれぞれ4周巻き回した渦巻きで表されるが、全体の大きさ(基板2の大きさ)、ならびに磁性細線1a,1bの幅および互いの幅方向の間隔に応じて設計することができる。磁性細線1a,1bは、基板2上における配置以外は同じ構成であるので、適宜、まとめて磁性細線1と称する。また、
図2においては、簡潔に示すために、磁気記録媒体10における磁性細線1の1本のみを直線状に表す。
【0019】
(磁性細線)
磁性細線1は、磁性体(磁性材料)を厚さおよび幅に対して十分に長い細線状に形成してなる。具体的には、磁性細線1は、厚さ(膜厚)70nm以下、幅(細線幅)300nm以下であれば、細線方向にのみ磁区が分割され易く、好ましい。また、磁性細線1は、ピッチが狭いすなわち幅が小さい(細い)ほど、磁気記録媒体10を高記録密度化することができる。一方、データの保存(磁化の保持)のために、磁性細線1はある程度の厚さおよび幅にすることが好ましく、具体的には厚さは5nm以上、幅は10nm以上とすることが好ましい。なお、後記の他の実施形態も含めて、磁性細線の厚さとは、後記する凹部1trp(
図2参照)のような変形箇所以外の、上下面が平坦な部分における厚さを指す。また、磁性細線は、厚さや幅が前記範囲よりも大きい場合、細線幅方向等にも磁区が分割されて複数生成する場合があるが、予め外部磁界を印加しておくことで、細線方向のみに磁区が分割された状態にすることができる。
【0020】
そして、磁性細線1a,1bは、細線形状(平面視形状)が、厚さおよび幅に対して十分に緩やかな曲線(小さな曲率)であるように、磁気記録媒体10において中心部を空けて形成される。また、本実施形態においては、基板2上で幅方向に隣り合う磁性細線1a,1b同士の間隔が一定であるように、磁性細線1a,1bはそれぞれアルキメデスの螺旋、いわゆる蚊取線香の形状に形成される。また、磁性細線1a,1bは、細線長さが同じでなくてよい。このような構成により、磁気記録媒体10は、その外形に対して十分に長い磁性細線1a,1bを備え、磁性細線1a,1bのそれぞれにおいては十分な間隔としつつ、さらに2本の磁性細線1a,1bにより記録密度を高くすることができる。
【0021】
磁性細線1は、一般的な磁気ディスクの記録層等と同様に磁性材料で形成され、特に微細化に好適な垂直磁気異方性材料を適用することが好ましい。具体的には、Co等の遷移金属とPd,Pt,Cu,Niのいずれかとを交互に繰り返し積層したCo/Pd多層膜のような多層膜、またTb−Fe−Co,Gd−Fe等の希土類金属と遷移金属との合金(RE−TM合金)が挙げられる。これらの材料はスパッタリング法等の公知の方法により成膜され、フォトリソグラフィ、ならびにエッチングまたはリフトオフ法により、前記の細線形状に成形されて磁性細線1となる。
【0022】
磁気記録媒体10において、磁性細線1は、
図2に示すように、正電極31近傍に再生領域1rが、負電極32近傍に書込領域1wが、それぞれ設定され、領域1r,1w間がデータの格納領域となる。本実施形態に係る磁気記録媒体10においては、磁性細線1a,1bの細線長さ、特に格納領域の長さ(領域1r,1w間の長さ)が同じであることが好ましい。さらに磁性細線1は、データの格納領域をビット長(単位長さ)Lb毎に区切るように、断面視がV字型やU字型等になるように上面を局所的に薄くした凹部1trpを形成されていることが好ましい。凹部1trpにより、異なるデータ(“1”、“0”)が格納された領域(磁区)の間に生成する磁壁が係止されるため、データのシフト移動において微小なズレが生じても補正される。ここでは、上面を薄くした凹部としているが、局所的に変形させていれば同様の効果が得られ、例えば平面視で括れているように側面を凹ませてもよい。磁壁を係止させるために、磁性細線1において変形している領域の細線方向長さ、ここでは凹部1trpの溝幅(凹部1trpの開口部における細線方向長さ)は、磁壁の厚みの1〜10倍にすることが好ましい。また、凹部1trpの溝幅が広過ぎると、磁壁の係止位置の誤差範囲が大きくなる。具体的には、凹部1trpの細線方向長さは、10〜500nm程度の範囲で、100nm以下が好ましく、磁性細線1の幅の1/10〜2倍程度、かつビット長Lbの1/2以下が好ましい。また、磁性細線1において、凹部1trpのように変形させた箇所は、磁壁を好適に係止させるために、その変化量を元(凹部1trp以外の領域)の厚さに対して2〜40%にすることが好ましい。
【0023】
書込領域1wは、磁性細線1をこの領域に限定して当該磁性細線1に記録する1個(1bit)のデータに対応した磁化方向に変化させる(磁化する)ために設定された、細線方向に区切られた領域である。したがって、少なくともこの領域においては、磁性細線1を、上向きまたは下向きの所望の磁化方向に磁化する(適宜、書込をする、という)ことを可能にするため、磁気記録再生装置(磁気記録媒体装置、図示省略)に設けられたデータ記録部(磁化手段)5の記録(書込み)方式に対応した構造にする。ここでは、一般的な磁気ディスクへの記録方法である磁界印加方式として、データ記録部5は記録用の磁気ヘッド(
図2には主磁極の部分のみを図示する)であるから、磁性細線1の書込領域1wを含む部分は、下側に非磁性層を介して軟磁性層が設けられた積層構造にする(図示省略)。書込領域1wの細線方向長さは、ビット長Lb以上であればよく、記録方式や加工精度等に対応した長さにする。さらに、本実施形態に係る磁気記録媒体10においては、データ記録部5により書込領域1w以外の磁性細線1a,1bの部分へ磁界が印加されないように、磁性細線1a,1bが、それぞれの書込領域1wを含む端部近傍で細線幅方向(磁気記録媒体10の径方向)に互いに間隔を空けて形成されている。
【0024】
再生領域1rは、磁性細線1において、この領域に到達した1個のデータを再生するために設定された、細線方向に区切られた領域であり、磁性細線1の再生領域1rを含む部分は、当該磁性細線1の磁気を検出可能な構造にする(図示省略)。データ再生部(磁気検出手段)6は、データ記録部5と同様、再生用の磁気ヘッドである。磁気記録媒体10においては、磁性細線1a,1bのそれぞれの一方の再生領域1rの近傍に他方の書込領域1wが設けられているので、前記したように書込領域1wへ印加する磁界が印加されないように、そして、後記するように書込みと読出しを並行して行う場合のために、データ記録部5とデータ再生部6のそれぞれの大きさ等に対応して、磁性細線1aと磁性細線1bとで、領域1w,1rが、周方向に位置をずらして設けられている。
【0025】
磁性細線1は、磁気記録媒体10の製造時におけるダメージから磁性細線1を保護するために、上面に保護膜(図示省略)を積層されていることが好ましい。保護膜は、Ta,Ru,Cuの単層、またはCu/Ta,Cu/Ruの2層等から構成され、2層構造にする場合は、いずれもCuを内側(下層)にする。さらに、磁性細線1は、基板2との密着性を得るために、金属薄膜からなる下地膜の上に形成されてもよい(図示省略)。このような下地膜は、Ta,Ru,Cu,Al,Au,Ag,Cr等の非磁性金属材料を適用することができる。保護膜および下地膜は、それぞれ厚さ1〜10nmにすることが好ましい。厚さが1nm未満であると連続した膜を形成し難く、一方、10nmを超えてもそれ以上に効果が向上しないためである。
【0026】
(基板)
基板2は、磁性細線1a,1bを形成するための磁気記録媒体10の土台であり、広義の基板である。このような基板2として、公知の基板材料が適用でき、具体的には、表面に熱酸化膜を形成されたSi(シリコン)基板、SiO
2(酸化ケイ素、ガラス)、MgO(酸化マグネシウム)、サファイア、GGG(ガドリニウムガリウムガーネット)、SiC(シリコンカーバイド)、Ge(ゲルマニウム)単結晶基板等を適用することができる。また、基板2が、Si基板で表面に十分な厚さの酸化膜が形成されていない場合は、表面に絶縁膜を形成した上に磁性細線1a,1bを形成すればよい。すなわち基板2は、少なくとも表面(表層)が絶縁性であればよい。
【0027】
(絶縁層)
絶縁層4は、磁気記録媒体10における磁性細線1a,1b間、あるいはさらに電極31,31間および電極32,32間、に配され、さらに基板2と磁性細線1との間や磁性細線1の上に配されてもよい。絶縁層4は、例えばSiO
2,Si
3N
4,Al
2O
3等の公知の絶縁材料からなり、また磁気記録媒体10の全体で同じ材料を適用しなくてもよい。
【0028】
(電極)
正電極31および負電極32(適宜、まとめて電極31,32と称する)は、一対の電極として磁性細線1a,1bのそれぞれにその細線方向の一方向に電流を供給するための端子(電流供給端子)であり、
図2においては磁性細線1の端部の下面に接続される。また、磁気記録再生装置の前記電流を供給する走査電流源(電流供給手段)7の+が正電極31に、−が負電極32に、それぞれ接続される。電極31,32は、Cu,Al,Ta,Cr,W,Ag,Au,Pt等の金属やその合金のような一般的な金属電極材料からなり、スパッタリング法等により成膜され、フォトリソグラフィ等によりストライプ状に成形される。また、電極31,32の厚さ、幅および細線方向長さは、磁性細線1a,1bのピッチ(トラックピッチ)、材料や供給する電圧・電流等に基づいて設定される。
【0029】
本実施形態に係る磁気記録媒体10においては、前記したように、磁性細線1aが内周側の端に、磁性細線1bが外周側の端に、それぞれ正電極31をそれぞれ接続しているが、向きを入れ替えてもよい。また、磁気記録媒体10は、磁性細線1aと磁性細線1bとで、再生領域1rおよび書込領域1wが、それぞれ周方向または径方向に間隔を空けて設けられているが、再生、書込方式に応じた配置であればよい。
【0030】
(磁気記録再生装置)
本発明の第1実施形態に係る磁気記録媒体10にデータを記録、再生する磁気記録再生装置(磁気記録媒体装置、図示省略)は、磁性細線1(1a,1b)の書込領域1wを、記録するデータに対応した磁化方向に磁化するデータ記録部(磁化手段)5、磁性細線1(1a,1b)の再生領域1rにおける磁化方向を検出するデータ再生部(磁気検出手段)6、磁性細線1(1a,1b)の電極31,32に接続して直流パルス電流を供給する電源である走査電流源(電流供給手段)7を備える(
図2参照)。データ記録部5およびデータ再生部6は、一般的な磁気ディスクの記録再生装置に備えられる磁気ヘッドと同様のものが適用することができ、磁性細線1a,1bそれぞれの書込領域1w,1wおよび再生領域1r,1rに対向させる。また、磁気ヘッドは、磁性細線1a,1bの一方の書込領域1wと他方の再生領域1rにそれぞれ対向するデータ記録部5とデータ再生部6を一体に備えた構成であってもよい。さらに磁気記録再生装置は、磁気記録媒体10の磁性細線1a,1bのそれぞれの電極31,32に接続する端子、磁性細線1a,1bに走査電流源7を接続したり、データ記録部5やデータ再生部6(磁気ヘッド)を駆動させる制御部、ならびに磁気記録媒体10を固定する支持台を備える(図示省略)。磁気記録再生装置のこれらの要素は、公知の装置を適用することができる。
【0031】
走査電流源7は、直流電流(走査電流Isc)をパルス電流として、磁性細線1へ細線方向に供給する電源であり、+を正電極31に、−を負電極32に接続する。磁性細線1に走査電流Iscを正電極31側から負電極32側へ供給されると、その反対方向に磁性細線1中を流れる電子により、磁壁が磁性細線1中を当該磁性細線1の負電極32側から正電極31側へ細線方向に沿って移動し、磁壁に区切られた磁区、すなわちデータも共に移動する(
図2参照)。直流パルス電流は、パルス幅(ピーク期間)t
H:1ps〜10μs、停止時間(ベース期間)t
L:10ps〜10μsの範囲で調整することが好ましく、パルス幅t
Hは磁区が移動速度に応じて所定の距離を移動する時間に設定し、停止時間t
Lはデータ記録部5による書込時間t
W以上にする。また、走査電流源7は、本実施形態においては、磁性細線1a,1bの両方に同時に、さらにパルス電流を同期させて供給する。磁気記録媒体10において、磁性細線1a,1bは、互いに反対側の端に正電極31と負電極32が接続されているので、パルス電流のピーク電流である走査電流Iscが、同時に、かつ互いに逆向きに流れる。
【0032】
(記録方法)
次に、本発明の第1実施形態に係る磁気記録媒体の磁性細線にデータを書き込む(記録する)方法を説明する。ここでは、磁気記録媒体10の2本の磁性細線1a,1bに並行してデータを書き込むものとする。
【0033】
まず、磁気記録再生装置の走査電流源7が磁性細線1a,1bのそれぞれの電極31,32に接続する。そして、磁性細線1aの書込領域1wに対向するデータ記録部5が、書込領域1wを外部から入力される1データに基づく磁化方向にする(磁化工程)。同時に、または引き続いて、磁性細線1bの書込領域1wに対向するデータ記録部5が、書込領域1wを外部から入力される1データに基づく磁化方向にする(磁化工程)。次に、走査電流源7から磁性細線1a,1bにパルス電流が1パルス供給される。この1パルスにおける走査電流Iscの供給により、磁性細線1a,1bのそれぞれに生成した磁壁がビット長Lbの距離を移動する。磁性細線1a,1bにおいては、磁壁の移動に伴い、当該磁壁で区切られた磁区も等距離移動(シフト移動)する(磁区移動工程)。なお、磁性細線1a,1bには、互いに逆向きに走査電流源7から電流Iscが供給されるので、磁区の移動方向も逆向きである。そして、パルス電流における停止期間中に、磁性細線1a,1bのそれぞれの書込領域1w,1wに対向するデータ記録部5,5が再び書込領域1w,1wを次の1データに基づく磁化方向にする(磁化工程)。
【0034】
以下、磁区移動工程と磁化工程とを交互に繰り返し行って、磁性細線1a,1bのそれぞれにデータを順番に記録する。なお、磁区移動工程の1回はパルス電流におけるピーク期間(電流供給期間)であり、走査電流源7からパルス電流を供給し続ければよく、このパルス電流における停止期間のタイミングに合わせて磁化工程を行う。
【0035】
(再生方法)
磁気記録媒体10の磁性細線1a,1bに記録されたデータを読み出す(再生する)方法は、前記の記録方法において、磁化工程に代えて、磁性細線1a,1bのそれぞれの再生領域1r,1rの磁化をデータ再生部6(再生用の磁気ヘッド)で検出する磁気検出工程を行えばよい。本実施形態においては、磁性細線1a,1bからデータを1個ずつ交互に、または2個のデータが並列に再生されるので、書込みにおいて、連続したデータを1個ずつ磁性細線1a,1bに振り分けて記録する。
【0036】
ここで、パルス電流の1パルスにおいて、走査電流Iscは、磁性細線1a,1bの細線幅方向に隣り合う部分で同時にかつ互いに逆向きに流れるので、渦巻き状の経路を形成していても、インダクタンスが打ち消し合って実質的に発生しない。その結果、パルス電流はインダクタンスに影響されず、渦巻き状に形成された磁性細線1a,1bのそれぞれの全体において、走査電流源7で設定されたパルス幅(ピーク期間)t
Hにわたって走査電流Iscが供給されるので、磁区を、走査電流Iscの電流密度とパルス幅t
Hに基づいた距離(=ビット長Lb)でシフト移動させることができる。
【0037】
なお、磁区であるデータは、シフト移動により磁性細線1の正電極31の側の端に到達すると消失する。データの消失を防ぐためには、磁性細線1の再生領域1rと正電極31の間にバッファ領域を設ければよく、すなわち再生領域1rが磁性細線1の細線方向中心近傍に設けられる。バッファ領域についても、格納領域(領域1r,1w間)と同様に、凹部1trpを設けることが好ましい。
【0038】
また、データを保持するために、磁気検出工程と同時に、先に再生したデータを記録する磁化工程を行えばよい(特許文献3参照)。すなわち、磁性細線1a,1bのそれぞれにおいて、再生領域1rから読み出したデータを書込領域1wに書き込む。あるいは、例えば磁性細線1aから読み出したデータを、磁性細線1bに書き込んでもよい。
【0039】
磁化工程または磁気検出工程において、磁性細線1a,1bの記録または再生の順序を1回ずつ入れ替えてもよい。すなわち再生においては、磁性細線1aの再生、磁性細線1bの再生、磁区移動工程、磁性細線1bの再生、磁性細線1aの再生、磁区移動工程、磁性細線1aの再生、磁性細線1bの再生、の順序で行うことができる。
【0040】
(変形例)
磁気記録媒体10におけるデータの記録、再生は、前記の磁気ヘッドによる方法に限られない。データの記録方式においては、例えばスピン注入磁化反転を利用することができる。そのために、磁気記録媒体10は、磁性細線1(1a,1b)の書込み領域1wに、磁性細線1を磁化自由層とするスピン注入磁化反転素子構造とその上下に接続した一対の電極とを備え、データ記録部5が、前記一対の電極に接続して電流を供給する電源であればよい(図示せず)。スピン注入磁化反転によれば、書込が磁気方式よりも高速な上、スピン注入磁化反転素子構造を形成した領域に限定して書込をすることができる。
【0041】
データの再生方法においては、例えば光磁気方式で磁性細線1(1a,1b)の磁気を検出することができる。この場合、データ再生部6が、一般的な光磁気ディスクの再生装置と同様に、磁性細線1の再生領域1rにレーザー光を照射するレーザー光源や、その反射光の偏光の向きを検出する偏光子等を備える(図示せず)。このような方法でデータを再生する磁気記録媒体10においては、磁性細線1のビット長Lbを200nm以上にし、さらにレーザー光の波長に応じた長さにすることが好ましく、磁性細線1の幅を前記長さの1/2以上にすることが好ましい。さらに磁気記録媒体10は、磁性細線1が再生領域1rにおいて光を反射するように、磁性細線1の膜厚を30nm以上にするか、SiO
2等の絶縁膜を挟んでAl,Ag等の非磁性金属からなる反射膜を設けることが好ましい。
【0042】
本実施形態に係る磁気記録媒体10は、磁性細線1を3本以上備えてもよく、好ましくは偶数本すなわち4本以上備える。例えば磁気記録媒体10は、磁性細線1を4本備えて、隣り合う2本の磁性細線1,1について、並行して記録や再生を行う。このような磁気記録媒体10の記録や再生においては、まず、隣り合う2本の磁性細線1,1を選択して、これらの磁性細線1,1に走査電流源7を接続する選択工程を行う。そして、これら選択した2本の磁性細線1,1にデータの記録または再生が完了したら、再び選択工程を行って、残りの2本の隣り合う磁性細線1,1を選択する。また、磁気記録媒体10は、
図1に示すように磁性細線1a,1bが内周側から外周側まで連続した1本の渦巻き状に形成されていなくてもよく、2本以上に分割されていてもよい(図示せず)。
【0043】
本実施形態に係る磁気記録媒体10は、隣り合う2本の磁性細線1a,1bが直列に接続されていてもよい。具体的には
図3に示すように、第1実施形態の変形例に係る磁気記録媒体10Aは、磁性細線1a,1bの一方(
図3では磁性細線1a)の正電極31と他方(
図3では磁性細線1b)の負電極32とに代えて一体の中継電極33を備える。中継電極33は、電極31,32と同様に金属電極材料で形成されるが、外部(走査電流源7)との接続可能な端子としなくてよい。磁気記録媒体10Aはこのような構成により、走査電流源7(磁気記録再生装置)によらずに、走査電流Iscが、細線幅方向に隣り合う磁性細線1a,1bで常に逆向きに供給される。
【0044】
以上のように、本発明の第1実施形態およびその変形例に係る磁気記録媒体によれば、パルス電流を磁性細線に供給して、渦巻き状の電流の経路を形成しても、インダクタンスの発生が抑制されて、データを断続的にシフト移動させることができ、シーケンシャル・アクセスに好適かつ高密度記録とすることができる。そして、前記磁気記録媒体にデータを記録、再生する磁気記録再生装置によれば、この磁気記録媒体に、大容量のデータを、そのシフト移動が阻害されることなく連続して記録、再生することができる上、この磁気記録媒体の隣り合う2本の磁性細線に、並行してデータを記録、再生することができる。
【0045】
〔第2実施形態〕
第1実施形態およびその変形例に係る磁気記録媒体は、互いに逆向きの電流経路を平行な2本の磁性細線で形成したが、連続した1本の磁性細線で形成することもできる。以下、本発明の第2実施形態に係る磁気記録媒体について、
図4を参照して説明する。第1実施形態およびその変形例(
図1〜3参照)と同一の要素については同じ符号を付し、説明を省略する。
【0046】
本発明の第2実施形態に係る磁気記録媒体10Bは、
図4に示すように、1本の磁性細線1を内周側の端で折り返して、平面視で2重の渦巻き状に形成して備える。したがって、磁気記録媒体10Bは、第1実施形態の変形例に係る磁気記録媒体10A(
図3参照)の2本の磁性細線1a,1bを、接続する中継電極33を削除して一体の磁性細線1で構成する。磁気記録媒体10Bにおいては、磁性細線1の細線形状が、厚さおよび幅に対して十分に緩やかな曲線であるように、内周の側でS字型に折り返されている。そして、磁気記録媒体10Bは、磁性細線1の両端、すなわち外周側の両端に一対の電極31,32を接続して備え、また、それぞれの近傍に、領域1r,1wが設けられる。ここでは、最外周側の端に正電極31が、その1周内側の端に負電極32が、それぞれ接続されるが、入れ替えてもよい。磁気記録媒体10Bはこのような構成により、磁性細線1が1本であっても、走査電流Iscが、細線幅方向に隣り合う部分同士で常に逆向きに供給される。
【0047】
磁気記録媒体10Bは、第1実施形態と同様に、データ記録部5、データ再生部6、および走査電流源7(
図2参照)を備えた磁気記録再生装置(図示省略)でデータを記録、再生することができる。磁気記録媒体10Bは1本の磁性細線1を備えるので、走査電流源7は一対の電極31,32に、データ記録部5およびデータ再生部6は各1箇所の領域1w,1rに接続、対向させて設けられる。
【0048】
(記録方法、再生方法)
本発明の第2実施形態に係る磁気記録媒体のデータの書込み(記録)、読出し(再生)の方法は、第1実施形態と同様である。
【0049】
(変形例)
本実施形態に係る磁気記録媒体は、磁性細線1を2本以上備えてもよい。例えば、
図5に示す磁気記録媒体10Cは、2本の磁性細線1a,1bを、それぞれ内周側の端で折り返して、平面視で4重の渦巻き状に形成して備える。このような磁気記録媒体10Cの記録や再生は、磁性細線1a,1bを1本ずつ選択して行ってもよいし、2本同時に行うこともできる。
図5においては、磁性細線1a,1bを同時に駆動したとき、細線幅方向に隣り合う磁性細線1a,1bにおいても互いに逆向きに電流Iscが供給される。あるいは、磁性細線1a,1bの一方の向きを入れ替えてもよい(図示せず)。この場合は、細線幅方向に隣り合う磁性細線1a,1bにおいて電流Iscが同じ向きに供給されるが、隣り合う磁性細線1a,1aおよび磁性細線1b,1bで逆向きに供給されるので、インダクタンスの発生が抑制される。
【0050】
以上のように、本発明の第2実施形態およびその変形例に係る磁気記録媒体によれば、1本の磁性細線において隣り合う部分で互いに逆向きに電流が供給されるので、第1実施形態と同様にインダクタンスの発生が抑制される。そして、前記磁気記録媒体にデータを記録、再生する磁気記録再生装置によれば、この磁気記録媒体に、大容量のデータを、そのシフト移動が阻害されることなく連続して記録、再生することができる。
【0051】
第1、第2実施形態に係る磁気記録媒体にデータを記録、再生する磁気記録再生装置は、2枚以上の磁気記録媒体10(10A,10B)を搭載してもよく、これらを連続して、記録、再生するように、それぞれの磁気記録媒体10に接続、対向させたデータ記録部5、データ再生部6、および走査電流源7を備える。また、走査電流源7およびデータ記録部5を備えた磁気記録装置、あるいは、走査電流源7およびデータ再生部6を備えた磁気再生装置として、磁気記録媒体10のデータの記録のみまたは再生のみをする装置としてもよい。
【0052】
以上、本発明に係る磁気記録媒体および磁気記録再生装置を実施するための形態について述べてきたが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。