特許第6524610号(P6524610)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6524610非水系二次電池用正極活物質及びその製造方法
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  • 特許6524610-非水系二次電池用正極活物質及びその製造方法 図000006
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6524610
(24)【登録日】2019年5月17日
(45)【発行日】2019年6月5日
(54)【発明の名称】非水系二次電池用正極活物質及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20190527BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20190527BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20190527BHJP
【FI】
   H01M4/525
   H01M4/505
   H01M4/36 C
【請求項の数】9
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-80382(P2014-80382)
(22)【出願日】2014年4月9日
(65)【公開番号】特開2015-201388(P2015-201388A)
(43)【公開日】2015年11月12日
【審査請求日】2016年10月21日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】吉田 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】園尾 将人
(72)【発明者】
【氏名】下北 晃輔
【審査官】 青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/049964(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/144021(WO,A1)
【文献】 特開2005−228653(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00− 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム遷移金属複合酸化物からなるコア粒子と、
前記コア粒子の表面に存在する第一被覆層と、
前記第一被覆層の表面に存在する第二被覆層を含み、
前記第一被覆層は、ホウ素及びタングステンからなる群より選択される少なくとも一種の元素Mを含み、
前記第二被覆層は、ニオブを含み、
前記リチウム遷移金属複合酸化物が、層状構造を有し、
一般式LiNi1−x−yCoMn(0.95≦a≦1.2、0.10≦x≦0.35、0.20≦y≦0.35、0≦z≦0.02、LはW、Zr、Mo及びNbからなる群より選択される少なくとも一種の元素)で表される
非水系二次電池用正極活物質。
【請求項2】
前記第一被覆層における前記元素Mが、前記コア粒子に対して0.1mol%以上5.0mol%以下である、請求項に記載の正極活物質。
【請求項3】
前記第二被覆層における前記ニオブが、前記コア粒子に対して0.1mol%以上7.0mol%以下である、請求項又はに記載の正極活物質。
【請求項4】
前記第一および第二被覆層における前記元素Mが前記ニオブに対して0.01mol%以上50.0mol%である請求項乃至のいずれか一項に記載の正極活物質。
【請求項5】
リチウム遷移金属複合酸化物からなるコア粒子と、前記コア粒子の表面に存在し、ホウ素及びタングステンからなる群より選択される少なくとも一種の元素Mとニオブとを含む被覆層と、を含む非水系二次電池用正極活物質の製造方法であって、
前記コア粒子の表面に元素Mを含む化合物からなる第一の被覆原料を付着させて第一の被覆粒子を得る第一の被覆工程と、
前記第一の被覆粒子の表面にニオブを含む化合物からなる第二の被覆原料を付着させて第二の被覆粒子を得る第二の被覆工程と、
を含み、前記リチウム遷移金属複合酸化物が、層状構造を有し、
一般式LiNi1−x−yCoMn(0.95≦a≦1.2、0.10≦x≦0.35、0.20≦y≦0.35、0≦z≦0.02、LはW、Zr、Mo及びNbからなる群より選択される少なくとも一種の元素)で表される、製造方法。
【請求項6】
前記第一の被覆粒子を熱処理する第一の熱処理工程をさらに含む、請求項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記第二の被覆粒子を熱処理する第二の熱処理工程をさらに含む、請求項又はに記載の製造方法。
【請求項8】
前記第一の熱処理工程における熱処理温度が150℃以上500℃以下である、請求項に記載の製造方法。
【請求項9】
前記第二の熱処理工程における熱処理温度が250℃以上500℃以下である、請求項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は非水系二次電池用正極活物質及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池に代表される非水系二次電池は、正極活物質にアルカリ金属イオンを脱離・挿入可能な物質を、負極活物質に金属リチウム等のアルカリ金属単体あるいはアルカリ金属イオンを脱離・挿入可能な物質を、アルカリ金属イオン伝導媒体に非水電解液等を用い、アルカリ金属イオン伝導媒体を通じて正負極間でアルカリ金属イオンをやり取りし、外部と電力をやり取りする電池である。リチウムイオン二次電池においては、コバルト酸リチウム等のリチウム遷移金属複合酸化物が正極活物質として代表的に用いられている。
【0003】
ところで、正極活物質の界面を改質する技術に、正極活物質の表面を特定の物質で被覆する技術がある。
【0004】
特許文献1では、高温保存等によるインピーダンス上昇を抑制する目的で、LiNi0.82Co0.15Al0.03等のリチウムニッケル複合酸化物の表面に酸化ニオブ等を存在させた後に焼成する技術が提案されている。
【0005】
特許文献2では、高容量化と充放電効率の向上を目的として、Li1.03Ni0.77Co0.20Al0.03等の複合酸化物粒子に五ホウ酸アンモニウム等のホウ酸化合物等を被着させ、次いで酸化性雰囲気下で焼成する技術が提案されている。
【0006】
特許文献3では、初期充放電容量を大きく劣化させることなく熱安定性を向上する目的で、Li1.03(Ni0.8Co0.20.9Al0.1等のリチウム複合酸化物粉末の表面にW等とLiとを含む表面層を形成する技術が提案されている。具体例としてはLi1.03(Ni0.8Co0.20.9Al0.1とLiWOとを混合し、752℃で熱処理したものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−253305号公報
【特許文献2】特開2009−146739号公報
【特許文献3】特開2002−75367号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
これまでの非水系二次電池の改良の積み重ねに伴い、その適用分野として電気自動車の様な大型機器の動力源や、電力平準化用蓄電池等、より大規模、長期使用を想定した分野が検討されている。このような適用分野の拡大に伴い、非水系二次電池にはより充放電容量、出力特性、熱的安定性、寿命特性(保存特性、サイクル特性等)等についてより高い性能が求められている。
【0009】
アルカリ金属イオン伝導媒体に固体電解質を採用した全固体二次電池の場合、非水電解液を採用した非水電解液二次電池の場合に比べて熱的、化学的安定性が極めて向上する。しかし、固体電解質におけるアルカリ金属イオン伝導性は非水電解液のそれに比べて低いため、取り出し電流が同じである場合、全固体二次電池の放電容量は非水電解液二次電池のそれに比べて低くなる。
【0010】
非水電解液二次電池の場合も、近年の急速充電に対する要求を踏まえれば依然改良の余地がある。これは、充放電時の電流が高くなるとリチウム遷移金属複合酸化物の結晶構造が破壊され易く、非水電解液中の電解質との反応が促進されることが関係する。
【0011】
このように、全固体二次電池にせよ、非水電解液二次電池にせよ近年検討されてる分野への適用には克服すべき点が存在していた。本発明の目的は、より大規模、長期使用を想定した分野での使用に耐え得る非水系二次電池を実現可能な正極活物質を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために本発明者らは鋭意検討を重ね、本発明を完成するに至った。本発明者は、リチウム遷移金属複合酸化物からなるコア粒子の表面に、複数の特定元素を含む被覆層を形成することで全固体二次電池における放電容量を高められること、及び高電流で充放電を繰り返しても非水電解液中の電解質と正極活物質との反応が抑制されることを見出した。
【0013】
本発明の正極活物質は、リチウム遷移金属複合酸化物からなるコア粒子と、前記コア粒子の表面に存在する被覆層とを含み、前記被覆層は、ホウ素及びタングステンからなる群より選択される少なくとも一種の元素Mと、ニオブとを含む被覆層であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の正極活物質は上記の特徴を備えているため、全固体二次電池における放電容量が増加する。また、本発明の正極活物質は上記の特徴を備えているため、高電流で充放電を繰り返しても非水電解液中の電解質との反応が抑制される。このため、非水電解液二次電池において高電流サイクル特性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は本発明の正極活物質を製造するため好ましい形態の一例に関する概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の正極活物質及びその製造方法について、実施の形態及び実施例を用いて詳細に説明する。
【0017】
本発明の正極活物質は、リチウム遷移金属複合酸化物からなるコア粒子と、前記コア粒子の表面に存在する被覆層とを含む。以下、主にこれらについて説明する。
【0018】
[コア粒子]
コア粒子は公知のリチウム遷移金属複合酸化物を用いれば良い。例えばコバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、スピネル構造のマンガン酸リチウム(LiMn)、ニッケルコバルトマンガン酸リチウム(Li(Ni,Co,Mn)O)、オリビン構造のリン酸鉄リチウム(LiFePO)等がある。
【0019】
コバルト酸リチウム等の層状構造のリチウム遷移金属複合酸化物は、充放電容量、エネルギー密度等のバランスが良い非水系二次電池を得やすいので好ましい。特に遷移金属としてニッケル、コバルト及びマンガンを含有するリチウム遷移金属複合酸化物が好ましい。前記三元素中のニッケル含有量は充放電容量と合成のし易さとの兼ね合いで30mol%程度から70mol%程度、コバルト含有量はコストと出力特性との兼ね合いで10mol%から35mol%程度、マンガン含有量は熱的安定性と充放電容量との兼ね合いで20mol%程度から35mol%程度が好ましい。ニッケル、コバルト及びマンガン以外の遷移金属としてはタングステン、ジルコニウム、モリブデン、ニオブ等を目的に応じて全遷移金属の2mol%程度まで含有させても良い。組成として表すと、一般式LiNi1−x−yCoMn(0.95≦a≦1.2、0.10≦x≦0.35、0.20≦y≦0.35、0≦z≦0.02、LはW、Zr、Mo及びNbからなる群より選択される少なくとも一種の元素)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物が特に好ましい。
【0020】
[被覆層]
被覆層は、ホウ素及びタングステンからなる群より選択される少なくとも一種の元素Mと、ニオブとを含む。正極活物質がこれら特定の少なくとも二種の元素を含有する被覆層を有することで、固体電解質と正極活物質との界面抵抗が劇的に低下し、結果として全固体二次電池の放電容量が増加する。また、正極活物質全体の結晶構造が安定化し、高電流で充放電しても非水電解液中の電解質と正極活物質との反応が抑制される。
【0021】
被覆層中の元素Mは主に正極活物質全体の結晶構造の安定化に寄与する。元素Mが少なすぎると前述の効果が不十分になり、多すぎると容量が低下するので注意する。元素Mがコア粒子に対して、0.1mol%以上5.0mol%以下ならニオブと共存することで前述の効果を十分に発揮することが出来、好ましい。
【0022】
被覆層中の元素Mは主に正極活物質全体の結晶構造の安定化に寄与する。元素Mが少なすぎると前述の効果が不十分になり、多すぎると容量が低下するので注意する。元素Mがコア粒子に対して、0.1mol%以上7.0mol%以下ならニオブと共存することで前述の効果を十分に発揮することが出来、好ましい。
【0023】
被覆層における元素Mとニオブとの比率を適切に調節すると、元素M及びニオブの夫々の効果が増幅されるので好ましい。好ましい比率の範囲は、元素Mがニオブに対して、0.01mol%以上50.0mol%以下となる範囲である。
【0024】
次に本発明の正極活物質の製造方法を説明する。本発明の正極活物質は、公知の手法で得られるコア粒子に公知の手法で被覆層を形成すれば良い。
【0025】
被覆層の好ましい形成方法について、図1を用いて説明する。なお、図1は概念を説明するためのものであり、図内の各要素は誇張、省略等されている。
【0026】
[第一の被覆工程]
まず、コア粒子1の表面に、元素Mを含む化合物からなる第一の被覆原料2を付着させ(図1の(a))、第一の被覆粒子3を得る(図1の(b))。図1の(b)において、第一の被覆原料2はコア粒子1の表面全体を均一に被覆しているが、このような形態は一例にすぎず、必ずしもこのような形態である必要はない。
【0027】
第一の被覆原料は、元素Mを含んでいればどのような化合物でもよい。酸化物、ハロゲン化物、オキソ酸塩、水酸化物等が取り得る。また、本明細書において、「元素Mを含む化合物」は元素Mの単体をも含むものとする。また、元素Mが複数選択される場合は、複数の元素Mの合金も含むものとする。
【0028】
第一の被覆原料をコア粒子の表面に付着させる手法は特に限定されない。例えばコア粒子と第一の被覆原料とを高速で撹拌してメカノケミカルに付着させる、コア粒子と第一の被覆原料を分散媒に分散し、混合した後乾燥させて物理的に付着させる、第一の被覆原料の前駆体となる水溶液とコア粒子とを混合し、コア粒子の表面に第一の被覆原料を析出させる、等の手法がとり得る。
【0029】
[第一の熱処理工程]
得られる第一の被覆粒子は、さらに熱処理を施してもよい。熱処理によって、第一の被覆原料とコア粒子の一部が反応し、コア粒子の表面のより多くの領域が第一の被覆原料等で被覆される。この結果、全固体二次電池においては放電容量がより増加する。そのため、第一の熱処理工程は全固体二次電池用正極活物質を得る場合に特に好ましい。
【0030】
第一の熱処理工程における熱処理温度は、高過ぎると第一の被覆原料とコア粒子との反応が進み、コア粒子本来の特性を損ねかねないので注意する。熱処理温度が00℃以下なら通常問題ない。熱処理温度として効果が発現するのは150℃程度からである。このため、熱処理温度は150℃以上500℃以下が好ましい。
【0031】
[第二の被覆工程]
得られる第一の被覆粒子3の表面に、ニオブを含む化合物からなる第二の被覆原料4を付着させ(図1の(c))、第二の被覆粒子5を得、(図1の(d))正極活物質とする。図1の(d)において、第二の被覆原料2は第一の被覆粒子3の表面全体を均一に被覆しているが、このような形態は一例にすぎず、必ずしもこのような形態である必要はない。また、図1の(d)において、第二の被覆粒子5は二層からなる被覆層を有しているが、このような形態は一例にすぎず、必ずしもこのような形態である必要はない。また、被覆層は第一の被覆原料に由来する領域と第二の被覆原料に由来する領域とが明確に区別される必要はない。
【0032】
第二の被覆原料として取り得る化合物及び第二の被覆原料を第一の被覆粒子の表面に付着させる手法については、第一の被覆工程のそれらに準ずる。
【0033】
[第二の熱処理工程]
得られる第二の被覆粒子は、さらに熱処理を施してもよい。熱処理によって被覆が強固になるので好ましい。
【0034】
第二の熱処理工程における熱処理温度は、高過ぎると第二の被覆原料と第一の被覆粒子との反応が進み、被覆層本来の特性を損ねかねないので注意する。熱処理温度が500℃以下なら通常問題ない。熱処理温度として効果が発現するのは250℃程度からである。このため、熱処理温度は250℃以上00℃以下が好ましい。
【0035】
以下、実施例等を用いてより具体的に説明する。
【実施例1】
【0036】
一般式Li1.12Ni0.33Co0.33Mn0.330.005で表されるリチウム遷移金属複合酸化物をコア粒子とし、コア粒子に対してタングステンとして0.5mol%の酸化タングステン(VI)とコア粒子とを高速せん断型ミキサーで混合し、第一の混合物を得た。混合後、第一の混合物を大気中400℃で10時間熱処理し、第一の被覆粒子を得た。
【0037】
第一の被覆粒子を高速せん断型ミキサーで撹拌しながら市販の酸化ニオブゾル(ニオブとして5%含有)を、コア粒子に対してニオブとして2.0mol%となる量だけ滴下し、第二の混合物を得た。滴下後、第二の混合物を大気中350℃で5時間熱処理し、目的の正極組成物を得た。
【実施例2】
【0038】
酸化タングステン(VI)の代わりに、コア粒子に対してホウ素として0.5mol%のホウ酸とコア粒子とを高速せん断型ミキサーで混合し、第一の混合物を得た。混合後、第一の混合物を大気中250℃で10時間熱処理し、第一の被覆粒子を得た。以降実施例1と同様に行い、目的の正極組成物を得た。
【実施例3】
【0039】
実施例1におけるリチウム遷移金属複合酸化物をコア粒子とし、コア粒子に対してタングステンとして0.5mol%の酸化タングステン(VI)及びコア粒子に対して0.5mol%のホウ酸とコア粒子とを高速せん断型ミキサーで混合し、第一の混合物を得た。以降実施例1と同様に行い、目的の正極組成物を得た。
【実施例4】
【0040】
ホウ酸の混合量をコア粒子に対してホウ素として4.0mol%とした以外は実施例2と同様にし、目的の正極組成物を得た。
【0041】
[比較例1]
実施例1におけるコア粒子を比較用に用いた。
【実施例5】
【0042】
一般式Li1.05Ni0.6Co0.2Mn0.2Zr0.005で表されるリチウム遷移金属複合酸化物をコア粒子とし、コア粒子に対してホウ素として0.5mol%のホウ酸を高速せん断型ミキサーで混合し、第一の混合物を得た。
【0043】
第一の被覆粒子を高速せん断型ミキサーで撹拌しながら市販の酸化ニオブゾル(ニオブとして5%含有)を、コア粒子に対してニオブとして0.5mol%となる量だけ滴下し、第二の混合物を得た。滴下後、第二の混合物を大気中450℃で10時間熱処理し、目的の正極組成物を得た。
【0044】
[比較例2]
実施例5におけるコア粒子を比較用に用いた。
【0045】
[比較例3]
実施例5と同様のリチウム遷移金属複合酸化物をコア粒子とし、高速せん断型ミキサーで撹拌しながら市販の酸化ニオブゾル(ニオブとして5%含有)を、コア粒子に対してニオブとして0.5mol%となる量だけ滴下し、第二の混合物を得た。滴下後、第二の混合物を大気中450℃で10時間熱処理し、目的の正極組成物を得た。
【0046】
<3.全固体二次電池の評価>
実施例1〜4及び比較例1の正極活物質を用いて全固体二次電池を作製し、電池特性を評価した。
【0047】
[3−1.固体電解質の作製]
アルゴン雰囲気下で硫化リチウム及び五硫化リンを、その物質量比が7:3となるように秤量した。秤量物をメノウ乳鉢で粉砕混合し、硫化物ガラスを得た。これを固体電解質として用いた。
【0048】
[3−2.正極の作製]
正極活物質60重量部、固体電解質36重量部及びVGCF(気相法炭素繊維)4重量部を混合し、正極合材を得た。
【0049】
[3−3.負極の作製]
厚さ0.05mmのインジウム箔を直径11.00mmの円形にくり抜き、負極とした。
【0050】
[3−4.評価用電池の組み立て]
内径11.00mmの円筒状外型に外径11.00mmの円柱状下型を、外型下部から挿入した。下型の上端は外型の中間に位置に固定した。この状態で外型の上部から下型の上端に固体電解質80mgを投入した。投入後、外形11.00mmの円柱状上型を外型の上部から挿入した。挿入後、上型の上方から90MPaの圧力をかけて、固体電解質を成形し、固体電解質層とした。成形後上型を外型の上部から引き抜き、外型の上部から固体電解質層の上部に正極合材20mgを投入した。投入後、再度上型を挿入し、今度は360MPaの圧力をかけて正極合材を成形し、正極層とした。成形後上型を固定し、下型の固定を解除して外型の下部から引き抜き、下型の下部から固体電解質層の下部に負極を投入した。投入後、再度下型を挿入し、下型の下方から150MPaの圧力をかけて負極を成形し、負極層とした。圧力をかけた状態で下型を固定し、上型に正極端子、下型に負極端子を取り付け、全固体二次電池を得た。
【0051】
[3−5.初期放電容量]
電流密度0.195μA/cm、充電電圧4.0Vで定電流定電圧充電を行った。充電後、電流密度0.195μA/cm、放電電圧1.9Vで定電流放電を行い、放電容量Qを測定した。
【0052】
<4.非水電解液二次電池の評価>
実施例5及び比較例2、3の正極活物質を用いて非水電解液二次電池を作製し、電池特性を評価した。
【0053】
[4−1.正極の作製]
正極組成物85重量部、アセチレンブラック10重量部、及びPVDF(ポリフッ化ビニリデン)5.0重量部を、NMP(ノルマルメチル−2−ピロリドン)に分散させて正極スラリーを調製した。得られる正極スラリーをアルミニウム箔に塗布し、乾燥後ロールプレス機で圧縮成形し、所定サイズに裁断して正極を得た。
【0054】
[4−2.負極の作製]
人造黒鉛97.5重量部、CMC(カルボキシメチルセルロース)1.5重量部、及びSBR(スチレンブタジエンゴム)1.0重量部を水に分散させて負極スラリーを調製した。得られた負極スラリーを銅箔に塗布し、乾燥後ロールプレス機で圧縮成形し、所定サイズに裁断して負極を得た。
【0055】
[4−3.非水電解液の作製]
EC(エチレンカーボネイト)とMEC(メチルエチルカーボネイト)を体積比率3:7で混合し、溶媒とした。得られる混合溶媒に六フッ化リン酸リチウム(LiPF)をその濃度が、1mol/lになるように溶解させて、非水電解液を得た。
【0056】
[4−4.評価用電池の組み立て]
上記正極と負極の集電体に、それぞれリード電極を取り付けたのち120℃で真空乾燥を行った。次いで、正極と負極との間に多孔性ポリエチレンからなるセパレータを配し、袋状のラミネートパックにそれらを収納した。収納後60℃で真空乾燥して各部材に吸着した水分を除去した。真空乾燥後、ラミネートパック内に、先述の非水電解液を注入、封止し、ラミネートタイプの非水電解液二次電池を得た。
【0057】
[4−5.高電流サイクル特性]
非水電解液二次電池に微弱電流でエージングを行い、正極及び負極に電解質を十分なじませた。エージング後、電池を45℃に設定した恒温槽内に入れ、充電電圧4.4V、充電電流2.0C(1C:1時間で放電が終了する電流)での充電と、放電電圧2.75V、放電電流2.0Cでの放電を1サイクルとし、充放電を繰り返した。nサイクル目の放電容量を1サイクル目の放電容量で除した値を、nサイクル目の放電容量維持率Qs(n)とした。Qs(n)が高いことは、サイクル特性が良いことを意味する。
【0058】
[4−6.出力特性]
非水電解液二次電池に微弱電流を流してエージングを行い、正極及び負極に電解質を十分なじませた。その後、高電流での放電と、微弱電流での充電を繰り返した。10回目の充電における充電容量を電池の全充電容量とした。11回目の放電後、全充電容量の4割まで充電した。11回目の充電後、電池を−25℃に設定した恒温槽内に入れ、6時間置いた後、放電電流0.02A、0.04A、0.06Aで放電し、各放電時の電圧を測定した。横軸に電流を、縦軸に電圧をとって交点をプロットし、交点を結んだ直線の傾きの絶対値を直流内部抵抗Rとした。Rが低いことは、出力特性が良いことを意味する。
【0059】
実施例1〜4及び比較例1についてそれらの製造条件を表1に、正極活物質の特性及び該正極活物質を用いた全固体二次電池の特性を表2に示す。
【0060】
【表1】
【0061】
【表2】
【0062】
表1、2から分かるように、被覆層に元素M及びニオブの両方が含まれる実施例1〜4の正極活物質を用いた全固体二次電池の放電容量が極めて高くなっている。これは、被覆層の元素M及びニオブが共に存在することで正極活物質と固体電解質との界面抵抗を劇的に低減した結果と考えられる。
【0063】
実施例5及び比較例2、3についてそれらの製造条件を表3に、正極活物質の特性及び該正極活物質を用いた非水電解液二次電池の特性を表4に示す。
【0064】
【表3】
【0065】
【表4】
【0066】
表3、4から分かるように、被覆層に元素M及びニオブの両方が含まれる実施例5の正極活物質を用いた非水電解液二次電池の高電流サイクル特性及び出力特性が共によい。特に高電流サイクル特性の向上は、被覆層に元素M及びニオブが存在することで急速な充放電にも耐えられる安定した結晶構造が得られた結果と考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の非水系二次電池用正極活物質を用いると、大電流を取り出しても放電容量の高い全固体二次電池を得ることが出来る。あるいは、大電流で充放電を繰り返しても長期間使用可能な非水電解液二次電池を得ることが出来る。このようにして得られる非水系二次電池は、電気自動車等の大型機器の動力源として特に好適に利用可能である。
【符号の説明】
【0068】
1 コア粒子
2 第一の被覆原料
3 第一の被覆粒子
4 第二の被覆原料
5 第二の被覆粒子
図1