特許第6524835号(P6524835)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6524835フルオロスルホニル基含有モノマー、フルオロスルホニル基含有ポリマー、スルホン酸基含有ポリマー、液状組成物および膜電極接合体の製造方法
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  • 特許6524835-フルオロスルホニル基含有モノマー、フルオロスルホニル基含有ポリマー、スルホン酸基含有ポリマー、液状組成物および膜電極接合体の製造方法 図000024
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6524835
(24)【登録日】2019年5月17日
(45)【発行日】2019年6月5日
(54)【発明の名称】フルオロスルホニル基含有モノマー、フルオロスルホニル基含有ポリマー、スルホン酸基含有ポリマー、液状組成物および膜電極接合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 16/30 20060101AFI20190527BHJP
   C08F 8/12 20060101ALI20190527BHJP
   C07C 303/02 20060101ALI20190527BHJP
   C07C 309/82 20060101ALI20190527BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20190527BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20190527BHJP
【FI】
   C08F16/30
   C08F8/12
   C07C303/02
   C07C309/82
   H01M8/10
   H01M4/86 B
【請求項の数】11
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2015-147410(P2015-147410)
(22)【出願日】2015年7月27日
(65)【公開番号】特開2017-25242(P2017-25242A)
(43)【公開日】2017年2月2日
【審査請求日】2018年2月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100094400
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 三義
(74)【代理人】
【識別番号】100106057
【弁理士】
【氏名又は名称】柳井 則子
(72)【発明者】
【氏名】平居 丈嗣
(72)【発明者】
【氏名】渡壁 淳
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 貢
【審査官】 安田 周史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−181128(JP,A)
【文献】 特開2010−018674(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 16/30
C08F 8/12
C07C 303/02
C07C 309/82
H01M 4/86
H01M 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下式(14)で表される化合物とペルフルオロアリル化剤とをあらかじめ混合した液にフッ化物塩を添加して下式(m1)で表される化合物を得る、フルオロスルホニル基含有モノマーの製造方法。
【化1】
ただし、nは0または1であり、Rf1はペルフルオロアルキレン基、またはペルフルオロアルキレン基の炭素−炭素原子間にエーテル性酸素原子を有する基であり、Xはフッ素原子またはフルオロスルホニル基である。
【請求項2】
前記ペルフルオロアリル化剤が、下式(12)で表される化合物である、請求項に記載のフルオロスルホニル基含有モノマーの製造方法。
CF=CFCF−Z (12)
ただし、Zは−OSOF、−OSOf2、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子であり、Rf2はペルフルオロアルキル基である。
【請求項3】
前記Xがフルオロスルホニル基である、請求項またはに記載のフルオロスルホニル基含有モノマーの製造方法。
【請求項4】
前記nが1である、請求項のいずれか一項に記載のフルオロスルホニル基含有モノマーの製造方法。
【請求項5】
前記Rf1が−CFCF−である、請求項のいずれか一項に記載のフルオロスルホニル基含有モノマーの製造方法。
【請求項6】
請求項のいずれか一項に記載の製造方法によってフルオロスルホニル基含有モノマーを製造し、該フルオロスルホニル基含有モノマーを含むモノマー成分を重合して前記フルオロスルホニル基含有モノマーに由来する構成単位を有するフルオロスルホニル基含有ポリマーを得る、フルオロスルホニル基含有ポリマーの製造方法。
【請求項7】
前記モノマー成分が、テトラフルオロエチレンをさらに含む、請求項に記載のフルオロスルホニル基含有ポリマーの製造方法。
【請求項8】
請求項またはに記載の製造方法によってフルオロスルホニル基含有ポリマーを製造し、該フルオロスルホニル基含有ポリマーのフルオロスルホニル基をスルホン酸基に変換することによってスルホン酸基含有ポリマーを得る、スルホン酸基含有ポリマーの製造方法。
【請求項9】
請求項に記載の製造方法によってスルホン酸基含有ポリマーを製造し、該スルホン酸基含有ポリマーと、液状媒体とを混合して液状組成物を得る、液状組成物の製造方法。
【請求項10】
触媒層を有するアノードと、
触媒層を有するカソードと、
前記アノードと前記カソードとの間に配置された固体高分子電解質膜と
を備えた固体高分子形燃料電池用膜電極接合体を製造する方法であって、
請求項に記載の製造方法によって液状組成物を製造し、該液状組成物と触媒とを混合して触媒層形成用塗工液を調製し、該塗工液を用いて前記カソードおよび前記アノードのいずれか一方または両方の触媒層を形成する、膜電極接合体の製造方法。
【請求項11】
触媒層を有するアノードと、
触媒層を有するカソードと、
前記アノードと前記カソードとの間に配置された固体高分子電解質膜と
を備えた固体高分子形燃料電池用膜電極接合体を製造する方法であって、
請求項に記載の製造方法によって液状組成物を製造し、該液状組成物を用いて前記固体高分子電解質膜を形成する、膜電極接合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フルオロスルホニル基含有モノマー、フルオロスルホニル基含有ポリマー、スルホン酸基含有ポリマー、液状組成物、膜電極接合体およびそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池用膜電極接合体における触媒層や固体高分子電解質膜、塩化アルカリ電解に用いられる陽イオン交換膜等に含まれるポリマーには、イオン交換容量が高いことが望まれている。イオン交換容量が高いとイオンの導電率が向上するため、たとえば、固体高分子形燃料電池の発電性能の向上や、塩化アルカリ電解における過電圧の低下といった実用上の利点が期待できる。
【0003】
イオン交換容量が高いポリマーとしては、下式(m2)で表されるフルオロスルホニル基含有モノマーに由来する構成単位とテトラフルオロエチレンに由来する構成単位とを有するフルオロスルホニル基含有ポリマーのフルオロスルホニル基(−SOF)をスルホン酸基(−SOH)に変換したスルホン酸基含有ポリマーが提案されている(特許文献1)。
【0004】
【化1】
【0005】
ただし、mは0または1であり、RF1は単結合、炭素数1〜6の直鎖状のペルフルオロアルキレン基、または該ペルフルオロアルキレン基の炭素−炭素原子間にエーテル性酸素原子を有する基であり、RF2は炭素数1〜6の直鎖状のペルフルオロアルキレン基、または該ペルフルオロアルキレン基の炭素−炭素原子間にエーテル性酸素原子を有する基である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第5141251号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、式(m2)で表されるフルオロスルホニル基含有モノマーを製造するにあたっては、特許文献1の例2において出発物質とされたCF=CFCFOCFCFSOFを得るまでに合成ステップが2ステップ(米国特許第4273729号明細書等)必要な上に、特許文献1の例2においてCF=CFCFOCFCFSOFから目的のフルオロスルホニル基含有モノマーまでにさらに合成ステップが4ステップ、合計で6ステップ必要である。そのため、式(m2)で表されるフルオロスルホニル基含有モノマーは、製造に手間がかかる。
【0008】
本発明は、イオン交換容量が高いスルホン酸基含有ポリマーを得ることができ、かつ少ない合成ステップで製造できるフルオロスルホニル基含有モノマー、イオン交換容量が高いスルホン酸基含有ポリマーを得ることができるフルオロスルホニル基含有ポリマー、イオン交換容量を高くできるスルホン酸基含有ポリマー、イオン交換容量が高いポリマーを含む膜を形成できる液状組成物、発電性能に優れた膜電極接合体およびそれらの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、下記の態様を有する。
[1]下式(m1)で表される、フルオロスルホニル基含有モノマー。
【化2】
ただし、nは0または1であり、Rf1はペルフルオロアルキレン基、またはペルフルオロアルキレン基の炭素−炭素原子間にエーテル性酸素原子を有する基であり、Xはフッ素原子またはフルオロスルホニル基である。
[2]前記Xがフルオロスルホニル基である、[1]のフルオロスルホニル基含有モノマー。
[3]前記nが1である、[1]または[2]のフルオロスルホニル基含有モノマー。
[4]前記Rf1が−CFCF−である、[1]〜[3]のいずれかのフルオロスルホニル基含有モノマー。
[5]前記[1]〜[4]のいずれかのフルオロスルホニル基含有モノマーに由来する構成単位を有する、フルオロスルホニル基含有ポリマー。
[6]テトラフルオロエチレンに由来する構成単位をさらに有する、[5]のフルオロスルホニル基含有ポリマー。
[7]前記[5]または[6]のフルオロスルホニル基含有ポリマーのフルオロスルホニル基をスルホン酸基に変換した、スルホン酸基含有ポリマー。
[8]前記[7]のスルホン酸基含有ポリマーと、液状媒体とを含む、液状組成物。
[9]触媒層を有するアノードと、触媒層を有するカソードと、前記アノードと前記カソードとの間に配置された固体高分子電解質膜とを備えた固体高分子形燃料電池用膜電極接合体であって、前記カソードの触媒層、前記アノードの触媒層および前記固体高分子電解質膜からなる群から選ばれる少なくとも1つが、[7]のスルホン酸基含有ポリマーを含む、膜電極接合体。
[10]下式(14)で表される化合物とペルフルオロアリル化剤とをあらかじめ混合した液にフッ化物塩を添加して下式(m1)で表される化合物を得る、フルオロスルホニル基含有モノマーの製造方法。
【化3】
ただし、nは0または1であり、Rf1はペルフルオロアルキレン基、またはペルフルオロアルキレン基の炭素−炭素原子間にエーテル性酸素原子を有する基であり、Xはフッ素原子またはフルオロスルホニル基である。
[11]前記ペルフルオロアリル化剤が、下式(12)で表される化合物である、[10]のフルオロスルホニル基含有モノマーの製造方法。
CF=CFCF−Z (12)
ただし、Zは−OSOF、−OSOf2、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子であり、Rf2はペルフルオロアルキル基である。
[12]前記Xがフルオロスルホニル基である、[10]または[11]のフルオロスルホニル基含有モノマーの製造方法。
[13]前記nが1である、[10]〜[12]のいずれかのフルオロスルホニル基含有モノマーの製造方法。
[14]前記Rf1が−CFCF−である、[10]〜[13]のいずれかのフルオロスルホニル基含有モノマーの製造方法。
[15]前記[10]〜[14]のいずれかの製造方法によってフルオロスルホニル基含有モノマーを製造し、該フルオロスルホニル基含有モノマーを含むモノマー成分を重合して前記フルオロスルホニル基含有モノマーに由来する構成単位を有するフルオロスルホニル基含有ポリマーを得る、フルオロスルホニル基含有ポリマーの製造方法。
[16]前記モノマー成分が、テトラフルオロエチレンをさらに含む、[15]のフルオロスルホニル基含有ポリマーの製造方法。
[17]前記[15]または[16]の製造方法によってフルオロスルホニル基含有ポリマーを製造し、該フルオロスルホニル基含有ポリマーのフルオロスルホニル基をスルホン酸基に変換することによってスルホン酸基含有ポリマーを得る、スルホン酸基含有ポリマーの製造方法。
[18]前記[17]の製造方法によってスルホン酸基含有ポリマーを製造し、該スルホン酸基含有ポリマーと、液状媒体とを混合して液状組成物を得る、液状組成物の製造方法。
[19]触媒層を有するアノードと、触媒層を有するカソードと、前記アノードと前記カソードとの間に配置された固体高分子電解質膜とを備えた固体高分子形燃料電池用膜電極接合体を製造する方法であって、[18]の製造方法によって液状組成物を製造し、該液状組成物と触媒とを混合して触媒層形成用塗工液を調製し、該塗工液を用いて前記カソードおよび前記アノードのいずれか一方または両方の触媒層を形成する、膜電極接合体の製造方法。
[20]触媒層を有するアノードと、触媒層を有するカソードと、前記アノードと前記カソードとの間に配置された固体高分子電解質膜とを備えた固体高分子形燃料電池用膜電極接合体を製造する方法であって、[18]の製造方法によって液状組成物を製造し、該液状組成物を用いて前記固体高分子電解質膜を形成する、膜電極接合体の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明のフルオロスルホニル基含有モノマーによれば、イオン交換容量が高いスルホン酸基含有ポリマーを得ることができる。また、本発明のフルオロスルホニル基含有モノマーは、少ない合成ステップで製造できる。
本発明のフルオロスルホニル基含有ポリマーによれば、イオン交換容量が高いスルホン酸基含有ポリマーを得ることができる。
本発明のスルホン酸基含有ポリマーは、イオン交換容量を高くできる。
本発明の液状組成物によれば、イオン交換容量が高いポリマーを含む膜を形成できる。
本発明の膜電極接合体は、発電性能に優れる。
本発明のフルオロスルホニル基含有モノマーの製造方法によれば、イオン交換容量が高いスルホン酸基含有ポリマーを得ることができるフルオロスルホニル基含有モノマーを少ない合成ステップで製造できる。
本発明のフルオロスルホニル基含有ポリマーの製造方法によれば、イオン交換容量が高いスルホン酸基含有ポリマーを得ることができるフルオロスルホニル基含有ポリマーを製造できる。
本発明のスルホン酸基含有ポリマーの製造方法によれば、イオン交換容量が高いスルホン酸基含有ポリマーを製造できる。
本発明の液状組成物の製造方法によれば、イオン交換容量が高いポリマーを含む膜を形成できる液状組成物を製造できる。
本発明の膜電極接合体の製造方法によれば、発電性能に優れる膜電極接合体を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の膜電極接合体の一例を示す断面図である。
図2】本発明の膜電極接合体の他の例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書においては、式(m1)で表される化合物を、化合物(m1)と記す。他の式で表される化合物も同様に記す。
本明細書においては、式(u1)で表される構成単位を、構成単位(u1)と記す。他の式で表される構成単位も同様に記す。
以下の用語の定義は、本明細書および特許請求の範囲にわたって適用される。
「ポリマー」とは、複数の構成単位から構成された構造を有する化合物を意味する。
「構成単位」とは、モノマーが重合することによって形成された該モノマーに由来する単位を意味する。構成単位は、モノマーの重合反応によって直接形成された単位であってもよく、ポリマーを処理することによって該単位の一部が別の構造に変換された単位であってもよい。
「モノマー」とは、重合反応性の炭素−炭素二重結合を有する化合物を意味する。
「ペルフルオロアリル化剤」とは、CF=CFCF−で表される構造を他の化合物に導入し得る化合物を意味する。
【0013】
<化合物(m1)>
本発明のフルオロスルホニル基含有モノマーは、化合物(m1)である。
【0014】
【化4】
【0015】
nは、0または1であり、より短いステップでの合成が可能となる点から、1が好ましい。
【0016】
f1は、ペルフルオロアルキレン基、またはペルフルオロアルキレン基の炭素−炭素原子間にエーテル性酸素原子を有する基である。
f1としては、−CFCF−、−CF−、−CFCFCF−、−CFCFCFCF−、−CFCF(CF)OCFCFCF−、−CFCF(CF)−等が挙げられ、より短いステップでの合成が可能であり、より高いイオン交換容量が得られる点から、−CFCF−が好ましい。
【0017】
Xは、フッ素原子またはフルオロスルホニル基であり、イオン交換容量が高いポリマーを得ることができる点から、フルオロスルホニル基が好ましい。
【0018】
化合物(m1)としては、原料の入手性、化合物(m1)の蒸留精製のしやすさ、化合物(m1)の分子量の点から、化合物(m1−1)〜化合物(m1−10)が好ましく、化合物(m1−1)がより好ましい。ただし、xは1以上の整数である。
【0019】
【化5】
【0020】
<化合物(m1)の製造方法>
化合物(m1)の製造方法は、化合物(14)とペルフルオロアリル化剤とをあらかじめ混合した液にフッ化物塩を添加して化合物(m1)を得る方法である。
【0021】
【化6】
【0022】
ただし、n、Rf1およびXは、上述したとおりであり、好ましい形態も同様である。MFは、フッ化物塩である。
従来のペルフルオロ−β−サルトン骨格を有する化合物とペルフルオロアリル化剤との反応においては、まず、ペルフルオロ−β−サルトン骨格を有する化合物とフッ化物塩(MF)とを混合してペルフルオロ−β−サルトン骨格を開環させてMO−CF−CF(SOF)−とし、ついで、ペルフルオロアリル化剤を添加していた。しかし、化合物(14)とペルフルオロアリル化剤との反応にこの手順を適用すると、MO−CF−CF(SOF)−構造の分解が生じ、化合物(m1)をまったく得ることができない。本発明においては、化合物(14)とペルフルオロアリル化剤とをあらかじめ混合した液にフッ化物塩を添加することによって、化合物(m1)を得ることができる。
【0023】
化合物(14)とペルフルオロアリル化剤とを混合した液は、非プロトン性の極性溶媒を含むことが好ましい。
非プロトン性の極性溶媒としては、モノグライム、ジグライム、トリグライム、テトラグライム、アセトニトリル、プロピオニトリル、アジポニトリル、ベンゾニトリル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン、ニトロエタン等が挙げられる。
【0024】
フッ化物塩としては、フッ化カリウム、フッ化セシウム、フッ化銀、第四級アンモニウムフルオリド等が挙げられ、反応性とコストの点から、フッ化セシウム、フッ化カリウムが好ましい。
フッ化物塩は、化合物(14)とペルフルオロアリル化剤とを混合した液に、一括で添加してもよく、断続的または連続的に添加してもよい。
反応温度は、化合物(m1)の収率が比較的よい点から、−70〜0℃が好ましく、−50〜−20℃がより好ましい。
【0025】
(ペルフルオロアリル化剤)
ペルフルオロアリル化剤としては、原料の入手性、ペルフルオロアリル化の反応性の点から、化合物(12)が好ましい。
CF=CFCF−Z (12)
ただし、Zは−OSOF、−OSOf2、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子であり、Rf2はペルフルオロアルキル基である。
【0026】
化合物(12)としては、原料の入手性、ペルフルオロアリル化の反応性、合成の簡便さの点から、化合物(12−1)が好ましい。
CF=CFCF−OSOF (12−1)
化合物(12−1)の製造方法は、後述する。
【0027】
(化合物(14))
化合物(14)は、たとえば、化合物(13)と三酸化硫黄とを反応させることによって得られる。三酸化硫黄としては、たとえば、濃硫酸に三酸化硫黄を吸収させた発煙硫酸が用いられる。また、市販の安定化無水硫酸、前記発煙硫酸、または安定化無水硫酸を蒸留して得られる三酸化硫黄も用いられる。
【0028】
【化7】
【0029】
ただし、n、Rf1およびXは、上述したとおりであり、好ましい形態も同様である。
化合物(14)としては、原料の入手性、化合物(14)の蒸留精製のしやすさ、合成の簡便さ、コストの点から、化合物(14−1)〜化合物(14−10)が好ましく、化合物(14−1)がより好ましい。ただし、xは1以上の整数である。
【0030】
【化8】
【0031】
(化合物(13))
化合物(13)としては、原料の入手性、化合物(13)の蒸留精製のしやすさ、合成の簡便さ、コストの点から、化合物(13−1)〜化合物(13−10)が好ましく、化合物(13−1)がより好ましい。
CF=CF−CF−O−CFCF−SOF (13−1)
CF=CF−CF−CFCF−F (13−2)
CF=CF−(CFCF−F (13−3)
CF=CF−CF−CF−SOF (13−4)
CF=CF−CF−CFCFCF−SOF (13−5)
CF=CF−CF−O−CF−F (13−6)
CF=CF−CF−O−CFCF−F (13−7)
CF=CF−CF−O−CFCFCF−F (13−8)
CF=CF−CF−O−CFCF(CF)OCFCFCF−F (13−9)
CF=CF−CF−O−CFCF(CF)−SOF (13−10)
ただし、xは1以上の整数である。
【0032】
化合物(13−1)は、米国特許第4273729号明細書、米国特許出願公開第2005/0037265号明細書、特開2010−018674号公報等に記載の方法で製造できる。具体的には、三フッ化ホウ素の存在下に化合物(11)と三酸化硫黄とを反応させることによって化合物(12−1)を得て、フッ化物塩の存在下に化合物(12−1)とFC(=O)CFSOFとを反応させて得られる。
【0033】
【化9】
【0034】
FC(=O)CFSOFは、テトラフルオロエチレンと三酸化硫黄とを反応させてテトラフルオロ−β−サルトンを得て、テトラフルオロ−β−サルトンにフッ化物塩を添加して開環させることによって得られる。
【0035】
【化10】
【0036】
化合物(13−2)は、特開2004−26800号公報の実施例10に記載の方法と同様の方法によって製造できる。具体的には、CFCFCFCFCFIをマグネシウム等の還元性を持つ金属の存在下、脱ハロゲン化することで得られる。CFCFCFCFCFIは、CFIとテトラフルオロエチレンとのテロメリゼーションによって得られる。
【0037】
化合物(13−3)は、CFCFIとテトラフルオロエチレンとのテロメリゼーションにおいて、テトラフルオロエチレンの仕込み当量を適宜選択することによって、炭素数の異なるヨウ素化化合物CFCF−(CFCF−Iを得た後、該ヨウ素化化合物を脱ハロゲン化することによって得られる。
【0038】
化合物(13−4)は、特表2002−528433号公報の実施例1に記載の方法によって製造できる。具体的には、米国特許第5350821号明細書の実施例1に記載の方法によって合成したCFClCFClCFCFIを、アジチオン酸ナトリウムの存在下でスルフィン化させてCFClCFClCFCFSONaを得て、水中で塩素と反応させることでCFClCFClCFCFSOClを得て、フッ化カリウムの存在下ハロゲン交換することでCFClCFClCFCFSOFを得て、最後に亜鉛の存在下で脱塩素反応させることによって得られる。
【0039】
化合物(13−5)は、米国特許第5350821号明細書の実施例1に記載の方法によって合成したCFClCFClCFCFCFCFIを用い、化合物(13−4)と同様の方法によって得られる。CFClCFClCFCFCFCFIを選択率よく得るためには、米国特許第5350821号明細書の実施例1の条件において使用されるテトラフルオロエチレンの当量を増やせばよいことは、当業者にとって容易に想起できる。
【0040】
化合物(13−6)〜化合物(13−8)は、Molecules,2011年,16,p.6512−6540に記載の方法によって製造できる。具体的には、種々の炭素数のペルフルオロアルキルカルボン酸フルオリドとフッ化物塩との混合物に、ペルフルオロアリル化剤を添加し、反応させることによって得られる。
【0041】
化合物(13−9)は、米国特許第4273729号明細書の実施例16に記載の方法によって製造できる。具体的には、ヘキサフルオロプロペンオキシド2量体とフッ化物塩との混合物に、ペルフルオロアリル化剤を添加し反応させることによって得られる。
【0042】
化合物(13−10)は、米国特許第4273729号明細書の実施例9に記載の方法によって製造できる。具体的には、ヘキサフルオロプロペンと三酸化硫黄との反応により得られるペルフルオロプロパン−2,3−サルトンと、フッ化物塩とを混合して得られるMO−CF−CF(CF)−SOFに、ペルフルオロアリル化剤を添加し反応させることによって得られる。
【0043】
(作用機序)
以上説明した化合物(m1)にあっては、比較的分子量が低い化合物であるため、化合物(m1)に由来する構成単位を有するフルオロスルホニル基含有ポリマーのフルオロスルホニル基をスルホン酸基に変換したスルホン酸基含有ポリマーにおいて、スルホン酸基の1つあたりの分子量を低くすることができる。特に、化合物(m1)のXがフルオロスルホニル基の場合は、スルホン酸基含有ポリマーにおけるスルホン酸基の1つあたりの分子量をさらに低くすることができる。そのため、イオン交換容量が高いスルホン酸基含有ポリマーを得ることができる。
また、以上説明した化合物(m1)の製造方法にあっては、比較的少ない合成ステップで得られる化合物(14)を用いている。たとえば化合物(11)から化合物(14−1)までの合成ステップが3ステップである。そのため、化合物(m1−1)を少ない合成ステップ(4ステップ)で製造できる。
【0044】
<ポリマー(F)>
本発明のフルオロスルホニル基含有ポリマー(以下、ポリマー(F)とも記す。)は、化合物(m1)に由来する構成単位(u1)を有する。
【0045】
【化11】
【0046】
ただし、n、Rf1およびXは、上述したとおりであり、好ましい形態も同様である。
構成単位(u1)としては、原料の入手性、化合物(m1)の蒸留精製のしやすさ、合成の簡便さ、コストの点から、構成単位(u1−1)〜構成単位(u1−10)が好ましく、構成単位(u1−1)がより好ましい。ただし、xは1以上の整数である。
【0047】
【化12】
【0048】
ポリマー(F)は、テトラフルオロエチレン(以下、TFEとも記す。)に由来する構成単位をさらに有することが好ましい。TFEは高い結晶性を有するため、後述するスルホン酸基含有ポリマーが含水した際の膨潤を抑える効果があり、スルホン酸基含有ポリマーの含水率を低減できる。
【0049】
ポリマー(F)は、化合物(m1)およびTFE以外の他のモノマーに由来する構成単位をさらに有していてもよい。
他のモノマーとしては、クロロトリフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、フッ化ビニリデン、フッ化ビニル、エチレン、プロピレン、ペルフルオロ(3−ブテニルビニルエーテル)、ペルフルオロ(アリルビニルエーテル)、ペルフルオロα−オレフィン(ヘキサフルオロプロピレン等)、(ペルフルオロアルキル)エチレン((ペルフルオロブチル)エチレン等)、(ペルフルオロアルキル)プロペン(3−ペルフルオロオクチル−1−プロペン等)、ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)、国際公開第2011/013578号に記載の5員環を有するペルフルオロポリマー等が挙げられる。
【0050】
ポリマー(F)を構成する全構成単位の100モル%のうちの構成単位(u1)、TFEに由来する構成単位、他のモノマーに由来する構成単位の割合は、スルホン酸基含有ポリマーに要求される特性(イオン交換容量、機械的強度等)に応じて適宜決定すればよい。
【0051】
ポリマー(F)のTQ値は、200〜330℃が好ましい。ポリマー(F)のTQ値が前記下限値以上であれば、スルホン酸基含有ポリマーが充分な分子量を有し、機械的強度にも優れる。ポリマー(F)のTQ値が前記上限値以下であれば、スルホン酸基含有ポリマーの溶解性または分散性がよくなり、後述する液状組成物を調製しやすい。
TQ値は、ポリマーの分子量の指標であり、長さ1mm、内径1mmのノズルを用い、2.94MPaの押出し圧力の条件でポリマー(F)の溶融押出しを行った際の押出し量が100mm/秒となる温度である。
【0052】
<ポリマー(F)の製造方法>
ポリマー(F)の製造方法は、上述した化合物(m1)の製造方法によって化合物(m1)を製造し、化合物(m1)、必要に応じてTFE、他のモノマーを含むモノマー成分を重合してポリマー(F)を得る方法である。
【0053】
重合法としては、バルク重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法等の公知の重合法が挙げられる。また、液体または超臨界の二酸化炭素中にて重合を行ってもよい。
重合は、ラジカルが生起する条件で行われる。ラジカルを生起させる方法としては、紫外線、γ線、電子線等の放射線を照射する方法、ラジカル開始剤を添加する方法等が挙げられる。
重合温度は、通常、10〜150℃である。
【0054】
ラジカル開始剤としては、ビス(フルオロアシル)ペルオキシド類、ビス(クロロフルオロアシル)ペルオキシド類、ジアルキルペルオキシジカーボネート類、ジアシルペルオキシド類、ペルオキシエステル類、アゾ化合物類、過硫酸塩類等が挙げられ、不安定末端基が少ないポリマー(F)が得られる点から、ビス(フルオロアシル)ペルオキシド類等のペルフルオロ化合物が好ましい。
【0055】
溶液重合法にて用いる溶媒としては、20〜350℃の沸点を有する溶媒が好ましく、40〜150℃の沸点を有する溶媒がより好ましい。溶媒としては、ペルフルオロトリアルキルアミン類(ペルフルオロトリブチルアミン等)、ペルフルオロカーボン類(ペルフルオロヘキサン、ペルフルオロオクタン等)、ハイドロフルオロカーボン類(1H,4H−ペルフルオロブタン、1H−ペルフルオロヘキサン等)、ハイドロクロロフルオロカーボン類(3,3−ジクロロ−1,1,1,2,2−ペンタフルオロプロパン、1,3−ジクロロ−1,1,2,2,3−ペンタフルオロプロパン等)、ハイドロフルオロエーテル類(CFCHOCFCFH等)が挙げられる。
【0056】
溶液重合法においては、溶媒中にモノマー、ラジカル開始剤等を添加し、溶媒中にてラジカルを生起させてモノマーの重合を行う。モノマーおよび開始剤の添加は、一括添加であってもよく、逐次添加であってもよく、連続添加であってもよい。
【0057】
懸濁重合法においては、水を分散媒として用い、該分散媒中にモノマー、非イオン性のラジカル開始剤等を添加し、分散媒中にてラジカルを生起させてモノマーの重合を行う。
非イオン性のラジカル開始剤としては、ビス(フルオロアシル)ペルオキシド類、ビス(クロロフルオロアシル)ペルオキシド類、ジアルキルペルオキシジカーボネート類、ジアシルペルオキシド類、ペルオキシエステル類、ジアルキルペルオキシド類、ビス(フルオロアルキル)ペルオキシド類、アゾ化合物類等が挙げられる。
分散媒には、助剤として前記溶媒;懸濁粒子の凝集を防ぐ分散安定剤として界面活性剤;分子量調整剤として炭化水素系化合物(ヘキサン、メタノール等)等を添加してもよい。
【0058】
(作用機序)
以上説明したポリマー(F)にあっては、比較的分子量が低い化合物(m1)に由来する構成単位(u1)を有する。また、以上説明したポリマー(F)の製造方法にあっては、比較的分子量が低い化合物(m1)を含むモノマー成分を重合してポリマー(F)を得ている。そのため、ポリマー(F)のフルオロスルホニル基をスルホン酸基に変換したスルホン酸基含有ポリマーにおいて、スルホン酸基の1つあたりの分子量を低くすることができる。特に、化合物(m1)のXがフルオロスルホニル基の場合は、スルホン酸基含有ポリマーにおけるスルホン酸基の1つあたりの分子量をさらに低くすることができる。そのため、イオン交換容量が高いスルホン酸基含有ポリマーを得ることができる。
【0059】
<ポリマー(H)>
本発明のスルホン酸基含有ポリマー(以下、ポリマー(H)とも記す。)は、ポリマー(F)のフルオロスルホニル基をスルホン酸基に変換したポリマーであり、構成単位(u’1)を有する。
【0060】
【化13】
【0061】
ただし、nおよびRf1は、上述したとおりであり、好ましい形態も同様である。X’は、フッ素原子またはスルホン酸基である。
構成単位(u’1)としては、原料の入手性、化合物(m1)の蒸留精製のしやすさ、合成の簡便さ、コストの点から、構成単位(u’1−1)〜構成単位(u’1−10)が好ましく、構成単位(u’1−1)がより好ましい。ただし、xは1以上の整数である。
【0062】
【化14】
【0063】
ポリマー(H)は、TFEに由来する構成単位をさらに有することが好ましく、化合物(m1)およびTFE以外の他のモノマーに由来する構成単位をさらに有していてもよい。
【0064】
ポリマー(H)のイオン交換容量は、0.5〜2.5ミリ当量/g乾燥樹脂が好ましく、1.3〜2.3ミリ当量/g乾燥樹脂がより好ましい。イオン交換容量が前記範囲の下限値以上であれば、ポリマー(H)の導電性が高くなるため、固体高分子形燃料電池の触媒層に用いた場合、充分な電池出力を得ることできる。イオン交換容量が前記範囲の上限値以下であれば、ポリマー(H)が含水した際の膨潤が抑えられる。
【0065】
<ポリマー(H)の製造>
ポリマー(H)の製造方法は、ポリマー(F)の製造方法によってポリマー(F)を製造し、該ポリマー(F)のフルオロスルホニル基をスルホン酸基に変換することによってポリマー(H)を得る方法である。
【0066】
フルオロスルホニル基をスルホン酸基に変換する方法としては、ポリマー(F)のフルオロスルホニル基を加水分解してスルホン酸塩とし、スルホン酸塩を酸型化してスルホン酸基に変換する方法が挙げられる。
【0067】
加水分解は、たとえば、溶媒中にてポリマー(F)と塩基性化合物とを接触させて行う。塩基性化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。溶媒としては、水、水と極性溶媒との混合溶媒等が挙げられる。極性溶媒としては、アルコール(メタノール、エタノール等)、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。
酸型化は、たとえば、スルホン酸塩を有するポリマーを、塩酸、硫酸等の水溶液に接触させて行う。
加水分解および酸型化は、通常、0〜120℃にて行う。
【0068】
(作用機序)
以上説明したポリマー(H)にあっては、ポリマー(F)のフルオロスルホニル基をスルホン酸基に変換したポリマーであるため、イオン交換容量を高くできる。
また、以上説明したポリマー(H)の製造方法にあっては、ポリマー(F)のフルオロスルホニル基をスルホン酸基に変換しているため、イオン交換容量が高いポリマー(H)を製造できる。
【0069】
<液状組成物>
本発明の液状組成物は、ポリマー(H)と、液状媒体とを含む。
本発明の液状組成物は、液状媒体中にポリマー(H)が分散したものであってもよく、液状媒体中にポリマー(H)が溶解したものであってもよい。
【0070】
(液状媒体)
液状媒体としては、水と、有機溶媒とを含むものが好ましい。
水は、液状媒体に対するポリマー(H)の分散性または溶解性を向上させる。
有機溶媒は、割れにくい触媒層や固体高分子電解質膜を形成しやすくする。
【0071】
有機溶媒としては、割れにくい触媒層や固体高分子電解質膜を形成しやすい点から、炭素数が1〜4のアルコールの1種以上が好ましい。
炭素数が1〜4のアルコールとしては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2,2,2−トリフルオロエタノール、2,2,3,3,3−ペンタフルオロ−1−プロパノール、2,2,3,3−テトラフルオロ−1−プロパノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール、3,3,3−トリフルオロ−1−プロパノール等が挙げられる。
【0072】
水の割合は、水と有機溶媒との合計(100質量%)のうち、10〜99質量%が好ましく、20〜99質量%がより好ましい。
有機溶媒の割合は、水と有機溶媒との合計(100質量%)のうち、1〜90質量%が好ましく、1〜80質量%がより好ましい。
水および有機溶媒の割合が前記範囲内であれば、分散媒に対するイオン交換基を有するポリマーの分散性に優れ、かつ割れにくい触媒層や固体高分子電解質膜を形成しやすい。
【0073】
ポリマー(H)の濃度は、液状組成物(100質量%)中、1〜50質量%が好ましく、3〜30質量%がより好ましい。ポリマー(H)の濃度が前記範囲の下限値以上であれば、製膜時に厚みのある膜を安定して得ることができる。また、触媒層を作製する際の触媒層形成用塗工液の調節が容易になる。ポリマー(H)の濃度が前記範囲の上限値以下であれば、液状組成物の粘度が過度に高くなるのを抑制できる。
【0074】
(液状組成物の用途)
本発明の液状組成物は、膜電極接合体における触媒層や固体高分子電解質膜の形成に好適に用いられる。また、他の膜(水電解、過酸化水素製造、オゾン製造、廃酸回収等に用いるプロトン選択透過膜、塩化アルカリ電解用陽イオン交換膜、レドックスフロー電池の隔膜、脱塩または製塩に用いる電気透析用陽イオン交換膜等)の形成にも用いることができる。
【0075】
<液状組成物の製造方法>
本発明の液状組成物の製造方法は、ポリマー(H)の製造方法によってポリマー(H)を製造し、ポリマー(H)と、液状媒体とを混合して液状組成物を得る方法である。
【0076】
混合方法としては、たとえば、大気圧下、またはオートクレーブ等で密閉した状態下において、液状媒体中のポリマー(H)に撹拌等のせん断を加える方法が挙げられる。
撹拌時の温度は、0〜250℃が好ましく、20〜150℃がより好ましい。必要に応じて、超音波等のせん断を付与してもよい。
【0077】
ポリマー(H)と液状媒体とを混合した混合液に撹拌等のせん断を加える際は、ポリマー(H)に液状媒体を一度に全部加えた混合液に撹拌等のせん断を加えてもよいし、ポリマー(H)に液状媒体を複数回に分けて混合し、その合間に撹拌等のせん断を加えてもよい。たとえば、ポリマー(H)に液状媒体の一部を加えた混合液に撹拌等のせん断を加え、その後に、その混合液に残りの液状媒体を加えて再度撹拌等のせん断を加えるようにしてもよい。また、液状媒体に有機溶媒のみを加えて撹拌等のせん断を加え、その後に水のみを加えて再度、撹拌等のせん断を加えるようにしてもよい。
【0078】
(作用機序)
以上説明した本発明の液状組成物にあっては、イオン交換容量を高くできるポリマー(H)を含むため、イオン交換容量が高いポリマーを含む膜を形成できる。
また、以上説明した本発明の液状組成物の製造方法にあっては、イオン交換容量を高くできるポリマー(H)と、液状媒体とを混合して液状組成物を得るため、イオン交換容量が高いポリマーを含む膜を形成できる液状組成物を製造できる。
【0079】
<膜電極接合体>
図1は、本発明の膜電極接合体の一例を示す断面図である。膜電極接合体10は、触媒層11およびガス拡散層12を有するアノード13と、触媒層11およびガス拡散層12を有するカソード14と、アノード13とカソード14との間に、触媒層11に接した状態で配置される固体高分子電解質膜15とを具備する。
【0080】
膜電極接合体10においては、カソード14の触媒層11、アノード13の触媒層11および固体高分子電解質膜15からなる群から選ばれる少なくとも1つが、ポリマー(H)を含む。触媒層11がポリマー(H)を含む場合は、少なくともカソード14の触媒層11がポリマー(H)を含むことが好ましい。
【0081】
(触媒層)
触媒層は、触媒と、イオン交換基を有するポリマーとを含む層である。
触媒としては、カーボン担体に白金または白金合金を担持した担持触媒が挙げられる。
カーボン担体としては、カーボンブラック粉末が挙げられる。
イオン交換基を有するポリマーとしては、ポリマー(H)、公知のイオン交換基を有するペルフルオロポリマー等が挙げられる。
【0082】
(ガス拡散層)
ガス拡散層は、触媒層に均一にガスを拡散させる機能および集電体としての機能を有する。
ガス拡散層としては、カーボンペーパー、カーボンクロス、カーボンフェルト等が挙げられる。
ガス拡散層は、ポリテトラフルオロエチレン等によって撥水化処理されていることが好ましい。
【0083】
(カーボン層)
図2に示すように、膜電極接合体10は、触媒層11とガス拡散層12との間にカーボン層16を有してもよい。
カーボン層を配置することにより、触媒層の表面のガス拡散性が向上し、固体高分子形燃料電池の発電性能が大きく向上する。
カーボン層は、カーボンと非イオン性含フッ素ポリマーとを含む層である。
カーボンとしては、カーボン粒子、カーボンファイバー等が挙げられ、繊維径1〜1000nm、繊維長1000μm以下のカーボンナノファイバーが好ましい。
非イオン性含フッ素ポリマーとしては、ポリテトラフルオロエチレン等が挙げられる。
【0084】
(固体高分子電解質膜)
固体高分子電解質膜は、イオン交換基を有するポリマーを含む膜である。
イオン交換基を有するポリマーとしては、ポリマー(H)、公知のイオン交換基を有するペルフルオロポリマー等が挙げられる。
【0085】
固体高分子電解質膜は、補強材で補強されていてもよい。補強材としては、多孔体、繊維、織布、不織布等が挙げられる。補強材の材料としては、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフェニレンスルフィド等が挙げられる。
【0086】
固体高分子電解質膜は、耐久性をさらに向上させるために、セリウムおよびマンガンからなる群から選ばれる1種以上の原子を含んでいてもよい。セリウム、マンガンは、固体高分子電解質膜の劣化を引き起こす原因物質である過酸化水素を分解する。セリウム、マンガンは、イオンとして固体高分子電解質膜中に存在することが好ましく、イオンとして存在すれば固体高分子電解質膜中でどのような状態で存在してもかまわない。
【0087】
<膜電極接合体の製造方法>
膜電極接合体がカーボン層を有しない場合、膜電極接合体は、たとえば、下記の方法にて製造される。
・固体高分子電解質膜上に触媒層を形成して膜触媒層接合体とし、該膜触媒層接合体をガス拡散層で挟み込む方法。
・ガス拡散層上に触媒層を形成して電極(アノード、カソード)とし、固体高分子電解質膜を該電極で挟み込む方法。
【0088】
膜電極接合体がカーボン層を有する場合、膜電極接合体は、たとえば、下記の方法にて製造される。
・基材フィルム上に、カーボンおよび非イオン性含フッ素ポリマーを含む分散液を塗布し、乾燥させてカーボン層を形成し、カーボン層上に触媒層を形成し、触媒層と固体高分子電解質膜とを貼り合わせ、基材フィルムを剥離して、カーボン層を有する膜触媒層接合体とし、該膜触媒層接合体をガス拡散層で挟み込む方法。
・ガス拡散層上に、カーボンおよび非イオン性含フッ素ポリマーを含む分散液を塗布し、乾燥させてカーボン層を形成し、固体高分子電解質膜上に触媒層を形成した膜触媒層接合体を、カーボン層を有するガス拡散層で挟み込む方法。
【0089】
(触媒層の形成方法)
触媒層の形成方法としては、下記の方法が挙げられる。
・触媒層形成用塗工液を、固体高分子電解質膜、ガス拡散層、またはカーボン層上に塗布し、乾燥させる方法。
・触媒層形成用塗工液を基材フィルム上に塗布し、乾燥させて触媒層を形成し、該触媒層を固体高分子電解質膜上に転写する方法。
【0090】
触媒層形成用塗工液は、イオン交換基を有するポリマーおよび触媒を分散媒に分散させた液である。触媒層形成用塗工液は、たとえば、本発明の液状組成物と、触媒の分散液とを混合することにより調製できる。
【0091】
(固体高分子電解質膜の形成方法)
固体高分子電解質膜は、たとえば、液状組成物を基材フィルムまたは触媒層上に塗布し、乾燥させる方法(キャスト法)により形成できる。
液状組成物は、水および有機溶媒を含む分散媒に、イオン交換基を有するポリマーを分散させた分散液である。液状組成物として、本発明の液状組成物を用いてもよい。
【0092】
固体高分子電解質膜を安定化させるために、アニール処理を行うことが好ましい。アニール処理の温度は、イオン交換基を有する含フッ素ポリマーの種類にもよるが、130〜200℃が好ましい。アニール処理の温度が130℃以上であれば、イオン交換基を有するポリマーが過度に含水しなくなる。アニール処理の温度が200℃以下であれば、イオン交換基の熱分解が抑えられる。
【0093】
(作用機序)
以上説明した本発明の膜電極接合体にあっては、カソードの触媒層、アノードの触媒層および固体高分子電解質膜からなる群から選ばれる少なくとも1つが、イオン交換容量を高くできるポリマー(H)を含むため、発電性能に優れる。
また、以上説明した本発明の膜電極接合体の製造方法にあっては、カソードの触媒層、アノードの触媒層および固体高分子電解質膜からなる群から選ばれる少なくとも1つの形成に、イオン交換容量が高いポリマーを含む膜を形成できる本発明の液状組成物を用いているため、発電性能に優れる膜電極接合体を製造できる。
【0094】
<固体高分子形燃料電池>
本発明の膜電極接合体の両面に、ガスの流路となる溝が形成されたセパレータを配置することにより、固体高分子形燃料電池が得られる。
セパレータとしては、金属製セパレータ、カーボン製セパレータ、黒鉛と樹脂を混合した材料からなるセパレータ等、各種導電性材料からなるセパレータが挙げられる。
固体高分子形燃料電池においては、カソードに酸素を含むガス、アノードに水素を含むガスを供給することにより、発電が行われる。また、アノードにメタノールを供給して発電を行うメタノール燃料電池にも、膜電極接合体を適用できる。
【実施例】
【0095】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されない。
例1、2は製造例であり、例3、4、10〜12は実施例であり、例5は参考例であり、例6〜9は比較例である。
【0096】
19F−NMR)
19F−NMRは、282.7MHz、溶媒:CDCl、化学シフト基準:CFClの条件にて測定した。生成物の定量は、19F−NMRの分析結果および内部標準試料(1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン)の添加量から行った。
【0097】
(ポリマー(H)のイオン交換容量)
ポリマー(H)の膜を120℃で12時間真空乾燥して、ポリマー(H)の膜から水分を除去した。ポリマー(H)の膜を0.85モル/gの水酸化ナトリウム溶液(溶媒:水/メタノール=10/90(質量比))に浸漬して、ポリマー(H)のスルホン酸基を中和しスルホン酸ナトリウム塩に変換した。中和後の水酸化ナトリウム溶液を0.1モル/Lの塩酸で逆滴定することによってポリマー(H)のイオン交換容量を求めた。
【0098】
(例1)
化合物(12−1)および化合物(13−1)の製造:
【0099】
【化15】
【0100】
米国特許第4273729号明細書の実施例に記載の方法にしたがって、化合物(12−1)および化合物(13−1)を得た。
【0101】
(例2)
化合物(14−1)の製造:
【0102】
【化16】
【0103】
撹拌機、コンデンサ、温度計、滴下ロートを備えた500mLの4つ口フラスコに、窒素シール下、60%発煙硫酸の235gを仕込んだ。フラスコをオイルバスにセットし、内温を35〜40℃に保ったまま化合物(13−1)の291gを20分かけて滴下した。滴下完了後に緩やかな発熱が見られ、内温は50℃まで上昇した。その後内温を40℃に保ったまま28時間撹拌を継続した。反応液を室温まで冷却した後、500mLの分液ロートへ反応液を移して静置すると、白濁した上層と橙色透明の下層に分離した。下層を抜き出した後、157gの濃硫酸を加え、よく振り混ぜた上で静置した後に下層を抜き出した。再度31gの濃硫酸を加え、よく振り混ぜた上で静置した後に下層を抜き出した。分液ロート内に残った266gの上層を回収した。回収した上層を19F−NMRによって分析し、内部標準試料の添加量から定量を行ったところ、目的の化合物(14−1)が収率69%で生成していることを確認した。原料の化合物(13−1)の残存は確認されなかった。
【0104】
撹拌機、温度計、不規則充填物を充填した蒸留塔(内径3cm×塔長50cm、充填長36cm)を備えた1Lの4つ口フラスコに、回収した上層を移し、減圧蒸留を行った。蒸留の結果、無色透明の化合物(14−1)の540gが得られた。化合物(14−1)の留出温度は、25mmHg(絶対圧力)の圧力下で57.1℃であった。
【0105】
化合物(14−1)の19F−NMRスペクトル:45.80ppm(SOF、1F、p、J=6.1Hz)、−76.30ppmおよび−77.00ppm(CF−CF−O、2F、m)、−81.70(環状部CF、1F、dd、J=107、7.6Hz)、−88.46ppm(環状部CF、1F、dt、J=107、13.0Hz)、−81.85ppm(O−CF−CF、2F、m)、−112.50ppm(CF−SOF、2F、m)、−151.51ppm(環状部CF、1F、p、J=7.6Hz)。
【0106】
(例3)
化合物(m1−1)の製造:
【0107】
【化17】
【0108】
撹拌機、コンデンサ、温度計、滴下ロートを備えた50mLの4つ口フラスコに、窒素シール下、化合物(12−1)の3.93g、化合物(14−1)の6.98g、ジグライムの9.65gを仕込んだ。フラスコを冷媒にて冷却し、内温が−50℃まで下がった後にフッ化カリウムの1.00gを10分間掛けて添加した。滴下時には発熱が確認された。添加後内温を−40〜−30℃で維持しながら9時間撹拌を継続した後、冷却を停止し室温まで昇温した。反応液を50mLの分液ロートへ移して静置すると、淡黄色の上層と無色の下層とに相分離した。回収した下層の8.95gを19F−NMRにより分析し、内部標準試料の添加量から定量を行ったところ、目的の化合物(m1−1)が収率16%で生成しているのを確認した。主生成物は化合物(13−1)(収率36%)だった。結果を表1に示す。
【0109】
(例4)
化合物(m1−1)の製造:
化合物(12−1)の118.0g、化合物(14−1)の210.4g、ジグライムの313.0g、フッ化カリウムの31.3gを用い、1Lの反応器を用い、添加後内温を−50〜−30℃とした以外は例3と同様にして反応を行った。分液操作により回収した下層(249.8g)の定量分析から、目的の化合物(m1−1)が収率20%で生成しているのを確認した。主生成物は化合物(13−1)(収率35%)だった。結果を表1に示す。
【0110】
例3および例4にて回収した下層を、撹拌機、温度計、不規則充填物を充填した蒸留塔(内径3cm×塔長50cm、充填長36cm)を備えた500mLの4つ口フラスコに移し減圧蒸留を行った。蒸留の結果、無色透明の化合物(m1−1)の70gが得られた。化合物(m1−1)の留出温度は3.9mmHg(絶対圧力)の圧力下で60.7℃であった。
【0111】
化合物(m1−1)の19F−NMRスペクトル:55.37ppm(CF−SOF、1F、m)、45.83ppm(CF−SOF、1F、m)、−71.88ppm(CF=CF−CF−O−、2F、m)、−74.04ppmおよび−74.64ppm(O−CF−CF(SOF)CF−O、2F&2F、m)、−82.12ppm(O−CF−CF−SOF、2F、m)、−71.88ppm(CF=CF、1F、ddt、J=49、39、8Hz)、−103.65ppm(CF=CF、1F、ddt、J=118.0、49、26Hz)、−112.50ppm(CF−SOF、2F、m)、−164.83ppm(CF−SOF、1F、m)、−190.83ppm(CF=CF、1F、ddt、J=118、39、14Hz)。
【0112】
【表1】
【0113】
(例5)
化合物(14−1)の異性化体:
【0114】
【化18】
【0115】
撹拌子、コンデンサ、温度計、滴下ロートを備えた10mLの3つ口フラスコに、窒素シール下、フッ化ナトリウムの0.19gを仕込んだ。フラスコを冷媒にて冷却し、内温が−35℃まで下がった後に化合物(14−1)の3.04gを撹拌子で撹拌しながら滴下した。滴下時には発熱は確認されなかった。冷却を停止し内温を室温まで戻した。内液を19F−NMRで分析したところ、化合物(14−1)はほとんど反応していなかった。フラスコを加熱し、100℃で5時間反応させたところ、化合物(14−1)の異性化体である化合物(15−1)が生成していることを確認した。
【0116】
化合物(15−1)の19F−NMRスペクトル:54.3ppm(CF−SOF、1F、m)、45.6ppm(CF−SOF、1F、m)、33.6ppm(CF−COF、1F、m)、−75.4ppm(CF−CF−O、2F、m)、−82.3ppm(O−CF−CF−SOF、2F、m)、−112.8ppm(CF−SOF、2F、m)、−159.4ppm(CF、1F、m)。
【0117】
例5の結果から、置換基の比較的大きいβ−サルトン化合物である化合物(14−1)においてもテトラフルオロ−β−サルトンと同様に開環反応が起こり、化合物(15−1)が生成することが分かる。つまり置換基が比較的大きい基質においても、開環反応自体は何ら問題なく起こる。
本発明により目的物の化合物(m1−1)の収率が著しく向上する理由は以下の通りと考えられる。
化合物(14−1)または化合物(15−1)とフッ化物塩(MF)との反応により、ペルフルオロアリル化における活性種であるMO−CF−CF(SOF)−構造が生成するが、置換基が比較的大きい化合物(14−1)または化合物(15−1)由来の活性種は安定性が乏しいものと考えられる。すなわち、あらかじめ化合物(14−1)とフッ化物塩とを混合する従来の方法の場合、活性種がペルフルオロアリル化剤の添加前に分解してしまい、目的物の化合物(m1−1)を得ることができないものと考えられる。一方、本発明に示す通り、あらかじめ化合物(14−1)とペルフルオロアリル化剤を混合した状態でフッ化物塩を加えると、生成した活性種が速やかにペルフルオロアリル化剤と反応することができるため、目的物の化合物(m1−1)の収率が著しく向上するものと考えられる。
【0118】
(例6)
【0119】
【化19】
【0120】
撹拌機、コンデンサ、温度計、滴下ロートを備えた50mLの4つ口フラスコに、窒素シール下、フッ化カリウムの1.05gおよびジグライムの10.52gを仕込んだ。フラスコを冷媒にて冷却し、内温が−20℃まで下がった後に化合物(14−1)の6.96gを滴下した。滴下時には発熱が確認された。−30〜−10℃で1時間撹拌を継続した後、化合物(12−1)の3.93gを滴下した。−20〜−10℃で1時間撹拌した後、冷却を停止し内温を室温まで昇温させた。16時間室温で撹拌した後、撹拌を停止した。反応液を50mLの分液ロートへ移して静置すると、淡黄色の上層と無色の下層とに相分離した。回収した下層の7.37gを19F−NMRにより分析し、内部標準試料の添加量から定量を行ったところ、目的の化合物(m1−1)が収率1%で生成しているのを確認した。主生成物は化合物(13−1)(収率50%)だった。結果を表2に示す。
【0121】
(例7)
ジグライムの代わりにテトラグライムの5.25gを用い、温度を表2に示すように変更した以外は例6と同様に反応を行った。分液操作後の定量分析からは、目的の化合物(m1−1)は痕跡量しか確認できなかった。結果を表2に示す。
【0122】
(例8)
ジグライムの代わりにテトラグライムの11.57gを、フッ化カリウムの代わりにフッ化銀の2.27gを用い、温度を表2に示すように変更した以外は例6と同様に反応を行った。分液操作後の定量分析からは、目的の化合物(m1−1)は痕跡量しか確認できなかった。結果を表2に示す。
【0123】
(例9)
撹拌機、コンデンサ、温度計、滴下ロートを備えた50mLの4つ口フラスコに、窒素シール下、フッ化ナトリウムの0.77gおよびジグライムの4.06gを仕込んだ。フラスコを冷媒にて冷却し、内温が−20℃まで下がった後に化合物(14−1)の6.98gを滴下した。冷却を停止し内温を室温まで昇温させた。内温が25℃に達した後、化合物(12−1)の3.91gを滴下した。発熱は確認されなかった。その後反応液をガスクロマトグラフ分析にて確認しながら70℃まで加熱したが、目的の化合物(m1−1)の生成は確認されなかった。結果を表2に示す。
【0124】
【表2】
【0125】
(例10)
ポリマー(F)の製造:
オートクレーブ(内容積30mL、ハステロイ製)に、化合物(m1−1)の23.0gを入れ、液体窒素で冷却して脱気した。オートクレーブにTFEの1.44gを導入し、内温が100℃になるまでオイルバスにて加温した。この時の圧力は0.475MPaG(ゲージ圧)であった。重合開始剤であるペルフルオロ−ジ−tert−ブチルペルオキシドの0.017gと化合物(m1−1)の0.921gとの混合液をオートクレーブ内に圧入した。さらに圧入ラインから窒素ガスを導入し、圧入ライン内の圧入液を完全に押し込んだ。この操作により気相部のTFEが希釈された結果、圧力は0.90MPaGまで増加した。圧力を0.90MPaGで維持したままTFEを連続添加し重合を行った。6.5時間でTFEの添加量が4.2gになったところでオートクレーブ内を冷却して重合を停止し、系内のガスをパージした。反応液をHFC−52−13p(CF(CFH)で希釈後、HFE−347pc−f(CFCHOCFCFH)を添加し、ポリマーを凝集してろ過した。その後、HFC−52−13p中でポリマーを撹拌して、HFE−347pc−fで再凝集する操作を2回繰り返した。120℃で真空乾燥して、TFEと化合物(m1−1)との共重合体であるポリマー(F−1)の7.7gを得た。
【0126】
ポリマー(F−1)を加圧プレス成形(240℃,4MPa)してポリマー(F−1)の膜を得た。フィルム(厚さ:125μm)に加工した。
【0127】
(例11)
ポリマー(H)の製造:
ポリマー(F−1)の膜を、20質量%の水酸化カリウム水溶液中に80℃で20時間浸漬させることによって、ポリマー(F−1)中のフルオロスルホニル基(−SOF)を加水分解し、−SOKに変換した。さらに該ポリマーの膜を、3モル/Lの塩酸水溶液に室温で1時間浸漬した後、室温の超純水に30分間浸漬した。塩酸水溶液への浸漬と超純水への浸漬のサイクルを合計5回実施し、−SOKをスルホン酸基(−SOH)に変換した。その後ポリマーの膜を浸漬している水のpHが7となるまで超純水洗浄を繰り返した。最後にポリマーの膜をろ紙に挟んで風乾し、ポリマー(H)の膜を得た。
ポリマー(H)の膜からイオン交換容量を求めところ、1.55ミリ当量/g乾燥樹脂であった。イオン交換容量から算出されるポリマー(F−1)中のTFEに由来する構成単位および化合物(m1−1)に由来する構成単位の割合は、それぞれ88.0モル%および12.0モル%であった。
【0128】
(例12)
液状組成物の製造:
200mLのガラス製オートクレーブに、細かく切断したポリマー(H)の膜の3.6g、ならびに1−プロパノール、1−ブタノールおよび水の混合溶媒(24/33/43(質量比))の49.9gを加えた。撹拌しながらオートクレーブを加熱した。溶解状態を見ながら100℃から徐々に温度を上げていき、180℃まで昇温したところでポリマー(H)が混合溶媒に分散したことを確認した。加温時間は合計27時間であった。冷却後、加圧ろ過(ろ紙:アドバンテック東洋社製、PF100)を行い、ポリマー(H)が混合溶媒に約7質量%の濃度で分散した液状組成物を得た。
液状組成物をシャーレ上にキャストし、乾燥器中で溶媒を揮散させることで、ポリマー(H)からなる厚さ300μmの固体高分子電解質膜を得た。
【産業上の利用可能性】
【0129】
本発明のフルオロスルホニル基含有モノマーは、固体高分子形燃料電池用、または固体高分子形水電解用膜電極接合体における触媒層や固体高分子電解質膜、塩化アルカリ電解や電気透析に用いられる陽イオン交換膜等に含まれるポリマーの原料として有用である。
また、本発明のフルオロスルホニル基含有モノマーは、レドックスフロー二次電池用の隔膜に含まれるポリマーの原料としても有用である。
【符号の説明】
【0130】
10 膜電極接合体、11 触媒層、12 ガス拡散層、13 アノード、14 カソード、15 固体高分子電解質膜、16 カーボン層。
図1
図2