特許第6525564号(P6525564)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日清オイリオグループ株式会社の特許一覧

特許6525564加熱調理用油脂組成物、該加熱調理用油脂組成物の製造方法及び加熱調理後の調理対象物に残存する油分を低減する方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6525564
(24)【登録日】2019年5月17日
(45)【発行日】2019年6月5日
(54)【発明の名称】加熱調理用油脂組成物、該加熱調理用油脂組成物の製造方法及び加熱調理後の調理対象物に残存する油分を低減する方法
(51)【国際特許分類】
   A23D 9/00 20060101AFI20190527BHJP
   A23L 5/10 20160101ALI20190527BHJP
【FI】
   A23D9/00 506
   A23L5/10 D
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-241881(P2014-241881)
(22)【出願日】2014年11月28日
(65)【公開番号】特開2016-101133(P2016-101133A)
(43)【公開日】2016年6月2日
【審査請求日】2017年8月8日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000227009
【氏名又は名称】日清オイリオグループ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】村野 賢博
(72)【発明者】
【氏名】江尻 麗子
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 隆英
(72)【発明者】
【氏名】青柳 寛司
【審査官】 市島 洋介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−290683(JP,A)
【文献】 特開2014−166165(JP,A)
【文献】 特開2014−014317(JP,A)
【文献】 特開2005−218380(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D 7/00−9/06
A23L 5/00−5/30
CAplus/FSTA/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
油脂と、シリコーンオイル0.5〜5ppmを含み、HLB値が0〜3.5で構成する脂肪酸の70質量%以上がエルカ酸であるショ糖脂肪酸エステルを0.03〜0.08質量%含有することを特徴とする、天ぷらに残存する油分低減用揚げ油
【請求項2】
油脂と、シリコーンオイル0.5〜5ppmを含み、HLB値が0〜3.5で構成する脂肪酸の70質量%以上がパルミチン酸とオレイン酸とステアリン酸であるショ糖脂肪酸エステルを0.01〜0.06質量%含有することを特徴とする、天ぷらに残存する油分低減用揚げ油
【請求項3】
前記シリコーンオイルが、25℃での動粘度が800〜5000mm/sであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の、天ぷらに残存する油分低減用揚げ油
【請求項4】
シリコーンオイルを含む加熱調理用油脂組成物にショ糖脂肪酸エステルが0.03〜0.08質量%となるようにHLB値が0〜3.5で構成する脂肪酸の70質量%以上がエルカ酸であるショ糖脂肪酸エステルを添加、又はショ糖脂肪酸エステルが0.01〜0.06質量%となるようにHLB値が0〜3.5で構成する脂肪酸の70質量%以上がパルミチン酸とオレイン酸とステアリン酸であるショ糖脂肪酸エステルを添加することを特徴とする加熱調理後の天ぷらに残存する油分を低減する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱調理用油脂組成物、該加熱調理用油脂組成物の製造方法及び加熱調理後の調理対象物に残存する油分を低減する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の消費者の健康志向に伴い、食品中の油脂量を低減させることが課題の一つとされている。例えば、特許文献1には、炒め調理に使用される油脂組成物であって、炒め調理における調理対象物の吸油量を抑えることができ、かつ、風味良好な油脂組成物が開示されている。この油脂組成物では、乳化剤を添加することにより、調理対象物調理品の吸油量を低減している。
【0003】
しかし、フライ、天ぷら、から揚げ等のフライ調理では、油中での加熱調理になるため、炒め調理と比して、調理対象物中の水分と油との置換が起こりやすく、特許文献1に記載の油脂組成物を用いたとしても、炒め調理と同等の効果を得ることが難しい。特に、フライ調理品は水分の多い衣部分が油分を吸収しやすい性質を有するため、良好な風味を保持しつつ、さらに効率よく吸油量を低減することが望まれる。原理的には、添加する乳化剤の量を増量することで、吸油量低減効果を高めることができると想定されるものの、原料コストの増大、油本来の風味の低下等の問題により、乳化剤を大量に添加することは困難である。
【0004】
また、スーパーのバックヤードや外食等の業態で使用される業務用のフライ調理用の油脂は、家庭用のものとは使用環境が異なり、長時間加熱状態におかれ、かつ、多くの揚げダネが揚げられる。そのため、油への負荷が大きく、家庭用の揚げ油をそのまま使用したのでは、油の劣化速度が速く、油を頻繁に交換する必要が生じる。そこで、業務用用途で流通、使用されているフライ調理用の油脂には、通常、数ppm程度のシリコーンオイルが添加されている。シリコーンオイルは、加熱中の油において、表面の気液界面に皮膜を形成して油と酸素との接触を極力遮断することや、形成される気泡の消失を助長することによって油の劣化速度を遅くすることが知られている。
【0005】
しかし、シリコーンオイルを含む油脂組成物においては、シリコーンオイルが気−液の界面に皮膜を形成する。そのため、シリコーンオイルを含まない加熱調理用油脂組成物に対する吸油量低減手段が、シリコーンオイルを含む油脂組成物において必ずしも有効であるとは限らない。また、シリコーンオイルを含む油脂組成物に乳化剤を添加した場合、気−液の界面に皮膜を形成するシリコーンオイルが、気−液または液−液の界面張力に影響を与える乳化剤と相互作用することにより、乳化剤の吸油量低減効果に悪影響を及ぼすことも考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−218380号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、シリコーンオイルを含む油脂組成物を使用した加熱調理後の調理対象物に残存する油分を効率よく低減することができ、かつ、良好な風味を付与することができる加熱調理用油脂組成物及び該加熱調理用油脂組成物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の天ぷらに残存する油分低減用揚げ油は、油脂と、シリコーンオイル0.5〜5ppmを含み、HLB値が0〜3.5で構成する脂肪酸の70質量%以上がエルカ酸であるショ糖脂肪酸エステルを0.03〜0.08質量%含有する、又はHLB値が0〜3.5で構成する脂肪酸の70質量%以上がパルミチン酸とオレイン酸とステアリン酸であるショ糖脂肪酸エステルを0.01〜0.06質量%含有することを特徴とする。
【0009】
また、本発明の天ぷらに残存する油分低減用揚げ油の製造方法は、油脂の精製工程の後に、精製油脂に、HLB値が0〜3.5で構成する脂肪酸の70質量%以上がエルカ酸であるショ糖脂肪酸エステルを0.03〜0.08質量%又はHLB値が0〜3.5で構成する脂肪酸の70質量%以上がパルミチン酸とオレイン酸とステアリン酸であるショ糖脂肪酸エステルを0.01〜0.06質量%と、シリコーンオイル0.5〜5ppmと、を添加する工程を含むことを特徴とする。
【0010】
また、本発明の加熱調理後の天ぷらに残存する油分を低減する方法は、シリコーンオイルを含む加熱調理用油脂組成物にショ糖脂肪酸エステルが0.03〜0.08質量%となるようにHLB値が0〜3.5で構成する脂肪酸の70質量%以上がエルカ酸であるショ糖脂肪酸エステルを添加、又はショ糖脂肪酸エステルが0.01〜0.06質量%となるようにHLB値が0〜3.5で構成する脂肪酸の70質量%以上がパルミチン酸とオレイン酸とステアリン酸であるショ糖脂肪酸エステルを添加することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の加熱調理用油脂組成物及び加熱調理用油脂組成物の製造方法によれば、シリコーンオイルを含む油脂組成物を加熱調理用に使用した場合に、高効率に調理対象物に残存する油分を低減させることができる。また、ショ糖脂肪酸エステルの配合量が少ないことから、製造コストが低く、かつ、調理対象物に対して、油脂本来の風味に近い良好な風味を付与することができる。
【0012】
このような利点から、本発明の加熱調理用油脂組成物は、特に天ぷら、から揚げなどのフライ調理用の揚げ油として好適に用いることができる。また、炒め調理にも好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の加熱調理用油脂組成物は、油脂と、シリコーンオイル0.5〜5ppmを含み、HLB値が0〜3.5の特定の脂肪酸で構成されたショ糖脂肪酸エステルを0.01〜0.14質量%、又は0.03〜0.14質量%を含むことを特徴とする。
【0014】
天ぷら等のフライ調理品に含まれる油分を低減させる方法としては、(1)薄衣に仕上げて油分を吸収しやすい衣の付着量を少なくする、(2)衣部分の吸油分を抑える、(3)食材の吸油分を抑える、(4)揚げ後の脱油を促す(揚げあがった後に油分をきる)等の方法が挙げられる。天ぷら等のフライ調理品の油分の多くは、揚げダネ(衣内部の食材)よりも衣部分に多く含まれるため、上記のうち、特に(2)衣部分の吸油分を抑えることが、調理品の油分低減に有効といえる。
【0015】
発明者らは、フライ調理品の衣部分に吸油されにくく、かつ、油ぎれのよい油脂組成物を製造すべく、鋭意検討を重ねた結果、シリコーンオイルを含む油脂成分にHLB値が0〜3.5で特定の脂肪酸で構成されたショ糖脂肪酸エステルを添加した場合に、フライ調理時の調理対象物の吸油量を低減できることを見出した。本発明は、この知見に基づき、少量のショ糖脂肪酸エステルの添加で、効率よく調理品の吸油を低減することが可能な加熱調理用油脂組成物を実現させたものである。
【0016】
<加熱調理用油脂組成物>
以下、本発明の加熱調理用油脂組成物について、その含有成分ごとに詳説する。
【0017】
1.油脂
本発明の加熱調理用油脂組成物は、通常の加熱調理用油脂を主成分として含む。通常の加熱調理用油脂は、一般に加熱調理用として使用される動植物油脂及びその水素添加油、分別油、エステル交換油などを単独あるいは組み合わせて用いることができる。動植物油脂としては、例えば、大豆油、なたね油、ハイオレイックなたね油、ひまわり油、ハイオレイックひまわり油、オリーブ油、サフラワー油、ハイオレイックサフラワー油、コーン油、綿実油、米油、牛脂、乳脂、魚油、ヤシ油、パーム油、パーム核油などが挙げられる。室温で固形化するものは、使用時に加熱により溶解させる必要があるので、20℃で液状の態様のものが好ましい。原料油脂そのものが20℃で固体であっても、他の原料油脂と併用して用いることによって、油脂全体として液状であれば好適に使用できる。特に、融点の低い液状油でありながら、酸化安定性も良好であるという利点を有することから、なたね油、なたね油と大豆油との混合物などを好適に使用することができる。
本発明の加熱調理用油脂組成物において、上記通常の加熱調理用油脂は、シリコーンオイル、HLB値が0〜3.5のショ糖脂肪酸エステル、及び必要に応じて添加される他の添加剤を除く残部を構成するのが好ましい。
【0018】
2.シリコーンオイル
本発明の加熱調理用油脂組成物は、シリコーンオイルを含有する。シリコーンオイルとしては、ジメチルポリシロキサン構造を持ち、動粘度が25℃で800〜5000mm/sのものが使用される。シリコーンオイルの動粘度は、特に800〜2000mm/s、さらに900〜1100mm/sであることが好ましい。シリコーンオイルの25℃での動粘度が800mm/s未満であると、加熱の油脂組成物の泡立ちを抑える効果が不十分であり、5000mm/s超であると、油脂組成物中への溶解が困難となる。シリコーンオイルは、食品用途として市販されているものを用いることができる。なお、ここでいう「動粘度」とは、JIS K 2283(2000)に準拠して測定される値を指すものとする。シリコーンオイルは、シリコーンオイル以外に微粒子シリカを含んでいてもよい。
【0019】
本発明の加熱調理用油脂組成物中のシリコーンオイル含有量は、加熱調理用油脂組成物中に、0.5〜5ppm、より好適には1〜4ppm、さらに好適には2〜3ppmとする(質量割合)。シリコーンオイルの合計含有量が0.5ppm未満であると、調理時の泡立ちを抑制する効果が十分に得られない。また、5ppm超であると、油脂中の水分を油脂表面から蒸発させることが困難となり、また泡立ちを促進させることもある。
【0020】
天ぷら等のフライ調理品の調理時における、ショ糖脂肪酸エステルの作用は、以下の通りである。例えば、天ぷらを調理する際には、食材及びバッター(天ぷら粉と水とを混合したもの)を高温の油中(160〜200℃)で加熱する。バッターが高温の油と接触すると、油との接触面において水分が急激に蒸発、消失すると同時に、小麦粉を主成分としたバッター中の固形分が焼き固められる。この現象を繰り返し、徐々にバッター中の水分除去が進行し、間隙を有する形状で小麦粉が焼き固められた網目構造の衣が形成される。一般的な乳化剤は、気−液または液−液の界面張力に影響を与えるものであり、構成する脂肪酸の47質量%以上が多価不飽和脂肪酸である脂肪酸モノグリセリドは、衣の形成時に「油と固体」、「油と水」もしくは「油と気体(水蒸気)」の界面張力を変化させることで、衣の性質(形状、成分、物理的性状)を変化させる。この時、上記効果がみられるショ糖脂肪酸エステルの範囲は非常に狭い範囲であるが、シリコーンオイルを添加することで、ショ糖脂肪酸エステルの有効添加範囲が広がる効果がある。
【0021】
3.ショ糖脂肪酸エステル
本発明で用いるショ糖脂肪酸エステルは、HLB値が0〜3.5で構成する脂肪酸の70質量%以上がエルカ酸であるショ糖脂肪酸エステル、又はHLB値が0〜3.5で構成する脂肪酸の70質量%以上パルミチン酸とオレイン酸とステアリン酸であるショ糖脂肪酸エステルを用いる。
炭素数20〜24の脂肪酸としては、ベヘン酸、エルカ酸等を用いることができるが、エルカ酸がより好ましい。また、炭素数12〜18の脂肪酸としては、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸等を用いることができる。好ましくは、炭素数16〜18の脂肪酸を用いることであり、パルミチン酸、オレイン酸、ステアリン酸を用いることがより好ましい。
これら炭素数20〜24、あるいは炭素数12〜18の脂肪酸は、構成脂肪酸中に70質量%以上含まれるが、80質量%以上含まれることがより好ましい。なお、残りの構成脂肪酸としては、炭素数8〜24の脂肪酸が適宜選択される。
【0022】
本発明で用いるショ糖脂肪酸エステルのHLB値は0〜3.5であるが、構成する脂肪酸の70質量%以上がエルカ酸であるショ糖脂肪酸エステルのHLB値は、1〜3であることがより好ましく、1.5〜2.5であることが最も好ましい。また、構成する脂肪酸の70質量%以上パルミチン酸とオレイン酸とステアリン酸であるショ糖脂肪酸エステルのHLB値は、0.5〜2であることがより好ましく、0.5〜1.5であることが最も好ましい。
なお、HLBとは、親水性疎水性バランス(Hydrophile Lipophile Balance)の略であって、乳化剤が親水性か親油性かを知る指標となるもので、0〜20の値をとる。HLB値が小さい程、親油性が強いことを示す。本発明において、HLB値の算出はアトラス法の算出法を用いる。アトラス法の算出法は、
HLB=20×(1−S/A)
S:ケン化価
A:エステル中の脂肪酸の中和価
からHLBの値を算出する方法を言う。
【0023】
HLB値が0〜3.5で構成する脂肪酸の70質量%以上がエルカ酸であるショ糖脂肪酸エステルの配合量は、本発明の天ぷらに残存する油分低減用揚げ油に対し、0.03〜0.08質量%、好適には0.04〜0.08質量%である。
また、HLB値が0〜3.5で構成する脂肪酸の70質量%以上がパルミチン酸とオレイン酸とステアリン酸であるショ糖脂肪酸エステルの配合量は、本発明の天ぷらに残存する油分低減用揚げ油に対し、0.01〜0.06質量%、好適には0.04〜0.06質量%、より好適には0.05〜0.06質量%である。このような範囲でショ糖脂肪酸エステルを含有することで、加熱調理された天ぷらの吸油量を極小値とすることができる、という特徴を有する。なお、これらの配合範囲は、シリコーンオイルを含有しない場合に比べて、天ぷらに残存する油分を低減する効果の範囲が広くなるという効果も有している。
【0024】
3.その他の成分
加熱調理用油脂組成物中には、本発明の効果を損ねない程度に、その他の成分を加えることができる。これらの成分とは、例えば、一般的な油脂に用いられる成分(食品添加物など)である。これらの成分としては、例えば、酸化防止剤、結晶調整剤、食感改良剤、乳化剤等が挙げられ、脱臭後から充填前に添加されることが好ましい。
【0025】
酸化防止剤としては、例えば、トコフェロール類、アスコルビン酸類、フラボン誘導体、コウジ酸、没食子酸誘導体、カテキンおよびそのエステル、フキ酸、ゴシポール、セサモール、テルペン類等が挙げられる。着色成分としては、例えば、カロテン、アスタキサンチン等が挙げられる。その他の吸油量の低減効果に影響を及ぼさない乳化剤としては、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリソルベート、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレート、ジアシルグリセロール、ワックス類、ステロールエステル類、リン脂質等から適宜選択される。
【0026】
<加熱調理用油脂組成物の製造方法>
本発明に係る加熱調理用油脂組成物に使用される油脂は、一般の油脂と同様、植物の種子若しくは果実、または動物性材料から搾油された粗油を出発原料として用い、順に、必要に応じて、脱ガム工程、脱酸工程、脱色工程を経て、さらに必要に応じて脱ろう工程を介した後、脱臭工程を経た精製により製造することができる。上記脱ガム工程、脱酸工程、および脱ろう工程は、採油される前の油糧原料に応じて変動し得る粗油の品質に応じて適宜選択される。
【0027】
本発明の製造方法では、上記のような油脂の精製工程に加えて、精製油脂に、HLB値が0〜3.5で構成する脂肪酸の70質量%以上がエルカ酸であるショ糖脂肪酸エステルを0.03〜0.08質量%、又はHLB値が0〜3.5で構成する脂肪酸の70質量%以上がパルミチン酸とオレイン酸とステアリン酸であるショ糖脂肪酸エステルを0.01〜0.06質量%と、シリコーンオイル0.5〜5ppmと、を添加する工程を含む。該シリコーンオイル及び該ショ糖脂肪酸エステルは、精製工程後の油脂を加熱した後、添加、溶解することにより配合されることが好ましい。なお、該製造方法は、必要に応じて、他の添加剤を添加する工程も含んでいてもよい。他の添加剤の添加工程は、油脂の精製工程後であるのが望ましく、その添加時の油脂温度等の条件は、添加剤の種類、目的によって適宜変更されるのが望ましい。
【0028】
本発明の加熱調理用油脂組成物の製造方法によれば、シリコーンオイルを含む油脂組成物を加熱調理に使用した場合に高効率に調理対象物に残存する油分を低減させることが可能な加熱調理用油脂組成物を得ることができる。
【0029】
<加熱調理後の天ぷらに残存する油分を低減する方法>
本発明の加熱調理後の天ぷらに残存する油分を低減する方法では、シリコーンオイルを含む油脂組成物にショ糖脂肪酸エステルが0.03〜0.08質量%となるようにHLB値が0〜3.5で構成する脂肪酸の70質量%以上がエルカ酸であるショ糖脂肪酸エステルを添加、又はショ糖脂肪酸エステルが0.01〜0.06質量%となるようにHLB値が0〜3.5で構成する脂肪酸の70質量%以上がパルミチン酸とオレイン酸とステアリン酸であるショ糖脂肪酸エステルを添加する操作を含む。シリコーンオイルを含む油脂組成物は、加熱調理に用いられたことのない油脂組成物でも、加熱調理を経た油脂組成物でも使用することができる。フライ調理等では、加熱調理により、油脂組成物中のショ糖脂肪酸エステルが消費されることもあるので、該ショ糖脂肪酸エステルが当該量になるように補充することが好ましい。
【0030】
本発明の加熱調理用油脂組成物の製造方法によれば、シリコーンオイルを含む油脂組成物を加熱調理に使用した場合に高効率に調理対象物に残存する油分を低減させることが可能な加熱調理用油脂組成物を得ることができる。
【実施例】
【0031】
以下、本発明について具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0032】
<試験1:天ぷらでの効果実験>
シリコーンオイル及び/又はショ糖脂肪酸エステルとを含む加熱調理用油脂組成物を調製し、これを使用して実際に天ぷらを調理して、調理品の油分低減効果を確認した。
【0033】
1.サンプル調製
精製なたね油「日清キャノーラ油」(日清オイリオグループ株式会社製)と精製大豆油「日清大豆サラダ油(S)」(日清オイリオグループ株式会社製)とを5:5の割合で混合したシリコーンオイルを含まないベース油Aに、表1に示すように、各規定量のショ糖脂肪酸エステルA(商品名「リョートーシュガーエステルER−290」三菱化学フーズ株式会社製(HLB値 2、ショ糖エルカ酸エステル)又はショ糖脂肪酸エステルB(商品名「リョートーシュガーエステルPOS−135」三菱化学フーズ株式会社製(HLB値 1.0、脂肪酸構成(質量割合):パルミチン酸30%、オレイン酸41%、ステアリン酸23%、他6%))を混合して、参考例1と参考例2の加熱調理用油脂組成物(フライ用油脂)を調製した。さらに、ベース油Aにシリコーンオイル「KF−96 1000CS」(信越化学工業株式会社製、25℃での動粘度=1000mm/s)3ppmを混合してベース油Bとした。ベース油Bに各規定量の各規定量のショ糖脂肪酸エステルA又はショ糖脂肪酸エステルBを混合して、実験例1、実験例2の加熱調理用油脂組成物(フライ用油脂)を調製した。ショ糖脂肪酸エステル及びシリコーンオイルは、鉄製の鍋に油脂1000gを入れて180℃に加熱した後、添加して、溶解することで油脂に混合した。
サツマイモを厚さ5mm、直径3.4cmの円柱状にカットし、揚げダネとした。天ぷら粉「昭和天ぷら粉」(昭和産業株式会社製)38gと氷水62gとを混合し、バッターを作製した。サツマイモをバッター液に浸し、バッターを付着させた。
鉄製の鍋で180℃に加熱した各フライ用油脂に、バッターを付着させたサツマイモを5個ずつ投入し、3分間加熱調理した。その際、加熱調理開始1.5分後に、フライ用油脂中のサツマイモを一度裏返した。3分間加熱調理した後のフライ調理品を網の上に移動させて静置して油分をきり、5分後に回収し、これを測定用サンプルとした。
フライ調理品サンプルは、各フライ用油脂について、10個ずつ作製した。
【0034】
2.油分測定
上記サンプル(フライ調理品)は、重量を測定した後、減圧下で乾燥させて水分を除去した。
乾燥後のサンプルを30mLのヘキサンに浸漬し、サンプルが含有する油分をヘキサン画分に溶出させた(油分抽出)。該ヘキサン画分を回収し、ヘキサンを除去した後、残存した油分を秤量した。サンプル10個の平均値を油分量とした。この油分量を乾燥前のサンプル重量で除した値を油分割合とした。各フライ用油脂使用時のサンプルの油分割合(%)を表1に示す。
【0035】
【表1】
【0036】
表1に示す通り、実験例1のシリコーンオイルを含有する油脂にショ糖脂肪酸エステルを特定量配合した加熱調理用油脂組成物において、フライ調理品の油分割合が低減することが判明した。また、シリコーンオイル無添加に比べて、低減効果が大きく、またその範囲も広い。すなわち、シリコーンオイルを含有する加熱調理用油脂組成物において、ショ糖脂肪酸エステルAが0.04質量%では11%の削減がみられ、0.12質量%でも6%の削減がみられる。また、ショ糖脂肪酸エステルBは0.02質量%で6%の削減がみられ、0.12%でも12%の削減がみられる。
【0037】
2.風味・食感測定
上記試験の実験サンプル調製(実験例1及び実験例2)を再度行い、各サンプルの風味をベース油と比較したが、差異はなく、いずれも良好であった。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の加熱調理用油脂組成物は、食品製造の分野において、特にフライ調理品の製造に使用するフライ用油脂として利用することが可能である。また、その他の加熱調理用油脂を要する全ての食品の製造においても利用可能である。