(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ジグリセリン飽和脂肪酸エステル及びグリセリンモノ不飽和脂肪酸エステルの合計した含有量が0.011〜5質量%であることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載のバタークリーム用油脂組成物。
【背景技術】
【0002】
製菓製パン用のトッピングクリームやサンドクリームとして、油中水型クリーム、即ちバタークリームが広く用いられている。このバタークリームは、一般に、液糖、ショートニング等の油脂組成物及び呈味成分等を混合することにより得られる。ここで、バタークリームには、夏季のような高温下でも形状を保つことのできる耐熱保形性と口溶けが共に良好であることが要求され、また、バタークリームを製造するための油脂組成物については、容易に空気を抱き込むことのできるクリーミング性、水性原料をより多く乳化することのできる抱水性といった物性面に優れることが要求される。
【0003】
従来、上記バタークリームの原料油脂、特にバタークリームを製造するための油脂組成物としては、良好な物性や機能を有し、且つ安価である魚油が多用されてきた。この魚油は、部分水素添加により硬化させて好ましい物性を有するように調製した魚硬化油として広く利用されてきた。
【0004】
しかし、近年になりマイワシ等の小魚の漁獲量が減少し魚油の生産量が不足してきたことにより、魚硬化油の使用を制限せざるを得ない状況に変わりつつある。そのため、魚硬化油からナタネ油、大豆油、パーム油等の植物油脂を代表とする各種の動植物油脂への置換が進められている。
【0005】
しかしながら、融点が近似することから魚硬化油の代替の主力となったパーム油、パーム分別軟部油、パーム分別硬部油などのパーム系油脂はグリセリンジ脂肪酸エステルを多く含有するという特徴があり、このためクリーミング性や抱水性が明らかに魚硬化油に比べ劣っているという問題があった。
【0006】
そのためパーム系油脂を主体としたバタークリーム用油脂では、各種の乳化剤を併用してクリーミング性や抱水性を改善する試みが行われてきた。(例えば特許文献1及び2参照)
【0007】
しかし、パーム系油脂に対するこれらの乳化剤の効果は限定的であるため、パーム系油脂を使用しながら魚硬化油と同等のクリーミング性や抱水性を向上させることは困難であった。
【0008】
また、パーム系油脂を使用したバタークリームは乳化安定性が十分ではない問題があり、このため、高温保管時(約30℃以上)の耐熱保形性及び離水耐性が十分でないという問題もあった。
【0009】
そのため、各種の動植物油脂又はその分別油に対し、エステル交換を行なうことにより、魚硬化油と同等の物性や機能を与え、バタークリームの原料油脂として適当な油脂を得る試みが各種行なわれている。
【0010】
例えば、中鎖脂肪酸トリグリセリド及びラウリン系油脂を含んでなるサンドクリーム用油脂組成物(例えば特許文献3参照)、油脂の構成脂肪酸組成において炭素数14以下の飽和脂肪酸含量が50〜70質量%であり炭素数16以上の飽和脂肪酸含量が20〜35質量%である油脂配合物をランダムエステル交換してなることを特徴とするクリーミング性改良油脂(例えば特許文献4参照)等が提案されている。
【0011】
しかし、これらの油脂組成物は抱水性が十分ではなく、また、得られるバタークリームも高温保管時の耐熱保形性及び離水耐性が十分でないという問題があった。さらにこれらの油脂組成物は油脂の構成脂肪酸としてラウリン酸を多く含んでいるため、保管条件によっては経時的な加水分解に伴って独特の石鹸臭が生じるおそれがあった。
【0012】
このように、魚硬化油を使用せずにクリーミング性及び抱水性が良好であり、更には得られるバタークリームの耐熱保形性と口溶けが共に良好であるバタークリーム用油脂組成物を得ることは非常に困難であった。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明のバタークリーム用油脂組成物について、好ましい実施形態に基づき詳述する。
【0020】
まず、本発明で使用されるエステル交換油脂について述べる。
本発明のバタークリーム用油脂組成物において使用されるエステル交換油脂は、上記(1)〜(3)の通り、牛脂系油脂と液状油とを特定比でエステル交換し、SFC(固体脂含量)を特定の値としたエステル交換油脂である。
【0021】
本発明において、牛脂系油脂としては、牛脂、又はこれを原料として水素添加、分別、エステル交換等の物理的又は化学的処理の1種又は2種以上の処理を施した油脂を挙げることができるが、本発明では、牛脂、牛脂分別軟部油、牛脂分別硬部油、牛脂極度硬化油のうちの1種又は2種以上を使用することが好ましく、耐熱保形性と口溶けが特に良好なバタークリームが得られる点で、より好ましくは牛脂を使用する。
【0022】
上記牛脂は、産地、牛種別及び精製方法にかかわらず使用可能である。
尚、上記牛脂分別軟部油や牛脂分別硬部油は、牛脂を固体分の多い画分と液状分の多い画分とに何等かの方法で分別したもので、溶剤分別又は溶剤を使用しないドライ分別等、どの様な分別方法によって得られたものでも使用可能である。
【0023】
上記牛脂系油脂を使用して得られたエステル交換油脂は、他の動物油脂を使用した場合に比べ、SSU型トリグリセリド(1,2位に飽和脂肪酸、3位に不飽和脂肪酸が結合したグリセリントリ脂肪酸エステル)を比較的多く含有するため、結果として、粘りの強い、良好なクリーミング性と抱水性を示すバタークリーム用油脂組成物を得ることができる。
【0024】
上記液状油としては、大豆油、菜種油(キャノーラ油)、コーン油、綿実油、オリーブ油、落花生油、米油、べに花油、ハイオレイックサフラワー油、ひまわり油、ハイオレイックひまわり油等の常温(25℃)で液状の油脂が挙げられるが、その他に、パーム油、パーム核油、ヤシ油、シア脂、サル脂、マンゴ脂、乳脂、牛脂、乳脂、豚脂、カカオ脂、魚油、鯨油等の常温で固体の油脂を分別することで得られた軟部油であって、常温で液状である油脂も使用することもできる。また、これらの油脂に対し、水素添加、分別、エステル交換等の物理的又は化学的処理の1種又は2種以上の処理を施した油脂についても、得られる加工油脂が常温で液状である範囲内において使用することもできる。本発明においては、これらの油脂を単独で用いることもでき、又は2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0025】
本発明では、得られる油脂組成物の口溶けを良好なものとすることが可能な点から、上記液状油として、大豆油、菜種油(キャノーラ油)、コーン油、綿実油、オリーブ油、落花生油、米油、べに花油、ハイオレイックサフラワー油、ひまわり油、ハイオレイックひまわり油等の常温で液状の油脂のうちの1種又は2種以上を使用することが好ましい。
【0026】
本発明で使用するエステル交換油は上記(1)のとおり、上記牛脂系油脂と上記液状油とをエステル交換したエステル交換油脂であるが、その際の牛脂系油脂と液状油との質量比率は、上記(2)のとおり99:1〜70:30、好ましくは95:5〜75:25、より好ましくは90:10〜76:24である。ここで牛脂系油脂の配合割合が70質量%未満、又は99質量%超であると、良好なクリーミング性や抱水性が得られず、特に牛脂系油脂の配合割合が70質量%未満であると得られるバタークリームの耐熱保形性が悪化する問題があり、また牛脂系油脂の配合割合が99質量%を超えると、得られるバタークリームの口溶けが悪化する。
【0027】
上記エステル交換の反応は、常法に従って行うことができ、化学的触媒による方法でも、酵素による方法でもよいが、良好なクリーミング性が得られる点から、ランダムエステル交換反応であることが好ましい。
【0028】
上記化学的触媒としては、例えば、ナトリウムメチラート等のアルカリ金属系触媒が挙げられ、また、上記酵素としては、位置選択性のない酵素、例えば、アルカリゲネス(Alcaligenes)属、リゾープス(Rhizopus)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、ムコール(Mucor)属、ペニシリウム(Penicillium)属等に由来するリパーゼが挙げられる。尚、該リパーゼは、イオン交換樹脂或いはケイ藻土及びセラミック等の担体に固定化して、固定化リパーゼとして用いることもできるし、粉末の形態で用いることもできる。
【0029】
上記エステル交換油脂は、上記(3)の通り、SFC(固体脂含量)が0℃で30〜50%、好ましくは35〜48%、より好ましくは35〜45%であり、20℃で7〜25%、好ましくは、10〜23%、より好ましくは10〜20%であり、40℃で0〜2%、好ましくは0〜1%、より好ましくは0%である。
SFCが0℃で30%未満又は20℃で7%未満であると、良好なクリーミング性が得られないおそれがあり、また、得られるバタークリームに耐熱保形性を付与することができなくなる。一方、SFCが0℃で50%を超える、及び/又は20℃で25%を超えると、得られるバタークリームの油性感が強くなり、更に、SFCが40℃で2%を超えると、口溶けが大幅に悪化してしまう。
【0030】
上記のSFCは、次のようにして測定する。即ち、油脂を60℃に30分保持して完全に融解した後、0℃に30分保持して固化させる。次いで、25℃に30分保持し、テンパリングを行ない、その後、0℃に30分保持する。これを各測定温度に順次30分保持した後、SFCを測定する。
【0031】
本発明のバタークリーム用油脂組成物は、上記エステル交換油脂を、油相中に油相基準で50〜100質量%、好ましくは60〜100質量%、より好ましくは80〜100質量%含有する。油相中の上記エステル交換油脂の含有量が50質量%未満であると、広い温度域での良好なクリーミング性や良好な抱水性を有する油脂組成物を得ることができない。また、得られるバタークリームに十分な耐熱保形性を付与することができなくなる。
【0032】
本発明のバタークリーム用油脂組成物において、上記エステル交換油脂に、必要に応じ添加使用可能な食用油脂としては、例えば、パーム油、パーム核油、ヤシ油、コーン油、綿実油、大豆油、菜種油、米油、ヒマワリ油、サフラワー油、牛脂、豚脂、乳脂、カカオ脂、魚油、鯨油等の各種植物油脂及び動物油脂、並びにこれらに水素添加、分別及びエステル交換から選択される一又は二以上の処理を施した加工油脂が挙げられる。これらの添加使用可能な食用油脂としては、良好な口溶けのバタークリームが得られる点から、 上記エステル交換油脂を製造する際に液状油として使用する油脂と同様の油脂が好ましく、特に、菜種油(キャノーラ油)、ハイオレイックサフラワー油、ハイオレイックひまわり油等が好ましい。
【0033】
本発明のバタークリーム用油脂組成物は、クリーミング性及び抱水性を良好なものとするため、グリセリンジ脂肪酸エステルの含有量は5質量%以下であることが好ましく、より好ましくは3質量%以下とする。そのため、本発明のバタークリーム用油脂組成物ではグリセリンジ脂肪酸エステルを多く含有するパーム系油脂は使用しないことが好ましい。
【0034】
本発明において、パーム系油脂とは、パーム油、又はこれを原料として水素添加、分別、エステル交換等の物理的又は化学的処理の1種又は2種以上の処理を施した油脂を挙げることができる。
【0035】
本発明のバタークリーム用油脂組成物においては、油相のSFC(固体脂含量)を、10℃で好ましくは20〜60%、より好ましくは20〜50%、さらに好ましくは20〜40質量%、且つ、20℃で好ましくは10〜40%、より好ましくは10〜30%、さらに好ましくは10〜25質量%とする。SFCが10℃で20%未満であるか、又は20℃で10%未満であると、十分な硬さが得られず、広い温度範囲での良好な可塑性が得られ難い。一方、SFCが10℃で60%を超えるか、又は20℃で40%を超えると、バタークリーム用油脂組成物が硬すぎて、広い温度範囲での良好な可塑性を得難い。尚、上記のSFCの測定方法は上述のとおりである。
【0036】
また、本発明のバタークリーム用油脂組成物は、ラウリン系油脂を含有しないことが好ましい。ここで、「ラウリン系油脂」とは炭素数12の脂肪酸を多く含有する油脂のことをいい、具体的には、ヤシ油、パーム核油、又はこれらを原料として水素添加、分別、エステル交換等の物理的又は化学的処理の1種又は2種以上の処理を施した油脂等をいう。
【0037】
また、本発明において、「ラウリン系油脂を含有しない」とは、上記ラウリン系油脂の含有量が好ましくは10質量%未満、更に好ましくは5質量%以下、最も好ましくは1質量%以下であることをいう。尚、ラウリン系油脂を原料の一部として水素添加、分別、エステル交換等の物理的又は化学的処理の1種又は2種以上の処理を施した油脂を使用する場合は、その原料に使用したラウリン系油脂の含量を用いて算出するものとする。
【0038】
更に、本発明のバタークリーム用油脂組成物は、経時的な加水分解による石鹸臭の発生を防止し、また融点降下によるバタークリームの耐熱保形性の悪化を防止するため、使用油脂の全構成脂肪酸中、炭素数12以下の飽和脂肪酸含量が5質量%以下であることが好ましく、より好ましくは4質量%以下、さらに好ましくは3質量%以下とすることが好ましい。
【0039】
ラウリン系油脂は、それ自体チョコレート用油脂として汎用されるように、適度の融点と口溶けを有する油脂ではあり、良好な口溶けの油脂組成物を得るために広く使用されているが、上述のように加水分解しやすく、また、融点降下をおこし、耐熱保形性が悪化する問題を有するため、水分を含有し、耐熱保形性を要求されるバタークリームやバタークリーム用油脂組成物においては特にラウリン系油脂を使用しないことが求められている。
【0040】
本発明のバタークリーム用油脂組成物は、上記エステル交換油脂を使用することで、ラウリン系油脂を特に使用せずとも良好な口溶けと耐熱保形性を付与することができるため、ラウリン系油脂を含有せずとも良好な口溶けと耐熱保形性を有するバタークリームを得ることができる。
【0041】
また、本発明のバタークリーム用油脂組成物は、トランス脂肪酸を実質的に含有しないことが好ましい。ここで、「トランス脂肪酸を実質的に含有しない」とは、油脂組成物の使用油脂の全構成脂肪酸中、トランス脂肪酸含量が好ましくは10質量%未満、更に好ましくは5質量%以下であることをいう。
【0042】
水素添加は、油脂の融点を上昇させる典型的な方法であるが、部分水素添加油脂は、通常構成脂肪酸中にトランス脂肪酸が10〜50質量%程度含まれている。一方、天然油脂中にはトランス脂肪酸が殆ど存在せず、反芻動物由来の油脂に10質量%未満含まれているにすぎない。近年、上述のように、化学的な処理、特に水素添加に付されていない油脂組成物、即ち実質的にトランス脂肪酸を含まない油脂組成物であって、適切なコンシステンシーを有するものも要求されている。
【0043】
本発明のバタークリーム用油脂組成物に用いられる上記エステル交換油脂は、トランス脂肪酸を実質的に含有しないため、必要に応じ使用する上記その他の油脂に部分水素添加油脂を使用しないことにより、トランス脂肪酸を含まずとも適切なコンステンシーを有する、バタークリーム用油脂組成物とすることができる。
【0044】
また、本発明のバタークリーム用油脂組成物は、抱水性を向上させ、且つ、得られるバタークリームの口溶けを向上させるため、ジグリセリン飽和脂肪酸エステルを含有することが好ましい。ここで結合脂肪酸が不飽和脂肪酸であると十分な抱水性が得られないことに加え、得られるバタークリームに十分な耐熱保形性が得られない。
【0045】
本発明に使用するジグリセリン飽和脂肪酸エステルの結合脂肪酸の炭素数は14〜22であることが好ましく、より好ましくは16〜22である。
【0046】
本発明のバタークリーム用油脂組成物において、上記ジグリセリン飽和脂肪酸エステルの含有量は、上記エステル交換油脂を使用することで少なく抑えることができるため、好ましくは0.01〜5質量%、さらに好ましくは0.05〜1質量%、最も好ましくは0.05〜0.2質量%である。含有量が0.01質量%未満では、抱水性改良効果がほとんど見られず、また得られるバタークリームの口溶けの改良効果がほとんど認められない。また、5質量%を超えると乳化剤の風味が感じられるようになってしまう。
【0047】
また、本発明のバタークリーム用油脂組成物は、クリーミング性を向上させることが可能であるため、グリセリンモノ不飽和脂肪酸エステルを含有することが好ましい。ここで結合脂肪酸が飽和脂肪酸であるとクリーミング性の改良効果が得られない。
【0048】
本発明に使用するグリセリンモノ不飽和脂肪酸エステルの結合脂肪酸の炭素数は14〜22であることが好ましく、より好ましくは16〜18である。
【0049】
本発明のバタークリーム用油脂組成物において、上記グリセリンモノ不飽和脂肪酸エステルの含有量は、上記エステル交換油脂を使用することで少なく抑えることができるため、好ましくは0.001〜1質量%、さらに好ましくは0.01〜0.5質量%、最も好ましくは0.01〜0.2質量%である。含有量が0.001質量%未満では、クリーミング性改良効果がほとんど見られない。また、1質量%を超えると得られるバタークリームに若干ねばりのある口溶けを感じられるようになってしまう。
【0050】
本発明のバタークリーム用油脂組成物における上記ジグリセリン飽和脂肪酸エステル及びグリセリンモノ不飽和脂肪酸エステルの合計した含有量は、好ましくは0.011〜5質量%、さらに好ましくは0.5〜1.5質量%、最も好ましくは0.01〜0.5質量%である。
【0051】
また、本発明のバタークリーム用油脂組成物には、その他の成分を含有させることができる。その他の成分としては、例えば、水、ジグリセリン飽和脂肪酸エステル及びグリセリンモノ不飽和脂肪酸エステル以外の乳化剤、増粘安定剤、食塩や塩化カリウム等の塩味剤、クエン酸、酢酸、乳酸、グルコン酸等の酸味料、牛乳・練乳・脱脂粉乳・カゼイン・ホエーパウダー・バター・クリーム・ナチュラルチーズ・プロセスチーズ・発酵乳等の乳や乳製品、蔗糖・液糖・はちみつ・ブドウ糖・麦芽糖・オリゴ糖・水飴・ソルビトール・還元水飴・モラセス等の糖類や糖アルコール類、デキストリン類、ステビア・アスパルテーム等の甘味料、β―カロチン・カラメル・紅麹色素等の着色料、トコフェロール・茶抽出物等の酸化防止剤、小麦蛋白や大豆蛋白等の植物蛋白、卵及び各種卵加工品、着香料、調味料、pH調整剤、食品保存料、日持ち向上剤、果実、果汁、コーヒー、ナッツペースト、香辛料、カカオマス、ココアパウダー、穀類、豆類、野菜類、肉類、魚介類等の食品素材や食品添加物が挙げられる。
【0052】
上記乳化剤としては、グリセリン飽和脂肪酸エステル、蔗糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、グリセリン有機酸脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、レシチン、酵素処理レシチン、サポニン類等が挙げられ、これらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。上記乳化剤の配合量は、特に制限はないが、本発明のバタークリーム用油脂組成物中、好ましくは0〜3質量%、更に好ましくは0〜1.5質量%である。
【0053】
上記増粘安定剤としては、グアーガム、ローカストビーンガム、カラギーナン、アラビアガム、アルギン酸類、ペクチン、キサンタンガム、プルラン、タマリンドシードガム、サイリウムシードガム、結晶セルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、寒天、グルコマンナン、ゼラチン、澱粉、化工澱粉等が挙げられ、これらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。上記増粘安定剤の配合量は、特に制限はないが、本発明のバタークリーム用油脂組成物中、好ましくは0〜10質量%、更に好ましくは0〜5質量%である。
【0054】
本発明のバタークリーム用油脂組成物中において、上記その他の成分の使用量は、それらの成分の使用目的等に応じて適宜選択することができ、特に制限されるものではないが、好ましくは本発明のバタークリーム用油脂組成物中、合計で50質量部以下とする。
【0055】
次に、本発明のバタークリーム用油脂組成物の製造方法について説明する。
本発明のバタークリーム用油脂組成物は、下記の(1)〜(3)の全てを満たすエステル交換油脂を油相中に油相基準で50〜100質量%含有する油相を溶解した後、冷却し、結晶化させることにより製造することができる。
(1)牛脂系油脂と液状油とをエステル交換したエステル交換油脂である。
(2)牛脂系油脂と液状油との質量比率が99:1〜70:30である。
(3)SFC(固体脂含量)が、0℃で30〜50%、20℃で7〜25%、40℃で0〜2%である。
【0056】
具体的には、先ず、上記油相に、必要により水相を混合乳化する。そして次に殺菌処理するのが望ましい。殺菌方法はタンクでのバッチ式でも、プレート型熱交換機や掻き取り式熱交換機を用いた連続式でも構わない。次に、上記油相を冷却し、結晶化させる。好ましくは冷却可塑化する。冷却条件は、好ましくは−0.5℃/分以上、更に好ましくは−5℃/分以上とする。この際、徐冷却より急速冷却の方が好ましい。冷却する機器としては、密閉型連続式チューブ冷却機、例えばボテーター、コンピネーター、パーフェクター等のマーガリン製造機やプレート型熱交換機等が挙げられ、また、開放型のダイアクーラーとコンプレクターの組み合わせが挙げられる。
尚、上記その他の成分を使用する場合は基本的には油溶性成分は油相に、水溶性成分は水相に添加して製造することができるが、だまになることを避ける等の目的で、水溶性成分を油相に分散させて製造することもでき、油溶性成分を水相に分散して製造することもできる。
【0057】
また、本発明のバタークリーム用油脂組成物を製造する際の何れかの製造工程で、窒素、空気等を含気させてもさせなくても構わない。
【0058】
また、本発明のバタークリーム用油脂組成物は、水分を含有するマーガリン(ファットスプレッドを含む)でも水分を含有しないショートニングでも良く、また乳化物とする場合、その乳化形態は、W/O型、O/W/O型及びO/O型のいずれでも構わない。
【0059】
本発明のバタークリーム用油脂組成物は、油脂のクリーミング性を利用し、気相を導入することによって油脂の比重を小さくする操作を製造工程に含む、バタークリームに用いられる油脂として好適に用いることができるが、本発明のバタークリーム用油脂組成物が糖分を含有する場合等風味成分を含有する場合はそのままクリーミングすることでバタークリームとして使用することも可能である。
【0060】
次に、本発明のバタークリームについて説明する。
バタークリームとは、マーガリンやショートニングをクリーミングし、ここに、糖液や、卵類、乳等を配合する方法、あるいは、糖液や、卵類、乳等をマーガリンやショートニングに添加し、これをクリーミングする方法、さらには、糖液や、卵類、乳等を含有する油脂組成物をクリーミングして製造される油中水型或いは油中水中油型の乳化形態を持つクリームの総称であり、従来のバタークリームは、糖液等の比重の大きい原材料を多く配合するため、食感が重いものであった。本発明のバタークリームにおいては、本発明のバタークリーム用油脂組成物を使用することにより、バタークリームの比重を小さくすることができ、また、口溶けを良好なものとすることができるので、本発明のバタークリームは軽い食感且つ良好な口溶けを有する。
【0061】
また、本発明のバタークリームは乳化安定性が良好であるため、高温保管時(約30℃以上)の耐熱保形性及び離水耐性も良好である。
【0062】
本発明のバタークリームにおける本発明のバタークリーム用油脂組成物の使用量は、バタークリームの用途や乳化形態等により異なるものであり、特に限定されるものではないが、おおよそバタークリーム中に20〜100質量%である。
【0063】
また、本発明のバタークリーム用油脂組成物を使用したバタークリームは乳化安定性が良好であるため、水分含量が高いバタークリームとしても良好な耐熱保形性と離水耐性を有する。
【0064】
そのため、本発明のバタークリームは水分含量が20〜70質量%、好ましくは25〜60質量%、さらに好ましくは30〜50質量であることが好ましい。
【実施例】
【0065】
以下に、実施例と比較例とを共に挙げて更に本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例等に限定されるものではない。
尚、下記実施例等において、脂肪酸含量は、特に断りのない限り、構成脂肪酸組成における脂肪酸含量を示す。
【0066】
<エステル交換油脂の製造>
〔製造例1〕エステル交換油脂Aの製造
牛脂77質量部に、菜種油23質量部を添加し、溶解した油脂配合物に、ナトリウムメチラートを触媒として非選択的エステル交換反応を行った後、脱色(白土3%、85℃、9.3×10
2Pa以下の減圧下)、脱臭(250℃、60分間、水蒸気吹き込み量5%、4.0×10
2Pa以下の減圧下)を行ない、SFC(固体脂含量)が0℃で36%、20℃で11%、40℃で0%であるエステル交換油脂Aを得た。
【0067】
〔製造例2〕エステル交換油脂Bの製造
牛脂88質量部に、菜種油12質量部を添加し、溶解した油脂配合物に、ナトリウムメチラートを触媒として非選択的エステル交換反応を行った後、脱色(白土3%、85℃、9.3×10
2Pa以下の減圧下)、脱臭(250℃、60分間、水蒸気吹き込み量5%、4.0×10
2Pa以下の減圧下)を行ない、SFC(固体脂含量)が0℃で44%、20℃で17%、40℃で0%であるエステル交換油脂Bを得た。
【0068】
〔比較製造例1〕エステル交換油脂Cの製造
牛脂100質量部を溶解した油脂配合物に、ナトリウムメチラートを触媒として非選択的エステル交換反応を行った後、脱色(白土3%、85℃、9.3×10
2Pa以下の減圧下)、脱臭(250℃、60分間、水蒸気吹き込み量5%、4.0×10
2Pa以下の減圧下)を行ない、SFC(固体脂含量)が0℃で51%、20℃で24%、40℃で2%であるエステル交換油脂Cを得た。
【0069】
〔比較製造例2〕エステル交換油脂Dの製造
牛脂66質量部に、ナタネ油34質量部を添加し、溶解した油脂配合物に、ナトリウムメチラートを触媒として非選択的エステル交換反応を行った後、脱色(白土3%、85℃、9.3×10
2Pa以下の減圧下)、脱臭(250℃、60分間、水蒸気吹き込み量5%、4.0×10
2Pa以下の減圧下)を行ない、SFC(固体脂含量)が0℃で29%、20℃で5%、40℃で0%であるエステル交換油脂Dを得た。
【0070】
<バタークリーム用油脂組成物の製造>
製造例1、2及び比較製造例1、2で得られたエステル交換油脂A〜Dを使用して、バタークリーム用油脂組成物を、以下の実施例1〜6又は比較例1〜2により製造した。
【0071】
[実施例1]
エステル交換油脂Aを83.835質量部、ジグリセリンモノステアリン酸エステル0.15質量部、及びグリセリンモノオレイン酸エステル0.015質量部を配合してなる油相と、水16.0質量部からなる水相とを65℃の温度で混合乳化してW/O型乳化物を得た。このW/O型乳化物を90℃にて殺菌し、次いでコンビネーターにて急冷可塑化して、W/O型の本発明のバタークリーム用油脂組成物Aを得た。このバタークリーム用油脂組成物Aのグリセリンジ脂肪酸エステル含量は3質量%以下、油相のSFC(固体脂含量)が10℃で26%、20℃で11%であり、炭素数12以下の飽和脂肪酸含量は使用油脂の全構成脂肪酸中1質量%以下、トランス脂肪酸含量は4質量%以下であった。
【0072】
[実施例2]
エステル交換油脂Aに代えてエステル交換油脂Bを使用した以外は実施例1と同様の配合・製法で本発明のバタークリーム用油脂組成物Bを得た。このバタークリーム用油脂組成物Bのグリセリンジ脂肪酸エステル含量は3質量%以下、油相のSFC(固体脂含量)が10℃で33%、20℃で16%であり、炭素数12以下の飽和脂肪酸含量は使用油脂の全構成脂肪酸中1質量%以下、トランス脂肪酸含量は4質量%以下であった。
【0073】
[実施例3]
エステル交換油脂Aに代えてエステル交換油脂Aと菜種油を75:25の質量比で混合した混合油脂を使用した以外は実施例1と同様の配合・製法で本発明のバタークリーム用油脂組成物Cを得た。このバタークリーム用油脂組成物Cのグリセリンジ脂肪酸エステル含量は3質量%以下、油相のSFC(固体脂含量)が10℃で19%、20℃で8%であり、炭素数12以下の飽和脂肪酸含量は使用油脂の全構成脂肪酸中1質量%以下、トランス脂肪酸含量は4質量%以下であった。
【0074】
[実施例4]
ジグリセリンモノステアリン酸エステルを無添加とし、エステル交換油脂Aの配合量を83.835質量部から83.985質量部に変更した以外は実施例1と同様の配合・製法で本発明のバタークリーム用油脂組成物Dを得た。このバタークリーム用油脂組成物Dのグリセリンジ脂肪酸エステル含量は3質量%以下、油相のSFC(固体脂含量)が10℃で26%、20℃で11%であり、炭素数12以下の飽和脂肪酸含量は使用油脂の全構成脂肪酸中1質量%以下、トランス脂肪酸含量は4質量%以下であった。
【0075】
[実施例5]
グリセリンモノオレイン酸エステルを無添加とし、エステル交換油脂Aの配合量を83.835質量部から83.85質量部に変更した以外は実施例1と同様の配合・製法で本発明のバタークリーム用油脂組成物Eを得た。このバタークリーム用油脂組成物Eのグリセリンジ脂肪酸エステル含量は使用油脂の全構成脂肪酸中3質量%以下、油相のSFC(固体脂含量)が10℃で26%、20℃で11%であり、炭素数12以下の飽和脂肪酸含量は使用油脂の全構成脂肪酸中1質量%以下、トランス脂肪酸含量は4質量%以下であった。
【0076】
[実施例6]
ジグリセリンモノステアリン酸エステル及びグリセリンモノオレイン酸エステルを無添加とし、エステル交換油脂Aの配合量を83.835質量部から84.0質量部に変更した以外は実施例1と同様の配合・製法で本発明のバタークリーム用油脂組成物Fを得た。このバタークリーム用油脂組成物Fのグリセリンジ脂肪酸エステル含量は3質量%以下、油相のSFC(固体脂含量)が10℃で26%、20℃で11%であり、炭素数12以下の飽和脂肪酸含量は使用油脂の全構成脂肪酸中1質量%以下、トランス脂肪酸含量は4質量%以下であった。
【0077】
[比較例1]
エステル交換油脂Aに代えてエステル交換油脂Cを使用した以外は実施例1と同様の配合・製法で比較例のバタークリーム用油脂組成物Gを得た。このバタークリーム用油脂組成物Gのグリセリンジ脂肪酸エステル含量は3質量%以下、油相のSFC(固体脂含量)が10℃で39%、20℃で24%であり、炭素数12以下の飽和脂肪酸含量は使用油脂の全構成脂肪酸中1質量%以下、トランス脂肪酸含量は4質量%以下であった。
【0078】
[比較例2]
エステル交換油脂Aに代えてエステル交換油脂Dを使用した以外は実施例1と同様の配合・製法で比較例のバタークリーム用油脂組成物Hを得た。このバタークリーム用油脂組成物Hのグリセリンジ脂肪酸エステル含量は3質量%以下、油相のSFC(固体脂含量)が10℃で19%、20℃で5%であり、炭素数12以下の飽和脂肪酸含量は使用油脂の全構成脂肪酸中1質量%以下、トランス脂肪酸含量は3質量%以下であった。
【0079】
上記実施例1〜6及び上記比較例1〜2それぞれで得られたバタークリーム用油脂組成物について、以下の評価方法により25℃におけるクリーミング性試験と抱水性試験を行い、その評価結果を下記[表1]に記載した。
【0080】
<クリーミング性評価方法>
バタークリーム用油脂組成物各300gを15℃に調温し、卓上ミキサーでビーターを使用し、高速でクリーミングし、比重が0.45になるまでの時間を測定した。クリーミング性について下記(評価基準)に従って評価を行なった。
(クリーミング性評価基準)
◎ 比重0.45に達するまで時間 4分未満
○ 比重0.45に達するまで時間 4分以上8分未満
△ 比重0.45に達するまで時間 8分以上12分未満
× 比重0.45に達するまで時間 12分以上
【0081】
<抱水性評価方法>
比重が0.45になったクリームに水を100gずつ投入混合し、抱水できなくなった点をもって抱水量とし、下記(評価基準)に従って評価を行なった。
(抱水性評価基準)
◎ 抱水量が900g以上
○ 抱水量が600g以上900g未満
△ 抱水量が300g以上600g未満
× 抱水量が300g未満
【0082】
<バタークリームの製造>
上記実施例1〜6及び上記比較例1〜2それぞれで得られたバタークリーム用油脂組成物100質量部に転化糖液糖(水分含量25質量%)200質量部及び水50質量部を添加し、卓上ミキサーでビーターを使用し、比重が0.80になるまで高速でクリーミングし、水分含量が33.1質量%であるバタークリームをそれぞれ得た。
【0083】
<バタークリームの評価方法>
得られたバタークリームについて、官能試験(口溶け)及び耐熱性試験を行ない、その評価結果を下記[表2]に記載した。尚、官能試験においては、口溶けを下記評価基準に従い4段階で評価した。また耐熱性試験においては、菊型口金でシャーレに花型に絞り、蓋をし、これを5℃に60分調温後、20℃、25℃及び30℃の各恒温槽に一晩おき、耐熱保形性及び離水の状況を観察し、下記の評価基準に従い4段階で評価した。
(口溶け評価基準)
◎ 大変良好
○+ 良好
○ まずまず良好
△ やや劣る
× 不良
(耐熱性評価基準)
◎ 離水がなく、保形性も全く問題ない。
○+ やや離水が見られるが、保形性は全く問題ない。
○ やや離水が見られるが、保形性はほぼ問題ない。
△ 離水があり、保形性もやや悪い。
× 離水が激しく、保形性も悪い。
【0084】
【表1】
【0085】
【表2】
【0086】
上記評価結果から分かるとおり、本発明のバタークリーム用油脂組成物は、クリーミング性、抱水性に良好なものであり、該バタークリーム用油脂組成物から得られるバタークリームは口溶け、耐熱保形性、離水耐性に優れるものであった(実施例1〜6)。
中でもジグリセリン飽和脂肪酸エステルとグリセリンモノ不飽和脂肪酸エステルを併用したバタークリーム用油脂組成物は特にクリーミング性と抱水性が優れていた(実施例1〜3)。
それに対し、牛脂系油脂と液状油を99:1〜70:30の範囲外で混合して得られた油脂配合物をエステル交換して得られたエステル交換油脂を使用したバタークリーム用油脂組成物は、クリーミング性、抱水性が劣るものであった(比較例1〜2)。