(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
サファイア基板の表面に発光層が積層され分割予定ラインによって区画されて光デバイスが形成されたウエーハを個々の光デバイスに分割するウエーハの加工方法であって、
サファイア基板に対して透過性を有する波長のレーザー光線の集光点をウエーハの裏面から分割予定ラインに対応する領域に位置付けて照射し、細孔と該細孔を囲繞する非晶質とからなるシールドトンネルを分割予定ラインに沿って形成するシールドトンネル形成工程と、
該ウエーハに外力を付与し該ウエーハを個々の光デバイスに分割する分割工程と、
から少なくとも構成され、
該シールドトンネル形成工程は、第一の加工ステップと第二の加工ステップとを含み、
該第二の加工ステップは、レーザー光線の集光点を分割予定ラインに対応する領域に位置付けて照射しシールドトンネルの端部を裏面に露出させないでシールドトンネルを形成するとともに該シールドトンネルの端部から該ウエーハの裏面に至るクラックを生成する加工を施し、
該第一の加工ステップは、該第二の加工ステップに先立ち、該第二の加工ステップにおけるレーザー光線の出力よりも弱いレーザー光線の集光点を該分割予定ラインに対応する領域に位置付けて照射し、該第二の加工ステップにおいて形成される該クラックを該裏面に対して垂直に導く予備加工層を形成するウエーハの加工方法。
【背景技術】
【0002】
光デバイス製造工程においては、略円板形状であるサファイア基板の表面に窒化ガリウム系化合物半導体からなる発光層が積層され格子状に形成された複数の分割予定ラインよって区画された複数の領域に発光ダイオード、レーザーダイオード等の光デバイスを形成して光デバイスウエーハを構成する。そして、光デバイスウエーハを分割予定ラインに沿って切断することにより光デバイスが形成された領域を分割して個々の光デバイスを製造している。
【0003】
上述した光デバイスウエーハの分割予定ラインに沿った切断は、通常、ダイサーと呼ばれている切削装置により行われている。この切削装置は、被加工物を保持するチャックテーブルと、該チャックテーブルに保持された被加工物を切削するための切削手段と、チャックテーブルと切削手段とを相対的に移動させる切削送り手段とを備えている。該切削手段は、回転スピンドルと該スピンドルに装着された切削ブレードおよび回転スピンドルを回転駆動する駆動機構を含んでいる。切削ブレードは円盤状の基台と該基台の側面外周部に装着された環状の切れ刃からなっており、該切れ刃は、例えば粒径3μm程度のダイヤモンド砥粒を電鋳によって基台に固定し厚さ20μm程度に形成されている。
【0004】
ところが、光デバイスウエーハを構成するサファイア基板はモース硬度が高いため、上記切削ブレードによる切断は必ずしも容易ではない。さらに、上記切削ブレードは20μm程度の厚さを有するため、デバイスを区画する分割予定ラインとしては、切削幅、及びデバイスまでの余裕幅を考慮すると、その幅を50μm程度設けなくてはならず基板上における分割予定ラインが占める面積比率が高くなり、生産性が悪くなってしまうという問題がある。
【0005】
上記問題点を解消すべく、種々の方法が提案されており、例えば、光デバイスウエーハを分割予定ラインに沿って分割する方法として、サファイア基板に対して吸収性を有する波長のパルスレーザー光線を分割予定ラインに沿って照射することにより、破断の起点となるレーザー加工溝が形成された分割予定ラインに沿って外力を付与することにより割断する方法が提案されている(例えば、特許文献1を参照。)。
【0006】
また、別の方法としては、発光層(エピ層)が形成されていないサファイア基板の裏面側からサファイア基板に対して透過性を有する波長のレーザー光線の集光点を内部に位置付けて分割予定ラインに沿って照射し、サファイア基板の内部に分割予定ラインに沿って改質層を形成することにより、サファイア基板を改質層が形成されることによって強度が低下させられた分割予定ラインに沿って分割する加工方法も提案されている(例えば、特許文献2を参照。)。
【0007】
しかし、前者のように光デバイスウエーハを構成するサファイア基板の表面に形成された分割予定ラインに沿ってレーザー光線を照射してレーザー加工溝を形成すると、アブレーション加工される際に発生するデブリと呼ばれる溶着物が光デバイスに付着し、光デバイスの品質を低下させるという問題が生じる。
【0008】
また、後者においては、サファイア基板の内部に分割予定ラインに沿って改質層を形成すると、光デバイスの外周が改質層で覆われ光デバイスの抗折強度が低下するとともに、裏面から表面に亘って垂直に分割するのが困難であるという問題がある。
【0009】
上記のような新たな問題を解決すべく、パルスレーザー光線を集光する集光レンズの開口数(NA)を単結晶基板の屈折率(N)で除した値が0.05〜0.2の範囲で集光レンズの開口数(NA)を設定し、この集光レンズによって集光したパルスレーザー光線を照射して単結晶基板に位置付けられた集光点とパルスレーザー光線が入射された側との間に細孔と該細孔をシールドする非晶質とを成長させてシールドトンネルを形成するレーザー加工方法が下記特許文献3に開示されている。
【0010】
上記特許文献3に記載されたレーザー加工方法によってサファイア基板からなる光デバイスウエーハに分割予定ラインに沿ってレーザー加工を施すことにより、サファイア基板の裏面から表面に亘って細孔と該細孔をシールドする非晶質とを成長させてシールドトンネルを形成することができるため光デバイスウエーハを分割予定ラインに沿って垂直に分割することができるとともに、光デバイスの品質及び抗折強度の低下を防ぐことができる。
ところが、本発明者らの実験によると、サファイア基板からなる光デバイスウエーハにおいては、結晶方位を表すオリエンテーションフラットに平行な方向に形成された分割予定ラインとオリエンテーションフラットに直交する方向に形成された分割予定ラインに対して同じ加工条件でシールドトンネルを形成すると、オリエンテーションフラットに平行な方向に形成された分割予定ラインの方がオリエンテーションフラットに直交する方向に形成された分割予定ラインより割れにくく、オリエンテーションフラットに平行な分割予定ラインと、それに直交する分割予定ラインと、に対して外力を付与して分割する際に、両者に対する外力の付加条件をそれぞれ変更する必要があるという問題が判明した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ここで、結晶方位の影響により、上記したような割れにくい方向があることに鑑み、
図6(a)に示すように、光デバイスを構成する発光層(エピ層)210の表面に形成された分割予定ラインに沿ってシールドトンネル250を形成するに際し、シールドトンネル250の端部をサファイア基板200の裏面に露出させないで細孔251、非晶質251、及びシールドトンネル250の端部からサファイア基板の裏面に至るクラック260が形成されるようにパルスレーザー光線LBの集光点Pを該基板内部に位置付けて、シールドトンネル250の形成工程を実施する。そうすることにより、外力を付与した際の割れにくさが調整されて、いずれの分割予定ラインにおいても、均一な外力によって分割可能にすることが考えられる。
【0013】
しかし、パルスレーザー光線LBの集光点Pを該基板内部に位置付けてシールドトンネル250の端部をサファイア基板200の裏面に露出させないように加工をすると、
図6(a)、(b)に示すように、シールドトンネル250の端部からサファイア基板の裏面側に形成されるクラック260が、結晶方位の影響を受けて裏面に対して垂直に伸びず斜めに形成される虞があり、当該斜めに形成されたクラック260が形成された状態で外力を付加して分割予定ラインに従い割断しようとすると、分割予定ラインから外れたラインに沿って個々のデバイスに分割されてしまうという問題点がある。
【0014】
本発明は、上記事実に鑑みてなされたものであり、その主たる技術的課題は、サファイア基板からなる光デバイスウエーハの加工方法において、シールドトンネルの端部をサファイア基板の裏面に露出させないでサファイア基板の裏面に至るクラックが生成されるようにパルスレーザー光線の集光点を該サファイア基板内部に位置付けて照射するにあたり、結晶方位の影響を受けずに、サファイア基板の裏面に至るクラックを垂直に形成するためのウエーハの加工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記主たる技術課題を解決するため、本発明によれば、サファイア基板の表面に発光層が積層され分割予定ラインによって区画されて光デバイスが形成されたウエーハを個々の光デバイスに分割するウエーハの加工方法であって、サファイア基板に対して透過性を有する波長のレーザー光線の集光点をウエーハの裏面から分割予定ラインに対応する領域に位置付けて照射し、細孔と該細孔を囲繞する非晶質とからなるシールドトンネルを分割予定ラインに沿って形成するシールドトンネル形成工程と、該ウエーハに外力を付与し該ウエーハを個々の光デバイスに分割する分割工程と、から少なくとも構成され、該シールドトンネル形成工程は、第一の加工ステップと第二の加工ステップとを含み、該第二の加工ステップは、レーザー光線の集光点を分割予定ラインに対応する領域に位置付けて照射しシールドトンネルの端部を裏面に露出させないでシールドトンネルを形成するとともに該シールドトンネルの端部から該ウエーハの裏面に至るクラックを生成する加工を施し、該第一の加工ステップは、該第二の加工ステップに先立ち、該第二の加工ステップにおけるレーザー光線の出力よりも弱いレーザー光線の集光点を該分割予定ラインに対応する領域に位置付けて照射し、該第二の加工ステップにおいて形成される該クラックを該裏面に対して垂直に導く予備加工層を形成するウエーハの加工方法が提供される。
【発明の効果】
【0016】
本発明によるウエーハの加工方法におけるシールドトンネル形成工程は、第一の加工ステップと第二の加工ステップとを含み、該第二の加工ステップは、レーザー光線の集光点を分割予定ラインに対応する領域に位置付けて照射しシールドトンネルの端部を裏面に露出させないでシールドトンネルを形成するとともに該シールドトンネルの端部から該ウエーハの裏面に至るクラックを生成する加工を施し、該第一の加工ステップは、該第二の加工ステップに先立ち、該第二の加工ステップにおけるレーザー光線の出力よりも弱いレーザー光線の集光点を該分割予定ラインに対応する領域に位置付けて照射し、該第二の加工ステップにおいて形成される該クラックを該裏面に対して垂直に導く予備加工層を形成するように構成されているので、第二の加工ステップにおいてシールドトンネルを形成するようにレーザー光線を照射する際、ウエーハの裏面に至るクラックを結晶方位の影響を受けずに裏面に対して垂直に伸びるように形成することができる。
【0017】
そして、シールドトンネルの端部をサファイア基板の裏面に露出させないで細孔、該細孔を囲繞する非晶質とからなるシールドトンネルを形成し、該シールドトンネルの端部からサファイア基板の裏面に至るクラックが垂直に生成されるようにシールドトンネルの形成工程を実施することにより、外力を付与した際の割れにくさを調整し、いずれの分割予定ラインにおいても、均一な外力によって分割することが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明による光デバイスウエーハの加工方法について添付図面を参照して、更に詳細に説明する。
【0020】
図1の(a)〜(c)には、本発明による光デバイスウエーハの加工方法によって個々のデバイスに分割される光デバイスウエーハの斜視図、および要部を拡大して示す断面図が示されている。
図1の(a)〜(c)に示す光デバイスウエーハ2は、厚みが500μmの単結晶基板であるサファイア基板20の表面20aに窒化物半導体からなる厚みが10μmの発光層(エピ層)21が積層されている。光デバイスウエーハ2を構成するサファイア基板20には、結晶方位を示すオリエンテーションフラット201が形成されている。このように形成されたサファイア基板20の表面に積層された発光層(エピ層)21は、表面21aにオリエンテーションフラット201に平行な方向に形成された複数の第1の分割予定ライン221と、オリエンテーションフラット201に直交する方向に形成された複数の第2の分割予定ライン222とによって複数の領域が区画され、この区画された複数の領域に発光ダイオード、レーザーダイオード等の光デバイス23が形成されている。
【0021】
上述した光デバイスウエーハ2を第1の分割予定ライン221および第2の分割予定ライン222に沿って分割するには、図示の実施形態においては先ず、光デバイスウエーハ2を環状のフレーム3に装着されたダイシングテープ4の表面に貼着するウエーハ支持工程を実施する。即ち、
図2に示すように、環状のフレーム3の内側開口部を覆うように外周部が装着されたダイシングテープ4の表面に光デバイスウエーハ2を構成する発光層(エピ層)21の表面21aを貼着する。従ってダイシングテープ4の表面に貼着された光デバイスウエーハ2はサファイア基板20の裏面20bが上側となる。
【0022】
上述したウエーハ支持工程を実施したならば、サファイア基板20に対して透過性を有する波長のパルスレーザー光線の集光点をサファイア基板20の裏面20b側から内部に位置付けて分割予定ラインに沿って照射し、細孔と該細孔をシールドする非晶質とを成長させてシールドトンネルを分割予定ラインに沿って形成するシールドトンネル形成工程を実施する。本実施形態におけるシールドトンネル形成工程は、オリエンテーションフラット201に平行な方向に形成された第1の分割予定ライン221に対して、シールドトンネルの端部をサファイア基板の裏面20bに露出させないでシールドトンネルの端部からサファイア基板20の裏面20bに至るクラックが生成されるようにパルスレーザー光線の集光点を内部に位置付けて実施するシールドトンネル形成工程を含み、第2の分割予定ライン222に対して行われるシールドトンネル形成工程についても、上記シールドトンネル工程と同様に、シールドトンネルの端部をサファイア基板の裏面20bに露出させないでシールドトンネルの端部からサファイア基板20の裏面20bに至るクラックが生成されるようにパルスレーザー光線の集光点を内部に位置付けて加工を行うようにしている。
【0023】
上記シールドトンネル形成工程は、
図3(a)に要部のみ示すレーザー加工装置5を用いて実施する。レーザー加工装置5は、被加工物を保持するチャックテーブル51と、該チャックテーブル51上に保持された被加工物にレーザー光線を照射するレーザー光線照射手段52と、チャックテーブル51上に保持された被加工物を撮像する撮像手段53を備えている。チャックテーブル51は、被加工物を吸引保持するように構成されており、図示しない加工送り手段によって矢印Xで示す加工送り方向(X軸方向)に移動させられるとともに、図示しない割出し送り手段によって矢印Yで示す方向(Y軸方向)で示す割り出し送り方向に移動させられるようになっている。
【0024】
上記レーザー光線照射手段52は、実質上水平に配置された円筒形状のケーシング521を含んでいる。ケーシング521内には図示しないパルスレーザー光線発振器や繰り返し周波数設定手段を備えたパルスレーザー光線発振手段が配設されている。上記ケーシング521の先端部には、パルスレーザー光線発振手段から発振されたパルスレーザー光線を集光するための集光レンズ522aを備えた集光器522が装着されている。なお、上記レーザー光線照射手段52は、集光器522の集光レンズ522aによって集光されるパルスレーザー光線の集光点位置を調整するための集光点位置調整手段(図示せず)を備えている。
【0025】
上記レーザー光線照射手段52を構成するケーシング521の先端部に装着された撮像手段53は、可視光線によって撮像する通常の撮像素子(CCD)の外に、被加工物に赤外線を照射する赤外線照明手段と、該赤外線照明手段によって照射された赤外線を捕える光学系と、該光学系によって捕えられた赤外線に対応した電気信号を出力する撮像素子(赤外線CCD)等で構成されており、撮像した画像信号を図示しない制御手段に送る。
【0026】
上述したレーザー加工装置5を用いて、上記シールドトンネル形成工程を施すには、まず、上述した
図3(a)に示すレーザー加工装置5のチャックテーブル51上に光デバイスウエーハ2を構成する発光層(エピ層)21の表面が貼着されたダイシングテープ4側を載置する。そして、図示しない吸引手段を作動することにより、ダイシングテープ4を介して光デバイスウエーハ2をチャックテーブル51上に保持する(ウエーハ保持工程)。従って、チャックテーブル51に保持された光デバイスウエーハ2は、サファイア基板20の裏面20bが上側となる。このようにして、光デバイスウエーハ2を吸引保持したチャックテーブル51は、図示しない加工送り手段によって撮像手段53の直下に位置付けられる。なお、
図3(a)では、説明の都合上、環状のフレーム3は省略している。
【0027】
チャックテーブル51が撮像手段53の直下に位置付けられると、撮像手段53および図示しない制御手段によって光デバイスウエーハ2のレーザー加工すべき加工領域を検出するアライメント作業を実行する。即ち、撮像手段53および図示しない制御手段は、光デバイスウエーハ2のオリエンテーションフラット201に平行な方向に形成された第1の分割予定ライン221と、第1の分割予定ライン221に沿ってレーザー光線を照射するレーザー光線照射手段52の集光器522との位置合わせを行うためのパターンマッチング等の画像処理を実行し、レーザー光線照射位置の第1のアライメントを遂行する(第1のアライメント工程)。この第1のアライメント工程は、第1の分割予定ライン221がX軸方向と平行になるように調整する。また光デバイスウエーハ2のオリエンテーションフラット201に直交する方向に形成された第2の分割予定ライン222に対しても同様にレーザー光線照射手段のアライメントが遂行される(第2のアライメント工程)。この第2のアライメント工程は、第2の分割予定ライン222がX軸方向と平行になるように調整される。このとき、光デバイスウエーハ2の第1の分割予定ライン221、および第2の分割予定ライン222が形成されている光デバイスウエーハ2を構成する発光層(エピ層)21の表面21aは下側に位置しているが、撮像手段53が上述したように赤外線照明手段と赤外線を捕える光学系および赤外線に対応した電気信号を出力する撮像素子(赤外線CCD)等で構成された撮像手段を備えているので、光デバイスウエーハ2を構成するサファイア基板20の裏面20bから透かして第1の分割予定ライン221および第2の分割予定ライン222を撮像することが可能になっている。
【0028】
上述した第1のアライメント工程、第2のアライメント工程を実施したならば、
図3(a)に示すように、チャックテーブル51を、レーザー光線を照射するレーザー光線照射手段52の集光器522が位置するレーザー光線照射領域に移動し、所定の第1の分割予定ライン221を集光器522の直下に位置付ける。そして、集光器522の集光レンズ522aによって集光されるパルスレーザー光線LB1の集光点P1が光デバイスウエーハ2を構成するサファイア基板20の厚み方向の所定の位置に位置付けられるように図示しない集光点位置調整手段を作動して集光器522を光軸方向に移動する。
【0029】
ここで、本実施形態における、シールドトンネルの端部を裏面に露出させないでシールドトンネルを形成するとともにシールドトンネルの端部からウエーハの裏面に至るクラックを生成する上記シールドトンネル形成工程について、以下に詳述する。
【0030】
本発明の該シールドトンネル形成工程は、少なくとも第一、第二の加工ステップから構成されており、第二の加工ステップは、レーザー光線の集光点を分割予定ラインに対応する領域に位置付けて照射しシールドトンネルの端部を裏面に露出させないでシールドトンネルを形成するとともにシールドトンネルの端部からウエーハの裏面に至るクラックを生成する加工を施すものであって、当該第二の加工ステップに先立ち、第二の加工ステップにおけるレーザー光線の出力よりも弱いレーザー光線の集光点を分割予定ラインに対応する領域に位置付けて照射し、該第二の加工ステップ実行時に該シールドトンネルの端部からウエーハの裏面に至るクラックを該裏面に対して垂直に導くための予備加工層を形成する、第一の加工ステップを有するものである。
【0031】
(第一の加工ステップ)
当該シールドトンネル形成工程における第一の加工ステップに基づき光デバイスウエーハ2に対してレーザー光線が照射された状態を
図3(b)に示す。上記したように集光器522が所定の第1の分割予定ライン221を集光器522の直下に位置付けられたならば、第一の加工ステップにより、集光器522から光デバイスウエーハ2を構成するサファイア基板20に対して透過性を有する波長のパルスレーザー光線LB1を照射しつつチャックテーブル51を
図3(b)の矢印で示す方向に所定の送り速度で移動させる。そして、レーザー光線照射手段52の集光器522の照射位置に分割予定ライン221の他端が達したら、パルスレーザー光線の照射を停止するとともに、チャックテーブル51の移動を停止する。その後、チャックテーブル51を矢印Yで示す方向に光デバイスウエーハ2を構成する発光層(エピ層)21の表面21aに形成された第1の分割予定ライン221の間隔だけ割出し移動し、各分割予定ライン221に対する当該第一の加工ステップを遂行する。分割予定ライン221すべてに上記レーザー加工を施したならば、チャックテーブル51を90度回転させてオリエンテーションフラット201に直交する方向に形成された第2の分割予定ライン222に対しても後述する第一の加工ステップと同様の加工条件により、レーザー加工を行う。該レーザー加工は、上記分割予定ライン221と同様であるので、その説明を省略する。
【0032】
なお、当該第一の加工ステップにおける加工条件は、以下のように設定されている。
波長 :1030nm
パルス幅 :10ps
繰り返し周波数 :40kHz
集光レンズ :開口数=0.25
平均出力 :0.2W
デフォーカス :−45μm
スポット径 :φ5μm
送り速度 :400mm/秒
【0033】
上記第一の加工ステップによるレーザー加工を実施することにより、パルスレーザー光線LB1の集光点P1が、光デバイスウエーハ2を構成するサファイア基板20におけるパルスレーザー光線が入射される上面(裏面20b)から45μmデフォーカスされた位置に設定されて、光デバイスウエーハ2を構成するサファイア基板20の内部には、
図3(b)に示すように、第1の分割予定ライン221に沿って、10μmの間隔(加工送り速度400mm/秒)/(繰り返し周波数40kHz)で、集光点位置P1近傍位置から上下方向に対して予備的な加工がなされ、予備加工層が形成される。当該第一の加工ステップによる加工条件は、後述するシールドトンネルを形成するための第二の加工ステップと比較して、出力が弱く設定されており、また、デフォーカス位置も裏面20bに近い位置に設定されている。これにより、当該第一の加工ステップにおいては、後述する第二の加工ステップにより形成されるようなシールドトンネルが明確に形成されず、第二の加工ステップにより形成されるシールドトンネルの端部からウエーハの裏面に至るクラック発生領域に対して、予備的な弱い加工を施すのである。当該予備加工層の効果については、後述する第二の加工ステップの説明においてさらに説明する。
【0034】
(第二の加工ステップ)
第1、第2の分割予定ライン221、222に対して第一の加工ステップを終えたならば、再度チャックテーブル51を90度回転させてオリエンテーションフラット201に平行な方向に形成された分割予定ライン221をX軸方向に平行となるようにする。そして、第一の加工ステップにより加工された分割予定ライン221に対して、第二の加工ステップによるレーザー加工を行う。当該シールドトンネル形成工程における第二の加工ステップにおいて、光デバイスウエーハ2に対してレーザー光線が照射された状態を
図4に示す。上記したように集光器522が所定の第1の分割予定ライン221を集光器522の直下に位置付けたならば、当該第二の加工ステップにより、集光器522から光デバイスウエーハ2を構成するサファイア基板20に対して透過性を有する波長のパルスレーザー光線LB2を照射しつつチャックテーブル51を
図4(a)の矢印Xで示す方向に所定の送り速度で移動させる。そして、レーザー光線照射手段52の集光器522の照射位置に分割予定ライン221の他端が達したら、パルスレーザー光線の照射を停止するとともに、チャックテーブル51の移動を停止する。その後、チャックテーブル51を矢印Yで示す方向に光デバイスウエーハ2を構成する発光層(エピ層)21の表面21aに形成された第1の分割予定ライン221の間隔だけ割出し移動し、該分割予定ライン221のすべてに対する当該第二の加工ステップを遂行する。第一の加工ステップと同様に、分割予定ライン221のすべてに上記第二の加工ステップに基づくレーザー加工を施したならば、チャックテーブル51を90度回転させてオリエンテーションフラット201に直交する方向に形成された第2の分割予定ライン222に対しても、上記した第二の加工ステップと同様のレーザー加工を行うが、該レーザー加工は、上記分割予定ライン221と同様であるので、その説明を省略する。
【0035】
なお、当該第二の加工ステップにおける加工条件は、以下のように設定されている。
波長 :1030nm
パルス幅 :10ps
繰り返し周波数 :40kHz
集光レンズ :開口数=0.25
平均出力 :0.5W
デフォーカス :−78μm
スポット径 :φ5μm
送り速度 :400mm/秒
【0036】
上記したように、第一と第二の加工ステップでは、平均出力が異なっており、当該第二の加工ステップでは、シールドトンネルの端部を裏面に露出させないでシールドトンネルを形成するとともにシールドトンネルの端部からウエーハの裏面に至るクラックを生成する加工となるように条件付けられているのに対して、第一の加工ステップによるレーザー加工では、第二の加工ステップにおけるレーザー加工条件に対し、平均出力が弱く設定されている。これにより、第一の加工ステップによる加工では、第二の加工ステップによって得られるような細孔と該細孔を囲繞する非晶質とからなるシールドトンネルが明確に形成される状態に至らない予備的な加工に留まっている。また、第一の加工ステップでは、デフォーカス位置(集光点位置)が、第二の加工ステップに比して、裏面側に位置しており、当該予備加工が、第二の加工ステップにおいてクラックが発生させられる領域に対してなされるものとなるようなっている。
【0037】
上記第二の加工ステップによるレーザー加工を実施することにより、光デバイスウエーハ2を構成するサファイア基板20の内部には、
図4(b)、(c)に示すように、第1、第2の分割予定ライン221、222に沿って、10μmの間隔で、パルスレーザー光線LB2の集光点位置P2を上面(裏面20b)から78μmとする加工が施され、該集光点P2付近から下面(表面20a)に向けて細孔251と該細孔251の周囲に形成された非晶質252が成長し、第1、第2の分割予定ライン221、222に沿って所定の間隔(図示の実施形態においては、10μmの間隔(加工送り速度400mm/秒)/(繰り返し周波数40kHz))で非晶質のシールドトンネル25が形成される。このシールドトンネル25は、
図4(c)、(d)に示すように中心に形成された直径がφ1μm程度の細孔251の周囲に形成された直径がφ10μmの非晶質252とからなり、図示の実施形態においては、互いに隣接する非晶質252同士がつながるように形成される形態となっている。
【0038】
ここで、上述したシールドトンネル形成工程の第二の加工ステップによって、サファイア基板20におけるパルスレーザー光線が入射される上面(裏面20b)側には、シールドトンネル25の上端から裏面20bに至る複数のクラック26により構成される層が形成される。その際、当実施形態においては、上記第二の加工ステップに先立ち、第一の加工ステップによる上記した予備加工層が形成されているため、第二の加工ステップにおいて実施されるレーザー加工により発生するクラック26が、サファイア基板の結晶方位の影響を受けず、
図4(b)〜(d)に記載されているように、裏面20bに向けて垂直に形成されることになる。
【0039】
以上のようにして、分割予定ライン221、222に対してシールドトンネル工程を実施したならば、光デバイスウエーハ2に外力を付与して、光デバイスウエーハ2をシールドトンネル25及びクラック26が形成された分割予定ライン221、222に沿って個々の光デバイスに分割する分割工程を実施する。以下に、分割工程について説明する。
【0040】
この分割工程は、
図5(b)にその要部を示す分割装置7を用いて実施する。即ち
図5(a)に示す第一、第二の加工ステップを終えた光デバイスウエーハ2を、ダイシングテープ4を介して支持する環状のフレーム3を円筒状のベース71の載置面71a上にダイシングテープ4側を上にして載置し、円筒状のベース71の外周に配設されたクランプ72によって固定する。そして、光デバイスウエーハ2を構成する側を曲げ荷重付与手段73を構成する平行に配設された円柱状の複数の支持部材731上に載置する。このとき、
図5(c)に示すように、支持部材731と731との間に上記分割予定ライン221に沿って形成されたシールドトンネル23が位置づけられるように載置する。そして、光デバイスウエーハ2を構成するサファイア基板20の表面20aに積層された発光層(エピ層)21の表面に貼着されたダイシングテープ4側から、下方が鋭角で支持部材731に平行且つ長尺に形成されている押圧部材732により分割予定ライン221に沿って押圧する分割作業をすべての分割予定ライン221に対して順次実施する。この結果、光デバイスウエーハ2には、分割予定ライン221に沿って形成されたシールドトンネル25に沿って曲げ荷重が作用してサファイア基板20の裏面20bに露出されているクラック26側に引っ張り荷重が発生し、
図5(d)に示すように、分割予定ライン221に沿って形成されたクラック26が分割の起点となって分割予定ライン221に沿って分割される。このような工程が、第2の分割予定ライン222に対しても同様に実施され、光デバイスウエーハ2上に形成された光デバイス23が個々に分割される。
なお、上記したように、本実施形態では、上記第一、第二の加工ステップにより分割予定ライン221、222に沿って形成されるクラック26が光デバイスウエーハ2の裏面20bに対して垂直に形成されているため、
図5(d)に示すように分割された光デバイス23の割断面も垂直に形成されることになり、分割予定ラインを外れて個々の光デバイスに分割されることが防止される。
【0041】
なお、本実施形態においては、第1、第2の分割予定ライン221、222のいずれに対しても、第一、第二の加工ステップを経て裏面20bに垂直なクラック26を形成するシールドトンネル形成工程を実施したが、本発明はこれに限定されるものではない。オリエンテーションフラットに平行な方向に設けられる第1の分割予定ライン221、オリエンテーションフラットに直交する方向に設けられる第2の分割予定ライン222のそれぞれの結晶方位との関連で生じる割れにくさを考慮して、いずれか一方のみに対して第一、第二の加工ステップを経て裏面20bに垂直なクラック26を形成するシールドトンネル形成工程し、他方に対しては、シールドトンネルの端部をサファイア基板の裏面に露出させるようにパルスレーザー光線の集光点を内部に位置付けて実施するようにしてもよい。また、第1、第2の分割予定ライン221、222のそれぞれに沿って第一、第二の加工ステップを施す際に、結晶方位を考慮して、第1、第2の分割予定ライン221、222に対して施される第一の加工ステップにおける出力、あるいは集光点位置を適宜異なるように調整することも可能である。
【0042】
また、上記した分割工程も、上記したような外力を付与して分割するものに限定されず、周知の他の方法を用いることができる。例えば、ダイシングテープ4を拡張して、ダイシングテープ4に貼着された光デバイスウエーハ2に放射状に引張力を作用させる拡張手段を使用してシールドトンネル25、及びクラック26が形成された分割予定ライン221、222に沿って個々の光デバイス23に分割することも可能である。なお、
図5に示す分割装置により分割した後、上記拡張手段を使用しダイシングテープ4を拡張すれば、ダイシングテープ4から個々の光デバイス23を吸着しピックアップすることがより容易になる。
【0043】
上記したような方法を用いてダイシングテープ4上で光デバイスウエーハ2を個々の光デバイス23に分割した後に、図示しないピックアップ手段を用いて光デバイス23を吸着し、ダイシングテープ4から剥離して図示しないトレー、又はダイボンディング工程に搬送する。