【実施例1】
【0023】
本発明の実施例を
図1乃至7を用いて説明する。
【0024】
まず、
図1を用いて本実施例の構成の概要を説明する。
図1は、本発明の実施例に係るプラズマ処理装置の構成の概略を模式的に示す縦断面図である。
【0025】
図1に示すプラズマ処理装置は、側壁が円筒形を有した真空容器10とその外周を囲み及び上面を覆って配置された電磁コイル1、真空容器10下方でその下部と接続された管路である排気口27及びこれと連結されて真空容器10下方に配置されたターボ分子ポンプ等の真空ポンプ(図示せず)を備えている。さらに、真空容器10の内部には、処理対象の試料3が配置されてプラズマが形成される空間である処理室40が配置されている。
【0026】
本実施例のプラズマ処理装置では、処理室40には試料3がその上面に載せられてこれを支持する試料台2が配置されている。さらに、試料台2の上方であって真空容器10の円筒形の内側側壁に周囲を囲まれた空間の上下方の箇所には、真空容器10内部に配置された円板状の上部電極4と試料台2の内部に配置された円板形状を有した金属製の下部電極2’とが各々対向して備えられている。
【0027】
即ち、円筒形を有した空間である処理室40上方には、半導体ウエハ等の円形またはこれと同等な形状を有した基板状の試料3がその上面上に載置される試料台2の当該上面上方でこれに対向して配置され円板形状を有した上部電極4が配置されている。さらに、当該上部電極4下面下方の試料3の側には当該下面を覆って隙間を開けて配置されたシャワープレート5が配置されている。
【0028】
上部電極4とシャワープレート5との間に配置された隙間は、ガス導入ライン6の一端部と連結されこれを構成する配管内部と隙間とが連通されて配置される。ガス導入ライン6の配管の他端側には、図示していないが、内部に処理室40より高圧にされたガスが貯留された容器を備えたガス源及びこのガス源と他端部との間の配管上に配置されて配管内をガス源から隙間に向けて流れるガスの流量を増減して調節するマスフローコントローラ(MFC)が配置されている。
【0029】
この構成により、ガス源の貯留部から配管を通ってMFCにより流量が調節されたガスが、上部電極4とシャワープレート5との間の隙間に導入されて当該隙間内を拡散して充満する。その後、ガスはシャワープレート5の中央部に配置された複数の貫通孔であるガス導入孔を通って試料台2の上方から下方に向けて処理室40に導入される。
【0030】
本実施例において、上部電極4は導電性材料であるアルミまたはステンレス等で形成されている。その内部には通路が配置されその内部にチラー等の温度調節器を含む上部電極温度制御手段7において所定の範囲内の温度にされた冷媒が循環して供給される。このことにより、上部電極4の温度は、試料3の処理中にその処理に適した範囲内の値になるように調節される。
【0031】
本実施例のシャワープレート5は、石英やシリコン等の誘電体材料から構成された円板形状を有した部材である。シャワープレート5は、処理室40の天井面の中央部を構成して、処理室40下部において円筒形を有した試料台2の上面またはこれに載せられた円板形状を有した試料3と対向して、その中心軸を試料台2、試料3の載置面または処理室40の上下方向の中心軸と位置を合致またはこれと見做せる程度に近似した同等の位置に配置されている。さらに、シャワープレート5の外周側であって真空容器10の内周壁面との間には、シャワープレート5の外周を囲んで石英等の誘電体材料から構成され上部電極4またはシャワープレート5を真空容器10から絶縁するためのリング状の部材である、絶縁リング13が配置されている。
【0032】
本実施例の上部電極4、下部電極2’各々は、真空容器10の外部に配置され異なる周波数の電力を出力する各々の高周波電源と電気的に接続されている。本実施例では、試料3の処理中には、各々の高周波電源から出力された高周波電力が上部電極4及び下部電極2’に供給されると共に、電磁コイル1で磁場が生起され、処理室内40に電界と磁界とが並行して供給される。
【0033】
すなわち、上部電極4は放電用高周波電源8と同軸ケーブル等の給電経路を通して電気的に接続され、放電用高周波電力整合器9を介して所定の周波数の高周波電力が供給される。本実施例では、放電用高周波電力として200MHzの高周波帯の周波数が用いられる。また、真空容器10の蓋を構成する上部の内部に配置される上部電極4は、その上方および周囲が石英、テフロン(登録商標)および空間等で形成される上部電極絶縁体12により囲まれて内蔵され、上部電極4が真空容器10から電気的に絶縁される。
【0034】
試料台2内部の下部電極2’は、試料台2に載せられた試料3上面上方にバイアス電位を形成するための所定の周波数(本実施例では4MHz)の高周波電力を出力するバイアス用高周波電源20と同軸ケーブル等の給電経路29を通して電気的に接続されている。試料3の処理中に、バイアス用高周波電源20からバイアス用高周波電力整合器21を介してバイアス用の4MHzの高周波電力が下部電極2’に供給される。
【0035】
試料3が試料台2上面に載せられて保持され、処理室40が真空容器10の側壁外側に対して密封された状態で、処理室40の上部電極4及び下部電極2’の間の円筒形の空間には、MFCによりその供給される流量または速度が調節されつつシャワープレート5のガス導入孔からガスが導入されると共に、試料台2下方の処理室40の底面に配置された排気用の開口と連通された排気口27から処理室40内のガスの原子、分子等の粒子が、排気口27内に配置されてその流路断面積を当該流路を横切る軸回りに板状のフラップを回転させて増減する排気調節バルブ26によって排気の流量または速度を調節されつつ排気される。この状態で、図示されない制御装置からの指令信号に基いてMFC及び排気調節バルブ26の動作が調節され、上記処理室40へのガスの供給と排気との流量または速度のバランスにより、処理室40内の圧力がプラズマ11の放電とその維持あるいは試料3の処理に適した範囲内の値にされる。
【0036】
この状態で、上記ガスの原子または分子を解離あるいは電離させて放電を生起可能にその出力が調節されて供給された高周波電力によって形成された電界及び電磁コイル1による磁界が供給され、これら電界および磁界とによるECRが生起されて処理室40内にプラズマ11が形成される。このように、本実施例のプラズマ処理装置は、電界とともに磁界を供給する(有磁場の)平行平板型のプラズマ処理装置である。
【0037】
次に、試料台2の構成について説明する。本実施例の試料台2の基材である下部電極2’の円形の上部上面には、アルミナあるいはイットリア等のセラミクス材料から構成された誘電体製の静電吸着膜14が配置されている。静電吸着膜14の内部には、各々が直流電源19と電気的に接続された複数の膜状のタングステン電極15が配置され内蔵されている。なお、符号23は絶縁体、符号24はサセプタ、符号28は試料設置手段の保持機構を示す。
【0038】
試料台2の下部電極2’の内部には、その上下方向の中心軸回りに多重の円弧状または螺旋状に配置された冷媒通路25が配置されている。当該冷媒通路25は、試料台2の冷媒通路25の出口入口の各々に接続された配管25’を挟んで、本実施例のプラズマ処理装置が配置された建屋の床面下方の階に配置されたチラー等の温度調節器を含む温度制御用冷媒導入機構に連結されている。試料3の処理中に温度制御用冷媒導入機構において予め定められた範囲内の温度に調節され配管25’に供給された冷媒は、試料台2に流入して冷媒通路25に供給されて熱交換して試料台2の出口に接続された配管25’を通り再度温度制御用冷媒導入機構に戻り循環することで、下部電極2’あるいは試料台2が処理に適した許容範囲内の温度にされる。
【0039】
また、静電吸着膜14上面には、少なくとも1つの開口とこれに連通して静電吸着膜14を貫通する管路であって内部に伝熱性ガスが供給される伝熱ガス供給路30’が配置されている。伝熱ガス供給路30’は、上端部が開口である伝熱ガス供給孔と連通し、下端部は内部が高圧にされたヘリウム等の伝熱ガスが貯留された容器を含むヘリウム導入機構30と連通し、その途中の試料台2外側において伝熱ガスの通流量あるいは圧力を調節する調節バルブ(図示せず)が配置されている。この構成により、ヘリウム導入機構30から試料台2の静電吸着膜14上面とその上方に載せられた試料3裏面との間に、調節バルブにより圧力が調整され試料台2と試料3との間の熱伝達量を大きくする伝達ガスが供給されて、これらの熱伝達の効率が高められ試料3の温度の制御の応答性や精度が向上される。
【0040】
タングステン電極15には、これに直流電力を供給する直流電源19が接続されている。これらの間を接続する給電線路22上には、試料台2の下方において、タングステン電極15に近い順に、少なくともコンデンサ16、空芯巻きインダクタンス17、さらには低域通過フィルタ18が接続されている。
【0041】
本実施例において、静電吸着膜14内部に複数配置されたタングステン電極15には、試料3が静電吸着膜14上面上方に載せられた状態で、各々が接続された直流電源19からの直流電力によって異なる極性が形成されこれらの極性によって試料3を静電吸着膜14に吸着する静電気力が形成される、所謂双極性を備えた電極(双極型の電極)である。また、本実施例に示された複数のタングステン電極15の試料台2上方から見た平面形あるいはその平面形の静電吸着膜14上面へ投影された形状は、これらの異なる極性、つまり正負電位各々が付与される部分は、同じまたはこれと見做せる程度に近似した面積を有したものに形成されている。
【0042】
タングステン電極15各々の給電線路22のタングステン電極15と空芯巻きインダクタンス17との間の箇所は、コンデンサ16をその上に備えたバイパス線路16’によって接続されている。コンデンサ16をその上に含むバイパス線路16’は、異なる極性を具備したタングステン電極15と直流電源19との間各々を接続する給電線路22同士の間を交流的に短絡してそれぞれの電極間の交流電位差を抑制する役割を有する。本実施例の給電線路22は、バイパス線路16’と2つの給電線路22各々との接続部分と2つのタングステン電極15及び空芯巻きインダクタンス17との間には接地電極あるいは接地電位にされる箇所を有していない。
【0043】
本実施例では、コンデンサ16に1000pFの容量のものが用いられる。このコンデンサ16は、特にプラズマ生成用の高周波電力(本実施例では200MHz)の高周波電力に対して、表面に異なる極性の電位が形成されたタングステン電極15間の電位差を抑制できる作用を奏するように配置されている。
【0044】
低域通過フィルタ18は、バイアス用高周波電源20から下部電極2’に供給される諸体の周波数(本実施例では4MHzが用いられる)の高周波電力がタングステン電極15に接続された給電線路22上を通過すること抑制または遮断するために配置される。これら直流を通過する特性を有する低域通過フィルタ18が配置されることで、バイアス形成用の高周波電力が直流電源19に流入することが抑制される。
【0045】
正負の電位各々にされる複数のタングステン電極15のうちの2つに接続され直流電圧を供給する給電線路22上に配置された2つの空芯巻きインダクタンス17は、各々が絶縁性を備えた材料から構成された被膜とこれにより被覆され相互に直流的に絶縁されたコイル状の導体材料から構成され、各々のコイル状の線路が同じ方向の軸の周りに当該軸を共通にして巻かれて形成されている。本実施例では、
図1中に示す空芯巻きインダクタンス17の大きさは、各々がコイル形状部分の径は40mm、巻き数は5、長さは70mmに形成され、各々のインダクタンスの大きさは0.7〜0.9μHにされている。
【0046】
これら空芯巻きインダクタンス17は、プラズマ生成用の高周波電力が静電吸着膜14内のタングステン電極15を通して給電線路22へ流入するのを阻止する目的で配置されている。処理室40内にプラズマ11が形成されている状態で、プラズマ生成用の高周波電力は、上部電極4からプラズマ11を介して試料台2の静電吸着膜14に内蔵されたタングステン電極15に流入する。
【0047】
タングステン電極15に流入した高周波電力はこれに接続された給電線路22に流入する。この流入の量が大きいと、給電線路22上の寄生容量やその後段に配置される低域通過フィルタ18の特性のバラツキにより、試料台2上方の処理室40内に形成されるプラズマ11の密度や強度の大きさ或いはその分布の試料3上面の半径方向または周方向のバラツキの大きさが大きくなってしまう。
【0048】
このため、給電線路22へのプラズマ形成用の高周波電力が流入する量を小さく抑制する必要がある。このためには、タングステン電極15から見た直流電源19の側におけるプラズマ生成用の200MHzの高周波電力に対するインピーダンスを十分以上に高くする必要がある。
【0049】
本実施例の空芯巻きインダクタンス17は、試料台2の下部電極2’下面下方において給電線路22と接続されたタングステン電極15に近い位置に配置されることで、当該給電線路22の寄生インピーダンスの影響を小さく抑制しながら、給電線路22のプラズマ生成用高周波に対するインピーダンスを高めることができる。
【0050】
すなわち、本実施例では、プラズマ生成用高周波電力の周波数として200MHzが用いられており、また空芯巻きインダクタンス17は0.7〜0.9μHにされているため、タングステン電極15から見た給電線路22のプラズマ生成用の高周波電力に対するインピーダンスは約1000Ω程度にされる。この空芯巻きインダクタンス17により、プラズマ生成用の高周波電力が給電線路22を流れることが抑制され、給電線路22の寄生容量や後段の低域通過フィルタ18の特性のばらつきに起因する静電吸着膜14上方の処理室40におけるプラズマの生成の状態、強度や分布の変化やバラツキを抑制できる。
【0051】
次に、コンデンサ16と空芯巻きインダクタンス17の組み合わせについて説明する。前記のようにコンデンサ16は、双極型の静電吸着用の複数(
図1上は2つ)のタングステン電極15と各々用の可変電力供給可能に構成された直流電源19との間を接続して電流が内部を流れるバイパス線路16’同士の間を空芯巻きインダクタンス17よりタングステン電極15に近い位置で接続する線路上に配置されている。このコンデンサ16をその上に備えたバイパス線路16’により、給電線路22同士は当該線路を流れる交流の電流に対しては(交流的に)短絡される。
【0052】
図2,4,6は、
図1に示す実施例に係るプラズマ処理装置における静電吸着電極、直流電源及びこれらの間の給電線路の構成とその上を流れる電流とを模式的に示す図である。
図2では、本実施例において、双極性静電吸着電極であるタングステン電極15の正負各々の極性を有した電極各々に同一方向かつ同量の高周波電力の電流(高周波電流)31,32が流入した場合を示す。符号31は正電位にされたタングステン電極15とこれに接続された給電線路を流れる高周波電流を、符号32は負電位にされたタングステン電極15とこれに接続された給電線路を流れる高周波電流を示す。
【0053】
この図において、空芯巻きインダクタンス17は、各々が同じように動作して当該高周波電力がコイル状部分の線路の内部を流れるとインピーダンスを発現し当該高周波電力の電流が流れることを遮るように起電力が発生し、高周波電力の電流が流れて直流電源19へ向かうことを抑制する作用を奏する。さらに、本実施例のように、正負各々の極性を有した2つのタングステン電極15に接続された給電線路22上の2つの空芯巻きインダクタンス17は、そのコイル状部分の線路の巻の軸が共通にされた(共通巻きにした)構成を備えている。この構成により、共通巻きにされた2つのコイル状部分に同じまたは同等の大きさの高周波電流が流れた結果、特性が揃えられたインダクタンスが2つの空芯巻きインダクタンス17のコイル状の部分に生起され、直流電源19に流れ込む高周波電流の量の線路ごとでのバラつきが低減される。
【0054】
一方、
図3は、本実施例の比較例に係る静電吸着電極、直流電源及びこれらの間の給電線路の構成とその上を流れる電流とを模式的に示す図である。本比較例では、
図2に示す構成と異なり、コンデンサ16は2つのタングステン電極15に各々接続された給電線路22の間を交流的に接続する線路上に配置されていない。
【0055】
例えば、プラズマ生成用の高周波電力がVHF帯(本実施例では30乃至300MHz)以上の超高周波帯の電界である場合には、プラズマ中の定在波分布により正極および負極に流入する高周波の位相が異なった結果、2つの給電線路22を流れる高周波電流31,32の向きが異なる場合がある。
図3に示す例では、正電位にされたタングステン電極15およびこれに接続された給電線路22を流れる高周波電流31は直流電源19に向けて、負電位にされたタングステン電極15およびこれに接続された給電線路22を流れる高周波電流32はタングステン電極15に向けて流れている状態を示している。
【0056】
図3に示す比較例の構成では、コンデンサ16が空芯巻きインダクタンス17とタングステン電極15との間の給電線路22同士を接続して、謂わば空芯巻きインダクタンス17の前段に交流的に配置されていない。この際には、
図3に示す各々の給電線路22に高周波電流31、32が逆向きに流れる場合には、これらの給電線路22に接続された2つの共通巻きの空芯巻きインダクタンス17のコイル状部分に生じるインダクタンスによる起電力は互いに相殺し合うことになる。このため、空芯巻きインダクタンス17を備えていても
図2に示したような特性が揃えられたインダクタンスによる高周波電流のバラつきを低減する作用が損なわれ、
図2の実施例が備える高いインピーダンスの効果の奏功が阻害される。
【0057】
さらに、
図4は、
図1に示す実施例に係るプラズマ処理装置における静電吸着電極、直流電源及びこれらの間の給電線路の構成とその上を流れる電流とを模式的に示す図である。本図では、
図3と同様に、正電位にされたタングステン電極15およびこれに接続された給電線路22を流れる高周波電流31は直流電源19に向けて、負電位にされたタングステン電極15およびこれに接続された給電線路22を流れる高周波電流32はタングステン電極15に向けて流れている状態を示している。
【0058】
この図において、高周波電流31は正電位にされたタングステン電極15と空芯巻きインダクタンス17との間の給電線路22に接続されたバイパス線路16’をコンデンサ16を介してバイパス電流33として通り、給電線路22上を通して負電位にされたタングステン電極15に接続された給電線路22に流入する。このため、コンデンサ16及びバイパス線路16’が接続されたことにより、高周波電流31がバイパスされるため、一方の空芯巻きインダクタンス17のコイル状部分に高周波電流32の流れている状態で位相の異なる高周波電流31が他方の空芯巻きインダクタンス17のコイル状部分に流入することが抑制される。このことにより、位相の異なる高周波電流が共通巻きのコイル状部分に流れることでインダクタンスの作用が相殺されたり損なわれたりすることが抑制される。
【0059】
一方、正負電位の各々にされたタングステン電極15の各々に流入する高周波電流はそれらの向きが同じでその大きさ、例えば振幅に差(電位差)がある場合においても、本実施例の構成では上記と同様の作用を奏することができる。
【0060】
図5は、本実施例の比較例に係る静電吸着電極、直流電源及びこれらの間の給電線路の構成とその上を流れる電流とを模式的に示す図である。本図では、
図3と同様に、コンデンサ16及びバイパス線路16’が2つの給電線路22同士の間を接続しておらず、正負電位の各々にされたタングステン電極15及びこれら各々に接続された給電線路22を流れる高周波電力はその位相が同じにされる一方でその振幅が異なり電位差がある場合を示している。各タングステン電極15と空芯巻きインダクタンスとの間の給電線路を流れる高周波電流31,32の流れる向きは
図2と同じで高周波電流31の振幅が高周波電流32のものより大きくされている。
【0061】
この図の場合には、空芯巻きインダクタンス17を流れた振幅が大きな高周波電流31によって、線路間容量を介して逆向き電流34が生じる。この逆向き電流34により、振幅が小さな高周波電流32が流れる空芯巻きインダクタンス17の作用が抑制され、空芯巻きインダクタンス17でのインピーダンスが低下して高周波電流31または高周波電流32が流れる量を増加させてしまう。
【0062】
一方で、
図6に示すように、本実施例では、コンデンサ16を備えるバイパス線路16’が空芯巻きインダクタンス17の前段で2つの給電線路22同士の間で接続されて配置されており、振幅が大きな高周波電流31の一部はバイパス線路16’にバイパス電流33として分かれて回路を流れて、さらに負電位にされたタングステン電極15に接続された給電線路22とバイパス線路16’との接続部から高周波電流32と合流して空芯巻きインダクタンス17、低域通過フィルタ18及び直流電源19に向けて流れることになる。このため、バイパス線路16’のコンデンサ16の分だけ2つの給電線路22間の電位差が低減される。
【0063】
このことにより、空芯巻きインダクタンス17に流入する高周波電流の量はこれらの差が小さくされて同等のものに近づけられる。このため、空芯巻きインダクタンス17の特性が揃えられたインダクタンスが2つの空芯巻きインダクタンス17のコイル状の部分に生起され、これらを流れて直流電源19に流れ込む高周波電流の量の線路ごとでのバラつきが低減されるという作用・効果が、2つの給電線路22を流れる高周波電力の電流の振幅に差がある、或いは高周波電力の電位差がある場合でも、奏される。
【0064】
以上述べてきたように、コンデンサ16を空芯巻きインダクタンス17の前段に配置することで、正負それぞれのタングステン電極15に流入する高周波電流の位相や振幅が相互に異なっていても、空芯巻きインダクタンス17のインピーダンスが損なわれることが抑制される。このことによって、静電吸着用の電極へ流入するプラズマ形成用の高周波電力の量の変動により、試料台2の静電吸着膜14上面上方に形成されるプラズマ11の密度や強度の大きさやその分布が、バラつきが変動することが抑制され、試料の処理の歩留まりが損なわれることが抑制される。
【0065】
上記実施例では、双極型の静電吸着用の電極である複数(
図2,4,6では2つ)のタングステン電極15の正負電位にされた各々に接続された給電線路22上に各々の線路が共通の軸回りに巻かれた(共通巻きとした)コイル状部分を備えた2つの空芯巻きインダクタンス17が配置されている。高周波電流が流れるコイル状部分のインダクタンスは、その内側の芯の部分にフェライト等透磁率が真空の空間または大気より高い材料の部材を用いることで高めることが可能である。一方で、プラズマ生成用の高周波電力として周波数がVHF帯またはそれより高いものが使用される場合では、このような高い透磁率の材料の部材が抵抗体として作用して高周波電力の損失が大きくなってしまい、結果としてより高いインピーダンスとこれによる作用が損なわれてしまう虞がある。
【0066】
このことから、本実施例では上記静電吸着用の電極に接続された給電経路上に配置される素子として空芯巻きインダクタンス17を備えている。また、空芯巻きインダクタンス17の特性安定化や個体差を抑制するために、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等の損失の小さい樹脂等の材料をコイル状の線路内側の芯または線路の固定ジグとして用いても良い。
【0067】
図7は、
図1に示す実施例の空芯巻きインダクタンスの構成の概略を模式的に示す縦断面図である。本実施例では、
図7に示すように、空芯巻きインダクタンス17は、複数の給電線路22のうち正電位にされるタングステン電極15に接続された給電線路(正極側線路)35と負電位にされるタングステン電極15に接続された給電線路(負極側線路)36の一部が、これらを対として隣接して並べられて円筒形を有した固定ジグ37の上下方向の軸周りに上下の一方から他方に向けて円筒面に沿って巻きつけられて構成されている。プラズマ形成用の高周波電力の電流は、タングステン電極15を通してこのような構成を有するコイル状の部分の2つの給電線路35,36を共通の芯の部材である固定ジグ37の周囲に並行して流れることで、特性が揃えられたインダクタンスが形成され高周波電流の量の線路ごとでのバラつきが低減される。
【0068】
本実施例の給電線路35,36は、PTFEを材料として構成された円筒形を有した固定ジグ37の円筒面上で上下方向軸回りに上下方向に延びて配置された螺旋状の溝の内側に挿入され、当該溝に沿って固定ジグ37に巻きつけられている。また、本例において、給電線路35と給電線路36とは銅芯線38の表面を絶縁性を有する樹脂等の材料で構成された絶縁被膜39で被覆されている。
【0069】
なお、コンデンサ16および空芯巻きインダクタンス17は、タングステン電極15からなるべく近い距離に配置されることが望ましい。コンデンサ16および空芯巻きインダクタンス17の箇所とタングステン電極15との間の給電線路22の長さが高周波電流の波長以上になると、当該給電線路22の寄生インピーダンスが流れる高周波電流の特性に影響を与えて変動が大きくなり試料台2上方の処理室40内に形成されるプラズマ11の密度や強度及びその分布の変動が大きくなって処理の再現性が損なわれてしまう虞がある。そこで、プラズマ生成用の高周波電力の周波数が200MHzであるので、タングステン電極15からコンデンサ16および空芯巻きインダクタンス17までの給電線路22の長さを高周波電力の電流の波長(1.5m)以下に、特には0.3mとされている。
【0070】
空芯巻きインダクタンス17は、コイル状部分の寄生インピーダンス或いは寄生キャパシタンスに伴う自己共振特性を有し、通常インダクタンスとキャパシタンスの並列回路であらわせるインピーダンス特性を有している。給電線路22或いは給電線路35,36を流れる高周波電力の周波数が自己共振周波数と同じまたはこれに近い場合には並列共振が生じてしまい空芯巻きインダクタンス17においてインピーダンスが生起する。
【0071】
しかしながら、このような共振によるインピーダンスは、コイル状部分を含む素子の構造や流れる高周波電力の周波数から受ける影響が大きく、これらの僅かな変動に対して急激に変化してしまう。このため本実施例では、空芯巻きインダクタンス17の自己共振周波数をプラズマ生成用の高周波電力のものに対して1.1倍以上または0.9倍以下とすることが好ましい。例えば、本実施例は、高周波電力の周波数が200MHzであるため空芯巻きインダクタンス17の自己共振周波数を240MHz近辺となるように構成することが望ましい。
【0072】
以上本実施例によれば、周波数が高いプラズマ生成用の高周波電力が双極型の静電吸着電極の回路へ流入したりその機差を抑制でき、プラズマ生成の変動および再現性の低下や装置間差の発生を抑制することが可能となり、歩留まりを向上させたプラズマ処理装置を提供することができる。
【0073】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。